(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[中間転写体]
本発明に係る中間転写体の一実施形態としての中間転写ベルトを
図1Aおよび
図1Bに示す。中間転写ベルト10は、
図1Aに示されるように、無端ベルトであり、
図1Bに示されるように、無端ベルト状の基層12と、ゴム材料で構成される弾性層14と、アクリル系の材料で構成される表面層16と、がこの順で重なって構成される。弾性層14の表面層16側の表面には、ハロゲン化処理部141が形成されている。
【0012】
基層12は、所期の導電性と可撓性を有する無端状のベルトである。基層12は、例えば、可撓性を有する樹脂によって構成され、弾性層14を支持する。基層12は、中間転写ベルト10の機械的強度や耐久性などを高める観点から好ましいため、配置されている。基層12の厚さは、基層12の所期の機能を発現させる観点から50〜100μmであることが好ましく、例えば70μmである。基層12の材料の樹脂の例には、ポリイミドなどの耐熱性樹脂が含まれる。基層12は、導電性を有する円筒状のスリーブであってもよい。基層12に円筒状のスリーブを採用すると、中間転写ドラムが構成される。当該中間転写ベルトは、本発明に係る中間転写体の実施形態に含まれる。
【0013】
弾性層14は、基層12の外周面上に形成される、所期の導電性と弾性とを有する層である。弾性層14は、ゴム材料で構成される。弾性層14の厚さは、弾性層14の所期の機能を発現させる観点から50〜500μmであることが好ましく、例えば200μmである。ゴム材料の例には、ウレタンゴム、クロロプレンゴム(CR)およびニトリルゴム(NBR)およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのゴム弾性を有する樹脂が含まれる。上記ゴム材料は、クロロプレンゴムまたはニトリルブタジエンゴムを含むことが、画像形成装置中の環境に対する十分な耐久性(耐オゾン性など)を有する観点、画像形成に供されるのに十分な機械的強度を有する観点、および、中間転写ベルト10の電気抵抗を適切に制御する観点、から好ましい。
【0014】
基層12および弾性層14は、いずれも、所期の導電性を発現するために、導電剤をさらに含有していてもよい。上記導電剤には、中間転写体の樹脂材料に導電性を付与するための公知の材料が用いられる。導電剤は、一種でもそれ以上でもよい。導電剤の例には、イオン導電剤および電子導電剤が含まれる。イオン導電剤の例には、ヨウ化銀、ヨウ化銅、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロオロメタンスルホン酸リチウム、有機ホウ素錯体のリチウム塩、リチウムビスイミド((CF
3SO
2)
2NLi)およびリチウムトリスメチド((CF
3SO
2)
3CLi)が含まれる。電子導電剤の例には、銀や銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、ステンレス鋼などの金属;およびグラファイトや、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素化合物;が含まれる。基層12および弾性層14における導電剤の含有量は、総量で、中間転写ベルト10の所期の体積抵抗率を実現する量である。中間転写ベルト10の所期の体積抵抗率は、例えば10
8〜10
12Ω・cmである。
【0015】
ハロゲン化処理部141は、弾性層14の表面層16側の表面における、ハロゲン化処理された部分である。ハロゲン化処理部141は、例えば、弾性層14の表面における、ゴム材料の炭素原子間の不飽和結合にハロゲン原子が付加した部分である。
【0016】
ハロゲン化処理部141におけるハロゲン原子の量(ハロゲン量)は、少なすぎると、表面層16の弾性層14への接着性が不十分となることがあり、多すぎると、弾性層14が脆くなり、弾性層14の弾性による変形によって弾性層14が割れることがある。当該ハロゲン量は、弾性層14の材料およびハロゲン原子の種類に応じて、表面層16に対する弾性層14の十分な接着性が得られ、かつ弾性層14における上記の割れの発生を防止できる範囲内において、適宜に決めることができる。たとえば、弾性層14の材料がNBRであり、ハロゲン化処理のハロゲンの種類が塩素であれば、上記ハロゲン量は、蛍光X線分光分析において175〜400kcps(キロカウント毎秒)であることが上記の観点から好ましい。
【0017】
弾性層14が、CRのようにハロゲン(塩素)を元来含有する材料で構成され、かつ、弾性層14の上記ハロゲン化処理におけるハロゲン種が、上記材料が含有するハロゲンと同じである場合では、上記ハロゲン量は、弾性層14におけるハロゲン化処理部141のハロゲン量から、弾性層14におけるその他の部分(例えば、弾性層14の裏面など)のハロゲン量を引いた差によって求めてもよい。たとえば、弾性層14の材料がCRであり、ハロゲン化処理ハロゲンの種類が塩素であれば、上記ハロゲン量は、蛍光X線分光分析において705〜750kcps(上記の差であれば5〜50kcps)であることが上記の観点から好ましい。
【0018】
上記ハロゲン量は、中間転写ベルト10を、その積層方向に対して斜めに切断したときの切断面を蛍光X線分光分析によって分析することによって求めることができる。上記ハロゲン量は、例えば、当該切断面における弾性層14の部分における測定値の最高値であってもよいし、当該切断面における弾性層14の表面層16との境界近傍の部分(例えば、当該境界から1〜2μmの距離の部分)の測定値の平均値であってもよい。また、ハロゲン化処理部141以外の部分のハロゲン量は、例えば、当該切断面における弾性層14の部分における測定値の最低値であってもよいし、当該切断面における弾性層14の基層12との境界近傍の部分(例えば、当該境界から2μmまでの距離の部分)の測定値の平均値であってもよい。
【0019】
ハロゲン化処理部141は、弾性層14の表面層16側の表面の全体を占める単独の部分であってもよいし、当該表面の全体に点在する複数の部分であってもよい。ハロゲン化処理部141が弾性層14の表面を占める割合および分布は、表面層16の弾性層14に対する所期の接着性が得られる範囲で、適宜に決めることができる。
【0020】
ハロゲン化処理部141は、当該積層方向において、深すぎると、弾性層14が脆くなることによる弾性層14の割れを生じることがあり、浅すぎると、上記ハロゲン量が不十分となって表面層16の弾性層14への接着性が不十分となることがある。ハロゲン化処理部141の深さは、上記の観点から、0.5〜5μmであることが好ましく、1〜2μmであることがより好ましい。
【0021】
表面層16は、弾性層14(ハロゲン化処理部141)の表面上に形成される層であり、アクリル系の材料で構成される。表面層16は、弾性層14を保護し、弾性層14の変形に合わせて変形する適度な柔軟性と、接触に対する十分な耐久性(機械的強度や離型性など)とを有する。
【0022】
上記アクリル系の材料は、三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体を含む。当該(メタ)アクリル酸誘導体は、一種でもそれ以上でもよい。表面層16は、三官能以上の(メタ)アクリル酸およびその誘導体の弾性層14上での重合によって構成される。「三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体」とは、三つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の一方または両方を意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の一方または両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を意味する。
【0023】
三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体の例には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、および、多価アルコールと多塩基酸および(メタ)アクリル酸とから合成されるエステル化合物(例えばトリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸=2/1/4モルから合成されるエステル化合物)が含まれる。表面層16を構成するモノマーは、表面層16を熱分解GC−MSで分析した結果から推定することができる。
【0024】
表面層16を構成するためのモノマーとして上記三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体を採用することによって、十分な上記の柔軟性と十分な表面硬さとの両方が表面層16にもたらされる。当該表面硬さは、ナノインデンテーション法によって測定することができ、弾性層14の弾性による変形に応じて表面層16を十分に変形させる観点、および、耐摩耗性および機械的強度を十分に、そして長期にわたって安定して発現させる観点から、8.0〜40.0MPa以上であることが好ましい。
【0025】
また、表面層16に前述した柔軟性と耐久性の両方をもたらす観点から、表面層16の厚さは、1.0〜7.0μmであることが好ましく、1.5〜5.0μmであることがより好ましい。表面層16の厚さは、例えば、中間転写ベルト10を積層方向に切断したときの断面から得られる測定値またはその平均値として求めることができる。
【0026】
表面層16は、所期の特性(例えば、前述した柔軟性、耐久性および接着性)が得られる範囲において、他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分の例には、金属酸化物微粒子が含まれる。金属酸化物微粒子は、表面層16の摩耗を防止し、表面層16を補強する観点から好ましい。表面層16における金属酸化物微粒子の含有量は、表面層16の金属酸化物微粒子以外の部分100体積部に対して10〜100体積部であることが、表面層16の機械的強度の向上の観点から好ましい。
【0027】
上記金属酸化物微粒子の形状は、特に限定されない。金属酸化物微粒子の粒径は、1〜100nmであることが好ましい。この粒径は、例えば数平均粒子径であってもよいし、カタログ値であってもよい。金属酸化物微粒子の例には、アルミナ、酸化スズおよびチタニアが含まれる。より好ましくはアルミナである。
【0028】
また、上記の他の成分の例には、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリルおよびシロキサン系ビニル共重合体などのビニル共重合体が含まれる。特に、当該シロキサン系ビニル共重合体は、一つ以上のポリオルガノシロキサン鎖Aおよび三つ以上のラジカル重合性二重結合を含むことが、中間転写ベルト10におけるフィルミングを防止する観点、および、表面層の低い表面自由エネルギーを維持する観点、から好ましい。また、シロキサン系ビニル共重合体の重量平均分子量は、5000〜100000であることが、後述する表面層用の塗料におけるシロキサン系ビニル共重合体の相溶性を高める観点から好ましい。
【0029】
さらに、上記シロキサン系ビニル共重合体と上記金属酸化物微粒子とを併用する場合では、上記金属酸化物微粒子は、シリコーン系表面処理剤によって表面処理されていることが、金属酸化物微粒子および上記シロキサン系ビニル共重合体由来のシロキサン構造および金属酸化物微粒子の両方を表面層16中に分散させる観点から好ましい。特に、当該シロキサン構造が表面層16中に分散すると、当該シロキサン構造による離型性を長期にわたって安定して発現させることができる。
【0030】
上記シリコーン系表面処理剤の例には、メチルハイドロジェンポリシロキサンおよび変性シリコーンオイルが含まれる。変性シリコーンオイルの例には、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーンおよびカルボキシル変性シリコーンが含まれる。上記シリコーン系表面処理剤の重量平均分子量は、所期の機能の発現および表面処理時の取り扱いの容易さの観点から、例えば300〜20000である。
【0031】
[中間転写体の製造方法]
中間転写ベルト10は、弾性層14の表面をハロゲン化処理する工程(ハロゲン化処理工程)と、ハロゲン化処理された弾性層14の表面に、三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体を含有する塗料を塗布する工程(塗布工程)と、弾性層14の表面に塗布された上記塗料の膜において前記三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体を重合させて上記膜を硬化させる工程(硬化工程)と、を少なくとも含む方法によって製造することができる。
【0032】
なお、基層12および弾性層14は、公知の方法によって作製することが可能である。たとえば、基層12を作製する工程の例には、特開昭61−95361号公報、特開昭64−22514号公報および特開平3−180309号公報に記載されているような、円筒状基体の表面に塗布されたポリアミド酸の塗膜を加熱してポリアミド酸をイミド化し、得られた無端ベルト状の膜を基層として回収する工程、が含まれる。また、弾性層14を作製する工程の例には、浸漬塗布法(ディッピング塗布法)およびスパイラル塗布法が含まれる。
【0033】
上記ハロゲン化処理工程は、弾性層14の表面にハロゲン化剤を接触させることによって行うことができる。ハロゲン化剤が弾性層14の表面に接触することにより、弾性層14の表面における炭素原子にハロゲン原子が結合する。当該炭素原子へのハロゲン原子の結合は、付加反応および置換反応のいずれによって行われてもよく、また両方の反応によって行われてもよい。
【0034】
上記ハロゲン化剤は、例えばガスまたは液体である。ハロゲン化剤の例には、ハロゲンガス、次亜ハロゲン酸およびそれらの塩、および、モノ、ジ、またはトリハロゲンイソシアヌル酸、が含まれ、より具体的には、塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウムおよびトリクロロイソシアヌル酸が含まれる。ハロゲン化剤は、ハロゲン化処理において、そのまま、あるいは不活性ガスや溶剤で希釈して、用いられる。
【0035】
ハロゲン化処理部141における上記ハロゲン量は、ハロゲン化処理時における上記ハロゲン化剤の濃度または弾性層14の表面への接触時間によって調整することが可能である。たとえば、上記濃度または上記接触時間を多くすると、上記ハロゲン量が多くなり、上記濃度を少なくまたは上記接触時間を短くすると、上記ハロゲン量も少なくなる傾向にある。
【0036】
また、ハロゲン化処理部141の深さは、上記接触時間、または、弾性層14に対する上記ハロゲン化剤またはその媒体(希釈ガスまたは溶剤)の浸透性、によって調整することが可能である。たとえば、上記接触時間を長くするとハロゲン化処理部141はより深くなり、接触時間を短くするとより浅くなる傾向にある。また、弾性層14に対して高い浸透性を有する上記媒体(例えば有機溶剤)を用いると、ハロゲン化処理部141はより深くなり、弾性層14に対して低い浸透性を有する上記媒体(例えば水または空気などガス)を用いると、ハロゲン化処理部141はより浅くなる傾向にある。
【0037】
上記塗布工程は、表面層16の材料を含有する表面層16用の塗料を、上記ハロゲン化処理工程後の弾性層14の表面(ハロゲン化処理部141の表面)に、浸漬や噴霧、塗布などの公知の方法で塗布することによって、行うことが可能である。たとえば、浸漬塗布であれば、上記塗料は、公知の浸漬塗布装置を用いて、ハロゲン化処理工程後の弾性層14の外周面に塗布される。当該浸漬塗布装置は、例えば、弾性層ベルトと上記塗料とが収容される浸漬槽と、当該浸漬槽に上記塗料を連続して供給するとともに上記浸漬槽から溢れ出た上記塗料を回収、再供給する塗料供給装置と、浸漬すべき上記弾性層ベルトを上記浸漬槽に収容し、引き上げるベルト搬送装置と、を有する。なお、上記の「弾性層ベルト」とは、基層12および弾性層14を有し、ハロゲン化処理後であって表面層16作製前の無端状のベルトである。
【0038】
上記浸漬塗布装置を用いる浸漬塗布方法における上記弾性層ベルトを引き上げる速度は、上記塗料の粘度に応じて適宜に決められる。たとえば、上記塗料の粘度が10〜200mPa・sである場合では、上記塗料の膜の厚さや均一性、乾燥速度の適正化などの観点から、弾性層ベルトを引き上げる速度は、0.5〜15mm/秒であることが好ましい。
【0039】
上記塗料は、上記三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体などの、表面層14用の前述した材料を含有する。当該塗料は、当該塗料の塗布性を高める観点から、溶剤をさらに含有していてもよい。溶剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該溶剤の例には、アルコール、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、ケトン、エステルおよび多価アルコール誘導体などの有機溶剤が含まれる。
【0040】
また、上記塗料は、当該塗料の硬化を促進する観点から、重合開始剤をさらに含有してもよい。重合開始剤は、一種でもそれ以上でもよい。重合開始剤は、上記膜の硬化方法に応じて選択される。たとえば、後述の硬化工程において、活性エネルギー線での照射によって上記膜を硬化させる場合では、重合開始剤には、光重合開始剤が用いられる。
【0041】
光重合開始剤の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエール、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4−ビス(ジメチルアミノベンゾフェノン)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンなどのカルボニル化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ジターシャリーブチルパーオキシドなどのパーオキシド化合物;および、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド化合物;が含まれる。
【0042】
上記塗料における光重合開始剤の含有量は、例えば、樹脂固形分の総量に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。「樹脂固形分」とは、硬化後の塗料(表面層16)中で樹脂として存在する成分であり、例えば、上記硬化工程で重合するモノマー、および上記塗料中に添加される樹脂である。
【0043】
上記硬化工程は、加熱や活性エネルギー線の照射などの公知の方法によって行うことが可能である。たとえば、活性エネルギー線の照射であれば、照射線量は、上記塗料の塗布膜(塗膜)における硬化ムラの防止、硬化後の硬度や硬化時間、硬化速度などの適正化、の観点から、100mJ/cm
2以上であることが好ましく、120〜200mJ/cm
2であることがより好ましく、150〜180mJ/cm
2であることがさらに好ましい。照射線量は、例えば、UIT250(ウシオ電機株式会社製)で測定することが可能である。上記塗膜への活性エネルギー線の照射は、活性エネルギーの照射源を有する照射装置によって行うことが可能である。
【0044】
上記照射装置は、例えば、上記塗膜がその外周面に形成された上記弾性層ベルトを回転自在に支持する支持装置と、当該支持装置によって支持されている上記弾性層ベルトの上記塗膜に向けて活性エネルギー線を照射する照射源と、を有する。上記支持装置における弾性層ベルトの回転速度(周速度)は、上記塗膜における硬化ムラの防止、硬化後の硬度や硬化時間の適正化などの観点から、例えば、10〜300mm/秒であることが好ましい。
【0045】
活性エネルギー線の例には、紫外線、電子線およびγ線が含まれる。活性エネルギー線は、紫外線または電子線であることが好ましく、例えば取り扱いの簡便さの観点から、紫外線が好ましい。紫外線の照射源の例には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプおよびシンクロトロン放射光の発生装置が含まれる。紫外線は、例えば、波長が400nm以下の紫外線である。
【0046】
電子線の照射源の例には、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器が含まれる。電子線の例には、50〜1000keV、好ましくは100〜300keV、のエネルギーを有する電子線が含まれる。
【0047】
活性エネルギー線の照射時間は、塗膜の硬化効率や作業効率などの観点から適宜に決められる。上記照射時間は、0.5秒間から5分間であることが好ましく、3秒間から2分間であることがより好ましい。
【0048】
上記活性エネルギー線の照射における雰囲気中の酸素の濃度は、形成された表面層16の酸化を防止する観点から、5体積%以下であることが好ましく、1体積%以下であることがより好ましい。上記酸素濃度は、当該雰囲気中へ窒素ガスなどの他のガスを供給することによって調整される。酸素濃度は、雰囲気ガス管理用酸素濃度計OX100(横河電機株式会社製)で測定することが可能である。
【0049】
また、上記塗料の膜は、ハロゲンヒーターや赤外線ヒーター、温風加熱器などの公知の加熱装置で加熱することによって硬化することが可能である。上記膜を収容して加熱するための加熱室内の温度は、例えば、140〜160℃である。
【0050】
上記の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。このような他の工程の例には、上記塗布工程で形成された上記膜を加熱し、乾燥させる工程(乾燥工程)が含まれる。この乾燥工程における加熱方法は、例えば、温風の吹き付けである。温風の温度は、例えば、塗料中の溶剤を蒸発させ、かつ当該蒸発の上記塗膜への影響(例えば、気泡の発生およびその破裂)を抑える観点から、40〜100℃であることが好ましくに40〜80℃であることがより好ましく、40〜60℃であることがさらに好ましい。
【0051】
ハロゲン化処理部141を含む弾性層14の表面に、三官能以上の(メタ)アクリル酸誘導体の重合による表面層16を作製すると、ハロゲン化処理部141を表面に有さない弾性層14の表面に表面層16を作製した場合に比べて、表面層16がより厚くなり、表面層16の表面硬さがより高くなり、かつ弾性層14に対する表面層16の接着強度が高くなる。
【0052】
弾性層14を構成するゴム材料の分子間凝集力は小さい。このため、弾性層14は、弾性を示す。しかし、当該分子間凝集力が小さいため、弾性層14の表面に表面層16用の上記塗料などの有機成分を塗布すると、当該溶剤は弾性層14に浸透してしまうことがある。当該塗料が弾性層14に浸透すると、弾性層14の表面における上記塗料の存在量が不足し、当該塗料の塗膜の厚さが不十分となることがあり、このため、形成される表面層16の厚さが不足し、表面硬さが不十分となることがある。
【0053】
一方、弾性層14の表面をハロゲン化処理すると、弾性層14の弾性が実質的に維持されつつ、弾性層14の表面における分子間凝集力が高められる。このため、ハロゲン化処理部141の表面は、当該ハロゲン化処理前の弾性層14の表面に比べて、より平滑になる。したがって、弾性層14への上記塗料の浸透が抑制される。よって、ハロゲン化処理部141の表面には、所期の厚さを有する表面層16を形成することができる。このため、弾性層14の変形に合わせて変形可能な適度な柔軟性と、十分な表面硬さと、を有する表面層16が得られる。
【0054】
また、ハロゲン化処理部141と表面層16との界面では、ハロゲン化処理部141に存在するハロゲン原子と、表面層16に存在する(メタ)アクリロイル基(例えば当該(メタ)アクリロイル基中のカルボニル基の炭素原子)との間に、分子間力や静電引力などの、互いに引き合う何らかの力が生じる、と考えられる。そして、表面層14を構成するためのモノマーである(メタ)アクリル酸誘導体は、三官能以上の化合物であるため、弾性層14に対する結合点および当該モノマー同士の結合点の両方が十分に確保される。
【0055】
このため、ゴム材料とアクリル系材料という、接着性が必ずしもよくない材料で構成される層同士(弾性層および表面層)が、接着剤を介さずに直接、十分な接着強度で接着する、と考えられる。また、当該モノマー同士の重合により十分に高い架橋密度の樹脂層(表面層16)が形成され、よって、十分な表面硬さの表面層16が得られる、と考えられる。
【0056】
以上、説明したように、中間転写ベルト10では、表面層16は、弾性層14の変形に合わせて変形し、しかしながら十分な表面硬さを有し、かつ弾性層14に対して十分な強度で接着する。したがって、中間転写ベルト10は、弾性層14によってもたらされる良好な接触性と、表面層16によってもたらされる耐久性とを兼ね備えるので、画像形成装置における中間転写体に好適に用いられる。
【0057】
[画像形成装置]
本発明に係る画像形成装置は、感光体に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための中間転写体を少なくとも有する。本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る中間転写体を有する以外は、中間転写体を有する公知の画像形成装置と同様に構成されうる。本発明に係る画像形成装置は、例えば、感光体、感光体を帯電させる帯電装置、帯電した感光体に光を照射して静電潜像を形成する露光装置、静電潜像が形成された感光体にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成する現像装置、静電潜像に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための中間転写体を含む転写装置、および、トナー画像を記録媒体に定着させる定着装置、を有する。「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
【0058】
図2は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を概略的に示す図である。
図2に示されるように、画像形成装置1は、画像読取部110、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50および定着装置60を有する。
【0059】
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41Cおよび41Kを有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、転写装置に相当する。
【0060】
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。感光体ドラム413は、例えば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム413の表面は、光導電性を有する。感光体ドラム413は、感光体に相当する。帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば半導体レーザーで構成される。現像装置412は、例えば二成分現像方式の現像装置である。
【0061】
中間転写ユニット42は、前述の中間転写ベルト10、中間転写ベルト10を感光体ドラム413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト10は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト10は矢印A方向に一定速度で走行する。
【0062】
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
【0063】
定着装置60は、定着ローラー62と、定着ローラー62の外周面を覆い、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解するための無端状の発熱ベルト63と、用紙Sを定着ローラー62および発熱ベルト63に向けて押圧する加圧ローラー64と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
【0064】
画像形成装置1は、さらに、画像読取部110、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部110は、給紙装置111およびスキャナー112を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する三つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
【0065】
画像形成装置1による画像の形成を説明する。
スキャナー112は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー112aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
【0066】
感光体ドラム413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411は、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光を感光体ドラム413に照射する。こうして感光体ドラム413の表面には、静電潜像が形成される。現像装置412は、感光体ドラム413の表面にトナーを付着させることにより静電潜像が可視化される。こうして感光体ドラム413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。
【0067】
感光体ドラム413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト10に転写される。転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
【0068】
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト10が感光体ドラム413に圧接することにより、感光体ドラム413と中間転写ベルト10とによって、一次転写ニップが感光体ドラムごとに形成される。当該一次転写ニップにおいて、各色のトナー画像が中間転写ベルト10に順次重なって転写される。
【0069】
一方、二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト10および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、中間転写ベルト10と二次転写ベルト432とによって、二次転写ニップが形成される。当該二次転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sは、用紙搬送部50によって二次転写ニップへ搬送される。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
【0070】
上記二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト10に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
【0071】
定着装置60は、発熱ベルト63と加圧ローラー64とによって、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを当該定着ニップ部で加熱、加圧する。こうしてトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
【0072】
なお、二次転写後に中間転写ベルト10の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト10の表面に摺接されるベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。
【0073】
中間転写ベルト10が感光体ドラム413に圧接すると、中間転写ベルト10の表面層は、前述した弾性層がその弾性によって変形した通りに変形し、感光体ドラム413の表面に密着する。こうして、中間転写ベルト10は、感光体ドラム413に密着する。中間転写ベルト10がバックアップローラー423Aに押圧されている用紙Sに圧接したときも、中間転写ベルト10の表面は、同様に用紙Sに密着する。このように、中間転写ベルト10は、感光体ドラム413および用紙Sへの接触性に優れる。
【0074】
さらに、中間転写ベルト10は、前述した弾性層、ハロゲン化処理部および表面層を有することから、感光体ドラム413と用紙Sとの接触性および耐久性に優れる。当該表面層は、弾性層に対して十分な接着強度で接着していることから、上記の圧接に伴い中間転写ベルト10へストレスがかかっても、表面層は弾性層から剥がれない。したがって、画像形成装置1は、長期にわたって転写不良を抑制することができ、よって、高品質の画像を長期にわたって安定して形成することができる。
【0075】
中間転写ベルト10が前述したシロキサン系ビニル共重合体と金属酸化物微粒子をさらに含有する表面層を有する場合には、中間転写ベルト10の耐フィルミング性および耐久性をさらに向上させる観点、および、中間転写ベルト10の表面自由エネルギーをより低く維持する観点、からより一層効果的である。
【実施例】
【0076】
[実施例1]
(樹脂基体の準備)
前述した導電剤を含有するポリアミドイミドからなる厚さ60μmのシームレスベルト(基層)を準備した。これを「樹脂基体」とする。
【0077】
(弾性層ベルトの作製)
上記樹脂基体の外周面に、ニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる厚さ150μmの弾性層をディッピング塗布法により作製し、弾性層ベルト1を得た。
【0078】
(弾性層ベルトのハロゲン化処理)
50℃の脱イオン水にトリクロロイソシアヌル酸を溶解してなる1質量%トリクロロイソシアヌル酸水溶液に、弾性層ベルト1の弾性層を30秒間浸漬し、次いで弾性層ベルト1を脱イオン水で十分に洗浄し、次いで乾燥し、弾性層の表面が塩素化処理されたハロゲン化処理弾性ベルト1を得た。
【0079】
(表面層の作製)
ハロゲン化処理弾性層ベルト1の表面に、前述したような浸漬塗布装置を用いて、浸漬塗布方法によって表面層用塗料Aを塗布し、表面層用塗料Aの塗膜を作製した。表面層用塗料Aの組成および表面層用塗料Aの塗布条件を以下に示す。「イルガキュアー」はBASF社の登録商標である。下記塗布条件は、硬化性のアクリル系塗料の塗膜を、乾燥膜厚で2μm程度となる厚さで作製するのに通常用いられる条件である。
(表面層用塗料Aの組成)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA) 100質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 1000質量部
光重合開始剤(イルガキュアー379、BASF社製) 5質量部
(塗布条件)
塗布液供給量(循環量):1L/分
ハロゲン化処理弾性層ベルト1の引き上げ速度:4.5mm/分
【0080】
次いで、表面に表面層用塗料Aの上記塗膜が作製されたハロゲン化処理弾性層ベルト1を円筒状基体に外嵌させた状態で、当該円筒状基体を回転させながら、下記の照射条件で上記塗膜を光で照射し、硬化させた。こうして、基層、弾性層および表面層を順次重ねてなる無端ベルト状の中間転写体1を得た。
(照射条件)
光源の種類:高圧水銀ランプ(H04−L41、アイグラフィックス株式会社製)
照射距離:100mm
照射光量:1J/cm
2
照射時間:240秒間
【0081】
[実施例2]
表面層用塗料Aを表面層用塗料Bに変更した以外は、実施例1と同様にして、中間転写体2を得た。表面層用塗料Bの組成を以下に示す。
(表面層用塗料Bの組成)
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPT) 100質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 1000質量部
光重合開始剤(イルガキュアー379、BASF社製) 5質量部
【0082】
[実施例3、4]
NBRをクロロプレンゴム(CR)に変更した以外は、実施例1と同様にして中間転写体3を得た。また、NBRをクロロプレンゴム(CR)に変更した以外は、実施例2と同様にして中間転写体4を得た。
【0083】
[実施例5]
弾性層ベルトのハロゲン化処理における1質量%トリクロロイソシアヌル酸水溶液を1質量%トリブロモイソシアヌル酸水溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして中間転写体5を得た。
【0084】
[実施例6]
弾性層ベルトの作製におけるNBRをエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)に変更した以外は、実施例1と同様にして中間転写体6を得た。
【0085】
[比較例1]
弾性層ベルトのハロゲン化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして中間転写体C1を得た。
【0086】
[比較例2]
表面層用塗料Aを表面層用塗料Cに変更した以外は、実施例1と同様にして、中間転写体C2を得た。表面層用塗料Cの組成を以下に示す。
(表面層用塗料Cの組成)
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(1,6HDDA) 100質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 1000質量部
光重合開始剤(イルガキュアー379、BASF社製) 5質量部
【0087】
[比較例3]
弾性層ベルトのハロゲン化処理を行わなかった以外は、実施例3と同様にして中間転写体C3を得た。
【0088】
[測定、評価]
(1)ハロゲン化処理量
各中間転写体を、積層方向に対して斜めに切断し、切断面における表面層近傍の弾性層の部分を蛍光X線分光分析装置(XRF−1700(株式会社島津製作所製))で分析し、ハロゲン種(塩素または臭素)の量(キロカウント毎秒(kcps))を測定した。当該切断面におけるハロゲン種の量の最高値をハロゲン量とした。なお、CRの弾性層の塩素化処理については、上記切断面における塩素の量の最高値と最低値との差をハロゲン量とした。たとえば、中間転写体3の上記切断面における塩素の量の最高値は710kcpsであり、最低値は692kcpsであった。結果を表1に示す。
【0089】
(2)表面層の厚さ
中間転写体1〜6およびC1〜C3の表面層の厚さを測定した。当該厚さの測定には、走査型電子顕微鏡 JSM−740T(日本電子株式会社製)を用いた。各中間転写体において、ランダムに5箇所の表面層の厚さを測定し、得られた測定値の平均値を当該中間転写体の表面層の厚さとした。結果を表1に示す。
【0090】
(3)表面硬さ
各中間転写体の表面層の表面硬さをナノインデンテーション法によって測定した。上記表面硬さの測定には、「Triboscope」(Hysitron社製)を用いた。より具体的には、下記測定条件で、下記圧子をある押し込み荷重での押し込みとその荷重の50%減少とを、押し込み荷重を徐々に増やしながら、押し込み深さが1μmになるまで繰り返し、得られた荷重曲線から表面硬さの値を算出した。各中間転写体の表面層をランダムに10点測定したときの各荷重曲線から算出された表面硬さの値の平均値を求め、各中間転写体の表面硬さとした。結果を表1に示す。
(測定条件)
測定圧子:Berkovich型ダイヤモンド圧子
測定圧子の先端形状:正三角形
測定環境:20℃、60%RH
【0091】
(4)剥がれ率
各中間転写体の表面層の接着性を、JIS K5600で規定されているクロスカット法によって測定した。より具体的には、各中間転写体の表面層に、弾性層に達する切り傷を、1mm間隔で、互いに直交する方向のそれぞれに沿って11本ずつ形成して100個の碁盤目(10個×10個)を形成し、碁盤目部分にセロハンテープを十分に圧着させ、表面層に対して45°の角度に向けてセロハンテープを一気に引き剥がし、剥がれが生じている碁盤目の数の割合(剥がれ率)を求めた。結果を表1に示す。剥がれ率が5%未満であれば、実用上問題ない。
【0092】
(5)転写率
中間転写体1〜6およびC1〜C3を搭載可能な、
図2に示されるようなフルカラー画像形成装置(コニカミノルタ株式会社製 bizhub PRESS C8000)を評価機として用意した。そして、上記評価機に各中間転写体を搭載し、耐久試験前後の転写率を求めた。
【0093】
より具体的には、20℃、50%RHで、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(Bk)の各色の印字率が2.5%の画像を、中性紙に60万枚印刷する耐久試験を行った。当該耐久試験の初期と耐久試験後とのそれぞれにおいて、二次転写前の中間転写体上のトナーの重量A(g)と二次転写後の中間転写体上の転写残トナーの重量B(g)とを測定し、下記式から転写率(%)を求めた。重量Aは、吸引装置を用いて、一次転写後であって二次転写前の中間転写体の表面の所定の面積の領域(10mm×50mmを三点)のトナーを採取した結果から求めた。重量Bは、二次転写後の中間転写体上の転写残トナーをブッカーテープにより採取し、当該ブッカーテープを白色用紙に貼り付け、当該白色用紙を、分光測色計(コニカミノルタセンシング株式会社製、CM−2002)を用いて測色し、予め検量していたトナー重量と測色値の関係から求めた。結果を表1に示す。
(式)
転写率(%)={1−(B/A)}×100
【0094】
【表1】
【0095】
表1から明らかなように、中間転写体1〜6(実施例1〜6)は、いずれも、所期の厚さの表面層を有し、また8〜10MPa程度、と十分に高い表面硬さを有している。また、中間転写体1〜6は、いずれも、耐久試験の初期で十分に高い転写性を有している。よって、当該表面層が、弾性層の弾性による変形にしたがって十分に変形することが分かる。さらに、中間転写体1〜6は、いずれも、表面層の弾性層への高い接着性を有しており、耐久試験後においても十分に高い転写性を維持している。上記接着性がもたらされる理由は、表面層を構成するモノマーの多官能に係る一部分(例えばカルボニル基)が、弾性層の表面におけるハロゲンが導入された部分と、何らかの結合性の相互作用(例えば、分子間力や電気陰性度の差による静電引力など)を有するため、と考えられる。
【0096】
特に、中間転写体1〜4(実施例1〜4)は、剥がれ率がより小さく、耐久試験初期の転写率と耐久試験後の転写率との差がより小さい。上記剥がれ率がより小さい理由は、上記の相互作用の観点から上記ハロゲン種として塩素がより効果的であるため、と考えられる。また、上記転写率の差がより小さい理由は、NBRおよびCRが画像形成に係る耐性(例えば、耐オゾン性や機械的強度など)の観点からより優れているため、と考えられる。
【0097】
一方、中間転写体C1(比較例1)では、表面層の厚さおよび表面硬さのいずれもが不十分であった。これは、弾性層がハロゲン化処理されていないために、弾性層の表面に塗布された表面層用塗料が弾性層に染み込み、十分な厚さの表面層が形成されず、そのため、十分な表面硬さが発現されなかったため、と考えられる。また、中間転写体C1は、弾性層と表面層との接着性も不十分であった。これは、弾性層と表面層との間の上記相互作用が得られなかったため、と考えられる。よって、中間転写体C1では、転写率が耐久試験の初期から不十分であり、かつ耐久試験初期の転写率と耐久試験後の転写率との差が大きくなった、と考えられる。
【0098】
また、中間転写体C2(比較例2)では、表面層が所期の厚さを有するものの、表面硬さが小さく、また弾性層と表面層との接着性が不十分であった。これは、表面層の構成要素となるモノマーが二官能のアクリル系モノマーであるので、弾性層と表面層との間の上記相互作用の強さが不十分であったため、と考えられる。このため、中間転写体C2では、耐久試験初期の転写率は十分であるものの、耐久試験に伴い転写率が大きく低減した、と考えられる。
【0099】
また、中間転写体C3(比較例3)では、基本的には中間転写体C1と同様の結果となった。中間転写体C3の弾性層材料(CR)には塩素が含まれているが、中間転写体C3の弾性層と表面層との接着性は、中間転写体C1のそれよりは優れているものの、不十分であった。