特許第6233136号(P6233136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233136
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】膜形成用液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/02 20060101AFI20171113BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20171113BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C09D183/02
   G02B1/111
   C03C17/25 A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-67885(P2014-67885)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-191090(P2015-191090A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】増山 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】日向野 怜子
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−015543(JP,A)
【文献】 特開平08−122501(JP,A)
【文献】 特開2013−253145(JP,A)
【文献】 特開2009−197078(JP,A)
【文献】 特開2010−000753(JP,A)
【文献】 特開平05−263045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
G02B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランの加水分解物と、所定の溶媒と、シリカ粒子が液体媒体中に分散したシリカゾルとを含み、但し金属塩を含まず、
前記加水分解物中のSiO2分と前記シリカゾルのSiO2分の合計が液組成物100質量%に対して0.25〜20.0質量%含まれ、
前記所定の溶媒が、沸点が100℃以上の第1溶媒と、沸点が100℃未満の第2溶媒とを混合した混合溶媒であり、
前記第1溶媒が水を含むとともに、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート及びエチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む溶媒であって液組成物中の液成分100質量%に対して80質量%以上含まれ、
前記第2溶媒がメタノール又はエタノールを含む溶媒であって液組成物中の液成分100質量%に対して20質量%以下含まれ、かつ
液組成物中の液成分100質量%に対して、前記水の含有量が12質量%以下であり、前記メタノールと前記エタノールの合計含有量が17質量%以下であり、
前記液組成物の液成分の比誘電率が12〜25の範囲にあり、かつ前記シリカ粒子のゼータ電位の絶対値が10〜25mVの範囲にある膜形成用液組成物。
【請求項2】
前記第2溶媒がメチルエチルケトン及び/又はイソプロパノールを更に含む請求項1記載の膜形成用液組成物。
【請求項3】
前記エチレングリコールの含有量が11質量%以下である請求項1又は2記載の膜形成用液組成物。
【請求項4】
前記イソプロパノールの含有量が5質量%以下である請求項2記載の膜形成用液組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の液組成物を用いて膜を形成する方法。
【請求項6】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の液組成物を用いて反射防止膜を形成する方法。
【請求項7】
請求項5記載の方法により形成された膜を有する太陽電池の製造方法。
【請求項8】
請求項5記載の方法により形成された膜を有する透明導電フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項5記載の方法により形成された膜を有する撮像素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、ディスプレイパネル、光学レンズ、ショーケース用ガラス、センサー、カメラモジュール、透明導電フィルム、撮像素子等において、入射する光の反射を防止するための低屈折率膜又は反射防止膜を形成するための液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の透明基材の表面に形成された低屈折率の膜は、太陽電池、ディスプレイパネル、光学レンズ、ショーケース用ガラス、センサー、カメラモジュール等において、入射する光の反射を防止するための反射防止膜として利用されている。例えば、ディスプレイパネルの表示面側には視認性を向上させるための反射防止膜が設けられたり、また、太陽電池の分野では、入射する太陽光の反射を防止して光の吸収率を上げるために、ガラス基材の表面等に低屈折率の膜を反射防止膜として形成する等の対策がなされている。
【0003】
このような反射を防止するための膜としては、従来、真空蒸着法やスパッタリング法等の気相法により形成したMgFや氷晶石等からなる単層膜が実用化されている。また、SiO等の低屈折率被膜と、TiOやZrO等の高屈折率被膜を、基材上に交互に積層して形成された多層膜等も、高い反射防止効果が得られることが知られている。しかし、真空蒸着法やスパッタリング法等の気相法では、装置等が高価であることから製造コスト等の面で問題がある。また、低屈折率被膜と高屈折率被膜を交互に積層して多層膜を形成する方法では、製造工程が煩雑で、時間と手間が掛かることからあまり実用的ではない。
【0004】
そのため、最近では、製造コスト等の面から、ゾルゲル法等の塗布法が注目されている。しかし、ゾルゲル法では、一般に、ゾルゲル液を調製し、これをガラス等の透明基板に塗布した後、乾燥や焼成等を行うことにより膜の形成を行うが、ゾルゲル法によって形成された膜は、真空蒸着法等の気相法で形成された膜に比べて所望の低屈折率が得られなかったり、基板との密着性不良やクラックの発生といった様々な課題が残されていた。
【0005】
このようなゾルゲル法を利用した膜の形成方法としては、テトラアルコキシシランであるケイ素化合物(A)と、フッ素含有のトリアルコキシシランであるケイ素化合物(B)と、アルコール(C)と、シュウ酸(D)とを所定の割合で混合して得られた反応混合物を、水の不存在を維持しながら、所定の温度で加熱することでポリシロキサン溶液を生成し、このポリシロキサン溶液を基材表面に塗布し、熱硬化させる被膜の形成方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
この方法では、ポリシロキサン溶液の生成を、ケイ素化合物(A)とケイ素化合物(B)の加水分解による縮合ではなく、水が存在しない反応混合物中での加熱により行っている。これにより、反応の過程でポリシロキサン溶液に濁りが生じずに、不均一なポリシロキサンが生成されるのを防止でき、また、ケイ素化合物(B)の割合を従来よりも少なくしても低屈折率の膜が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−208898号公報(請求項1、段落[0008]〜[0010])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、上記従来の特許文献1に示された形成方法では、ポリシロキサン溶液の調製においては、溶液に濁りが生じずに、不均一なポリシロキサンが生成されるのを防止できる等の点で優れているものの、成膜時においては、膜に濁りが生じたり、膜厚が不均一になる等の不具合が生じる場合があった。その結果、透過光が散乱し、この膜を光透過面に使用した場合に、この散乱光がデバイスの性能を低下させることがある。
【0009】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、膜厚が不均一になることの主な原因が反応時の液組成物の溶媒の組成にあることを突き止め、使用する溶媒を選定し、その配合割合を調整して、使用する溶媒の誘電率、沸点、シリカ粒子のゼータ電位を一定の範囲にすることにより、塗膜の均一性に大幅な改善がみられる事実に基づき、本発明に至ったものである。
【0010】
本発明の目的は、膜厚が均一であって、かつ低屈折率で透明性の高い膜を形成し得る膜形成用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点は、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランの加水分解物と、所定の溶媒と、シリカ粒子が液体媒体中に分散したシリカゾルとを含み、但し金属塩を含まず、前記加水分解物中のSiO2分と前記シリカゾルのSiO2分の合計が液組成物100質量%に対して0.25〜20.0質量%含まれ、前記所定の溶媒が、沸点が100℃以上の第1溶媒と、沸点が100℃未満の第2溶媒とを混合した混合溶媒であり、前記第1溶媒が水を含むとともに、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート及びエチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む溶媒であって液組成物中の液成分100質量%に対して80質量%以上含まれ、前記第2溶媒がメタノール又はエタノールを含む溶媒であって液組成物中の液成分100質量%に対して20質量%以下含まれ、かつ液組成物中の液成分100質量%に対して、前記水の含有量が12質量%以下であり、前記メタノールと前記エタノールの合計含有量が17質量%以下であり、前記液組成物の液成分の比誘電率が12〜25の範囲にあり、かつ前記シリカ粒子のゼータ電位の絶対値が10〜25mVの範囲にある膜形成用液組成物である。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記第2溶媒がメチルエチルケトン及び/又はイソプロパノールを更に含む膜形成用液組成物である。
【0013】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記エチレングリコールの含有量が11質量%以下である膜形成用液組成物である。
【0014】
本発明の第4の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記イソプロパノールの含有量が5質量%以下である膜形成用液組成物である。
【0015】
本発明の第5の観点は、第1の観点ないし第4の観点のいずれかの観点に記載された液組成物を用いて膜を形成する方法である。
【0016】
本発明の第6の観点は、第1の観点ないし第4の観点のいずれかの観点に記載された液組成物を用いて反射防止膜を形成する方法である。
【0017】
本発明の第7の観点は、第5の観点の方法により形成された膜を有する太陽電池の製造方法である。
【0018】
本発明の第8の観点は、第5の観点の方法により形成された膜を有する透明導電フィルムの製造方法である。
【0019】
本発明の第9の観点は、第5の観点の方法により形成された膜を有する撮像素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の観点の液組成物によれば、所定のケイ素アルコキシドの加水分解物と所定の溶媒と所定のシリカゾルとを含み、かつ金属塩を含まないため、またこの液組成物は加水分解物中のSiO2分とシリカゾルのSiO2分の合計が液組成物100質量%に対して0.25〜20.0質量%含まれるようにし、ケイ素アルコキシドと溶媒とシリカゾルを特別に選定してその配合割合を決めて、調製するため、本発明の液組成物の液成分の比誘電率が12〜25の範囲にあるとともに液組成物を調製した後で液組成物中に分散した状態のシリカ粒子のゼータ電位の絶対値が10〜25mVの範囲にある。この結果、本発明の液組成物を用いて塗布すると、その膜厚が均一であって、かつ低屈折率で透明性の高い膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
本発明の低屈折率膜又は反射防止膜を形成するための液組成物は、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランの加水分解物と、所定の溶媒と、シリカ粒子が液体媒体中に分散したシリカゾルとを含み、但し金属塩を含まない。この液組成物はケイ素アルコキシドの加水分解物と所定の溶媒とシリカゾルとを混合して調製されるか、又はシリカゾルの存在下でケイ素アルコキシドの加水分解を起こさせて調製される。
【0023】
〔ケイ素アルコキシド〕
ケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランが挙げられる。このうち、硬度が高い膜が得られることから、テトラメトキシシランが好ましい。
【0024】
〔ケイ素アルコキシドの加水分解物の調製〕
本発明の液組成物を構成するケイ素アルコキシドの加水分解物は、ケイ素アルコキシドを33〜45質量%、水を15〜45質量部、有機酸又は無機酸を0.1〜0.5質量%、イソプロパノール(以下、IPAという。)又はプロピレングリコール1−モノメチルエーテル(以下、PGMEという。)の有機溶媒を14.5〜34.5質量%の割合で混合して上記ケイ素アルコキシドの加水分解反応を進行させることで得られる。この加水分解物のSiO濃度(SiO分)は0.01〜8.10質量%であるものが好ましい。。加水分解物のSiO濃度が下限値未満では膜の密着性の低下やクラックの発生が起こりやすく、上限値を超えると反応液がゲル化してシリカゾルと混合できなくなる等のおそれがある。ここで、水の割合を上記範囲に限定したのは、水の割合が下限値未満では加水分解速度が遅くなるために塗布膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化してシリカゾルと混合できなくなる等の不具合を生じるからである。水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。
【0025】
有機酸又は無機酸は加水分解反応を促進させるための酸性触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が、無機酸としては塩酸、硝酸が例示される。この中でギ酸が好ましい。ギ酸が好ましいのは、このギ酸を用いることによって、他の酸と比べ加水分解速度が適度に遅く、かつ得られる膜中において不均一なゲル化の促進を防止する効果がより高いからである。また、有機酸又は無機酸の割合を上記範囲に限定したのは、有機酸又は無機酸の割合が下限値未満では反応性に乏しいために膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸による基材の腐食等の不具合が生じる場合がある。
【0026】
有機溶媒としてIPA又はPGMEに限定した理由は、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。有機溶媒の割合を上記範囲に限定したのは、有機溶媒の割合が下限値未満では加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると加水分解の反応性が低下して、膜の密着性が低下するためである。
【0027】
〔シリカゾルの調製〕
本発明の液組成物を構成するシリカゾルは、シリカ粒子が液体媒体中に分散したゾルである。シリカ粒子としては、ハロゲン化ケイ素化合物等の揮発性ケイ素化合物の火炎加水分解を行う噴霧火炎法によって得られた、いわゆる乾式法シリカ(ヒュームドシリカ)と、例えば珪酸ソーダ水溶液の酸又はアルカリ金属塩による中和により得られた、いわゆる湿式シリカ(コロイダルシリカ)が挙げられる。後者のコロイダルシリカ粒子としては、数珠状、球状、針状又は板状が知られている。特に数珠状コロイダルシリカ粒子が分散したシリカゾルにより塗膜を形成すると、膜に空孔ができやすく、屈折率の非常に低い膜になり好ましい。
【0028】
本発明で用いられるシリカ粒子は、比表面積(BET値)が200〜300m/gの範囲にあるものが好ましい。またシリカ粒子の平均粒径は5〜50nmの範囲にあるものが好ましい。比表面積(BET値)を上記範囲にすることによって、より透明性が高く、より屈折率の低い膜が得られやすいからである。平均粒径が下限値未満では、形成した膜の屈折率が十分に低下せず、平均粒径が上限値を越えると、形成した膜の透明性が悪化する場合があるからである。比表面積(BET値)とは、窒素ガスを吸着させて測定したBET3点法による計算値を用いて得られた値をいう。また平均粒径とは、動的光散乱式粒径分布装置を用いて測定された体積基準のメジアン径をいう。
【0029】
シリカ粒子が分散する液体媒体としては、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート(以下、PGMEAという。)又はメチルエチルケトン(以下、MEKという。)が挙げられる。シリカゾルは、上記シリカ粒子を上記液体媒体に添加混合して均一に分散することにより調製される。シリカゾルはSiO濃度(SiO分)が0.09〜18.0質量%であるものが好ましい。シリカゾルのSiO濃度が低すぎると形成後の膜に多孔質構造が形成されず、高すぎるとシリカゾル中のSiOが凝集しやすく、時としてシリカゾルがゲル化するため、ケイ素アルコキシドの加水分解物と混合できなくなる等の不具合が生じる場合がある。
【0030】
〔上記加水分解物と上記シリカゾルとを混合するための所定の溶媒〕
上記加水分解物と上記シリカゾルとを混合して、本発明の液組成物を調製する所定の溶媒は、沸点が100℃以上の第1溶媒と、沸点が100℃未満の第2溶媒とを混合した混合溶媒である。この第1溶媒は、水を含むとともに、PGME、PGMEA及びエチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む溶媒である。またこの第2溶媒は、メタノール又はエタノールを含む溶媒である。MEK及び/又はIPAを更に含んでもよい。第1溶媒は、液組成物中の液成分100質量%に対して80質量%以上含まれ、第2溶媒は、液組成物中の液成分100質量%に対して20質量%以下含まれる。第1溶媒が80質量%未満であると、成膜時の溶媒の乾燥速度が速すぎて、膜厚が不均一になりやすい不具合がある。第2溶媒が20質量%を超えると、成膜時の溶媒の乾燥速度が速すぎて、膜厚が不均一になりやすい不具合がある。本発明の液組成物が第1溶媒及び第2溶媒の2種類の溶媒を含むことの必要性は、沸点が異なる複数の溶媒を含むことで、均一な膜を形成するのに重要な成膜時の溶媒の乾燥速度を調整し得るからである。
【0031】
液組成物中の液成分100質量%に対して、上記水の含有量は12質量%以下である。12質量%を超えると、組成物の基材への濡れ性が悪くなり、成膜後の膜厚が不均一になり、結果として乾燥後の膜厚が不均一となる不具合がある。上記メタノールとエタノールの合計含有量は17質量%以下である。これらは沸点が比較的低く、17質量%を超えると、成膜時の溶媒の乾燥速度が著しく増大することで、膜厚が不均一になりやすい不具合がある。上記エチレングリコールの含有量は11質量%以下であることが好ましい。乾燥速度が低いため、11質量%を超えると、成膜後の乾燥が極めて遅くなり、室温で乾燥した膜を形成できない不具合がある。上記IPAの含有量は5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、シリカゾルの分散性が低下する不具合がある。上記PGME、上記PGMEA又は上記MEKのいずれかの含有量は3質量%以上であることが好ましい。
【0032】
〔膜形成用液組成物の調製〕
本発明の膜形成用液組成物は、上記加水分解物と上記所定の溶媒と上記シリカゾルとを加水分解物中のSiO分とシリカゾルのSiO分の合計が液組成物100質量%に対して0.25〜20.0質量%含まれるように混合して調製される。具体的には、液組成物100質量%に対して加水分解物中のSiO分は0.01〜7質量%含まれ、シリカゾルのSiO分は0.24〜19.99質量%含まれる。上記合計割合が0.25質量%未満であると、成膜時に均一な膜を形成することが困難になる。20.0質量%を超えると、膜厚の増大に伴う内部応力の増大によって、膜表面にクラックが生じて膜が白濁する不具合がある。
【0033】
次に膜形成用液組成物の調製手順について説明する。この液組成物を調製するには、先ず、ケイ素アルコキシドに有機溶媒を添加して、好ましくは30〜40℃の温度で5〜20分間撹拌することにより第1液を調製する。また、水と有機酸又は無機酸を混合し、好ましくは30〜40℃の温度で5〜20分間撹拌することにより第2液を、これとは別に調製する。なお、ケイ素アルコキシドとして用いられるテトラメトキシシラン等は毒性が強いため、この単量体を予め3〜6程度重合させたオリゴマーを使用するのが望ましい。次に、上記調製した第1液を、好ましくは30〜80℃の温度に保持して、第1液に第2液を添加し、上記温度を保持した状態で好ましくは30〜180分間撹拌する。これにより、上記ケイ素アルコキシドの加水分解物が生成される。そして、加水分解物と上記シリカゾルを上述の所定の割合で混合することにより、本発明の液組成物が得られる。
【0034】
〔液組成物の液成分の比誘電率と液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位の両立〕
上述したように調製された本発明の液組成物の液成分の比誘電率は、12〜25の範囲にある。これと併せて、本発明の液組成物を調製した後で液組成物中に分散した状態のシリカ粒子のゼータ電位の絶対値は、10〜25mVの範囲にある。この比誘電率が上記範囲にある場合でかつこの絶対値が上記範囲にある場合に限り、均一で透明な膜が形成できる。反対に、比誘電率又はゼータ電位の絶対値のいずれか一方が、上記範囲外である場合、本発明の液組成物により膜を形成したときに、上記液成分の比誘電率が12未満であると、シリカゾルの分散性が著しく低下し、組成物中に固形分が沈殿する不具合があり、25を超えるような溶媒の組み合わせでは、成膜時の膜厚の均一性が著しく低下する不具合がある。また上記ゼータ電位の絶対値が10mV未満であるとシリカゾルの分散性が著しく低下し、組成物中に固形分が沈殿する不具合があり、25mVを超えると成膜時の膜厚の均一性が著しく低下する不具合がある。いずれの場合も、膜の屈折率が低くならず、また膜のヘイズが高くなり、膜の透明性に欠ける。
【0035】
〔低屈折率膜又反射防止膜の形成〕
続いて、この液組成物を用いて低屈折率膜又反射防止膜を形成する方法について説明する。先ず、ガラス基板、プラスチックフィルム等の基材を用意し、この基材表面に、上述した膜形成用液組成物を、例えばスピンコート法、スロットダイコート法又はスプレー法等により塗布する。本発明の特長の1つは、こうした各種塗布法に対して、塗布された塗膜は上述した液組成物であることにより、膜に濁りがなく、また膜厚が均一になる。塗膜を形成した後は、ホットプレートや雰囲気焼成炉等を用いて、好ましくは50〜100℃の温度で5〜60分間乾燥した後、ホットプレートや雰囲気焼成炉等を用いて、好ましくは100〜300℃の温度で5〜120分間焼成して硬化させる。このように形成された低屈折率膜又反射防止膜は、低屈折率で透明性の高い膜となる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0037】
〔4種類のケイ素アルコキシドの加水分解物の調製〕
表1に示すように、ケイ素アルコキシドとしてTMOS及びTEOSを用意し、無機酸として塩酸及び硝酸を用意し、有機酸としてギ酸及びシュウ酸を用意し、有機溶媒としてPGMEA及びIPAを用意した。これらを表1に示す質量%で配合して、4種類(A〜D)のケイ素アルコキシドの加水分解物を調製した。
【0038】
例えば、種類Aのケイ素アルコキシドの加水分解物は次の方法で調製した。先ず、ケイ素アルコキシドとしてTMOSを用意し、このケイ素アルコキシド45質量%に、PGMEA34.5質量%を有機溶媒として添加し、セパラブルフラスコ内で30℃の温度で15分間撹拌することにより第1液を調製した。なお、ケイ素アルコキシドとしては、単量体を予め3〜5重合させたオリゴマーを使用した。また、この第1液とは別に、イオン交換水20質量%とギ酸0.5質量%をビーカー内に投入して混合し、30℃の温度で15分間撹拌することにより第2液を調製した。次に、上記調製した第1液を、ウォーターバスにて55℃の温度に保持してから、この第1液に第2液を添加し、上記温度を保持した状態で60分間撹拌した。これにより、上記ケイ素アルコキシドの加水分解物を得た。この種類Aのケイ素アルコキシドの加水分解物の調製方法と同様にして、ケイ素アルコキシド、水の量、酸の種類、有機溶媒を変更して種類B〜種類Dのケイ素アルコキシドの加水分解物を調製した。
【0039】
〔4種類のシリカゾルの調製〕
表2に示すように、乾式法又は湿式法で製造されたシリカ粒子を用意し、液体溶媒としてPGMEA及びMEKを用意した。これらを表2に示す質量%で配合して、4種類(E〜H)のシリカゾルを調製した。
【0040】
具体的には、種類Eのシリカゾルは次の方法で調製した。気相法の火炎噴霧法(乾式法)で得られた比表面積(BET値)が200m/gのヒュームドシリカ粒子(日本アエロジル社製 商品名:AEROSIL 200(登録商標))をPGMEAの液体溶媒中に入れて混合した。この混合物はヒュームドシリカ粒子30質量%とPGMEA70質量%の割合で調製した。この混合物を上記ヒュームドシリカ1質量部に対し0.5mmφのジルコニアビーズ5質量部とともにガラス管に詰め密閉し、ビーズ分散機で10時間分散し、シリカゾルを得た。
【0041】
また、種類Fのシリカゾルは、乾式法で得られた比表面積(BET値)が300m/gのヒュームドシリカ粒子(日本アエロジル社製 商品名:AEROSIL 300(登録商標))を用いたこと以外は、種類Eと同様にして調製した。
【0042】
また、種類Gのシリカゾルは、湿式法で得られた比表面積(BET値)が200m/gのコロイダルシリカ(日産化学社製 商品名:MEK-ST-L)を用い、液体溶媒としてMEKを用いたこと以外は、種類Eと同様にして調製した。
【0043】
更に、種類Hのシリカゾルは、湿式法で得られた比表面積(BET値)が300m/gのコロイダルシリカ(日産化学社製 商品名:MEK-ST)を用いたこと以外は、種類Gと同様にして調製した。
【0044】
[上記加水分解物と上記シリカゾルとを混合するための所定の溶媒]
この所定の溶媒として、表3に示す8種類(I〜P)の溶媒を用意した。種類I〜種類Lの溶媒は沸点が100℃未満の第2溶媒であり、種類M〜種類Pの溶媒は沸点が100℃以上の第1溶媒である。表3に各溶媒の沸点と比誘電率を示す。
【0045】
〔実施例1〜9と比較例1〜4の膜形成用液組成物の調製〕
次に、表1に示す4種類のケイ素アルコキシドの加水分解物と、表2に示す4種類のシリカゾルを、表3に示す8種類の溶媒の中から、表4及び表5に示すように、各加水分解物、シリカゾル及び溶媒を採取し、その配合割合を決めて、実施例1〜9及び比較例1〜4の液組成物を得た。なお、表4及び表5において「−」は配合割合が0%であることを示す。
【0046】
<評価>
実施例1〜9及び比較例1〜4でそれぞれ使用したシリカ粒子のゼータ電位と、それぞれの液組成物中の液成分の比誘電率とを測定した後、それぞれの液組成物を基材としてのガラス基板の表面にスピンコート法により塗布して膜を形成した。この膜が形成されたガラス基板を、雰囲気焼成炉を用いて120℃の温度で30分焼成して硬化させることにより、厚さ約200nmの膜を形成した。これらの膜について、屈折率と光の透過性であるヘイズと膜厚の均一性を測定した。これらの結果を表6に示す。
【0047】
上記評価は次の方法により行った。
(1)シリカ粒子のゼータ電位:ゼータ電位計(マルバーン社製、型番:ゼータサイザーZ)を用いて、液組成物およびシリカ粒子の組成を付帯の解析ソフトに入力し、標準の評価手法に従うことにより測定した。
(2)液組成物中の液成分の比誘電率:液組成物中の液成分を満たした電極の外部シリンダと内部シリンダ間の電流値を液体用誘電率計(日本ルフト社製、型番:Model 871)により、比誘電率を測定して得た。
(3)屈折率:分光エリプソメトリー装置(J.A.Woollam Japan株式会社製、型番:M-2000)を用いて測定し、解析した光学定数における633nmの値を屈折率とした。
(4)ヘイズ:スガ試験機製のヘイズメーターHZ-V3を用いて行った。ヘイズとは膜の拡散透過率/全光線透過率×100で表される数値である。ヘイズは膜が曇っているほど値が高くなる。
(5)膜厚の均一性: 段差計(VEECO社製、型式:Dektak150)を用いて、ガラス基板上に成膜した50mm×50mmの面積の膜に対し、対角線上に沿ってプローブを移動させ、厚さの評価を行った。最大の膜厚値と最小の膜厚値との差により評価した。この差が1μm未満の範囲にある場合を「良好」とし、1μm以上5μm以下の範囲にある場合を「可」とし、10μmを超える場合を「不可」とした。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
表6から明らかなように、屈折率については、比較例1〜4が1.3〜1.4と高い値を示しているのに対して、実施例1〜9は比較例1〜4より低い1.2を示しており、本発明の目的である低屈折率を達成することができた。また、ヘーズについては、比較例1〜4が3以上と高い値を示しているのに対して、実施例1〜9は比較例1〜4より低い1.0以下を示しており、本発明の目的である透明性の維持を達成することができた。膜厚の均一性については、比較例1〜4がすべて不可であるのに対して、実施例1、9は可であり、実施例2〜8は良好であった。目視により膜を観察したところ、比較例1〜4では基板の端部に膜厚の異常増大が原因と推測される白濁箇所が確認されたのに対して、実施例1〜9ではこのような白濁箇所は見られず、段差計の結果と一致した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の液組成物は、太陽電池、ディスプレイパネル、光学レンズ、ショーケース用ガラス、センサー、カメラモジュール、透明導電フィルム、撮像素子等に好適な低屈折率膜又は反射防止膜を形成することに利用できる。