【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータ(スラスト感応型回転制御装置の一例)の構成を、「全体構成」、「ステータのロック/フリー切り替え構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体構成]
図1は、実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータAを示す。以下、
図1に基づき、全体構成を説明する。
【0014】
前記ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAは、
図1に示すように、ポンプインペラ1と、タービンランナ2と、ステータ3と、ステータシャフト4と、ロックアップクラッチ5と、トルクカム6と、を備えている。
【0015】
前記ポンプインペラ1は、エンジン等の駆動源に連結される入力軸7にコンバータカバー8を介して連結されたものである。このポンプインペラ1は、ポンプ外殻1aと、ポンプ外殻1aの内面からタービンランナ2側に突設させた複数のポンプ翼1bと、複数のポンプ翼1bの内端部を連結するポンプ内殻1cと、ポンプ外殻1aから延長して設けられたポンプ外殻延長ハブ1dと、を有して構成される。
【0016】
前記タービンランナ2は、ポンプインペラ1に対向配置され、出力ハブ9を介して出力軸10(例えば、変速機入力軸)に連結されたものである。このタービンランナ2は、タービン外殻2aと、該タービン外殻2aの内面からポンプインペラ1側に突設させた複数のタービン翼2bと、該タービン翼2bの内端部を連結するタービン内殻2cと、を有して構成される。
【0017】
前記ステータ3は、ポンプインペラ1とタービンランナ2の間であって、両者1,2の対向領域のうち内側領域に配置され、トルクカム6を介して、コンバータケース11(静止部材)に固定されているステータシャフト4に設けられる。このステータ3は、ステータ内輪3aと、該ステータ内輪3aの外面から外径方向に突設させた複数のステータ翼3bと、該ステータ翼3bの外端部を連結するステータ外輪3cと、を有して構成される。なお、ポンプ内殻1cとタービン内殻2cとステータ外輪3cにより、ポンプ翼1bとタービン翼2bとステータ翼3bを循環する作動油の流れ(
図1の矢印)のコア領域を形成する。
【0018】
前記ロックアップクラッチ5は、クラッチ締結により入力軸7と出力ハブ9(=出力軸10)とを直結することでロックアップ状態とするクラッチである。ロックアップクラッチ5は、コンバータカバー8とタービンランナ2の間に軸方向移動可能に配置されたロックアップピストン51と、ロックアップピストン51と出力ハブ9を接続する位置に配置されたダンパスプリング52と、を有して構成される。ロックアップピストン51は、コンバータ圧油室12とロックアップ圧油室13を画成する位置に配置され、2つの油室12,13が共にコンバータ圧の作動油で満たされているときはクラッチ解放状態である。このクラッチ解放状態からロックアップ圧油室13のロックアップ圧のみを低下させると、ロックアップピストン51に作用する差圧(コンバータ圧−ロックアップ圧)と受圧面積の積算による締結力により締結される。なお、ロックアップ圧油室13のロックアップ圧をドレーンすると差圧が最大となり、差圧と受圧面積の積算による高い締結力にて完全ロックアップ状態に移行する。
【0019】
前記トルクカム6は、軸方向楔溝面14,15の対向面間に介装されローディングカムである。このトルクカム6は、軸方向楔溝面14,15の対向面間に挟圧されるロック状態(ステータ回転停止状態)と、軸方向楔溝面14,15の対向面間に拘束されないフリー状態(ステータ空転状態)と、を切り替える。
【0020】
[ステータのロック/フリー切り替え構成]
図2はステータロック状態を示し、
図3はステータフリー状態を示す。以下、
図1〜
図3に基づき、ステータ3のロック/フリー切り替え構成を説明する。
【0021】
前記ステータ3のロック/フリー切り替え構成としては、ステータシャフト4(軸部材)と、ステータ内輪3a(回転部材)と、軸方向楔溝面14,15と、トルクカム6と、皿バネ16(バネ)と、ロックアップクラッチ5と、を備える。
【0022】
前記ステータ内輪3aは、ステータシャフト4の中心軸CLを回転中心軸とし、ステータシャフト4の対向位置に一定間隔の隙間を介して配置される。ステータ内輪3aの入力側端面と出力ハブ9との間には、トルクカム6がフリー状態(
図1)のとき接しロック状態で離れる第1ニードルベアリング17が軸方向に介装される。ステータ内輪3aの出力側端面とポンプ外殻延長ハブ1dとの間には、トルクカム6がロック状態で接しフリー状態(
図1)で離れる第2ニードルベアリング18が軸方向に介装される。なお、第1ニードルベアリング17と第2ニードルベアリング18は、相対回転を吸収しながらステータ内輪3aを支持する機能に加え、ステータ内輪3aが軸方向に移動するとき、その移動範囲を規定する入力側ストッパと出力側ストッパの役割を果たす。
【0023】
前記軸方向楔溝面14,15は、
図2及び
図3に示すように、ステータシャフト4とステータ内輪3aの径方向に対向する外面4d及び内面3dの両方にそれぞれ設けられている。この一対の軸方向楔溝面14,15は、ステータ3の支持強度等を考慮して周方向に3箇所以上の複数箇所配置される。また、一対の軸方向楔溝面14,15の傾斜角θ1,θ2は、内径位置から外径方向に向かうにしたがって対向面の隙間間隔が徐々に狭くなる楔形状となると共に、トルクコンバータ領域(トルク飛躍領域)で確実にロックする推力が得られるように設定される。なお、カム式のワンウェイクラッチの場合は、円周方向に楔形カム面が形成されるが、軸方向楔溝面14,15は、円周方向ではなく、軸方向に楔形カム面が形成される。
【0024】
前記トルクカム6は、軸方向楔溝面14,15の対向面により形成される斜め円錐状空間に介装されたカムボールである。トルクカム6は、軸方向楔溝面14,15の対向面間に挟圧されるロック状態(
図2)と、軸方向楔溝面14,15の対向面間に拘束されないフリー状態(
図3)と、の切り替えを、ステータ外輪3cに対して軸方向に作用するスラスト力の発生方向により決定する。具体的には、ステータ外輪3cに対して軸方向に作用するタービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsの合計スラスト力(Fs+Ft)とポンプインペラ1からの反力Fiとの大小関係に応じて決定する。
そして、タービンスラスト力をFt、ステータスラスト力をFs、ポンプインペラ1からの反力をFiというとき、これらのスラスト力の関係が、Fi<(Ft+Fs)になったとき、ステータ3をフリー状態からロック状態へ切り替える。また、タービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsと反力Fiの関係が、Fi>(Ft+Fs)になったとき、ステータ3をロック状態からフリー状態へ切り替える(
図2、
図3)。
【0025】
前記皿バネ16は、ステータ内輪3aに軸方向のバネ力(反力Fi)を与える部材であり、
図1に示すように、ポンプインペラ1のポンプ外殻延長ハブ1dと、ステータ内輪3aの出力側端面との間に介装される。つまり、ポンプインペラ1からステータ内輪3aに与える反力Fiを、皿バネ16によるバネ力の大きさにて設定するようにしている。
【0026】
前記ロックアップクラッチ5は、ステータ内輪3aに軸方向の油圧力(反力Fi)を与える部材であり、
図1に示すように、コンバータカバー8とタービンランナ2との間に介装される。つまり、ポンプインペラ1からステータ内輪3aに与える反力Fiを、ロックアップクラッチ5のクラッチ締結力の大きさ(差圧の大きさ)にて設定するようにしている。
【0027】
次に、作用を説明する。
実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータAにおける作用を、「トルクコンバータ作用」、「ステータのロック/フリー切り替え作用」、「他の特徴作用」に分けて説明する。
【0028】
[トルクコンバータ作用]
ワンウェイクラッチを介してステータを静止部材に支持するトルクコンバータ(特開2007−333212号公報の
図2等)を比較例1とする。
この比較例1にあっては、ワンウェイクラッチのロック/フリーの切り替えが、ポンプインペラとタービンランナの作動状態、特に、ステータに流れ込む油の角度変化により決まってしまう。このため、ポンプインペラとタービンランナの差回転数が小さい速度比が1に近い領域において、伝達トルクを増大するトルク飛躍ができない。なお、速度比とは、速度比=(タービンランナ回転数/ポンプインペラ回転数)の式により与えられる回転数比である。
【0029】
一方、ステータを常時固定するトルクコンバータ(特開2007−333212号公報の
図8A等)を比較例2とする。
この比較例2にあっては、ワンウェイクラッチを廃止しているため、伝達トルクを増大するトルク飛躍をしない状態のカップリング領域では、常時固定されているステータが油の流れにとって抵抗になってしまう。以下、これらの問題を解消する実施例1のトルクコンバータ作用を説明する。
【0030】
車両停止時であって入力軸7から回転駆動力の入力が無いときは、タービンスラスト力Ft=0、ステータスラスト力Fs=0であり、ステータ内輪3aに作用するスラスト力としては、ポンプインペラ1からの皿バネ16による反力Fiのみとなる。このため、皿バネ16による反力Fiを受けるステータ内輪3aは、
図1に示すように、第1ニードルベアリング17に押付けられた状態となる。
【0031】
車両停止からの発進時であって入力軸7から回転駆動力が入力されると、ポンプインペラ1が回転し、停止しているタービンランナ2に向かって作動油の循環流が生じ、タービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsが発生する。このため、ステータ内輪3aには、タービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsの合力(Fs+Ft)が、皿バネ16による反力Fiとは反対方向に作用する。すなわち、発進時のように駆動力が欲しいときには、軸力(=Fs+Ft)が、ポンプインペラ1に向かう方向に発生する。
【0032】
このとき、ステータ内輪3aに作用するスラスト力の関係は、
図2に示すように、Fi<(Fs+Ft)となるため、ステータ内輪3aは、
図1に示す位置から
図1の左方向にスライド移動し、軸方向楔溝面14,15の対向面間にトルクカム6が挟圧されてロック状態になる。すなわち、軸方向楔溝面14,15とトルクカム6により、
図2に示すように、トルクカム6の溝面接触位置で押し付け力Fを生む効果が生じ、ステータ3をステータシャフト4に固定するロック状態が確保される。
【0033】
このロック状態では、ステータ3が静止固定となるため、入力軸7からの入力トルクを増大して出力軸10に伝達するトルク増大作用が発揮される。そして、Fi<(Fs+Ft)という関係が維持されている領域は、
図4に示すように、トルクコンバータ領域(トルク飛躍領域)になる。
【0034】
次に、発進後に定速走行状態に移行することで、タービンランナ2の回転数がポンプインペラ1の回転数に近づくことで速度比が上昇し、速度比が0.9になると、ステータ内輪3aに作用するスラスト力の関係は、Fi≒(Fs+Ft)となる。その後、さらに速度比が上昇すると、ステータ内輪3aに作用するスラスト力の関係は、
図3に示すように、Fi>(Fs+Ft)となり、ステータ内輪3aは、
図1の左方向に移動した位置から右方向にストローク移動し、トルクカム6が軸方向楔溝面14,15の対向面による拘束から解かれてフリー状態になる。すなわち、
図3に示すように、軸方向楔溝面14,15とトルクカム6とに僅かな隙間が形成されることで押し付け力が解除され、ステータ3がステータシャフト4に対して空転するフリー状態が確保される。
【0035】
このフリー状態では、ステータ3が循環する流体に伴って連れ回るため、ステータ3が循環流の抵抗になることが抑えられる。また、入力軸7からの入力トルクに変動成分が含まれる場合、流体継手によるトルク変動吸収作用が発揮され、変動成分を除去したトルクを出力軸10に伝達する。そして、Fi>(Fs+Ft)という関係が維持されている領域は、
図4に示すように、カップリング領域(ステータ空転領域)になる。
【0036】
このように、トルクコンバータのワンウェイクラッチ部分を、軸方向楔溝面14,15とトルクカム6を用いた構造にしている。このため、速度比が1に近い領域(例えば、速度比=0.9までの領域)において、伝達トルクを増大するトルクコンバータ領域(トルク飛躍領域)を確保することができる。そして、トルクコンバータ領域以外に、ステータ3がフリー状態となるカップリング領域を有するため、このカップリング領域でステータ3が循環流の抵抗になることもない。
【0037】
[ステータのロック/フリー切り替え作用]
実施例1では、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するスラスト力の発生方向が一方向(ポンプインペラ方向)のとき、軸方向楔溝面14,15の対向面間にトルクカム6が挟圧され、ステータシャフト4とステータ内輪3aを拘束するロック状態にする。一方、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するスラスト力の発生方向が一方向とは反対方向(タービンランナ方向)のとき、ステータシャフト4とステータ内輪3aがトルクカム6により拘束されないフリー状態にする構成とした。
すなわち、軸方向楔溝面14,15とトルクカム6を用いた構造とし、ワンウェイクラッチを廃止した構成としているため、ワンウェイクラッチを用いる場合に比べ、部品点数が削減され、軽量化及びコスト低減することができる。
そして、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するスラスト力に着目し、ロック状態とフリー状態の切り替えを、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するスラスト力の発生方向により決定するようにしている。このため、ステータ内輪3aに作用するスラスト力の発生方向が一方向のときはロック状態(又はフリー状態)であるが、スラスト力の発生方向が一方向とは逆方向に変わるとフリー状態(又はロック状態)に切り替わるというように、ロック状態とフリー状態の切り替え機能が達成される。
この結果、軽量化及びコスト低減を図りながら、ロック状態とフリー状態の切り替え機能を達成することができる。
【0038】
次に、ロック状態とフリー状態の切り替え制御機能について説明する。
ステータ内輪3aに作用するスラスト力は、バネ力や油圧力等を用いて調整することが可能である。したがって、スラスト力の調整自由度を活用し、要求に応じてロック状態とフリー状態の切り替え条件を適切に決めることができるという切り替え制御機能を達成することができる。
【0039】
まず、スラスト方向の合力(Fs+Ft)は、
図4の太線特性に示すように、速度比=0.0のときに最も高く、速度比が高くなるにしたがって緩やかに低下してゆく。この合力特性は、トルクコンバータの設計寸法や形状等により一義的に決まる特性である。よって、ポンプインペラ1からの反力Fiを、
図4に示すように、Fi=Fi0にすると、速度比=1.2になってもFi<(Fs+Ft)という関係が維持され、ステータ3をロックするトルクコンバータ領域を拡大することができる。また、皿バネ16によるポンプインペラ1からの反力Fiを、
図4に示すように、Fi=Fi1とすると、速度比=0.9になるまでFi<(Fs+Ft)という関係が維持され、速度比=0.9を切り替え速度比として、トルクコンバータ領域とカップリング領域を規定することができる。
【0040】
このように、ポンプインペラ1からの反力Fiは、皿バネ16の大きさ、或いは、ロックアップクラッチ5の差圧の大きさ、或いは、皿バネ16の大きさとロックアップクラッチ5の差圧の大きさを加えた大きさにより設定することができる。このため、例えば、
図4のBで示す範囲のように、ポンプインペラ1からの反力Fiを適切にコントロールすることで、トルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比を制御することができる。
【0041】
[他の特徴作用]
実施例1では、スラスト感応型回転制御装置をロックアップクラッチ付きトルクコンバータAに適用した。そして、トルクカム6によるステータ3のロック状態とフリー状態の切り替えを、ステータ内輪3aに対してポンプインペラ1に向かう方向に作用するタービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsの合計スラスト力(Fs+Ft)と、ポンプインペラ1からの反力Fiと、の大小関係に応じて決定する構成とした。
すなわち、ステータ3のロック状態とフリー状態の切り替え、言い換えると、トルクコンバータ領域とカップリング領域の切り替えが、合計スラスト力(Fs+Ft)とポンプインペラ1からの反力Fiとの大小関係に応じて決定される。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAにおいて、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するスラスト力を用い、トルクコンバータ領域とカップリング領域を規定することができる。
【0042】
実施例1では、タービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsとポンプインペラ1からの反力Fiの関係が、Fi>(Ft+Fs)になったとき、トルクカム6によりステータ3をロック状態からフリー状態へ切り替える構成とした。
すなわち、速度比が上昇し、ポンプインペラ1からの反力Fiを、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するタービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsの合計スラスト力(Fs+Ft)が上回ると、ステータ3がロック状態からフリー状態へ切り替えられる。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAがトルクコンバータ領域からカップリング領域に移行するとき、ステータ内輪3aに作用する軸方向力の関係がFi>(Ft+Fs)になると、ステータ3を確実にフリー状態にすることができる。
【0043】
実施例1では、タービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsとポンプインペラ1からの反力Fiの関係が、Fi<(Ft+Fs)になったとき、トルクカム6によりステータ3をフリー状態からロック状態へ切り替える構成とした。
すなわち、速度比が低下し、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するタービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsの合計スラスト力(Fs+Ft)が、ポンプインペラ1からの反力Fiを上回ると、ステータ3がフリー状態からロック状態へ切り替えられる。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAがカップリング領域からトルクコンバータ領域に移行するとき、ステータ内輪3aに作用する軸方向力の関係がFi<(Ft+Fs)になると、ステータ3を確実にロック状態にすることができる。
【0044】
実施例1では、ポンプインペラ1とステータ内輪3aとの間に皿バネ16を介装し、ポンプインペラ1からの反力Fiを、皿バネ16によるバネ力の大きさにて設定する構成とした。
すなわち、ポンプインペラ1からの反力Fiが、調整代を持つ皿バネ16によるバネ力の大きさにて設定される。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAのトルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比を、皿バネ16によるバネ力設定により制御することができる。
【0045】
実施例1では、ポンプインペラ1からの反力Fiを、ロックアップクラッチ5のクラッチ締結力の大きさにて設定する構成とした。
すなわち、ポンプインペラ1からの反力Fiが、差圧制御により変更可能なロックアップクラッチ5のクラッチ締結力の大きさにて設定される。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAのトルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比を、ロックアップクラッチ5のクラッチ締結力設定により制御することができる。さらに、走行状況や車両状況等に応じて目標差圧を変えることで、トルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比の変更制御を行うこともできる。
【0046】
次に、効果を説明する。
実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータAにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0047】
(1) 軸部材(ステータシャフト4)と、
軸部材(ステータシャフト4)の中心軸CLを回転中心軸とし、軸部材(ステータシャフト4)の対向位置に隙間を介して配置された回転部材(ステータ内輪3a)と、
軸部材(ステータシャフト4)と回転部材(ステータ内輪3a)の径方向に対向する面の少なくとも一方に設けられた軸方向楔溝面14,15と、
軸方向楔溝面14,15の対向面間に介装されたトルクカム6と、を備え、
トルクカム6は、軸方向楔溝面14,15の対向面間に挟圧されるロック状態と、軸方向楔溝面14,15の対向面間に拘束されないフリー状態と、の切り替えを、回転部材(ステータ内輪3a)に対して軸方向に作用するスラスト力の発生方向により決定する(
図1)。
このため、軽量化及びコスト低減を図りながら、ロック状態とフリー状態の切り替え機能を達成することができる。
【0048】
(2) スラスト感応型回転制御装置は、ポンプインペラ1、タービンランナ2、ステータ3を含んで構成されるトルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)であり、
軸部材を、静止部材(コンバータケース11)に固定されたステータシャフト4とし、
回転部材を、ステータシャフト4の中心軸CLを回転中心軸とするステータ3に有するステータ内輪3aとし、
トルクカム6は、ステータ3のロック状態とフリー状態の切り替えを、ステータ内輪3aに対してポンプインペラ1に向かう方向に作用するタービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsの合計スラスト力(Fs+Ft)と、ポンプインペラ1からの反力Fiと、の大小関係に応じて決定する(
図2、
図3)。
このため、(1)の効果に加え、トルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)において、ステータ内輪3aに対して軸方向に作用するスラスト力を用い、トルクコンバータ領域とカップリング領域を規定することができる。
【0049】
(3) タービンスラスト力をFt、ステータスラスト力をFs、ポンプインペラ1からの反力をFiというとき、スラスト力の関係がFi>(Ft+Fs)になったとき、トルクカム6によりステータ3をロック状態からフリー状態へ切り替える(
図3)。
このため、(2)の効果に加え、トルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)がトルクコンバータ領域からカップリング領域に移行するとき、ステータ内輪3aに作用する軸方向力の関係がFi>(Ft+Fs)になると、ステータ3を確実にフリー状態にすることができる。
【0050】
(4) タービンスラスト力Ftとステータスラスト力Fsと反力Fiの関係がFi<(Ft+Fs)になったとき、トルクカム6によりステータ3をフリー状態からロック状態へ切り替える(
図2)。
このため、(3)の効果に加え、トルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)がカップリング領域からトルクコンバータ領域に移行するとき、ステータ内輪3aに作用する軸方向力の関係がFi<(Ft+Fs)になると、ステータ3を確実にロック状態にすることができる。
【0051】
(5) ポンプインペラ1とステータ内輪3aとの間にバネ(皿バネ16)を介装し、
ポンプインペラ1からの反力Fiを、バネ(皿バネ16)によるバネ力の大きさにて設定する(
図1)。
このため、(2)〜(4)の効果に加え、トルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)のトルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比を、バネ(皿バネ16)によるバネ力設定により制御することができる。
【0052】
(6) トルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)の入力軸7とポンプインペラ1をコンバータカバー8により連結すると共に、コンバータカバー8とタービンランナ2との間にロックアップクラッチ5を介装し、
ポンプインペラ1からの反力Fiを、ロックアップクラッチ5のクラッチ締結力の大きさにて設定する(
図1)。
このため、(2)〜(5)の効果に加え、トルクコンバータ(ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA)のトルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比を、ロックアップクラッチ5のクラッチ締結力設定により制御することができる。さらに、走行状況や車両状況等に応じて目標差圧を変えることで、トルクコンバータ領域とカップリング領域の境界になる切り替え速度比の変更制御を行うこともできる。
【0053】
以上、本発明のスラスト感応型回転制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0054】
実施例1では、軸方向楔溝面14,15を、ステータシャフト4とステータ内輪3aの径方向に対向する面の両方に設ける例を示した。しかし、軸方向楔溝面としては、軸部材と回転部材の径方向に対向する面の一方のみに設けるような例であっても良い。
【0055】
実施例1では、トルクカム6として、カムボールを用いる例を示した。しかし、トルクカムとしては、カムローラを用いる例としても良い。
【0056】
実施例1では、本発明のスラスト感応型回転制御装置を、1ステータによるロックアップクラッチ付きトルクコンバータAに適用する例を示した。しかし、本発明のスラスト感応型回転制御装置は、ロックアップクラッチを有さないトルクコンバータに適用しても良いし、複数のステータを持つトルクコンバータに適用しても良い。
【0057】
実施例1では、本発明のスラスト感応型回転制御装置をトルクコンバータのステータ支持部に設けられるワンウェイクラッチに代えて適用する例を示した。しかし、本発明のスラスト感応型回転制御装置は、自動変速機内に係合要素として設けられるワンウェイクラッチに代えて適用することができる。この場合、例えば、軸部材を変速機軸(回転する軸部材)やトランスミッションケース(静止している中空軸部材)とし、回転部材を遊星歯車の「はすば歯車」とし、スラスト力を「はすば歯車」の噛み合い歯面で生じる力の軸方向分力により得る。さらに、本発明のスラスト感応型回転制御装置は、ワンウェイクラッチを用いる他の機械や装置に対しても適用できる。