(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
(第1実施形態)
図1(A)、
図1(B)は、本発明の実施形態1に係る焼結磁石が用いられるローターコア(回転子)について示す正面図、斜視図、
図2は本発明の実施形態1に係る焼結磁石の製造方法を示すフローチャートである。
図3(A)は、磁石片を成形型に載置する前の状態を示す斜視図、
図3(B)は磁石片を成形型に載置した状態を示す斜視図、
図3(C)は
図3(B)の平面図、
図4(A)〜
図4(D)は、実施形態1に係る焼結磁石の製造方法の中でも寸法矯正工程から接着工程までを示す説明図である。
図5は同製造方法に使用する寸法矯正装置を示す断面図、
図6は同寸法矯正装置を示す側面図、
図7は同寸法矯正装置の格納容器の内部を示す平面図である。
【0013】
本実施形態に係る焼結磁石Mは、
図1(A)、
図1(B)に示すように、複数の磁石片M1〜M4を一組にして接着し、直方体状に形成される。焼結磁石Mにおいて寸法d1、d3は比較的精度の要求される部位であり、寸法d2は比較的精度が要求されない部位である。もちろん、磁石片の個数は4つに限定されない。焼結磁石Mは、
図1(A)、
図1(B)に示すように電動機などに用いられる回転子100のスロットに挿入されたりして使用される。また、焼結磁石Mが挿入されるスロットの端部には、フラックスバリア部101(磁束を通さない(又は制限する)箇所)が設けられる。
【0014】
(焼結磁石の製造方法)
本実施形態において焼結磁石Mは、
図2に示すように、原料となる合金の作製(ステップS1)、粗粉砕(ステップS2)、微粉砕(ステップS3)、磁場中成形(ステップS4)、焼結(ステップS5)、寸法矯正(ステップS6)、時効熱処理(ステップS7)、接着(ステップS8)、表面処理(ステップS9)、検査(ステップS10)、及び着磁(ステップS11)の工程を経ることによって製造される。以下、当該製造方法について説明する。
【0015】
(原料合金の作製)
原料合金の作製は、真空又は不活性ガス雰囲気中においてストリップキャスティング法又はその他の溶解法によって行われる(ステップS1)。本実施形態に係る焼結磁石はNd
2Fe
14Bを主相とし、この中のNdに対して粒界拡散処理等を用いてDyやTb、Pr等を添加している。Ndに上記希土類金属を添加することによって焼結磁石の保持力を向上させることができる。本実施形態において希土類元素RはNdとしているが、他の希土類元素であってもよい。
【0016】
(粗粉砕、微粉砕)
作製された原料合金はジョークラッシャー又はブラウンミル等を用いて粒径数百μm程度になるまで粗粉砕される(ステップS2)。粗粉砕された合金はジェットミル等によって粒径3〜5μm程度にまで微粉砕される(ステップS3)。微粉砕工程においては、特に粒径を3〜4μmにすると保磁力を高くすることができるため好ましい。
【0017】
(磁場中成形)
次に微粉砕された磁性材料を磁場中で成形し、圧粉体を得る(ステップS4)。圧粉体は平行磁界成形法や直交磁界成形法などの種々の方法を用いて行うことができる。なお、本実施形態において原料合金の作製から磁場中成形までの工程を包括して圧粉体成形と称する。圧粉体の成形は、寸法矯正工程と同様に型を用いて行われる。
【0018】
(焼結)
磁場中で成形された圧粉体は真空又はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気(以下、低酸素雰囲気と称する)中で焼結され、R−Fe−B系焼結磁石が得られる(ステップS5)。焼結温度は圧粉体の材料組成や粉砕方法、粒径によって前後するが、900℃〜1100℃程度で行われる。
【0019】
(寸法矯正)
寸法矯正工程では、概して低酸素雰囲気下において
図4(A)、
図4(B)、
図5に示す寸法矯正部200を構成する上型213と下型214によってワークWにプレス成形を行い、焼結磁石の寸法矯正を行う(ステップS6)。詳細については後述する。
【0020】
(時効熱処理)
寸法矯正後には低酸素雰囲気下で時効熱処理を行い、焼結磁石の保磁力を調整する(ステップS7)。焼結磁石の寸法矯正は時効熱処理よりも高い温度にて実施される場合があるため、時効熱処理の前に焼結磁石の寸法矯正を実施する。熱処理を行う温度は磁石の組織を変えるおそれがあり、磁石特性に影響を与える可能性があるためである。
【0021】
(接着)
時効熱処理工程後、磁石片M1〜M4は接着剤によって接着される(ステップS8)。
【0022】
(表面処理、検査、着磁)
接着工程後には、焼結磁石の錆びや腐食を防止するためにNiめっきなどによって表面処理を行う(ステップS9)。表面処理が終わったら、磁気特性や外観、及び寸法などの検査を行い(ステップS10)、最後にパルス磁界や静的磁界を印加して着磁することによって焼結磁石が製造される(ステップS11)。
【0023】
(焼結磁石の製造装置)
次に本実施形態に係る焼結磁石の製造方法の中でも寸法矯正工程を具現化した装置について詳述する。寸法矯正工程以外の工程については従来公知の方法と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
実施形態1に係る焼結磁石の製造装置200は、相対的に近接離間可能な上スライド201およびボルスタ202と、上スライド201及びボルスタ202に取付け及び取外しが可能なダイセット210とを有する。ダイセット210は、上ダイ211と、上ダイ211に対向して配置される下ダイ212と、上ダイ211と下ダイ212の位置合わせを行なう調節機構240と、を有する。また、ダイセット210は、ワークW(寸法矯正加工の対象となる焼結磁石)の寸法を矯正する成形型が設けられ下ダイ211に載置される格納容器220を有する。
【0025】
格納容器220は、焼結磁石を加熱するヒーター221と、格納容器220の室内を低酸素雰囲気に形成するための配管ダクト223と、冷却部224と、吸着パッド225と、接着部226と、を有する。
【0026】
図5において、上スライド201は、油圧によってボルスタ202に対して近接離間移動する。上スライド201は、ダイセット210の上ダイ211を着脱自在に固定する連結ピン217を有し、ボルスタ202は、ダイセット210の下ダイ212を着脱自在に固定する連結ピン217を有する。ボルスタ202には、寸法を矯正した後の焼結磁石を矯正金型から取り出すノックアウトバー203が昇降自在に設けられている。
【0027】
成形型は上型213、下型214、外周型215から構成される。上型213及び下型214は、上スライド201とボルスタ202によって接近離間できるように構成されている。外周型215は、上型213と下型214とが接近離間する方向と交差する方向からワークである磁石片M1を包囲し、対向面215a、215b、215c、215dを有する。対向面215a、215bは、上型213及び下型214による加圧成形でワークM1が変形しても磁石片M1から離間した部位である。これに対し、対向面215c、215dは、加圧成形前はワークM1と接触していないものの、上型213と下型214による加圧成形によってワークM1が変形した際にはワークM1と接触しワークM1の接触面を対向面と同様の形状に矯正する部位である。なお、磁石をローターコアのスロットに挿入する際は、対向面215a、215bに対向する磁石片M1の面が、フラックスバリア部101に対向するように、磁石片M1がスロットに挿入されることとなる。ノックアウトバー203及び下型214は、ワークMを取り出すノックアウト機構を構成する。
図5における符合204は、ノックアウトバー203を昇降駆動する油圧シリンダを示している。実施形態1においてノックアウトの方向は、上型213と下型214とが接近離間する方向と同じに構成している。
【0028】
ダイセット210は、上ダイ211を連結ピン217によって上スライド201に固定し、下ダイ212を連結ピン217によってボルスタ202に固定することによって、寸法矯正部200に固定される。上ダイ211は、上スライド201の動作に連動する。
【0029】
調節機構240は、下ダイ212に設けられたガイディングロッド241と、上ダイ211に設けられたガイディングロッド241をスライド移動自在に保持するガイディングシリンダ242と、を有する。ガイディングロッド241がガイディングシリンダ内を摺動することによって、上ダイ211と下ダイ212との位置合わせが行なわれる。本実施形態において、上ダイ211が下ダイ212から最も離間した場合でもガイディングロッド241はガイディングシリンダ242から外れることはなく、これによって位置精度が確保される。
【0030】
また、上ダイ211及び下ダイ212は連結ピン217によって上スライド201及びボルスタ202に固定される。そのため、連結ピン217の取外しのみによってダイセット210の寸法矯正部200への取付け及び取外しを容易に行うことができる。
【0031】
格納容器220は、加工対象となる焼結磁石を低酸素雰囲気において加工するために下ダイ212に載置されている。配管ダクト223は、室内を低酸素雰囲気に形成するために真空ポンプ(不図示)に接続されている。配管経路の途中にはバルブ(不図示)が設けられ、格納容器内を真空にした後にバルブによって経路を切り替えることによって窒素ガス等の不活性ガスを格納容器内に充填することができる。室内の酸素濃度はNd−Fe−Bの焼結磁石において10ppm以下、NdにDyやTb、Pr等の金属を粒界拡散処理した場合は1ppm以下とすることが望ましい。Ndに比べてDyやTb、Prの方が酸化されやすいためである。なお、焼結磁石Mの磁石片M1〜M4を投入する投入口を開放して格納容器220の内部を大気圧に戻すこともできる。
【0032】
格納容器220の内部には、真空状態を保持した状態で上ダイ211及び下ダイ212に取付けられた成形型が
図5における上下方向から格納容器内部に挿通している。下ダイ212からは下型214が固定治具216によって固定されて設置され、上ダイ211には上型213が下型214と同様に固定治具216によって固定されて設置されている。また、
図5において下型214の上には、加工対象となる焼結磁石Mを包囲する外周型215が下型214先端の鍔形状と係合することによって下型214に取り付けられる。
【0033】
また、格納容器220には焼結工程から搬送された焼結磁石を下型上に載置し、寸法矯正後に次の焼結磁石との取替えを行う磁石投入取り外し機構が設けられている。
【0034】
本実施形態において下型214への磁石投入取り外し機構は、グローブ222によって構成される。グローブ222は、格納容器220の側面に配置された、天然ゴム等の材料から構成された伸縮性のある部位である。作業者はグローブ222に手を入れて、格納容器220に焼結磁石Mを構成する磁石片M1〜M4を投入したり、完成した焼結磁石Mを格納容器220から取り出すことができる。
【0035】
ヒーター221は、上型213、下型214、及び外周型215の付近に設けられ、上型213が上下にスライド移動できるように中空状に形成されている。ヒーター221の構成は特に限定されないが、電熱ヒーターや高周波誘導ヒーター等を挙げることができる。
【0036】
また、冷却部224は、寸法矯正の終わった磁石片M1〜M4に冷却ガスなどの媒体を吹き付けて磁石片M1〜M4を冷却する。冷却部224は、冷却ガスを流通させるパイプなどで構成することができるが、これに限定されない。
【0037】
吸着パッド225は、例えば格納容器220の内部に配置されて、寸法矯正工程後の磁石片M1〜M4を接着を行う場所まで搬送する。接着部226は、ノズルタイプの構成で、吸着パッド225によって搬送された磁石片M1〜M4を接触面において接着して焼結磁石Mとする。
【0038】
(寸法矯正工程から接着工程までの詳述)
次に寸法矯正工程から接着工程までの工程について詳述する。本実施形態において焼結磁石Mは、複数の磁石片M1〜M4によって構成される。焼結工程において焼結された磁石片M1〜M4は、格納容器220の内部であって、外周型215を設置した状態で下型214にひとつずつ載置され、磁石片ひとつずつに寸法矯正が行われる。磁石片の載置後には、格納容器220に真空引き、又は不活性ガスを充填して低酸素雰囲気とする。そして、上型213、下型214、外周型215、及び磁石片M1を620℃〜1000℃に加熱する。
【0039】
そして、下型214に向って上型213を接近させ、約620℃〜約1000℃に加温された状態で磁石片M1にプレス成形を行う。詳細については後述する。約620℃〜約1000℃の温度範囲は、焼結磁石の磁石片M1からM4の磁石特性を変えない程度の範囲(焼結温度を超えない範囲)であり、このような温度でプレス成形を行うことによって切削加工を行わずに磁石片M1の寸法矯正を行うことができる。なお、620℃〜1000℃の範囲であっても焼結磁石自身の熱変形や酸化の促進を防止することを考慮して800℃以下で実施すると、より好ましい。また、プレスの際に負荷する圧力は、焼結磁石の加熱によって磁石の降伏応力が低下することを考慮しつつ、降伏応力に達しない圧力で加圧する。
【0040】
プレス加工が終了後、磁石片M1は上型213を下死点に保持した状態でヒーター221によって寸法矯正より低い温度に調整し、所定時間時効熱処理を行う。上記工程によって焼結磁石の組織の相対密度が向上し、残留磁束密度や機械強度等が向上する。
【0041】
その後、冷却部224によって型213、214、215及び磁石片M1を冷却する。そして、ノックアウト機構によって磁石片M1を取り出し、吸着パッド225によって接着場所まで搬送する。磁石片M2、M3、M4についても磁石片M1と同様にグローブ222によって型214上に載置し、加圧成形、時効熱処理、冷却を行い、吸着パッド225によって接着位置まで搬送し、磁石片M1〜M4が揃った時点で接着部226によって接着を行なう。
【0042】
その後、グローブ222によって格納容器220に未加工の磁石片M1〜M4を新たに格納し、磁石片M1〜M4の格納が完了したらプレス装置本体200を再び起動させる。
【0043】
以降は、上型213、下型214、外周型215及び磁石片M1の加熱、プレス加工、時効熱処理、冷却、加工後のワークM1の取り出しを磁石片M2〜M4について同様に行い、接着、未加工の磁石片M1〜M4の格納を繰り返し、全てのワークMの加工が終了したら格納容器220を開放し、グローブ222を用いて加工済みの焼結磁石Mを取り出す。磁石片同士を接着した磁石体は、ロータコアのスロットに挿入され、樹脂、接着剤等によってスロット内に固定され、その後着磁される。
【0044】
次に本実施形態に係る作用効果について説明する。焼結磁石の形状を矯正する方法には、切削加工の他にワークである焼結磁石を加熱した状態で型を用いたプレス加工によって形状を矯正するものがある。しかし、製品である焼結磁石は、別の部品と接触する部位には高い精度が要求されたり、どの部品にも接触しない部位は逆にそれほど精度が要求されなかったりもする。そのような焼結磁石に型を用いて全ての部位に一律にプレス加工を行って形状を矯正しようとすると、ワークと型との間には型がワークと接触した場合でも部位によってはバラつきによってワークとの間に若干の隙間が出来てしまう場合がある。その部位にはプレス加工の際にバリが発生するおそれがある。精度があまり要求されない部位にまで型を当ててプレス加工を行うと、当該部位の精度が過剰に高くなってしまうだけでなく、不要にバリを生じさせることになり、バリ取りの工数が生じ、生産性を低下させてしまう。また、比較的精度の要求されない部位にまでプレス成形を行うと、その分製品である磁石に過度にストレスを与えることとなり、その分磁石に割れや欠けといった破損箇所を余計に発生させてしまい、歩留まりを低下させてしまう。
【0045】
これに対し、本実施形態に係る焼結磁石の製造方法によれば、焼結工程の後に焼結温度を超えない温度に加熱された状況下において焼結磁石Mを構成する磁石片M1を成形する成形型213、214、215を配置し、焼結磁石を加圧成形することによって焼結磁石の寸法を矯正する寸法矯正工程を行っており、寸法矯正工程では成形型215が磁石片M1において成形型215から離間した離間部位215a、215bを有するように構成している。
【0046】
そのため、従来の切削加工と比べて材料を削り取らない分、材料歩留まりを向上させることができる。また、成形型215が離間部位215a、215bを有することによってワークに不要にバリが発生することを防止して、不要なバリ取りの工数を削減して生産性の低下を抑制し、さらに割れや欠けといった破損箇所を低減させてそれによる歩留まりの低下についても抑制することができる。また、本実施形態に係る方法によって製造される焼結磁石Mは電動機に含まれるローター(回転子)に使用することができる。
また、焼結磁石Mが完成した後に磁石Mを回転子100のスロットに挿入する際には、離間部位215a、bと対向する焼結磁石Mの面をフラックスバリア部101と対向するようにしている。そのため、焼結磁石Mに型215と接触しない部位が形成されても当該部位は隙間で構成されたフラックスバリア部101にあたるため、回転子100の歩留まりが低下することを抑制できる。
【0047】
(実施形態1の変形例1)
図8は、実施形態1の変形例1に係る焼結磁石の製造方法に使用する寸法矯正装置を示す側面図、
図9は同寸法矯正装置の格納容器内部を示す平面図、
図10は同寸法矯正装置において焼結磁石の投入及び取り外しを行うテーブルに設けられた位置決め固定治具について示す平面図、
図11は同位置決め固定治具に挟持された焼結磁石を成形型上に載置する様子を示す説明図である。
【0048】
実施形態1ではグローブ222を用いて焼結磁石を構成する磁石片M1〜M4の格納、型への載置及び焼結磁石Mの取り外しを行うと説明したが、以下のようにロータリーテーブル227を採用することもできる。
【0049】
ロータリーテーブル227には磁石片M1〜M4のいずれかを挟持して下型214の設置位置に位置決めして載置する位置決め固定治具227A〜227G(7箇所)が設けられている。位置決め固定治具227A〜227Gは、磁石片M1を保持した状態から下型214に磁石片M1を載置するために磁石片M1の保持及び保持の解除を行う押さえピン228と、押さえピン228の移動空間を構成する駆動シリンダ229と、を設けている。
【0050】
本変形例1に係る焼結磁石の寸法矯正は以下のように行う。まず、磁石片M1〜M4をロータリーテーブル227の位置決め固定治具227A〜227Dにひとつずつセットして押さえピン228に保持させておく。次に格納容器を密閉し、真空引き又は不活性ガスの充填を行い、押さえピン228による磁石片M1の保持を解除して下型214に磁石片M1を載置する。
【0051】
その後、実施形態1と同様に上型213、下型214、外周型215及び磁石片M1を加熱して所定の温度まで加温し、温度が保持された状態においてプレス加工を行う。プレス加工後、磁石片M1に、時効熱処理を行う。その後、磁石片M1をノックアウトバー203及び下型214によって取り出す。そして、磁石片M1を押さえピン228によって再び保持し、ロータリーテーブル227が回転すると磁石片M1の隣の磁石片M2が下型214の真上にセットされる。
【0052】
プレス加工された磁石片M1は、ロータリーテーブル227付近の冷却部224の位置で冷却ガスが噴射されることによって冷却され、吸着パッド225によって搬送される。その後、磁石片M2〜M4についても磁石片M1と同様にプレス加工、時効熱処理、冷却が行われて吸着パッド225によって接着工程の位置まで搬送され、接着部226によって磁石片M1〜M4が接着される。以降は、未加工の磁石片M1〜M4について同様に加熱、プレス加工、時効熱処理、冷却、接着を繰り返し、全ての磁石片M1〜M4の加工が終了したら格納容器220を開放し、加工された焼結磁石Mを取り出す。
【0053】
以上説明したように実施形態1の変形例1に係る焼結磁石の製造方法によれば、ロータリーテーブル227を使用して自動で磁石片M1〜M4を型内に投入及び取り外しができるように構成したため、作業性を向上させることができる。
【0054】
(実施形態2)
図13(A)〜
図13(D)は、本発明の実施形態2において成形される焼結磁石を示す正面図、側面図、斜視図、平面図、
図14(A)〜
図14(E)は同実施形態2に係る焼結磁石の製造方法の中でも寸法矯正工程から接着工程までを概説する説明図である。実施形態1では焼結磁石Mが直方体状に成形される実施形態について説明したが、以下のように成形することもできる。
【0055】
実施形態2では
図13(A)〜
図13(D)に示すように、焼結磁石Nが磁石片N1〜N4によって構成される。焼結磁石Nにおいて寸法d1、d3は比較的精度の要求される部位であり、寸法d2は比較的精度が要求されない部位である。また、磁石片N1〜N4を成形する成形型は、上型231と下型232と外周型233とを有する。外周型233は、
図14(E)に示すように、面233a、233b、233c、233dを有する。面233a、233bは、上型231、下型232による加圧成形によっても磁石片N1と接触しない部位である。面233c、233dは、上型231、下型232による加圧成形によって磁石片N1と接触する部位であり、当該部位はテーパー状に形成されている。上型231、下型232は、外周型233と接触する部分にテーパーが形成されている。このように上型231、下型232、外周型233を構成することにより、加圧成形の際に面233c、233dと接触する磁石片N1の部位をテーパー状に成形することができる。これは磁石片N2〜N4についても同様である。また、磁石片N1〜N4のノックアウトは、上型と下型の接近離間する方向に行われる。
【0056】
上記のように、磁石片N1のいずれかの面をテーパー状に成形することによって、焼結磁石Nを
図1(A)のようなローターコアのスロットに収納する際の収納を容易にすることができる。また、加圧成形の際には外周型233をテーパー状に形成することによって磁石片N1からの負荷を下げることができ、成形型の寿命を向上させることができる。また、磁石片N1を外周型233から離型させる際に磁石片N1にテーパーが形成されていることによって、離型を容易にすることができ、離型の際に生じうる割れなどを防止することができる。
【0057】
また、磁石片N1〜N4に形成されたテーパーを互い違いに配置して組み付けることによって、磁石片N1〜N4を容易に組み付けつつ精度の高い焼結磁石Nとすることができる。
【0058】
(実施形態2の変形例)
図16(A)〜
図16(C)は、本発明の実施形態2の変形例を示す斜視図、正面図、平面図である。実施形態2では加圧成形を行う上型231と下型232の接近離間する方向にワークである磁石片N1〜N4のノックアウトが行われる実施形態について説明したが、これに限定されない。
図16(A)〜
図16(C)に示すように成形型は上型251と下型252とによって構成される。この場合、ノックアウトの方向d4は上型251と下型252の接近離間する方向と交差する方向であってもよい。なお、この場合、テーパーは上型251と下型252の接近離間する方向でなく磁石片N5のノックアウトを行う方向d4に形成される。
【0059】
(実施形態3)
図15(A)〜
図15(D)は、本発明の実施形態3に係る焼結磁石の製造方法の中でも寸法矯正工程について説明する説明図である。実施形態1、2では寸法矯正工程において焼結磁石を構成する磁石片をひとつずつ加圧成形する実施形態について説明したが、これに限定されない。
【0060】
実施形態3において成形型は上型234と下型235と外周型236と、を有するか、又は上型237と、下型238と、外周型239と、を有する。焼結磁石は、磁石片P1〜P4からなる磁石P又は磁石片Q1〜Q4からなる磁石Qによって構成される。
【0061】
成形型が上型234と下型235と外周型236とからなる場合、磁石片P1〜P4が上型234と下型235とが接近離間する方向に並べられた状態で磁石片P1〜P4の寸法が一挙に矯正される。
【0062】
成形型が上型237と下型238と外周型239とからなる場合、磁石片Q1〜Q4は上型237と下型238とが接近離間する方向と交差する方向に並べられた状態で磁石片Q1〜Q4の寸法が一挙に矯正される。磁石片P1〜P4及び磁石片Q1〜Q4のいずれの場合も加圧成形の際には、磁石片P1〜P4又は磁石片Q1〜Q4において隣接する磁石片同士が接触した状態で加圧成形が行われる。
【0063】
上記のように、実施形態3に係る焼結磁石の製造方法によれば、磁石片P1〜P4又は磁石片Q1〜Q4において隣接する磁石片同士を接触させた状態で加圧成形を行うように構成している。そのため、接着工程において接着面となる部位の加工を加圧成形によって行うことができ、当該部位においても切削加工を行わなくてもよい分、材料歩留まりを良好にすることができる。また、隣接する磁石片において接着面となる部位の加工を別途行わなくてもよい分、生産性を向上させることができる。
【0064】
(実験例1)
次に本実施形態に係る焼結磁石の製造方法において。寸法矯正工程時に行うプレス加工の成形温度に関する実験を行ったので説明する。
【0065】
本実験では実際の製品とほぼ同等の焼結磁石の試験片(厚さ3.8mm、断面の長さが6mm×6mm)に
図5と同様に上スライド、ボルスタ、及び外周型を用いて磁石試験片を固定し、加圧しながら温度を室温から上昇させ、試験片の変形量を測定した。本実験例1に係る焼結磁石の金属はFe70%、Nd22%、B0.4%、Dy2.5%、Pr2.5%から構成される。表1は本実験例1に係る焼結磁石試験片を加温、加圧させていった場合の成形温度と変形率(%)の表、
図12は表1をグラフ化したものである。
【0067】
表1及び
図12より、本実験例1に係るR−Fe−B系焼結磁石は620度より塑性変形が起こることがわかった。以上より、620℃以上であればプレス加工で焼結磁石の寸法矯正が行えることになるが、上記R−Fe−B系焼結磁石の焼結温度は1000℃となっている。620℃以上であっても成形温度が焼結温度を超えると焼結磁石の組織や磁気特性が変化してしまうため、上記実施形態に係る寸法矯正工程は620℃から焼結温度を超えない1000℃の範囲において行うことが好ましいことがわかった。また、この場合に磁石にプレス加工を行って、磁石が塑性変形する降伏応力は表1より36MPa〜262MPaになることがわかった。
【0068】
本発明は、上述した実施形態にのみ限定されず、特許請求の範囲において種々の改変が可能である。実施形態2では寸法矯正工程において磁石片N1〜N4にテーパーが形成される実施形態について説明したが、これに限定されない。磁石片に形成するテーパーは寸法矯正工程だけでなく、型を用いて圧粉体を形成する工程において行ってもよい。その場合、テーパーが形成されていることによって寸法矯正工程においてワークである磁石片を型に容易にセットすることができる。また、磁石片の接着工程はロータコアへのスロット挿入前に行う形態を説明したが、これに限定されず、磁石片それぞれを個別にスロットに挿入し、その後磁石片同士を固定するようにしても良い。