(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のガスホルダーの補強構造では、以下のような問題があった。
すなわち、ホルダー本体を鉄骨で補強する耐震補強の場合や制振ダンパーを設ける制振補強の場合には、溶接作業が必要であるので、その溶接作業期間中のガスホルダーの運転を停止する必要がある。さらに、溶接歪で垂直精度許容値(1/1万)を超えてしまうおそれがあり、ガスホルダーの運転が停止することがあった。
また、免震補強の場合においても、地下掘削時および免震装置の設置時にはガスホルダーの運転を長期間停止する必要があり、その点で改善の余地があった。
【0006】
さらに、特許文献3に示すピストン傾斜制御装置では、通常操業時のピストンの傾斜を低減するものであって、傾斜センサーでピストンの傾斜を検知し、圧力調整手段によって液体室内の液体を移動させるため、その制御に時間を要する。つまり、地震時のように時々刻々と変動する傾斜動に対する追従性が低く、十分な傾斜制御ができないという問題があった。そのため、ピストンのホルダー本体に対する衝突力が大きくなり、ピストンのシール部を破壊するおそれがあった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ホルダー本体に対する溶接作業を行うことなく設置することができ、大地震時におけるピストンのホルダー本体への衝突や傾斜を抑制することができるガスホルダーピストンの傾斜抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るガスホルダーピストンの傾斜抑制装置では、ガスホルダーのピストンの傾斜を抑制するための傾斜抑制装置であって、前記ピストンの外周上面に立設されるとともに、該ピストンの円周方向に沿って複数設けられたガイドフレームと、該ガイドフレームの上端及び下端のそれぞれに配置されるとともに、前記ガスホルダーのホルダー本体の側壁内面に接触した状態で上下方向に転動可能に設けられた接触ガイドローラと、前記ピストンの下側で、且つ前記ピストンの重心位置よりも下方に配置され、前記側壁内面から離間した状態で上下方向に転動可能に設けられた非接触ガイドローラと、を備えていることを特徴としている。
【0009】
本発明では、ピストン上のガイドフレームに側壁内面に接触する接触ガイドローラが円周方向に沿って複数設けられているので、通常操業時には、ピストンの水平方向への移動が規制され、ピストンと側壁との間隔が一定に維持される。
地震時には、地震力が地盤からホルダー本体の側壁に伝達され、その側壁よりピストンに傾斜動が伝達され、ピストンが平面視でピストン傾斜中心回りに回転して傾斜する。このとき非接触ガイドローラがピストンの下側で、且つピストンの重心位置よりも下方に配置されているので、ピストンが傾いた状態における下側部分でガイドフレームの上端に設けられる接触ガイドローラ(上部接触ガイドローラ)が側壁に衝突するとともに、対角(傾いたピストンの上側部分)に位置する非接触ガイドローラがその対角側の側壁に向けて近接して当接する。つまり、ピストンには、非接触ガイドローラが当接する位置で、ピストンに作用する傾斜力に対する反力が生じる。そのため、ピストンの傾斜動(傾斜応答)を低減することができ、前記上部接触ガイドローラの過度な衝突を抑え、その衝突力を抑えることができる。
【0010】
このように本発明による傾斜抑制装置では、震度6を超えるような大規模地震が発生した場合でも、ガスホルダー内部のピストンの傾斜応答を抑えることができるので、ピストンのホルダー本体への衝突により、ホルダー本体の鉄骨が破断し、柱脚部の圧縮が過大となって基柱が座屈し、さらにはガスホルダーを支持する杭の杭頭部が塑性化するとともに、ピストンの慣性力位置と衝突反力位置がずれてピストンがガスホルダー内部で傾斜し、ホルダー本体とピストンとの間で油シール切れが生じ、その部分からガスが漏れ出し、ピストンが落下するといった従来の問題を無くすことができる。
【0011】
また、本発明によれば、ピストンに対して非接触ガイドローラを設けるといった簡単な構造となるので、工期を短縮することができる。とくに、既設のガスホルダーを補強する目的で非接触ガイドローラを設ける場合には、ガスホルダーの停止期間を短くすることが可能となり、操業の影響を最小に抑えることができる。
【0012】
さらに、非接触ガイドローラ等の傾斜抑制装置をピストンに対して取り付けるので、ホルダー本体に対して直接溶接を行わない補強となり、ホルダー本体に溶接歪が生じるのを防ぐことができ、垂直精度の許容値を確保することができる。
さらにまた、本発明の傾斜抑制装置は、機械的に傾斜を低減する機構であり、ガスホルダー内の気中に電気配線を設けることが不要となる利点がある。
【0013】
また、本発明に係るガスホルダーピストンの傾斜抑制装置では、前記非接触ガイドローラは、前記ピストンに対して制振装置を介して設けられていることが好ましい。
【0014】
この場合、非接触ガイドローラと側壁との当接時に制振装置による減衰作用が働くので、ピストンの傾斜応答をより効果的に低減することができ、ピストンがホルダー本体に当接する際の反力を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスホルダーピストンの傾斜抑制装置によれば、ホルダー本体に対する溶接作業を行うことなく設置することができ、大地震時におけるピストンのホルダー本体への衝突や傾斜を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態によるガスホルダーピストンの傾斜抑制装置について、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態によるガスホルダー1は、所定地域に設けられている既存のガスホルダー1に対して、設定震度(ここでは震度7を想定する)に応じた耐震補強をピストン15に施し、そのピストン15の傾斜動(応答)を低減させるように補強するものである。
【0019】
図1および
図2に示すように、ガスホルダー1は、底盤11と、底盤11上に円周方向Eに沿って間隔をあけて配置された基柱12と、円周方向Eに沿って延在する横梁13と、基柱12と横梁13とによって囲まれる空間を塞ぐ側壁14と、側壁内面に沿って上下方向Yに摺動可能に設けられたピストン15と、基柱12の上端12aに設けられた屋根部材16と、を備えている。ここで、ガスホルダー1において、ピストン15を除いた底盤11、基柱12、横梁13、側壁14、および屋根部材16を以下、ホルダー本体10と称して説明する。
【0020】
基柱12は、例えばH形鋼からなり、底盤11上に立設されており、所定長さ単位のものが上下方向Yに沿って継ぎ足されている。
屋根部材16は、平面視で中心から半径方向に向けて下方に延びる逆さ椀状をなし、その外周部が基柱12の上端12aに接合されている。
【0021】
ガスホルダー1の内部に設けられるピストン15は、ガスホルダー1内を上下に区画する隔壁であり、その外周部15aが円周方向Eの全周にわたって例えばゴム製のシール材(図示省略)を介して側壁内面に対して液密な状態でシールされている。このシール材の側壁内面との接触面に油が充填され、この油の液膜でシールされている。ピストン15は、平面視で外周から中央に向けて上側に突となる曲面状に形成されている。
【0022】
ピストン15の下側の空間は、底盤11、側壁14、及びピストン15によって密封されたガス封入空間R1となっている。このガス封入空間R1内にガスを流入、又は流出させることによって内圧を変化させることによって、ピストン15が側壁内面に沿って上下方向Yに摺動可能に構成されている。例えば、ガス封入空間R1内の圧力により生じる浮上力をピストン15の自重よりも大きくすることで、ピストン15が上昇することになる。つまり、ガス封入空間R1内の圧力を一定に保持することで、ピストン15を所定高さの位置に維持することができる。なお、ピストン15と屋根部材16との間の上部空間R2は、密封されず、開放された空間となっている。
また、ピストン15の外周部下面には、コンクリート製の外周壁15Aが円周方向Eに沿って設けられている。
【0023】
側壁14は、円周方向E及び上下方向Yに沿って複数に分割された曲率をもった鋼材から形成されている円弧板状体であり、基柱12、12同士の間で溶接により取り付けられている。
【0024】
図3に示すように、ピストン上面15bには、ピストン15の水平動を制御するための複数の水平動制振装置2、2、…と、ピストン15の傾斜動を抑制するための複数の傾斜抑制装置3、3、…と、が設けられている。
【0025】
水平動制振装置2は、ピストン上面15bの外周部において、円周方向Eに90度のピッチで4つが配置され、周知の応答制御可能な減衰部、ばね部、および質量部により構成されたTMD(チューンド・マス・ダンパー)が採用することができ、ピストン15の水平方向の応答(水平動)を低減するための制御装置である。
【0026】
図4に示すように、傾斜抑制装置3は、ピストン15のピストン上面15bの外周部に立設されるとともに、円周方向E(
図3参照)に沿って間隔をあけて複数設けられたガイドフレーム31と、ガイドフレーム31の上端及び下端のそれぞれに配置されるとともに、ガスホルダー1の側壁内面14aに接触した状態で上下方向Yに転動可能に設けられた接触ガイドローラ32(上部接触ガイドローラ32A、下部接触ガイドローラ32B)と、ピストン15の下端に配置されるとともに、側壁内面14aから離間した状態で上下方向Yに転動可能に設けられた非接触ガイドローラ33と、を備えている。
【0027】
ガイドフレーム31は、ピストン上面15bの外周縁から鉛直方向の上方に向けて延在する支持柱34と、ピストン15の径方向の中心側から支持柱34の上端34aへ向けて延びる斜材35と、を備えている。斜材35は、支持柱34が傾かないように補強している。支持柱34と斜材35は、複数の補強材36によって連結され補強されている。支持柱34は、外周側の側面34cと側壁14との間において、一定の間隔Lを有した状態で配置されている。
【0028】
支持柱34には、その上端34aに第1固定台32aを介して設けられる上部接触ガイドローラ32Aと、下端34bに第2固定台32bを介して設けられる下部接触ガイドローラ32Bと、が設けられている。上部接触ガイドローラ32A及び下部接触ガイドローラ32Bはそれぞれ、ピストン15が水平位置(通常操業時)において、上述したように側壁内面14aに対して転動可能に接触しており、通常運転を行うときにおけるピストン15を側壁内面14aに沿って上下に移動させるために設けられている。ここで、通常操業時とは、地震時のようにピストン15に傾斜動が作用していない水平状態が維持されていることをいう。接触ガイドローラ32A、32Bは、鋼材により形成されている。
また、上部接触ガイドローラ32A及び下部接触ガイドローラ32Bの上下方向Yの間隔は、適宜設定することができる。
【0029】
非接触ガイドローラ33は、ピストン15の外周壁15Aの下側で、且つピストン15のピストン重心G位置よりも下方において、制振ダンパー(制振装置)37を介して円周方向Eで接触ガイドローラ32と同位置に設けられている。ここで、
図4において、ピストン重心Gを含む水平ラインを二点鎖線で示している。
【0030】
非接触ガイドローラ33は、通常操業時においてピストン15が水平に位置する場合、側壁内面14aに対して間隔をあけた位置、すなわち非接触状態となる位置に設けられている。このときのホルダー本体10の側壁内面14aと非接触ガイドローラ33との間隔L1は、例えば通常操業時のピストン15の管理基準1/500の傾斜の範囲内に許容可能な傾斜動に抑制できるように、非接触ガイドローラ33が側壁14に当接して反力が生じるように設定される。
【0031】
制振ダンパー37は、減衰方向Fの一端37aがピストン下面15cの内周側に固定され、他端37bがピストン下面15cの外周側に固定台33aを介して連結されている。
【0032】
円周方向Eに沿って間隔をあけて設けられる傾斜抑制装置3の数量は、多いほど好ましいが、適宜設定することができる。
【0033】
次に、上述したピストン15の傾斜抑制装置3の作用について図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施の形態では、ピストン15上のガイドフレーム31(
図4参照)に側壁内面に接触する上部接触ガイドローラ32A及び下部接触ガイドローラ32Bが円周方向Eに沿って複数設けられているので、通常操業時には、ピストン15の水平方向への移動が規制され、ピストン15と側壁14との間隔が一定に維持される(
図5(a)参照)。
【0034】
また、ガスホルダー1は、ピストン15がガス圧によって浮いており、地震力が入ったときに、その地震力が地盤からホルダー本体10の側壁14に伝達され、さらにホルダー本体10を構成する基柱12が地震力によって揺すられてピストン15に水平力が伝達される構成、すなわち構造物(ガスホルダー1)全体が揺すられることによりピストン15が励起される構成となっている。
【0035】
先ず、通常操業時における傾斜抑制装置3の作用について、
図5に基づいて説明する。
図5(a)に示すように、基柱12の微小な倒れが生じると、ピストン15が上下に移動する際に蛇行し、少しずつ傾斜が発生する。この場合、ピストン15は、
図5(b)に示すように、平面視でピストン15の中央(ピストン傾斜中心C)を中心に傾斜する。なお、このときガス封入空間R1の体積変化はしないものと仮定する。
【0036】
このときの傾斜は、前記管理基準である1/500以下となり微小であるから、上部接触ガイドローラ32Aからの反力も微小であるとして無視することができる範囲である。また、下部接触ガイドローラ32Bからの反力も同様に無視できる。つまり、この場合、重力mgによるモーメントMc((1)式)が傾斜を打ち消す方向(
図5(b)に示す矢印でピストン傾斜中心Cを中心とした反時計回りの回転方向)に働くことで、ピストン15に作用する傾斜を抑制することができる。なお、(1)式において、mはピストン15の質量、gは重力加速度、eはピストン傾斜中心Cとピストン重心Gとの距離を示す偏心距離、θはピストン傾斜中心C回りのピストン15の傾斜角度である。
傾斜抑制力を最大化するためには、(1)式を大きくすれば良いから、(1)式において偏心距離eを大きくする。
【0038】
次に、地震時における傾斜抑制装置3の作用について、
図6に基づいて説明する。
図6(a)に示すように、地震時には、加速度aでピストン15が筒体(ホルダー本体10の側壁内面14a)に衝突することで、ピストン15に外力(上部接触ガイドローラ32Aの外力ma/2と、下部接触ガイドローラ32Bの外力ma/2との和ma)が入力されて、ピストン傾斜中心C回りで
図6(a)における反時計回りに回転する方向の傾斜が発生する。このとき、反力高さD(ピストン15が水平の場合において、上部接触ガイドローラ32Aと下部接触ガイドローラ32Bの中心を通る水平高さ)とピストン重心(慣性力作用位置)Gの差e
2によりモーメントMcが発生し、ピストン15はピストン傾斜中心C回り(
図6(a)に示す反時計回りの矢印)に傾斜する。このときのモーメントMcは、(2)式により求められる。ここで、(2)式において、mはピストン15の質量、aは加速度、e
1はピストン傾斜中心Cと反力高さDの差である。
【0040】
図6(b)に示すように、このときの傾斜が前記管理基準である1/500を超えた際には、非接触ガイドローラ33が側壁内面14aに接触し、反力maが入力される。すなわち、非接触ガイドローラ33からの反力maと重力mgによるモーメントMcが傾斜を打ち消す方向に働くことになる。なお、非接触ガイドローラ33が側壁内面14aに接触する位置に対向する位置(
図6(b)で紙面左側)では、上部接触ガイドローラ32Aと下部接触ガイドローラ32Bが瞬間的に側壁内面14aから離間するので、外力を0とみなす。
このときのピストン傾斜中心C回りに作用するモーメントMcは、(3)式によって表され、ピストン15の傾斜を打ち消す方向(
図6(b)に示す時計回りの矢印の方向)に作用する。(3)式において、e
1’はピストン傾斜中心Cとピストン重心Gとの差、e
2´は非接触ガイドローラ33を通る水平高さとピストン重心Gとの差である。
【0042】
傾斜抑制力を最大化するためには、(3)式のMc=mae
2’cosθ+mge
1’sinθを大きくすれば良い。e
1’は、通常操業時におけるeと等しく、mge
1’sinθは傾斜角θが微小の場合、傾斜抑制力は想定される地震力に対して非常に小さい。
一方、mae
2’cosθは、地震加速度に応じて傾斜抑制力が作用するため、e
2’を大きくすることで効果が得られる。
【0043】
ここで、本実施の形態の傾斜抑制装置3の傾斜抑制効果について、
図7及び
図8に示すFEM解析結果からも明らかである。
図7(a)、(b)は、非接触ガイドローラが設けられていない場合(図では既設)を示し、
図8(a)、(b)は、非接触ガイドローラを備えた本実施の形態の場合(図では制御後)を示している。そして、
図7(a)及び
図8(a)は、FEM解析を行ったガスホルダーのモデル図であって、
図7(b)及び
図8(b)はそれぞれ時間とピストンの傾き角度(rad)の関係を示すピストン履歴である。なお、図中のEWは東西方向の傾斜を示し、NSは南北方向の傾斜を示している。
これにより、EWでは
図7(b)に示す既設の場合と
図8(b)に示す制御後の場合の傾き角度に大きな差はない。一方、NSでは、
図7(b)に示す非接触ガイドローラが設けられていない場合(既設)において、t時間後における最大傾き角度が略−0.008radとなっている。そして、
図8(b)に示す非接触ガイドローラを備えている場合(制御後)には、最大傾き角度が略−0.002radとなり、既設の約1/4の大きさに抑えられていることがわかる。
【0044】
本実施の形態では、
図1及び
図2に示すように、地震時に、側壁14よりピストン15に傾斜動が伝達され、ピストン15が平面視でピストン傾斜中心C(
図6参照)回りに回転して傾斜する。このとき非接触ガイドローラ33がピストン15の下側で、且つピストン15の重心位置よりも下方に配置されているので、ピストン15が傾いた状態における下側部分で上部接触ガイドローラ32Aが側壁14に衝突するとともに、対角(傾いたピストン15の上側部分)に位置する非接触ガイドローラ33がその対角側の側壁14に向けて近接して当接する。つまり、ピストン15には、非接触ガイドローラ33が当接する位置で、ピストン15に作用する傾斜力に対する反力が生じる。そのため、ピストン15の傾斜動(傾斜応答)を低減することができ、前記上部接触ガイドローラ32Aの過度な衝突を抑え、その衝突力を抑えることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、傾斜抑制装置3だけではなく水平動制振装置2も設けられているので、ピストン15は回転・傾斜とともに作用する水平移動も水平動制振装置2による水平減衰作用により低減することができ、ピストン15がホルダー本体10に当接する際の反力を小さくすることができる。
【0046】
このように本実施の形態では、震度6を超えるような大規模地震が発生した場合でも、ガスホルダー1内部のピストン15の傾斜応答を抑えることができるので、ピストン15のホルダー本体10への衝突により、ホルダー本体10の鉄骨が破断し、柱脚部の圧縮が過大となって基柱12が座屈し、さらにはガスホルダー1を支持する杭の杭頭部が塑性化するとともに、ピストン15の慣性力位置と衝突反力位置がずれてピストン15がガスホルダー1内部で傾斜し、ホルダー本体10とピストン15との間で油シール切れが生じ、その部分からガスが漏れ出し、ピストン15が落下するといった従来の問題を無くすことができる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、ピストン15に対して非接触ガイドローラ33を設けるといった簡単な構造となるので、工期を短縮することができる。とくに、既設のガスホルダー1を補強する目的で非接触ガイドローラ33を設ける場合には、ガスホルダー1の停止期間を短くすることが可能となり、操業の影響を最小に抑えることができる。
【0048】
さらに、非接触ガイドローラ33等の傾斜抑制装置3をピストン15に対して取り付けるので、ホルダー本体10に対して直接溶接を行わない補強となり、ホルダー本体10に溶接歪が生じるのを防ぐことができ、垂直精度の許容値を確保することができる。
さらにまた、本実施の形態の傾斜抑制装置3は、機械的に傾斜を低減する機構であり、ガスホルダー1内の気中に電気配線を設けることが不要となる利点がある。
【0049】
また、本実施の形態では、非接触ガイドローラ33ピストン15に対して制振ダンパー37を介して設けられており、非接触ガイドローラ33と側壁14との当接時に制振ダンパー37による減衰作用が働くので、ピストン15の傾斜応答をより効果的に低減することができる。
【0050】
上述した本実施の形態によるガスホルダーピストンの傾斜抑制装置では、ホルダー本体10に対する溶接作業を行うことなく設置することができ、大地震時におけるピストン15のホルダー本体10への衝突や傾斜を抑制することができる。
【0051】
以上、本発明によるガスホルダーピストンの傾斜抑制装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
例えば、本実施の形態では、水平動制振装置2をピストン15に4つ設けているが、これら水平動制振装置2を省略することも可能であり、また数量についても4つに制限されることはない。
【0053】
また、傾斜抑制装置3のガイドフレーム31の構成は、本実施の形態にように支持柱34と斜材35の組み合わせによる構成であることに限定されることはなく、他の形状、構成とすることが可能である。要は、ピストン15が傾いて上部接触ガイドローラ32Aに大きな衝突力が作用したときに、ガイドフレーム31が破壊されない強度を有するように設けられていればよいのである。
【0054】
また、本実施の形態では、非接触ガイドローラ33が制振ダンパー37を介してピストン15に固定されているが、この制振ダンパー37を省略することも可能である。
【0055】
さらに、ピストン15の形状は、曲面形状であることに限定されず、平板形状であってもかまわない。
【0056】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。