(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、図面を参照しつつ、本発明にかかる電気自動車のモータ制御装置の実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態におけるモータ制御装置20を搭載した電気自動車1の模式図である。モータ制御装置20は、アクセル開度等に基づいて、モータ11のトルク制御を行う装置である。モータ制御装置20については、後で詳細に説明することとし、先に電気自動車1に搭載されたパワートレーン10について説明する。
【0010】
(パワートレーン)
パワートレーン10は、主に、電気自動車1の駆動輪(不図示)を駆動するためのモータ11と、モータ11のトルクや回転数を変化させるインバータ12と、パワートレーン10の前後方向の傾きを検出する角度センサ13とが一体的に構成されたユニットである。モータ11の回転軸11aは、パワートレーン10の概ね下部中央に位置する。なお、パワートレーン10に含まれる機器や部材は上記したものに限定されず、例えば、モータ11からの出力を調整する減速機等をパワートレーン10に設けてもよい。
【0011】
回転軸11aの上方には、パワートレーン10の左右から突出するように一対のマウント14が設けられており、マウント14を介してパワートレーン10は車体(不図示)に取り付けられている。マウント14はゴム等の弾性部材で構成されており、パワートレーン10から車体側に伝わる振動を低減する。
【0012】
このように構成されたパワートレーン10は、モータ11のトルクが変化すると、主にモータ11の回転軸11aを中心として、前後方向に振動する。このような振動は、もちろん、マウント14によりある程度低減されるが、パワートレーン10の重量が大きい場合やパワートレーン10が縦長形状の場合には、看過し難いものとなる。
【0013】
図2は、パワートレーン10の傾きを示す側面図である。
図2のb図は車両停止状態でのパワートレーン10の位置(以下、「基準位置」と称する)を示し、a図はパワートレーン10が基準位置よりも後方側に傾いた状態を示し、c図はパワートレーン10が基準位置よりも前方側に傾いた状態を示す。以降の説明においては、基準位置におけるパワートレーン10の傾きを0度とし、パワートレーン10が基準位置よりも後方側に傾いた場合の傾きをマイナス、パワートレーン10が基準位置よりも前方側に傾いた場合の傾きをプラスとする。
【0014】
車両を加速させるためアクセルペダルを踏み込む場合には、モータ11のトルクが回生トルクからカ行トルクへと変化し、パワートレーン10の傾きは
図2の(a)→(b)→(c)のように変化する。反対に、車両を減速させるためアクセルペダルを戻す場合には、モータ11のトルクがカ行トルクから回生トルクへと変化し、パワートレーン10の傾きは
図2の(c)→(b)→(a)のように変化する。このように、トルク方向が変化することで、パワートレーン10の傾きが基準位置に対して後方側から前方側へ、あるいは前方側から後方側へと切り替わるとき、パワートレーン10の振動は特に大きくなる。モータ制御装置20は、このときの振動を低減すべく、モータ11に対するトルク制御を実行するものである。
【0015】
(モータ制御装置)
図1に戻って説明を続ける。モータ制御装置20は、傾き判定部21およびトルク制御部22を有して構成される。傾き判定部21は、角度センサ13からの出力に基づいて、パワートレーン10の傾きが基準位置に対して後方側(マイナス)から前方側(プラス)へ、あるいは前方側(プラス)から後方側(マイナス)へと切り替わったか否かを判定する機能部である。また、傾き判定部21は、車両の停止時からの発進において、パワートレーン10の傾きが基準位置から前方側(プラス)へ、あるいは基準位置から後方側(マイナス)へと変化したか否かも判定可能である。本実施形態においては、パワートレーン10の前後方向の傾きを検出する角度センサ13を用いることで、パワートレーン10の傾きを正確に検出することができる。
【0016】
トルク制御部22は、基本的には、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度検出部30からの出力に基づいて、モータ11の目標トルクを決定し、その目標トルクをモータ11に発生させるべくインバータ12に制御信号を送出する部位である。また、これに加えて、トルク制御部22は、傾き判定部21による判定結果に基づいて、モータ11のトルク増減レートを決定する機能も有する。
【0017】
なお、モータ制御装置20が有する各機能部21、22の機能は、マイクロプロセッサ等のハードウェアとプログラム等のソフトウェアとが協働することにより実現される。また、各機能部21、22は、機能としての分担を示すものであり、必ずしも物理的に独立して構成される必要はない。
【0018】
(トルク制御)
トルク制御部22は、アクセル開度が増加している(アクセルペダルが踏み込まれている)場合には、電気自動車1を加速させるべくモータ11のトルクを増大させる。
図3のa図は、このときのトルク増加レートを示す。傾き判定部21は、加速時にパワートレーン10の傾きがマイナスからプラスに変化し、その後傾きがA1となった時点で、パワートレーン10の傾きが切り替わったと判定する。そして、トルク制御部22は、傾き判定部21によりパワートレーン10の傾きが切り替わったと判定されるまでは、通常のトルク増加レートRbよりも緩やかな振動低減用のトルク増加レートRaでモータ11のトルクを増大させ、上記判定後は、通常のトルク増加レートRbでモータ11のトルクを増加させる。その結果、
図3のb図に示すように、パワートレーン10の傾きがA1となるまではモータ11のトルクは緩やかに増加し、傾きがA1に達した後は通常のレートで増加することになる。
【0019】
また、トルク制御部22は、アクセル開度が減少している(アクセルペダルが戻されている)場合には、電気自動車1を減速させるべくモータ11のトルクを減少させる。
図4のa図は、このときのトルク減少レートを示す。傾き判定部21は、減速時にパワートレーン10の傾きがプラスからマイナスに変化し、その後傾きがA2となった時点で、パワートレーン10の傾きが切り替わったと判定する。そして、トルク制御部22は、傾き判定部21によりパワートレーン10の傾きが切り替わったと判定されるまでは、通常のトルク減少レートRdよりも緩やかな振動低減用のトルク減少レートRcでモータ11のトルクを減少させ、上記判定後は、通常のトルク減少レートRcでモータ11のトルクを減少させる。その結果、
図4のb図に示すように、パワートレーン10の傾きがA2となるまではモータ11のトルクは緩やかに減少し、傾きがA2に達した後は通常のレートで減少することになる。
【0020】
図5は、
図3、4のトルク制御を行ったときのトルク変化の一例を示すグラフである。ここでは、時刻t1にアクセルペダルが踏み込まれることで、時刻t1〜t4の間、アクセル開度が増加し、続く時刻t4〜t5の間、アクセル開度が一定に維持され、その後、時刻t5にアクセルペダルが戻されることで、時刻t5〜t8の間、アクセル開度が減少する場合について説明する。なお、時刻t2、t6はトルクが0(パワートレーン10の傾きが0度)となる時刻を示し、時刻t3はパワートレーン10の傾きがA1となる時刻を示し、時刻t7はパワートレーン10の傾きがA2となる時刻を示す。
【0021】
時刻t1でアクセルペダルが踏み込まれると、アクセル開度検出部30からの出力に基づいて、トルク制御部22はモータ11の目標トルクTaを決定し、目標トルクTaが達成されるようトルクを増加させる。このとき、傾き判定部21によりパワートレーン10の傾きが切り替わったと判定される時刻t3までは、振動低減用のトルク増加レートRaでトルクを増加させ、時刻t3以降は、通常のトルク増加レートRbでトルクを増加させる。
【0022】
一方、時刻t5でアクセルペダルが戻されると、アクセル開度検出部30からの出力に基づいて、トルク制御部22はモータ11の目標トルクTbを決定し、目標トルクTbが達成されるようトルクを減少させる。このとき、傾き判定部21によりパワートレーン10の傾きが切り替わったと判定される時刻t7までは、振動低減用のトルク減少レートRcでトルクを増加させ、時刻t7以降は、通常のトルク減少レートRdでトルクを減少させる。
【0023】
(効果)
時刻t1〜t4の加速時においては、モータ11のトルク方向が、回生トルク(マイナスのトルク)からカ行トルク(プラスのトルク)へと変化し、パワートレーン10の傾きが、基準位置に対して後方側から前方側へと変化する時刻t2において、パワートレーン10の振動が大きくなりやすい。時刻t5〜t8の減速時においても同様に、モータ11のトルク方向が、カ行トルクから回生トルクへと変化し、パワートレーン10の傾きが、基準位置に対して前方側から後方側へと変化する時刻t6において、パワートレーン10の振動が大きくなりやすい。
【0024】
そこで、本実施形態では、加速時には、パワートレーン10の傾きがマイナスからプラスへと変化し、その後A1に達する時刻t3までは、振動低減用のトルク増加レートRaが適用される。同様に、減速時には、パワートレーン10の傾きがプラスからマイナスへと変化し、その後A2に達する時刻t7までは、振動低減用のトルク減少レートRcが適用される。このため、パワートレーン10の傾きが実際に切り替わる時刻t2、t6におけるトルク変動を緩やかにすることができ、パワートレーン10の振動を低減することができる。したがって、電気自動車1に搭載されたパワートレーン10が基準位置に対して前後に傾くときの振動を効果的に低減することができる。しかも、パワートレーン10の傾きが切り替わったと判定された後は、通常のトルク増減レートが適用されるので、アクセルペダルの操作に対するもたつきを感じさせないスムーズな加減速も同時に実現することができる。また、パワートレーン10が傾く際に、パワートレーン10が電気自動車1の車体と当接することによって騒音が発生する場合があるが、上述のようにトルク制御を行うことで、パワートレーン10が車体に当接する際の衝撃を低減し、ひいては上記騒音を低減することができる。
【0025】
また、上記実施形態では、傾き判定部21は、パワートレーン10が基準位置を超えてから傾きがA1やA2に達した所定の時点で、パワートレーン10の傾きが切り替わったと判定するようにしている。このため、傾きがプラスからマイナス、あるいはマイナスからプラスへと変化する時点の前後で、振動低減用のトルク増減レートが適用されることになり、パワートレーン10の振動をより確実に低減することができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、傾き判定部21は、パワートレーン10の傾きが基準位置を超えてから所定角度A1、A2に達したか否かで傾きが切り替わったか否かを判定しているが、基準位置を超えてからの経過時間が所定時間となったか否かにより、傾きが切り替わったか否かを判定するようにしてもよい。
【0027】
(変形例)
上記実施形態では、パワートレーン10の傾きを検出する角度センサ13からの出力に基づいて、傾きの切り替わりを判定している。ただし、角度センサ13を設けることは必須ではなく、角度センサ13に代わって、例えば、パワートレーン10の傾きが所定角度A1、A2となったことを検出する位置センサからの出力に基づいて、傾きの切り替わりを判定してもよい。このような位置センサとしては、パワートレーン10の傾きが所定角度となったことを検知できるものであれば何でもよく、例えば接触式センサ、光学式センサ、振動センサ等から適当なものを採用することができる。
【0028】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態におけるモータ制御装置120を搭載した電気自動車101の模式図である。本実施形態のモータ制御装置120は、第1実施形態のモータ制御装置20と比較して、パワートレーン10の傾きの切り替わりを判定する方法が異なっている。つまり、モータ制御装置120の傾き判定部121は、アクセル開度検出部30からの出力と、トルク制御部122からの出力とに基づいて、パワートレーン10の傾きの切り替わりを推定するよう構成されている。以下、その詳細について、
図7のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、その他の点については、基本的に第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0029】
傾き判定部121は、まず、アクセル開度検出部30からの出力に基づいて、モータ11のトルクが増加しているか否かを判断する(ステップS101)。トルクが増加している状態とは、
図5で言うと、アクセルペダルが踏み込まれている時刻t1〜t4の状態である。トルクが増加していると判断された場合は、次に、トルク制御部122からの出力に基づいて、現在のトルクが回生トルクであるか否かを判断する(ステップS102)。現在のトルクが回生トルクの場合(
図5の時刻t1〜t2の場合)には、パワートレーン10の傾きがマイナスからプラスへと変化する前であると推定される。したがって、傾き判定部121は、パワートレーン10の傾きが切り替わったとは判定せず、トルク制御部122は、振動低減用のトルク増加レートRaを適用する(ステップS103)。
【0030】
一方、ステップS102にて、現在のトルクが回生トルクでない場合(
図5の時刻t2〜t4の場合)には、トルクが回生トルクからカ行トルクに変化した後、所定時間が経過しているか否かを判断する(ステップS104)。この所定時間とは、
図5における時刻t3と時刻t2の差に相当する。所定時間が経過していない場合には、パワートレーン10の傾きがマイナスからプラスに変化しているが、所定角度A1には達していないと推定される。したがって、傾き判定部121は、パワートレーン10の傾きが切り替わったとは判定せず、トルク制御部122は、振動低減用のトルク増加レートRaを適用する(ステップS103)。所定時間が経過している場合には、パワートレーン10の傾きがマイナスからプラスに変化した後、所定角度A1に達していると推定される。したがって、傾き判定部121は、パワートレーン10の傾きが切り替わったと判定し、トルク制御部122は、通常のトルク増加レートRbを適用する(ステップS105)。
【0031】
ステップS101に戻って、モータ11のトルクが増加していない場合には、次にトルクが減少しているか否かを判断する(ステップS106)。トルクが減少している状態とは、
図5で言うと、アクセルペダルが戻されている時刻t5〜t8の状態である。トルクが減少していると判断された場合は、次に、トルク制御部122からの出力に基づいて、現在のトルクがカ行トルクであるか否かを判断する(ステップS107)。現在のトルクがカ行トルクの場合(
図5の時刻t5〜t6の場合)には、パワートレーン10の傾きがプラスからマイナスへと変化する前であると推定される。したがって、傾き判定部121は、パワートレーン10の傾きが切り替わったとは判定せず、トルク制御部122は、振動低減用のトルク減少レートRcを適用する(ステップS108)。
【0032】
一方、ステップS107にて、現在のトルクがカ行トルクでない場合(
図5の時刻t6〜t8の場合)には、トルクがカ行トルクから回生トルクに変化した後、所定時間が経過しているか否かを判断する(ステップS109)。この所定時間とは、
図5における時刻t7と時刻t6の差に相当する。所定時間が経過していない場合には、パワートレーン10の傾きがプラスからマイナスに変化しているが、所定角度A2には達していないと推定される。したがって、傾き判定部121は、パワートレーン10の傾きが切り替わったとは判定せず、トルク制御部122は、振動低減用のトルク減少レートRcを適用する(ステップS108)。所定時間が経過している場合には、パワートレーン10の傾きがプラスからマイナスに変化した後、所定角度A2に達していると推定される。したがって、傾き判定部121は、パワートレーン10の傾きが切り替わったと判定し、トルク制御部122は、通常のトルク減少レートRdを適用する(ステップS110)。
【0033】
ステップS106に戻って、トルクが減少していない場合とは、アクセル開度が一定の状態で維持されている場合である(
図5における時刻t4〜t5の状態)。よって、この場合には、トルクを現状のまま維持する(ステップS111)。
【0034】
以上のように、第2実施形態によれば、アクセル開度検出部30からの出力と、トルク制御部122からの出力とに基づいて、傾き判定部121がパワートレーン10の傾きの切り替わりを適切に判定することができる。したがって、モータ制御装置120の制御によりパワートレーン10の角度や位置を検出するためのセンサが不要となり、部品点数を削減することが可能となる。
【0035】
(変形例)
パワートレーン10の角度や位置を検出するためのセンサを設けない形態の変形例として、次のようにパワートレーン10の傾きを推定するようにしてもよい。すなわち、パワートレーン10を保持しているマウント14のバネ定数と、パワートレーン10の慣性重量とを用いて、パワートレーン10のモデルを作成し、このモデルからモータ11にトルクをかけた場合のパワートレーン10の傾きを求めるようにしてもよい。この場合、傾き判定部121が、トルク制御部122からの出力を受けて、随時パワートレーン10の傾きを求める計算を実行するようにしてもよいし、あらかじめトルクに応じたパワートレーン10の傾きを計算しておき、その計算結果を例えばマップとして記憶しておくように構成してもよい。
【0036】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上記実施形態の要素を適宜組み合わせまたは種々の変更を加えることが可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、パワートレーン10が基準位置を超えてから所定の時点(所定角度A1、A2に達した時点や所定時間経過した時点)で、傾き判定部21によりパワートレーン10の傾きが切り替わったと判定するものとした。しかしながら、パワートレーン10が基準位置を超えた時点、つまりパワートレーン10の傾き方向が変化した時点で、傾きが切り替わったと判定するようにしてもよい。