特許第6233233号(P6233233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233233スパッタリングターゲット及びその製造方法
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  • 特許6233233-スパッタリングターゲット及びその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233233
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20171113BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20171113BHJP
   C04B 35/457 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C04B35/00 P
   C04B35/00 R
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-157914(P2014-157914)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2015-52165(P2015-52165A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2017年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-163051(P2013-163051)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】野村 聡
(72)【発明者】
【氏名】張 守斌
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−070410(JP,A)
【文献】 特開2007−238375(JP,A)
【文献】 特開2000−064035(JP,A)
【文献】 特開2009−009816(JP,A)
【文献】 特開2008−066276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式:ZnSn(ただし、x+y=2、且つ、z=x+2y−α(x+2y))の組成を有し、欠損係数α=0.002〜0.03及び酸素の成分比z=2.1〜3.8の条件を満たすZnSn酸化物からなる焼結体であって、
前記焼結体の厚さ方向における比抵抗の平均に対するバラつきが50%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
密度比が90%以上とされていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
抗折強度が100N/mm以上とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
比抵抗が1Ω・cm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、
所定量の酸化亜鉛粉末及び酸化錫粉末の混合体を、乾燥して造粒後、還元性雰囲気中で加熱を行う熱処理工程と、
熱処理された前記混合体を非酸化性雰囲気中で加圧焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有し、
前記熱処理工程において、酸素欠損状態が増加されることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程と前記焼結工程は、加熱炉内において連続して行われることを特徴とする請求項5に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流(DC)スパッタリングで、ZnSn酸化物による均一な半導体膜や、金属薄膜用保護膜などを安定して成膜可能となるスパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや太陽電池等における、導電性でかつ光に対して透明な電極の材料として、酸化亜鉛(ZnO)や酸化スズ(SnO)の混合物(ZnSn酸化物:ZTO)を用いることが提案されている。さらに、ZnO,SnOは共に半導体であるため、ZTOは、透明電極としてだけではなく、酸化物半導体として使用することもできる(例えば、特許文献1を参照)。特に、ZTOスパッタリングターゲットを用いて実用的な移動度をもつ半導体であるZnSnO薄膜を室温で成膜することができ、これを、例えば、有機フィルム上に形成して薄膜トランジスタ(TFT)の材料として用いることができる。この場合には、前記の透明電極の場合と異なり、スパッタリングターゲットの導電率が高くならないため、成膜においては、直流(DC)スパッタリング法より高周波(RF)スパッタリング法によって行われることが多い。
【0003】
また、前記のZnSnO薄膜は、透明で高屈折率の特性を有するところから、Au薄膜、Ag薄膜、Cu薄膜などの金属膜からなる透明遠赤外線反射膜の保護膜としても利用されている。高い透過率を確保しながら、良好な遠赤外線反射性能を得るために、例えば、Ag薄膜上に透明高屈折率膜として、ZnSnO薄膜が積層形成される。この積層形成にも、スパッタリング法が採用されている。
【0004】
上述のように、ZnSnO自体が高抵抗であるため、ZnSnOからなるスパッタリングターゲットでは、DCスパッタリングが可能となるほどの導電率とならない。このスパッタリングターゲットを用いて、ZnSnO薄膜を成膜するには、RFスパッタリング法を採用せざるを得ないし、成膜速度も遅い。そこで、ZnSnO薄膜を成膜するためのスパッタリングターゲットにおける抵抗を低くするために、ZnSnOを主相とするか、或いは、ドーパントを添加するなどして、スパッタリングターゲットの抵抗を低くし、DCスパッタリングを可能とすることが提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−037161号公報
【特許文献2】特開2007−277075号公報
【特許文献3】特開2007−314364号公報
【特許文献4】特開2012−121791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、上記特許文献2、3で提案されたZnSnOを主相とするZTOスパッタリングターゲットでは、ターゲット比抵抗を低くできたとしても、このZTOスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜された膜は、キャリア濃度が高く、低抵抗であって、半導体膜として適したものとならない。
【0007】
一方、ZnSnOを含んだスパッタリングターゲットを還元雰囲気下で処理して、ZnSn酸化物における酸素欠損の増加を促進することによって、低抵抗化を実現することが提案されている。しかし、この手法によったのでは、その処理工程が増えるので、生産性が悪い。さらには、高密度なスパッタリングターゲットを還元処理したとしても、ターゲット表面部分においては、酸素欠損の増加が促進されるが、ターゲット内部に向っては、還元が進まず、ターゲット厚さ方向において還元状態が変化するため、ターゲット中心部における酸素欠損の増加を見込めない。
【0008】
例えば、直径100mm、厚さ10mmのサイズを超えるようなZTOスパッタリングターゲットを製造しようとした場合、ターゲット表面部分は十分還元されるが、ターゲット内部に進むにつれて、還元の効果が不十分な相が残留してしまう。そのため、このスパッタリングターゲットの厚さ方向に亘って、比抵抗のバラつきが発生する。このスパッタリングターゲットでスパッタリングを行うと、表面部分では、比抵抗が低く、DCスパッタリングが可能である。しかし、スパッタリングの進行に伴って、ターゲット内部が掘れていくと、比抵抗の高い部分が表面に露出するため、異常放電が多発し、スパッタリングを安定して行えなくなり、成膜速度も変化してしまい、DCスパッタリングを安定して行えなくなるだけではなく、均一な膜を成膜できないという問題があった。
【0009】
また、上記特許文献3に開示されたZTOスパッタリングターゲットは、ZnSnOを主相とするものであるが、SnO相を含んでいる。このSnO相がスパッタリングターゲット中に存在すると、DCスパッタリングを用いたスパッタリング成膜において、異常放電やパーティクルの発生原因となり、さらに、ターゲット自体が割れ易くなるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、ZnSn酸化物(ZTO)スパッタリングターゲットの厚さ方向(エロ―ジョン深さ方向)に亘って、均一かつ十分に酸素欠損の増加を促進するとともに、焼結時の還元反応を促進させて、厚さ方向の全域でターゲット比抵抗を一層低くし、ターゲット寿命まで、常に安定したDCスパッタリングが可能であり、スパッタリング時にも割れ難く、半導体膜や金属薄膜用保護膜などの成膜に好適なZnSn酸化物からなるスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したZnSn酸化物(ZTO)スパッタリングターゲットでは、そのターゲット比抵抗が、ターゲット表面部においては、低く、ターゲット内部に進むほど高くなっていることに着目し、この比抵抗をターゲット内部でも低下するとともに、その変化が一様になる手法として、所定量の酸化亜鉛(ZnO)粉末と酸化錫(SnO)粉末の混合体を、乾燥、造粒後に、還元性雰囲気にて熱処理を行った後に、非酸化性雰囲気にて加圧焼結すればよいとの知見が得られた。その熱処理において、混合体の内部まで還元が促進され、その混合体全体に亘って還元が進み、酸素欠損状態が生成されることで、ターゲット厚さ方向の全域でターゲット比抵抗が低くなるとともに、焼結時の酸素原子の移動を促進する結果、焼結体の密度が向上することになって、常に安定したDCスパッタリングが可能なZTOスパッタリングターゲットが得られることが判明した。
【0012】
そこで、市販の酸化亜鉛粉末(ZnO粉末)と酸化錫粉末(SnO粉末)とを、Zn及びSnの原子比を1:1の配合で、湿式ボールミル又はビーズミルにて混合して得た混合体を、乾燥、造粒後、カーボン坩堝に投入し、800℃、3時間、真空中にて熱処理を行った。その後、得られた粉末を粉砕し、900℃、3時間、29.4MPa(300kgf/cm)の条件で加圧焼結して、ZnSn酸化物(ZTO)焼結体を得た。このZTO焼結体を所定形状に機械加工して、ZTOスパッタリングターゲットを作製したところ、ターゲットの厚さ方向の全域で、ターゲット比抵抗を一層低くできたことが確認された。このZTOスパッタリングターゲットを用いたZTO膜の成膜では、常に安定したDCスパッタリングが可能であることが確認された。
【0013】
これは、加圧焼結を行う前の混合体の段階で、還元性雰囲気で熱処理するようにしたので、混合体の全域において十分な還元が施され、加圧焼結されたZTO焼結体の内部まで厚さ方向の全域で、酸素欠損状態とすることができたことがターゲット比抵抗のより一層の低下に寄与しているという知見が得られた。
【0014】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明のスパッタリングターゲットは、化学式:ZnSn(ただし、x+y=2、且つ、z=x+2y−α(x+2y))の組成を有し、欠損係数α=0.002〜0.03及び酸素の成分比z=2.1〜3.8の条件を満たすZnSn酸化物からなる焼結体であって、前記焼結体の厚さ方向における比抵抗の平均に対するバラつきが50%以下であることを特徴とする。
(2)前記(1)のスパッタリングターゲットにおいて、密度比が90%以上とされていることを特徴とする。
(3)前記(1)、(2)のスパッタリングターゲットにおいて、抗折強度が100N/mm以上とされていることを特徴とする。
(4)前記(1)〜(3)のスパッタリングターゲットにおいて、比抵抗が1Ω・cm以下とされていることを特徴とする。
(5)本発明は、前記(1)〜(4)のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、その製造方法では、所定量の酸化亜鉛粉末及び酸化錫粉末の混合体を、乾燥して造粒後、還元性雰囲気中で加熱を行う熱処理工程と、熱処理された前記混合体を非酸化性雰囲気中で加圧焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有し、前記熱処理工程において、酸素欠損状態が増加されることを特徴とする。
(6)前記(5)の製造方法では、前記熱処理工程と前記焼結工程が、加熱炉内において連続して行われることを特徴とする。
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットは、化学式:ZnSnの組成を有するZnSn酸化物からなる焼結体で構成されており、亜鉛(Zn)と錫(Sn)の成分は、x+y=2を満たすことを条件として、ZnとSnの成分比は、目標とするZnSn酸化物膜の範囲となるように設定される。さらに、ZnSnO自体は、高比抵抗であるので、ZnSn酸化物(ZnSnO)を酸素欠損状態として、ターゲット比抵抗を低下させることとした。この酸素欠損状態のZnSn酸化物における酸素(O)の成分比zについて、z=2.1〜3.8とすることが好ましい。
【0016】
ここで、酸素欠損状態の増加が促進されたことを表す欠損係数をαとすると、酸素欠損状態が増加したZnSn酸化物の化学式:ZnSnにおける酸素の成分比zは、z=x+2y−α(x+2y)と表せる。これは、ZnO粉末とSnO粉末とを、x+y=2の条件が満たされるように配合し、これらの混合体を熱処理することにより、この混合体における欠損係数αが調整され、酸素の成分比が変化する。この欠損係数αが調整された混合体を、非酸化性雰囲気の下でホットプレスすれば、酸素欠損状態が増加したZnSn酸化物からなる焼結体を得ることができる。なお、欠損係数α=0.002〜0.03の範囲として、酸素の成分比z=2.1〜3.8を達成した。
【0017】
本発明のスパッタリングターゲットでは、欠損係数α=0.002〜0.03の範囲としたが、欠損係数αが、0.03を超えると、組織中の酸化錫(SnO)の一部が還元し、金属錫(Sn)が溶出する可能性があるためである。このSnが溶出していると、製造時に炉内にSnが付着し、炉へのダメージとなるだけでなく、炉内の清掃による生産性の低下をもたらし、さらには溶出した分のSnによりスパッタリングターゲットの組成バラつきが問題となる。一方、欠損係数αが、0.002未満であると、ターゲット比抵抗が、低下しないため、DCスパッタリングを行うことが難しくなる。そこで、本発明では、欠損係数αを0.002以上0.03以下の範囲内としている。
また、酸素の成分比zが2.1未満であると、ZnO粉末の比率が高くなりすぎて成膜速度が低下するおそれがある。一方、酸素の成分比zが3.8を超えると、SnO粉末の比率が高くなりすぎて比抵抗の上昇、異常放電の増加、スパッタ時の割れ等が発生しやすくなるおそれがある。そこで、本発明では、酸素の成分比zを2.1以上3.8以下の範囲内としている。
【0018】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットでは、前記焼結体の厚さ方向における比抵抗の平均に対するバラつきを50%以下とした。この様に限定した理由は、このバラつきが50%を超えると、安定したDCスパッタリングを行えなくなり、均一な成膜が得られなくなるためである。ターゲット厚さ方向に係る比抵抗のバラつきを少なくしたことにより、ターゲット寿命まで、DCスパッタリングを安定化できるとともに、均一な成膜を図れる。さらに、スパッタリング時におけるターゲット割れを抑制することができる。
【0019】
ここで、本発明のスパッタリングターゲットにおいて、密度比を90%以上とした場合には、スパッタ時に割れが発生しにくく、成膜速度を向上させることが可能となる。なお、この作用効果を確実に奏功せしめるためには、密度比を95%以上とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいて、抗折強度を100N/mm以上とした場合には、やはり、スパッタ時に割れが発生しにくく、成膜速度を向上させることが可能となる。なお、この作用効果を確実に奏功せしめるためには、抗折強度を130N/mm以上とすることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットにおいて、比抵抗を1Ω・cm以下とした場合には、DCスパッタリングを安定して行うことができ、成膜速度を向上させることが可能となる。なお、この作用効果を確実に奏功せしめるためには、比抵抗を0.1Ω・cm以下とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明の製造方法は、DCスパッタリングが可能であって、半導体膜や金属薄膜用保護膜などの成膜に適したターゲット比抵抗が得られるとともに、しかも、ターゲット厚さ方向に係る比抵抗のバラつきを少なくしたZTOスパッタリングターゲットを得ることを目的とし、所定量の酸化亜鉛(ZnO)粉末及び酸化錫(SnO)粉末の混合体を、乾燥して造粒後、還元性雰囲気中で加熱を行う熱処理工程と、熱処理された前記混合体を非酸化性雰囲気中で加圧焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有しており、前記熱処理工程において、ZnOの酸素欠損状態が増加される。なお、酸素欠損状態を表す欠損係数αについては、前記熱処理工程における還元処理の温度と処理時間により変化し、温度が高いほど、また、時間が長いほど大きくなる。
【0023】
前記熱処理工程では、化学式:ZnSnの組成におけるx+y=2の条件を満たすように、ZnO粉末とSnO粉末とを配合して、湿式ボールミル又はビーズミルにて混合して得た混合体を、乾燥、造粒後、カーボン坩堝に投入し、真空中にて熱処理が行われる。この熱処理により、酸素欠損が促進され、酸素(O)の欠損係数α=0.002〜0.03の範囲を実現することができる。次の焼結工程では、得られた混合体を、800〜980℃、2〜9時間、9.8〜49MPa(100〜500kgf/cm)、例えば、900℃、3時間、29.4MPa(300kgf/cm)の条件で加圧焼結して、ZnSn酸化物(ZTO)焼結体が得られる。この焼結工程で得られる焼結体には、焼結後においても、厚さ方向の全域で、酸素欠損状態が残存したままとなっている。そして、自然冷却して、炉から取り出し、その焼結体を機械加工し、バッキングプレートを接着して、ZTOスパッタリングターゲットが作製される。そのため、ターゲット厚さ方向に係る比抵抗のバラつきを少なくすることができ、ターゲット寿命まで、DCスパッタリングを安定的に行うことができる。
【0024】
なお、以上では、熱処理工程と焼結工程とを別々の加熱炉を用いて製造する場合について、説明したが、同一の加熱炉を用いて、熱処理工程と焼結工程とを連続して行うこともできる。例えば、カーボン製のモールドに、造粒後の粉末を充填し、真空中で900℃まで加熱した後、そのまま、29.4MPa(300kgf/cm)のプレス圧を、3時間かけて、ホットプレスによる焼結を行うようにしても良い。ここでは、プレス圧を掛ける前段階の加熱により、酸素欠損状態の増加が促進され、この酸素欠損状態が増加したところで、焼結が進むことになるので、焼結後においても、厚さ方向の全域で、酸素欠損状態が残存したままとなっており、別々の加熱炉を用いた場合と同様の焼結体が得られる。
【発明の効果】
【0025】
以上の様に、本発明によれば、ZnSn酸化物(ZTO)スパッタリングターゲットの焼結体は、酸素欠損状態が残存したままとなっており、焼結体内部の全域において、酸素欠損状態が増加しているので、ターゲット厚さ方向(エロ―ジョン深さ方向)の全域で、比抵抗がDCスパッタリング可能な程度に低くなり、しかも、ターゲット厚さ方向における比抵抗のバラつきが小さいものとなって、ターゲット寿命までDCスパッタリングを安定的に行うことができ、さらに、スパッタリング時におけるターゲット割れをも抑制することができ、しかも、均一な成膜を実現できる。
【0026】
また、本発明の製造方法によれば、所定量の酸化亜鉛粉末及び酸化錫粉末の混合体を、乾燥して造粒後、還元性雰囲気中で加熱を行う熱処理工程と、熱処理された前記混合体を非酸化性雰囲気にて加圧焼結して焼結体を得る焼結工程とが備えられているので、前記熱処理工程において、酸素欠損状態の増加が促進されることとなり、前記焼結工程においては、酸素欠損状態が残存したままで焼結される。そのため、焼結体内部まで、還元が進んだのと同じ状態となり、焼結体内部の全域において、酸素欠損状態が均一に増加している。本発明の製造方法によれば、ターゲット厚さ方向の全域で、比抵抗が低く、且つ、比抵抗のバラつきが小さいZTOスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0027】
従って、本発明のスパッタリングターゲットによれば、厚さ方向の全域でターゲット比抵抗が低く、しかも、ターゲット面内で一様となるため、常に安定したDCスパッタリングが可能となるので、生産性向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】スパッタリングターゲットのスパッタ面内方向の比抵抗測定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、この発明のスパッタリングターゲット及びその製造方法について、以下に、実施例により具体的に説明する。
【0030】
〔実施例〕
先ず、純度4Nで平均粒径:D50=1.0μmの酸化亜鉛(ZnO)粉末、純度4Nで平均粒径:D50=15μmの酸化錫(SnO)粉末を用意した。これらの各粉末を、表1に示される組成になるように、秤量した。この秤量した各原料粉末とその3倍量(重量比)のジルコニアボール(直径5mmと10mmを同重量)とをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて、24時間、湿式混合し、混合粉末を得る。なお、この際の溶媒に、例えば、アルコールを用いる。なお、上述のジルコニアボールの代わりにジルコニアビーズ(直径0.5mm)を用いて、ビーズミル装置によって混合し、混合粉末を得てもよい。
【0031】
このボールミル混合(又はビーズミル混合)で得られたスラリーを、乾燥後、造粒し、加熱炉に装入した。ここで、加熱を開始し、熱処理工程に移行した。この熱処理工程では、真空中で、800℃まで昇温され、酸素欠損状態の増加が促進される。次いで、加熱炉の温度をさらに上昇させて、焼結工程に移行した。実施例1〜7では、温度900℃で、29.4MPa(300kgf/cm)のプレス圧を、3時間かけて、ホットプレスによる焼結を行った。実施例8では、温度930℃で、34.3MPa(350kgf/cm)のプレス圧を、3時間かけて、ホットプレスによる焼結を行った。実施例9では、温度900℃で、34.3MPa(350kgf/cm)のプレス圧を、3時間かけて、ホットプレスによる焼結を行った。実施例10では、温度850℃で、29.4MPa(300kgf/cm)のプレス圧を、3時間かけて、ホットプレスによる焼結を行った。なお、焼結工程は真空中で行った。
焼結工程を終了して、加熱炉から取り出し、その焼結体を機械加工して、直径125mmを有する実施例1〜10のZTOスパッタリングターゲットを作製した。
【0032】
〔比較例〕
上記実施例のZTOスパッタリングターゲットと比較するため、表1に示される比較例1〜4のZTOスパッタリングターゲットを用意した。ホットプレスの条件は実施例1と同様である。比較例1〜4のいずれも、各実施例の場合と同様に、ZnO粉末とSnO粉末との混合による場合であるが、比較例1では、SnO粉末が多く配合され、酸素の成分比zが3.8を超えている。比較例2では、ZnO粉末が多く配合され、酸素の成分比zが2.1未満とされている。また、比較例3、4では、ZnO粉末とSnO粉末との配合は、実施例3、6〜10の場合と同様であるが、比較例3、4のいずれも、酸素欠損状態を示す欠損係数αが、本発明の範囲を逸脱している場合である。
【0033】
<欠損係数α>
ここで、得られた実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットを構成するZnSn酸化物の欠損係数αを以下の手順で算出した。
(手順1)ターゲットを粉砕して得られたZnSn酸化物粉を、100℃で1時間加熱して乾燥する。
(手順2)乾燥後のZnSn酸化物粉1g秤量し、予め熱処理し恒量されたるつぼに入れる。ここで、乾燥後のZnSn酸化物粉の重量をa、るつぼの重量をbとする。
(手順3)電気炉にて、800℃、2時間の加熱を行い、デシケータ内で30〜60分間放冷し精秤する。これを恒量に達するまで繰り返す。熱処理後のZnSn酸化物粉とるつぼの重量をcとする。
(手順4)以下の計算式に従い、酸素欠損係数αを算出する。なお、酸素の原子量を[O]、Znの原子量を[Zn]、Snの原子量を[Sn]とする。
【数1】
手順1〜手順4を3回繰り返して行い、得られた欠損係数αの平均値を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
<比抵抗の測定>
得られた実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットについて、抵抗測定装置により、比抵抗を測定した。
ここで、直径125mm×厚さ10mmのZTOスパッタリングターゲットを前述の製造方法で作製し、エロ―ジョン深さ方向に、表面(0mm)から、2mm、5mmまで削り、そこでの比抵抗を測定した。また、厚さ方向の比抵抗のバラつきを、変動係数の百分率で表した。なお、変動係数はターゲット厚さ方向比抵抗の標準偏差をターゲット厚さ方向比抵抗の平均値で除して求めた。
【0036】
なお、実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットの表面(0mm)と、表面(0mm)から、2mm、5mmの位置において、図1に示したターゲットスパッタ面内の5箇所(A〜E)の測定点につて、比抵抗を測定した。測定された面内の比抵抗の平均値を、表2に示した。なお、測定点A〜Eは、スパッタ面の中心を原点とするXY座標上において、A(X=0mm,Y=55mm)、B(X=−55mm,Y=0mm)、C(X=0mm,Y=0mm)、D(X=55mm,Y=0mm)、E(X=0mm,Y=−55mm)とした。
この測定においては、抵抗測定装置として、三菱化学株式会社製の低抵抗率計(Loresta−GP)を用い、四探針法で、比抵抗(Ω・cm)を測定した。測定時の温度は23±5℃、湿度は50±20%にて測定された。
【0037】
<密度比>
得られた実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットについて密度比を求めた。
焼結体を所定寸法に機械加工した後、重量を測定して嵩密度を求めた後、理論密度ρfnで割ることで、算出した。なお、理論密度ρfnは、原料の重量に基づいて以下の式によって算出した。なお、SnOの密度をρ、SnOの質量%をC、ZnOの密度をρ、ZnOの質量%をCとする。
【数2】
【0038】
<抗折強度>
表1に示した実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットと同様の方法によって、それぞれの組成に対応する試験片(3mm×4mm×35mm)を作製し、島津製作所製オートグラフAG−Xを用いて、押し込み速度0.5mm/minで応力曲線を測定し、弾性領域の最大点応力を求めた。
【0039】
【表2】
【0040】
次に、得られた実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットについて、スパッタリング時の異常放電発生回数、成膜速度及びスパッタリング時のターゲット割れの有無を測定した。
【0041】
<異常放電回数>
得られた実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットについて、スパッタリング時の異常放電発生回数を以下の手順で測定した。
実施例及び比較例のZTOスパッタリングターゲットを用いて、以下の成膜条件により、成膜試験を行った。
・電源:DC800W/DC1200Wの2条件
・全圧:0.4Pa
・スパッタリングガス:Ar=28.5sccm、O=1.5sccm
・ターゲット−基板(TS)距離:70mm
上記成膜条件において1時間のスパッタリングを行い、マイクロ・アーク異常放電の発生回数をスパッタ電源装置に付属したアーキングカウンターにて自動的に測定した。この測定結果を表3に示す。
【0042】
<成膜速度の測定>
成膜速度の測定は、上述の成膜条件において100秒間スパッタリングを行い、マスキングを施したガラス基板にターゲット材を堆積させ、マスキングを取り除いた後に出来た段差の高さを、段差計を用いて測定し、成膜速度を算出した。その測定結果を表3に示した。
【0043】
<ターゲット割れの観測>
上述の異常放電の発生回数を測定した後に、ターゲット表面を目視にて観察し、割れの有無を確認した。その観測結果を表3に示した。表3では、ターゲット割れが確認された場合を「有り」と、そして、ターゲット割れが確認されなかった場合を「無し」とそれぞれ表示した。
【0044】
【表3】
【0045】
以上の各表に示された結果によれば、実施例のZTOスパッタリングターゲットのいずれにおいても、欠損係数αが0.002〜0.03の範囲内にあり、ターゲット厚さ方向の全体に亘って、低抵抗化を図ることができ、ターゲット厚さ方向のバラつきが少ないことが分かった。さらに、この様な実施例のZTOスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにおいても、異常放電の発生を大幅に低減でき、しかも、DC800Wの条件下ではターゲット割れは確認されなかった。従って、ターゲット厚さ方向の全域で、ターゲット比抵抗を低くできたので、常に安定したDCスパッタリングが可能となり、成膜速度も向上しつつ、均一な成膜が得られた。
【0046】
なお、密度比が87%、抗折強度が89N/mmとされた実施例10では、DC800Wの条件下ではターゲット割れが確認されなかったが、DC1200Wの条件下ではターゲット割れが認められた。また、異常放電回数が若干多くなっている。
これに対して、密度比が97%、抗折強度が141N/mmとされた実施例8、及び、密度比が95%、抗折強度が130N/mmとされた実施例9においては、DC1200Wの条件下においてもターゲット割れが確認されず、異常放電発生回数も抑えられていることが確認された。
【0047】
一方、比較例のZTOスパッタリングターゲットのいずれも、実施例の場合と同様に、ZnO粉末とSnO粉末との混合による場合であるが、比較例1では、SnO粉末が多く配合されており、酸素の成分比zが3.8を超えているため、比抵抗が高く、異常放電回数も多く、しかも、スパッタリング時に割れが確認されたので、成膜を行えなかった。比較例2では、ZnO粉末が多く配合されており、酸素の成分比zが2.1未満であるため、成膜速度が向上しなかった。比較例3、4では、酸素欠損状態を示す欠損係数αが、0.002〜0.03の範囲を逸脱し、比較例3では、欠損係数αが小さすぎるため、導電性が小さく、ターゲット厚さ方向の比抵抗が測定範囲外と高すぎて、DCスパッタリングを実施できず、比較例4では、欠損係数αが高すぎるため、スパッタリングターゲット内において、金属(Sn)の溶出があり、スパッタリングを実施できなかった。
【0048】
以上のように、本発明によれば、ZTOスパッタリングターゲットの厚さ方向の全域で、比抵抗が低下し、且つ、比抵抗のバラつきも低減できるので、そのターゲット形状は、平坦であっても、また、円筒であっても同様である。なお、本発明の熱処理工程はカーボン坩堝を用いて真空中で行うことで、還元性の雰囲気にしているが、CO、SO、H等の還元性ガスを用いても良い。また、実施例、比較例における焼結工程は真空中で行っているが非酸化性雰囲気であれば同様の効果が得られる。
図1