特許第6233235号(P6233235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6233235-ゲート駆動回路 図000002
  • 特許6233235-ゲート駆動回路 図000003
  • 特許6233235-ゲート駆動回路 図000004
  • 特許6233235-ゲート駆動回路 図000005
  • 特許6233235-ゲート駆動回路 図000006
  • 特許6233235-ゲート駆動回路 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233235
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】ゲート駆動回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20171113BHJP
   H03K 17/16 20060101ALI20171113BHJP
   H03K 17/687 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H02M1/08 A
   H03K17/16 F
   H03K17/687 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-162758(P2014-162758)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-39730(P2016-39730A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一範
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−189592(JP,A)
【文献】 特開2003−125574(JP,A)
【文献】 特開2011−024388(JP,A)
【文献】 特開2013−085445(JP,A)
【文献】 特開平03−060360(JP,A)
【文献】 特開2001−190061(JP,A)
【文献】 特開2007−104739(JP,A)
【文献】 特開2003−061335(JP,A)
【文献】 特開2012−175457(JP,A)
【文献】 特開2009−225648(JP,A)
【文献】 特開平03−264745(JP,A)
【文献】 特開平09−204231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H03K 17/16
H03K 17/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子(Ss)のゲート(G)にゲート抵抗(Rg_on)を介して駆動電圧を印加することで、当該半導体スイッチング素子を閉状態にするゲート駆動回路(20)であって、前記半導体スイッチング素子の開閉状態を変更することで、直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータ装置(INV)に適用されるゲート駆動回路において、
前記ゲートに前記駆動電圧を印加し前記半導体スイッチング素子を開状態から閉状態にするまでに前記ゲートから前記半導体スイッチング素子に蓄積される電荷を基準電荷とし、その基準電荷以上の電荷を蓄積可能な容量のコンデンサを前記ゲート及び接地点の間にゲートコンデンサ(27)として設け
前記半導体スイッチング素子は、前記直流電源の正極と前記インバータ装置の出力端子との間に設けられる複数の上側アームスイッチング素子(Sup,Svp,Swp)、及び、前記出力端子と前記直流電源の負極との間に設けられる複数の下側アームスイッチング素子(Sun,Svn,Swn)のいずれかであり、
前記ゲート駆動回路は、前記半導体スイッチング素子にそれぞれ設けられるとともに、当該ゲート駆動回路の電源電圧を前記駆動電圧として前記ゲートに印加することで当該半導体スイッチング素子を閉状態にするものであり、
前記複数の上側アームスイッチング素子のゲート駆動回路の電源電圧は個別の電源から供給されるとともに、前記複数の下側アームスイッチング素子のゲート駆動回路の電源電圧は共通の電源から供給されるものであって、
前記下側アームスイッチング素子に設けられる前記ゲートコンデンサの容量を、前記上側アームスイッチング素子に設けられる前記ゲートコンデンサの容量に比べて小さく設定する、又は、前記上側アームスイッチング素子にのみ前記ゲートコンデンサを設けることを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項2】
前記半導体スイッチング素子を開状態から閉状態にするまでの前記ゲートに印加される電圧の変化速度が所定値より速いこと、又は、前記半導体スイッチング素子を閉状態から開状態にするまでの前記ゲートに印加される電圧の変化速度が所定値より速いことを条件として、前記ゲートコンデンサの常時開異常を判定する異常判定手段(20)を備えることを特徴とする請求項1に記載のゲート駆動回路。
【請求項3】
前記ゲート駆動回路は、前記半導体スイッチング素子の状態を開状態から閉状態に変更する旨を指令するオン指令信号が入力されたことを条件として、前記ゲートへの前記駆動電圧の印加を開始するものであって、
前記異常判定手段により前記ゲートコンデンサに開異常が生じていると判定された場合に、前記オン指令信号が入力されてから前記ゲートへの前記駆動電圧の印加を開始するまでの遅延時間を開異常が生じていない場合に比べて長く設定する遅延手段(20)を備えることを特徴とする請求項に記載のゲート駆動回路。
【請求項4】
前記ゲートコンデンサとして温度変化に伴う容量変化が所定よりも小さいものを用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のゲート駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子のゲートに電圧を印加することで半導体スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子の個々の特性によって、開状態から閉状態に移行するまでのターンオン時間や、閉状態から開状態に移行するまでのターンオフ時間にばらつきが生じる。ターンオン時間及びターンオフ時間(遷移時間)のばらつきにより、スイッチング損失がばらつく。遷移時間のばらつきを抑えることでスイッチング損失のばらつきを抑えるために、遷移時間においてゲート駆動回路から定電流出力を行う構成が提案されている(例えば、特許文献1)。定電流出力を行うことで、ゲート閾値電圧やミラー電圧のばらつきによって生じる遷移時間のばらつきを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−34382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、スイッチング素子を開状態(オフ)から閉状態(オン)にする場合、スイッチング素子のゲートから半導体スイッチング素子に蓄積されるゲート総電荷量は個々のスイッチング素子によって異なる。このため、ゲート総電荷量のばらつきによって、遷移時間のばらつきが生じることが懸念される。ゲート総電荷量のばらつきによる遷移時間のばらつきは、定電流出力では対処することができない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、スイッチング素子ごとのゲート総電荷量のばらつきによる遷移時間のばらつきを抑制することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、半導体スイッチング素子(Ss)のゲート(G)にゲート抵抗(Rg_on)を介して駆動電圧を印加することで、当該半導体スイッチング素子を閉状態にするゲート駆動回路(20)であって、前記ゲートに前記駆動電圧を印加し前記半導体スイッチング素子を開状態から閉状態にするまでに前記ゲートから前記半導体スイッチング素子に蓄積される電荷を基準電荷とし、その基準電荷以上の電荷を蓄積可能な容量のコンデンサを前記ゲート及び接地点の間にゲートコンデンサ(27)として設けることを特徴とする。
【0007】
本発明では、スイッチング素子を開状態から閉状態にするまでに必要な基準電荷(ゲート総電荷量)以上の電荷を蓄積可能な容量のコンデンサを、ゲートコンデンサとして設ける構成にした。このような構成にすることで、スイッチング素子の遷移時間がゲート抵抗の抵抗値、ゲート総電荷量、及びゲートコンデンサの容量値によって決定されることになる。したがって、スイッチング素子ごとのゲート総電荷量のばらつきによる遷移時間への影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の電力システムを表す概略図。
図2】第1実施形態におけるゲート駆動回路の電気的構成図。
図3】ゲート電圧の時間変化を表すタイミングチャート。
図4】ゲートコンデンサの正常時及び異常時におけるゲート電圧の時間変化を表すタイミングチャート。
図5】遅延時間を設けることによるオン遷移時間の調整を表すタイミングチャート。
図6】第2実施形態のインバータ装置を表す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1に第1実施形態のゲート駆動回路が適用される電力システムを示す。図1に示すモータジェネレータ10は、3相の回転機である。モータジェネレータ10には、直流電力を交流電力に変換するインバータINVを介して直流電源12(高電圧バッテリ)が接続されている。高電圧バッテリは、端子電圧がたとえば100V以上となる2次電池である。
【0010】
インバータINVは、高電位側のスイッチング素子Sap(a=u,v,w)および低電位側のスイッチング素子Sanの直列接続体を3組備え、これら各直列接続体を構成する高電位側のスイッチング素子Sapおよび低電位側のスイッチング素子Sanの接続点(出力端子)がモータジェネレータ10の各端子に接続されている。そして、スイッチング素子Sab(a=u,v,w:b=p,n)のそれぞれには、ダイオードDab(フリーホイールダイオード)のそれぞれが逆並列に接続されている。スイッチング素子Sabはそれぞれ半導体スイッチング素子であり、具体的にはIGBTである。
【0011】
また、上記各スイッチング素子Sabのゲートには、ドライブユニットDUが接続されている。ドライブユニットDUは、スイッチング素子Sabのゲートの電圧を制御する機能が搭載されたゲート駆動回路20を備えている。また、上側アームのスイッチング素子SapのドライブユニットDUとU相下側アームのスイッチング素子SunのドライブユニットDUとは、スイッチング素子Sabのオンオフの操作指令を受信する受信ユニット40をそれぞれ備えている。なお、V相およびW相の下側アームのスイッチング素子Svn,SwnのドライブユニットDUには、U相下側アームのスイッチング素子SunのドライブユニットDUによって受信された信号が取り込まれる。これは、下側アームのスイッチング素子Sun,Svn,SwnのそれぞれのドライブユニットDUの動作電位が等しいことに鑑みた設定である。
【0012】
上記モータジェネレータ10を流れる電流は電流センサ14によって検出される。そして、電流センサ14の検出値等、モータジェネレータ10の制御量(トルク等)を制御する上で必要な検出値は、マイクロプロセッサユニット50に入力される。マイクロプロセッサユニット50は、電流センサ14の検出値等に基づき、モータジェネレータ10を流れる電流を、モータジェネレータ10のトルクを指令トルクとするうえで要求される指令電流に制御する。マイクロプロセッサユニット50は、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流に制御するべく、スイッチング素子Sabの操作信号gabを送信ユニット51に出力する。
【0013】
送信ユニット51は、スイッチング素子Sabの操作信号gabをシリアル化し、トランスTの1次側コイルW1に電圧を印加する。これにより、トランスTの2次側コイルW2n,W2u,W2v,W2wにパルス状の電圧信号が出力される。
【0014】
ここで、2次側コイルW2nは、U相下側アームのスイッチング素子SunのドライブユニットDUに搭載された受信ユニット40に接続されている。また、2次側コイルW2u,v,wのそれぞれは、U,V,W相の上側アームのスイッチング素子Sup,Svp,SwpのそれぞれのドライブユニットDUに搭載された受信ユニット40に接続されている。受信ユニット40は、シリアル化された操作信号gabである電圧信号をパラレル化してゲート駆動回路20に送信する。さらに、受信ユニット40は、その電圧信号を整流し、ゲート駆動回路20の電源電圧とする電源回路としても機能する。本実施形態の構成では、上側アームのスイッチング素子Sup,Svp,Swpには個々に電源回路としての受信ユニット40が設けられていることになり、下側アームのスイッチング素子Sun,Svn,Swnには共通の電源回路としての受信ユニット40が設けられていることになる。
【0015】
以下、ゲート駆動回路20によるスイッチング素子Sabの開閉制御について詳細に述べる。また、以下の説明では、6つのスイッチング素子Sabのうち開閉制御の対象となる任意のスイッチング素子のことを対象スイッチSsとして記載し、対象スイッチSsに逆並列に接続されているダイオードをダイオードDsとして記載する。
【0016】
図2に本実施形態におけるゲート駆動回路20の電気的構成図を示す。ゲート駆動回路20は、ゲート駆動IC21とゲート抵抗24,26とを備えている。ゲート駆動IC21には、対象スイッチSsのゲートに対して電源電圧Vsを駆動電圧として印加するためのオン駆動スイッチ23が設けられている。オン駆動スイッチ23のソースはゲート駆動回路20の電源22に接続され、ドレインはオンゲート抵抗24を介して対象スイッチSsのゲートGに接続されている。オン駆動スイッチ23は、受信ユニット40からハイ状態のオン指令信号がゲートに入力されることでオン状態となり、ゲートGと電源22とを導通状態とさせる。
【0017】
また、ゲート駆動IC21には、対象スイッチSsのゲートGと接地点とを接続し、ゲート電圧Vge(ゲート−エミッタ間電圧)を接地電圧(エミッタ電圧)にするオフ駆動スイッチ25が設けられている。オフ駆動スイッチ25のソースは接地点に接続され、ドレインはオフゲート抵抗26を介して対象スイッチSsのゲートGに接続されている。オフ駆動スイッチ25は、受信ユニット40からハイ状態のオフ指令信号がゲートに入力されることでオン状態となり、ゲートGと接地点とを導通状態とさせる。なお、オン駆動スイッチ23は、NチャネルMOSFETであり、オフ駆動スイッチ25は、PチャネルMOSFETである。
【0018】
対象スイッチSsには、ゲート−コレクタ間の容量である帰還容量Cres、ゲート−エミッタ間の容量である入力容量Cies、及び、コレクタ−エミッタ間の容量である出力容量Coesが存在する。これらの容量と、対象スイッチSsをオン状態にする際のゲート電圧Vgeの時間変化について、図3を用いて説明する。
【0019】
図3の時刻T1において、ゲートに対する電圧の印加が開始される。ゲート駆動回路20から入力容量Ciesに電流が流れることで、入力容量Ciesが充電され、ゲート電圧Vgeが増加していく。時刻T2において、ゲート電圧Vgeが閾値電圧Vthに達し、対象スイッチSsはオン状態になり、コレクタ−エミッタ間電流Iceが増加していく。
【0020】
時刻T3において、ゲート電圧Vgeがコレクタ電圧Vce(コレクタ−エミッタ間電圧)と等しくなる。その後、ゲート電圧Vgeは一定(ミラー電圧Vm)のまま、帰還容量Cresがミラー容量として働き、コレクタ−エミッタ間電圧Vceが低下する。
【0021】
時刻T4において、コレクタ−エミッタ間電圧Vceが約0Vとなる。そして、入力容量Ciesに電流が流れることで、ゲート電圧Vgeが上昇していく。時刻T5において、ゲート電圧Vgeが駆動電圧(電源電圧Vs)に達し、対象スイッチSsはフルオン状態になる。
【0022】
ここで、フルオン状態とは、ゲート電圧Vgeから閾値電圧Vthを引いた値がコレクタ電圧Vceより高い状態(線形領域)のことを言う。フルオン状態では、オン状態におけるコレクタ−エミッタ間の抵抗であるオン抵抗が小さくなり、対象スイッチSsのコレクタ−エミッタ間に電流が流れることに伴う電力損失を小さくすることが可能になる。
【0023】
ここで、対象スイッチSsをオフ状態からフルオン状態にするまでの間において、ゲートに蓄積することが必要な電荷をゲート総電荷量Qgと呼ぶ。ゲート総電荷量Qgは、上記入力容量Cies及び帰還容量Cresに加え、駆動電圧(電源電圧Vs)、対象スイッチSsの電圧増幅率αによって変化する(Qg=Vs(Cies+Cres(1+α)))。
【0024】
対象スイッチSsがオフ状態からフルオン状態になるまでの時間であるオン遷移時間は、ゲート総電荷量Qgとオンゲート抵抗24によって定まる時定数τによって決まることになる(τ=Rg_on・Cg,Cg=Qg/Vs)。ゲート総電荷量Qgは、個々のスイッチング素子の特性によってばらつくため、オン遷移時間もばらつくことになる。オン遷移時間がばらつくことで、各対象スイッチSsにおけるサージ電圧の大きさ、及び、スイッチング損失がそれぞればらつくことになる。
【0025】
サージ電圧は時定数τが小さいほど大きくなる。このため、対象スイッチSsに印加されるサージ電圧を対象スイッチSsの耐電圧設計値以下にするには、時定数τをある程度大きくする必要がある。また、スイッチング損失(発熱量)は時定数τが大きいほど大きくなるため、時定数τをある程度小さくする必要がある。つまり、ゲート駆動回路20の時定数τは、サージ電圧を対象スイッチSsの耐電圧値以下としつつ、スイッチング損失を耐熱設計値以下とするように決定する必要がある。
【0026】
時定数τのばらつきが大きくなることで、スイッチング損失のばらつきが大きくなることが懸念される。対象スイッチSsの耐熱設計では、対象スイッチSsにおいて発生する電力損失の最大値に基づいて、対象スイッチSsの大きさなどを決定する。このため、スイッチング損失のばらつきが大きくなると、対象スイッチSsにおいて発生する電力損失の最大値が大きくなり、対象スイッチSsの素子サイズを大きくするなどの対策が必要となる。
【0027】
本実施形態におけるゲート駆動回路20では、ゲートGに対してゲートコンデンサ27を接続する。さらに、ゲートコンデンサ27の容量を、個々の対象スイッチSsのゲート総電荷量Qgを基準電荷とし、その基準電荷以上の電荷を蓄積可能な容量、ここでは基準電荷よりも所定容量多い容量に設定する。また、ゲートコンデンサ27の容量の上限値は、電源回路としての受信ユニット40の出力電流量に基づいて設定する。ゲートコンデンサ27の容量をこのように設定することで、時定数τが、オンゲート抵抗24の抵抗値Rg_onと、ゲートコンデンサ27の容量Ccとの積に近い値となり、オン遷移時間のばらつきを抑制することが可能になる(τ=Rg_on・(Cg+Cc))。
【0028】
また、ゲートコンデンサ27として、温度変化に伴う容量変化が所定より小さいコンデンサを用いる構成とした。このようなコンデンサを用いることで、オン遷移時間のばらつきをより抑制することができる。
【0029】
図1に示す本実施形態のインバータINVでは、上側アームのスイッチング素子Sapの電源回路としての受信ユニット40は個別に設けられているが、下側アームのスイッチング素子Sanの電源回路としての受信ユニット40は共通化されている。つまり、下側アームのスイッチング素子Sanの電源電圧Vsは共通化されているため、上側アームのスイッチング素子Sapの電源電圧Vsに比べ、スイッチング素子Sabの駆動に伴う電圧低下が懸念される。電源電圧Vsが低下することで各スイッチング素子SabのゲートGに印加される駆動電圧が低下し、スイッチング素子Sabが閉状態とされている場合のコレクタ−エミッタ間飽和電圧(オン抵抗)が増加する。これにより、下側アームのスイッチング素子Sanにおいて、電力損失が増加し発熱量が増加すると考えられる。
【0030】
ここで、仮に、下側アームのスイッチング素子Sanのゲートコンデンサ27の容量を大きくすると、電源回路である受信ユニット40から流れる電流が増加することで電源電圧Vsがさらに低下する。その電源電圧Vsの低下によって、電力損失がさらに増加し発熱量が増加すると考えられる。そこで、本実施形態では、下側アームのスイッチング素子Sanのゲートコンデンサ27の容量を上側アームのスイッチング素子Sapのゲートコンデンサ27の容量に比べて小さく設定する。これにより、電源電圧の低下によるオン抵抗の増加に伴って生じる電力損失の偏りを抑制することができる。
【0031】
また、インバータINVでは、直列接続されている上下アームのスイッチング素子が同時にオン状態となると、直流電源12の正極と負極が短絡されることになり、大電流が流れスイッチング素子に損傷が発生することが懸念される。このため、上下アームのスイッチング素子の一方がオン状態からオフ状態に確実に切り替わってから、他方がオフ状態からオン状態になるように、両スイッチング素子がともにオフ状態となるデッドタイムを設けている。
【0032】
ここで、図4に示すようにゲートコンデンサ27にオープン故障(常時開異常)が生じると、オン遷移時間とオフ遷移時間が短くなる。正常時のオン遷移時間は、T11〜T12a、異常時のオン遷移時間は、T11〜T12b、正常時のオフ遷移時間は、T13〜T14a、異常時のオフ遷移時間はT13〜T14bである。上下アームのいずれか一方のスイッチング素子のオン遷移時間が短くなることで、デッドタイムを設けているにも関わらず、両スイッチング素子がともにオン状態になることが懸念される。
【0033】
そこで、本実施形態のゲート駆動回路20(異常判定手段)は、ゲート電圧Vgeを検出し、ゲート電圧Vgeの立ち上がり速度及び立ち下がり速度(変化速度)と、所定値とをそれぞれ比較する。そして、ゲート電圧Vgeの立ち上がり速度及び立ち下がり速度の少なくともいずれかが所定値より速いことを条件として、ゲートコンデンサ27にオープン故障が生じていると判定する。
【0034】
さらに、本実施形態のゲート駆動回路20(遅延手段)は、ゲートコンデンサ27にオープン故障が生じていると判定された場合、受信ユニット40からオン指令信号が入力されてから、ゲートへ駆動電圧の印加を開始するまでに所定の遅延時間を設ける構成とした。
【0035】
具体的には、図5に示すように、オン指令信号が入力されてからゲート電圧Vgeが印加されるまでの遅延時間を、正常時(T21〜T22)に比べて異常時には長くなるように(T21〜T23)設定した。このような構成にすることで、ゲートコンデンサ27にオープン故障が生じた場合でも、オン遷移時間(T21〜T25)が正常時におけるオン遷移時間(T21〜T25)と近い値となる。これにより、直列接続されている上下アームのスイッチング素子が同時にオン状態となり、直流電源12の正極と負極が短絡することを抑制することができる。
【0036】
(第2実施形態)
図6に第2実施形態におけるインバータ装置INVaの概略図を示す。インバータ装置INVaは2つのインバータINV1,INV2を内蔵する。2つのインバータINV1,INV2は、2つのモータジェネレータに三相交流電力をそれぞれ供給する。ここで、インバータINV1,INV2について、第1実施形態のインバータINVと同一の構成について同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0037】
インバータ装置INVaは水冷式であり、図4の破線によって示す方向で冷却水が流れる。各インバータINV1,INV2の上側アームのスイッチング素子Sup,Svp,Swpは、下側アームのスイッチング素子Sun,Svn,Swnに比べて、それぞれ冷却水の上流側であり、放熱性が高い。また、インバータINV1の下側アームのスイッチング素子Sun,Svnは、インバータINV1の下側アームのスイッチング素子Swn及びインバータINV2の下側アームのスイッチング素子Sun,Svn,Swnに比べて冷却水の上流側であり、放熱性が高い。
【0038】
一方、インバータINV1の下側アームのスイッチング素子Swn、及び、インバータINV2の下側アームのスイッチング素子Sun,Svn,Swnは冷却水の下流側になるため、各スイッチング素子から吸熱した後の冷却水によって冷却されるため放熱性が低い。インバータINV2の下側アームのスイッチング素子Sun,Svnの放熱性が特に低くなる。インバータINV2の下側アームのスイッチング素子Swnは、インバータ装置INVaの端に設けられており、隣り合うスイッチの数がインバータINV2の下側アームのスイッチング素子Sun,Svnより少なくなる。このため、インバータINV2の下側アームのスイッチング素子Swnは、インバータINV2の下側アームのスイッチング素子Sun,Svnに比べて放熱性がよい。
【0039】
上述したようにインバータ装置INVaを構成するスイッチング素子Sabにおける放熱性に偏りがある場合に、放熱性が低いスイッチに設けるゲートコンデンサ27ほど、その容量を大きくするような構成にした。スイッチング損失のばらつきが大きいということは、スイッチング損失の平均値が同一である場合に、スイッチング損失の最大値、つまり、発熱量の最大値が大きいということを意味する。インバータのような電子回路装置の設計においては、スイッチング素子Sabの最高温度に応じてスイッチング素子Sabの大きさなどの設定を行う。スイッチング素子Sabは、冷却水や冷却風による放熱量がそれぞれ異なるものであるため、放熱量が小さいスイッチング素子Sabほど温度が上昇しやすいことになる。そこで、放熱量(冷却量)の小さいスイッチング素子Sabほど、ゲートコンデンサ27の容量を大きく設定し、スイッチング損失のばらつきを低減することで、複数のスイッチング素子Sab全体としての最高温度を低減することが可能になる。
【0040】
(他の実施形態)
・第1実施形態の下側アームのスイッチング素子Sanのゲートコンデンサ27の容量を上側アームのスイッチング素子Sapのゲートコンデンサ27の容量に比べて小さく設定する構成に代えて、上側アームのスイッチング素子Sapにのみゲートコンデンサ27を設ける構成としてもよい。この構成でも、第1実施形態と同様に電源電圧Vsの低下によるオン抵抗の増加に伴って生じる電力損失の偏りを抑制することができる。
【0041】
・スイッチング素子Sabは、IGBTに代えて、例えば、MOSFETでもよい。
【0042】
・ゲート駆動回路20は、インバータ装置以外の電子回路装置に用いられるものであってもよい。例えば、昇圧回路や降圧回路を構成するスイッチング素子に対して用いてもよい。また、インバータ装置は、三相交流以外、例えば、単相交流を出力するものであってもよい。
【0043】
・ゲート駆動回路20において、ゲートコンデンサ27のオープン故障を判定する機能、及び、オープン故障時に遅延時間を設ける機能は、それぞれ省略してもよい。
【0044】
・第2実施形態におけるインバータ装置INVaは、水冷式に代えて、空冷式であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
20…ゲート駆動回路、27…ゲートコンデンサ、Ss…対象スイッチ、G…ゲート、Rg_on…オンゲート抵抗。
図1
図2
図3
図4
図5
図6