(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233246
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20171113BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-175059(P2014-175059)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-51752(P2016-51752A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】小林 武士
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
【審査官】
井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/061670(WO,A1)
【文献】
特開2013−105807(JP,A)
【文献】
特開2005−045108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性体粒子を用いて形成した金属磁性体層と、導体パターンを積層し、金属磁性体層間の該導体パターンを螺旋状に接続して積層体内にコイルが形成された積層型電子部品において、
該積層体は、該コイルの巻軸と直交する面上に配置された導体パターンの形状に沿って該コイルの巻軸と水平な方向に延在して積層された該導体パターン間に形成される第1の非磁性体部と、該コイルの巻軸と垂直な方向に該コイルの巻軸を横切って形成される第2の非磁性体部とが内部に形成されていることを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記第2の非磁性体部はその端が前記積層体の表面に露出している請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記第1及び第2の非磁性体部がガラスとアルミナの混合物で形成された請求項1又は請求項2に記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記導体パターンは、前記第1の非磁性体部と接して形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属磁性体粒子を用いて形成した金属磁性体層と、導体パターンを積層し、金属磁性体層間の導体パターンを螺旋状に接続して積層体内にコイルが形成され、パワーインダクタとして用いられる積層型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大電流が流れる電源回路やDC/DCコンバータ回路用のインダクタやトランス等として使用される積層型インダクタに、絶縁体層と導体パターンを積層し、絶縁体層間の導体パターンを螺旋状に接続して積層体内に積層方向に重畳して周回するコイルが形成されたものがある。
近年、この種のパワーインダクタとして用いられる積層型インダクタは、モバイル機器の小型化、高性能化に伴い、小型化、薄型化が求められている。また、機器の低電圧化に伴い、さらなる大きな直流重畳許容電流値を有すると共に、低損失であることが望まれている。
この様な状況の中、従来の積層型インダクタは、積層体をフェライトで形成するのが一般的であるため、最大磁束密度は0.4T程度と低く、大電流が入力されると磁気飽和し易く、直流重畳許容電流値を大きくすることができなかった。また、従来の積層型インダクタに、積層体を非磁性体で形成したものもあるが、透磁率が1のため、所望の初期インダクタンス値を得るためには巻数を増やさなければならず、直流抵抗値が高くなり、損失が大きかった。
直流重畳特性は、主に積層体に用いられる材質と構造によって決まるため、直流重畳特性を向上させる方法としては、積層体を最大磁束密度の高い材質で形成する方法と積層体の内部構造を磁気飽和し難い構造にする方法がある。
積層体を最大磁束密度の高い材質で形成する方法においては、近年、積層体の材質をフェライトから最大磁束密度の高い金属磁性体に変更する試みが行われている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、この様な従来の積層型電子部品は、小型化に伴う特性向上の要求は際限がなく、積層体の寸法の制約上、直流重畳特性の向上には限界があった。
他方、積層体の内部構造を磁気飽和し難い構造にする方法では、フェライトで形成された積層体内の磁路の一部に非磁性又は低透磁率の絶縁体で磁気ギャップを形成することが行われる(例えば、特許文献2を参照。)。また、この磁気ギャップについては、その位置を工夫したり(例えば、特許文献3、特許文献4を参照。)、その材料としてZn−Cu系フェライト(例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7を参照。)や、ガラスセラミックス(例えば、特許文献8、特許文献9を参照。)や、ZnCuTiO
4系セラミック(例えば、特許文献10を参照。)を用いたりすることが行われている。しかしながら、この様な従来の積層型電子部品は、積層体がフェライトで形成されているので、直流重畳特性の向上には限界があった。また、フェライトと磁気ギャップが同時焼成されるため、それぞれの材料が相互に拡散して電気的特性や温度特性が劣化したり、収縮係数や収縮挙動の違いによって積層体にクラックが発生したりする。
積層体を金属磁性体で形成した従来の積層型電子部品に、積層体を内部導線形成領域と上下のカバー領域で構成し、内部導線形成領域とカバー領域とで金属磁性体の粒子径を異ならせたもの(例えば、特許文献11を参照。)や、積層体を内部導線とその周囲の逆パターン部からなる内部導体形成層と磁性体層を積層して形成し、逆パターン部と磁性体層とで金属磁性体の粒子径を異ならせたもの(例えば、特許文献12を参照。)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-45985号公報
【特許文献2】特開昭56-155516号公報
【特許文献3】特開2004-14549号公報
【特許文献4】特開2001-44037号公報
【特許文献5】特開平2-165607号公報
【特許文献6】特開2006-261577号公報
【特許文献7】特開2005-45108号公報
【特許文献8】特開2009-44030号公報
【特許文献9】特開2008-16619号公報
【特許文献10】特開2013-249246号公報
【特許文献11】特開2013-55315号公報
【特許文献12】特開2013-55316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この様な従来の積層型電子部品は、単に内部導体間の金属磁性体の粒子径を小さくすることにより内部導体間の距離を小さくして密に巻回されたコイルを形成できるようにしたり、構造が単純なコイルの上下に金属磁性体の粒子径の大きな層を形成して透磁率を稼いでインダクタンス値を大きくしたりといった単にインダクタンス値を確保するものであり、磁束を制御して磁気飽和を緩和したり、インダクタの損失を低減したりするものはなかった。
インダクタの損失は、直流重畳特性と同様に主に積層体に用いられる材質と構造によって決まる。
従来の積層型電子部品において、積層体内の構造を工夫したものとしては、
図4に示す様に、絶縁体層と導体パターン42A〜42Eを積層して積層体41を形成すると共に、導体パターン42A〜42E間に非磁性体層43A〜43Dを形成し、各ターン間の磁気的結合を弱くすることにより、コイル全体での磁気結合を強固にしたものがある。しかしながら、この様な従来の積層型電子部品は、積層体をフェライトで形成した場合、大電流が入力されると磁気飽和し易く、インダクタの損失が大きくなり、特性が劣化するという問題があった。
また、従来の積層型電子部品において、材質を工夫して積層体を金属磁性体で形成した場合、十分な磁気特性を得ることができる粒子径が最小でも3μmと、フェライトと比較して大きく、導体パターン間に適用した場合、導体パターン間の絶縁確保の観点から薄型化することができず、導体パターン間の厚みが厚くなり、緻密な巻線構造を形成することができず、巻線長が長くなる。従って、従来の積層型電子部品は、限られた体積で特性を確保し難いという問題があった。
【0005】
本発明は、積層体を金属磁性体で形成した場合でも、高い直流重畳特性と低損失化を両立させることができる積層型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属磁性体粒子を用いて形成した金属磁性体層と、導体パターンを積層し、金属磁性体層間の導体パターンを螺旋状に接続して積層体内にコイルが形成された積層型電子部品において、積層体内に非磁性体部が形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層型電子部品は、金属磁性体粒子を用いて形成した金属磁性体層と、導体パターンを積層し、金属磁性体層間の導体パターンを螺旋状に接続して積層体内にコイルが形成され、積層体内に非磁性体部が形成されるので、高い直流重畳特性と低損失化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の積層型電子部品の第1の実施例を示す断面図である。
【
図2】本発明の積層型電子部品の第2の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層型電子部品は、少なくとも鉄と、ケイ素を含有する金属磁性体粒子を用いて形成した金属磁性体層と、導体パターンを積層し、金属磁性体層間の導体パターンを螺旋状に接続して積層体内にコイルが形成される。この積層体内において、コイルの磁路の一部に非磁性体部を設ける。従って、本発明の積層型電子部品は、この非磁性体部によってコイルにより発生する磁束を制御することができ、積層体を磁気飽和し難くできる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の積層型電子部品の実施例を
図1乃至
図3を参照して説明する。
図1は本発明の積層型電子部品の第1の実施例を示す断面図である。
図1において、11は積層体、12A〜12Eは導体パターン、13A〜13Dは非磁性体部である。
積層体11は、金属磁性体層と導体パターン12A〜12Eを積層して形成される。金属磁性体層は、鉄と、ケイ素とを含有する金属磁性合金の粉末や、鉄と、ケイ素と、クロムとを含有する金属磁性合金の粉末や、鉄と、ケイ素と、鉄よりも酸化しやすい元素とを含有する金属磁性合金の粉末等の金属磁性体粒子を用いて形成される。
コイル用導体パターン12A〜12Eは、銀、銀系、金、金系、銅、銅系等の金属材料をペースト状にした導体ペーストを用いて形成される。金属磁性体層間のコイル用導体パターン12A〜12Eを螺旋状に接続することにより、積層体11内にコイルが形成される。コイル用導体パターン12Aとコイル用導体パターン12B間には非磁性体部13Aが、コイル用導体パターン12Bとコイル用導体パターン12C間には非磁性体部13Bが、コイル用導体パターン12Cとコイル用導体パターン12D間には非磁性体部13Cが、コイル用導体パターン12Dとコイル用導体パターン12E間には非磁性体部13Dがそれぞれ形成される。非磁性体部13A〜13Dは、ガラスや、ガラスセラミックスや、ガラスとアルミナの混合物等の非磁性材料を用いて形成される。また、非磁性体部13A、13C、13Dは、上下のコイル用導体パターン間においてコイル用導体パターンの形に沿って形成される。さらに、非磁性体部13Bは、コイルの巻軸部分を横切る様に、コイル用導体パターンの外周よりも内側部分の全体に形成される。
そして、積層体11の両端面には外部端子14A、14Bが形成され、外部端子14Aと外部端子14B間にコイルが接続される。
【0011】
図2は本発明の積層型電子部品の第2の実施例を示す断面図である。
図2において、21は積層体、22A〜22Eは導体パターン、23A〜23Dは非磁性体部である。
積層体21は、金属磁性体層と導体パターン22A〜22Eを積層して形成される。金属磁性体層は、鉄と、ケイ素とを含有する金属磁性合金の粉末や、鉄と、ケイ素と、クロムとを含有する金属磁性合金の粉末や、鉄と、ケイ素と、鉄よりも酸化しやすい元素とを含有する金属磁性合金の粉末等の金属磁性体粒子を用いて形成される。
コイル用導体パターン22A〜22Eは、銀、銀系、金、金系、銅、銅系等の金属材料をペースト状にした導体ペーストを用いて形成される。金属磁性体層間のコイル用導体パターン22A〜22Eを螺旋状に接続することにより、積層体21内にコイルが形成される。コイル用導体パターン22Aとコイル用導体パターン22B間には非磁性体部23Aが、コイル用導体パターン22Bとコイル用導体パターン22C間には非磁性体部23Bが、コイル用導体パターン22Cとコイル用導体パターン22D間には非磁性体部23Cが、コイル用導体パターン22Dとコイル用導体パターン22E間には非磁性体部23Dがそれぞれ形成される。非磁性体部23A〜23Dは、ガラスや、ガラスセラミックスや、ガラスとアルミナの混合物等の非磁性材料を用いて形成される。また、非磁性体部23A、23C、23Dは、上下のコイル用導体パターン間においてコイル用導体パターンの形に沿って形成される。さらに、非磁性体部23Bは、コイルの巻軸部分を横切って、かつ、積層体21の両端面に露出する様に形成される。
そして、積層体21の両端面には外部端子24A、24Bが形成され、外部端子24Aと外部端子24B間にコイルが接続される。
【0012】
これらの本発明の積層型電子部品は、金属磁性体層を鉄と、ケイ素とを含有する金属磁性合金の粉末で形成し、非磁性体部をガラスセラミックで形成して、初期インダクタンス値で1μH得られる様にした状態で、コイルに流す直流電流によって得られるインダクタンス値を測定して、
図4に示す従来の積層型電子部品と同じ構造において本発明と同じ材質を用いて初期インダクタンス値で1μH得られる様にしたものと比較したところ
図3の様になった。
図3において、横軸は直流電流、縦軸はインダクタンス値を示している。
第1の実施例で示したものの特性31も第2の実施例で示したものの特性32も、直流電流が大きくなるにしたがって、
図4に示す従来の積層型電子部品の特性33よりもインダクタンス値が大きくなっている。また、直流抵抗値は、従来の積層型電子部品が165mΩであるのに対して本発明の積層型電子部品が175mΩとなり、インダクタンス値が30%低下した時の直流電流値は、従来の積層型電子部品が1.6Aであるのに対して本発明の積層型電子部品は1.9Aであった。
これは、積層体の透磁率が高く、かつ、インダクタンス値が大きいにも係らず、コイルパターンの巻軸部分に位置する非磁性体部によってコイルパターンの巻軸部分を通過する磁束を制御してコイルパターンの巻軸部分に存在する金属磁性体が磁気飽和するのを抑制することができた。また、コイルパターン間に位置する非磁性体部によってインダクタの損失を低減することができた。
【0013】
以上、本発明の積層型電子部品の実施例を述べたが、本発明はこの実施例に限られるものではない。例えば、金属磁性体層は、金属磁性体粒子にガラスを添加したり、鉄と、ケイ素とを含有する金属磁性合金の粉末や、鉄と、ケイ素と、クロムとを含有する金属磁性合金の粉末に、鉄よりも酸化しやすい元素を添加したりして形成してもよい。この時、ガラスや鉄よりも酸化しやすい元素は複数種類添加されてもよい。
また、非磁性体部の厚み、位置、数は特性に応じて変えることができる。
【符号の説明】
【0014】
11 積層体
12A〜12E 導体パターン
13A〜13D 非磁性体部