(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記学習処理部は、相関する前記曲げ動作量の実績と前記形状偏差の実績との比を前記影響係数の実績値として算出し、算出した前記影響係数の実績値を用い、初期設定の前記影響係数を補正することを特徴とする請求項1に記載の被圧延材の形状制御装置。
前記学習処理部は、前記形状計による前記被圧延材の実測形状の計測順に、前記影響係数の実績値を順次算出し、算出した前記影響係数の各実績値のうちの最新の実績値から前記計測順の逆順に遡る複数の実績値の平均値を、前記影響係数の補正値として算出し、初期設定の前記影響係数に前記影響係数の補正値を加算して、初期設定の前記影響係数を補正することを特徴とする請求項2に記載の被圧延材の形状制御装置。
被圧延材を冷間圧延する各ワークロールに前記被圧延材の厚さ方向の曲げ力を付与する各ベンダーの曲げ動作量が前記被圧延材の形状偏差に及ぼす影響を示す影響係数を、前記被圧延材の厚さ、幅、および金属種に応じて初期設定する初期設定ステップと、
前記各ワークロールによって冷間圧延された前記被圧延材の形状を計測する形状計測ステップと、
前記形状計測ステップによる前記被圧延材の実測形状と前記被圧延材の目標形状との偏差である前記形状偏差を算出する形状偏差算出ステップと、
前記各ベンダーの曲げ動作量の実績と前記形状偏差の実績との相関を学習し、相関する前記曲げ動作量の実績と前記形状偏差の実績とをもとに、初期設定の前記影響係数を補正する学習補正ステップと、
補正後の前記影響係数と前記形状偏差算出ステップによる前記形状偏差とを用いて、前記形状偏差の低減に要する前記各ベンダーの曲げ動作量の制御値を算出し、算出した前記曲げ動作量の制御値に基づき、前記各ワークロールに前記曲げ力を付与して前記各ワークロールを各々曲げる前記各ベンダーのロール曲げ動作を制御する制御ステップと、
を含み、
前記学習補正ステップは、初期設定の前記影響係数を補正した補正後の前記影響係数を、前記形状計測ステップによる前記被圧延材の形状の計測と同じ時間間隔で更新し、
前記制御ステップは、更新後の前記影響係数と前記形状偏差算出ステップによる前記形状偏差とを用いて、前記各ベンダーの曲げ動作量の制御値を算出し、算出した前記曲げ動作量の制御値に基づき、前記各ベンダーのロール曲げ動作を制御することを特徴とする被圧延材の形状制御方法。
前記学習補正ステップは、相関する前記曲げ動作量の実績と前記形状偏差の実績との比を前記影響係数の実績値として算出し、算出した前記影響係数の実績値を用い、初期設定の前記影響係数を補正することを特徴とする請求項4に記載の被圧延材の形状制御方法。
前記学習補正ステップは、前記形状計測ステップによる前記被圧延材の実測形状の計測順に、前記影響係数の実績値を順次算出し、算出した前記影響係数の各実績値のうちの最新の実績値から前記計測順の逆順に遡る複数の実績値の平均値を、前記影響係数の補正値として算出し、初期設定の前記影響係数に前記影響係数の補正値を加算して、初期設定の前記影響係数を補正することを特徴とする請求項5に記載の被圧延材の形状制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる被圧延材の形状制御装置および形状制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下では、被圧延材の一例として冷間圧延対象の鋼板を例示するが、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0021】
(被圧延材の形状制御装置)
まず、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置の一構成例を示す図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置1は、被圧延材の一例である鋼板15を冷間圧延する冷間圧延機10に適用されており、冷間圧延後の鋼板15の形状を計測する形状計2と、鋼板15の形状偏差を算出する形状偏差算出部3とを備える。また、形状制御装置1は、鋼板15の形状制御に用いるベンダー動作量の導出に必要な影響係数を学習補正する学習処理部4と、鋼板15の情報等を入力する入力部5と、鋼板15の形状制御に用いる各種データを記憶する記憶部6と、鋼板15の形状制御のために冷間圧延機10の各ベンダー13a,13bを制御する制御部7とを備える。
【0022】
形状計2は、鋼板15の厚さ方向(以下、板厚方向という)に鋼板15を挟み込む冷間圧延機10の各ワークロール11a,11bによって冷間圧延された鋼板15の形状を計測する。具体的には、形状計2は、鋼板15の幅方向(以下、板幅方向という)の所定領域毎に鋼板15の張力を検出する複数のセンサを備えたロール体等を用いて構成され、
図1に示すように、冷間圧延機10の出側に配置される。形状計2は、自身のロール軸を中心にロール体を1回転させる都度、冷間圧延機10の出側における鋼板15の板幅方向の張力分布を計測し、得られた張力分布をもとに、各ワークロール11a,11bによる冷間圧延後の鋼板15の形状を計測する。形状計2は、このように冷間圧延後の鋼板15の形状を計測する都度、得られた計測結果を、冷間圧延後の鋼板15の実測形状として形状偏差算出部3に送信する。
【0023】
形状偏差算出部3は、加減器等を用いて構成され、形状計2による鋼板15の実測形状と鋼板15の目標形状との偏差である形状偏差を算出する。本実施の形態において、鋼板15の実測形状は、形状計2によって所定の時間間隔で計測された鋼板15の冷間圧延後の形状である。鋼板15の目標形状は、冷間圧延後の鋼板15の目標とする形状である。この目標形状は、冷間圧延機10によって冷間圧延される被圧延材に共通のものであってもよいし、被圧延材の種類(寸法および金属種等)別に決められるものであってもよい。このような目標形状は、形状偏差算出部3に予め設定される。形状偏差算出部3は、形状計2から鋼板15の実測形状を取得し、その都度、取得した実測形状と予め設定された目標形状との差を、鋼板15の形状偏差として算出する。形状偏差算出部3は、このように算出した鋼板15の形状偏差を形状偏差実績値ΔAaとして学習処理部4と制御部7とに順次送信する。
【0024】
学習処理部4は、鋼板15の形状制御に用いるベンダー動作量の導出に必要な影響係数を学習補正するものである。具体的には、学習処理部4は、入力部5によって入力された鋼板15の厚さ、幅、および鋼種に応じて、鋼板15の形状偏差に対するベンダー動作量の影響係数を初期設定する。その後、学習処理部4は、ベンダー動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績との相関を学習して、これらの相関するベンダー動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績とをもとに、初期設定の影響係数を補正する。
【0025】
ここで、ベンダー動作量は、冷間圧延機10において、鋼板15を冷間圧延する各ワークロール11a,11bに板厚方向の曲げ力を付与して各ワークロール11a,11bを各々曲げる各ベンダー13a,13bの曲げ動作量である。影響係数は、このようなベンダー動作量が鋼板15の形状偏差に及ぼす影響を示すものである。学習処理部4は、制御部7からフィードバックされたベンダー動作量実績値ΔFaを各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の実績として取得し、形状偏差算出部3から入力された形状偏差実績値ΔAaを鋼板15の形状偏差の実績として取得する。学習処理部4は、このように取得したベンダー動作量実績値ΔFaと形状偏差実績値ΔAaとの比(ΔFa/ΔAa)を算出する。この比(ΔFa/ΔAa)は、各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績との相関(以下、ベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関という)を示すものである。具体的には、比(ΔFa/ΔAa)は、ベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関として、各ワークロール11a,11bを各々曲げた際の実際のベンダー動作量と、このベンダー動作量の曲げを施された各ワークロール11a,11bによって実際に冷間圧延された鋼板15の形状偏差との相関を示す。
【0026】
学習処理部4、上述した比(ΔFa/ΔAa)すなわちベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関を学習し、これにより、上述した鋼板15の形状偏差に及ぼすベンダー動作量の影響を学習する。その後、学習処理部4は、学習した比(ΔFa/ΔAa)によって示されるように相関する各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績とをもとに、初期設定の影響係数である影響係数初期値Ksを影響係数設定値Kに補正する。本実施の形態において、影響係数設定値Kは、鋼板15の形状制御に好適なベンダー動作量の導出に要する補正後の影響係数である。このような影響係数設定値Kは、影響係数初期値Ks、影響係数補正値Kr、および重み係数αを用い、次式(1)によって表される。
K=(1−α)×Ks+α×Kr ・・・(1)
なお、重み係数αは、冷間圧延機10による被圧延材の冷間圧延実績または実験等に基づき、式(1)を、被圧延材の形状制御に好適な影響係数設定値Kを算出し得る式にするように、0≦α≦1の範囲内の値に設定される。
【0027】
上述した影響係数の補正処理において、学習処理部4は、相関するベンダー動作量実績値ΔFaと形状偏差実績値ΔAaとの比(ΔFa/ΔAa)を影響係数実績値Kiとして算出し、算出した影響係数実績値Kiを用い、影響係数初期値Ksを補正する。この際、学習処理部4は、形状計2による鋼板15の実測形状の計測順に、影響係数実績値Ki(i=1,2,3,・・・,n)を順次算出する。学習処理部4は、算出した各影響係数実績値K1,K2,K3,・・・,Knのうちの最新の影響係数実績値Knから計測順の逆順に遡る複数の影響係数実績値を抽出し、抽出した複数の影響係数実績値の平均値を、影響係数補正値Krとして算出する。学習処理部4は、上述した式(1)に基づき、重み係数αを加味しながら影響係数初期値Ksに影響係数補正値Krを加算して、影響係数初期値Ksを影響係数設定値Kに補正する。
【0028】
また、学習処理部4は、上述した式(1)に基づいて影響係数初期値Ksを補正した補正後の影響係数、すなわち、影響係数設定値Kを、所定の時間間隔で更新する。本実施の形態において、影響係数設定値Kを更新する時間間隔は、例えば形状計2が冷間圧延後の鋼板15の形状を計測する時間間隔と同じである。学習処理部4は、形状計2が鋼板15の実測形状を計測する都度、最新の影響係数実績値を用い、影響係数補正値Krを算出して更新する。ついで、学習処理部4は、式(1)に基づき、重み係数αを加味しながら更新後の影響係数補正値Krを影響係数初期値Ksに加算して、最新の影響係数設定値Kを算出する。このようにして、学習処理部4は、形状計2の形状計測と同じ時間間隔で影響係数設定値Kを最新のものに順次更新する。その都度、学習処理部4は、最新の影響係数設定値Kを制御部7に送信する。
【0029】
一方、入力部5は、冷間圧延機10によって冷間圧延される鋼板15に関する情報を入力するものである。具体的には、入力部5は、被圧延材に対して冷間圧延工程等の各種工程を実行する製造ラインの操業を管理するプロセスコンピュータ等を用いて構成される。入力部5は、被圧延材の製造ラインに鋼板15のコイルが投入される都度、投入されたコイルから払い出される鋼板15の厚さ、幅、および鋼種等の情報(以下、鋼板情報と適宜いう)を学習処理部4に入力する。なお、入力部5は、入力キーおよびマウス等の入力デバイスを用いて構成され、作業者による入力操作に応じて、冷間圧延機10によって冷間圧延される鋼板15の鋼板情報を学習処理部4に入力するものであってもよい。あるいは、入力部5は、上述したプロセスコンピュータおよび入力デバイス等を適宜組み合わせたものでもよい。
【0030】
記憶部6は、ハードディスク等の更新可能にデータを蓄積し得る記憶デバイスを用いて構成され、鋼板15の形状制御を目的とするベンダー動作量の制御に必要な各種データを更新可能に記憶する。具体的には、
図1に示すように、記憶部6は、影響係数初期値Ksを設定するための初期値データ6aと、影響係数の補正処理に用いる実績値データ6bとを更新可能に記憶する。
【0031】
初期値データ6aは、鋼板15の厚さ、幅、および鋼種別に各々複数設定される鋼板形状偏差の定数(以下、形状偏差理論値ΔAbという)およびベンダー動作量の定数(以下、ベンダー動作量理論値ΔFbという)を含むデータ群である。複数の形状偏差理論値ΔAbおよびベンダー動作量理論値ΔFbは、鋼板15の厚さ、幅、および鋼種毎に相関している。例えば、対象とする鋼板15の厚さ、幅、および鋼種が同じである形状偏差理論値ΔAbとベンダー動作量理論値ΔFbとでは、このベンダー動作量理論値ΔFbの曲げを加えた各ワークロール11a,11bによる冷間圧延後の鋼板15の形状偏差が形状偏差理論値ΔAbになる、という関係が成立する。これら複数の形状偏差理論値ΔAbおよびベンダー動作量理論値ΔFbは、過去の冷間圧延実績または実験等に基づき、鋼板15の厚さ、幅、および鋼種別に対応付けて予め設定される。上述した学習処理部4によって初期設定される影響係数初期値Ksは、初期値データ6aの中から鋼板15の厚さ、幅、および鋼種別に抽出されたベンダー動作量理論値ΔFbと形状偏差理論値ΔAbとの比(ΔFb/ΔAb)によって算出される。
【0032】
実績値データ6bは、上述した学習処理部4によって算出された比(ΔFa/ΔAa)、すなわち、影響係数実績値Kiを複数含むデータ群である。この実績値データ6bには、学習処理部4によって算出された複数の影響係数実績値Ki(i=1,2,3,・・・,n)のうち、少なくとも最新の影響係数実績値Knが含まれる。また、本実施の形態において、実績値データ6bに含まれる影響係数実績値Kiのデータ数には、上限値Nを設定してもよい。この場合、記憶部6は、影響係数実績値Kiのデータ数(蓄積数)が上限値N以下であれば、学習処理部4から新たに入力される影響係数実績値Kiを実績値データ6bとして順次格納する。一方、影響係数実績値Kiのデータ数が上限値Nを超過した場合、記憶部6は、学習処理部4からの最新の影響係数実績値Knを実績値データ6bとして格納するとともに、この実績値データ6bに含まれる複数の影響係数実績値iのうち最古のものを削除する。このようにして、記憶部6は、実績値データ6bのデータ数を上限値Nに制限しつつ、実績値データ6bを、少なくとも最新の影響係数実績値Knを含む最新のデータに更新する。
【0033】
制御部7は、鋼板15の形状制御を目的とするベンダー動作量の制御を行うものである。具体的には、制御部7は、所定のプログラム等を記憶するメモリおよびこのメモリ内のプログラムを実行するCPU等を用いて構成される。制御部7は、学習処理部4による補正後の影響係数(最新の影響係数設定値K)と、形状偏差算出部3による最新の形状偏差実績値ΔAaとを用いてベンダー動作量制御値ΔFを算出する。ベンダー動作量制御値ΔFは、鋼板15の形状偏差の低減に要する各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の制御値である。このベンダー動作量制御値ΔFは、学習処理部4から取得した最新の影響係数設定値K、形状偏差算出部3から取得した最新の形状偏差実績値ΔAa、およびPIゲインGを用い、次式(2)によって表される。
ΔF=ΔAa×K×G ・・・(2)
【0034】
制御部7は、式(2)に示すように、最新の形状偏差実績値ΔAaに対して最新の影響係数設定値KおよびPIゲインGを乗じ、これにより、この最新の形状偏差実績値ΔAaをベンダー動作量制御値ΔFに変換する。制御部7は、このように式(2)によって算出(変換)したベンダー動作量制御値ΔFに基づき、各ワークロール11a,11bに板厚方向の曲げ力を付与して各ワークロール11a,11bを各々曲げる各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を制御する。この際、制御部7は、このベンダー動作量制御値ΔFを示す制御信号を各ベンダー13a,13bに各々送信して、鋼板15の好適な形状制御に要するベンダー動作量を各ベンダー13a,13bに指示する。これにより、制御部7は、各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を、指示したベンダー動作量の動作に制御し、このベンダー動作量の制御を通じて、鋼板15の形状偏差を低減するように鋼板15の冷間圧延時の形状をPI制御する。
【0035】
また、制御部7は、ベンダー動作量制御値ΔFの送信によって各ベンダー13a,13bに指示したロール曲げ動作と同じベンダー動作量であるベンダー動作量実績値ΔFaを、今回の各ベンダー13a,13bに対するロール曲げ動作の制御実績として学習処理部4にフィードバックする。このようにフィードバックされたベンダー動作量実績値ΔFaは、上述したように、学習処理部4によるベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関の学習および影響係数補正値Krの算出に用いられる。
【0036】
一方、冷間圧延機10は、本発明の実施の形態にかかる形状制御装置1が適用される圧延機の一例である。本実施の形態において、冷間圧延機10は、鋼板15をその搬送方向に沿って連続的に冷間圧延するタンデム型冷間圧延設備(図示せず)の最後段のものである。例えば、このタンデム型冷間圧延設備が鋼板15の搬送方向に沿って5つの冷間圧延機を備える場合、
図1に示す冷間圧延機10は、このタンデム型冷間圧延設備のうちの5つ目(スタンド番号=5)の冷間圧延機である。このような冷間圧延機10は、
図1に示すように、上下一対のワークロール11a,11bと、ワークロール11a,11bの各冷間圧延作用を各々補強する各バックアップロール12a,12bと、板厚方向にワークロール11a,11bを各々曲げる各ベンダー13a,13bとを備える。
【0037】
ワークロール11a,11bは、鋼板15の搬送経路を挟んで板厚方向に対向するように配置される。ワークロール11a,11bは、この搬送経路に沿って順次搬送される鋼板15をその板厚方向に挟み込みつつ、自身の外周方向に回転して、鋼板15を連続的に冷間圧延する。この一対のワークロール11a,11bによる鋼板15の冷間圧延の方向は、この鋼板15の搬送方向(
図1に示す太線矢印参照)と同じである。また、鋼板15の搬送方向は、この鋼板15の長手方向と同じであり、この鋼板15の板幅方向および板厚方向に対して垂直である。
【0038】
バックアップロール12a,12bは、一対のワークロール11a,11bを挟んで対向するように配置される。これら2つのバックアップロール12a,12bのうち、上側のバックアップロール12aは、
図1に示すように、上側のワークロール11aの外周面に上方から接触して、このワークロール11aを下側のワークロール11bと対向する方向に押圧する。これにより、バックアップロール12aは、鋼板15の冷間圧延に要する荷重をワークロール11aに加える。一方、下側のバックアップロール12bは、
図1に示すように、下側のワークロール11bの外周面に下方から接触して、このワークロール11bを上側のワークロール11aと対向する方向に押圧する。これにより、バックアップロール12bは、鋼板15の冷間圧延に要する荷重をワークロール11bに加える。
【0039】
ベンダー13a,13bは、鋼板15の形状制御を目的として、鋼板15の板厚方向にワークロール11a,11bを各々曲げるロール曲げ動作を行う。
図2は、本発明の実施の形態における各ベンダーのロール曲げ動作を説明する図である。なお、
図2には、鋼板15の長手方向(搬送方向)から見たワークロール11a,11bおよびバックアップロール12a,12bが図示されている。
【0040】
ベンダー13a,13bは、
図1に示すように、ワークロール11a,11bに各々配置される。具体的には、ベンダー13aは、
図2に示すワークロール11aのロール軸11cを回転可能に軸支しつつ、鋼板15の板厚方向の曲げ力をワークロール11aに付与する。この際、ワークロール11aの曲げ力の方向は、例えば
図2に示すように、バックアップロール12aのロール軸12cを介してワークロール11aに加えられる荷重とは反対の方向である。ベンダー13aは、上述した制御部7の制御に基づいて、指示された曲げ動作量のロール曲げ動作をワークロール11aに対して行い、これにより、下側のワークロール11bに向かって凸状となるようにワークロール11aを曲げる。
【0041】
一方、ベンダー13bは、
図2に示すワークロール11bのロール軸11dを回転可能に軸支しつつ、鋼板15の板厚方向の曲げ力をワークロール11bに付与する。この際、ワークロール11bの曲げ力の方向は、例えば
図2に示すように、バックアップロール12bのロール軸12dを介してワークロール11bに加えられる荷重とは反対の方向である。ベンダー13bは、上述した制御部7の制御に基づいて、指示された曲げ動作量のロール曲げ動作をワークロール11bに対して行い、これにより、上側のワークロール11aに向かって凸状となるようにワークロール11bを曲げる。
【0042】
上述したようにロール曲げ動作を行うベンダー13a,13bは、ワークロール11a,11bが鋼板15を噛み込んで冷間圧延した際、これらのワークロール11a,11bの対向する外周面同士が平行となるように、ワークロール11a,11bを各々曲げる。これにより、ベンダー13a,13bは、ワークロール11a,11bによる冷間圧延時の鋼板15の圧延荷重を板幅方向に均一となるように調整し、この結果、鋼板15の冷間圧延後の実測形状を目標形状に近づける。
【0043】
(被圧延材の形状制御方法)
つぎに、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法について説明する。
図3は、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法の一例を示すフローチャートである。本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法は、上述した形状制御装置1(
図1参照)を用いて、処理対象の鋼板15のコイル毎に、
図3に示すステップS101〜S108を実行し、これにより、冷間圧延中の鋼板15の形状を制御するものである。
【0044】
詳細には、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法において、形状制御装置1は、
図3に示すように、まず、被圧延材として製造ラインに投入されたコイルからの鋼板15の寸法等を示す鋼板情報を取得する(ステップS101)。ステップS101において、入力部5は、鋼板15の厚さ、幅、および鋼種を示す鋼板情報を学習処理部4に入力する。学習処理部4は、この入力部5によって入力された鋼板情報をもとに、鋼板15の厚さ、幅、および鋼種の各情報を取得する。
【0045】
ついで、形状制御装置1は、
図1に示す冷間圧延機10の各ワークロール11a,11bによって冷間圧延される鋼板15の形状偏差に対するベンダー動作量の影響係数を初期設定する(ステップS102)。ステップS102において、学習処理部4は、ステップS101によって入力部5から取得した鋼板15の厚さ、幅、および鋼種に応じて、鋼板15の形状偏差に対するベンダー動作量の影響係数を初期設定する。
【0046】
ここで、ベンダー動作量は、上述したように、鋼板15を冷間圧延する各ワークロール11a,11bに鋼板15の板厚方向の曲げ力を付与する各ベンダー13a,13bの曲げ動作量である。影響係数は、このベンダー動作量が鋼板15の形状偏差に及ぼす影響を示す係数である。上述したステップS102において、学習処理部4は、記憶部6に格納されている初期値データ6aの中から、この鋼板15の厚さ、幅、および鋼種に対応付けられたベンダー動作量理論値ΔFbと形状偏差理論値ΔAbとを選択的に読み出す。ついで、学習処理部4は、読み出したベンダー動作量理論値ΔFbと形状偏差理論値ΔAbとの比(ΔFb/ΔAb)を算出する。学習処理部4は、この算出した比(ΔFb/ΔAb)を影響係数初期値Ksとして設定する。
【0047】
続いて、形状制御装置1は、各ワークロール11a,11bに対する各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を初期制御する(ステップS103)。ステップS103において、制御部7は、ベンダー動作量制御値ΔFを初期設定し、この初期設定したベンダー動作量制御値ΔFを示す制御信号を各ベンダー13a,13bに送信して、各ベンダー13a,13bに初期設定のベンダー動作量制御値ΔFを指示する。これにより、制御部7は、この指示したベンダー動作量制御値ΔF分の曲げ力を各ワークロール11a,11bに付与するようにベンダー動作量を初期的に制御する。これと同時に、制御部7は、この初期制御したベンダー動作量分の曲げ力の付与によって各ワークロール11a,11bを板厚方向に各々曲げるように、各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を初期的に制御する。
【0048】
この際、制御部7は、プログラミング等によって予め設定されたベンダー動作量制御値ΔFを用いて各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を初期制御してもよい。あるいは、制御部7は、上述したステップS102によって初期設定された影響係数(影響係数初期値Ks)に鋼板15の形状偏差(実績値または設定値)およびPIゲイン等のパラメータを乗じて、初期設定するベンダー動作量制御値ΔFを算出し、この算出した初期設定のベンダー動作量制御値ΔFを用いて上述のロール曲げ動作を初期制御してもよい。
【0049】
上述したステップS103を実行後、形状制御装置1は、冷間圧延機10の各ワークロール11a,11bによる冷間圧延後の鋼板15の形状を計測する(ステップS104)。ステップS104において、形状計2は、各ワークロール11a,11bによって冷間圧延された鋼板15の形状を計測する。その都度、形状計2は、計測した鋼板15の形状を、冷間圧延後の鋼板15の実測形状とし、この実測形状を示す電気信号を形状偏差算出部3に送信する。
【0050】
つぎに、形状制御装置1は、冷間圧延後の鋼板15の形状偏差を算出する(ステップS105)。ステップS105において、形状偏差算出部3は、上述したステップS104による鋼板15の実測形状を形状計2から取得する。ついで、形状偏差算出部3は、この取得した鋼板15の実測形状と、予め設定された目標形状との差の算出処理を行い、これにより、現時点における鋼板15の実測形状と目標形状との偏差である形状偏差を算出する。その都度、形状偏差算出部3は、算出した形状偏差を、この鋼板15の形状偏差実績値ΔAaとし、この形状偏差実績値ΔAaを示す電気信号を学習処理部4および制御部7に送信する。
【0051】
その後、形状制御装置1は、各ベンダー13a,13bのベンダー動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績とを学習して、鋼板15の形状偏差に対するベンダー動作量の影響係数を補正する(ステップS106)。
【0052】
ステップS106において、学習処理部4は、形状偏差算出部3から最新の形状偏差実績値ΔAaを取得する。また、制御部7は、ベンダー動作量制御値ΔFの最新実績である最新のベンダー動作量実績値ΔFaを学習処理部4にフィードバックする。学習処理部4は、この制御部7からフィードバックされた最新のベンダー動作量実績値ΔFaを取得する。学習処理部4は、これらの取得したベンダー動作量実績値ΔFaと形状偏差実績値ΔAaとをもとに、ベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関を学習する。ベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関は、上述したように、各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績との相関であり、比(ΔFa/ΔAa)によって表される。学習処理部4は、この学習したベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関に示されるように互いに相関する曲げ動作量の実績と形状偏差の実績とをもとに、初期設定の影響係数すなわち影響係数初期値Ksを補正する。
【0053】
この際、学習処理部4は、上述したように相関する各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の実績と鋼板15の形状偏差の実績との比(ΔFa/ΔAa)を影響係数実績値Kiとして算出し、算出した影響係数実績値Kiを用い、影響係数初期値Ksを補正する。
【0054】
詳細には、学習処理部4は、上述したステップS104による鋼板15の実測形状の計測順に、影響係数実績値Kiを順次算出する。ついで、学習処理部4は、算出した影響係数実績値Kiを、上述した実績値データ6b(
図1参照)の一部として記憶部6内に格納する。これにより、記憶部6は、実績値データ6bを、学習処理部4による最新の影響係数実績値Kiを含む最新のデータに更新する。学習処理部4は、この更新後の実績値データ6bの中から、上述したように算出した各影響係数実績値Kiのうちの最新の影響係数実績値Knから形状計2による実測形状の計測順の逆順に遡る複数の影響係数実績値を選択的に読み出す。続いて、学習処理部4は、これらの読み出した複数の影響係数実績値の平均値を、影響係数補正値Krとして算出する。その後、学習処理部4は、上述した式(1)に基づき、重み係数αを加味しながら影響係数初期値Ksに影響係数補正値Krを加算して、影響係数初期値Ksを影響係数設定値Kに補正し、これと同時に、影響係数設定値Kを最新のものに更新する。その都度、学習処理部4は、最新の影響係数設定値Kを示す電気信号を制御部7に送信する。
【0055】
上述したステップS106を実行後、形状制御装置1は、補正後の影響係数および鋼板15の形状偏差を用いて、各ワークロール11a,11bに対する各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を制御する(ステップS107)。
【0056】
ステップS107において、制御部7は、ステップS106による補正後の影響係数(最新の影響係数設定値K)とステップS105による鋼板15の形状偏差実績値ΔAaとを用いて、ベンダー動作量制御値ΔFを算出する。本実施の形態において、ベンダー動作量制御値ΔFは、上述したように、鋼板15の形状偏差の低減に要する各ベンダー13a,13bの曲げ動作量の制御値である。制御部7は、学習処理部4から取得した最新の影響係数設定値Kを用い、形状偏差算出部3から取得した最新の形状偏差実績値ΔAaを、このようなベンダー動作量制御値ΔFに変換する。すなわち、制御部7は、上述した式(2)に基づき、最新の形状偏差実績値ΔAaに、最新の影響係数設定値Kおよび予め設定されたPIゲインGを乗じて、ベンダー動作量制御値ΔFを算出する。
【0057】
その後、制御部7は、算出したベンダー動作量制御値ΔFに基づき、各ワークロール11a,11bに板厚方向の曲げ力を付与して各ワークロール11a,11bを各々曲げる各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を制御する。この際、制御部7は、この算出したベンダー動作量制御値ΔFを示す制御信号を各ベンダー13a,13bに送信して、各ベンダー13a,13bにベンダー動作量制御値ΔFを指示する。これにより、制御部7は、この指示したベンダー動作量制御値ΔF分の曲げ力を各ワークロール11a,11bに付与するようにベンダー動作量を制御し、このベンダー動作量の制御によって、各ベンダー13a,13bのロール曲げ動作を制御する。
【0058】
各ベンダー13a,13bは、上述したような制御部7の制御に基づき、ベンダー動作量分の曲げ力を各ワークロール11a,11bに付与して、板厚方向に各ワークロール11a,11bを各々曲げる。形状制御装置1は、このような各ベンダー13a,13bの制御を通じて、各ワークロール11a,11bによる冷間圧延中の鋼板15の形状を目標形状に近づけるように制御する。
【0059】
また、ステップS107において、制御部7は、ベンダー動作量制御値ΔFとして各ベンダー13a,13bに送信(指示)した最新のベンダー動作量をベンダー動作量実績値ΔFaとして学習処理部4にフィードバックする。このベンダー動作量実績値ΔFaは、ステップS106におけるベンダー動作量実績−鋼板形状偏差実績の相関の学習および影響係数補正値Krの算出に用いられる。
【0060】
上述したステップS107を実行後、形状制御装置1は、コイル1つ分の鋼板15に対する冷間圧延時の形状制御の処理が完了したか否かを判断する(ステップS108)。ステップS108において、鋼板15の長手方向の全域に対する形状制御の処理が完了していない場合(ステップS108,No)、形状制御装置1は、上述したステップS104に戻り、このステップS104以降の処理ステップを繰り返す。一方、鋼板15の長手方向の全域に亘って形状制御の処理が完了した場合(ステップS108,Yes)、形状制御装置1は、本処理を終了する。
【0061】
ここで、形状制御装置1は、コイル1つ分の鋼板15毎に、
図3に示したステップS101〜S108の各処理を順次実行する。特に、形状制御装置1は、鋼板15の長手方向の全域に対する冷間圧延中の形状制御が完了するまで、ステップS104〜S108の各処理を繰り返し実行する。この際、形状制御装置1は、繰り返し実行するステップS106において、初期設定の影響係数を補正した補正後の影響係数、すなわち、影響係数設定値Kを所定の間隔で更新する。
【0062】
図4は、本発明の実施の形態における影響係数の更新処理を説明する図である。
図4において、時間tは、冷間圧延機10が鋼板15を冷間圧延し始めてからの経過時間である。学習処理部4は、所定の時間間隔でステップS106を繰り返し実行することにより、ステップS106において影響係数設定値Kをこの時間間隔で更新する。
【0063】
具体的には、ステップS106を実行する時間間隔として周期Tが設定された場合、学習処理部4は、
図4に示すように、周期Tと同じ時間間隔で影響係数実績値Ki(=ΔFa/ΔAa)順次算出する。なお、周期Tは、時間tの経過に伴い進行する鋼板15の冷間圧延の開始から完了の必要時間、すなわち、鋼板15の先端部を冷間圧延し始めてから鋼板15の尾端部を冷間圧延し終わるまでに要する時間に比べて十分に短い。
【0064】
学習処理部4は、周期Tの時間間隔でステップS106を繰り返すことにより、影響係数実績値Kiとして、例えば、複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
Cをこの順に取得する(
図4参照)。これら複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
Cのデータ数が上限値N以下である場合、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
Cの平均値である影響係数平均値K
a1を算出する。この場合、学習処理部4は、
図4に示すように、算出した影響係数平均値K
a1を影響係数補正値Krとして用いる。一方、学習処理部4は、上述したステップS102において、ベンダー動作量理論値ΔFbと形状偏差理論値ΔAbとの比(ΔFb/ΔAb)を影響係数初期値Ksとして既に設定している。学習処理部4は、式(1)に基づき、重み係数αを加味しながら影響係数初期値Ksに影響係数補正値Krを加算し、これにより、影響係数初期値Ksを影響係数設定値Kに補正する。
【0065】
上述したステップS106の実行から周期Tの時間経過後、学習処理部4は、影響係数実績値K
dを新たに算出する(
図4参照)。ここで、複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
C,K
dのデータ数が上限値Nを超過した場合、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
C,K
dの中から、最新の影響係数実績値K
dを含む複数の影響係数実績値を抽出する。例えば、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
C,K
dのうち、最新の影響係数実績値K
dから時系列の逆順(形状計2による鋼板15の形状の計測順とは逆順)に遡るN個の影響係数実績値K
d,K
c,・・・,K
2を選択的に抽出する。この際、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
1,K
2,K
3,・・・,K
C,K
dの中から、最古の影響係数実績値K
1を削除等によって外す。
【0066】
学習処理部4は、このように抽出した複数の影響係数実績値K
2,K
3,・・・,K
dの平均値である影響係数平均値K
a2を新たに算出する。この場合、学習処理部4は、
図4に示すように、前回の影響係数平均値K
a1を新規の影響係数平均値K
a2に置き換え、この新規の影響係数平均値K
a2を影響係数補正値Krとして用いる。その後、学習処理部4は、式(1)に基づき、重み係数αを加味しながら、影響係数初期値Ksに、新規の影響係数平均値K
a2による新規の影響係数補正値Krを加算する。これにより、学習処理部4は、影響係数初期値Ksを影響係数設定値Kに補正するとともに、影響係数設定値Kを、周期Tの時間間隔で最新のものに更新する。
【0067】
さらに周期Tの時間経過後、学習処理部4は、影響係数実績値K
eを新たに算出する(
図4参照)。ここで、複数の影響係数実績値K
2,K
3,・・・,K
d,K
eのデータ数が上限値Nを超過した場合、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
2,K
3,・・・,K
d,K
eの中から、最新の影響係数実績値K
eを含む複数の影響係数実績値を抽出する。例えば、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
2,K
3,・・・,K
d,K
eのうち、最新の影響係数実績値K
eから時系列の逆順(形状計測順の逆順)に遡るN個の影響係数実績値K
e,K
d,・・・,K
3を選択的に抽出する。この際、学習処理部4は、これら複数の影響係数実績値K
2,K
3,・・・,K
d,K
eの中から、最古の影響係数実績値K
2を削除等によって外す。
【0068】
学習処理部4は、このように抽出した複数の影響係数実績値K
3,・・・,K
eの平均値である影響係数平均値K
a3を新たに算出する。この場合、学習処理部4は、
図4に示すように、前回の影響係数平均値K
a2を新規の影響係数平均値K
a3に置き換え、この新規の影響係数平均値K
a3を影響係数補正値Krとして用いる。その後、学習処理部4は、式(1)に基づき、重み係数αを加味しながら、影響係数初期値Ksに、新規の影響係数平均値K
a3による新規の影響係数補正値Krを加算する。これにより、学習処理部4は、影響係数初期値Ksを影響係数設定値Kに補正するとともに、影響係数設定値Kを、周期Tの時間間隔で最新のものに更新する。
【0069】
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、各ワークロールによって冷間圧延された被圧延材の形状を計測し、計測した被圧延材の実測形状と被圧延材の目標形状との偏差である形状偏差を算出し、各ワークロールに板厚方向の曲げ力を付与する際のベンダー動作量の実績と被圧延材の形状偏差の実績との相関を学習し、これらの相関するベンダー動作量の実績と形状偏差の実績とをもとに、被圧延材の厚さ、幅、および金属種に応じて初期設定した影響係数を補正し、補正後の影響係数と被圧延材の形状偏差とを用いて、被圧延材の形状偏差の低減に要するベンダー動作量の制御値を算出し、算出したベンダー動作量の制御値に基づき、各ワークロールを各々曲げる各ベンダーのロール曲げ動作を制御している。
【0070】
このため、被圧延材に対する冷間圧延の継続に伴い劣化変動するワークロールのサーマルクラウン、ロール外周面の粗さ(凹凸)形状、およびロール径等のロール状態の影響を受けた冷間圧延後の被圧延材の形状偏差と、この形状偏差を発生させた冷間圧延時のベンダー動作量との相関を、被圧延材の全域に亘って取得でき、取得した相関を加味して、ベンダー動作量の形状偏差に対する影響係数を補正することができる。これにより、ワークロールのロール状態の劣化変動に応じて適切に上述の影響係数を補正することができ、補正後の影響係数を用いて形状偏差の実績から変換したベンダー動作量によって、冷間圧延中の被圧延材の形状を被圧延材の全域に亘り制御することができる。この結果、被圧延材の全域に亘って冷間圧延後の被圧延材の形状偏差を低減できることから、被圧延材の冷間圧延時に被圧延材の形状不良を安定して抑制することができる。
【0071】
本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置および形状制御方法を用いることにより、冷間圧延工程における被圧延材の形状不良(耳波、中伸び等)の発生率を従来技術に比べて低減することができる。例えば、冷間圧延した被圧延材の全数のうち、冷間圧延工程の次工程(焼鈍工程等)に直行できず、形状修正工程での形状矯正を余儀なくされる被圧延材の数量を、従来技術に比べて1/3程度に低減することができる。また、冷間圧延した被圧延材の全域のうち、被圧延材からカットして取り除かれてしまう形状不良部分の割合を従来技術に比べて1/3程度に低減することができる。この結果、被圧延材の冷間圧延工程に要するコストおよび時間の低減を促進することができる。
【0072】
なお、上述した実施の形態では、タンデム型冷間圧延設備の最後段の冷間圧延機10に形状制御装置1が適用されていたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置および形状制御方法は、タンデム型冷間圧延設備のうち、何れのスタンド番号の冷間圧延機に適用されてもよいし、複数の冷間圧延機に適用されてもよいし、タンデム型以外(単一型)の冷間圧延設備に適用されてもよい。また、上述した冷間圧延機10は、一対のワークロール11a,11bおよび一対のバックアップロール12a,12bを備える4段式のものに限らず、複数対のバックアップロールを備える多段式(6段以上)のものであってもよい。
【0073】
また、上述した実施の形態では、影響係数初期値Ksを補正する影響係数補正値Krとして、複数の影響係数実績値Kiの平均値を用いていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、影響係数補正値Krは、算出した複数の影響係数実績値Kiのうちの一つ(例えば最新の影響係数実績値Kn)であってもよい。
【0074】
さらに、上述した実施の形態では、補正後の影響係数である影響係数設定値Kを所定の時間間隔で更新していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、影響係数設定値Kは、処理対象である被圧延材が所定の距離分、搬送される毎に更新されてもよい。すなわち、影響係数設定値Kを更新する所定の間隔は、被圧延材の冷間圧延に伴い経過する所定の時間であってもよいし、順次搬送される被圧延材の所定の搬送距離であってもよい。
【0075】
また、上述した実施の形態では、形状制御される被圧延材の一例として冷間圧延対象の鋼板15を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、被圧延材は、鋼板または帯状鋼板(鋼帯)であってもよいし、鋼以外の鉄合金の金属板であってもよいし、銅またはアルミニウム等の鉄合金以外の金属板であってもよい。
【0076】
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。