(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1ないし7のいずれか1項に記載のブレーキパッド。
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の前記ブレーキパッドと、ディスクに向けて前記ブレーキパッドを押圧するピストンと、前記ピストンを移動可能に収納するキャリパとを備えることを特徴とするキャリパ装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のブレーキパッドおよびキャリパ装置を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明のキャリパ装置について詳細に説明する。
[キャリパ装置]
図1および
図2は、それぞれ、本発明のキャリパ装置の一例を示す断面図である。
図1および
図2は、それぞれ、キャリパ装置をディスクに配置した状態を示す図である。これらのうち、
図1は、ディスクの制動が解除されている状態を示すための図であり、
図2は、キャリパ装置により、ディスクが制動されている状態を示すための図である。
なお、以下の説明では、
図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0022】
図1および
図2に示すキャリパ装置100は、回転(回動)する円盤状のディスク200を制動するために用いられる。ディスク200は、
図1および
図2に示すように、回転軸210を回転の中心軸として、矢印Aの方向に回転する。
【0023】
キャリパ装置100は、ディスク200の近傍に設置される。このキャリパ装置100は、キャリパ50と、ピストン30と、ブレーキパッド10とを有している。
【0024】
キャリパ50は、ピストン30を収納するケーシングに相当し、
図1および
図2に示すように、下側に開放する空間40と、空間40に連通する流路51とを有している。空間40は、円柱状をなしており、この空間40には、ピストン30が収納されている。
【0025】
空間40を規定するキャリパ50の内周面には、環状の溝55が設けられている。この溝55内には、弾性材料で構成されたリング状のシール部材60が設置されている。また、シール部材60は、ピストン30の外周面に、当該ピストン30が摺動可能なように圧接されている。
【0026】
なお、本実施形態では、空間40内にシール部材60が1つ設置されているが、シール部材の数は、これに限定されない。例えば、空間40内には、
図1中の上下方向に、2つ以上のシール部材が並設されていてもよい。なお、シール部材の数は、キャリパ装置100の用途や、要求される性能等に応じて、適宜設定すればよい。
【0027】
また、このようなシール部材60によるシール構造も、図示の構造に限定されないことは言うまでもない。
【0028】
ピストン30は、ブレーキパッド10をディスク200に向けて押圧する機能を有している。
【0029】
前述したように、空間40内には、ピストン30が収納されており、ピストン30の外周面には、シール部材60が圧接されている。このため、空間40は、シール部材60によって液密的に封止されている。
【0030】
空間40内は、ブレーキ液で満たされている。キャリパ装置100は、図示しない液圧装置によって、ブレーキ液を、流路51を介して空間40内に供給したり、空間40の外に流出したりすることができる。シール部材60を設けることにより、ブレーキ液の空間40外部への漏れ出しや、空間40への異物の進入を防止することができる。
【0031】
ブレーキパッド10は、制動時にディスク200に圧接され、ディスク200との間に生じる摩擦力によって、ディスク200の回転を制御する(回転速度を低下させる)機能を有している。
【0032】
ブレーキパッド10は、ピストン30とディスク200との間に設置されている。ブレーキパッド10は、裏板11と摩擦材12とを接合した接合体で構成されている。裏板11は、ピストン30側に位置し、摩擦材12は、ディスク200側に位置している。裏板11の上面は、ピストン30の下面に当接している。なお、両者は、接合されていても、接合されていなくてもよい。また、摩擦材12の下面は、ディスク200の上面と対面している。
【0033】
本発明のキャリパ装置は、対向型の装置、浮動型の装置のいずれにも適用することができる。
対向型のキャリパ装置の場合には、図示しないが、ディスク200の中心線220を介して、前述した空間40、ピストン30およびブレーキパッド10を備える制御機構と同様の構成の制御機構が、ディスクの下側に対向配置(鏡像関係の配置で)されている。すなわち、対向型のキャリパ装置の場合には、ディスク200を介して、空間、ピストンおよびブレーキパッドを備える一対の制御機構が設けられる。かかる構成の対向型のキャリパ装置では、一対のブレーキパッドの双方が、キャリパ50に対して可動し、ディスク200を挟んで、ディスク200の回転を制動する。また、このような制御機構の組数(対の数)は、1組に限らず、例えば、2組、3組等、複数組であってもよい。
【0034】
一方、浮動型のキャリパ装置の場合には、図示しないが、ディスク200の中心線220を介して、前述したブレーキパッド10と同様の構成のブレーキパッドが、ディスク200の下側に配置され、この位置でキャリパ50に固定されている。すなわち、ディスクを介して、キャリパ50に対して可動するブレーキパッド10と、キャリパ50に固定されたブレーキパッドとの一対のブレーキパッドが設けられている。また、ブレーキパッドの組数(対の数)は、1組に限らず、例えば、2組、3組等、複数組であってもよい。
【0035】
次にキャリパ装置100の作動について説明する。
キャリパ装置100は、非制動時(初期状態)では、摩擦材12の下面が、ディスク200の上面と若干の隙間を隔てて離間している。
【0036】
この状態から、回転しているディスク200を制動するには、前記液圧装置によって、流路51を介して空間40内へブレーキ液を供給する。これにより、空間40内におけるブレーキ液のピストン30に対する圧力(液圧)が上昇し、ピストン30がディスク200側へ移動する。そして、移動するピストン30に伴って、ブレーキパッド10も
図1中の下方向に移動し、その摩擦材12は、
図2に示すように、ディスク200に圧接される。その結果、ブレーキパッド10の摩擦材12とディスク200との間で発生する摩擦力によって、ディスク200の回転が抑制される。
【0037】
なお、空間40内のブレーキ液の液圧の上昇により、ピストン30がディスク側に移動した状態では、シール部材60のピストン30に圧接されている部分がディスク200側へ引っ張られており、シール部材60が弾性変形している。
【0038】
一方、ディスク200の制動を解除するには、前記液圧装置による空間40内へのブレーキ液の供給を停止するか、ブレーキ液を空間40から流路51を介して前記液圧装置へ抜き取る。これにより、流路51を介して空間40内のブレーキ液の一部が空間40外へ流出し、ブレーキ液のピストン30に対する圧力(液圧)が低下する。このため、ピストン30をディスク200側へ押圧する力が減少し、シール部材60は、その復元力により、非制動時の状態に復元しようとする。これにより、ピストン30が、ディスク200から離間する方向(上方)へ移動する。そして、摩擦材12の下面がディスク200の上面から離間するか、または、摩擦材12の下面のディスク200の上面への圧接力が減少する。その結果、ディスク200の制動が解除される。
【0039】
本発明のキャリパ装置が対向型の場合には、ディスク200の中心線220を介して、対向配置される、ピストンおよびブレーキパッドのそれぞれが、制動時、制動解除時共に、前述した作動と同様の作動をする。対向型のキャリパ装置の場合には、制動時に少なくとも1対のブレーキパッドでディスク200をその両面側から挟むので、より大きな制動力が得られる。
【0040】
また、浮動型の場合には、キャリパ50に対して可動するブレーキパッド10と、キャリパ50に固定されたブレーキパッドとでディスク200を挟んで制動する。すなわち、可動するブレーキパッド10が、ディスク200に押圧されると、キャリパ50はその反力により、ディスク200から離間する方向(上方)に移動する。このキャリパ50の上方への移動により、ブレーキパッド10に対向配置され、かつ、キャリパ50に固定されたブレーキパッド(図示せず)が上方、すなわち、ディスク200に接近する方向に移動し、ディスク200に押圧される。その結果、可動するブレーキパッド10と、固定されたブレーキパッドとで、ディスク200を挟み、制動する。
【0041】
本発明のキャリパ装置の用途は、特に限定されず、例えば、航空機、自動車(車両)、オートバイ、自転車、鉄道車両、エレベーター、ロボット、建設機械、農業機械、その他産業機械等に用いることができる。
【0042】
[ブレーキパッドの第1実施形態]
次に、本発明のキャリパ装置が備えるブレーキパッドの第1実施形態について説明する。
【0043】
図3は、本発明のブレーキパッドの第1実施形態を示す平面図、
図4は、本発明のブレーキパッドの第1実施形態を示すディスクの径方向における断面図、
図5は、本発明のブレーキパッドをディスクに配置した状態を示すための図である。
【0044】
本発明のブレーキパッドは、制動時にディスクに圧接され、ディスクとの間で発生する摩擦力によって、ディスクの回転を制御することができる。
【0045】
ブレーキパッド10は、前述したように、裏板11と摩擦材12とが接合した接合体で構成されている。
本実施形態において、
図4に示すように、裏板11は、ディスク200の中心側の端(縁部)における厚さ(図中、h
2で表される厚さ)が、ディスク200の外周側の端(縁部)の厚さ(図中、h
1で表される厚さ)よりも大きくなっている。
換言すれば、裏板11は、摩擦材12が接合される面(接合面)と反対側の面(ピストン30と当接する面)が略平坦面で構成されている。また、裏板11の接合面は、その一端(ディスク200の中心側の端)が他方の端(ディスク200の外周側の端)より、ディスク200に近くなるように傾いた傾斜面で構成されている。
一方、摩擦材12は、
図4に示すように、ディスク200の外周側の端(縁部)における厚さが、ディスク200の中心側の端(縁部)における厚さよりも大きくなっている。換言すれば、摩擦材12は、裏板11が接合される面(接合面)と反対側の面(ディスク200と当接する面)が略平坦面で構成されている。また、摩擦材12の接合面は、裏板11の接合面の形状に対応して、その一端(ディスク200の外周側の端)が他方の端(ディスク200の中心側の端)より、ピストン30に近くなるように傾いた傾斜面で構成されている。
【0046】
このような構成とすることにより、摩擦材12のディスク200の外周側の領域が、ディスク200の中心側の領域よりも早くすり減る現象(偏摩耗)が生じた場合であっても、偏摩耗が生じた領域において裏板11がむき出しになるのを抑制することができる。その結果、ブレーキの制動力が低下するのを防止することができる。
【0047】
また、本実施形態では、
図4に示すように、裏板11は、その厚さが、ディスク200の外周側の端(縁部)から中心側の端(縁部)に向かって、連続的に漸増するよう構成されている。このような構成とすることにより、摩擦材12に偏摩耗した場合であっても、偏摩耗が生じた部位において裏板11がむき出しになるのをより効果的に抑制することができる。また、裏板11の曲げ剛性を優れたものとすることができる。
【0048】
また、裏板11のディスク200の中心側の縁部における厚さの最小値をh
2[mm]、裏板11のディスク200の外周側の縁部における厚さの最大値をh
1[mm]としたとき、h
2−h
1<3の関係を満足するのが好ましく、1<h
2−h
1<3の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、摩擦材12に偏摩耗が生じた場合であっても、偏摩耗が生じた部位において裏板11がむき出しになるのをより効率よく抑制することができる。これに対して、h
2−h
1が前記上限値を超えると、ブレーキパッド10の大きさ等によっては、ディスク200の中心側の縁部における摩擦材12の厚さを十分に厚くすることができないおそれがある。
【0049】
また、裏板11のディスク200の外周側の縁部における厚さの最大値は、3mm〜5mmであるのが好ましく、4mm〜5mmであるのがより好ましい。これにより、ブレーキパッド10の軽量化を図るとともに、裏板11の耐久性を向上させることができる。
【0050】
また、裏板11のディスク200の中心側の縁部における厚さの最小値は、4mm〜7mmであるのが好ましく、5mm〜6mmであるのがより好ましい。これにより、ブレーキパッド10の軽量化を図るとともに、裏板11の曲げ剛性をより向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、ブレーキパッド10(摩擦材12および裏板11)の平面形状は、
図3に示すように、略四角形状をなしている。そして、摩擦材12は、平面視で、裏板11よりも小さいサイズであり、平面視で、裏板11に包含されるように位置している。
【0052】
なお、本実施形態では、摩擦材12および裏板11の平面形状は、それぞれ、略四角形状をなしているが、これに限定されない。摩擦材12および裏板11の平面形状は、例えば、略円形状、多角形状等をなしていてもよい。また、これらの平面形状は、それぞれ、異なる形状をなしていてもよい。なお、これらの平面形状は、ブレーキパッド10の用途に合わせて適宜設定すればよい。
【0053】
以下、ブレーキパッド10を構成する摩擦材12、裏板11を構成する材料について詳細に説明する。
【0054】
<摩擦材12>
摩擦材12は、制動時にディスク200と当接し、この当接による摩擦によって、ディスク200の回転を抑制する機能を有している。
【0055】
摩擦材12は、制動時にディスク200と当接し、ディスク200との間に生じる摩擦によって、摩擦熱を発生する。そのため、摩擦材12の構成材料は、制動時の摩擦熱に対応できるように、耐熱性に優れることが好ましい。その具体的な構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ロックウール、ケブラー繊維、銅繊維のような繊維材と、樹脂のような結合材と、硫酸バリウム、ケイ酸ジルコニウム、カシューダスト、グラファイトのような充填材とを含む混合物が挙げられる。
【0056】
また、摩擦材12の平均厚みは、特に限定されないが、3mm〜15mmであるのが好ましく、5mm〜12mmであるのがより好ましい。摩擦材12の平均厚みが、前記下限値未満の場合、摩擦材12を構成する材料等によっては、その機械的強度が低下することにより、破損が生じやすく、寿命が短くなる場合がある。また、摩擦材12の平均厚みが、前記上限値を超えた場合、摩擦材12を備えるキャリパ装置100全体が若干大型化してしまう場合がある。
【0057】
裏板11は、硬質かつ高い機械的強度を有する。このため、裏板11は、変形しにくく、摩擦材12を確実に支持することができるとともに、制動時にピストンの押圧力を、均一に摩擦材12に伝達することができる。また、裏板11は、制動時に、摩擦材12がディスク200に摺接することで生じる摩擦熱や振動をピストンに伝え難くすることができる。
【0058】
裏板11は、樹脂と、複数本の繊維とを含む裏板用組成物で構成されているのが好ましく、特に、樹脂と、複数本の第1の繊維と、複数本の第2の繊維とを含む裏板用組成物で構成されているのがより好ましい。
【0059】
以下、裏板11を構成する裏板用組成物について詳細に説明する。
<<裏板用組成物>>
以下、裏板用組成物を構成する各材料について詳細に説明する。
【0060】
(i)樹脂
本実施形態において、裏板用組成物は、樹脂を含む。
【0061】
なお、本実施形態では、樹脂は、室温で、固体状、液体状、半固体状等のいかなる形態であってもよい。
【0062】
樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、反応硬化性樹脂、および、嫌気硬化性樹脂等の硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、特に、硬化後の線膨張率や弾性率等の機械特性が優れるため、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0063】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネートエステル樹脂、シリコーン樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、熱硬化性樹脂としては、特に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、フェノール樹脂がより好ましい。これにより、裏板11は、摩擦材12が制動時にディスク200と当接することで生じる摩擦熱に対して、特に優れた耐熱性を発揮することができる。
【0064】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、アリールアルキレン型ノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、フェノール樹脂としては、特に、フェノールノボラック樹脂が好ましい。これにより、裏板11を低コストかつ高い寸法精度で製造することができるとともに、得られた裏板11は、特に優れた耐熱性を発揮することができる。
【0065】
フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜15,000程度が好ましい。重量平均分子量が前記下限値未満であると、樹脂の粘度が低すぎて裏板用組成物を調製するのが困難となる場合があり、前記上限値を超えると、樹脂の溶融粘度が高くなるため、裏板用組成物の成形性が低下する場合がある。フェノール樹脂の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算の重量分子量として規定することができる。
【0066】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂などの臭素化型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、エポキシ樹脂としては、特に、比較的分子量の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。これにより、裏板用組成物の流動性を高めることができるため、裏板11の製造時における裏板用組成物の取り扱い性や成形性をさらに良好にすることができる。また、裏板11の耐熱性をさらに向上させる観点から、エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、特にトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0067】
ビスマレイミド樹脂としては、分子鎖の両末端にそれぞれマレイミド基を有する樹脂であれば、特に限定されないが、さらにフェニル基を有する樹脂が好ましい。具体的には、ビスマレイミド樹脂としては、例えば、下記式(1)で表わされる樹脂を用いることができる。ただし、ビスマレイミド樹脂は、その分子鎖の両末端以外の位置に結合するマレイミド基を有していてもよい。
【0069】
式(1)中、R
1〜R
4は、水素または炭素数1〜4の置換若しくは無置換の炭化水素基であり、R
5は、置換または無置換の有機基である。ここで、有機基とは、異種原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、異種原子としては、O、S、N等が挙げられる。R
5は、好ましくはメチレン基、芳香環およびエーテル結合(−O−)が任意の順序で結合した主鎖を有する炭化水素基であり、より好ましくは主鎖中において任意の順序で結合するメチレン基、芳香環およびエーテル結合の合計数が15個以下の炭化水素基である。なお、主鎖の途中には、置換基および/または側鎖が結合していても良く、その具体例としては、例えば、炭素数3個以下の炭化水素基、マレイミド基、フェニル基等が挙げられる。
【0070】
具体的には、ビスマレイミド樹脂としては、例えば、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、m−フェニレンビスマレイミド、p−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、N,N’−エチレンジマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンジマレイミド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
裏板用組成物中における樹脂の含有率は、特に限定されないが、20質量%〜80質量%であるのが好ましく、30質量%〜50質量%であるのがより好ましい。
【0072】
樹脂の含有率が、前記下限値未満の場合、樹脂の種類によっては、裏板用組成物を構成する他の材料(特に、第1の繊維、第2の繊維)との結着強度が十分に得られない場合がある。また、樹脂の含有率が、前記上限値を超えた場合、後述する第1の繊維および第2の繊維の量が相対的に減少し、第1の繊維および第2の繊維を含むことの効果が十分に発揮されないことがある。
【0073】
(ii)繊維
本実施形態において、裏板用組成物は、複数本の繊維を含むが、複数本の繊維として複数本の第1の繊維を含むのが好ましく、複数本の第1の繊維と複数本の第2の繊維とを含むのがさらに好ましい。
【0074】
すなわち、裏板用組成物は、複数本の繊維の集合体である繊維群を含むのが好ましく、少なくとも複数本の第1の繊維の集合物である第1の繊維群を含むのがより好ましく、第1の繊維群と、複数本の第2の繊維の集合物である第2の繊維群とを含むのがさらに好ましい。
【0075】
第1の繊維群に属する第1の繊維は、その平均長さが、第2の繊維群に属する第2の繊維の平均長さよりも長い(換言すれば、第2の繊維群に属する第2の繊維は、その平均長さが、第1の繊維群に属する第1の繊維の平均長さより短い)。このように、裏板用組成物は、異なる平均長さの2種の繊維を含むことにより、その成形度(成形のし易さ)が向上し、成形された裏板11は、機械的強度が高くなる。
【0076】
以下、かかる第1の繊維と第2の繊維について詳細に説明する。
第1の繊維の平均長さをL1[μm]とし、第2の繊維の平均長さをL2[μm]としたとき、L2/L1が0.001〜0.5の関係を満足するのが好ましく、0.01〜0.4の関係を満足するのがより好ましく、0.015〜0.3の関係を満足するのがさらに好ましい。第1の繊維の平均長さL1と、第2の繊維の平均長さL2との比率L2/L1が、前記範囲内であると、裏板用組成物は、その成形性がより向上し、裏板11は、寸法精度および機械的強度が特に高くなる。
【0077】
平均長さの異なる2種の繊維を比較すると、第2の繊維よりも繊維の長さが長い第1の繊維は、主に、裏板11の機械的強度の確保、および、裏板11の形状安定性に寄与する。
【0078】
一方、繊維の長さが短い第2の繊維は、裏板11の形状安定性にも寄与するが、主に、比較的繊維の長さが長い第1の繊維同士の間を埋める(補間)役割を担う。すなわち、第2の繊維は、第1の繊維の隙間に入り込むことにより、第1の繊維が存在しない部分における裏板11の機械的強度を増大、すなわち、第1の繊維による効果を補強する作用(補強作用)を発揮する。詳述すると、第1の繊維は、その長さがゆえに、裏板11の面方向に沿って配向する傾向が高い。これに対して、第2の繊維は、第1の繊維に入り込むが、第2の繊維は、裏板11の面方向に沿って配向するとともに、裏板11の面方向とは異なる方向に沿っても配向する傾向を示す。このように、第1の繊維と第2の繊維との配向状態が異なることにより、第1の繊維、第2の繊維共に、少ない量で十分な機械的強度および形状安定性を裏板11に付与することができる。
【0079】
以上のような機能は、前記L2/L1が前記範囲内であると、特に顕著に発揮される。さらに、第1の繊維および第2の繊維が、同一または同種の材料で構成されている場合には、この傾向は顕著に現れる。
【0080】
第1の繊維の平均長さL1は、5mm〜50mmであるのが好ましく、8mm〜12mmであるのがより好ましい。第1の繊維の平均長さL1が、前記下限値未満の場合、第1の繊維の構成材料やその含有率によっては、裏板11の形状安定性が十分に得られない場合がある。また、第1の繊維の平均長さL1が、前記上限値を超えた場合には、裏板11の成形時において、裏板用組成物の流動性が十分に得られない場合がある。
【0081】
また、第2の繊維の平均長さL2は、50μm〜10mmであるのが好ましく、150μm〜5mmであるのがより好ましく、200μm〜3mmであるのがさらに好ましい。第2の繊維の平均長さL2が、前記下限値未満の場合、例えば、第1の繊維の含有率が少ないときに、第1の繊維による効果の補強作用を増大させるために、裏板用組成物中における第2の繊維の含有率を、比較的多くする必要が生じる場合がある。また、第2の繊維の平均長さL2が、前記上限値を超えた場合、第1の繊維の含有率が多い場合には、第1の繊維の隙間に、第2の繊維が入り込む割合が低下する。
【0082】
第1の繊維の平均径D1は、5μm〜20μmであるのが好ましく、6μm〜18μmであるのがより好ましく、7μm〜16μmであるのがさらに好ましい。第1の繊維の平均径D1が、前記下限値未満の場合、第1の繊維の構成材料や含有率によっては、裏板11の成形時に第1の繊維が破損しやすくなる。また、第1の繊維の平均径D1が、前記上限値を超えた場合、裏板11内において、第1の繊維を比較的多いところと比較的少ないところで、強度にムラが生じる場合がある。
【0083】
また、第2の繊維の平均径D2は、5μm〜20μmであるのが好ましく、6μm〜18μmであるのがより好ましく、7μm〜16μmであるのがさらに好ましい。第2の繊維の平均径D2が、前記下限値未満の場合、第1の繊維および第2の繊維の構成材料や含有率によっては、裏板11の成形時に第2の繊維が破損しやすくなる。また、第2の繊維の平均径D2が、前記上限値を超えた場合、第1の繊維の含有率によっては、第2の繊維は、第1の繊維の隙間に入り込みにくくなる。
【0084】
第1の繊維の断面形状は、特に限定されないが、円形および楕円形等の略円形等、三角形、四角形および六角形等の多角形、扁平形、星形等の異形等のいかなる形状であってもよい。これらの中でも、第1の繊維の断面形状は、特に、略円形または扁平形であるのが好ましい。これにより、裏板11の表面の平滑性を向上することができる。
【0085】
第2の繊維の断面形状は、特に限定されないが、円形および楕円形等の略円形等、三角形および四角形等の多角形、扁平形、星形等の異形等のいかなる形状であってもよい。これらの中でも、第2の繊維の断面形状は、特に、略円形または扁平形であるのが好ましい。これにより、裏板用組成物の成形時の取扱性がより向上し、その成形性がさらに良好となる。
【0086】
第1の繊維は、裏板用組成物中において、単体で存在していてもよく、第1の繊維のいくつかが緻密に一体化された繊維束で存在してもよい。第1の繊維が繊維束をなす場合、その繊維束は、撚線状、直線状、網目状等のいかなる状態であってもよい。第2の繊維についても、これと同様である。
【0087】
第1の繊維および第2の繊維としては、それぞれ、例えば、アラミド繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維(脂肪族ポリアミド繊維)およびフェノール繊維等の有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維およびバサルト繊維等の無機繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維および青銅繊維等の金属繊維等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、第1の繊維および第2の繊維としては、それぞれ、特に、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維であることがより好ましく、第1の繊維および第2の繊維の少なくとも一方が、ガラス繊維であることがさらに好ましい。
【0088】
ガラス繊維を用いた場合には、単位体積あたりの裏板用組成物の均一性が向上し、裏板用組成物の成形性が特に良好となる。さらに、裏板用組成物の均一性が向上することで、形成された裏板11における内部応力の均一性が向上し、結果として、裏板11のうねりが小さくなる。また、高負荷における裏板11の耐摩耗性をさらに向上させることができる。また、炭素繊維またはアラミド繊維を用いた場合には、裏板11の機械的強度をさらに高めることができるとともに、裏板11をより軽量化することができる。
【0089】
ガラス繊維を構成するガラスの具体例としては、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、Hガラスが挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維を構成するガラスとしては、特に、Eガラス、Tガラス、または、Sガラスが好ましい。このようなガラス繊維を用いることにより、第1の繊維および/または第2の繊維の高弾性化を達成することができ、その熱膨張係数も小さくすることができる。
【0090】
また、炭素繊維の具体例としては、例えば、引張り強度3500MPa以上の高強度の炭素繊維や、弾性率230GPa以上の高弾性率の炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維、ピッチ系の炭素繊維のいずれであってもよいが、引張り強度が高いため、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維が好ましい。
【0091】
また、アラミド繊維を構成するアラミド樹脂は、メタ型構造およびパラ型構造のいずれの構造を有していてもよい。
【0092】
第1の繊維および第2の繊維は、それぞれ、異なる材料で構成されていてもよいが、同一または同種の材料で構成されていることが好ましい。第1の繊維および第2の繊維の構成材料として同一または同種の材料を用いることにより、第1の繊維および第2の繊維は、それらの機械的強度が近くなり、裏板用組成物を調整する際の取扱性が向上する。
【0093】
ここで、本明細書において、同種とは、例えば、第1の繊維がガラス繊維であるならば、第2の繊維がガラス繊維であることを意味し、Eガラス、Cガラス等のガラスの種類の違いについては、「同種」の範囲に含まれる。
【0094】
また、本明細書において、同一とは、例えば、第1の繊維および第2の繊維が、共に、ガラス繊維であるだけでなく、第1の繊維がEガラスで構成される繊維であるならば、第2の繊維もEガラスで構成される繊維であることを意味する。
【0095】
第1の繊維および第2の繊維が、同種の材料で構成されている場合には、第1の繊維および第2の繊維は、特に、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく、ガラス繊維であることがより好ましい。第1の繊維および第2の繊維が、共にガラス繊維である場合には、それらの機械的強度が近くなり、裏板用組成物を調整する際の取扱性がより良好となる。さらに、第1の繊維および第2の繊維の双方共に、前述したガラス繊維の利点を享受することができるため、裏板用組成物の流動性がより向上し、その成形性が特に良好となる。
【0096】
また、第1の繊維および第2の繊維が、共にガラス繊維であり、さらに、これらの双方を同一のガラスで構成する場合には、そのガラスの種類は、特に、Eガラスであることが好ましい。これにより、前述した効果がさらに顕著となる。
【0097】
第1の繊維および第2の繊維のうち少なくとも一方は、予め表面処理が施されているのが好ましい。
【0098】
予め表面処理を施すことにより、第1の繊維および/または第2の繊維は、その裏板用組成物中での分散性を高めることや、樹脂との密着力を高めること等ができる。
【0099】
このような表面処理の方法としては、例えば、カップリング剤処理、酸化処理、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、および、ブラスト処理が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、表面処理の方法としては、特に、カップリング剤処理が好ましい。
【0100】
カップリング剤処理に用いるカップリング剤は、特に限定されず、樹脂の種類によって適宜選択することができる。
【0101】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、カップリング剤としては、特に、シラン系カップリング剤が好ましい。これにより、第1の繊維および第2の繊維は、樹脂に対する密着性が特に優れたものとなる。
【0102】
シラン系カップリング剤としては、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、メタクリルシランカップリング剤、クロロシランカップリング剤、アクリルシランカップリング剤等が挙げられる。
【0103】
裏板11中において、第1の繊維および第2の繊維は、それぞれ、例えば、裏板11の厚さ方向に沿って配向してもよく、裏板11の面方向に沿って配向してもよく、裏板11の厚さ方向または面方向に対して所定の角度で傾斜して配向してもよく、あるいは、配向しなくて(無配向であって)もよい。ただし、第1の繊維および第2の繊維のうちの少なくとも第1の繊維は、裏板11の面方向に沿って配向していることが好ましい。これにより、裏板11の面方向に沿った寸法変化をさらに低下させることができる。その結果、裏板11の反り等の変形をより確実に抑制または防止することができる。なお、第1の繊維および第2の繊維が裏板11の面方向に沿って配向するとは、第1の繊維または第2の繊維が、裏板11の面に対して略平行に配向している状態のことを意味する。
【0104】
さらに、第1の繊維および/または第2の繊維が裏板11の面方向に沿って配向している場合において、裏板11を、
図5に示すように、ディスク200に対して配置した状態で、第1の繊維および/または第2の繊維は、面内においてランダムな方向を向いていてもよく、ディスク200の径方向に沿って配向していてもよく、ディスク200の進行方向Aに沿って配向していてもよく、それらの中間の方向(所定の方向)に沿って配向していてもよい。ただし、第1の繊維および第2の繊維のうちの少なくとも第1の繊維が面内においてランダムな方向を向いている場合、裏板11の曲げ強さや圧縮強さが面内の全方向において均一で高くなる。また、少なくとも第1の繊維が、ブレーキパッド10が制動するディスク200の進行方向Aに沿って配向している場合、回転するディスク200の進行方向Aに対する、裏板11の曲げ強さや圧縮強さを、選択的に増大することが可能である。その結果、裏板11を備えるキャリパ装置100の、ディスク200に対する制動性能が、特に良好となる。なお、単に「第1の繊維または第2の繊維が、ディスク200の進行方向Aに沿って配向している」と表現する場合、第1の繊維または第2の繊維が、裏板11の面方向に沿って配向しており、かつ、ディスク200の進行方向Aに沿って略平行に配向していることを意味する。
【0105】
裏板用組成物中における、第1の繊維と第2の繊維との合計の含有率は、20質量%〜80質量%であることが好ましく、30質量%〜70質量%であることがより好ましい。第1の繊維と第2の繊維との合計の含有率が、前記下限値未満の場合、第1の繊維および第2の繊維の材料によっては、裏板11の機械的強度が低下する場合がある。また、第1の繊維と第2の繊維との合計の含有率が、前記上限値を超えた場合、裏板11の成形時において、裏板用組成物の流動性が低下することする場合がある。
【0106】
第1の繊維の含有率をX1[質量%]、第2の繊維の含有率をX2[質量%]としたとき、X2/X1が0.05〜1の関係を満足するのが好ましく、0.1〜0.25の関係を満足するのがより好ましい。第1の繊維の含有率と第2の繊維の含有率との比率X2/X1が前記下限値未満の場合、第1の繊維の長さが比較的長いと、裏板11の製造時において、第1の繊維に破損等生じやすくなる。また、第1の繊維の含有率と第2の繊維の含有率との比率X2/X1が前記上限値を超えた場合、第1の繊維の長さが比較的短いものであると、裏板11の機械的強度が低下することがある。さらに、第1の繊維および第2の繊維が、同一または同種の材料で構成されている場合には、これらの傾向は顕著に現れる。
【0107】
第1の繊維の含有率は、35質量%〜80質量%であることが好ましく、40質量%〜75質量%であることがより好ましく、50質量%〜65質量%であることがさらに好ましい。第1の繊維の含有率が、前記下限値未満の場合、第1の繊維の長さや第2の繊維の含有率によっては、裏板11の成形時の収縮率が若干大きくなってしまう場合がある。第1の繊維の含有率が、前記上限値を超えた場合、第1の繊維の長さや第2の繊維の含有率によっては、裏板11の製造時において、第1の繊維に破損等が生じやすくなる場合がある。
【0108】
第2の繊維の含有率は、2質量%〜40質量%であることが好ましく、3質量%〜35質量%であることがより好ましく、5質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。第2の繊維の含有率が、前記下限値未満の場合、第2の繊維の長さや第1の繊維の含有量によっては、裏板11の機械的特性が十分に得られない場合がある。また、第2の繊維の含有率が、前記上限値を超えた場合、裏板11の成形時において、裏板用組成物の流動性が十分に得られない場合がある。
【0109】
なお、裏板用組成物は、前述したような複数本の第1の繊維(第1の繊維群)および複数本の第2の繊維(第2の繊維群)以外に、1本または複数本の第3の繊維等を含んでいてもよい。
【0110】
裏板用組成物は、さらに、必要に応じて、硬化剤、硬化助剤、充填剤、離型剤、顔料、増感剤、酸増殖剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤および帯電防止剤等を含んでいてもよい。
【0111】
硬化剤は、樹脂の種類等に応じて、適宜選択して用いることができ、特定の化合物に限定されない。
樹脂として、例えば、フェノール樹脂を用いる場合には、硬化剤としては、2官能以上のエポキシ系化合物、イソシアネート類、および、ヘキサメチレンテトラミン等から選択して用いることができる。
【0112】
また、樹脂として、エポキシ樹脂を用いる場合には、硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアミンジアミドなどのアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物などの酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂などのポリフェノール化合物、イミダゾール化合物等から選択して用いることができる。これらの中でも、取り扱い作業性、環境面からも、硬化剤として、ノボラック型フェノール樹脂を選択することが好ましい。
【0113】
特に、エポキシ樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂を用いる場合には、硬化剤としては、ノボラック型フェノール樹脂を選択して用いることが好ましい。これにより、裏板用組成物の硬化物(裏板11)の耐熱性を向上させることができる。
【0114】
硬化剤を用いる場合には、裏板用組成物における硬化剤の含有率は、使用する硬化剤や樹脂の種類等によって適宜設定されるが、例えば、0.1質量%〜30質量%であることが好ましい。これにより、裏板11を任意の形状に容易に形成することができる。
【0115】
また、硬化助剤としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール化合物、三級アミン化合物、有機リン化合物などを用いることができる。
【0116】
硬化助剤を用いる場合には、裏板用組成物における硬化助剤の含有率は、使用する硬化助剤や硬化剤の種類等によって適宜設定されるが、例えば、0.001質量%〜10質量%が好ましい。これにより、裏板用組成物をより容易に硬化させることができるため、裏板11を容易に成形することができる。
【0117】
また、充填材としては、特に限定されないが、無機充填材、有機充填材等が挙げられる。無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズ、ミルドカーボン、グラファイト等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、有機充填材としては、例えば、ポリビニールブチラール、アクリロニトリルブタジエンゴム、パルプ、木粉等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特に、裏板11(成形品)の靭性を向上させる効果がさらに高まるという観点からは、充填材(有機充填材)として、アクリロニトリルブタジエンゴムを用いることが好ましい。
【0118】
充填材を用いる場合には、裏板用組成物における充填材の含有率は、特に限定されないが、1質量%〜30質量%であることが好ましい。これにより、裏板11の機械的強度をさらに向上することができる。
【0119】
また、離型剤としては、特に限定されないが、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等を用いることができる。
【0120】
離型剤を用いる場合には、裏板用組成物中における離型剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%〜5.0質量%が好ましい。これにより、裏板11を任意の形状に容易に形成することができる。
【0121】
裏板11の平均厚みは、特に限定されないが、2mm〜12mmであることが好ましく、3mm〜10mmであることがより好ましく、4mm〜8mmであることがさらに好ましい。裏板11の厚みが前記下限値未満であると、樹脂の種類によっては、制動時に生じる摩擦熱に対する裏板11の耐熱性が若干低くなる場合がある。また、裏板11の厚みが前記上限値を超えると、ブレーキパッド10を備えるキャリパ装置100全体が若干大型化してしまう。
【0122】
裏板用組成物を調製する方法としては、例えば、特表2002−509199号公報の記載に順じてロービングを使用する粉体含浸法を用いることができる。
【0123】
ロービングを使用する粉体含浸法とは、流動床技術を使用して、第1の繊維および第2の繊維を乾式法によりコーティングする方法である。具体的には、まず、第1の繊維および第2の繊維以外の裏板用組成物を構成する他の材料を、事前の混練なしで流動床から、直接、第1の繊維および第2の繊維に被着させる。次に短時間の加熱によって、他の材料を第1の繊維および第2の繊維に固着させる。そして、このようにコーティングされた第1の繊維および第2の繊維を、冷却装置および場合によって加熱装置からなる状態調節セクションに通す。その後、冷却され、かつ、コーティングされた第1の繊維および第2の繊維を引き取り、ストランドカッターにより、それぞれ所望の長さに切断する。その後、このようにして切断された第1の繊維と第2の繊維とを混合することにより、裏板用組成物を調製することができる。
【0124】
また、裏板11を形成する方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形および射出成形が挙げられる。
【0125】
圧縮成形することにより、成形時の第1の繊維および/または第2の繊維の配向度を弱めることができる。このため、強度分布、成形収縮、線膨張等の物性について、裏板11中の異方性を低減させることができる。また、圧縮成形は、肉厚な裏板11を成形する場合に好適に用いることができる。また、圧縮成形によれば、裏板用組成物中に含まれる第1の繊維および第2の繊維のそれぞれの長さを、裏板11中においても、より安定に維持することができる。また、成形時の裏板用組成物のロスを低減することもできる。
【0126】
一方、トランスファー成形することにより、成形される裏板11の寸法をより高い精度で制御することができる。このため、トランスファー成形は、複雑な形状の裏板11や高い寸法精度を必要とする裏板11を製造するのに好適に用いることができる。また、トランスファー成形は、インサート成形にも好適に適用することができる。
【0127】
また、射出成形することにより、裏板11の成形サイクルをさらに短縮することができる。このため、裏板11の量産性を向上させることができる。また、射出成形は、複雑な形状の裏板11にも好適に用いることができる。また、裏板用組成物を高速で射出した場合、裏板11中での第1の繊維および第2の繊維の配向度を高めることができる等、裏板11中での第1の繊維および第2の繊維の配向状態についての制御をさらに高い精度で行うことができる。
【0128】
また、ブレーキパッド10の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、裏板11の形成後に、摩擦材12と張り合わせる方法、裏板11と摩擦材12とを一体成形する方法等が挙げられる。
【0129】
[ブレーキパッドの第2実施形態]
次に、本発明のブレーキパッドの第2実施形態について説明する。
【0130】
図6は、本発明のブレーキパッドの第2実施形態を示すディスクの径方向における断面図である。
以下、第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0131】
本実施形態に係るブレーキパッド10では、裏板11は、
図6に示すように、その厚さが、ディスク200の径方向に沿って、ディスク200の外周側の端(縁部)から中心側の端(縁部)に向かって、段階的に増加している。
より具体的には、裏板11は、ディスク200の径方向に沿って、略一定の厚さを有するが、互いに厚さの異なる3つの第1の領域と、ディスク200の径方向に沿って第1の領域同士の間に設けられ、厚さがディスク200の外周側から中心側に向かって漸増する2つの第2の領域とを有している。この点で、前述した第1実施形態と異なっている。
【0132】
かかる構成の裏板11では、その剛性が、ディスク200の径方向に沿って段階的に変化する。これにより、裏板11のディスク200の径方向に沿った剛性が、急激に変化するのを防止することができる。その結果、ブレーキパッド10の曲げ剛性がより向上し、その耐久性の向上を図ることができる。
【0133】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、前記のものに限定されるものではない。
【0134】
また、前述した実施形態では、ブレーキパッドは裏板と摩擦材とで構成されるものとして説明したが、ブレーキパッドの構成は、これに限定されない。例えば、裏板が多層構造であってもよいし、摩擦材が多層構造であってもよいし、裏板、摩擦材の双方が多層構造であってもよい。