(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2ゲインに対しては、前記検出速度と外部から入力された上位速度指令との偏差を乗算することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
前記第1ゲインに対しては、前記検出位置と外部から入力された上位位置指令との偏差を乗算することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
前記速度制御フィードバックループは、前記トルク指令に前記検出圧力を加算して前記モータに入力することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
請求項8乃至11のいずれか1項に記載のモータ制御装置に相当するサーボアンプに前記上位位置指令及び前記上位圧力指令を入力する上位制御装置が備える演算装置に実行させるモータ制御プログラムであって、
前記上位圧力指令を略0値にしたまま前記圧力センサがその接触予定位置に近接する位置まで前記上位位置指令を入力することと、
前記圧力センサが前記接触予定位置の近接位置に位置決めした後に、前記上位位置指令を前記近接位置としたまま前記上位圧力指令を所定値で入力することと、
を実行させることを特徴とするモータ制御プログラム。
位置制御フィードバックループを備えてモータを制御するサーボアンプ、に上位位置指令を入力する上位制御装置が備える演算装置に実行させるモータ制御プログラムであって、
生成した上位圧力指令と前記モータを含む制御対象から検出された検出圧力との圧力偏差を生成することと、
前記圧力偏差を圧力制御部に入力して位置補正指令を生成することと、
生成した上位位置指令に前記位置補正指令を加算して前記サーボアンプに入力することと、
前記上位圧力指令と前記上位位置指令を経時的に切り換えて生成することと、
を実行することを特徴とするモータ制御プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1:実施形態の説明>
以下、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
<1.1:サーボアンプの概略構成>
まず、
図1を用いて、本実施形態に係るモータ制御装置に相当するサーボアンプの概略的な構成について説明する。
図1に示すサーボアンプ1は、同一の制御ブロック構成で位置制御と圧力制御を行う。つまり、サーボアンプ1は、上位制御装置2(後述の
図2参照)から入力される上位位置指令PosRefに基づいてモータ(この例では回動型のもの;後述の
図2参照)の回転位置及び当該モータが駆動する制御機械の可動部の出力位置を制御する。また一方で、サーボアンプ1は、同じ上位制御装置2から入力される圧力指令Trefに基づいて上記可動部の出力圧力(この例では押圧力;後述の
図2参照)を制御する。なお、以下における制御ブロックの図示及び説明は全て伝達関数形式での説明とする。
図1において、本実施形態のサーボアンプ1は、位置制御部11と、速度制御部12と、圧力制御部13とを有している。
【0018】
位置制御部11は、入力された上位位置指令PosRefと、モータの出力位置PosFBとの差である位置偏差(上記
図1中のA参照)に基づき、この位置偏差を少なくするように速度指令(上記
図1中のB参照)を出力する。そして本実施形態では、この位置制御部11が、上記位置偏差に乗算する比例器を備えたいわゆる比例制御を行うよう構成されている。
【0019】
速度制御部12は、上記位置制御部11からの速度指令と、モータの出力速度SpdFBとの差である速度偏差(上記
図1中のC参照)に基づき、この速度偏差を少なくするようにトルク指令(上記
図1中のD参照)を生成しモータに出力する。そして本実施形態では、この速度制御部12が、上記速度偏差に乗算する比例器を備えたいわゆる比例制御を行うよう構成されている。
【0020】
圧力制御部13は、入力された上位圧力指令Trefと、上記制御機械が備える圧力センサ(後述の
図2参照)から検出された検出圧力ForceFBとの差である圧力偏差(上記
図1中のE参照)に基づき、この圧力偏差を少なくするように上記上位位置指令PosRefに加算する位置補正指令(上記
図1中のF参照)を出力する。そして本実施形態では、この圧力制御部13が、上記圧力偏差を積分する積分器を備えた積分制御を行うよう構成されている。
【0021】
以上の構成の本実施形態のサーボアンプ1は、位置制御系のフィードバックループと、速度制御系のフィードバックループと、圧力制御系のフィードバックループの3重ループ構成となっている。つまり、サーボアンプ1は、上位制御装置2から上位位置指令が入力されてから、位置制御部11、速度制御部12、モータの順で制御信号が伝達されて、モータの出力位置PosFBをフィードバックする位置制御フィードバックループを備えている。また、サーボアンプ1は、速度制御部12、モータの順で制御信号が伝達されて、モータの出力速度SpdFBをフィードバックする速度制御フィードバックループも備えている。また、サーボアンプ1は、上位制御装置2から上位圧力指令Trefが入力されてから、圧力制御部13、位置制御部11、速度制御部12、モータの順で制御信号が伝達されて、当該モータが駆動する制御機械から検出された検出圧力ForceFBをフィードバックする圧力制御フィードバックループを備えている。なお本実施形態では、トルク指令に基づいて例えばPWM制御による駆動電流をモータに出力する電流制御部とその内部に備えられる電流制御系のフィードバックループについては説明を簡略化するために省略している。
【0022】
そして、本実施形態のサーボアンプ1が制御する対象は、モータを駆動源として作動する例えば生産機械等の制御機械(後述の
図2参照)であり、
図1中ではこの制御機械の数理モデルを伝達関数形式の制御対象モデル100として示している。この制御対象モデル100は、主にモータモデル101と圧力センサモデル102を有しており、サーボアンプ1から入力されたトルク指令からセンサ反力を減じた値をモータモデル101に入力する。モータモデル101は、制御機械の可動部質量を含めたモータの数理的構成を模したモデルであり、入力された値に基づいて上記出力速度SpdFBと上記出力位置PosFBを出力する。圧力センサモデル102は、制御機械が備える圧力センサ(後述の
図2参照)の数理的構成を模したモデルであり、モータモデル101が出力した出力速度SpdFBと出力位置PosFBに基づいて上記検出圧力ForceFBを出力する。上記センサ反力は、モータが圧力検出状態の圧力センサから受ける反力であり、つまり圧力センサから出力される検出圧力ForceFBと同等である(上記
図1中のG参照)。
【0023】
なお、上記のモータモデル101と圧力センサモデル102の内容、また上記の位置制御部11、速度制御部12、圧力制御部13がそれぞれ備える比例器及び積分器の内容については、後の数学的解析の説明で詳述する。
【0024】
<1.2:本実施形態の特徴>
生産機械等の制御機械において、可動部に備えた圧力センサを接触対象物に接触させるまでの工程では、後に詳述するように位置制御と圧力制御を経時的に切り替えて行うことが望ましい。このような位置制御と圧力制御の切り替えを行うためには、サーボアンプ1に位置制御フィードバックループを備える制御ブロックと圧力制御フィードバックループを備える制御ブロックとをそれぞれ個別に設けて制御ブロックごと切り替える構成が考えられる。しかしこの場合には、2つのフィードバックループ間においてブロック構成や各種ゲインの違いにより線形性が保持されないため、条件によっては切り替え時に衝撃が生じる。
【0025】
これに対し本実施形態のサーボアンプ1は、その制御ブロックにおいて位置制御フィードバックループと、速度制御フィードバックループと、圧力制御フィードバックループと、を一体に備えている。そして、上位制御装置2側で、上位位置指令PosRefと上位圧力指令Trefの入力をソフトウェア的に切り替えるシーケンスを行う。これにより、同一の制御ブロックで位置制御と圧力制御を行うことができるため、上述した切り替え時の衝撃の発生を回避できる。
【0026】
またここで、通常の圧力制御フィードバックループでは、圧力偏差に基づいて圧力制御部13が生成した圧力指令を同じ次元のトルク指令に帰還させる設計が一般的である。しかしこのように設計されたサーボアンプ1を用いて実際に圧力制御を行っても、モータ及び可動部が上位位置指令PosRefの位置にクランプしてしまうだけで、圧接移動による圧力制御が行われない現象が生じることが確認されている。
【0027】
この現象に対し本願発明者は、位置制御フィードバックループから見て上記圧力指令が単なる外乱とみなされてしまい、当該位置制御フィードバックループ側でその圧力指令を相殺するよう位置制御してしまうことに起因して、モータ及び可動部が上位位置指令PosRefの位置にクランプしてしまうことを今回新たに知見した。
【0028】
これに対し本実施形態では、上述したように圧力制御フィードバックループにおいて圧力制御部13が圧力偏差に基づいて生成した指令を位置補正指令として上位位置指令PosRefに加算している。これにより圧力制御フィードバックループは、位置制御フィードバックループを介して圧力偏差を反映した位置制御を行うことになるため、上述した相殺現象を回避できる。
【0029】
<1.3:具体的適用例>
図2に、上述した本実施形態のサーボアンプ1を適用した圧力制御システム200の具体的構成例を示す。
図2に示す例の圧力制御システム200は、主に上位制御装置2と、サーボアンプ1と、モータ31を含む制御機械3とを有する。
【0030】
上位制御装置2は、例えば特に図示しないCPU、ROM、RAM、操作部、表示部等を備えた汎用パーソナルコンピュータ等で構成されており、操作部を介して操作者から入力された各種設定や指令に基づいて上記の上位位置指令PosRefと上位圧力指令Trefを生成し、サーボアンプ1に入力する。
【0031】
サーボアンプ1は、上位制御装置2から入力された上位位置指令PosRefと上位圧力指令Trefに基づいてトルク指令を生成し、制御機械3のモータ31に入力する。この際、モータ31が備える後述のエンコーダ31aから出力された出力位置PosFBと出力速度SpdFB、及び制御機械3が備える後述の圧力センサ35から検出された検出圧力ForceFBに基づいて、位置と圧力のフィードバック制御を行う。なお、上記
図1中に示した制御対象モデル100以外の制御ブロックが、このサーボアンプ1を構成している。
【0032】
制御機械3は、図示する例では対象物を2つの板部材で挟み込んで把持する機械であり、例えば卵のような壊れやすい構造の対象物300に対して損壊させることなく確実に保持可能に所定の圧力で圧接挟持するよう作動する。なお、上記
図1中に示した制御対象モデル100の制御ブロックが、この制御機械3に対応している。この制御機械3は、モータ31と、カップリング32と、送りネジ33と、可動板34と、圧力センサ35と、台座36と、固定板37とを有している。
【0033】
モータ31は、この例では回動型のモータであり、その出力軸にはカップリング32を介して送りネジ33が連結されている。また、このモータ31はエンコーダ31aを一体に備えており、このエンコーダ31aは当該モータ31の出力軸の回転位置を出力位置PosFBとして出力するとともに、またその出力位置PosFBを微分して出力軸の回転速度である出力速度SpdFBとして算出し出力する。なお、出力位置PosFBと出力速度SpdFBの検出手法については、他の多様な態様を取り得る。例えば、エンコーダ31aが出力位置PosFBだけを出力し、それを入力したサーボアンプ1が微分計算により出力速度SpdFBを算出してもよい。または、モータ31がエンコーダ31aの代わりにタコジェネレータを備えて出力速度SpDFBを出力し、それを入力したサーボアンプ1が積分計算により出力位置PosFBを算出してもよい。
【0034】
可動板34は、後述の台座36に対して摺接移動可能に連結された板部材であり、その端部には上記の送りネジ33が螺合している。これにより、上記モータ31が正逆転することで、当該可動板34が台座36に摺接しつつ送りネジ33で送られて所定方向(図中の左右方向)に沿った前後移動を行うよう駆動される。
【0035】
圧力センサ35は、例えばロードセル等で構成されるものであり、その厚み方向に外部から付加される圧力を検出圧力ForceFBとして検出するセンサである。この圧力センサ35は、上記可動板34の移動方向一方側の側面に貼り付けられている。
【0036】
台座36は、その上面に上記対象物300を載置する部材であり、上記可動板34の移動方向延長線上に固定板37を固定して備えている。これにより、可動板34は、圧力センサ35を設置している側の側面を固定板37に対向させた状態で、当該固定板37に近接、離間する方向に移動する。
【0037】
以上の構成において、サーボアンプ1は、エンコーダ31aから出力された出力位置PosFBと出力速度SpdFBに基づいて、可動板34の位置が上記の上位位置指令PosRefに追従するようモータ31を制御する位置フィードバック制御を行う。また、圧力センサ35から検出された検出圧力ForceFBに基づいて、可動板34が上記の上位圧力指令Trefで対象物300を圧接するようモータ31を制御する圧力フィードバック制御も行う。
【0038】
<1.4:具体的な動作工程>
図3は、制御機械3の台座36周辺を拡大した図であり、この
図3を用いて圧力制御システム200の具体的な動作工程を説明する。図示する例では、まず最初に対象物300が固定板37に接触しつつ台座36上に載置されている。この状態で、対象物300から離間した初期位置に位置している可動板34が対象物300側(図中の右側)に移動し、図示しない接触位置で圧力センサ35が対象物300に接触する。そこからさらに可動板34を対象物300側に移動させることで、圧力センサ35が対象物300に押圧されて検出圧力を出力する。そしてこの検出された検出圧力が上位圧力指令Trefと等しくなる圧接位置まで可動板34を移動させることで、可動板34と固定板37が上位圧力指令Trefと同等の押圧力で対象物300を挟持できる。
【0039】
以上の把持工程において、例えば対象物300から大きく離間した初期位置から可動板34を圧力一定制御だけで移動させた場合には、圧力制御フィードバックループで圧力制御部13が積分制御を行うことから可動部に加速がつき過ぎて過剰な移動速度となり(後述の
図4のステップS15の説明参照)、その大きな慣性力を伴った状態で圧力センサ35が対象物300に衝撃的に接触してしまう。これを回避するために、サーボアンプ1は位置制御と圧力制御を経時的に切り替えてモータ31を制御することが望ましい。つまり、始めに可動板34を初期位置から移動させて圧力センサ35の接触予定位置から手前に近接する位置(図中の切替位置)まで近接させる間は位置制御によって移動させ、その後に圧力制御に切り替えて圧力センサ35を対象物300にソフトタッチさせるようにする。
【0040】
以上のような位置制御による可動板34の位置決め動作と、圧力制御による可動板34の圧接動作の切り替えは、上位制御装置2における上位位置指令PosRefと上位圧力指令Trefのソフトウェア的な切替入力により行う。また、可動板34と固定板37で対象物300を圧接把持した状態から可動板34を初期位置まで引き戻す場合には、逆の工程で行えばよい。つまり、可動板34を圧接位置から切り替え位置まで戻す動作を圧力制御で行い、そこから初期位置まで戻す位置決め動作を位置制御で行い、それらの動作切り替えを上位制御装置2における上位位置指令PosRefと上位圧力指令Trefのソフトウェア的な切替入力により行えばよい。
【0041】
<1.5:制御フロー>
以上のような機能を実現するために、上位制御装置2が備えるCPU(演算装置に相当;特に図示せず)が実行する制御手順を、
図4により順を追って説明する。
図4において、このフローに示す処理は、対象物300が固定板37に接触しつつ台座36上に載置され、かつ可動板34が初期位置に位置している状態で、上位制御装置2が操作部を介して操作者から作動指令を入力された際に実行を開始する。
【0042】
まずステップS5で、上位制御装置2のCPUは、サーボアンプ1に対して上位圧力指令Tref=0を出力する。
【0043】
次にステップS10へ移り、上位制御装置2のCPUは、サーボアンプ1に対して上位位置指令PosRefを出力することにより、可動板34を切替位置まで位置決め動作させる。なお、このときの上位位置指令PosRefは、例えば可動板34をいわゆるインチング動作させるように、初期位置から切替位置までの距離を細かく分割して繰り返し払い出すように出力するとよい。このステップS10での位置決め動作中には、上記ステップS5により上位圧力指令Tref=0が維持されており、また基本的には圧力センサ35も無接触状態であるため検出圧力ForceFB=0が検出される。このため、圧力制御フィードバックループは位置補正指令=0を生成するだけであり、実質的に位置制御フィードバックループと速度制御フィードバックループだけで位置制御を行うことになる。そして上位位置指令PosRefの払い出しが切替位置に到達した際に、可動板34の移動が一旦停止する。
【0044】
次にステップS15へ移り、上位制御装置2のCPUは、サーボアンプ1に対して上位圧力指令Trefを所定圧力tで出力することで可動板34に圧接動作を行わせる。なお、所定圧力tは、可動板34と固定板37で対象物300を損壊させることなく確実に挟持できるだけの適宜の圧接圧力に設定される。このステップS15での圧接動作中には、上位位置指令PosRefが上記ステップS10で出力された切替位置のまま維持される。また、可動板34が切替位置から接触位置(不図示)までの間にある際には、圧力センサ35は検出圧力ForceFB=0を検出し続ける。このため、圧力制御フィードバックループにおいて常に上位圧力指令Trefがそのまま圧力偏差となり、圧力制御部13がこの圧力偏差を継続的に積算し続けて位置補正指令を順次増大するよう生成し、上位位置指令PosRefの切替位置に加算し続ける。これにより、位置制御フィードバックループと速度制御フィードバックループは、可動板34を対象物300側に向けて移動させる。
【0045】
しかし、可動板34が接触位置に到達して圧力センサ35が対象物300に接触した後には、可動板34の押し込み移動に伴って圧力センサ35からの検出圧力ForceFBが増加するため、圧力制御フィードバックループにおける圧力偏差が次第に減少し、圧力制御部13による位置補正指令の増加も次第に抑制される。そして、検出圧力ForceFBが上位圧力指令Trefに漸近して一致した際には、圧力偏差が0となって圧力制御部13は位置補正指令を一定値で生成し続けることになり、すなわち可動板34の移動が停止して圧接位置(切替位置にその時点の位置補正指令を加算した位置)に固定される。以上のようにして本ステップS15では、可動板34の対象物300に向けた圧接動作が圧力制御により行われる。
【0046】
次にステップS20へ移り、上位制御装置2のCPUは、操作部(特に図示せず)を介して操作者から引き戻し操作の入力を検出するまでループ待機する。操作部に引き戻し操作が入力された場合には、次のステップS25へ移る。
【0047】
ステップS25では、上位制御装置2のCPUは、サーボアンプ1に対して上位圧力指令Tref=0で出力する。ここで、当該ステップS25の実行時には、可動板34が対象物300を圧接している状態であるため、圧力センサ35からは検出圧力ForceFB=tが出力されている。これにより、圧力制御フィードバックループにおける圧力偏差は負値となり、圧力制御部13による位置補正指令が減少して可動板34が対象物300から離間する方向に移動する。そして、可動板34の引き戻し移動に伴って圧力センサ35からの検出圧力ForceFBが減少し、可動板34が接触位置まで戻った際には圧力偏差が0となり圧力制御部13は位置補正指令を一定値で生成し続ける。本実施形態の例では、上位圧力指令Tref=0を出力してすぐに次のステップS30へ移ることで、上記の圧力制御による可動板34の引き戻し移動と並行して移動制御も行う。
【0048】
ステップS30では、上位制御装置2のCPUは、サーボアンプ1に対して上位位置指令PosRefを出力することにより、可動板34を対象物300から離間移動させる。このとき、上位位置指令PosRefを絶対座標で出力することで、操作者は通常の位置決め操作と同じ感覚で位置制御できる。そして、このフローを終了する。
【0049】
以上のフローによれば、上記ステップS5〜ステップS15の手順で可動板34を初期位置から対象物300側へ近接移動させて圧接させるアプローチ工程が行われ、その後の引き戻し操作の入力検出後に、上記ステップS25〜ステップS30の手順で可動板34を対象物300側から離間移動させる引き戻し工程が行われる。
【0050】
なお、上述したアプローチ工程では対象物300が規定の大きさにあり、予定された接触位置より手前側の切替位置まで圧力センサ35が接触しないことを前提として説明した。しかし、上記
図3に対応する
図5に示すように、例えば対象物300Aの大きさのバラツキにより予定された切替位置より手前側で圧力センサ35が対象物300Aに接触するような場合でも、本実施形態のサーボアンプ1は対応が可能である。つまり位置制御中に検出圧力ForceFBが出力された場合には、その時点で上位圧力指令Tref=0であるため、圧力制御フィードバックループにおける圧力偏差が負値となり、圧力制御部13が負値の位置補正指令を出力する。このため、上記ステップS10の通りに上位制御装置2が予定された切替位置までの上位位置指令PosRefを払い続けても、結果的には圧力制御フィードバックループが圧力偏差の釣り合いを取って可動板34を圧力センサ35の接触位置(検出圧力ForceFB=0)に位置決めさせる。その後に、ステップS15で圧力制御を行った際には、圧力センサ35が所定圧力tを検出するまで可動板34を圧接移動させる。
【0051】
<1.6:本実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態のサーボアンプ1によれば、同一の制御ブロックにおいて位置制御フィードバックループと、速度制御フィードバックループと、圧力制御フィードバックループと、を一体に備えている。そして、上位制御装置2側で、上位位置指令PosRefと上位圧力指令Trefの入力をソフトウェア的に切り替えるシーケンスを行う。これにより、同一の制御ブロックで位置制御と圧力制御を行うことができるため、それら制御モードの切り替えにおいても回路上における各パラメータ値やゲイン設定の線形性が保持され、切り替え時の衝撃の発生を回避できる。
【0052】
また本実施形態では、上述したように圧力制御フィードバックループにおいて圧力制御部13が圧力偏差に基づいて生成した指令を位置補正指令として位置指令に加算している。これにより圧力制御フィードバックループは、位置制御フィードバックループを介して圧力偏差を反映した位置制御を行うことになるため、位置制御により圧力指令を相殺する現象を回避できる。この結果、機能的な圧力一定制御を実現できる。
【0053】
また、本実施形態では特に、圧力制御部13が積分器(1/s)を備えている。これにより、圧力制御フィードバックループにおける検出圧力の定常偏差の発生を抑制できる。
【0054】
また、本実施形態では特に、上位制御装置2が、上位圧力指令Trefを略0値にしたまま可動板34が切替位置に位置するまで上位位置指令PosRefを入力するステップS10の手順と、可動板34が切り替え位置に位置決めした後に、上位位置指令PosRefを切替位置としたまま上位圧力指令Trefを所定値tで入力するステップS15の手順を実行する。これにより、本実施形態のサーボアンプ1に対し、位置制御と圧力制御の切り替えを機能的に実行できる。
【0055】
なお、上記実施形態では、モータ31に回転型のものを適用しているが、本発明はこれに限られない。他にも、直動型のリニアモータに対しても上記実施形態の制御ブロックを備えたサーボアンプ1を適用して機能的な圧力一定制御を実現できる。この場合には、トルク指令が推力指令に置き換わる。また、制御機械3についても、上記
図2に示した把持機構以外の例えば射出成形機やプレス機などに上記実施形態のサーボアンプ1を好適に適用できる。
【0056】
<2:制御ブロックの数学的解析>
以下においては、上記実施形態の圧力制御フィードバックループを備えた制御ブロックの数学的解析について、派生する各種の変形例も含め詳細に説明する。
【0057】
まず、上記
図2に示したように、モータで駆動する可動部分に圧力センサ35を備えた制御機械3等に対し、その圧力センサ35が検出した検出圧力に基づいてモータの駆動を制御するモータ制御装置を考える。このようなモータ制御装置は、検出圧力に各種ゲインを乗算して目標圧力である上位圧力指令Trefに帰還させる圧力制御フィードバックループを用いることで機能的な圧力一定制御を行える。
【0058】
しかし、上記の圧力制御フィードバックループを安定的かつ高い指令応答性で作動させるためには上記各種ゲインを厳密に調整することが望ましく、それら制御ゲインは圧力制御フィードバックループのブロック構成に大きく依存する。この点で、従来適用されている圧力制御フィードバックループのブロック構成(特に図示せず)は複雑であり、ゲイン調整が困難である。
【0059】
そこで、モータと圧力センサを含む制御対象のモデルを状態フィードバックの手法で構成し、この制御対象モデルに対応して圧力制御フィードバックループの各種ゲインを設定する。以下においては、まず状態フィードバックによる制御対象の安定化の可否について検討する。その後に、圧力制御フィードバックを行うことで上位圧力指令Trefに対して検出圧力が一致するようにフィードバック制御器の構成を検討する。
【0060】
<2.1:状態フィードバックによる制御対象の安定化>
図6に制御対象モデルのブロック図を示す。
図6において、Jは、モータの出力軸を含めた回転子全体と、当該モータにより駆動する制御機械の可動部分を併せた全体の慣性モーメント(イナーシャ)に相当する。また、D
visは、制御機械における可動部の粘性減衰係数に相当する。また、K
stは、圧力センサのばね定数に相当する。また、D
stは、圧力センサの粘性減衰係数に相当する。
【0061】
またここで、検出速度SpdFBに可動部粘性減衰係数D
visを乗じた値を可動部粘性減衰力とし、検出速度SpdFBに粘性減衰係数D
st(センサ粘性減衰係数)を乗じた値をセンサ粘性減衰圧力とし、検出位置PosFBにばね定数K
st(センサばね定数)を乗じた値をセンサばね圧力とし、センサ反力が検出圧力ForceFBそのものと同等であるとする。この場合、制御対象(制御対象モデル)は、入力されたトルク指令(圧力指令)からセンサ反力と可動部粘性減衰力を減じた値に対し、慣性モーメントJ(可動部質量)で除して積分した値をモータの検出速度SpdFBとして出力し、また当該検出速度SpdFBに対し積分した値をモータの検出位置PosFBとして出力する。また、制御対象は、センサ粘性減衰圧力にセンサばね圧力を加算した値を圧力センサの検出圧力ForceFBとして出力する。
【0062】
図6の制御ブロックを上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの閉ループの伝達関数としてまとめると
図7のようになる。
図7の伝達関数を可観測正準形式の状態方程式として記述すると次の式(1)のように記述することができる。
また、観測方程式を次の式(2)のように定義する。
【0063】
このときの可観測性を確認する。
に対して、
を計算すると以下のようになる。
ここで、
なので観測方程式(2)は可観測である。よって、各状態量を推定するオブザーバを構成することができる。
【0064】
次に可制御性の確認をする。
を計算すると以下のようになる。
ここで、
なので状態方程式(1)は可制御である。したがって、各状態量をフィードバックすることで制御系が安定化できる。
【0065】
状態量にかける係数を
とおくと、
より、
なので、
【0066】
この式(3)より、特性多項式中の定数項と1次項にk
1またはk
2が入っているため、
と
をフィードバックすることで制御ループを安定化することが可能である。
【0067】
直動型モータ、すなわちリニアモータの場合、
図6中のSpdFBとPosFBは直接検出可能である。回転型モータの場合は、フルクローズド制御であれば直接検出可能であるが、セミクローズド制御の場合は、伝達機構や駆動機構のばねや減衰要素が入ってくるため、厳密には観測できない。しかし、押し付け状態では、ばね要素があったとしても十分に圧縮されており、モータ検出位置と可動部の相対位置は一定の関係であると考えられるので、本願では近似的に全状態量が観測できるとする。
【0068】
<2.2.1:圧力フィードバックによる圧力制御>
図8に状態フィードバックを行った状態の制御対象を示す。
図8のブロック構成を上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの閉ループの伝達関数としてまとめると、
図9のようになる。
図9の伝達関数より、制御ループの安定化と指令応答性の変更が可能であることがわかる。しかし、s=0の場合に伝達関数が1にならないことから、上位圧力指令Trefに対して定常偏差が残るため、対策が必要である。
【0069】
最も単純な対策として、積分器の追加を考える。上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBの差に積分制御を行うと
図10のようになる。
図10を上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの閉ループの伝達関数としてまとめると
図11のようになる。
図11の伝達関数より、制御ループの安定化と指令応答性の変更が可能であり、s=0の場合にも伝達関数が1になるため定常偏差が残らないことがわかる。
【0070】
図11をブロック図として書き直すと
図12または
図13のようになる。
図12と
図13は制御的には等価なので実装しやすいほうを採用すればよい。例えば
図12の制御ブロックが備える圧力制御フィードバックループについては、外部から入力された上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBとの偏差に対し、ゲインk
3(第3ゲイン)を乗じて積分し、かつ検出位置PosFBとゲインk
1(第1ゲイン)の乗算値及び検出速度SpdFBとゲインk
2(第2ゲイン)の乗算値を減じた値をトルク指令(圧力指令)として制御対象に入力している。
【0071】
<2.2.2:安定性の確認>
上記検討した圧力制御フィードバックループの安定性を確認する。Routh−Hurwitzの安定判別より、制御ループが安定であるための必要十分条件は次の式(4)を満足することである。
【0072】
式(4)を展開すると、次の式(4)′となる。
簡単のため、D
vis=D
st=0として、式(4)′を展開すると次の式(4)″となる。
【0073】
この式(4)″を解くと次の式(5)または(5)′を得る。
さらにk
1>0なので、
となる。
【0074】
<2.2.3:最適ゲイン設定値の導出>
次に、係数図法を利用して最適ゲイン計算式を導出する。
図11の特性多項式より安定度指標は以下のようになる。
簡単のため、D
vis=D
st=0として、係数図法標準形になるように安定度指標を規定する。
式(6)′および式(7)′より、
【0075】
安定条件式(5)′を満足する範囲でk
1を任意に選ぶことで、式(8)、式(9)のゲインにより係数図法標準形の応答得ることができる。また、このときの等価時定数τは次の式(10)から求めることができる。
【0076】
たとえば、k
1=10、K
st=0.424[Nm/rad]、J=8.375×10
−5[kgm
2]の場合、k
2=0.042、k
3=2440.696となる。このとき、式(5)′の右辺は1.640(<k
1)となるので安定条件を満足し、等価時定数は約10msである。このように導出した最適ゲインを
図12、
図13の制御ブロックに適用した場合のステップ応答のシミュレーションを
図14に示す。
【0077】
<2.2.4:極配置法適用の検討>
係数図法では最適ゲイン計算式を導出したが、実際のサーボ調整にあたっては等価時定
数が大きい状態から調整を開始して、徐々に等価時定数を小さくしていく手法のほうがより直観的で容易に行える。ここでは、一例として、上記
図11の特性多項式が3重根を持つような条件を検討する。
【0078】
(s+ω)
3=s
3+3ωs
2+3ω
2s+ω
3と
図11の特性多項式の係数を比較すると以下の式を得ることができる。
【0079】
式(11)〜式(13)より、簡単のためD
vis=D
st=0とすると、ゲインk
1,k
2,k
3は応答周波数ωの関数として表すことができる。
【0080】
たとえば、ω=2π×10[rad/s]、K
st=0.424[Nm/rad]、J=8.375×10
−5[kgm
2]の場合、k
1=0.568、k
2=0.016、k
3=48.996となる。このとき、式(5)′の右辺は−0.314(<0)となるので安定条件を満足し、等価時定数は約48msである。
【0081】
上記条件からω=2π×100[rad/s]に変更すると、k
1=98.766、k
2=0.158、k
3=48995.767となる。このとき、式(5)′の右辺10.597(<k
2)となるので安定条件を満足し、等価時定数は約5msである。
【0082】
これらω=2π×10[rad/s]の場合と、ω=2π×100[rad/s]の場合のそれぞれで設定したゲインを
図12、
図13の制御ブロックに適用した場合のステップ応答のシミュレーションを
図15、
図16に示す。
【0083】
<2.2.5:機械諸元の推定方法>
上述した制御ブロックにおける各ゲインの設定では、物理諸元として上記のJに相当する可動部分の慣性モーメントまたは質量と、上記のD
stに相当する圧力センサのばね定数が既知であることが望ましい。以下には、実験または計算によりこれらを推定する方法について順に説明する。
【0084】
例えば、制御機械に回転型モータを使用する場合、上記Jに相当する可動部の慣性モーメントは、モータ回転子の慣性モーメントと制御機械の可動部分の負荷慣性モーメントの合計となる(単位は[kgm
2])。また、制御機械にリニアモータを使用する場合、上記Jに相当する可動部の質量は、モータ可動子の質量と制御機械の可動部分の負荷質量の合計となる(単位は[kg])。これら慣性モーメントまたは質量は、例えば適宜ゲイン設定されたサーボアンプの利用による実験動作で検出したトルク指令または推力をモータ加速度で除すれば求めることができる。モータ加速度は、検出速度SpdFBを1階微分することで得られる。
【0085】
また、圧力センサのばね定数については、微小な変位における機械のばね定数を線形ばねと考え、フックの法則を考えると次式を定義することができる。
【0086】
ここで、F
0は初期の検出圧力(単位は[N])、Fはある変位を発生させたときの検出圧力(単位は[N])、x
0は初期の可動部位置(単位は[m])、xは初期可動部位置からの変位(単位は[m])、K
stはばね定数(単位は[N/m])である。そして、圧力センサが対象物に接触している初期状態で、そのときの検出圧力(F
0)と検出位置(x
0)を測定する。その後に圧力制御モードで圧接して、検出圧力(F)と検出位置(x)を測定する。これらの測定値を用いて以下の式から、ばね定数K
stを計算できる。
【0087】
また、広義の圧力制御としては、上記
図2に示した直動機構における圧力制御だけではなく、特に図示しない回動機構における圧力制御もありえる。この場合には、直動的な推力である検出圧力F
0,F[N]の代わりにトルクであるT
0,T[Nm]を用い、また直動的な位置であるx
0,x[m]の代わりに回転位置θ
0,θ[rad]を用いて以下の式から、ばね定数K
st[Nm/rad]を計算すればよい。
【0088】
<2.3.1:速度制御への拡張>
次に、上記
図12に示した圧力制御の制御ブロックから速度制御への拡張を検討する。
図12中のゲインk
2に乗じる直前の信号(SpdFB)は、速度指令=0と速度フィードバックの差(速度偏差)とみなすこともできる。この観点から、
図12の制御ブロックに速度指令SpdRefを入力する形で変形した場合、
図17に示す制御ブロックとなる。この
図17において、速度指令SpdRef=0のときは、
図12の制御ブロックと同等となる。
【0089】
さらにゲインk
1のパスを変形すると
図18のように書き直すことができる。
図18中のゲインk
1とk
2は速度PI制御の積分ゲインと比例ゲインに相当する。結局、
図18の制御ブロックは、
図12のものと一致する。
図18における速度制御部を通常のPI制御と同じ形に書き直すと
図19のようになる。
図19において、ゲインk
2は、速度比例ゲインと慣性モーメント比から計算される総慣性モーメントの積に相当する。また、k
2/k
1は速度ループ積分時間に相当する。
【0090】
<2.3.2:速度制御の安定性と極配置法適用の検討>
図19の制御ブロックは、
図12の制御ブロックを完全に等価変換したものである。したがって、速度指令SpdRefが0の場合に上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの安定性は、上述した
図12の制御ブロックにおける安定性の確認での検討結果と一致する。すなわち、以下を満足すれば安定である。
【0091】
また、極配置法の適用によるゲイン計算式についても、
図12の制御ブロックと同様に式(14)〜式(16)を適用できる。
【0092】
<2.3.3:シミュレーションによる速度制御の動作確認>
上記の式(14)〜式(16)を使用して計算したゲインにてシミュレーションを行った場合の動作波形を、
図20〜
図22に示す。
図20は検出位置PosFBに対応し、
図21は上位速度指令SpdRefと検出速度SpdFBに対応し、
図22はモータトルクと上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBに対応している。なお、制御ブロックが速度制御なので、位置偏差については省略している。動作としては、各図共通で上位制御装置が0sec〜0.4secまで上位速度指令SpdRefを入力後、0.5secから上位圧力指令Trefの入力を自動的に切り替えた。圧力センサは0.6sec程度から接触している。
図20〜
図22から分かるように、速度制御と圧力制御が同じ
図19の制御ブロックにて動作できていることがわかる。
【0093】
図20〜
図22に示した例では、圧力制御を基準として速度比例ゲインk
2および速度ループ積分時間k
1/k
2を決定したが、通常通りに速度制御を基準として決定した速度ループゲインk
2および速度ループ積分時間k
2/k
1と上記の式(16)で計算したゲインk
3を使用すると、
図23〜
図25のようになる。
図23〜
図25のゲインでも安定条件を満足しているので、問題ないことがわかる。このことから、ゲインk
3との関係が適切であれば、速度制御部は通常の1パラメータチューニングで調整し、その後に圧力制御ゲインk
3を調整することも可能である。
【0094】
なお、上記
図20〜
図22及び
図23〜
図25のシミュレーションで使用した諸元としては、下記の表1のとおりである。また、制御対象の値は常識的な数値として適宜定義したものであり、特定の機構を想定した値ではない。
【表1】
【0095】
<2.4.1:位置制御への拡張>
次に、上記
図12に示した圧力制御の制御ブロックから位置制御への拡張を検討する。
図12中のゲインk
1に乗じる直前の信号(PosFB)は、位置指令=0と位置フィードバックの差(位置偏差)とみなすこともできる。この観点から、
図12の制御ブロックに位置指令PosRefを入力する形で変形した場合、
図26に示す制御ブロックとなる。この
図26において、位置指令PosRef=0のときは、
図12の制御ブロックと同等となる。
【0096】
ここで位置制御の場合、上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBの差をトルク指令にフィードバックすると、位置制御に対する外乱となる。そのため、位置ずれ防止のために位置制御部に積分器を追加すると、正常に圧力制御が機能しない。これに対して、
図26の制御ブロックを変形して
図27や
図28の制御ブロックのように位置制御/速度制御の2重ループに圧力制御による位置補正指令が加算されるという形に書き直すことで解決できる。なお、上記
図1の制御ブロックは、この
図28に示した制御ブロックと等価である。
【0097】
図27までは完全な等価変形なので制御ループの安定性に変化はないが、このまま実際に適用しようとすると、定常外乱による位置ずれが発生するおそれがある。この問題を解決するためには、位置制御部または速度制御部のいずれかに積分器を追加すればよい。ここでは、後述する簡易的な多軸同期制御への拡張も念頭において
図28のように位置積分1/T
pisを追加する。
図28の制御ブロックにおいて、上位位置指令PosRefに対してフィードバック位置PosFBは必ず一致するので、上位圧力指令Trefに対して検出圧力ForceFBが一致すれば、
図28の制御ブロックは位置と圧力の両方を制御できる。
【0098】
上位位置指令PosRef=0として上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの伝達関数は次の式(17)のようになる。
式(17)でs=0とすると、式(17)は1となるので、一定の上位圧力指令Trefに対して検出圧力ForceFBが一致することがわかる。よって、
図28の制御ブロックは位置と圧力の両方を制御できる。
【0099】
<2.4.2:位置制御の安定性の確認>
上記の位置制御ブロックの安定性を確認する。Routh−Hurwitzの安定判別より、制御ループが安定であるための必要十分条件は次の式(18)と式(19)の両方を満足することである。
【0100】
この式(18)を展開すると、次の式(18)′となる。
簡単のため、D
vis=D
st=0として、式(18)′を展開すると次の式(18)″となる。
この式(18)″を解くと次の式(20)を得る。
【0101】
同様に、式(19)をD
vis=D
st=0として展開すると次の式(19)′となる。
この式(19)′を解くと次の式(21)を得る。
以上より、式(18)と式(19)を同時に満足するためには、式(20)と式(21)を同時に満足すればよいことがわかる。
【0102】
<2.4.3:位置制御の極配置法適用の検討>
ここでは、一例として、式(17)の特性多項式が4重根を持つような条件を検討する。
【0103】
(s+ω)
4=s
4+4ωs
3+6ω
2s
2+4ω
3s+ω
4と式(17)の特性多項式の係数を比較すると以下の式を得ることができる。
【0104】
これら式(22)〜式(25)より、簡単のためD
vis=D
st=0とすると、ゲインk
1,k
2,k
3及び積分時間T
piは以下のように応答周波数ωの関数として表すことができる。
なお、上式は安定性を保証するわけではないため、別途式(20)と式(21)での確認は必要である。
【0105】
<2.4.4:シミュレーションによる位置制御の動作確認>
上記の式(26)〜式(29)を使用して計算したゲインと積分時間にてシミュレーションを行った場合の動作波形を、
図29〜
図32に示す。
図29は上位位置指令PosRefと検出位置PosFBに対応し、
図30は位置偏差に対応し、
図31は速度指令と検出速度SpdFBに対応し、
図32はモータトルクと上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBに対応している。動作としては、各図共通で上位制御装置が0sec〜0.4secまで上位位置指令PosRefを入力後、0.5secから上位圧力指令Trefの入力を自動的に切り替えた。圧力センサは0.6sec程度から接触している。
図29〜
図32から分かるように、速度制御と圧力制御が同じ
図28の制御ブロックにて動作できていることがわかる。
【0106】
図29〜
図32に示した例では、圧力制御を基準として位置と速度の各ループゲインk
1/k
2、k
2および位置ループ積分時間T
piを決定したが、通常通りに位置制御を基準として決定した位置と速度の各ループゲインk
1/k
2、k
2および位置ループ積分時間T
piと上記の式(26)で計算したゲインk
3を使用すると、
図33〜
図36のようになる。
図33〜
図36のゲインでも安定条件を満足しているので、問題ないことがわかる。このことから、ゲインk
3との関係が適切であれば、位置/速度制御部は通常の1パラメータチューニングで調整し、その後に圧力制御ゲインk
3を調整することも可能である。
【0107】
なお、上記
図29〜
図32及び
図33〜
図36のシミュレーションで使用した諸元としては、下記の表2のとおりである。また、制御対象の値は常識的な数値として適宜定義したものであり、特定の機構を想定した値ではない。
【表2】
【0108】
<2.4.5:多軸同期制御への拡張>
上述したように、
図28の制御ブロックは簡単に多軸同期制御に拡張することができる。
図37に2軸同期制御に拡張した制御ブロック図を示す。
図37の制御ブロックは、例えば上記
図2に対応する
図38に示すように、2軸のそれぞれが駆動する直動機構の可動部に梁となる1つの可動板34Aを渡すように設け、その可動板34Aの中間位置に圧力センサ35を設置しているような機構を想定している。ここでは詳細に言及しないが、概念としては、2軸が発振する原因の1つである積分器への溜りを各軸ではなく、共通で1つにした点を特徴としている。
【0109】
図37の制御ブロックを
図28と同じゲインでシミュレーションした波形を
図39〜
図42に示す。このとき、同期制御の効果をわかりやすくするために、2軸目の検出速度SpdFBおよび検出位置PosFBに検出速度SpdFBの5%相当の定常オフセットを設定した。
図39〜
図42よりオフセット分の差異がトルク指令には観測できるが、位置制御や検出圧力は1軸で制御した場合と同様の結果になっている。
【0110】
<2.5:ループ安定化のための制御パス追加について>
上記<2.2.1>節で検討した圧力フィードバック制御は、制御対象の慣性モーメント比やばね定数によっては、特性方程式に重根解を与えるゲインが負の値にあることがある。ゲインが負の値になっても圧力フィードバックループとしては安定であるため問題はないが、速度制御や位置制御とゲインを共通にする場合は制御ループが不安定になるため問題となる。本検討では、制御対象の特性に依存することなしに、圧力フィードバック/位置制御/速度制御のいずれの状態でも特性方程式に重根解を与えるゲインが正の値になる方法を検討する。
【0111】
<2.5.1:力制御ベース、速度制御ベースでの制御ブロックの導出>
上記
図12に記載した圧力フィードバックの制御ブロックについて、上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの伝達関数は次の式(30)のとおりである。
この式(30)の特性多項式に重解根を与えるゲインは、上記<2.2.4>節に記載した式(14)〜式(16)で求めることができる。式(14)からわかるように、JまたはK
stによってはゲインk
2が負の値をとる場合がある。これは力制御ベースではそれほど問題にならないかもしれないが、速度制御ベースで圧力センサが非接触の状態では、速度制御が正帰還になるため問題である。この場合、式(14)の右辺第2項(K
st)がゲインを負にする原因であるため、この項をなくすことができればよい。さらに遡って考えると、式(14)の右辺第2項は式(30)の特性多項式中の1次の係数にK
stが含まれていることが原因である。そのため、式(30)の特性多項式中の1次の係数からK
stを除外するためには、
図43に示すようにばね反力を打ち消す制御パスH、つまり検出圧力ForceFBをトルク指令に直接加算する制御パスHを追加すればよい。
【0112】
この
図43の場合の上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの伝達関数は次の式(31)のようになる。
式(31)は式(30)と比較すると特性多項式からD
st(2次の係数)とK
st(1次の係数)が除外されている。さらに、
図43に記載の力制御ベースの制御ブロックを上記<2.3.1>節と同様の手法で速度制御に拡張すると、上記
図19に対応する
図44の制御ブロックを得る。
【0113】
<2.5.2:位置制御ベースでの制御ブロックの導出>
上記
図28に記載した位置制御フィードバックの制御ブロックについて、上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの伝達関数は次の式(32)のとおりである。
この式(32)の特性多項式に重解根を与えるゲインは、上記<2.4.3>節に記載したように式(26)〜式(29)で求めることができる。式(26)からわかるように、JまたはK
stによってはゲインk
1が負の値をとる場合がある。それに伴い、式(28)、式(29)より求められるゲインk
3および位置積分時間T
piも負の値となる場合がある。これは位置制御ベースで圧力センサが非接触の状態では、位置制御が正帰還になるため問題である。式(26)の右辺第2項がゲインを負にする原因であるため、この項をなくすことができればよい。さらに遡って考えると、式(26)の右辺第2項は式(32)の特性多項式中の2次の係数にK
stが含まれることが原因である。そのため、式(26)の特性多項式中の2次の係数からK
stを除外するためには、
図45に示すようにばね反力を打ち消す制御パスH、つまり検出圧力ForceFBをトルク指令に直接加算する制御パスHを追加すればよい。
【0114】
この
図45の場合の上位圧力指令Trefから検出圧力ForceFBまでの伝達関数は次の式(33)のようになる。
式(32)は式(31)と比較すると特性多項式からD
st(3次の係数)とK
st(2次の係数)が除外されている。
【0115】
なお、
図45に示すように位置制御ベースでの制御ブロックに制御パスHを追加することで、極配置法を適用した上記式(26)〜式(29)の計算式は次式のようになる。
【0116】
上式は、式(26)が式(26)′に変化しただけであるが、式(26)に存在したばね定数の項(−K
st)がなくなったため、すべてのゲインは常に正の値となる。すなわち、センサ非接触状態(位置制御)でも負帰還となるため、制御ループは安定にできる。このようにすることで、圧力制御フィードバックと位置制御の両方において制御対象の特徴に影響されることなく、安定となるゲインを得ることができる。
【0117】
<2.5.3:ローパスフィルタの適用について>
例えば、圧力センサ35の出力がアナログである場合にセンサノイズによる振動を防ぐため、上記
図43に対応する
図46に示すように、検出圧力ForceFBにローパスフィルタ(1/(1+Ts))を適用することが多い。通常、ノイズ低減を目的としてローパスフィルタを適用する場合の遮断周波数は数百〜数kHz程度になることが多いため、圧力制御の制御応答周波数に対して考慮する必要はない。
【0118】
しかし、遮断周波数を数十Hz程度(またはそれ以下)に設定された場合は、本検討で追加した制御パスHが過補償になり、圧力制御フィードバックループにオーバーシュートが発生することがある。これは、ローパスフィルタが、本検討で追加した制御パスHと、上位圧力指令Trefとの圧力偏差を取るためのパスIの両方に影響を与えることに起因してオーバーシュートの原因となっていると考えられる。ここで、前者の制御パスHは機械に対する反力を打ち消す役割を持ち、後者の圧力偏差を取るためのパスIは上位圧力指令Trefに対する追従性を決定する。すなわち、前者の制御パスHの遅れは極力小さくしないと目的を達成できないことになる。一方、後者の圧力偏差を取るためのパスIでの遅れの影響は指令追従ゲインを下げたこととみなすこともできるため、遅れが大きくてもそれほど大きな問題にはならない。
【0119】
以上により、
図47に示すように制御パスHと圧力偏差を取るためのパスIでそれぞれローパスフィルタを分けて設け、制御パスH上におけるローパスフィルタの時定数T
2の方を比較的小さく設定(例えばT
2=0.3ms)し、圧力偏差を取るためのパスI上におけるローパスフィルタの時定数T
1の方を比較的大きく設定(例えばT
1=3ms)することで上記のオーバーシュートを発生を抑制できる。なおこの検討は、
図47に示した力制御ベースの制御ブロックに限られず、速度制御ベース及び位置制御ベースの制御ブロックにおいても同様に適用できる(図示省略)。
【0120】
<2.6:圧力制御フィードバックループを上位制御装置側で分担する場合>
上記実施形態では、サーボアンプ1が単体で位置制御フィードバックループと、速度制御フィードバックループと、圧力制御フィードバックループの3重ループを備えていたが、本発明はこれに限られない。例えば、上記
図1に対応する
図48に示すように、圧力制御フィードバックループだけを上位制御装置2A側に設けるようにしてもよい。この場合、圧力センサからの検出圧力ForceFBが上位制御装置2Aに直接入力され、これと当該上位制御装置2Aの内部で生成した上位圧力指令Trefとの圧力偏差に基づいて、ソフトウェア的に構成された圧力制御部が位置補正指令を生成する。そして当該上位制御装置2Aの内部で生成した最上位位置指令PosRef0に位置補正指令を加算して上位位置指令PosRef1とし、サーボアンプ1Aに入力する。このように上位制御装置2A側に圧力制御フィードバックループを分担させても、上記実施形態と同様に機能する。なお、この場合には、上位制御装置2Aとサーボアンプ1Aの組み合わせが、各請求項に記載のモータ制御装置に相当する。
【0121】
<2.7:本検討での効果>
以上説明した検討によれば、
図6に示したようにモータと圧力センサを含む制御対象のモデルを状態フィードバックの手法で構成し、
図8に示したようにこの制御対象モデルに対応して圧力制御フィードバックループの各種ゲインを設定した。つまり、検出速度SpdFBと検出位置PosFBを制御対象の状態量とし、検出圧力ForceFBを制御対象の観測量として制御対象モデルを構成した。このように制御対象モデルを構成したことで、圧力制御フィードバックループのブロック構成を単純化でき、その安定化と指令応答性を実現するための各種ゲインの調整が容易となる。この結果、機能的な圧力一定制御を実現できる。
【0122】
また、上記検討によれば、圧力制御フィードバックループを、外部から入力された上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBとの偏差に対し、ゲインk
3を乗じて積分し、かつ検出位置PosFBとゲインk
1の乗算値及び検出速度SpdFBとゲインk
2の乗算値を減じた値をトルク指令として制御対象に入力するよう構成した(
図12参照)。このように圧力制御フィードバックループを構成することにより、上記制御対象の状態量である検出速度SpdFBと検出位置PosFBの挙動に対応して、観測量である検出圧力ForceFBを目標圧力である上位圧力指令Trefに漸近させる圧力制御を実現できる。特に、上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBとの偏差に対して積分を行っていることにより、定常偏差を排除することができる。
【0123】
また、上記検討によれば、
k
1>J・K
st・k
3/k
2−K
st ・・・(5)′
の関係を満たすよう各ゲインを設定することにより、上記制御対象に対する圧力制御フィードバックループの安定性を確保できる。
【0124】
また、上記検討によれば、
k
1≒3ω
2・J−K
st ・・・(14)
k
2≒3ω・J ・・・(15)
k
3≒(J/K
st)・ω
3 ・・・(16)
の関係を満たすよう各ゲインを設定することにより、応答周波数ωのパラメータ1つの関数として各ゲインの最適値を容易に設定できる。
【0125】
また、上記検討によれば、ゲインk
2に対しては、検出速度SpdFBと外部から入力された上位速度指令SpdRefとの偏差を乗算することで、検出速度SpdFBを目標速度である上位速度指令SpdFBに漸近させる速度制御フィードバックループを追加的に拡張できる(
図17等参照)。
【0126】
また、上記検討によれば、ゲインk
1に対しては、検出位置PosFBと外部から入力された上位位置指令PosRefとの偏差を乗算することで、検出位置PosFBを目標位置である上位位置指令PosRefに漸近させる位置制御フィードバックループを追加的に拡張できる(
図26等参照)。
【0127】
また、上記検討によれば、ゲインk
1に対しては、検出位置PosFBと上位位置指令PosRefとの偏差を積分して乗算することで、位置制御フィードバックループにおける定常外乱による位置ずれを回避することができ、例えば多軸同期制御への適用が可能となる(
図28、
図37参照)。なお、これを上記実施形態の場合について言い換えると、位置制御部が積分器 (1/T
pis)を備えることになる(特に図示せず)。
【0128】
また、上記検討によれば、速度制御フィードバックループは、トルク指令に検出圧力ForceFBを加算してモータに入力することで、圧力センサの非接触状態(位置制御)でも位置制御フィードバックループが負帰還となり安定する(
図44、
図45参照)。これにより、圧力制御と位置制御の両方において制御対象の特徴に影響されることなく、安定化を実現できるゲインの設定が可能となる。
【0129】
また、上記検討によれば、上位制御装置2Aが、生成した上位圧力指令Trefと検出圧力ForceFBとの圧力偏差を生成することと、この圧力偏差を圧力制御部((1/s)・(k
3/k
1))に入力して位置補正指令を生成することと、生成した最上位位置指令PosRef0に位置補正指令を加算して上位位置指令PosRef1とし、サーボアンプ1Aに入力することと、を実行する。これにより、上位制御装置2A側に圧力制御フィードバックループの機能を分担させることができるため、位置制御フィードバックループ及び速度制御フィードバックループだけを備える一般的なサーボアンプ1Aを用いて位置制御と圧力制御を切り替えて実行できる。
【0130】
なお、以上の説明における「等しい」とは、厳密な意味ではない。すなわち、「等しい」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に等しい」という意味である。
【0131】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0132】
その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。