(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233370
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】住宅構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
E04B1/26 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-179754(P2015-179754)
(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公開番号】特開2017-53187(P2017-53187A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2016年2月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔展示会名〕 「第3回国連防災世界会議」スタディツアー 官民連携による地域防災への取組みと先進の住宅防災技術 〔展示日〕 平成27年3月14日〜18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】板倉 浩二
(72)【発明者】
【氏名】田畑 治
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 輝
(72)【発明者】
【氏名】木村 昇平
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−297516(JP,A)
【文献】
実開昭55−123520(JP,U)
【文献】
実開平06−071619(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3195516(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/26
E04B 2/56
E04C 2/00 − 2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材及び梁材を組んで形成した木造軸組にCLT(Cross Laminated Timber)の壁板をビスで固定する住宅構造であって、
前記柱材は、等間隔に配置されるとともに、前記壁板は隣接する前記柱材に亘って屋外側から大壁仕様でビスで固定され、前記壁板の屋内側の面は屋内空間に露出し、床組みの上に前記壁板と同一寸法のCLTからなる床板をビスで固定して設置して床を形成し、小屋組の垂木の上に前記壁板と同一寸法のCLTからなる野地板を下面が屋内空間に露出するようにビスで固定して設置して屋根下地を形成し、前記柱材の柱頭間に架設される梁材の上面に前記壁板と同一寸法のCLTからなる天井板をビスで固定して設置して、当該天井板を床面とする小屋裏空間を形成することを特徴とする住宅構造。
【請求項2】
前記柱材の間に前記壁板の下地材となるとともに、上面に所望の物品を載置可能な横桟が設けられることを特徴とする請求項1に記載の住宅構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅構造に関し、特に木造軸組構法で建設される住宅の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな災害が発生した場合には、被災者を受け入れる仮設住宅が必要となる。仮設住宅は、できるだけ早く建築する必要があり、しかも被災者のストレスを軽減できるような居住性に優れた住宅が好ましい。例えば、特許文献1では、四辺形の環状フレームユニットと、複数の環状フレームユニットをその厚さ方向に所定間隔を隔てて並行に配列した状態で、天面、及び両側面の外面に構造用合板を連結して一体化する住宅構造が記載されており、当該文献によると、組み立てや解体が容易であるとされている。また、木製フレーム材の間に、棚板を掛け渡して収納空間を形成する点が記載されており、効率的に収納空間を設けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−19208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、木造軸組構法において、柱の間を有能として活用しつつ、必要な構造耐力を備え、しかも意匠性に優れた住宅構造は、知られていない。
【0005】
そこで本発明は、スペースを有効活用できるとともに、必要な構造耐力を保持することができ、しかも意匠性に優れた住宅構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の住宅構造は、
柱材及び梁材を組んで形成した木造軸組にCLT(Cross Laminated Timber)の壁板をビスで固定する住宅構造であって、前記柱材は、等間隔に配置されるとともに、前記壁板は隣接する前記柱材に亘って屋外側から大壁仕様でビスで固定され、前記壁板の屋内側の面は屋内空間に露出し、床組みの上に前記壁板と同一寸法のCLTからなる床板をビスで固定して設置して床を形成し、小屋組の垂木の上に前記壁板と同一寸法のCLTからなる野地板を下面が屋内空間に露出するようにビスで固定して設置して屋根下地を形成し、前記柱材の柱頭間に架設される梁材の上面に前記壁板と同一寸法のCLTからなる天井板をビスで固定して設置して、当該天井板を床面とする小屋裏空間を形成することを特徴としている。
【0007】
なお、本発明における「CLT」は、JAS規格における「直交集成板」のことであり、ひき板又は小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にして長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ又は接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し3層以上の構造を持たせた板材をいう。
【0012】
好ましくは、前記柱材の間に前記壁板の下地材となるとともに、上面に所望の物品を載置可能な横桟が設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の住宅構造によると、柱材及び梁材を組んで形成した木造軸組の構造体に屋外側から大壁仕様でCLT(Cross Laminated Timber)の壁板を固定しているので、CLTが水平耐力を負担することができ、十分な構造耐力を持った住宅構造とすることができる。そして、前記壁板の屋内側の面は屋内空間に露出しているので、柱材の屋内側が仕上げ材で覆われる構造に比べて収納量を増やすことができるとともに、見た目にも空間の広がりを与えることができる。そして、壁板がCLTで構成されることにより、屋内空間に露出した部分の意匠性を優れたものとすることができ、柱及び梁と一体的な意匠とすることができる。
【0014】
また、好ましい形態の住宅構造によると、床組みの上に壁板と同一寸法のCLTからなる床板を設置して床を形成するものであるので、事前に床板と壁板とを分けて用意しておく必要がなくなる。特に予めCLTの板を備蓄しておくことで、災害時の仮設住宅のように、緊急に住宅構造が必要となる場合に備えることができる。また、住宅構造を解体した後、再度備蓄しておき、住宅構造の必要が生じたときに改めて利用することができる。同一寸法とすることで在庫管理や緊急時の輸送管理が容易になる。
【0015】
また、別の好ましい形態の住宅構造によると、小屋組の垂木の上に壁板と同一寸法のCLTからなる野地板を設置して屋根下地を形成するものであるので、前段落の床板の場合と同様に、事前に野地板と壁板とを分けて用意しておく必要がなくなり、備蓄、在庫管理、輸送管理などが容易になる。
【0016】
さらに、野地板の下面を屋内空間に露出させることで、別途、化粧材を設ける必要がないので材料コストを低減させることができ、また、空間を広く感じさせることができる。
【0017】
さらに、別の好ましい形態の住宅構造によると、梁材の上面に壁板と同一寸法のCLTからなる天井板を設置し、当該天井板を床面とする小屋裏空間を形成するので、小屋裏空間をロフトや小屋裏収納として利用することができる。そして、この天井板は、壁板と同一寸法のCLTからなるものであるので、床板や野地板の場合と同様に、事前に天井板と壁板とを分けて用意しておく必要がなくなり、備蓄、在庫管理、輸送管理などが容易になる。
【0018】
そして、好ましい形態の住宅構造によると、柱材の間に壁板の下地材となるとともに、上面に所望の物品を載置可能な横桟が設けられることで、壁板は柱材に固定されるとともに、横桟にも固定されることでより強固に固定されるので、この壁板が水平方向の構造耐力を負担することができ強固な住宅構造とすることができる。また、横桟は壁板の下地材であるとともに、棚板としても用いることができるので、別途棚板を設けなくても収納をより便利にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】床板を設置した状態の住宅構造を説明する小屋裏を省略した斜視図。
【
図4】
図3において、壁板を設置する状態を説明する斜視図。
【
図5】屋内方向から壁板を見た状態を説明する斜視図。
【
図6】壁板を柱等に固定した状態を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る住宅構造1の最良の実施形態について、各図を参照しつつ説明する。住宅構造1は、
図1及び
図2に示すように、木製の角材で柱材や梁材を形成して、床組み9及び小屋組み19を含む木造軸組2を構成し、CLT(Cross Laminated Timber)の板材を、壁板3、床板4、野地板5、及び天井板6として、木造軸組2に固定することで形成される構造であり、例えば、平屋の仮設住宅の構造躯体として用いられる構造である。
【0021】
住宅構造1は、
図1に示すように、外周に立ち上がった基礎上に外周部床梁7を固定し、さらに、互いに対向する外周部床梁7の間に屋内側床梁8を架設して床組み9を形成している。外周部床梁7と屋内側床梁8との接合部、及び屋内側床梁8同士の接合部には、図示しないが、ボルト及びナットで外周部床梁7又は屋内側床梁8に固定された梁受金物によって、屋内側床梁8を端部を受けて固定している。なお、本発明の床組み9の構成はこのような構造に限定されるものではなく、例えば、土台、大引き、根太等によって形成される床組みであってもよい。
【0022】
そして、床組み9の上には、その外周部床梁7の上に柱材10が立設されている。また、床組み9の中央部にも、後述する棟木11を支持する通柱12が立設されている。外周部の柱材10は、窓などの開口部が設けられる位置以外は、1mピッチで立設されている。隣接する柱材10の間には開口部が設けられる箇所を除いて、複数の横桟13が架設されている。横桟13は少なくとも上下方向に1mピッチで架設されており、後述する壁板3の上下の端縁をそれぞれビス等で固定する下地材となっている。横桟13の屋外屋内方向の長さは、当該横桟13に所望の物品を載置可能な長さである。少なくとも柱材10の屋外屋内方向の長さと同じかそれ以上が好ましく、例えば120mm以上であることが好ましい。
【0023】
横桟13は、前述の通り、壁板3の上下の端縁をそれぞれビス固定する下地材として、上下方向に1mピッチで設けられるが、これら下地材として設けられる横桟13の間にもさらに所望の位置に横桟13を設けて、当該横桟13を棚板として利用してもよい。そして、外周部の柱材10の上には、妻梁14及び軒桁15が固定されている。また、妻梁14及び軒桁15の幅方向の中央から中央部の通柱12にまで、小梁16がそれぞれ架け渡されて、平面視した場合に十字となるように配置されている。これら小梁16と、妻梁14、軒桁15、及び通柱12との接合部は、図示しないが、それぞれボルト及びナットで妻梁14、軒桁15及び通柱12に固定された梁受金物によって、小梁16の端部を受けて固定している。
【0024】
妻梁14の上には、束柱17が立設されており、両側の妻梁14のそれぞれ中央に立設された束柱17の間に棟木11が架設されている。そして、棟木11の両側の側面から軒桁15に向かって、垂木18が1mピッチで架設されており、これらの小梁16、妻梁14、軒桁15、通柱12、束柱17、及び垂木18によって小屋組み19が形成されている。
【0025】
本発明における「木造軸組」は、基礎、基礎上に組まれた床組み9、床組み9上に立設された柱材10、そして柱材10上に組まれた小屋組み19で構成されており、各部にCLTで形成された面材がビスによって固定されている。なお、本実施形態におけるCLT(Cross Laminated Timber)は、JAS規格における「直交集成板」のことであり、ひき板又は小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にして長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ又は接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し3層以上の構造を持たせた板材をいう。
【0026】
床板4は、
図1から
図3に示すように、床組み9の上に敷設される矩形のCLTの平板である。なお、
図3、4、6、及び7においては、床板4、壁板3、天井板6などの配置を理解しやすくするために、小屋組み19の記載を省略している。床板4の寸法は、長辺2000mm、短辺1000mm、厚さ36mmのCLTの板材である。なお、床板4は、床組み9を構成する外周部床梁7,屋内側床梁8の上に配置される際に、柱材10と干渉する箇所が切りかかれるように加工される。床板4は、床組み9を構成する外周部床梁7,屋内側床梁8にビスなどによって固定される。
【0027】
壁板3は、
図1、
図2、
図4、及び
図6に示すように、木造軸組2の互いに隣接する柱材10に亘って屋外側から大壁仕様で固定されている。壁板3は、その寸法が原則的に、長辺2000mm、短辺1000mm、厚さ36mmのCLTの板材である。壁板3は、長辺方向が水平で短辺方向が鉛直となるように配置され、長辺方向の端部及び中央が1mピッチの柱材10の屋外側に位置するように配置される。そして、壁板3の左右の端部及び中央部が当該柱材10に対してビスなどで固定される。そして、壁板3の上下の端部は、柱材10の間に架設された横桟13にビス等で固定される。なお、壁板3の寸法は、窓などの開口部が設けられる位置などのように建具と干渉する位置に配置するために、2000mmの長さのものを配置することができない場合には、例えば1辺1000mmで厚さ36mmのCLTの板材を用いてもよい。
【0028】
このように、強度に優れたCLTを壁板3として柱材10に固定することで、柱材10に加わる水平せん断力に対して、壁板3が十分な水平耐力を負担することができ、高い構造耐力を持った住宅構造1とすることができる。そして、
図2及び
図5に示すように、壁板3の屋内側には仕上げ材が設けられることは無く、柱材10及び横桟13の間からCLTの壁板3が屋内空間に露出している。これによって、柱材10の屋内側が仕上げ材で覆われる構造に比べて収納量を増やすことができるとともに、居住者に対して見た目にも空間の広がりを感じさせることができる。なお、
図5に示すように、横桟13の屋内側の面は、柱材10の屋内側の面と面一であってもよいが、例えば、柱材10の屋内側の面よりも屋内方向に突出させて、大きな棚板とすることもできる。壁板3がCLTで構成されることにより、屋内空間に露出した部分の意匠性をも優れたものとすることができ、柱材10と一体となって木のぬくもりを感じられる優れた意匠性をもった空間とすることができる。
【0029】
なお、
図2に示すように、壁板の屋外側には、外壁固定金具を介して外壁パネル25が固定されている。外壁パネル25と壁板との間には例えば断熱材などを配置してもよい。
【0030】
床板4の上の居住空間は、
図2及び
図7に示すように、その一部分が小屋裏までの吹き抜けが形成されるとともに、他の部分は天井板6によって小屋裏と分離される。妻梁14と小梁16との間には、一部の領域に天井板6を支持するための桁材20が架設される。桁材20は天井板6が設けられる部分の妻梁14と小梁16との間に1mピッチで架設される。天井板6は、その寸法が、長辺2000mm、短辺1000mm、厚さ36mmのCLTの板材である。天井板6は、妻梁14、小梁16、桁材20の上に載置され、ビス等で固定される。そして、天井板6を設置した領域と吹き抜けとの境界には転落防止用の手摺21などを設置し、図示しない梯子などを設けて、小屋裏空間をロフト又は小屋裏収納として利用可能にしている。そして、天井板6の下面は、下側の居住空間に向かって露出しており、居住者がCLTの天井板6をそのまま視認できるようになっている。
【0031】
野地板5は、
図2及び
図8に示すように、垂木18上に敷設されて、当該垂木18にビス等で固定される板材であり、その寸法が、原則として、長辺2000mm、短辺1000mm、厚さ36mmのCLTの板材である。なお、屋根の寸法上、厚さ36mmのCLTであって、上記の寸法よりも小さく切断された野地板5を一部に敷設している。野地板5の上には、断熱材22を敷設し、さらに防水シート23及び折版屋根24を敷設して屋根を完成させている。野地板5の屋内側には化粧材等が設けられることは無く、屋内側の空間に野地板5は露出されている。
【0032】
以上のように本実施形態の住宅構造1に係る床板4、壁板3、天井板6、野地板5はそれぞれ、配置の都合上大きさを変更する必要がある一部を除いて、同一寸法のCLTにより形成されている。このように、基本的に同一材料で同一寸法で形成されることにより、床板4、壁板3、天井板6、及び野地板5を別々に管理する必要がなくなる。特に災害時の仮設住宅のように緊急に住宅構造1が必要となる場合に備えて、予め仮設住宅の材料を備蓄し災害時に即応できるようにしておく必要があるが、これらの床板4、壁板3、天井板6、及び野地板5の寸法が原則として1種類であるので、在庫管理のコストや輸送管理のコストを低減させることができる。また、一部の寸法が合わない箇所についても、上記の基本寸法よりも小さい寸法であるので、一部は現場で切断加工するなどして、容易に各板材として用いることができる。また、住宅構造1を解体した場合にも、基本的に同じ寸法の板材となるので、再度備蓄しておき、住宅構造1の必要が生じたときに改めて利用することができる。
【0033】
また、CLTは、強度性能や断熱性能に優れており、床・壁・天井・屋根などを基本的にCLTで覆っているので、住宅構造1の強度を高めることができるとともに、住宅構造1の断熱性も高めることができる。そして、床板4・壁板3・天井板6・野地板5は、それぞれ居住空間に向かって露出しているので、居住空間は全面がCLTの木材に囲まれた空間となり、化粧材を設けることなく意匠性に優れた空間とすることができる。
【0034】
なお、本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る住宅は、例えば仮設住宅の構造として、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 住宅構造
2 木造軸組
3 壁板
4 床板
5 野地板
6 天井板
9 床組み
10 柱材
13 横桟
19 小屋組み