特許第6233395号(P6233395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233395
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】建物架構
(51)【国際特許分類】
   E04H 1/02 20060101AFI20171113BHJP
   E04B 7/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   E04H1/02
   E04B7/02 521Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-240270(P2015-240270)
(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-106220(P2017-106220A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2016年2月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)電気通信回線を通じての公開 平成27年7月30日、出願人ウェブサイト(下記アドレス)においてニュースリリースとして発表 http://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/datail/_icsFiles/afieldfile/2015/07/30/20150730_2.pdf (2)刊行物への掲載による公開 平成27年8月1日、出願人が発行する下記カタログに掲載『進化する木造住宅 シャーウッド グラヴィス・ヴィラ』 (3)刊行物への掲載による公開 平成27年8月1日、出願人が発行する下記カタログに掲載『シャーウッド テクニカルカタログ』
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木戸 正典
(72)【発明者】
【氏名】御厨 淳
(72)【発明者】
【氏名】土方 和己
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 輝
(72)【発明者】
【氏名】木野村 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 昇平
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−192674(JP,A)
【文献】 特開2000−230325(JP,A)
【文献】 特開2004−044210(JP,A)
【文献】 特許第4095523(JP,B2)
【文献】 特許第4507987(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/02
E04B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根の少なくとも一部が切妻屋根となされた木質造建物において、前記切妻屋根の少なくとも一方の妻面を含めて構成される正面視五角形の建物架構であって、
前記切妻屋根の直下階に設けられる平面視矩形の床構面と、
前記床構面の四隅に立設された側柱と、
前記側柱の上端を桁行方向に連結して互いに相対する一対の軒桁と、
前記一対の軒桁からそれぞれ前記切妻屋根の棟に向け適宜間隔で合掌形に架設された複数本の勾配梁と、
前記勾配梁の上端を連結する棟木と、
前記切妻屋根の少なくとも一方の妻面を含む棟直下位置に立設されて前記床構面上に前記棟木を直接、支持する棟持ち柱と、
前記妻面の棟持ち柱の左右両側に適宜間隔を隔てて立設され、前記床構面上に妻面上部の勾配梁を支持する妻面副柱と、
を具備し、
前記妻面における前記棟持ち柱と前記各妻面副柱との間に、前記床構面から妻面の破風の高さまで上下方向への連続性を備えて開口する窓が設けられるとともに、
前記切妻屋根に作用する鉛直荷重を前記棟持ち柱で負担することにより、前記床構面上に、前記切妻屋根を構成する小屋組の下弦材が横断しない無梁空間が形成されたことを特徴とする建物架構。
【請求項2】
請求項1に記載された建物架構において、
前記妻面における前記側柱と妻面副柱とに挟まれた部分に補剛面材が張設されたことを特徴とする建物架構。
【請求項3】
請求項1または2に記載された建物架構において、
前記直下階の床構面は、その四周に配置された当該直下階の床梁によって支持されるとともに、
前記直下階の床構面よりも下方に、略半階分以内の高さを隔てて、下層階の床梁によって支持される下層階の床構面が設けられたことを特徴とする建物架構。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された建物架構において、
前記妻面上部の勾配梁と、これに隣接する勾配梁との間に補剛面材が落とし込まれて、該補剛面材が前記両勾配梁に接合されたことを特徴とする建物架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根の少なくとも一部が切妻屋根となされた木質造建物(またはその一部分)の、妻面を含めて構成される建物架構に関する。
【背景技術】
【0002】
中・小規模の2階建て建物では、構造上の要請から、階層ごとに床及び天井高(階高)をそろえることが一般的である。しかし、都市部に建築される住宅等においては、敷地面積に十分な余裕がない中で居室空間や収納空間を少しでも広く確保するため、床面を半階分ずつずらしたスキップフロアとすることがある。このスキップフロアを採用すると、居室と、半階分の高さの床下収納スペースとを立体的に配置して、限られた屋内空間を有効に活用することができる。
【0003】
また、勾配屋根の小屋裏を利用して天井高の低いロフトを設け、収納や趣味の部屋等に利用する構成もよく知られている。これらの技術思想は、例えば特許文献1〜3等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−54402号公報
【特許文献2】特開平7−62900号公報
【特許文献3】特開2002−364189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建物を建築するに際しては、都市計画法で指定される用途地域に応じて、その地域内の敷地に建てることのできる建物の面積及び高さが建築基準法等で定められている。それらの用途地域のうち、特に第一種または第二種低層住居専用地域においては、良好な住環境を維持するため、建物の高さ及び斜線に関する厳しい制限が設けられており、これによって建物の配置や屋根形状についての自由度が大きく制約される。
【0006】
そのような敷地条件の下では、前記特許文献に開示されたようなスキップフロアを採用しようとしても、各階の天井高を十分に確保することが難しいので、屋内の快適性が得られにくい。また、小屋裏にロフトを設けても、天井の低い窮屈な空間になって、その用途が限定されてしまいがちである。
【0007】
さらに、建物各部の高さを斜線制限に対応させるため、屋根の一部が不自然な形状になって外観の均整が崩れたり、街並みとの調和が損なわれたりすることもある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、建物の高さや斜線に関する制限が厳しい敷地に建てられる住宅その他の建物のうち、特に木造軸組構造またはそれに準じた木質造で建てられる建物に関して、高さを抑えたコンパクトな外観の中に、立体的な拡がり感や開放感のある居室空間を実現するのに適した建物架構を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するため、本発明は、屋根の少なくとも一部が切妻屋根となされた木質造建物において、前記切妻屋根の少なくとも一方の妻面を含めて構成される正面視五角形の建物架構であって、前記切妻屋根の直下階に設けられる平面視矩形の床構面と、前記床構面の四隅に立設された側柱と、前記側柱の上端を桁行方向に連結して互いに相対する一対の軒桁と、前記一対の軒桁からそれぞれ前記切妻屋根の棟に向け適宜間隔で合掌形に架設された複数本の勾配梁と、前記勾配梁の上端を連結する棟木と、前記切妻屋根の少なくとも一方の妻面を含む棟直下位置に立設されて前記床構面上に前記棟木を直接、支持する棟持ち柱と、前記妻面の棟持ち柱の左右両側に適宜間隔を隔てて立設され、前記床構面上に妻面上部の勾配梁を支持する妻面副柱と、を具備し、前記妻面における前記棟持ち柱と前記各妻面副柱との間に、前記床構面から妻面の破風の高さまで上下方向への連続性を備えて開口する窓が設けられるとともに、前記切妻屋根に作用する鉛直荷重を前記棟持ち柱で負担することにより、前記床構面上に、前記切妻屋根を構成する小屋組の下弦材が横断しない無梁空間が形成された、との構成を採用する。
【0010】
この構成によれば、切妻屋根の少なくとも一方の妻面の中央部分に、切妻屋根の直下階の床面近傍から棟近傍まで延びる背の高い窓を設けることができる。この窓は、高さ方向における中間部分が小屋梁その他の構造材によって分断されない、上下方向に連続した窓となる。このような窓を妻面に設けることにより、妻面の屋内側を、格段に明るく、開放感に満ちた空間にすることができる。
【0011】
また、棟持ち柱によって床構面上に棟木を直接、支持する構造を採用したことにより、小屋組の下弦材となる小屋梁や陸梁等を部分的に省くことが可能になる。この構造を利用して、切妻屋根の直下階の天井を、切妻屋根の勾配に沿った勾配天井とすれば、棟の高さを抑えながら実質的な天井高を確保することができて、高さ方向の拡がり感を有する快適な屋内空間が得られる。
【0012】
さらに前述の建物架構は、前記妻面における前記側柱と妻面副柱とに挟まれた部分に補剛面材が張設されたものとすることができる。この補剛面材が張設された部分は、構造上の耐力壁として、前述の建物架構における妻面の剛性を向上させる。
【0013】
さらに、前述の建物架構は、前記直下階の床構面が、その四周に配置された当該直下階の床梁によって支持されるとともに、前記直下階の床構面よりも下方に、略半階分以内の高さを隔てて、下層階の床梁によって支持される下層階の床構面が設けられたものとすることができる。
【0014】
この構成は、切妻屋根の直下階の床構面と、さらにその下方に略半階分以内の高さ(目安として1.0〜1.5m)を隔てて設けた下層階の床構面との二重床構造によって建物架構を支持するものである。直下階の床構面と、下層階の床構面とは、各床構面の四周を囲む床梁同士を短柱材や面材で結合するなどして、構造的に一体化される。このような二重床構造を採用することにより、それぞれの床構面の四周を囲む床梁等の部材断面寸法を抑制しながら、小屋組の下弦材を省いた正面視五角形の建物架構を安定的に支持することができる。また、このような二重床を利用してスキップフロアや床下収納を設けることにより、建物内部の空間を立体的に活用することが可能になる。
【0015】
そして、この二重床構造を採用した建物架構においては、妻面における直下階の床構面と下層階の床構面との間の部分に、直下階から棟近傍まで延びる前述の窓と同幅の窓を設けることも可能になる。
【0016】
さらに、前述の建物架構は、前記妻面上部の勾配梁と、これに隣接する勾配梁との間に補剛面材が落とし込まれて、該補剛面材が前記両勾配梁に接合されたものとすることができる。この補剛面材が張設された屋根面は、小屋組みの水平耐力要素として、前述の建物架構の全体的な水平剛性を強化する。また、一般的な小屋組架構において小屋底面の隅部(小屋梁と軒桁との接合部等)に配されるべき火打ち部材等を省くことも可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の建物架構は、切妻屋根の直下階の床構面上に立設された棟持ち柱によって棟木を直接、支持する構造を採用することで、該直下階の上方に小屋梁等の下弦材が横断しない無梁空間を形成するとともに、妻面の棟持ち柱と、その両側に立設した妻面副柱との間に、棟近傍まで延びる背の高い窓を設けた空間構成を可能にする。それによって、棟の高さを抑えたコンパクトな外観の中に、明るく開放感に満ち、高さ方向の拡がり感を有する屋内空間を創出することができる。
【0018】
このような建物架構を採用すれば、斜線や高さに関する制限が厳しい敷地においても、屋根や壁面の形状を不自然に変形することなく、均整のとれた建物外観を維持しながら、快適な居住性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る建物架構を採用した住宅の配置図兼1階平面図である。
図2】前記住宅の2階平面図である。
図3】前記住宅の高2階及び小屋裏階の平面図である。
図4】前記住宅の棟方向断面図である。
図5】前記住宅の梁間方向断面図である。
図6】前記住宅を前面道路側から見た立面図である。
図7】前記住宅の床面構成を模式的に示す斜視図である。
図8】三角形の小屋組架構の支持構造を模式的に示す説明図である。
図9】前記住宅の建物架構を概略的に示す斜視図である。
図10】前記建物架構の妻面の立面図である。
図11】前記建物架構の壁面の他の構成例を示す立面図である。
図12】前記建物架構の勾配屋根面の構成例を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1図7及び図9図11は本発明の一実施形態に係る建物架構を採用した木造住宅を示している。
【0021】
例示の住宅1は、都市部または都市近郊部の第一種または第二種低層住居専用地域に位置する、敷地面積140〜200m2 程度の略平坦な敷地に建てられることを想定したものである。図1において、敷地の図中右辺が前面道路Rに接しており、その他の三辺が隣地に接している。
【0022】
この住宅1は、例えば木造軸組構法により、標準的な2階建ての高さに納まるように建てられる。図1図3は各階の平面的な構成を示しており、図4図7は建物各部の高さ方向における構成を示している。
【0023】
この住宅1は、一つの棟11から両側に流下する切妻屋根12を有している。切妻屋根12の勾配は、例えば6/10(6寸勾配)で、片側(図6における右側)の屋根の一部が、標準的な2階の軒先の高さよりもやや下方まで葺き下ろされている。
【0024】
図1図2に示すように、建物本体部分の平面形状は略L字形で、棟11が前面道路Rと直交する方向に配置され、間口の狭いほうの妻面13が前面道路Rに面している。前面道路R側の妻面13の間口は約6mで、反対側の葺き下ろし部分を含めた妻面14の間口は約8mである。図6の立面図は、前面道路R側から間口の狭いほうの妻面13を見た外観を表している。
【0025】
1階(1F)の床面は、敷地の地盤面から約0.5mの高さで、概ね同一レベルに設けられている。1階には、玄関ホール101、リビングルーム102、ダイニングルーム103、キッチン104、和室105、浴室106、洗面脱衣室107、トイレ108、物入れ109等が設けられている。リビングルーム102は、前面道路R側の妻面13に面して配置され、ダイニングルーム103およびキッチン104と空間的に一体化されている。和室105とトイレ108との間には、2階(2F)へと通じる階段110が設けられている。
【0026】
2階の床面は、1階の上方領域の一部に重なるように配置されている。2階の床面は1階の床面よりも約3.0m高い位置に設けられ、2階の直下における1階の天井高は約2.5mとなっている。2階には、階段ホール201、主寝室として利用される洋室202、ウォークインクローゼット203、書斎コーナー204、トイレ205等が設けられている。1階のリビングルーム102の上方は、吹き抜け206になっている。また、1階の玄関ホール101の上方には2階収納室207が設けられている。
【0027】
この2階は、スキップ階段208を通じて、さらに略半階分高い位置に設けられた高2階(H2F)へと連続している。実質的に2.5階に相当する高2階の床面は、リビングルーム102の上方の吹き抜け206と2階収納室207に重なるようにして、前面道路R側の妻面13の間口一杯にわたるように配置されている。高2階の床面は、2階の床面よりも約1.3m高い位置に設けられており、高2階の直下における1階の天井高は約3.8mとなる。
【0028】
また、高2階の床面と2階床面とが部分的に重なり合う位置に設けられた2階収納室207の天井高は、約1.0mとなる。なお、このようにスキップフロアの床下を利用して設けられる収納室は、天井高が1.4m以下で、その水平投影面積が当該階(2階)の床面積の1/2未満、かつ直下階(1階)及び直上階(高2階)の各床面積の1/2未満であれば、原則として床面積非算入となる。(自治体によって取扱いが異なる場合がある。)
【0029】
高2階には、階段ホール301、洋室302、物入れ303、304等が設けられている。洋室302は、棟11の直下部分を含んで妻面13の間口一杯にわたるように配置され、例えば子供室として利用される。この洋室302と、物入れ303、304の天井は、切妻屋根12の勾配に沿う船底形の勾配天井(拝み天井、屋形天井)となされて、切妻屋根12の小屋裏と一体化されている。その天井の高さは、妻面13の両端部近傍で約1.6m、棟11の直下で約3.3mとなる。この洋室302の中央部分は天井高が大きいので、この洋室302を子供室として利用する場合は、子供の成育状況等に応じ、中央部分に2段ベッドを置くなどして室内を適宜、間仕切ることも可能になる。
【0030】
高2階は、棟11の直下付近に設置されたスキップ階段305を通じて、さらに小屋裏階(LF)へと連続している。小屋裏階の床面は、高2階の床面よりも約1.5m高い位置に設けられており、小屋裏階の直下における2階の天井高は約2.5mとなっている。小屋裏階には、棟11の直下を中心として約3.0mの間口を有する小屋裏収納室401が設けられている。小屋裏収納室401の天井も切妻屋根12の勾配に沿う勾配天井となされ、その天井の高さは、屋根の流れ方向の両側で約0.9m、棟11の直下で約1.8mである。
【0031】
前記建物各部の地盤面からの高さとしては、図5において、1階(1F)の床面の高さが約0.5m、2階(2F)の床面の高さが約3.5m、高2階(H2F)の床面の高さが約4.8m、軒高(小屋組を支持する軒桁15の上面までの高さ)が約6.5m、最頂部である棟11までの高さが約8.3mとなる。
【0032】
図7は、この住宅1の各階の床面の構成を模式的に示した図である。このように、棟11の方向に沿って床面の高さを略半階ずつ変えたスキップフロアと、切妻屋根12の勾配に沿う勾配天井とを組み合わせた空間構成を採用することにより、全体的には標準的な2階建ての高さでありながら、一方の妻面13に沿って上下2層に重なる高天井空間(1階のリビングルーム102及び高2階の洋室302)を設けることが可能になる。これらの高天井空間は、標準的な2階建て建物に設けられる居室の1.3〜1.5倍の天井高を有する、開放感に満ちた居室となる。さらに、それら高天井空間と他の部屋とがスキップ状に連続することにより、上下方向の拡がり感が屋内全体に形成される。
【0033】
本発明の要部は、このような空間を実現するための建物架構にある。以下、実施形態に係る住宅1の建物架構について詳述する。
【0034】
まず、木造軸組躯体の上に断面が三角形の小屋組架構を載せる場合、通常は図8(a)に模式的に示すように、三角形の底辺の位置に小屋梁あるいは陸梁、つなぎ梁等と称される下弦材91を架け渡して、三角形の両端が開くのを防ぐ。そして、その下弦材91の上に束材92、93を立てて、三角形の頂点に配される棟木94と、三角形の斜辺に架設される勾配梁95とを支持する。しかし、このような構造を採用すると、小屋組の直下の空間の天井部分を下弦材91が横切ることになってしまう。
【0035】
そこで、本発明では、図8(b)に示すように、切妻屋根の直下階の床構面96の上に棟持ち柱97を立設し、この棟持ち柱97で棟木94を直接、支持する構造を採用している。この棟持ち柱97で屋根に作用する鉛直荷重(圧縮荷重及び引張荷重)を負担することにより、五角形の構面が安定的に保持されて、三角形の下弦材91を省くことが可能になる。
【0036】
実施形態に係る住宅1においては、図9及び図10に示すように、切妻屋根12の直下階となる高2階(H2F)の床構面33と、該床構面33の四隅に立設された側柱23と、側柱23の上端同士を桁行方向に連結して互いに相対する一対の軒桁15と、両軒桁15からそれぞれ棟11に向けて、互いに等しい登り勾配で合掌形に架設された複数本の勾配梁21と、勾配梁21の上端を棟11方向に連結する棟木(棟桁)34とによって、正面視五角形の建物架構が形成されている。なお、この建物架構は、少なくとも建物の外周に位置する一方の妻面13を含めて構成される限り、床構面33の対辺側妻面は建物の他部に連続していてもよい。また、側柱23は、1階から立設された通し柱でもよいし、高2階の床構面33上に立設された管柱でもよい。
【0037】
そして、高2階の床構面33の、妻面13側の辺の中央と、そこから棟11に沿って約3m離れた対辺の中央に立設された棟持ち柱17とが、棟木34の両端をそれぞれ直接支持している。例示形態では、棟持ち柱17の下端は、高2階の床構面33を囲む床梁24の上に梁勝ち状態で立設されており、棟持ち柱17の上端は、棟木34に対して柱勝ちに接合されている。ただし、棟持ち柱17の下端が床梁24に対して柱勝ちに接合されていてもよく、また、棟持ち柱17の上端が棟木34に対して棟木勝ち(桁勝ち)に接合されていてもよい。
【0038】
例示形態における棟持ち柱17の長さは3.3〜3.4mで、断面形状は略正方形である。この棟持ち柱17がさらに長くなる場合は、その断面形状を棟11方向に長い長方形とすることで、耐風性能を高めることができる。なお、高2階の床構面33の棟11方向に沿う長さが目安として5mを超える場合は、その中間部にも棟持ち柱(図示せず)を追加で立設して、棟木34の中間部を支持するのが好ましい。
【0039】
妻面13における棟持ち柱17の左右両側には、適宜(例示形態では約1m)の間隔を隔てて、妻面副柱19が立設されている。この妻面副柱19も、妻面13の棟持ち柱17と同様に、その下端が高2階の床構面33を囲む床梁24の上に梁勝ち状態で立設されており、上端は妻面13上部の勾配梁21に対して柱勝ちに接合されている。ただし、妻面副柱19の下端が床梁24に対して柱勝ちに接合されていてもよく、また、妻面副柱19の上端が勾配梁21に対して梁勝ちに接合されていてもよい。
【0040】
そして、妻面13の棟持ち柱17と各妻面副柱19との間に、高2階の床構面33から妻面13の破風の高さまで達する縦長の窓51が設けられている。ここで「破風の高さ」とは、少なくとも軒桁15を水平に結ぶライン(小屋組の三角形の底辺:図5参照)よりも高い位置のことである。小屋組の底辺を下弦材が横切らない構造を採用したことにより、この窓51は、その中間部分が小屋梁その他の構造材によって分断されない、上下方向への連続性を備えた窓となる。このような背の高い窓を妻面13の中央に設けることにより、妻面13の屋内側には、格段に明るく、開放感に富む空間が創出される。窓51を開閉可能な形態にすれば、通風も十分に得られる。なお、窓51に嵌め込まれるガラス障子の枠体等によって窓51の開口面が複数の部分に分割されることは、窓51の全体的な連続性を損なうものではない。
【0041】
この妻面13における窓51以外の部分、つまり妻面副柱19と妻面13の両隅部に立設された側柱23とによって挟まれた、約2m幅の壁面には、適宜の短梁22等が結合され、さらに構造用合板等の補剛面材が張設されて、窓51を左右から挟む耐力壁35が形成されている。これにより妻面13の面内剛性が向上し、切妻屋根12を有する正面視五角形の建物架構が、より強固なものとなる。
【0042】
さらに、例示形態の住宅1では、棟持ち柱17及び妻面副柱19を支持する高2階(H2F)の床構面33が、それよりも略半階分低い下層階である2階(2F)の床構面32の上に重なるように架設されている。そして、高2階の床構面33を囲む床梁24と、2階の床構面32を囲む床梁25とが、短柱材18や補剛面材(図示せず)を介して一体的に結合されることにより、高2階と2階との間にも耐力壁36が形成されている。このように、各階の床構面を支持する床梁24、25を上下二段に重ねた二重床構造を採用することにより、床梁24、25等の部材断面寸法を抑制しながら、正面視五角形の建物架構の安定性をさらに高めることができる。図10中の網掛け部分は、妻面13の耐力壁35、36となる部分を示している。なお、高2階よりも略半階分高い位置に設けられる小屋裏階(LF)の床構面は、小屋組の下弦材の高さに架設された小屋梁16(図9参照)によって支持されている。
【0043】
このようにして妻面13の剛性を強化した建物架構においては、前述した妻面13の窓51を、2階の床面近傍まで下向きに拡張することが可能になる。すなわち、高2階の床構面33と2階の床構面32との間に設ける耐力壁36を、高2階よりも上方の部分と幅を揃えるように配置すれば、高2階と2階との間の部分にも、前述の窓51と幅を揃えて背の低い窓52を設けることができる。この窓51は、1階のリビングルーム102の開放感をさらに高める。なお、この窓52と、高2階よりも上方の窓51とは、高2階の床構面33を支持する床梁24によって構造的には分割されたものになるが、外観的には上下方向に等幅で連続する印象のものとなる。
【0044】
図11は、この建物架構の妻面13に設ける窓51、52及び耐力壁35、36の他の構成例を示している。この例では、棟持ち柱17の左右両側に、それぞれ2本ずつの妻面副柱19が略等間隔(例示形態では0.75mの間隔)で立設され、それらの間に計4か所の窓51が形成されている。また、高2階の床構面33と2階の床構面32との間にも、上方の窓51と幅を揃えて、計4か所の窓52が形成されている。これらの窓51、52の開口幅は全体で約3mとなり、妻面13の間口の約1/2に及ぶ。外側の妻面副柱19と両隅部の側柱23とによって挟まれた約1.5m幅の壁面は、前述の形態と同様の耐力壁35となされている。
【0045】
このように、棟持ち柱17と、妻面13の両側部に設けた耐力壁35とによって切妻屋根12を支持する本発明の建物架構によれば、間口がおおむね6m以内の妻面13において、その中央に、間口の1/2程度までの幅を有する背の高い窓51を、小屋組の下弦材が横切らない形態で設けることができる。
【0046】
さらに、この建物架構は、図12に示すように、勾配屋根面に補剛面材37を取り付けることによって、風力等に対する架構全体の水平耐力を増強することができる。図示の形態では、棟11の端部に接合された妻面13上部の勾配梁21とこれに隣接する妻面13から2本目の勾配梁21との間、妻面13から2本目の勾配梁21と3本目の勾配梁21との間、及び妻面13から4本目の勾配梁21と5本目の勾配梁21(無梁空間となる高2階の床構面33の対辺上に位置する勾配梁21)との間の計3か所に、棟11を挟んで両流れ方向に対称となるように補剛面材37が取り付けられている。ただし、妻面13に沿って取り付けられる屋根端部の補剛面材37以外の配置については、屋根面の大きさや勾配梁21の配置間隔等に応じて適宜、設定されればよい。
【0047】
補剛面材37は構造用合板等からなり、相対する勾配梁21の間に落とし込まれて、それぞれの長辺が、各勾配梁21の側面に添設された受部材38に接合される。場合によっては、それに加えて補剛面材37の短辺が、棟木34、軒桁15等に添設された適宜の受部材等に接合されてもよい。
【0048】
こうして屋根面に傾斜状態で固定された補剛面材37の水平成分により架構全体の水平剛性が強化される結果、この建物架構では、通常なら小屋底面の隅部(例示形態では短梁22と軒桁15との接合部等)に取り付けられる火打ち部材その他の補強部材を省くことが可能になる。これにより、高2階の上方に形成される無梁空間を、一層スッキリとしたものにすることができる。
【0049】
なお、本発明は、屋根の少なくとも一部が切妻屋根となされた建物において、該切妻屋根の棟の直下階の、少なくとも片側の妻面を含む部位の建物架構に適用されるものであり、当該部位以外の建物架構については、その構成を特に限定するものではない。切妻屋根の「直下階」に相当する階層は、実質的に1階でもよいし、3階以上の階層であってもよい。また、本発明は、妻面の形状が棟を挟んで左右対称になる建物架構だけでなく、妻面が多少、非対称の形状になる建物架構にも適用可能である。さらに、本発明は、木造軸組構造からなる建物架構だけでなく、これに準じたパネル構造、ツーバイフォー構造、あるいはそれらの複合構造等からなる様々な木質造の建物架構に適用可能であり、構成部材の詳細な形状や接合形態も、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜改変可能である。また、建物各部の用途や間取りも、特に例示形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
1 住宅
11 棟
12 切妻屋根
13 妻面
15 軒桁
16 小屋梁
17 棟持ち柱
18 短柱材
19 妻面副柱
21 勾配梁
23 側柱
24 床梁
32 2階の床構面
33 高2階の床構面
34 棟木
51 窓
52 窓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12