(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1及び第2の量子ドットの各シェル部は、真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位が、前記電子輸送層の価電子帯のエネルギー準位又は前記電子輸送層のHOMO準位よりも低位にあることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の発光デバイス。
【背景技術】
【0002】
粒径が10nm以下のナノ粒子である量子ドットは、キャリア(電子、正孔)の閉じ込め性に優れていることから、電子−正孔の再結合により励起子を容易に生成することができる。このため自由励起子からの発光が期待でき、発光効率が高く発光スペクトルの鋭い発光を実現することが可能である。また、量子ドットは、量子サイズ効果を利用した広い波長範囲での制御が可能であることから、EL素子、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ等の発光デバイスへの応用が注目されている。
【0003】
この種の発光デバイスでは、キャリアを高効率で量子ドット(ナノ粒子)内に閉じ込めて再結合させ、発光効率を高めるのが重要とされている。そして、量子ドットを作製する方法としては、ドライプロセスで量子ドットを作製するセルフアセンブル(自己組織化)法が知られている。
【0004】
セルフアセンブル法は、格子不整合となるような特定の条件下で半導体層を気相エピタキシャル成長させ、その歪みを利用して三次元的な量子ドットを自己形成させる方法であり、例えば、n型半導体基板とp型半導体層との格子定数の差から歪みを生じさせ、エピタキシャル成長ができなくなると歪みが生じた箇所に量子ドットが形成される。
【0005】
しかしながら、上記セルフアセンブル法では、量子ドットがn型半導体基板上で離散的に分布することから、隣接する量子ドット間に隙間が生じる。このため、p型半導体層から輸送されてきた正孔は量子ドットに注入されずにn型半導体基板側に輸送されたり、或いはn型半導体基板から輸送されてきた電子は量子ドットに注入されずにp型半導体基板に輸送されるおそれがあり、発光効率の低下を招くおそれがある。
【0006】
さらに、上記セルフアセンンブル法では、量子ドットに注入されなかったキャリアが量子ドットの外部で再結合して発光するおそれもある。そして、このようにキャリアが量子ドットの外部で再結合して発光すると、発光スペクトルでは複数の強度ピークが生じ、発光色純度の低下を招くおそれがある。また、量子ドット内に注入されなかったキャリアが量子ドット外で再結合しても発光せずにいわゆる非発光再結合中心となる場合もあり、斯かる場合は、電気エネルギーが光エネルギーに変換されずに熱エネルギーとして放出されることから、発光効率の更なる低下を招くおそれがある。
【0007】
そこで、特許文献1では、第1の半導体からなる主表面を有する基板と、前記主表面の上に離散的に分布する複数の量子ドットと、前記量子ドットの分布する面の上に形成された第2の半導体からなる被覆層と、前記量子ドットの分布する面内のうち、前記量子ドットの配置されていない領域の少なくとも一部に配置され、前記第1及び第2の半導体のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する第3の半導体もしくは絶縁材料で形成された障壁層とを有する半導体装置が提案されている。
【0008】
すなわち、特許文献1では、
図23に示すように、n型GaAs(第1の半導体)を使用して基板101を形成すると共に、p型GaAs(第2の半導体)を使用して被覆層102を形成している。また、セルフアセンブル法を使用してInGaAsからなる量子ドット103を基板101上に離散的に分布させ、さらに分子線エピタキシ法を使用し、GaAsよりも大きなバンドギャップエネルギーを有するAlAs(第3の半導体)を基板101上にエピタキシャル成長させ、その後、該AlAsを酸化させて絶縁性を有する障壁層104を形成している。
【0009】
このように特許文献1では、絶縁性を有する障壁層104で量子ドット103間の隙間を充填することにより、キャリアを量子ドット103に注入し易くし、量子ドット103内での電子−正孔の再結合を促進し、これにより発光効率の向上を図っている。
【0010】
一方、ウェットプロセスでコロイダル量子ドットを作製した技術としては、特許文献2や特許文献3が知られている。
【0011】
特許文献2には、量子ドットでなり、電子及びホールの再結合によって発光する発光層と、前記発光層へ前記電子を輸送するn型の無機半導体層と、前記発光層へ前記ホールを輸送するp型の無機半導体層と、前記n型の無機半導体層に前記電子を注入するための第1の電極と、前記p型の無機半導体層に前記ホールを注入するための第2の電極とを具備した発光デバイスが提案されている。
【0012】
この特許文献2では、
図24に示すように、n型半導体層111及びp型半導体層112をキャリア輸送性の良好なバンド構造を有する無機材料で形成し、これらn型半導体層111とp型半導体層112との間に発光層となる量子ドット層113が介装されている。
【0013】
そして、n型半導体層111から輸送されてきた電子、及びp型半導体層112から輸送されてきた正孔は、トンネル効果により量子ドット層113とキャリア輸送層(n型半導体層111及びp型半導体層112)との間のポテンシャル障壁を通過して量子ドット層113に注入され、これによりキャリアの量子ドット層113への注入効率を向上させている。
【0014】
また、特許文献3には、ナノ粒子からなるコア部と、該コア部の表面に局在する少なくとも2種の配位子からなるシェル部とから構成され、該配位子のうち、少なくとも1種が正孔輸送性配位子であり、少なくとも1種が電子輸送性配位子であるナノ粒子発光材料が提案されている。
【0015】
この特許文献3では、正孔輸送性配位子及び電子輸送性配位子を有する界面活性剤を使用し、各配位子のエネルギー準位をキャリアブロック効果が生じるような組み合わせとなるように工夫し、キャリアをナノ粒子内に閉じ込めようとしている。
【0016】
図25は、特許文献3のエネルギーバンドを示すバンド構造図であり、ナノ粒子はコアーシェル構造を有している。
【0017】
すなわち、ナノ粒子121は、コア部122と該コア部122を被覆するシェル部123とで構成され、シェル部123は界面活性剤124で被覆されている。この界面活性剤124は正孔輸送性配位子124aと電子輸送性配位子124bとを有し、正孔輸送層125側には正孔輸送性配位子124aが局在し、電子輸送層126側には電子輸送性配位子124bが局在している。
【0018】
特許文献3では、正孔輸送性配位子124aのLUMO準位127を、電子輸送性配位子124bのLUMO準位128よりも高くすることにより、電子輸送層126からの電子をコア部122内に注入する一方、正孔輸送性配位子124aのLUMO準位127を、コア部122の(電子が移動する)伝導帯における最低電子準位129よりも高くすることにより、正孔輸送性配位子124aが電子に対する障壁となり、これにより電子をコア部122の内部に閉じ込めている。
【0019】
また、電子輸送性配位子124bのHOMO準位130を、正孔輸送層配位子124aのHOMO準位131よりも低くすることにより、正孔輸送層125からの正孔をコア部122内に注入する一方、電子輸送性配位子124bのHOMO準位130を、コア部122の(正孔が移動する)価電子帯における最高電子準位132よりも低くすることにより、電子輸送性配位子124bが正孔に対する障壁となり、これにより正孔をコア部122の内部に閉じ込めている。
【0020】
ここで、LUMO準位とは、分子が光に照射されるとエネルギーは励起状態となり、分子軌道は電子に占有されていない空状態となるが、この場合において、電子に占有されていない分子軌道のうち最も低い最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)に対応するエネルギー準位をいう。
【0021】
また、HOMO準位とは、分子が光に照射される前の基底状態では、最も低いエネルギーを有する分子軌道から順番に電子が占有されていくが、この場合において、基底状態の分子軌道のうち最も高い最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital)に対応するエネルギー準位をいう。
【0022】
このように特許文献3では、正孔輸送性配位子124aの電子ブロック効果及び電子輸送性配位子124bの正孔ブロック効果により、キャリア(電子及び正孔)をナノ粒子121のコア部122の内部に閉じ込めている。
【0023】
そして、このように電子及び正孔をコア部122内に閉じ込めることにより、コア部122内で電子−正孔を再結合させ、励起子発光させようとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、特許文献1(
図23)は、量子ドット103を構成するInGaAsはエピタキシャル成長により形成されているため、結晶の表面欠陥は少ないものの、InGaAsは、Inの一部をGaで置換したものであり、したがって基板101や被覆層102を形成するGaAsとバンドギャップエネルギーに大差がなく、キャリアの閉じ込め性能に劣っていた。
【0026】
すなわち、発光デバイスの発光層に量子ドットを使用した場合、正孔及び電子を量子ドット103内に効果的に閉じ込めて、正孔と電子とを量子ドット103内で再結合させて励起子発光させる必要がある。
【0027】
しかしながら、特許文献1では、量子ドット103を形成するInGaAsと基板101及び被覆層102を形成するGaAsとではバンドギャップエネルギーの差が小さく、このため、正孔輸送層から輸送されてきた正孔及び電子輸送層から輸送されてきた電子が量子ドット103内で再結合することなく、正孔は電子輸送層側に輸送され、また電子は正孔輸送層側に輸送されるおそれがあり、量子ドット103内へのキャリアの閉じ込め性能に劣っていた。
【0028】
また、特許文献2(
図24)は、トンネル効果を利用することにより量子ドット層113へのキャリアの注入効率は向上するものの、キャリアを量子ドット層113に効果的に閉じ込めるのは困難であり、したがってキャリアの再結合確率に劣り、十分な発光効率を得ることができないという問題があった。
【0029】
また、特許文献3(
図25)は、上記したように界面活性剤124とナノ粒子121のコア部122とのエネルギー準位を調整することにより、キャリアのナノ粒子121内での閉じ込め機能は向上するものの、界面活性剤124とコア部122との間で一定のエネルギー準位差を有するような界面活性剤材料及びコア材料を選択しなければならず、材料の制約が大きく、設計の自由度も狭い。
【0030】
また、この種の発光デバイスでは、発光特性の更なる向上を図るためには、キャリアをナノ粒子121内に効果的に閉じ込めるのみならず、キャリアのナノ粒子121(量子ドット)への注入効率を向上させる必要がある。しかしながら、特許文献3には、斯かる点の言及はなく、更なる特性の改善が求められている。
【0031】
一方、キャリアの閉じ込め機能を向上させる方策としては、
図26に示すように、シェル部132と電子輸送層133との間に正孔ブロック層134を介在させることも考えられる。
【0032】
すなわち、この
図26では、発光層を形成する量子ドット131は、コア部135とシェル部132と備えたコアーシェル構造を有している。
【0033】
そして、量子ドット131は、正孔輸送層136と電子輸送層133との間に介在され、シェル部132と電子輸送層133との間には、真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位vb1が電子輸送層133の価電子帯のエネルギー準位vb2又は電子輸送層133のHOMO準位h1よりも低位となるような電子輸送性材料で形成された正孔ブロック層134が介在されている。
【0034】
このように構成された発光デバイスでは、矢印aに示すように、正孔輸送層136から量子ドット131に注入された正孔は、正孔ブロック層134が障壁となって電子輸送層133等の量子ドット131の外部にリークするのを阻止することができる。すなわち、シェル部132と電子輸送層133との間に所定のエネルギー準位を有する正孔ブロック層134を介在させることにより、正孔はコア部135内に滞留して蓄積されることから、矢印bに示すように、電子輸送層133から量子ドット131に注入された電子と、コア部135内で効率良く再結合させることができると考えられる。
【0035】
しかしながら、
図26の発光デバイスでは、量子ドット131と電子輸送層133との間に正孔ブロック層134を新たに設ける必要があり、製造工程の工程増を招いたり、コスト高を招くおそれがある。しかも、正孔が外部にリークしないように効果的に正孔をブロックするためには、正孔ブロック層134は、上述したように所定のエネルギー準位を有し、かつ電子輸送性が必要とされることから、材料の制約も大きいなどの新たな課題が生じるおそれもある。
【0036】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、
発光層へのキャリアの注入効率を維持しつつ、該
発光層に注入された正孔
が外部にリークするのを抑制して再結合確率を向上させ、これにより高効率な発光を可能とした発光デバイ
スを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
コアーシェル構造を有するナノ粒子材料では、シェル部は、主としてコア部の有する表面欠陥を取り除いて表面を不活性化するために形成されることから、通常、コア部よりもバンドギャップエネルギーが大きな材料で形成される。
【0038】
したがって、シェル部の厚みを、キャリア輸送性等を損なわない程度に厚くすることにより、正孔のブロック性能を向上させることができると考えられる。
【0039】
本発明者らは、斯かる観点から鋭意研究を行なったところ、シェル部の厚みを、シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤー(以下、「ML」と記す。)とすることにより、ナノ粒子材料を発光デバイスの発光層に使用した場合であっても、コア材料との間で格子不整合に起因した表面欠陥が生じることもなく、キャリア輸送性の低下を極力回避しつつ、正孔のブロック性能を向上させることができるという知見を得た。
【0040】
そして、この種のナノ粒子材料は、通常、シェル部の表面が界面活性剤で被覆されているが、斯かる界面活性剤の種類を工夫することにより、様々な量子ドット構造を有する発光層を備えた発光デバイスに応用可能と考えられる。
【0041】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る
発光デバイスは、発光層が正孔輸送層と電子輸送層との間に介在され、前記発光層に電流が注入されて発光する発光デバイスであって、前記発光層が、
コア部と該コア部を被覆するシェル部とを有するコア−シェル構造を備えた第1及び第2の発光層を含む積層構造とされ、前記第1の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤーに形成された第1の量子ドットから
なると共に、前記第2の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3モノレイヤー未満に形成され
た第2の量子ドットからな
り、前記
第1及び第2の量子ドットは、前記シェル部の表面が、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤と電子輸送性を有する第2の界面活性剤の双方で被覆されると共に、前記第1の発光層が前記電子輸送層側に配され、前記第2の発光層が前記正孔輸送層側に配されていることを特徴とナノ粒子材料は、コア部と該コア部を被覆するシェル部とを備えたコアーシェル構造を有し、前記シェル部の表面が、界面活性剤で被覆されると共に、前記シェル部の厚みは、前記シェル部の構成分子基準で3〜5MLであることを特徴としている。
【0042】
ここで、構成分子基準でのML(モノレイヤー)とは、材料中で最密充填されているナノ粒子の厚み方向の平均粒子個数をいい、例えば、1MLは単分子層を意味する。
【0045】
また、本発明の
発光デバイスは、前記第1の界面活性剤が、前記コア部の価電子帯及び該価電子帯の励起準位とトンネル共鳴するような価電子帯を有しているのが好まし
い。
【0046】
これによりトンネル共鳴を利用して正孔を移動させることが可能となり、フォノンボトルネックが生じることなく迅速かつ効率よく正孔をナノ粒子材料に注入することができる。
【0047】
また、本発明の
発光デバイスは、前記第2の界面活性剤が、前記コア部の伝導帯及び該伝導帯の励起準位とトンネル共鳴するような伝導帯を有しているのが好まし
い。
【0048】
これによりトンネル共鳴を利用して電子を移動させることが可能となり、フォノンボトルネックが生じることなく迅速かつ効率よく電子をナノ粒子材料に注入することができる。
【0049】
また、本発明
に係る発光デバイスは、発光層が正孔輸送層と電子輸送層との間に介在され、前記発光層に電流が注入されて発光する発光デバイスであって、前記発光層が、
コア部と該コア部を被覆するシェル部とを有するコア−シェル構造を備えた第1及び第2の発光層を含む積層構造とされ、前記第1の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤーに形成された第1の量子ドットから
なると共に、前記第2の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3モノレイヤー未満に形成され
た第2の量子ドットからな
り、前記第2の量子ドットは、前記シェル部の表面が、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤及び電子輸送性を有する第2の界面活性剤の双方
で被覆されると共に、
前記第1の量子ドットは、前記シェル部の表面が、前記第2の界面活性剤で被覆され、前記第1の発光層が前記電子輸送層側に配され、前記第2の発光層が前記正孔輸送層側に配されていることを特徴としている。
【0051】
この場合も、
上述と同様の理由から、前記第2の界面活性剤が、前記コア部の伝導帯及び該伝導帯の励起準位とトンネル共鳴するような伝導帯を有しているのが好まし
い。
【0052】
また、本発明
に係る発光デバイスは、発光層が正孔輸送層と電子輸送層との間に介在され、前記発光層に電流が注入されて発光する発光デバイスであって、前記発光層が、
コア部と該コア部を被覆するシェル部とを有するコア−シェル構造を備えた第1及び第2の発光層を含む積層構造とされ、前記第1の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤーに形成された第1の量子ドットから
なると共に、前記第2の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3モノレイヤー未満に形成され
た第2の量子ドットからな
り、前記第2の量子ドットは、前記シェル部の表面が、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤及び電子輸送性を有する第2の界面活性剤の双方で表面が被覆されると共に、
前記第1の量子ドットは、前記シェル部の表面が、絶縁性を有する第3の界面活性剤で被覆され、前記第1の発光層が前記電子輸送層側に配され、前記第2の発光層が前記正孔輸送層側に配されていることを特徴としている。
【0053】
この場合は、前記第1の発光層の厚みが、前記第1の量子ドットの粒径基準で0.5〜2MLであるのが好まし
い。
ここで、粒径基準でのML(モノレイヤー)とは、量子ドットの粒子を膜厚相当に換算した場合の層数をいい、例えば、量子ドットが面内で1/2程度の密度しか存在しない場合は、0.5MLとなる。
このようにキャリア輸送性を有さない第1の量子ドットで形成された第1の発光層の厚みを規定し、キャリアの移動距離を短くすることにより、キャリアの量子ドット内への注入効率が低下するのを極力避けることができる。
【0054】
また、本発明の
発光デバイスは、
前記第1及び第2の量子ドットの各シェル部は、真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位が、前記コア部よりも低位にあるのが好まし
い。
【0055】
これにより外部からナノ粒子材料に注入された正孔をシェル部によって効果的にブロックすることができる。したがって、正孔ブロック層等を新たに設ける必要もなく、正孔ブロック機能を確保することができる。
【0062】
また、本発明の
発光デバイスは、
前記第1の量子ドットの前記シェル部は、真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位が、前記コア部よりも低位にあるのが好まし
い。
【0063】
これにより電子輸送層が正孔ブロック機能を有さなくても、シェル部の正孔ブロック性能により、正孔が量子ドットの外部にリークするのを阻止することができる。
【発明の効果】
【0065】
また、本発明の発光デバイスによれば、発光層が、
コア部と該コア部を被覆するシェル部とを有するコア−シェル構造を備えた第1及び第2の発光層を含む積層構造とされ、前記第1の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤーに形成された第1の量子ドットから
なると共に、前記第2の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3モノレイヤー未満に形成され
た第2の量子ドットからな
り、前記
第1及び第2の量子ドットは、前記シェル部の表面が、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤と電子輸送性を有する第2の界面活性剤の双方で被覆されると共に、前記第1の発光層が前記電子輸送層側に配され、前記第2の発光層が前記正孔輸送層側に配されているので、第1及び第2の量子ドットはいずれもキャリア輸送性を確保
しながら正孔が外部にリークするのを抑制できることから、第1及び第2の量子ドットでキャリアの注入効率を向上させる一方、シェル部の厚みが3〜5MLの第1の量子ドットで正孔ブロック機能を確保することができ、駆動電圧が低く、正孔ブロック機能が良好な各種発光特性に優れた高効率の発光デバイスを実現することが可能となる。
【0066】
また、本発明の発光デバイスによれば、発光層が、
コア部と該コア部を被覆するシェル部とを有するコア−シェル構造を備えた第1及び第2の発光層を含む積層構造とされ、前記第1の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤーに形成された第1の量子ドットから
なると共に、前記第2の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3モノレイヤー未満に形成され
た第2の量子ドットからな
り、前記第2の量子ドットは、前記シェル部の表面が、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤及び電子輸送性を有する第2の界面活性剤の双方
で被覆されると共に、
前記第1の量子ドットは、前記シェル部の表面が、前記第2の界面活性剤で被覆され、前記第1の発光層が前記電子輸送層側に配され、前記第2の発光層が前記正孔輸送層側に配されているので、第2の量子ドットはキャリア輸送性を有する一方で、第1の量子ドットは電子輸送性を確保しつつ正孔ブロック機能を有することから、
正孔が外部にリークするのを効果的に抑制でき、したがって第1の発光層と第2の発光層の界面近傍で正孔が蓄積して電子と再結合したり、或いは正孔輸送層近傍の第2の量子ドットのシェル部近傍に局在した正孔と電子との再結合が可能となり、高効率で発光する発光デバイスの実現が可能となる。
【0067】
また、本発明の発光デバイスによれば、発光層が、
コア部と該コア部を被覆するシェル部とを有するコア−シェル構造を備えた第1及び第2の発光層を含む積層構造とされ、前記第1の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3〜5モノレイヤーに形成された第1の量子ドットから
なると共に、前記第2の発光層は、前記シェル部の厚みが前記シェル部の構成分子基準で3モノレイヤー未満に形成され
た第2の量子ドットからな
り、前記第2の量子ドットは、前記シェル部の表面が、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤及び電子輸送性を有する第2の界面活性剤の双方で表面が被覆されると共に、
前記第1の量子ドットは、前記シェル部の表面が、絶縁性を有する第3の界面活性剤で被覆され、前記第1の発光層が前記電子輸送層側に配され、前記第2の発光層が前記正孔輸送層側に配されているので、シェル部の厚みが3ML〜5MLの第1の量子ドットは、キャリア輸送性は有さないものの、シェル部の厚みが3ML未満の第2の量子ドットがキャリア輸送性を有することから、第1の量子ドットと第2の量子ドットの界面近傍で正孔と電子が集中して局在化し、再結合させることができ、高効率で発光可能な発光デバイスを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0070】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明に係る発光デバイスとしてのEL素子の第1の実施の形態を模式的に示す断面図であって、発光層が本発明に係るナノ粒子材料で形成されている。
【0071】
このEL素子は、ガラス基板等の透明基板1上に陽極2が形成され、該陽極2の表面に正孔輸送性材料からなる正孔注入層3及び正孔輸送層4が順次形成され、該正孔輸送層4の表面には、発光層5が形成されている。また、発光層5の表面には電子輸送性材料からなる電子輸送層6が形成され、該電子輸送層6の表面には陰極7が形成されている。
【0072】
発光層5は、本発明のナノ粒子材料である第1の量子ドット8が縦横に整列された第1の発光層9と、第1の量子ドット8とはシェル厚みが異なる第2の量子ドット10が縦横に整列された第2の発光層11とを有する積層構造とされている。
【0073】
尚、この第1の実施の形態では、第1の量子ドット8及び第2の量子ドット10はいずれも単層に形成されているが、これら第1の量子ドット8及び第2の量子ドット10は、後述する第2の実施の形態のように、いずれも2層以上の多層に積層されていてもよい。
【0074】
そして、第1の量子ドット8は、
図2に示すように、コア部12と該コア部12を被覆するシェル部13とを備えたコアーシェル構造を有し、該シェル部13の表面が輸送性の異なる2種類の界面活性剤14で被覆されている。すなわち、シェル部13の表面は、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15と電子輸送性を有する第2の界面活性剤16の双方で被覆されている。また、シェル部13の厚みTは、シェル部13の構成分子基準で3〜5MLとされている。
【0075】
ここで、構成分子基準でのML(モノレイヤー)とは、材料中で最密充填されているナノ粒子の厚み方向の平均粒子個数をいう。例えば、コア部12の表面をシェル材料で被覆し、シェル部13を形成した場合、シェル材料となるナノ粒子を最密充填に換算した状態で、シェル部の厚み方向の粒子個数の平均値が「3」の場合が、「シェル部の構成分子基準で3ML」であり、「5」の場合が、「シェル部の構成分子基準で5ML」である。
【0076】
第2の量子ドット10は、
図3に示すように、コア部17と該コア部17を被覆するシェル部18とを備えたコアーシェル構造を有し、該シェル部18の表面は、第1の量子ドット8と同様、輸送性の異なる2種類の界面活性剤19で被覆されている。すなわち、シェル部18の表面は、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15と電子輸送性を有する第5の界面活性剤16とで被覆されている。そして、シェル部18の厚みT′は、シェル部18の構成分子基準で3ML未満とされている。
【0077】
このように本実施の形態では、第1及び第2の量子ドット8、10が、いずれも第1の界面活性剤15及び第2の界面活性剤16の双方を併存させた状態でシェル部13、18の表面を被覆することにより、正孔のみ、及び電子のみがそれぞれの界面活性剤14(第1の界面活性剤15及び第2の界面活性剤16)を介して輸送される。そしてその結果、界面活性剤14中での電子−正孔の再結合が抑制され、キャリアの第1及び第2の量子ドット8、10への効率の良い注入が可能となる。
【0078】
尚、
図1では、第1及び第2の量子ドット8、10は、いずれも界面活性剤14を省略して図示している。
【0079】
そして、上述したように、第1の量子ドット8は、シェル部13の厚みTが、シェル部13の構成分子基準で3〜5MLとされ、第2の量子ドット10は、シェル部18の厚みTが、シェル部18の構成分子基準で3ML未満とされている。
【0080】
図4は、上記EL素子のエネルギーバンドを示すバンド構造図である。
【0081】
シェル部13、18は、真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位VB1が、コア部12、17の価電子帯のエネルギー準位VB2よりも低位とされている。すなわち、〔課題を解決するための手段〕の項でも述べたように、シェル部13、18は、主としてコア部12、17の表面欠陥を不活性化するために形成されることから、コア部12、17よりもバンドギャップエネルギーEgの大きい材料を使用して形成される。
【0082】
そして、第1及び/又は第2の量子ドット8、10内でキャリアを効率よく再結合させるためには、正孔が第1の量子ドット8のシェル部13によって電子輸送層6等の外部にリークするのをブロックする必要がある。
【0083】
しかしながら、第1の量子ドット8のシェル部13の厚みTをシェル部13の構成分子基準で3ML未満に薄膜化させると、正孔はシェル部13を容易にトンネル通過してしまう。このためシェル部13を利用して正孔ブロック機能を確保するためには、第1の量子ドットのシェル部13の厚みTを少なくとも3ML以上とする必要がある。
【0084】
ただし、シェル部13の厚みTが、シェル部13の構成分子基準で5MLを超えて厚くなると、シェル部13の厚みTが過度に厚くなるため、コア材料とシェル材料との間で格子不整合が生じ、このため表面欠陥が増加するおそれがあり、好ましくない。
【0085】
一方、第2の量子ドット10は、第1の量子ドット8のシェル部13で正孔が外部にリークするのをブロックできることから、正孔ブロック機能を考慮する必要性はなく、正孔を迅速かつ効率よく注入させる必要がある。そして、正孔をトンネル効果を利用して迅速かつ効率良く第2の量子ドット10に注入させるには、第1の量子ドット8のシェル部13よりも薄膜化するのが望ましい。
【0086】
このように第2の量子ドット10のシェル部18の厚みT′は、正孔の良好な注入効率を確保する観点から、3ML未満としている。尚、第2の量子ドット10は、シェル部18の厚みT′の下限は特に限定されるものではないが、コア部17の表面欠陥を十分に不活性化するためには、1ML以上に形成するのが好ましい。
【0087】
このように本第1の実施の形態では、シェル部13、18の厚みT、T′を上述のように規定しているので、矢印Aに示すように、正孔は、トンネル共鳴によって正孔輸送層4から第2の量子ドット10に効率良く注入することができる。また、第1の量子ドット8のシェル部13が正孔ブロック機能を発揮して外部にリークするのを阻止することができることから(図中、Bで示す。)、正孔はコア部12、17に滞留して蓄積することができ、電子輸送層6から注入された電子と再結合し、これにより高効率な発光が可能となる。
【0088】
すなわち、シェル部13の厚みTが3〜5MLと厚い第1の量子ドット8とシェル部18の厚みT′が3ML未満と薄い第2の量子ドット10とを組み合わせ、第1の量子ドット8からなる第1の発光層9を電子輸送層6側に配し、第2の量子ドット10からなる第2の発光層11を正孔輸送層4側に配することにより、キャリアの注入効率を確保しつつ、正孔の外部へのリークを抑制し、これにより高効率な発光デバイスの実現を可能としている。
【0089】
尚、本発明は、シェル部13、18と電子輸送層6とのエネルギー準位との関係は、特に限定されるものではなく、例えば、シェル部13、18の真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位VB1が、電子輸送層6の価電子帯のエネルギー準位VB3又は電子輸送層6のHOMO準位H1よりも高位の場合も本発明の範疇に含まれる。
【0090】
しかしながら、
図4に示すように、シェル部13、18の真空準位を基準にした価電子帯のエネルギー準位VB1が、電子輸送層6の価電子帯のエネルギー準位VB3又は電子輸送層6のHOMO準位H1よりも低位の場合は、電子輸送層6が正孔ブロック機能を兼ねることが可能であることから、特に効果的であり、より好ましい。
【0091】
そして、コア部12、17を形成するコア材料としては、可視光領域で発光する材料料であれば特に限定されるものではなく、CdSe、CdTe、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、GaP、GaAs、ZnS:CuInS、ZnS:CuInGaS、Si、Ge等を使用することができる。
【0092】
また、シェル部13、18を形成するシェル材料としては、コア材料よりもバンドギャップエネルギーEgが大きく、真空準位を基準とした価電子帯のエネルギー準位VB1が、コア材料の価電子帯のエネルギー準位VB2よりも低位にある材料を使用することができ、例えば、ZnSやCdS等の硫化物、ZnO、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3等の酸化物、GaNやAlN等の窒化物、ZnSeやCdSe等のセレン化物を適宜選択して使用することができる。
【0093】
また、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15としては、低分子の正孔輸送層用材料に配位子を導入した材料を使用することができる。
【0094】
低分子の正孔輸送層用材料としては、例えば、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−1,1′−ビフェニル−4,4′−ジアミン(TPD)、4,4′−ビス[N-(1-ナフチル)−N-フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、4,4′,4″−トリス(2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)、N,N′−7−ジ(1−ナフチル)−N,N′−ジフェニル−4,4′−ジアミノビフェニル(Spiro-NPB)、4,4′,4″−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、及びこれらの誘導体を使用することができる。
【0095】
また、配位子としては、極性基であれば特に限定されるものではなく、例えば、チオール基(−SH)、アミノ基(−NH
2)、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(−CO)、ニトロ基(−NO
2)、ホスフィノ基(−PH
2)、ホスホロソ基(−PO)等を1つ又は2つ以上使用することができる。
【0096】
したがって、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15としては、例えば、TPDにチオール基を導入したTPD−チオール配位子、α−NPDにアミノ基を導入したα−NPD−アミノ配位子等を使用することができる。そして、配位子の導入個数が1つの場合は、非極性溶媒に分散させることができ、配位子の導入個数が2つ以上の場合は極性溶媒にも分散させることができる。
【0097】
尚、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルフォネート)(以下、「PEDOT:PSS」という。)のような高分子材料は、正孔輸送層用材料としては好適に使用することができるが、正孔輸送性界面活性剤用材料に使用するのは好ましくない。これは、高分子材料は、分子サイズが大きく、これが立体障害となるため、隣接距離を短くすることができず、その結果、シェル部13、18の表面被覆率が低下して量子収率の低下を招いたり、量子ドット層の密度を上げることができないからである。
【0098】
また、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16としては、電子輸送層用材料に配位子を導入した材料を使用することができる。
【0099】
電子輸送層用材料としては、例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,2′,2″−(1,3,5−ベンジニトリル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンゾイミダゾール(TPBi)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、3−(ベンゾチアゾール−2−イル)−7−(ジエチルアミノ)−2H−1−ベンゾピラン−2−オン(クマリン6)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)−4−(フェニルフェノラート)アルミニウム(BAlq)、4,4′−ビス(9−カルバゾリル)−2,2′−ジメチルビフェニル(CDBP)、及びこれらの誘導体を使用することができる。
【0100】
また、配位子としては、第1の界面活性剤15と同様、極性基であれば特に限定されるものではなく、例えば、チオール基(−SH)、アミノ基(−NH
2)、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(−CO)、ニトロ基(−NO
2)、ホスフィノ基(−PH
2)、ホスホロソ基(−PO)等を使用することができる。
【0101】
したがって、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16としては、例えば、PBDにチオール基を導入したPBD−チオール配位子、BCPにアミノ基を導入したBCP−アミノ配位子等を使用することができる。
【0102】
尚、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)は、電子輸送層用材料としては好適に使用することができるが、第2の界面活性剤16に使用するのは好ましくない。これは、Alq3は溶解性に劣り、配位子の密度が低くなるため、使いにくく、しかも発光し易いため、界面活性剤中で正孔と再結合して励起子を生成するおそれがあるからである。
【0103】
また、第1の界面活性剤15と第2の界面活性剤16とは互いに混ざり合わないようにする必要があることから、第1の界面活性剤15の分散溶媒と第2の界面活性剤16の分散溶媒とは逆極性を有する必要がある。すなわち、例えば、第1の界面活性剤15の分散溶媒にトルエン等の非極性溶媒を使用した場合は、第2の界面活性剤16の分散溶媒にはメタノール等の極性溶媒を使用する必要があり、第1の界面活性剤15及び第2の界面活性剤16は、少なくともこれら分散溶媒に適した材料が選択される。
【0104】
このように形成されたEL素子は、陽極2及び陰極7間に電圧が印加されると、陽極2及び陰極7にキャリアが注入される。そして、陽極2に注入された正孔は、シェル部18表面の第1の界面活性剤15のバルクへテロ的なネットワーク内を伝って第2の量子ドット10に注入される。そして、正孔は第1の量子ドット8のシェル部13によってブロックされることから、主として第2の量子ドット10のコア部17に蓄積されて滞留する。一方、陰極7に注入された電子は、第1の量子ドット8の第2の界面活性剤16及び第2の量子ドット10の第2の界面活性剤16のバルクへテロ的なネットワーク内を伝って主として第2の量子ドット10に注入され、電子と正孔が効率良く再結合し、励起子発光する。
【0105】
すなわち、第2の量子ドット10で注入効率を確保し、第1の量子ドット8で正孔ブロック機能を確保していることから、駆動電圧が低く、輝度特性が良好で発光効率が格段に向上し、良好な発光色純度を有する高効率で発光するEL素子を実現することが可能となる。
【0106】
さらに、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15は、正孔が移動するエネルギー帯であるコア部12、17の価電子帯のエネルギー準位VB2とトンネル共鳴するようなHOMO準位H2を有するのが好ましく、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16は、電子が移動するエネルギー帯であるコア部12、17の伝導帯のエネルギー準位CB1とトンネル共鳴するようなLUMO準位L1を有するのが好ましい。
【0107】
そして、このようにトンネル共鳴を利用することにより、キャリアは容易にエネルギー障壁を通り抜けることができ、効率の良いキャリア移動を実現することが可能となる。
【0108】
図5は、トンネル共鳴によるキャリア移動の原理を示す模式図である。
【0109】
尚、この
図5では第1の量子ドット8のコア部12と第1及び第2の界面活性剤15、16とがトンネル共鳴する場合を示しているが、第2の量子ドット10についても同様である。
【0110】
すなわち、キャリアの輸送効率を向上させるためには、コア部12と第1及び第2の界面活性剤15、16との間のキャリア移動も迅速に行なってキャリアの第1の量子ドット8への注入効率を向上させるのが望ましい。
【0111】
しかしながら、第1の界面活性剤15のHOMO準位H2′とコア部12の価電子帯のエネルギー準位VB2とがトンネル共鳴しないような大きなエネルギー準位差を有する場合は、矢印D′に示すようにエネルギー障壁を乗り越えるようにして正孔は移動する。
【0112】
同様に、第2の界面活性剤16のLUMO準位L1′とコア部12の伝導帯のエネルギー準位CB1とがトンネル共鳴しないような大きなエネルギー準位差を有する場合は、矢印E′に示すようにエネルギー障壁を乗り越えるようにして電子は移動する。
【0113】
しかも、量子ドット系ではフォノンの移動が遅く、フォノンの遅い移動に律速されてフォノンボトルネックが生じるため、キャリアの迅速な移動が困難となる。
【0114】
したがって、上述したように第1の界面活性剤15が、コア部12の価電子帯のエネルギー準位VB2とトンネル共鳴するようなHOMO準位H2を有し、また、第2の界面活性剤16が、コア部12の伝導帯のエネルギー準位CB1とトンネル共鳴するようなLUMO準位L1を有するようにするのが好ましく、これにより矢印D、Eに示すようにキャリアの移動を迅速に行ない、キャリアの輸送効率向上を図ることができる。
【0115】
このようなトンネル共鳴を生じさせるためには、第1の界面活性剤15のHOMO準位H2は、コア部12、17の価電子帯のエネルギー準位VB2に対し−0.2〜+0.2eVの範囲が好ましく、例えば、コア部12、17にInP(価電子帯準位:5.7eV)を使用する場合は、TPD−チオール配位子(HOMO準位:5.6eV)を好んで使用することができる。
【0116】
また、第2の界面活性剤16のLUMO準位L1は、コア部12、17の伝導帯のエネルギー準位CB1に対し−0.2〜+0.2eVの範囲が好ましく、例えば、コア部12、17にInP(伝導帯準位:約3eV)を使用する場合は、BCP−アミノ配位子(LUMO準位:3.2eV)を好んで使用することができる。
【0117】
尚、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15のHOMO準位H2は、仕事関数から見積もったバンドギャップエネルギーから求めることができ、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16のLUMO準位L1は、仕事関数と吸光スペクトルの吸収端から見積もったバンドギャップエネルギーから求めることができる。
【0118】
次に、上記EL素子の製造方法を説明する。
【0119】
まず、シェル厚みの異なる2種類の超微粒子分散溶液、すなわち、第1及び第2の分散溶液を作製する。
【0120】
ここで、コア材料及びシェル材料としては、上述したように種々の材料を使用して作製することができるが、本第1の実施の形態では、コア材料にInP、シェル材料にZnSを使用した場合を例に説明する。
【0121】
すなわち、例えば、酢酸インジウム、ミリスチン酸及びオクタデセンを容器中で混合し、窒素雰囲気中、撹拌して溶解させ、これによりインジウム含有前駆体溶液を調製する。また、窒素雰囲気中、トリストリメチルシリルホスフィン、オクチルアミン、オクタデセンを混合し、これによりリン含有前駆体溶液を調製する。
【0122】
次いで、インジウム含有前駆体溶液を所定温度(例えば、190℃)に加熱し、この加熱溶液中にリン含有前駆体溶液を注入する。すると、高温により活性度の高い前駆体溶液同士が反応し、インジウムとリンが結合して核を形成し、その後周囲の未反応成分と反応して結晶成長が起り、これによりInP量子ドット溶液が作製される。
【0123】
次に、酸化亜鉛をステアリン酸に溶解させた酸化亜鉛前駆体溶液、及びイオウをステアリン酸に溶解させたイオウ前駆体溶液を用意する。
【0124】
次いで、所定温度(例えば、150℃)に調整されたInP量子ドット溶液に酸化亜鉛前駆体溶液及びイオウ前駆体溶液を交互に微量ずつ滴下し、加熱・冷却し、洗浄して溶液中の過剰有機成分を除去し原料溶液を作製する。そしてこの後、この原料溶液に第1の界面活性剤15を添加しつつ、非極性溶媒(例えば、トルエン)中に分散させ、第1及び第2の分散溶液を作製する。
【0125】
すなわち、シェル部13、18となるZnS膜の厚みは、酸化亜鉛前駆体溶液、イオウ前駆体溶液、及びInP量子ドット溶液の濃度、更には前記各前駆体溶液の滴下回数や滴下量を調整することにより容易に制御することができる。そしてこれによりZnS膜の膜厚が3〜5MLの第1の原料溶液、ZnS膜の膜厚が3ML未満の第2の原料溶液を作製することができる。
【0126】
次いで、第1及び第2の原料溶液に第1の界面活性剤15をそれぞれ添加し、非極性溶媒中に分散させて第1及び第2の分散溶液を作製する。
【0127】
本第1の実施の形態では、上記第1及び第2の分散溶液を使用してEL素子を作製する。
【0128】
図6及び
図7は、上記EL素子の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【0129】
まず、
図6(a)に示すように、スパッタ法によりガラス基板等の透明基板1上にITO等の導電性透明材料を成膜し、UVオゾン処理を行い、膜厚100nm〜150nmの陽極2を形成する。
【0130】
次に、正孔注入層溶液を用意する。正孔注入層用材料としては、正孔輸送性材料と同様の材料を使用することができ、例えば、PEDOT:PSS等を使用することができる。
【0131】
そして、スピンコート法等を使用して正孔注入層溶液を陽極2上に塗布し、
図6(b)に示すように、膜厚20nm〜30nmの正孔注入層3を形成する。
【0132】
次に、正孔注入層材料よりもHOMO準位の低い正孔輸送層溶液を用意する。正孔注入層用材料としては、例えば、PEDOT:PSSを使用した場合は、該PEDOT:PSSよりもHOMO準位の低いポリ−TPD等を使用することができる。
【0133】
そして、スピンコート法等を使用して正孔輸送層溶液を正極注入層3上に塗布し、膜厚60nm〜70nmの正孔輸送層4を形成する。
【0134】
尚、上記正孔注入層3は、正孔の輸送性を向上させるために設けたものであることから、正孔輸送層4が正孔注入層3を兼用してもよく、この場合は正孔輸送層4をポリ−TPDのみで形成し、正孔注入層3を省略することができる。
【0135】
次に、上述した第2の分散溶液を用意する。
【0136】
そして、スピンコート法等を使用し、第2の分散溶液を正孔輸送層4上に塗布し、N
2雰囲気で乾燥させ、
図6(c)に示すように、正孔輸送性量子ドット層22を形成する。
【0137】
次いで、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16を極性溶媒(例えば、メタノール)中に分散させた第3の分散溶液(以下、「置換溶液」という。)を用意する。
【0138】
ここで、置換溶液の分散溶媒は、第2の分散溶液の分散溶媒とは逆極性の溶媒、例えば、本第1の実施の形態のように第2の分散溶液の分散溶媒に非極性溶媒であるトルエンを使用している場合は、メタノール等の極性溶媒が使用される。
【0139】
尚、第2の界面活性剤16としては、好ましくは、コア部17であるInPの伝導帯のエネルギー準位(約3eV)とトンネル共鳴するようなLUMO準位を有する材料、例えば、上述したLUMO準位が約2.9eVのTBD−アミノ配位子が使用される。
【0140】
次に、基板1を前記置換溶液に浸漬し、第1の界面活性剤15の一部を第2の界面活性剤16と置換し、
図6(d)に示すように、第2の量子ドット10が縦横に整列された第2の発光層11を形成する。
【0141】
すなわち、正孔輸送性量子ドット層22が形成された基板1を置換溶液に浸漬すると、第1の界面活性剤15と第2の界面活性剤16との間で表面から膜厚方向に架けて濃度勾配が形成される。そして、表面に近い部分はより高濃度に第2の界面活性剤16に置換され、基板1に近い部分は第1の性界面活性剤15がより高濃度の状態を維持して残存する。
【0142】
また、膜厚と膜密度によっても、以下のような置換割合の勾配が生じる。
【0143】
すなわち、十分に長い置換反応によって正孔輸送性量子ドット層22の膜密度が低い部分では、膜厚とは無関係に第1の界面活性剤15は第2の界面活性剤16にほぼ完全に置換されるが、膜密度が高く緻密な部分では、表面のみが置換されるか置換されずに第1の界面活性剤15が残存する。正孔輸送性量子ドット層22の膜厚が薄い部分では、或る程度、緻密な膜でも十分に長い時間の置換反応によって完全置換が行われる。また、表面から離間する程、置換速度が遅いため、第2の界面活性剤16への置換は生じ難く、これにより第1の界面活性剤15から第2の界面活性剤16への置換割合に勾配が生じる。
【0144】
このように第1の界面活性剤15及び第2の界面活性剤16が併存するような所定時間(例えば、60分)、基板1を置換溶液に浸漬し、配位子置換を行なう。そしてこれにより、第1の界面活性剤15及び第2の界面活性剤16の2種類の界面活性剤で被覆された第2の量子ドット10が基板1上に縦横に整列され、第2の発光層11が作製される。
【0145】
次に、上述した第1の分散溶液を用意し、上述と同様の方法・手順で、第2の発光層11上に第1の発光層9を形成する。
【0146】
すなわち、スピンコート法等を使用して第1の分散溶液を第2の発光層11上に塗布し、N
2雰囲気で乾燥させ、
図7(e)に示すように、正孔輸送性量子ドット層23を形成する。
【0147】
次いで、基板1を第2の界面活性剤16を含有した置換溶液に浸漬し、第1の界面活性剤15の一部を第2の界面活性剤16と置換し、
図7(f)に示すように、第1の量子ドット8が縦横に整列された第1の発光層9を形成する。
【0148】
この第1の発光層9と第2の発光層11とで発光層5が形成される。
【0149】
次に、Alq3等の電子輸送性材料を使用し、
図7(g)に示すように、真空蒸着法で発光層5の表面に膜厚50nm〜70nmの電子輸送層6を形成する。
【0150】
そして、
図7(h)に示すように、LiF、Al等を使用し、真空蒸着法で膜厚100nm〜300nmの陰極7を形成し、これによりEL素子が作製される。
【0151】
このように本第1の実施の形態では、正孔輸送性量子ドット層22、23を基板1上に成膜した後、第2の界面活性剤16を含有した置換溶液に浸漬し、第1の界面活性剤15の一部を第2の界面活性剤16で置換し、2種類の界面活性剤を併存させているので、シェル部13、18の表面に配位している界面活性剤がシェル部13、18から剥離することもない。したがって、シェル部13、18を覆っている界面活性剤の表面被覆率が低下することもなく、表面欠陥の不活性化を維持することができ、良好な量子収率を有するEL素子を得ることができる。
【0152】
しかも、第1の界面活性剤15と第2の界面活性剤16とを併存させているので、正孔のみ、又は電子のみを輸送することができ、界面活性剤中で電子−正孔が再結合することもなく、キャリアの輸送効率を向上させることが可能となる。
【0153】
すなわち、本EL素子は、上述したように良好なキャリア輸送性を有することから注入効率も良好であり、かつ第1及び第2の量子ドット8、10、特に第2の量子ドット10内で効率良く再結合することから、低駆動電圧でありながら輝度特性や、発光効率m発光色純度等の発光特性が良好なEL素子を得ることができる。
【0154】
しかも、本第1の実施の形態では、ドライプロセスのような複数の煩雑な成膜プロセスを要することなく、安価で効率良く製造することができる。
【0155】
〔第2の実施の形態〕
図8は、本発明に係る発光デバイスとしてのEL素子の第2の実施の形態を模式的に示す断面図である。
【0156】
このEL素子は、発光層24が、第1の量子ドット27からなる第1の発光層25と、第2の量子ドット10からなる第2の発光層26との積層構造とされている。そして、第2の量子ドット10は、シェル部18が正孔輸送性及び電子輸送性の各界面活性剤で被覆され、一方、第1の量子ドット27は、シェル部13が電子輸送性の界面活性剤のみで被覆されている。
【0157】
すなわち、この第2の実施の形態では、第1の量子ドット27は、
図9に示すように、コア部12とシェル部13とを備えたコアーシェル構造を有し、シェル部13の表面は電子輸送性を有する第2の界面活性剤16のみで被覆され、シェル部13の厚みTが、シェル部13の構成分子基準で3〜5MLとされている。
【0158】
一方、第2の量子ドット10は、第1の実施の形態と同様(
図3参照)、コア部17の表面にシェル部18が形成されると共に、シェル部18の表面には第1及び第2の界面活性剤15、16が被覆され、シェル部18の厚みT′は、シェル部18の構成分子基準で3ML未満とされている。
【0159】
そして、第1の発光層25が電子輸送層6側に配され、第2の発光層26が正孔輸送層側に配されている。
【0160】
このように形成されたEL素子では、陽極2と陰極7との間に電圧が印加されると、陰極7に注入された電子は、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16のバルクヘテロ的なネットワークを伝って迅速かつ効率よく第1及び第2の量子ドット27、10内に注入され、第2の量子ドット10と第1の量子ドット27との界面近傍から第2の量子ドット10内に架けて大量に滞留する。
【0161】
一方、陽極2に注入された正孔は、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15によって厚みT′が3ML未満と薄いシェル部18を通過して第2の量子ドット10のコア部17に注入される。そして、第1の量子ドット27に付与された第2の界面活性剤16は正孔輸送性を有さないことから、正孔は、第2の量子ドット10と第1の量子ドット27との界面近傍に蓄積し、これにより電子−正孔は高効率に再結合し、励起子発光する。
【0162】
このように本第2の実施の形態でも、キャリアの良好な注入効率と正孔ブロック機能を両立させることができることから、駆動電圧が低く、輝度特性や発光効率、発光色純度等の発光特性に優れた高効率のEL素子を得ることができる。
【0163】
そして、本第2の実施の形態は、以下のように製造することができる。
【0164】
まず、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、第1及び第2の原料溶液を作製する。
【0165】
次に、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15を第1の原料溶液に添加しつつ、非極性溶媒中に分散させて第1の分散溶液を作製する。
【0166】
次に、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16を第2の原料溶液に添加しつつ、極性溶媒中に分散させ、これにより第3の分散溶液を作製する。
【0167】
図10及び
図11は、上記EL素子の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【0168】
まず、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、
図10(a)に示すように、透明基板1上に陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層4を順次形成する。
【0169】
次いで、スピンコート法等を使用し、上記第1の分散溶液を正孔輸送層4上に塗布し、N
2雰囲気下で乾燥させ、
図10(b)に示すように、正孔輸送性量子ドット層29を形成する。
【0170】
次いで、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16を含有した置換溶液に前記基板1を浸漬させ、
図10(c)に示すように、第2の量子ドット10が複数層積層されかつ横方向に整列された第2の発光層26を形成する。
【0171】
次に、スピンコート法等を使用し、上記第3の分散溶液を第2の発光層26上に塗布し、N
2雰囲気で乾燥させ、
図11(d)に示すように、第1の量子ドット27が複数層積層されかつ横方向に整列された第1の発光層25を形成する。
【0172】
そして、これにより第1の発光層25と第2の発光層26とで発光層24が形成される。
【0173】
その後は、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、
図11(e)に示すように、電子輸送層6を形成し、さらに
図11(f)に示すように、陰極7を形成し、これによりEL素子を作製することができる。
【0174】
〔第3の実施の形態〕
図12は本発明に係る発光デバイスとしてのEL素子の第3の実施の形態を模式的に示す断面図である。
【0175】
このEL素子は、発光層30が、第1の量子ドット33からなる第1の発光層31と、第2の量子ドット10からなる第2の発光層32との積層構造とされている。そして、第2の量子ドット10は、シェル部が正孔輸送性及び電子輸送性を有する各界面活性剤で被覆され、一方、第1の量子ドット33は、絶縁性の界面活性剤で被覆されている。
【0176】
すなわち、この第3の実施の形態では、第1の量子ドット33は、
図13に示すように、コア部12とシェル部13とを備えたコアーシェル構造を有し、シェル部13の表面は絶縁性を有する第3の界面活性剤34で被覆され、シェル部13の厚さTが、シェル部13の構成分子基準で3〜5MLとされている。
【0177】
ここで、第3の界面活性剤34としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではいが、分散性や第1の量子ドット33の表面欠陥を効率良く不活性化する観点から、嵩高い極性基を有する有機化合物、例えば、ヘキサデシルアミン(以下、「HDA」という。)やオクタデシルアミン等の長鎖アミン、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、オレイン酸、ミリスチン酸等のアルキル基に極性基が結合した界面活性剤を使用することができ、極性基が配位子としてシェル部13の表面に配位する。
【0178】
尚、第2の量子ドット10は、第1及び第2の実施の形態と同様(
図3参照)、コア部17の表面にシェル部18が形成されると共に、シェル部18の表面には第1及び第2の界面活性剤15、16が被覆され、シェル部18の厚みT′は、シェル部18の構成分子基準で3ML未満とされている。
【0179】
また、本第3の実施の形態では、第1の発光層31の厚みは、特に限定されるものではないが、キャリア輸送性を考慮すると、第1の量子ドットの粒径基準で0.5〜2MLが好ましい。
【0180】
ここで、粒径基準でのMLとは、量子ドットの粒子を膜厚相当に換算した場合の層数をいい、例えば、面内で粒子が半分程度の密度しか存在しない場合は、0.5MLであり、平均的に2個の粒子が存在する場合が2MLである。
【0181】
第3の界面活性剤34は、電子輸送性や正孔輸送性を有さず、絶縁性を有することから、キャリア輸送性に劣る。このため第1の量子ドット33が2MLを超えて多層化されると、キャリア輸送性の低下を招くおそれがある。したがって、第1の量子ドット33の厚みは第1の量子ドットの粒径基準で2ML以下が好ましい。
【0182】
ただし、第1の発光層31の厚みが、0.5ML未満になると、該第1の発光層31の厚みが過度に薄くなってシェル部13を適度な厚さに形成するのが困難となり、十分な正孔ブロック機能を確保するのが困難となる。
【0183】
このように形成されたEL素子では、陽極2と陰極7との間に電圧が印加されると、陰極7に注入された電子は、第1の量子ドット33に付与された第3の界面活性剤34は、絶縁性を有することから、第2の量子ドット10内であって第1の量子ドット33の界面近傍に局在化して滞留する。一方、陽極2に注入された正孔は、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15によって厚みT′が3ML未満と薄いシェル部18を通過し、第2の量子ドット10のコア部17に注入される。そして、第1の量子ドット33に付与された第3の界面活性剤34は絶縁性を有することから、正孔は、第2の量子ドット10内の第1の量子ドット33との界面近傍に蓄積して滞留する。このように第2の量子ドット10内の第1の量子ドット33の界面近傍にキャリアは集中して局在化し、これにより電子−正孔は高効率に再結合し、励起子発光する。
【0184】
このように本第3の実施の形態でも、キャリアの良好な注入効率と正孔ブロック機能を両立させることができることから、駆動電圧が低く、輝度特性や発光効率、発光色純度等の発光特性に優れた高効率のEL素子を得ることができる。
【0185】
そして、本第3の実施の形態は、以下のように製造することができる。
【0186】
まず、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、第1及び第2の原料溶液を作製する。
【0187】
次に、正孔輸送性を有する第1の界面活性剤15を第1の原料溶液に添加しつつ、非極性溶媒中に分散させ、これにより第1の分散溶液を作製する。
【0188】
また、絶縁性を有する第3の界面活性剤34を上記第2の原料溶液に添加しつつ、非極性溶媒中に分散させ、これにより第4の分散溶液を作製する。
【0189】
図14は、上記EL素子の製造方法の一例を示す要部製造工程図である。
【0190】
まず、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、
図14(a)に示すように、透明基板1上に陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層4を順次形成し、さらに上記第1の分散溶液を使用して正孔輸送性量子ドット層を形成した後、電子輸送性を有する第2の界面活性剤16を含有した置換溶液に前記基板1を浸漬させ、第2の量子ドット10が、複数層積層され横方向に整列された第2の発光層32を形成する。
【0191】
次に、スピンコート法等を使用し、第5の分散溶液を第2の発光層32上に塗布し、N
2雰囲気で乾燥させ、好ましくは第1の発光層31の厚みが、第1の量子ドット基準で0.5〜2MLとなるように第1の発光層31を形成する。
【0192】
そして、これにより第1の発光層31と第2の発光層32からなる発光層30が形成される。
【0193】
その後は、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、
図14(c)に示すように、電子輸送層6、及び陰極7を順次形成し、これによりEL素子が作製される。
【0194】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものでなく、種々の変形例が可能である。例えば、第1の実施の形態で、第2の量子ドットはキャリア輸送性を有する第1及び第2の界面活性剤15、16でシェル部18を被覆しているが、第1の量子ドット8がキャリア輸送性を有する界面活性剤15、16を有し、第2の量子ドット10はシェル部18が薄いことから、第2の量子ドット10はキャリア輸送性を有さない絶縁性の界面活性剤で被覆してもよい。
【0195】
また、量子ドットにキャリア輸送性を付与する方法も、上記実施の形態は一例であって、これに限定されるものではない。
【0196】
また、上記実施の形態では、第1及び第2の量子ドットとしてInP/ZnSからなる化合物半導体を使用したが、後述する〔実施例1〕のようにコア部をCdSe等の他の化合物半導体を使用してもよく、酸化物や単体半導体であってもよいのはいうまでもない。
【0197】
また、上記実施の形態では、発光層に隣接する正孔輸送層4や電子輸送層6を有機化合物で形成したEL素子について説明したが、これらを無機化合物で形成した場合も同様であり、キャリアの隣接層へのリークを抑制することができ、第1の量子ドット5或いは第1及び第2の量子ドット内での再結合確率が良好な高品質の発光デバイスを安価かつ高効率で製造することができる。また、EL素子の他、発光ダイオード、半導体レーザや各種表示装置等の各種発光デバイスに使用できるのはいうまでもない。
【0198】
また、上記実施の形態では、電子輸送層6は真空蒸着法を使用したドライプロセスで行っているが、スピンコート法等のウェットプロセスで作製してもよい。ただし、この場合は、浸漬工程で使用した分散溶液と同じ極性の分散溶媒を使用する必要がある。
【0199】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0200】
この実施例1では、シェル部を絶縁性の界面活性剤であるHDAで被覆し、シェル部の厚みが各種特性に与える影響を調べた。
【0201】
〔試料の作製〕
(試料番号1)
(量子ドット分散溶液の作製)
コア部がCdSe(LUMO準位:4.4eV、HOMO準位:6.5eV)、シェル部がZnS(LUMO準位:3.9eV、HOMO準位:7.4eV)からなる量子ドット分散溶液を作製した。
【0202】
すなわち、酸化カドミウム:1.6mmol、ステアリン酸:6.4mmolとなるように、これら酸化カドミウム及びステアリン酸を秤量した。そして、オクタデセン:16mLが貯留された丸底フラスコに酸化カドミウム及びステアリン酸を投入し、オクタデセン中で混合した。次いで、これを減圧下、100℃に加熱しながら撹拌子で30分間撹拌し、さらに、これを窒素雰囲気下、200℃に加熱しながら撹拌子で1時間撹拌した後、室温に冷却した。そしてその後、この溶液にTOPO:4g、及びオクタデシルアミン:12gをそれぞれ添加し、再び、減圧下、100℃に加熱しながら、撹拌子で30分間撹拌し、これによりCd含有前駆体溶液を作製した。
【0203】
次に、Se:16mmol、TBP:18.1mmolとなるようにSe及びTBPを秤量し、オクタデセン:13.89mL中で混合し、100℃に加熱し、これによりSe含有前駆体溶液を作製した。
【0204】
次に、Cd含有前駆体溶液を窒素雰囲気中で280℃に加熱し、常温のSe含有前駆体溶液を注射器で全量(約18.6mL)を注入してCdSeの核を形成しながら250℃以下に自然降温させた。そしてその後、250℃に昇温させ、さらにこの250℃の温度を保持しながら撹拌子を使用して90分間撹拌し、ナノ結晶(量子ドット)を成長させ、これによりCdSe量子ドット溶液を作製した。
【0205】
次に、オクタデシルアミン:3mL、オクタデセン:9mLを別の丸底フラスコに投入し、減圧下、100℃の温度で60分間加熱し、撹拌した後、常温に戻した。次いで、これにCdSe量子ドット溶液を4.5mL分注し、減圧下、100℃の温度で30分間、撹拌した。そしてこれにより量子ドット表面にオクタデシルアミンを配位させ、表面欠陥を不活性化し、分散性を高めたCdSe量子ドット分散溶液を作製した。
【0206】
次に、イオウ:13mmolをオクタデセン:10mLと十分に混合させてイオウ前駆体溶液を作製し、酸化亜鉛1mmol、オレイン酸:4mmol、及びオクタデセン:10mLを十分に混合させて酸化亜鉛前駆体溶液を作製した。
【0207】
次いで、CdSe量子ドット溶液を240℃に加熱し、イオウ前駆体溶液:1.5mLを注入し、次いで、20分後に酸化亜鉛前駆体溶液:1.5mLを注入し、その後、60分間加熱、撹拌し、これによりCdSeからなるコア部の表面にZnSからなるシェル部を形成した。そしてこの後アセトンで処理し、さらに遠心分離操作を行って溶液中の不純物を除去した。
【0208】
そしてこの後、HDAを添加しつつ、トルエン中に分散させ、これにより表面がHDAで被覆されたCdSe/ZnSからなる濃度が1mg/mLの量子ドット分散溶液を作製した。
【0209】
(デバイス試料の作製)
縦:25mm、横:25mmのガラス基板を用意し、スパッタ法によりガラス基板上にITO膜(仕事関数:4.8eV)を成膜し、UVオゾン処理を行い、膜厚120nmの陽極を作製した。
【0210】
次に、スピンコート法を使用し、陽極上にPEDOT:PSS(LUMO準位:3.1eV、HOMO準位:5.1eV)を塗布し、乾燥させて膜厚20nmの正孔注入層を形成した。
【0211】
次に、スピンコート法を使用し、正孔注入層上にポリ−TPD(LUMO準位:2.3eV、HOMO準位:5.4eV)を塗布し、乾燥させて膜厚65nmの正孔輸送層を形成した。
【0212】
そして、スピンコート法を使用し、量子ドット分散溶液を正孔輸送層上に塗布し、発光層を形成した。具体的には、正孔輸送層上に量子ドット分散溶液を0.1mL滴下し、回転数:3000rpmで60秒間回転させ、窒素雰囲気中、100℃に加熱して乾燥させ、これにより発光層を作製した。
【0213】
次に、真空蒸着法を使用して発光層の表面にAlq3(LUMO準位:3.1eV、HOMO準位:5.8eV)を成膜し、膜厚50nmの電子輸送層を形成した。
【0214】
そして、最後に真空蒸着法を使用してLiF/Al(仕事関数:4.3eV)を成膜し、膜厚100nmの陰極を形成し、これにより試料番号1の試料を作製した。
【0215】
尚、この試料番号1の試料について、断面をTEMで観察したところ、シェル部の厚みは、シェル部の構成分子基準で3ML、発光層の厚みは、量子ドットの粒径基準で1MLであった。
【0216】
(試料番号2)
イオウ前駆体溶液及び酸化亜鉛前駆体溶液のCdSe量子ドット溶液への添加量を1/3とした以外は、試料番号1と同様の方法・手順で、量子ドット分散溶液を作製した。
【0217】
そしてその後は、試料番号1と同様の方法・手順で、試料番号2の試料を作製した。
【0218】
尚、この試料番号2の試料について、断面をTEMで観察したところ、シェル部の厚みは、シェル部の構成分子基準で1ML、発光層の厚みは、量子ドットの粒径基準で1MLであった。
【0219】
(試料番号3)
試料番号1と同様の方法・手順で、CdSe量子ドット溶液を作製した。
【0220】
次いで、CdSe量子ドット溶液に、HDAを添加しつつトルエン中に分散させ、これにより表面がHDAで被覆されたCdSeからなる濃度が1mg/mLの量子ドット分散溶液を作製した。
【0221】
その後は、試料番号1と同様の方法・手順で、試料番号3の試料を作製した。
【0222】
尚、この試料番号3について、断面をTEMで観察したところ、シェル部は存在せず、発光層の厚みは、量子ドットの粒径基準で1MLであった。
【0223】
(試料の評価)
図15は、試料番号1及び2のエネルギーバンドを示すバンド構造図であり、陽極51、正孔注入層52、正孔輸送層53、コア部54a及びシェル部54bを備えた量子ドット54からなる発光層、電子輸送層55、陰極56が順次積層されており、これら各層は、図中で示すエネルギー準位を有している。
【0224】
また、試料番号3は、シェル部54bを有さない点を除き、
図11と同様のバンド構造を有している。
【0225】
試料番号1〜3の各試料について、電流密度、輝度特性、発光効率、及び発光スペクトルを測定し、試料を評価した。
【0226】
まず、各試料について、マルチチャンネル検出器(浜松ホトホニックス社製PMA−11)を使用し、直流電圧をステップ状に印加してそのときの電流密度及び輝度を測定した。
【0227】
また、上述のようにして得られた電流密度での各外部量子効率ηextを数式(1)に基づいて算出し、発光効率を評価した。
【0228】
ηext=γ・ηint・ηout ...(1)
【0229】
ここで、ηintは内部量子効率であって、量子ドット内での電子と正孔との再結合割合、つまり励起子発光に寄与した光子の割合を示す。γは正孔と電子のキャリアバランス因子であり、ηoutは外部に取り出された光の光取出効率ηoutである。
【0230】
外部量子効率ηextは、内部量子効率ηintにキャリアバランス因子及び光取出効率ηoutを乗算したものであり、外部量子効率ηextが大きいと発光効率が向上することを意味する。
【0231】
尚、この内部量子効率ηintは、発光光子数を計測し、電流密度から算出される注入電子数と前記発光光子数とから算出される。
【0232】
また、発光スペクトルは以下の方法で測定した。
【0233】
すなわち、各試料を積分球内に配し、定電流電源(ケースレー・インスツルメント社製2400)を使用し、直流電圧を印加して試料を100cd/m
2の輝度で発光させ、発光した光を積分球で集光し、上記マルチチャンネル検出器で発光スペクトルを測定した。
【0234】
図16は、印加電圧と電流密度との関係を示す図であり、横軸は印加電圧(V)、縦軸は電流密度(mA/cm
2)である。
【0235】
図17は、輝度特性を示す図であり、横軸は印加電圧(V)、縦軸は輝度(cd/m
2)である。
【0236】
図18は、発光効率の特性を示す図であり、横軸は電流密度(mA/cm
2)、縦軸は外部量子効率(%)である。
【0237】
図16〜
図18のいずれにおいても、●印が試料番号1(シェル部の厚み:3ML)、◆印は試料番号2(シェル部の厚み:1ML)、△印が試料番号3(シェル部の厚み:0ML)である。
【0238】
図19は、発光スペクトルを示す図であり、横軸が波長(nm)、縦軸が発光強度(a.u.)を示している。図中、実線が試料番号1、破線が試料番号2、二点鎖線が試料番号3である。尚、この発光強度は測定結果を0〜1の間で正規化して示している。
【0239】
試料番号3は、量子ドットがコア部のみで形成されているため、量子ドットの表面は欠陥が顕著に生じており、このため駆動電圧が高く(
図16)、輝度や発光効率も極端に低くなった(
図17、
図18)。また、発光スペクトルも電子輸送層であるAlq3の吸収波長域(535nm)近辺でピークが生じ、所望の発光特性を得ることができないことが分かった(
図19)。
【0240】
また、試料番号2は、ZnS(シェル部)の厚みが1MLと薄いため、低電圧での駆動が可能であり(
図16)、輝度特性も良好であるが(
図17)、発光効率が電流密度の低い領域で極端に低くなった(
図18)。また、発光スペクトルは、592nm付近でピークが現われているものの、Alq3の吸収波長域である535nm付近でも発光していることから、発光色純度が低下することが分かった(
図19)。これは、量子ドットに注入された正孔のうち、一部の正孔が量子ドット内で再結合せずに、外部にリークし、隣接層である電子輸送層の吸収波長域付近でも発光したものと思われる。
【0241】
これに対し試料番号1は、ZnS膜(シェル部)が3MLと適度な厚みを有しており、シェル部が正孔ブロック機能を発揮することから、試料番号2に比べ、駆動電圧は若干上昇し(
図16)、輝度も若干低下するものの(
図17)、量子ドット内での正孔と電子との再結合確率が高まり、その結果、発光効率が格段向上することが分かった(
図18)。また、上述したシェル部の正孔ブロック機能により正孔が外部にリークするのが抑制されることから、発光スペクトルも、量子ドットの吸収波長域である612nm付近でピークが現われ、かつ隣接層である電子輸送層の吸収波長域での発光が減少し、発光色純度も向上することが分かった(
図19)。
【0242】
このように量子ドット(ナノ粒子材料)のZnS膜(シェル部)の厚みを3MLと厚くすることにより、駆動電圧が若干上昇し、輝度も若干低下するものの、発光効率は格段に向上し、発光色純度も向上することが分かった。
【0243】
一方、量子ドットのZnS膜の厚みを1MLと薄くした場合は、キャリアの量子ドット内への注入効率が上昇することから、駆動電圧を低下させることができ、輝度を若干向上させることも可能である。
【0244】
したがって、この両者を組み合わせることにより、駆動電圧が低く、輝度や発光効率が高く、発光色純度の高い発光デバイスを得ることが可能になると考えられる。
【実施例2】
【0245】
この実施例2では、発光層を第1の発光層と第2の発光層との積層構造とし、試料番号11は、第1の発光層について量子ドットのシェル厚みがシェル部の構成分子基準で3MLとなるように形成し、第2の発光層について量子ドットのシェル厚みがシェル部の構成分子基準で1MLとなるように形成した。
【0246】
また、試料番号12は、第1の発光層及び第2の発光層の双方共、量子ドットのシェル厚みがシェル部の構成分子基準で1MLとなるように形成した。
【0247】
また、試料番号11及び12共、界面活性剤が、第1の発光層を形成する第1の量子ドットは電子輸送性を有する第2の界面活性剤を有し、第2の発光層を形成する第2の量子ドットは正孔輸送性及び電子輸送性を有する第1及び第2の界面活性剤を有するように作製した。
【0248】
以下、具体的に説明する。
【0249】
〔試料の作製〕
〔試料番号11〕
(第1及び第2の分散溶液の作製)
シェル材料はZnSを使用し、コア材料はInP(LUMO準位:5.8eV、HOMO準位:4.4eV)を使用した。
【0250】
すなわち、酢酸インジウム:1.6mmol、ミリスチン酸:6.16mmolの配合比率となるように、これら酢酸インジウム及びミリスチン酸を秤量し、オクタデセン:16mLが貯留された丸底フラスコに投入し、オクタデセン中で酢酸インジウム及びミリスチン酸を混合し、窒素雰囲気中、撹拌して溶解させ、これによりインジウム含有前駆体溶液を調製した。
【0251】
また、トリストリメチルシリルホスフィン:0.8mmol、オクチルアミン:0.96mmolの配合比率となるように、これらトリストリメチルシリルホスフィン及びオクチルアミンを秤量し、オクタデセン:4.16mLが貯留された丸底フラスコに投入し、オクタデセン中でトリストリメチルシリルホスフィン及びオクチルアミンを混合し、窒素雰囲気中、撹拌して溶解させ、リン含有前駆体溶液を調製した。
【0252】
次いで、インジウム含有前駆体溶液を190℃の温度に加熱し、この加熱溶液中に常温のリン含有前駆体溶液を全量注射器にて注入し、これによりInP量子ドット溶液を作製した。
【0253】
次に、酸化亜鉛:1mmolをステアリン酸:10mLに溶解させた酸化亜鉛前駆体溶液を作製し、さらにイオウ:13mmolをステアリン酸:10mLに溶解させたイオウ前駆体溶液を用意した。
【0254】
次いで、InP量子ドット溶液を150℃の温度に調整し、酸化亜鉛前駆体溶液及びイオウ前駆体溶液を交互に微量ずつ滴下し、加熱・冷却し、洗浄して溶液中の過剰有機成分を除去し、原料溶液を作製した。そしてこの後、TBD−アミン配位子又はTPD−チオール配位子を添加しつつ、トルエン中に分散させ、第1及び第2の分散溶液を作製した。
【0255】
具体的には、InP量子ドット溶液の滴下量や滴下回数、濃度等を調整し、ZnSの膜厚が3MLの第1の原料溶液、ZnSの膜厚が1MLの第2の原料溶液を作製した。そして、TBD−アミン配位子を上記第1の原料溶液に添加しつつ、トルエン中に分散させて第1の分散溶液を作製し、また、TPD−チオール配位子を上記第2の原料溶液に添加しつつ、トルエン中に分散させて第2の分散溶液を作製した。
【0256】
尚、ZnSの厚みは、デバイス試料を作製後、断面をTEMで観察して確認した。
【0257】
(デバイス試料の作製)
スパッタ法によりガラス基板上にITO膜を成膜し、UVオゾン処理を行い、膜厚100nmの陽極を形成した。
【0258】
次に、PEDOT:PSSを純水に溶解させた正孔輸送層溶液を用意した。そして、スピンコート法を使用して正孔注入層溶液を陽極上に塗布し、膜厚20nmの正孔注入層を形成した。
【0259】
次に、上述した第2の分散溶液を用意した。
【0260】
そして、スピンコート法等を使用し、第2の分散溶液を正孔輸送層上に塗布し、N
2雰囲気で乾燥させ、正孔輸送性量子ドット層を形成した。
【0261】
次いで、TBD−アミン配位子をメタノール中に分散させた置換溶液を用意した。そして、正孔輸送性量子ドット層が表面に形成されたガラス基板を前記置換溶液に60分間浸漬し、TPD−チオール配位子の一部をTBD−アミン配位子と置換し、第2の量子ドットが層状に整列された第2の発光層を形成した。
【0262】
次に、上述した第1の分散溶液を用意した。そして、この第1の分散溶液を第2の発光層11上に塗布し、N
2雰囲気で乾燥させ、シェル部が電子輸送性の第2の界面活性剤で被覆された第1の量子ドットからなる第1の発光層を形成した。
【0263】
次いで、Alq3を使用し、真空蒸着法で第1の発光層の表面に膜厚50nmの電子輸送層を形成した。
【0264】
そして、Ca/Alを使用し、真空蒸着法で膜厚100nmの陰極8を形成し、これにより試料番号11のデバイス試料を作製した。
【0265】
(試料番号12)
第1の発光層の作製に際し、第2の分散溶液を使用した以外は、試料番号11と同様の方法・手順で試料番号12のデバイス試料を作製した。
【0266】
〔試料の評価〕
図20は、試料番号11のエネルギーバンドのバンド構造図であり、陽極61、正孔輸送層62、第1及び第2の量子ドット64、65(発光層63)、電子輸送層66、陰極67が順次積層されており、これら各層は、図中で示すエネルギー準位を有している。また、第1及び第2の量子ドット64、65は、それぞれコア部64a、65aとシェル部64b、65bを有している。
【0267】
試料番号12のバンド構造は、第1の量子ドットのシェル部の厚さが第2の量子ドットと同一である以外は、
図20と同一である。
【0268】
試料番号11及び試料番号12の各試料について、実施例1と同様の方法・手順で、輝度特性及び発光効率を評価した。
【0269】
図21は、輝度特性を示す図であり、横軸は印加電圧(V)、縦軸は輝度(cd/m
2)である。
【0270】
図22は、発光効率の特性を示す図であり、横軸は印加電圧(V)、縦軸は外部量子効率(%)である。
【0271】
図21〜
図22のいずれにおいても、●印が試料番号11、◆印が試料番号12である。
【0272】
この
図21及び
図22から明らかなように、試料番号12は、第1及び第2の発光層のシェル部厚みが、いずれも1MLであるので、輝度が低く、発光効率も低かった。
【0273】
これに対し試料番号1は、正孔輸送層側の第1の発光層のシェル部の厚みが3MLであり、電子輸送層側の第2の発光層のシェル部の厚みが1MLであるので、試料番号11に比べ、注入効率が向上し、輝度が向上することが分かった。また、正孔ブロック機能が向上することから、発光効率が向上することも確認された。