特許第6233419号(P6233419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233419
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】3板式光学システム及びプロジェクター
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20171113BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20171113BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   G03B21/14 Z
   G03B21/00 F
   H04N5/74 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-546328(P2015-546328)
(86)(22)【出願日】2014年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2014074475
(87)【国際公開番号】WO2015068471
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-229232(P2013-229232)
(32)【優先日】2013年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 昌弘
【審査官】 田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−287248(JP,A)
【文献】 特開2007−25287(JP,A)
【文献】 特開2011−90069(JP,A)
【文献】 特開2006−79080(JP,A)
【文献】 特開2010−276663(JP,A)
【文献】 特開平10−104763(JP,A)
【文献】 米国特許第6856464(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
G03B21/00−21/10
21/12−21/13
21/134−21/30
33/00−33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光の入射順に第1ダイクロイックコーティング及び第2ダイクロイックコーティングを有する色分解合成プリズムと、前記第1ダイクロイックコーティングで反射した照明光が入射する第1反射型表示素子と、前記第2ダイクロイックコーティングで反射した照明光が入射する第2反射型表示素子と、前記第1,第2ダイクロイックコーティングを透過した照明光が入射する第3反射型表示素子と、を備え、
前記色分解合成プリズムで照明光を色分解し、その色分解により得られた照明光で各反射型表示素子の画像表示面を照明し、照明された各反射型表示素子からの反射光のうち画像投影に用いられる投影光を前記色分解合成プリズムで色合成する3板式の画像投影用光学システムであって、
前記第3反射型表示素子の画像表示面での照明光軸及び投影光軸を含む平面を第1平面とし、前記第1,第2ダイクロイックコーティングの面法線と前記第3反射型表示素子の中心を通る面法線とを含む平面を第2平面とすると、前記第1平面と第2平面とが、直交した状態から、前記第1ダイクロイックコーティング又は第2ダイクロイックコーティングに対する照明光軸の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあることを特徴とする光学システム。
【請求項2】
前記第1〜第3反射型表示素子が、複数のマイクロミラーからなる画像表示面において各マイクロミラー面の傾きがON/OFF制御されて照明光を強度変調することにより画像を形成する第1〜第3デジタル・マイクロミラー・デバイスであり、前記第1ダイクロイックコーティング又は第2ダイクロイックコーティングが以下の条件式(1)を満たすことを特徴とする請求項1記載の光学システム;
|cos-1[{(sinα・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2α)/n2}]−cos-1[{(sin(α−2・γ)・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2(α−2・γ))/n2}]|≦3deg …(1)
ただし、
α:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスに対する照明光の入射角度、
β:ダイクロイックコーティングの面法線と第3デジタル・マイクロミラー・デバイスの画像表示面の法線とがなす角度、
γ:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスのマイクロミラーが投影状態にあるときの傾き角、
n:色分解合成プリズムの硝材の屈折率、
θ:第1平面と第2平面との直交状態からの回転角度、
である。
【請求項3】
前記第1平面と第2平面とが、直交した状態から、前記第1ダイクロイックコーティングに対する照明光及び投影光の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあることを特徴とする請求項1又は2記載の光学システム。
【請求項4】
前記第1ダイクロイックコーティングが、緑色波長帯域の色光を反射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学システム。
【請求項5】
前記第2ダイクロイックコーティングが、青色波長帯域の色光を反射し、かつ、赤色波長帯域の色光を透過することを特徴とする請求項4記載の光学システム。
【請求項6】
3板式のプロジェクターであって、光源と、その光源からの光を集光して照明光を射出する照明光学系と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学システムと、前記第1〜第3反射型表示素子に表示された画像をスクリーン面に拡大投影する投影光学系と、を備えたことを特徴とするプロジェクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3板式光学システム及びプロジェクターに関するものであり、例えば、デジタル・マイクロミラー・デバイス(digital micromirror device)等の反射型表示素子と、色分解合成プリズムと、を備えた3板式の画像投影用光学システム、及びそれを有するプロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターに搭載される反射型表示素子として、デジタル・マイクロミラー・デバイスが知られている。デジタル・マイクロミラー・デバイスは、複数の微小なマイクロミラーからなる画像表示面を有しており、その画像表示面で各ミラー面の傾きを制御して、照明光を強度変調することにより画像を形成する。デジタル・マイクロミラー・デバイスの各画素のON/OFFは、例えば、画像表示面の各辺に対して45°の角度をなす回転軸を中心とする±12°のミラー面の回動により表現される。
【0003】
デジタル・マイクロミラー・デバイスのような反射型表示素子と色分解合成プリズムとを用いたプロジェクターにおいては、色分解合成プリズム内のダイクロイックコーティングへの入射角が照明光と投影光(ON光)とで異なるため、ダイクロイックコーティングの角度特性差により光量損失が生じてしまう。この光量損失を低減するため、特許文献1記載の光学システムでは、コーティングの角度特性を改善しており、特許文献2記載の光学システムでは、照明パスと投影パスとの入射角度差をなくすようなプリズム形状に工夫されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US7,230,768
【特許文献2】特開2002−287248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されているようなコーティングの角度特性では、光量損失を十分に低減することが困難である。また、特許文献2に記載されているようにプリズム形状を複雑化すると、色分解合成プリズムを含む光学システムの大型化やそれに伴うコストアップを招くおそれがある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、小型で簡単な構成でありながら、ダイクロイックコーティングでの光量損失が低減された輝度効率の高い光学システムと、それを備えたプロジェクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明の光学システムは、照明光の入射順に第1ダイクロイックコーティング及び第2ダイクロイックコーティングを有する色分解合成プリズムと、前記第1ダイクロイックコーティングで反射した照明光が入射する第1反射型表示素子と、前記第2ダイクロイックコーティングで反射した照明光が入射する第2反射型表示素子と、前記第1,第2ダイクロイックコーティングを透過した照明光が入射する第3反射型表示素子と、を備え、
前記色分解合成プリズムで照明光を色分解し、その色分解により得られた照明光で各反射型表示素子の画像表示面を照明し、照明された各反射型表示素子からの反射光のうち画像投影に用いられる投影光を前記色分解合成プリズムで色合成する3板式の画像投影用光学システムであって、
前記第3反射型表示素子の画像表示面での照明光軸及び投影光軸を含む平面を第1平面とし、前記第1,第2ダイクロイックコーティングの面法線と前記第3反射型表示素子の中心を通る面法線とを含む平面を第2平面とすると、前記第1平面と第2平面とが、直交した状態から、前記第1ダイクロイックコーティング又は第2ダイクロイックコーティングに対する照明光軸の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあることを特徴とする。
【0008】
第2の発明の光学システムは、上記第1の発明において、前記第1〜第3反射型表示素子が、複数のマイクロミラーからなる画像表示面において各マイクロミラー面の傾きがON/OFF制御されて照明光を強度変調することにより画像を形成する第1〜第3デジタル・マイクロミラー・デバイスであり、前記第1ダイクロイックコーティング又は第2ダイクロイックコーティングが以下の条件式(1)を満たすことを特徴とする。
|cos-1[{(sinα・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2α)/n2}]−cos-1[{(sin(α−2・γ)・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2(α−2・γ))/n2}]|≦3deg …(1)
ただし、
α:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスに対する照明光の入射角度、
β:ダイクロイックコーティングの面法線と第3デジタル・マイクロミラー・デバイスの画像表示面の法線とがなす角度、
γ:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスのマイクロミラーが投影状態にあるときの傾き角、
n:色分解合成プリズムの硝材の屈折率、
θ:第1平面と第2平面との直交状態からの回転角度、
である。
【0009】
第3の発明の光学システムは、上記第1又は第2の発明において、前記第1平面と第2平面とが、直交した状態から、前記第1ダイクロイックコーティングに対する照明光及び投影光の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあることを特徴とする。
【0010】
第4の発明の光学システムは、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記第1ダイクロイックコーティングが、緑色波長帯域の色光を反射することを特徴とする。
【0011】
第5の発明の光学システムは、上記第4の発明において、前記第2ダイクロイックコーティングが、青色波長帯域の色光を反射し、かつ、赤色波長帯域の色光を透過することを特徴とする。
【0012】
第6の発明のプロジェクターは、3板式のプロジェクターであって、光源と、その光源からの光を集光して照明光を射出する照明光学系と、上記第1〜第5のいずれか1つの発明に係る光学システムと、前記第1〜第3反射型表示素子に表示された画像をスクリーン面に拡大投影する投影光学系と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学システムによれば、第1平面と第2平面とは、直交した状態から、第1ダイクロイックコーティング又は第2ダイクロイックコーティングに対する照明光軸の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあるので、第1,第2平面同士の相対的な傾きにより、第1又は第2ダイクロイックコーティングに対する照明光入射角度を変化させることができる。これにより、第1又は第2ダイクロイックコーティングへの最大入射角度を緩和し、第1又は第2ダイクロイックコーティングに対する照明光と投影光の入射角度差によるコート特性での光量損失を減らすことができる。したがって、小型で簡単な構成でありながら、ダイクロイックコーティングでの光量損失を低減して、輝度効率を高くすることができる。そして、その光学システムをプロジェクターに備えることにより、小型で明るく高性能の3板式のプロジェクターを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】光学システムの一実施の形態を示す斜視図。
図2図1の光学システムを示す上面図。
図3図1の光学システムを示す側面図。
図4図1の光学システムを示す正面図。
図5図1の光学システムを搭載したプロジェクターの概略構成例を示す模式図。
図6】従来の色分解合成プリズムを備えた光学システムの比較例を示す概略構成図。
図7図6の光学システムを示す上面図。
図8図6の光学システムを示す側面図。
図9図6の光学システムを示す正面図。
図10】比較例の光学ユニット(θ=0°)における第1,第2ダイクロイックコーティングの分光特性を示すグラフ。
図11】実施例1の光学ユニット(θ=15°)における第1,第2ダイクロイックコーティングの分光特性を示すグラフ。
図12】比較例,実施例1の光学ユニット(θ=0°,15°)における第1,第2ダイクロイックコーティングでの光量損失を示すグラフ。
図13】比較例,実施例2の光学ユニット(θ=0°,3.5°)における第1,第2ダイクロイックコーティングでの光量損失を示すグラフ。
図14】実施例3の光学ユニット(θ=15°)における第1,第2ダイクロイックコーティングの分光特性を示すグラフ。
図15】実施例1,3の光学ユニット(θ=15°)における第1,第2ダイクロイックコーティングでの光量損失を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光学システム及びプロジェクターの実施の形態等を、図面を参照しつつ説明する。なお、実施の形態等の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複説明を適宜省略する。
【0016】
図1図4に、光学システムPU1の第1の実施の形態を示す。図1は光学システムPU1を斜め上方向から見た状態で示しており、図2は光学システムPU1を上面側から見た状態で示しており、図3は光学システムPU1を側面側から見た状態で示しており、図4は光学システムPU1を正面側から見た状態で示している。また図5に、光学システムPU1を搭載したプロジェクターPJの概略構成例を示す。プロジェクターPJは、図5に示すように、投影光学系LN,光学システムPU1,光源11,照明光学系12,制御部13,アクチュエータ14等を備えており、光学システムPU1はTIR(Total Internal Reflection)プリズムPA,色分解合成プリズムPB,デジタル・マイクロミラー・デバイスDP等からなっており、制御部13によりプロジェクターPJ全体の制御が行われる。
【0017】
図5に示すように、光源11から射出した照明光L1は、照明光学系12で集光され、TIRプリズムPA及び色分解合成プリズムPBでデジタル・マイクロミラー・デバイスDPに導かれる。デジタル・マイクロミラー・デバイスDPは、光を変調して画像を生成する反射型表示素子であり、画像を表示する画像表示面DS上にはカバーガラスCGが設けられている。デジタル・マイクロミラー・デバイスDPの画像表示面DSでは、照明光の強度変調により2次元画像が形成される。デジタル・マイクロミラー・デバイスDPの画素は、画像表示面DSが構成する長方形の画像表示領域の各辺に対して45°の角度をなす回転軸を有しており、その軸回りに例えば±12°回動することにより、ON/OFFを表現する。そして、ON状態のマイクロミラー(画素面)で反射した光のみが、後述するように光学システムPU1及び投影光学系LNを通過することになる。
【0018】
光学システムPU1は、図1図4に示すように3板式の画像投影用光学システムである。つまり、TIRプリズムPA及び色分解合成プリズムPBからなるプリズムユニット,第1〜第3のデジタル・マイクロミラー・デバイスD1〜D3(図5中のデジタル・マイクロミラー・デバイスDPに相当する。)等を備えたプリズムシステムであり、照明光L1と投影光L2との分離、及び投影光(ON光)L2と不図示の不要光(OFF光)との分離を行う。デジタル・マイクロミラー・デバイスDPに表示された画像は、投影光学系LNでスクリーン面SCに拡大投影される。なお、投影光学系LN又はその一部の移動(例えば、ズーミング,フォーカシング)は、アクチュエータ14(図5)で行われる。
【0019】
前述した光量損失を低減するための光学システムPU1の構成を、図1図4を用いて更に詳しく説明する。また、従来の色分解合成プリズムPBとの配置の違いを明確にするため、比較例として光学システムPU0の構成を図6図9に示す。なお、図1図4と同様、図6は光学システムPU0を斜め上方向から見た状態で示しており、図7は光学システムPU0を上面側から見た状態で示しており、図8は光学システムPU0を側面側から見た状態で示しており、図9は光学システムPU1を正面側から見た状態で示している。
【0020】
光学システムPU0,PU1では(図1図9)、TIRプリズムPAは略三角柱状の第4,第5プリズムP4,P5からなっており、プリズム斜面間にエアギャップ層が設けられている。このTIRプリズムPAによって、第1〜第3のデジタル・マイクロミラー・デバイスD1〜D3に対する照明光(入力光)L1と投影光(出力光)L2との分離が行われる。照明光学系12から射出した照明光L1は、TIRプリズムPAに入射し、エアギャップ層を形成する斜面に全反射条件を満たした角度で入射し、全反射して色分解合成プリズムPBに入射する。
【0021】
光学システムPU0,PU1において、色分解合成プリズムPBは、R(赤)・G(緑)・B(青)に対応した3つのプリズムP1,P2,P3が組み合わされた構成になっている。デジタル・マイクロミラー・デバイスDP(図5)としては、赤,緑,青の各色光に用いられる第1,第2,第3のデジタル・マイクロミラー・デバイスD1,D2,D3が設けられており、照明光L1は色分解合成プリズムPBで赤,緑,青の各色に分解される。色分解合成プリズムPBを構成している3つのプリズムP1,P2,P3は、略三角柱状の2つのプリズムとブロック状のプリズムである。第1プリズムP1と第2プリズムP2との間には、第1の色光を反射する第1ダイクロイックコーティングC1、及びそれに隣接してエアギャップ層が設けられている。また、第2プリズムP2と第3プリズムP3との間には、第2の色光を反射する第2ダイクロイックコーティングC2、及びそれに隣接してエアギャップ層が設けられている。
【0022】
色分解合成プリズムPBの第1プリズムP1に入射した照明光L1(図5)は、第1ダイクロイックコーティングC1(図2図7)で第1の色光が反射され、他の第2の色光及び第3の色光は透過する。第1ダイクロイックコーティングC1で反射された第1の色光は、全反射された後、色分解合成プリズムPBから射出し、第1のデジタル・マイクロミラー・デバイスD1を照明する。ダイクロイックコーティングC1を透過した第2,第3の色光のうち、第2の色光は第2ダイクロイックコーティングC2(図2図7)で反射され、第3の色光は透過する。第2ダイクロイックコーティングC2で反射された第2の色光は、全反射された後、色分解合成プリズムPBから射出し、第2のデジタル・マイクロミラー・デバイスD2を照明する。第2ダイクロイックコーティングC2を透過した第3の色光は、色分解合成プリズムPBから射出し、第3のデジタル・マイクロミラー・デバイスD3を照明する。
【0023】
第1のデジタル・マイクロミラー・デバイスD1で反射された第1の色光からなる投影光L2(図5)は、色分解合成プリズムPBに入射して全反射された後、第1ダイクロイックコーティングC1で反射される。第2のデジタル・マイクロミラー・デバイスD2で反射された第2の色光からなる投影光L2は、色分解合成プリズムPBに入射して全反射された後、第2ダイクロイックコーティングC2で反射され、更に第1ダイクロイックコーティングC1を透過する。第3のデジタル・マイクロミラー・デバイスD3で反射された第3の色光からなる投影光L2は、色分解合成プリズムPBに入射して第2ダイクロイックコーティングC2及び第1ダイクロイックコーティングC1を透過する。このようにして、照明光L1を受けた3つのデジタル・マイクロミラー・デバイスD1〜D3からの出射光のうち、画像投影に用いられる投影光L2は第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2で色合成される。
【0024】
光学システムPU0,PU1では、上記赤,緑,青の各色光からなる投影光L2が、同一光軸AX(図5)に合成され、色分解合成プリズムPBから射出して、TIRプリズムPAに入射する。TIRプリズムPAに入射した投影光L2は、ここでは全反射条件を満たさないのでエアギャップ層を透過し、投影光学系LNによってスクリーンSCに投影される。
【0025】
図2〜4,図7〜9に示すように、第3デジタル・マイクロミラー・デバイスD3の画像表示面DSでの照明光軸AX1及び投影光軸AX2を含む平面を第1平面H1とし、第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2の面法線と第3デジタル・マイクロミラー・デバイスD3の中心を通る面法線とを含む平面を第2平面H2とする。光学システムPU0では、図9に示すように、第1平面H1と第2平面H2とが直交するように配置されている(θ=0°,θ:第1平面H1と第2平面H2との直交状態からの回転角度)。それに対し、光学システムPU1では、図4に示すように、第1平面H1と第2平面H2とが直交しないように配置されている。つまり、第1平面H1と第2平面H2とが、直交した状態から第1ダイクロイックコーティングC1又は第2ダイクロイックコーティングC2に対する照明光軸AX1の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にある。
【0026】
表1に、第1の色光が赤色光(R)であり、第2の色光が青色光(B)であり、第3の色光が緑色光(G)である場合の第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2の誘電体多層膜構成を示す。表2に、第1の色光が緑色光(G)であり、第2の色光が青色光(B)であり、第3の色光が赤色光(R)である場合の第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2の誘電体多層膜構成を示す。表3に、第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2の誘電体多層膜に用いられる薄膜材料の屈折率及び波長を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
図10に、光学システムPU0(比較例,θ=0°)における第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2(表1に示す誘電体多層膜構成)の分光反射率特性を示す。図10中、実線は第1ダイクロイックコーティングC1の照明パスでの反射率(%)、破線は第1ダイクロイックコーティングC1の投影パスでの反射率(%)、点線は第2ダイクロイックコーティングC2の照明パスでの反射率(%)、一点鎖線は第2ダイクロイックコーティングC2の投影パスでの反射率(%)、をそれぞれ示している。
【0031】
光学システムPU0では、ダイクロイックコーティング面に対する入射角度が照明パスと投影パスとで異なるため、図10から分かるように、コーティングの特性がシフトする。また、入射角度が大きくなる第1ダイクロイックコーティングC1面では偏光による特性差も大きくなるため、カットオフの立ち上がり性能が悪くなる。この特性差が大きくなると、照明パスと投影パスとで反射透過の条件が異なるため、プリズム内で迷光となり光量損失が増えることになる。また、カットオフの立ち上がり性能は色分離性能に関係するので、色純度を劣化させる要因となる。
【0032】
光学システムPU1(図1図4)では、上記問題点を解消するため、前述したように、第1平面H1と第2平面H2とが、直交した状態から第1ダイクロイックコーティングC1又は第2ダイクロイックコーティングC2に対する照明光軸AX1の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態になっている。この構成によれば、第1平面H1と第2平面H2とは、直交した状態から、第1ダイクロイックコーティングC1又は第2ダイクロイックコーティングC2に対する照明光軸AX1の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあるので、第1,第2平面H1,H2同士の相対的な傾きにより、第1又は第2ダイクロイックコーティングC1,C2に対する照明光L1の入射角度を変化させることができる。
【0033】
上記照明光L1の入射角度変化により、第1又は第2ダイクロイックコーティングC1,C2への最大入射角度を緩和し、第1又は第2ダイクロイックコーティングC1,C2に対する照明光L1と投影光L2の入射角度差によるコート特性での光量損失(つまり、色分解合成プリズムPBでの光量ロス)を減らすことができる。したがって、小型で簡単な構成でありながら、ダイクロイックコーティングC1,C2での光量損失を低減して、輝度効率を高くすることができる。そして、この光学システムPU1をプロジェクターPJ(図5)に備えることにより、3板式のプロジェクターPJの小型化,低コスト化,高輝度効率化等を達成することができる。
【0034】
なお、第1平面H1と第2平面H2とが、直交した状態から、第1ダイクロイックコーティングC1に対する照明光L1及び投影光L2の入射角度が小さくなる方向へと、相対的に回転した状態にあることが更に好ましい。第1ダイクロイックコーティングC1面に回転方向を限定することにより、更に高い効果を得ることができる。
【0035】
次に、第1平面H1と第2平面H2とが直交しないように配置された構成(図4)の数値化を検討する。まず、プリズム内部からダイクロイックコーティング面への照明パス入射角度AOIillと投影パス入射角度AOIonは、以下の式(A1),(A2)で求められる。
AOIill=cos-1[{(sinα・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2α)/n2}] …(A1)
AOIon=cos-1[{(sin(α−2・γ)・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2(α−2・γ))/n2}] …(A2)
ただし、
α:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスに対する照明光の入射角度、
β:ダイクロイックコーティングの面法線と第3デジタル・マイクロミラー・デバイスの画像表示面の法線とがなす角度、
γ:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスのマイクロミラーが投影状態にあるときの傾き角、
n:色分解合成プリズムの硝材の屈折率、
θ:第1平面と第2平面との直交状態からの回転角度、
である。
【0036】
そして、反射型表示素子として第1〜第3のデジタル・マイクロミラー・デバイスD1〜D3を用いた場合(つまり、複数のマイクロミラーからなる画像表示面DSにおいて各マイクロミラー面の傾きがON/OFF制御されて照明光L1を強度変調することにより画像を形成する素子構成の場合)に有効な入射角度差|AOIill−AOIon|を考えると、第1ダイクロイックコーティングC1又は第2ダイクロイックコーティングC2は以下の条件式(1)を満たすことが望ましい。
|cos-1[{(sinα・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2α)/n2}]−cos-1[{(sin(α−2・γ)・sinβ・sinθ)/n}+cosβ・√{1−(sin2(α−2・γ))/n2}]|≦3deg …(1)
ただし、
α:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスに対する照明光の入射角度、
β:ダイクロイックコーティングの面法線と第3デジタル・マイクロミラー・デバイスの画像表示面の法線とがなす角度、
γ:第3デジタル・マイクロミラー・デバイスのマイクロミラーが投影状態にあるときの傾き角、
n:色分解合成プリズムの硝材の屈折率、
θ:第1平面と第2平面との直交状態からの回転角度、
である。
【0037】
表4に、角度α=24°、第1ダイクロイックコーティングC1に関する角度β1=27.5°、第2ダイクロイックコーティングC2に関する角度β2=−11.25°、傾き角γ=12°、屈折率n=1.5168とした場合の入射角度AOIill,AOIon及び入射角度差|AOIill−AOIon|を示す。ただし、比較例は回転角度θ=0°の状態(直交状態)であり、実施例2は回転角度θ=3.5°の状態であり、実施例1は回転角度θ=15°の状態である。
【0038】
【表4】
【0039】
第1平面H1と第2平面H2とを相対的に15°回転させることにより(実施例1)、第1ダイクロイックコーティングC1面での照明光入射角度AOIillが31.29°から27.55°に緩和され、入射角度差も3.79°から0.05°と小さくなる。回転以外の条件は同一として、回転角度θを3.5°にしてやると(実施例2)、入射角度差|AOIill−AOIon|は2.95°となり、条件式(1)を略境界値で満たすことになる。
【0040】
図11に、光学システムPU1(実施例1,θ=15°)における第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2(表1に示す誘電体多層膜構成)の分光反射率特性を示す。図11中、実線は第1ダイクロイックコーティングC1の照明パスでの反射率(%)、破線は第1ダイクロイックコーティングC1の投影パスでの反射率(%)、点線は第2ダイクロイックコーティングC2の照明パスでの反射率(%)、一点鎖線は第2ダイクロイックコーティングC2の投影パスでの反射率(%)、をそれぞれ示している。この図11から、第1ダイクロイックコーティングC1での照明パスの立ち上がり特性が改善されると同時に投影パスとの特性差がなくなっていることが分かる。
【0041】
図12に、光学システムPU0(比較例,θ=0°)と光学システムPU1(実施例1,θ=15°)でのコーティング特性による光量損失を示す。図12中、実線は実施例1の第1ダイクロイックコーティングC1での光量損失(%)、破線は実施例1の第2ダイクロイックコーティングC2での光量損失(%)、二点鎖線は比較例の第1ダイクロイックコーティングC1での光量損失(%)、点線は比較例の第2ダイクロイックコーティングC2での光量損失(%)、をそれぞれ示している。この図12から、第2ダイクロイックコーティングC2では損失が若干増加しているが、第1ダイクロイックコーティングC1では光量損失が大きく減少(損失の面積比で約25%)していることが分かる。
【0042】
図13に、光学システムPU0(比較例,θ=0°)と光学システムPU1(実施例2,θ=3.5°)でのコーティング特性による光量損失を示す。図13中、実線は実施例2の第1ダイクロイックコーティングC1での光量損失(%)、破線は実施例2の第2ダイクロイックコーティングC2での光量損失(%)、二点鎖線は比較例の第1ダイクロイックコーティングC1での光量損失(%)、点線は比較例の第2ダイクロイックコーティングC2での光量損失(%)、をそれぞれ示している。この図13に示すように、入射角度差は3°以下になる程度の回転であっても、光量損失は改善(損失の面積比で約7%)する。
【0043】
したがって、条件式(1)を満たすことによって、小型で簡単な構成としながらも、ダイクロイックコーティングC1,C2での光量損失を効果的に低減して、輝度効率をより一層高くすることができる。
【0044】
図14に、光学システムPU1(実施例3,θ=15°)における第1,第2ダイクロイックコーティングC1,C2(表2に示す誘電体多層膜構成)の分光反射率特性を示す。図14中、実線は第1ダイクロイックコーティングC1の照明パスでの反射率(%)、破線は第1ダイクロイックコーティングC1の投影パスでの反射率(%)、点線は第2ダイクロイックコーティングC2の照明パスでの反射率(%)、一点鎖線は第2ダイクロイックコーティングC2の投影パスでの反射率(%)、をそれぞれ示している。
【0045】
第1ダイクロイックコーティングC1では緑色波長帯域の第1の色光(G)が反射され、第2ダイクロイックコーティングC2では青色波長帯域の第2の色光(B)が反射され、かつ、赤色波長帯域の第3の色光(R)が透過される。このように第1ダイクロイックコーティングC1が、緑色波長帯域の色光(G)を反射することが好ましく、第2ダイクロイックコーティングC2が、青色波長帯域の色光(B)を反射し、かつ、赤色波長帯域の色光(R)を透過することが更に好ましい。この構成によると、緑色波長帯域を先に分離し、その帯域で青色波長帯域と赤色波長帯域を分離することにより、第2ダイクロイックコーティングC2での角度特性が大きくなっても、その影響を受けなくなる。
【0046】
図15に、光学システムPU1(実施例1,θ=15°)と光学システムPU1(実施例3,θ=15°)でのコーティング特性による光量損失を示す。図15中、実線は実施例1の第1ダイクロイックコーティングC1での光量損失(%)、破線は実施例1の第2ダイクロイックコーティングC2での光量損失(%)、二点鎖線は実施例3の第1ダイクロイックコーティングC1での光量損失(%)、点線は実施例3の第2ダイクロイックコーティングC2での光量損失(%)、をそれぞれ示している。
【0047】
実施例3では、実施例1より光量損失を更に減らすことができる(損失の面積比で約52%)。また実施例3では、第2ダイクロイックコーティングC2の特性で被視感度の高い赤色波長帯域の色光(R)を透過させている。これは、色分解合成プリズムPB内でのエアーギャップを2回通過させることで、第2デジタル・マイクロミラー・デバイスD2より第3デジタル・マイクロミラー・デバイスD3の方が収差にカウンターをあてることができ、高い結像性能が期待できるからである。
【符号の説明】
【0048】
PJ プロジェクター
LN 投影光学系
PU0,PU1 光学システム
DP デジタル・マイクロミラー・デバイス(反射型表示素子)
D1 第1のデジタル・マイクロミラー・デバイス(反射型表示素子)
D2 第2のデジタル・マイクロミラー・デバイス(反射型表示素子)
D3 第3のデジタル・マイクロミラー・デバイス(反射型表示素子)
DS 画像表示面
PA TIRプリズム
PB 色分解合成プリズム
P1 第1プリズム
P2 第2プリズム
P3 第3プリズム
C1 第1ダイクロイックコーティング
C2 第2ダイクロイックコーティング
H1 第1平面
H2 第2平面
L1 照明光
L2 投影光
AX1 照明光軸
AX2 投影光軸
SC スクリーン
11 光源
12 照明光学系
13 制御部
14 アクチュエータ
AX 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15