(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダブロックに設けられた複数のブロック側軸受部と複数の軸受キャップとそれぞれに挟まれて、それぞれ回転可能に支持される複数のクランクジャーナルと、ピストンに連結されたコンロッド本体における反ピストン側に設けられたロッド側軸受部とキャップとで構成されたコンロッド大端部に連結された複数のクランクピンと、上記クランクジャーナルと上記クランクピンとを連結する複数のクランクアームとを備えたクランク軸が配設されたエンジンの回転部支持構造であって、
上記クランクジャーナルと上記ブロック側軸受部との間及び上記クランクジャーナルと上記軸受キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクジャーナル側軸受メタルと、
上記クランクピンと上記ロッド側軸受部との間及び上記クランクピンと上記キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクピン側軸受メタルとを備え、
上記クランクジャーナル側軸受メタル及び上記クランクピン側軸受メタルは、上記エンジンに組み付けられた状態において、クランク軸方向から見た内周面の形状がそれぞれ円形又は楕円形をなしており、
各クランクジャーナル側軸受メタルは、
クランク軸方向の両端面と内周面と間の角部にそれぞれ設けられた面取り部と、
内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分のうちの少なくとも一方に設けられ、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かって、内径を拡大させるように、上記面取り部よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部と、を有する一方、
各クランクピン側軸受メタルは、
上記面取り部と上記クラウニング部のうちの上記面取り部のみを有する
ことを特徴とするエンジンの回転部支持構造。
シリンダブロックに設けられた複数のブロック側軸受部と複数の軸受キャップとそれぞれに挟まれて、それぞれ回転可能に支持される複数のクランクジャーナルと、ピストンに連結されたコンロッド本体における反ピストン側に設けられたロッド側軸受部とキャップとで構成されたコンロッド大端部に回転可能に連結された複数のクランクピンと、上記クランクジャーナルと上記クランクピンとを連結する複数のクランクアームとを備えたクランク軸が配設されたエンジンの回転部支持構造であって、
上記クランクジャーナルと上記ブロック側軸受部との間及び上記クランクジャーナルと上記軸受キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクジャーナル側軸受メタルと、
上記クランクピンと上記ロッド側軸受部との間及び上記クランクピンと上記キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクピン側軸受メタルとを備え、
上記クランクジャーナル側軸受メタル及び上記クランクピン側軸受メタルは、上記エンジンに組み付けられた状態において、クランク軸方向から見た内周面の形状がそれぞれ円形又は楕円形をなしており、
各クランクジャーナル側軸受メタルは、
クランク軸方向の両端面と内周面と間の角部にそれぞれ設けられた面取り部と、
内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分のうちの少なくとも一方に設けられ、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かって、内径を拡大させるように、上記面取り部よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部と、を有する一方、
各クランクピン側軸受メタルは、
上記面取り部と上記クラウニング部とを有し、
上記クランクピン側軸受メタルにおけるクラウニング部の傾斜角度は、上記クランクジャーナル側軸受メタルにおけるクラウニング部の傾斜角度よりも小さい
ことを特徴とするエンジンの回転部支持構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されたようなクランク軸において、クランクピンは、コンロッド小端部に接続されたピストンの往復運動によって、クランクジャーナルの軸心周りに回転する一方、クランクジャーナルは、その軸心がずれないようにシリンダブロック及び軸受キャップに支持された状態でその軸心回りに回転する。
【0006】
一般に、上記クランクピンは、コンロッドを介してピストンと接続されており、エンジンの燃焼サイクルにおける爆発行程において、上記ピストンが上死点から下死点まで一気に下がったときには、上記クランクピンに比較的大きな荷重がかかる。また、上記爆発行程において上記クランクピンに荷重がかかったときには、クランクアームを介して上記クランクジャーナルにも荷重がかかる。
【0007】
このとき、上記クランクピンには、クランク軸方向に対して略垂直な方向に荷重がかかる一方、上記クランクジャーナルと上記クランクピンとが交互に設けられている場合は、上記クランクジャーナルには、上記クランクジャーナルにおける上記クランクピンと接続されている側の部分にのみ荷重がかかることになる。そのため、上記クランクピンに荷重がかかるとき、上記クランクジャーナルは、荷重がかけられたクランクピンに向かって下側に傾斜した状態になる。
【0008】
上記クランクジャーナルが下側に傾斜した状態となるとき、上記クランクジャーナル部分に設けられた軸受の内周面がクランク軸方向に平坦であると、上記クランクジャーナルは、クランク軸方向の端面と内周面との間の角部に接触し、該角部に支持されるような状態になる。この状態では、上記角部に荷重がかかることになるため、該角部に過剰な面圧がかかるようになる。つまり、上記クランクジャーナルが上記角部に押し付けられるようになるため、これにより、上記クランクジャーナルに作用する摺動抵抗が増大するおそれがある。
【0009】
特許文献1に記載の回転部支持構造では、フライホイールに最も近い位置における軸受には、その上方側部材と下方側部材との摺動面における第1ウエイト側の端部側に本来の摺動面よりも退没するクラウニング部が設けられているため、該クラウニング部が形成された軸受が設けられた部分のクランクジャーナルについては、荷重を上記クラウニング部で拡散させながら受けて、上記荷重による面圧を低減することができるが、その他の部分のクランクジャーナルについては、何ら対策がとられておらず改良の余地がある。
【0010】
また、クランク軸全体における摺動抵抗の増大を抑えるという観点では、上記クランクジャーナル部分の軸受のみでなく、上記クランクピン部分の軸受についても考慮する必要がある。
【0011】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クランクジャーナル及びクランクピンに作用する摺動抵抗が、エンジンの燃焼サイクルにおける爆発行程において増大するのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、シリンダブロックに設けられた複数のブロック側軸受部と複数の軸受キャップとそれぞれに挟まれて、それぞれ回転可能に支持される複数のクランクジャーナルと、ピストンに連結されたコンロッド本体における反ピストン側に設けられたロッド側軸受部とキャップとで構成されたコンロッド大端部に連結された複数のクランクピンと、上記クランクジャーナルと上記クランクピンとを連結する複数のクランクアームとを備えたクランク軸が配設されたエンジンの回転部支持構造を対象として、上記クランクジャーナルと上記ブロック側軸受部との間及び上記クランクジャーナルと上記軸受キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクジャーナル側軸受メタルと、上記クランクピンと上記ロッド側軸受部との間及び上記クランクピンと上記キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクピン側軸受メタルとを備え、上記クランクジャーナル側軸受メタル及び上記クランクピン側軸受メタルは、上記エンジンに組み付けられた状態において、クランク軸方向から見た内周面の形状がそれぞれ円形又は楕円形をなしており、各クランクジャーナル側軸受メタルは、クランク軸方向の両端面と内周面と間の角部にそれぞれ設けられた面取り部と、内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分のうちの少なくとも一方に設けられ、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かって、内径を拡大させるように、上記面取り部よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部と、を有する一方、各クランクピン側軸受メタルは、上記面取り部と上記クラウニング部のうちの上記面取り部のみを有する、構成とした。
【0013】
この構成によると、上記エンジンの燃焼サイクルにおける爆発行程において、上記クランクピンに荷重がかかる際に、上記クランクジャーナルに荷重がかかったとしても摺動抵抗が増大するのを抑えることができる。
【0014】
具体的には、上記クランクジャーナル側軸受メタルには、内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分のうちの少なくとも一方に、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かって、上記クランクジャーナル側軸受メタルの内径を拡大させるようにクラウニング加工されたクラウニング部が形成されているため、上記爆発行程において、上記クランクピンに荷重がかかって、上記クランクジャーナルが、該荷重がかかったクランクピンに向かって下側に傾いたときには、上記クランクジャーナルは上記クラウニング部と接触する。すなわち、上記クランクジャーナル側軸受メタルは、上記クランクジャーナルにかかる荷重を上記クラウニング部で受けることになる。換言すると、クラウニング部がクランクジャーナル11にかかる荷重を受けるための面部としての役割を果たすようになる。これにより、上記クランクジャーナル側軸受メタルにおけるクランク軸方向の端面と内周面との間の角部で荷重を受けるときのように、一点で荷重を受けるのではなく、上記クラウニング部の面で受けるようになるため、上記クランクジャーナル側軸受メタルにかかる面圧が小さくなる。この結果、上記爆発行程における、上記クランクジャーナルの摺動抵抗の増大を抑えることができる。
【0015】
また、上記クランクピン側軸受メタルには、上記面取り部及び上記クラウニング部のうちの上記面取り部のみが設けられており、上記クラウニング部に相当するものが設けられていない。上記クランクピン側軸受メタルは、上記クランクピンと上記コンロッド大端部との間に配設されているため、上記爆発行程では、上記クランクピン側軸受メタルには、クランク軸方向と略垂直な方向(以下、単に略垂直方向という)に荷重がかかる。そのため、上記クランクピン側軸受メタルについては、略垂直方向にかかる荷重を受けるための面の面積を出来る限り広く確保しておかなければ、上記荷重がかかる際の面圧によって、上記クランクピンに作用する摺動抵抗を低減するために、クランクピン側軸受メタルとクランクピンとの間に形成されている油膜が切れてしまい、上記クランクピンに作用する摺動抵抗の増大を招いてしまう。そこで、上記クランクピン側軸受メタルには上記面取り部のみを設けるようにすることで、略垂直方向にかかる荷重を受けるための面の面積を出来る限り広く確保することができる。この結果、上記爆発行程における、上記クランクピンの摺動抵抗の増大についても抑えることができる。
【0016】
上記エンジンの回転部支持構造の一実施形態において、上記クラウニング部は、上記クランクジャーナル側軸受メタルの内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれ設けられている、ことが望ましい。
【0017】
すなわち、一般に、上記クランクピンは、上記クランクジャーナルのクランク軸方向両側にそれぞれ配置される。そのため、両側にあるクランクピンのうちの一方のクランクピンに荷重がかかる場合と、他方のクランクピンに荷重がかかる場合との両方を考慮する必要がある。
【0018】
したがって、上記クラウニング部を、上記クランクジャーナル側軸受メタルの内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれ設けることによって、上記クランクジャーナルの両側にあるクランクピンのどちらに荷重がかかったとしても、上記クランクジャーナルにかかる荷重を上記クラウニング部でそれぞれ受けることができる。これにより、上記爆発行程における、上記クランクジャーナルの摺動抵抗の増大をより確実に抑えることができる。
【0019】
本発明の別の態様では、シリンダブロックに設けられた複数のブロック側軸受部と複数の軸受キャップとそれぞれに挟まれて、それぞれ回転可能に支持される複数のクランクジャーナルと、ピストンに連結されたコンロッド本体における反ピストン側に設けられたロッド側軸受部とキャップとで構成されたコンロッド大端部に回転可能に連結された複数のクランクピンと、上記クランクジャーナルと上記クランクピンとを連結する複数のクランクアームとを備えたクランク軸が配設されたエンジンの回転部支持構造を対象として、上記クランクジャーナルと上記ブロック側軸受部との間及び上記クランクジャーナルと上記軸受キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクジャーナル側軸受メタルと、上記クランクピンと上記ロッド側軸受部との間及び上記クランクピンと上記キャップとの間に配設されかつ筒状をなしたクランクピン側軸受メタルとを備え、上記クランクジャーナル側軸受メタル及び上記クランクピン側軸受メタルは、上記エンジンに組み付けられた状態において、クランク軸方向から見た内周面の形状がそれぞれ円形又は楕円形をなしており、各クランクジャーナル側軸受メタルは、クランク軸方向の両端面と内周面と間の角部にそれぞれ設けられた面取り部と、内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分のうちの少なくとも一方に設けられ、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かって、内径を拡大させるように、上記面取り部よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部と、を有する一方、各クランクピン側軸受メタルは、上記面取り部と上記クラウニング部とを有し、上記クランクピン側軸受メタルにおけるクラウニング部の傾斜角度は、上記クランクジャーナル側軸受メタルにおけるクラウニング部の傾斜角度よりも小さい、構成としている。
【0020】
この構成でも、上記クランクジャーナル側軸受メタルは、上記エンジンの燃焼サイクルにおける爆発行程において、上記クランクジャーナルにかかる荷重を上記クラウニング部で受けることができるため、上記爆発行程における、上記クランクジャーナルの摺動抵抗の増大を抑えることができる。
【0021】
また、上記爆発行程では、上記クランクピンに垂直に荷重がかからず、若干傾いて荷重がかかることがある。これに対して、上記クランクピン側軸受メタルにも、上記クラウニング部が設けられていれば、上記爆発行程において、上記クランクピンが傾いたとしても、上記クラウニング部で荷重を受けることができる。すなわち、上記クランクピン側軸受メタルに形成されたクラウニング部が、上記クランクピンが傾いた際に、上記荷重を受けるための面部としての役割を果たす。
【0022】
さらに、上記クランクピン側軸受メタルにおける上記クラウニング部の傾斜角度が、上記クランクジャーナル側軸受メタルにおける上記クラウニング部の傾斜角度よりも小さいため、上記クランクピン側軸受メタルにおける上記クラウニング部は、上記クランクジャーナル側軸受メタルにおける上記クラウニング部に比べて平坦になっている。これにより、上記クランクピン側軸受メタルに、荷重がかかる時には、上記クラウニング部でも該荷重を受けることができる。すなわち、荷重を受けるための面の面積を出来る限り広くすることができる。したがって、上記爆発行程における、上記クランクピンの摺動抵抗の増大についても抑えることができる。
【0023】
上記クランクジャーナル側及び上記クランクピン側軸受メタルの両方に上記クラウニング部が設けられている上記エンジンの回転部支持構造において、上記クラウニング部は、上記クランクジャーナル側軸受メタル及び上記クランクピン側軸受メタルの内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれ設けられている、ことが望ましい。
【0024】
すなわち、上記クラウニング部を、上記クランクジャーナル側軸受メタルの内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれ設けることによって、上記爆発行程において、上記クランクジャーナルに対して、クランク軸方向両側に配置されたクランクピンのうちのどちらのクランクピンに荷重がかかったとしても、上記クランクジャーナルにかかる荷重を上記クラウニング部で受けることができる。
【0025】
また、上記クランクピン側軸受メタルについても、上記クラウニング部を上記クランクピン側軸受メタルの内周面のクランク軸方向両端部における上記面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれ設けることによって、上記爆発行程において、上記クランクピンに対して、クランク軸方向のどちら側にブレが生じたとしても、上記クランクピンにかかる荷重を上記クラウニング部で受けることができる。
【0026】
これにより、上記爆発行程における、上記クランクジャーナル及び上記クランクピンの摺動抵抗の増大をより確実に抑えることができる。
【0027】
上記エンジンの回転部支持構造において、上記クランクジャーナル側軸受メタルのクランク軸方向の大きさと、上記クランクピン側軸受メタルのクランク軸方向の大きさとは互いに異なる、ことが望ましい。
【0028】
すなわち、上記クランクジャーナル側軸受メタルと上記クランクピン側軸受メタルとは、一般的に、同じ材質で形成され、外観も類似していることから、シリンダブロック等への組み付けの際に間違えやすい。また、クラウニング部の有無やクラウニング部の形状の違いがあるとしても、それら違いから上記クランクジャーナル側軸受メタルと上記クランクピン側軸受メタルとを見分けることは非常に困難である。
【0029】
そこで、上記クランクジャーナル側軸受メタルのクランク軸方向の大きさと、上記クランクピン側軸受メタルのクランク軸方向の大きさとが互いに異なるようにすることで、上記クランクジャーナル側軸受メタルと上記クランクピン側軸受メタルとが、外観で判別しやすくなり、組み付け時の間違いを防止することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明のエンジンの回転部支持構造によると、エンジンの燃焼サイクルにおける爆発行程において、クランクピンに荷重がかかる際に、クランクジャーナル側軸受メタルは、クラウニング部でクランクジャーナルにかかる荷重を受けることができるため、クランクジャーナル側軸受メタルにおける、クランク軸方向の端面と内周面との角部で上記荷重を受ける場合と比較して、クランクジャーナル側軸受メタルにかかる面圧が小さくなる。この結果、上記爆発行程における、クランクジャーナルに作用する摺動抵抗の増大を抑えることができる。また、クランクピン側軸受メタルについては、クラウニング部を形成しないか、又は、クランクジャーナル側軸受メタルに形成したクラウニング部よりも傾斜角度の小さいクラウニング部を形成することで、クランク軸方向に対して略垂直な方向にかかる荷重を受けるための面の面積を出来る限り広く確保することができる。これにより、上記爆発行程における、クランクピンに作用する摺動抵抗の増大についても抑えることができる。この結果、クランクジャーナル及びクランクピンに作用する摺動抵抗が、エンジンの燃焼サイクルにおける爆発行程において増大するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る回転部支持構造を有する多気筒エンジン(以下、エンジン2という)のクランク軸1を示す断面図である。このエンジン2は、4つの気筒3が互いに隣接して一列に配置された直列4気筒エンジンであり、自動車等の車両に搭載される。図示は省略するが、エンジン2の気筒列方向の一側(
図1の右側)には変速機が配設されており、クランク軸1の回転による出力は、該変速機によって所定の変速比でもって変換されて、車両の駆動輪に伝達されるようになっている。
【0034】
エンジン2は、シリンダブロック4と、シリンダブロック4の上部に組み付けられるシリンダヘッド(図示省略)と、シリンダブロック4の下部に組み付けられるオイルパン(図示省略)とによって構成されている。
【0035】
シリンダブロック4はアッパブロック4aとロアブロック4bとによって構成されている。アッパブロック4aの下面には、ロアブロック4aが取り付けられている。さらにロアブロック4bの下面には、上記オイルパンが取り付けられている。
【0036】
アッパブロック4aの上部には、4つの気筒3が互いに壁を隔てて一列に配設されており、各気筒3内には、気筒3の内周面を摺動可能に嵌挿されたピストン5及びピストン5とクランク軸1とを連結するためのコンロッド6がそれぞれ配設されている。
【0037】
また、アッパブロック4aの下部は、クランク室の上部を区画している。該クランク室の下部はロアブロック4bによって区画されている。すなわち、上記クランク室は、アッパブロック4aとロアブロック4bとが組み合わされることによって区画される。上記クランク室は、気筒列方向に互いに連通しており、上記クランク室内にクランク軸1が配設されている。
【0038】
クランク軸1は、シリンダブロック4及び軸受キャップ7に支持される複数(
図1では5つ)のクランクジャーナル11と、コンロッド6の大端部6aを支持する複数(
図1では4つ)のクランクピン21と、クランクジャーナル11及びクランクピン21を連結する複数(
図1では8つ)のクランクアーム31とを備えている。
【0039】
クランクジャーナル11は、クランク軸1において、クランク軸方向にそれぞれ等間隔に配置されている。具体的には、5つのクランクジャーナル11のうち2つは、クランク軸方向両端部に1つずつ配置され、該両端部のクランクジャーナル11の間に残り3つのクランクジャーナル11がクランク軸方向にそれぞれ等間隔に配置されている。クランクジャーナル11は、クランク軸1が上記クランク室に配設された状態で、上記クランク室における気筒列方向の両端の位置及び気筒3同士の間の壁に相当する位置にそれぞれ位置するようになっている。以下の説明において、5つのクランクジャーナル11を、上記変速機側(
図1の右側)から上記変速機とは反対側(
図1の左側)に向かって順番に、第1クランクジャーナル11a、第2クランクジャーナル11b、第3クランクジャーナル11c、第4クランクジャーナル11d及び第5クランクジャーナル11eという(尚、これらを区別しない場合には、単にクランクジャーナル11ということがある)。
【0040】
クランクジャーナル11は、
図2に示すように、クランク軸方向から見た断面が円状、すなわち、全体で円柱状をなしている。クランクジャーナル11は、アッパブロック4aの下端部と軸受キャップ7とに上下に挟まれるようにして、シリンダブロック4及び軸受キャップ7に支持されている。具体的には、アッパブロック4aの下端部には各クランクジャーナル11a〜11eに対応する位置に下端から上側に向かってに凹みかつクランク軸方向から見た形状が半楕円状をなしたブロック側軸受部12が形成される一方、軸受キャップ7の上端部には、上端から下側に向かって凹みかつクランク軸方向から見た形状が半楕円状をなした軸受キャップ側軸受部13が形成されている。各クランクジャーナル11a〜11eは、アッパブロック4aの下端部及び軸受キャップ7に上下に挟まれるようにして、ブロック側及び軸受キャップ側軸受部12,13に、クランクジャーナル側軸受メタル14を介して、回転可能にそれぞれ軸支されている。
【0041】
クランクジャーナル側軸受メタル14は、ブロック側軸受部12に取り付けられる半円筒状のブロック側軸受メタル14aと、軸受キャップ側軸受部13に取り付けられる半円筒状の軸受キャップ側軸受メタル14bと、を互いに上下に突き合わせ接合させてなる、円筒状をなした軸受メタルである。クランクジャーナル側軸受メタル14は、
図2に示すように、軸受キャップ7がシリンダブロック4に取り付けられた状態では、ブロック側軸受メタル14aと軸受キャップ側軸受メタル14bとが互いに押し付け合うことで、上下方向に扁平した楕円筒状に変形する。このとき、ブロック側及び軸受キャップ側軸受メタル14a,14bは、周方向の両端が楕円の長軸端となっている。すなわち、軸受キャップ7がシリンダブロック4に取り付けられた状態で、クランクジャーナル側軸受メタル14における、クランク軸方向から見た内周面の形状は、上下方向が楕円の短軸、上下方向及びクランク軸方向に垂直な方向が楕円の長軸となる楕円形状をなしている。
【0042】
クランクジャーナル側軸受メタル14が、上述のような形状に変形することで、クランクジャーナル11とクランクジャーナル側軸受メタル14との接触面積が減少して、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗を減少させる効果を得ることができる。尚、詳しくは後述するが、このクランクジャーナル側軸受メタル14におけるブロック側軸受メタル14aには、クランクジャーナル11とクランクジャーナル側軸受メタル14との間に潤滑油としてのオイルを供給するためのオイル溝15が形成されている一方、クランクジャーナル側軸受メタル14における軸受キャップ側軸受メタル14bには、エンジン2の燃焼サイクルにおける爆発行程(以下、単に爆発行程という)において、クランクジャーナル11に荷重がかかる際に、該荷重を受け止めるためのクラウニング部17が形成されている。
【0043】
また、クランクジャーナル側軸受メタル14が、エンジン2に配設された状態で楕円筒状をなしていることから、クランクジャーナル側軸受メタル14がクランクジャーナル11の周囲に配置された状態で、クランクジャーナル側軸受メタル14とクランクジャーナル11との間には、隙間ができるようになっている。詳しくは後述するが、クランクジャーナル側軸受メタル14の内周面側に供給されたオイルは、上記隙間を伝ってクランクジャーナル11の周囲全体に広がって、クランクジャーナル側軸受メタル14の内周面に、クランクジャーナル11の潤滑のための油膜を形成するようになっている。
【0044】
クランクピン21は、クランク軸1における隣接するクランクジャーナル11同士の間にそれぞれ位置している。各クランクピン21は、クランク軸1が上記クランク室に配設された状態で、各気筒3の下方にそれぞれ位置する。各クランクピン21は、各気筒3にそれぞれ設けられたピストン5とコンロッド6を介してそれぞれ接続されている。以下の説明において、4つのクランクピン21を、上記変速機側(
図1の右側)から上記変速機とは反対側(
図1の左側)に向かって順番に、第1クランクピン21a、第2クランクピン21b、第3クランクピン21c及び第4クランクピン21dという(尚、これらを区別しない場合には、単にクランクピン21ということがある)。
【0045】
クランクピン21は、
図3に示すように、クランク軸方向から見た断面が円状、すなわち全体で円柱状をなしている。クランクピン21は、各コンロッド大端部6aにそれぞれ回転可能に連結されている。各コンロッド小端部(図示省略)は、各気筒3内にそれぞれ嵌挿されたピストン5にそれぞれ接続されている。エンジン2の燃焼サイクルによって、ピストン5が気筒3内を往復運動すると、該往復運動に応じて、クランクピン21が、クランク軸1の軸心(すなわち、クランクジャーナル11の軸心)周りに回転する。これにより、ピストン5の往復運動が、クランク軸1の回転運動に変換される。本実施形態では、爆発行程は、二気筒以上で同時に行われることはなく、一気筒ずつ順次行われるため、各気筒3における爆発行程のタイミングに合うように、各クランクピン21a〜21dは、それぞれクランクジャーナル11の周方向に所定の角度ずつずれて配置されている。
【0046】
コンロッド6は、
図3に示すように、コンロッド本体60とキャップ61とを有している。詳しくは、各コンロッド本体60の下端部(すなわち、反ピストン側の端部)とキャップ61とでコンロッド大端部6aが構成されており、各コンロッド本体60の下端部とキャップ61とで各クランクピン21a〜21dを挟むようにして、各コンロッド大端部6aが各クランクピン21a〜21dとそれぞれ連結されている。具体的には、コンロッド本体60の下端部には、上記小端部側に向かって凹みかつクランク軸方向から見た形状が半楕円状をなしたロッド側軸受部22が形成される一方、及びキャップ61にはコンロッド本体60側からコンロッド本体60とは反対側に向かって凹みかつクランク軸方向から見た形状が半楕円状をなしたキャップ側軸受部23が形成されており、ロッド側及びキャップ側軸受部22,23に、クランクピン側軸受メタル24を介して、クランクピン21を配置させ、キャップ61をコンロッド本体60に固定することで、各コンロッド大端部6aが各クランクピン21a〜21dにそれぞれ取り付けられる。
【0047】
クランクピン側軸受メタル24は、ロッド側軸受部22に取り付けられる半円筒状のロッド側軸受メタル24aと、キャップ側軸受部23に取り付けられる半円筒状のキャップ側軸受メタル24bと、を互いに上下に突き合わせ接合させてなる円筒状をなした軸受メタルである。クランクピン側軸受メタル24は、
図3に示すように、キャップ61がコンロッド本体60の下端部に取り付けられた状態では、ロッド側軸受メタル24aとキャップ側軸受メタル24bとが互いに押し付け合うことで、上下方向に扁平した楕円筒状に変形する。このとき、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bは、周方向の両端が楕円形の長軸端となっている。すなわち、クランクピン側軸受メタル24における、クランク軸方向から見た内周面の形状は、キャップ61がコンロッド本体60の下端部に取り付けられた状態で、上下方向が楕円の短軸、上下方向及びクランク軸方向に垂直な方向が楕円の長軸となる楕円形状をなしている。クランクピン側軸受メタル24が、上述のような形状に変形することで、クランクピン21とクランクピン側軸受メタル24との接触面積が減少して、クランクピン21に作用する摺動抵抗を減少させる効果を得ることができる。尚、クランクピン側軸受メタル24のその他の詳細な構造については後述する。
【0048】
クランクアーム31は、クランクジャーナル11の端部と、クランクピン21における、上記クランクジャーナル11の端部に近い側の端部とをそれぞれ連結させて(例えば、第1クランクジャーナル11aについては、第1クランクピン21aにおける第1クランクジャーナル11a側の端部とを連結させて)、クランク軸1として一体回転するようにする部分である。以下の説明において、8つのクランクアーム31を、上記変速機側(
図1の右側)から上記変速機とは反対側(
図1の左側)に向かって順番に、第1クランクアーム31a、第2クランクアーム31b、第3クランクアーム31c、第4クランクアーム31d、第5クランクアーム31e、第6クランクアーム31f、第7クランクアーム31g及び第8クランクアーム31hという(尚、これらを区別しない場合には、単にクランクアーム31ということがある)。
【0049】
各クランクアーム31a〜31hは、各クランクピン21a〜21dがクランクジャーナル11の周方向に対して所定の角度ずつずれて配置されるように、各クランクジャーナル11a〜11eと各クランクピン21a〜21dとを連結させている。
【0050】
また、
図1に示すように、第1、第3、第6及び第8クランクアーム31a,31c,31f,31h内には、後述するクランクピン側連通油路55がそれぞれ形成されている。
【0051】
次に、
図1〜
図4を参照しながら、クランクジャーナル側軸受メタル14及びクランクピン側軸受メタル24に潤滑油としてのオイルを供給する経路について説明する。
【0052】
図4は、クランクジャーナル側軸受メタル14へ潤滑油を供給するためのオイル供給路40を示す。オイル供給路40は、シリンダブロック4を気筒列方向に延びるメインギャラリ51と、メインギャラリ51から5つのクランクジャーナル側軸受メタル14へそれぞれ延び、各クランクジャーナル側軸受メタル14へオイルをそれぞれ供給するための5つのクランクジャーナル側連通油路52とが設けられている。クランクジャーナル側連通油路52は、
図2及び
図4に示すように、クランクジャーナル側軸受メタル14のブロック側軸受メタル14aに接続されている。
【0053】
ブロック側軸受メタル14aには、クランクジャーナル側連通油路52を通ってきたオイルを、クランクジャーナル11とクランクジャーナル側軸受メタル14との間に流入させるための給油孔53が穿設されている。また、ブロック側軸受メタル14aにおけるクランク軸方向中央部には、ブロック側軸受メタル14aの全周にわたってオイル溝15が形成されている。給油孔53はオイル溝15に形成されており、給油孔53から流入したオイルは、先ず、オイル溝15内に広がる。上述したように、クランクジャーナル11とクランクジャーナル側軸受メタル14との間には隙間があるため、オイル溝15内に広がったオイルは、上記隙間へと流れ込む。上記隙間へと流れ込んだオイルは、クランクジャーナル11の回転によって引き込まれて、クランクジャーナル11と軸受キャップ側軸受メタル14bとの間全体に広がる。
【0054】
また、
図2に示すように、第1、第2、第4及び第5クランクジャーナル11a,11b,11d,11e(
図2では、第2クランクジャーナル11bのみを記載)には、クランクジャーナル11の径方向に穿設されたクランクジャーナル側分岐油路54が設けられている。このクランクジャーナル側分岐油路54は、クランクジャーナル側軸受メタル14に供給されたオイルの一部が流入する油路である。さらに、クランクジャーナル側分岐油路54には、隣接するクランクピン21に向かって、隣接するクランクアーム11を貫通して延びるクランクピン側連通油路55が接続されている。クランクピン側連通油路55は、クランクジャーナル側分岐油路54に流入したオイルをクランクピン側軸受メタル24側へ供給するための油路である。
【0055】
本実施形態では、クランクピン側連通油路55は、隣接するクランクアーム31(例えば、第1クランクジャーナル11aから延びるクランクピン側連通油路55の場合は、第1クランクアーム31a)を貫通して、隣接するクランクピン21(例えば、第1クランクジャーナル11aから延びるクランクピン側連通油路55の場合は、第1クランクピン21a)を斜めに貫通した後、隣接するクランクピン21に対して上記隣接するクランクアーム31と反対側のクランクアーム31(例えば、第1クランクジャーナル11aから延びるクランクピン側連通油路55の場合は、第2クランクアーム31b)を貫通してクランク軸1の外部に臨んでいる。クランクピン側連通油路55におけるクランク軸1の外部に臨む位置には、シール部材57が設けられている。
【0056】
また、クランクピン側連通油路55における、クランクピン21に対応する位置からは、クランクピン21の軸心から径方向に穿設されたクランクピン側分岐油路56が延びている。クランクピン側分岐油路56は、クランクピン21の周面からクランクピン21の外部へ臨んでいる。
【0057】
例として、第1クランクジャーナル11a側から、第1クランクピン21a側にオイルが供給されるまでについて説明すると、先ず、第1クランクジャーナル11aに供給されたオイルが、第1クランクジャーナル11aのクランクジャーナル側分岐油路54に流入する。該クランクジャーナル側分岐油路54に流入したオイルは、接続されたクランクピン側連通油路55(第1クランクジャーナル11aから第1クランクピン21aへ向かって延びるクランクピン側連通油路55)に流入して、該クランクピン側連通油路55内を流れる。該クランクピン側連通油路55内を流れるオイルは、第1クランクピン21aのクランクピン側分岐油路56を通って、第1クランクピン21aと該第1クランクピン21aに設けられたクランクピン側軸受メタル24との間に供給される。供給されたオイルは、クランク軸1の回転やコンロッド6が第1クランクピン21aを摺動することで、上記クランクピン側軸受メタル24の内周面全体に広がり油膜を形成する。他の第2〜第4クランクピン21b〜21dに設けられたクランクピン側軸受メタル24も、同様にしてオイルが供給され、その内周面に油膜が形成される。
【0058】
尚、クランクピン11に作用する摺動抵抗を減らすためには、クランクピン側軸受メタル24に適切な厚さの油膜を形成する必要である。そして、適切な厚さの油膜を形成するためには、適切な油圧(油量)のオイルを供給する必要がある。この点について、本実施形態では、クランクピン側連通油路55におけるクランク軸1の外部に臨む位置には、シール部材57が設けられているため、クランクピン側連通油路55内を流れるオイルはクランク軸1の外部に流出することがなく、クランクピン側連通油路55内がオイルで満たされれば、油圧がかかるようになっている。そのため、クランクジャーナル側軸受メタル14に供給するオイルの油量を適切なものにすれば、クランクピン側軸受メタル24に適切な厚さの油膜を形成することが可能である。
【0059】
ここで、爆発行程では、燃料を燃焼させることによって、ピストン5を上死点から下死点まで一気に下降させるため、コンロッド6を介してピストン5と連結されたクランクピン21には、クランク軸方向と略垂直な方向に荷重がかかる。クランクピン21に荷重がかかるとクランクアーム31を介してクランクジャーナル11にも荷重がかかる。上述したように、本実施形態では、爆発行程は二気筒以上で同時に行われることはないため、クランクジャーナル11には、爆発行程が行われた気筒3側の部分にのみ荷重がかかることになる。すなわち、クランクジャーナル11における片側の部分のみに荷重がかかるため、クランクジャーナル11は、爆発行程が行われた気筒3のピストン5と接続されたクランクピン21に向かって下側に傾いた状態となる。つまり、クランクジャーナル側軸受メタル14は、軸心が下側に斜めに傾いた状態のクランクジャーナル11からの荷重を受けることになる。
【0060】
このとき、クランクジャーナル側軸受メタル14が、クランクジャーナル11からの荷重を適切に受けなければ、クランクジャーナル11からクランクジャーナル側軸受メタル14に過剰な面圧がかかってしまい、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗が増大するおそれがある。
【0061】
そこで、本実施形態では、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の両端面と内周面との角部に面取り部をそれぞれ設け、さらに、内周面のクランク軸方向両端部における該面取り部よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分に、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かってクランクジャーナル側軸受メタル14の内径を拡大させるように、上記面取り部よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部17をそれぞれ設けるようにしている。尚、以下の説明において、クランクジャーナル側軸受メタル14に形成された面取り部を第1の面取り部16という。
【0062】
具体的には、
図5に示すように、クランクジャーナル側軸受メタル14のブロック側及び軸受キャップ側軸受メタル14a,14bのクランク軸方向の両端面と内周面との角部に、ブロック側及びキャップ側軸受メタル14a,14bの全周に亘って第1の面取り部16を形成する。この第1の面取り部16は、例えばC面取りであって、傾斜角度は45°程度、クランク軸方向及び径方向の大きさは共に、200μm〜500μm程度である。さらに、軸受キャップ側軸受メタル14bには、内周面のクランク軸方向両端部における第1の面取り部16よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分に、軸受キャップ側軸受メタル14bの全周に亘って、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かってクランクジャーナル側軸受メタル14の内径を拡大させるように、第1の面取り部16よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部17を形成する。
【0063】
クラウニング部17は、その傾斜角度が、クランクジャーナル11が上記荷重によって下側に傾いた際に、上記荷重をクラウニング部17全体で受けることができる程度の角度となるように形成されている。具体的には、クラウニング部17は、クランク軸方向の大きさが3mm程度、クラウニング部17を形成したことによる内径の増大量の最大値(以下、クラウニング量という)が2〜4μm程度となるように形成されている。つまり、クラウニング部17は、約0.04°の傾斜角度で形成されている。すなわち、クラウニング部17の傾斜角度は、第1の面取り部16の傾斜角度の約1000分の1程度である。
【0064】
このようにクラウニング部17を形成することによって、クランクピン21に荷重がかかった時に、クランクジャーナル11が荷重のかかったクランクピン21に向かって下側に斜めに傾いたときには、クランクジャーナル側軸受メタル14は、クラウニング部17で、クランクジャーナル11からの荷重を受けることができる。すなわち、クランクジャーナル11がクランクピン21からの荷重によって斜めに傾いたときに、クランクジャーナル側軸受メタル14におけるクラウニング部17全体がクランクジャーナル11と油膜を介して接触することで、クランクジャーナル11にかかる荷重を受ける。換言すると、クラウニング部17がクランクジャーナル11にかかる荷重を受けるための面部としての役割を果たす。この結果、クランクジャーナル側軸受メタル14にクラウニング部17が形成されていない場合と比較して、クランクジャーナル側軸受メタル14にかかる面圧が低減される。この結果、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗の増大を抑えることができる。
【0065】
図7は、クラウニング量とクランクジャーナル11に作用する摺動抵抗との関係をシミュレーションにより算出した結果を示している。
図6において縦軸は、爆発行程において、クランクピン21に荷重が加えられたときに、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗の大きさを示し、横軸はクラウニング量を示している。尚、クランクジャーナル側軸受メタル14におけるクラウニング部17のクランク軸方向の大きさは3mmとしている。
【0066】
図7によると、クラウニング量が0、すなわち、クラウニング部17が形成されていない状態からクラウニング量を増大させていくと、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗が減少していく。これは、クラウニング部17を形成したことにより、クランクジャーナル側軸受メタル14にかかる面圧が減少するためである。そして、クラウニング量が2μmのときに上記摺動抵抗が最小となり、ここから、さらにクラウニング量を増大させていくと、クラウニング量が増大するにつれて摺動抵抗が増大する。これは、クラウニング量を増大させることによって、クラウニング部17よりもさらにクランク軸方向内側の部分、すなわち、加工を施していない平坦な部分(以下、平面部118という)とクラウニング部17とが切り換わる位置に僅かなエッジが形成され、爆発行程において、該僅かなエッジの部分に比較的大きな面圧がかかるためである。さらにクラウニング量を増大させていくと、上記平面部118とクラウニング部17との僅かなエッジの影響が大きくなって、クラウニング量が約4.5μmよりも大きいときには、クラウニング部17を形成しないときよりも摺動抵抗が大きくなる。
【0067】
すなわち、クラウニング部17のクラウニング量を2μm程度にすると、爆発行程における、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗の増大を抑えることができる。
【0068】
一方で、本実施形態では、
図7に示すようにクランクピン側軸受メタル24には、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bのクランク軸方向の両端面と内周面との角部に、第1の面取り部16と同程度の傾斜を有する面取り部(以下、第2の面取り部26という)のみをそれぞれ設け、クラウニング部17に相当する部分は形成しない。
【0069】
クランクピン側軸受メタル24は、クランクピン21とコンロッド本体60との間及びクランクピン21とキャップ61との間に設けられているため、爆発行程において、ピストン5上死点から下死点まで一気に下降したときには、クランクピン側軸受メタル24には、クランク軸方向に対して略垂直な方向(以下、単に略垂直方向という)に荷重がかかる。このとき、略垂直方向の荷重を受けるための面を出来る限り広く確保しておくことが望ましい。
【0070】
すなわち、クラウニング部17に相当する部分を形成すると、その部分を形成した分だけ、クランクピン側軸受メタル24における平坦な部分、つまり、略垂直方向の荷重を受けるための面の面積が減少することになる。この面の面積が減少すると、爆発行程でクランクピン21にかかる荷重により、クランクピン側軸受メタル24にかかる面圧が大きくなる。面圧が大きくなると、クランクピン側軸受メタル24とクランクピン21との間の油膜が切れやすくなる。そして、この油膜切れによってクランクピン21に作用する摺動抵抗が増大するおそれがある。
【0071】
そのため、本実施形態では、クランクピン側軸受メタル24については、上記面取り部と上記クラウニング部のうち、上記面取り部のみを形成し、上記クラウニング部を形成しないようにして、略垂直方向の荷重を受けるための面の面積を、爆発行程において油膜切れが発生しない程度に、出来る限り広くするようにしている。これにより、爆発行程において、クランクピン21にかかる荷重を、クランクピン側軸受メタル24で適切に受けることができ、クランクピン側軸受メタル24の油膜切れを防止することができる。この結果、爆発行程における、クランクピン21についても摺動抵抗の増大を抑えることができる。尚、以下の説明において、クランクピン側軸受メタル24における面取り部を第2面取り部26という。また、該第2の面取り部26は、第1の面取り部16と同様に、例えばC面取りであって、傾斜角は45°程度、クランク軸方向及び径方向の大きさは共に、200μm〜500μm程度である。
【0072】
さらに、本実施形態では、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさとクランクピン側軸受メタル24のクランク軸方向の大きさとが異なるようにしている。具体的には、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさが、クランクピン側軸受メタル24のクランク軸方向の大きさよりも大きくなるようにしている。
【0073】
上述したように、クランクジャーナル側軸受メタル14は、半円筒状のブロック側軸受メタル14aと半円筒状の軸受キャップ側軸受メタル14bとを組み合わせたものであり、クランクピン側軸受メタル24は、半円筒状のロッド側軸受メタル24aと半円筒状のキャップ側軸受メタル24bとを組み合わせたものである。このうち、ブロック側軸受メタル14aについては、クランク軸方向中央部に全周に亘ってオイル溝15が形成されているため、外観で判別可能であるが、他の軸受メタル14b、24a,24bについては、軸受キャップ側軸受メタル14aにクラウニング部17が形成されているものの、該クラウニング部17は、傾斜角度が0.04°程度であるため、外観では判別が困難である。もし、軸受キャップ側軸受メタル14bを、ロッド側又はキャップ側軸受メタル24a,24bと誤って取り付けてしまうと、クランクジャーナル11では、爆発行程において、クランクジャーナル11が傾いたときに第2の面取り部26と内周面との角部でクランクジャーナル11からの荷重を受けることになり、上記角部に過剰な面圧がかかる結果、摺動抵抗が増大する。一方で、クランクピン21でも、クラウニング部17が形成されている分だけ、爆発行程において、略垂直方向にかかる荷重を受けるための面の面積が減少しているため、爆発行程時に油膜切れが発生しやすくなり、摺動抵抗が増大するおそれがある。すなわち、クランクジャーナル11及びクランクピン21の両方において、爆発行程における、摺動抵抗の増大を抑制する効果が得られないばかりか、逆に摺動抵抗を増大させてしまうおそれがある。
【0074】
そこで、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさが、クランクピン側軸受メタル24のクランク軸方向の大きさよりも大きくなるようにすることで、クランクジャーナル側軸受メタル14とクランクピン側軸受メタル24、特に、軸受キャップ側軸受メタル14bと、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bとを外観で判別を可能にして、これらの軸受メタルを誤って取り付けてしまうのを防止している。
【0075】
次に、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,24の製造方法について説明する。
【0076】
先ず、帯状に加工された鉄合金等をプレス切断して板状にし、切断された金属板をプレス加工によって曲げて、半円筒状にする。
【0077】
半円筒状に曲げた後、半円筒状に曲げた金属板における軸方向の両端面と内周面との角部を削る面取り加工を行う。このとき、面取り加工は、例えばC面取りであって、傾斜角度が45°程度、軸方向の大きさ及び径方向の大きさは共に約200μm〜500μmになるように行う。これにより、第1及び第2の面取り部16,26がそれぞれ形成される。
【0078】
面取り加工の後は、ブロック側軸受メタル14aと、軸受キャップ側軸受メタル14bと、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bとで製法がそれぞれ異なる。
【0079】
先ず、ブロック側軸受メタル14aについて説明する。
【0080】
ブロック側軸受メタル14aは、面取り加工が終了した後、軸方向の中央かつ周方向の所定の部分にドリル等で給油孔53を空ける。
【0081】
給油孔53を形成した後は、周方向の両端部の一方に、径方向の外側に向かって突出する突出部18(
図4参照)を形成する。この突出部18は、ブロック側軸受メタル14aと軸受キャップ側軸受メタル14bとを突き合わせる際に用いられるものである。
【0082】
突出部18を形成した後は、オイル溝15を形成する。該オイル溝15は、給油孔53を通るように、軸方向の中央部分に周方向の全周に亘って形成される。
【0083】
オイル溝15を形成した後は肉厚加工を施し、その後、表面処理として表面にメッキを施す。これにより、ブロック側軸受メタル14aが完成する。尚、ブロック側軸受メタル14aにメッキを施すことなく、ブロック側軸受メタル14aを完成としてもよい。
【0084】
次に、軸受キャップ側軸受メタル14bについて説明する。
【0085】
軸受キャップ側軸受メタル14bは、面取り加工が終了した後、周方向の両端部の一方に、径方向の外側に向かって突出する突出部19(
図4参照)を形成する。このとき、該突出部19は、ブロック側軸受メタル14aと軸受キャップ側軸受メタル14bとを突き合わせる際に、ブロック側軸受メタル14aの突出部18とは軸方向にずれるような位置に形成される。
【0086】
突出部19を形成した後は、肉厚加工として、クラウニング部17を形成するクラウニング加工を行う。該クラウニング加工は、軸受キャップ側軸受メタル14bを所定の治具に固定した後、内周面の軸方向両端部にそれぞれ形成された第1の面取り部16よりも軸方向内側に位置する2つの部分を削ることによって行われる。クラウニング量は、2μm程度である。
【0087】
上記クラウニング加工後は、表面処理として表面にメッキを施す。これにより、軸受キャップ側軸受メタル14bが完成する。尚、軸受キャップ側軸受メタル14bにメッキを施すことなく、軸受キャップ側軸受メタル14bを完成としてもよい。
【0088】
次に、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bについて説明する。
【0089】
ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bは、面取り加工が終了した後、周方向の両端部の一方に、径方向の外側に向かって突出する突出部(図示省略)を形成する。このとき、ロッド側軸受メタル24aとキャップ側軸受メタル24bとを突き合わせる際に、互いの突出部がクランク軸方向にずれるように、それぞれ形成される。これにより、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bが完成する。尚、ロッド側軸受メタル24a及びキャップ側軸受メタル24bのそれぞれにメッキを施してから、ロッド側軸受メタル24a及びキャップ側軸受メタル24bをそれぞれ完成としてもよい。
【0090】
クランクジャーナル側軸受メタル14を、クランク軸1のクランクジャーナル11の位置に取り付けるときには、先ず、ブロック側軸受部12にブロック側軸受メタル14aを取り付ける一方、軸受キャップ側軸受部13に軸受キャップ側軸受メタル14bを取り付ける。そして、クランクジャーナル11を、アッパブロック4aの下端部と軸受キャップ7とで挟むように、軸受キャップ7をアッパブロック4aに取り付ける。このとき、ブロック側軸受メタル14aの突出部18がある側に、軸受キャップ側軸受メタル14bの突出部19が来るようにするとともに、ブロック側軸受メタル14aの周方向の両端部と軸受キャップ側軸受メタル14bの周方向の両端部とがそれぞれ互いに突き合わせられるように、それぞれの位置を合わせて取り付ける。その後、軸受キャップ7をボルトによって固定する。このとき、ブロック側及び軸受キャップ側軸受メタル14a,14bが互いに押し付け合うことで、
図2に示すように、クランクジャーナル側軸受メタル14が楕円筒状に変形する。軸受キャップ7の取り付けが完了すれば、クランクジャーナル側軸受メタル14の取り付けが完了する。
【0091】
一方、クランクピン側軸受メタル24を、クランク軸1のクランクピン21の部分に取り付けるときには、先ず、ロッド側軸受部22にロッド側軸受メタル24aを取り付ける一方、キャップ側軸受部23にキャップ側軸受メタル24bを取り付ける。そして、クランク軸1のクランクピン21にコンロッド本体60の下端部を取り付けてで、クランクピン21を挟むようにキャップ61を取り付ける。このとき、ロッド側軸受メタル24aの突出部がある側に、キャップ側軸受メタル24bの突出部が来るように位置を合わせるとともに、ロッド側軸受メタル24aの周方向の両端部とキャップ側軸受メタル24bの周方向の両端部とがそれぞれ互いに突き合わせられるように、それぞれの位置を合わせてキャップ61を取り付ける。その後、キャップ61をボルトによって固定する。このとき、ロッド側及びキャップ側軸受メタル24a,24bが互いに押し付け合うことで、
図3に示すように、クランクピン側軸受メタル24が楕円筒状に変形する。キャップ61の取り付けが完了すれば、クランクピン側軸受メタル24の取り付けが完了する。
【0092】
したがって、実施形態1によると、クランクジャーナル側軸受メタル14は、クランク軸方向の両端面と内周面との角部にそれぞれ設けられた第1の面取り部16と、内周面のクランク軸両端部における第1の面取り部16よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれ設けられ、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かってクランクジャーナル側軸受メタル14の内径を拡大させるように、第1の面取り部16よりも小さい角度で傾斜したクラウニング部17とを有するため、クランクジャーナル側軸受メタル14は、爆発行程においてクランクジャーナル11に入力される荷重をクラウニング部17で受けることができ、該クラウニング部17が形成されていない場合と比較して、クランクジャーナル側軸受メタル14にかかる面圧が小さくなる。この結果、爆発行程における、クランクジャーナル11に作用する摺動抵抗の増大を抑えることができる。一方、クランクピン側軸受メタル24は、第2の面取り部26及びクラウニング部のうち、第2の面取り部26のみを有するため、クランクピン側軸受メタル24については、爆発行程において、略垂直方向にかかる荷重を受けるための面の面積を確保することができる。これにより、爆発行程における、クランクピン21に作用する摺動抵抗の増大についても抑えることができる。この結果、クランクジャーナル11及びクランクピン21に作用する摺動抵抗が、エンジン2の燃焼サイクルにおける爆発行程において増大をするのを抑制することができる。
【0093】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、実施形態2は、クランクピン側軸受メタル124の構成のみが実施形態1と異なっており、その他の部分については実施形態1と共通であるため、実施形態1と同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0094】
図8に、実施形態2に係るクランクピン側軸受メタル124を径方向に沿って切った断面を示す。
【0095】
実施形態1では、クランクピン側軸受メタルには、第2の面取り部26及びクラウニング部のうちの第2の面取り部26のみを有していたが、実施形態2では、クランクピン側軸受メタル124、特にキャップ側軸受メタル124bの内周面のクランク軸方向両端部における第2の面取り部26よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分に、第2の面取り部26よりも小さい角度で、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かってクランクピン側軸受メタル24の内径を拡大させるように傾斜したクラウニング部(以下、第2のクラウニング部127という)がそれぞれ形成されている。また、第2のクラウニング部127の傾斜角度は、爆発行程において、クランクピン121に荷重がかかった際に、クランクピン21に生じるブレを吸収できる程度の角度となっている。詳しくは、第1のクラウニング部17の傾斜角度よりも小さくなるようになっている。さらに詳しくは、第2のクラウニング部127は、クラウニング量(すなわち、第2のクラウニング部127を形成したことによる内径の増大量の最大値)が、第1のクラウニング部17のクラウニング量の半分以下になるように形成されている。
【0096】
実施形態1で説明したように、クランクピン側軸受メタル21には、爆発行程において、略垂直方向に荷重がかかる。このとき、略垂直方向から若干傾いて荷重がかかることがあり、このように荷重のかかる方向が傾くと、クランクピン21がクランクピン側軸受メタル24に対して傾いた状態で、該クランクピン21がクランクピン側軸受メタル24に対して摺動することとなる。この場合、第2の面取り部26と内周面との角部で上記荷重を受けるようになる。この結果、上記内周面における平坦な部分(以下、平面部128という)で上記荷重を受ける場合と比較して摺動面積が減少するため、クランクピン21に作用する摺動抵抗が増大するおそれがある。そのため、クランクピン側軸受メタル21には、上述のような場合であっても、摺動抵抗の増大を抑制可能な形状を設けておくことが望ましい。
【0097】
しかしながら、実施形態1で述べたように、クランクピン側軸受メタル124にクラウニング部を形成すると、平面部128の面積が減少するため、爆発行程において、クランクピン21からクランクピン側軸受メタル24に対して垂直に上記荷重が入力された際に、クランクピン側軸受メタル124にかかる荷重による面圧が高くなり、クランクピン側軸受メタル124が油膜切れを発生させる問題がある。この点について、以下に
図9を参照しながら説明する。
【0098】
図9には、第2のクラウニング部127のクラウニング量とクランクピン21に作用する摺動抵抗との関係をシミュレーションにより算出した結果を示している。
図9において縦軸は、爆発行程において、クランクピン21に荷重が加えられたときに、該クランクピン11に作用する摺動抵抗の大きさを示し、横軸はクラウニング量を示している。尚、第2のクラウニング部127のクランク軸方向の大きさは3mmとしている。
【0099】
図9によると、クラウニング量が0、すなわち、第2のクラウニング部127が形成されていない状態からクラウニング量を増加させていくと、クランクピン21に作用する摺動抵抗が減少する。これは、第2のクラウニング部127を形成したことにより、クランクピン21のブレが吸収されるためである。そして、クラウニング量が1μmのときに上記摺動抵抗が最小となり、ここからさらにクラウニング量を増大させていくと、クラウニング量が増大するにつれて摺動抵抗が増大する。これは、クラウニング量が1μm程度の場合は、第2のクラウニング部127の傾斜角度は0.02°程度であり、平坦に近い形状であることから、第2のクラウニング部127でも、略垂直方向にかかる荷重を受けることができ、該荷重による面圧が油膜切れを発生させるほどの大きさにならないためである。一方で、クラウニング量を1μmよりも増大させていくと、第2のクラウニング部127の傾斜が大きすぎて、該第2のクラウニング部127では略垂直方向にかかる荷重を受けにくくなる。すなわち、該荷重を面積の減少した平面部128のみで受けることとなり、クランクピン側軸受メタル124に油膜切れが発生する可能性が上昇する。そして、クラウニング量が約2μmよりも大きいときには、第2のクラウニング部127を形成しないときよりもクランクピン21に作用する摺動抵抗が大きくなる。これは、クラウニング量が約2μmよりも大きくなると、第2のクラウニング部127では、略垂直方向にかかる荷重を吸収できなくなり、該荷重による面圧によって、クランクピン側軸受メタル124に油膜切れが発生してしまうためである。
【0100】
すなわち、第2のクラウニング部127のクラウニング量が1μm程度、つまり、第1のクラウニング部17よりも小さいクラウニング量、具体的には、第1のクラウニング部17の半分程度のクラウニング量であれば、クランクピン側軸受メタル124に油膜切れが発生する可能性が小さいため、爆発行程における、クランクピン21に作用する摺動抵抗の増大を抑えることができる。
【0101】
これにより、クランクジャーナル11に加えて、クランクピン21に作用する摺動抵抗の増大について、より確実に抑えることができる。
【0102】
また、実施形態2においても、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさが、クランクピン側軸受メタル24のクランク軸方向の大きさよりも大きくなるようにしている。
【0103】
実施形態2では、クランクジャーナル側軸受メタル14及びクランクピン側軸受メタル124の両方にクラウニング部を設けているため、実施形態1のときよりも、さらに両者を判別しにくくなっている。そこで、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさが、クランクピン側軸受メタル124のクランク軸方向の大きさよりも大きくなるようにすることで、クランクジャーナル側軸受メタル14とクランクピン側軸受メタル124とを誤って取り付けてしまうのを防止している。
【0104】
尚、クランクピン側軸受メタル124に第2のクラウニング部127を形成するため、クランクピン側軸受メタル124、特にキャップ側軸受メタル124bの製造方法は実施形態1とは異なる。具体的には、軸受キャップ側軸受メタル14bと同様に、突出部を形成した後に、肉厚加工として、第2のクラウニング部127を形成するクラウニング加工を行う。このときのクラウニング加工についても、軸受キャップ側軸受メタル14bと同様に、キャップ側軸受メタル124bを所定の治具に固定した後、第2の面取り部26よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分を削ることによって形成される。ただし、クラウニング量は、1μm程度の大きさである。これにより、キャップ側軸受メタル124bが完成する。尚、クラウニング加工の後に、キャップ側軸受メタル124bにメッキを施すようにしてもよい。
【0105】
その他、クランクピン側軸受メタル124のクランクピン21への取り付け等は、実施形態1と同様である。
【0106】
したがって、実施形態2では、クランクピン側軸受メタル124は、クランク軸方向の両端面と内周面との角部に設けられかつ第1の面取り部16と同等の角度で傾斜した第2の面取り部26と、内周面のクランク軸方向両端部における第2の面取り部26よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分にそれぞれ設けられ、第2の面取り部26よりも小さい角度で、クランク軸方向内側からクランク軸方向外側に向かってクランクピン側軸受メタル124の内径を拡大させるように傾斜した第2のクラウニング部127とを有し、第2のクラウニング部127における傾斜角度は、第1のクラウニング部17における傾斜角度よりも小さいため、実施形態1と同様の効果を得ることができるとともに、爆発行程における、クランクピン21に作用する摺動抵抗の増大をより確実に抑えることができる。
【0107】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0108】
例えば、上述の実施形態では、クランクジャーナル側軸受メタル14及びクランクピン側軸受メタル124の両方とも、内周面のクランク軸方向内側における第1及び第2の面取り部16,26よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分の両方にそれぞれクラウニング部が設けられていたが、これに限らず、内周面のクランク軸方向内側における第1及び第2の面取り部16,26よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分のうちの一方にのみ設けるようにしてもよい。特に、第1クランクジャーナル11a及び第5クランクジャーナル11eについては、クランク軸方向一側、具体的には、隣接する気筒3側にしか荷重がかからないため、第1クランクジャーナル11a及び第5クランクジャーナル11eに設けられているクランクジャーナル側軸受メタル14については、上記隣接する気筒3側にのみクラウニング部を設けるようにしてもよい。クラウニング部は精密な加工が求められるため、クラウニング部を設ける部分を減少させることで、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,124の製造を容易にすることができる。また、クラウニング部を設けるために必要な加工費用についても抑えることができる。
【0109】
また、上述の実施形態では、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,24のうち、下側に位置する軸受メタルである軸受キャップ側軸受メタル14b及びキャップ側軸受メタル24bにのみクラウニング部を形成していたが、これに限らず、上側に位置する軸受メタルであるブロック側軸受メタル14a及びロッド側軸受メタル24aにもクラウニング部を形成するようにしてもよい。この場合、ブロック側軸受メタル14a及びロッド側軸受メタル24aのクラウニング部も、軸受キャップ側軸受メタル14b及びキャップ側軸受メタル24bのクラウニング部(すなわち、第1及び第2のクラウニング部17,127)と同様に、内周面のクランク軸方向両端部における第1及び第2の面取り部16,26よりもクランク軸方向内側に位置する2つの部分にそれぞれ形成する。これにより、爆発行程において、クランクジャーナル11では、ブロック側軸受メタル24aも、爆発行程におけるクランクジャーナル11が下側に傾いた状態に適応した形状となり、クランクピン21では、ロッド側軸受メタル24aでも、爆発行程におけるクランクピン21のブレを吸収することができるため、クランクジャーナル11及びクランクピン21に作用する摺動抵抗が、爆発行程において増大するのをより確実に抑えることができる。
【0110】
さらに、上述の実施形態では、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさが、クランクピン側軸受メタル24(124)のクランク軸方向の大きさよりも大きくなるようにしているが、これに限らず、クランクピン側軸受メタル24(124)のクランク軸方向の大きさが、クランクジャーナル側軸受メタル14のクランク軸方向の大きさよりも大きくなるようにしてもよい。さらに、クランク軸方向の大きさを変える方法以外の方法によって、クランクジャーナル側軸受メタル14とクランクピン側軸受メタル24(124)とを判別する場合には、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,24(124)のクランク軸方向の大きさを同じにするようにしてもよい。
【0111】
また、上述の実施形態では、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,24(124)はともに、エンジン1に配設されていない状態では円筒状である一方、エンジン1に配設された状態では楕円筒状であったが、これに限らず、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,24の一方又は両方が、エンジン1に組み付けられていない状態で楕円筒状であってもよい。
【0112】
さらに、上述の実施形態では、クランクジャーナル側及びクランクピン側軸受メタル14,24(124)は、それぞれ、円筒状であったが、これに限らず、クランク軸方向から見た内周面の形状が、円形又は楕円形であれば、外周面の形状としては任意の形状を採用することができる。
【0113】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。