(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6233453
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】タイヤの内面への吸音材の取付け方法および装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/06 20060101AFI20171113BHJP
B60C 5/00 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
B29D30/06
!B60C5/00 F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-112406(P2016-112406)
(22)【出願日】2016年6月6日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸久
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−260255(JP,A)
【文献】
特開2008−074013(JP,A)
【文献】
特開2008−254339(JP,A)
【文献】
特開2008−246868(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0073717(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音材の一方面と加硫済のタイヤの内面との間に接着剤を介在させた状態で前記吸音材を配置し、前記タイヤの内部に配置した膨脹収縮可能な袋体を膨脹させて、この膨脹させた袋体により、前記吸音材の他方面を押圧して前記一方面を前記接着剤を介して前記タイヤの内面に接合することを特徴とするタイヤの内面への吸音材の取付け方法。
【請求項2】
膨脹させた前記袋体により前記吸音材の他方面を押圧して前記一方面を前記タイヤの内面に接合させている状態を所定時間維持する請求項1に記載のタイヤの内面への吸音材の取付け方法。
【請求項3】
前記袋体に温度30℃以上60℃以下の流体を注入して膨脹させる請求項1または2に記載のタイヤの内面への吸音材の取付け方法。
【請求項4】
前記タイヤを横置き状態で設置する請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤの内面への吸音材の取付け方法。
【請求項5】
加硫済のタイヤが設置される設置台と、前記タイヤの内部と外部の間を移動する膨脹収縮可能な袋体と、前記袋体に注入路を通じて流体を注入する注入機とを備えて、
前記設置台に設置された前記タイヤの内面に一方面を対向させて吸音材を配置して前記一方面と前記タイヤの内面との間に接着剤を介在させた状態で、前記タイヤの内部で前記袋体を膨脹させて、この膨脹させた袋体により前記吸音材の他方面を押圧して前記一方面を前記接着剤を介して前記タイヤの内面に接合させる構成にしたことを特徴とするタイヤの内面への吸音材の取付け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの内面への吸音材の取付け方法および装置に関し、さらに詳しくは、吸音材およびタイヤに対する負荷を軽減しつつ、接合ムラを低減して吸音材をタイヤの内面に取付けることができるタイヤの内面への吸音材の取付け方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤ騒音を低減させるために、タイヤの内面にスポンジ等の吸音材を取付けたタイヤが登場している。吸音材をタイヤの内面に取付ける方法は種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている方法では、接着面をタイヤの内面に対向させた吸音材の上に貼付けローラを押圧して転動させることにより、吸音材をタイヤの内面に取付ける。
【0003】
しかしながら、吸音材にローラを押圧して転動させる方法では、ローラが直接接触する吸音材には過大な負荷がかかることがあり、接合ムラを低減することも難しい。また、何らかの理由で、ローラがタイヤの内面に直接接触した場合にはタイヤの内面が損傷することも懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−168243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吸音材およびタイヤに対する負荷を軽減しつつ、接合ムラを低減して吸音材をタイヤの内面に取付けることができるタイヤの内面への吸音材の取付け方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のタイヤの内面への取付け方法は、吸音材の一方面と
加硫済のタイヤの内面との間に接着剤を介在させた状態で前記吸音材を配置し、前記タイヤの内部に配置した膨脹収縮可能な袋体を膨脹させて、この膨脹させた袋体により、前記吸音材の他方面を押圧して前記一方面を前記接着剤を介して前記タイヤの内面に接合することを特徴とする。
【0007】
本発明のタイヤの内面への取付け装置は、
加硫済のタイヤが設置される設置台と、前記タイヤの内部と外部の間を移動する膨脹収縮可能な袋体と、前記袋体に注入路を通じて流体を注入する注入機とを備えて、前記設置台に設置された
前記タイヤの内面に一方面を対向させて吸音材を配置して前記一方面と前記タイヤの内面との間に接着剤を介在させた状態で、前記タイヤの内部で前記袋体を膨脹させて、この膨脹させた袋体により前記吸音材の他方面を押圧して前記一方面を前記接着剤を介して前記タイヤの内面に接合させる構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膨脹収縮可能な袋体を膨張させて吸音材の他方面を押圧する。この袋体は膨張収縮可能なので、ゴム等の伸縮性を有する材料で構成される。それ故、この膨張させた袋体によって吸音材の他方面を押圧しても、吸音材には過大な負荷がかかることはない。仮にこの袋体でタイヤの内面を押圧しても、タイヤが損傷することはない。したがって、取付け作業時の吸音材およびタイヤに対する負荷を軽減することができる。また、膨張させた袋体を用いると、ローラを用いる場合に比して、一度に広範囲を均一に押圧することができる。それ故、接合ムラを低減して吸音材をタイヤの内面に取付けることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の取付け装置を縦断面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の取付け装置を平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1の袋体をタイヤの内部に配置した状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図4】
図3の袋体を膨張させて吸音材をタイヤの内面に接合している状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図5】本発明の取付け装置の別の実施形態を縦断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のタイヤの内面への吸音材の取付け方法および装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1、
図2に例示する本発明のタイヤ内面への吸音材の取付け装置1(以下、取付け装置1という)は、吸音材10を加硫済のタイヤTの内面Sに取付ける際に使用する。この取付け装置1は、タイヤTが設置される設置台2と、膨脹収縮可能な袋体4と、袋体4に流体Fを注入する注入機7とを備えている。
【0012】
設置台2には、横置き状態のタイヤTを所定位置で保持する保持部3が設けられている。4つの保持部3の内、少なくとも2つが移動可能に設けられている。これにより、様々なサイズのタイヤTであっても、そのトレッド面に4つの保持部3を当接させて、タイヤTを所定位置で不動状態に保持することができる。保持部3の数や形状は適宜、決定することができる。
【0013】
袋体4は筒状であり、ゴムまたは、ゴムを主材料にして構成されていて収縮性を有している。袋体4の上端開口部および下端開口部にはそれぞれ、円盤状のクランプ部5が取り付けられている。それぞれのクランプ部5は、中心軸6に取り付けられていて、中心軸6の軸方向の互いの間隔が可変になっている。
【0014】
設置台2に対して中心軸6が軸方向に相対移動する。これにより、中心軸6とともに移動する袋体4は、設置台2に設置されたタイヤTの内部と外部の間を移動可能になっている。この実施形態では、静止している設置台2に対して中心軸6が近接および離反移動する構成になっている。
【0015】
袋体4の内部と注入機7とは注入路8aを介して接続されている。この実施形態では、注入路8aが中心軸6の内部に設けられている。中心軸6の内部には袋体4の内部と外部とを連通させる排出路8bも設けられている。注入路8aおよび排出路8bにはそれぞれ、開閉弁9a、9bが備わっている。
【0016】
注入機7から注入路8aを通じて袋体4の内部に注入される流体Fとしては、温水等の液体や、空気や窒素等の気体、スチーム等を例示できる。流体Fが注入されることにより袋体4は膨張し、その流体Fが排出路8bを通じて外部に排出されることにより収縮して中立状態に戻る。
【0017】
吸音材10は、例えば、樹脂やゴム等で形成された発泡体など、吸音性能を有する種々のものを採用することができる。この実施形態では、帯状の吸音材10がタイヤTの内面Sに取り付けられることにより、タイヤ周方向に連続して円筒状になる。吸音材10は、タイヤTの内面Sに取り付けられた際にタイヤ周方向に非連続であってもよい。
【0018】
吸音材10の一方面10aには接着剤11からなる接着層が備わっていて、他方面10bは非接着層である。接着剤11は、吸音材10の一方面10aに予め一体化されたものでなくてもよい。
【0019】
以下、取付け装置1を用いて、吸音材10をタイヤTの内面Sに取付ける方法を具体的に説明する。
【0020】
まず、
図1、
図2に例示するように、設置台2にタイヤTを横置き状態で設置する。このタイヤTを保持部3によって所定位置に固定する。タイヤTの内部に手作業または機械等を用いて吸音材10を挿入する。これにより、吸音材10の一方面10aとタイヤTの内面Sとの間に接着剤11を介在させた状態で吸音材10を配置する。この実施形態では、表面に接着剤11からなる接着層が設けられている一方面10aを、タイヤTのトレッド面に対応する内面Sに対向させて、帯状の吸音材10がタイヤ周方向に延在して円筒状になって配置されている。
【0021】
接着剤11を一体的に有していない吸音材10を用いる場合は、タイヤTの内面Sに接着剤11を塗布して、吸音材10の一方面10aをタイヤTの内面Sに対向させることにより、一方面10aとタイヤTの内面Sとの間に接着剤11を介在させた状態にして吸音材10を配置する。
【0022】
次いで、
図3に例示するように、中心軸6を移動させることにより袋体4をタイヤTの外部から内部に移動させる。ここで、クランプ部5どうしの間隔を狭くして、例えば、それぞれのクランプ部5をタイヤTの内部に位置させる。
【0023】
次いで、
図4に例示するように、開閉弁9aを開弁した注入路8aを通じて、注入機7から供給した流体Fを袋体4の内部に注入する。これにより、収縮状態の袋体4が膨張してタイヤTの内面Sの全範囲に密着するような状態になる。そのため、膨脹した袋体4が吸音材10の他方面10bを押圧して、一方面10aを接着剤11を介してタイヤ10の内面Sに接合させる。
【0024】
従来のように金属等の剛体で構成されたローラで吸音材10を押圧すると、吸音材10には過大な負荷がかかることがある。しかし、本発明では、ゴム等で構成された膨脹収縮可能な袋体4を膨張させて吸音材10の他方面10bを押圧するので、押圧された吸音材10には過大な負荷がかかることはない。
【0025】
また、従来のようにローラを用いると、不用意にローラでタイヤTの内面Sを直接押圧した場合に、剛体のローラによって内面Sが損傷する可能性がある、しかし、本発明では、仮にこの膨張させた袋体4がタイヤTの内面Sを直接押圧したとしても、その内面Sが損傷することはない。したがって、取付け作業時の吸音材10およびタイヤTに対する負荷を軽減することができる。
【0026】
加えて、膨張させた袋体4を用いると、従来のようにローラを用いて吸音材10を押圧する場合に比して、一度に広範囲を均一に押圧することができる。それ故、接合ムラを低減して吸音材10をタイヤTの内面Sに取付けることが可能になる。
【0027】
膨張させた袋体4は、タイヤTの内面Sの形状に沿って変形するので、タイヤTの内面Sの形状に追従させて吸音材10を接合させ易くなるというメリットもある。これにより、タイヤTのトレッド面に対応する内面Sだけでなく、タイヤTの内面Sの任意の領域であっても、膨張させた袋体4によって吸音材10の一方面10aを概ね均一に押圧することが可能になる。
【0028】
膨張させた袋体4は、例えば、そのままの状態で所定時間維持する。その後、開閉弁9bを開弁した排出路8bを通じて、袋体4の内部に注入された流体Fを排出して袋体4を収縮させる。次いで、この袋体4をタイヤTの内部から外部に移動させる。
【0029】
膨脹させた袋体4で吸音材10の一方面10aをタイヤTの内面Sに接合させている状態を所定時間維持するとよい。これにより、吸音材10をより確実、強固にタイヤTの内面Sに接合させ易くなる。この所定時間は例えば、1分以上5分以下、好ましくは2分以上である。この所定時間が1分未満であると、吸音材10を強固にタイヤTの内面Sに接合させ難くなり、5分超にしても、この接合具合はあまり変わらず、生産性悪化の要因になる。
【0030】
袋体4に注入する流体Fの温度は例えば30℃以上60℃以下にするとよい。流体Fの温度を常温よりも高めにすることで、膨張させた袋体4が加温され、これに伴い、吸音材10を押圧した際に、接着剤11が加温されて活性化し、吸音材10をより強固にタイヤTの内面Sに接合させ易くなる。ただし、流体Fの温度が60℃超になると、接着剤11の流動性が高くなり過ぎて吸音材10を強固にタイヤTの内面Sに接合させるには不利になる。
【0031】
この実施形態では、タイヤTを横置き状態で設置台2に設置している。タイヤTは縦置き状態よりも横置き状態の方が安定しているので、吸音材10の取り付け作業を行い易い。
【0032】
図5に例示する実施形態のように、タイヤTは縦置き状態で設置台2に設置することもできる。この実施形態の取付け装置1は、先の実施形態とタイヤTの設置方向が異なるだけでその他の構成は同じである。タイヤTを縦置き状態にする場合は、横置き状態にする場合に比して、例えば、設置台2に設置したタイヤTの中心位置の位置決めが容易に行える等のメリットがある。
【符号の説明】
【0033】
1 取付け装置
2 設置台
3 保持部
4 袋体
5 クランプ部
6 中心軸
7 注入機
8a 注入路
8b 排出路
9a、9b 開閉弁
10 吸音材
10a 一方面
10b 他方面
11 接着剤
F 流体
T タイヤ
S 内面
【要約】
【課題】吸音材およびタイヤに対する負荷を軽減しつつ、接合ムラを低減して吸音材をタイヤの内面に取付けることができるタイヤの内面への吸音材の取付け方法および装置を提供する。
【解決手段】吸音材10の一方面10aとタイヤTの内面Sとの間に接着剤11を介在させた状態で吸音材10を配置して、タイヤTの内部に配置した膨張収縮可能な袋体4を膨脹させて、吸音材10の他方面10bを膨張させた袋体4によって押圧することにより、一方面10aを接着剤11を介してタイヤTの内面Sに接合する。
【選択図】
図4