特許第6233492号(P6233492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6233492
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】排気浄化装置の再生制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/025 20060101AFI20171113BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20171113BHJP
   F01N 3/033 20060101ALI20171113BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20171113BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20171113BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20171113BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20171113BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F01N3/025 101
   F01N3/023 A
   F01N3/033 K
   F02D41/38 B
   F02D41/04 385Z
   F02D41/04 380Z
   F02D43/00 301H
   F02D43/00 301J
   F02D43/00 301R
   F02D43/00 301T
   F02D43/00 301W
   F02D23/00 N
   F02B37/00 302G
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-221701(P2016-221701)
(22)【出願日】2016年11月14日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】三村 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】氏原 健幸
(72)【発明者】
【氏名】森永 真一
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−184900(JP,A)
【文献】 特開2012−36760(JP,A)
【文献】 特開2003−206722(JP,A)
【文献】 特開2004−263578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/025
F01N 3/023
F01N 3/033
F02B 37/00
F02D 23/00
F02D 41/04
F02D 41/38
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを具備した排気浄化装置を有するターボ過給機付きエンジンの前記排気浄化装置の再生制御装置であって、
前記フィルタに捕集された粒子状物質を燃焼除去する再生制御を実行する再生制御部と、
前記再生制御の際に、前記ターボ過給機の過給圧が定常運転時よりも高い過給圧となるように、燃料のメイン噴射に続いて行われる燃料のポスト噴射の時期を進角させる制御を実行するポスト噴射制御部と、を含むことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
前記エンジンの吸気の過給圧を検出する過給圧検出部をさらに含み、
前記ポスト噴射制御部は、前記過給圧検出部による検出過給圧が予め設定された目標過給圧になるようにポスト噴射の時期を進角させる、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
前記ポスト噴射は、先行ポスト噴射とその後に行われる一乃至複数の後続ポスト噴射と含む複数段階のポスト噴射であり、
前記ポスト噴射制御部は、少なくとも先行ポスト噴射の時期を特定の時期に進角させ、そのときの前記検出過給圧が前記目標過給圧に達していない場合には、前記後続ポスト噴射のタイミングをさらに進角させる、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
前記ポスト噴射制御部は、前記ポスト噴射の時期を予め設定された上限値まで進角させたときの前記検出過給圧が前記目標過給圧に達していない場合には、前記ポスト噴射の噴射量を増加させる、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
前記ポスト噴射は、先行ポスト噴射とその後に行われる一乃至複数の後続ポスト噴射と含む複数段階のポスト噴射であり、
前記ポスト噴射制御部は、後続ポスト噴射の噴射量のみを増加させる、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
前記再生制御において前記フィルタが過昇温する可能性の有無を判定する過昇温判定部をさらに備え、
前記ポスト噴射制御部は、前記過昇温判定部により前記フィルタが過昇温する可能性があると判定された場合にのみポスト噴射の時期を進角させる制御を実行する、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
排気ガスの温度を検出する排気温度検出部および排気ガスの流量を検出する排気流量検出部をさらに含み、
前記過昇温判定部は、前記排気温度検出部による検出排気温度に基づき前記フィルタ内の温度上昇率を予測し、当該温度上昇率の予測値が閾値以上で、かつ、前記排気流量検出部による検出排気ガス流量が閾値以下である場合に前記フィルタが過昇温する可能性があると判定する、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の排気浄化装置の再生制御装置において、
前記排気浄化装置は、排気の流れ方向における前記フィルタの上流側に酸化触媒をさらに備え、
前記ポスト噴射は、前記メイン噴射後のエンジン出力に直接寄与しない時期に前記再生制御として行われる燃料噴射である、ことを特徴とする排気浄化装置の再生制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置を備えたターボ過給機付きエンジンを備える車両等における前記排気浄化装置の再生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンを備える車両等では、排気通路に再生可能なDPF(Diesel Particulate Filer)が備えられ、排気ガスに含まれる煤(粒子状物質)がこのDPF内のフィルタによって捕集される。そして、一定期間毎に(DPFに一定量以上の煤が捕集されると)、補足された煤を燃焼させる再生処理(強制再生)が実行され、これにより、DPFによる継続的な煤の捕集が可能となる。
【0003】
ところが、DPFに捕集された多くの煤が一度に燃焼してDPFの温度が急激に上昇すると、DPFの破損の原因となる虞がある。このような状況は、例えば再生処理が開始された直後に車両(エンジン)が急減速された場合などに発生し易い。つまり、減速によってDPFを通過する排気ガス流量が低下することでDPFの冷却効果が損なわれ、急激な温度上昇をもたらすのである。
【0004】
このような問題を解決すべく、例えば特許文献1には、ターボ過給機付きエンジンに関して、DPFの再生処理中にエンジンが所定の減速スピードに達した場合に、過給圧コントロール手段により意図的に吸気量を増加させ、これにより排気ガスの流量の低下を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−263578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、DPFによる煤の捕集量を高めて再生処理の回数を減らすことで、効率的にDPFを運用することに加え、車両の停止中など、アイドリング運転中のようなターボ過給機による過給圧がほとんど発生せず、排気ガス流量の極めて少ない運転状況下でDPFの再生処理を実行することが求められている。そのため、特許文献1のようなDPFの温度上昇を抑制可能な技術が益々必要となる。
【0007】
しかし、特許文献1の技術は、車両(エンジン)の減速中に吸気量を増加させるものである。しかも、特許文献1には、過給圧コントロール手段により吸気量を増加させる点について、過給圧制御定数を補正する旨の記載があるだけで具現化されたものとは言い難い。そのため、アイドリング運転中など、ターボ過給機による過給圧がほとんど発生せず、排気ガスの流量が極めて低い運転状況でDPFの再生処理が実行された場合に、当該DPFの急激な温度上昇を抑制し得るものとは言えない。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、アイドリング運転中などに排気浄化装置のフィルタ再生が行われる場合でも、フィルタの過昇温を効果的に抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを具備した排気浄化装置を有するターボ過給機付きエンジンの前記排気浄化装置の再生制御装置であって、前記フィルタに捕集された粒子状物質を燃焼除去する再生制御を実行する再生制御部と、前記再生制御の際に、前記ターボ過給機の過給圧が定常運転時よりも高い過給圧となるように、燃料のメイン噴射に続いて行われる燃料のポスト噴射の時期を進角させる制御を実行するポスト噴射制御部と、を含むものである。
【0010】
この構成によれば、フィルタの再生制御の際には、ポスト噴射の時期が進角されることにより、当該ポスト噴射による燃料の一部が燃焼してエンジンの排気エネルギーが増加し、ターボ過給機の過給圧(吸気圧)が定常運転時に比して高くなる。そのため、当該フィルタを通過する排気ガスの流量が増加し、フィルタの過昇温(温度上昇)が効果的に抑制される。
【0011】
上記再生制御装置においては、前記エンジンの吸気の過給圧を検出する過給圧検出部をさらに含み、前記ポスト噴射制御部は、前記過給圧検出部による検出過給圧が予め設定された目標過給圧になるようにポスト噴射の時期を進角させるものであってもよい。
【0012】
この構成によれば、実際の過給圧(検出過給圧)に基づきポスト噴射の時期が進角されるので、吸気の過給圧をより確実に目標過給圧まで高めることが可能となる。
【0013】
この場合、前記ポスト噴射が、先行ポスト噴射とその後に行われる一乃至複数の後続ポスト噴射と含む複数段階のポスト噴射であってもよい。この場合には、前記ポスト噴射制御部は、少なくとも先行ポスト噴射の時期を特定の時期に進角させ、そのときの前記検出過給圧が前記目標過給圧に達していない場合には、前記後続ポスト噴射のタイミングをさらに進角させるものであるのが好適である。
【0014】
この構成によれば、ポスト噴射による燃料がシリンダ壁を経由してエンジンオイルへ混入することによるオイルの希釈を抑制でき、また、エンジン出力に影響を与えることなく、エンジンの排気エネルギーを効果的に増加させることが可能となる。
【0015】
なお、上記再生制御装置において、前記ポスト噴射制御部は、前記ポスト噴射の時期を予め設定された上限値まで進角させたときの前記検出過給圧が前記目標過給圧に達していない場合には、前記ポスト噴射の噴射量を増加させるものであるのが好適である。
【0016】
この構成によれば、ポスト噴射の時期の進角とポスト噴射の噴射量の増加との相乗的な効果により、排気エネルギーをより効果的に増加させることが可能となる。
【0017】
この場合、前記ポスト噴射は、先行ポスト噴射とその後に行われる一乃至複数の後続ポスト噴射と含む複数段階のポスト噴射であり、前記ポスト噴射制御部は、後続ポスト噴射の噴射量のみを増加させるものであるのが好適である。
【0018】
この構成によれば、エンジン出力に影響を与えない範囲で燃料の噴射量を増量させてエンジンの排気エネルギーを増加させることが可能となる。
【0019】
なお、上記再生制御装置においては、前記再生制御において前記フィルタが過昇温する可能性の有無を判定する過昇温判定部をさらに備え、前記ポスト噴射制御部は、前記過昇温判定部により前記フィルタが過昇温する可能性があると判定された場合にのみポスト噴射の時期を進角させる制御を実行するものであるのが好適である。
【0020】
この構成によれば、フィルタが過昇温する可能性があると判定された場合にのみ、燃料のポスト噴射の時期が進角されるので、エンジン出力に寄与しない燃料の消費、及びエンジンオイルへの燃料の混入によるオイルの希釈を抑制することが可能となる。
【0021】
より具体的には、排気ガスの温度を検出する排気温度検出部および排気ガスの流量を検出する排気流量検出部をさらに含み、前記過昇温判定部は、前記排気温度検出部による検出排気温度に基づき前記フィルタ内の温度上昇率を予測し、当該温度上昇率の予測値が閾値以上で、かつ、前記排気流量検出部による検出排気ガス流量が閾値以下である場合に前記フィルタが過昇温する可能性があると判定する。
【0022】
この構成によれば、フィルタが過昇温する可能性が有るか否かを精度よく判定することが可能となる。
【0023】
なお、上記再生制御装置において、前記排気浄化装置は、排気の流れ方向における前記フィルタの上流側に酸化触媒をさらに備え、前記ポスト噴射は、前記メイン噴射後のエンジン出力に直接寄与しない時期に前記再生制御として行われる燃料噴射である。
【0024】
この構成によれば、ポスト噴射による未燃焼の燃料が酸化触媒で燃焼することで排気ガスの温度が上昇し、その結果、フィルタに捕集された粒子状物質が燃焼除去される。すなわちフィルタが再生される。そして、この再生時にフィルタが過昇温する可能性がると前記過昇温判定部により判定された場合にのみ、ポスト噴射の時期が進角され、エンジンの排気エネルギーが増加される。そのため、フィルタ再生のためのポスト噴射自体の時期を進角させる合理的な構成で、フィルタの過昇温を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の排気浄化装置によれば、アイドリング運転中などに排気浄化装置のフィルタ再生が行われる場合でも、フィルタの過昇温を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態にかかる、排気浄化装置の再生制御装置が適用されたターボ過給機付きディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。
図2】上記エンジンの制御系を示すブロック図である。
図3】上記ターボ過給機の制御に用いられる制御マップの一例を示す図である。
図4】燃料の噴射パターンの一例を示すタイミングチャートである。
図5】燃料の噴射パターンを示すタイミングチャートであり、(a)は、通常再生処理における噴射パターンを示すタイミングチャートであり、(b)〜(d)は、高過給再生処理における噴射パターンを示すタイミングチャートである。
図6】上記エンジンのDPF再生処理の制御内容を示すフローチャートである。
図7】上記エンジンのDPF再生処理の制御内容を示すフローチャートである。
図8】上記ターボ過給機の過給圧、排気流量、及びDPF内温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0028】
[1]エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる排気浄化装置の再生制御装置が適用されたターボ過給機付きディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。
【0029】
図1に示されるディーゼルエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このディーゼルエンジン(以下、エンジンと略す)のエンジン本体1は、直列多気筒型のものであり、複数の気筒11a(図1では1つのみ図示)を有するシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。
【0030】
上記エンジン本体1の各気筒11aには、ピストン14が往復動可能に嵌挿されており、このピストン14の頂面には、燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。
【0031】
上記ピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されており、ピストン14の往復運動に応じて上記クランクシャフト15が中心軸回りに回転する。
【0032】
上記シリンダヘッド12には、各気筒11aの燃焼室14aに開口する吸気ポート16および排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16および排気ポート17を開閉するための吸気弁21および排気弁22が設けられている。
【0033】
上記シリンダヘッド12には、軽油を主成分とする燃料を噴射するインジェクタ18が、各気筒11aにつき1つずつ設けられている。インジェクタ18は、その先端に備わる噴口(燃料の噴射口)がピストン14頂面のキャビティに臨むように配置されており、圧縮上死点(圧縮行程の終了時)の前後にかけた所定のタイミングで燃焼室14aに向けて燃料を噴射する。
【0034】
上記エンジン本体1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続され、上記エンジン本体1の他側面には、各気筒11aの排気ポート17に連通するように排気通路40が接続されている。すなわち、外部からの吸入空気が上記吸気通路30および吸気ポート16を通じて燃焼室14aに導入されるとともに、燃焼室14aで生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気ポート17および排気通路40を通じて外部に排出されるようになっている。
【0035】
上記吸気通路30および排気通路40には、第1ターボ過給機61およびそれよりも小型の第2ターボ過給機62が設けられている。
【0036】
上記第1ターボ過給機61は、吸気通路30に配設されたコンプレッサ61aと、このコンプレッサ61aと同軸に連結され、かつ排気通路40に配設されたタービン61bとを有している。同様に、上記第2ターボ過給機62は、吸気通路30に配設されたコンプレッサ62aと、このコンプレッサ62aと同軸に連結され、かつ排気通路40に配設されたタービン62bとを有している。上記第1ターボ過給機61のコンプレッサ61aおよびタービン61bは、上記第2ターボ過給機62のコンプレッサ62aおよびタービン62bよりも大きいサイズに形成されている。
【0037】
上記第1、第2ターボ過給機61,62は、排気エネルギーにより駆動されて吸入空気を圧縮する。すなわち、エンジンの運転中、排気通路40を高温・高速の排気ガスが通過すると、その排気ガスのエネルギーを受けて各ターボ過給機61,62のタービン61b,62bが回転するとともに、これと連結されたコンプレッサ61a,62aも同時に回転する。これにより、吸気通路30を通過する空気(吸入空気)が圧縮されて高圧化され、エンジン本体1の各気筒11aへと圧送される。
【0038】
上記第1ターボ過給機61のコンプレッサ61aは、第2ターボ過給機62のコンプレッサ62aよりも吸気通路30の上流側に配設されており、上記第1ターボ過給機61のタービン61bは、第2ターボ過給機62のタービン62bよりも排気通路40の下流側に配設されている。
【0039】
上記吸気通路30には、第2ターボ過給機62のコンプレッサ62aをバイパスするための吸気バイパス通路63が設けられており、この第1吸気バイパス通路63には、開閉可能な第1吸気バイパスバルブ63aが設けられている。なお、吸気通路30のうち第2吸気バイパス通路64の上流端が接続される部分と第1ターボ過給機61のコンプレッサ61aとの間の通路には絞り弁64aが設けられている。
【0040】
上記排気通路40には、第2ターボ過給機62のタービン62bをバイパスするための第1排気バイパス通路65と、第1ターボ過給機61のタービン61bをバイパスするための第2排気バイパス通路66とが設けられている。これら第1排気バイパス通路65および第2排気バイパス通路66には、開閉可能なレギュレートバルブ65aおよびウエストゲートバルブ66aがそれぞれ設けられている。
【0041】
上記吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するためのエアクリーナ31が設けられており、吸気通路30の下流端付近(エンジン本体1の近傍)には、サージタンク33が設けられている。サージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒11aごとに分岐した独立通路とされ、各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0042】
上記吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、上流側から順に、第1ターボ過給機61および第2ターボ過給機62の各コンプレッサ61a,62aと、各コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するためのインタークーラ35と、吸気通路30の通路断面積を調節するための開閉可能なスロットルバルブ36とが設けられている。なお、スロットルバルブ36は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路30を遮断する。
【0043】
上記排気通路40のうち、エンジン本体1に隣接する上流側部分は、各気筒11aの排気ポート17に連通するように分岐した独立通路と各独立通路が集合する集合部とを含む排気マニホールドとされている。
【0044】
上記排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、第2ターボ過給機62および第1ターボ過給機61の各タービン62b,61bと、排気ガス中の有害成分を浄化するための排気浄化装置41と、排気音を低減するための図外のサイレンサとが設けられている。
【0045】
上記排気浄化装置41には、上流側から順にDOC(Diesel Oxidation Catalyst)41aとDPF(Diesel Particulate Filter)41bとが含まれている。
【0046】
上記DOC41a(本発明の酸化触媒に相当する)は、エンジン本体1から排出される排気ガス中のCOおよびHCを酸化することにより無害化するものである。すなわち、排気ガス中のCO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)は、このDOC41aを通過するときに酸化され、CO2(二酸化炭素)やH2O(水)に浄化される。なお、DOC41aはその内部で起きるこのような排気ガスの酸化反応によって排気ガスの温度を上昇させ、下流のDPF32に高温の排気ガスを流入させる役割も担う。
【0047】
上記DPF41b(本発明のフィルタに相当する)は、エンジン本体1から排出される排気ガス中に含まれる煤等の粒子状物質(以下、煤という)を捕集するものである。DPF41bは、例えばSiC(炭化ケイ素)等のセラミックス製のウォールスルータイプのフィルタである。排気ガス中の煤はDPF41bのセル壁を流入側から流出側に向かって通過するときにセル壁に捕集される。なお、煤の捕集が継続に行われるとDPF41bが目詰まりし、DPF41bの機能が低下する。そのため、このエンジンでは、DPF41bを強制的に高温化し、堆積した煤を燃焼させてDPF41bを再生する、いわゆる強制再生が所定のタイミングで実施される。DPF41bの強制再生の手法は種々知られているが、このエンジンでは、圧縮行程の上死点付近(TDC)で燃料を噴射するメイン噴射の後に膨張行程で燃料を噴射するポスト噴射が実行される。つまり、このポスト噴射により未燃燃料(HC)をDPF41bに送り込み、ここで未燃燃料を酸化(燃焼)させて排気ガスの温度を上昇させることによりDPF41bを高温化し、堆積した煤を燃焼除去するのである。なお、このようなDPF41bの再生制御(排気浄化装置の再生制御)については、後に詳述する。
【0048】
上記吸気通路30と排気通路40との間には、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路51が設けられている。すなわち、サージタンク33とスロットルバルブ36との間の吸気通路30と、排気マニホールドと第2ターボ過給機62のタービン62bとの間の排気通路40とが、上記EGR通路51を介して互いに接続されている。このEGR通路51には、吸気通路30への排気ガスの還流量を調整するための開閉可能なEGRバルブ51aと、エンジンの冷却水によって排気ガスを冷却するEGRクーラ52とが設けられている。
【0049】
[2]制御系
以上のように構成されたエンジンは、車両に搭載されたパワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ類およびI/F等を有するマイクロプロセッサである。
【0050】
PCM10は、図2に示される各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、エンジンもしくは車両には、エンジン本体1の冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサSW1と、吸気通路30を通過する吸入空気の流量(吸入空気量)を検出するエアフローセンサSW2(本発明の排気流量検出部に相当する)と、サージタンク33内の吸入空気の圧力(吸気圧力)を検出するための吸気圧センサSW3(本発明の過給圧検出部に相当する)と、吸入空気の温度(吸気温度)を検出するための吸気温センサSW4と、エンジン本体1のクランクシャフト15の回転速度(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転速度センサSW5と、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW6と、排気浄化装置41内の排気ガスの温度(排気温度)、詳しくはDOC41aの通過後、DPF41bへの導入前の排気ガスの温度を検出する排気温度センサSW7(本発明の排気温度検出部に相当する)が設けられており、これら各センサSW1〜SW7がPCM10と電気的に接続されている。PCM10は、上記各センサSW1〜SW7からの入力信号に基づいて、エンジン水温、吸気流量、吸気圧力、吸気温度、エンジン回転速度、アクセル開度および排気温度といった種々の情報を取得する。
【0051】
また、PCM10は、上記各センサSW1〜SW7からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、PCM10は、インジェクタ18および上述した各バルブ36、51a、63a、64a、65a、66aと電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器に駆動用の制御信号を出力する。
【0052】
上記PCM10が有するより具体的な機能構成について説明する。図2に示すように、PCM10は、演算部10a、噴射制御部10b、および過給制御部10cを有している。
【0053】
上記演算部10aは、上記各センサSW1〜SW7の検出信号に基づいて種々の演算を実行するとともに、エンジンおよび車両の状態を判定するものである。この演算部10aは、後述する通り、DPF41bに捕集された煤を燃焼除去するための再生制御を実行する機能と、この再生制御が実行された場合にDPF41bが過昇温する可能性の有無を判定する機能と、再生制御の際に燃料の噴射時期、詳しくはポスト噴射の時期を補正する機能とを有している。すなわち、当例では、この演算部10aが、本発明の再生制御部、過昇温判定部およびポスト燃料制御部に相当する。また、当該演算部10a、上記エアフローセンサSW2、吸気圧センサSW3及び排気温度センサSW7等が本発明の再生制御装置に相当する。
【0054】
上記噴射制御部10bは、上記演算部10aの演算等から定まる噴射量、噴射パターンおよび噴射タイミングに従って各気筒11aに燃料が噴射されるようにインジェクタ18を駆動制御するものである。
【0055】
上記過給制御部10cは、上記吸気バイパスバルブ63a、レギュレートバルブ65a、およびウエストゲートバルブ66aの開度を制御することにより、上記第1ターボ過給機61および上記第2ターボ過給機62の作動を制御するものである。
【0056】
定常運転時の上記各ターボ過給機61,62の作動切替は、例えば図3に示される制御マップに基づき行われる。この図3において、エンジン回転速度が相対的に低い低速側に位置する第1領域Aは、第1ターボ過給機61および第2ターボ過給機62の両方が作動する領域として設定されている。一方、上記第1領域Aよりも高速側に位置する第2領域Bは、第1ターボ過給機61のみが作動する領域として設定されている。そして、これら第1領域Aおよび第2領域Bのいずれの運転領域でエンジンが運転されているかが上記演算部10aによって判定され、その結果に基づいて、上記過給制御部10cが上記各バルブ63a,65a,66aを制御する。
【0057】
具体的に、低速側の第1領域Aでは、吸気バイパスバルブ63a、レギュレートバルブ65a、およびウエストゲートバルブ66aが基本的に全て全閉とされることにより、上記第1ターボ過給機61および第2ターボ過給機62の両方が作動させられる。一方、高速側の第2領域Bでは、排気ガスの量が比較的多く、小型の第2ターボ過給機62のタービン62bが排気抵抗になるため、吸気バイパスバルブ63aおよびレギュレートバルブ65aが全開とされるとともに、ウエストゲートバルブ66aが全閉とされることにより、第1ターボ過給機61のみが作動させられ、第2ターボ過給機62は非作動とされる。
【0058】
[3]排気浄化装置(DPF41b)の再生制御
PCM10の演算部10aによるDPF41bの具体的な再生制御について説明する前に、その前提となる、燃料の基本的な噴射制御について説明する。
【0059】
エンジンの運転中は、その運転状態に応じた適切な態様で燃料が噴射されるように、演算部10aにより噴射制御部10bを介してインジェクタ18が制御される。すなわち、演算部10aは、上記各センサSW1〜SW7からの出力信号に基づきエンジンの冷却水温、吸入空気量、吸気圧力、吸気温度、エンジン回転速度、アクセル開度、排気温度等の情報を取得し、これらの情報に基づいて、インジェクタ18から噴射すべき燃料の噴射量および噴射パターンを決定するとともに、燃料の噴射タイミングを決定する。
【0060】
これら噴射量、噴射パターン及び噴射タイミングは、アクセル開度やエンジン回転速度等の各種パラメータに応じた適切な燃料噴射の態様を予め定めた燃料噴射マップを参照して決定される。すなわち、この燃料噴射マップの参照により、少なくともアクセル開度(つまりエンジンの要求トルク)に基づいて燃料噴射量が決定されるとともに、少なくともその決定された噴射量とエンジン回転速度とに基づいて、燃料の噴射パターンおよび噴射タイミングが決定される。
【0061】
ここで、燃料の噴射パターンとは、インジェクタ18から噴射すべき噴射量を、何回に分けて、どのような比率で噴射するかというものである。例えば当例では、多くの運転領域で、パイロット噴射Piおよびメイン噴射Maと呼ばれる少なくとも2回の燃料噴射が実行され、運転領域によっては、上記メイン噴射Maの後に、アフター噴射と呼ばれる追加の燃料噴射が行われる。図4は、横軸をクランク角(CA)、縦軸を噴射量として、噴射パターンを概念的に示したものであり、同図では、2回のパイロット噴射Piとメイン噴射Maと1回のアフター噴射Afとを含む合計4回の燃料噴射が行われている。
【0062】
なお、メイン噴射Maは、噴射した燃料が圧縮上死点(TDC)付近から燃焼し始めるように、圧縮上死点の手前ないし近傍で行われる燃料噴射であり、パイロット噴射Piは、上記メイン噴射Maに基づく燃焼(メイン燃焼)よりも前に予備的な燃焼(予備燃焼)を生じさせるために、上記メイン噴射Maよりも前に行われる少量の燃料噴射である。アフター噴射Afは、煤の発生抑制を目的として行われる燃料噴射である。
【0063】
燃料の噴射タイミングは、必要トルクや燃費、EM(エミッション性)等を考慮して決定される。すなわち、燃料噴射マップには、トルクや燃費等を考慮した最適な噴射タイミングが各種条件ごとに記憶されており、その中から現在の運転条件に適合する噴射タイミングが読み出されて決定される。
【0064】
なお、上述した通り、このエンジンでは、所定のタイミングでDPF41bを強制的に高温化し、堆積した煤を燃焼させてDPF41bを再生する、いわゆるDPF41bの強制再生が実行される。具体的には、上記メイン噴射Maの後、膨張行程の後期に燃焼室14aに燃料が噴射されるように、演算部10aにより噴射制御部10bを介してインジェクタ18が制御される。このような燃料噴射は、ポスト噴射Poと呼ばれ、DPFの強制再生の手法の一として知られている。つまり、メイン噴射Maの後、膨張行程の後期に燃焼室14aに再度燃料を噴射すると、噴射された燃料の多くは酸化されずにHC(未燃燃料)となって排気ガスと共にDOC41aに供給され、当該DOC41aで酸化される。この酸化反応により排気ガスの温度が上昇し、この高温の排気ガスがDPF41bに導入されることによってDPF41bが高温化され、捕集された煤が燃焼除去されるのである。
【0065】
ポスト噴射Poの噴射量、噴射パターン、および噴射タイミングは、上記燃料噴射マップを参照して決定される。すなわち、上記メイン噴射Ma等と同様に、ポスト噴射Poの噴射量、噴射パターンおよび噴射タイミングは上記燃料噴射マップに定められており、演算部10aは、アクセル開度やエンジン回転速度等に基づき、上記燃料噴射マップに基づきポスト噴射Poの噴射量、噴射パターンおよび噴射タイミングを決定する。
【0066】
図5(a)は、DPF41bの再生を行う場合の燃料の噴射パターンを、図4と同様に、横軸をクランク角(CA)、縦軸を噴射量として概念的に示しており、同図の例では、等しい比率で5回のポスト噴射Poが行われている。
【0067】
以上が、演算部10aによる燃料の基本的な噴射制御である。以下、この演算部10aによる、排気浄化装置(DPF41b)の具体的な再生制御について図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0068】
図6に示す処理がスタートすると、PCM10の演算部10aは、所定の再生開始条件、例えば、車両の走行距離が予め設定された走行距離を超えたか否かを判定する(ステップS1)。
【0069】
ここで、Yesと判定すると、制御部10aは、DPF41bの再生処理を開始する。具体的には、演算部10aは、上記燃料噴射マップを参照してポスト噴射Poの噴射態様(噴射量、噴射パターンおよび噴射タイミング)を決定し(ステップS3)、この噴射態様に基づき上記噴射制御部10bを介してインジェクタ18を駆動制御する。すなわち、パイロット噴射Pi及びメイン噴射Ma等にさらにポスト噴射Poを含む燃料噴射を開始する(ステップS5)。
【0070】
これにより、メイン噴射Maの後、膨張行程の後期にポスト噴射Poが行われ、DPF41bの再生が開始される。
【0071】
なお、以下の説明では、ステップS3において上記燃料噴射マップを参照して決定されたポスト噴射Poの噴射態様を基本噴射態様(基本噴射量、基本噴射パターン、基本噴射タイミング)と称する場合がある。
【0072】
DPF41bの再生が開始されると、演算部10aは、DPF41bが所定の過昇温条件を充足するか否かを判定する。すなわち、演算部10aは、DPF41bが過昇温する可能性について判定する。
【0073】
具体的には、まず、第1条件として、演算部10aは、再生開示時点のDPF41bにおける煤の堆積量Sが予め設定された閾値Sx以上か否かを判定する(ステップS7)。煤の堆積量Sは、燃料噴射量およびEGR量の履歴に基づき求められる推定積載量である。すなわち、演算部10aは、エンジンの運転中、燃料噴射量およびEGR量を履歴として図外の記憶部に記憶しており、例えば前回の強制再生の実行時点からの燃料噴射量の累積値およびEGR量の累積値に基づき所定の演算式に基づいて煤の堆積量Sを演算する。なお、堆積量Sの上記閾値Sxは、例えばDPF41bが実質的に捕集可能な煤の量(堆積量)の最大値以下の値であって当該最大値に近い値に設定されている。
【0074】
ステップS7でYesの場合、演算部10aは、第2条件として、DPF41bに導入される排気ガスの温度T(排気温度T)、すなわち上記排気温度センサSW7による検出値が閾値Tx以上か否かを判定する(ステップS9)。
【0075】
ステップS9でYesの場合、演算部10aは、第3条件として、DPF41b内の温度上昇率TRが、閾値TRx以上か否かを判定する(ステップS11)。DPF41b内の温度上昇率TRは予測値である。すなわち、演算部10aは、例えば上記排気温度TとエアフローセンサSW2の検出値から求まる排気ガス流量(排気ガスの体積流量)Fとに基づき所定の演算式又はマップからDPF41bの内部温度を求め、この内部温度の変化率(温度上昇率TR)を求める。そして、この温度上昇率TRと閾値TRxとを比較する。
【0076】
ステップS11でYesと判定した場合(上記第1〜第3条件を充足した場合)には、演算部10aは、DPF41bが過昇温条件を充足している、すなわちDPF41bが過昇温する可能性があると判断する。そして、次に、演算部10aは、高過給再生処理を実行する必要があるか否かを判定する。具体的には、エアフローセンサSW2の検出値に基づき排気ガス流量Fを求め、この排気ガス流量Fが閾値Fx以下か否かを判定する(ステップS13)。
【0077】
ここで、「高過給再生処理」とは、ターボ過給機61、62による吸気の過給圧を定常運転時よりも高め、DPF41bの再生中に強制的に排気ガス流量Fを増やす処理である。これに対してターボ過給機61、62による吸気の過給圧がほとんど生じない定常運転時にDPF41bの再生を実行する処理を「通常再生処理」という。
【0078】
つまり、DPF41bが過昇温条件を充足している、すなわちDPF41bが過昇温する可能性がある場合でも、一定流量以上の排気ガスがDPF41bを通過していれば、当該排気ガスの通過による冷却効果によってDPF41bの過昇温が抑制される。そのため、過昇温条件を充足したDPF41bの過昇温を抑制し得るような排気ガス流量が上記閾値Fxとして設定されており、演算部10aは、この閾値Fxと排気ガス流量Fとを比較することにより、高過給再生処理の必要性を判定する。
【0079】
演算部10aは、DPF41bが過昇温条件を充足していないと判定した場合、すなわちステップS1〜S5でNoと判定した場合、および、高過給再生処理が必要ないと判定した場合、すなわちステップS7でNoと判定した場合には、処理をステップS19に移行する。これにより、DPF41bの再生処理が高過給再生処理に移行されることなく、通常再生処理が続行されることとなる。
【0080】
一方、ステップS13でYesと判定した場合、すなわちDPF41bが過昇温する可能性があり、かつ、排気ガス流量Fが上記閾値Fxを超えていない場合には、演算部10aは、DPF41bの再生処理を通常再生処理から高過給再生処理に移行する。
【0081】
具体的には、演算部10aは、ポスト噴射Poのタイミングを基本噴射タイミングから所定角度だけ進角側に補正する(ステップS15)。
【0082】
当例では、図5(a)に示すように、一定のタイミングで第1〜第5の合計5回の等量のポスト噴射Po1〜Po5が行われるように、ポスト噴射Poの基本噴射態様が定めされおり、演算部10aは、当該第1〜第5のポスト噴射Po1〜Po5のうち、メイン噴射Maに最も近い第1ポスト噴射Po1(本発明の先行ポスト噴射に相当する)のタイミングを進角側に補正するとともに、残りの第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5(本発明の後続ポスト噴射に相当する)を1セットとして、これらのポスト噴射Po2〜Po5のタイミングを第1ポスト噴射Po1のタイミングとは異なる角度だけ進角側に補正する。具体的には、演算部10aは、基本噴射タイミングに対して、第1ポスト噴射Po1のタイミングを30°CA(クランクシャフトアングル角)だけ進角側に補正するとともに、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5のタイミングを各々基本噴射タイミングに対して10°CA(クランクシャフトアングル角)だけ進角側に補正し、この補正後の噴射タイミングでポスト噴射Poを実行させる。なお、上記各第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5の間隔は所定の時間に設定されている。
【0083】
このように進角側に補正された噴射タイミングでポスト噴射Po1〜Po5が行われると、ポスト噴射Poの燃料の一部、特に第1ポスト噴射Po1の燃料が燃焼室14a内で燃焼し、これにより排気ガス温度が上昇する。換言すれば熱エネルギーが増加することとなる。ポスト噴射Poの燃料が燃焼することよる当該熱エネルギーは、ピストン14を押す機械的エネルギーに変換される率が小さく、その大部分は排気ガスのエネルギー(排気エネルギー)として燃焼室14aから排出される。そのため、排気エネルギーが増加し、その分、各ターボ過給機61,62のタービン61b,62bが多く回転することで、吸気の過給圧が高められ、排気ガスの流量が増加することとなる。つまり、通常再生処理の場合に比して、再生処理中にDOC41aを通過する排気ガス量が増加することとなる。
【0084】
なお、この際、演算部10aは、吸気の過給圧が効果的に高まるように、スロットルバルブ36を全開にするとともに、第1吸気バイパスバルブ63a、レギュレートバルブ65aおよびウエストゲートバルブ66aを全閉にする。つまり、第1ターボ過給機61および第2ターボ過給機62の両方を作動させる。
【0085】
次に、演算部10aは、吸気の過給圧P、すなわち吸気圧センサSW3の検出値が所定の目標過給圧Pxに達しているか否かを判定する(ステップS17)。この目標過給圧Pxは、例えば排気ガス流量Fの上記閾値Fxに対応する値、すなわち、上記過昇温条件を充足したDPF41bが過昇温することを抑制する排気ガス流量を確保し得るような値に設定されている。
【0086】
ステップS17でNoと判定した場合、演算部10aは、ポスト噴射Poの噴射タイミングが、基本噴射タイミングを基準として設定されたガード値GT(本発明の上限値に相当する)に達しているか否かを判定し(ステップS23)、ここで、Noと判定した場合には、ステップS15で補正したポスト噴射Poの噴射タイミングをさらに所定角度だけ進角側に補正した後(ステップS25)、ステップS17に処理を移行する。
【0087】
ステップS25では、具体的には、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5を1セットとして、これらのポスト噴射Po2〜Po5の噴射タイミングを10°CAだけ進角側に補正し、ステップS23では、ポスト噴射Po2〜Po5の噴射タイミングが上記ガード値GTに達しているか否かを判定する。なお、上記ガード値GTは、その値を超えて噴射タイミングを進角させると、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5による燃料の多くが燃焼室14a内で燃焼してエンジンの出力に影響が出るおそれのあるタイミングであり、当例では例えば30°CAに設定されている(図5(c)参照)。
【0088】
ステップS23でYesと判定した場合には、演算部10aは、ポスト噴射Poの噴射量を所定量だけ増量補正した後(ステップS27)、ステップS13に処理を移行する。具体的には、図5(d)に示すように、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5のうち、第2、第3のポスト噴射Po2、Po3の噴射量を所定量(等量)だけ増量補正する。
【0089】
このようにポスト噴射Po2〜Po5の噴射タイミングが進角側に補正され、さらに、第2、第3のポスト噴射Po2、Po3の噴射量が増量補正されると、ポスト噴射Poによる燃料のうち、燃焼室14a内で燃焼する割合が増加し、これにより排気エネルギーが増加し、吸気の過給圧、ひいてはDPF41bにおける排気ガスの流量がさらに増加することとなる。
【0090】
一方、ステップS17でYesと判定した場合、すなわち吸気の過給圧が目標過給圧に達していると判定した場合には、演算部10aは、ポスト噴射Poの停止条件が充足されるのを待って、当該停止条件が充足されたと判定すると(ステップS19でYes)、ポスト噴射Poを停止させる(ステップS21)。つまり、演算部10aは、インジェクタ18による燃料噴射の態様を、ポスト噴射Poを含まない態様に切り換える。これにより本フローチャートを終了する。
【0091】
なお、ステップS19では、演算部10aは、上記停止条件として、例えばDPF41bの再生が開始された時点(ステップS5)から予め設定された時間が経過したか否か、又は設定サイクルの燃料噴射が行われたか等を判定する。
【0092】
[4]作用効果
以上説明したように、当例のディーゼルエンジンでは、運転中に再生条件を充足すると、DPF41aの強制再生処理が実行される。そして、再生処理によってDPF41bが過昇温するおそれがあり(図6のステップS7〜S11でYes)、かつ、排気ガスの流量がこの過昇温を抑制し得るだけの流量を満たしていない場合(図6のステップS13でYes)には、高過給再生処理に移行される。この高過給再生処理に移行されると、ターボ過給機61、62による吸気の過給圧が定常運転時よりも高められ、これによりDPF41bの再生処理中、排気ガスの流量が増加する。従って、排気ガスの流量が少ない運転状況下でDPF41bの再生処理が進行することが抑制され、DPF41aの過昇温、ひいては当該過昇温に起因するDPF41bの破損等のトラブル発生を未然に防止することが可能となる。
【0093】
特に、アイドリング運転中は、排気ガスの流量が極めて少ないため、煤の堆積量が多い状態で強制再生が実行された場合には、DPF41aが過昇温して破損等することが懸念されるが、上記高過給再生処理に移行されることで、そのようなトラブルの発生を未然に防止することが可能となる。
【0094】
図5は、ターボ過給機エンジンが搭載された車両(エンジン)の定常走行中にDPF41bの再生を開始し、その後、車両を停止(アイドリング運転)させたときのDPFの内部温度、過給圧、および排気ガス流量の関係を、互いに異なる制御条件下で調べた結果である。同図中の一点鎖線のグラフ(丸付き符号1のグラフ)は、車両停止後もエンジン回転速度を走行中と同等の回転速度に保った場合、実線のグラフ(丸付き符号2のグラフ)は、車両停止後、エンジン回転速度をアイドリング回転速度に保った場合、破線のグラフ(丸付き符号3のグラフ)は、車両停止後、エンジンの回転速度をアイドリング回転速度に保った状態で、吸気の過給圧を高めた場合(すなわち上記高過給再生処理に移行された場合)をそれぞれ示している。なお、DPFにおける煤の堆積量は何れも同じであり、また、走行中のエンジンの回転速度は何れも同じである。
【0095】
同図の実線グラフに示すように、通常、車両を停止させてアイドリング運転に移行すると、破線グラフに示すように、ターボ過給機による過給圧がほとんど生じず吸気圧が低下し、これにより排気ガスの流量が低下する。そのため、DPFの冷却効果が低下し、その結果、DPFの内部温度が高くなっている。しかし、破線グラフに示すように、車両停止後、アイドリング運状態で、吸気の過給圧を高めた場合には、DPFの内部温度が低く抑えられている。これは、排気浄化装置41の再生処理が高過給再生処理に移行されて排気ガスの流量の低下が抑制されたためと考えられる。この結果からも、上記実施形態の構成によれば、アイドリング運転中のDPF再生時の過昇温を効果的に抑制できることが考察できる。
【0096】
また、上記実施形態の構成によれば、高過給再生処理では、DPF41aの過昇温を抑制し得る排気ガス流量Fとなるような吸気の目標過給圧Pxが設定され、吸気圧センサSW3からの出力(過給圧P)に基づきポスト噴射Poの噴射タイミングおよび噴射量がフィードバック制御される。そのため、吸気の過給圧をより確実に目標過給圧Pxまで高めること、すなわち、排気ガス流量Fを、DPF41aの過昇温を抑制し得る流量までより確実に増加させることができる。従って、再生処理時の過昇温によるDPF41aの破損等のトラブルの発生をより確実に防止することが可能となる。
【0097】
また、高過給再生処理における過給圧の制御においては、エンジン出力に影響を与えない範囲で第1ポスト噴射Po1の噴射タイミングを可及的に大きく進角させる一方、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5の噴射タイミングを第1ポスト噴射Po1よりも小さい度合で進角させておき(図6のステップS15)、その後、過給圧Pが前記目標過給圧Pxに達しない場合には、第1ポスト噴射Po1の噴射タイミングを保ったまま、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5の噴射タイミングを段階的に進角させる。そのため、ポスト噴射Poによる燃料の多くが一度に燃焼してエンジン出力に影響を与えることを回避しながら吸気の過給圧を高めること、つまりエンジンの排気エネルギーを増加させることが可能となる。
【0098】
しかも、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5の噴射タイミングをガード値GTまで進角させても過給圧が目標過給圧に達しない場合には、さらに、第2、第3のポスト噴射Po2、Po3の噴射量を増加させて吸気の過給圧を高めるので、より確実に吸気の過給圧を目標過給圧Pxまで高めることができる。この場合、特に、第2、第3のポスト噴射Po2、Po3の噴射量を増加させるので、エンジン出力に影響を与えることや、燃料がエンジンオイルへ混入することによるオイルの希釈を抑制することができるという利点がある。すなわち、第1ポスト噴射Po1の噴射量を増加させる場合には、メイン燃焼に近いタイミングでポスト噴射による多くの燃料が燃焼することでエンジン出力に影響を与えることが考えられ、逆に、第4、第5のポスト噴射Po4、Po5の噴射量を増加させる場合には、膨張行程の遅い後期に多くの燃料が噴射されることで、エンジンオイルへ燃料が混入し易くなることが考えられる。その点、第2、第3のポスト噴射Po2、Po3の噴射量を増加させる場合には、そのような不利益を伴うことなく燃料の噴射量を増加させることが可能となる。
【0099】
また、上記実施形態の構成によれば、再生処理においてDPF41bが過昇温する可能性の有無について判定し(図6のステップS7〜S11)、過昇温する可能性があると判定した場合にのみ高過給再生処理に移行し、それ以外は通常再生処理を続行するので、エンジン出力に寄与しない燃料消費、ひいては燃費の悪化を抑制することができるという利点もある。すなわち、高過給再生処理ではポスト噴射Poのタイミングを進角させて当該ポスト噴射Poによる燃料の一部を燃焼させて排気エネルギーを増大させるため、車両の走行等に寄与しない燃料が消費される。従って、当該ポスト噴射Poにより燃焼させる燃料は少ない方が望ましい。この点、過昇温する可能性があると判定した場合にのみ高過給再生処理に移行する上記実施形態の制御によれば、例えば排気ガス流量Fが上記閾値Fx以下の場合に一律に高過給再生処理に移行する制御に比べて燃料消費量を抑制することができる。従って、燃料の消費を抑制しながら、合理的にDPF41bの過昇温を抑制することができる。
【0100】
[5]変形例等
上述した実施形態に係るディーゼルエンジンは、本発明に係る(排気浄化装置の)再生制御装置が適用されたターボ過給機付きエンジンの例示であって、再生制御装置の具体的な構成、すなわち、排気浄化装置(DPF41b)の再生制御の具体的な内容等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、以下のような構成を採用することもできる。
【0101】
(1)上記実施形態では、DPF41bの再生処理を開始した後に、当該DPF41bが過昇温する可能性の有無について判定し、過昇温すると判定した場合に、DPF41bの再生処理を通常再生処理から高過給再生処理に移行するようにしているが、DPF41bの再生処理の開始前に、DPF41bが過昇温する可能性の有無について演算部10aが判定し、可能性が無いと判定した場合には、再生処理として通常再生処理を実行する一方、可能性があると判定した場合には、再生処理として高過給再生処理を実行するようにしてもよい。
【0102】
(2)上記実施形態では、燃料のポスト噴射Poを行うことによってDPF41bの強制再生を実行するタイプのディーゼルエンジンに本発明を適用しているが、例えば、排気浄化装置(DOC、DPF)の活性化を目的としてポスト噴射を行う一方で、DPFに設けられたヒータを作動させることによって当該DPFの強制再生を実行するディーゼルエンジンについても本発明は適用可能である。この場合には、ヒータの作動によりDPFの再生処理を開始した後、排気浄化装置(DOC、DPF)の活性化を目的とした上記ポスト噴射のタイミングを、エンジン出力に影響しない範囲で進角させることにより、上記実施形態と同様に高過給再生処理を実行することが可能となる。なお、ポスト噴射が行われるディーゼルエンジンであれば、ヒータの作動以外の方法によってDPFの強制再生が行われるディーゼルエンジンについても本発明は適用可能である。
【0103】
(3)上記実施形態では、DPF41bの再生処理を行うために、ポスト噴射Poとして一定のタイミングで第1〜第5の合計5回のポスト噴射Po1〜Po5が行われているが、ポスト噴射Poの噴射態様(噴射量、噴射パターン、噴射タイミング)はこれに限定されるものでない。
【0104】
また、高過給再生処理時のポスト噴射Poの進角補正のさせ方や噴射量の増加のさせ方も、上記実施形態は一例であって適宜変更可能である。
【0105】
例えば、第1ポスト噴射Po1のタイミングのみを進角側に補正し、その後、残りの第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5を1セットとして進角させるようにしてもよい。また、第2〜第5のポスト噴射Po2〜Po5のタイミングについては、これらを1セットとして進角させる以外に、第2ポスト噴射Po2から順番に、各ポスト噴射を段階的に進角させるようにしてもよい。
【0106】
また、上記実施形態(図6)では言及していないが、第4、第5のポスト噴射Po4、Po5の噴射量についても、検出過給圧Pが目標過給圧Pxとなるように、一定量ずつ段階的に噴射量を補正するようにしてもよい。この場合、第4、第5のポスト噴射Po4、Po5の噴射量を同時に増やす以外に、第2ポスト噴射Po2から順番に、各ポスト噴射の噴射量を段階的に増やすようにしてもよい。なお、一つのポスト噴射を増加させる際の上限値は、エンジン出力への影響を抑制する上で、例えば基本噴射量の2倍程度とするのが望ましい。
【0107】
(4)上記実施形態では、本発明をディーゼルエンジンに適用しているが、ガソリンエンジンについても適用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 エンジン本体
10 PCM
10a 演算部
10b 噴射制御部
10c 過給制御部
18 インジェクタ
41 排気浄化装置
41a DOC
41b DPF(フィルタ)
61 第1ターボ過給機
62 第2ターボ過給機
【要約】
【課題】アイドリング運転中などに排気浄化装置のフィルタ(DPF)再生が行われる場合でも、フィルタの過昇温を効果的に抑制する。
【解決手段】排気浄化装置の再生制御装置は、DPF41に捕集された粒子状物質を燃焼除去する再生制御を実行する機能(再生制御部)と、前記再生制御の際に、ターボ過給機61、62の過給圧が定常運転時よりも高い過給圧となるように、燃料のメイン噴射に続いて行われる燃料のポスト噴射の時期を進角させる制御を実行する機能(ポスト噴射制御部)とを有する演算部10aを含む。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8