特許第6233498号(P6233498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233498磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233498
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 13/08 20060101AFI20171113BHJP
   B01F 3/12 20060101ALI20171113BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20171113BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20171113BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20171113BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   B01F13/08 Z
   B01F3/12
   C12M1/00 A
   C12M1/12
   B03C1/00 A
   B03C1/00 H
   !C12Q1/68 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-505994(P2016-505994)
(86)(22)【出願日】2014年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2014055588
(87)【国際公開番号】WO2015132898
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】老川幸夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋鉄雄
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04000062(US,A)
【文献】 特表2002−538458(JP,A)
【文献】 特開昭51−105158(JP,A)
【文献】 特開2006−232260(JP,A)
【文献】 特開2006−007003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 9/00 − 13/10
B01D 35/06
G01N 33/48 − 33/98
B03C 1/00 − 1/32
C12M 1/00 − 3/10
C12Q 1/00 − 3/00
B01F 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集した磁性体粒子を分散させるための方法であって、
個々の前記磁性体粒子よりも大きい開孔を有する仕切り部材が内部に配置された容器状構造体内に前記凝集した磁性体粒子を収容するステップと、
前記凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって前記仕切り部材の表面で前記凝集した磁性体粒子を擦過させて前記凝集した磁性体粒子を分散させ、分散した磁性体粒子を前記開孔を介して回収するステップと、を含み、
前記仕切り部材は前記凝集した磁性体粒子が擦過される面に突起部を備えているおろし器状構造体である磁性体粒子分散方法。
【請求項2】
前記仕切り部材の材料は、合成樹脂、金属、シリコン、ガラス、セラミックス又はそれらの組合せである請求項1に記載の磁性体粒子分散方法。
【請求項3】
前記容器状構造体の周囲で磁石を移動させることによって前記仕切り部材の表面で前記凝集した磁性体粒子を擦過させる請求項1又は2に記載の磁性体粒子分散方法。
【請求項4】
凝集した磁性体粒子を分散させるための装置であって、
前記磁性体粒子よりも大きい開孔を有する仕切り部材と、
前記仕切り部材が内部に配置された容器状構造体と、
前記容器状構造体内に収容された前記凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって前記仕切り部材の表面で前記凝集した磁性体粒子を擦過させて前記凝集した磁性体粒子を分散させるための磁場発生機構と、を備え、
前記仕切り部材は前記凝集した磁性体粒子が擦過される面に突起部を備えているおろし器状構造体である磁性体粒子分散装置。
【請求項5】
前記仕切り部材の材料は、合成樹脂、金属、シリコン、ガラス、セラミックス又はそれらの組合せである請求項4に記載の磁性体粒子分散装置。
【請求項6】
前記磁場発生機構は、前記容器状構造体の周囲に配置される磁石と、前記磁石を移動させる磁石移動機構とを備えている請求項4又は5に記載の磁性体粒子分散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置に関し、特に、凝集した磁性体粒子を分散させるための磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性体粒子を用いて生体試料から特定成分を分離、精製、検出などをするためには、目的成分を保持した磁性体粒子と夾雑成分とを分離させる必要がある。例えば、血液からのDNA(デオキシリボ核酸)を抽出する例を挙げる。まず、試料にプロテアーゼを含む細胞溶解液を混合する。細胞破壊及びタンパク質の分解によってDNAが液中に遊離される。次に、シリカ磁気ビーズなどに目的のDNAを吸着させる。夾雑成分を洗浄除去する。最後に磁性体粒子からDNAを溶出させて回収する。
【0003】
例えば特許文献1に記載されているように、遺伝子検査を目的とした核酸精製法においては、核酸がシリカに特異的に吸着する性質を利用して、有害試薬を用いることなく簡便に核酸を抽出及び精製する方法が採用されている。特に、シリカ表面を持つ磁性体粒子を用いた精製法は、自動化に有利であり、各社から核酸抽出精製装置として市販されている。
【0004】
このような装置は、薬液によって試料を溶解して核酸を遊離した状態にし、そこに磁性体粒子を添加することでシリカ表面に核酸を特異的に吸着させ、続く洗浄工程で夾雑成分を除いた後、核酸のみを回収する工程を経て核酸精製試料を得ることを可能にする。遺伝子検査では、このような装置から回収された核酸を用いて、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)に代表される遺伝子増幅法が実施される。
【0005】
また、試料中に含まれる抗体や抗原の濃度を検出及び定量する際に用いられる方法であるELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)においても、特定成分との結合表面を持つ磁性体粒を用いた方法は、同様に自動検査システムの構築に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−232260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば血液などの生体試料から特定成分を分離する際、試料中の蛋白質などの夾雑成分によって磁性体粒子が分散困難な凝集塊を形成してしまう。その結果、目的成分を保持した磁性体粒子からの夾雑成分の除去やその後の目的成分の溶出が阻害され、回収された目的成分の純度や回収率が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、凝集した磁性体粒子を分散させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる磁性体粒子分散方法は、凝集した磁性体粒子を分散させるための方法であって、上記磁性体粒子よりも大きい開孔を有する仕切り部材が内部に配置された容器状構造体内に上記凝集した磁性体粒子を収容するステップと、上記凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって上記仕切り部材の表面で上記凝集した磁性体粒子を擦過させて上記凝集した磁性体粒子を分散させ、分散した磁性体粒子を上記開孔を介して回収するステップと、を含んでいる。
【0010】
本発明にかかる磁性体粒子分散装置は、凝集した磁性体粒子を分散させるための装置であって、上記磁性体粒子よりも大きい開孔を有する仕切り部材と、上記仕切り部材が内部に配置された容器状構造体と、上記容器状構造体内に収容された上記凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって上記仕切り部材の表面で上記凝集した磁性体粒子を擦過させて上記凝集した磁性体粒子を分散させるための磁場発生機構と、を備えているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置は、凝集した磁性体粒子を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】磁性体粒子分散装置の一実施例を説明するための模式図である。
図2】同実施例の全体の構成を説明するための模式図である。
図3】同実施例の磁場発生機構を説明するための平面模式図である。
図4】実施例によって分散操作が行われたDNAの吸収曲線と、通常法によって分散操作が行われたDNAの吸収曲線を示す図である。
図5】磁性体粒子分散装置の他の実施例を説明するための模式図である。
図6】同実施例の全体の構成を説明するための模式図である。
図7】仕切り部材の他の例を説明するための模式図である。
図8】磁性体粒子を用いたDNA抽出の操作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置において、上記仕切り部材の一例は網状構造体である。
また、本発明の磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置において、上記仕切り部材の他の例は、上記凝集した磁性体粒子が擦過される面に突起部を備えているおろし器状構造体である。
ただし、上記仕切り部材は上記網状構造体及び上記おろし器状構造体に限定されない。
【0014】
本発明の磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置において、上記仕切り部材の材料の一例は、合成樹脂、金属、シリコン、ガラス、セラミックス又はそれらの組合せである。上記合成樹脂は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素、シリコーン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などである。上記金属は、例えば、チタン、ステンレス合金、金、プラチナなどの金属、並びにそれら合金である。なお、上記仕切り部材の材料は、上記に挙げられたものに限定されず、他の材料であってもよい。
【0015】
本発明の磁性体粒子分散方法は、例えば、上記容器状構造体の周囲で磁石を移動させることによって上記仕切り部材の表面で上記凝集した磁性体粒子を擦過させる。ただし、本発明の磁性体粒子分散方法において、上記凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって上記仕切り部材の表面で上記凝集した磁性体粒子を擦過させる方法は、これに限定されず、他の方法であってもよい。
【0016】
本発明の磁性体粒子分散装置において、上記磁場発生機構の一例は、上記容器状構造体の周囲に配置される磁石と、上記磁石を移動させる磁石移動機構とを備えている。ただし、上記磁場発生機構はこの構成に限定されない。上記磁場発生機構は、上記凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって上記仕切り部材の表面で上記凝集した磁性体粒子を擦過させることができる構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0017】
以下に説明する実施例では、磁性体粒子を用いたDNA抽出を例に挙げて本発明が説明される。生体試料からのDNA抽出において、磁性体粒子を用いた方法は有用である。しかし、検体として一般的に対象に挙がる全血からのDNA抽出では、特に血液由来成分よって磁性体粒子が凝集しやすい。例えば試料中の夾雑成分である蛋白質などによって磁性体粒子の凝集が起こる。磁性体粒子が凝集すると、洗浄不足に起因して、抽出されたDNAの純度低下や溶出障害による回収率低下が起こりやすいという不具合が生じる。
【0018】
そこで、本発明は、洗浄及び回収操作を行なう際、例えばメッシュなどの網状構造体や調理用のすりおろし器など、粉砕物を通過させる構造体を利用する。本発明は、そのような構造体を個々の磁性体粒子よりも大きい開孔を有する仕切り部材として用いる。本発明は、凝集した磁性体粒子を磁場操作によって仕切り部材において分散させる。本発明は、凝集した磁性体粒子を分散させるので、磁性体粒子の洗浄操作及び溶出操作の効率を上げることが可能となる。
【0019】
仕切り部材の材料は、使用される化学薬品の特性や酵素反応などを阻害しない不活性であるものであればよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、PEEK、フッソ、シリコーン樹脂や、チタン、SUS(300番系)、金、プラチナやそのメッキなどが仕切り部材の材料例として挙げられる。ただし、仕切り部材の材料は、使用される化学薬品の特性や酵素反応などを阻害しない不活性なものであれば、これらに限定されるものではない。
【0020】
仕切り部材における開孔の大きさは磁性体粒子よりも大きければよい。仕切り部材の材料や、開孔の配置、形状及び大きさは凝集した磁性体粒子の状態に合わせ選定されることが好ましい。ただし、仕切り部材の材料や、開孔の配置、形状及び大きさは、凝集した磁性体粒子の状態に合わせ選定されることに限定されることはない。仕切り部材の開孔は、少なくとも、凝集した磁性体粒子が分散された個々の磁性体粒子が通過可能な大きさであればよい。また、仕切り部材は、開孔を有する部材が複数枚重ね合わせられることによって構成されていてもよい。
【0021】
なお、本発明において、仕切り部材の開孔を通過する磁性体粒子は個々の磁性体粒子に限定されない。本発明において、仕切り部材の開孔を通過する磁性体粒子には、凝集した磁性体粒子が分散されて、小さくなった磁性体粒子塊が含まれていてもよい。この場合でも、凝集した磁性体粒子が分散されない場合に比べて、目的成分の純度や回収率は向上する。
【0022】
また、仕切り部材の開孔の大きさは凝集した磁性体粒子よりも小さいことが好ましい。ただし、仕切り部材の開孔の大きさは凝集した磁性体粒子よりも大きくてもよい。この場合であっても、凝集した磁性体粒子は仕切り部材の表面で擦過されることによって分散される。
【0023】
例えば、仕切り部材がメッシュ(網状構造体)で形成されており、磁性体粒子が磁気ビーズである場合、メッシュの目開き(開孔)の大きさは、磁気ビーズの直径に合わせればよい。例えば磁気ビーズの直径が0.1〜5μm(マイクロメートル)である場合、仕切り部材として500メッシュ(目開き20μm)程度のものが複数枚重ね合わせて使用される例が挙げられる。
【0024】
仕切り部材は、例えば、容器状構造体としてのDNA抽出用容器に収容される溶液をほぼ二分する位置に仕切りとして配置される。例えば磁石による磁場によって磁性体粒子が操作されると、凝集した磁性体粒子は仕切り部材の表面で擦れる際に再分散される。本発明は、凝集した磁性体粒子を再分散させることによって、磁性体粒子の洗浄効率及び目的成分の回収率を向上させることができる。
【0025】
図8は、磁性体粒子を用いたDNA抽出の操作を説明するための模式図である。図8中のかっこ数字は以下に説明する工程(1)から(5)に対応している。
【0026】
(1)容器101の中に試料103が収容される。容器101内の試料103が粉砕される。
(2)細胞を溶解するための試薬105が注入器107を用いて容器101に注入される。試料103中の細胞が溶解する。
【0027】
(3)磁気体粒子がシリカでコーティングされた磁気ビーズ109が注入器107を用いて容器101に注入される。試料中のDNAが磁気ビーズ109に吸着する。このとき、試料中の蛋白質などの夾雑成分によって磁気ビーズ109の凝集が起こる。
【0028】
(4)磁力によって磁気ビーズ109が分離される。分離された磁気ビーズ109は洗浄用の試薬111を用いて洗浄される。この洗浄操作は例えば2回行なわれる。
(5)磁力によって磁気ビーズ109が分離される。DNAを分離するための試薬113によってDNA115が抽出される。
【0029】
本発明の磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置は、例えば、図8を参照して説明された上記工程(3)と(4)の間の操作で用いられる。
【0030】
図1は、磁性体粒子分散装置の一実施例を説明するための模式図である。図2は、同実施例の全体の構成を説明するための模式図である。図3は、同実施例の磁場発生機構7を説明するための平面模式図である。
【0031】
磁性体粒子分散装置1は、例えば、シリカでコーティングされた磁性体粒子を用いたヒト全血からのDNA抽出で使用される。磁性体粒子分散装置1は、仕切り部材3、メッシュ固定用ジグ3a、DNA抽出用容器5(容器状構造体)、磁場発生機構7及び容器固定ジグ9を備えている。
【0032】
仕切り部材3は磁性体粒子11の大きさよりも大きい開孔を有している。仕切り部材3はDNA抽出用容器5の内部に配置されている。仕切り部材3の配置位置は、例えばメッシュ固定用ジグ3aによって位置決めされている。仕切り部材3は、例えば、DNA抽出用容器5に収容される溶液をほぼ二分する位置に仕切りとして配置されている。
【0033】
仕切り部材3は例えばメッシュ(網状構造体)によって形成されている。仕切り部材3のメッシュ編み目サイズは例えば20〜200μm程度である。仕切り部材3のメッシュ編み目サイズは、形成される凝集した磁性体粒子11aの凝集塊の大きさによって変更されることが好ましい。仕切り部材3を構成するメッシュは、1枚のメッシュで形成されていてもよいし、複数枚のメッシュが重ねられていてもよい。なお、仕切り部材3の開孔のサイズは、少なくとも磁性体粒子11の大きさよりも大きく、かつ、凝集した磁性体粒子11aを分散させる機能があれば、これらの範囲に限定されるものではない。
【0034】
仕切り部材3を構成するメッシュの材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、PEEK、フッ素、シリコーンなどの樹脂や、チタン、ステンレス合金、金、プラチナなどの金属、又はそのメッキなどである。なお、仕切り部材3の材料は、化学薬品による腐食や酵素反応を阻害しない不活性なものであればこれらに限定されるものではない。
【0035】
磁場発生機構7は、DNA抽出用容器5体内に収容された凝集した磁性体粒子11aに磁場を印加するためのものである。磁場発生機構7は、磁場を印加することによって、仕切り部材3の表面で凝集した磁性体粒子11aを擦過させて凝集した磁性体粒子11aを分散させる。
【0036】
磁場発生機構7は、例えば、磁石7a、磁石支持部材7b、ヒゲゼンマイ7c、ヒゲゼンマイ支持体7d及び固定台7eを備えている。磁石支持部材7b、ヒゲゼンマイ7c、ヒゲゼンマイ支持体7d及び固定台7eは磁石7aを移動させるための磁石移動機構を構成している。
【0037】
磁石7aは2個設けられている。磁石7aは例えばネオジム磁石である。
磁石支持部材7bは2個の磁石7aがDNA抽出用容器5を挟んで配置されるように磁石7aを支持している。磁石支持部材7bの支柱は固定台7eに回転可能に支持されている。磁石支持部材7bはヒゲゼンマイ7cによって例えばアナログ時計で用いられるテンプと同様に回転振動される。
【0038】
ヒゲゼンマイ7cは磁石支持部材7bを回転振動させるためのものである。ヒゲゼンマイ7cの内周側の端部は磁石支持部材7bの支柱に固定されている。ヒゲゼンマイ7cの外周側の端部はヒゲゼンマイ支持体7dに固定されている。
ヒゲゼンマイ支持体7dは固定台7eに固定されている。
【0039】
容器固定ジグ9はDNA抽出用容器5を着脱可能に支持するためのものである。容器固定ジグ9はDNA抽出用容器5を挟むためのクリップ9aを備えている。
DNA抽出用容器5にDNA含有溶液13が収容されている。
【0040】
図1及び図2を参照して血液試料からのDNA抽出の操作を簡単に説明する。
定法に従って血液試料をプロテアーゼ処理する。シリカでコーティングされた磁性体粒子11を添加する。磁性体粒子11にDNAが吸着される。血液試料中の蛋白質などの夾雑成分によって磁性体粒子11の凝集が起こり、凝集した磁性体粒子11aが形成される。
【0041】
凝集した磁性体粒子11aを含むDNA含有溶液13をDNA抽出用容器5に投入する。DNA抽出用容器5を磁性体粒子分散装置1の容器固定ジグ9に配置する。
【0042】
磁石7aをDNA抽出用容器5に沿って数回揺動させる。例えば、操作者が指などを使って磁石7aをはじくことにより、磁石7a及び磁石支持部材7bはヒゲゼンマイ7cの弾性によって回転振動する。磁石7a及び磁石支持部材7bは数回揺動される。凝集した磁性体粒子11aは磁石7aが作る磁場によって仕切り部材3の表面で擦過される。これにより、凝集した磁性体粒子11aは分散される。
【0043】
分散した磁性体粒子11を、磁石7aを使って仕切り部材3の開孔を通過させて集める。溶液の上清を除去した後、後述の2種の洗浄液を用いて、凝集した磁性体粒子11aを仕切り部材3の表面で擦過させたときの操作と同様の操作を繰り返す。
【0044】
DNA抽出用容器5を磁性体粒子分散装置1から取り外す。最終工程としてDNA溶出液に洗浄後の磁性体粒子11を分散させ、磁性体粒子11からDNAを液中に溶出させる。なお、DNA溶出液は磁石操作で磁性体粒子11を除去した後に回収される。
【0045】
より具体的な操作条件の例を説明する。
まず、別容器を用いて、ヒト全血200μL(マイクロリットル)に対して0.5mg/mL(ミリグラム/ミリリットル)の濃度でproteinaseK(ロシュ社の製品)を0.01mL添加した。別容器は、例えば、容量が1.5mL(ミリリットル)ポリプロピレン製チューブである。
【0046】
その溶液に対して、細胞溶解液を0.4mL添加し、68℃、5分間の条件で蛋白質分解反応を行った。細胞溶解液の組成は、例えば、30mM トリス塩酸緩衝液pH8.0, 30mM EDTA, 5% Tween−20, 0.5% Triton X−100, 800mM 塩酸グアニジンである。
【0047】
反応後、イソプロパノールに懸濁したゲノムDNA抽出用シリカ磁性体粒子(5mg/mL(東洋紡の製品))を100μL添加し、5分間混合した。その溶液を図1及び2に示したDNA抽出用容器5に移し、凝縮した磁性体粒子11aの分散操作、磁性体粒子11の洗浄操作及びDNAの溶出操作を行った。
【0048】
洗浄液は二種類の洗浄液Aと洗浄液Bが用いられた。
洗浄液Aの組成は、例えば、37%(v/v)エタノール, 4.8M 塩酸グアニジン, 20mM トリス塩酸緩衝液である。
洗浄液Bの組成は、例えば、80%(v/v)エタノール, 20mM 塩化ナトリウム, 2mM トリス塩酸緩衝液pH7.6である。
洗浄液Aと洗浄液Bをそれぞれ0.5mL用いて各一回の洗浄操作を行った。
【0049】
最後にDNA溶出液を用いてDNAの溶出操作を行った。DNA溶出液の組成は、例えば、10mM Tris−HCl, pH8.0, 1mM EDTAである。
【0050】
図1及び2に示したDNA抽出用容器5を用いてヒト全血から抽出したDNAを紫外部吸収スペクトルで分析した。
図4は、実施例によって分散操作が行われたDNAの吸収曲線と、通常法によって分散操作が行われたDNAの吸収曲線を示す図である。図4において、実施例の吸収曲線は、上記磁性体粒子分散操作の実施例を含む上記DNA抽出操作によって抽出されたDNAの吸収曲線である。通常法の吸収曲線は、仕切り部材3を持たない容器を用いて磁石によって集められた磁性体粒子をマイクロピペットで分散させる一般的な手法によって抽出されたDNAの吸収曲線である。
【0051】
一般的な手法における磁性体粒子の分散操作では、上記洗浄液A,B及び溶出液を用いたマイクロピペットによる液の出し入れによって発生する水流によって凝集した磁性体粒子が分散される。
【0052】
他方、上記実施例における凝集した磁性体粒子11aの分散操作では、図1及び2に示された仕切り部材3が配置されたDNA抽出用容器5を用いて上述の通り操作が行なわれる。
【0053】
各方法で得られたDNA抽出液の紫外部吸収スペクトルを比較する。通常法では、吸光度260/280による純度値は1.479であった。他方、実施例の方法では、吸光度260/280による純度値は1.793であった。
【0054】
吸収スペクトル曲線の形状を比較する。実施例の方法では、DNAに特異的な波長260nmのピークが明確に確認できる。他方、通常法では、波長260nmのピークはショルダー状である。吸収スペクトル曲線の形状から、通常法では残留低分子が多量に含まれていることがわかる。
【0055】
このように、上記実施例の磁性体粒子分散方法及び磁性体粒子分散装置は、洗浄において効率的に機能していることがわかる。
【0056】
図5は、磁性体粒子分散装置の他の実施例を説明するための模式図である。図6は、同実施例の全体の構成を説明するための模式図である。図5及び図6において、図1図2及び図3と同じ機能を果たす部分には同じ符号が付されている。
【0057】
この実施例の磁性体粒子分散装置1において、例えばメッシュからなる仕切り部材3はDNA抽出用容器5内で1つのメッシュ固定用ジグ3aによって固定されている。本発明において、容器状構造体の内部に配置される仕切り部材は、凝集した磁性体粒子を分散させるような配置であれば、どのように配置されていてもよい。
【0058】
例えば、DNA抽出用容器5は容器固定ジグ9によって斜めに保持される。
磁場発生機構7は、図2に示された磁場発生機構7の配置と比較して、例えば90度回転して固定されている。磁石7aは、DNA抽出用容器5の近傍においてDNA抽出用容器5の壁面に沿うように回転振動される。
【0059】
この実施例の磁性体粒子分散装置1は、図1図2及び図3を参照して説明した磁性体粒子装置の実施例と同様に、凝集した磁性体粒子11aに磁場を印加することによって仕切り部材3の表面で凝集した磁性体粒子11aを擦過させて分散させることができる。
【0060】
上記実施例では、仕切り部材3としてメッシュが用いられているが、本発明において仕切り部材はメッシュに限定されない。
【0061】
図7は、仕切り部材の他の例を説明するための模式図である。
仕切り部材15は複数の開孔15aと複数の突起部15bを備えている。開孔15aは貫通孔によって形成されている。突起部15bは、凝集した磁性体粒子が擦過される面に配置されている。仕切り部材15は、例えば調理用すりおろし器のような、おろし器状構造体を有する。
【0062】
仕切り部材15は例えば一表面に多数の突起部15bを有している。開孔15aは、凝集した磁性体粒子が擦過されて形成された粉砕物を通過させるためのものである。
【0063】
仕切り部材15の材料は、例えば金属、ここではSUS(300番系)である。例えば、仕切り部材15の開孔15a及び突起部15bはエンボス加工によって形成される。ただし、仕切り部材15の材料及び形成方法はこれに限定されない。
【0064】
以上、本発明の実施例を説明したが、実施例における構成、配置、材料、数値などは一例であり、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、上記実施例では、網状構造体の仕切り部材3又はおろし器状構造体の仕切り部材15が用いられているが、本発明において仕切り部材はこれらに限定されない。本発明において、仕切り部材は、用いられる磁性体粒子よりも大きい開孔を有し、表面で凝集した磁性体粒子が擦過されることによって凝集した磁性体粒子を分散させることができる構造であれば、どのような構造であってもよい。
【0066】
また、上記実施例では、容器状構造体としてDNA抽出用容器5が用いられているが、本発明において容器状構造体はこれに限定されない。本発明において、容器状構造体は、上記前記仕切り部材を内部に配置することができるものであれば、材料及び構造を特に限定されない。
【0067】
また、上記実施例では、DNA抽出用容器5の周囲に配置される磁石7aと、磁石7aを移動させるための磁石支持部材7b、ヒゲゼンマイ7c、ヒゲゼンマイ支持体7d及び固定台7eからなる磁石移動機構とを有する磁場発生機構7が用いられている。ただし、本発明の磁性体粒子分散装置において、磁場発生機構は実施例の磁場発生機構7に限定されない。
【0068】
本発明の磁性体粒子分散装置において、磁場発生機構は、容器状構造体内に収容された凝集した磁性体粒子に磁場を印加することによって仕切り部材の表面で凝集した磁性体粒子を擦過させて分散させることができる構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0069】
例えば、磁石7aを移動させるための駆動源は、ヒゲゼンマイ7cとは異なるもの、例えばモーター等であってもよい。また、磁石7aの移動は回転振動に限定されるものではない。例えば、磁石7aの移動は摺動であってもよい。
【0070】
また、永久磁石である磁石7aに替えて、電気的に磁場を発生する電磁石が用いられてもよい。例えば、容器状構造体の周囲に複数個の電磁石が配置され、それらの電磁石が互いに異なるタイミングで磁場を発生するように制御されれば、電磁石が移動されなくても仕切り部材の表面で凝集した磁性体粒子が擦過されるようにすることができる。
【0071】
また、本発明の磁性体粒子分散方法において、凝集した磁性体粒子に磁場を印加するための素子は、磁石7aに限定されず、電磁石など、電気的に磁場を発生するものであってもよい。
【0072】
また、上記実施例は、磁性体粒子を用いたDNA抽出操作を例に挙げて説明されているが、本発明が適用される操作はDNA抽出操作に限定されない。本発明は、例えば、磁性体粒子を用いた化学成分の抽出、精製及び検出、並びに該方法を実現するための装置に適用可能である。例えば、本発明は、磁性体粒子を用いて生体試料から核酸、タンパク質、抗原、抗体、その他生体分子を分離することによる医療、食品分野での検査システム、若しくはその前処理システムに用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 磁性体粒子分散装置
3 仕切り部材
5 DNA抽出用容器(容器状構造体)
7 磁場発生機構
7a 磁石
11a 凝集した磁性体粒子
11 磁性体粒子
15 仕切り部材
15a 開孔
15b 突起部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8