(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233506
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】ガスケット及び密封構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
F16J15/10 T
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-517836(P2016-517836)
(86)(22)【出願日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2015058658
(87)【国際公開番号】WO2015170519
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2016年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-97141(P2014-97141)
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】古林 潤
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−316724(JP,A)
【文献】
特開2002−039392(JP,A)
【文献】
特開2010−178537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2部材のうちの一方の部材に設けられた環状の装着溝に装着され、該装着溝の溝底面と前記2部材のうちの他方の部材の端面にそれぞれ密着することにより、前記2部材間の隙間を封止するガスケットにおいて、
100℃の環境下で、ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長以下となるように設計されていることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
100℃の環境下で、ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長に対して、98%以上99%以下となるように設計されていることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
互いに固定される2部材と、
これら2部材のうちの一方の部材に設けられた環状の装着溝に装着され、該装着溝の溝底面と前記2部材のうちの他方の部材の端面にそれぞれ密着することにより、前記2部材間の隙間を封止するガスケットと、
を備える密封構造において、
100℃の環境下で、前記ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長以下となるように設計されていることを特徴とする密封構造。
【請求項4】
100℃の環境下で、前記ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長に対して、98%以上99%以下となるように設計されていることを特徴とする請求項3に記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2部材間の隙間を封止するガスケット及び密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドカー(HV),電気自動車(EV),燃料電池車(FCV)などに搭載されるインバータやコンバータにおいては、ケース本体とカバーとの間に防水用のガスケットが設けられている。すなわち、これらケース本体とカバーのうちの一方の部材に設けられた環状の装着溝にガスケットが装着され、装着溝の溝底面と他方の部材の端面にガスケットが密着することにより、ケース本体とカバーとの間の隙間が封止される。そして、これらのケース本体やカバーは、アルミダイキャストにより構成されることが多い。一般的に、アルミダイキャストの場合には、寸法精度はあまり高くない。このような場合、ガスケットの断面形状を縦長とすることで、ガスケットの圧縮量の誤差が比較的大きくなってしまっても、密封性能を安定的に発揮させることができる。
【0003】
このように、断面形状が縦長のガスケットの場合には、内圧(密封対象流体の圧力)によって、装着溝内で倒れてしまい易いという欠点がある。そのため、ガスケットは、装着溝の外周側の側壁面に沿うように装着させるのが一般的である。この従来例に係る密封構造について、
図7を参照して説明する。
図7は従来例に係るガスケットが装着溝に装着された状態を示す平面図である。
【0004】
図示のように、ガスケット500は、2部材(例えば、ケース本体とカバー)のうちの一方の部材(第1部材200)に設けられた環状の装着溝210に装着される。このとき、ガスケット500は、装着溝210の外周側の側壁面212に沿うように装着される。これにより、ガスケット500の外周面530と、装着溝210の外周側の側壁面212とが密着した状態となる。このようにガスケット500を装着させることにより、内圧を受けた場合でも、ガスケット500が装着溝210内で倒れてしまうことが抑制される。
【0005】
しかしながら、上記のようなインバータやコンバータに用いられるガスケット500においては、使用環境温度が最高100℃にも達する。このような環境下においては、ガスケット500及び第1部材200は熱により膨張する。ここで、ガスケット500と一方の部材200は、材料が異なるため(例えば前者はゴムで後者はアルミニウム)、線膨張係数の違いにより、膨張量が異なる。つまり、ガスケット500の膨張量の方が、第1部材200の膨張量よりも大きくなる。従って、使用環境における最高温度の環境下においては、ガスケット500の外周面の周長が、装着溝210の外周側の側壁面212の周長よりも長くなる。これにより、
図8に示すように、装着溝210内において、ガスケット500が蛇行した状態となり、密封性能が不安定になってしまうことがあった。なお、
図8は従来例に係るガスケットの高温時における装着溝内の状態を示す図である。また、
図7及び
図8においては、説明の便宜上、ガスケット500と装着溝210の側壁面との間の隙間を誇張して広めに描いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−178537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、使用環境が高温となる条件下においても、安定的に密封性能を発揮させることが可能なガスケット及び密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明のガスケットは、
2部材のうちの一方の部材に設けられた環状の装着溝に装着され、該装着溝の溝底面と前記2部材のうちの他方の部材の端面にそれぞれ密着することにより、前記2部材間の隙間を封止するガスケットにおいて、
使用環境における最高温度の環境下で、ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長以下となるように設計されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の密封構造は、
互いに固定される2部材と、
これら2部材のうちの一方の部材に設けられた環状の装着溝に装着され、該装着溝の溝底面と前記2部材のうちの他方の部材の端面にそれぞれ密着することにより、前記2部材間の隙間を封止するガスケットと、
を備える密封構造において、
使用環境における最高温度の環境下で、前記ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長以下となるように設計されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明における「使用環境における最高温度」とは、ガスケットが装着される機器の稼働時にガスケットが曝される環境温度の最大値を意味する。
【0012】
本発明によれば、使用環境における最高温度の環境下で、ガスケット及び一方の部材が熱により膨張した状態となっても、ガスケットの外周面の周長は、装着溝の外周側の側壁面の周長以下となっている。従って、ガスケットが装着溝内で蛇行してしまうことを抑制することができる。
【0013】
また、使用環境における最高温度の環境下で、ガスケットの外周面の周長が、前記装着溝の外周側の側壁面の周長に対して、98%以上99%以下となるように設計されているとよい。
【0014】
これにより、ガスケットが装着溝内で蛇行してしまうことを抑制しつつ、装着溝内でガスケットが内圧により倒れてしまうことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、使用環境が高温となる条件下においても、安定的に密封性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の実施例に係るガスケットの平面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例に係るガスケットの模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例に係るガスケットの使用時の状態を示す模式的断面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例に係るガスケットの室温時における装着溝内の状態を示す図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例に係るガスケットの高温時における装着溝内の状態を示す図である。
【
図6】
図6は本発明の変形例に係るガスケットの高温時における装着溝内の状態を示す図である。
【
図7】
図7は従来例に係るガスケットが装着溝に装着された状態を示す平面図である。
【
図8】
図8は従来例に係るガスケットの高温時における装着溝内の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
(実施例)
図1〜
図5を参照して、本発明の実施例に係るガスケット及び密封構造について説明する。
図1は本発明の実施例に係るガスケットの平面図である。
図2は本発明の実施例に係るガスケットの模式的断面図であり、
図1中のAA断面図である。
図3は本発明の実施例に係るガスケットの使用時の状態を示す模式的断面図である。
図4は本発明の実施例に係るガスケットの室温時における装着溝内の状態を示す図である。
図5は本発明の実施例に係るガスケットの高温時における装着溝内の状態を示す図である。なお、
図4及び
図5においては、装着溝210内のガスケット100の様子を平面的に見た図により示している。また、
図4及び
図5中の第1部材200(一方の部材)においては、装着溝210以外の構成については省略し、簡略的に示している。
【0019】
<ガスケット>
特に、
図1及び
図2を参照して、本実施例に係るガスケット100の構成について説明する。本実施例に係るガスケット100は、平面形状が略矩形の環状の部材により構成される。そして、このガスケット100は、合成ゴムや熱可塑性エラストマーなどの弾性材料により構成される。また、このガスケット100は、断面形状が縦長となるように構成される。つまり、ガスケット100の高さ(一方の端面110から他方の端面120までの距離)Hが、ガスケット100の幅Wよりも大きくなるように構成される。より具体的には、H/Wが2以上4以下となるように設計される。例えば、高さHは4mm以上7mm以下の範囲となり、幅Wは1.5mm以上3mm以下の範囲となるように設計された上で、H/Wが2以上4以下となるように設計されると好適である。
【0020】
<密封構造>
特に、
図3を参照して、本実施例に係る密封構造について説明する。本実施例に係る密封構造は、互いに固定される2部材を備えている。以下、2部材のうちの一方の部材を「第1部材200」と称し、2部材のうちの他方の部材を「第2部材300」と称する。なお、これらの部材の具体例としては、HV,EV,FCVなどに搭載されるインバータやコンバータにおけるケース本体(第1部材200)とカバー(第2部材300)を挙げることができる。
【0021】
第1部材200には、環状の装着溝210が設けられている。この装着溝210の平面形状はガスケット100の平面形状と相似形状であり(
図4,5参照)、装着溝210の断面形状は矩形である。この装着溝210にガスケット100が装着される。そして、ガスケット100は、一方の端面110が装着溝210の溝底面211に密着し、他方の端面120が第2部材300の端面310に密着する。これにより、ガスケット100は、第1部材200と第2部材300との間の隙間を封止する。ここで、第1部材200と第2部材300がアルミダイキャストにより構成される場合、これらの寸法精度はあまり高くない。しかしながら、本実施例に係るガスケット100は、上記の通り、断面形状が縦長であるので、ガスケット100の圧縮量の誤差が比較的大きくなってしまっても、密封性能を安定的に発揮させることができる。
【0022】
<ガスケットと装着溝の寸法関係>
特に、
図4及び
図5を参照して、本実施例に係るガスケット100と装着溝210の寸法関係について説明する。
図4及び
図5は装着溝210にガスケット100を装着した際の様子を平面図にて示しており、
図4においては室温時の状態を示し、
図5においては高温時(使用環境における最高温度の時)の状態を示している。なお、
図4及び
図5においては、説明の便宜上、ガスケット100と装着溝210の側壁面との間の隙間を誇張して広めに描いている。
【0023】
室温(25℃)時においては、ガスケット100の内周面及び外周面130は、装着溝210の内周側の側壁面及び外周側の側壁面212との間に、それぞれ隙間が形成される(
図4参照)。これに対して、高温時においては、ガスケット100の外周面130は、装着溝210の外周側の側壁面212に接触する(
図5参照)。このように、本実施例においては、ガスケット100の外周面130が、装着溝210の外周側の側壁面212に対して、室温時には接触せず、高温時には接触するように、ガスケット100が設計されている。この点について、以下、より詳細に説明する。なお、本実施例において、「使用環境における最高温度」とは、ガスケットが装着される機器の稼働時にガスケットが曝される環境温度の最大値を意味する。また、説明の便宜上、適宜、「室温」を「室温T(RT)」と称し、「使用環境における最高温度」を「最大環境温度T(MAX)」と称する。
【0024】
本実施例においては、最大環境温度T(MAX)の状態におけるガスケット100の外周面の周長L1(MAX)が、最大環境温度T(MAX)の状態における装着溝210の外周側の側壁面212の周長L2(MAX)以下となるように設計されている。ここで、室温T(RT)の状態におけるガスケット100の外周面の周長をL1(RT)とし、ガスケット100の線膨張係数をα1とすると、
L1(MAX)=L1(RT)×{1+α1(T(MAX)−T(RT))}
となる。
【0025】
また、室温T(RT)の状態における装着溝210の外周側の側壁面212の周長をL2(RT)とし、第1部材200の線膨張係数をα2とすると、
L2(MAX)=L2(RT)×{1+α2(T(MAX)−T(RT))}
となる。
【0026】
なお、室温T(RT)は25℃とすることができる。また、HV,EV,FCVなどに搭載されるインバータやコンバータにガスケット100が用いられる場合に、ガスケット100が曝される環境温度の最大値は約100℃となる。従って、上記の式においては、例えば、T(MAX)を100℃とすることができる。
【0027】
ここで、内圧(密封対象流体の圧力)を受けた場合でも、ガスケット100が装着溝210内で倒れてしまうことを、より確実に抑制させるためには、ガスケット100の外周面130が、装着溝210の外周側の側壁面212に密着させるのが望ましい。従って、理想的には、L1(MAX)=L2(MAX)を満たすのが望ましい。しかしながら、現実的には、各種部材の寸法誤差等を踏まえて、
98[%]≦L1(MAX)÷L2(MAX)×100≦99[%]
を満たすように設計するのが好適である。
【0028】
<本実施例に係るガスケット及び密封構造の優れた点>
本実施例によれば、最大環境温度T(MAX)の環境下で、ガスケット100及び第1部材200が熱により膨張した状態となっても、ガスケット100の外周面の周長L1(MAX)は、装着溝210の外周側の側壁面212の周長L2(MAX)以下となっている。従って、ガスケット100が装着溝210内で蛇行してしまうことを抑制することができる。
【0029】
また、本実施例においては、最大環境温度T(MAX)の環境下で、ガスケット100の外周面の周長L1(MAX)が、装着溝210の外周側の側壁面212の周長L2(MAX)に対して、98%以上99%以下となるように設計されている。これにより、ガスケット100が装着溝210内で蛇行してしまうことを抑制しつつ、装着溝210内でガスケットが内圧により倒れてしまうことを抑制することができる。
【0030】
(その他)
上記実施例においては、ガスケット100及び装着溝210の平面形状が略矩形の場合の構成を示した。しかしながら、本発明におけるガスケット及び装着溝の平面形状は、略矩形に限られることはない。つまり、ガスケットの外周面が、装着溝の外周側の側壁面に対して、室温時には接触せず、高温時には接触するように、ガスケットの設計が可能な限り、様々な形状を採用し得る。例えば、
図6に示すように、ガスケット及び装着溝の平面形状を円形にすることも可能である。
図6は本発明の変形例に係るガスケットの高温時における装着溝内の状態を示す図である。
【0031】
図示の変形例においては、ガスケット100aは、平面形状が円形の環状の部材により構成される。なお、ガスケット100aの材料及び断面形状については、上記実施例の場合と同様である。そして、第1部材200aに、平面形状が円形の装着溝210aが設けられている。この変形例においても、ガスケット100aの外周面130aが、装着溝210aの外周側の側壁面212aに対して、室温時には接触せず、高温時には接触するように、ガスケット100aが設計されている。
図6においては、高温環境下(最大環境温度T(MAX)の環境下)において、ガスケット100aの外周面130aが、装着溝210aの外周側の側壁面212aに接触した状態を示している。以上のように構成されるガスケット100a及び密封構造においても、上記実施例の場合と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
100,100a ガスケット
110,120 端面
130,130a 外周面
200,200a 第1部材
210,210a 装着溝
211 溝底面
212,212a 側壁面
300 第2部材
310 端面