(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<第1実施形態>
図1を参照して、本発明の第1実施形態による車両用の燃料電池システム100について説明する。
【0010】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック110と、カソードガス給排装置120と、アノードガス給排装置130と、コントローラ140と、を備える。
【0011】
燃料電池スタック110は、複数の燃料電池を積層した積層電池である。燃料電池スタック110は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。この発電電力は、燃料電池システムを運転するときに使用される各種の補機や、車輪駆動用モータで使用される。
【0012】
カソードガス給排装置120は、燃料電池スタック110にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック110から排出されるカソードオフガスを外部に排出する。カソードガス給排装置120は、カソードガス供給通路121と、カソードガス排出通路122と、ガスフィルタ123と、カソードガス供給装置1と、カソードガスクーラ124と、水分回収装置(Water Recovery Device;以下「WRD」という。)125と、カソード調圧弁126と、バイパス通路127と、バイパス弁128と、カソード圧力センサ141と、第1エアフローセンサ142と、第2エアフローセンサ143と、を備える。
【0013】
カソードガス供給通路121は、燃料電池スタック110に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路121の一端はガスフィルタ123に接続され、他端は燃料電池スタック110のカソードガス入口部に接続される。
【0014】
カソードガス排出通路122は、燃料電池スタック110から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路122の一端は燃料電池スタック110のカソードガス出口部に接続され、他端は開口端として形成される。カソードオフガスは、カソードガスや電極反応によって生じた水蒸気等を含む混合ガスである。
【0015】
ガスフィルタ123は、カソードガス供給通路121の先端に設けられる。ガスフィルタ123は、カソードガス供給通路121に取り込まれる空気(カソードガス)に含まれる塵や埃等を除去する。
【0016】
カソードガス供給装置1は、ガスフィルタ123より下流側のカソードガス供給通路121に設けられる。カソードガス供給装置1は、ガスフィルタ123で異物が取り除かれたカソードガスを燃料電池スタック110に供給する。カソードガス供給装置1の詳細については、
図2A及び
図2Bを参照して説明する。
【0017】
図2Aに示すように、カソードガス供給装置1は、カソードガスを圧送するコンプレッサ10と、コンプレッサ10を駆動する駆動装置11と、を備える。駆動装置11は、コンプレッサ10を駆動する第1の駆動源としての電動モータ20と、コンプレッサ10を駆動する第2の駆動源としてのタービン30と、電動モータ20とタービン30との間に設けられるクラッチ40と、を備える。そして、本実施形態では、タービン30に対してタービン30を駆動するための作動流体を供給する作動流体供給装置50として、燃料電池スタック110にアノードガスを供給するための高圧タンク131を用い、高圧タンク131から供給されるアノードガスを作動流体として利用している。すなわち、タービン30の動力源としてアノードガスを使用している。このように、駆動装置11は、電動モータ20と、電動モータ20以外を動力源とするタービン30と、の少なくとも2つのコンプレッサ駆動源を含み、これらのコンプレッサ駆動源によりコンプレッサ10を駆動させる。
【0018】
コンプレッサ10は、カソードガス供給通路121内に設けられる。コンプレッサ10は、ガスフィルタ123とカソードガスクーラ124との間に配置される。コンプレッサ10は、回転駆動されることで、燃料電池スタック110にカソードガスを供給するように構成されている。コンプレッサ10は、電動モータ20及びタービン30の一方又は双方の動力のいずれかにより駆動される。
【0019】
電動モータ20は、カソードガス供給通路121とアノードガス供給通路132の間に配置される。電動モータ20は、モータケース21と、モータケース21の内周面に固定されるステータ22と、ステータ22の内側に回転可能に配置されるロータ23と、ロータ23に設けられた出力回転軸24と、を備える。
【0020】
電動モータ20は、外部電源等から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能とを有する。
【0021】
電動モータ20の出力回転軸24の一端はコンプレッサ10に接続され、出力回転軸24の他端はクラッチ40を介してタービン30に接続される。
【0022】
タービン30は、アノードガス供給通路132内に設けられる。タービン30は、高圧タンク131とアノード調圧弁133との間に配置される。タービン30は、高圧タンク131から燃料電池スタック110に供給されるアノードガス(作動流体)により回転駆動されるように構成されている。すなわちタービン30は、アノードガスの有するエネルギを駆動力に変換するものである。本実施形態では、燃料電池スタック110にアノードガスを供給するための高圧タンク131を、タービン30に作動流体を供給する作動流体供給装置50として利用している。タービン30の回転駆動力は、クラッチ40及び電動モータ20の出力回転軸24を介してコンプレッサ10に伝達される。
【0023】
コンプレッサ10、電動モータ20、及びタービン30は、コンプレッサ10の回転中心軸と、電動モータ20の出力回転軸24と、タービン30の回転中心軸とが同軸となるように配置される。このように配置することで、カソードガス供給装置1をコンパクトな構成とすることができる。
【0024】
クラッチ40は、電動モータ20の出力回転軸24とタービン30との接続状態を切り換える動力伝達装置である。
図2Aに示すように、クラッチ40が接続された状態(半クラッチの状態も含む)では、電動モータ20の出力回転軸24とタービン30とが接続される。
図2Bに示すように、クラッチ40が解放された状態では、電動モータ20の出力回転軸24とタービン30との接続が遮断される。
【0025】
カソードガス供給装置1では、コンプレッサ10の駆動に関し、電動モータ20とタービン30とがそれぞれ独立した駆動源として機能する。
【0026】
すなわち、
図2Aに示すクラッチ接続状態では、コンプレッサ10を、アノードガスの供給を受けて回転駆動するタービン30の回転駆動力だけで駆動して、カソードガスを燃料電池スタック110に供給することができる。また
図2Aに示すクラッチ接続状態では、コンプレッサ10を、電力により回転駆動する電動モータ20の回転駆動力と、アノードガスの供給を受けて回転駆動するタービン30の回転駆動力とにより駆動して、カソードガスを燃料電池スタック110に供給することもできる。
【0027】
一方で、
図2Bに示すクラッチ解放状態では、コンプレッサ10を、電力により回転駆動する電動モータ20の回転駆動力だけで駆動して、カソードガスを燃料電池スタック110に供給することができる。このように、コンプレッサ10を電動モータ20の回転駆動力だけで駆動するときは、タービン30を切り離すことでタービン30が電動モータ20の負荷となるのを防止する。これにより、タービン30が負荷となって電動モータ20の応答性が低下するのを防止できる。
【0028】
図1に戻り、カソードガスクーラ124は、カソードガス供給装置1よりも下流のカソードガス供給通路121に設けられる。カソードガスクーラ124は、カソードガス供給装置1から吐出されたカソードガスを冷却する。
【0029】
WRD125は、カソードガスクーラ124よりも下流のカソードガス供給通路121に設けられる。WRD125は、カソードガス供給通路121の下流部とカソードガス排出通路122の上流部とに跨るように設けられる。WRD125は、カソードガス排出通路122を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分でカソードガス供給通路121を流れるカソードガスを加湿する。
【0030】
カソード調圧弁126は、WRD125よりも下流のカソードガス排出通路122に設けられる。カソード調圧弁126は、コントローラ140によって開閉制御され、燃料電池スタック110に供給されるカソードガスの圧力を調整する。
【0031】
バイパス通路127は、カソードガス供給装置1から供給されたカソードガスの一部を、燃料電池スタック110を経由させずにカソードガス排出通路122に直接排出するように構成された通路である。バイパス通路127の一端はカソードガス供給装置1とカソードガスクーラ124との間のカソードガス供給通路121に接続され、他端はカソード調圧弁126よりも下流のカソードガス排出通路122に接続される。
【0032】
バイパス弁128は、バイパス通路127に設けられる。バイパス弁128は、コントローラ140によって開閉制御され、バイパス通路127を通過するカソードガスの流量(バイパス流量)を調整する。
【0033】
カソード圧力センサ141は、カソードガスクーラ124とWRD125との間のカソードガス供給通路121に設けられる。カソード圧力センサ141は、燃料電池スタック110に供給されるカソードガスの圧力を検出する。
【0034】
第1エアフローセンサ142は、コンプレッサ10よりも上流のカソードガス供給通路121に設けられる。第1エアフローセンサ142は、コンプレッサ10に吸入されるカソードガスの流量(以下「コンプレッサ吸入流量」という。)を検出する。以下では、この第1エアフローセンサ142の検出値を「検出コンプレッサ吸入流量」という。
【0035】
第2エアフローセンサ143は、カソードガスクーラ124とWRD125との間のカソードガス供給通路121に設けられる。第2エアフローセンサ42は、コンプレッサ10から吐出されたカソードガスのうち、燃料電池スタック110に供給されるカソードガスの流量(以下「スタック供給流量」という。)を検出する。スタック供給流量は、コンプレッサ供給流量からバイパス流量を引いた流量である。以下では、この第2エアフローセンサ42の検出値を「検出スタック供給流量」という。
【0036】
次に、アノードガス給排装置130について説明する。アノードガス給排装置130は、燃料電池スタック110にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック110から排出されるアノードオフガスをカソードガス排出通路122に排出する。アノードガス給排装置130は、高圧タンク131と、アノードガス供給通路132と、アノード調圧弁133と、アノードガス排出通路135と、バッファタンク136と、パージ弁137と、アノード圧力センサ144と、を備える。
【0037】
高圧タンク131は、燃料電池スタック110に供給するアノードガス(水素ガス)を高圧状態に保って貯蔵するガス貯蔵容器である。本実施形態では、この高圧タンク131が、タービン30に作動流体を供給するための作動流体供給装置50としての役割も果たしている。
【0038】
アノードガス供給通路132は、高圧タンク131から排出されるアノードガスを燃料電池スタック110に供給する通路である。アノードガス供給通路132の一端は高圧タンク131に接続され、他端は燃料電池スタック110のアノードガス入口部に接続される。高圧タンク131とカソードガス供給装置1のタービン30との間のアノードガス供給通路132には、タービン30に供給される作動流体としてのアノードガスの圧力を検出する作動流体用圧力センサ132Aが設けられる。
【0039】
アノード調圧弁133は、カソードガス供給装置1のタービン30よりも下流のアノードガス供給通路132に設けられる。アノード調圧弁133は、コントローラ140によって開閉制御され、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力及び流量を調整する。
【0040】
アノードガス排出通路135は、燃料電池スタック110から排出されたアノードオフガスを流す通路である。アノードガス排出通路135の一端は燃料電池スタック110のアノードガス出口部に接続され、他端はカソード調圧弁126よりも下流のカソードガス排出通路122に接続される。
【0041】
バッファタンク136は、アノードガス排出通路135に設けられる。バッファタンク136は、アノードガス排出通路135を流れてきたアノードオフガスを一時的に蓄える容器である。バッファタンク136に溜められたアノードオフガスは、パージ弁137が開かれる時にカソードガス排出通路122に排出される。
【0042】
パージ弁137は、バッファタンク136よりも下流のアノードガス排出通路135に設けられる。パージ弁137は、コントローラ140によって開閉制御され、アノードガス排出通路135からカソードガス排出通路122に排出するアノードオフガスの流量(パージ流量)を制御する。
【0043】
パージ弁137が開弁されてパージ制御が実行されると、アノードオフガスは、アノードガス排出通路135及びカソードガス排出通路122を通じて外部に排出される。この時、アノードオフガスは、カソードガス排出通路122内でカソードオフガスと混合される。このようにアノードオフガスとカソードオフガスとを混合させて外部に排出することで、排出ガス中の水素濃度が排出許容濃度以下の値に設定される。
【0044】
アノードガス給排装置130は、アノードオフガスをアノードガス供給通路132に還流するため、エゼクタ138、還流通路139、及び還流ポンプ139Aをさらに備えている。
【0045】
エゼクタ138は、アノード調圧弁133とアノード圧力センサ144との間のアノードガス供給通路132に設けられる。
【0046】
還流通路139は、アノードガス排出通路135のアノードオフガスをアノードガス供給通路132に導く通路である。還流通路139の一端はアノードガス排出通路135のバッファタンク136に接続され、他端はアノードガス供給通路132のエゼクタ138に接続される。
【0047】
還流通路139には、還流ポンプ139Aが設けられる。還流ポンプ139Aは、必要に応じて駆動され、燃料電池スタック110から排出されたアノードオフガスをアノードガス排出通路135側からアノードガス供給通路132側に圧送する。
【0048】
アノード圧力センサ144は、アノード調圧弁133よりも下流のアノードガス供給通路132に設けられる。アノード圧力センサ144は、燃料電池スタック110のアノードガス入口部の近傍に配置される。アノード圧力センサ144は、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力(=後述するタービン30に供給される作動流体としてのアノードガスの圧力)を検出する。
【0049】
上記のように構成される燃料電池システム100は、当該システムを統括的に制御する制御装置としてのコントローラ140を有している。
【0050】
コントローラ140は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0051】
コントローラ140には、前述したカソード圧力センサ141等の各種センサからの信号の他、燃料電池スタック110の出力電圧を検出する電圧センサ145や、燃料電池スタック110の出力電流を検出する電流センサ146、車両のアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ147などの燃料電池システム100の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される。
【0052】
コントローラ140は、これらセンサの検出信号等に基づいて、カソードガス供給装置1や、還流ポンプ139A、各種弁126,128,133,137等を制御する。
【0053】
以下、
図3のフローチャートを参照して、コントローラ140が実施する第1実施形態による燃料電池システム100のカソードガスの供給制御について説明する。コントローラ140は、このルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行する。
【0054】
ステップS1において、コントローラ140は、車両駆動用の走行モータ(図示せず)の要求電力や補機の要求電力、バッテリ(図示せず)の充放電要求に基づいて、燃料電池スタック110の目標発電電力を算出する。
【0055】
ステップS2において、コントローラ140は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、コンプレッサ吸入流量の目標値(以下「目標コンプレッサ吸入流量」という。)を算出する。目標コンプレッサ吸入流量の具体的な算出方法については、
図4を参照して説明する。
【0056】
図4は、目標コンプレッサ吸入流量の算出方法について説明するフローチャートである。
【0057】
ステップS21において、コントローラ140は、目標発電電力に基づいて、スタック供給流量の目標値(以下「目標スタック供給流量」という。)を算出する。目標スタック供給流量は、目標発電電力を発電したときに、燃料電池スタック110のカソード電極内で電極反応に必要な酸素分圧を確保するために必要なスタック供給流量に相当する。換言すれば、目標スタック供給流量は、目標発電電力を発電するために必要なスタック供給流量に相当する。目標スタック供給流量は、目標発電電力が大きいときほど大きくなる。
【0058】
ステップS22において、コントローラ140は、検出スタック供給流量と目標スタック供給流量との偏差に基づいて、検出スタック供給流量を目標スタック供給流量にするために必要なコンプレッサ吸入流量を、発電要求コンプレッサ吸入流量として算出する。
【0059】
ステップS23において、コントローラ140は、目標発電電力に基づいて、希釈要求コンプレッサ吸入流量を算出する。希釈要求コンプレッサ吸入流量は、燃料電池システム100の外部に排出される排出ガスの水素濃度を、排出許容濃度以下にするために必要なコンプレッサ吸入流量である。本実施形態では、目標発電電力が大きいときほど希釈要求コンプレッサ吸入流量が大きくなるようにしているが、目標発電電力にかかわらず一定値としても構わない。
【0060】
ステップS24において、コントローラ140は、発電要求コンプレッサ吸入流量と希釈要求コンプレッサ吸入流量とに基づいて、目標コンプレッサ吸入流量を算出する。具体的には、発電要求と希釈要求の両者を満足させるために、発電要求コンプレッサ吸入流量及び希釈要求コンプレッサ吸入流量のうちの大きい方を、目標コンプレッサ吸入流量として算出する。なお、本実施形態では、発電要求コンプレッサ吸入流量及び希釈要求コンプレッサ吸入流量のうちの大きい方を、目標コンプレッサ吸入流量として算出しているが、例えばコンプレッサ10でサージを回避するために必要なカソードガス流量(サージ要求コンプレッサ吸入流量)と、上記2つの要求コンプレッサ吸入流量の最も大きいものを目標コンプレッサ吸入流量として算出しても良い。
【0061】
図3に戻り、ステップS3において、コントローラ140は、燃料電池システム100の運転状態に応じて変化する目標コンプレッサ吸入流量に基づいて、コンプレッサ10の目標出力トルクを算出する。コンプレッサ10の目標出力トルクは、検出コンプレッサ吸入流量を目標コンプレッサ吸入流量にするために必要なコンプレッサ10の出力トルクに相当する。
【0062】
ステップS4において、コントローラ140は、高圧タンク131からタービン30に供給される作動流体としてのアノードガスが有するエネルギ量に基づいて、タービン30の出力可能トルクを算出する。具体的には、
図5のテーブルに示すように、タービン30に供給される作動流体としてのアノードガスの圧力に基づいて、タービン30の出力可能トルクを算出する。アノードガスが有するエネルギ量と相関関係にあるパラメータとしては、圧力以外にも流量が挙げられるので、アノードガスの流量に基づいてタービン30の出力可能トルクを算出することもできる。
【0063】
なお、タービン30に供給される作動流体としてのアノードガスの圧力、すなわち燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて制御されている。具体的には、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力が、燃料電池スタック110に供給されるカソードガスの圧力以上となるように、コントローラ140が燃料電池システム100の運転状態に基づいてアノード調圧弁133の開度を制御している。
【0064】
ステップS5において、コントローラ140は、クラッチ40の接続が許可されている運転状態か否かを判定する。本実施形態では、燃料電池システム100の要求によりアノードガスが燃料電池スタック110に供給されない運転状態の場合、例えばアイドルストップ制御時にカソードガスのみを燃料電池スタック110に供給する運転状態の場合、コントローラ140はクラッチ40の接続が許可されていない運転状態であるとしてステップS11の処理に進む。また、燃料電池システム100の起動中初期は、水素希釈を確実なものとするためにカソードガスのみを供給し、起動中後期からアノードガスを供給するようにしているため、この場合もクラッチ40の接続を許可せずにステップS11の処理に進む。さらに燃料電池システム100の停止中後期もカソードガスのみを供給するようにしているので、この場合もクラッチ40の接続を許可せずにステップS11の処理に進む。このようにシステム起動中初期や停止中後期、アイドルストップ制御時等にカソードガスのみを燃料電池スタック110に供給する運転状態の場合、コントローラ140はクラッチ40の接続が許可されていない運転状態であるとしてステップS11の処理に進む。一方でコントローラ140は、アノードガスが燃料電池スタック110に供給される通常の運転状態の場合は、クラッチ40の接続が許可されている運転状態であるとしてステップS6の処理に進む。このように、コントローラ140は、タービン30の動力源となるアノードガスの状態に基づいてクラッチ40を制御している。
【0065】
なお、アノードガスが燃料電池スタック110に供給されない運転状態というのは、換言すれば、タービン30の出力可能トルクがゼロとなる運転状態のときであり、タービン30が回転していない運転状態のときである。したがって、ステップS5においてクラッチ40の接続が許可されていない運転状態と判定したときは、クラッチ40を解放状態とせずに、直接ステップS12に進んでもよい。ただし、この場合はタービン30が電動モータ20の負荷として作用してしまうので、本実施形態のようにクラッチ40を解放状態とした方が望ましい。
【0066】
ステップS6において、コントローラ140は、コンプレッサ10の目標出力トルクからタービン30の出力可能トルクを減じた差分トルクを算出する。
【0067】
ステップS7において、コントローラ140は、クラッチ40を接続するか否かを判定する。具体的には、差分トルクが所定のクラッチ接続閾値(所定閾値)未満か否かを判定する。
【0068】
コントローラ140は、差分トルクがクラッチ接続閾値未満であれば、クラッチ40を接続状態として、電動モータ20とタービン30とでコンプレッサ10を駆動するか、又はタービン30のみでコンプレッサ10を駆動すべく、ステップS7の処理に進む。一方でコントローラ140は、差分トルクがクラッチ接続閾値以上であれば、クラッチ40を解放状態として電動モータ20のみでコンプレッサ10を駆動すべく、ステップS11の処理に進む。
【0069】
差分トルクがクラッチ接続閾値以上のときに電動モータ20のみでコンプレッサ10を駆動するのは以下の理由による。すなわち、差分トルクがクラッチ接続閾値以上となるのは、例えば、燃料電池スタック110にアノードガスの供給を開始した直後など、アノードガスの圧力が十分に立ち上がる前でタービン30の出力可能トルクが小さいときが挙げられる。このような場合は、タービン30によって得られる動力が小さいので、電動モータ20のみでコンプレッサ10を駆動した方が安定したカソードガスの供給を行うことができるためである。
【0070】
また、差分トルクがクラッチ接続閾値以上となるのは、例えば急加速時等に過渡的にコンプレッサ10の目標出力トルクが急増し、タービン30の出力可能トルクがコンプレッサ10の目標出力トルクに対して小さくなったときが挙げられる。このような場合は、応答性や制御性に優れる電動モータ20のみでコンプレッサ10を駆動した方が、素早く、また精度良くコンプレッサ10の出力トルクを目標出力トルクに制御でき、過渡時の制御性能を向上させることができるためである。
【0071】
このように本実施形態では、差分トルクに応じて、コンプレッサ10を電動モータ20のみで駆動するか、タービン30のみで駆動するか、又は電動モータ20とタービン30とで駆動するかを切り替えるようにしている。ここで、差分トルクは、動力源となるアノードガスの状態(圧力や流量)に応じて変化する。
【0072】
つまり本実施形態では、動力源となるアノードガスの状態に応じて、電動モータ20及びタービン30の一方又は双方によってコンプレッサ10を駆動するかを選択し、燃料電池システム100の運転状態に応じた適切な駆動源でコンプレッサ10を駆動できるようにしている。前述のクラッチ接続閾値は、燃料電池システム100の運転状態に応じた適切な駆動源でコンプレッサ10を駆動できるように適宜設定すれば良いものである。
【0073】
ステップS8において、コントローラ140は、クラッチ40を接続状態とする。
【0074】
ステップS9において、コントローラ140は、電動モータ20の出力トルクを、アノードガスの圧力又は流量に基づいて定まるタービン30の出力可能トルクに応じて制御することで、電動モータ20とタービン30とでコンプレッサ10を駆動するか、又はタービン30のみでコンプレッサ10を駆動する。
【0075】
具体的には、コントローラ140は、ステップS6で算出した差分トルクがゼロよりも大きければ(出力可能トルクが目標出力トルクよりも小さければ)、電動モータ20の目標出力トルクを差分トルクに設定し、電動モータ20とタービン30とでコンプレッサ10を駆動する。すなわち、電動モータ20で差分トルクを発生させると共に、タービン30で出力可能トルクを発生させることでコンプレッサ10の出力トルクをステップS3で算出した目標出力トルクに制御する。このように、コンプレッサ10が電動モータ20とタービン30とで駆動される運転状態としては、例えば燃料電池スタック110が高負荷で定常運転されているときが挙げられる。
【0076】
一方でコントローラ140は、ステップS6で算出した差分トルクがゼロ以下であれば(出力可能トルクが目標出力トルク以上であれば)、電動モータ20の目標出力トルクをゼロに設定し、タービン30のみでコンプレッサ10を駆動する。このように、コンプレッサ10がタービン30のみで駆動される運転状態としては、例えば燃料電池スタック110が低負荷で定常運転されているときが挙げられる。
【0077】
なお、タービン30のみでコンプレッサ10が駆動される場合は、ステップS3で算出したコンプレッサ10の目標出力トルク以上のトルク(=出力可能トルク)でコンプレッサ10が駆動されることになる。したがって、コンプレッサ吸入流量が目標コンプレッサ吸入流量以上となってしまうが、燃料電池スタック110にとって不要な余剰なカソードガスは、以下のステップS10のバイパス弁制御によってバイパス通路127に流され、問題が生じないようになっている。
【0078】
ステップS10において、コントローラ140は、検出スタック供給流量と目標スタック供給流量との偏差に基づいて、検出スタック供給流量が目標スタック供給流量となるようにバイパス弁128をフィードバック制御する。
【0079】
タービン30のみでコンプレッサ10が駆動される場合や、希釈要求コンプレッサ吸入流量が目標コンプレッサ吸入流量として設定されている場合などは、スタック要求コンプレッサ供給流量以上のカソードガスがコンプレッサ10から吐出されることになる。そのため、発電に不要な余剰なカソードガスが燃料電池スタック110に供給されることになる。したがって、このように検出スタック供給流量が目標スタック供給流量となるようにバイパス弁128をフィードバック制御して、発電に不要な余剰なカソードガスがバイパス通路28へ流れるようにしている。
【0080】
ステップS11において、コントローラ140は、クラッチ40を解放状態とする。
【0081】
ステップS12において、コントローラ140は、電動モータ20の目標出力トルクを、ステップS3で算出したコンプレッサ10の目標出力トルクに設定して、電動モータ20のみでコンプレッサ10を駆動する。このように、差分トルクがクラッチ接続閾値以上となる運転状態としては、例えば燃料電池スタック110にアノードガスの供給を開始した直後など、アノードガスの圧力が十分に立ち上がる前でタービン30の出力可能トルクがコンプレッサ10の目標出力トルクに対して小さいときが挙げられる。また、例えば急加速時等に過渡的にコンプレッサ10の目標出力トルクが急増し、タービン30の出力可能トルクがコンプレッサ10の目標出力トルクに対して小さくなったときが挙げられる。
【0082】
上記した本実施形態による燃料電池システム100によれば、以下の効果を得ることができる。
【0083】
アノードガス及びカソードガスが供給される燃料電池スタック110を備える燃料電池システム100は、燃料電池スタック110にカソードガスを供給するコンプレッサ10と、駆動モータとしての電動モータ20と、電動モータ20以外を動力源とする駆動体としてのタービン30と、の少なくとも2つを備えてコンプレッサ10を駆動する駆動装置11と、を備える。そして、タービン30の動力源として、燃料電池システム100が有するエネルギ源を用いた。
【0084】
これにより、電動モータ20と、電動モータ20以外を動力源として駆動されるタービン30と、の少なくとも2つによってコンプレッサ10を駆動することができるので、電動モータ20の動力性能を抑えて電動モータ20を小型化することができる。また、製造コストを低減することが可能となる。そして、タービン30の動力源として、燃料電池システム100が有するエネルギ源を使用するので、新たにタービン30の動力源を追加する必要がなく、燃料電池システム100が有するエネルギ源を無駄なく使用することができる。
【0085】
また、必要に応じて応答性に優れる電動モータ20の駆動力でコンプレッサ10を駆動することができるので、高圧タンクから燃料電池スタックに供給されるアノードガスだけでコンプレッサが駆動される従来のカソードガス供給装置と比べて、燃料電池スタック110にカソードガスを供給するためのコンプレッサ10の応答性を改善することができる。したがって、燃料電池システム100の運転状態に応じた適切なカソードガス供給を実現することが可能となる。
【0086】
また本実施形態では、電動モータ20及びタービン30が同軸上に配置されているので、カソードガス供給装置1を小型化することできる。
【0087】
また、本実施形態では、タービン30の動力源として、燃料電池スタック110に供給される高圧のアノードガスを用いたので、高圧のアノードガスを有効活用でき、燃料電池システム100におけるエネルギ効率を高めることが可能となる。高圧タンク131から排出される際にアノードガスの温度は低下するため、比較的低温のアノードガスがタービン30に供給されることとなり、タービン30周りの部品の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0088】
特に本実施形態では、タービン30に供給される高圧のアノードガスは、高圧タンク131の下流から導入され、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力を調整するアノード調圧弁133の上流に戻される。そのため、タービン30自体が高圧タンク131から排出されたアノードガスを減圧する圧力損失部材として機能するため、タービン30の下流に設けられるアノード調圧弁133を小型化することができる。このようにアノード調圧弁133が小型化されることで、アノード調圧弁133の弁体が小さくなり、アノード調圧弁133の応答性を高めることが可能となる。
【0089】
また本実施形態では、タービン30の駆動力をコンプレッサ10の伝達する動力伝達経路としての出力回転軸24にクラッチ40を備える。そのため、アノードガスが燃料電池スタック110に供給されない運転状態の場合など、必要に応じてクラッチ40を解放することで、電動モータ20のみによりコンプレッサ10を駆動させることができる。これにより、アノードガスが燃料電池スタック110に供給されない場合などに、タービン30自体が電動モータ20の負荷になることを防止でき、電動モータ20での電力消費効率を高めることが可能となる。
【0090】
なお、本実施形態による燃料電池システム100では、タービン30よりも下流のアノードガス供給通路132にアノード調圧弁133を配置した。しかしながら、アノードガスがタービン30を通過することで、アノードガス圧力が燃料電池スタック110での発電に最適な圧力まで低下する場合には、タービン30の下流にアノード調圧弁133を設ける必要はない。
【0091】
また、本実施形態では、電動モータ20とタービン30とをクラッチ40を介して接続しているが、クラッチ40は必ずしも設ける必要はない。クラッチ40を省略することで、駆動装置11をより小型化することができる。
【0092】
<第2実施形態>
図6を参照して、本発明の第2実施形態によるカソードガス供給装置1について説明する。なお、以下の実施形態では、第1実施形態と同じ機能を果たす構成等には同一の符号を用い、重複する説明を適宜省略する。
【0093】
図6に示すように、第2実施形態によるカソードガス供給装置1は、駆動装置11の構成が第1実施形態と相違する。より具体的には、駆動装置11は、タービン30と共に回転するフライホイール31を備えている。
【0094】
フライホイール31は、円板状の錘部材であって、タービン30の回転中心軸に固定される。フライホイール31、電動モータ20、及びコンプレッサ10は同軸上に配置される。フライホイール31は、クラッチ40よりもタービン30寄りの位置であって、アノードガス供給通路132の外側に設けられる。なお、フライホイール31は、アノードガス供給通路132内に設けられてもよい。
【0095】
このように、本実施形態による駆動装置11は、駆動体としてのタービン30と共に回転するフライホイール31を備えるので、タービン30の回転エネルギをフライホイール31に蓄えることができる。このようにフライホイール31に回転エネルギを蓄えることで、クラッチ40の締結時におけるコンプレッサ10の回転数の低下を抑制することが可能となる。これにより、クラッチ40の締結直後にカソードガス供給量が一時的に低下してしまうことを防止でき、燃料電池システム100の運転状態に応じた適切なカソードガス供給を実現することが可能となる。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0097】
第1及び第2実施形態によるカソードガス供給装置1は、車両用の燃料電池システム100に搭載されるが、車両以外の移動体や据え置き型の燃料電池システムに搭載されてもよい。
【0098】
第1及び第2実施形態による駆動装置11はタービン30を備えているが、作動流体等の供給を受けて駆動されるピストンモータやダイフラムモータをタービン30に替えて用いることもできる。
【0099】
また、第1及び第2実施形態のカソードガス供給装置1を備える燃料電池システム100では、
図7に示すように、高圧タンク131とタービン30との間のアノードガス供給通路132に減圧弁160を設置してもよい。このように、タービン30に供給する高圧のアノードガスを、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力を減圧する減圧弁160の下流から導入することで、一定圧に調整されたアノードガスをタービン30に供給することができる。したがって、タービン30を安定的に駆動することができ、コンプレッサ10の制御性を高めることが可能となる。
【0100】
また、第1及び第2実施形態において、電動モータ20をコンプレッサ10のメイン駆動源とすると共にタービン30を補助駆動源として、電動モータ20の回転駆動力では足りない分を補助駆動源となるタービン30の回転駆動力で補うようにクラッチ40等を制御するようにしても良い。このようにしても、応答性に優れる電動モータ20がメイン駆動源となり、作動流体により駆動されるタービン30が補助駆動源となるため、高圧タンクから燃料電池スタックに供給されるアノードガスだけでコンプレッサが駆動される従来のカソードガス供給装置と比べて、燃料電池スタック110にカソードガスを供給するためのコンプレッサ10の応答性を改善することができる。
【0101】
また、第1及び第2実施形態では、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスによりタービン30が駆動されるように構成されているが、この構成に限られるものではない。例えば、
図8に示すように、作動流体供給装置50からアノードガスとは異なる作動流体、例えば車両において利用される作動流体をタービン30に供給してタービン30を駆動するようにしてもよい。このようにしても、第1及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0102】
作動流体供給装置50としては、車室内を冷暖房する空調装置や、燃料電池スタック110を冷却する冷却装置、走行風等が採用される。作動流体供給装置50が空調装置である場合には、空調装置内を循環する冷媒が作動流体としてタービン30に供給される。作動流体供給装置50が冷却装置である場合には、冷却装置内を循環する冷却水が作動流体としてタービン30に供給される。
【0103】
また、第1及び第2実施形態による燃料電池システム100では、
図5のテーブルを参照し、アノードガスの圧力に基づいてタービン30の出力可能トルクを算出していたが、
図9に示すマップを参照し、アノードガスの圧力及び温度に基づいてタービン30の出力可能トルクを算出することもできる。アノードガスの温度は、例えば高圧タンク131とタービン30との間のアノードガス供給通路132に温度センサを設けて検出すれば良い。アノードガスの温度が高くなるほど、アノードガスの密度が上がって作動流体としてのアノードガスの有するエネルギ量も多くなる。したがって、
図9のマップに示すように、温度が高くなるほどタービン30の出力可能トルクが高くなるように補正することで、タービン30の出力可能トルクを精度良く算出することができる。