特許第6233527号(P6233527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233527
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】ラダー型フィルタ及びデュプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20171113BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20171113BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H03H9/64 Z
   H03H9/72
   H03H9/145 C
   H03H9/145 D
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-552882(P2016-552882)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2015076759
(87)【国際公開番号】WO2016056384
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-205547(P2014-205547)
(32)【優先日】2014年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道上 彰
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】葛下 琢真
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−282707(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/133084(WO,A1)
【文献】 特開2007−259023(JP,A)
【文献】 特開2009−182407(JP,A)
【文献】 特開平05−167387(JP,A)
【文献】 特開2007−174307(JP,A)
【文献】 特開平08−065089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/64
H03H 9/72
H03H 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子及び出力端子を結ぶ直列腕に設けられた複数の直列腕共振子と、前記直列腕とグラウンド電位とを結ぶ複数の並列腕にそれぞれ設けられた複数の並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであって、
圧電基板と、
前記圧電基板上に配置された絶縁膜と、
前記圧電基板上に設けられており、一対のバスバーと、該一対のバスバーにそれぞれ接続された複数本の電極指とを有する第1,第2のIDT電極と、
前記圧電基板上に設けられており、少なくとも一部が前記第1のIDT電極の一方側のバスバーとして設けられている第1の配線電極と、
前記圧電基板上に設けられており、少なくとも一部が前記第2のIDT電極の一方側のバスバーとして設けられている第2の配線電極と、
前記第2の配線電極上に積層された第3の配線電極とを備え、
前記第1,第2のIDT電極が、前記複数の直列腕共振子又は前記複数の並列腕共振子として設けられており、
前記第1の配線電極と、前記第2の配線電極とが、それぞれ異なる電位に接続され、
前記第1の配線電極と、前記第2の配線電極とが、隔てられており、
前記第3の配線電極の少なくとも一部が、積層方向において、前記絶縁膜を介して、前記第1の配線電極の少なくとも一部と重なり合っており、
前記複数の並列腕共振子が、前記複数の並列腕のうち1つの並列腕に設けられており、かつ前記第1のIDT電極により形成されている第1の並列腕共振子と、前記複数の並列腕のうち前記第1の並列腕共振子が設けられている並列腕とは他の並列腕に設けられており、かつ前記第2のIDT電極により形成されている第2の並列腕共振子とを有する、ラダー型フィルタ。
【請求項2】
前記第2の配線電極の前記複数本の電極指の延びる方向に沿う寸法である幅が、前記第1の配線電極の前記複数本の電極指の延びる方向に沿う寸法である幅より小さい、請求項1に記載のラダー型フィルタ。
【請求項3】
前記第1の配線電極の厚みが、前記第2の配線電極の厚みと同じ厚みである、請求項1または2に記載のラダー型フィルタ。
【請求項4】
前記第3の配線電極の厚みが、前記第1,第2の配線電極の厚みより大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項5】
前記複数の電極指が延びる方向において、前記第1の並列腕共振子の少なくとも一部が、前記第2の並列腕共振子の少なくとも一部と重なっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項6】
前記第1の配線電極の一端が、前記第1の並列腕共振子に接続され、前記第1の配線電極の他端がグラウンド電位に接続されており、
前記第2の配線電極の一端が、前記第2の並列腕共振子に接続され、前記第2の配線電極の他端が前記複数の直列腕共振子のうち少なくとも1つの直列腕共振子に接続されている、請求項1〜のいずれか1項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項7】
前記第1の並列腕共振子が設けられている並列腕と、前記第2の並列腕共振子が設けられている並列腕とが隣接している、請求項のいずれか1項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項8】
送信フィルタと、受信フィルタとを備え、
前記送信フィルタが、請求項1〜のいずれか1項に記載のラダー型フィルタを有する、デュプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の弾性波共振子を用いて構成されているラダー型フィルタ及び該ラダー型フィルタを送信フィルタとして有するデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラダー型弾性表面波フィルタが、携帯電話機のデュプレクサの送信フィルタなどに広く用いられている。
【0003】
下記の特許文献1や特許文献2には、IDT電極からなる複数の共振子を有するラダー型フィルタが開示されている。特許文献1では、あるIDT電極のバスバーを含む配線と、他のIDT電極のバスバーを含む配線とが、平面視において、重なり合わないように配置されている。他方、特許文献2では、あるIDT電極のバスバーと、他のIDT電極のバスバーとが、平面視において、誘電体薄膜を介して重なり合うように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−196412号公報
【特許文献2】特開平8−307191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のラダー型フィルタでは、配線同士が重ならないように配置されているため、小型化を図ることが困難であった。
【0006】
他方、特許文献2では、電極指部分と同様に膜厚が薄いバスバー同士が、誘電体薄膜を介して重ねられているため、抵抗成分が大きくなることがあった。そのため、損失が大きくなることがあった。
【0007】
本発明の目的は、小型化を図ることができ、かつ低損失とすることが可能な、ラダー型フィルタ及びデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るラダー型フィルタは、入力端子及び出力端子を結ぶ直列腕に設けられた複数の直列腕共振子と、上記直列腕とグラウンド電位とを結ぶ複数の並列腕にそれぞれ設けられた複数の並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであって、圧電基板と、上記圧電基板上に配置された絶縁膜と、上記圧電基板上に設けられており、一対のバスバーと、該一対のバスバーにそれぞれ接続された複数本の電極指とを有する第1,第2のIDT電極と、上記圧電基板上に設けられており、少なくとも一部が上記第1のIDT電極の一方側のバスバーとして設けられている第1の配線電極と、上記圧電基板上に設けられており、少なくとも一部が上記第2のIDT電極の一方側のバスバーとして設けられている第2の配線電極と、上記第2の配線電極上に積層された第3の配線電極とを備え、上記第1,第2のIDT電極が、上記複数の直列腕共振子又は上記複数の並列腕共振子として設けられており、上記第1の配線電極と、上記第2の配線電極とが、それぞれ異なる電位に接続され、上記第1の配線電極と、上記第2の配線電極とが、隔てられており、上記第3の配線電極の少なくとも一部が、積層方向において、上記絶縁膜を介して、上記第1の配線電極の少なくとも一部と重なり合っている。
【0009】
本発明に係るラダー型フィルタのある特定の局面では、上記第2の配線電極の上記複数本の電極指の延びる方向に沿う寸法である幅が、上記第1の配線電極の上記複数本の電極指の延びる方向に沿う寸法である幅より小さい。
【0010】
本発明に係るラダー型フィルタの他の特定の局面では、上記第1の配線電極の厚みが、上記第2の配線電極の厚みと同じ厚みである。
【0011】
本発明に係るラダー型フィルタの別の特定の局面では、上記第3の配線電極の厚みが、上記第1,第2の配線電極の厚みより大きい。
【0012】
本発明に係るラダー型フィルタのさらに別の特定の局面では、上記複数の並列腕共振子が、上記複数の並列腕のうち1つの並列腕に設けられており、かつ上記第1のIDT電極により形成されている第1の並列腕共振子と、上記複数の並列腕のうち上記第1の並列腕共振子が設けられている並列腕とは他の並列腕に設けられており、かつ上記第2のIDT電極により形成されている第2の並列腕共振子とを有する。
【0013】
本発明に係るラダー型フィルタのさらに他の特定の局面では、上記複数の電極指が延びる方向において、上記第1の並列腕共振子の少なくとも一部が、上記第2の並列腕共振子の少なくとも一部と重なっている。
【0014】
本発明に係るラダー型フィルタのさらに他の特定の局面では、上記第1の配線電極の一端が、上記第1の並列腕共振子に接続され、上記第1の配線電極の他端がグラウンド電位に接続されており、上記第2の配線電極の一端が、上記第2の並列腕共振子に接続され、上記第2の配線電極の他端が上記複数の直列腕共振子のうち少なくとも1つの直列腕共振子に接続されている。
【0015】
本発明に係るラダー型フィルタのさらに他の特定の局面では、上記第1の並列腕共振子が設けられている並列腕と、上記第2の並列腕共振子が設けられている並列腕とが隣接している。
【0016】
本発明に係るデュプレクサは、送信フィルタと、受信フィルタとを備え、上記送信フィルタが、本発明に従って得られる上記ラダー型フィルタを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、上記のように第2の配線電極上に第3の配線電極が積層されており、該第3の配線電極の少なくとも一部は、第1の配線電極の少なくとも一部と、積層方向において、絶縁膜を介して、重なり合っている部分を有している。従って、本発明によれば、小型化を図ることができ、かつ低損失とすることを可能とする、ラダー型フィルタ及びデュプレクサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタの回路図である。
図2図2(a)は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタから絶縁膜及び第3の配線電極を除去した構造を示す模式的平面図であり、図2(b)は、その並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3が設けられている部分を拡大した模式的平面図であり、図2(c)は、1ポート型弾性波共振子の電極構造の模式的平面図である。
図3図3は、図2(b)に示されるラダー型フィルタの並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3が設けられている部分に、第3の配線電極及び絶縁膜を適用した構造を説明するための模式的平面図である。
図4図4は、図3に示されるラダー型フィルタのA−A線に沿う模式的断面図である。
図5図5は、ラダー型フィルタの直列腕に抵抗成分(レジスタンス)1Ωが付加された場合の減衰量周波数特性と、並列腕に抵抗成分1Ωが付加された場合の減衰量周波数特性とを比較するための図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタにおいて、並列腕共振子に並列に静電容量が接続されていることを説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0020】
(ラダー型フィルタ)
図1は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタの回路図である。図2(a)は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタから絶縁膜及び第3の配線電極を除去した構造を示す模式的平面図であり、図2(b)は、その並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3が設けられている部分を拡大した模式的平面図であり、図2(c)は、1ポート型弾性波共振子の電極構造の模式的平面図である。
【0021】
図1に示すラダー型フィルタ1では、入力端子7と出力端子8とを結ぶ直列腕に、直列腕共振子S1〜S4が設けられている。直列腕共振子S2は、直列分割されている。すなわち、直列腕共振子S2は、2個の分割共振子S2a,S2bに分割されている。同様にして、直列腕共振子S3は、2個の分割共振子S3a,S3bに分割されており、直列腕共振子S4は、2個の分割共振子S4a,S4bに分割されている。
【0022】
直列腕共振子S1と直列腕共振子S2との間の接続点と、グラウンド電位とを結ぶ並列腕においては、並列腕共振子P1が設けられている。同様に、直列腕共振子S2と直列腕共振子S3との間の接続点と、グラウンド電位とを結ぶ並列腕においては、並列腕共振子P2が設けられている。また、直列腕共振子S3と直列腕共振子S4との間の接続点と、グラウンド電位とを結ぶ並列腕においては、並列腕共振子P3が設けられている。直列腕共振子S1,S2(分割共振子S2a,S2b),S3(分割共振子S3a,S3b),S4(分割共振子S4a,S4b)及び並列腕共振子P1〜P3は、1ポート型弾性波共振子からなる。
【0023】
1ポート型弾性波共振子は、図2(c)に示す電極構造を有する。すなわち、IDT電極3と、IDT電極3の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器11,12とが、圧電基板の主面上に形成されている。それによって、1ポート型弾性波共振子が構成されている。
【0024】
IDT電極3は、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、Wまたはこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。IDT電極3は、単層であってもよいし、2種以上の金属層が積層された積層体であってもよい。
【0025】
IDT電極3は、複数本の第1の電極指と、複数本の第2の電極指とを有する。複数本の第1の電極指及び複数本の第2の電極指は、弾性波伝搬方向と直交する方向に延びている。複数本の第1の電極指と、複数本の第2の電極指とは、互いに間挿し合っている。複数本の第1,第2の電極指の各一端が、第1,第2のバスバーにそれぞれ接続されている。
【0026】
図2(a)に示すように、ラダー型フィルタ1は、矩形板状の圧電基板2を有する。圧電基板2は、LiTaOやLiNbOのような圧電単結晶基板からなる。圧電基板2は、圧電セラミックスにより形成されていてもよい。なお、本実施形態において、圧電基板2は、LiNbOにより形成されている。
【0027】
図2(a)においては、直列腕共振子S1,S2(分割共振子S2a,S2b),S3(分割共振子S3a,S3b),S4(分割共振子S4a,S4b)及び並列腕共振子P1〜P3におけるIDT電極3の複数本の第1の電極指と、複数本の第2の電極指とが互いに間挿し合っている部分を、矩形枠状の対角線同士を結んでなるブロックにより略図的に示している。ブロックの電極指が延びる方向の両端には、IDT電極3の第1,第2のバスバーがそれぞれ位置している。
【0028】
なお、並列腕共振子P2のIDT電極3の第1のバスバー3aは、第1の配線電極4の少なくとも一部として設けられている。並列腕共振子P3の第2のバスバー3bは、第2の配線電極5の少なくとも一部として設けられている。
【0029】
図2(a)及び図2(b)に示すように、並列腕共振子P2は、第1の配線電極4を介して、グラウンド電位に接続される電極ランド9に接続されている。第1の配線電極4の一端は、グラウンド電位に接続される電極ランド9に接続されており、他端が並列腕共振子P2に接続されている。
【0030】
他方、並列腕共振子P3は、第2の配線電極5を介して、直列腕共振子S3,S4に接続されている。第2の配線電極5の一端は、並列腕共振子P3に接続されており、他端が直列腕共振子S3,S4に接続されている。従って、第2の配線電極5は、第1の配線電極4とは、異なる電位に接続されている。
【0031】
本実施形態においては、IDT電極3の電極指が延びる方向において、並列腕共振子P2の少なくとも一部が並列腕共振子P3の少なくとも一部と重なっている。従って、後述する本発明の特徴的な構造を容易に適用することができる。
【0032】
図3は、図2(b)に示されるラダー型フィルタの並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3が設けられている部分に、第3の配線電極6及び絶縁膜を適用した構造を説明するための模式的平面図である。なお、絶縁膜については、図3では図示せず、設けられる領域のみを示す。図3においては、図2(b)における第2の配線電極5上に、第3の配線電極6が形成されている。絶縁膜は、図示の一点鎖線10Aの外側のコーナー部の領域と、一点鎖線10Bで囲まれた領域とを除いた残りの領域を覆っている。第3の配線電極6の一部は、絶縁膜を介して、第1の配線電極4の一部と重なり合っている。もっとも、本発明において、第3の配線電極6と第1の配線電極4とは、圧電基板2の主面側に向かって平面視したときに、絶縁膜を介して少なくとも一部が重なり合っていればよく、電極指と接続されるバスバーを構成する第1の配線電極4の全部が、圧電基板2の主面側に向かって平面視したときに、第3の配線電極6に重なり合っていてもよい。
【0033】
図4は、上記絶縁膜をも含めた、図3に示すラダー型フィルタのA−A線に沿う模式的断面図である。以下、図4の模式的断面図を参照して、圧電基板2上における、第1〜第3の配線電極4〜6と、絶縁膜10との位置関係について、より詳細に説明する。
【0034】
図4に示すように、圧電基板2の主面上には、第1,第2のIDT電極3A,3Bが設けられている。第1のIDT電極3Aは、並列腕共振子P2を形成している。他方、第2のIDT電極3Bは、並列腕共振子P3を形成している。
【0035】
第1のIDT電極3Aは、複数本の第1,第2の電極指により構成される第1のIDT電極3Aの電極指部分3cと、図示を省略している第1,第2のバスバーとにより形成されている。第2のIDT電極3Bは、複数本の第1,第2の電極指により構成される第2のIDT電極3Bの電極指部分3dと、図示を省略している第1,第2のバスバーとにより形成されている。第1のIDT電極3Aの電極指部分3c及び第2のIDT電極3Bの電極指部分3d上には、絶縁膜10が設けられている。
【0036】
絶縁膜10は、誘電体であるSiOにより形成されている。もっとも、絶縁膜10を構成する材料としては、特に限定されない。ポリイミド等の樹脂材料、またはSiOSiN、Si、SiON、SiC、Ta、TiO、TiN、Al、TeOなどの一般的な誘電体材料を用いることができる。誘電体膜は、単層構造、あるいは積層構造であってもよい。なお、第1のIDT電極3Aの電極指部分3c及び第2のIDT電極3Bの電極指部分3d上に、絶縁膜10を設けない構成であってもよい。
【0037】
第1のIDT電極3Aの第1のバスバーは、第1の配線電極4の少なくとも一部として設けられている。他方、第2のIDT電極3Bの第2のバスバーは、第2の配線電極5の少なくとも一部として設けられている。
【0038】
第1,第2の配線電極4,5は、弾性波伝搬方向に沿って延びるように、圧電基板2上に設けられている。第1の配線電極4及び第2の配線電極5のバスバーを形成する部分は、所定の距離を介して互いに隔てられている。特に本実施形態においては、絶縁膜10を介して隔てられている部分を有している。もっとも、互いに隣り合う第1,第2の配線電極4,5の隙間に、絶縁膜10が充填されることで、第1,第2の配線電極4,5が完全に隔てられていてもよい。第1の配線電極4と第2の配線電極5とは、絶縁膜10を介して互いに電気的に絶縁されている。弾性波伝搬方向に沿って延びる第2の配線電極5の電極指方向に沿う寸法である幅W2は、弾性波伝搬方向に沿って延びる第1の配線電極4の電極指方向に沿う寸法である幅W1より小さい。
【0039】
圧電基板2の主面から上方に延びる第1の配線電極4の厚みD1は、第2の配線電極5の厚みD2と同じ厚みである。本実施形態のように、第1の配線電極4の厚みD1が第2の配線電極5の厚みD2と同じ厚みである場合、第1,第2の配線電極4,5を、共通のプロセスで製造できるため好ましい。もっとも、本発明において、第1の配線電極4の厚みD1と、第2の配線電極5の厚みD2は異なっていてもよい。第1,第2の配線電極4,5の厚みD1,D2は、特に限定されないが、それぞれ数十nm〜数百nmであることが好ましい。
【0040】
第1,第2の配線電極4,5は、NiCr合金、Pt、Ti、AlCu合金及びTiがこの順に積層されることにより形成されている。もっとも、第1,第2の配線電極4,5を構成する材料としては、特に限定されず、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、Wまたはこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。第1,第2の配線電極4,5は、単層であってもよいし、本実施形態のように2種以上の金属層が積層された積層体であってもよい。第1,第2の配線電極4,5は、同じ材料で構成されていてもよく、他の材料により構成されていてもよい。なお、本実施形態における各層の厚みについては、順にNiCr合金:10nm、Pt:70nm、Ti:60nm、AlCu合金:130nm及びTi:10nmである。
【0041】
第2の配線電極5上には、第3の配線電極6が積層されている。第3の配線電極6の一部は、積層方向において、絶縁膜10を介して、第1の配線電極4の一部とも重なっている。絶縁膜10上に配置された第3の配線電極6の厚みD3は、第1の配線電極4の厚みD1及び第2の配線電極5の厚みD2より厚い。第3の配線電極6の厚みD3が、第1の配線電極4の厚みD1及び第2の配線電極5の厚みD2より厚い場合、さらに低損失にし得るため好ましい。
【0042】
第3の配線電極6は、Ti、AlCu合金、Ti及びPtが積層されることにより形成されている。第3の配線電極6を構成する材料としては、特に限定されず、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、Wまたはこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。第3の配線電極6は、単層であってもよいし、本実施形態のように2種以上の金属層が積層された積層体であってもよい。第3の配線電極6は、第1,第2の配線電極4,5と、同じ材料で構成されていてもよく、他の材料により構成されていてもよい。第3の配線電極6の膜厚は、特に限定されないが、さらに低損失にできることから、1000nm〜3000nmであることが好ましい。
【0043】
本実施形態のように、第1,第2の配線電極4,5が異なる電位に接続されている場合、短絡防止の観点から、第1の配線電極4と第2の配線電極5とを所定の距離以上を隔てて配置する必要がある。従って、フィルタのサイズが大きくなる傾向にあった。また、第1,第2の配線電極4,5の幅W1,W2を短くした場合、配線幅の減少により抵抗値が増加して抵抗損失が大きくなることから、従来、小型化を図ることが困難であった。
【0044】
この点に関し、ラダー型フィルタ1においては、第2の配線電極5に積層されている第3の配線電極6の一部が、第2のIDT電極3Bのバスバーを露出する絶縁膜10の開口部の内部に設けられる第3の配線電極6の第1部分6aと、絶縁膜10の上方の表面に沿って該第1部分6aから第1の配線電極4側に向かって延びるように設けられる第3の配線電極6の第2部分6bとを備えている。本実施形態において、開口部は、図3の一点鎖線10Bで囲まれた部分である。圧電基板2の主面側に向かって平面視したときに、第2のIDT電極3Bのバスバーの延びる方向に長手方向を有する長方形を含む形状を有している。
【0045】
すなわち、圧電基板2の主面側に向かって平面視したときに、第3の配線電極6の第2部分6bが、絶縁膜10を介して第1の配線電極4の一部と重なり合っている。従って、第2の配線電極5の幅W2を広くすることなく、互いに隣り合う第1,第2のIDT電極3A,3Bのバスバーを構成する互いに隣り合う第1,第2の配線電極4,5間の距離を保ちながら、小型化を図ることが可能となる。
【0046】
もっとも、このような構造を採る場合、抵抗値の増大に基づき損失が大きくなることが懸念される。しかしながら、ラダー型フィルタ1では、第2の配線電極5と電気的に接続されるように、第2の配線電極5上に第3の配線電極6の一部が積層されて接合されている。このため、低損失とすることが可能となる。また、電気抵抗を低損失にできることから、第3の配線電極6が接合されている第2の配線電極5の幅W2を小さくすることも可能となる。従って、さらにラダー型フィルタ1の小型化を図りつつ、低損失とすることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態においては、第3の配線電極6が直接積層されていない第1の配線電極4が、並列腕共振子P2に接続されており、直列腕共振子S1〜S4には接続されていない。そのため、さらに低損失とすることができる。これを、以下、図5を参照して、より詳細に説明する。
【0048】
図5は、ラダー型フィルタの直列腕に抵抗成分(インダクタンス)1Ωが付加された場合の減衰量周波数特性と、並列腕に抵抗成分1Ωが付加された場合の減衰量周波数特性とを比較するための図である。図5中、実線は、並列腕に抵抗成分1Ωが付加された場合の減衰量周波数特性を示しており、破線は、直列腕に抵抗成分1Ωが付加された場合の減衰量周波数特性を示している。また、図5中、一点鎖線は、直列腕にも並列腕にも抵抗が付加されない場合の減衰量周波数特性を示している。並列腕に抵抗成分1Ωが付加された場合と、直列腕にも並列腕にも抵抗成分が付加されない場合とは、減衰量周波数特性の差が小さい。そのため、図5中では、880MHz付近以外の周波数帯域では実線と一点鎖線とが重なって表示されている。
【0049】
図5に示すように、直列腕に抵抗成分が付加された場合、共振周波数付近のQが劣化するため、直列腕及び並列腕のいずれにも抵抗成分が付加されていない場合と比較して、890〜910MHz付近の広範囲で0.2dB程度損失が大きくなっていることがわかる。他方、並列腕に抵抗成分が付加された場合、低域側の880MHz付近のみで0.2dB程度損失が大きくなっている。よって、並列腕に抵抗が付加された場合は、抵抗成分を直列腕に付加した場合よりも、損失を小さくできることがわかる。
【0050】
従って、第3の配線電極6が直接積層されておらず、かつ抵抗値の増大が生じやすい第1の配線電極4は、直列腕共振子S1〜S4には接続されず、並列腕共振子P1〜P3に接続されることが好ましい。これにより、さらに損失の増加を抑止することが可能となる。
【0051】
図3に戻り、ラダー型フィルタ1においては、圧電基板2の主面側に向かって平面視したときに、並列腕共振子P3のグラウンド電位に接続される電極ランド9に接続された第2のIDT電極のバスバーを構成している第3の配線電極6の一部が、絶縁膜10を介して、並列腕共振子P2に接続されている第1の配線電極4の一部と重なり合っている。従って、ラダー型フィルタ1においては、正確には、図6に回路図で示すように、並列腕共振子P3に並列に静電容量が接続されることとなる。この静電容量が形成されている場合、並列腕共振子P3の反共振周波数が低域側に移動する。これにより、並列腕共振子P3のインピーダンス特性における共振周波数と反共振周波数間の急峻性が高くなる。この急峻性の指標に、共振周波数と反共振周波数との周波数の差を、共振周波数で割った比率である比帯域の値を用いることができる。反共振周波数が低域側に移動して共振子の急峻性が高くなると、比帯域の値が小さくなる。並列腕共振子P3に並列に静電容量が接続された構成が用いられるとき、比帯域の小さい並列腕共振子P3は、共振周波数と反共振周波数間のインピーダンスの急峻性が高くなるため、ラダー型フィルタの通過帯域外の低域側の急峻性を高くすることが可能となる。
【0052】
なお、ラダー型フィルタ1においては、並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3が設けられている箇所において本発明を適用したが、本発明は、複数の並列腕共振子のうちの任意の2個の並列腕共振子に適用することができる。もっとも、本実施形態のように、隣接する2個の並列腕共振子に用いた場合、容易に本発明を適用できるため好ましい。
【0053】
(デュプレクサ)
本発明に係るデュプレクサは、送信フィルタと、受信フィルタとを備える。上記送信フィルタは、上述した本発明に係るラダー型フィルタを有する。従って、本発明に係るデュプレクサは、小型化を図ることができ、かつ低損失とすることができる。
【0054】
特に、ラダー型フィルタ1のように、耐電力性を高めるために直列分割された共振子が設けられている場合は、サイズが大きくなる。従って、本発明は、ラダー型フィルタ1のような送信フィルタを備えるデュプレクサに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…ラダー型フィルタ
2…圧電基板
3…IDT電極
3A,3B…第1,第2のIDT電極
3a,3b…第1,第2のバスバー
3c…第1のIDT電極の電極指部分
3d…第2のIDT電極の電極指部分
4〜6…第1〜第3の配線電極
6a,6b…第1,第2部分
7…入力端子
8…出力端子
9…電極ランド
10…絶縁膜
11,12…反射器
D1〜D3…第1〜第3の配線電極の厚み
P1〜P3…並列腕共振子
S1〜S4…直列腕共振子
S2a,S2b,S3a,S3b,S4a,S4b…分割共振子
W1,W2…第1,第2の配線電極の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6