(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
N個(Nは3以上の整数)のセンサそれぞれは、可動子の位置に応じた磁界を検出して、電気信号である検出信号を出力し、それぞれの当該検出信号は、360度をNで除算した角度ずつ位相がずれている信号検出手順と、
交差位置検出部が、前記信号検出手順によって出力されたそれぞれの前記検出信号が互いに交差する交差点を逐次検出する交差位置検出手順と、
分割検出部が、前記検出信号のうちの前記交差点から当該交差点に隣り合う他の前記交差点までを接続する部分を、1個または複数個の分割信号として検出する分割検出手順と、
線分接続部が、前記分割信号を、逐次接続させて、前記接続させた複数の前記分割信号に基づいて前記可動子の位置を推定して位置推定値信号を生成する線分接続手順と、
を含む位置推定方法。
補正部が、前記検出信号のうち1つを順次選択し、選択した前記検出信号から、選択されていない他の前記検出信号の平均値を減算することにより、前記選択した検出信号を補正した検出信号を前記検出信号それぞれについて生成する第1補正手順を含み、
前記交差位置検出手順は、
前記交差位置検出部が、前記第1補正手順によって補正された前記検出信号が互いに交差する前記交差点を逐次検出する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の位置推定方法。
正規化部が、所定の回転数で前記可動子が回転しているとき、前記分割信号毎の時間と、前記可動子が1周することに要する時間と、前記分割信号毎の時間において増加した信号値または分割信号の線分の長さと、を計測する計測手順と、
前記正規化部が、前記計測手順によって計測された前記分割信号毎の時間と、前記可動子が一周することに要する時間に基づいて前記分割信号毎の機械角度を算出する機械角度算出手順と、
前記正規化部が、前記機械角度算出手順によって算出された前記機械角度を、前記計測手順によって計測された前記信号値または前記線分の長さで除算することにより、前記分割信号毎の正規化係数を算出する正規化係数算出手順と、
前記正規化部が、前記分割信号毎に、前記正規化係数算出手順によって算出された前記正規化係数に、新たに検出された分割信号の前記信号値または線分の長さを乗算して正規化を行うことにより前記機械角度を補正する正規化手順と、
を含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の位置推定方法。
前記正規化部が、前記可動子が一周することに要する区間、前記正規化手順によって補正された前記機械角度を、新たに検出された前記分割信号1つ前の前記機械角度に加算して現在の前記機械角度を算出する機械角度算出手順、
を含む請求項7に記載の位置推定方法。
位置推定部が、所定の回転数で前記可動子を回転させたとき、前記計測手順または前記機械角度算出手順によって算出された保存情報を予め記憶部に記憶させておく記憶手順と、
前記位置推定部が、全ての前記検出信号の大小関係に基づいて、複数の前記分割信号を判別するセクション判別手順と、
前記位置推定部が、複数の前記分割信号に対応する前記記憶手順によって記憶された前記機械角度と、前記正規化手順によって補正された前記機械角度との誤差を算出する誤差算出手順と、
前記位置推定部が、前記誤差算出手順によって算出された前記誤差の累積評価を行う評価手順と、
前記位置推定部が、前記誤差が上限に達した前記分割信号の候補を順次破棄し、最後まで残った前記分割信号の候補を前記可動子の機械位置として特定する位置特定手順と、
を含む請求項8に記載の位置推定方法。
前記位置推定部が、所定時間内に全ての前記分割信号の候補が誤差上限に達した場合に、前記記憶手順で記憶させた前記可動子とは異なる可動子であると判別する判別手順と、
を含む請求項9に記載の位置推定方法。
前記線分接続手順において、前記接続させた複数の前記分割信号から選択された特定の1つまたは複数の分割信号の検出に同期して、前記可動子の基準位置を示すZ相信号を出力する、請求項1から11のいずれかに記載の位置推定方法。
前記信号処理回路は、複数の分割信号から選択された特定の1つまたは複数の分割信号の検出に同期して、前記可動子の基準位置を示すZ相信号を出力する、請求項13から23のいずれかに記載の位置推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示による実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供する。これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係るモータ制御システム1の構成の一例を示す概略図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態におけるモータ制御システム1は、モータM、検出部10、増幅部20、位置推定部30、減算器40、制御部(制御回路)50、および駆動部(駆動回路)60を備える。モータ制御システム1には、外部装置70から、位置指令値Θ
*が入力される。なお、上付きの*は、指令値を表している。また、上付き^は、推定値を表す。本発明の実施形態において、CW回転とは、出力軸側から見て時計方向の回転である。
【0015】
モータ制御システム1は、製品に取り付けられて使用される。製品は、例えば、プリンタ、スキャナ、ファクシミリなどの機能を有する複合機、電動パワーステアリング、アンテナチルト、ファン等である。モータ制御システム1は、複合機に用いられる場合、例えば、紙送り機能部等の機構部に取り付けられて使用される。
【0016】
なお、以下において、モータMが回転子Rを備える場合を一例として説明するが、これに限られない。モータMは、リニアモータであってもよい。モータMがリニアモータの場合、モータMは、回転子Rに代えて、直線的に運動する可動子(moverまたはmovable element)を備えている。すなわち、本発明の実施形態は、回転運動を行う可動子(回転子)を制御してもよく、直線運動を行う可動子を制御してもよい。したがって、回転運動であるか直線運動であるかを問わず可動子であればよい。なお、本願において、可動子の用語は、外部から力を受けて回転または移動を行う駆動子(drived element)を意味する。
【0017】
モータMは、回転子Rを備える。モータMは、例えば、永久磁石モータである。モータMには、不図示の基板が取り付けられている。基板上には、検出部10、増幅部20、位置推定部30、減算器40、制御部50、および駆動部60が取り付けられている。
【0018】
検出部10は、センサ11〜センサ13を備える。センサ11〜センサ13それぞれは、モータMに発生する磁界を電気信号に変換して出力する非接触の磁気センサである。センサ11〜センサ13それぞれは、例えばホール素子である。検出部10は、検出した差動センサ信号を増幅部20に出力する。本実施形態におけるモータ制御システム1の動作は、信号検出手順を有する。信号検出手順では、N個(Nは3以上の整数)の検出部それぞれは、可動子の位置に応じた磁界を検出して、電気信号である検出信号を出力し、それぞれの検出信号は、360度をNで除算した角度ずつ位相がずれている。このようなセンサの個数がN個(Nは3以上の整数)であるとき、複数の磁極が形成する磁界を検出して、それぞれが検出した磁界の強さに応じた大きさを持つ検出信号を出力する。N個のセンサは、N個の検出信号の位相が360度/Nの角度ずつずれるように配置されている。検出信号の位相が360度/Nの角度ずつずれている状態とは、360度×整数±360度/Nの電気角だけ位相がずれている状態を含む。検出信号の位相が例えば120度(=360度/3)の角度ずつずれている状態は、3つの検出信号の位相が240度(=360度−120度)の電気角だけずれている状態を含む。
【0019】
増幅部20は、差動増幅器21〜差動増幅器23を備える。増幅部20は、検出部10から入力される差動センサ信号に基づいて検出信号Hu0、検出信号Hv0、および検出信号Hw0を生成する。増幅部20は、生成した検出信号Hu0、検出信号Hv0、および検出信号Hw0を位置推定部30に出力する。なお、検出信号Hu0、検出信号Hv0、および検出信号Hw0それぞれは、アナログ信号である。
【0020】
位置推定部30は、増幅部20から入力された検出信号Hu0、検出信号Hv0、および検出信号Hw0に基づいて、回転子Rの回転位置を推定する。位置推定部30は、推定した回転位置に基づいて機械角度Θ^を生成し、生成した機械角度Θ^を減算器40に出力する。
【0021】
減算器40には、位置推定部30から機械角度Θ^が入力され、外部装置70から位置指令値Θ
*が入力される。減算器40は、位置指令値Θ
*と機械角度Θ^との偏差を算出し、算出した偏差を制御部50に出力する。
【0022】
制御部50は、減算器40から入力された偏差に基づいてモータMを駆動するための電圧指令を生成し、生成した電圧指令を駆動部60に出力する。
【0023】
駆動部60は、制御部50から入力された電圧指令に基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号によってモータMを駆動する。駆動部60の典型例の一つは、インバータ回路である。インバータ回路は、電圧指令を受けてパルス幅変調(PWM)信号を出力するPWM回路と、PWMに基づいてゲート駆動信号を出力するプリドライバ回路と、ゲート駆動信号を受けてスイッチングするインバータ出力回路とを備えることができる。
【0024】
制御部50と、駆動部60の一部(例えばPWM回路)とは、1個の集積回路パッケージによって実現されていても良い。そのような集積回路パッケージは、汎用的なモータ制御用マイクロコンピュータとして入手可能である。また、駆動回路60のインバータ出力回路は、パワーモジュールと呼ばれることがある。そのようなインバータ出力回路は、電圧指令に応じた大きさの電圧をモータMの各コイルに印加し、モータMを駆動することができる。
【0025】
以上のように、モータ制御システム1は、外部装置70から位置指令値Θ
*を受け取り、位置指令値Θ
*と機械角度Θ^との偏差をフィードバックすることで制御を行う。ここで、モータ制御システム1は、検出信号Hu0、Hv0、およびHw0が互いに交差する交差点を逐次検出し、検出した交差点から、当該交差点に隣り合う他の交差点までの検出信号Hu0、Hv0、またはHw0の一部(分割された線分)を分割信号として検出する(
図6A参照)。
【0026】
位相が120度ずつ異なる3個の検出信号Hu0、Hv0、およびHw0のうち、交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点までを接続または連結する部分は、検出信号Hu0、Hv0、およびHw0の中で中間のレベルを持ついずれか一つの信号Hu0、Hv0、またはHw0の一部である。
図6Aに示されるように、交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点までを接続する部分は、基準値のレベルと交差する。言い換えると、交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点までを接続する部分は、基準値よりも大きな部分と、基準値よりも小さな部分とを有している。後述するように、交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点までを接続する部分を、1個の「分割信号」として処理することもできるし、2個の「分割信号」として処理することできる。後者の場合、交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点までを接続する部分は、基準値に交差するゼロクロス点によって二分される。交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点までを接続する部分は、3個以上の「分割信号」に分けられても良い。
【0027】
モータ制御システム1は、検出した分割信号を、可動子の移動方向に応じて、逐次接続させて、接続させた複数の分割信号に基づいて可動子の位置を推定して位置推定値信号を生成する(
図6B、
図7参照)。なお、位置推定値は電流制御系、速度制御系、位置制御系、これらを組み合わせた制御系にフィードバック値として使用できる。位置演算部32および制御部50は「位置制御装置」として機能する。
【0028】
次に、モータMの概略構成について説明する。
【0029】
図2は、本実施形態に係るモータMの概略構成図である。
【0030】
図2に示す例において、モータMは、永久磁石モータである。磁極p1〜p12は、永久磁石モータの磁極(ポール)である。極数は、モータMにおける磁極の数を表し、
図2に示す例では12である。また、極対数は、N極とS極の組数であり、
図2に示す例では6である。また、スロットsl1〜sl9は、コイルが巻かれている電機子であり、スロット(ティース)の数であるスロット数は9である。例えば、磁極p1〜p12は、回転子R(
図1参照)の一部である。
図2におけるモータMは、アウターロータ型のモータを示している。
【0031】
次に、センサ11〜センサ13の動作について説明する。
【0032】
センサ11〜センサ13それぞれは、隣接するN極とS極の1組による磁界を検出して、1周期分の信号を出力する。これが電気角1周期分に相当する。センサ11〜センサ13それぞれは、検出した電気角1周期分の電気信号を、差動センサ信号として、増幅部20に出力する。この1周期分の差動センサ信号が、電気角1周期分に相当する。
【0033】
ここで、センサ11〜センサ13それぞれは、電気角120度ずつ位相がずれた電気信号を検出し、対応する差動増幅器21〜差動増幅器23に出力する。すなわち、検出部10に含まれるセンサが3個であり、3つの検出信号の位相が、120度ずつずれている。ある具体例において、センサ11〜センサ13は、機械角40度(電気角240度)ずつ位相がずれた電気信号を検出する。
【0034】
本実施形態では、センサ11が検出した電気信号をU相とする。センサ12が検出した電気信号をV相とする。センサ13が検出した電気信号をW相とする。センサ11が出力する差動センサ信号は、差動センサ信号U0+とU0−とであり、互いに反転関係にある。センサ12が出力する差動センサ信号は、差動センサ信号V0+とV0−とであり、互いに反転関係にある。センサ13が出力する差動センサ信号は、検出信号W0+とW0−とであり、互いに反転関係にある。
【0035】
次に、増幅部20が出力する検出信号について、
図1を参照して説明する。
【0036】
差動増幅器21は、センサ11から入力されたU相の検出信号U0−とU0+との電圧差を増幅し、増幅した検出信号Hu0を位置推定部30に出力する。
【0037】
差動増幅器22は、センサ12から入力されたV相の検出信号V0−とV0+との電圧差を増幅し、増幅した検出信号Hv0を位置推定部30に出力する。
【0038】
差動増幅器23は、センサ13から入力されたW相の検出信号W0−とW0+との電圧差を増幅し、増幅した検出信号Hw0を位置推定部30に出力する。
【0039】
次に、増幅部20が出力する検出信号Hu0、Hv0、Hw0の一例ついて説明する。
図3は、本実施形態に係る増幅部20が出力する検出信号Hu0、Hv0、Hw0の一例を説明する図である。
図3において、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸は、信号の大きさを表す。
【0040】
図3に示す例において、回転子角θ101〜回転子角θ113の区間E1は、電気角1周期分を表している。回転子角θ113〜回転子角θ114の区間E2、回転子角θ114〜回転子角θ115の区間E3、回転子角θ115〜回転子角θ116の区間E4、回転子角θ116〜回転子角θ117の区間E5、および回転子角θ117〜回転子角θ118の区間E6それぞれは、電気角1周期分を表している。そして、区間E1〜区間E6の区間K1は、機械角1周期分を表している。すなわち、電気角1周期分の区間は、機械角1周期分の区間を極対数で除算した区間である。
【0041】
また、
図3に示す例では、検出信号Hu0の極大値はA3[V]である。検出信号Hw0の極大値は、A3の電圧値より小さいPeakHw[V]である。検出信号Hv0の極大値は、PeakHwの電圧値より小さいPeakHv[V]である。このように、センサ11〜13の取り付け誤差や、センサごとの感度の違いによって、検出信号Hu0、Hv0、Hw0それぞれは、振幅にばらつきがある。また、信号Hu0、Hv0、Hw0それぞれは、各信号の中心電圧値が異なっている。すなわち、信号Hu0、Hv0、Hw0それぞれは、オフセット成分を有している。
【0042】
次に、位置推定部30の詳細な構成について、
図1を参照して説明する。
【0043】
位置推定部30は、AD変換部31、位置演算部32、および記憶部33を備える。AD変換部31は、増幅部20から入力されたアナログ信号の検出信号を、デジタル信号の検出信号に変換し、変換したデジタル信号の検出信号を位置演算部32に出力する。より具体的には、AD変換回路311、AD変換回路312、およびAD変換回路313を備える。AD変換回路311は、アナログ信号の検出信号Hu0を、デジタル信号の検出信号Hu0’に変換して位置演算部32に出力する。AD変換回路312は、アナログ信号の検出信号Hv0を、デジタル信号の検出信号Hv0’に変換して位置演算部32に出力する。AD変換回路313は、アナログ信号の検出信号Hw0を、デジタル信号の検出信号Hw0’に変換して位置演算部32に出力する。記憶部33は、オンライン処理で用いられる情報を記憶する。オンライン処理とは、回転子Rが回転しているときにリアルタイムで行われる処理である。なお、記憶部33に記憶される情報については、後述する。
【0044】
上述のように検出信号を位置演算部32での処理に適した信号に変換することを「前処理」と呼ぶことができる。AD変換部31は、前処理を行う回路の一例である。位置演算部32の中に、他の前処理を行う回路が設けられていても良い。
【0045】
AD変換部31によって変換後のデジタル信号の検出信号Hu0’・Hv0’・Hw0’において、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸は、デジタル値の大きさを表す。位置演算部32は、交差位置検出部321、分割検出部322、および線分接続部323を備える。交差位置検出部321は、検出信号どうしの交差点と、検出信号と基準値とのゼロクロス点を検出する。すなわち、交差位置検出部321は、交差点から交差点に隣り合う他の交差点までの間において、交差点から検出信号の電位が基準電圧と交差するゼロクロス点を逐次検出する。基準値とは、デジタル値が0を示す値である。交差位置検出部321は、検出した交差点の座標を示す情報とゼロクロス点の座標を示す情報とを分割検出部322に出力する。ここで、交差点およびゼロクロス点の座標を示す情報とは、回転子角とデジタル値の大きさとによって表される情報である。分割検出部322は、交差位置検出部321から入力された交差点の座標を示す情報とゼロクロス点の座標を示す情報とを用いて交差点とゼロクロス点との間の検出信号を分割信号として検出する。分割検出部322は、検出した分割信号を示す情報を線分接続部323に出力する。線分接続部323は、分割検出部322から入力された分割信号を示す情報を用いて、分割信号を逐次接続する。ここで、分割信号を示す情報とは、検出信号の一部である分割信号の開始位置から終了位置まで、回転子角とデジタル値の大きさとによって表される情報である。
【0046】
上述のように、本実施形態におけるモータ制御システム1の動作は、交差位置検出手順と、分割検出手順と、線分接続手順と、を有する。交差位置検出手順では、交差位置検出部321が、信号検出手順によって出力されたそれぞれの検出信号が互いに交差する交差点を逐次検出する。分割検出手順では、分割検出部322が、検出信号のうちの交差点から当該交差点に隣り合う他の交差点まで接続する部分を、1個または複数個の分割信号として検出する。線分接続手順では、線分接続部323が、分割信号を、逐次接続させて、接続させた複数の分割信号に基づいて可動子の位置を推定して位置推定値信号を生成する。
【0047】
次に、位置推定部30が行う処理の流れの概要を説明した後、位置推定部30が行う処理の流れの詳細について説明する。
【0048】
まず、
図4を参照して、位置推定部30が行う処理の流れの概要を説明する。
図4は、本実施形態に係る位置推定部30が行う処理の手順のフローチャートである。なお、位置推定部30は、以下の処理をオンライン処理で行う。
(ステップS101)交差位置検出部321は、AD変換部31から入力された検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’を取得する。
(ステップS102)交差位置検出部321は、ステップS101で取得した検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’それぞれが示す値を用いて、交差点とゼロクロス点とを、逐次検出する。次に、交差位置検出部321は、検出した交差点およびゼロクロス点の座標を示す情報と、入力された検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’とを、順次、分割検出部322に出力する。
(ステップS103)分割検出部322は、交差点から当該交差点と隣り合うゼロクロス点までの検出信号の一部、すなわち検出信号のうちの交差点から当該交差点と隣り合うゼロクロス点までの検出信号の部分、を第1の分割信号として検出する。または、分割検出部322は、ゼロクロス点から当該ゼロクロス点と隣り合う交差点までの検出信号の一部、すなわち検出信号のうちのゼロクロス点から当該ゼロクロス点と隣り合う交差点までの部分、を第2の分割信号として検出する。
(ステップS104)線分接続部323は、回転子RがCW回転の場合、分割検出部322から入力された分割信号を、機械角1周期分、逐次、順方向に接続する。
(ステップS105)位置推定部30は、線分接続部323によって接続された分割信号に基づいて機械位置の推定を行うことで機械角度Θ^を推定する。
【0049】
位置推定部30は、ステップS101〜ステップS105の処理を、制御周期毎に繰り返す。制御周期とは、例えば、電流(トルク)、速度または位置制御の各制御周期のうち、いずれか1つの周期である。なお、以下の説明では、
図4におけるステップS102〜S105の処理を1つにまとめて、ステップS110の処理という場合がある。
【0050】
次に、位置推定部30が行う処理の流れの詳細について説明する。まず、
図4を参照して、交差位置検出部321が、ステップS101で行う処理について説明する。
【0051】
交差位置検出部321は、回転子Rが回転しているとき、AD変換回路311〜AD変換回路313それぞれから入力された検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’を取得する。AD変換部31が出力する検出信号Hu0’、検出信号Hv0’、および検出信号Hw0’について
図5を参照して説明する。
【0052】
図5は、本実施形態に係るAD変換部31が出力する検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の一例を説明する図である。
図5において、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸は、デジタル値を表す。
図5に示す各波形Hu0’、Hv0’、Hw0’は、AD変換回路311〜AD変換回路313によってデジタル信号に変換された検出信号を表した波形図である。例えば、AD変換部31のビット数が12ビットの場合、デジタル信号値の範囲は、+2047~−2048である。また、
図5において、回転子角θ101〜回転子角θ113の区間E1は、電気角1周期分である。
【0053】
図4に戻り、交差位置検出部321が、ステップS102で行う交差点とゼロクロス点との検出処理について詳細に説明する。
【0054】
交差位置検出部321は、AD変換部31が出力する検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’を取得する。交差位置検出部321は、取得した検出信号どうしの交差点を、サンプリングした2点間の座標から算出することで、逐次検出する。また、交差位置検出部321は、取得した検出信号と基準値とのゼロクロス点を逐次検出する。この交差点及びゼロクロス点は、横軸が回転子角、縦軸がデジタル値よって、その座標を示すことができる。交差位置検出部321は、交差点の座標を検出して、検出した交差点の座標を示す情報を、分割検出部322に出力する。また、交差位置検出部321は、ゼロクロス点の座標を検出して、検出したゼロクロス点の座標を示す情報を、分割検出部322に出力する。また、交差位置検出部321は、取得した検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’を、分割検出部322に出力する。
【0055】
次に、分割検出部322が、
図4のステップS103で行う分割信号の検出処理について詳細に説明する。
【0056】
分割検出部322は、交差位置検出部321から入力された交差点の座標を示す情報と、ゼロクロス点の座標を示す情報と、検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’とを、順次取得する。分割検出部322は、取得した検出信号のうち、交差点から当該交差点と隣り合うゼロクロス点までの検出信号を第1の分割信号として検出する。分割検出部322は、取得した検出信号のうち、ゼロクロス点から当該ゼロクロス点と隣り合う交差点までの検出信号を第2の分割信号として検出する。分割検出部322は、検出した分割信号を順次、線分接続部323に出力する。ここで、分割検出部322は、第1の分割信号を示す情報として、交差点から当該交差点と隣り合うゼロクロス点までのデジタル値の偏差および回転子角の偏差の情報を検出している。
【0057】
次に、交差点、ゼロクロス点、分割信号の具体例を順に説明する。
【0058】
まず、交差位置検出部321が検出する交差点とゼロクロス点との具体例について、
図6Aを参照して説明する。
【0059】
図6Aは、本実施形態に係る3つの検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係、交差点、ゼロクロス点、分割信号について説明する図である。
図6Aにおいて、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸は、デジタル値を表す。また、
図6Aは、
図5の回転子角θ101〜回転子角θ113の区間E1を拡大した図である。
【0060】
図6Aにおいて、点cp1〜点cp7それぞれは、交差点を表している。ここで交差点とは、2つの検出信号が交差する点である。例えば、回転子角θ101における交差点cp1は、検出信号Hu0’と検出信号Hv0’とが交差する点である。
【0061】
また、点zc1〜点zc6それぞれは、ゼロクロス点を表している。ここで、ゼロクロス点とは、検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’のいずれかと、デジタル値の基準値とが交差する点である。例えば、回転子角θ102におけるゼロクロス点zc1は、検出信号Hu0’と基準値とが交差する点である。
【0062】
次に、分割検出部322が検出する分割信号の具体例について、
図6Aを参照して説明する。以下において、セグメントとは、分割信号ひとつひとつのことである。セグメントの区間とは、分割信号ごとの始点から終点までに相当する。セグメントは、電気角1周期分において、12区間になる。モータMの極対数が6であるとき、電気角6周期分は、機械角1周期分に相当する。したがって、セグメントは、機械角1周期分では、72区間となる。セクションとは、電気角1周期分における1〜12の分割信号の番号である。分割信号とは、
図6Aにおいて、交差点cp(n)から当該交差点cp(n)と隣り合うゼロクロス点zc(m)までの検出信号である。または、ゼロクロス点zc(m)から当該ゼロクロス点zc(m)と隣り合う交差点cp(n+1)までの検出信号である。なお、nは1〜7の整数である。また、mは1〜6の整数である。具体的には、例えば、交差点cp1からゼロクロス点zc1までの検出信号Hu0’の一部が、分割信号sg101である。また、ゼロクロス点zc1から交差点cp2までの検出信号Hu0’の一部が、分割信号sg102である。
図6Aにおいて、θ101〜θ102の区間、すなわち分割信号sg101の区間が、セグメントの番号1の区間に相当する。また、分割信号sg102〜sg112それぞれの区間が、セグメントの番号2〜12の区間に相当する。
【0063】
なお、
図6Aに示す例において検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’が正弦波であるため、分割信号sg101〜sg112は、正弦波のうち、他の部分より直線に近い範囲の信号である。
【0064】
ここで、3つの検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係について、
図6Aを参照して説明する。
【0065】
例えば、セグメント1とセグメント2の区間である回転子角θ101〜θ103の区間において、検出信号Hw0’のデジタル値は、3つの検出信号の中で、最も大きい。検出信号Hw0’の次にデジタル値が大きいのは、検出信号Hu0’である。最もデジタル値が小さいのは、検出信号Hv0’である。また、検出信号Hu0’のデジタル値は、セグメント1の区間である回転子角θ101〜θ102の区間において、基準値より小さい。検出信号Hu0’のデジタル値は、セグメント2の区間である回転子角θ102〜θ103の区間において、基準値より大きい。
【0066】
セグメント3〜セグメント12についても、セグメント毎に3つの検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係の組み合わせが記憶部33に記憶されている。
【0067】
このように、電気角1周期分について、セグメント毎に3つの検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係の組み合わせおよび基準値との大小関係が記憶部33に記憶されている。
【0068】
次に、線分接続部323が、
図4のステップS104で行う分割信号の接続処理について詳細に説明する。
【0069】
線分接続部323は、分割検出部322の分割信号を、逐次接続させる。ここで、線分接続部323は、交差点又はゼロクロス点と検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係および基準値との大小関係に応じて、分割信号を、デジタル値の正負について一定方向に接続する。
【0070】
具体的には、線分接続部323は、セグメント毎に、検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’のデジタル値の大小関係において、順位が真ん中(
図6Aの例では、大きい方(小さい方)から2番目)となる検出信号(中間信号とも称する)を抽出する。線分接続部323は、抽出した中間信号のデジタル値それぞれと、直前の交差点又はゼロクロス点における検出信号のデジタル値(クロス点信号値とも称する)の大小関係を比較する。ここで、直前の交差点又はゼロクロス点とは、中間信号に対して、回転子角方向で直前となるものであり、例えば、
図6Aの例では、分割信号sg101に対して交差点cp1、分割信号sg102に対してゼロクロス点zc1である。
【0071】
分割信号sg102を考えると、中間信号sg102のデジタル値が直前のクロス点信号値zc1以上と判断した場合、線分接続部323は、中間信号sg102のデジタル値から直前のクロス点信号値zc1を差し引いた値を直前のクロス点信号値zc1に加算する。一方、中間信号sg102のデジタル値が直前のクロス点信号値zc1より小さいと判断した場合、線分接続部323は、直前のクロス点信号値zc1から中間信号sg102のデジタル値を差し引いた値を加算する。線分接続部323は、回転子角の小さい方から、順に、この加算を繰りかえす。これにより、線分接続部323は、デジタル値の正方向へ、分割信号を接続できる(
図6B参照)。
【0072】
なお、線分接続部323は、中間信号のデジタル値と直前のクロス点信号値の差分、つまり、絶対値を加算してもよい。
【0073】
なお、モータMが6極対であるため、分割信号sg112’の終点は、機械角の60[degM]に相当する。分割信号sg124’の終点は、機械角の120[degM]に相当する。分割信号sg136’の終点は、機械角の180[degM]に相当する。分割信号sg148’の終点は、機械角の240[degM]に相当する。分割信号sg160’の終点は、機械角の300[degM]に相当する。分割信号sg172’の終点は、機械角の360[degM]に相当する。
【0074】
線分接続部323による、電気角1周期分の分割信号の接続の具体例について説明する。
【0075】
図6Bは、本実施形態に係る電気角1周期分の分割信号の接続について説明する図である。また、
図6Bは、
図6Aの区間E1の分割信号sg101’〜sg112’を接続した図である。
図6Bにおいて、横軸は回転子角[degE]を表す。縦軸は、デジタル値を表す。また、
図6Bに示す例は、回転子RがCW回転している場合の例である。また、
図6Bにおいて、分割信号sg101’〜sg112’は、
図6Aの分割信号sg101〜sg112が線分接続部323によって接続された信号である。また、点p101〜p113は、
図6Aの交差点cp1〜cp7およびゼロクロス点zc1〜zc6が置き換えられた点である。また、曲線g132は、分割信号sg101’〜sg112’を接続した曲線である。
【0076】
以下において、順方向とは、回転子角の増加に従って、デジタル値が増加する方向である。線分接続部323は、例えば、交差点cp1を、点p101に置き換える。線分接続部323は、分割信号sg101’を順方向に接続する。具体的には、線分接続部323は、
図6Aの分割信号sg101を、点p101を開始点とし、点p102を終了点とする分割信号sg101’に置き換える。また、線分接続部323は、ゼロクロス点zc1を点p102に置き換える。
【0077】
また、線分接続部323は、分割信号sg102’を順方向に接続する。具体的には、
図6Aの分割信号sg101は、点p102を開始点とし、点p103を終了点とする分割信号sg102’に置き換える。また、線分接続部323は、交差点cp2を点p103に置き換える。
【0078】
図6Bの曲線g132に示すように、線分接続部323は、
図6Aに示した分割信号sg101’〜sg112’を、逐次、順方向に接続する。この結果、回転子角θ101における交差点cp1は、デジタル値0に置き換えられる。また、線分接続部323は、回転子角θ113における交差点cp7をデジタル値1200に置き換える。なお、
図6Bにおいて、デジタル値の12000は、電気角1周期分の360[degE]に相当する。
【0079】
線分接続部323による動作の分割信号の機械角1周期分の接続についての具体例を、
図7を参照して説明する。
【0080】
第1の周期E1において、線分接続部323は、
図6Aの分割信号sg101〜分割信号sg112を、電気角1周期分、逐次順方向に接続する。この結果、
図6Bの分割信号sg101’〜分割信号sg112’に示すように、
図6Aの分割信号sg101〜分割信号sg112が接続される。
【0081】
次に、第2の周期E2において、線分接続部323は、分割信号sg112’の終点に、第2の周期E2の分割信号sg113’の始点を接続する。続けて、線分接続部323は、電気角1周期分の分割信号sg113〜分割信号sg124を順方向に接続する。この結果、
図7の分割信号sg113’〜分割信号sg124’に示すように、分割信号sg113〜分割信号sg124が接続される。
【0082】
以下、線分接続部323は、第2の周期E2の分割信号sg124’の終点に、第3の周期E3の分割信号sg125’の始点を接続する。次に、線分接続部323は、第3の周期E3の分割信号sg136’の終点に、第4の周期E4の分割信号sg137’の始点を接続する。次に、線分接続部323は、第4の周期E4の分割信号sg148’の終点に、第5の周期E5の分割信号sg149’の始点を接続する。次に、線分接続部323は、第5の周期E5の分割信号sg160’の終点に、第6の周期E6の分割信号sg161’の始点を接続する。
【0083】
図7は、本実施形態に係る機械角1周期分の分割信号の接続結果の一例について説明する図である。
図7に示すように、電気角1周期分それぞれは、12個の分割信号を含む。第1の周期E1は、分割信号sg101’〜分割信号sg112’を含む。第2の周期E2は、分割信号sg113’〜分割信号sg124’を含む。第3の周期E3は、分割信号sg125’〜分割信号sg136’を含む。第4の周期E4は、分割信号sg137’〜分割信号sg148’を含む。第5の周期E5は、分割信号sg149’〜分割信号sg160’を含む。第6の周期E6は、分割信号sg161’〜分割信号sg172’を含む。
【0084】
このため、機械角1周期分の周期K1では、72個の分割信号sg101’〜分割信号sg172’を含む。
【0085】
次に、位置推定部30が、
図4のステップS105で行う機械角度の生成処理について説明する。ここで、sg102’における任意の点の機械角度を考える。sg102’の機械角度位置は、
図7におけるE1の区間に位置しており、E1の区間の拡大図が
図6Bである。線分接続部323は、中間信号のデジタル値から直前のクロス点信号値zc1を差し引いた値を直前のクロス点信号値zc1に加算する。また、上述のように、線分接続部323は、クロス点信号値zc1を点p102に置き換える。そして、線分接続部323は、点p102に対して、中間信号のデジタル値から直前のクロス点信号値zc1を差し引いた値を加算する。位置推定部30は、線分接続部323によって接続された分割信号の線分の長さに基づいて、回転子の機械角度位置を推定する。
【0086】
記憶部33に記憶される情報の具体例について説明する。
【0087】
記憶部33は、極対数とセクションとセグメントとの関係を記憶する。また、記憶部33は、3つの検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係をセクション毎に記憶している。3つの検出信号Hu0’、Hv0’、Hw0’の大小関係および基準値との大小関係は、セクションの番号を判定するために用いられる。
【0088】
本実施形態の位置推定方法では、ゼロクロス点を境に検出信号を2つのセグメントに分けている。これにより、機械角の1周分は、72個の分割信号を有する。この結果、本実施形態の位置推定方法では、1つの分割信号の長さが短くなる。その結果、結合した分割信号は、より理想的な角度に比例した直線信号に近くなる。そして、本実施形態の位置推定方法では、直線に近い形状の分割信号に基づいて、回転子Rの角度情報である位置を得ることができる。このようにして接続された線分を用いて、位置推定部30が回転子Rの位置を推定するため、本実施形態では、精度の高い光学式エンコーダを必要とすることなく、高精度な位置検出を行うことができる。
【0089】
モータ制御システム1は、このように推定された機械角度Θ^を用いて、位置制御を行うことができる。この結果、本実施形態の位置推定方法では、回転子Rの位置を検出する検出部は、環境に影響されやすいエンコーダを使用する必要がない。その結果、モータを小型化することができ、粉塵等の環境によって、位置制御の精度が左右されづらい。
【0090】
[変形例]
なお、本実施形態では、交差点とゼロクロス点とを検出し、交差点とゼロクロス点の間の検出信号を分割信号として検出する例を説明したが、これに限られない。
【0091】
例えば、分割検出部322は、交差点から当該交差点と隣り合う交差点までの検出信号を分割信号として抽出するようにしてもよい。そして、分割検出部322は、抽出した分割信号を、交差点から当該交差点と隣り合う交差点との間にあるゼロクロス点を境に、2つの分割信号に分割するようにしてもよい。
【0092】
なお、本実施形態において、位置演算部32は、デジタル信号に変換された検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’に対して各処理を行う例を説明したが、これに限られない。例えば、位置演算部32は、アナログ信号の検出信号Hu0、Hv0、およびHw0に対して各処理を行うようにしてもよい。
【0093】
また、本実施形態において、モータMの駆動方式は、例えばベクトル制御手法、その他駆動手法であってもよい。他の駆動方法とは、例えば120度矩形波、正弦波を用いた駆動手法であってもよい。
【0094】
また、本実施形態では、12極のモータMの例を説明したが、これに限られない。モータMの極数は、例えば、2極、4極、8極等であってもよい。例えば、8極モータの場合、機械角1周期分は、4つの電気角1周期分の分割信号を有する。このとき、検出部が、3相の検出信号を出力する場合、1つの電気角1周期分は、12個の分割信号を有する。このため、機械角1周期分は、48(=12×4)個の分割信号を含む。8極モータの場合、線分接続部323は、回転子RがCW回転の場合、機械角1周期分の48個の分割信号について、順方向に逐次結合させるようにしてもよい。
【0095】
なお、回転子RがCCW回転の場合、
図4のステップS104において、線分接続部323は、機械角1周期分の分割信号を逆方向に接続するようにしてもよい。ここで、CCWとは、出力軸側から見て反時計方向の回転である。また、逆方向とは、回転子角の増加に従ってデジタル値が減少する方向である。線分接続部323は、接続された機械角1周期分の分割信号を、回転子角の増加に応じて、360[degM]から0[degM]に減少する方向に、逐次接続するようにしてもよい。この場合、位置推定部30は、記憶部33に記憶されている3つの検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’の大小関係が変化したとき、回転子RがCW回転であるかCCW回転であるかを判別する。
【0096】
これにより、本実施形態によれば、回転子RがCW回転していてもCCW回転していても、回転子Rの位置を精度良く推定することができる。
【0097】
回転方向と検出信号との関係を、
図6Aを参照して説明する。
【0098】
回転子角θ105とθ107との間に現在位置がある場合、位置推定部30は、例えば、現在の位置における縦軸のデジタル値と、1つ前の交差点である回転子角θ105の縦軸のデジタル値を記憶部33に記憶させる。
【0099】
回転子RがCW回転の場合、回転子Rの位置は、回転子角θ107とθ109の間に移動する。位置推定部30は、回転子角θ105とθ107の間の大小関係から、回転子角θ107とθ109の間の大小関係に変化したとき及び検出信号Hv0’から検出信号Hu0’への中間信号の切り替わり、及び切り替わり後の中間信号の基準値に対する正負を判別し、回転子RがCW回転であると判別する。続けて、位置推定部30は、回転子角θ107とθ109の間の分割信号sg107とsg108とを、分割信号sg106に順方向に接続する。
【0100】
一方、回転子RがCCW回転の場合、回転子Rの位置は、回転子角θ103とθ105の間に移動する。位置推定部30は、回転子角θ105とθ107の間の大小関係から、回転子角θ103とθ105の間の大小関係に変化したとき及び検出信号Hv0’から検出信号Hw0’への中間信号の切り替わり、及び切り替わり後の中間信号の基準値に対する正負を判別し、回転子RがCCW回転であると判別する。続けて、位置推定部30は、回転子角θ103とθ105の間の分割信号sg103とsg104とを、分割信号sg105に逆方向に接続する。
【0101】
なお、本実施形態では、検出部10のセンサとして、ホール素子を例に説明したが、これに限られない。検出部10に用いるセンサは、検出信号が正弦波、または正弦波に高調波を含む出力信号であってもよい。例えば、検出部10のセンサは、磁気抵抗効果を用いたセンサであってもよい。
【0102】
なお、本実施形態では、交差点から当該交差点と隣り合うゼロクロス点まで、またはゼロクロス点から当該ゼロクロス点と隣り合う交差点までの検出信号の一部を分割信号として抽出する例を説明したが、これに限られない。分割検出部322は、交差点から当該交差点と隣り合うゼロクロス点まで、またはゼロクロス点から当該ゼロクロス点と隣り合う交差点までの線分を生成することで、分割信号を抽出するようにしてもよい。線分は、例えば直線であってもよく、正弦波の一部であってもよい。
【0103】
また、本実施形態において、
図2にアウターロータの例を示したが、これに限られない。モータMは、スロットが回転子Rの一部となるブラシ付きモータであってもよい。
【0104】
さらに、モータMは、リニアモータであってもよい。モータMがリニアモータの場合、回転子Rは、例えば、磁石を有する可動子であってもよい。
【0105】
また、本実施形態では、検出部10の位相が120度ずつずれている3つのセンサ11〜センサ13の例を説明したが、これに限られない。検出部10が備えるセンサの数は、3個に限られない。この場合、各センサの出力は、センサの総数で除算した位相ずつずれていればよい。
【0106】
また、本実施形態では、交差位置検出部321が交差点とゼロクロス点とを検出する例を説明したが、これに限られない。交差位置検出部321は、交差点のみ検出するようにしてもよい。この場合、分割検出部322は、交差点から当該交差点と隣り合う交差点までの検出信号の一部を分割信号として、逐次検出するようにしてもよい。この場合において、電気角1周期分の分割信号の個数は6個になる。また、モータMの極対数が6の場合、機械角1周期分の分割信号の個数は36個になる。
【0107】
[第2の実施形態]
本実施形態では、第1の実施形態の位置推定部30が、補正部をさらに備えている例を説明する。
【0108】
図8は、本実施形態に係るモータ制御システム1Aの構成を示す概略図である。
【0109】
図8に示すようにモータ制御システム1Aは、位置推定部30に代えて位置推定部30Aを備える。
【0110】
位置推定部30Aは、位置演算部32に代えて位置演算部32Aを備え、記憶部33に代えて記憶部33Aを備える。
【0111】
位置演算部32Aは、さらに補正部324を備える。
【0112】
補正部324は、第1補正部3241、第2補正部3242、および第3補正部3243を備える。AD変換部31に加え、補正部324も、前処理回路の一部として機能する。
【0113】
第1補正部3241は、回転子Rが回転しているとき、各相の検出信号が有する同相ノイズを補正し、補正した検出信号を第2補正部3242に出力する。なお、同相ノイズとは、各相の検出信号が有するノイズ成分である。
【0114】
図3を用いて説明したように、検出信号Hu0、Hv0、およびHw0は、オフセット成分を有している。また、
図3を用いて説明したように、検出信号Hu0、Hv0、およびHw0のピーク値には、ばらつきがある。なお、ピーク値とは、検出信号の極大値と極小値とである。位置演算部32Aは、デジタル信号の検出信号に対して各処理を行っている。第2補正部3242は、位置演算部32Aのダイナミックレンジを有効に使用するために行われる。回転子Rが回転しているとき、検出信号の振幅のばらつきとオフセット成分を補正し、補正した検出信号を第3補正部3243に出力する。
【0115】
第3補正部3243は、分割信号の略S字の形状を直線に補正するために行われる。分割信号は、検出信号の一部であるため、略S字の形状をしている。このため、第3補正部3243の補正を行うことで、補正した検出信号を交差位置検出部321に出力する。
【0116】
記憶部33Aは、補正部324が補正に使用する補正式、補正に用いる補正値および係数を、さらに記憶する。なお、補正式と係数については、後述する。
【0117】
次に、位置演算部32Aが行う補正処理の手順を説明する。
【0118】
本実施形態におけるモータ制御システム1の動作は、第1補正手順と、第2補正手順と、第3補正手順とを含む。
【0119】
図9は、本実施形態に係る位置演算部32Aが行う処理の手順のフローチャートである。また、
図9に示す例において、補正部324が、第1補正〜第3補正の全てを行う例を説明する。また、
図7で説明した処理と同じ処理については、同じ符号を用いて説明を省略する。なお、位置推定部30Aは、以下の処理を行う。
(ステップS201)第1補正部3241は、第1補正を行う。なお、第1補正については、後述する。
(ステップS202)第2補正部3242は、第1補正後、第2補正を行う。なお、第2補正については、後述する。
(ステップS203)第3補正部3243は、第2補正後、第3補正を行う。なお、第3補正については、後述する。
【0120】
ステップS203の処理後、補正部324は、ステップS110の処理を行う。
【0121】
以上で、位置演算部32Aが行う処理を終了する。
【0122】
<第1補正の説明>
次に、第1補正部3241が
図9のステップS201で行う第1補正の処理の手順について説明する。
【0123】
図10は、本実施形態に係る第1補正の処理の手順のフローチャートである。
(ステップS2011)第1補正部3241は、U相、V相、およびW相の検出信号のうち1つを逐次選択する。
(ステップS2012)第1補正部3241は、選択した検出信号に対応する補正式を用いて第1補正を行う。補正式は、後述する式(1)〜式(3)である。例えば、ステップS2011でU相の検出信号を選択した場合、第1補正部3241は、式(1)を用いて第1補正を行う。
(ステップS2013)第1補正部3241は、全て相の検出信号に対して、ステップS2012の処理が終了したか否かを判別する。第1補正部3241は、全ての相の検出信号に対して、ステップS2012の処理が終了したと判別した場合(ステップS2013;YES)、処理を終了する。第1補正部3241は、全ての相の検出信号に対して、ステップS2012の処理が終了していないと判別した場合(ステップS2013;NO)、ステップS2014の処理に進む。
(ステップS2014)第1補正部3241は、まだ選択されていない相の検出信号を選択し、ステップS2012の処理に戻す。
【0124】
次に、第1補正部3241が行う第1補正について詳細に説明する。
【0125】
第1補正部3241は、3つの検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’に対して、次式(1)〜次式(3)を用いて第1補正を行う。
Hiu0’=Hu0’−(Hv0’+Hw0’)/2 …(1)
Hiv0’=Hv0’−(Hu0’+Hw0’)/2 …(2)
Hiw0’=Hw0’−(Hu0’+Hv0’)/2 …(3)
式(1)において、Hiu0’は、検出信号Hu0’に対して第1補正を行った補正値である。式(2)において、Hiv0’は、検出信号Hv0’に対して第1補正を行った補正値である。式(3)において、Hiw0’は、検出信号Hw0’に対して第1補正を行った補正値である。上述のように、第1補正手順では、補正部324が、検出信号のうち1つを順次選択し、選択した検出信号から、選択されていない他の検出信号の平均値を減算することにより、選択した検出信号を補正した検出信号を検出信号それぞれについて生成する。
【0126】
次に、第1補正による効果を説明する。
【0127】
図11は、本実施形態に係る第1補正を行った結果の一例の波形図である。
図11に示す波形図は、
図3に示した波形をデジタル信号に変換した後、式(1)〜式(3)を用いて、第1補正部3241によって補正された後の波形である。
図11において、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸はデジタル値を表す。また、AD変換部31のビット数が12ビットの場合、B2は、2047である。また、−B2は、−2048である。
図11に示したように、第1補正部3241は、第1補正によって、検出信号のデジタル値方向の変動を低減することができる。これにより、第1補正部3241は、第1補正によって、同相ノイズを低減することができる。
【0128】
ここで、同相ノイズを低減することができる理由について説明する。
【0129】
同相ノイズ信号をHn0’とすると、同相ノイズ信号Hn0’は、3つの検出信号にそれぞれ生じている。同相ノイズ信号Hn0’を考慮した式(1)の補正後の検出値Hiu0’は、次式(4)で表される。
【0130】
Hiu0’=(Hu0’+Hn0’)−{(Hv0’+Hn0’)+(Hw0’+Hn0’)}/2
=(Hu0’+Hn0’)−{Hn0’+(Hv0’+Hw0’)/2}
=Hu0’−(Hv0’+Hw0’)/2 …(4)
式(4)に示すように、各相の検出信号が有する同相ノイズHn0’は、式(1)の補正によって、打ち消される。これにより、第1補正では、同相ノイズを低減することができる。
【0131】
同様に、式(2)によって、検出信号Hv0’の同相ノイズを低減することができる。また、式(3)によって、検出信号Hw0’の同相ノイズを低減することができる。
【0132】
なお、モータMが、例えば4相の場合、第1補正部3241は、4つの相の検出信号から1つを選択する。ここで、4相の検出信号は、U相、V相、W相、およびZ相である。次に、第1補正部3241は、選択した検出信号に対応する補正式を用いて第1補正を行う。すなわち、第1補正部3241は、4相のモータMの場合、相毎の4つの補正式を用いて、第1補正を行う。例えば、U相の検出信号に対する補正式は、次式(5)である。
Hiu0’=Hu0’−(Hv0’+Hw0’+Hz0’)/3 …(5)
【0133】
第1補正部3241は、検出部から出力される検出信号が4相のモータであっても、相毎の4つの補正式を用いて、第1補正を行うことによって、同相ノイズを低減することができる。すなわち、本実施形態によれば、相の数に応じた補正式を用いて第1補正を行うことで、同相ノイズを低減することができる。
【0134】
<第2補正の説明>
次に、第2補正部3242が
図9のステップS202で行う第2補正の処理の手順について説明する。
【0135】
第2補正部3242は、電気角1周期において、U相、V相、およびW相の検出信号のうち1つを逐次選択する。次に、第2補正部3242は、選択した相の検出信号に対して、記憶部33Aに記憶されている補正値と、選択した相の検出信号に対応する補正式を用いて第2補正を行う。なお、補正式は、後述する式(6)〜式(11)である。例えば、U相の検出信号を選択した場合、第2補正部3242は、式(6)および式(7)を用いて第2補正を行う。
【0136】
次に、各検出信号の極大値と、極小値について、
図11を参照して説明する。
【0137】
以下において、点Hiu_maxはU相の極大値の例である。点Hiv_maxはV相の極大値の例である。点Hiw_maxはW相の極大値の例である。点Hiu_minはU相の極小値の例である。点Hiv_minはV相の極小値の例である。点Hiw_minはW相の極小値の例である。bu、bv、およびbwそれぞれは、記憶部33Aに記憶されている各相のオフセット補正値である。
【0138】
次に、第2補正部3242が行う第2補正について詳細に説明する。
【0139】
第2補正部3242は、各相の検出信号について、デジタル値が正側であるか負側であるかを判別する。ここで、正側のデジタル値とは、
図11においてデジタル値が0より大きい値である。また、負側のデジタル値とは、
図11においてデジタル値が0より小さい値である。第2補正部3242は、振幅の範囲を所定の最大値B2および所定の最小値−B2の範囲に均一化する補正を行う。
【0140】
第2補正部3242は、補正後の検出信号Hiu0’の正側のデジタル値に対して、記憶部33Aに記憶されている情報を用いて次式(6)によって第2補正を行う。また、第2補正部3242は、補正後の検出信号Hiu0’の負側のデジタル値に対して、記憶部33Aに記憶されている情報を用いて次式(7)によって第2補正を行う。
【0141】
第2補正部3242は、補正後の検出信号Hiv0’の正側のデジタル値に対して、記憶部33Aに記憶されている情報を用いて次式(8)によって第2補正を行う。また、第2補正部3242は、補正後の検出信号Hiv0’の負側のデジタル値に対して、記憶部33Aに記憶されている情報を用いて次式(9)によって第2補正を行う。
【0142】
第2補正部3242は、補正後の検出信号Hiw0’の正側のデジタル値に対して、記憶部33Aに記憶されている情報を用いて次式(10)によって第2補正を行う。また、第2補正部3242は、補正後の検出信号Hiw0’の負側のデジタル値に対して、記憶部33Aに記憶されている情報を用いて次式(11)によって第2補正を行う。
Hiu1(ppn)’=au_max(ppn)×(Hiu0’(ppn)+bu) …(6)
Hiu1(ppn)’=au_min(ppn)×(Hiu0’(ppn)+bu) …(7)
Hiv1(ppn)’=av_max(ppn)×(Hiv0’(ppn)+bv) …(8)
Hiv1(ppn)’=av_min(ppn)×(Hiv0’(ppn)+bv) …(9)
Hiw1(ppn)’=aw_max(ppn)×(Hiw0’(ppn)+bw) …(10)
Hiw1(ppn)’=aw_min(ppn)×(Hiw0’(ppn)+bw) …(11)
式(6)および式(7)において、Hiu1’は、U相の検出信号に対して第2補正を行った補正値である。式(8)および式(9)において、Hiv1’は、V相の検出信号に対して第2補正を行った補正値である。式(10)および式(11)において、Hiw1’は、W相の検出信号に対して第2補正を行った補正値である。
【0143】
また、式(6)〜式(11)において、ppnは、1〜6の整数であり、磁極対を表す値である。式(6)、式(8)、および式(10)において、au_max(ppn)、av_max(ppn)、およびaw_max(ppn)それぞれは、記憶部33Aに記憶されている各磁極対に対応する電気角1周期分の正側のデジタル値に対する正側ゲイン補正値である。式(7)、式(9)、および式(11)において、au_min(ppn)、av_min(ppn)、およびaw_min(ppn)それぞれは、記憶部33Aに記憶されている各磁極対に対応する電気角1周期分の負側のデジタル値に対する負側ゲイン補正値である。式(6)〜式(11)において、bu、bv、およびbwそれぞれは、記憶部33Aに記憶されている各相のオフセット補正値である。
【0144】
なお、au_max(ppn)、av_max(ppn)、aw_max(ppn)、au_min(ppn)、av_min(ppn)、およびaw_min(ppn)それぞれは、極対毎の補正値である。このため、正側ゲイン補正値の個数は、18個(=3相×6極対数)である。同様に、負側ゲイン補正値の個数は、18個である。
【0145】
次に、第2補正による効果を説明する。
【0146】
図12は、本実施形態に係る第2補正を行った結果の一例の波形図である。
図12に示す波形図は、第2補正後に、第2補正部3242によって補正された後の波形である。
図12において、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸はデジタル値を表す。
【0147】
図12に示したように、第2補正によって、検出信号のオフセット成分の補正が行われている。また、第2補正によって、振幅の範囲が、+B2〜−B2の範囲に、ほぼ均一化される。この補正によって、位置推定部30Bは、各部の使用可能なデジタル信号値の範囲を有効に利用することができる。
【0148】
以上のように、第2補正によって、検出信号Hiu0’、Hiv0’およびHiw0’の各相のオフセット成分を低減し、各相の各極の振幅を整えることができる。
【0149】
<オンライン処理による補正の説明>
なお、本実施形態では、正側ゲイン補正値、負側ゲイン補正値、およびオフセット補正値が記憶部33Aに記憶されている例を説明したが、これに限られない。第2補正部3242が、正側ゲイン補正値、負側ゲイン補正値、およびオフセット補正値をオンライン処理で算出するようにしてもよい。例えば、第2補正部3242は、1つ前の機械角1周期分の検出信号を用いて、正側ゲイン補正値、負側ゲイン補正値、およびオフセット補正値を算出するようにしてもよい。
【0150】
次に、第2補正部3242が行うオフセット補正値と正側ゲイン補正値と負側ゲイン補正値との算出手順について説明する。
【0151】
図13は、本実施形態に係るオフセット補正値と正側ゲイン補正値と負側ゲイン補正値との算出処理のフローチャートである。
(ステップS2021)第2補正部3242は、電気角6周期分の各相の極大値と極小値とを検出する。
(ステップS2022)第2補正部3242は、電気角6周期分の区間において、各相のオフセット補正値を算出する。具体的には、第2補正部3242は、電気角6周期分の各相の振幅最大値と振幅最小値の平均を算出する。各相における求めた振幅最大値の平均値と振幅最小値の平均値とから算出される最大最小平均値を算出する。算出された最大最小平均値は、相毎のオフセット補正値bu、bv、bwとする。ここで、電気角6周期分とは、逐次入手した最新の電気角6周期分の平均値である。なお、電気角6周期分の平均値でなくてもよく、少なくとも2周期分以上の電気角1周期毎の振幅最大値と振幅最小値によって算出すればよい。次に、第2補正部3242は、算出した各相のオフセット補正値を記憶部33Aに記憶させる。
(ステップS2023)第2補正部3242は、電気角1周期分の区間において、相毎および極対毎に、正側ゲイン補正値と負側ゲイン補正値とを算出する。続けて、第2補正部3242は、算出した相毎および極対毎に、正側ゲイン補正値と負側ゲイン補正値とを記憶部33Aに記憶させる。
【0152】
第2補正部3242は、ステップS2021〜ステップS2023の処理によって記憶部33Aに記憶された補正値と、対応する式(6)〜式(11)によって、例えば次の電気角1周期分の検出信号に対して第2補正を行う。
【0153】
なお、モータMが、例えば4相の場合、第2補正部3242は、相毎にオフセット補正値と正側ゲイン補正値と負側ゲイン補正値とを算出するようにしてもよい。モータMが4相の場合、オフセット補正値の個数は4個である。また、正側ゲイン補正値および負側ゲイン補正値の個数は、各々24個(=4相×6極対)ずつである。上述のように、本実施形態におけるモータ制御システム1の動作は、極大極小検出手順と、平均算出手順と、オフセット算出手順と、第1ゲイン算出手順と、第2ゲイン算出手順と、を含む。
【0154】
<第3補正の説明>
次に、第3補正部3243が、
図9のステップS203で行う第3補正について説明する。
【0155】
まず、第3補正を行う理由を説明する。
【0156】
図14は、本実施形態に係る電気角1周期分の角度の分割信号を結合した波形図である。横軸は推定角度[deg]を表す。縦軸は角度真値[deg]を表す。
【0157】
図14において、曲線g211は、電気角6周期分の角度の分割信号を接続した波形である。また、直線g212は、理想的な直線である。また、直線g221と直線g222とは、曲線g211のばらつきの範囲を示している。
【0158】
なお、
図14に示した曲線g211は、補正部324による第1補正〜第3補正後に、第1の実施形態で説明した分割検出部322による分割信号を、線分接続部323によって接続させた後の波形である。これらの補正および処理を行うことで、位置検出の精度は、直線g221と直線g222とが示すように、約±α[deg]になる。
【0159】
前述したように、分割信号は、略S字の形状をしている。第3の補正を行わない場合、曲線g211のばらつきの範囲が、
図14に示した例より大きくなる。すなわち、位置検出の精度は±α[deg]より大きな値になる。このため、第3補正部3243は、分割信号の略S字の形状を直線に補正することで第3補正を行う。この結果、第3補正によって、位置検出の精度をさらに向上させることができる。
【0160】
なお、
図14における符号g311、g312、x1、およびx2については、第3実施形態で説明する。
【0161】
次に、第3補正について詳細に説明する。
【0162】
第3補正部3243は、各相の検出信号に対して、記憶部33Aに記憶されている値を係数として用いることで、検出信号のスケールを変更する第3補正を行う。
【0163】
第3補正を行うことで、各分割信号の略S字状の形状を直線化することができる。ここで、記憶部33Aに記憶されている値とは予め設計された値である。
【0164】
この第3補正は、予め設計された値を用いて、二次関数、三次関数、三角関数等の補正式により計算処理を行う。
【0165】
なお、以下の説明では、第2補正後の検出信号Hiu1’、Hiv2’およびHiw1’に対して、第3補正を行う例を説明する。
【0166】
Hiu2’は、第2補正後のU相の検出信号に対して第3補正を行った補正値である。Hiv2’は、第2補正後のV相の検出信号に対して第3補正を行った補正値である。Hiw2’は、第2補正後のW相の検出信号に対して第2補正を行った補正値である。
【0167】
次に、第3補正による効果を説明する。
【0168】
図15は、本実施形態に係る第3補正を行った結果の一例の波形図である。
図15に示す波形図は、第2補正後に第3補正を行った後の波形である。
図15において、横軸は回転子角[deg]を表す。縦軸はデジタル値を表す。
【0169】
図15の符号g201が示す領域の波形は、符号g200が示す領域の波形を拡大した波形である。符号g201が示す領域の波形において、曲線Hiu1(1)’は、第1補正後に第2補正を行った後の検出信号Hiu1(1)’の波形の一部である。また、曲線Hiu2’は、第1補正後に第2補正を行った後、さらに第3補正を行った後の検出信号Hiu2’の波形の一部である。
【0170】
交差点cp101’〜cp102’の区間の曲線Hiu1(1)’と比較して、交差点cp101〜cp102の区間の曲線Hiu2’は、交差点間の検出信号の直線性が向上している。
【0171】
このように、第3補正によれば、検出信号Hiu2’、Hiv2’、およびHiw2’は、
図12に示した検出信号Hiu1(ppn)’、Hiv1(ppn)’、およびHiw1(ppn)’と比較して、直線性が向上し角度に比例した信号を得ることができる。
【0172】
なお、第3補正部3243は、第3補正処理を検出信号の波形の形状に応じた補正式によって計算処理する。
【0173】
また、第3補正部3243は、予め設計された値に代えて第2補正と同様に、1つ前の機械角1周期分の検出信号に基づいて、逐次算出した値を用いてもよい。そして、第3補正部3243は、算出した値を係数として記憶部33Aに記憶させるようにしてもよい。
【0174】
なお、上述した例において、補正部324が、第1補正〜第3補正の全てを行う例を説明したが、これに限られない。例えば、補正部324は、検出信号に対して第1補正〜第3補正のうち、少なくとも1つの補正を行うようにしてもよい。
【0175】
以上のように、本実施形態の位置推定方法では、第1補正によって、検出信号の同相ノイズを低減することができる。また、本実施形態では、第2補正によって、複数の検出信号の相互ばらつきを補正することができる。ここで、複数の信号の相互ばらつきとは、例えば、検出信号の振幅およびオフセット成分のばらつきである。さらに、本実施形態では、第3補正によって、波形の曲線部分を直線化することができる。特に、第2補正を行うことで分割信号の長さが均一化されるため、第3補正において、すべての分割信号に一律の計算処理を適用しやすい。したがって、第2補正は、第3補正の前工程で行うことにより、より波形の曲線部分を直線化することができる。
【0176】
この結果、本実施形態では、位置情報に必要な信号部分がより直線化し、位置推定値と真値の差を小さくすることができるので、高精度な位置検出を行うことができる。
【0177】
なお、本実施形態において、補正部324が、デジタル信号に変換された検出信号を補正する例を説明したが、これに限られない。補正部324は、増幅部20とAD変換部31との間に設けられていてもよい。この場合、補正部324は、アナログ信号である検出信号Hu0、Hv0、およびHw0を補正するようにしてもよい。また、本実施形態においても、検出部10が備えるセンサの数は、3個に限られない。この場合、各センサの出力は、センサの総数で除算した位相ずつずれていればよい。
【0178】
モータ制御システム1は、上述のように、補正された検出信号を用いることで、より精度の高い位置制御を行うことができる。例えば、回転子Rの回転位置の検出を従来技術のように光学式のエンコーダを用いて行う場合、検出精度は、エンコーダの分解能に依存する。ここで、光学式のエンコーダは、例えば、フォトインタラプタとエンコーダディスクとを有している。エンコーダディスクには、円周上に等間隔で形成されたスリットを有する。例えば、分解能が400パルスのエンコーダの検出精度は、約±0.9度である。一方で、本実施形態の位置推定方法を用いた位置推定部30では、光学式エンコーダの検出精度と同等の精度を実現することができる。
【0179】
[第3の実施形態]
第1の実施形態の位置推定部30が、正規化部をさらに備えている例を説明する。
【0180】
図16は、本実施形態に係るモータ制御システム1Bの構成を示す概略図である。
【0181】
図16に示すように、モータ制御システム1Aは、位置推定部30に代えて位置推定部30Bを備える。
【0182】
位置推定部30Bは、位置演算部32に代えて位置演算部32Bを備え、記憶部33に代えて記憶部33Bを備える。
【0183】
位置演算部32Bは、さらに正規化部325を備える。正規化部325は、分割検出部322によって検出された分割信号の線分の傾きを均一化する補正を行い、補正した検出信号を線分接続部323に出力する。
【0184】
記憶部33Bは、セグメント毎の正規化係数を、さらに記憶する。なお、正規化係数については、後述する。
【0185】
<正規化の説明>
まず、正規化を行う理由について、
図14を参照して説明する。
【0186】
センサ11〜センサ13のそれぞれの検出感度及び取り付け位置の誤差等に応じて、センサ11〜センサ13の検出信号の形状は、理想的な同一形状とはならない。また、検出信号の位相は、理想的な位相のずれとはならない。その結果、検出信号の形状の違い等は、検出信号の交差位置およびゼロクロス点に影響する。すると、それぞれの分割信号の線分の傾きは一定ではなくなる。ここで、正規化とは、分割信号の線分の傾きを均一にする補正である。
【0187】
図14を例とすると、角度真値が60[deg]に対して、推定角度はx1、約40[deg]である。また、角度真値が120[deg]に対して、推定角度はx2、約100[deg]である。
図14に示す例では、角度真値が0[deg]〜60[deg]の間の線分g311の傾きと、角度真値が60[deg]〜120[deg]の間の線分g312の傾きとが異なっている。
【0188】
検出信号の線分の傾きが異なっている場合は、分割信号sg311と分割信号sg312を接続させ、接続された線分の傾きから機械角の角度を求めると、線分の傾きの差異によって、位置推定の結果に誤差が生じてしまうことがある。
【0189】
このため、本実施形態では、分割信号を正規化することで、位置推定の結果の誤差を低減する。
【0190】
図17は、本実施形態に係る分割信号の正規化を説明する図である。
図17において、横軸は機械角度[deg]を表す。縦軸は、デジタル値を表す。
図17では、説明を簡略化するために、2個の分割信号のみを示している。
【0191】
図17の符号g321が示す波形は、分割信号sg341’と分割信号sg342’とが接続された波形である。分割信号sg341’の機械角度は、Θ[1]’である。分割信号sg341’のデジタル値はΔX[1]である。また、分割信号sg342’の機械角度は、Θ[2]’である。また、分割信号sg342’のデジタル値はΔX[2]である。
【0192】
正規化部325は、記憶部33Bに記憶されているセグメント毎の正規化係数k[i]および分割信号毎のデジタル値ΔX[i]を用いて、次式(12)によって、機械角Θ[i]’を算出する。なお、iはセグメントの番号であり、1〜72の整数である。
Θ[i]’=ΔX[i]×k[i] …(12)
また、正規化部325は、
図17に示した前回記憶した交差位置もしくはゼロクロス点から現時刻における機械角度の偏差ΔΘ[n]を、次式(13)を用いて算出する。
ΔΘ[n]=X[n]×k[i] …(13)
式(13)において、nは現時点での不定数を示す。
【0193】
正規化部325は、分割信号の縦軸のX[n]に正規化係数k[i]を乗算し、乗算した結果を線分接続部323に出力する。
【0194】
本実施形態では、分割信号を正規化して接続することで、分割信号毎の線分の傾きを、ほぼ均一化することができる。この結果、本実施形態によれば、検出部の取り付け精度のばらつき、検出部の信号のばらつきが生じている場合であっても、位置の検出精度を、さらに向上することができる。
【0195】
<正規化係数k[i]のオフライン処理での算出>
ここで、上式(13)における正規化係数k[i]のオフライン処理での算出方法を説明する。オフライン処理とは、例えば、出荷前に予め行う処理、または、モータ制御システム1Bを実際に使用する前に行う処理である。正規化係数をオンライン処理で算出する場合、位置演算部32Bの演算負荷が増す。このため、正規化部325が、正規化係数をオフライン処理で算出して記憶部33Bに記憶させておくようにしてもよい。また、以下の処理は、外部装置70からの位置指令値Θ
*に応じて、モータ制御システム1Bが、回転子Rを一定回転速度で回転させて行う。
図18は、本実施形態に係る正規化係数の算出を説明する図である。
図18に示される信号は、オフライン処理によって求められた分割信号の値を示している。
図18において、横軸は機械角度の真値[deg]を表す。縦軸は、デジタル値を表す。
図18では、説明を簡略化するために、2個の分割信号のみを示している。
【0196】
正規化部325は、モータMが所定の回転数で回転しているとき、機械角1周期分の分割信号毎の交差点からゼロクロス点までの経過時間t[i]と、機械角1周期分の分割信号毎の交差点からゼロクロス点までのデジタル値の偏差ΔXnorm[i]とを測定する。
【0197】
次に、正規化部325は、測定した分割信号毎の各経過時間から機械角の真値Θnorm[i]を、次式(14)を用いて算出する。
Θnorm[i]={t[i]/(t[1]+….+t[72])}×360[deg] …(14)
式(14)において、iはセグメントの番号であり、1〜72の整数である。
【0198】
図18の符号g331が示す波形は、分割信号sg341と分割信号sg342とが接続された波形である。分割信号sg341の機械角度の真値は、Θnorm[1]である。また、分割信号sg341のデジタル値はΔXnorm[1]である。
【0199】
正規化部325は、分割信号毎、すなわちセグメント毎に、式(14)によって求めた機械角度の真値Θnorm[i]を用いて、次式(15)から、正規化係数k[i]を算出する。算出した正規化係数k[i]を記憶部33Bに記憶させる。
k[i]=Θnorm[i]/ΔXnorm[i] …(15)
【0200】
以上のように、オフライン処理を行うことで、式(15)から求めた正規化係数k[i]を算出することができる。上述のように、この正規化係数k[i]を、オンライン時における機械角度Θ[i]’式(12)または、ΔΘ[n]式(13)の導出に用いる。その結果、分割信号毎の線分の傾きのばらつきを補正した機械位置の推定が可能となる。すなわち、本発明の位置推定方法の一つの態様は、正規化部が、所定の回転数で可動子が回転しているとき、分割信号毎の時間と、可動子が1周することに要する時間と、分割信号毎の時間において増加した信号値または分割信号の線分の長さと、を計測する計測手順と、正規化部が、計測手順によって計測された分割信号毎の時間と、可動子が一周することに要する時間に基づいて分割信号毎の機械角度を算出する機械角度算出手順と、正規化部が、機械角度算出手順によって算出された機械角度を、計測手順によって計測された信号値または線分の長さで除算することにより、分割信号毎の正規化係数を算出する正規化係数算出手順と、正規化部が、分割信号毎に、正規化係数算出手順によって算出された正規化係数に、新たに検出された分割信号の信号値または線分の長さを乗算して正規化を行うことにより機械角度を補正する正規化手順と、を含む。
【0201】
<Θoffset[i]のオフライン処理での算出>
図19は、本実施形態に係る機械角度位置の算出を説明する図である。
図19に示す例では、極対番号は1について説明する図である。
【0202】
図19において、求めたい機械位置が、セクションsc2からΔΘ[n]の位置であるとする。ΔΘ[n]は、1つ前の交差点およびゼロクロス位置から現時刻nまでの回転子Rの角度である。
【0203】
ここで、機械位置の角度が0[degM]の位置をΘoffset[1]とする。Θnorm[1]後の位置をΘoffset[2]とする。機械位置の角度が0[degM]の位置からΘnorm[2]後の位置をΘoffset[3]とする。したがって、機械位置の角度が0[degM]の位置からΘnorm[i]後の位置をΘoffset[i]とする。
【0204】
Θoffset[i]は、次式(16)のように表される。
Θoffset[i]=Σ(Θnorm[i−1]) …(16)
ただし、i=1〜72、Θnorm[0]=0である。
【0205】
このとき、オフライン処理で算出されたΘoffset[i]は、記憶部33Bに保存される。
【0206】
<機械角度Θ[n]の算出>
このため、現在の位置、すなわち現時刻の回転子Rの機械角度Θ[n]は、次式(17)のように表される。
Θ[n]=Θoffset[i]+X[n]×k[i]
=Θoffset[i]+ΔΘ[n] …(17)
式(17)で示すように、Θoffset[i]は、現時刻の回転子Rの機械角度Θ[n]の算出する場合において、記憶部33Bから呼び出される。
【0207】
ここで、オンライン処理において、現時刻の回転子Rの機械角度Θ[n]を算出することを考える。オンライン処理で算出されるΘoffset[i]で示した機械角度の位置が、オフライン処理で算出したΘoffset[i]の機械角度の位置と異なる場合がある。この誤差は、現時刻の回転子Rの機械角度Θ[n]の算出誤差となる。その結果、この誤差によって、回転子Rが機械角一周期分回転した後に、同じ機械角度の位置に戻らないことがある。
【0208】
そこで、オフライン処理で算出したΘoffset[i]を用いる。式(17)で示したように、ΔΘ[n]の一つ前の交差位置またはゼロクロス点までの機械角度の位置を基準として、ΔΘ[n]を算出する。この方法により、Θoffset[i]より前の区間で生じている誤差が累積することなく、ΔΘ[n]を算出することができる。すなわち、機械角度算出手順では、正規化部が、可動子が一周することに要する区間、正規化手順によって補正された機械角度を、新たに検出された分割信号1つ前の前記機械角度に加算して現在の前記機械角度を算出する。
【0209】
上述したオフライン処理によって取得されたデータを、本明細書では「測定データ」と称する。測定データは、各セグメントに対応する可動子の移動量を全てのセグメントに対応づけたデータである。セグメントの個数が72個である場合、セグメント1からセグメント72のそれぞれについて、測定によって取得された機械角度(セグメントの始点から終点までの機械角度の真値)が割り当てられ得る。このような測定データは、例えば情報テーブルとして記憶部33、33A、33Bに記憶され、保存される。測定データを記憶部33、33A、33Bから読み出して参照すれば、セグメントの番号から、その番号によって指定されるセグメントの機械角度、あるいは、その機械角度に付随する他の情報を読み出すことができる。
【0210】
例えば、セグメント1、セグメント2、・・・、セグメント72は、それぞれ、4.1度、4.9度、・・・、5.3度の機械角度を有していることがオフライン処理によって取得されたとする。こうして得られた測定データは、テーブルとして記録装置に格納されているとする。この場合、検出されたセグメントの番号から、測定データを参照すれば、そのセグメントに対応する機械角度(真値)が得られる。このような機械角度の数値の列は、個々のモータに固有であり、モータのいわゆる「指紋」として機能し得る。
【0211】
測定データは、典型的には出荷前に記憶部に保持されるが、その後に更新されてもよい。オフライン処理で学習した正規化係数k[i]の値が、経時的に変化することもあり得る。このため、定期的または不定期的にオフライン処理を行い、測定データのとり直しを実行してもよい。
【0212】
なお、測定データは、インターネットまたは他の通信回線を介して集められ、クラウド上のストレージ装置に格納されても良い。上記のように測定データが更新された場合、クラウド上のストレージ装置における測定データも更新される。更新された測定データの内容に基づいて、モータMを診断することも可能である。
【0213】
<機械位置の特定>
次に、機械位置の初期位置の特定方法について説明する。
【0214】
本実施形態におけるモータ制御システム1の動作は、記憶手順と、セクション判別手順と、誤差算出手順と、評価手順と、位置特定手順と、判別手順と、を含む。電源再投入後はセグメントiの情報が初期化される。このためオフライン処理で学習した正規化係数k[i]を正しく適用できない。このため電源再投入後は、機械位置(セグメントまたは極対番号)の特定が必要となる。ここで、セグメントまたは極対番号は、セグメントの番号=12×極対番号+セクションの番号という式で表される。そのため、極対番号を特定することでセグメントの番号(機械位置)を特定することができる。
【0215】
図20は、本実施形態に係る回転子Rの初期位置の特定処理の手順のフローチャートである。
(ステップS701)正規化部325は、モータM、またはモータMを組み込んだ製品の出荷時に、回転子Rを速度一定にして回転させたときの各分割信号における機械角度の真値Θnorm[i]を記憶部33Bに逐次記憶させる。電源再投入後において、記憶部33Bに記憶された保存情報は、フラッシュROMからRAMへと呼び出される。このように、正規化部325は、回転子Rを速度一定にして回転させたときの各分割信号における機械角度の真値Θnorm[i]を記憶部33Bに逐次記憶させることで、学習を行う。
(ステップS702)位置推定部30Bは、記憶部33Bに記憶されている検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’の大小関係の組み合わせに基づいて、回転子Rのセクションの番号を判別する。
(ステップS703)位置推定部30Bは、セクション毎に、機械角度の真値Θnorm[i]と機械角度Θ[i]との誤差を算出する。
(ステップS704)位置推定部30Bは、ステップS703で算出した誤差の累積評価を行う。
(ステップS705)位置推定部30Bは、誤差が上限に達した極対番号(セグメント)の候補を順次破棄する。
(ステップS706)位置推定部30Bは、所定時間内に全ての候補が誤差上限に達したか否かを判別する。位置推定部30Bは、所定時間内に全ての候補が誤差上限に達していないと判別した場合(ステップS706;NO)、ステップS707の処理に進む。位置推定部30Bは、所定時間内に全ての候補が誤差上限に達していると判別した場合(ステップS706;YES)、ステップS708の処理に進む。
(ステップS707)最後まで残った極対番号(セグメント)の候補から、セグメントを特定することで、回転子Rの初期位置を特定する。そして、セグメントの番号の特定処理を終了する。
(ステップS708)位置推定部30Bは、受け取った検出信号をもとに、正規化を行ったモータMと異なっていると判別する。
【0216】
以上で、回転子Rの初期位置の特定処理を終了する。なお、(ステップS701)において、記憶部33Bに記憶される保存情報は、機械角度の真値Θnorm[i]に限らない。例えば、分割信号毎にデジタル値または分割信号毎の線分の長さ等を記憶部33Bに記憶してもよい。また、記憶部33Bに記憶される保存情報には、正規化係数k[i]、補正式(1)〜(3)、(6)〜(11)、第3補正に用いられる補正式、正側ゲイン補正値、負側ゲイン補正値、各相のオフセット補正値、予め設計された値が含まれてもよい。すなわち、(ステップS701)の記憶手順は、計測手順または機械角度算出手順によって算出された保存情報を予め記憶部33Bに記憶している。(ステップS703)の誤差算出手順においては、機械角度の真値Θnorm[i]と機械角度Θ[i]との誤差を算出する場合に限らない。例えば、保存情報の分割信号毎のデジタル値または分割信号毎の線分の長さと、オンライン処理における分割信号毎のデジタル値または分割信号毎の線分の長さであってもよい。以上のように、本実施形態の位置推定方法では、各分割信号の機械角と正規化係数を記憶部33Bに記憶することにより、電源を再投入した後にも現在機械位置を特定することができる。また、本実施形態の位置推定方法では、所定時間内に全ての候補が誤差上限に達した場合、検出信号が正規化を行ったモータMと異なっていると判別することができる。
【0217】
なお、本実施形態では、位置演算部32Bが、第2の実施形態で説明した補正部324をさらに備えていてもよい。これにより、さらに位置検出精度を向上させることができる。
【0218】
また、位置演算部32Bが補正部324をさらに備える位置演算部32Bまたは位置演算部32Aは、記憶部33Bが記憶する情報を、オフライン処理時に取得して学習させて記憶部33Bまたは記憶部33Aに記憶させるようにしてもよい。ここで、記憶部33Bまたは記憶部33Aが記憶する保存情報とは、補正式(1)〜(3)、(6)〜(11)、第3補正に用いられる補正式、正側ゲイン補正値、負側ゲイン補正値、各相のオフセット補正値、予め設計された値である。
【0219】
例えば、第2補正で用いる補正値をオンライン処理で算出する場合、位置演算部32の演算負荷が増す。このため、第2補正部3242が、第2の補正で用いる補正値をオフライン処理で算出して記憶部33Aに記憶させておくようにしてもよい。記憶部33が、例えばフラッシュROMとRAMとから構成されている場合、第2補正部3242は、フラッシュROMに記憶されている補正値を、位置演算部32の電源がオン状態にされたとき、RAMに移動して使用するようにしてもよい。第3補正の補正値についても、第3補正部3243は、オフライン処理で記憶部33に記憶させるようにしてもよい。
【0220】
本発明の各実施形態において、基準値をデジタル値が0を示す値として説明したが、これに限られない。例えば、検出信号をAD変換せず、アナログ信号で本発明を行う場合、基準値は必ずしも0を示す値でなくともよい。また、デジタル信号とする場合であっても、基準値は、0でなくてもよい。
【0221】
本発明の各実施形態において、交差位置およびゼロクロス点並びに分割信号を『検出する』とは、位置推定部が交差位置及びゼロクロス点並びに分割信号を算出することによって求めた結果、交差位置及びゼロクロス点を検出することができればよい。
【0222】
なお、本発明の各実施形態における位置推定部(30、30A、30B)の機能を実現するためのプログラムを不図示のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各処理の手順を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0223】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0224】
[第4の実施形態]
上記の実施形態におけるセンサ11〜センサ13の典型例は、前述したように、ホール素子である。ホール素子は、ホール効果(Hall effect)を利用して磁界を検知するセンサ(磁気センサ)である。ホール効果とは、半導体などの物質中を流れる電流に対して垂直な成分を持つ磁界を及ぼすと、電流および磁界の両方と直交する方向に起電力が発生する現象である。一般のホール素子は、2組の端子対を有している。第1の端子対に電流が流れているとき、ホール効果によって第2の端子対に発生する電圧が測定される。ホール効果を利用するセンサには、ホール素子、ホールIC、およびリニアホールICが含まれる。ここでは、ホール素子について説明する。
【0225】
図21は、ホール素子100の回路図である。この例では、電圧源80によってホール素子100の第1の端子対Vi+、Vi−に一定の電圧Vinが印加され、図中の縦方向に電流が流れる。ホール素子100の内部を流れる電流に対して外部から磁界が印加されると、ホール素子100の第2の端子対VH+、VH−に電圧が発生する。この電圧(出力電圧)は、印加電圧Vinが一定のとき、すなわち定電圧動作のとき、磁界の強さに比例する。したがって、ホール素子100の出力電圧に基づいて磁界の強さを検出することができる。
【0226】
図22は、一定の磁界が及んでいるホール素子100の出力電圧と印加電圧Vinとの関係の一例を示すグラフである。
図22から明らかなように、ホール素子100の出力電圧は、磁界の大きさが一定であっても、印加電圧Vinに比例して変化する。ホール素子100が定電圧で動作しているとき、出力電圧の周囲温度依存性はほとんどない。
【0227】
図23は、前述の実施形態における3個のセンサ11〜センサ13を3個のホール素子を用いて実現した構成の一例を示す回路図である。それぞれがホール素子であるセンサ11〜センサ13は、抵抗器15、16を介して、電圧源80とグランドとの間に直列に接続されている。これらの抵抗器15、16は、電圧クリップを防止する機能を発揮する。
【0228】
本発明者の検討によると、本来は周囲温度に影響されにくい定電圧動作中のホール素子の出力電圧が、
図23の回路によれば、周囲温度に応じて変動し得ることがわかった。この変動の原因は、抵抗器15および16が有する抵抗値の温度依存性と、ホール素子100が有する抵抗値の温度依存性とが異なることに起因する。より詳細には、周囲温度の上昇に伴って抵抗器15および16の抵抗値は上昇し、抵抗器15は正の温度係数を持つ。これに対して、ホール素子100の抵抗値は、
図24に示されるように、周囲温度の上昇に伴って低下し、ホール素子100は負の温度係数を持つ。
【0229】
図25に示されるように、抵抗器15、センサ11、センサ12、センサ13、および抵抗器16は、それぞれ、抵抗値R1、Rin1、Rin2、Rin3、およびR2を有しているとする。また、抵抗器15、センサ11、センサ12、センサ13、および抵抗器16には、それぞれ、電圧V1、V2、V3、V4、およびV5が印加されているとする。上述したように、周囲温度が上昇すると、抵抗値R1、R2は上昇するが、抵抗値Rin1、Rin2、およびRin3は低下する。各素子の印加電圧は、抵抗比によって分割される。したがって、周囲温度が上昇すると、電圧源80の電圧が一定であっても、電圧V1、V5は高くなり、電圧V2、V3、およびV4は低くなってしまう。電圧V2、V3、およびV4は、それぞれ、3つのホール素子100の印加電圧である。
図22を参照して説明したように、ホール素子100の印加電圧が低くなることは、印加磁界が同じであっても、出力電圧の低下を招く。
【0230】
以上の説明からわかるように、
図23の回路構成によれば、周囲温度が上昇すると、ホール素子100の印加電圧が低下する結果、
図3に示される信号Hu0、Hv0、Hw0の振幅が小さくなる。逆に、周囲温度が低下すると、ホール素子100の印加電圧が高くなり、
図3における信号Hu0、Hv0、Hw0の振幅は大きくなる。
【0231】
オフラインの学習を行ったときの周囲温度に比べて動作時の周囲温度が変化した場合、測定データをそのまま使用すると、可動子の位置推定値に誤差が発生する可能性がある。
【0232】
本実施形態では、上記の誤差を抑制または解消するため、周囲温度の変化に起因して生じる信号Hu0、Hv0、Hw0の振幅変化を補正する構成を備えている。以下、この構成の例を説明する。
【0233】
図26は、本実施形態におけるホール素子100の回路構成の例を示す回路図である。本実施形態において、それぞれがホール素子100であるセンサ11〜センサ13は、サーミスタ17、18を介して、電圧源80の端子Taとグランドと同じ電位の端子Tbとの間に直列に接続されている。端子TaおよびTbは、直列に接続されたサーミスタ17、センサ11〜センサ13およびサーミスタ18に電圧を供給する。これらのサーミスタ17、18は、電圧クリップを防止する機能を発揮する点では、前述した抵抗器15、16と同様の役割を果たす。異なる点は、サーミスタ17、18の抵抗が周囲温度の上昇に伴って低下することにあり、サーミスタ17、18は、ホール素子100と同じ極性(負)の温度係数を有している。このため、周囲温度の変化に伴う印加電圧の変化が抑制される。
【0234】
一般に、ホール素子の抵抗値Rは、以下の式で近似的に表される(
図24参照)。
R=R0×exp{B(1/T−1/T0)}
ここで、expは指数関数、R0およびBは定数、Tは現在の温度、T0は、基準温度である。温度の単位は絶対温度である。1/Tの係数である「B」の大きさは、「B定数」と称される。サーミスタ17、18は、上記の近似式に表される温度特性と同様の温度特性を持つことが好ましい。
【0235】
サーミスタ17、18に代え、ホール素子100を電圧クリップ防止のための抵抗素子として用いても良い。この場合、抵抗素子として用いられるホール素子は、センサ11〜13として用いられるホール素子と同じ大きさの「B定数」を有しているため、周囲温度の変化による印加電圧の変化を抑制できる。
【0236】
[第5の実施形態]
本実施形態は、周囲温度の変化によってホール素子の出力が変化しても、その変化を補償する構成を備えている。
図27は、本実施形態の構成における主要部を示す回路図である。本実施形態は、下段のサーミスタ18の電圧を測定する電圧測定回路19を備えている。電圧測定回路19の出力は、位置推定部30内のAD変換回路(ADC)314にリアルタイムで入力される。このAD変換回路314から出力される信号(デジタル値)は、サーミスタ18の電圧を示している。位置推定部30は、サーミスタ18の電圧に基づいて、ホール素子100の印加電圧を算出する。ホール素子100の印加電圧と出力電圧との関係(
図24参照)が既知であるため、ホール素子100の印加電圧に基づいて、第4補正部3244が検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’の振幅を補正することができる。具体的には、現在の検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’の補正しない状態の振幅が、周囲温度の上昇に起因して、オフラインで学習を行ったときの検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’の振幅の例えば50%の大きさに低下していると仮定する。この場合、検出されたサーミスタ18の電圧はオフラインの学習を行ったときの電圧よりも増加しているはずである。現在のサーミスタ18の測定された電圧に基づいて、第4補正部3244が、現在の検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’の補正しない状態の振幅を2倍した補正値に変換して位置演算部32に入力する。例えば
図8に示される実施形態であれば、第4補正部3244で補正された検出信号Hu0’、Hv0’、およびHw0’が補正部324に与えられる。
【0237】
サーミスタ18の電圧を測定する代わりに、上段のサーミスタ17の電圧を測定してもよい。また、サーミスタ17、18の両方の電圧を測定しても良い。サーミスタ15、16ではなく抵抗器15、16が用いられている場合(
図23参照)、電圧測定回路19は、抵抗器15、16の少なくとも一方の電圧を測定してもよい。
【0238】
本実施形態では、オフラインで学習を行ったとき、すなわち測定データを取得したときに電圧測定回路19によって測定された電圧値を基準電圧値として記憶部338に記憶させておく。前処理回路の一部として機能する第4補正部3244は、記憶部338から基準電圧値を読み出し、電圧測定回路19から取得した現在の電圧値と基準電圧値に基づいて検出信号を補正する。
【0239】
このように本実施形態における位置推定装置は、抵抗素子または検出部の電圧値を検出し、前処理回路として機能する補正部に入力する電圧検知測定回路を備える。この補正部は、検出された電圧値に基づいて、N個の検出信号を補正する。本実施形態で行う位置推定方法は、N個の検出部のいずれか、または抵抗素子の電圧値を検出し、検出された電圧値に基づいて、検出信号を補正する温度補償手順を含む。このため、周囲温度の変化によってホール素子などセンサの出力が変化しても、その変化を補償することができる。
【0240】
[第6の実施形態]
本実施形態では、線分接続手順において、接続させた複数の分割信号から選択された特定の1つまたは複数の分割信号の検出に同期して、位置演算部32が可動子の基準位置を示すZ相信号を生成して出力する。
図28は、本実施形態に係る位置演算部32の構成例を示す概略図である。本実施形態において、図示されていない他の構成は、前述した実施形態のいずれの構成であってもよい。
【0241】
本実施形態の位置演算部32は、線分接続部323から出力される信号の位相に応じて、いわゆるZ相信号を生成して出力するZ相信号回路326を備えている。Z相信号回路326には、位相シフト回路327が接続されている。位相シフト回路327は、Z相信号回路326がZ相信号を出力するタイミングを調整する。
【0242】
図29は、上記の各実施形態における線分接続部323から出力される信号(位置推定値を示す信号)の波形と、Z相信号の波形例とを示す図である。線分接続部323から出力される信号は、前述したように、回転子の機械位置の推定値である機械角度Θ^を示す情報(絶対機械角度情報)を持つ。
図29の最上段におけるグラフの縦軸は、推定された機械角度Θ^であり、横軸は時間である。このグラフには、回転子が機械角で4回転および120度だけ回転する期間が示されている。
図29から明らかなように、この信号の大きさからは、機械角度Θ^が決まるため、回転子の絶対的な機械位置(向き)が1つに定まる。
【0243】
図29には、Z相信号回路326が出力するZ相信号の多様な波形例が示されている。図示されている例のうち、Z1信号は、機械角度Θ^が基準位置に対して0度の位相で論理Highとなるパルス信号である。Z2信号は、機械角度Θ^が基準位置に対して、
図28の位相シフト回路327が指定する任意の角度だけ遅れた位相で論理Highとなるパルス信号である。
【0244】
上記の例では、機械角度で回転子が1回転するごとにパルス信号が出力されるが、Z相信号の出力頻度は、この例に限定されない。Z3信号は、機械角度Θ^が基準位置に対して、位相シフト回路327が指定する複数の角度(機械角度で360度未満)だけ遅れた位相で論理Highとなるパルス信号である。Z4信号は、機械角度Θ^が基準位置に対して、360度より大きい周期で出力されるパルス信号である。位相シフト回路327が指定する位相シフト角度が機械角度で360度より大きい場合、機械角度Θ^が基準位置から位相シフト角度だけ増加するまでは、論理Highのパルス信号が出力されない。
【0245】
このように本実施形態によれば、エンコーダを特別に備えることなく、機械角度Θ^を示す信号の大きさに基づいて、任意の位相および任意の頻度でパルス信号を出力することができる。このようなパルス信号は、既存のZ相信号として用いることもできるし、他の種々の用途にも利用可能である。
【0246】
[第7の実施形態]
上記の各実施形態に係る位置推定部30、30A、30Bは、信号処理回路と、この信号処理回路の動作を制御するコンピュータプログラムを格納した記録媒体とを用いて実現され得る。以下、このような実施形態を説明する。
【0247】
図30は、本実施形態に係るモータ制御システム1の構成例を示す概略図である。本実施形態のモータ制御システム1は、
図30に示すように、モータM、検出部10、増幅部20、位置推定装置300、ゲートドライバ450、インバータ460、およびコントローラ500を備える。
【0248】
検出部10は、ロータRが有する複数の磁極が形成する磁界を検出して、それぞれが検出した磁界の強さに応じた大きさを持つ検出信号を出力するN個(Nは3以上の整数)のセンサを備えている。N個のセンサは、N個の検出信号の位相が360度/Nの角度ずつずれるように配置されている。図示されている例では、Nは3であり、検出部10はセンサ11、12、13を有している。本実施形態におけるモータM、検出部10、および増幅部20の構成および動作は、他の実施形態について説明した通りであるので、ここでは詳細な説明は繰り返さない。
【0249】
本実施形態における位置推定装置300は、N個の検出信号からN個の補正検出信号を生成する前処理回路350と、N個の補正検出信号に基づいて可動子の位置推定値を示す信号を生成し、出力する信号処理回路400とを備えている。
【0250】
本実施形態における信号処理回路400は、例えば中央演算処理装置(CPU)、デジタル信号処理プロセッサなどの集積回路(IC)チップであり得る。位置推定装置300は、信号処理回路400の動作を制御するコンピュータプログラムを格納した記録媒体を備えている。この記録媒体は、例えばフラッシュROMなどの不揮発性メモリ420であり、信号処理回路400に接続されている。
【0251】
本実施形態では、前処理回路350から出力されたN個の補正検出信号は、RAM410に変数として、随時、格納される。
【0252】
前処理回路350は、前述したAD変換部31を有しており、必要に応じて、補正部3244(
図27)を有していても良い。前処理回路350により、検出信号はデジタル信号に変換され、種々の補正処理を受け得る。ここでは、このような前処理を受けた検出信号を「補正検出信号」と称する。
【0253】
信号処理回路400は、コンピュータプログラムの指令に従って、以下のステップを実行する。
【0254】
まず、信号処理回路400は、RAM410から補正検出信号を読み出す。次に、N個の補正検出信号のうちのいずれか2個の信号が互いに交差する交差点を逐次検出する。
【0255】
信号処理回路400は、交差点から、交差点に隣り合う他の交差点までを連結する補正検出信号を、1個または複数個のセグメントに分割し、各セグメントを分割信号として検出する。
【0256】
信号処理回路400は、各セグメントに対応する可動子の移動量を全てのセグメントに対応づけた測定データを記憶装置から読み出す。この記憶装置は、上述したコンピュータプログラムを格納している記録媒体であってもよいし、メモリカードなどの他の記憶装置であっても良い。本実施形態では、不揮発性メモリ420に測定データが保存されており、不揮発性メモリ420から測定データが読み出される。前述したように、この測定データは、出荷前のオフライン処理によって取得され、記憶媒体に保存されている。出荷後において、測定データは更新され得る。
【0257】
信号処理回路400は、この測定データを参照して、N個の補正検出信号の関係および分割信号に基づいて、回転子Rの現在位置に対応するセグメントを特定する。
【0258】
前述したように、ある態様においては、iを1以上の整数、nを現在時刻を規定する整数、特定されたセグメントの番号をi、特定されたセグメントの始点における回転子Rの位置をΘoffset[i]、セグメントの始点における分割信号の値と当該分割信号の現在値との差分をX[n]、回転子Rの位置推定値をΘ[n]、比例係数をk[i]とするとき、Θ[n]=Θoffset[i]+k[i]×X[n]の関係が成立する。この関係から、回転子Rの位置推定値が決定される。
【0259】
ロータRの位置推定値を示す信号は、基準位置からの回転子Rの移動量に比例して直線的に増加する値を持つ。好ましい態様において、ロータRの位置推定値を示す信号は、Θに比例するデジタル値またはアナログ値を持つ。
【0260】
このように、信号処理回路400は、特定されたセグメントに基づいて、分割信号のレベルから可動子の位置推定値を決定し、位置推定値を示す信号を出力する。位置推定信号は、デジタル値の状態でコントローラ500のフィードバック(F/B)端子に入力されてもよい。位置推定信号は、シリアルデータとして外部に出力されたり、DA変換回路(DAC)440によってアナログ値に変換されてから出力されたりしてもよい。例えばメンテナンスに際して、アナログ値に変換された信号をオシロスコープによって観測することにより、位置指令値と位置推定値とを比較することが可能である。
【0261】
位置推定装置300は、信号処理回路400からの指示に応答して、前述したパルス状のZ相信号を出力する回路(
図28)を備えていても良い。
図28に示される各機能ブロックを、信号処理回路400によって実現することもできる。
【0262】
信号処理回路400内の前処理回路350が、前述した第1補正手順、第2補正手順、および第3補正手順から選択されたいずれかの補正手順を実行して補正検出信号を生成するようにプログラムが構成されていても良い。このようなプログラムに従って信号処理回路400が動作するとき、第1補正手順は、検出信号のうち1つを順次選択し、選択した検出信号から、選択されていない他の検出信号の平均値を減算することにより、選択した検出信号を補正し、補正検出信号を生成する。第2補正手順は、各相の検出信号について、極対毎の極大値と極小値および少なくとも2周期分の電気角1周期毎の振幅最大値と振幅最小値を検出すること、補正部が、各相の検出信号について、振幅最大値の平均と振幅最小値の平均を算出すること、振幅最大値の平均と振幅最小値の平均から算出される最大最小平均値をオフセット補正値とすること、それぞれの検出信号について、極大値を所定の最大値とする磁極対毎の正側ゲイン補正値を算出すること、各相の検出信号について、極小値を所定の最小値とする磁極対毎の負側ゲイン補正値を算出すること、各相の検出信号について、オフセット補正値を加算し、磁極対毎の正側の信号値に正側ゲイン補正値を乗算し、磁極対毎の負側の信号値に負側ゲイン補正値を乗算することを含む。第3補正手順は、検出信号のそれぞれに対して、検出信号の波形の状態に基づいて、予め定められた係数を乗算することを含む。
【0263】
なお、信号処理回路400が実行する動作として、各セグメントに対応する可動子の移動量を全てのセグメントに対応づけた測定データを記憶装置から読み出すこと、測定データを参照して、N個の補正検出信号の関係および分割信号に基づいて、可動子の現在位置に対応するセグメントを特定することは、本発明にとって不可欠の動作ではない。これらの動作を実行する代わりに、信号処理回路400は、分割信号を逐次接続させて接続させた複数の分割信号に基づいて、分割信号のレベルから可動子の位置推定値を決定し、位置推定値を示す信号を出力しても良い。
【0264】
信号処理回路400は、上述した位置推定処理を実行することに加えて、モータ駆動に必要な演算を実行するようにプログラムされていてもよい。信号処理回路400が実行する各種の処理には、1つのICチップによって実行される必要はない。第1から第6の実施形態に係る位置推定部30、30A、および30B、ならびに制御部50が実行する機能の一部または全部は、デジタル信号の処理によって実現され得る。したがって、複数の演算処理ユニットまたはデジタルシグナルプロセッサ(DSP)が、位置推定部30、30A、および30Bの各機能ブロックが実行する異なる処理を分担してもよい。また、FPGA(Field−Programmable Gate Array)のようなプログラマブルロジックデバイスを用いて本実施形態の信号処理回路400を実現することもできる。
【0265】
本実施形態では、ロータRの位置推定値に基づいて、モータ制御に必要な電圧指令値を信号処理回路400が算出してパルス幅変調(PWM)回路430に与える。パルス幅変調回路430は、この電圧指令値に基づいて、ゲートドライバ450にPWM信号を与える。ゲートドライバ450はPWM信号に基づいてインバータ460内のスイッチングトランジスタを開閉し、必要な電圧および電流をモータMに供給する。
【0266】
オフライン時に測定データを取得または更新するとき、信号処理回路400は、コンピュータプログラムの指令に従って、一定速度でロータRが移動(回転)する。そして、セグメント毎のロータRの移動(回転)時間を測定し、各セグメントに対応するロータRの移動量(機械角度)を全てのセグメントに対応づけるデータを作成する。信号処理回路400は、このデータを測定データとして不揮発性メモリ420に記憶させる。
【0267】
システムが温度検出素子を備えている場合、測定データを取得したときの温度を基準温度として記憶装置に記憶させることができる。第6の実施形態について説明したように、周囲温度によって検出信号の振幅が変化する場合、記憶装置から基準温度を読み出し、温度検出素子から取得した現在の温度と基準温度に基づいて検出信号を補正してもよい。