(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
ところで、転位と呼ばれる格子欠陥が多く存在している炭化珪素エピタキシャル基板を用いて半導体装置を製造した場合、半導体装置における信頼性の低下等を招くことが知られている。従って、転位のない炭化珪素エピタキシャル基板が求められているが、転位のない炭化珪素エピタキシャル基板を作製することは、極めて困難である。このため、特許文献1には、貫通刃状転位とこの貫通刃状転位に連結している基底面転位とを減らした炭化珪素エピタキシャル基板が開示されている。
【0008】
しかしながら、炭化珪素エピタキシャル基板において、貫通刃状転位とこの貫通刃状転位に連結している基底面転位とを減らしただけでは、製造される半導体装置の信頼性を十分に高めることはできない。
【0009】
このため、信頼性の高い半導体装置を製造することのできる炭化珪素エピタキシャル基板が求められている。
【0010】
そこで、本開示は、貫通らせん転位と連結した基底面転位を低減可能な炭化珪素エピタキシャル基板及び炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【0011】
本開示の技術を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。また本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。ここで結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”−”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現している。また、本開示のエピタキシャル成長は、ホモエピタキシャル成長である。
【0013】
〔1〕 本開示の一態様に係る炭化珪素エピタキシャル基板は、{0001}面から0°を超え8°以下傾斜した主面を有する100mm以上の径の炭化珪素単結晶基板と、前記主面の上に形成された膜厚が20μm以上の炭化珪素エピタキシャル層と、前記炭化珪素エピタキシャル層に含まれ、一方の端部が前記炭化珪素エピタキシャル層に含まれる貫通らせん転位と連結しており、他方の端部は前記炭化珪素エピタキシャル層の表面に存在する基底面転位と、を有し、前記基底面転位は、{0001}基底面において<11−20>方向に対し、20°以上80°以下の傾きを有する方向に伸び、前記基底面転位の密度が0.05個/cm
2以下である。
【0014】
本願発明者は、研究により、炭化珪素単結晶基板の上に、炭化珪素エピタキシャル層が形成された炭化珪素エピタキシャル基板において、一方の端部が貫通らせん転位と連結しており、他方の端部は炭化珪素エピタキシャル層の表面となる基底面転位を発見した。この基底面転位は、この基底面転位は転位線の方向が、{0001}基底面において<11−20>方向に対し、20°以上80°以下の傾きを有している。本願発明者の知見によれば、この基底面転位は、{0001}面から0°を超え8°以下傾斜した主面を有する炭化珪素単結晶基板であって、特に、100mm以上の径、更には、150mm以上の径の炭化珪素単結晶基板を用いた場合に発生しやすい。このような基底面転位が存在していると、基底面転位が増殖し、基底面転位が多く含まれる炭化珪素エピタキシャル基板となる場合がある。このような基底面転位が多く含まれる炭化珪素エピタキシャル基板を用いて半導体装置を製造した場合、製造される半導体装置の信頼性が低下する可能性がある。
【0015】
従って、炭化珪素エピタキシャル基板において、上記基底面転位の数が全面において1個以上、密度が0.05個/cm
2以下となるように制御することにより、炭化珪素エピタキシャル基板を用いて製造された半導体装置の信頼性が低下することを抑制できる可能性がある。
【0016】
ここで、上記基底面転位の数及び密度は、PL(Photo Luminescence)イメージング装置を用いて炭化珪素エピタキシャル層の表面を全面分析し、検出された上記基底面転位の個数を炭化珪素エピタキシャル層の表面の面積で除することにより算出することができる。PLイメージング装置としては、例えば、PLイメージング装置PLIS−100(株式会社フォトンデザイン製)を用いることができる。尚、ここでいう全面には、通常、半導体装置に利用されない領域は含まれないものとする。ここで半導体装置に利用されない領域とは、たとえば基板のエッジから3mmの領域である。
【0017】
〔2〕 前記基底面転位の他方の端部に連結された<11−20>方向に延びる他の基底面転位が存在している。
【0018】
〔3〕 前記炭化珪素単結晶基板の径は150mm以上である。
【0019】
〔4〕 本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素エピタキシャル基板を準備する工程と、前記炭化珪素エピタキシャル基板を加工する工程と、を備える。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0021】
〔炭化珪素エピタキシャル基板〕
以下、本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板100について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板100の構造の一例を示す断面図である。本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板100は、所定の結晶面からオフ角θだけ傾斜した主面10Aを有する炭化珪素単結晶基板10と、炭化珪素単結晶基板10の主面10A上に形成された炭化珪素エピタキシャル層11と、を備える。所定の結晶面は、(0001)面または(000−1)面が好ましい。
【0023】
本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板100には、一方の端部が貫通らせん転位と連結しており、他方の端部は炭化珪素エピタキシャル層11の表面となる基底面転位が存在している。この基底面転位の転位線の方向は、{0001}基底面において<11−20>方向に対し、20°以上80°以下の傾きを有しており、この基底面転位の数が1個以上、転位の密度が0.05個/cm
2以下である。
【0024】
炭化珪素エピタキシャル基板を用いて製造される半導体装置の信頼性の観点からは、上記の基底面転位の密度は低いほどよく、理想的には0(ゼロ)である。しかしながら、上記の基底面転位を0にすることは極めて困難であることから、基底面転位の密度は好ましくは0.05個/cm
2以下であり、より好ましくは0.03個/cm
2以下である。
【0025】
〔基底面転位〕
上述した基底面転位について、
図2から
図4に基づき説明する。
図2は、炭化珪素エピタキシャル基板100の上面図であり、
図3は斜視図であり、
図4は、要部を拡大した斜視図である。上述した基底面転位111の一方の端部111aが貫通らせん転位120と接続されており、他方の端部111bが炭化珪素エピタキシャル層11の表面11Aとなる。この基底面転位111は、{0001}基底面において<11−20>方向に対する角度φが20°以上80°以下となる傾きを有している。
【0026】
このような基底面転位111には、他方の端部111bより、他の基底面転位112が連結されている場合がある。これらの基底面転位111及び他の基底面転位112は、本願発明者の研究の結果見出されたものである。
【0027】
〔転位発生のメカニズム〕
次に、基底面転位111の発生のメカニズム等について、
図5から
図9に基づき説明する。
【0028】
本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素単結晶基板の上に炭化珪素エピタキシャル層を成膜することにより形成される。炭化珪素単結晶基板には基底面転位と貫通らせん転位が存在している。このため、炭化珪素単結晶基板の上に形成された炭化珪素エピタキシャル層にも、炭化珪素単結晶基板における基底面転位の一部と貫通らせん転位に起因して、
図5に示すように、基底面転位110と貫通らせん転位120が発生する。
【0029】
炭化珪素エピタキシャル層において発生した基底面転位110は、基底面となる{0001}面を<1−100>方向に滑り移動することができる。従って、基底面転位110は、破線矢印Aに示す方向に滑り移動するが、
図6に示すように、貫通らせん転位120にぶつかると、基底面転位110の滑り移動は、そこで止まる。
【0030】
この後、
図7に示すように、基底面転位110の貫通らせん転位120と炭化珪素エピタキシャル層との表面との間の部分は、破線矢印Bに示されるように、{0001}基底面上において<11−20>方向に対する角度φが20°以上80°以下となるまで動き、基底面転位111が形成される。この基底面転位111の一方の端部111aは貫通らせん転位120と接続されており、他方の端部111bは炭化珪素エピタキシャル層の表面となる。即ち、基底面転位111の他方の端部111bは、貫通らせん転位120から伸びて炭化珪素エピタキシャル層の表面に到達し、当該表面に含まれるように存在する。この際、この基底面転位111の他方の端部111bから他の基底面転位112が生じる。以上のメカニズムにより、基底面転位111及び他の基底面転位112が発生する。
【0031】
この後、
図8に示すように、他の基底面転位112は、破線矢印Cに示されるように、基底面転位111の他方の端部111bから離れ、基底面となる{0001}面を滑り<1−100>方向に動く。この後、再び、基底面転位111の他方の端部111bより他の基底面転位112が発生し、他の基底面転位112が基底面転位111の他方の端部111bより離れることが繰り返される。これにより、
図9に示すように、1つの基底面転位111から多くの基底面転位が発生する。
【0032】
図10及び
図11は、炭化珪素エピタキシャル基板のPL像(PLイメージング像)である。尚、PL像の測定には、PLイメージング装置PLIS−100(株式会社フォトンデザイン製)を用いた。このPL像の測定では、室温において、励起光源として水銀キセノンランプを用い、波長が313nmのバンドパスフィルタを通した光を炭化珪素エピタキシャル基板に照射した。PL像は、炭化珪素エピタキシャル基板からの光を、波長が750nm以上の光を透過するフィルタを透過した光により得られた像である。このようにして得られたPL像は、炭化珪素エピタキシャル層における転位は観察することができるが、炭化珪素単結晶基板の転位は観察することができない。従って、
図10及び
図11に示される転位は、炭化珪素エピタキシャル層における転位である。
図10は、斜め方向に延びる基底面転位111と他の基底面転位112とが連結している状態を示し、
図11は、基底面転位111が<11−20>方向と<1−100>方向にジグザグになっている状態を示す。
図11のPL像では、ジグザグになっている基底面転位のうち<1−100>方向の部分が明るい線で示されている。
【0033】
ところで、上記の基底面転位の発生のメカニズムを検討したところ、上記基底面転位は、炭化珪素エピタキシャル層の成膜中ではなく、炭化珪素エピタキシャル層を成膜した後、炭化珪素エピタキシャル基板を冷却する間に生じているものと考えられる。即ち、
図6〜
図9に示されるような基底面転位110の滑り移動は、比較的高い温度、具体的には、1000℃以上の温度で生じるものと考えられ、炭化珪素エピタキシャル基板に生じた応力に起因するものと考えられる。炭化珪素エピタキシャル基板では、炭化珪素エピタキシャル基板の温度分布の差が大きいと、炭化珪素エピタキシャル基板に生じる応力も大きくなる。一方、炭化珪素エピタキシャル基板を製造する工程において、炭化珪素エピタキシャル基板の温度分布の差が大きくなる工程としては、炭化珪素エピタキシャル基板の冷却工程が挙げられる。この冷却工程において、炭化珪素エピタキシャル基板には、特に応力が発生しやすい。
【0034】
即ち、炭化珪素エピタキシャル層の成膜は、1600℃程度の非常に高い温度で行われるが、この場合、高温ではあるものの、温度分布の均一性は比較的高い。炭化珪素エピタキシャル層の成膜後は、炭化珪素エピタキシャル基板を冷却するが、この場合、全体が均一な温度で冷却されるのではなく、温度分布にバラツキが生じやすい。このように、炭化珪素エピタキシャル基板において、温度分布にバラツキが生じた状態の時間が長いと、これに伴い、基底面転位111が発生し、他の基底面転位112の数が増えるものと考えられる。また、本願発明者の知見によれば、基底面転位111は、炭化珪素単結晶基板10の大きさが小さい基板ではあまり見られないが、大きくなると顕著に生じる。例えば、炭化珪素単結晶基板10の大きさが、100mm以上、更には、150mm(例えば、6インチ)以上の場合に顕著に生じることが確認されている。このことは、炭化珪素単結晶基板10の面積が大きいと、その分、冷却の際に、温度分布の差が大きくなるため、これに伴い応力も発生しやすいからであると考えられる。
【0035】
従って、本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板は、炭化珪素エピタキシャル層を成膜した後に、炭化珪素エピタキシャル基板にガスを吹き付け急冷することにより得られる。即ち、炭化珪素エピタキシャル層を成膜した後に急冷することにより、基底面転位の滑り移動や基底面転位の増殖が生じる前に、基底面転位の滑り移動や増殖が生じにくい1000℃以下になるまでの時間を短くする。これにより、基底面転位111や他の基底面転位112の少ない炭化珪素エピタキシャル基板を作製することができる。
【0036】
〔成膜装置〕
次に、本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法について説明する。最初に、炭化珪素エピタキシャル基板における炭化珪素エピタキシャル層を成膜する成膜装置について説明する。
図12は、成膜装置の構成の一例を示す模式的な側面図である。また
図13は、
図12の一点鎖線12A−12Bにおいて切断した断面図である。
図12及び
図13に示される成膜装置1は、横型ホットウォールCVD(chemical vapor deposition)装置である。
図12に示されるように、成膜装置1は、発熱体6と、断熱材5と、石英管4と、誘導加熱コイル3とを備えている。発熱体6は、たとえばカーボン製である。
図13に示されるように成膜装置1において、発熱体6は2つ設けられており、各発熱体6は、曲面部6A及び平坦部6Bを含む半円筒状の中空構造を有している。2つの平坦部6Bは、互いに対向するように配置されており、2つの平坦部6Bに取り囲まれた空間が、炭化珪素単結晶基板10が設置されるチャンバ1Aとなっている。チャンバ1Aは、「ガスフローチャネル」とも呼ばれる。
【0037】
断熱材5は、発熱体6の外周部を取り囲むように配置されている。チャンバ1Aは、断熱材5によって成膜装置1の外部から断熱されている。石英管4は、断熱材5の外周部を取り囲むように配置されている。誘導加熱コイル3は、石英管4の外周部に沿って巻回されている。成膜装置1では、誘導加熱コイル3に交流電流を供給することにより、発熱体6が誘導加熱され、チャンバ1A内の温度が制御できるようになっている。この際、断熱材5により断熱されるため、石英管4は殆ど加熱されない。
【0038】
〔炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法〕
次に、本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法について説明する。
【0039】
図14は、本実施形態の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図14に示されるように、本実施形態の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法は、準備工程(S101)、減圧工程(S102)、昇温工程(S103)、水素ガス供給工程(S104)、エピタキシャル成長工程(S105)及び急冷工程(S106)を備える。本実施形態では、エピタキシャル成長工程(S105)の後に、急冷工程(S106)を行うことにより、炭化珪素単結晶基板10における基底面転位を減らすことができる。以下、各工程について説明する。
【0040】
準備工程(S101)では、炭化珪素単結晶基板10を準備する。炭化珪素単結晶基板10は、たとえば炭化珪素単結晶からなるインゴットをスライスすることにより作製される。スライスには、たとえばワイヤーソーが使用される。炭化珪素のポリタイプは4Hが好ましい。電子移動度、絶縁破壊電界強度等において他のポリタイプよりも優れているからである。炭化珪素単結晶基板10の径は、100mm以上、より好ましくは150mm以上(たとえば6インチ以上)である。径が大きい程、半導体装置の製造コスト削減に有利である。
【0041】
炭化珪素単結晶基板10は、後に炭化珪素エピタキシャル層11を成長させることとなる主面10Aを有する。炭化珪素単結晶基板10は、0°を超え8°以下のオフ角θを有する。即ち、主面10Aは、所定の結晶面から0°を超え8°以下のオフ角θだけ傾斜した面である。炭化珪素単結晶基板10にオフ角θを導入しておくことにより、CVD法によって炭化珪素エピタキシャル層11を成長させる際、主面10Aに表出した原子ステップからの横方向成長、いわゆる「ステップフロー成長」が誘起される。これにより炭化珪素単結晶基板10のポリタイプを引き継いだ形で単結晶が成長し、異種ポリタイプの混入が抑制される。ここで所定の結晶面は、(0001)面または(000−1)面が好ましい。即ち、所定の結晶面は、{0001}面が好ましい。オフ角を設ける方向は、<11−20>方向である。オフ角θは、より好ましくは2°以上7°以下であり、更に好ましくは3°以上6°以下であり、最も好ましくは3°以上5°以下である。こうした範囲にオフ角を設定することにより、異種ポリタイプの抑制と成長速度とのバランスが保たれるからである。この後の工程は、成膜装置1内で行われる。
【0042】
減圧工程(S102)では、
図12及び
図13に示されるように、炭化珪素単結晶基板10を成膜装置1のチャンバ1A内に設置し、チャンバ1A内を減圧する。炭化珪素単結晶基板10は、チャンバ1A内において図示しないサセプタ上に載せられる。サセプタにはSiCコーティング等が施されていてもよい。
【0043】
図15は、減圧工程(S102)以降のチャンバ1A内の温度及びガス流量の制御を示すタイミングチャートである。
図15において減圧工程(S102)は、チャンバ1A内に炭化珪素単結晶基板10を設置した後、チャンバ1A内の減圧を開始する時点t1から、チャンバ1A内の圧力が目標値に達する時点t2までの間に相当する。減圧工程(S102)における圧力の目標値は、たとえば1×10
−6Pa程度である。
【0044】
昇温工程(S103)では、成膜装置1のチャンバ1A内の温度を第2の温度T2まで加熱する。昇温工程(S103)では、第2の温度T2よりも低い第1の温度T1を経た後、第2の温度T2に到達する。
図15に示されるように、時点t2からチャンバ1A内の昇温が開始され、時点t3においてチャンバ1A内の温度が第1の温度T1に達し、更に、時点t4においてチャンバ1A内の温度が第2の温度T2に達する。第1の温度T1は、例えば、1100℃である。
【0045】
また、第2の温度T2は、1500℃以上1700℃以下が好ましい。第2の温度T2が1500℃を下回ると、後述するエピタキシャル成長工程(S105)で単結晶を均一に成長させることが困難な場合があり、また成長速度が低下する場合もある。また第2の温度T2が1700℃を超えると、水素ガスによるエッチング作用が強くなり、かえって成長速度が低下する場合もあり得る。第2の温度T2は、より好ましくは1520℃以上1680℃以下であり、特に好ましくは1550℃以上1650℃以下である。本実施形態においては、1630℃である。
【0046】
水素ガス供給工程(S104)では、
図15に示されるように、チャンバ1A内の温度が第1の温度T1に達した時点t3から、チャンバ1A内に水素(H
2)ガスを供給し、チャンバ1A内の圧力を所定の圧力、例えば、8kPaにする。水素ガスの供給は、時点t3より供給を開始し、徐々に水素ガスの流量を増やして、時点t4において水素ガスの流量が120slmとなるように供給する。尚、水素ガス供給工程(S104)においても、成膜装置1のチャンバ1A内の温度が第2の温度T2に到達するまで、昇温工程(S103)が継続される。成膜装置1のチャンバ1A内の温度が第2の温度T2に到達した後に、エピタキシャル成長工程(S105)を行う。
【0047】
エピタキシャル成長工程(S105)では、成膜装置1のチャンバ1A内に、水素ガスとともに、炭化水素ガス及びシラン(SiH
4)ガスを供給する。エピタキシャル成長工程(S105)におけるチャンバ1A内の所定の圧力は、例えば、8kPaである。これにより、炭化珪素単結晶基板10の主面10A上に炭化珪素エピタキシャル層11を成長させることができる。
【0048】
炭化水素ガスとしては、メタン(CH
4)ガス、エタン(C
2H
6)ガス、プロパン(C
3H
8)ガス、ブタン(C
4H
10)ガス及びアセチレン(C
2H
2)ガス等を用いることができる。これらの炭化水素ガスは1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。即ち、炭化水素ガスは、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス及びアセチレンガスからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。炭化水素ガスの流量は、5sccm以上30sccm以下が好ましい。本実施形態においては、例えば、炭化水素ガスとしてプロパンガスを15sccm供給する。
【0049】
また、シランガスの流量は特に限定されないが、炭化水素ガスに含まれる炭素(C)の原子数と、シランガスに含まれる珪素(Si)の原子数との比(C/Si)が0.5以上2.0以下となるように、シランガスの流量を調整することが好ましい。化学量論比の適切なSiCをエピタキシャル成長させるためである。本実施形態においては、例えば、シランガスを45sccm供給する。
【0050】
エピタキシャル成長工程(S105)では、ドーパントとして窒素(N
2)等を供給してもよい。エピタキシャル成長工程(S105)は、目標とする炭化珪素エピタキシャル層11の厚さに合わせて時点t5まで行われる。
【0051】
エピタキシャル成長工程(S105)の終了後は、急冷工程(S106)を行う。急冷工程(S106)では、エピタキシャル成長が終了した炭化珪素エピタキシャル基板に、水素またはアルゴン(Ar)を吹き付けて急速に冷却する。本実施形態においては、水素ガスの流量を増やして、エピタキシャル成長が終了した炭化珪素エピタキシャル基板に、水素ガスを吹き付ける。この際、チャンバ1A内の圧力は、8kPaを超えてもよい。本実施形態では、冷却を開始して10分経過、即ち、時点t5から10分経過した時点t6における第3の温度T3は約700℃にすることができる。従って、エピタキシャル成長後、10分以内の短時間で1000℃以下の温度にすることができるため、基底面転位の滑り移動が生じにくい。このため、本実施形態においては、炭化珪素エピタキシャル基板における基底面転位111の密度を0.05個/cm
2以下にすることができる。
【0052】
この後、更に冷却し、温度が600℃となる時点t7において、吹き付けていた水素ガスの供給を停止する。この後、形成された炭化珪素エピタキシャル基板を取り出すことが可能な温度となる時点t8まで冷却した後、チャンバ1A内を大気開放して、チャンバ1A内を大気圧に戻し、チャンバ1A内より炭化珪素エピタキシャル基板100を取り出す。
【0053】
以上の工程により、本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板100を製造することができる。
【0054】
次に、本実施形態と比較のため、本実施形態の製造方法とは異なり、急冷工程(S106)を行うことなく、エピタキシャル成長が終了した基板を通常の冷却する場合について説明する。この場合における減圧工程以降のチャンバ1A内の温度及びガス流量の制御を示すタイミングチャートを
図16に示す。
図15に示される本実施形態の製造方法との相違点は、エピタキシャル成長工程が終了した時点t5以降、エピタキシャル成長が終了した炭化珪素エピタキシャル基板を急冷することなく、通常に冷却を行う点である。具体的には、
図16に示すタイミングチャートでは、エピタキシャル成長が終了した時点t5より、水素ガスの流量を100slmにして冷却を行う。この際のチャンバ1A内の所定の圧力は、例えば、8kPaである。この場合、時点t5より10分経過した時点t16における温度は、約1200℃であり、1000℃以上である。このため、時点16においては、基底面転位は滑り移動しており、基底面転位111や他の基底面転位112が増加するものと推察される。
【0055】
この後、更に冷却し、温度が600℃となる時点t17において、水素ガスの供給を停止する。この後、炭化珪素エピタキシャル基板を取り出すことが可能な温度となる時点t18まで冷却した後、チャンバ1A内を大気開放し、チャンバ1A内を大気圧に戻し、チャンバ1A内より炭化珪素エピタキシャル基板を取り出す。
【0056】
上記の
図16に示すタイミングチャートの製造方法により作製された炭化珪素エピタキシャル基板のPL像を
図17に示す。
図16に示すタイミングチャートの製造方法では、エピタキシャル成長が終了した後、10分経過しても約1200℃と1000℃以上であるため、基底面転位が滑り移動し、
図17で示されるように、非常の多くの転位(約40個/cm
2)が確認される。
【0057】
本実施形態における炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法によれば、エピタキシャル成長後の炭化珪素エピタキシャル基板を急冷することにより、短時間で基底面転位が滑り移動しにくい1000℃以下にすることができる。従って、
図17に示される炭化珪素エピタキシャル基板よりも、基底面転位を減らすことが可能となる。
【0058】
〔炭化珪素半導体装置の製造方法〕
次に、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法について説明する。
【0059】
本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、エピタキシャル基板準備工程(S210:
図18)と、基板加工工程(S220:
図18)とを主に有する。
【0060】
まず、炭化珪素エピタキシャル基板準備工程(S210:
図18)が実施される。具体的には、前述した炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法によって、炭化珪素エピタキシャル基板が準備される。
【0061】
次に、基板加工工程(S220:
図18)が実施される。具体的には、炭化珪素エピタキシャル基板を加工することにより、炭化珪素半導体装置が製造される。「加工」には、たとえば、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成、ダイシング等の各種加工が含まれる。すなわち基板加工ステップは、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成及びダイシングのうち、少なくともいずれかの加工を含むものであってもよい。
【0062】
以下では、炭化珪素半導体装置の一例としてのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の製造方法を説明する。基板加工工程(S220:
図18)は、イオン注入工程(S221:
図18)、酸化膜形成工程(S222:
図18)、電極形成工程(S223:
図18)及びダイシング工程(S224:
図18)を含む。
【0063】
まず、イオン注入工程(S221:
図18)が実施される。開口部を有するマスク(図示せず)が形成された表面11Aに対して、たとえばアルミニウム(Al)等のp型不純物が注入される。これにより、p型の導電型を有するボディ領域232が形成される。次に、ボディ領域232内の所定位置に、たとえばリン(P)等のn型不純物が注入される。これにより、n型の導電型を有するソース領域233が形成される。次に、アルミニウム等のp型不純物がソース領域233内の所定位置に注入される。これにより、p型の導電型を有するコンタクト領域234が形成される(
図19参照)。
【0064】
炭化珪素エピタキシャル層11において、ボディ領域232、ソース領域233及びコンタクト領域234以外の部分は、ドリフト領域231となる。ソース領域233は、ボディ領域232によってドリフト領域231から隔てられている。イオン注入は、炭化珪素エピタキシャル基板100を300℃以上600℃以下程度に加熱して行われてもよい。イオン注入の後、炭化珪素エピタキシャル基板100に対して活性化アニールが行われる。活性化アニールにより、炭化珪素エピタキシャル層11に注入された不純物が活性化し、各領域においてキャリアが生成される。活性化アニールの雰囲気は、たとえばアルゴン(Ar)雰囲気でもよい。活性化アニールの温度は、たとえば1800℃程度でもよい。活性化アニールの時間は、たとえば30分程度でもよい。
【0065】
次に、酸化膜形成工程(S222:
図18)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100が酸素を含む雰囲気中において加熱されることにより、表面11A上に酸化膜236が形成される(
図20参照)。酸化膜236は、たとえば二酸化珪素(SiO
2)等から構成される。酸化膜236は、ゲート絶縁膜として機能する。熱酸化処理の温度は、たとえば1300℃程度でもよい。熱酸化処理の時間は、たとえば30分程度でもよい。
【0066】
酸化膜236が形成された後、さらに窒素雰囲気中で熱処理が行なわれてもよい。たとえば、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N
2O)等の雰囲気中、1100℃程度で1時間程度、熱処理が実施されてもよい。さらにその後、アルゴン雰囲気中で熱処理が行なわれてもよい。たとえば、アルゴン雰囲気中、1100〜1500℃程度で、1時間程度、熱処理が行われてもよい。
【0067】
次に、電極形成工程(S223:
図18)が実施される。第1電極241は、酸化膜236上に形成される。第1電極241は、ゲート電極として機能する。第1電極241は、たとえばCVD法により形成される。第1電極241は、たとえば不純物を含有し導電性を有するポリシリコン等から構成される。第1電極241は、ソース領域233及びボディ領域232に対面する位置に形成される。
【0068】
次に、第1電極241を覆う層間絶縁膜237が形成される。層間絶縁膜237は、たとえばCVD法により形成される。層間絶縁膜237は、たとえば二酸化珪素等から構成される。層間絶縁膜237は、第1電極241と酸化膜236とに接するように形成される。次に、所定位置の酸化膜236及び層間絶縁膜237がエッチングによって除去される。これにより、ソース領域233及びコンタクト領域234が、酸化膜236から露出する。
【0069】
たとえばスパッタリング法により当該露出部に第2電極242が形成される。第2電極242はソース電極として機能する。第2電極242は、たとえばチタン、アルミニウム及びシリコン等から構成される。第2電極242が形成された後、第2電極242と炭化珪素エピタキシャル基板100が、たとえば900〜1100℃程度の温度で加熱される。これにより、第2電極242と炭化珪素エピタキシャル基板100とがオーミック接触するようになる。次に、第2電極242に接するように、配線層238が形成される。配線層238は、たとえばアルミニウムを含む材料から構成される。
【0070】
次に、たとえばプラズマCVDにより、配線層238上にパッシベーション保護膜(図示せず)が形成される。パッシベーション保護膜は、たとえばSiN膜を含む。ボンディングワイヤを接続するため、パッシベーション保護膜の一部が配線層238までエッチングされ、パッシベーション保護膜に開口部が形成される。次に、炭化珪素単結晶基板10の裏面10Bに対してバックグラインディングが行われる。これにより、炭化珪素単結晶基板10が薄くされる。次に、裏面10Bに第3電極243が形成される。第3電極243は、ドレイン電極として機能する。第3電極243は、たとえばニッケル及びシリコンを含む合金(たとえばNiSi等)から構成される。
【0071】
次に、ダイシング工程(S224:
図18)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100がダイシングラインに沿ってダイシングされることにより、炭化珪素エピタキシャル基板100が複数の半導体チップに分割される。以上より、炭化珪素半導体装置300が製造される(
図21参照)。
【0072】
上記において、MOSFETを例示して、本開示に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明したが、本開示に係る製造方法はこれに限定されない。本開示に係る製造方法は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、SBD(Schottky Barrier Diode)、サイリスタ、GTO(Gate Turn Off thyristor)、PiNダイオード等の各種炭化珪素半導体装置に適用可能である。
【0073】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
炭化珪素エピタキシャル基板は、{0001}面から0°を超え8°以下傾斜した主面を有する100mm以上の径の炭化珪素単結晶基板と、主面の上に形成された膜厚が20μm以上の炭化珪素エピタキシャル層と、炭化珪素エピタキシャル層に含まれ、一方の端部が炭化珪素エピタキシャル層に含まれる貫通らせん転位と連結しており、他方の端部は前記炭化珪素エピタキシャル層の表面に存在する基底面転位と、を有する。基底面転位は、{0001}基底面において<11−20>方向に対し、20°以上80°以下の傾きを有する方向に伸びる。基底面転位の密度は0.05個/cm