(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のIRカットフィルタに使用されるリン酸塩ガラスはガラス転移点が低く、それに起因して研磨加工性に乏しいという問題がある。また、フッ素成分は環境負荷物質であるため、近年はその使用が規制されつつあるという問題がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、フッ素成分を含有しなくても耐候性が高く、かつ、ガラス転移点が高く研磨加工性に優れたIRカットフィルタ用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、硫酸を含有したリン酸ガラスにおいて、各成分の含有量を最適化することにより、上記課題を解消できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、モル%で、SO
3 1%以上、P
2O
5 10〜50%、CuO 1〜15%、Al
2O
3 0.1〜10%、RO 5〜50%(RはZn、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)、及びR’
2O 0〜30%(R’はNa、Li及びKから選択される少なくとも1種)を含有し、実質的にフッ素成分を含有しないことを特徴とする。
【0009】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、モル%で、B
2O
3 0〜5%を含有することが好ましい。
【0010】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、Cl成分及びAg
2Oを実質的に含有しないことが好ましい。
【0011】
なお、本発明において、「実質的に含有しない」とは原料として積極的に含有させないことを意味し、不可避的不純物の混入まで排除するものではない。具体的には、含有量が0.1%未満であることを意味する。
【0012】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、ガラス転移点が300℃以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、波長500〜1200nmの範囲で透過率50%を示す波長(λ
50)が615nmになる厚さにおいて、波長500nmにおける透過率が80%以上、かつ、波長1100nmの透過率が25%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のIRカットフィルタは、前記いずれかのガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フッ素成分を含有しなくても耐候性が高く、かつ、ガラス転移点が高く研磨加工性に優れたIRカットフィルタ用ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、モル%で、SO
3 1%以上、P
2O
5 10〜50%、CuO 1〜15%、Al
2O
3 0.1〜10%、RO 5〜50%(RはZn、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)、及びR’
2O 0〜30%(R’はNa、Li及びKから選択される少なくとも1種)を含有し、実質的にフッ素成分を含有しないことを特徴とする。以下に、ガラス組成を上記の通り限定した理由を説明する。
【0018】
SO
3は耐候性を向上させる成分である。また、SO
3はCu成分を酸化してCu
2+に変化させやすく、かつ、SO
3の存在下ではCuイオンが6配位構造をとりやすくなる(すなわち、Cuイオンの酸素配位数が増加しやすくなる)ため、結果として近赤外領域における透過率が低くなりやすい。SO
3の含有量は1%以上であり、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。SO
3の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。なお、SO
3の含有量の上限は特に限定されないが、多すぎるとガラス転移点が低下しやすくなる。また、ガラス化しにくくなる傾向がある。従って、SO
3の含有量は、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0019】
P
2O
5はガラス骨格を形成するための必須成分である。P
2O
5の含有量は10〜50%であり、好ましくは15〜45%、より好ましくは18〜40%である。P
2O
5の含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、P
2O
5の含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。
【0020】
CuOは赤外線を吸収するための必須成分である。また、ガラス転移点を上昇させる効果がある。さらに、SO
3との共存下では、CuOはガラス中のリン酸塩系ネットワークを強化し、耐候性を向上させる効果がある。CuOの含有量は1〜15%であり、好ましくは2〜10%である。CuOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、CuOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0021】
CuO中のCu元素は、ガラス中ではイオンとして存在し、特定波長域の光を吸収する。吸収波長域はイオンの価数や配位状態によって変化するため、所望の光吸収作用を付与するためにはガラス中での価数や配位状態を制御する必要がある。一般に、Cuイオンは酸化数が大きいほど、赤外または紫外域での吸収強度が高いため、ガラスにアンチモン(Sb)等の酸化剤を添加することが行われる。これに対して、本発明のIRカットフィルタ用ガラスは酸化性が強いため、酸化剤を添加せずとも良好な光吸収特性が得られる特徴がある。
【0022】
Al
2O
3は耐候性の向上に有効な成分である。Al
2O
3の含有量は0.1〜10%であり、好ましくは0.1〜7%、より好ましくは0.1〜5%、さらに好ましくは0.5〜3%である。Al
2O
3の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。Al
2O
3の含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、Cuイオン周りの酸素が少なくなり、Cuイオンの近赤外吸収特性が低下しやすくなる。
【0023】
RO(RはZn、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)はガラス化を安定にするために有効な成分である。また、耐候性を向上させる成分でもある。ROの含有量は、合量で、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜40%、さらに好ましくは15〜35%である。ROの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、ROの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0024】
ROの中でもZnOは上記効果を享受しやすい。ZnOの含有量は、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜45%、さらに好ましくは25〜45%である。CaO及びSrOの含有量は、それぞれ好ましくは0〜40%、より好ましくは0.1〜30%である。BaOの含有量は0〜9%、より好ましくは0〜5%、さらに好ましくは0〜1%であり、含有しないことが特に好ましい。
【0025】
R’
2O(R’はNa、Li及びKから選択される少なくとも1種)はガラス化を安定にし、量産性を向上させる成分である。また、R’
2Oは鎖状のP
2O
5ネットワークを切断し、Cuイオンの酸素配位数を増加させるため、結果として、近赤外領域における透過率を低下させやすくなる。R’
2Oの含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは5〜20%、特に好ましくは10〜19%である。R’
2Oの含有量が多すぎると、耐候性が低下したり、ガラス転移点が低くなりすぎる傾向がある。また、ガラス化しにくくなる。
【0026】
R’
2Oの中でもNa
2Oは上記効果を享受しやすい。Na
2Oの含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは5〜20%、特に好ましくは10〜18%である。Li
2Oの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0.1〜18%である。K
2Oの含有量は、好ましくは0〜15%、より好ましくは0.1〜10%である。なお、2種以上のR’
2O(例えばLi
2OとNa
2O)を共存させることにより耐候性が向上しやすくなる。
【0027】
なお、フッ素成分は耐候性を向上させるのに有効であるが、環境負荷物質であるため、本発明のガラスは実質的に含有しない。
【0028】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスには、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0029】
B
2O
3はガラスを安定化させる効果がある成分である。ただし、その含有量が多すぎると、溶融時に揮発成分が多くなり、組成ずれが生じやすくなる。また、耐候性が低下しやすくなる。従って、B
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%であり、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0030】
SiO
2はガラス転移点を上昇させる効果があるが、一方でガラス化を不安定にする傾向がある。従って、SiO
2の含有量は、好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜2%であり、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0031】
なお、Cl成分は人体に対する影響を考慮し、実質的に含有しないことが好ましい。また、Ag
2OはCuOの価数に影響を及ぼし得るため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0032】
また、原料中にU成分やTh成分が不純物として多く含まれていると、ガラスからα線が放出される。そのため、視感度補正フィルタや色調整フィルタの用途に使用する場合は、α線によりCCDやCMOSの信号に不具合をきたすおそれがある。従って、本発明のIRカットフィルタ用ガラスにおけるUおよびThの含有量は、それぞれ好ましくは1ppm以下、より好ましくは100ppb以下、さらに好ましくは20ppb以下である。また、本発明のIRカットフィルタ用ガラスから放出されるα線量は1.0c/cm
2・h以下であることが好ましい。
【0033】
本発明のIRカットフィルタ用ガラスは、可視域での高い透過率を維持しつつ、近赤外域の光をシャープにカットすることができる。具体的には、波長500〜1200nmの範囲で透過率50%を示す波長(λ
50)が615nmになる厚さにおいて、波長500nmにおける透過率が80%以上(さらには82%以上)、かつ、波長1100nmの透過率が25%以下(さらには15%以下)であることが好ましい。
【0034】
次に、本発明のガラスを使用したIRカットフィルタの製造方法について説明する。
【0035】
まず所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉中で溶融する。次に、溶融ガラスを急冷して成形後、必要に応じて所望の形状(例えば平板状)になるように切削、研磨してIRカットフィルタを得る。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明のIRカットフィルタ用ガラスを実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(1)各試料の作製
表1は本発明の実施例(No.1〜7)、表2は比較例(No.8〜12)を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
各試料は、以下のようにして作製した。
【0041】
まず、各表に記載の組成となるように調合したガラス原料を白金ルツボに投入し、700〜900℃で均質になるように溶融した。次に、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却固化した後、アニールを行って試料を作製した。
【0042】
(2)各試料の評価
得られた試料について、ガラス転移点、分光特性、及び耐候性を以下の方法により測定または評価した。結果を表1および2に示す。また、No.2の試料の透過率曲線を
図1に示す。
【0043】
ガラス転移点は、ディラトメーターにて得られた熱膨張曲線において、低温度域の直線と高温度域の直線の交点より求めた。
【0044】
分光特性は、粒度0.5μmのダイヤモンド粉末で両面を鏡面研磨した試料について、株式会社島津製作所製UV3100PCを用いて測定した。なお、試料としては、波長500〜1200nmの範囲で透過率50%を示す波長(λ
50)が615nmとなる厚みのものを使用した。
【0045】
耐候性は次のようにして評価した。分光特性の測定に用いた試料を、温度60℃−湿度90%の環境下に500時間静置した後、波長500nmにおける透過率を測定した。試験後における透過率の低下が10%未満であったものは「○」、10%以上であったものは「×」として評価した。
【0046】
(3)結果の考察
実施例であるNo.1〜7の試料は均質であり、所望の分光特性を有しつつ、耐候性に優れていた。一方、比較例であるNo.8、9の試料は耐候性に劣っていた。No.10、11の試料はガラス化しなかった。No.12の試料はガラス転移点が280℃と低かった。また波長1100nmにおける透過率が90%と高かった。