【文献】
Zhang S.,Evaluation on a water-based binder for the graphite anode of Li-ion batteries,Journal of Power Sources,2004年,138,226-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性重合体(A)が、重合性不飽和二重結合を有する酸、不飽和カルボン酸エステルおよびα,β−不飽和ニトリル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する繰り返し単位をさらに含む、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用バインダー組成物。
前記重合性不飽和二重結合を有する酸が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸およびメタリルスルホン酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の蓄電デバイス電極用バインダー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル〜」とは、「アクリル〜」および「メタクリル〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート」および「〜メタクリレート」の双方を包括する概念である。
【0020】
1.蓄電デバイス電極用バインダー組成物
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物は、水溶性重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、前記水溶性重合体(A)の全繰り返し単位を100質量部としたときに、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位の割合が40〜90質量部であり、かつ、カチオン性単量体に由来する繰り返し単位の割合が10〜30質量部であることを特徴とする。
【0021】
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物に含有される水溶性重合体(A)は、従来のカルボキシメチルセルロースに代表される増粘剤としての機能だけでなく、活物質粒子同士の結合能力および活物質粒子と集電体との結着能力ならびに粉落ち耐性を向上させるバインダーとしての機能も兼ね備えている。したがって、本実施の形態に係
る蓄電デバイス電極用バインダー組成物では、特開2012−151108号公報に記載されているようなバインダーとしての機能を有する水不溶性重合体(有機粒子)を併用する必要がない点で優れている。
【0022】
本発明における「水溶性重合体」とは、1気圧、23℃における水1gへの溶解度が0.01g以上である重合体のことをいう。本発明における「水不溶性重合体」とは、1気圧、23℃における水1gへの溶解度が0.01g未満である重合体のことをいう。
【0023】
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物は、具体的には集電体表面に形成される活物質層を作製するためのバインダーとして使用することができる。以下、本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0024】
1.1.水溶性重合体(A)
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物は、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位およびカチオン性単量体に由来する繰り返し単位を含有する水溶性重合体(A)を含む。また、水溶性重合体(A)は、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位やカチオン性単量体に由来する繰り返し単位の他に、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。他の単量体としては、例えば、重合性不飽和二重結合を有する酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0025】
以下、水溶性重合体(A)を構成する繰り返し単位、水溶性重合体(A)の分子量、物性、製造方法の順に説明する。
【0026】
1.1.1.(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位
水溶性重合体(A)100質量部中に含有される(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位の割合は40〜90質量部であり、45〜85質量部であることが好ましく、49〜80質量部であることがより好ましい。(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、活物質の分散性が良好となり、均一な活物質層の作製が可能となるため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す。さらに(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、ポリマーの耐酸化性が良好となるため、高電圧時の劣化が抑制され良好な充放電耐久特性を示す。
【0027】
本発明における(メタ)アクリルアミドとは、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリルアミド骨格を有する化合物の総称のこという。
【化3】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表す。)
【0028】
このような(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルア
ミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸、アクリロイルモルホリン、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−エチル−o−クロトノトルイジド、N−(4−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド等が挙げられる。これらの(メタ)アクリルアミドは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0029】
1.1.2.カチオン性単量体に由来する繰り返し単位
本発明における「カチオン性単量体」とは、上述の(メタ)アクリルアミド以外のカチオン性単量体のことをいう。水溶性重合体(A)100質量部中に含有されるカチオン性単量体に由来する繰り返し単位の割合は、10〜30質量部であり、13〜28質量部であることが好ましく、15〜25質量部であることがより好ましい。カチオン性単量体に由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、活物質やフィラーの分散性が良好となり、均一な活物質層の作製が可能となるため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す。さらにカチオン性単量体に由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、ポリマーの耐酸化性が良好となるため、高電圧時の劣化が抑制され良好な充放電耐久特性を示す。カチオン性単量体に由来する繰り返し単位の割合が前記範囲未満であると、スラリーを塗布する際、レベリング性が不足するため、塗膜の厚みの均一性が損なわれる場合がある。厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、カチオン性単量体に由来する繰り返し単位の割合が前記範囲を超えると、蓄電デバイスの充放電レート特性が劣化するおそれがある。
【0030】
カチオン性単量体としては、第二級アミン(塩)、第三級アミン(塩)および第四級アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体であることが好ましく、下記一般式(2)および下記一般式(3)で示される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体であることがより好ましい。
【0033】
上記式(2)および(3)中、R
2は水素原子またはメチル基を表す。R
3は−O−もしくは−COO−もしくは−NH−もしくは炭素数が1〜9のアルキレン基もしくは炭素数が1〜9のオキシアルキレン基(−OC
qH
2q−(qは1〜9の任意の整数))またはこれらの組合せを表す。複数存在するR
4は、それぞれ独立に炭素数が1〜9の置換も
しくは非置換のアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよい。
【0034】
このようなカチオン性単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩、(メタ)アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−(ジエチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸4−(ジメチルアミノ)フェニル、(メタ)アクリル酸2−[(3,5−ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル、(メタ)アクリル酸2−(0−[1’−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(1−アジリジニル)エチル、メタクロイルコリンクロリド、イソシアヌル酸トリス(2−アクリロイルオキシエチル)、2−ビニルピリジン、キナルジンレッド、1,2−ジ(2−ピリジル)エチレン、4’−ヒドラジノ−2−スチルバゾール二塩酸塩水和物、4−(4−ジメチルアミノスチリル)キノリン、1−ビニルイミダゾール、ジアリルアミン、ジアリルアミン塩酸塩、トリアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジクロルミド、N−アリルベンジルアミン、N−アリルアニリン、2,4−ジアミノ−6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン、N−trans−シンナミル−N−メチル−(1−ナフチルメチル)アミン塩酸塩、trans−N−(6,6−ジメチル−2−ヘプテン−4−イニル)−N−メチル−1−ナフチルメチルアミン塩酸塩等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
1.1.3.重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位
水溶性重合体(A)は、さらに重合性不飽和二重結合を有する酸(上記(メタ)アクリルアミドおよびカチオン性単量体に該当するものを除く。)に由来する繰り返し単位を有してもよい。水溶性重合体(A)が重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位を有する場合、水溶性重合体(A)100質量部中に含有される重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位の割合は、0〜30質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。水溶性重合体(A)が重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物を用いて調製された蓄電デバイス電極用スラリーの安定性が向上する。
【0036】
重合性不飽和二重結合を有する酸としては、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸を好適に使用することができる。重合性不飽和二重結合を有する酸の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等の不飽和スルホン酸を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上であることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸およびメタリルスルホン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
1.1.4.不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位
水溶性重合体(A)は、さらに不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有してもよい。水溶性重合体(A)が不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する場合、水溶性重合体(A)100質量部中に含有される不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の割合は、0〜30質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、水溶性重合体(A)は電解液との親和性がより好適なものとなり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制すると共に、電解液を過大に吸収することによる密着性の低下を防ぐことができる。
【0038】
不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等の単官能(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル等の多官能(メタ)アクリル酸エステル;下記一般式(2)で表される化合物、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
【0039】
【化6】
(式(4)中、R
5は水素原子またはメチル基であり、R
6はフッ素原子を含有する炭素数1〜18の炭化水素基である。)
【0040】
なお、本発明における「多官能(メタ)アクリル酸エステル」とは、(メタ)アクリル酸エステルが有する1つの重合性の二重結合以外に、さらに他の重合性の二重結合、エポキシ基、ヒドロキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することをいう。
【0041】
上記例示した単官能(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルおよび(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0042】
上記例示した多官能(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸グリシジルであることが特に好ましい。
【0043】
1.1.5.α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位
水溶性重合体(A)は、さらにα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有してもよい。重合体(A)がα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有する場合、水溶性重合体(A)100質量部中に含有されるα,β−不飽和ニトリル
化合物に由来する繰り返し単位の割合は、0〜30質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、水溶性重合体(A)の電解液に対する親和性が良好となるため、電解液吸収能が向上する。すなわち、ニトリル基の存在によって電極中に形成された重合体鎖からなる網目構造に溶媒が均一に拡散し易くなるため、溶媒和したリチウムイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。これにより、リチウムイオンの拡散性が向上すると考えられ、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができると考えられる。
【0044】
α,β−不飽和ニトリル化合物の具体例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルから選択される1種以上であることが好ましく、特にアクリロニトリルであることが好ましい。
【0045】
1.1.6.その他の単量体に由来する繰り返し単位
水溶性重合体(A)は、さらに共役ジエン化合物や芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を含有してもよい。
【0046】
共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
【0047】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
【0048】
なお、水溶性重合体(A)は、高電圧に晒される環境中で使用する場合には酸化電位が低いため、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位および芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を実質的に含まないことが好ましい。高電圧に晒される環境とは、例えばリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの正極が挙げられる。
【0049】
1.1.7.水溶性重合体(A)の特性
1.1.7.1.水溶性重合体(A)の分子量
水溶性重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、30万〜600万の範囲内にあることが好ましく、55万〜450万であることがより好ましく、60万〜300万であることが特に好ましい。本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物が、上述の分子量範囲を有する水溶性重合体(A)を含有することにより、良好な充放電特性が発現しやすくなる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推測される。
【0050】
すなわち、重合体の分子量が30万未満の場合には、重合体が電解液に溶出する可能性が高い。そうすると、密着性を低下させるばかりでなく、電解液に溶出した低分子量の重合体成分が充放電の際に電気分解されてしまうなど、充放電特性に悪影響を与える危険性がある。一方、分子量が600万を超える場合には、電解液によってはバインダーが十分に膨潤しない危険性がある。本実施の形態で用いられる水溶性重合体(A)は、前記範囲のような十分に大きな分子量を有することにより、充放電特性をさらに向上させていると考えられる。
【0051】
水溶性重合体(A)の重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)、いわゆる分散
比は、3〜30であることが好ましく、7〜30であることが好ましく、10〜30であることがより好ましい。一般的に、分散比の値は、分子量分布の広がりを意味すると考えられており、この値が1に近いほど分子量分布が狭いことを示す。本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物が、上述の範囲で特定の広がりを有する水溶性重合体(A)を含有することにより、良好な充放電特性が発現しやすくなる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推測される。
【0052】
一般的に、分子量分布が狭い、すなわち分子量が揃った重合体の場合には、分子量が大きいと強度が高くなるが、脆くなりやすい傾向があり、分子量が小さいと柔軟になる傾向にあるが、強度が低くなるというトレードオフの関係にある。逆に、分子量分布が広い、すなわち高分子量から低分子量まで幅広く混在している場合には、超高分子量重合体が過剰に含まれるため、溶液としたときに粘度とチキソ性が極端に大きくなる傾向がある。これを本願発明の用途に当てはめてみると、特定の分子量分布を有する重合体を使用することにより、まず分散性・流動性が良好なスラリーを作製することが可能となる。分散性・流動性が良好なスラリーから形成された電極は均一で構造欠陥が少ないという特性を有するため出力および耐久性に優れると考えられる。また特定の分子量分布を有することで、柔軟性を保ちながら強度が高い電極を形成することができるため、構造の均一性が崩れにくく、初期の良好な特性を維持することができ、耐久性に優れた電極になると考えられる。
【0053】
なお、水溶性重合体(A)の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法による測定値を標準ポリエチレンオキシド換算することにより求めることができる。
【0054】
1.1.7.2.水溶性重合体(A)の中和度
水溶性重合体(A)が酸基を有する場合には、用途に応じて適宜中和度を調整して使用できる。活物質やフィラーを分散させるときの中和度は特に限定されないが、電極の形成後には0.7〜1.0であることが好ましく、0.85〜1.0であることがより好ましい。電極作製後の中和度を上記範囲とすることで、酸の大半が中和された状態となり、電池内でLiイオンなどと結合して、容量低下を引き起こすことがなくなるため好ましい。中和塩としては、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩などが挙げられる。
【0055】
1.1.8.水溶性重合体(A)の製造方法
水溶性重合体(A)の合成方法は特に制限されないが、水を主成分とした溶媒中で行う重合が好ましい。特に好ましい重合形態は水溶液重合である。水溶性重合体(A)の合成時に用いる重合開始剤は、水溶性ラジカル開始剤が好ましく、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩や4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等の水溶性アゾ系開始剤が特に好ましい。重合開始剤の使用量は上述の重量平均分子量(30万〜600万)を有する水溶性重合体(A)を得る観点から、重合させる単量体の全質量100質量部に対して、0.1〜1.0質量部であることが好ましい。
【0056】
水溶性重合体(A)合成時の重合温度は特に制限されないが、製造時間や単量体の共重合体への転化率(反応率)などを考慮に入れると30〜95℃の範囲で合成することが好ましく、50〜85℃が特に好ましい。ただし、目的とする分子量や分子量分布を有する水溶性重合体(A)を得るためには、一旦設定した重合時の設定温度を±3℃以内にコントロールする必要がある。また、重合時には製造安定性を向上する目的でpH調製剤や金属イオン封止剤であるEDTAもしくはその塩などを使用することも可能である。
【0057】
また、重合前もしくは重合体を水溶化する際に、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤でpH調整を行ってもよく、その場合にはpHを5〜11の範囲に調整することが好ましい。金属イオン封止剤であるEDTAもしくはその塩などを使用することも可能である。
【0058】
特に水溶性重合体(A)の分子量や分子量分布を制御するためには、開始剤の種類やその量、重合中の温度管理、単量体全量添加までの時間、単量体の全量添加後の温度管理や温度保持時間が重要である。例えば、特開2012−151108号公報に記載されている重合体の合成には、単量体100質量部に対して2質量部程度の開始剤(過硫酸アンモニウム)を使用している。一般的に、単量体の量に対して開始剤の量が多くなると、分子量は低下するが、このような合成方法では上述の重量平均分子量には到達できないと考えられる。また、水溶性重合体(A)は、水を主成分とした溶媒中でラジカル重合により得られるため、目的とする分子量の重合体を合成するためには、厳密に温度管理や反応時間を管理する必要がある。このような時間や温度の管理は、使用する単量体の種類により適時調整する必要がある。たとえば、全繰り返し単位100質量部に対して(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位を40〜90質量部およびカチオン性単量体に由来する繰り返し単位を10〜30質量部含有する水溶性重合体(A)の分子量や分子量分布をコントロールする場合、重合中の温度管理は設定温度に対して±3℃程度で行う必要があり、また単量体全量添加までの時間は設定時間に対して±5分程度で行う必要があり、単量体の全量添加後の温度管理は±3℃程度で行う必要があり、単量体の全量添加後の温度保持時間に厳密に制御しなければならない。
【0059】
1.2.液状媒体(B)
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物は、液状媒体(B)を含有する。液状媒体(B)としては、水を含有する水系媒体であることが好ましい。この水系媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることができる。この非水系媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。液状媒体(B)が水系媒体である場合、液状媒体(B)の全量100質量%中、90質量%以上が水であることが好ましく、98質量%以上が水であることがより好ましい。本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物は、液状媒体(B)として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
【0060】
水系媒体中に含まれる非水系媒体の含有割合は、水系媒体100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、液状媒体(B)として非水系媒体を意図的に添加しないという程度の意味であり、蓄電デバイス電極用バインダー組成物を調製する際に不可避的に混入する非水系媒体を含んでもよい。
【0061】
2.蓄電デバイス電極用スラリー
「蓄電デバイス電極用スラリー」とは、これを集電体の表面に塗布した後、乾燥して、集電体表面上に活物質層を形成するために用いられる分散液のことをいう。本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス電極用バインダー組成物と、活物質と、を含有する。本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、正極および負極のいずれの電極を作製する用途にも用いることができる。以下、本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに含まれる成分について詳細に説明する。但し、蓄電デバイス電極用バインダー組成物については、上述した通りであるから説明を省略する。
【0062】
2.1.活物質
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに含まれる活物質を構成する材料としては特に制限はなく、目的とする蓄電デバイスの種類により適宜適当な材料を選択することができる。活物質としては、例えば炭素材料、ケイ素材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニウム化合物等を挙げることができる。
【0063】
上記炭素材料としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0064】
上記ケイ素材料としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などを挙げることができるほか、例えばSiC、SiO
xC
y(0<x≦3、0<y≦5)、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
x(0<x≦2)で表記されるSi酸化物複合体(例えば特開2004−185810号公報や特開2005−259697号公報に記載されている材料など)、特開2004−185810号公報に記載されたケイ素材料を使用することができる。上記ケイ素酸化物としては、組成式SiO
x(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。上記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄およびモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ素合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダーとの結着力がより良好になる点でも好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素−ニッケル合金またはケイ素−チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素−チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20〜70モル%とすることがより好ましい。なお、ケイ素材料は、単結晶、多結晶および非晶質のいずれであってもよい。
【0065】
また、活物質としてケイ素材料を用いる場合には、ケイ素材料以外の活物質を併用してもよい。このような活物質としては、例えば上記の炭素材料;ポリアセン等の導電性高分子;A
XB
YO
Z(但し、Aはアルカリ金属または遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、YおよびZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。これらの中でも、リチウムの吸蔵および放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素材料を併用することが好ましい。
【0066】
上記リチウム原子を含む酸化物としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4、Li
0.90Ti
0.05Nb
0.05Fe
0.30Co
0.30Mn
0.30PO
4などが挙げられる。
【0067】
活物質の形状としては、粒状であることが好ましい。活物質の平均粒子径としては、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましい。
【0068】
活物質の使用割合は、活物質100質量部に対するバインダー(水溶性重合体(A))の含有割合が、0.1〜25質量部となるような割合で使用することが好ましく、0.5〜15質量部となるような割合で使用することがより好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた電極を製造することができる。
【0069】
2.2.その他の添加剤
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、必要に応じて導電助剤、非水系媒体、増粘剤、pH調整剤、腐食防止剤等を添加することができる。
【0070】
2.2.1.導電助剤
導電助剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどが;ニッケル水素二次電池においては、正極では酸化コバルトが:負極ではニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボンなどが、それぞれ用いられる。上記両電池において、カーボンとしては、グラファイト、活性炭、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはファーネスブラックを好ましく使用することができる。導電助剤の使用割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に好ましくは2〜10質量部である。
【0071】
2.2.2.非水系媒体
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、その塗布性を改善する観点から、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含有することができる。このような非水系媒体の具体例としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリンなどの炭化水素;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコールなどのアルコール;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジンなどのアミン化合物;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトンなどのラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド・スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、蓄電デバイス電極用スラリーを塗布する際の作業性などの点から、N−メチルピロリドンを使用することが好ましい。
【0072】
2.2.3.増粘剤
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、その流動性や安定性を調整する観点から、増粘剤を含有することができる。このような増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース化合物;上記セルロース化合物のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸などの不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物などの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩などである。
【0073】
なお、カルボキシメチルセルロースおよびその塩は、高電圧に晒される環境中で使用する場合は、酸化電位が低いため含まない方が好ましい。カルボキシメチルセルロースおよびその塩を添加することにより、電極の柔軟性を低下させて捲回性が損なわれたり、活物質層の密着性が不十分となる場合がある。高電圧に晒される環境とは、例えばリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの正極や正極電極表面とセパレーター間に形成される保護膜などが挙げられる。
【0074】
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の使
用割合としては、蓄電デバイス電極用スラリーの全固形分量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは0.1〜15質量%であり、特に好ましくは0.5〜10質量%である。
【0075】
2.2.4.pH調整剤、腐食防止剤
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、活物質の種類に応じて塗布する集電体の腐食を抑制することを目的として、pH調整剤や腐食防止剤を含有することができる。
【0076】
pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、ギ酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどを挙げることでき、硫酸および硫酸アンモニウムが好ましい。
【0077】
腐食防止剤としては、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムなどが挙げられ、パラタングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0078】
2.3.蓄電デバイス電極用スラリーの製造方法
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス電極用バインダー組成物と、活物質と、水と、必要に応じて用いられる添加剤と、を混合することにより製造することができる。これらの混合は公知の手法による攪拌によって行うことができ、例えば攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザーなどを利用することができる。
【0079】
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーを製造するための混合撹拌としては、スラリー中に活物質の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
【0080】
2.4.スラリー特性
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、その曳糸性が30〜80%であることが好ましく、33〜79%であることがより好ましく、35〜78%であることが特に好ましい。曳糸性が前記範囲未満であると、スラリーを塗布する際、レベリング性が不足するため、塗膜の厚みの均一性が損なわれる場合がある。厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、曳糸性が前記範囲を超えると、スラリーを塗布する際、液ダレが起き易くなり、安定した品質の電極が得られにくい。そこで、曳糸性が前記範囲にあれば、これらの問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた蓄電デバイスを製造することが容易となるのである。
【0081】
本明細書における「曳糸性」とは、以下のようにして測定される物性である。まず、底部に直径5.2mmの開口部を有するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。この開口部を閉じた状態で、ザーンカップにスラ
リー40gを流し込む。その後、開口部を開放すると、開口部からスラリーが流れ出す。ここで、開口部を開放した時をT
0、スラリーの曳糸が終了した時をT
A、スラリーの流出が終了した時をT
Bとした場合に、下記式(5)から求めることができる。
曳糸性(%)=((T
A−T
0)/(T
B−T
0))×100 ・・・・・(5)
【0082】
3.蓄電デバイス電極
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極は、集電体と、前記集電体の表面上に前述の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布および乾燥されて形成された層と、を備えるものである。かかる蓄電デバイス電極は、金属箔などの適宜の集電体の表面に、前述の蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された蓄電デバイス電極は、集電体上に、前述のバインダー、活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものである。かかる蓄電デバイス電極は、集電体と活物質層との密着性に優れるため、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好となる。
【0083】
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使用されるが、特に正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、前述の蓄電デバイス電極用バインダー組成物を用いて製造された蓄電デバイス電極用スラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。集電体の形状および厚さは特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものとすることが好ましい。
【0084】
蓄電デバイス電極用スラリーの集電体への塗布方法についても特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。蓄電デバイス電極用スラリーの塗布量も特に制限されないが、液状媒体(水および任意的に使用される非水系媒体の双方を包含する概念である)を除去した後に形成される活物質層の厚さが、0.005〜5mmとなる量とすることが好ましく、0.01〜2mmとなる量とすることがより好ましい。活物質層の厚さが上記範囲内にあることによって、活物質層に効果的に電解液を染み込ませることができる。その結果、活物質層中の活物質と電解液との充放電に伴う金属イオンの授受が容易に行われるため、電極抵抗をより低下させることができるため好ましい。また、活物質層の厚さが上記範囲内にあることで、電極を折り畳んだり、捲回するなどして成形加工する場合においても、活物質層が集電体から剥離することなく密着性が良好で、柔軟性に富む蓄電デバイス電極が得られる点で好ましい。
【0085】
塗布後の塗膜からの乾燥方法(水および任意的に使用される非水系媒体の除去方法)についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ速く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
【0086】
さらに、乾燥後の集電体をプレスすることにより、活物質層の密度を高め、空孔率を以下に示す範囲に調整することが好ましい。プレス方法としては、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類および活物質層の空孔率および密度の所望値によって適宜に設定されるべきである。この条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に設定することができるが、例えばロールプレスの場合、ロールプレス機の線圧力は0.1〜10(t/cm)、好ましくは0.5〜5(t/
cm)の圧力において、例えばロール温度が20〜100℃において、乾燥後の集電体の送り速度(ロールの回転速度)が1〜80m/min、好ましくは5〜50m/minで行うことができる。
【0087】
プレス後の活物質層の密度は、1.5〜5.0g/cm
3とすることが好ましく、1.5〜4.0g/cm
3とすることがより好ましく、1.6〜3.8g/cm
3とすることが特に好ましい。
【0088】
4.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス電極を備えていればよい。蓄電デバイスの具体的製造方法としては、正極と負極との間にこれら電極間の短絡を防止するためのセパレーターを挟んで積層し、または正極、セパレーター、負極およびセパレーターをこの順序に積層して電極/セパレーター積層体とし、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、この電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。なお、電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型など、適宜の形状であることができる。
【0089】
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
【0090】
上記電解質としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。ニッケル水素二次電池では、例えば従来公知の濃度が5モル/リットル以上の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。
【0091】
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート化合物;γ−ブチロラクトンなどのラクトン化合物;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
【0092】
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、電気自動車、バイブリッドカー、トラック等の自動車に搭載される二次電池またはキャパシタとして好適であるほか、AV機器、OA機器、通信機器などに用いられる二次電池、キャパシタとしても好適である。
【0093】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0094】
5.1.実施例1
5.1.1.水溶性重合体(A)の合成および評価
(1)水溶性重合体(A)を含む水溶液の調製
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、水1050質量部を仕込み、内温70℃に昇温し、次いで過硫酸ナトリウム0.3質量部を投入した。次いで、水110質量部、アクリルアミド60質量部、ジメチルアミノエチルアクリレート20質量部、アクリル酸10質量部、アクリル酸エチル10質量部の混合液を1時間かけて滴下し、70℃±3℃で2時間反応を行い、さらに90℃±3℃で2時間反応を行った。その後、冷却し、20wt%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、水溶性重合体(A)を8wt%含有する水溶液を得た。このようにして得られた水溶性重合体(A)を8wt%含有する水溶液を蓄電デバイス電極用バインダー組成物S1とした。蓄電デバイス電極用バインダー組成物S1を25℃に調整し、BM型粘度計を用いて粘度を測定したところ3500mPa・sであった。
【0095】
(2)分子量の測定
以下の条件により測定した水溶性重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は6×10
6であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値(分散比)は29.7であった。
・測定機器:東ソー株式会社製、GPC(型番:HLC−8220)
・カラム:TSKgel guardcolum PW
XL (東ソー株式会社製)、TSK−GEL G2500PW
XL(東ソー株式会社製)、TSK−GEL GMPW
XL(東ソー株式会社製)
・溶離液:0.1M NaNO
3水溶液
・検量線:標準ポリエチレンオキシド
・測定方法:水溶性重合体(A)の濃度が0.3wt%となるように溶離液に溶解し、フィルターろ過後に測定。
【0096】
5.1.2.正極用スラリー、負極用スラリーの調製および評価
(1)正極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に上記で得られた蓄電デバイス電極用バインダー組成物S1を水溶性重合体(A)換算で1.5質量部に相当する量を投入し、さらに粒子径(D50値)が10μmの市販のニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)の比率1:1:1)活物質粒子100質量部、アセチレンブラック3質量部、バナジン酸ナトリウム0.5質量部および水4質量部を投入し、90rpmで1時間攪拌を行った。得られたペーストに水を加えて固形分濃度を70%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10
3Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、正極用スラリーを調製した。
【0097】
(2)負極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、上記で得られた蓄電デバイス電極用バインダー組成物S1を水溶性重合体(A)換算で1質量部に相当する量を投入し、負極活物質としてグラファイト100質量部(固形分換算)、およびアセチレンブラック4質量部、イオン交換水53質量部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。さらに水40質量部を投入した後、撹拌脱泡機(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10
3Pa)において1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、負極用スラリーを調製した。
【0098】
(3)スラリーの曳糸性測定
上記で得られた正極用および負極用スラリーの曳糸性を、以下のようにして測定した。まず、容器の底辺に直径5.2mmの開口部が存在するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備した。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、上記で調製したスラリーを40g流し込んだ。開口部を開放するとスラリーが流れ出した。このとき、開口部を開放した瞬間の時間をT
0とし、スラリーが流れ出る際に糸を曳くようにして流出し続けた時間を目視で測定し、この時間をT
Aとした。さらに、糸を曳かなくなってからも測定を継続し、スラリーが流れ出なくなるまでの時間T
Bを測定した。測定した各値T
0、T
AおよびT
Bを下記式(5)に代入して曳糸性を求めた。このスラリーの曳糸性は、上述したように30〜80%である場合に集電体上への塗布性が良好であると判断することができる。その結果を表2に併せて示した。
曳糸性(%)=((T
A−T
0)/(T
B−T
0))×100 ・・・・・(5)
【0099】
5.1.3.正極、負極の製造および評価
(1)正極の製造
アルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記で調製した正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が110μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で10分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が3.0g/cm
3になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、正極を得た。
【0100】
(2)負極の製造
銅箔からなる集電体の表面に、上記で調製した負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が110μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が1.5g/cm
3となるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、負極を得た。
【0101】
(3)極板のクラック率の評価
上記で得られた正極板、負極板を、それぞれ幅2cm×長さ10cmに切り出し、幅方向に直径2mmの丸棒に沿って正極板を折り曲げ回数100回にて繰り返し折り曲げ試験を行った。丸棒に沿った部分のクラックの大きさを目視により観察し計測し、クラック率を測定した。クラック率は、下記式(6)によって定義した。
クラック率(%)=
(クラックの入った長さ(mm)÷極板全体の長さ(mm))×100 ・・・・(6)
クラック率は四捨六入することにより5%刻みで評価し、差を明確にしやすくした。ここで、柔軟性や密着性に優れた電極板はクラック率が低い。クラック率は0%であることが望ましいが、正極板と負極板とをセパレーターを介して渦巻き状に捲回して極板群を製造する場合には、クラック率が20%までなら許容される。しかし、クラック率が20%より大きくなると、極板が切れ易くなり極板群の製造が不可能となり、極板群の生産性が低下する。このことから、クラック率が20%までが良好な範囲であると考えられる。その結果を表2に併せて示した。
【0102】
5.1.4.リチウムイオン電池セルの組立ておよび評価
(1)リチウムイオン電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した負極を直径15.95mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池
セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF
6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0103】
(2)5Cレート特性、残存容量率および抵抗上昇率の測定
上記で製造したリチウムイオン電池セルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした(エージング充放電)。
【0104】
上記エージング充放電後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cにおける放電容量(初期)の値であるC1を測定した。
【0105】
上記放電容量(初期)測定後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(5.0C)方式で放電したときの放電容量C2を測定した。そして、これらの測定値を用いて、下記式(7)によってリチウムイオン二次電池の5Cレート特性(%)を算出した。
5Cレート特性(%)=(C2/C1)×100 ・・・・・(7)
なお、5Cレート特性の値が大きいほど、高速放電においても良好な出力特性得られると判断することができるが、特に5Cレート特性の値が60%以上である場合、良好と判断できる。
【0106】
上記放電容量(初期)測定後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。
【0107】
この充電状態のセルについてEIS測定(“Electrochemical Inpedance Spectroscopy”、「電気化学インピーダンス測定」)を行い、初期の抵抗値EISaを測定した。
【0108】
次に、初期の抵抗値EISaを測定したセルを60℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.4Vになった時点で引き続き定電圧(4.4V)にて充電を168時間続行した(過充電の加速試験)。
【0109】
その後、この充電状態のセルを25℃の恒温槽に入れてセル温度を25℃に低下してから、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、0.2Cにおける放電容量(試験後)の値であるC2を測定した。
【0110】
上記放電容量(試験後)のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした。このセルのEIS測定を行い、熱ストレスおよび過充電ストレス印加後の抵抗値であるEISbを測定した。
【0111】
上記の各測定値を下記式(8)および下記式(9)に代入して残存容量率および抵抗上昇率をそれぞれ求めた。
残存容量率(%)=(C2/C1)×100 ・・・・・(8)
抵抗上昇率(%)=((EISb−EISa)/EISa)×100 ・・・・(9)
この残存容量率が75%以上であり、かつ、抵抗上昇率300%以下であるとき、充放電耐久特性は良好であると評価することができる。
【0112】
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0113】
5.2.実施例2〜9、比較例1〜2
上記実施例1の「5.1.1.水溶性重合体(A)の合成と評価」において、単量体の組成と開始剤の量を適宜に変更したほかは実施例1と同様にして、表1に示す組成の重合体を含む水溶液(蓄電デバイス電極用バインダー組成物S2〜S11)を調製し、得られた水溶性重合体(A)の分子量を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0114】
次いで、上記実施例1の「5.1.2.正極、負極用スラリーの調製および評価」において、重合体の添加量および活物質の種類を表2に記載の通りとした以外は、実施例1と同様に正極、負極用スラリーをそれぞれ調製し、スラリーの曳糸性を測定した。その結果を表2に併せて示した。
【0115】
さらに、上記実施例1の「5.1.3.正極、負極の製造および評価」、「5.1.4.リチウムイオン電池セルの組立ておよび評価」と同様にして電極、蓄電デバイスを作製し、評価を行った。その結果を表2に併せて示した。
【0116】
5.3.実施例1〜9、比較例1〜2の評価結果
下表1に、各蓄電デバイス電極用バインダー組成物に含まれる重合体の単量体組成および分子量、化合物(B)の含有割合、評価結果を示す。下表2に、正極、負極用スラリーの組成および各評価結果を示す。
【0118】
なお、表1における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
・AMM:アクリルアミド
・MAMM:メタクリルアミド
・NMAM:N−メチロールアクリルアミド
・ATBS:アクリルアミドt−ブチルスルホン酸
・DMAEA:ジメチルアミノエチルアクリレート
・DMAEA−Q:ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩
・2VP:2−ビニルピリジン
・1VI:1−ビニルイミダゾール
・DAA:ジアリルアミン
・AA:アクリル酸
・MAA:メタクリル酸
・VS:ビニルスルホン酸
・AS:アリルスルホン酸
・MAS:メタアリルスルホン酸
・MMA:メタクリル酸メチル
・MA:アクリル酸メチル
・BA:アクリル酸n−ブチル
・EA:アクリル酸エチル
・HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
・AN:アクリロニトリル
・MAN:メタクリロニトリル
表1における「−」の表記は、該当する成分を使用しなかったか、あるいは該当する操作を行わなかったことを示す。
【0120】
表2における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
・NMC(111):ユミコア社製、ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(ニッケル(Ni):コバルト(Co):マンガン(Mn)が1:1:1)、グレード名「MX−
10」
・NMC(532):ユミコア社製、ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(ニッケル(Ni):コバルト(Co):マンガン(Mn)が5:3:2)、グレード名「TX−10」
・AB:アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック50%プレス)・黒鉛:日立化成工業株式会社製、商品名「MAG」
・NaVO
3:和光純薬工業株式会社製、メタバナジン(V)酸ナトリウム
【0121】
上表2から明らかなように、実施例1〜9に示した本発明に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物を用いて調製された蓄電デバイス電極用スラリーは、曳糸性に優れ、密着性(例えば集電体と活物質層との間の結着性、活物質間の結着性)が良好であるためクラック率が低い優れた電極を与えた。また、これらの電極を備える蓄電デバイス(リチウムイオン電池)は、充放電レート特性が良好であった。
【0122】
これに対して、比較例1〜2に示した蓄電デバイス電極用バインダー組成物では良好なスラリーが得られず、正極および負極の双方においてクラックが発生した。また、これらの電極を備える蓄電デバイス(リチウムイオン電池)は、良好な充放電レート特性を示さなかった。
【0123】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。