(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233578
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】タービン
(51)【国際特許分類】
F01D 11/08 20060101AFI20171113BHJP
F01D 9/04 20060101ALI20171113BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
F01D11/08
F01D9/04
F01D25/00 X
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-251841(P2013-251841)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-108340(P2015-108340A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】山崎 博樹
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】伊井 康浩
【審査官】
齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−090313(JP,A)
【文献】
特開平02−104903(JP,A)
【文献】
特開2005−030315(JP,A)
【文献】
特開2005−030313(JP,A)
【文献】
特表2013−512382(JP,A)
【文献】
特表2011−521144(JP,A)
【文献】
特許第4474989(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 11/08
F01D 9/02−04
F01D 25/00−24
F02C 7/00−18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェットエンジンのタービンであって、
円筒形状を成すタービンケースと、
前記タービンケースの軸心回りに旋回するタービンブレードと、
前記タービンブレードを囲んで前記タービンケースの内周面に沿って環状に配置される複数のシュラウド分割体から成るシュラウドを備え、
前記シュラウドの前記シュラウド分割体には、一方の係合部及び他方の係合部が形成され、
前記シュラウドの前記シュラウド分割体は、前記一方の係合部を前記タービンケースに対して該タービンケースの軸心方向に係合すると共に、前記他方の係合部を前記タービンケースに対して該タービンケースの径方向に係合することで、前記タービンケースに固定され、
前記シュラウドの前記シュラウド分割体には、前記タービンケースから前記シュラウド分割体を取り外す段階で前記他方の係合部の前記タービンケースに対する係合状態を解除する力を受ける受圧部が形成されているタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、航空機用ジェットエンジンを構成するタービンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したようなジェットエンジンを構成するタービンは、タービンケースと、このタービンケース内において複数段ずつ交互に配置されるタービンディスク及びタービンノズルを備えている。複数段のタービンディスクの各周縁部には、タービンケースの軸心回りに旋回する複数枚のタービンブレードがそれぞれ配置されており、タービンケースの内周面には、その高温化を抑えるシュラウドがタービンブレードを囲むようにして環状に配置されている。
【0003】
このシュラウドには分割構造が採用されており、シュラウド分割体は、ジェットエンジンの前側に位置する円弧状の突条をタービンケースに形成された受け溝にジェットエンジンの軸心方向に係合させると共に、ジェットエンジンの後側に位置する円周方向に沿う外向き溝にタービンケースに形成された内向き突条をジェットエンジンの径方向に係合させることで、タービンケースに取り付けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記したタービンには、決められたサイクルで定期検査が実施されるが、その分解時において、タービンケースからシュラウドを取り外す際には、プラスチックハンマーやレンチ等の手工具を用いて、シュラウド分割体の外向き溝がタービンケースの内向き突条から離脱する方向(求心方向)にシュラウド分割体の後側を徐々に移動させて、タービンケースから引き剥がすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4474989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来のタービンでは、上記したように、定期検査時の分解時において、シュラウド分割体の外向き溝をタービンケースの内向き突条から離脱させるべく、プラスチックハンマーやレンチ等の手工具を用いて、シュラウド分割体を求心方向に徐々に移動させる都合上、その分解作業性を考慮して、タービンケースの内向き突条とシュラウド分割体の外向き溝との間に、若干大きめのクリアランスを確保する必要がある。
【0007】
したがって、この若干大きめに設定したクリアランスを通してタービンケース側にリークする燃焼器からの高温ガスの分だけエンジン性能のロスが発生すると共に、タービンケースが高温に晒されてしまうという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、エンジン性能ロスの低減及びタービンケースの熱疲労の軽減を実現したうえで、定期検査時等の分解作業を簡単に行うことができるタービンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するべく、本発明は、ジェットエンジンのタービンであって、円筒形状を成すタービンケースと、前記タービンケースの軸心回りに旋回するタービンブレードと、前記タービンブレードを囲んで前記タービンケースの内周面に沿って環状に配置される複数のシュラウド分割体から成るシュラウドを備え、前記シュラウドの前記シュラウド分割体には、一方の係合部及び他方の係合部が形成され、前記シュラウドの前記シュラウド分割体は、前記一方の係合部を前記タービンケースに対して該タービンケースの軸心方向に係合すると共に、前記他方の係合部を前記タービンケースに対して該タービンケースの径方向に係合することで、前記タービンケースに固定され、前記シュラウドの前記シュラウド分割体には、前記タービンケースから前記シュラウド分割体を取り外す段階で前記他方の係合部の前記タービンケースに対する係合状態を解除する力を受ける受圧部が形成されている構成としたことを特徴としており、この構成のタービンを前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
本発明に係るタービンにおいて、例えば、定期点検時における分解に際して、タービンケースからシュラウドを取り外す場合には、シュラウド分割体の受圧部に治具等を用いて求心方向の力を加えれば、シュラウド分割体における他方の係合部のタービンケースに対する径方向の係合状態が解除される。
【0011】
つまり、シュラウド分割体に受圧部を設けたことで、シュラウド分割体に対して力を加え易くなり、従来のようにシュラウド分割体を徐々に移動させることなく、シュラウド分割体をタービンケースから簡単に外し得ることとなる。
【0012】
そして、このように、シュラウド分割体を徐々に移動させることなくタービンケースから外し得るので、タービンケースとシュラウド分割体の他方の係合部との間のクリアランスを大きく設定する必要がなくなる。
【0013】
したがって、タービンケースとシュラウド分割体の他方の係合部との間のクリアランスを小さくすることができる分だけ、このクリアランスを通してタービンケース側にリークする高温ガスの量が少なく抑えられることとなって、エンジン性能のロスが低減するうえ、タービンケースの熱疲労の軽減が図られることとなる。
【0014】
また、上記したように、タービンケースが高温に晒され難くなることから、タービンケースを冷却して適正な大きさにするアクティブ・クリアランス・コントロール・システム(ACCシステム)を採用している場合には、タービンケースを冷却するための冷却空気を低減させ得ることとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタービンノズルでは、エンジン性能ロスの低減及びタービンケースの熱疲労の軽減を実現したうえで、定期検査時等の分解作業を簡単に行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例による低圧タービンの部分断面説明図である。
【
図2】
図1の楕円で囲った部分を拡大して示す拡大断面説明図である。
【
図3】
図1の低圧タービンにおけるシュラウドの分割体を示す部分斜視説明図である。
【
図4】
図1の低圧タービンにおけるシュラウドをタービンケースから取り外す要領を示す
図1の楕円で囲った部分での動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜
図4は本発明に係るタービンの一実施例を示しており、この実施例では、ジェットエンジンを構成する低圧タービンを例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示すように、ジェットエンジンを構成する低圧タービン1は、円筒形状を成すタービンケース2を備えている。このタービンケース2内には、ジェットエンジンの軸心周りに回転する複数段のタービンディスク(図示省略)がジェットエンジンの軸心方向(図示左右方向)に適宜間隔をおいて配置されており、これらのタービンディスクの各周縁部には、複数枚のタービンブレード3がそれぞれ配置されている。
【0019】
複数段のタービンディスクは、互いに一体で回転するように連結されており、これらのタービンディスクは、ジェットエンジンの前部に配置される図示しない低圧圧縮機の圧縮機ロータ及びファンのファンロータに一体的に連結されている。
【0020】
また、タービンケース2内には、このタービンケース2の高温化を抑える複数段(
図1では二段のみ示す)のシュラウド4が、各々対応するタービンブレード3を囲むようにして配置されており、シュラウド4の内側には、対応するタービンブレード3の先端との接触を許容された状態のハニカム部材5が配置されている。
【0021】
このシュラウド4には分割構造が採用されており、
図2及び
図3にも示すように、円弧状のシュラウド分割体4Aは、ジェットエンジンの前側(
図1,2左側、
図3左上側)の端部に形成された円弧状の突条(一方の係合部)4aと、ジェットエンジンの後側(
図1,2右側、
図3右上側)の端部に形成された円周方向に沿う外向き溝(他方の係合部)4bを備えている。
【0022】
このシュラウド分割体4Aは、円弧状の突条4aをタービンケース2に形成された受け溝2aにジェットエンジンの軸心方向に係合させると共に、外向き溝4bにタービンケース2に形成された内向き突条2bをジェットエンジンの径方向(図示上下方向)に係合させることで、タービンケース2に取り付けられており、このシュラウド分割体4Aは、その外向き溝4bとタービンケース2の内向き突条2bとを互いにジェットエンジンの径方向に離間させることで、タービンケース2からの取り外しが可能となっている。
【0023】
さらに、タービンケース2内には、複数段(
図1では三段示す)のタービンノズル10が、ジェットエンジンの軸心方向に適宜間隔をおいて複数段のタービンディスクと交互に配置されており、この低圧タービン1では、図示しない燃焼器からの高温ガスの膨張により複数段のタービンディスクを回転させることで駆動力を得て、複数段の低圧圧縮機ロータ及びファンロータを一体的に回転させるようになっている。
【0024】
このタービンノズル10にも分割構造が採用されており、タービンノズル分割体10Aは、複数の静翼11と、複数の静翼11の各先端同士を互いに連結する円弧状のアウタバンド12と、複数の静翼11の各基端同士を互いに連結する図示しないインナバンドを具備している。
【0025】
タービンノズル分割体10Aにおけるアウタバンド12は、その遠心方向で且つジェットエンジンの前側に延出するフロントリム12aと、遠心方向に延出するリアリム12bを具備しており、アウタバンド12は、フロントリム12aの先端部12cをタービンケース2に形成された受け溝2cに係合させると共に、リアリム12bの先端部12dに対してシュラウド分割体4Aのジェットエンジンの前側の端部に形成されたバンド係止部4cをジェットエンジンの後方から係止させることで、タービンケース2とシュラウド分割体4Aとの間に固定されるようになっている。
【0026】
この場合、シュラウド分割体4Aには、外向き溝4bから求心方向で且つジェットエンジンの後側に延出するバックプレート4dが形成されており、このバックプレート4dの先端部に受圧部4eが形成されている。
【0027】
この受圧部4eは、タービンケース2からシュラウド分割体4Aを取り外す段階において、外向き溝4bのタービンケース2の内向き突条2bに対する係合状態を解除する力を受ける部分であり、この実施例では、シュラウド分割体4Aの側縁部(円周方向の端部)において段差状に形成されていて、
図4に示すように、スライドハンマー20の鉤部21を引っ掛け得るようになっている。なお、シュラウド分割体4Aの受圧部4eに対して外向き溝4bの係合状態を解除する力を付与する治工具は、スライドハンマー20に限定されない。
【0028】
この実施例に係る低圧タービン1において、例えば、定期点検時における分解に際しては、タービンノズル10及びタービンディスク(タービンブレード3)をジェットエンジンの後部側から交互に取り外す。
【0029】
この分解作業において、タービンブレード3を囲うシュラウド分割体4Aをタービンケース2から取り外す場合には、
図4に示すように、シュラウド分割体4Aの受圧部4eにスライドハンマー20の鉤部21を引っ掛けて、このスライドハンマー20の図示しない錘を動作させて、白抜き矢印で示す求心方向の力をシュラウド分割体4Aの受圧部4eに加えれば、
図4に仮想線で示すように、シュラウド分割体4Aにおける外向き溝4bのタービンケース2の内向き突条2bに対する径方向の係合状態が解除され、これによって、シュラウド分割体4Aのタービンケース2からの取り外しが可能となる。
【0030】
つまり、シュラウド分割体4Aに受圧部4eを設けたことにより、スライドハンマー20を用いてシュラウド分割体4Aに力を加え易くなるので、従来のように徐々に移動させることなく、シュラウド分割体4Aをタービンケース2から簡単に外し得ることとなる。
【0031】
そして、このようにシュラウド分割体4Aを徐々に移動させることなくタービンケース2から外し得るので、タービンケース2の内向き突条2bとシュラウド分割体4Aの外向き溝4bとの間のクリアランスを大きく設定する必要がなくなる。
【0032】
したがって、タービンケース2の内向き突条2bとシュラウド分割体4Aの外向き溝4bとの間のクリアランスを小さくすることができる分だけ、このクリアランスを通してタービンケース2側にリークする高温ガスの量が少なく抑えられることとなり、その結果、エンジン性能のロスが低減するうえ、タービンケース2の熱疲労の軽減が図られることとなる。
【0033】
また、この実施例に係る低圧タービン1では、シュラウド分割体4Aの外向き溝4bから求心方向で且つジェットエンジンの後側に延出するバックプレート4dの先端部に受圧部4eを形成しているので、バックプレート4dの長さ分だけモーメント量が増して、より少ない力でシュラウド分割体4Aをタービンケース2から外し得ることとなる。
【0034】
さらに、上記したように、タービンケース2が高温に晒され難くなることから、低圧タービン1がアクティブ・クリアランス・コントロール・システムを採用している場合には、タービンケース2を冷却するための冷却空気を低減させ得ることとなる。
【0035】
本発明に係るタービンの構成は、上記した実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1 低圧タービン(タービン)
2 タービンケース
3 タービンブレード
4 シュラウド
4A シュラウド分割体
4a 突条(一方の係合部)
4b 外向き溝(他方の係合部)
4e 受圧部