特許第6233599号(P6233599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233599
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】車両用表示制御装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 7/18 20060101AFI20171113BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20171113BHJP
   B60R 1/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H04N7/18 J
   B60R16/02 640Z
   B60R1/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-250666(P2014-250666)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-180041(P2015-180041A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-33947(P2014-33947)
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤原 由貴
(72)【発明者】
【氏名】岩下 洋平
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】貝野 彰
【審査官】 佐野 潤一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−255977(JP,A)
【文献】 特開2012−175314(JP,A)
【文献】 特開2010−234851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/18
B60R 1/00
B60R 11/00
B60R 16/00
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方風景を撮像する車外カメラと、ドライバにより視認可能且つ操作可能な表示部とを有する車両に適用される車両用表示制御装置であって、
上記車外カメラによって撮像された前方風景に基づいて、オプティカルフローを推定するオプティカルフロー推定手段と、
上記オプティカルフロー推定手段によって推定されたオプティカルフローに応じて、上記表示部に適用すべき加飾ラインを設定する加飾ライン設定手段と、
上記加飾ライン設定手段によって設定された加飾ラインに基づいて、上記表示部に対する表示制御を行う表示制御手段と、
を有し、
上記加飾ライン設定手段は、上記オプティカルフロー推定手段によって推定されたオプティカルフローを上記表示部が設けられた位置にまで延長した仮想的なフローである仮想フローに基づき、上記加飾ラインを設定し、
上記表示制御手段は、上記加飾ラインに沿った上記表示部の領域を当該表示部の他の領域とは異なる表示形態で表示させる、
ことを特徴とする車両用表示制御装置。
【請求項2】
上記加飾ライン設定手段は、上記仮想フローの方向に対して所定角度傾けたラインを、上記加飾ラインとして設定する、請求項1に記載の車両用表示制御装置。
【請求項3】
上記所定角度は50度以上である、請求項2に記載の車両用表示制御装置。
【請求項4】
上記オプティカルフロー推定手段は、上記オプティカルフローの推定として、上記車外カメラによって撮像された前方風景に基づき、上記オプティカルフローの消失点の推定を行い、
上記加飾ライン設定手段は、上記オプティカルフロー推定手段によって推定された消失点と、上記表示部との相対位置に基づいて、上記仮想フローを求めて、上記加飾ラインを設定する、請求項2又は3に記載の車両用表示制御装置。
【請求項5】
上記車両に設けられた車内カメラによって撮像されたドライバの画像に基づいて、ドライバ状態を推定するドライバ状態推定手段を更に備え、
上記オプティカルフロー推定手段は、上記車外カメラによって撮像された前方風景に加えて、上記ドライバ状態推定手段によって推定されたドライバ状態にも基づいて、上記消失点を推定する、請求項4に記載の車両用表示制御装置。
【請求項6】
上記表示制御手段は、ドライバにより操作可能な複数の操作部を上記表示部に表示させ、上記複数の操作部の一部を、他の操作部とは異なる表示形態にて表示させて、上記表示部に上記加飾ラインを形成させる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両用表示制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表示制御装置に係わり、特に、ドライバにより視認可能且つ操作可能な表示部を有する車両に適用される車両用表示制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライバにとって視認しやすく、操作しやすい車両のヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)が求められている。このような要求を満たすことを図った技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、走行状態に応じて、ドライバが確認する頻度が高い対象をドライバに近い位置に表示させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術のように、ドライバが確認する頻度が高い対象をドライバに近い位置に表示させると、ドライバが視線を移動させる距離が短くなり、視認時間が短縮されると言える。しかしながら、視認時間が短縮されたとしても、視線移動した位置で視線が安定しないために、操作時間が長くなってしまう場合がある。その結果、ドライバの視線が走行路から逸れる時間が長くなってしまう。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ドライバの視認時間及び操作時間を適切に短縮することができる車両用表示制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、自車両の前方風景を撮像する車外カメラと、ドライバにより視認可能且つ操作可能な表示部とを有する車両に適用される車両用表示制御装置であって、車外カメラによって撮像された前方風景に基づいて、オプティカルフローを推定するオプティカルフロー推定手段と、オプティカルフロー推定手段によって推定されたオプティカルフローに応じて、表示部に適用すべき加飾ラインを設定する加飾ライン設定手段と、加飾ライン設定手段によって設定された加飾ラインに基づいて、表示部に対する表示制御を行う表示制御手段と、を有し、加飾ライン設定手段は、オプティカルフロー推定手段によって推定されたオプティカルフローを表示部が設けられた位置にまで延長した仮想的なフローである仮想フローに基づき、加飾ラインを設定し、表示制御手段は、加飾ラインに沿った表示部の領域を当該表示部の他の領域とは異なる表示形態で表示させる、ことを特徴とする。
このように構成された本発明においては、前方風景に基づいて推定したオプティカルフローに応じて加飾ラインを設定して、この加飾ラインに基づいて表示部に対する表示制御を行うので、オプティカルフローを考慮に入れた加飾ラインがドライバに認知されることで、表示部へのドライバの注意が向きやすくなり、表示部の視認時間及び操作時間を短縮することができる。したがって、表示部の操作によってドライバの視線が運転中に向けるべき方向から逸れる時間を、適切に短縮することが可能となる。
【0007】
本発明において、好ましくは、加飾ライン設定手段は、仮想フローの方向に対して所定角度傾けたラインを、加飾ラインとして設定する。
このように構成された本発明においては、加飾ラインを、オプティカルフローを表示部が設けられた位置にまで延長した仮想フローの方向に対して傾けるので、人間の視認特性を適切に考慮することができ、表示部の視認時間及び操作時間を効果的に短縮することが可能となる。
【0008】
本発明において、好ましくは、所定角度は50度以上である。
このように構成された本発明においては、加飾ラインを仮想フローの方向に対して50度以上傾けることで、人間の視認特性をより適切に考慮することができ、表示部の視認時間及び操作時間を大幅に短縮することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、オプティカルフロー推定手段は、オプティカルフローの推定として、車外カメラによって撮像された前方風景に基づき、オプティカルフローの消失点の推定を行い、加飾ライン設定手段は、オプティカルフロー推定手段によって推定された消失点と、表示部との相対位置に基づいて、仮想フローを求めて、加飾ラインを設定する。
このように構成された本発明においては、オプティカルフローの消失点を推定し、この消失点と表示部との相対位置に基づいて仮想フローを求めるので、消失点の位置に応じた仮想フローを適切に求めることができる。具体的には、カーブ走行や直進走行などの走行状態に応じて消失点の位置が変化するが、そのような消失点の位置の変化に応じた、表示部が設けられた位置での仮想フローを適切に求めることができ、その結果、適切な加飾ラインを設定することが可能となる。
【0010】
本発明において、好ましくは、車両に設けられた車内カメラによって撮像されたドライバの画像に基づいて、ドライバ状態を推定するドライバ状態推定手段を更に備え、オプティカルフロー推定手段は、車外カメラによって撮像された前方風景に加えて、ドライバ状態推定手段によって推定されたドライバ状態にも基づいて、消失点を推定する。
このように構成された本発明においては、車外カメラによって撮像された前方風景に加えて、車内カメラによって撮像された画像に基づいて推定したドライバ状態も用いて、上記のような消失点の推定を行うので、前方風景に先行車両などが含まれており、前方風景のみに基づいて消失点を適切に推定することが困難である場合にも、ドライバの視線方向などのドライバ状態を用いて補間することで、オプティカルフローの消失点を適切に推定することができる。また、このようなドライバ状態を用いることにより、ドライバの体格などの個人差を考慮に入れた消失点を推定できるようになり、その結果、ドライバの個人差を考慮に入れた加飾ラインを設定することが可能となる。
【0011】
本発明において、好ましくは、表示制御手段は、ドライバにより操作可能な複数の操作部を表示部に表示させ、複数の操作部の一部を、他の操作部とは異なる表示形態にて表示させて、表示部に加飾ラインを形成させる。
このように構成された本発明においては、複数の操作部のうちの特定の操作部の表示形態を他の操作部の表示形態と異ならせることにより、上記した加飾ラインに対応する仮想的なライン部を視覚効果によってドライバに適切に認知させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用表示制御装置によれば、この車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の視認時間及び操作時間を短縮することができ、車両用操作装置の操作によってドライバの視線が運転中に向けるべき方向から逸れる時間を、適切に短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実験の実験状況を説明するための図を示す。
図2】実験用操作装置の構成を説明するための図を示す。
図3】本実験の結果を示す。
図4】本実施形態による車両用表示制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図5】本実施形態による車両用表示制御装置が行う制御の基本概念を説明するための図を示す。
図6】本実施形態による車両用表示制御装置が実行するフローチャートを示す。
図7】本実施形態による車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の第1の例を示す。
図8】本実施形態による車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の第2の例を示す。
図9】本実施形態による車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の第3の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両用表示制御装置について説明する。
【0015】
まず、本発明の実施形態の内容を説明する前に、図1乃至3を参照して、本発明の発明者らが発見した現象について説明する。
【0016】
図1は、本実験の実験状況を説明するための図を示している。本実験は、車両の走行中に、インパネ(インストルメント・パネル)に設けられた実験用操作装置1に対するドライバの操作時間を測定するものである。実験用操作装置1には、実験用操作装置1に加飾を付加するための短冊状の加飾ライン2が、実験用操作装置1の前方を横断するように貼り付けられている。例えば、加飾ライン2は、白色のテープである。ドライバは、車両の走行中には、図1中の実戦矢印で示すようなオプティカルフローを視認する。オプティカルフローは、人間の網膜に投影された外界の像全体の速度場を意味する。特に、図1に示すオプティカルフローは、自己直進運動を行ったときに生じるものであり、進行方向に位置する拡大中心(消失点)から放射方向に広がっていく速度場になる。
【0017】
図2は、実験用操作装置1の構成を具体的に説明するための図を示している。図2に示すように、実験用操作装置1は、1〜9までの数字が付された9つのボタン1aを有しており、その前方に加飾ライン2が貼り付けられている。本実験では、実験用操作装置1に対して加飾ライン2を貼り付ける角度を種々に変えた加飾パターン1〜6を用い、それぞれの加飾パターン1〜6を用いた場合のドライバによる実験用操作装置1の操作時間を測定する。具体的には、実験用操作装置1における9つのボタン1aのうちのいずれかを点灯させ、ボタン1aを点灯させてから、ドライバがそのボタン1aを押すまでの時間を、操作時間として得る。この操作時間は、実験用操作装置1を視認して操作するのに要する時間であり、視認時間を含む時間である。
【0018】
また、加飾パターン1〜6では、ドライバが走行中に視認するオプティカルフローに応じた、実験用操作装置1が設けられた箇所での仮想フローの方向(破線矢印で示す)を基準にして、加飾ライン2がそれぞれ異なる角度で傾けて貼り付けられている。加飾パターン1では、加飾ライン2が仮想フローの方向に対して時計回りの方向に55度傾いており、加飾パターン2では、加飾ライン2が仮想フローの方向に対して時計回りの方向に35度傾いており、加飾パターン3では、加飾ライン2が仮想フローの方向に一致しており、加飾パターン4では、加飾ライン2が仮想フローの方向に対して半時計回りの方向に35度傾いており、加飾パターン5では、加飾ライン2が仮想フローの方向に対して半時計回りの方向に50度傾いており、加飾パターン6では、加飾ライン2が仮想フローの方向に対して半時計回りの方向に65度傾いている。
【0019】
なお、仮想フローは、実験用操作装置1が設けられた箇所での仮想的なオプティカルフローである。具体的には、仮想フローは、車両の走行中において、実験用操作装置1が存在しない場合に実験用操作装置1が設けられた箇所で発生するオプティカルフロー、つまり実験用操作装置1を透視した場合に視認されるオプティカルフローに相当する。
【0020】
図3は、上述した本実験の結果を示している。図3では、横軸は、加飾ライン2が仮想フローに対してなす角度[deg]を示しており、縦軸は、実験用操作装置1に加飾ライン2を付加しなかった場合と比べた操作時間の短縮率[%]を示している。また、符号R1〜R6で示す実験結果は、それぞれ、加飾パターン1〜6を用いた場合に得られたものである。なお、縦軸に示す短縮率[%]は、実験用操作装置1に加飾ライン2を付加しなかった時と視認時間が同じである場合には0[%]となり、実験用操作装置1に加飾ライン2を付加しなかった時と比べて視認時間が短くなるほど、その値が大きくなる。
【0021】
図3に示した実験結果より、実験用操作装置1に加飾ライン2を付加した場合には、実験用操作装置1に加飾ライン2を付加しなかった場合よりも、実験用操作装置1の操作時間が短縮されることが判明した。また、仮想フローの方向に対する加飾ライン2の角度が大きくなるほど、操作時間がより短縮されることが判明した。特に、仮想フローの方向に対する加飾ライン2の角度が50度以上になると、操作時間が大幅に短縮されることが判明した(例えば符号R1、R5、R6参照)。
【0022】
以上述べた実験結果を受けて、本実施形態では、上述した加飾ライン2と同様の役割を果たす、ドライバにより視認可能なライン部(ライン状の部分に相当し、以下では「ライン部」又は「加飾ライン」と呼ぶ。)を車両用操作装置としての表示部に設定する。特に、本実施形態では、視覚効果によって存在するが如くドライバに認知させる仮想的なライン部、言い換えると視覚効果を利用してドライバに視認させる疑似的なライン部を用いる。また、本実施形態では、ドライバが走行中に視認するオプティカルフローに応じた、表示部が設けられた箇所での仮想フローの方向に対して、このライン部を傾けて設ける。好適には、図3に示した実験結果より、ライン部を仮想フローの方向に対して50度以上傾ける。
【0023】
次に、図4乃至図6を参照して、本実施形態による車両用表示制御装置について具体的に説明する。
【0024】
図4は、本実施形態による車両用表示制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【0025】
図4に示すように、車両用表示制御装置55は、機能的には、オプティカルフロー推定部55aと、ドライバ状態推定部55bと、加飾ライン設定部55cと、表示制御部55dと、を有する。
車両用表示制御装置55は、インパネなどの車内に設置された車両用操作装置(車載用ナビゲーション装置やオーディオ装置など)としての表示部57に適用され、表示部57に対する表示制御を行うことが可能なコントローラである。また、車両用表示制御装置55は、図示しない、CPU(Central Processing Unit)や、CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを格納するためのROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の如き内部メモリなどを有して構成される。
【0026】
オプティカルフロー推定部55aは、少なくとも、自車両の前方風景を撮像する車外カメラ51によって撮像された画像(以下では適宜「車外カメラ画像」と呼ぶ。)に基づいて、ドライバが車両の走行中に視認するオプティカルフローを推定する。具体的には、オプティカルフロー推定部55aは、オプティカルフローの推定として、オプティカルフローの消失点の推定を行う。ドライバ状態推定部55bは、車室内に設けられたドライバを撮像する車内カメラ53によって撮像された画像(以下では適宜「車内カメラ画像」と呼ぶ。)に基づいて、ドライバの顔の位置や目の位置や視線方向などのドライバ状態を推定する。上記したオプティカルフロー推定部55aは、車外カメラ51によって撮像された前方風景に加えて、ドライバ状態推定部55bによって推定されたドライバ状態を補足的に用いて、オプティカルフローの消失点を推定する。
【0027】
加飾ライン設定部55cは、オプティカルフロー推定部55aによって推定されたオプティカルフローの消失点に基づいて、表示部57に適用すべき加飾ラインを設定する。具体的には、加飾ライン設定部55cは、推定されたオプティカルフローの消失点と、車内に設けられた表示部57との相対位置に基づいて、オプティカルフローを表示部57が設けられた位置にまで延長した仮想フローを求め、この仮想フローの方向に対して所定角度傾けたラインを、加飾ラインとして設定する。好適には、加飾ライン設定部55cは、図3に示した実験結果より、仮想フローの方向に対して50度以上傾けたラインを、加飾ラインとして設定する。そして、表示制御部55dは、こうして加飾ライン設定部55cによって設定された加飾ラインに基づいて、表示部57に対する表示制御を行う。
【0028】
図5は、本実施形態による車両用表示制御装置55が行う制御の基本概念を説明するための図を示す。
【0029】
まず、車両用表示制御装置55のオプティカルフロー推定部55aが、車外カメラ51によって撮像された前方風景に基づいて、又は、この前方風景及びドライバ状態推定部55bによって推定されたドライバ状態の両方に基づいて、ドライバの視界61に生じるオプティカルフロー62の消失点63を推定する。次いで、車両用表示制御装置55の加飾ライン設定部55cが、オプティカルフロー推定部55aによって推定された消失点63からオプティカルフローと同じ方向に沿って表示部57にまで延びる仮想フロー65の方向(角度)を求める。この場合、加飾ライン設定部55cは、符号64で示すような、消失点63の位置と表示部57の位置(例えば表示部57の中心点57Cの位置)との相対的な位置関係に基づいて、仮想フロー65の方向を求める。こうすることで、消失点63と表示部57との位置関係によって変わる仮想フロー65の方向を求めるようにする(基本的には、表示部57の位置は変わらず消失点63の位置が変わるので、消失点63の位置が変わることにより仮想フロー65の方向が変わるのである)。そして、加飾ライン設定部55cは、こうして求めた仮想フロー65の方向に対して所定角度(例えば50度以上)傾けたラインを、加飾ライン66として設定する。
【0030】
次に、図6は、本実施形態による車両用表示制御装置55が実行するフローチャートを示す。このフローは、車両用表示制御装置55によって所定の周期で繰り返し実行される。
【0031】
まず、ステップS1では、車両用表示制御装置55のオプティカルフロー推定部55aが、車外カメラ51の撮像によって得られた画像(車外カメラ画像)を取得する。具体的には、オプティカルフロー推定部55aは、車外カメラ51によって撮像された前方風景を取得する。
【0032】
次いで、ステップS2では、オプティカルフロー推定部55aは、車外カメラ51によって撮像された前方風景に基づいて、オプティカルフローの消失点を適切に推定できるか否かを判定する。車外カメラ51によって撮像された前方風景(詳しくは前方風景中の消失点に対応する部分)に先行車両などが含まれている場合には、この前方風景に基づいて消失点を適切に推定することが困難となる。したがって、オプティカルフロー推定部55aは、例えば、車外カメラ51によって撮像された車外カメラ画像を画像解析することで、車外カメラ画像に基づいて消失点を推定するのを阻害するような対象物が当該車外カメラ画像に含まれているか否かを判断することによって、ステップS2の判定を実施する。
【0033】
ステップS2の判定の結果、オプティカルフローの消失点を適切に推定できると判定された場合(ステップS2:Yes)、ステップS5に進む。この場合、オプティカルフロー推定部55aは、車外カメラ51によって撮像された車外カメラ画像を画像分析することで、オプティカルフローの消失点を推定する(ステップS5)。例えば、オプティカルフロー推定部55aは、時間的に連続する複数の車外カメラ画像において、画像の変化量が最も小さい部分を、オプティカルフローの消失点として推定する。なお、オプティカルフローの消失点の位置は、カーブ走行や直進走行などの走行状態に応じて変化する。
【0034】
他方で、ステップS2の判定の結果、オプティカルフローの消失点を適切に推定できないと判定された場合(ステップS2:No)、ステップS3に進み、車両用表示制御装置55のドライバ状態推定部55bが、車内カメラ53によって撮像された画像(車内カメラ画像)を取得する。そして、ステップS4に進み、ドライバ状態推定部55bは、車内カメラ画像を画像解析することで、車内カメラ画像に含まれるドライバの顔の位置や目の位置などに基づいて、ドライバの視線方向などのドライバ状態を推定する。
この後、ステップS5において、オプティカルフロー推定部55aは、車外カメラ51によって撮像された前方風景(これのみでは消失点を適切に推定することができない)を、ステップS4で推定した視線方向などのドライバ状態にて補間することで、オプティカルフローの消失点を推定する。例えば、オプティカルフロー推定部55aは、ドライバの視線方向が消失点に向いていることを仮定して、視線方向に対応する前方風景上の位置を、オプティカルフローの消失点として推定する。
【0035】
上記のようなステップS5の処理後にステップS6に進み、車両用表示制御装置55の加飾ライン設定部55cが、ステップS5で推定された消失点と、車内に設置された表示部57との相対位置を求める。この場合、加飾ライン設定部55cは、事前に記憶された表示部57の位置(基本的には表示部57の位置は固定であるため、事前に設定されて記憶される)を用いて、消失点と表示部57との相対位置を求める。
【0036】
次いで、ステップS7に進み、加飾ライン設定部55cは、ステップS6で求めた相対位置に基づき、消失点の位置からオプティカルフローと同じ方向に沿って表示部57の位置(例えば表示部57の中心点57Cの位置)にまで延びる仮想フロー65の方向(角度)を求める。
【0037】
次いで、ステップS8に進み、加飾ライン設定部55cは、ステップS7で求めた仮想フローの方向に対して所定角度(例えば50度以上)傾けたラインを、加飾ラインとして設定する。この後、車両用表示制御装置55の表示制御部55dが、こうして加飾ライン設定部55cによって設定された加飾ラインに基づいて、表示部57に対する表示制御を行う。
【0038】
次に、上述した本実施形態による車両用表示制御装置55の作用効果について説明する。
【0039】
本実施形態による車両用表示制御装置55によれば、前方風景に基づいて推定したオプティカルフローに応じて加飾ラインを設定して、この加飾ラインに基づいて表示部57に対する表示制御を行うので、オプティカルフローを考慮に入れた加飾ラインがドライバに認知されることで、表示部57へのドライバの注意が向きやすくなり、表示部57の視認時間及び操作時間を短縮することができる。したがって、表示部57の操作によってドライバの視線が運転中に向けるべき方向から逸れる時間を、適切に短縮することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態によれば、加飾ラインを、オプティカルフローを表示部57が設けられた位置にまで延長した仮想フローの方向に対して傾けるので、人間の視認特性を適切に考慮することができ、表示部57の視認時間及び操作時間を効果的に短縮することが可能となる。特に、加飾ラインを仮想フローの方向に対して50度以上傾けると、人間の視認特性をより適切に考慮することができ、表示部57の視認時間及び操作時間を大幅に短縮することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、オプティカルフローの消失点を推定し、この消失点と表示部57との相対位置に基づいて仮想フローを求めるので、消失点の位置に応じた仮想フローを適切に求めることができる。具体的には、カーブ走行や直進走行などの走行状態に応じて消失点の位置が変化するが、そのような消失点の位置の変化に応じた、表示部57が設けられた位置での仮想フローを適切に求めることができ、その結果、適切な加飾ラインを設定することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態によれば、車外カメラ51によって撮像された前方風景に加えて、車内カメラ53によって撮像された画像に基づいて推定したドライバ状態も用いて、上記のような消失点の推定を行うので、前方風景に先行車両などが含まれており、前方風景のみに基づいて消失点を適切に推定することが困難である場合にも、ドライバの視線方向などのドライバ状態を用いて補間することで、オプティカルフローの消失点を適切に推定することができる。また、このようなドライバ状態を用いることにより、ドライバの体格などの個人差を考慮に入れた消失点を推定できるようになり、その結果、ドライバの個人差を考慮に入れた加飾ラインを設定することが可能となる。
【0043】
以下では、図7乃至図9を参照して、車両用表示制御装置55の表示制御部55dが、車両用表示制御装置55の加飾ライン設定部55cによって設定された加飾ラインに基づいて実行する表示制御の具体例について説明する。本実施形態では、表示制御部55dは、上述したような加飾ラインに対応する仮想的なライン部を視覚効果によって存在するが如くドライバに認知させるように表示制御を行う。ここでは、そのような表示制御部55dによる表示制御が適用された、表示部57としての車両用操作装置の例を挙げる。
【0044】
まず、図7を参照して、本実施形態による車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の第1の例を説明する。図7に示す車両用操作装置10は、ドライバにより操作可能なタッチパネルを有する液晶表示装置であり、インパネに設けられる。また、車両用操作装置10は、タッチパネルにタッチすることにより選択可能な複数のメニューボタン10a(アイコンに相当する。)を含む選択用メニューを表示させる。ここでは、AVメニューを例示している。例えば、車両用操作装置10は、車載用ナビゲーション装置やオーディオ装置などである。
【0045】
本実施形態による第1の例では、車両用操作装置10は、符号A1で示すように、3つのメニューボタン10aに所定の色の枠を付して表示させる。具体的には、車両用操作装置10は、破線A2で示すような仮想的なライン部が存在するが如くドライバに認知させるように、そのライン部A2に沿った3つのメニューボタン10aに枠を付して表示させる。つまり、車両用操作装置10は、この3つのメニューボタン10aにのみ枠を付して表示させることにより、仮想的なライン部A2を車両用操作装置10に形成させる。
詳しくは、車両用操作装置10は、車両用操作装置10が設けられた箇所で発生するであろう仮想フローの方向に対して傾いたライン部A2を適用する。好適には、仮想フローの方向に対して50度以上傾いたライン部A2を適用するとよい。また、好適には、上述した3つのメニューボタン10aに青色の枠を付して表示させるとよい。これは、周辺視野では青色を視認し易いという視認特性があるからである。
【0046】
次に、図8を参照して、本実施形態による車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の第2の例を説明する。第2の例でも、第1の例と同様に、タッチパネルを有する液晶表示装置である車両用操作装置10を用いる。なお、図7と同一の符号を付した要素は、図7と同一の意味を有するものとして、ここではそれらの説明を適宜省略する。
【0047】
本実施形態による第2の例では、車両用操作装置10は、符号B1で示すように、3つのメニューボタン10aを、他のメニューボタン10aとは異なる所定の色を付して表示させる。具体的には、車両用操作装置10は、破線B2で示すような仮想的なライン部が存在するが如くドライバに認知させるように、そのライン部B2に沿った3つのメニューボタン10aに所定の色を付して表示させる。つまり、車両用操作装置10は、この3つのメニューボタン10aを他のメニューボタン10aとは異なる所定の色を付して表示させることにより、仮想的なライン部B2を車両用操作装置10に形成させる。
詳しくは、車両用操作装置10は、車両用操作装置10が設けられた箇所で発生するであろう仮想フローの方向に対して傾いたライン部B2を適用する。好適には、仮想フローの方向に対して50度以上傾いたライン部B2を適用するとよい。また、好適には、上述した3つのメニューボタン10aに青色を付して表示させるとよい。その理由は、第1の例で述べた通りである。
【0048】
なお、上述した第1の例及び第2の例では、仮想的なライン部A2に沿ったメニューボタン10aに枠を付して表示させる例、及び仮想的なライン部B2に沿ったメニューボタン10aを他のメニューボタン10aとは異なる色を付して表示させる例を示したが、こうすることに限定はされない。要は、車両用操作装置10に仮想的なライン部が存在するが如くドライバに認知させることができれば、そのライン部に沿ったメニューボタン10aに、どのような表示形態を適用してもよい。具体的には、仮想的なライン部に沿ったメニューボタン10aが他のメニューボタン10aよりも目立つような表示形態、言い換えるとドライバの注意を引くような表示形態を適用すればよい。
例えば、他の例では、仮想的なライン部に沿ったメニューボタン10aにグラデーションを付して、他のメニューボタン10aよりも目立つようにしてもよい。更に他の例では、仮想的なライン部に沿ったメニューボタン10aに所定のテクスチャを付して、他のメニューボタン10aよりも目立つようにしてもよい。更に他の例では、仮想的なライン部に沿ったメニューボタン10aの輝度を、他のメニューボタン10aよりも高くしてもよい。
【0049】
次に、図9を参照して、本実施形態による車両用表示制御装置を適用した車両用操作装置の第3の例を説明する。図9に示す車両用操作装置20は、ドライバにより操作可能な物理的な複数のボタン20a(つまりスイッチ)を有する装置であり、インパネに設けられる。各ボタン20aには、LED20bが設けられている。例えば、車両用操作装置20は、車載用ナビゲーション装置やオーディオ装置などである。
【0050】
本実施形態による第3の例では、車両用操作装置20は、符号C1で示す3つのボタン20aのLED20bを、符号C2で示す他のボタン20aのLED20bとは異なる所定の色で発光させる。具体的には、車両用操作装置20は、破線C3で示すような仮想的なライン部が存在するが如くドライバに認知させるように、そのライン部C3に沿った3つのボタン20aのLED20bを所定の色で発光させる。つまり、車両用操作装置20は、この3つのボタン20aのLED20bを他のボタン20aのLED20bとは異なる所定の色で発光させることにより、仮想的なライン部C3を車両用操作装置20に形成させる。
詳しくは、車両用操作装置20は、車両用操作装置20が設けられた箇所で発生するであろう仮想フローの方向に対して傾いたライン部C3を適用する。好適には、仮想フローの方向に対して50度以上傾いたライン部C3を適用するとよい。また、好適には、上述した3つのボタン20aのLED20bを青色で発光させるとよい。その理由は、第1の例で述べた通りである。
【0051】
なお、仮想的なライン部C3に沿ったボタン20aのLED20bを他のボタン20aのLED20bとは異なる所定の色で発光させることに限定はされない。要は、車両用操作装置20に仮想的なライン部C3が存在するが如くドライバに認知させることができれば、そのライン部C3に沿ったボタン20aのLED20bに、どのような発光形態を適用してもよい。具体的には、仮想的なライン部C3に沿ったボタン20aが他のボタン20aよりも目立つような発光形態、言い換えるとドライバの注意を引くような発光形態を適用すればよい。例えば、他の例では、仮想的なライン部C3に沿ったボタン20aのLED20bのみを点灯させ、他のボタン20aのLED20bを消灯させてもよい。
【0052】
次に、上述した本実施形態の第1乃至第3の例の作用効果を説明する。ここでは、説明の便宜上、各要素(例えば車両用操作装置など)への符号の付加を適宜省略する。
【0053】
本実施形態では、視覚効果によって存在するが如くドライバに認知される仮想的なライン部を車両用操作装置に形成することにより、車両用操作装置へのドライバの注意が向きやすくなるため、車両用操作装置の操作時間(上述した本実験で述べた操作時間と同様に、視認時間を含む時間、つまり視認して操作するのに要する時間であるものとする。以下同様とする。)を短縮することができる。したがって、車両用操作装置の操作によってドライバの視線が運転中に向けるべき方向から逸れる時間を、適切に短縮することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、ドライバが走行中に視認するオプティカルフローに応じた、車両用操作装置が設けられた箇所での仮想フローの方向に対して、ライン部を傾けることにより、車両用操作装置の操作時間を効果的に短縮することができる。特に、ライン部を仮想フローの方向に対して50度以上傾けることにより、車両用操作装置の操作時間を大幅に短縮することができる。
【0055】
更に、本実施形態では、第1乃至第3の例で述べたように、所定のメニューボタン10aの表示形態を変えたり、所定のボタン20aのLED20bの発光形態を変えたりするため、既存の表示メニューにおけるアイコンの配置構成を変更したり、既存の装置のボタン配置などを変更したりする必要はない。したがって、表示形態や発光形態を変える制御を行うだけで、視覚効果によってライン部がまるで存在するかのようにドライバに適切に認知させることができる。
【0056】
なお、上述した実施形態では、視覚効果によって存在するが如くドライバに認知される仮想的なライン部を用いていたが(図7乃至9参照)、他の例では、そのような仮想的なライン部の代わりに、ドライバが直接的に視認可能な完全なライン部(つまり実験で用いた加飾ライン2のようなもの)を用いてもよい。具体的には、他の例では、車両用操作装置が表示装置である場合には、完全なライン部を画面上に表示すればよく、車両用操作装置が物理的なスイッチを有する装置である場合には、装置の筐体の表面に完全なライン部をデザインとして付せばよい。その場合にも、ドライバが走行中に視認するオプティカルフローに応じた、車両用操作装置が設けられた箇所での仮想フローの方向に対して、このライン部を傾けるとよい。好適には、ライン部を仮想フローの方向に対して50度以上傾けるとよい。以上述べた他の例によっても、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0057】
1 実験用操作装置
2 加飾ライン
10、20 車両用操作装置
10a メニューボタン
20a ボタン
20b LED
51 車外カメラ
53 車内カメラ
55 車両用表示制御装置
55a オプティカルフロー推定部
55b ドライバ状態推定部
55c 加飾ライン設定部
55d 表示制御部
57 表示部
A2、B2、C3 ライン部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9