(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機などの回転機械は、一般に、回転軸などの回転体と、その周囲のケーシングなどの静止体との間に隙間がある。そのため、回転体と静止体との隙間には、作動流体が流入することを抑制するシール装置が設けられている場合が多い。遠心圧縮機の場合、シール装置は、インペラの入口の口金部、多段インペラの各段間、および、多段インペラの最終段に設けられたバランスピストン部などに設けられている。そして、このような各種シール装置には、例えば、ダンパーシールやラビリンスシール等が用いられている。
【0003】
ラビリンスシールは、回転する回転軸と間隙を有して対向する環状の静止側部材から、回転軸に向かって突出する突出部を複数配設したものである。このラビリンスシールでは、突出部の先端近傍を流れる流体に圧力損失を生じさせることにより流体の漏れを低減することができる。また、ダンパーシールは、ハニカムシール、ホールパターンシール等が知られており、例えばホールパターンシールでは、回転軸と間隙を有して配される環状の静止側部材において、回転軸に対向する対向面に複数の穴部が形成され、この穴部で生じる圧力損失により流体の漏れを低減可能である。
ダンパーシールはラビリンスシールと比較して減衰効果が大きく、回転軸の振動の安定化の点で優位である一方、ラビリンスシールはダンパーシールと比較して流体の漏れ量をより低減できる。
【0004】
ところで、回転機械の回転軸は軸受によって支持されているが、軸受で得られる減衰力に対し、上述したシール装置やインペラで発生する不安定化力が大きくなると、負荷や回転数等によって決まる回転機械の固有振動数で不安定振動が生じて、回転軸が振れ回ることとなる。このような問題を鑑みて、軸受の剛性を周方向に異なったものとすることで、軸受の剛性に異方性(異方剛性)を持たせて回転軸を意図的に楕円状に振れ回らせ、これによって回転軸の不安定振動を抑制する手法が採用されている。
【0005】
一方、ラビリンスシールやダンパーシール等を用いたシール装置は、周方向の剛性が均一となっている(等方剛性を有している)場合が一般的であり、基本的に異方剛性を有していない。そのため、上述のように楕円状に振れ回る回転軸に、このようなシール装置を適用した場合には、軸受の異方剛性を弱めるようにシール装置の等方剛性が作用してしまう。その結果、回転軸の不安定振動を抑制できなくなってしまうおそれがある。
【0006】
そこで、回転軸に対して与える圧力に異方性を持たせるシール装置が、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載のシール装置である旋回流防止装置は、ラビリンスシールの本体であるラビリンスパッキングの内周面を楕円形状に形成している。この旋回流防止装置は、回転軸に対してラビリンスパッキングの中心をオフセットさせて配置させることで、内周面と回転軸の外周面との隙間の大きさを変化させている。これにより、この隙間を流れる流体から回転軸に与える圧力に異方性を生じさせ、回転軸の不安定振動を抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のシール装置では、回転軸とシール装置との間の隙間が大きくなってしまうため、漏れ流量が増大してしまい、シール効果が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、回転軸の不安定振動を抑制しながらシール効果を得ることが可能なシール装置及びこれを備える回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様におけるシール装置は、回転軸の外周面上で前記回転軸の軸線に沿う方向の流体の流れを前記回転軸の外周面の全周にわたって封止するシール装置であって、前記回転軸の外周面に面し、前記回転軸の周方向に一様に形成される第一シール部と、前記回転軸の外周面に面し、前記回転軸の周方向に構造を変化するよう形成される第二シール部と、を備え、前記第二シール部は、前記第一シール部の軸線方向の少なくとも一方側に設けら
れ、前記第二シール部は、前記回転軸の周方向に複数並んで配置され、前記回転軸の外周面に向かって延びるフィン部を有し、前記フィン部は、前記回転軸の周方向に隣接する前記フィン部同士の間隔を前記回転軸の周方向に変化させるように設けられる。
【0011】
このようなシール装置によれば、第二シール部が、回転軸の周方向に構造を変化させるように形成されていることで、漏れ流れによって回転軸に作用する剛性を、回転軸の周方向の位置によって、異なった状態で作用させることができる。即ち、第二シール部の剛性に異方性を生じさせることができる。その結果、回転軸を意図的に楕円形状に振れ回らせ、この振れ回りを維持することによって回転軸に発生する不安定振動を抑制することができる。また、回転軸に対して周方向に一様に形成されている第一シール部が配置されていることで、第二シール部だけでは漏れてしまう流体の漏れ量を低減させることができる。
また、このようなシール装置によれば、周方向に隣接するフィン部同士の間隔を周方向に変化させることで、フィン部が配置されている数が周方向で異なることとなる。そのため、フィン部の数の少ない位置では、漏れ旋回流れを遮るフィン部が少ないため、漏れ旋回流速の低減効果が低くなる。一方、フィン部の数が多い位置では、漏れ旋回流れを遮るフィン部が多いため、漏れ旋回流速の低減効果が高くなる。つまり、フィン部の少ない位置では回転軸の外周面付近の漏れ旋回流速が小さく、フィン部の多い位置では回転軸の外周面付近の漏れ旋回流速が大きくなる。したがって、漏れ旋回流れによって回転軸に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部を形成することができる。
【0012】
また、本発明の他の態様におけるシール装置では、前記第二シール部は、前記第一シール部の高圧側に設けられていてもよい。
【0013】
このようなシール装置によれば、第二シール部が第一シール部の高圧側に設けられていることで、第一シール部より先に流体を第二シール部に流入させることができる。第二シール部から流体を流入させることで、第一シール部によって生じる剛性に異方性を生じさせることができる。その結果、回転軸を意図的に楕円形状に振れ回らせ、この振れ回りを安定して維持することによって回転軸に発生する不安定振動をより効果的に抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明の他の態様におけるシール装置では、前記第二シール部は、前記回転軸の外周面との距離を前記回転軸の周方向に変化させてもよい。
【0015】
このようなシール装置によれば、回転軸の外周面との距離を周方向に変化させることで、第二シール部と外周面との距離が周方向で異なることになる。そのため、距離が大きい位置では流入する流体の流量が増加し、漏れ流れによって回転軸に作用する圧力が小さくなる。一方、距離が小さい位置では流入する流体の流量が減少し、漏れ流れによって回転軸に作用する圧力が大きくなる。したがって、外周面との距離が大きい位置では回転軸に作用する圧力が小さく、外周面との距離が小さい位置では回転軸に作用する圧力が大きくなるように、漏れ流れによって回転軸に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部を形成することができる。
【0018】
さらに、本発明の他の態様におけるシール装置では、前記第二シール部は、前記軸線方向の長さを前記回転軸の周方向に変化させてもよい。
【0019】
このようなシール装置によれば、軸線方向の長さが周方向に変化することで、第二シール部を流れる流体のエネルギー損失が周方向で異なることとなる。そのため、軸線方向の長さが長い位置では、エネルギー損失が大きくなる。一方、軸線方向の長さが短い位置ではエネルギー損失が小さくなる。したがって、漏れ軸線方向流れによって回転軸に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部を形成することができる。
【0022】
さらに、本発明の第二の態様における回転機械は、回転軸の不安定振動を抑制することができ、かつ漏れ低減により回転機械として効率を高めて、性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシール装置によれば、回転軸の周方向に一様に形成される第一シール部と、転軸の周方向に構造を変化するよう形成される第二シール部とを軸線方向に並べることで、回転軸の不安定振動を抑制しながらシール効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
《第一実施形態》
以下、本発明に係る第一実施形態のシール装置51を備えた回転機械1について
図1から
図3を参照して説明する。
本実施形態における回転機械1は、複数のインペラ4を備えた多段式遠心圧縮機である。
【0026】
回転機械1は、軸線Pを中心とした回転軸2と、回転軸2を軸線P回りに回転可能に支持する軸受3と、回転軸2に取り付けられて遠心力を利用してプロセスガスG(流体)を圧縮するインペラ4と、インペラ4同士の間に配されて回転軸2の外周面2aに沿って設けられたシール装置51と、これらを外周側から覆うケーシング6とを備えている。
【0027】
回転軸2は、柱状をなして軸線Pの方向に延在し、軸線Pの方向の両端で軸受3によって回転可能に支持されている。
軸受3は、回転軸2の両端部に一つずつ設けられ、回転軸2を回転可能に支持している。これらの軸受3は、それぞれケーシング6に取り付けられている。
【0028】
インペラ4は、回転による遠心力を利用してプロセスガスG(流体)を圧縮する。インペラ4、ディスク4aと、ブレード4cと、カバー4bとを備えた、いわゆるクローズ型のインペラ4である。
ディスク4aは、それぞれ回転軸2における軸線P方向の中央位置Cに向かって、軸線Pの径方向外側に漸次拡径する円盤状に形成されている。
ブレード4cは、ディスク4aから軸線P方向における中央位置Cとは反対側の端部側に突出するように形成されている。ブレード4cは、軸線Pの周方向に所定間隔をあけて複数形成されている。
カバー4bは、軸線P方向における端部側から複数のブレード4cを覆う。カバー4bは、ディスク4aに対向する円盤状に形成されている。
【0029】
インペラ4は、軸線P方向両側に配された各軸受3の間の回転軸2に複数取り付けられている。これらインペラ4は、軸線P方向においてブレード4cの向きが互いに反対側を向く二組の三段式インペラ群4A、4Bを構成している。これら三段式インペラ群4A、三段式インペラ群4Bにおいては、それぞれ軸線P方向の中央位置C側のプロセスガスGの圧力が最も高くなる。つまり、プロセスガスGは、三段式インペラ群4A、三段式インペラ群4B各々を軸線Pの方向の中央位置Cに向かって段階的に圧縮されながら流れる。
【0030】
ケーシング6は、軸受3を支持するとともに回転軸2、インペラ4、シール装置51をそれぞれ外周側から覆う。ケーシング6は、筒状に形成されている。
【0031】
ケーシング6は、軸線P方向の一方側(
図1中、紙面左側)に、吸込口6bAを備えている。吸込口6bAは、環状に形成された吸込流路6cAに接続されている。吸込流路6cAは、三段式インペラ群4Aの最も一方側に配されるインペラ4の流路と接続されている。つまり、吸込口6bAから流入するプロセスガスGは、吸込流路6cAを介して三段式インペラ群4Aへと導入される。
【0032】
ケーシング6は、各インペラ4のブレード4c間に形成された流路同士を接続するケーシング流路6aA、6aBを備えている。
【0033】
ケーシング6は、軸線P方向の中央位置C側に、排出口6eAを備えている。この排出口6eAは、環状に形成された排出流路6dAに接続されている。排出流路6dAは、三段式インペラ群4Aの最も他方側(
図1中、紙面右側)に配されるインペラ4の流路に接続されている。つまり、三段式インペラ群4Aの最も他方側に配されるインペラ4で圧縮されたプロセスガスGは、排出流路6dAを介して排出口6eAからケーシング6の外部に排出される。
【0034】
ケーシング6は、中央位置Cを境にして、軸線P方向の一方側と他方側とが対称に形成されている。ケーシング6の他方側には、ケーシング流路6aB、吸込口6bB、吸込流路6cB、排出流路6dB、排出口6eBが形成されている。このケーシング6の他方側に配された三段式インペラ群4Bは、一方側の三段式インペラ群4Aで圧縮したプロセスガスGを更に圧縮する。
【0035】
つまり、ケーシング6の他方側においては、排出口6eAから排出されたプロセスガスGが吸込口6bBに送り込まれる。その後、吸込口6bBから流入したプロセスガスGは、吸込流路6cBを介して三段式インペラ群4Bに供給されて段階的に圧縮される。
三段式インペラ群4Bによって圧縮されたプロセスガスGは、排出流路6dBを介して排出口6eBからケーシング6の外部に排出される。
【0036】
上述したように三段式インペラ群4Aにおいて圧縮されたプロセスガスGは、三段式インペラ群4Bに導入されて更なる圧縮が行われて中央位置C付近に到達する。そのため、三段式インペラ群4Aと三段式インペラ群4Bとの間には圧力差が生じている。具体的には、三段式インペラ群4Aの方が低圧となっており、三段式インペラ群4Bの方が高圧となっている。さらに、中央位置C付近においては、回転軸2の外周面2aとケーシング6の内周面との間に、空間が形成されている。そのため、プロセスガスGは、この空間を通じて三段式インペラ群4Bが配置されている軸線P方向の他方側である高圧側を上流として、三段式インペラ群4Aが配置されている軸線P方向の一方側である低圧側の下流に向かって流れようとしてしまう。
そこで、この実施形態におけるシール装置51は、高圧側である三段式インペラ群4Bから低圧側である三段式インペラ群4AへのプロセスガスGの流れを抑制するために、中央位置C付近に設けられている。
【0037】
シール装置51は、回転軸2の外周側に設けられて、三段式インペラ群4Aと三段式インペラ群4Bとの間でのプロセスガスGの流通を封止する。シール装置51は、
図2及び
図3に示すように、回転軸2の外周面2aに面して配置されて回転軸2の周方向に一様に形成される第一シール部511と、回転軸2の外周面2aに面して配置されて回転軸2の周方向に構造が変化する第二シール部512とを有する。
【0038】
第一シール部511は、回転軸2の外周面2aを覆って配置される環状部材である。第一シール部511は、回転軸2との間に回転軸2を回転させるための隙間S1が形成されるよう配置される。第一シール部511は、回転軸2の外周面2aと対向する面である第一内周面511aが回転軸2の周方向に一様に形成される。即ち、第一シール部511は、第一内周面511aと外周面2aとの径方向の距離が、全周にわたって等距離Lとされている。具体的には、本実施形態の第一シール部511は、第一内周面511aの端縁が真円状をなして軸線P方向に延びる円筒形状に形成されている。
【0039】
第二シール部512は、第一シール部511の高圧側と低圧側との両側に配置されている。即ち、第二シール部512は、第一シール部511に対して軸線P方向の両側から挟み込むように並んで接続される。第二シール部512は、回転軸2の外周面2aを覆って配置され、第一シール部511とは構造の異なる環状部材である。第二シール部512も、回転軸2との間に回転軸2を回転させるための隙間S2が形成されるよう配置される。第二シール部512は、回転軸2の外周面2aと対向する面である第二内周面512aの形状が周方向で変化する。言い換えれば、本実施形態の第二シール部512は、周方向の位置が異なると、第二内周面512aと外周面2aとの隙間S2の径方向の距離が異なっている。
【0040】
また、第二シール部512は、第二内周面512aが軸線P方向に沿って第一シール部511側から高圧側又は低圧側に向かうにしたがって徐々に拡径している。本実施形態の第二シール部512は、軸線P方向の第一シール部511との境界において、第二内周面512aと外周面2aとの径方向の距離が、第一内周面511aと外周面2aとの径方向の距離と一致して等距離Lとなるように形成される。
【0041】
具体的には、第二シール部512の第二内周面512aは、少なくとも高圧側又は低圧側で、第二内周面512aと外周面2aとの径方向の距離が、第一シール部511と同じ等距離Lの位置から周方向に向かうにしたがって徐々に広がるように形成される。
【0042】
より具体的には、本実施形態の第一シール部511の高圧側に配置される第二シール部512では、軸線P方向の高圧側における第二内周面512aの端縁である第一端縁512bを軸線P方向から見た形状が、鉛直方向の上端又は下端の位置での径方向の距離が等距離Lとされる。そして、第一端縁512bを軸線P方向から見た形状は、この上端又は下端の位置と周方向に90度異なる水平方向の両端の位置に向かうにしたがって径方向の距離が広がって、水平方向に長い楕円状に形成されている。
【0043】
そして、第一シール部511の高圧側に配置される第二シール部512では、軸線P方向の第一シール部511側における第二内周面512aの端縁である第二端縁512cを軸線P方向から見た形状が、外周面2aとの距離が第一内周面511aと同じとされ、等距離Lの真円状に形成されている。
【0044】
また、第一シール部511の低圧側に配置される第二シール部512では、第一シール部511を挟んで高圧側に配置される第二シール部512を反転した状態で配置される。即ち、低圧側に配置される第二シール部512では、第一端縁512bが軸線P方向の低圧側、第二端縁512cが軸線P方向の第一シール部511側に配置される。
【0045】
次に、上記構成のシール装置51の作用について説明する。
上記のような回転機械1では、流体であるプロセスガスGを圧縮することで、回転軸2の外周面2aと第二シール部512の第二内周面512aや第一シール部511の第一内周面511aとの間の隙間S1、S2にもプロセスガスGの一部が流入し、回転軸2の外周面2aの周りにらせん状をなして軸線P方向に向かう漏れ流れが生じる。この漏れ流れは、回転軸2の回転方向Rに向かう周方向の成分である漏れ旋回流れと、回転軸2の軸線P方向に向かう成分である漏れ軸線方向流れとによって構成されている。そして、本実施形態の回転機械1では、この漏れ流れを生じさせているプロセスガスGが、軸線P方向の高圧側から第二内周面512aと外周面2aとの間の隙間S2、第一内周面511aと外周面2aとの間の隙間S1、第二内周面512aと外周面2aとの間の隙間S2に順に流入することで、回転軸2の軸線P方向に沿って上流側から下流側に向かってプロセスガスGが流出してしまうことが抑制されている。
【0046】
上記のようなシール装置51によれば、第二シール部512が、回転軸2の周方向に第二内周面512aの形状を変化させるように形成されていることで、プロセスガスGの漏れ流れによって回転軸2に作用する剛性を、回転軸2の周方向の位置によって異なった状態で作用させることができる。即ち、第二シール部512の剛性に異方性を生じさせることができる。その結果、回転軸2を意図的に楕円形状に振れ回らせ、この振れ回りを維持することによって回転軸2に発生する不安定振動を抑制することができる。特に、第一シール部511と第二シール部512とが軸線P方向に隣接して、近い位置に配置されていることで、より効果的に第二シール部512の剛性に異方性を生じさせることができる。また、第一内周面511aが回転軸2の外周面2aに対して周方向に一定の間隔となるように一様に形成されている第一シール部511が配置されていることで、第二シール部512だけでは漏れてしまうプロセスガスGを第一シール部511によってシールしてシール装置51としての漏れ量を低減させることができる。これらによって、回転軸2の不安定振動を抑制しながらシール効果を得ることができる。
【0047】
また、第二シール部512が第一シール部511の軸線P方向の高圧側に配置されていることで、第一内周面511aと外周面2aとの隙間S1よりも先にプロセスガスGを第二内周面512aと外周面2aとの隙間S2に流入させることができる。第二内周面512aと外周面2aとの隙間S2からプロセスガスGを流入させることで、より強い異方性を生じさせることができる。その結果、回転軸2を意図的に楕円形状に振れ回らせ、この振れ回りを安定して維持することによって、回転軸2に発生する不安定振動をより効果的に抑制することができる。
【0048】
さらに、第二内周面512aと回転軸2の外周面2aとの径方向の距離を周方向に変化させることで、第二内周面512aと外周面2aとの隙間S2の大きさが周方向で異なることになる。そのため、隙間S2が大きい位置である水平方向の両端では流入するプロセスガスGの流量が増加し、漏れ流れによって回転軸2に作用する圧力が小さくなる。一方、隙間S2が小さい位置である鉛直方向の上端又は下端では流入するプロセスガスGの流量が減少し、漏れ流れによって回転軸2に作用する圧力が大きくなる。したがって、第二内周面512aと外周面2aとの距離が大きい周方向の水平方向の位置では回転軸2に作用する圧力が小さく、第二内周面512aと外周面2aとの距離が小さい周方向の鉛直方向の位置では回転軸2に作用する圧力が大きくなるように、漏れ流れによって回転軸2に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部512を形成することができる。
【0049】
また、第二シール構造の第二内周面512aが、軸線P方向を第一シール部511に向かうにしたがって縮径し、第一シール側の第一端縁512bが第一内周面511aに一致するよう形成されていることで、第二シール部512と第一シール部511とのつなぎ目に大きな段差を生じさせずになだらかに接続することができる、そのため、第二内周面512aと外周面2aの隙間S2を流れるプロセスガスGが、第一内周面511aと外周面2aとの隙間S1に流入するときに段差等によって受ける損失を低減することができる。
【0050】
さらに、第二シール部512を高圧側だけでなく低圧側にも設けることで、漏れ流れにより回転軸2に作用する力によって、より効果的に異方性を生じさせることができる。
【0051】
また、このようなシール装置51を用いた回転機械1によれば、回転軸2の不安定振動を抑制することができ、かつ漏れ低減により回転機械1として効率を高めて、性能を向上させることができる。
【0052】
《第二実施形態》
次に、
図4及び
図5を参照して第二実施形態のシール装置52について説明する。
第二実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。この第二実施形態のシール装置52は、第二シール部522の構成について、第一実施形態と相違する。
【0053】
即ち、第二実施形態の第二シール部522は、第一実施形態とは形状の異なる第二内周面522aから回転軸2の外周面2aに向かって延びるフィン部523を有する。第二実施形態の第二内周面522aは、外周面2aとの径方向の距離が、全周にわたって第一内周面511aと外周面2aとの径方向の距離よりも広い一定の距離で形成されている。具体的には、本実施形態の第二内周面522aは、第一端縁522b及び第二端縁522cが第一内周面511aの端縁よりの径の大きい真円状をなしている。
【0054】
フィン部523は、
図4及び
図5に示すように、第二内周面522aにおいて回転軸2の周方向に複数配置される。フィン部523は、第二内周面522aから軸線Pに向かって平板状をなして延びている。フィン部523は、周方向に隣接するフィン部523同士の間隔を周方向に変化させるように設けられる。つまり、周方向の位置が異なると隣り合うフィン部523同士の間隔が異なっている。具体的には、本実施形態のフィン部523は、鉛直方向の上端又は下端でフォン部同士の間隔が最も小さくなるよう配置されている。そして、フィン部523は、水平方向の両端に向かうにしたがってフィン部523同士の間隔が広がって、この上端又は下端の位置と周方向に90度異なる水平方向の両端の位置で最も間隔が大きくなるよう配置されている。即ち、第二シール部522では、鉛直方向の上端及び下端にフィン部523が最も密集して配置され、水平方向の両端ではフィン部523がまばらに配置されている。
【0055】
上記のようなシール装置52によれば、周方向に隣接するフィン部523同士の間隔を周方向に変化させることで、フィン部523が配置されている数が周方向で異なることとなる。漏れ流れのうち漏れ旋回流れは、フィン部523に衝突することで漏れ旋回流速が低減される。ところが、フィン部523がまばらに僅かしか配置されていない位置である水平方向の両端では、漏れ旋回流れを遮るフィン部523が少ないため、漏れ旋回流速の低減効果が低くなる。一方、フィン部523が密集してたくさん配置されている位置である鉛直方向の上端及び下端では、漏れ旋回流れを遮るフィン部523が多いため、漏れ旋回流速の低減効果が高くなる。つまり、フィン部523の少ない周方向の水平方向の位置では回転軸2の外周面2a付近の漏れ旋回流速が小さく、フィン部523の多い周方向の鉛直方向の位置では回転軸2の外周面2a付近の漏れ旋回流速が大きくなる。したがって、漏れ旋回流れによって回転軸2に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部522を形成することができる。
【0056】
《第三実施形態》
次に、
図6から
図8を参照して第三実施形態のシール装置53について説明する。
第三実施形態においては第一実施形態及び第二実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。この第三実施形態のシール装置53は、第二シール部532の構成について、第一実施形態及び第二実施形態と相違する。
【0057】
即ち、第三実施形態の第二シール部532は、軸線P方向の長さを回転軸2の周方向に変化させる。言い換えれば、第二シール部532は、周方向の位置が異なると軸線P方向の長さが異なっている。第二シール部532は、第二内周面532aの軸線P方向から見た形状が第一シール部511と同じ形状となるよう形成されている。即ち、第二内周面532aは、
図6に示すように、第一端縁532b及び第二端縁532cが第一内周面511aの端縁と同じ径の真円状をなしている。
【0058】
そして、第二シール部532は、第一シール部511側から高圧側又は低圧側に向かう軸線P方向の長さが周方向に変化する。具体的には、第二シール部532は、
図7(a)、(b)に示すように、水平方向の両端の位置の方が鉛直方向の上端又は下端の位置よりも軸線P方向に長く形成されている。
【0059】
さらに、
図8に示すように、例えば、高圧側に配置された第二シール部532は、高圧側を向く端面が水平方向の両端の位置から鉛直方向の上端及び下端の位置に周方向に向かってなだらかに接続されている。即ち、高圧側に配置された第二シール部532は、軸線P方向の第一シール側を向く端面が平坦に形成され、軸線P方向の高圧側を向く端面が波打つように形成されている。なお、低圧側に配置された第二シール部532は、高圧側に配置された第二シール部532と反対に、低圧側を向く端面が波打つように形成されている。
【0060】
上記のような記のようなシール装置53によれば、軸線P方向の長さが周方向に変化することで、第二内周面532aと外周面2aとの隙間S2を流れるプロセスガスGのエネルギー損失が周方向で異なることとなる。漏れ流れのうち漏れ軸線方向流れは、第二内周面532aと外周面2aとの隙間S2を軸線P方向に流れることで、摩擦によってエネルギー損失が生じる。そのため、軸線P方向の長さが長い水平方向の両端では、エネルギー損失が大きくなる。一方、軸線P方向の長さが短い鉛直方向の上端及び下端ではエネルギー損失が小さくなる。したがって、漏れ軸線方向流れによって回転軸2に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部532を形成することができる。
【0061】
《第四実施形態》
次に、
図9から
図11を参照して第四実施形態のシール装置54について説明する。
第四実施形態においては第一実施形態から第三実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。この第四実施形態のシール装置54は、第二シール部542の構成について、第一実施形態から第三実施形態と相違する。
【0062】
即ち、第四実施形態の第二シール部542は、外周面2aと対向する面の表面粗さを回転軸2の周方向に変化させる。言い換えれば、第二シール部542は、周方向の位置が異なると表面粗さが異なっている。第二シール部542は、第二内周面542aの軸線P方向から見た形状は第三実施形態と同じ形状となるよう形成されている。即ち、第二内周面542aは、
図9に示すように、第一端縁542b及び第二端縁542cが第一内周面511aに端縁と同じ径の真円状をなしている。
【0063】
また、第二シール部542は、
図10に示すように、軸線P方向の長さも全周にわたって同じ長さに形成されている。
そして、第二シール部542は、
図11に示すように、第二内周面542aの表面粗さが鉛直方向の上端又は下端の位置から水平方向の両端の位置に向かうにしたがって徐々に粗くなるように形成されている。即ち、第二内周面542aは、鉛直方向の上端及び下端の位置で最も面の凹凸が小さくなるように形成され、水平方向の両端の位置で最も面の凹凸が大きくなるように形成されている。例えば、本実施形態の第二内周面542aは、水平方向の両端の位置では機械加工後に研磨等を行わない状態として粗く形成し、鉛直方向の上端及び下端の位置では研磨等を行って表面を鏡面のように滑らかに形成する。
【0064】
上記のような記のようなシール装置54によれば、第二内周面542aの表面粗さが周方向に変化することで、第二内周面542aと外周面2aとの隙間S2を流れるプロセスガスGのエネルギー損失が周方向で異なることとなる。そのため、表面粗さの粗い水平方向の両端では、エネルギー損失が大きくなる。一方、表面粗さの細かい鉛直方向の上端及び下端ではエネルギー損失が小さくなる。したがって、漏れ軸線方向流れによって回転軸2に作用する剛性に異方性を生じさせることができる。したがって、容易に異方性を有する第二シール部542を形成することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0066】
なお、上述した各実施形態は、それぞれ単独の構成として用いられても良く、組み合わせて用いられてもよい。例えば、第一実施形態の第二シール部512と第二実施形態の第二シール部522とを組み合わせて、第二内周面512aの形状が周方向に変化しつつ、フィン部523が設けられていてもよい。即ち、各実施形態における構成要素を他の実施形態の構成要素に置き換えることにより適宜組み合わせてもよい。
【0067】
また、第二シール部512、522、532、542は、本実施形態のように第一シール部511の軸線P方向の両側に配置されることに限定されるものではない。即ち、第二シール部512、522、532、542は、例えば第一シール部511の軸線P方向の高圧側のみに設けられていたり、逆に低圧側のみに設けられていたりしてもよい。
【0068】
さらに、軸受3が回転軸2に対して異方剛性を持たせるように形成されている場合、第二シール部512、522、532、542は、軸受3と同じ方向に異方性を生じるように、構造を変化させる周方向の位置を軸受3に合わせることが好ましい。
【0069】
また、上述した各実施形態においては、シール装置51、52、53、54が、三段式インペラ群4Bと三段式インペラ群4Aとの間の回転軸2周りに設けられる場合について説明したがこれに限定されるものではない。例えば、インペラ4の入口の口金部、および、多段式インペラの最終段に設けられたバランスピストン部などに設けてもよい。
また、インペラ4はクローズ型のインペラに限られず、オープン型のインペラであっても良い。
【0070】
さらに、インペラ4は三段式に限られるものではない。また、上述した各実施形態においては、シール装置51、52、53、54を設ける回転機械1として遠心圧縮機を一例に説明した。しかし、回転機械1は遠心圧縮機に限られるものではない。この発明のシール装置51、52、53、54は、例えば、軸流圧縮機、半径流タービン、軸流タービン、各種産業用圧縮機、および、ターボ冷凍機などにも適用可能である。