【実施例1】
【0020】
[金属バットの構成]
図1は、実施例1に係る金属バットの概略構成を示す断面図である。
【0021】
金属バット1は、野球、ソフトボール、クリケット等の球技において打者がボールを打
つ(打球する)ために用いられるものであり、バット本体部3と、ヘッドキャップ5と、
グリップエンド7と、グリップテープ9とを備える。なお、以下の説明において、「基端
」は、金属バット1の長さ方向での基端又は一端、「先端」は、金属バットの長さ方向で
の先端又は他端を意味する。
【0022】
バット本体部3は、アルミ合金等の金属、本実施例では6000系(Al-Mg-Si系)合金
や7000系(Al-Zn-Mg系)合金の超々ジュラルミンからなり、全体として中空筒状に形
成されている。このバット本体部3は、先端側の打球部11と、基端側のグリップ部13
と、打球部11及びグリップ部13間を連結する遷移部15とが一体に連結されて構成さ
れている。
【0023】
なお、バット本体部3は、後述する実施例2のように、グリップ部13Aを別体に形成
し、打球部11と一体の遷移部15Aに結合する構成とすることも可能である(
図14参
照)。この場合、グリップ部13A等を中実とすることも可能である。従って、バット本
体部3(3A)は、少なくとも打球部11が中空筒状であればよい。また、バット本体部
3(3A)は、打球部11及びグリップ部13(13A)が、一体であるか別体であるか
を問わずに、遷移部15(15A)によって連結する形態であればよい。
【0024】
打球部11は、ボールを打つ部分としてバット本体部3の先端部に設けられている。打
球部11は、金属バット1の長さ方向に伸びる円筒状に形成され、外径が基端側へ向けて
1%程度又は2mm程度減少するように形成されている。
【0025】
本実施例では、打球部11の最大径となる外径Dが74.8mmに設定されている。打
球部11の内径dは、全体としてほぼ一定であり、後述する未加工状態で68.0mmに設定されている(
図10(C)参照)。これにより、未加工状態での打球部11の肉厚Tは、最大径部分で3.4mmとなっている。また、打球部11の長さL1は、300mmに設定されている。なお、打球部11の外径D、内径d、肉厚T、長さL1は、金属バット1に要求される特性等に応じて適宜変更することが可能である。例えば、打球部11の外径Dを66.7mm、内径dを60.6mm、肉厚Tを3.05mm、長さL1を200mm程度に設定してもよい。
【0026】
打球部11の内周面11aには、先端側においてヘッドキャップ5を取り付けるための
溝部11bが周回状に設けられている。この溝部11bに対する基端側には、後述する拡
径部17が設けられている。また、打球部11の外周面11cには、アルミニウムの陽極
酸化被膜又は塗装による外側意匠面19が形成されている。
【0027】
グリップ部13は、打者が把持する部分としてバット本体部3の基端部に設けられてい
る。グリップ部13は、打球部11よりも外径が小さい円筒状に形成され、金属バット1
の長さ方向に伸びている。なお、グリップ部13の内径も、打球部11よりも小さく形成
されている。
【0028】
本実施例のグリップ部13の内外径は、全体としてほぼ一定となっている。ただし、グ
リップ部13の内外径は、一定である必要はなく、例えば要求される特性に応じて、いわ
ゆるフレア型等のようにグリップ部13の長さ方向の中間部で外径を相対的に小さくする
こと等が可能である。
【0029】
グリップ部13の内周には、基端部において、グリップエンド7を固定するための雌ね
じ部13bが形成されている。グリップ部13の外周面13cには、先端側から中間部ま
で打球部11から連続する外側意匠面19が形成されている。
【0030】
遷移部15は、打球部11とグリップ部13との間を滑らかに遷移させる部分であり、
全体として先端側の打球部11から基端側のグリップ部13へ向けて内外径が漸次縮径す
るテーパ形状になっている。本実施例の遷移部15は、打球部11とグリップ部13と各
間において、外周面15bが曲面状にエッジなく遷移している。この遷移部15の外周面
15bにも、打球部11から延びる外側意匠面19が形成されている。
【0031】
遷移部15の内周面15aは、グリップ部13との間において鈍角のエッジ部15cを
有するように連続し、打球部11との間において後述する拡径部17によってエッジなく
遷移している。
【0032】
かかる構成のバット本体部3に、ヘッドキャップ5、グリップエンド7、グリップテー
プ9が取り付けられて金属バット1が構成される。
【0033】
ヘッドキャップ5は、樹脂等で形成され、バット本体部3の打球部11の先端開口を閉
止する。ヘッドキャップ5は、円柱状の一端部5aが打球部11の先端開口から挿入され
て、その外周の突起部5bが打球部11の溝部11bに係合している。また、ヘッドキャ
ップ5の他端部5cの外周部は、打球部11の先端面に突き当てられ、打球部11の先端から先端外面がドーム型に膨出する形状になっている。なお、ヘッドキャップ5の形状等は、金属バット1の特性に応じて変更することが可能である。
【0034】
グリップエンド7は、バット本体部3と同様、アルミ合金等の金属で形成され、バット
本体部3のグリップ部13の基端開口を閉止する。
【0035】
グリップエンド7は、雄ねじ部からなる一端部7aがグリップ部13の内周の雌ねじ部
13bに螺合されて、円板状の他端部7bがグリップ部13の基端面に突き当てられてい
る。これにより、グリップエンド7は、グリップ部13の基端に締結固定されている。他
端部7bの外縁は、グリップ部13に対して径方向に突出している。なお、他端部7bの
形状等は、金属バット1の特性に応じて適宜変更することが可能である。
【0036】
グリップテープ9は、樹脂等からなり、打球時のすべり止め等のために設けられる。グ
リップテープ9は、グリップ部13の外周面13Cの先端部から基端部にかけて巻き付け
られ、外側意匠面19の一部を含めてグリップ部13を被覆している。
【0037】
[拡径部]
図2(A)は、
図1の金属バット1の拡径部17の拡大断面図、
図2(B)は
図2(A
)の一部を示す拡大図である。
【0038】
拡径部17は、
図1のように、少なくともバット本体部3の打球部11の内周面11a
に対し、この内周面11aに圧縮残留応力を付与又は内周面11aを硬化させる圧縮加工
で形成され、未加工時よりも肉厚が減少して内径が拡径している。なお、以下において、
「未加工」は、拡径部17を形成していない状態を意味する。本実施例では、圧縮加工と
してショットピーニングが行われ、拡径部17が打球部11の溝部11bの基端側縁部か
ら遷移部15の長さ方向中間部にかけて設けられている。
【0039】
従って、拡径部17は、少なくとも打球部11の低ばね定数化と偏平剛性の向上との両
立を図ることができる。すなわち、打球部11は、その肉厚減少による薄肉化で低ばね定
数化が図られる。また、打球部11の内周面11aへの圧縮残留応力の付与により引張側
の降伏点が高くなり、さらに打球部11の内周面11aの硬化により降伏点を高めること
ができる。かかる降伏点の上昇により、打球部11の偏平剛性の向上を図ることができる
。
【0040】
なお、引張側の降伏点の上昇は、圧縮残留応力の付与又は打球部11の内周面11aの
硬化の少なくとも何れか一方で達成されればよい。このため、例えば、打球部11の内周
面11aを軟化させない範囲で圧縮残留応力を与えて拡径部17を形成してもよい。また
、本実施例においては、引張側の降伏点の上昇に低ばね定数化も寄与する。
【0041】
本実施例の拡径部17の表面(打球部11の内周面11a)は、
図2のように、ショッ
トピーニングによる凹凸形状となっている。 拡径部17の拡径量t、つまり打球部11
の肉厚の減少量は、未加工の打球部11の肉厚に対する2%未満である。
【0042】
ショットピーニングは、後述する製造方法において、投射材として粒径が1.2m
m、材質はスチールを用い、投射圧を0.45MPaとして行われている。これにより、本実施例では、拡径部17表面の凹凸形状の曲率半径Raが9.4μmとなっており、拡径量tが打球部11の肉厚T=3.4mmの2%未満の60μm(1.76%)と
なっている。ここでの拡径量tは、拡径部17の凹凸形状の底(最も拡径されている部分
)でのものである。なお、ショットピーニングの条件は、他の条件を採用することも可能
であり、例えば投射材の粒径を0.4mmや0.8mmとしてもよい。また、スチール製の投射材に代えてステンレス、セラミック、ガラス製の投射材を用いることもできる。さらに、投射の条件(投射材、投射材径、投射圧、投射時間)を変えて複数回実施してもよい。
【0043】
拡径部17の表面の圧縮残留応力は、後述する打球部11の偏平試験によって少なくと
も外径Dを2%減少させる場合に、圧縮側の塑性変形が引張側よりも大きな外径Dのたわ
み量で生じる範囲で設定される。本実施例では、圧縮残留応力が100MPaに設定され
ている。
【0044】
拡径部17の表面の硬さは、上述のように少なくともショットピーニングにより軟化し
ない範囲で設定することができるが、本実施例において、未加工の打球部11と比較して
ビッカーズ硬さで20Hv向上している。
図3に、拡径部17の有無による打球部11の
内周面11aの硬さを示すグラフである。
図3は、測定荷重5gとしてビッカーズ硬さを
測定したもので、縦軸がビッカーズ硬さ、横軸が表面からの深さを示す。
【0045】
図3のように、拡径部17を設けた場合の打球部11の内周面11aの硬さは、ばらつ
きはあるが、表面からの深さが0〜0.2mmまでの範囲で、拡径部がない場合と比較し
て軟化せずに平均して20Hvの向上が図れている。
【0046】
図4は、金属バット1の拡径部17の偏平試験を示す概略図、
図5は、金属バット1の
拡径部17の有無による偏平試験の結果を荷重とたわみと量の関係で示し、(A)は全体
図、(B)は要部拡大図、
図6は、金属バット1の拡径部17の有無による偏平剛性を示
すグラフである。
図5では、縦軸が荷重を示し、横軸がたわみ量を示す。また、
図6では
、縦軸が偏平剛性を示し、拡径部17のない比較例の偏平剛性を100としている。
【0047】
偏平試験は、金属バットの打球部の安全基準(SG基準)に基づいて、
図4のように、拡径部17を有する実施例の打球部11と拡径部17を有さない比較例の打球部から長さ50mmに切り取った円筒を試験片21とし、試験片21を一対の対向した平板22で押し潰すように荷重を付加して外径Dを減少させた。このときの荷重とたわみ量との関係を
図5のようにプロットして荷重−たわみ曲線を得た。
【0048】
なお、
図4の例では、拡径部17を有する実施例の試験片21を作成するに際し、上述の打球部の外径D、内径d、肉厚Tを有する円筒状の素管に拡径部17を形成した。ここでの素管は、後述する
図10(A)の素管29のように、内外径が全体にわたってほぼ一定のものである。また、比較例の試験片21の作成に際しては、拡径部17のない素管を用いた。実施例及び比較例の何れの試験片21も、拡径部17の有無以外は同一の寸法を有する。また、金属バットの打球部の安全基準は、打球部から長さ50mmに切り取った試験片に所定荷重を付加して偏平試験を行い、そのときの残留たわみ量が外径の2%以下となることを要求するものである。
【0049】
図5のように、実施例では、荷重−たわみ曲線の弾性変形を示す線形領域23において
、比較例よりも弾性変形量(傾きが小さく)が大きくなり、低ばね定数化が図れているの
がわかる。具体的には、実施例の場合、線形領域23がY=1580.5Xで表されるの
に対し、比較例の場合、線形領域25がY=1667.7Xで表され、実施例において5
.3%程度の低ばね定数化が確認された。なお、Yは
図5の縦軸、Xは同横軸を意味する
。
【0050】
そして、
図5の荷重−たわみ曲線においては、線形領域23を外れて降伏点を超えると
、塑性変形領域27へ移行するが、実施例の外径Dが塑性変形により2%減少するときの
荷重が比較例に対して上昇している。これにより、実施例では、
図6のように比較例に対
して2.2%の偏平剛性の向上が確認できた。
【0051】
図7は、偏平試験により外径を2%減少させたときの有限要素法による応力分布の解析
結果を示す説明図であり、(A)は引張応力を基準とし、(B)は圧縮応力を基準として
示している。
図8は、
図7の状態までの荷重の増加に応じた圧縮応力及び引張応力の関係
を示すグラフである。
図7では、色が濃い部分ほど応力が高く、薄い部分ほど応力が低い
。また、
図8では、縦軸が応力、横軸がたわみ量を示している。
図8において、引張応力
は、正の値で、圧縮応力は、負の値で示し、いずれも絶対値が大きくなれば、高い値をと
ることを意味する。
【0052】
図7のように、試験片21では、偏平試験による押し潰し方向(図中の上下方向)の両
側で内周面11aの引張応力が最も高くなり、これに直交する方向(図中の左右方向)の
両側で内周面11aの圧縮応力が高くなる。
【0053】
これら引張応力と圧縮応力は、
図8のように、たわみ量が増加するにつれて何れも増加していくが、
弾性限度内ではたわみ量の増加に対する圧縮応力の増加が引張応力よりも小さい。このため、
弾性限度内において、圧縮応力は、
外径の径方向への同じたわみ量に対して引張応力よりも常に低い値をとり、圧縮側の降伏点P1での
たわみ量が引張側の降伏点P2での
たわみ量よりも大きく
なっている。つまり、本実施例では、上述のように、少なくとも偏平試験によって外径Dを2%減少させる際に圧縮側の降伏点P1での
たわみ量が引張側の降伏点P2での
たわみ量よりも大きく
なっている範囲で圧縮残留応力を設定する。
【0054】
図9は、金属バットの肉厚と偏平剛性との関係を示すグラフである。
図9において、L1は、比較例に係るショットピーニングなし場合の肉厚と偏平剛性との関係、L2は、実施例に係るショットピーニングありの場合の肉厚と偏平剛性との関係である。
【0055】
一般に、硬式用バットの肉厚はSG偏平剛性規格で7500Nをクリアする必要がある。ショットピーニングをしない場合、打球部の肉厚を
図9の点Aのように3.02mmにすることで7750Nを得ている。
【0056】
これに対し、ショットピーニングをすることにより、同じ肉厚で偏平剛性が点Bのように250Nアップし、8000Nまで剛性を増すことができた。一方、同じ偏平剛性ならば、点Cのように50μmだけ薄肉の2.97mmにすることができる。なお、ここで用いた硬式バットは外径66.7mm、長さ84cm、重量910gのものである。
【0057】
[金属バットの製造方法]
図10は、金属バット1の製造工程を示す断面図であり、(A)〜(C)は、素管29から金属バット1の本体部半製品31を形成する素管加工工程である。
図11は、金属バット1の製造方法を示す断面図であり、(A)及び(B)は、金属バット1の本体部半製品31からバット本体部3を形成する本体部加工工程である。
図12は、金属バット1の製造方法を示す断面図であり、(A)及び(B)は、バット本体部3から金属バット1を形成する仕上げ工程である。
【0058】
本実施例の金属バット1の製造方法では、まず
図10(A)のように内外径が一定の円筒状の素管29を押出成形する。次いで、
図10(B)のように、素管29に対して所定の肉厚分布となるように抽伸加工を行い、抽伸素管30を形成する。抽伸加工は、適宜のダイス及びマンドレル等を用いて行うことができる。次いで、
図10(C)のように、抽伸素管30に対してスウェージング加工を行い、打球部11、遷移部15、グリップ部13を有する本体部半製品31を形成する。スウェージング加工は、適宜のダイスを用いて行うことができる。
【0059】
こうして形成された本体部半製品31に対しては、熱処理が行われた後に、
図11の本体部加工工程が行われる。なお、熱処理は、強度を出すための溶体化、焼き入れ、時効処理等である。
【0060】
本体部加工工程としては、まず、
図11(A)のように、本体部半製品31の打球部1
1の内周面11aに拡径部17を形成する。拡径部17の形成は、上述のとおりショット
ピーニングによって行われる。
【0061】
ショットピーニングに際しては、ノズル33を本体部半製品31の打球部11の先端開
口から挿入し、ノズル33の先端部33aを打球部11の内周面11aに対向させる。ノ
ズル33は、先端部33aが湾曲した斜角ノズルであり、打球部11の内周面11aに先
端部33aを無理なく対向させることが可能である。
【0062】
この状態で、ノズル33から粒径1.2mmでスチールの投射材を0.45MPa
の投射圧で投射し、且つ本体部半製品31を回転させつつ軸方向に前後させる。結果、打
球部11の内周面11aに拡径部17を形成することができる。本実施例では、拡径部1
7が遷移部15の中間部にまで至る。
【0063】
拡径部17の形成後は、
図11(B)のように、ヘッドキャップ5を取り付けるための
溝部11bを打球部11の内周面11aに形成すると共に、グリップエンド7を取り付け
るための雌ねじ部13bをグリップ部13の内周面13aに形成する。これら溝部11b
及び雌ねじ部13bの形成は、切削加工によって行わせればよい。
【0064】
こうしてバット本体部3の形成が完了し、
図12の仕上げ加工によってバット本体部3
から製品としての金属バット1が形成される。
【0065】
仕上げ加工としては、まず
図12(A)のように、バット本体部3の表面研磨によりキ
ズ落としや重量調整が行われた後に、表面研磨された領域にアルミニウムの陽極酸化被膜
又は塗装によって外側意匠面19を形成する。そして、
図12(B)のように、バット本
体部3に対してヘッドキャップ5、グリップエンド7、グリップテープ9を取り付けて金
属バット1の形成が完了する。
【0066】
[実施例1の効果]
本実施例の金属バット1は、中空筒状の先端側の打球部11と、基端側のグリップ部1
3と、打球部11及びグリップ部13間を連結する遷移部15とを有するバット本体部3
と、打球部11の内周面11aに対し該内周面11aに圧縮残留応力を付与又は内周面1
1aを硬化させる圧縮加工により形成され未加工時よりも打球部11の肉厚が減少して内
径が拡径した拡径部17とを備える。
【0067】
従って、本実施例では、打球部11の肉厚減少により低ばね定数化を図ることができる
と共に、少なくとも打球部11の内周面の圧縮残留応力又は硬化によって偏平剛性を向上
することができる。
【0068】
このため、本実施例では、材料面からの改良によらずに、打球部11の低ばね定数化と
偏平剛性低下の抑制(偏平剛性の向上)とを両立させることができる。
【0069】
また、本実施例では、打球部11の偏平剛性を向上することができるため、偏平剛性が
向上した分だけ未加工状態での打球部11の肉厚を減少させても、偏平剛性低下の抑制を
図ることができる。
【0070】
結果として、打球部11の低ばね定数化と偏平剛性低下の抑制とを両立させながら、肉
厚の減少による軽量化と更なる低ばね定数化とを図ることができる。
【0071】
本実施例では、拡径部17による打球部11の内径の拡径量tが未加工の打球部11の
肉厚に対する2%未満であるから、打球部11の低ばね定数化と偏平剛性低下の抑制とを
両立させることができながら、拡径部17の境界での肉厚の急変がなく、無理な応力の発
生等を抑制できる。
【0072】
また、圧縮残留応力は、偏平試験により少なくとも荷重を付加して打球部11の外径D
を2%減少させる場合に、圧縮側の塑性変形が引張側よりも大きな外径のたわみ量で生じ
る範囲において設定される。
【0073】
従って、本実施例では、圧縮残留応力を打球部11の内周面11aに付与しても、打球
部11の剛性自体に問題はない。
【0074】
遷移部15は、打球部11からグリップ部13へ向かって内外径が漸次縮径するテーパ
形状であり、拡径部17は、打球部11の内周面11aから遷移部15の中間部の内周面
にわたって延設されている。
【0075】
従って、本実施例では、遷移部15の中間部においても、低ばね定数化と偏平剛性低下
の抑制とを両立させることができる。
【0076】
本実施例の金属バット1の製造方法では、打球部11の未加工の内周面11aに対して
ショットピーニングによる圧縮加工を行って拡径部17を形成するので、打球部11の内
周面11aに圧縮残留応力を付与又は内周面11aを硬化させる拡径部17を容易且つ確
実に形成することができる。
【0077】
圧縮加工としては、
図13のように、しごきによって行わせることも可能である。
【0078】
図13は、変形例に係る製造方法に係り、しごきによる拡径部17の形成を示す概念図
である。なお、変形例の製造方法は、拡径部17の形成以外は上述の実施例と同一である
。すなわち、
図11(A)の工程に代えて、
図13の工程が行われる。
【0079】
図13では、一対の加工ローラ35間に本体部半製品31の打球部11を挟持し、加工
ローラ35を逆向きに回転させることで打球部11の内周面11aをしごく。これにより
、
図11(A)の場合と同様に、打球部11を減肉すると共に内周面11aに圧縮残留応
力を与え且つ内周面11aを硬化させ、拡径部17を形成することができる。なお、変形
例の打球部11では、拡径部17の表面が凹凸形状とはならないが、内側の加工ローラ3
5の表面を凹凸形状とすることで拡径部17の表面を凹凸形状とすることも可能である。