【文献】
“ふっくら蒸し鶏の香味ソース(テレ朝レシピ)”, [online], 2009.06.14, テレビ朝日, [retrieved on 2016.02.28], Retrieved from the Internet: <URL: http://www.tv-asahi.co.jp/recipe/detail.php?id=293>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
<前処理方法>
本発明は、塩水に生鮮食品を浸漬する浸漬工程と、浸漬工程後の生鮮食品を蒸す加熱工程と、を備える生鮮食品の前処理方法である。つまり、本発明は、浸漬工程と加熱工程とを、必須の工程として含む前処理方法である。
【0017】
また、本発明の前処理方法を実施する際には、加熱工程後に冷凍工程を行うことが好ましい場合がある。
【0018】
以下、本発明の前処理方法における浸漬工程、加熱工程、冷凍工程の各工程について説明する。
【0019】
[浸漬工程]
浸漬工程とは、塩水に生鮮食品を浸漬する工程である。生鮮食品が塩水に浸漬されることで、浸透圧により、生鮮食品に含まれる不快成分や水分が、生鮮食品から排出されると考えられる。また、後述する通り、本発明の処理方法で処理された生鮮食品は、調理されても歯ごたえがよいことから、塩水で生鮮食品を処理すれば、生鮮食品(特に、野菜等)の細胞壁にほとんど損傷を与えずに、生鮮食品中の水分や不快成分を排出できると考えられる。浸漬工程後、生鮮食品の水分を、公知の方法で適宜水切りしてもよい。
【0020】
不快成分としては、生鮮食品に含まれる灰汁、渋味、苦味等が挙げられる。生鮮食品を塩水で浸漬すればこれらの不快成分を排出できる。なお、不快成分とともに、生鮮食品の美味しさのもととなる成分も一部排出されるが、これにより生鮮食品の嗜好性が低下することはほとんどない。
【0021】
生鮮食品としては、野菜類、果物類、魚介類、蓄肉等が挙げられる。野菜類としては、葉菜類(水菜、白菜、ホウレン草、小松菜、春菊、チンゲンサイ、キャベツ、レタス、サラダナ、パセリ、ミツバ、クレソン、グリーンカール、サニーレタス、トレビス、レッドキャベツ、等)、茎菜類(長ネギ、九条ネギ、アサツキ、セロリ、モヤシ、カイワレ大根、アスパラガス、等)、根菜類(人参、大根、タマネギ、ミョウガ、エシャーレット、ゴボウ、ジャガイモ等)、果菜類(キュウリ、ピーマン、トマト、オクラ、パプリカ、アボガド、パパイヤ、トウモロコシ、等)、花菜類(ブロッコリー、カリフラワー、等)を挙げることができる。果物類としては、柑橘類(ミカン、キンカン、等)、仁果類(リンゴ、ナシ、等)、核果類(ウメ、モモ、等)を挙げることができる。魚介類としては、アジ、サバ、ブリ、シャケ、ヒラメ、カレイ、タイ、スズキ、キス、フグをはじめとする魚全般、カキ等の貝類、カニ、エビ等の甲殻類等が挙げられる。蓄肉としては、牛肉、豚肉、鶏肉、猪肉、鹿肉、その他の食用肉が挙げられる。
【0022】
また、本発明では必要に応じて、カットした生鮮食品を使用する。カットされた生鮮食品の大きさや形状は特に限定されないが、塩水に浸漬する生鮮食品のサイズが大きすぎると、生鮮食品の内部の不快成分や水分が排出されにくくなると考えられる。したがって、生鮮食品の種類や調理目的に応じて好ましい大きさは異なるが、上記の浸漬による効果を考慮して、生鮮食品の大きさや形状を決定することが好ましい。
【0023】
また、生鮮食品をカットする方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、スライサー等の手段を使用して、生鮮食品を所望の大きさにカットすればよい。
【0024】
塩水とは、塩分を含む水溶液であれば特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム水溶液、岩塩、海水、海洋深層水等及びこれらの組み合わせを挙げることができる。塩水の中でも特に海洋深層水を使用することが好ましい。
【0025】
海洋深層水、海水、塩化ナトリウム水溶液、岩塩、その他の塩水は、いずれも含まれる成分が異なる。その結果、いずれの塩水に浸漬するかで、生鮮食品から排出される不快成分の量や種類は異なる。海洋深層水を用いれば、他の塩水を用いる場合よりも、生鮮食品中の不快成分や水分を排出させやすくなる結果、生鮮食品の嗜好性を顕著に高めることができる。
【0026】
また、海洋深層水を使用すれば、生鮮食品から水分や不快成分を排出するとともに、海洋深層水に含まれるミネラルが生鮮食品に浸透し、生鮮食品の嗜好性を向上させることができる。
【0027】
また、海洋深層水、海水、塩化ナトリウム水溶液、岩塩、その他の塩水のうちのいずれを使用しても、野菜、果物、魚介類、蓄肉のいずれについても、厳密な塩分濃度の調整等を行わなくても、容易に、野菜等の嗜好性を高めつつ、野菜等を調理に適した状態にすることができる。なお、本発明において、「調理に適した状態」とは、生鮮食品の調理や加工がしやすく、短時間で調理可能である状態等をさす。このような材料を用いることで迅速に美味しい料理を作ることが可能になる。
【0028】
塩水の塩分濃度は特に限定されず、生鮮食品の種類等にもよるが、海水や海洋深層水を水で薄めたり濃縮したりして、塩分濃度を2質量%以上18質量%以下(より好ましくは、2質量%以上10質量%以下)に調整して使用することが好ましい。また、塩化ナトリウム水溶液を用いる場合にも、塩分濃度が上記範囲になるように調整することが好ましい。塩分濃度が上記範囲内にあれば、不快成分や水分を生鮮食品から排出しやすくなるとともに、生鮮食品(特に、野菜等)の細胞の細胞壁や、生鮮食品の組織構造を損傷しにくいものと考えられる。また、塩分濃度が上記範囲にあれば、生鮮食品内に塩分が残りすぎることによる嗜好性の低下が小さい。
【0029】
生鮮食品として魚介類又は蓄肉を使用する場合には、塩水の濃度は高い方が好ましく、濃縮した海水、濃縮した海洋深層水、塩分濃度が3質量%以上15質量%以下(より好ましくは、6質量%以上15質量%以下)の岩塩又は塩化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0030】
塩水には、塩分以外の成分が含まれていてもよい。塩分以外の成分としては、海水や海洋深層水に含まれるミネラル等が挙げられるが、その他の成分として、生姜、砂糖、蜂蜜、ハーブ、ニンニク等の生鮮食品に風味を加えられる成分を用いてもよい。
【0031】
生鮮食品を塩水に浸漬する際の条件は特に限定されず、生鮮食品の種類、カットされた生鮮食品の大きさ、塩水の塩分濃度等に応じて適宜設定すればよい。浸漬温度は1℃以上60℃以下(より好ましくは4℃以上40℃以下)であることが好ましく、浸漬時間は、5分以上48時間以下(より好ましくは5分以上5時間以下)であることが好ましい。
【0032】
[加熱工程]
加熱工程とは、上記浸漬工程で塩水に浸漬された生鮮食品を水蒸気等で加熱することで蒸す工程である。
【0033】
加熱工程では、生鮮食品中の水分や不快成分がさらに排出される。そして、加熱工程と、上記浸漬工程や、水分や不快成分が排出される環境が異なるため、不快成分や水分の排出をさらに進めることができる。
【0034】
また、上記浸漬工程を経た生鮮食品を蒸すことで、生鮮食品自体の味が濃く且つ美味しくなり、調理の際に味付きがよくなり、さらに、蒸すことで歯ごたえがなくなる等の問題も生じない。
【0035】
味が濃くなる点については、浸漬工程や加熱工程で水分が排出されるため、生鮮食品自体の味を感じやすくなるためと考えられる。つまり、生鮮食品に含まれる水分が生鮮食品の味を薄めることがほとんどなくなり、生鮮食品自体の味を感じやすくなると考えられる。
【0036】
生鮮食品の味の濃さは、官能評価のほか、生鮮食品の糖度及び水分量の測定等によって特定できる。例えば、本発明の前処理方法によれば、前処理を行わない場合と比較して、生鮮食品の種類によるが、生鮮食品の糖度が約1上昇する可能性がある。また、本発明の前処理方法によれば、前処理を行わない場合と比較して、生鮮食品の種類によるが、生鮮食品の水分量が減少する可能性がある。
【0037】
美味しくなる点については、不快成分が充分に排出され、生鮮食品の水くささ等が抑えられるので、美味しく感じると考えられる。また、生鮮食品が美味しく感じるのは、後述する歯ごたえのよさや上述の味の濃さを感じることでも美味しく感じるため、ここでの「美味しさ」とは、生鮮食品の歯ごたえのよさ、不快成分の少なさ、生鮮食品の味の濃さによって感じる美味しさである。
【0038】
また、味付きがよくなる点については、生鮮食品(特に、野菜等)の細胞壁を壊さずに水分や不快成分が排出される結果、細胞内に隙間が生じ、味付きがよくなると考えられる。
【0039】
また、歯ごたえについては、野菜や果物等の水分や不快成分が排出される際に、細胞壁の損傷が少ないことから、前処理によって生鮮食品の歯ごたえが失われることを防ぐことができる。また、浸漬工程を経た生鮮食品を蒸すことで、細胞壁が固まり歯ごたえを感じやすくなると考えられる。加熱工程後の生鮮食品は、加熱工程後の生鮮食品を、さらに加熱工程等に供しても、収縮等の変化がほとんど認められず、固さの変化が抑制されている。つまり、生鮮食品は加熱工程を経ることで組織構造が一定の構造を保って固定化されているものと考えられる。
【0040】
加熱工程を行う際に設定する加熱温度、加熱時間及び水蒸気量の条件は特に限定されず、生鮮食品の種類、生鮮食品の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。例えば、加熱温度は35℃以上130℃以下、好ましくは60℃以上100℃以下の範囲に調整して、加熱時間は3分以上2時間以下の範囲に調整することが好ましい。加熱工程における加熱は、圧力下での加熱(いわゆる加圧蒸し)であってもよい。加圧蒸しを行う場合、2〜3気圧(約200〜300kPa)、60℃以上130℃以下の条件で行ってもよい。
【0041】
加熱工程においては、公知の蒸し器を使用できる。また、加熱工程を行う際には、生鮮食品をザル等の上に配置した状態で蒸すことで、生鮮食品に水分が付着しすぎないようにしてもよい。
【0042】
また、加熱工程の前に、生鮮食品を調味料や香草等で処理する等の下味付け工程を行った後に、生鮮食品を加熱工程に供してもよい。下味付け工程の具体的としては、浸漬工程を経た生鮮食品を調味料等に漬け込んだり、浸漬工程を経た生鮮食品の表面に香草等を載せたりする工程が挙げられる。下味付け工程を行った後、生鮮食品を加熱工程に供することができる。下味付け工程を加熱工程の前に行うことで、より嗜好性の高い生鮮食品が得られる。
【0043】
[冷凍工程]
冷凍工程とは、加熱工程を経た生鮮食品を冷凍する工程である。本発明の前処理方法において、冷凍工程は必須ではないが、冷凍工程を行うことで、前処理された生鮮食品を長期間保存することが可能になる。
【0044】
従来の冷凍野菜は、調理すると、歯ごたえがなくなり、生鮮食品の味が薄まることが知られる。これは、歯ごたえを生み出す生鮮食品中の細胞壁等の組織構造や、生鮮食品中の細胞壁の内外に含まれる水分量のバランスが失われることが原因であると考えられる。また、生鮮食品を冷凍すると、生鮮食品の細胞中の水分が膨張し、細胞や組織が損傷することが知られる。しかし、本発明の前処理方法は、生鮮食品中の組織構造を維持しながら、生鮮食品中の水分及び不快成分を排出させることができ、従来の冷凍野菜が有する欠点が抑制されている。
【0045】
具体的には、浸漬工程により、細胞内の水分及び不快成分が、組織構造を維持しながら排出され、組織間に隙間が作られる。次いで、加熱工程により、細胞内の水分が膨張して細胞外に排出され、組織間にさらなる隙間が作られる。この状態で生鮮食品を調理等で高温処理しても、煮崩れしにくく、味がなじみやすい。また、加熱工程後に冷凍を行っても、組織間に隙間があるため、冷凍による体積変化で細胞壁が損傷しにくい。その結果、冷凍しても生鮮食品の歯ごたえが失われることはほとんどない。具体的には、冷凍工程後の生鮮食品を、解凍した後に又は冷凍したまま調理しても、生鮮食品の歯ごたえがほとんど失われていない。冷凍した場合によっては、何ら前処理を行っていない生鮮食品を調理したものよりもしっかりした歯ごたえを有し、煮崩れもしにくい。
【0046】
上記の通り、加熱工程を経た生鮮食品は、冷凍により細胞壁等の組織が損傷されにくいため、冷凍工程は生鮮食品自体の嗜好性をほとんど低下させない。また、冷凍工程においても、生鮮食品に含まれる水分や不快成分の排出が進むため、冷凍臭さが抑えられ、生鮮食品の味を濃くしたり、生鮮食品をさらに美味しくしたりできる場合がある。
【0047】
冷凍方法は特に限定されず、一般的な冷凍庫を用いて、加熱工程後の生鮮食品を冷凍することができる。例えば、加熱工程後の生鮮食品を−25℃以上−18℃以下の環境に生鮮食品を曝して、生鮮食品を冷凍することが好ましい。得られた冷凍品は、フリーズドライにしてもよい。
【0048】
[成熟工程]
成熟工程とは、生鮮食品が未熟な果実や蓄肉等である場合に、加熱工程を経た生鮮食品を成熟(又は熟成)させる工程である。本発明の前処理方法において、成熟工程は必須ではないが、成熟工程を行うことで、生鮮食品中の不快成分が排出されつつ、生鮮食品の成熟が進むので、より嗜好性の高い生鮮食品を得ることができる。成熟工程は、生鮮食品の風味をより高められるという観点から、加熱工程に次いで(つまり、冷凍工程を行わずに)行うことが好ましい。ただし、本発明の前処理方法は成熟工程及び冷凍工程を含んでいてもよく、(1)浸漬工程、加熱工程、成熟工程、及び冷凍工程の順、ならびに、(2)浸漬工程、加熱工程、冷凍工程、及び成熟工程の順のいずれであってもよい。上記のうち、より風味が良好な生鮮食品を得られるという観点から、(1)の態様が好ましい。
【0049】
前処理方法に成熟工程が含まれる場合、使用する生鮮食品としては、仁果類(リンゴ、ナシ、等)、核果類(ウメ、モモ、等)等の果実や、牛肉、豚肉、鶏肉、猪肉、鹿肉、その他の食用肉等の蓄肉のように、食用に適した状態となるために一定の成熟期間を要する生鮮食品が好ましい。このような果物や蓄肉等は、未熟な状態又は充分に成熟していない状態で浸漬工程及び加熱工程に供され、成熟工程を経ることで成熟し、食用に適した状態となる。果物や蓄肉等が成熟しているかどうかは、一般的に確立された基準(果実の大きさ、果皮の色、果皮の厚さ等の目視観察、蓄肉の軟らかさ、色味等の官能評価)に基づいて判断できる。
【0050】
成熟工程の条件は、一般的に果実や蓄肉等の成熟が進む条件であれば特に限定されず、生鮮食品の成熟具合に応じて適宜調整できる。例えば、成熟工程は、0〜40℃で30分〜14日間、生鮮食品を暗所に静置する工程であってもよい。
【0051】
<包装手段>
本発明の前処理方法が施された生鮮食品(上記の実施形態では、加熱工程後の生鮮食品又は冷凍工程後の生鮮食品)を包装してもよい。包装に用いる包装材料は特に限定されず、ビン、缶、プラスチック等の一般的なものを使用可能である。また、包装手段も特に限定されず、包装材料の種類に応じた方法を適宜採用すればよい。例えば、真空パック、レトルトパック等の包装手段も採用可能である。包装された生鮮食品は、冷凍、冷蔵又は常温状態で流通させることができる。
【0052】
また、本発明の前処理方法が施された生鮮食品を複数組み合わせて包装し、野菜ミックスとしてもよい。得られた野菜ミックスは、手軽に食事摂取基準を満たすことができる食品となり得る。また、本発明の前処理方法が施され、フリーズドライ加工された生鮮食品を野菜ミックスとすると、有用な非常食となり得る。
【0053】
<調理>
本発明の前処理方法で前処理された生鮮食品は、調理に適した状態にある。具体的には、不快成分が排出されているため、本発明の方法で前処理した生鮮食品を調理しても、不快成分による料理の味の低下が小さい。
【0054】
上記の通り、本発明の方法で生鮮食品を処理することで、生鮮食品に含まれる灰汁や、くせ等が抜ける。このため、本発明の前処理方法は、灰汁を多く含む生鮮食品や、くせの強い生鮮食品を用いて調理する場合の前処理として実施することが特に好ましい。灰汁を多く含む生鮮食品及びくせの強い生鮮食品の具体例としては、ピーマン、ゴボウ、ホウレン草、チンゲンサイ、小松菜、大根葉、人参葉、ヨモギ、ゴウヤ、筍、山菜全般(ワラビ、ゼンマイ、蕗、ウド等)、牛肉、豚肉、鶏肉、猪肉、鹿肉、魚介類を例示できる。
【0055】
上記の通り、本発明の方法で前処理した生鮮食品は、生鮮食品中の細胞が損傷しにくいため、調理後も煮崩れしにくく、歯ごたえがある。また、本発明の方法で前処理された生鮮食品は水分等が排出されているため、味がなじみやすい。これらの特徴は、煮物を調理する際に特に有効である。
【0056】
煮物においては、煮崩れしにくいことが求められる。充分味付けしようとして、充分に時間を掛けて煮ると、生鮮食品は煮崩れする傾向にあるが、本発明の処理方法では、生鮮食品(特に、野菜等)の細胞壁の損傷がほとんどなく、さらに、浸漬工程及び加熱工程を経ることで細胞が固定されていると考えられるため、煮物を調理する際に煮崩れが生じにくい。
【0057】
また、煮物においては、ものを煮るために調味した汁(以下「煮汁」という場合がある)が生鮮食品に染み込むようにすることが好ましい。本発明の方法で前処理された生鮮食品は、水分等が排出され、且つ細胞壁の損傷が少なく、細胞が固定されているため、生鮮食品中に多くの隙間を作ることができる。このため、煮汁が生鮮食品に染み込みやすく、生鮮食品に味付けしやすい。
【0058】
また、煮汁は味付け用に調味した汁であるが、煮物の調理時に生鮮食品から排出された成分が煮汁の味を変化させる場合がある。本発明の方法で前処理された生鮮食品は、前処理時に排出されやすい成分の多くが排出された状態にあるため、煮汁の味を変化させにくい。このため、所望の味を生鮮食品に付与しやすい。
【0059】
また、上記の通り、本発明の方法で前処理した生鮮食品は煮崩れしにくいため、本発明の方法で前処理した複数の生鮮食品を同時に鍋に入れても好ましく調理できる。また、得られた調理品の味は、生鮮食品特有の味の濃さがほとんど損なわれていない。
【0060】
また、上記の通り、本発明の方法で前処理した生鮮食品は煮崩れしにくく、不快成分による料理の味の低下が小さいため、生鮮食品を自由に組み合わせて調理することができる。例えば、通常は、コンソメスープ等にサバ等を入れると、魚臭く、魚の身が煮崩れして透明感の乏しいスープが得られる。しかし、本発明の方法で前処理した生鮮食品を使用すると、生鮮食品特有の良好な味を有し、コンソメスープの透明感が維持されたスープを得ることができる。
【0061】
なお、上記の通り、煮物を調理する際の前処理として、本発明の方法は好適に実施可能であるが、他の調理方法であっても、生鮮食品自体の嗜好性を高めることや、生鮮食品の歯ごたえを強くすることは重要であるから、本発明の方法は様々な調理方法に好ましく適用可能である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を示して本発明の前処理方法をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0063】
<生鮮食品>
ピーマン
ホウレン草
人参
ささみ
鶏もも肉
サバ
【0064】
<塩水>
海水(塩分濃度約3質量%)
海洋深層水(塩分濃度約3質量%)
塩化ナトリウム水溶液(塩分濃度約3質量%)
【0065】
<実施例1>
実施例1では野菜(ピーマン、ホウレン草、人参)を用いて、本発明の前処理方法を実施した。具体的には以下の方法で行った。
【0066】
先ず、ピーマン、ホウレン草、人参をカットした。カットしたそれぞれの野菜を、海水に浸漬する野菜、海洋深層水に浸漬する野菜、塩化ナトリウム水溶液に浸漬する野菜の3つのサンプルに分けた。この際、分けられた野菜が同じサンプルになるように、ホウレン草であればいずれのサンプルにも茎と葉が同じ割合で入るようにし、ピーマン及び人参であればいずれのサンプルにも野菜の端部分と中央部分が含まれるようにした。
【0067】
上記のようにして作製した各野菜の3つのサンプルを、海洋深層水、塩水、海水に10分浸漬した。浸漬温度の条件は常温(25℃)である。
【0068】
各サンプルを蒸して加熱した。ピーマンの加熱は加熱温度60℃、加熱時間15分に設定し、ホウレン草の加熱は加熱時間70℃、加熱時間10分に設定し、人参の加熱は加熱温度が80℃、加熱時間30分に調整した。
【0069】
加熱後のサンプルを試食した。結果は表1に示す通りであった。
【0070】
【表1】
【0071】
ピーマン、ホウレン草、人参のいずれの評価においても、海洋深層水で浸漬したものが最も嗜好性が高かった。具体的には、野菜から水分が充分に排出されており、素材の甘みを充分に感じることができるとともに、野菜から不快成分も充分に排出されており、不快成分による嗜好性の低下もほとんど感じなかった。なお、全てのサンプルについて歯ごたえを充分に感じることができた。また、ピーマンにおいては、海洋深層水で浸漬したものに次いで、塩化ナトリウム水溶液で浸漬したものの嗜好性が好ましかった。ホウレン草及び人参においては、海洋深層水で浸漬したものに次いで、海水で浸漬したものの嗜好性が好ましかった。
【0072】
海水、塩化ナトリウム水溶液に関しても、野菜から充分に水分を排出して、野菜の甘みを充分に活かすことができるものの、野菜の種類によっては、不快成分の排出が不十分になり、野菜の嗜好性が低下した。なお、いずれの例においても、野菜の甘みは強く感じられたことから野菜に含まれる成分が排出されているといえるため、排出される成分のバランスを取るために、塩水の塩分濃度の調整や各工程の条件を調整することでより良好な結果になると考えられる。また、生鮮食品に含まれる成分と、塩水との浸透圧差の影響により、生鮮食品に与えられる味が変わる可能性があるため、調理の目的に応じて、塩水の種類を適宜選択することが好ましいと考えられる。
【0073】
<実施例2>
また、浸漬工程を行わずに加熱工程を行ったサンプルを用意し、このサンプルと、浸漬工程後に加熱工程を行ったサンプルとについて、質量及び大きさを比較すると、大きさはほぼ同じにもかかわらず、加熱工程後のサンプルは軽かった。
【0074】
<実施例3>
実施例1の加熱工程後のサンプルを一般的な冷凍庫で、−16〜−21℃の温度条件下で冷凍した。冷凍後に解凍して、サンプルを試食し、評価したところ、実施例1とほぼ同様の結果となった。なお、解凍後のサンプルを試食したときも解凍前のサンプルと同様に歯ごたえを充分に感じられた。
【0075】
<実施例4>
実施例4では蓄肉及び魚介類(ささみ、鶏もも肉、サバ)を用いて、本発明の前処理方法を実施した。具体的には以下の方法で行った。
【0076】
先ず、ささみ、鶏もも肉、サバをカットした。カットしたそれぞれの蓄肉及び魚介類を、海水に浸漬するもの、海洋深層水に浸漬するもの、塩化ナトリウム水溶液に浸漬するもの、の3つのサンプルに分けた。
【0077】
上記のようにして作製した蓄肉等の3つのサンプルを、海洋深層水、塩水、海水に10分浸漬した。浸漬温度の条件は常温(25℃)である。ここで使用した海洋深層水及び海水は塩分濃度が2倍になるように濃縮したものを用い、塩化ナトリウム水溶液は塩分濃度が6.8質量%になるように調整したものを用いた。
【0078】
各サンプルを蒸して加熱した。ささみの加熱は加熱温度100℃、加熱時間5分に設定し、鶏もも肉の加熱は加熱時間100℃、加熱時間20分に設定し、サバの加熱は加熱温度が100℃、加熱時間5分に調整した。
【0079】
加熱後のサンプルを試食した。結果は表1に示す通りであった。
【0080】
【表2】
【0081】
いずれも、水分が抜けており、素材の味が濃くなっているように感じられた。また、海洋深層水を用いて処理したものは味、臭み、くせが少なく、好ましい結果が得られた。塩化ナトリウム水溶液又は海水を用いて処理したものは、やや味が濃く、くせ、臭みがあったが、充分に食用に耐えられるものだった。
【0082】
<実施例5>
実施例4の加熱工程後のサンプルを一般的な冷凍庫で冷凍した。冷凍後に解凍して、サンプルを試食し、評価したところ、実施例4とほぼ同様の結果となった。なお、解凍後のサンプルを試食したときも解凍前のサンプルと同様に歯ごたえを充分に感じられた。
【0083】
<実施例6>
上記の前処理方法を施した生鮮食品を調理したところ、本発明の前処理方法を行わずに調理したものと比較して、味付きが非常に良く、煮崩れも生じにくいことが確認された。
【0084】
<実施例7>
沸騰した湯にコンソメ等を入れ、酒及び塩で味を整えた。得られたコンソメスープに、上記の前処理方法を施したサバを入れ、沸騰させた。再度沸騰した後、上記の前処理方法を施した人参、ゴボウ、マイタケ、長ネギを入れた。さらに沸騰した後、塩、胡椒等で味を整え、上記の前処理方法を施したホウレン草を入れ、沸騰させた。得られた具沢山スープは、コンソメスープの透明感が維持されつつ、生鮮食品特有の味の濃さが保たれており、生鮮食品同士の味がなじんでいた。
【0085】
<実施例8>
実施例8では野菜(人参、ホウレン草、ピーマン、かぼちゃ)を用いて、本発明の前処理方法を実施し、得られた野菜の糖度を測定した。具体的には以下の方法で行った。
【0086】
先ず、人参、ホウレン草、ピーマン、かぼちゃをカットした。カットしたそれぞれの野菜を、表3乃至5記載の条件で浸漬した。浸漬温度はいずれのサンプルについても常温(25℃)である。なお、表中「水」とは、塩水の代わりに塩分を含まない水を使用したことを示す。また、表中の「塩水の種類」の項目における「%」は「質量%」を示す。
【0087】
各サンプルを、表3乃至5記載の条件で蒸して加熱した。
【0088】
加熱後のサンプルを、糖度計(株式会社アタゴ製)を使用して糖度を測定した。結果は表1に示す通りであった。なお、表中の「糖度」の項目における数値の単位は「%」である。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
表3乃至5に示される通り、本発明の前処理方法によって前処理を施された野菜は、前処理を施されていない野菜と比較して総じて糖度が高かった。