(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周にドグ歯(24a)を有して回転軸(13)に相対回転自在に支持されたギヤ(16)と、前記回転軸(13)に結合されたハブ(18)と、前記ハブ(18)に軸方向摺動自在にスプライン結合されたスリーブ(19)と、前記スリーブ(19)の内周に形成された内周スプライン歯(19a)と、前記内周スプライン歯(19a)に噛合可能なドグ歯(20a)を外周に有するとともに、前記ギヤ(16)との摩擦係合を可能にして前記ハブ(18)および該ギヤ(16)間に配置されたブロッキングリング(20)とを備え、前記スリーブ(19)の内周スプライン歯(19a)を前記ブロッキングリング(20)のドグ歯(20a)および前記ギヤ(16)のドグ歯(24a)に噛合させることで、前記ギヤ(16)を前記回転軸(13)に結合するトランスミッションのシンクロ装置であって、
前記スリーブ(19)の外周に形成された外周スプライン歯(19b)と、前記ギヤ(16)に軸方向摺動自在に支持されて前記外周スプライン歯(19b)に噛合可能な案内歯(32c)を有するガイドリング(32)と、前記ガイドリング(32)を前記ハブ(18)に向けて軸方向に付勢する弾性部材(37)とを備え、前記外周スプライン歯(19b)および前記案内歯(32c)間の距離(L1)は前記内周スプライン歯(19a)および前記ギヤ(16)のドグ歯(24a)間の距離(L2)よりも小さく、前記案内歯(32c)の歯先の位相と前記ギヤ(16)のドグ歯(24a)の歯先の位相とは周方向にずれていることを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置。
前記ギヤ(16)のドグ歯(24a)および前記ガイドリング(32)の案内歯(32c)は該ギヤ(16)に対して所定角度相対回転自在であることを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッションのシンクロ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スリーブの位相とギヤの位相との関係は偶然に左右されて自由のコントロールできないため、ブロッキングリングのドグ歯を掻き分けた後のスリーブの内周スプライン歯の歯先の位相が、たまたまギヤのドグ歯の歯先の位相と一致していると両者の歯先が当接してしまい、スリーブの内周スプライン歯がギヤのドグ歯にスムーズに噛合できなくなる場合がある。
【0005】
特に、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)、AMT(オートマチック・マニュアル・トランスミッション)、無段変速機に組み合わされた副変速機等においては、シンクロ装置のスリーブがアクチュエータで駆動されるため、シンクロ装置の係合の失敗によるリトライが繰り返されると、変速応答性の低下やトルク抜けが発生して商品性を著しく低下させる懸念がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、スリーブの内周スプライン歯の歯先とギヤのドグ歯の歯先との当接を回避してシンクロ装置のスムーズな係合を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、外周にドグ歯を有して回転軸に相対回転自在に支持されたギヤと、前記回転軸に結合されたハブと、前記ハブに軸方向摺動自在にスプライン結合されたスリーブと、前記スリーブの内周に形成された内周スプライン歯と、前記内周スプライン歯に噛合可能なドグ歯を外周に有するとともに、前記ギヤとの摩擦係合を可能にして前記ハブおよび該ギヤ間に配置されたブロッキングリングとを備え、前記スリーブの内周スプライン歯を前記ブロッキングリングのドグ歯および前記ギヤのドグ歯に噛合させることで、前記ギヤを前記回転軸に結合するトランスミッションのシンクロ装置であって、前記スリーブの外周に形成された外周スプライン歯と、前記ギヤに軸方向摺動自在に支持されて前記外周スプライン歯に噛合可能な案内歯を有するガイドリングと、前記ガイドリングを前記ハブに向けて軸方向に付勢する弾性部材とを備え、前記外周スプライン歯および前記案内歯間の距離は前記内周スプライン歯および前記ギヤのドグ歯間の距離よりも小さく、前記案内歯の歯先の位相と前記ギヤのドグ歯の歯先の位相とは周方向にずれていることを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ギヤのドグ歯および前記ガイドリングの案内歯は該ギヤに対して所定角度相対回転自在であることを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記弾性部材は複数のコイルスプリングからなることを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第1ギヤ16は本発明のギヤに対応し、実施の形態の第1ブロッキングリング20は本発明のブロッキングリングに対応し、実施の形態の1ブロッキングリング20のドグ歯20aは本発明のブロッキングリングのドグ歯に対応し、実施の形態のドグ歯付きリング24のドグ歯24aは本発明のギヤのドグ歯に対応し、実施の形態のコイルスプリング37は本発明の弾性部材に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、シンクロ装置は、外周にドグ歯を有して回転軸に相対回転自在に支持されたギヤと、回転軸に結合されたハブと、ハブに軸方向摺動自在にスプライン結合されたスリーブと、スリーブの内周に形成された内周スプライン歯と、内周スプライン歯に噛合可能なドグ歯を外周に有するとともに、ギヤとの摩擦係合を可能にしてハブおよび該ギヤ間に配置されたブロッキングリングとを備え、スリーブの内周スプライン歯をブロッキングリングのドグ歯およびギヤのドグ歯に噛合させることで、ギヤを回転軸に結合することができる。
【0012】
シンクロ装置は、更にスリーブの外周に形成された外周スプライン歯と、ギヤに軸方向摺動自在に支持されて外周スプライン歯に噛合可能な案内歯を有するガイドリングと、ガイドリングをハブに向けて軸方向に付勢する弾性部材とを備え、外周スプライン歯および案内歯間の距離は内周スプライン歯およびギヤのドグ歯間の距離よりも小さく、案内歯の歯先の位相とギヤのドグ歯の歯先の位相とは周方向にずれているので、スリーブの内周スプライン歯の歯先の位相とギヤのドグ歯の歯先の位相とが一致している場合でも、外周スプライン歯の歯先の位相とガイドリングの案内歯の歯先の位相とが一致しないため、外周スプライン歯および案内歯の当接により掻き分けトルクを発生させ、内周スプライン歯をギヤのドグ歯にスムーズに噛合させることができる。
【0013】
また外周スプライン歯の歯先の位相とガイドリングの案内歯の歯先の位相とが一致している場合には、外周スプライン歯に案内歯を押されたガイドリングが弾性部材の付勢力に抗して後退するが、このときは内周スプラインの位相とギヤのドグ歯の位相とが一致していないため、内周スプライン歯をギヤのドグ歯にスムーズに噛合させることができる。
【0014】
しかもスリーブは内周スプライン歯とは別個の外周スプライン歯を備えるので、内周スプライン歯および外周スプライン歯に個別の歯先形状を与えてギヤのドグ歯および案内歯の掻き分け特性を向上させることができる。
【0015】
また請求項2の構成によれば、ギヤのドグ歯およびガイドリングの案内歯はギヤに対して所定角度相対回転自在であるので、回転軸に対するギヤのフリクションが大きいためにスリーブの掻き分けトルクではギヤが回転不能な場合であっても、掻き分けトルクでギヤのドグ歯およびガイドリングの案内歯をギヤに対して相対回転させることで、スリーブのスプライン歯をギヤのドグ歯に噛合させることができる。スプライン歯がギヤのドグ歯に噛合した後は、ギヤが伝達する駆動トルクでギヤのドグ歯がギヤに対して限界位置まで所定角度相対回転することで、駆動トルクの伝達は支障なく行われる。
【0016】
また請求3の構成によれば、弾性部材は複数のコイルスプリングからなるので、ガイドリングのストローク特性の設定自由度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1〜
図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1に示すように、ミッションケース11にボールベアリング12を介して中空の回転軸13が回転自在に支持されており、回転軸13の外周にニードルベアリング14,15を介して相対回転自在に支持された第1ギヤ16および第2ギヤ17は、シンクロ装置Sにより回転軸13に選択的に結合可能である。
【0020】
シンクロ装置Sは、第1ギヤ16および第2ギヤ17間で回転軸13にスプライン結合されたハブ18と、ハブ18の外周に軸方向摺動自在にスプライン結合されたスリーブ19と、ハブ18および第1ギヤ16間に配置された第1ブロッキングリング20と、ハブ18および第1ブロッキングリング20間に配置された第1シンクロナイザスプリング21と、ハブ18および第2ギヤ17間に配置された第2ブロッキングリング22と、ハブ18および第2ブロッキングリング22間に配置された第2シンクロナイザスプリング23とを備えており、スリーブ19の右動により第1ギヤ16が回転軸13に結合され、スリーブ19の左動により第2ギヤ17が回転軸13に結合される。
【0021】
シンクロ装置Sの左半部、つまり第2ギヤ17を回転軸13に結合する部分の構造は従来周知のものであり、詳細な説明を省略する。一方、シンクロ装置Sの右半部、つまり第1ギヤ16を回転軸13に結合する部分は新規なものであり、以下に詳細な構造を説明する。
【0022】
図1に示すように、スリーブ19の内周にはハブ18の外周にスプライン嵌合する多数の内周スプライン歯19a…が形成され、またスリーブ19の第1ギヤ16側の外周には多数の外周スプライン歯19b…が形成される。第1ブロッキングリング20の外周にはスリーブ19の内周スプライン歯19a…に係合可能な多数のドグ歯20a…が形成され、第1シンクロナイザスプリング21は、スリーブ19の内周スプライン歯19a…および第1ブロッキングリング20のドグ歯20a…間に配置される。
【0023】
図1〜
図5に示すように、第1ギヤ16は、回転軸13に回転自在に支持されたボス部16aと、ボス部16aから径方向外側に延びるディスク部16bと、ディスク部16bの外周に形成された多数のギヤ歯16c…とを備えており、ディスク部16bには周方向に120゜間隔で配置された3個の円弧状の第1貫通孔16d…と、3個の第1貫通孔16d…の間に配置された3個の円弧状の第2貫通孔16e…とが軸方向に貫通するとともに、第1ギヤ16のハブ18と反対側の側面には2個のスプリング当接部16f,16fおよび2個のスプリング当接部16g,16gが突設される。
【0024】
また第1ギヤ16のボス部16aには第1ブロッキングリング20に形成したコーン面20b(
図1参照)に当接可能なコーン面16h(
図1および
図2参照)が形成されるとともに、第1ギヤ16のハブ18側の側面には6個のストッパ16i…(
図2参照)が突設される。
【0025】
第1ギヤ16のハブ18側の側面に組み付けられるドグ歯付きリング24は、外周に多数のドグ歯24a…が形成された環状部24bと、環状部24bから120°間隔で径方向外側に突出する3個の円弧状の突出部24c…と、突出部24…cの外周に形成されたスプライン歯24d…と、3個の突出部24c…にそれぞれ形成された3個のピン孔24e…とを備える。ドグ歯付きリング24のスプライン歯24d…は第1ギヤ16のストッパ16iに周方向の隙間を介して対峙しており、この隙間の範囲でドグ歯付きリング24は第1ギヤ16に対して相対回転自在である。
【0026】
ドグ歯付きリング24の外周に嵌合するガイドリング32の環状部32aの内周の120°離間した3カ所にスプライン歯32b…が形成されており、このスプライン歯32b…がドグ歯付きリング24のスプライン歯24d…に噛合することで、ドグ歯付きリング24およびガイドリング32は相対回転不能かつ軸方向摺動自在に係合する。環状部32aの内周におけるスプライン歯32b…に挟まれた3カ所に、スリーブ19の外周スプライン歯19b…に噛合可能な案内歯32c…が形成される。案内歯32c…の背面に形成された3個のフランジ32dの第1ギヤ16側の側面に、各2個の突起32e…が突設される。
【0027】
第1ギヤ16のハブ18と反対側の側面には第1固定リング34および第2固定リング35が重ね合わされ、第1固定リング34の3個のピン孔34a…および第2固定リング35の3個のピン孔35a…を貫通する3本のピン36…が、更に第1ギヤ16の3個の円弧状の第1貫通孔16d…と、ドグ歯付きリング24の3個のピン孔34d…とを貫通してカシメられることで、第1固定リング34、第2固定リング35およびドグ歯付きリング24は一体化された状態で、第1貫通孔16d…の周方向長さの範囲で第1ギヤ16に対して相対回転自在に支持される。
【0028】
第1固定リング34の第1ギヤ16側の側面の120°ずつ離間した3カ所に、それぞれ2個の突起34b…が突設される。第1ギヤ16の3個の第2貫通孔16e…を各2本のコイルスプリング37…が圧縮状態で貫通し、これらのコイルスプリング37…の両端はガイドリング32の突起32e…および第1固定リング34の突起34b…に支持される。従って、ガイドリング32は第1ギヤ16およびドグ歯付きリング24に対してハブ18側に向かって付勢される。
【0029】
第1固定リング34に形成した2個のスプリング当接部34c,34cと、第1ギヤ16に形成した2個のスプリング当接部16f,16fとの間に、2個の加速用コイルスプリング27,27の両端が支持され、また第2固定リング35に形成した2個のスプリング当接部35b,35bと、第1ギヤ16に形成した2個のスプリング当接部16g,16gとの間に、2個の減速用コイルスプリング28,28の両端が支持される。従って、第1固定リング34、ガイドリング32、第2固定リング35およびドグ歯付きリング24は加速用コイルスプリング27,27を圧縮しながら第1ギヤ16に対して一方向に相対回転可能であり、かつドグ歯付きリング24、ガイドリング32、第1固定リング34および第2固定リング35は減速用コイルスプリング28,28を圧縮しながら第1ギヤ16に対して他方向に相対回転可能である。
【0030】
ピン36…で一体化されたドグ歯付きリング24、第1固定リング34および第2固定リング35と、ドグ歯付きリング24に相対回転不能かつ軸方向摺動自在に支持されたガイドリング32とは、相互に逆方向に作用する加速用コイルスプリング27,27および減速用コイルスプリング28,28の弾発力により、第1ギヤ16に対して周方向の中立位置に保持される。
【0031】
このとき、
図6および
図7に示すように、ドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先およびガイドリング32の案内歯32c…の歯先は共に片歯形状であり、両者の歯先の斜面は相互に逆方向に傾斜しているため、ドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先の位相と、ガイドリング32の案内歯32c…の歯先の位相とは相互に逆方向にずれている。一方、スリーブ19の内周スプライン歯19a…および外周スプライン歯19b…の歯先は共に通常の三角形の両歯形状であり、内周スプライン歯19a…の歯先の位相と、外周スプライン歯19b…の歯先の位相とは一致している。
【0032】
図1、
図6(A)および
図7(A)に示すように、外周スプライン歯19b…および案内歯32c…間の距離L1は、内周スプライン歯19a…およびドグ歯付きリング24のドグ歯24a…間の距離L2よりも小さく設定されている。これにより、スリーブ19が右動したときに、内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…に接触する前に、外周スプライン歯19b…が案内歯32c…に接触することになる。
【0033】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0034】
先ず、シンクロ装置Sの基本的な同期作用を説明する。
図1において、図示せぬアクチュエータでハブ18に対してスリーブ19を右側に駆動すると、スリーブ19が前進する荷重が第1シンクロナイザスプリング21を介して第1ブロッキングリング20に伝達され、第1ブロッキングリング20が第1ギヤ16に向けて付勢される。スリーブ19が更に前進すると、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先と第1ブロッキングリング20のドグ歯20a…の歯先とが斜面どうしで当接し、かつ第1ギヤ16のコーン面16hと第1ブロッキングリング20のコーン面20bとが接触して摩擦力によるトルクが発生するため、前記トルクにより第1ギヤ16の回転にスリーブ19の回転(つまり回転軸13の回転)が同期し、スリーブ19の内周スプライン歯19a…が第1ブロッキングリング20のドグ歯20a…を掻き分けることが可能になる。
【0035】
スリーブ19が更に前進すると、スリーブ19の内周スプライン歯19a…が第1ブロッキングリング20のドグ歯20a…を掻き分けてスリーブ19および第1ブロッキングリング20が一体に結合され、更にスリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先に斜面どうしで当接する。そしてスリーブ19が更に前進すると、スリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…を掻き分け、最終的にスリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…に係合する。
【0036】
以上のように、回転軸13および第1ギヤ16が相対回転する状態でスリーブ19を駆動しても、第1ギヤ16のコーン面16hと第1ブロッキングリング20のコーン面20bとの間に発生する摩擦力で回転軸13の回転およびスリーブ19の回転を同期させ、内周スプライン歯19a…をドグ歯付きリング24のドグ歯24a…にスムーズに係合して第1ギヤ16を回転軸13に結合することができる。
【0037】
さて、スリーブ19の内周スプライン歯19a…が第1ブロッキングリング20のドグ歯20a…を掻き分け、スリーブ19および第1ギヤ16が同期して同速度で回転するとき、たまたまスリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先とドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先とが周方向に整列していると、
図6(A)に示すように、両者の歯先どうしが当接してスリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…に係合不能になる可能性がある。
【0038】
しかしながら、本実施の形態によれば、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先とドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先が周方向に整列していても、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先はガイドリング32の案内歯32c…の歯先に対して周方向にずれており、かつ外周スプライン歯19b…および案内歯32c…間の距離L1は、内周スプライン歯19a…およびドグ歯付きリング24のドグ歯24a…間の距離L2よりも小さく設定されているため(
図1参照)、
図6(B)に示すように、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先に当接する前に、スリーブ19の外周スプライン歯19b…の歯先がガイドリング32の案内歯32c…の斜面に当接する。
【0039】
その結果、スリーブ19の内周スプライン歯19a…に案内歯32c…の斜面を押されたガイドリング32が回転し、ガイドリング32が組み付けられたドグ歯付きリング24が第1ギヤ16と共に回転するため、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先とドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先との間に周方向のずれが発生し、
図6(C)に示すように、スリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…に係合することが可能となり、シンクロ装置Sの機能が支障なく発生される。
【0040】
また
図7(A)に示すように、たまたまスリーブ19の外周スプライン歯19b…の歯先とガイドリング32の案内歯32c…の歯先とが周方向に整列している場合には、
図7(B)に示すように、前進するスリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先に案内歯32c…の歯先を押されたガイドリング32がダイヤフラムスプリング33を圧縮しながら第1ギヤ16側に後退することで、
図7(C)に示すように、ガイドリング32に邪魔されることなくスリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…に係合することが可能となる。
【0041】
尚、上述したように、たまたまスリーブ19の外周スプライン歯19b…の歯先とガイドリング32の案内歯32c…の歯先とが周方向に整列している場合には、
図7(A)に示すように、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先とドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先とは必ず周方向にずれているため、支障なく係合することができる。
【0042】
このようにして、シンクロ装置Sにより回転軸13に第1ギヤ16が結合された後、第1ギヤ16がトルクを伝達し始めると、車両の加速時には加速用コイルスプリング27,27を圧縮しながらドグ歯付きリング24が第1ギヤ16に対して一方向に相対回転し、ドグ歯付きリング24のスプライン歯24d…が第1ギヤ16のストッパ16i…の周方向一方の内縁に当接することで、加速方向のトルク伝達が開始される。
【0043】
逆に、車両の減速時には減速用コイルスプリング28,28を圧縮しながらドグ歯付きリング24が第1ギヤ16に対して他方向に相対回転し、ドグ歯付きリング24のスプライン歯24d…が第1ギヤ16のストッパ16i…の周方向他方の内縁に当接することで、減速方向のトルク伝達が開始される。
【0044】
シンクロ装置Sが作動解除して第1ギヤ16を回転軸13から切り離すと、第1ギヤ16がトルクを伝達しなくなるため、加速用コイルスプリング27,27および減速用コイルスプリング28,28の弾発力でドグ歯付きリング24が第1ギヤ16に対して中立位置に復帰する。
【0045】
以上のように、本実施の形態によれば、スリーブ19は通常の内周スプライン歯19a…とは別個に、ガイドリング32の案内歯32c…に噛合する専用の外周スプライン歯19b…を備えるので、内周スプライン歯19a…および外周スプライン歯19b…に個別の歯先形状を与えてドグ歯付きリング24のドグ歯24a…およびガイドリング32の案内歯32c…の掻き分け特性を向上させることができる。
【0046】
またガイドリング32をハブ18側に向けて付勢する弾性部材を複数のコイルスプリング37…で構成したので、コイルスプリング37…の本数や直径を変更するだけで、ガイドリング32のストローク特性を容易に変更することが可能になって設定自由度が向上する。
【0047】
ところで、変速機に設けられた摩擦クラッチや摩擦ブレーキが完全に係合解除せずに引きずりトルクを発生していると、シンクロ装置Sが係合解除した状態であっても、回転軸13および第1ギヤ16が自由に相対回転できず、前記引きずりトルクにより相対回転を抑制される場合がある。
【0048】
具体的には、シンクロ装置Sのスリーブ19の内周スプライン歯19a…が第1ブロッキングリング20のドグ歯20a…を掻き分けた後に、更にドグ歯付きリング24のドグ歯24a…を掻き分けるとき、スリーブ19の内周スプライン歯19a…の歯先とドグ歯付きリング24のドグ歯24a…の歯先とが当接しなくても、前記引きずりトルクにより回転軸13および第1ギヤ16が自由に相対回転できないため、スリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…をスムーズに掻き分けることができず、シンクロ装置Sのスムーズな係合が阻害される可能性がある。
【0049】
しかしながら、本実施の形態によれば、引きずりトルクにより回転軸13および第1ギヤ16が自由に相対回転できない状態でスリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…を掻き分けるとき、加速用コイルスプリング27,27あるいは減速用コイルスプリング28,28を圧縮しながら第1ギヤ16に対してドグ歯付きリング24が相対回転することで、スリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…を掻き分けることが可能となり、シンクロ装置Sの完全な係合が確保される。
【0050】
第1ギヤ16に対してドグ歯付きリング24が相対回転するとき、その相対回転の方向は、スリーブ19の内周スプライン歯19a…とドグ歯付きリング24のドグ歯24a…とが周方向の何れの側の斜面で当接するかにより決定される。
【0051】
このようにしてスリーブ19の内周スプライン歯19a…がドグ歯付きリング24のドグ歯24a…を掻き分けた後は、加速用コイルスプリング27,27あるいは車両の減速時には減速用コイルスプリング28,28を圧縮しながらドグ歯付きリング24が第1ギヤ16に対して相対回転し、ドグ歯付きリング24のスプライン歯24d…が第1ギヤ16のストッパ16i…に当接することで、トルク伝達が開始される。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0053】
例えば、実施の形態ではドグ歯付きリング24およびガイドリング32が第1ギヤ16に相対回転自在に支持されているが、ドグ歯付きリング24およびガイドリング32は第1ギヤ16に対して相対回転不能であっても良い。