【文献】
Tohru Oka et al.,Low turn-on voltage GaAs heterojunction bipolar transistors with a pseudomorphic GaAsSb base,Applied Physics Letters,2001年 1月22日,Vol.78, No.4,p.483-485
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1ベース層と第2ベース層の接合の前の状態で、第1ベース層の価電子帯上端のエネルギーから第2ベース層の価電子帯上端のエネルギーを差し引いた値から、第1ベース層の伝導帯下端のエネルギーから第2ベース層の伝導帯下端のエネルギーを差し引いた値、を差し引いた値が正の値を示す、
請求項1に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。即ち、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形(各実施例を組み合わせる等)して実施することができる。また、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るダブルヘテロ接合バイポーラトランジスタ(DHBT)は、主として、基板上にコレクタ層、ベース層、及びエミッタ層を備え、コレクタ層とベース層、及び、ベース層とエミッタ層がそれぞれへテロ接合されて構成されている。このDHBTは、シングルヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下、SHBTと称す。)に比べてオフセット電圧の低減が図られている。
【0014】
<構造>
まず、第1実施形態に係るDHBTの構造について説明する。
図1は第1実施形態に係るDHBT10Aの平面図であり、
図2は
図1のI−I断面図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、第1実施形態に係るDHBT10Aでは、基板12上に、サブコレクタ層14が形成される。このサブコレクタ層14上に、コレクタ層16、単層の第1ベース層18Aと単層の第2ベース層18Bで構成されるベース層18、エミッタ層20の各層が形成される。これらコレクタ層16と第1ベース層18Aの接合は、ヘテロ接合17とされている。また、第2ベース層18Bとエミッタ層20の接合も、ヘテロ接合19とされている。このエミッタ層20を介して、ベース電極22が配置される。また、エミッタ層20上には、例えば2層構造のコンタクト層24が設けられている。
【0016】
コンタクト層24上にはエミッタ電極26が、サブコレクタ層14上にはコレクタ電極28がそれぞれ配置される。コレクタ電極28は、コレクタ配線30を介して金属パッド32と接続されている(
図1参照)。ベース電極22は、ベース配線34を介して金属パッド36と接続されている(
図1参照)。エミッタ電極26は、エミッタ配線38を介して金属パッド40と接続している。この金属パッド40とコレクタ電極28の間には、アイソレーション溝42が形成されている。また、金属パッド32,36,40は、
DHBT10
Aの外部と電気的接続のために用いられる。
【0017】
なお、以上に説明したDHBT10Aの構造は、一例であって限定されるものではない。
【0018】
例えば、DHBT10Aにおいて、後述するように基板12とサブコレクタ層14の材料が異なる場合、基板12とサブコレクタ層14の間には、単層又は多層のバッファー層が設けられてもよい。例えば、
図3に示すDHBT10Bのように、基板12とサブコレクタ層14の間には、基板12側から順に第1バッファー層50A、第2バッファー層50B、及び第3バッファー層50Cの3層のバッファー層50が設けられてもよい。
【0019】
また、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bは、単層でなく少なくとも一方が多層で構成されてもよい。例えば、
図4に示すDHBT10Cのように、第2ベース層18Bがコレクタ層16側から順に第1層18Cと第2層18Dの2層で構成されてもよい。
【0020】
また、エミッタ層20とコンタクト層24の間には、図示しない単層又は多層の所謂バラスト抵抗層が設けられてもよい。
【0021】
<各構成の説明>
次に、以上の構造を備えたDHBT10Aの各構成の材料やバンド構造等について説明する。
【0022】
基板12は、特に限定されないが、半絶縁性材料や半導体材料を主成分として含有していることが好ましい。半絶縁性としては例えばGaAsやInP、SiC、GaN等が挙げられ、半導体材料としては例えばSiが挙げられる。そして、これらの中でも、InP等に比べて安価で大口径化が容易なGaAs又はSiを主成分として含有していることが好ましい。さらに、GaAsよりも安価で大口径化が容易なSiを主成分として含有していることが好ましい。なお、「主成分」とは、ある基板又はある層全体に占める主成分となる材料の割合が80質量%以上であることをいう。したがって、基板12は、主成分以外にも不純物を20質量%未満ならば含有してもよい。ただし、半絶縁性という特性を保つという観点や低コスト化という観点からは、不純物が少ない方が好ましい。
【0023】
仮に基板12の材料としてSiを用いる場合は、後述するコレクタ層16と材料(GaAs)が異なり格子定数も異なる。したがって、例えば
図3に示すように、基板12とコレクタ層16との間に、それぞれアンドープのGaAsを構成材料とした、第1バッファー層50A(例えば膜厚20nm)、第2バッファー層50B(例えば膜厚0.7μm)、及び第3バッファー層50C(例えば膜厚1μm)を設けることが好ましい。
【0024】
サブコレクタ層14の材料は、特に限定されないが、例えばn型GaAs(Si濃度5×10
18cm
−3)である。サブコレクタ層14の膜厚も、特に限定されないが、例えば0.6μmである。
【0025】
コレクタ層16は、コレクタ層16の材料として従来から使用されているInPよりも安価で低コスト化できるGaAsを主成分とした半導体で構成されている。また、コレクタ層16の半導体は、GaAs以外にも不純物(後述するドーパントを含む)を20質量%未満ならば含有してもよい。また、GaAsの組成比は完全に1:1でなくてもよく、0.01程度ならば1:1からずれてもよい。
【0026】
なお、従来のコレクタ層の主成分として使用されている材料には、InP以外にも秩序化InGaPがある。しかし、この秩序化InGaPは、秩序化させるためにエピタキシャル成長において特定の結晶成長温度範囲に制御する必要があり、高度な制御技術を必要とするため工業的な観点でコストダウンが難しい。
【0027】
これに対し、コレクタ層16はGaAsを主成分とした半導体で構成されており、InGaPを主成分とするよりも、エピタキシャル成長する際の高度な制御技術を必要としない。したがって、InGaPよりも低コスト化できる。
また、コレクタ層16の主成分とされるGaAsは、従来から使用されている秩序化InGaPに比べて熱伝導率が良いため、コレクタ層16側への放熱性が向上し、高温動作或いは高出力動作でのトランジスタ特性が改善するという効果もある。
【0028】
なお、GaAsを含有するコレクタ層16全体は、n型半導体であっても、p型半導体であってもよい。コレクタ層16がn型半導体である場合は、DHBT10
Aはnpn接合となる。また、コレクタ層16がp型半導体である場合は、DHBT10
Aはpnp接合となる。ただし、GaAsは、電子移動度よりもホール移動度が非常に低いため(電子移動度は約0.85m
2/(V s)、ホール移動度は約0.04m
2/(V s)である。)pnp接合より周波数特性が良いという観点から、n型半導体である方が好ましい。なお、コレクタ層16をn型にするためには、コレクタ層16にSiやS,Se,Te、Sn等のドーパントをドープする。また、コレクタ層16をp型にするためには、コレクタ層16にCやMg,Be,Zn,Cd等のドーパントをドープする。
【0029】
このコレクタ層16と第1ベース層18Aとのヘテロ接合17のタイプは、所謂「タイプI」、「タイプII」及び「タイプIII」と呼ばれるもののうち、いずれであってもよい。この接合タイプの判定は、CV(Capacitance-Voltage)法やPL(photoluminescence)法により行うことができる。この接合タイプは、好ましくは、コレクタ層16と第1ベース層18Aとの間の電子に対するエネルギー障壁を抑制するという観点(例えば
図8Aの伝導帯下端のエネルギーEc参照)から、所謂「タイプII」と呼ばれるものがよい。
一方で、エミッタ層20と第2ベース層18Bとのヘテロ接合19のタイプは、所謂「タイプI」、「タイプII」及び「タイプIII」と呼ばれるもののうち、いずれであってもよい。この接合タイプは、好ましくは、電子の走行が速くなるという観点(例えば
図8Aの伝導帯下端のエネルギーEc参照)から、所謂「タイプI」と呼ばれるものがよい。
【0030】
ベース層18は、DHBT10Aを例えば移動体通信用のパワーアンプに用いる場合、そのシート抵抗値が、高周波ノイズ抑制の観点から、200Ω/square以下であることが好ましい。このシート抵抗値を200Ω/square以下とするには、ベース層18の膜厚をシート抵抗値が200Ω/square以下となる膜厚まで厚くすればよい。
【0031】
ベース層18の第1ベース層18Aは、コレクタ層16の主成分(GaAs)と格子不整合する材料を主成分とした半導体で構成されている。なお、本実施形態の「格子整合」とは、2つの材料の格子定数が完全一致する場合だけでなく、2つの材料の格子定数差が無視できる程度の歪みが生じ得る±0.13%以内の場合も含むものとする。すなわち、ベース層18の半導体は、上述した「格子整合」の定義により、GaAsの格子定数である約5.653Åと±0.13%以外の差の格子定数(5.645Å未満又は5.660Å超)を有した材料が第1ベース層18Aの主成分としている。
【0032】
上記条件を満たす主成分としては、特に限定されないが、例えばGaSb
xAs
1−x(xはSbの組成比で、x>0)が挙げられる。主成分がGaSb
xAs
1−xであるときは、
図5に示すように、Sbの組成比xがごく僅かな場合(例えばxが0.01以下の場合)を除き、GaAsとの格子定数差が+0.13%超となるからである。
【0033】
第1ベース層18Aの膜厚は、第1ベース層18Aの結晶中、特に第1ベース層18Aとコレクタ層16との界面に、ミスフィット
転位が導入される臨界膜厚未満とされている。
【0034】
例えば、第1ベース層18Aの主成分がGaSb
xAs
1−xの場合、
図6に示すように、臨界膜厚T1は、T1=4.26x
−1.21(nm)で表される。したがって、この場合、第1ベース層18Aの膜厚は、T1=4.26x
−1.21(nm)未満とされる。
【0035】
このように、本実施形態では、第1ベース層18Aの膜厚が臨界膜厚T1未満なので、第1ベース層18Aの結晶中にミスフィット
転位が導入されない。
【0036】
ここで、上述したようにシート抵抗値が200Ω/square以下となるベース層18の膜厚を確保するためには、第1ベース層18Aの臨界膜厚T1以上必要となる場合がある。例えば参考例として、GaSb
0.1As
0.9の層(C濃度4×10
19cm
−3)のみでDHBTのベース層を形成しようとした場合、200Ω/square以下のシート抵抗値を実現するためには140nm以上の膜厚が必要となる。しかしながら、参考例ではGaAsのコレクタ層とGaSb
0.1As
0.9のベース層との格子定数差が約1%存在するため、ベース層の膜厚が70nmを超えると結晶中にミスフィット転位が導入されて電気的特性及び信頼性を極端に悪化させる。
【0037】
これに対し、本実施形態に係るDHBT10Aでは、第1ベース層18Aの膜厚を臨界膜厚T1未満とすることで、ミスフィット転位の導入を抑制(回避)し、電気的特性及び信頼性の劣化抑制ができる。これにより、本実施形態に係るDHBT10Aでは、上記低コスト化と、電気的特性及び信頼性の劣化抑制を両立させることができる。
【0038】
また、シート抵抗値が200Ω/square以下となるベース層18の膜厚を確保する場合には、第1ベース層18Aの膜厚を臨界膜厚T1未満としつつ、後述する第2ベース層18Bの膜厚を厚くすることで対応が可能となる。これにより、本実施形態に係るDHBT10Aでは、ミスフィット
転位の導入を抑制し、且つ、200Ω/square以下のシート抵抗を実現することができる。
【0039】
ベース層18の第2ベース層18Bは、第1ベース層18Aと接合され、第1ベース層18Aとは逆に、コレクタ層16の主成分(GaAs)と格子整合する材料を主成分として含有している。すなわち、上述した「格子整合」の定義により、GaAsの格子定数である約5.653Åと±0.13%以内の差の格子定数(5.645Å以上5.660Å以下)を有した材料が第2ベース層18Bの主成分とされている。
【0040】
上記条件を満たす主成分としては、特に限定されないが、例えばコレクタ層16の主成分と同じGaAsや格子定数が約5.653
Å以上5.660
Å未満であるAl
yGa
1-yAs等が挙げられる(ただし、yはAlの組成比であり、y>0)。また、第2ベース層18Bの主成分は、ターンオン電圧のバラツキが改善され歩留まりが向上できるという観点から、3元混晶の材料(例えばAlGaAs)よりも2元混晶の材料(例えばGaAs)であることが好ましい。なぜなら、DHBT10Aのターンオン電圧はエミッタ層20と接する第2ベース層18Bのバンドギャップエネルギーにより決まるからである。より具体的に、主成分が例えばAlGaAsの3元混晶の材料だと、III族元素であるAlとGaの濃度比によりバンドギャップエネルギーが変化し、そのバラツキはエピタキシャル成長技術の制御性に依存してしまうが、主成分が例えばGaAsの2元混晶の材料だと、III族元素はGaのみでありバンドギャップエネルギーのバラツキが基本的に無いからである。
【0041】
なお、特許文献1のDHBTでは、コレクタ層の材料に格子定数が約5.869ÅであるInPを使用し、格子定数が約5.9189ÅであるGaSb
0.6As
0.4の第1ベース層を使用している。
【0042】
しかしながら、InPは、コレクタ層の材料として使われるGaAsに比べて高価であり、DHBTの低コスト化が困難であるという問題がある。
【0043】
仮に特許文献1のDHBTにおいてコレクタ層の材料として安価なGaAsを使用すると、GaAsの格子定数が約5.653Åなので、コレクタ層と第1ベース層との格子定数差が約4.7%となり、上記0.13%よりも大きくなる。この結果、コレクタ層上に形成される第1ベース層がコレクタ層と格子不整合して、第1ベース層の結晶が歪んでしまう。同様に、コレクタ層の材料としてGaAsを使用すると、コレクタ層と、格子定数が約5.86ÅであるInGaAsの第2ベース層との格子定数差が約3.6%となり、上記0.13%よりも大きくなる。この結果、コレクタ層上に第1ベース層を介して形成される第2ベース層がコレクタ層と格子不整合して、第2ベース層の結晶も歪んでしまう。
【0044】
一方で、本実施形態では、コレクタ層16と格子不整合する第1ベース層18Aと、コレクタ層16と格子整合する第2ベース層18Bとを有しているため、第2ベース層18Bには臨界膜厚T1がなく、上述したように、シート抵抗値が例えば200Ω/square以下となるベース層18の膜厚を確保する場合には、第1ベース層18
Aの膜厚を臨界膜厚T1
未満としつつ、後述する第2ベース層18Bの膜厚を厚くすることができるようになる。
【0045】
次に、コレクタ層16、第1ベース層18A、第2ベース層18B及びエミッタ層20の各層のバンド構造について説明する。
図7は、本実施形態に係るDHBT10Aのコレクタ層16、第1ベース層18A、第2ベース層18B及びエミッタ層20の各層の接合前の熱平衡状態における各層のエネルギーバンド構造模式図である。また
図8Aは、本実施形態に係るDHBT10Aのコレクタ層16、第1ベース層18A、第2ベース層18B及びエミッタ層20の各層の接合後の状態における各層のエネルギーバンド構造模式図である。また
図8Bは、
図8Aに示すベース層18におけるエネルギーバンド構造模式図の拡大説明図である。また
図23は、従来技術(上記特許文献1)のDHBTにおいて、GaSbAsからなる第1ベース層とInGaAsからなる第2ベース層で構成されたベース層におけるエネルギーバンド模式図である。
【0046】
なお、
図7及び
図8中の符号は以下の意味を示す。
「Ec」:DHBTのバンド構造における伝導帯下端のエネルギー
「Ev」:DHBTのバンド構造における価電子帯上端のエネルギー
「Ecc」:コレクタ層16の伝導帯下端のエネルギー
「Ecb1」:第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギー
「Ecb2」:第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギー
「Ece」:エミッタ層20の伝導帯下端のエネルギー
「Evc」:コレクタ層16の価電子帯上端のエネルギー
「Evb1」:第1ベース層18Aの価電子帯上端のエネルギー
「Evb2」:第2ベース層18Bの価電子帯上端のエネルギー
「Eve」:エミッタ層20の価電子帯上端のエネルギー
【0047】
従来技術のnpn接合のDHBTでは、
図23に示すように、伝導帯下端エネルギーEcにおいて、エミッタ層20からベース層18に流れる電子に対して、第1ベース層と第2ベース層の界面には、エネルギー障壁60が存在している。電子は、トンネリングによりこのエネルギー障壁60を通過するが、トンネル確率の割合で走行が妨げられる電子が存在する。この結果、エネルギー障壁60が電子の走行を阻害してしまう。
【0048】
本実施形態のDHBT10Aでは、特に各層のバンド構造に限定はないが、npn接合である場合、
図7に示すように、第2ベース層18Bは、第1ベース層18Aとの接合の前の熱平衡状態で、第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2が、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1から室温(300K)での自由電子の持つ熱エネルギー分(0.026eV)差し引いた値E0以上に高い値を示すことが好ましい(Ecb2≧E0=Ecb1−0.026)。これにより、
図8A及び
図8Bに示すように、伝導帯下端エネルギーEcにおいて、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの界面62に、エミッタ層20からベース層18に流れる電子64に対するエネルギー障壁60を無くす又は電子の走行に問題のない程度のエネルギー障壁60とすることができるからである。
【0049】
なお、エネルギー障壁60を無くすには、第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2が、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1以上に高い値を示すように、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの材料を適宜選択すればよい。
このような条件を満たす一例として、他の実施形態で説明するが例えば、
図9、
図10A及び
図12Bに示すように、第1ベース層18Aの材料(主成分)としてGaSb
xAs
1−xを選択し、第2ベース層18Bの材料(主成分)としてAl
yGa
1−yAsを選択すればよい。
【0050】
また、電子の走行に問題のない程度のエネルギー障壁60とするためには、第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2が、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1から室温での自由電子の持つ熱エネルギー分(0.026eV)差し引いた値E0以上に高く、且つ、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1よりも低い値を示すように、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの材料を適宜選択すればよい。第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2が上記E0以上に高いと、電子64が室温での熱によって簡単にエネルギー障壁を乗り越えることができるからである。
【0051】
このような条件を満たす一例として、他の実施形態で説明するが例えば、
図11、
図12A及び
図12Bに示すように、第1ベース層18Aの材料(主成分)としてGaSb
xAs
1−xを選択し、第2ベース層18Bの材料(主成分)としてGaAsを選択すればよい。
【0052】
以上のように、界面62のエネルギー障壁60を無くす又は電子の走行に問題のない程度のエネルギー障壁60とすれば、電子の高速走行が可能となり、DHBT10Aの高速化を図ることができる。
【0053】
このDHBT10Aの高速化を図る別の手段及び高速化をさらに図る手段としては、
図7に示すように、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの接合の前の熱平衡状態で、第1ベース層18Aの価電子帯上端のエネルギーEvb1から第2ベース層18Bの価電子帯上端のエネルギーEvb2を差し引いた値ΔEv2から、第1ベース層18Aの伝導
帯下端のエネルギーEcb1から第2ベース層18Bの伝導
帯下端のエネルギーEcb2を差し引いた値ΔEc2、を差し引いた値ΔEv2−ΔEc2が正の値を示すように、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの材料を適宜選択すればよい。
【0054】
このようにすれば、
図8Bに示すように、伝導帯下端エネルギーEcにおいて、第1ベース層と第2ベース層の界面62に、エネルギー段差66が存在するようになる。このエネルギー段差66は、電子に対する内部電界を発生させるため電子を加速し、さらなるDHBT10Aの高速化を実現することができる。
【0055】
他にも、DHBT10Aの高速化を図る別の手段及び高速化をさらに図る手段としては、ベース層18のキャリア濃度を電子又は正孔の流れる方向に向かって小さくなる分布を示すようにすることが挙げられる。例えばDHBT10Aがnpn接合の場合には、第1ベース層18A及び第2ベース層18Bの少なくとも一方のキャリア濃度を、電子の流れる方向であるエミッタ層20側からコレクタ層16側に向かって小さくなる分布を示すようにする。また例えばDHBT10Aがpnp接合の場合には、第1ベース層18A及び第2ベース層18Bの少なくとも一方のキャリア濃度を、正孔の流れる方向であるコレクタ層16側からエミッタ層20側に向かって小さくなる分布を示すようにする。
【0056】
なお、具体的なキャリア濃度の分布の仕方については、他の実施形態で例示する。
【0057】
図2に戻って、エミッタ層20の材料は、半導体であれば特に限定されない。ただし、エミッタ層20は、第2ベース層18Bとヘテロ接合されるため、第2ベース層18Bの主成分と格子整合する材料を主成分とした半導体で構成されることが好ましい。具体的には、第2ベース層18Bの半導体がAl
yGa
1−yAs又はGaAsを主成分としている場合、InGaP又はAl
yGa
1−yAsを主成分とした半導体で構成されていることが好ましい。ただし、ヘテロ接合を前提としているため、両者の主成分は同一とはならない。
【0058】
ベース電極22、エミッタ電極26、コレクタ電極28の材料は、特に限定されないが、例えばTi/Pt/Au、WSi、又はAuGe/Ni/Au等である。
【0059】
<主な効果>
以上、本発明の第1実施形態に係るDHBT10Aによれば、コレクタ層16の主成分をGaAsとすることで、DHBT10Aの低コスト化を図ることができる。また、DHBT10Aによれば、第1ベース層18Aの膜厚を臨界膜厚T1未満とすることで、電気的特性及び信頼性の劣化抑制ができる。これにより、DHBT10Aでは、低コスト化と、電気的特性及び信頼性の劣化抑制を両立させることができる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るDHBTについて説明する。
【0061】
本発明の第2実施形態に係るDHBTは、第1実施形態で説明した
図2に示すDHBT10Aの具体例である。
【0062】
本第2実施形態に係るDHBT10Aは、エミッタサイズが3μm×20μmの矩形エミッタを用いたnpn接合のトランジスタである。
【0063】
本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、基板12は、GaAsで構成されている。サブコレクタ層14は、n型GaAs (Siドーピング濃度5×10
18cm
−3、膜厚0.6μm)で構成されている。なお、図示してないが、本第2実施形態では、基板12とサブコレクタ層14との間には、アンドープGaAsで構成されたバッファー層(膜厚1μm)が設けられている。
【0064】
コレクタ層16は、n型GaAs(Siドーピング濃度1×10
16cm
−3、膜厚1.0μm)で構成されている。第1ベース層18Aは、p型GaSb
0.1As
0.9(Cドーピング濃度4×10
19cm
−3、膜厚50nm)で構成されている。第2ベース層18Bは、p型GaAs(Cドーピング濃度4×10
19cm
−3、膜厚100nm)で構成されている。エミッタ層20は、n型In
0.5Ga
0.5P(Si濃度3×10
17cm
−3、膜厚30nm)で構成されている。
【0065】
コンタクト層24Aは、n型GaAsコンタクト層(Si濃度1×10
19cm
−3、膜厚50nm)で構成されている。コンタクト層24Bは、n型InGa
0.5As
0.5(Si濃度1×10
19cm
−3、膜厚50nm)で構成されている。コレクタ電極28は、AuGe(膜厚60nm)/Ni(膜厚10nm)/Au(膜厚200nm)を積層して構成されている。ベース電極22は、Ti(膜厚50nm)/Pt(膜厚50nm)/Au(膜厚200nm)を積層して構成されている。
【0066】
以上、本第2実施形態に係るDHBT10Aによれば、コレクタ層16がn型GaAsで構成されているため、InPや秩序化InGaPで構成する場合に比べて、DHBT10Aの低コスト化を図ることができる。
【0067】
また、第1ベース層18Aがコレクタ層16のGaAsと格子不整合するp型GaSb
0.1As
0.9で構成されている。この臨界膜厚T1は、
図6に示すように、T1=4.26x
-1.21(nm)で表されるため、xに0.1を代入すると、69.089nmである。第1ベース層18Aの膜厚は50nmとされているため、臨界膜厚T1=69.089nm未満である。したがって、第1ベース層18Aがコレクタ層16のGaAsと格子不整合するp型GaSb
0.1As
0.9で構成されても、第1ベース層18Aの結晶中にはミスフィット
転位が導入されず、電気的特性及び信頼性の劣化抑制ができる。
【0068】
この結果、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、低コスト化と、電気的特性及び信頼性の劣化抑制を両立させることができる。また、エミッタ層20と接する第2ベース層18BがGaAsで構成されているため、3元混晶の材料(例えばAlGaAs)よりも、ターンオン電圧のバラツキが改善され歩留まりが向上できる。さらに、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、第1ベース層18Aの膜厚を臨界膜厚T1
未満としつつ、コレクタ層16のGaAsと格子整合するp型GaAsで構成された第2ベース層18Bの膜厚を100nmと厚くしている。これにより、ミスフィット
転位の導入を抑制し、且つ、高周波ノイズ抑制の観点から望まれる200Ω/square以下、具体的には188Ω/squareのシート抵抗を実現することができる。
【0069】
また、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、npn接合なので、エミッタ層20側からコレクタ層側16に向かって電子64が流れる。ここで、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、第1ベース層18Aの材料としてGaSbxAs1−xを選択し、第2ベース層18Bの材料としてGaAsを選択している。したがって、
図11に示すように、第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2が、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1から室温での自由電子の持つ熱エネルギー分(0.026eV)差し引いた値E0以上に高く、且つ、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1よりも低い値を示す。
【0070】
この結果、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、
図12A及び
図12Bに示すように、伝導帯下端のエネルギーEcにおける第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの界面62には、電子の走行に問題のない程度のエネルギー障壁60が存在するようになる。このエネルギー障壁60は、室温での自由電子の持つ熱エネルギー分よりも低い0.016eVなので、エミッタ層20側から流れる電子64が室温での熱によって簡単にエネルギー障壁60を乗り越えることができるからである。これにより、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、電子64の高速走行が可能となり、DHBT10Aの高速化を図ることができる。
【0071】
また、本第2実施形態に係るDHBT10Aでは、
図11に示すように、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの接合の前の熱平衡状態で、第1ベース層18Aの価電子帯上端のエネルギーEvb1から第2ベース層18Bの価電子帯上端のエネルギーEvb2を差し引いた値ΔEv2(0.18eV)から、第1ベース層18Aの伝導
帯下端のエネルギーEcb1から第2ベース層18Bの伝導
帯下端のエネルギーEcb2を差し引いた値ΔEc2(0.016eV)、を差し引いた値ΔEv2−ΔEc2が正の値(0.18−0.016=0.164>0)を示す。
【0072】
このようにすれば、
図12Bに示すように、伝導帯下端エネルギーEcにおいて、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの界面62に、約0.16eVのエネルギー段差66が存在するようになる。このエネルギー段差66は、電子64に対する内部電界を発生させるため電子64を加速し、さらなるDHBT10Aの高速化を実現することができる。
【0073】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るDHBTについて説明する。
【0074】
本発明の第3実施形態に係るDHBTは、第1実施形態で説明した
図2に示すDHBT10Aの第2実施形態とは異なる他の具体例である。
【0075】
本第3実施形態に係るDHBT10Aの各構成は、第2ベース層18Bの材料を除き、第2実施形態の各構成と同様である。
【0076】
本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、第2ベース層18Bは、p型Al
0.05Ga
0.95As(Cドーピング濃度4×10
19cm
−3、膜厚100nm)で構成されている。
【0077】
以上、本第3実施形態に係るDHBT10Aによれば、コレクタ層16がn型GaAsで構成されているため、第2実施形態と同様に、DHBT10Aの低コスト化を図ることができる。また、第1ベース層18Aがコレクタ層16のGaAsと格子不整合するp型GaSb
0.1As
0.9で構成されているため、第2実施形態と同様に、電気的特性及び信頼性の劣化抑制ができる。この結果、本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、低コスト化と、電気的特性及び信頼性の劣化抑制を両立させることができる。
【0078】
本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、第2実施形態と同様、高周波ノイズ抑制の観点から望まれる200Ω/square以下、具体的には197Ω/squareのシート抵抗を実現することができる。
【0079】
また、本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、第1ベース層18Aの材料としてGaSb
xAs
1−xを選択し、第2ベース層18Bの材料としてp型Al
0.05Ga
0.95Asを選択している。したがって、
図9に示すように、第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2が、値E0以上に高く、且つ、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1よりも高い値を示す。
【0080】
この結果、本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、
図10A及び
図10Bに示すように、伝導帯下端のエネルギーEcにおける第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの界面62には、本第2実施形態と異なりエネルギー障壁60が存在しなくなる。これにより、本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、エミッタ層20側から流れる電子64の高速走行が可能となり、DHBT10Aの高速化を図ることができる。
【0081】
また、本第3実施形態に係るDHBT10Aでは、
図9に示すように、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの接合の前の熱平衡状態で、第1ベース層18Aの価電子帯上端のエネルギーEvb1から第2ベース層18Bの価電子帯上端のエネルギーEvb2を差し引いた値ΔEv2(0.20eV)から、第1ベース層18Aの伝導帯下端のエネルギーEcb1から第2ベース層18Bの伝導帯下端のエネルギーEcb2を差し引いた値ΔEc2(−0.024eV)、を差し引いた値ΔEv2−ΔEc2が正の値(0.20+0.024=0.224>0)を示す。
【0082】
このようにすれば、
図10Bに示すように、伝導帯下端エネルギーEcにおいて、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの界面62に、約0.22eVのエネルギー段差66が存在するようになる。このエネルギー段差66は、電子64に対する内部電界を発生させるため電子64を加速し、さらなるDHBT10Aの高速化を実現することができる。
【0083】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るDHBTについて説明する。
【0084】
本発明の第4実施形態に係るDHBTは、第1実施形態で説明した
図2に示すDHBT10Aの第2及び第3実施形態とは異なる他の具体例である。
【0085】
本第4実施形態に係るDHBT10Aの各構成は、第1ベース層18Aの組成比を除き、第2実施形態の各構成と同様である。
【0086】
本第4実施形態の第1ベース層18Aは、GaSb
xAs
1−xで構成されており、
図13Aに示すように、第1ベース層18A内のSbの組成比xに対して、電子の流れる方向であるエミッタ層20側からコレクタ層16側に向かって大きくなる分布を示すようにする。より具体的には、第1ベース層18Aがコレクタ層16に接する部分でxを0.1とし、第1ベース層18Aが第2ベース層18Bに接する部分でxを0とし、その間のxを直線的に変化させている。
【0087】
以上、本第4実施形態に係るDHBT10Aによれば、第2実施形態と同様の効果が得られる他、
図13Bに示すように、第1ベース層18A内では伝導帯下端のエネルギーEcが、エミッタ層20側(第2ベース層18B側)からコレクタ層16側に向かって徐々に低くなる傾斜70Aを有した構造となる。この伝導帯下端のエネルギーEcにおける傾斜70Aは、電子64に対する内部電界として働くため、電子64は第1ベース層18A内でさらに加速され、DHBT10Aの高速化が実現できる。
【0088】
なお、本第4実施形態では、第1ベース層18
A中のSbの組成比xを直線的に変化させた例を説明したが、組成比xがエミッタ層20側からコレクタ層16側に向かって大きくなる分布を示すのであれば、どのような変化のさせ方でもよい。例えば、組成比xを、
図14Aに示すようにステップ的に変化させてもよい。他にも、組成比xを、
図14Bに示すように、円弧状のような曲線的に変化させてもよい。また他にも、組成比xを、
図14Cに示すように、2次関数のような曲線的に変化させてもよい。
【0089】
また、第1ベース層18Aがコレクタ層16に接する部分でxを0.1とし、第1ベース層18Aが第2ベース層18Bに接する部分でxを0として説明したが、xの値はこの限りではない。
【0090】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係るDHBTについて説明する。
【0091】
本発明の第5実施形態に係るDHBTは、第1実施形態で説明した
図2に示すDHBT10Aの第2及び第3実施形態とは異なる他の具体例である。
【0092】
本第5実施形態に係るDHBT10Aの各構成は、第1ベース層18A及び第2ベース層18BのCドーピング濃度(キャリア濃度)を除き、第2実施形態の各構成と同様である。
【0093】
本第5実施形態の第1ベース層18A及び第2ベース層18Bにおいては、
図15Aに示すように、Cドーピング濃度に対して、電子の流れる方向であるエミッタ層20側からコレクタ層16側に向かって小さくなる分布を示すようにする。より具体的には、第1ベース層18Aがコレクタ層16に接する部分でCドーピング濃度を4×10
19cm
−3とし、第2ベース層18Bがエミッタ層20に接する部分でCドーピング濃度を5×10
19cm
−3とし、その間のCドーピング濃度を直線的に変化させている。
【0094】
以上、本第
5実施形態に係るDHBT10Aによれば、第2実施形態と同様の効果が得られる他、
図15Bに示すように、第1ベース層18A内及び第2ベース層18B内では伝導帯下端のエネルギーEcが、エミッタ層20側からコレクタ層16側に向かって徐々に低くなる傾斜70Bを有した構造となる。この伝導帯下端のエネルギーEcにおける傾斜70Bは、電子64に対する内部電界として働くため、電子64は第2ベース層18B内及び第1ベース層18A内でさらに加速され、DHBT10Aの高速化が実現できる。
【0095】
なお、本第5実施形態では、第1ベース層18A及び第2ベース層18B内のCドーピング濃度を直線的に変化させた例を説明したが、Cドーピング濃度がエミッタ層20側からコレクタ層16側に向かって小さくなる分布を示すのであれば、どのような変化のさせ方でもよい。例えば、
図16Aに示すように、Cドーピング濃度を第1ベース層18A内と第2ベース層18B内では一定とし、第1ベース層18Aと第2ベース層18Bの間でステップ的に変化させてもよい。他にも、
図16Bに示すように、Cドーピング濃度を第1ベース層18A内では一定とし、第2ベース層18B内でステップ的に変化させてもよい。また他にも、
図16Cに示すように、Cドーピング濃度を第1ベース層18A内では一定とし、第2ベース層18B内では傾斜させてもよい。さらに他にも、
図16Dに示すように、Cドーピング濃度を第2ベース層18B内では一定とし、第1ベース層18A内では傾斜させてもよい。
【0096】
また、第1ベース層18Aがコレクタ層16に接する部分でCドーピング濃度を4×10
19cm
−3とし、第2ベース層18Bがエミッタ層20に接する部分でCドーピング濃度を5×10
19cm
−3として説明したが、Cドーピング濃度の値はこの限りではない。
【0097】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係るDHBTについて説明する。
【0098】
この第6実施形態は、第2実施形態で説明したDHBT10A(単位HBT)を並列接続した点が第2実施形態と異なっている。
【0099】
図17Aは本発明の第6実施形態に係るDHBT100の平面図であり、
図17Bは
図17AのII−II断面図である。
【0100】
このように単位HBTを並列接続したDHBT100によると、第2実施形態と同様な効果に加え、大電力を扱うことができる。なお、第3〜第5実施形態で説明したDHBT10Aについても当該DHBT10Aを並列接続することにより、同様に、大電力を扱うことが可能になる。
【0101】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態に係るDHBTについて説明する。
【0102】
この第7実施形態では、上述の第6実施形態で説明したDHBT100を製造する方法について、
図18及び
図19を参照しながら説明する。
【0103】
まず、
図18Aに示すように、半絶縁性のGaAsからなる基板12の上に、アンドープGaAsからなるバッファー層50(膜厚1μm)、n型GaAsからなるサブコレクタ層14(Siドーピング濃度5×10
18cm
−3、膜厚0.6μm)を有機金属気相エピタキシー法により積層させる。
【0104】
次に、サブコレクタ層14の上に、n型GaAsからなるコレクタ層16(Siドーピング濃度5×10
16cm
−3、膜厚1.0μm)、p型GaSb
0.1As
0.9からなる第1ベース層18A(Cドーピング濃度4×10
19cm
−3、膜厚50nm)、p型GaAsからなる第2ベース層18B(Cドーピング濃度4×10
19cm
−3、膜厚100nm)、及び、n型In
0.5Ga
0.5Pからなるエミッタ層20(Si濃度3×10
17cm
−3、膜厚30nm)を有機金属気相エピタキシー法により積層させる。
【0105】
さらに、エミッタ層20の上に、n型GaAsからなるコンタクト層24A(Siドーピング濃度1×10
19cm
−3、膜厚50nm)、及び、n型In
0.5Ga
0.5Asからなるコンタクト層24B(Siドーピング濃度1×10
16cm
−3、膜厚50nm)を有機金属気相エピタキシー法により積層させる。
【0106】
次に、
図18Bに示すように、高周波スパッタ法を用いてW
0.7Si
0.3層25(膜厚0.3μm)をウエハ全面に堆積する。
【0107】
次に、
図18Cに示すように、W
0.7Si
0.3層25をフォトリソグラフィー及びCF
4を用いたドライエッチングにより加工し、エミッタ電極26を形成する。
【0108】
その後、
図18Dに示すように、コンタクト層24B、コンタクト層24Aを所望の形状に加工してエミッタ領域を形成する。
【0109】
ここで、エミッタ領域を加工する加工方法は、例えば、以下の通りである。フォトリソグラフィー及びエッチング液(エッチング液の組
成例、リン酸:過酸化水素水:水=1:2:40)を用いたウェットエッチングによりコンタクト層24B及びn型GaAsコンタクト層24Aの不要領域を除去する。
【0110】
次に、
図19Aに示すように、蒸着・リフトオフ法を用いて、エミッタ層20を貫通して少なくとも第2ベース層18B上に、Ti(膜厚50nm)/Pt(膜厚50nm)/Au(膜厚200nm)からなるベース電極22を形成する。
【0111】
次に、
図19Bに示すように、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングにより、エミッタ層20、第2ベース層18B、第1ベース層18A、及びコレクタ層16の各不要領域を除去して、サブコレクタ層14を露出させてベース領域を形成する。
【0112】
ここで、エッチング液は以下の通りである。エミッタ層20をエッチングする場合のエッチング液として塩酸を用いる。また、第2ベース層18B、第1ベース層18A、及びコレクタ層16をエッチングする場合のエッチング液の組
成例は、リン酸:過酸化水素水:水=1:2:40である。
【0113】
その後、
図19Cに示すように、蒸着・リフトオフ法を用いて、コレクタ電極28を形成し、350℃にて30分間アロイを施す。コレクタ電極28は、AuGe(膜厚60nm)/Ni(膜厚10nm)/Au(膜厚200nm)からなる積層体である。
【0114】
次に、
図19Dに示すように、ウェットエッチングによりアイソレーション溝42を形成する。エッチング液の組
成例は、リン酸:過酸化水素水:水=1:2:40である。
【0115】
次に、
図17Bに示すように、単位HBT間のエミッタ電極26同士、ベース電極22同士、コレクタ電極28同士を接続する配線を形成する。
【0116】
以上の工程を経ることにより、
図17A及び
図17Bに示すDHBT100を製造することができる。このように製造されたDHBT100によると、上述の第6実施形態と同様な効果を奏することができる。なお、この第7実施形態ではDHBT100の製造方法について説明したが、上述の第1〜第5実施形態のDHBT10Aも第7実施形態で説明した技術に従来からある技術を用いることにより製造することができる。
【0117】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態について説明する。
【0118】
本第8実施形態では、第2実施形態のDHBT10Aを実装してなる電力増幅器について説明する。
【0119】
図20は、電力増幅器200のブロック構成を示す図である。
図20に示すように、電力増幅器200は、高周波の入力端子である高周波入力端子210、高周波入力端子210からの入力を整合する入力整合回路220、入力整合回路220からの出力を増幅する第1の増幅回路230、第1の増幅回路230からの出力を整合する段間整合回路240、段間整合回路240からの出力を増幅する第2の増幅回路250、第2の増幅回路250からの出力を整合する出力整合回路260、及び出力整合回路260からの出力を高周波として出力する高周波出力端子270を有している。
【0120】
図21は電力増幅器200を構成する電力増幅器モジュール300の実装形態を示す平面図であり、
図22は
図21のIII−III断面図である。
【0121】
図22に示すように、電力増幅器モジュールは300、3つの実装基板311〜313と4つの導体層321〜324が交互に積層されて構成され、導体層322上にDHBT10Aが接続されている。また、
図21に示すように、電力増幅器モジュール300の導体層322上に接続されたDHBT10Aは、周囲の導体層321と配線で接続されている。さらに、複数の受動素子301はそれぞれ所定の導体層321を接続するように配置されている。
【0122】
以上、本第8実施形態の電力増幅器200によれば、DHBT10Aを有するため、低コスト化と電気的特性及び信頼性の劣化抑制の両立が可能である電力増幅器モジュールを達成することができる。
【0123】
なお、第8実施形態では、第2実施形態で説明したDHBT10Aを電力増幅器200に実装する場合で説明したが、これに限られず、第3〜第6の実施形態で説明したDHBT10A及びDHBT100についても同様に実装することが可能である。
【0124】
なお、上記第1〜第8実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。