(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態1]
以下、図面を参照してコード及びコードを読み取り、処理する情報処理装置等について説明する。
図1は、環境変化を取得するためのコードの一例である。
図1に記載のコードCは、耐環境性の高い色素を含むインクで形成されたID(識別情報)を保持する部位を備える。この部位は、本実施形態では耐光性の高いキヤノン株式会社製のBCI−350XLを用いて形成される。
【0011】
また、コードCは、比較的環境変化等に弱いインク(色素P1)を用いて形成される。例えば、コードCは、熱・光に対してやや不安定な性質を持つ、ヤヱガキ醗酵技研株式会社製のビートレッドを用いて形成される。
【0012】
表1は、色素P1の一例であるヤヱガキ醗酵技研株式会社製のビートレッドの特性を示す。具体的に、表1は、コードCの保管条件(1)〜(3)毎に、経過日数、L、a、b、b/a、HUE、及びΔEを示す。ビートレッドの特性は、下記の工程により得られる。
(a)アドバンテック社製濾紙(型式:No.2)に、ビートレッドを均一に塗布する。
(b)ビートレッドが塗布された濾紙を、冷暗所にて乾燥させる。
(c)乾燥した濾紙をビニール袋に入れて密封し、保管する。
(d)ビートレッドの明度及び色度等を測定する。
【0014】
保管条件(1)は室温保管を示し、保管条件(2)は50℃保管を示し、保管条件(3)は冷蔵庫保管(蛍光灯照射9500[Lux])を示す。経過日数は、コードCの保管を開始してから経過した日数を示す。Lは、Lab色空間における明度Lを示す。a及びbは、Lab色空間における色度a及びbを示す。HUEは色相を示す。ΔEは、保管開始時のコードCの色差に対する、コードCの色差を示す。
【0015】
表1に示されるように、保管条件(1)よりも保管条件(2)の方が、ビートレッドの色差ΔEが大きいことが分かる。したがって、ビートレッドの色差ΔEは、温度が高いほど大きくなるといえる。また、保管条件(1)よりも保管条件(3)の方が、色差ΔEが大きいことが分かる。つまり、ビートレッドの色差ΔEは、照射される光の照度が高いほど大きくなることが分かる。
【0016】
このように、コードCは、環境変化に比較的安定的な第一部分と環境変化に比較的不安定な第二部分とを備える。第一部分を形成するために用いるインクに含まれる色素(P3、P4)を第一色素と呼ぶ。また、第二部分を形成するために用いるインクに含まれる色素(P1、P2)を第二色素と呼ぶ。
【0017】
本実施形態では、環境変化として温度に着目して説明する。しかし、耐擦過性、耐光性、耐オゾン性等、温度以外の環境要因に着目してコードを形成してもよい。なお、1種類のインク(色素)が光とオゾンのように2つ以上の要因によって大きく変色する場合が想定される。この場合には、光には影響が少なく、オゾンによって大きく変色する色素と組み合わせて光の影響とオゾンの影響のいずれによって大きく変色したかを切り分けることができる。
【0018】
上述のように、第一部分に関してはコードCが印刷されたラベルの環境温度に関わらず、一定の色相、濃度を長期間維持することができる。これに対して、第二部分は温度環境に依存して変色(退色、褪色)の度合が変わる。ここで、濃度変化が小さく、変色の度合が肉眼で判別しにくい程度であったとしても、カメラやスキャナを用いることで、その差を検出することができる。
図1に示すように、一概に温度といっても温度範囲によっては、変色(退色)速度が異なる場合が考えられる。
【0019】
本実施形態では、色素P1として、40℃以上50℃未満環境下での退色速度が20℃以上30℃未満の環境下での退色速度の倍の色素を用いた。また、色素P2として、40℃以上50℃未満環境下での退色速度が20℃以上30℃未満の環境下での退色速度とほぼ同じ色素を用いた。また、色素P3及びP4として、温度環境に依存することなく、退色し難い色素を用いた。スキャナやカメラで撮影の際に光の当たり方等で色相が変化してみえる可能性がある。このような撮影時の影響を補正すべく、環境温度に依存しにくい色素を補助的に用いてもよい。
【0020】
なお、IDを保持するバーコードのエンコード及びデコードについては標準規格準拠(ISO15394等)とするものとする。環境情報(温度履歴、擦過履歴等)のエンコード及びデコードについては、後述する。
【0021】
[ハードウエア構成の説明に関して]
図2は本実施形態に係るハードウエア構成とネットワークについて説明するための図である。また、
図2の一部はネットワークを構成するコンピュータの内部構成を説明するためのブロック図である。
図2に示すように、情報処理装置としてのコンピュータはネットワークNを介して接続されている。本実施形態では、コンピュータ10はコードCに用いられる色素の情報と登録された色素に関する変色(退色)特性に関する情報を保持する。そのため、コンピュータ10は色素に関する情報を保持するデータベースサーバとして機能するといってよい。当然、コンピュータ10に登録される色素に関する情報は、別途クライアントへ提供するユーザーインターフェイス(以下、UI)を通じて登録される。このデータベースサーバとして機能するコンピュータ10はネットワークNを介して接続されるクライアントからの要求を受けて、色素に関する情報を登録するためのWebページを提供するものとする。
【0022】
コンピュータとしての携帯情報端末20はネットワークNを介してコンピュータ10に接続される。後述するプログラム等は情報処理装置10、20でのみ実行される必要はなく、ネットワークNを介して接続されている他のデバイスで実行されてもよい。
【0023】
情報処理装置としてのコンピュータ10は色素に関する情報を記憶装置としてのストレージ10Dに格納する。なお、ストレージ10Dに保存されているデータ構造は特定の構造である必要はなく、情報処理装置で処理できる形式であればその形式を問わない。また、ストレージ10Dは情報(電子データ)を保存できればよく、ハードディスク、光学ディスク、またはフラッシュディスク等であってよい。
【0024】
便宜上、情報を要求するコンピュータをクライアント、情報の要求に応じてデータを送信するコンピュータをサーバと呼ぶ。本実施形態では、コンピュータ10はサーバ、コンピュータ20はクライアントとして機能する。当然、複数のコンピュータでその処理の一部を分担しても良い。そのため、複数のコンピュータの全体(システム)を情報処理装置としてみなしても良い。なお、特徴的な計算をする要素を意図的に国外に設置したとしても計算結果を参照する地域が国内であれば、情報処理が国内で実行されたとみなす。これらのネットワークはインターネットおよびイントラネットのいずれであってもよく、有線および無線のいずれであってもよい。
【0025】
情報処理を行う情報処理部(処理部)はCPU11であり、格納部としてのメモリ12はCPU11が処理する情報を一時的に格納するものとする。当然、メモリ12とストレージ10Dは共に情報を格納する手段として機能するが、コンピュータのアーキテクチャーの変化によりメモリ、ストレージ等の代替物を用いてもよい。また、CPU11とメモリ12はバス13で接続されており、CPU11はプログラムに従ってバスを介してメモリ12に格納された情報にアクセスする。また、コンピュータ20についても同様に、メモリ22、CPU21を備え、バス23によって接続されている。
【0026】
本実施形態で、コンピュータ20は読取部としてのスキャナ(カメラ)24を備える。また、コンピュータ20は、ネットワークNへ接続すべく不図示の無線通信モジュールを備える。例えば、コンピュータ20が、スマートフォンのように光学式のカメラ、公衆ネットワークに接続するための無線モジュール等を備える形態であれば十分に機能する。
【0027】
[色素に関するデータについて]
図3A及び
図3Bは、コードCを印刷するために用いられた色素の特性を説明するためのグラフである。
図3Aは、色素P1に関する退色と経過時間の関係を説明するための図である。同様に、
図3Bは、色素P2に関する退色と経過時間の関係を説明するための図である。これらの情報は、ストレージ10Dに格納される。なお、本実施形態では簡便のために光学濃度が線形で減少するモデルを用いて説明する。当然、色素に関する情報については、一つの要因のみで決定されることは少ない。そのため、ストレージ10Dには、一つの色素について、複数の環境条件下で光学濃度や色相がどのように変化するかについての情報が格納されている。当然、時間に対して線形で光学濃度が減少するケースもあるが、指数関数的に変化する場合や、所定時間経過後に急激に光学濃度が減少する場合もある。また、光学濃度以外に色相、彩度、明度、RGB値等であっても色素の状態を示すものであれば色素の特性を示す情報として利用してもよい。
【0028】
図3Aに示されるように、45℃環境下における色素P1の光学濃度の減少率は、25℃環境下における色素P1の光学濃度の減少率よりも大きい。対して、
図3Bに示されるように、色素P2については、25℃環境下と45℃環境下の光学濃度減少率は略同等となる。このような状況において、色素P2は色素P1と比べて環境(温度)に対する安定性が高いということができる。
【0029】
ここで、光学濃度の変化量と経過時間の対応関係については、温度ロガーとしての要求される精度に合わせて用いる色素に依存するため、詳細は後述する。
【0030】
なお、環境条件については常用環境では光と温度などの複数の影響を受けることになる。そのため、複数のテーブルを考慮して外部環境の影響を一部補正できる。例えば、温度と光の影響を2つの変数として扱えば、温度に対して感度の低い色素を用いて補正すればよい。そのため、温度履歴の精度を重要視する場合には、温度に対して感度を有する複数の色素を合わせて計算することで精度を向上させることができる。他に、他変数関数として色素の特性を保持する場合には、偏微分等の手法を用いて特定の環境要素に対する特性を抽出しても良い。
【0031】
なお、
図3に示すグラフは多項式近似をした数式であってもよい。このような色素の特性については、異なる環境での試験結果を用いて作成される。なお、有機色素を用いるインクについてはロットごとの特性差を考慮してもよい。
【0032】
[データ処理に関する詳しい説明]
続いて、フローチャートを用いてコードCが保持する環境履歴に関する情報の処理方法について説明する。
図4、
図5、
図6A、及び
図6Bは本実施形態におけるデータ処理方法を説明するためのフローチャートである。具体的には、
図4、
図5、
図6A、及び
図6Bは、コードCの色素の退色(変色)に関する情報から環境情報を算出するための情報処理方法を説明するためのフローチャートである。
【0033】
本実施形態では、
図4に示すフローチャートはクライアント(コンピュータ20)が実行し、
図5に示すフローチャートはサーバ(コンピュータ10)が実行するものとして説明する。また、特徴的な計算をすべてコンピュータ20で処理する必要はなく、計算の一部又は全部を他のコンピュータで行ってもよい。その際、クライアントはコードを読み取り、サーバに処理を要求し、サーバからの結果を表示する機能のみを保持していればよい。当然、クライアントは複数の単機能デバイスをリンクして構成してもよい。反対に、色素に関するデータベースをクライアントによってすべて保持することが可能であれば、スタンドアローンで処理してもよい。ストレージ10Dに格納される色素に関する情報としては、Extensible Markup Language(XML)等の処理に適したフォーマットを採用すればよい。
【0034】
クライアント(コンピュータ20)は、スキャナ24を用いてコードCをスキャンする(S101)。これによって、コンピュータ20は、バーコード部からIDデータを取得する。同様に、コンピュータ20は、各色素が形成されている部位については、光学濃度を色素毎に取得する。具体的には、コンピュータ20は、光学濃度を256諧調(16進数で00からFF)で取得する。当然、コンピュータ20は、RGB値等、他の方式で光学濃度を取得してもよい。
【0035】
次に、CPU21は取得したコードCを2値化する(S102)。これは、IDデータを取得する際に、色データを利用して復号する場合には色の変化による影響を受ける可能性がある。そのため、例えば白黒2値化により影響を低減する。
【0036】
次に、CPU21は復号化したIDデータを利用してサーバ(コンピュータ10)へ問い合わせを行う(S103)。具体的には、CPU21は、IDデータをコンピュータ10に送信するとともに、コードCにおいて用いられている色素の情報をコンピュータ10から受信する。合わせて、CPU21はスキャナ24でコードCをスキャンした日時に関する情報を合わせてコンピュータ10に送信する。コンピュータ20が温度履歴に関する計算を行っても良いが、本実施形態ではサーバ(コンピュータ10)が温度履歴に関する計算を行うこととする。
【0037】
コンピュータ20から送信されたデータに基づき、コンピュータ10は後述する計算を行う。コンピュータ10は計算結果をコンピュータ20に送信する。計算結果を受け取ったコンピュータ20は、その結果をユーザに提示すべくコンピュータ20が備える不図示のディスプレーに表示する(S104)。
【0038】
続いて、
図5に示すフローチャートを用いて、コンピュータ10によって行われる処理について説明する。コンピュータ10はコンピュータ20から送信されるID情報や、色素の光学濃度に関する情報を受信する(S201)。
【0039】
コンピュータ10はコードCに用いる色素に関連する情報をデータベースとして保有している。そのため、コンピュータ20から送信されたID情報に基づき、コンピュータ10はコードCに利用されている色素の情報とその特性を取得する(S202)。例えば、コードCのID情報を保有するバーコード部の上部に配置された色素の左から1番目が高温環境で退色(変色)が早い色素(P1)、5番目が環境温度に関わらず安定している色素であると把握することができる。これにより、色素本来の光学濃度の情報と経過時間から、コードCがどのような環境下にあったかを計算により特定することができる。
【0040】
コンピュータ20はコードCに使われている色素の特性をID情報から特定している。また、コンピュータ10は、コンピュータ20によって特定されたIDに対応する色素の印刷時(もしくは前回の問い合わせ時点)における光学濃度を取得することができる。そのため、コンピュータ10は現在のコードCの取り込み日時と過去のコードCの取り込み日時(スキャン日時)から経過時間を算出する(S203)。
【0041】
また、コンピュータ10は現在のコードCの光学濃度と過去のコードCの光学濃度から光学濃度の差分(色の変化)を算出する(S204)。
【0042】
また、コンピュータ10は複数の色素の特性を利用して、判定したい条件の特定精度を高める(S205)。例えば、温度に対して感度の高い色素を用いて温度環境について特定する精度を高めることを考える。当然、温度に感度が高い色素が温度のみに感度があればよいが、光や他の環境条件にも影響を受ける可能性がある。このような場合に、コンピュータ10は、コードC中に配置した温度に感度の低い色素の光学濃度の変化を用いて光の影響を抽出して、光学濃度の差分(色の変化)を補正する。
【0043】
コンピュータ10は、複数の色素の特性を用いて、主に温度の影響による光学濃度の差分と経過時間を用いることで、コードCがどのような環境下にあったかを算出する(S206)。具体的には、コンピュータ10は、色素毎に保有している環境対応表(例えば、
図3A及び
図3Bに例示したLook Up Table(LUT))を用いて、光学濃度の差分と経過時間を用いて環境変化を算出する。コンピュータ10は、算出された環境変化についての計算結果を、コンピュータ20へ送信する。
【0044】
併せて、
図6A及び
図6Bに記載のフローチャートを用いて色素の特性についてサーバとして機能するコンピュータ10に登録する流れについて説明する。
コンピュータ10が備えるデータベース(ストレージ10D)は色素の特性に関する情報を記録し、コンピュータ10は、数多くの色素の特性を用いて、前述の計算を実行する。この際に、色素の特性に関するデータを登録するためのユーザーインターフェイスが必要となる。
【0045】
本実施形態では、コンピュータ10はWebサーバの機能を備え、色素の特性を登録するためのインターフェイスを提供する。以下、
図6Aを用いて、色素の特性をデータベースへ格納する際のコンピュータ10の動作について説明する。
【0046】
コンピュータ10は色素ベンダーが保有する色素名を取得する(S301)。当然、コンピュータ10は、すでに色素名が登録されていればその旨をクライアント(コンピュータ20)へ通知する。また、コンピュータ10は、ロットごとで特性が違う場合には、色素名に合わせて生産ロット番号毎に特性の差を加味する。
【0047】
登録する色素の特性について、コンピュータ10は、例えば
図3に示すようなグラフ、近似関数、テーブル等の形式で受け付けることができる。当然、コンピュータ10は、上述のように変数を特定することによって環境変化について特定できるように受け付ければよい。例えば、色素の耐擦過性に関する特性であるならば、コンピュータ10は、爪で10回擦った際の濃度低下量、20回擦った際の濃度低下量等をテーブルとして受け付ける。当然、コンピュータ10は、一つの対象物(爪)で擦過した場合の濃度低下だけではなく、複数の対象物(布、段ボール等)で擦過した場合の関係を同様にテーブルとして記録しても良い。また、コンピュータ10は、対象物毎に補正係数だけをデータベースに記録してもよい。
【0048】
クライアントからの上述のような色素の光学濃度や色相の変化に関する情報を受信すると、コンピュータ10はデータベースに受信した情報を格納する(S302)。受信した情報をデータベースに格納し終えると、コンピュータ10は色素の各種情報についてデータベースに格納したことをクライアントへと通知する(S303)。
【0049】
ここで、コンピュータ10は、コード毎に付与されるID情報とどの色素を利用してコードを作成したのかについての情報についても、対応関係を保持する必要がある。当然、コンピュータ10は、それらの情報をコード化してコードCと一緒に付与してもよい。しかし、本実施形態ではコードCのID情報と対応する色素情報についてはデータベースに保存されている前提で説明した。そのため、ID情報と色素情報の対応関係の生成、更新について、簡単に説明する。
【0050】
以下、サーバで事前にID情報と色素の配列について保持し、コードCのエンコード条件をコード利用会社に割り当てる処理について、
図6Bを用いて説明する。当然、コードCを利用する会社がサーバにIDを申請し、割り当てられたIDに対して色素の配列を決定してそれらをサーバに登録する方式を採用してもよい。
【0051】
まず、コードCを利用することで特定したい環境条件を取得する。この条件は例えば、「40℃で暗所に放置された時間」に着目する等である。前述の条件を満たすために、データベースに登録された色素の特性から関連する色素を抽出する。これらのエンコードはS301〜S303に記載の処理により構成されたデータベースの情報を参照することで作成できる。
【0052】
具体的には、色素毎の特性を考慮してコードに用いる色素を特定する。例えば、印刷方式としてインクジェット方式を用いて印刷する場合と、オフセット方式を用いて印刷する場合とで最適な色素が異なる場合もある。またどの温度帯で変色しやすいかについては、色素毎に異なる。そのため、温度に敏感な色素、光に敏感な色素、特定の気体に敏感に反応する色素などの、色素の特性に合わせてコードを作成する。作成されたコードについて、どのような構成であるかをデータベースに登録する。
【0053】
コンピュータ10はコードに付与されるIDと使用する色素名を対応付けて保存すべく、これらの情報を取得する(S401)。そして、ID情報と、色素の配列順序を示す配列情報を対応付けてデータベースに保存する(S402)。例えば、ID「100」のコードは「色素A、色素B、色素C、色素D」の順番で「日時A」の時点で光学濃度「A、B、C、D」である旨がデータベースに保存される。また、ID「101」のコードは「色素A、色素A、色素D、色素D」の順序で「日時B」の時点で光学濃度「A、B、C、D」である旨がデータベースに保存される。コンピュータ10は上記情報を保持しているものとして、具体例を挙げて説明する。
【0054】
なお、本実施形態ではコンピュータ(情報処理装置)が取得した情報に対してどのような情報処理を行うかについて説明した。当然、コンピュータに上述の情報処理方法を実行させるプログラム及びプログラムを記録した記録媒体を提供することで、上述の情報処理方法を実施してもよい。
【0055】
[温度履歴に関する例を用いた説明]
図7〜
図10を用いて、本実施形態のコードCの読み取りから環境状況についての算出に関する流れを説明する。
従来技術の多くは、コードCを作成する際に、できる限り色落ちや変色しない色素を用いてコードCが印字されていた。これは、例えば、本来保持していたデータが「0001001」であったとして、変色などでコードが欠落し「0000000」と読み取られることによる読み取りエラーが発生することを回避するためである。そのため、コードCを印刷する場合に耐環境性の高い色素が用いられることが一般的であった。それに対して、本実施形態では、コードCに耐環境性の低い色素と耐環境性の高い色素を織り交ぜて使用している。
【0056】
具体的には、ID情報を表現する部位を耐環境性能が高い色素で印刷することで情報の欠落を抑えている。それに加えて、耐環境性が低い色素でID情報を保持する部位以外を印刷している。当然、耐環境性の低い色素を用いてID情報を保持するコードの一部を形成しても良いが、耐環境性の低い色素の光学濃度の変動を低減するようなデコード手法を採用することが望ましい。
【0057】
退色性の高い色材を用いるため、時間の経過で濃度(色調)が変化する。そのため、どの時点でどのような光学濃度や色相になっているかを記録しておくことが望ましい。サーバにアクセスする際に、どのID情報のコードがどの時点でどのような状態であったかを更新、参照できるようにしている。
【0058】
図7を用いて概要を説明する。コンピュータ20(携帯情報端末)は箱に印字されたコードCをカメラ24(スキャナ)で読み取る。読み取り後、コンピュータ20は所定のサーバへネットワークを介してアクセスする。サーバはストレージ10Dを備え、ストレージ10Dには色素の情報等が保持されたデータベースが構築されている。例えば、色素毎のLUT、コードCを前回読み込んだスキャナ(又は携帯情報端末)のID、実際にコードCを読み込んだ日時やその時の光学濃度などが保持されている。
【0059】
図8に示すように、2015年6月30日にコンピュータ20が読み込んだデータの一例として、スキャン日時、バーコード部のデータを示すバーコードデータ、上部に配列された各色素の光学濃度の配列を示す濃度データが挙げられる。コンピュータ20はバーコードデータを用いて、データベースに問い合わせる。この際に、問い合わせの日時やスキャン日時がデータベースに履歴として残る。
【0060】
図9A〜
図9Cに示すように、コードCの状態はコードCが付与された箱(商品)がどのような状況であったかで、耐環境性の比較的低い色素はその色相が変化する。なお、色素によっては特殊な環境下で逆に光学濃度が高くなるものもある。これは、色素の特性によるもので時間が経過すると必ずしも一意的に濃度が低下するものではない。例示のコードCで左から1番目の色素は光学濃度が低下する傾向にあり、3番目の色素は高温環境下では逆に光学濃度が上昇するような色素を用いている。
【0061】
例えば、2015年6月30日の時点では光学濃度の配列が「100,100,103,250,0...,120」であったとする。
ここで、箱が1週間40℃環境に放置された場合には、濃度データが「090,100,123,250,0...,120」となる(
図9A参照)。また、箱が2週間20℃環境に放置された場合には、濃度データが「080,100,101,250,0...,120」となる(
図9B参照)。ここで箱が4週間0℃環境に放置された場合には、濃度データが「100,100,102,250,0...,120」となる(
図9C参照)。
【0062】
図9に示すような試験結果が保存されているデータベースを用いると、実際にコードが印刷された箱がどのような状況にあったかを推測することができる。
【0063】
理解しやすいケースとして、
図10に示すような状況について説明する。前回のスキャンから所定時間経過後、再度コードCを読み取ったとする。この時、スキャン日時が2015年7月13日、バーコード部のID情報は変化することなく同一の「1010011010」、濃度配列が「080,100,123...,120」であったとする。データベースの中には、同一IDの過去の濃度データとスキャン日時が保存されているため、過去にスキャンして得られたデータと今回スキャンして得られたデータとを比較し、差分をとることで、時間の経過と色の変化について把握することができる。
【0064】
今回は、前回のスキャンから2週間経過し、左から一番目の色素の濃度が100から80へ低下し、左から三番目の色素の濃度が103から123へ上昇している。
【0065】
このように、コンピュータ10は、温度に応じた退色の傾向を示すデータ、過去のスキャン日時と過去の色データ、及び現在のスキャン日時と現在の色データを取得する。コンピュータ10は、現在のスキャン日時と過去のスキャン日時との差分に基づいて、時間の経過を算出する。また、コンピュータ10は、現在の色データと過去の色データとの差分に基づいて、色の変化を算出する。そして、コンピュータ10は、算出した時間の経過及び色の変化に基づき、ルックアップテーブルを参照することによって、どのような環境条件で色素が退色したのかを判定することができる。
【0066】
図9A〜
図9Cに示すように、環境条件とデータの変化とを比較してみればわかるが、左から3番目の色素は短期間でも高温(40℃程度)に放置すると濃度が上昇しやすいという特性をもつ。また、左から1番目の色素は低温(0℃程度)であれば濃度低下がほとんど見られないものの、室温(20℃程度)以上であれば、時間に比例して濃度が低下する特性をもつ。
【0067】
そのため、2015年7月13日の時点で取得された濃度配列とデータベースに保存されている色素の特性に関する情報を加味すると、コードが印刷された箱が放置された環境を予測できる。具体的には、40℃程度の温度で1週間放置されたと同程度の環境に放置されたと推定できる。当然、色素の変色に関して蓄積されている情報量が増えれば増えるほどその推定の精度が高まる。そのため、色素毎に多くの環境耐久試験を行いデータベースで多くの情報を記録することが望ましい。当然、環境試験によるデータを集積しそれらから求められる色素の特性を、多変数によって近似化された、その濃度の変動を示す高次多項式を用いて表現してもよい。
【0068】
[他のコード形態について]
前述の実施形態では、コードCはID情報を読み取りやすいようにバーコード形式で保持し、環境によって変色しやすい色素を読み取りやすいようにバーコード部の上部に配置することとした。しかし、コードの形態は
図1に例示した形態に限るものではない。例えば、
図11Aに示すようにカラーのコードのみを配列してもよい。この場合には、40℃以上50℃未満環境下での退色速度が20℃以上30℃未満の環境下での退色速度の倍の色素P1を配置するとともに、左から数個の色素として、環境状況に関わらず安定した色相及び濃度を保持できる色素P3を配置すればよい。例えば、光学濃度が非常に安定していれば左から3個の色素を256諧調で判定することで、理論的には256×3通りのID情報を保持することができる。色味を合わせて考慮することでさらに多くの情報を保持できるが、色素の変化、スキャナの安定を考慮に入れて適度に誤り訂正機能を追加することが望ましい。
【0069】
同様に、
図11Bに示すように、バーコードの一部に環境状況に応じて変色する色素P1を埋め込むとともに、環境状況に関わらず安定した色相及び濃度を保持できる色素P3を埋め込んでもよい。この場合、色素の色情報を無視してデータを白黒2値化してから、ID情報をバーコードのデコード方式でデコードすればよい。
【0070】
なお、
図11BのコードCは、高密度データを保持することができるが、色素の変化によってコードの読み取りが困難になる。そのため、積極的に環境で変化する色素P1を用いて経時変化について予測し、予測した経時変化に基づいてデータを補正してもよい。これによって、高密度保持されたデータを補正する誤り訂正を行うことができる。
【0071】
さらに、
図12Aに示すように、QRコード(登録商標)の一部に変色するドットを埋め込んでもよい。具体的には、40℃以上50℃未満環境下での退色速度が20℃以上30℃未満の環境下での退色速度の倍の色素P1と、40℃以上50℃未満環境下での退色速度が20℃以上30℃未満の環境下での退色速度とほぼ同じ色素P2と、環境状況に関わらず安定した色相及び濃度を保持できる色素P3及びP4とを、コードCに配置してもよい。色素P4は、ID情報を保持する部分に使用される。この場合の処理についても、白黒2値化をしても良いし、領域を分けて処理をしてもよい。また、
図12Bに示すように、カラーデータを加味してQRコード(登録商標)よりも単位面積あたりの情報量を増やしてもよい。この場合には、色情報を捨ててID情報を抽出してもよいし、コードCを機能ごとの領域に分けてコード、デコードをしてもよい。
【0072】
[適応する色素について]
近年の色素、インクに対する研究開発の成果により、耐環境性の高い色素が開発されてきている。反対に、このような耐環境性を高める工夫を除けば耐環境性の低い色素となる。
【0074】
表2に示すように、油性インク、水性インク、ゲルインクは異なる特性を持つ。また、同様に色素毎に特性がある。これらの特性を考慮してインクを選択すればよく、そのインクに合う色素を選択すればよい。例えば、バーコード(GS1 DataBar)、QRコード(白黒反転)、コンポジット(CC−A)、DataMatrixなどコードの形式によって、必要となる鮮明度等に合わせて適切なインクを選定する。
【0075】
以下に、有機物由来の色素について詳しく説明する。
【0076】
一例として、紅麹色素を例に挙げて説明する。紅麹色素は子のう菌類ベニコウジカビの菌体より抽出して得られる色素を主剤とする着色料である。性質は熱に対しては比較的安定、光に対しては比較的不安定な色素である。他の特性として、水溶性であり、水の付着により濃度が低下する。併せて、特定のpH環境下で色が変化する性質を有する。
【0077】
また、紅麹色素は食用色素として採用されており、経口摂取に対して、他の顔料系色素と比べて安全性が高い。具体的には、紅麹色素として、アンカレッドAlc300R、アンカレッドAlc300CH、アンカレッドAlc300Y、アメリカンレッドエクセルSR、スーパーモナスUR、アンカレッドSP500、ハイムーンレッドMII等が挙げられる。
【0078】
このような有機色素であれば、無機色素や、合成色素と比べて環境条件に応じて色相が変化しやすい。他の例として、コチニール色素はクチナシ赤色素と同様に食用色素として採用されているが、コチニール色素はクチナシ色素に比べて光・熱に対して非常に安定である。対して、コチニール色素は、pH域により色調が変化しやすいという特徴を備えている。
【0079】
このような水溶性に違いがある色素をコードの中に組み込むことにより、洗濯頻度、回数等のデータを取得することが可能なコードを作成することができる。このようなコードを付与することで、短期間に洗濯回数が多い服等(言い換えれば好み)についての情報を取得することができる。
【0080】
これらの情報を、購入日と使用期間、劣化速度を勘案して、衣服デザインメーカへフィードバックしてもよい。合わせて、コードを読み取り容易な位置に配置することで、クローゼット内の服情報を取得して、バーチャルクローゼットを作成してもよい。このバーチャルクローゼットは実際に手持ちの服の情報とその耐久度等を勘案して、新しいコーディネートを提案することができる。当然、実店舗に手持ちの服の情報を積極的に提供すれば、提供された情報を店舗側の仕入れ等に利用できる。このため、これらの情報と引き換えに値引きを提供してもよい。
【0081】
他の色素として、ラック色素、ビートレッド、アントシアニン色素、ベニバナ赤色素、トウガラシ色素、ヘマトコッカス藻色素、アナトー色素、パーム油カロテン、マリーゴールド色素、β-カロテン、ベニバナ黄色素、ウコン色素、クチナシ黄色素、ベニコウジ黄色素、クチナシ青色素、クチナシ緑色素、カラメル色素等が挙げられる。特性については、製造ロット、製法によっても適度に調整することができる。
【0082】
ここで、コードCは直接ラベルや箱、包材、ラップ等に印刷されることを想定している。そのため、色素の初期特性(濃度、色相)をサーバに保存してある。これは、初期状態と比較して差分をみることにより、経過環境を特定するためである。
【0083】
対して、特殊フィルム(例えば、酸素を通さないフィルム)等を印刷したコードの上に貼り、販売後や、使用開始に合わせてコードを覆う特殊フィルムをはがすという構成にしてもよい。
【0084】
このような構成を適用することで、フィルムを剥離することを酸化の起点としてみなすことができる。このため、サーバに時刻等を参照する工程を省くことができる。例えば、酸素を透過しないフィルムの他に、他のガスを透過しないフィルムを代替として用いても良いし、これらのフィルムを合わせて用いても良い。
【0085】
顔料では、色別に異なる原料が使用されている。例えば、藍と墨の顔料(主にフタロシアニンブルーとカーボンブラック)に含まれる化合物は結合が強い。そのため、この化合物は、太陽光に含まれる紫外線によって破壊されにくい。一方で、黄と紅の顔料(主にジスアゾイエローとカーミン6B)については、化合物の結合が弱い。そのため、この化合物が光の中でも特に強い力を持つ紫外線の下に長時間晒されると、化合物の結合が破壊されてしまう。これにより、黄と紅は本来の色から変色してしまう。そのため、本実施形態で挙げた色素P1としては黄や紅の色素を選択すればよく、具体的な特性は要求する特性に応じて選択すればよい。例えば、検知したい期間は1週間なのか、1年なのかで好適な色素は異なる。
【0086】
本実施形態では光学濃度の差分を用いる例を説明したが、他の指標を用いてもよい。例えば、退色の程度を示す退色度を用いてもよい。退色度を用いる方法は、試験片を露光又は熱風加熱し、処理前後の白色度の差又は色差で表示する方法である。試験のために紫外線カーボンフェードメーターや、キセノンフェードメーターなどが用いられる。
【0087】
退色度は、所定の温度で、一定時間処理し、直ちに白色度又は色差(L、a、b)を測定(J.TAPPI・NO.21)して求められる。場合によっては、退色度は、蛍光強度Zf値を合わせて測定し、処理前の値との差で示されてもよい。
【0088】
本実施形態では、光学濃度の低下量を用いて退色(変色)を評価した。しかしながら、色差による退色度を判定基準として採用してもよい。色差△Eは、例えば、次の式(1)により算出することができる。
【0090】
ここに、L0、L1、a0、a1、b0、b1は、処理前後の各々の色差値を示し、数値が大きいほど退色度が大きくなる。このようにそのものの退色性を調べるのに、光・熱などを強制的に使った加速条件で試験をする方法を採用する。当然、データベースを作成するためには、実際にその年月を経た自然劣化の結果を採用するのが良い。
【0091】
しかし、試験結果が出るまでに相当な日時を要する。そのため、本実施形態で例示した色素に関するデータベースを作成するために、加速試験を採用した。強度劣化を調べる試験法として、加速劣化試験(J.TAPPI・NO.50)を用いることで短期間に多くの色素特性を調べることができる。具体的には、105±2℃の条件下で72時間置いたときの強度(耐折度)劣化は、常温での自然劣化の約25年に相当する。
【0092】
有機色素は、光や熱等の外部環境の影響によって退色が促進され、その機能を長期間持続することが困難であるという特性がある。そのため、有機色素の経時的な退色劣化を抑制するために、種々の光安定化剤が使用されている。フリクションインキ(登録商標)は、1975年に基本原理が発見されたメタモカラーというインキを改良研究し、進化させたものである。
【0093】
メタモカラーはロイコ染料と顕色剤が封入されたカプセルの中に、さらに変色温度調整剤という材料を追加して構成されている。変色温度調整剤の種類を変えることで、変色の特性を調整することができる。
【0094】
メタモカラーは、ロイコ染料、顕色剤、変色温度調整剤を一つのマイクロカプセルの中に均一に混合し、封入して顔料化したものである。ロイコ染料とは、黒、赤などの色を決める成分であるが、単体では発色しない。しかしこれを顕色剤と化学的に結びつけると、黒、赤などに発色する特性を有している。このメタモカラーというインキをコード形成に利用してもよい。
【0095】
また例えば、三菱鉛筆製のゲルインクボールペン(シグノ)に用いられているインクは耐光性に優れ、露光による描線の退色はほとんどない。そのため、このようなインクと食品添加物に用いるような色素を組み合わせることにより、耐光性の面で差異が顕著になる。そのため、光の影響を検出するためにこのような組み合わせを採用してもよい。
【0096】
染料(又は染料と顔料の混合)インクは顔料インクよりは描線の耐光性が劣る。しかし、染料インクの製品でも実用的な耐光性が十分にある製品もある。例えば、染料インクであったとしても20年経過後の描線に変化がほぼないものもある。
【0097】
[実施形態2]
本実施形態については、特定のガスによって退色しやすい色素の配置を利用した判定方法について簡単に説明する。
色素によっては、特定のガス濃度が高い状況下で特異な変色を示す色素もある。例えば、エチレンガスに特異な反応を示す色素を用いることで、食品の鮮度に関する情報を取得してもよい。なお、コードの形成については実施形態1で例示したのと同様に、特定の位置にエチレンガスに特異な反応を示す色素を用いればよい。
【0098】
例えば、
図13Aに示すように、コードCにエチレンガスに特異な反応(ここでは、濃度の低下)を示す色素を含めることが考えられる。
図13Aにおいて、環境状況に関わらず安定した色相及び濃度を保持できる色素P4と、環境ガス(例えば、エチレンガス)の濃度に依存して退色する色素P5と、環境ガス(例えば、エチレンガス)の濃度に依存して退色しにくいが、高温で退色し易い色素P6と、温度環境及び環境ガスに依存することなく、退色し難い色素P7とがコードCに含まれてもよい。
図12Aに示される例と同様に、色素P4は、ID情報を保持する部分に使用される。
【0099】
このような構成をとるコードCを、食品用の包材の内側に露出するように張られたラベルに印字することで、食品の状況を取得することができる。当然、エチレンに限ることなく食品の腐敗(醗酵)に伴い発生するガスを検出することで、腐敗や食べごろを判定することができる。
【0100】
[実施形態3]
本実施形態については、退色しやすい色素の配置を利用した真贋判定方法について簡単に説明する。
当然、データベースを参照することなくある時点でコードを観察しても、どの部位を退色しやすい色素で印刷しているかを知ることができない。具体的に、退色しやすい色素を含むコードCをデジタルカメラ等でスキャンし、インクジェットプリンタで印刷する場合を考える。この場合、コピーされたコード中における退色しやすい色素で印刷された位置を示す情報や、退色しにくい色素で印刷された位置を示す情報が欠落することになる。そのため、退色しやすい色素で印刷された位置を示す情報を真贋判定するための情報として用いることができる。従来のホログラムシールやRadio−frequency identification(RFID)等を用いて行っていた真贋判定に比べて、比較的安価に真贋判定のための手段を提供することができる。
【0101】
言い換えると、一般ユーザはいつでもシリアル番号・日時を使って純正品か否かをチェック可能となる。このコードCを利用した製品を複製しようとする場合には、純正品製造者が埋め込んだ変色しやすいドットの位置を特定することが必要であり、またその特性にあった色素を調達しなければならない。このため、コードCを付与した製品の複製を困難にすることができる。これらの処理については、他の実施形態に記載した情報処理装置等を用いて行えばよい。
【0102】
[実施形態4]
本実施形態については、耐擦過性の違いを利用した利用状況の判定方法について簡単に説明する。
なお、インクの対耐擦過性の違いを利用すれば、利用頻度や商品の搬送経路における物理的な擦過特性について把握することができる。つまり、耐擦過性の高いインクと低いインクをコードCの中に組み込めば、擦過性の違いによる濃度差が生じる。なお、インクに自己回復性を備えるメカノクロミック色素を用いてもよい。具体的には、全脂環式ポリイミドに蛍光色素をドープした有機蛍光色素を用いる。これにより、熱応答性に加え、こすると色が変わり自ら元の色に戻ったり、溶媒の極性に応じて発光したりする。
【0103】
例えば、天地無用の段ボールの各面にコードを印刷して、底面以外の耐擦過性の低い部位をチェックすればよい。これらの処理については、他の実施形態に記載した情報処理装置等を用いて行えばよい。
【0104】
[その他の実施形態]
本実施形態では、色素の他の特性に着目して説明する。他の実施形態で説明したように、安定した印刷物を作成するためには、環境条件によらず安定した発色をする色素を用いることが好ましいと考えられていた。しかしながら、データ処理を加えることによって、従来弱みだと考えられていた部分を有効利用することができる。
【0105】
クロモトピズムは「可逆的変色」などと訳され、外部からの何らかの刺激により色が変わる現象の総称である。また、「可逆的」である以上、別の外部刺激により元に戻るのが普通である。
【0106】
例えば、色素には、フォトクロミズム、サーモクロミズム、エレクトロクロミズム、ソルバトクロミズム、ピエゾクロミズム、トリボクロミズム、ベイポクロミズム、イオノクロミズム、ハロクロミズム、アシディクロミズム等の特性がある。
【0107】
これらの特性を持つ色素の一例を、
図14A〜
図14Dに例示した。例示の色素以外に、同様の特性を持つものをコードに組み込んでもよい。
【0108】
例えば、油に対する溶解度の違いを利用してコードを作成してもよい。この場合、洋服のタグに脂溶性の色素で印刷した部位を設けることで、着用者の肌が皮脂性か否かを判定することができる。
【0109】
サーモクロミックという特性を持つ色素について説明する。サーモクロミック分子は無色であるが、紫外光照射により結合生成を起こし赤色に着色する。これは、共役長が変化するため吸収帯が変化するものと考えられている。逆に、紫外光の照射により結合の切断が起こり青紫色に変化する色素もある。耐光試験では、大変強い紫外線を使用することで試験時間を短縮することができる。なお、一般的に黄色、紅については退色しやすく、藍、黒は退色しにくい。
【0110】
染料は分子の状態で紙に吸着するのに対して、顔料は分子が集まった粒子の状態で紙に吸着している。この違いは顕微鏡でみればわかるが、肉眼では顔料の粒子は見えないので、どちらも赤く見えるのには違いはない。しかし、色の鮮やかさなどには違いがみられる。顔料は水に溶けないので、赤く塗った紙に水をかけても溶けない長所がある。
【0111】
なお、特開2006−193674号に記載のインキを使って、所定以上の温度になった際の記録を残してもよい。これにより、所定温度以上の際に、濃度や色相の変化量が極端に変動してしまう色素を用いた場合にも補正することができる。
【0112】
色素に光が当たって脱色するものはそんなに多くはなく、酸化はほとんど酸素によるものである。そのため、環境試験の要素の一つとして酸素濃度や紫外線の強度等を加味してもよい。当然、環境経過を把握するための変数は多ければ補正が容易になるが、変数が多くなると計算量も増大する。そのため、通常使用環境下での条件に限ることで計算量を低減することができる。
【0113】
以上説明したように、コードCは、第一色素で印刷された第一部分と、第一色素より変色しやすい第二色素で印刷された第二部分とを含む。コンピュータ20は、コードCを読み取るスキャナ24を有する。コンピュータ10は、第二色素の変色に関連する情報を用いて、スキャナ24によって読み取られたコードCをデコードするCPU11(デコーダ)を有する。第一部分のみをデコードすると第一の結果(コードCのID情報)が得られ、かつ第一部分と第二部分とを組み合わせてデコードすると第二の結果(環境による影響)が得られる。これによって、環境による影響を評価するための新しい価値を提供することができる。
【0114】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0115】
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
第一色素で印刷された第一部分と、前記第一色素より変色しやすい第二色素で印刷された第二部分と、を含むコードにおいて、
前記コードは前記第二色素の変色に関連する情報を用いてデコード可能なコード。
[付記2]
前記第一部分をデコードすることにより、前記第二色素の変色に関連する情報を特定するための識別情報が得られる付記1に記載のコード。
[付記3]
前記コードは、時間に関する情報と色に関する情報の関係が保存されたデータベースのデータを用いてデコード可能な付記1に記載のコード。
[付記4]
前記第一色素と前記第二色素は所定温度における退色速度が異なる付記1乃至3の何れか一項に記載のコード。
[付記5]
前記第一色素と前記第二色素は耐擦過性が異なる付記1乃至4の何れか一項に記載のコード。
[付記6]
前記第一色素と前記第二色素は耐オゾン特性が異なる付記1乃至5の何れか一項に記載のコード。
[付記7]
付記1乃至6の何れか一項に記載のコードをデコードする情報処理方法。
[付記8]
付記1乃至6の何れか一項に記載のコードをエンコードする情報処理方法。
[付記9]
付記7又は8に記載の情報処理方法を実行する情報処理装置。
[付記10]
情報処理装置を付記7又は8に記載の情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラム。
[付記11]
付記10に記載のプログラムが記録された記録媒体。
[付記12]
付記1乃至6の何れか一項に記載のコードを印刷するために用いるインク。
[付記13]
付記12に記載のインクに含有される色素。
[付記14]
付記1に記載の前記コードをデコードするための前記第二色素の変色に関連する情報を記憶する記憶装置。
[付記15]
付記14に記載の記憶装置に接続され、前記第二色素の変色に関する情報を前記記憶装置に格納する情報処理装置。
[付記16]
第一色素で印刷された第一部分と、前記第一色素より変色しやすい第二色素で印刷された第二部分と、を含むコードにおいて、
前記第一部分のみをデコードすると第一の結果が得られ、かつ前記第一部分と前記第二部分とを組み合わせデコードすると第二の結果が得られるコード。