【実施例1】
【0026】
実施例1では、植物育成地に接地される筋状に長く延びた電子放散部を含んだ植物育成促進システム1を、
図1及び
図2を参照して説明する。なお、
図1(A)図では、埋設された電子放散部を破線で示している。
図1(B)図では、電子発生装置と電子放散手段とを、一点鎖線で囲んで示している。
図2の各々の図では、電流の流れる方向及び電子の流れる方向を矢印で示している。
図2(A)図では、電子が放散されている状態を波線矢印で示している。
【0027】
図1は、植物育成促進システム1を示す説明図である。
図1(A)図は、植物育成促進システム1における電子放散部の配線の一例を示している。
図1(B)図は、電子発生装置10及び電子放散手段40の構成を示す説明図である。
図2は、電子発生装置10において電子が発生される状態を示す説明図である。
図2(A)図は、電子放散部43から電子が放散されている状態を示し、
図2(B)図は、電子放散部43から電子が放散されていない状態を示している。
【0028】
植物育成促進システム1は、電子を発生させる電子発生装置10と、電子発生装置により発生させた電子を植物育成地に放散させる電子放散手段40とを含んでいる(
図1(B)図一点鎖線枠参照)。電子発生装置に電力を供給させる電源60は、電圧値が100Vの商用交流電源とされている。実施例1では、長さ約50m、幅約20m、面積約1000m
2の植物育成地に適用させた例を説明する。畝100の長さは、約50mとされ、13本の畝が並列に設けられている(
図1(A)図では、畝の一部を省略している)。
【0029】
図1を参照して、電子放散手段40の構成を説明する。電子放散手段40は、植物育成地に接地される電子放散部43を有する電子伝達部41を含んでいる。電子放散部43は、複数本に分岐され、夫々の電子放散部が畝の延びる方向に沿って、畝の全長に亘って埋め込まれて植物育成地に接地されている(
図1(A)図参照)。電子放散部43が埋め込まれる深さは、畝溝から10cm〜15cmの深さとされている。電子伝達部41の電子放散部以外の部分は、周囲が絶縁被覆54により覆われている(
図1(B)図参照)。
【0030】
ここで、
図1(B)図を参照して、電子発生装置10の構成を説明する。電子発生装置は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路20を有している。また過電流が流れた際に機器の損傷を防止する保護回路12(公知の回路構成によればよいため、図に回路構成の一例を示し、説明を省略している)と、電子放散部側の電流を低い電流値に制限させる電流制限抵抗13とを備えている。
【0031】
変圧回路20は、保護回路12を介して電源60と接続される1次側回路21と、高圧交流電力を発生させる2次側回路31から構成される。1次側回路は、
図1(B)図において上側から順に、1次側回路の第2の端子24、1次コイル22、1次側回路の第1の端子23が配置される。2次側回路は、同図において上側から順に、2次側回路の第2の端子34、ダイオード36、2次コイル32、2次側回路の第1の端子33が配置される。そして、2次側回路の第1の端子33は、接続点35において1次側回路21と接続され、2次側回路の第2の端子34は電流制限抵抗13を介して電子放散手段40と接続されている。なお、変圧回路のコイル線の巻き方により、極性が逆極性となる場合には、2次側回路の第1の端子と第2の端子を読み替えればよい。
【0032】
1次コイル22と2次コイル32との巻数比は50倍とされ、100Vの商用交流電源から1次側回路21に交流電力が入力されると、2次側回路31には5000Vの高圧交流電力が出力される。2次コイル32と2次側回路の第2の端子34との間にはダイオード36が接続され、電子放散手段40への方向にのみ電子が流れる。2次側回路の第2の端子34と電子放散手段40との間には、抵抗値が10MΩとされた電流制限抵抗13が接続されている。電流制限抵抗13の接続により、電子放散手段40への電流値を、人体が感じることのできる最小感知電流(約1mA)よりも小さい0.2mA〜1mAに制限させておくことにより、作業員の安全が確保される。
【0033】
次に、
図2(A)図を参照して、2次側回路の第1の端子33が負の電位のタイミングにおける、変圧回路20における電流の向き及び電子の向きを説明する。ここでは、1次コイル22に流れる電流をI1、電子をe1で示し、2次コイル32に流れる電流をI2、電子をe2で示している。変圧回路20は、1次側回路の第2の端子24から1次側回路の第1の端子23に向けて電流I1が流れると(
図2(A)図矢印I1参照)、2次側回路の第2の端子34から2次側回路の第1の端子33に向けて電流I2が流れる(
図2(A)図矢印I2参照)。
【0034】
そして、2次側回路の第1の端子33と1次側回路21とが接続されていることにより、第1の端子33が負の電位となるタイミングにおいては、2次側回路に発生した電流I2が1次側回路21に還流される。2次側回路の第1の端子33と1次側回路21との接続点35から電源に向かって電流I1と電流I2とが合流して流れる(
図2(A)図矢印I1+I2参照)。
【0035】
なお、電子の流れは電流の向きと逆方向に定義されている。前記の電流の流れを換言すれば、電子e1は、1次側回路の第1の端子23から1次側回路の第2の端子24に向けて流れる(
図2(A)図矢印e1参照)。2次側回路31においては、2次側回路の第1の端子33から2次側回路の第2の端子34に向けて、電子e2が流れる(
図2(A)図矢印e2参照)。
【0036】
2次側回路に設けられたダイオード36は、2次側回路の第2の端子34から2次側回路の第1の端子33に向かう方向にのみ電流が流れるように整流する。換言すれば、電子e2は、2次側回路の第1の端子33から第2の端子34に向かう方向に流れて電子放散手段40に供給され、電子伝達部41を経て電子放散部43から植物育成地に放散される(
図2(A)図矢印e2参照)。
【0037】
図2(B)図を参照して、2次側回路の第1の端子33が正の電位のタイミングにおける、変圧回路20における電流の向き及び電子の向きを簡単に説明する。
図2(B)図においては、1次コイル22に流れる電流をI3、電子をe3で示している。交流は、電圧・電流の値が周期的に反転され(
図2(A)図矢印I1、
図2(B)図矢印I3参照)、換言すれば電子の流れる方向も周期的に反転される(
図2(A)図矢印e1、
図2(B)図矢印e3参照)。2次側回路31のダイオード36により、2次側回路の第1の端子33が正の電位のタイミングにおいては、2次側回路の第1の端子33から第2の端子34に向かう電流が遮断されるため、換言すれば電子の流れも遮断される。
【0038】
これにより、交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子33が負の電位となるタイミングのみに、周期的に第2の端子34から電子放散手段40(
図1(B)図参照)に電子が伝達される(
図2(A)図参照)。また、第1の端子33が正の電位のタイミングにおいては(
図2(B)図参照)、2次側回路31に高電圧が発生されても、電子放散手段40に向かう電流が遮断されているため、電子放散部43にはオゾンが発生されない。
【0039】
2次側回路の第1の端子33自体も、1次側回路21に接続されているため、2次側回路の第1の端子33においてもオゾンは発生されない。第1の端子、第2の端子のいずれの側からも、電子発生装置をなす機器に有害であり且つ植物の成長を阻害させるオゾンが発生されないため、広い植物育成地において長期間に亘って電子を放散させることができる。
【0040】
(実証試験1)
実証試験1では、前記の電子放散手段40及び電子発生装置10を使用し、長さ約50m、幅約20m、面積約1000m
2の植物育成地にて果菜類に属するトマトの育成促進の実証試験を行い、1000本のトマトを植え付け、同一の植え付け条件で、電子放散をした場合と電子を放散しなかった場合と比較した。以下に詳細な試験条件・試験結果を示している。
【0041】
(試験環境)
実証試験を行った植物育成地は、北緯33.3度、東経131.4度、標高5mの地にある温室栽培所とした。試験期間は、2016年10月1日から同年12月31日の92日間とした。試験期間における温室栽培所外の平均気温は、15.1℃であった(最高気温30.8℃、最低気温−1.3℃)。試験期間における温室栽培所外の降水量は、275.5mm(降水日数:33日)であった。温室栽培所内においては、暖房設備により夜間8〜13℃,昼間20〜25℃の範囲で温室栽培所内の気温が管理されていた。
【0042】
(試験機仕様)
試験機の消費電力は1Wとし、使用電源は商用交流電源100V,60Hzを使用した。1次側交流電力の電圧値は100V、電流値は10mAとした。1次コイルと2次コイルとの巻数比は50倍として、2次側の交流電力の電圧値を5000V、電流値を0.2mAとした。試験期間を通して通電し続け、電力の総使用量は1W×24h×92日=2.28kWhであった。1kWhあたり20円とすると合計で約50円の電気料金であった。
【0043】
電子放散部43は、50mのワイヤーを13本使用し、合計650mとした。また、夫々のワイヤーの配線間隔は、畝にあわせて1.5m間隔とした。ワイヤーの種類は、直径2mmのステンレス鋼製のワイヤーとした。ワイヤーの埋設位置は、畝の全長に沿って、溝底から深さ10〜15cmの位置の深さとした。電子を放散した場合と電子を放散しなかった場合の収穫量等を表1に示す。電子放散をしなかった場合のデータは、試験協力先の農家における直近10年間の記録に基づいた。なお、平均糖度については、温室栽培所内の日照条件の異なる3箇所(東端・中央・西端)で各3個を採取し、平均値を検証した。
【0044】
電子を放散した場合を、電子を放散しなかった場合と比較して、実証試験1の結果を以下の表1に示す。収穫量は重量比で50%増加した。平均糖度は40%向上した。未成熟等による規格外品の発生率が25%から3%に減少した。連作障害による青枯れの発生率は30%〜50%から3%に減少した。その他の病害(ウィルス・細菌等による病害)の発生率も30%から10%に減少した。この実証試験1により、高電圧・微小電流とし、作業者に安全な電気環境とした場合でも、電子のみの放散により、トマトの収穫量を増大させ且つ品質も向上させ、効果的に植物の育成の促進ができることが確認された。
【0045】
[表1]
【0046】
(実証試験2)
実証試験2では、前記の電子放散手段40及び電子発生装置10を使用し、長さ約50m、幅約20m、面積約1000m
2の植物育成地において、果菜類に属するカボチャの育成促進の実証試験を行った。実証試験2では、1000本のカボチャを植え付け、同一の植え付け条件で、電子放散をした場合と電子を放散しなかった場合と比較した。以下に詳細な試験条件・試験結果を示している。
【0047】
ここで、本実証試験におけるカボチャの栽培方法について簡単に説明する。一般的にカボチャは、1本の親弦から2本の子弦を延ばし、夫々の子弦に2個ずつの実を生らせている。しかし試験協力先の農家においては、夫々の子弦に1個の実が生るようして、地域で定められた高品質の認定規格に適合するカボチャを育成していた。高品質の認定規格に適合する要件は、カボチャの重量が800〜900gの範囲内であって、果肉断面に現れる空洞が少なく果肉密度が高いこととされている。
【0048】
そこで、実証試験2においては、夫々の子弦に2個ずつの実を生らせても、高品質の認定規格に適合するカボチャを育成できるかどうかについて、実証試験を行った。実証試験を行った植物育成地は同一地域・同一季節における2箇所であり、1箇所では電子を放散し、他の1箇所では電子を放散させないでカボチャを育成し比較した。夫々の面積は同じ約1000m
2であった。
【0049】
(試験環境)
実証試験を行った植物育成地は、北緯31.5度、東経131.0度、標高150mの地にある温室栽培所とした。試験期間は、2016年2月15日から同年3月5日までの20日間とした。試験期間における温室栽培所外の平均気温は、7.6℃(最高気温21.2℃、最低気温−3.0℃)。試験期間における温室栽培所外の降水量は、69.0mm(降水日数:4日)であった。温室栽培所内は、暖房設備により夜間10〜15℃,昼間20〜25℃の範囲となるように温室栽培所内の気温が管理されていた。
【0050】
(試験機仕様)
試験機の消費電力は2Wとし、使用電源は商用交流電源200V,60Hzを使用した。1次側交流電力の電圧値は200V、電流値は10mAとした。1次コイルと2次コイルとの巻数比は25倍として、2次側の交流電力の電圧値を5000V、電流値を0.4mAとした。試験期間を通して通電し続け、電力の総使用量は2W×24h×20日=0.96kWhであった。1kWhあたり20円とすると計約20円の電気料金であった。
【0051】
電子放散部43から電子を放散させた環境は実証試験1と同一である。電子を放散した場合を、電子を放散しなかった場合と比較して、実証試験2の結果を以下の表2に示す。収穫量は、間引きをしなかったため、収穫数が70%増加した。認定規格適合率は70%から97%に向上した。果肉断面の空洞発生率は15%から3%に減少した。未成熟等による規格外品の発生率は20%から4%に減少した。連作障害による青枯れの発生率は20%から3%に減少した。萎れの発生率は20%から5%に減少した。
【0052】
[表2]
【0053】
なお、電子を放散しなかった場合には、間引きをすることが必要であるため、生産個数が大幅に少なくなると共に、カボチャの重量が600g〜1200gの範囲でばらつき、高品質の認定規格に適合するカボチャの選定に手間もかかった。
【0054】
実証試験1及び実証試験2で得られた結果から、本発明によれば、まず、大地と絶縁されていない広い植物育成地において、複数種類の果菜類の分野において、収穫量の増加と共に品質の向上が実証された。また、葉菜類や根菜類も、果菜類と同様な植物育成環境で育成されていることから、果菜類に限定されず、本発明の電子発生装置を使うことにより、小さな電力により電子を発生させて、効果的に植物育成を促進させることができる。
【0055】
一方、植物自体の育成とは異なり、土壌環境の改善の観点からも試験をしている。以下に、2つの分析試験の結果を示す。
(分析試験1)
分析試験1(2014年に日本食品分析センターにて試験実施)では、電子を土壌に放散させたことによる生息細菌数の変化について分析した。試験機は実証試験1と同一の試験機を使っている。分析試験は、合計20kgの土を採取し、10kgずつに分け、一方にのみ245時間電子を流して、細菌数の変化を分析した。分析対象は、土1gあたりの大腸菌数および好気性細菌数とした。
【0056】
(分析試験2)
分析試験2(2013年に宮崎農業普及センターにて試験実施)では、実証試験1を行った植物育成地における土壌のEC値の変化について分析した。試験機は実証試験1と同一の試験機を使っている。分析試験1及び分析試験2の結果を以下の表3に纏めて示している。
【0057】
[表3]
【0058】
電子を放散した場合を、電子を放散しなかった場合と比較して、表3に示した分析結果から効果を比較した。電子を放散した場合には、植物の育成を促進させる好気性細菌の数が10%増加し、植物の育成を阻害させる大腸菌の数が70%減少した。硝酸態窒素の濃度を示すEC値は0.21から0.46になり2.2倍に向上した。なお、硝酸態窒素の濃度が上昇した理由は、好気性細菌の数の増加により、土壌に撒いた肥料の発酵が促進されたと推測される。また、肥料の発酵に伴い土壌の温度が僅かに上昇したことも計測されている。
【0059】
電子を放散させた土壌中において、植物の育成を促進させる細菌が増加し、植物の育成を阻害させる細菌が減少し、窒素肥料に含まれている硝酸態窒素の濃度が上昇していることから、果菜類に限定しないで、多くの種類の植物の育成を促進させることができると推定された。
【0060】
(その他)
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
・本発明の電子発生装置は、オゾンにより機器が損傷される可能性のある用途、オゾンにより周囲に居る人・動物の安全が阻害されやすい用途のすべてに適用できることは勿論のことである。