特許第6233764号(P6233764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6233764
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】シューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   A43B23/02 102
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-171581(P2017-171581)
(22)【出願日】2017年8月22日
【審査請求日】2017年8月22日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515244900
【氏名又は名称】広田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】広田 貴彦
【審査官】 村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】 実開平6−19511(JP,U)
【文献】 特開2006−6577(JP,A)
【文献】 実開昭57−137303(JP,U)
【文献】 実公昭31−7650(JP,Y1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0053432(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッドソールと、
前記ミッドソールの上に設けられ前記ミッドソールとの間に足指を収納する内部空間を形成するアッパーと、を備えるシューズであって、
前記アッパーは、
前記ミッドソールに固定されたアッパー本体と、
前記アッパー本体の前記足指側の端部に連結され、前記連結された部分を中心に前記アッパー本体に近接するように自在に回転する可動爪先部と、
前記アッパー本体及び前記可動爪先部のそれぞれの表面上に対をなして設けられた固定装置と、を備え、
前記可動爪先部の回転によって前記内部空間の爪先側の領域を開放し、
回転した前記可動爪先部を前記固定装置によって前記アッパー本体の外表面上に固定して、前記爪先側の領域の開放状態を保持することを特徴とするシューズ。
【請求項2】
前記可動爪先部の位置を前記ミッドソール上の先端で前記アッパー本体と外表面同士を揃えて固定することにより前記内部空間を閉鎖する状態と、前記可動爪先部を前記ミッドソールから分離するように回転させて前記内部空間を開放する状態とを切り換える開閉機構を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のシューズ。
【請求項3】
前記開閉機構はスライドファスナーであり、
前記ミッドソールの上で前記内部空間に配置されるインソールを更に備え、
前記スライドファスナーの下側エレメント群は、前記インソールの上面より低く配置されていることを特徴とする請求項2に記載のシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシューズ、特にランニングシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
マラソン競技のような長距離を走る際に、装着するランナーの疲労を抑えてより速く走れるように補助可能なシューズ(短靴)が求められている。例えば特許文献1には、板バネをシューズの底に取り付けることにより、着地時の衝撃をエネルギーとして活用し、効率的な走行を可能にするシューズが開示されている。しかし特許文献1の技術であってもランナーの補助の観点からは必ずしも十分ではなく、更なる技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−162318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した問題に着目して為されたものであって、装着者の疲労を抑え、より速い走行又は歩行を可能にするシューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るシューズのある態様は、ミッドソールと、ミッドソールの上に設けられミッドソールとの間に足指を収納する内部空間を形成するアッパーと、を備えるシューズであって、アッパーは、ミッドソールに固定されたアッパー本体と、アッパー本体の足指側の端部に連結され、連結された部分を中心にアッパー本体に近接するように自在に回転する可動爪先部と、アッパー本体及び可動爪先部のそれぞれの表面上に対をなして設けられた固定装置と、を備え、可動爪先部の回転によって内部空間の爪先側の領域を開放し、回転した可動爪先部を固定装置によってアッパー本体の外表面上に固定して、爪先側の領域の開放状態を保持することを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
よって本発明に係るシューズによれば、装着者の疲労を抑え、より速い走行又は歩行が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る右足用のシューズの、内部空間の先端が閉鎖された状態における構成の概略を模式的に説明する斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係るシューズを上面から見た図(平面図)である。
図3】本発明の実施の形態に係るシューズを下面から見た図(底面図)である。
図4】本発明の実施の形態に係るシューズを爪先側を正面から見た図(正面図)である。
図5】本発明の実施の形態に係るシューズを踵側を正面から見た図(背面図)である。
図6】本発明の実施の形態に係るシューズの内側であって、親指側を正面から見た図(右側面図)である。
図7】本発明の実施の形態に係るシューズの外側であって、小指側を正面から見た図(左側面図)である。
図8】本発明の実施の形態に係るシューズの、内部空間の先端が開放された状態における構成の概略を模式的に説明する斜視図である。
図9】本発明の実施の形態に係るシューズの閉鎖状態における先端を部分的に拡大して示す側面図である。
図10】本発明の実施の形態に係るシューズの閉鎖状態における先端を部分的に拡大し、図2中のA−A線方向から見た部分断面図である。
図11】本発明の実施の形態に係るシューズの開放状態における先端を部分的に拡大して示す側面図である。
図12】本発明の実施の形態に係るシューズの開放状態における先端を部分的に拡大し、図2中のA−A線方向から見た部分断面図である。
図13】本発明の実施の形態に係るシューズの開放状態における先端の足指の状態を模式的に示す平面図である。
図14図14(a)は本発明の実施の形態に係るシューズの開放状態における先端の足指の裏面側から地面に加えられる力の状態を模式的に示す図であり、図14(b)は従来の比較例に係るシューズの内部空間における先端の足指の裏面側から地面に加えられる力の状態を模式的に示す図である。
図15】本発明の実施の形態の第1変形例に係るシューズの、内部空間の先端が閉鎖された状態における構成の概略を模式的に説明する斜視図である。
図16】本発明の実施の形態の第2変形例に係るシューズの、内部空間の先端が閉鎖された状態における構成の概略を模式的に説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」に、「右」が「左」になることは勿論である。
【0009】
<シューズの構造>
まずシューズは通常、右足側及び左足側の一対のシューズで構成されている。右足側及び左足側のシューズは互いに対称的な構造を有するため、以下の説明においては右足側のシューズを単に「シューズ」と称して例示的に説明し、左足側についての重複説明を省略する。
【0010】
本発明の実施の形態に係るシューズは、図1に示すように、ミッドソール1と、ミッドソール1の上に設けられミッドソール1との間に足指を収納する内部空間を形成するアッパー(2a,2b)と、を備えるランニングシューズである。アッパー(2a,2b)は、ミッドソール1に固定されたアッパー本体2aと、端部においてアッパー本体2aの足指側の端部に連結され、連結された部分を中心にアッパー本体2aに近接するように自在に回転する可動爪先部2bとを備える。アッパー本体2a及び可動爪先部2bのそれぞれの表面上には固定装置(3a〜5a,3b〜5b)が対をなして設けられている。
【0011】
図2に示すように、シューズの内部空間でミッドソール1の上面上には、足底への衝撃を緩衝するインソール11が着脱自在に配置されている。図1及び図3に示すように、ミッドソール1の下には、トレッドパターンを有するアウトソール6が設けられている。詳細なトレッドパターンの図示は省略する。ミッドソール1は天然ゴムやプラスチック等を含むゴム材料等で作製でき、シューズの靴底本体をなす。
【0012】
アッパー(2a,2b)のアッパー本体2a及び可動爪先部2bは、天然の繊維材料やポリエステル、ポリアミド等の合成素材等からなる繊維材料を含み、柔軟性を有する布地で作製できる。本発明の実施の形態では、アッパー本体2a及び可動爪先部2bは同じ布地を用いて一体的に作製されているが、別々の布地を用いて作製されてもよい。図4及び図5に示すように、アッパー本体2aの下端はミッドソール1の上面の周縁領域に結合され、アッパー本体2a及びミッドソール1は堅固に一体化されている。
【0013】
図6及び図7に示すように、可動爪先部2bは足指の親指側である内側、5本の足指の先端、足指の小指側である外側及び5本の足指の上部を一体的に包んで覆う。可動爪先部2bは、一般的なアッパー(2a,2b)の爪先部分とほぼ同じ形状である。しかし本発明の実施の形態に係るシューズの可動爪先部2bは、図1中で破線状の仮想線で示す折り曲げ位置Vでアッパー本体2aと連結されているが、下側のミッドソール1側とは着脱自在に取り付けられている。
【0014】
可動爪先部2bがミッドソール1と着脱自在であることにより、可動爪先部2b及びミッドソール1間に、足指を包む内部空間を部分的に開閉する開閉機構が設けられている。開閉機構により、内部空間が閉鎖される状態と開放される状態とが切り換えられる。内部空間は、可動爪先部2bの位置がミッドソール1上の先端でアッパー本体2aと外表面同士を揃えて固定されることにより閉鎖される。また内部空間は、可動爪先部2bがミッドソール1から分離するようにアッパー本体2aの外表面側に向かって回転することにより開放される。本発明の実施の形態では、開閉機構にスライドファスナーが使用されている。
【0015】
図8に示すように、スライドファスナーは帯状の下側テープ7aと、下側テープ7aの上端に帯の延びる方向に沿って並設された複数のエレメント(務歯)からなる下側エレメント群8aとを備える。またスライドファスナーは、下側テープ7aの上に設けられた帯状の上側テープ7bと、上側テープ7bの下端に、複数のエレメントが下側エレメント群8aと噛み合うように揃えて並設された上側エレメント群8bとを備える。図8中では、可動爪先部2bがめくれて内表面が外側に露出し、内表面上に上側テープ7b及び上側エレメント群8bが先端側に延びるように設けられた状態が例示されている。
【0016】
更にスライドファスナーには、図9に示すように、上側エレメント群8b及び下側エレメント群8aの頭部同士を自在に離合させるスライダー9と、スライダー9に設けられた引手10とが設けられている。下側エレメント群8aは、インソール11の上面より低く配置されている。
【0017】
スライドファスナーは、親指の付け根から5本の足指の先端側を経由して小指の付け根に至る領域に亘る開閉領域が形成されるように設けられている。すなわち開閉領域は、アッパー(2a,2b)の先端において足指の親指側の中足指節関節と指節間関節との中間位置から、小指側の中足指節関節と近位の指節間関節との中間位置までに亘って水平に開口部が延びるように、選択的に形成されている。中足指節関節は、通常、足の親指が小指と反対側となる外側に最も張り出す領域に対応して位置する。また中足指節関節は、小指が親指と反対側となる外側に最も張り出す位置に対応して位置する。
【0018】
図10に示すように、可動爪先部2bの先端の下端は、下側テープ7aのミッドソール1への取り付け位置まで垂れ下がっている。下側テープ7aの下部は、ミッドソール1の先端に取り付けられている。上側テープ7bの上部は、可動爪先部2bの先端の裏面上に、可動爪先部2bの先端に沿って垂れ下がるように取り付けられている。すなわちスライドファスナー全体は可動爪先部2bの先端によって遮蔽されている。
【0019】
固定装置(3a〜5a,3b〜5b)は、図1に示したように、アッパー本体2aの外表面上及び可動爪先部2bの外表面上にそれぞれ対をなして設けられた3組の固定具によって実現されている。可動爪先部2bの表面の中央領域及び中央領域を上面から見て両側からそれぞれ挟む左右の領域には、いずれも可動爪先部2b側の中央固定具3a、内側固定具4a及び外側固定具5aが間隔を空けて設けられている。
【0020】
一方、アッパー本体2aの甲部の表面の中央領域及び中央領域を上面から見て両側か側の中央固定具3b、内側固定具4b及び外側固定具5bが間隔を空けて設けられている。可動爪先部2b側の中央固定具3a、内側固定具4a及び外側固定具5aは、アッパー本体2a側の中央固定具3b、内側固定具4b及び外側固定具5bにそれぞれ対応する。本発明の実施の形態では一対の固定具として、互いに繰り返し着脱自在なホックが採用されている。ホックは可動爪先部2bの繊維布に縫い付け等によって固着されている。
【0021】
可動爪先部2b側の中央固定具3a、内側固定具4a及び外側固定具5aと、それぞれ対応するアッパー本体2a側の中央固定具3b、内側固定具4b及び外側固定具5bは、折り曲げ位置Vを中心としてほぼ等距離で離間している。離間距離は外表面上の沿面距離であり、例えば成人男性で踵から足指の一番長い指の先端までの足長が約27.5cmに対応するシューズの場合、特に可動爪先部2b側の中央固定具3a及びアッパー本体2a側の中央固定具3b間の離間距離の上限は4.8mm程度に設定されることが好ましい。
【0022】
図12に示すように可動爪先部2bをアッパー本体2aに固定した際、断面がほぼV字状をなす先端側への張り出し部分が形成される。離間距離が4.8mmを超えると固定具の固定位置と折り曲げ位置Vまでの距離が長くなりすぎて張り出し部分が大きくなり、ランニング中の振動によって足指側に下垂して足指に接触する場合が生じる。離間距離が4.8mm程度以下に設定されることにより、張り出し部分足指への接触を効果的に抑制できる。また離間距離の下限は固定具の形状や仕様等に応じて適宜設定できる。
【0023】
<開閉動作>
次に本発明の実施の形態に係るシューズにおけるアッパー(2a,2b)の先端の開閉動作を説明する。まず、アッパー(2a,2b)の可動爪先部2bの先端をめくって開閉機構であるスライドファスナーを露出させる。
【0024】
次に上側エレメント及び下側エレメントが離れるように、スライドファスナーの引手10を介してスライダー9を移動させることにより、上側エレメント及び下側エレメントを分離する。そして図11に示すように、アッパー(2a,2b)の可動爪先部2bをアッパー本体2a側に回転させて折り曲げ位置で折り曲げ、可動爪先部2bの外表面とアッパー本体2aの外表面とを近接して対向させ、内部空間の先端の爪先側の領域を開放する。
【0025】
次に図12に示すように、可動爪先部2bの外表面上の中央固定具3aと、アッパー本体2a側の中央固定具3bとを結合する。同様に、可動爪先部2b側の内側固定具4aとアッパー本体2a側の内側固定具4bとを結合すると共に、可動爪先部2b側の外側固定具5aとアッパー本体2a側の外側固定具5bとをそれぞれ結合する。3組の一対の固定具がそれぞれ結合されることにより、折り曲げられた可動爪先部2b及びアッパー本体2aのそれぞれの外表面同士が近接位置で対向して固定され、内部空間の先端の爪先側の領域の開放状態が保持される。
【0026】
図13に示すように、シューズの内部空間の先端が開放されることにより、5本の足指の上面が開口部に露出する。ここでスライドファスナーによる開閉領域は、親指側の中足指節関節J1と指節間関節J2との中間位置から、小指側の中足指節関節J1と近位の指節間関節J2との中間位置まで形成されている。そのため開放状態では、5本の足指はそれぞれの中足指節関節を跨ぐ内転筋群や屈筋群を閉鎖状態の場合より大きく伸縮させることができるようになる。よって5本の足指は上面から見た際、隣接する足指間の隙間が広がるように、閉鎖状態の時よりもシューズの外側に大きく変位可能になる。図13中には、親指及び小指がミッドソール1の外縁よりも更に外側に張り出した状態が例示されている。
【0027】
そのため図14(a)に示すように、インソールに接触する5本の足指の裏面側では、指先のそれぞれが地面に対して垂直に踏み込む力が強化される。また母指球12を含む前足部13の領域で地面に対して垂直に踏み込む力が強化される。図14(a)中では、足の裏側から地面に対して力が加えられる領域が斜線を付して模式的に例示されている。
【0028】
<比較例>
一方、アッパーの先端に可動爪先部を有さない比較例に係るシューズの場合、先端ではアッパーの内表面とインソールに挟まれ、5本の足指を外側に変位できない。また5本の足指は、それぞれの指骨間の関節が窮屈に屈曲した状態で内部空間に押し込められる場合もある。そのため図14(b)に示すように、5本の足指の裏面側では、指先及び前足部13はいずれも地面に対して踏み込む力を十分に強化できない。図14(a)及び図14(b)に示すそれぞれの場合の力の状態は、シューズの構成以外については等価な条件下で得られたものである。
【0029】
尚、ランニング時、ランナーの右足の爪先を除く他の部分はアッパー本体によって包まれている。右足はアッパー本体及びインソールとの接触部分を介してシューズに堅固に保持されているため、シューズがランニング中に右足から脱落したりして支障になることはない。
【0030】
そして内部空間の爪先側の領域を閉鎖するには、まず3組の一対の固定具をそれぞれ分離することにより可動爪先部の固定を解除し、可動爪先部を先端側に回転させて元の位置に復元する。そしてスライドファスナーの引手を介してスライダーを移動させることにより、上側エレメント及び下側エレメントを噛み合わせて結合させれば、内部空間の爪先側の領域は閉鎖される。その後、可動爪先部の先端をスライドファスナーの上に被せて覆えばよい。
【0031】
本発明の実施の形態に係るシューズによれば、アッパーの可動爪先部の回転動作により、内部空間の爪先側の領域が開放されると、隣接する足指間の隙間が広がるように、5本の足指のそれぞれが大きく変位可能になる。そのため足指1本1本及び前足部13から地面に踏み込む力を強化できる。
【0032】
特にランニングにおいては、重力に対する抵抗となるランナーの動作はブレーキとして働く。この抵抗動作を抑制し、エネルギーをより効率的に用いて速く走るためには、足指裏面及び前足部を用いて、地面に対して垂直に強く踏み込むことが非常に重要である。本発明の実施の形態に係るランニング用のシューズによれば、踏み込み力が強化されることで身体の安定性が高まると共に足から地面へ力が効率的に伝達されるので、ランナーは疲労を抑えて、より速く効率的に走ることが可能になる。
【0033】
また本発明の実施の形態に係るシューズでは、可動爪先部の回転動作により、5本の足指の上側からアッパーの先端領域がすべて取り除かれるため、ランニング時に、足指の上面にアッパーの内表面が繰り返し接触することがない。そのため接触による炎症の発生が防止されると共に、足指の疲労を軽減できる。
【0034】
また本発明の実施の形態に係るシューズでは、開閉機構により可動爪先部がミッドソールに固定され内部空間が閉鎖される状態と、可動爪先部がミッドソールから分離され内部空間が開放される状態とが切り換えられる。そのため閉鎖状態ではシューズとしてのアッパー全体の一体性を高めることが可能になる。
【0035】
また本発明の実施の形態に係るシューズでは、開閉機構であるスライドファスナーの下側エレメント群は、インソールの上面より低く配置されているため、インソール上に配置される足指に下側エレメント群が干渉しない。そのため足から地面への力が更に効率的に伝達されると共に、足指に下側エレメント群が接触して干渉することを防止できる。
【0036】
また本発明の実施の形態に係るシューズでは、内部空間の閉鎖状態では、スライドファスナー全体が可動爪先部の先端によって遮蔽される。そのため開閉機構が僅かな隙間を有する場合であっても、この隙間を介して雨や湿気等がシューズの内部空間に侵入することを防止できると共に、足指先端の保護を一層高めることができる。更にスライドファスナーを覆い隠すことによって、通常のデザインパターンに準じた形状を実現できるので、例えば街歩きのようなランニング時以外でシューズを装着する際に好適である。
【0037】
<第1変形例>
例えば図15に示した第1変形例に係るシューズのように、アッパー(2a,2cの先端にスライドファスナーが露出していても本発明は成立する。第1変形例に係るシューズの可動爪先部2cには、先端を遮蔽する部分が不要であるので、材料コストを低減し、製造工程を簡略化できる。
【0038】
第1変形例に係るシューズの可動爪先部2c以外の構成については、図1〜14に示した本発明の実施の形態に係るシューズにおける同名の部材と等価であるため重複説明を省略する。第1変形例に係るシューズにおいても、本発明の実施の形態に係るシューズの場合と同様の効果が得られる。
【0039】
<第2変形例>
また例えば図16に示した第2変形例に係るシューズのように、固定装置(3a1〜5a1,3b1〜5b1)として面ファスナーが採用されてもよい。図16中に例示した可動爪先部2b側の中央固定具3a1、内側固定具4a1及び外側固定具5a1は、図1中に示した可動爪先部2b側の中央固定具3a、内側固定具4a及び外側固定具5aにそれぞれ対応し、例えば面ファスナーのフック部で実現できる。また図16中に例示したアッパー本体2a側の中央固定具3b1、内側固定具4b1及び外側固定具5b1は、図1中に示したアッパー本体2a側の中央固定具3b、内側固定具4b及び外側固定具5bにそれぞれ対応し、フック部に対応するループ部で実現できる。
【0040】
第2変形例に係るシューズの固定装置(3a1〜5a1,3b1〜5b1)以外の構成については、図1〜14に示した本発明の実施の形態に係るシューズにおける同名の部材と等価であるため重複説明を省略する。第2変形例に係るシューズにおいても、本発明の実施の形態に係るシューズの場合と同様の効果が得られる。
【0041】
<その他の実施の形態>
本発明は上記の開示した実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0042】
例えば、本発明の実施の形態では、開閉機構により可動爪先部がミッドソールに固定され内部空間が閉鎖される状態と、可動爪先部がミッドソールから分離され内部空間が開放される状態とが切り換えられた。しかし可動爪先部がアッパー本体に対して回転可能に連結されている限り、開閉機構は必須ではない。換言すると、開口部を閉鎖するための構造がなくても本発明は実施できる。
【0043】
また開閉機構として線ファスナーであるスライドファスナーが採用された場合を説明したがこれに限定されない。使用者であるランナーによりアッパーの内部空間の先端が自在に開閉できればよく、例えば図8中に示したスライドファスナーの位置に、面ファスナー等を適用したような他の開閉機構が使用されてもよい。
【0044】
また可動爪先部は5本の足指の左右の側方だけでなく、更に先端及び上側の領域も覆っていたが、先端及び上側の領域の遮蔽を必須とするものではない。少なくとも左右いずれか一方の側方が開閉自在に遮蔽されていれば、5本の足指が側方に変位可能になり、地面に踏み込む力を強化できる。
【0045】
また本発明の実施の形態ではアッパーを構成する繊維布は、説明の便宜上、1枚の布地であるように説明したが、これに限定されず、複数の布地を重ね合わせた多層の繊維布が採用されてもよい。また本発明の実施の形態ではアッパー本体と可動爪先部との連結構造は、1枚の連続する繊維布が折り曲げられることで実現されていた。しかし本発明の連結構造はこれに限定されず、例えば蝶番のような金属製部材や、柔軟性を有する他の繊維布等を連結具として用意し、この連結具をそれぞれ別々の繊維布等からなるアッパー本体及び可動爪先部間に介在させて、両者を開閉自在に連結することもできる。
【0046】
また図1図16で示したシューズの構造を部分的に組み合わせても本発明に係るシューズを実現できる。また本発明に係るシューズはランニング用として非常に好適であるが、ランニングシューズに限定されることなく、他の用途、例えばいわゆるタウンスニーカーのような街歩き用等、他の各種用途で使用される靴に適用することもできる。以上のとおり本発明は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むとともに、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 ミッドソール
2a アッパー本体
2b,2c 可動爪先部
3a,3a1 中央固定具
3b,3b1 中央固定具
4a,4a1 内側固定具
4b,4b1 内側固定具
5a,5a1 外側固定具
5b,5b1 外側固定具
6 アウトソール
7a 下側テープ
7b 上側テープ
8a 下側エレメント群
8b 上側エレメント群
9 スライダー
10 引手
11 インソール
12 母指球
13 前足部
J1,J1 中足指節関節
J2,J2 指節間関節
【要約】
【課題】 装着者の疲労を抑え、より速い走行又は歩行が可能になるシューズを提供する。
【解決手段】 シューズは、ミッドソール1の上に設けられミッドソール1との間に足指を収納する内部空間を形成するアッパー(2a,2b)と、を備えるシューズであって、アッパー(2a,2b)は、1に固定されたアッパー本体2aと、アッパー本体2aの足指側の端部に連結され、連結された部分を中心にアッパー本体2aに近接するように自在に回転する可動爪先部2bと、アッパー本体2a及び可動爪先部2bのそれぞれの表面上に対をなして設けられた固定装置(3a〜5a,3b〜5b)と、を備え、可動爪先部2bの回転によって内部空間の爪先側の領域を開放し、固定装置(3a〜5a,3b〜5b)によって回転した可動爪先部2bをアッパー本体2aの外表面上に固定して、爪先側の領域の開放状態を保持する。
【選択図】図8
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