(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステアの前記内径側端面及び前記外径側端面は、当該ステアが前記爪設置溝に挿入された状態において前記爪設置溝の一方の側面方向を指向するように傾斜して形成されており、
前記一対のグリップ各々の前記端面は、当該グリップが前記爪設置溝に挿入された状態において、前記ステアの前記内径側端面又は前記外径側端面に対向し、前記爪設置溝の他方の側面であるステア位置規定面の方向を指向するよう傾斜して形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のチャック機構。
前記一対のグリップの各々と前記ステア付爪の前記ステアの前記内径側端面又は前記外径側端面との間には、各々、前記グリップと前記ステアとを離反する方向に力を作用させる弾性部材が設置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のチャック機構。
前記マスタージョーの前記爪設置溝は、T字形状の断面形状を有し、前記ステア付爪の前記ステアは、前記マスタージョーの爪設置溝に内接可能なT字形状の断面形状を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のチャック機構。
前記チャック本体の端面に、当該端面を覆う平坦なプレートであって、前記マスタージョーと干渉しない切り欠きが形成された防塵プレートが設置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のチャック機構。
前記ステアの前記内径側端面及び前記外径側端面は、当該ステアが前記爪設置溝に挿入された状態において前記爪設置溝の一方の側面方向を指向するように傾斜して形成されていることを特徴とする請求項9に記載のステア付爪。
前記爪と前記ステアとが一体成形されており、前記爪の下部の前記ステアが形成されている箇所の近傍は前記位置決め部が形成されていない加工逃げ空間に形成されており、前記爪の下部の前記位置決め部は前記加工逃げ空間により分割されて構成されていることを特徴とする請求項9又は10に記載のステア付爪。
前記ステアには、前記内径側端面と前記外径側端面との間を貫通し、当該ステアの下方に開口した溝であるクランプボルト通過溝が形成されていることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のステア付爪。
前記爪の周囲の下部に、当該爪の下部と、前記チャック本体の端面あるいは当該端面に設置された平坦部材の表面との間をシールするワイパーブレードが装着されていることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載のステア付爪。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1実施形態
本発明の第1実施形態について
図1〜13を参照して説明する。本実施形態においては、本発明の工作機械の一例として、本発明のステア付爪及びチャック機構を適用した旋盤について説明する。なお、第1実施形態を含む以下の各実施形態の説明において、同一又は類似の構成については同一の符号を付するとともに、各実施形態での重複する説明は省略する。
図1に示すように、本実施形態の旋盤1は、加工対象のワークを把握するチャック機構10、チャック機構10を回転駆動するモータ30、モータ30の回転動力をチャック機構10に伝達するスピンドル(シャフト)40及びモータ30等を制御する制御部50を有する。
【0013】
チャック機構10は、
図2に示すように、円筒型のチャック本体110、チャック本体110に取り付けられる3つのマスタージョー120、マスタージョー120に設置される3つのステア付爪200、ステア付爪200をマスタージョー120に固定するための一対のグリップ510,540、及び、一対のグリップ510,540を連結するクランプボルト273を有する。
【0014】
チャック本体110の端面112には、マスタージョー120を取り付けるためのマスタージョー挿入溝115が形成されている。マスタージョー挿入溝115は、幅広の底部115aと、底部115aより幅狭の上部115bとを有するT字形状の断面を有し、チャック本体の端面112の径方向に所定の長さで延在する。
【0015】
マスタージョー120は、ステア付爪200をチャック本体110に取り付ける受け台である。マスタージョー120は、
図3に示すように、幅広の基部121と、基部121より幅狭の上部122とを有するT字形状の断面を有し、平面形状は長方形の金属製部材である。基部121は、チャック本体110のマスタージョー挿入溝115の底部115aに内接し収容される形状及びサイズであり、上部122は、マスタージョー挿入溝115の上部115bに内接する幅である。上部122の高さは、マスタージョー挿入溝115の上部115bの高さよりも若干高い。従って、マスタージョー120をチャック本体110に設置すると、マスタージョー120の最上部は、チャック本体110の端面112から若干突出した状態となる。
【0016】
マスタージョー120には、ステア付爪200を取り付けるための爪設置溝123が形成されている。爪設置溝123は、マスタージョー120の長手方向に沿って延在するように形成されており、幅広の底部123aと底部123aより幅狭の上部123bとを有するT字形状の断面を有する。爪設置溝123は上部123bに対して底部123aの方が幅広のため、上部123bと底部123aとの境界には下向きの段差面123c(肩部と称する場合もある。請求の範囲の所定の係止部に対応)が形成される。段差面123cは、後述するように、ステア付爪200を下方に引き込む際の支持面(引き込み支持面)となる。
【0017】
また、マスタージョー120の爪設置溝123を形成する対向する一対の側面のうち一方の側面123dは、ステア付爪200のステア240の幅方向の位置を規定する規定面(ステア位置規定面)となる。後述するように、爪設置溝123にはステア付爪200のステア240が挿入され、グリップ510,540でステア240を挟持し締め付けることによりステア240は第1の側面(位置決め基準側面)243(
図4B参照)の方向に移動される。このとき、ステア240の位置決め基準側面243が密接され押し付けられる爪設置溝123の側面がステア位置規定面123dである。本実施形態においては、爪設置溝123の対向する側面のうちチャック本体110の中心に向かって左側となる側面123dがステア位置規定面となるが、第5実施形態の欄において後述する内外径の向きを入れ替えてチャック本体に装着することが可能に構成されたステア付爪を用いる場合等には、側面123dに対向する側面がステア位置規定面となる場合もある。
【0018】
マスタージョー120の上面の爪設置溝123の両側には、各々、本発明の位置決め部(マスタージョーの上面の位置決め部)としてのセレーション面124が形成されている。セレーション面124には、断面が略正三角形で、爪設置溝123の延伸方向に垂直な方向に延伸する鋸歯124aが、爪設置溝123の延伸方向(鋸歯124aの延伸方向とは垂直な方向)に所定のピッチで多数配列されたセレーションが形成されている。後述するように、ステア付爪200の生爪210の下面にも、同様のセレーションが、本発明の位置決め部(爪の下面の位置決め部)として形成されており、ステア付爪200をマスタージョー120に設置する際にはこのセレーション同士が相互に係合される。その結果、生爪210はセレーション面124の鋸歯124aの延伸方向にのみ移動が可能で鋸歯124aの配列方向には移動が不可能となり、チャック本体110の端面112の径方向において位置決めがなされることとなる。なお、本実施形態において、鋸歯124aのピッチは3mmである。
【0019】
このような構成のマスタージョー120は、チャック本体110の外周面からマスタージョー挿入溝115に挿入され、チャック本体110に設置される。例えば、チャック本体110の中心部には楔形溝を有する図示せぬシフタが組み込まれており、これがマスタージョー120の下部に係合することによりマスタージョー120はチャック本体110に取り付けられる。この構造においては、シフタがチャック本体110の軸方向にスライドするとマスタージョー120はチャック本体110の径方向にスライドするように構成されており、これにより、ワークの交換等の際にマスタージョー120は開いた状態あるいは閉じた状態に移動される。
【0020】
次に、
図4A〜7Eを参照してステア付爪200について説明する。
図4A〜4Dに示すように、本実施形態のステア付爪200は、ワークを把握する生爪210と、生爪210をマスタージョー120に設置するためのステア240とが組み立てられて一体型とされた組立型爪である。
【0021】
図5A〜5Dに示すように、生爪210は、略直方体の金属製部材である。本実施形態において生爪210の材質は、例えばS45C鋼のような炭素鋼鋼材である。生爪210の先端部は、ワークを把握するワーク把握面を形成するためのワーク把握部211に形成されている。本実施形態においてワーク把握部211は山形の端面とするが、これに限られるものではなく、平坦な端面でもよいし、より傾斜面が長く先端が狭い尖った形状の端面でもよい。なお、旋盤1でワークの切削加工等をする場合は、3つの生爪210の適切な接触面により完全に芯出しされた状態でワークを把握するために、まずワーク把握部211が切削加工され、ワーク把握部211にワーク把握面が形成された後、実際のワークの把握及びその後の切削加工が行われる。
【0022】
生爪210の下面215には、ステア240を取り付けるためのステア設置溝220が形成されている。ステア設置溝220は、生爪210の短手方向の中央部に、生爪210の長手方向に沿って、外周側端面214から所定の長さ形成されている断面長方形の所定の深さの溝であり、
図4Dに示すようにステア240の頭部が嵌合される溝である。ステア設置溝220の中央部付近には、
図5Bに示すように、ステア取付ボルト271(
図4C参照)がネジ入れられるネジ穴221が2つ形成されている。ネジ穴221は、後述するステア240のステア取付ボルト通過孔261(
図6参照)に対応する位置に形成される。
【0023】
生爪210の下面215のステア設置溝220の両側には、セレーション面234が形成されている。セレーション面234には、
図5B,5Cに示すように、断面が略正三角形で生爪210の長手方向に垂直な方向に延伸する鋸歯234aが、生爪210の長手方向(鋸歯234aの延伸方向とは垂直な方向)に所定のピッチで多数配列されたセレーションが形成されている。各鋸歯234aの形状はマスタージョー120のセレーション面124の鋸歯124aの形状と同一であり、鋸歯234aのピッチもマスタージョー120のセレーション面124の鋸歯124aのピッチと同一である。ステア付爪200をマスタージョー120に設置する際には、このセレーション面234のセレーションがマスタージョー120のセレーション面124のセレーションと係合される。その結果、生爪210は、セレーション面234の鋸歯234aの延伸方向にのみ移動可能で、鋸歯234aの配列方向には移動不能となり、マスタージョー120に対して径方向の位置が高精度に規定されることとなる。
【0024】
生爪210の下面215のワーク把握部211側の端部は、セレーション面234が形成されておらず所定の長さで所定の深さに切り欠かれた切欠き216に形成されている。本実施形態において切欠き216の深さはステア設置溝220の底面と同じである。また、生爪210の上面212、両側面213及び外周側端面214は、
図5Aに示すように凹凸のない平坦な面である。従来は爪の上面にボルト穴があったが、本発明では、ステア240は生爪210の下面215から生爪210に設置されるため、生爪210の上面212にボルト穴のような凹部は形成されない。
【0025】
ステア240は、生爪210をマスタージョー120に設置するための金属製部材である。ステア240は、
図4Aに示すように生爪210に設置されており、ステア240が後述するようにグリップ510,540に挟持されてマスタージョー120の爪設置溝123に保持されることにより、生爪210がマスタージョー120上に固定設置される。
【0026】
ステア240は、単体としては
図6に示すような形状の部材であり、その平面形状は
図7Aの下面図に示すように等脚台形である。
図6,7に示すように、ステア240は、上面241、下面242、等脚台形の底辺に対応する第1の側面243、等脚台形の上辺に対応する第2の側面244、生爪210の先端側(ワーク把握部211側)に配置されるリア側端面(リア側傾斜面)245、及び、生爪210の外周側端面214側に配置されるフロント側端面(フロント側傾斜面)246を有する。第1の側面243は、ステア240をマスタージョー120の爪設置溝123に挿入しグリップ510,540で挟持し締め付けたときに、爪設置溝123のステア位置規定面123dに密接し押し付けられ、ステア付爪200の幅方向(チャック本体110の端面112の接線方向)の位置を厳密に規定するための基準(位置決め基準側面)となる。
【0027】
ステア240のリア側傾斜面245及びフロント側端面246は、各々、接続面252と係合面251とが反復された波形係合面に形成されている。波形係合面は、
図7Eに示すように、上下2段の係合面251と、これら2つの係合面251を接続するように形成された上中下3段の接続面252とを有する構成である。上段の接続面252と上段の係合面251は、凹条に構成される上側谷線部253から各々上方外側及び下方外側に延伸するように形成されており、上段の係合面251と中断の接続面252は、凸条に構成される上側稜線部254から各々上方内側及び下方内側に延伸するように形成されている。また、中段の接続面252と下段の係合面251は、凹条に構成される下側谷線部255から各々上方外側及び下方外側に延伸するように形成されており、下段の係合面251と下断の接続面252は、凸条に構成される下側稜線部256から各々上方内側及び下方内側に延伸するように形成されている。
【0028】
ここで、ステア240のリア側端面245側及びフロント側端面246側の各々において、ステア240の等脚台形の平面形状の斜辺に平行で、上面241に垂直で、所定の間隔離れた平行な2つの仮想面S1,S2を想定する。そのような仮想面を想定すると、上側稜線部254及び下側稜線部256は第1の仮想面S1に含まれるものとして形成し、上側谷線部253及び下側谷線部255は第2の仮想面S2に含まれるものとして形成することができる。また、上段及び下段の各係合面251は、仮想面S1、S2に対して所定の角度α1傾斜した面として形成し、上段、中段及び下段の各接続面252は、仮想面S1、S2に対して所定の角度α2傾斜した面として形成することができる。各係合面251及び接続面252の高さ方向の長さは、基本的には2つの仮想面S1,S2の間隔と各面251,252の傾斜角度α1、α2により決定されるが、最上段及び最下段の面の長さは、適宜所望の長さにしてよい。
【0029】
このような波形係合面に形成されたリア側傾斜面245及びフロント側端面246を有するステア240は、同様の形状の対向波形係合面を有するグリップ510,540により挟持され締め付けられることにより、後述するように、係合面251がグリップ510,540の対向波形係合面の対向係合面521,551により爪設置溝123の底方向に押され、グリップ510,540に対して相対的に下方向に移動される。また、リア側傾斜面245及びフロント側端面246の全体がグリップ510,540により爪設置溝123の幅方向に押され、ステア240は第1の側面(位置決め基準側面)243の方向に移動される。その結果、ステア付爪200はマスタージョー120の所定の基準位置に対して高精度に位置合わせされる。
【0030】
ステア240には、
図7A〜7Cに示すように、ステア取付ボルト用座ぐり262及びステア取付ボルト通過孔261が2箇所に形成されている。ステア取付ボルト通過孔261及びステア取付ボルト用座ぐり262は、前述したようにステア240を生爪210の下面215のステア設置溝220に設置したときに、ステア設置溝220に形成されたネジ穴221(
図5B参照)に対応する位置に形成されている。また、ステア240の長手方向には、リア側傾斜面245とフロント側端面246との間を貫通するクランプボルト通過孔263が形成されている。クランプボルト通過孔263は、クランプボルト273の軸が通過可能な径の開孔である。従って、ステア取付ボルト用座ぐり262は、設置したステア取付ボルト271の頭部がクランプボルト通過孔263を通過するクランプボルト273と干渉しない深さに形成される。
【0031】
このような構成の生爪210とステア240とは、ステア240の上部が生爪210のステア設置溝220に嵌合され、連結手段としてのステア取付ボルト271が、ステア240の下面242側からステア240のステア取付ボルト用座ぐり262、ステア取付ボルト通過孔261を通過して生爪210のネジ穴221にネジ込まれることにより、ステア付爪200として一体的に形成される。
【0032】
図8A,8B,9A〜9Fに示すグリップ510,540は、ステア付爪200をマスタージョー120に固定するための部材である。
図10A〜12Bに示すように、リアグリップ510はマスタージョー120の爪設置溝123においてステア付爪200のステア240より内径側に配置され、フロントグリップ540はステア240よりも外径側に配置される。これによりステア付爪200のステア240はリアグリップ510及びフロントグリップ540により径方向内側及び外側より挟み込まれ、ステア付爪200はマスタージョー120の所定の位置に固定される。
【0033】
リアグリップ510及びフロントグリップ540は、
図9B,9Eに示すように、各々、幅広の基部511,541と、基部511,541より幅狭の上部512,542とを有するT字形状の断面を有する金属製部材である。基部511,541は、マスタージョー120の爪設置溝123の底部123aに内接し収容される形状及びサイズであり、上部512,542は、その爪設置溝123の上部123bに内接する幅である。リアグリップ510及びフロントグリップ540の平面形状は、
図9A,9Dに示すように、長方形の一辺を傾斜面513,543に形成した四角形である。リアグリップ510は、リアグリップ510がマスタージョー120の爪設置溝123に挿入された状態で外径側となる辺が傾斜面513に形成されており、フロントグリップ540は、フロントグリップ540がマスタージョー120の爪設置溝123に挿入された状態で内径側となる辺が傾斜面543に形成されている。
【0034】
リアグリップ510の傾斜面513及びフロントグリップ540の傾斜面543は、各々、
図8A,8B、9C,9Fに示すように、対向接続面522,552と対向係合面(対向係合部)521,551とが反復された対向波形係合面に形成されている。リアグリップ510の傾斜面513及びフロントグリップ540の傾斜面543の対向波形係合面は、前述したステア付爪200のステア240の端面245,246に形成された波形係合面に対向し、これに嵌合する面である。
【0035】
すなわち、リアグリップ510及びフロントグリップ540の傾斜面513,543の対向波形係合面は、各々、上下2段の対向係合面521,551と、これを接続する上中下3段の対向接続面522,552を有する。上段の対向接続面522,552と上段の対向係合面521,551は凸条の上側稜線部523,553から上方内側及び下方内側に延伸し、上段の対向係合面521,551と中断の対向接続面522,552は凹条の上側谷線部524,554から上方外側及び下方外側に延伸し、中段の対向接続面522,552と下段の対向係合面521,551は凸条の下側稜線部525,555から上方内側及び下方内側に延伸し、また、下段の対向係合面521,551と下断の対向接続面522,522は凹条の下側谷線部526,556から上方外側及び下方外側に延伸するように形成されている。
【0036】
このような構成のグリップ510,540の傾斜面513,543において、上側稜線部523、553及び下側稜線部525,555を含む仮想面及び上側谷線部524,554及び下側谷線部526,556を含む仮想面を想定してこれらの稜線部及び谷線部を規定し形成できること、その仮想面に対して各対向接続面及び対向係合面の傾斜角度を規定しこれらの面を形成できること、及び、これらの各対向接続面及び対向係合面の高さ方向の長さの条件等は、いずれもステア240の傾斜面245,246の波形係合面の対応する各部と同じである。
【0037】
なお、グリップ510,540の傾斜面513,543の対向波形係合面とステア240の傾斜面245,246の波形係合面との間において、ステア240の係合面251とグリップ510,540の対向係合面521,551とは平行であり、これらの高さ方向の長さはほぼ同じであるが、グリップ510,540の対向係合面521,551の方が、ステア240の係合面251よりもわずかに短い。グリップ510,540によりステア240を挟持し両方から締め付けた際に、グリップ510,540の稜線部523,553及び525,555がステア240の接続面252に当たり、ステア240を浮き上がらせる状態となることを防ぐためである。
【0038】
また、グリップ510,540の傾斜面513,543の対向波形係合面の対向接続面522,552のうち中段の対向接続面522,552は、以下の条件を達成するように形成される。その条件とは、グリップ510,540の各上下2段の対向係合面521,551が、上下の各段で、上下方向(高さ方向)において同じ位置関係で、ステア240の上下の各対向する係合面251に接触し、ステア240の各係合面251を押すことである。グリップ510,540の中段の対向接続面522,552は、ステア240の中段の接続面252に対応して形成されるが、グリップ510,540の上下2段の対向係合面521,551は、前述したようにステア240の係合面251よりわずかに短く形成される。従って、上の条件を満たすためには、グリップ510,540の中段の対向接続面522,552は、ステア240の中段の接続面252とは、その傾斜角度及び高さ方向の長さが若干異なるものとなる。
【0039】
グリップ510,540の最上段の対向接続面522,552は、前述したグリップ510,540の中段の対向接続面522,552と平行で、ステア240の最上段の接続面252より短く形成される。また、グリップ510,540の最下段の対向接続面522,552は、前述したグリップ510,540の中段の対向接続面522,552と平行で、ステア240の最下段の接続面252より長くなるように形成される。この最上段及び最下段の対向接続面522,552の長さの相違は、グリップ510,540によりステア240を挟持し締め付けた際に、ステア240が下方へ引き込まれる長さ以上であって、引き込まれる長さ程度の差異である。
【0040】
グリップ510,540には、
図9A〜9Fに示すように、グリップ510,540をマスタージョー120の爪設置溝123に挿入した際に爪設置溝123の延在する方向に、グリップ510,540を貫通するクランプボルト用孔530,560が形成されている。リアグリップ510のクランプボルト用孔530は、クランプボルト273の先端のネジ部分がネジ込まれるネジ溝が形成されたネジ穴である。また、フロントグリップ540の外径側端面544側には、クランプボルト273の頭部が収容される座ぐり561が形成されている。グリップ510,540のクランプボルト用孔530,560とステア付爪200のステア240のクランプボルト通過孔263とは、これらがマスタージョー120の爪設置溝123に設置された際、クランプボルト273を挿入可能に同軸となる配置に形成されている。
【0041】
グリップ510,540においては、上部512,542に対して基部511,541の方が幅広のため、基部511,541と上部512,542との境界には上向きの段差面515,545が形成される。この段差面515,545は、マスタージョー120の爪設置溝123の肩部123cと接することとなり、爪設置溝123の肩部(引き込み支持面)123cに支持されてステア付爪200を下方に引き込む際の基準面(特許請求の範囲の係止部に対応)となる。
【0042】
次に、このような構成のチャック機構10を有する旋盤1を用いて、ワークを加工する方法について説明する。まず、
図10A,10Bに示すように、マスタージョー120の爪設置溝123にグリップ510,540を挿入する。すなわち、リアグリップ510を内径側端面514が内径側となる向きで爪設置溝123に挿入し、次に、フロントグリップ540を外径側端面544が外径側となる向きで爪設置溝123に挿入する。
【0043】
次に、
図11A,11Bに示すように、ステア付爪200をマスタージョー120に対して設置する。すなわち、ステア付爪200をマスタージョー120の爪設置溝123の上側からマスタージョー120の爪設置溝123方向に移動させ、ステア240を爪設置溝123に挿入し、生爪210をマスタージョー120に接触した状態に配置する。このとき、ステア付爪200の生爪210の下面215のセレーション面234のセレーションと、マスタージョー120のセレーション面124のセレーションとを所定の位置で係合させる。これにより、ステア付爪200は、径方向にはマスタージョー120上の略所定の位置に配置されることとなる。
【0044】
ステア付爪200のステア240を爪設置溝123に挿入したら、チャック本体110の外周面のマスタージョー120の端部からに、クランプボルト273を挿入する。クランプボルト273は、フロントグリップ540の外径側端面544のクランプボルト用座ぐり561の部分からクランプボルト用孔560に挿入され、
図12A,12Bに示すように、ステア240のフロント側端面246からリア側端面245までクランプボルト通過孔263を通過し、ネジ穴に形成されているリアグリップ510のクランプボルト用孔530にネジ込まれる。
【0045】
この状態でクランプボルト273を締め付けていくことにより、生爪210の位置が高精度に位置決めされることについて、
図13A〜13Cを参照して説明する。
図13A〜13Cは、マスタージョー120、ステア付爪200のステア240、リアグリップ510及びフロントグリップ540を模式的に示す図であって、マスタージョー120の爪設置溝123の底部123aと上部123bとの境界の肩部(引き込み支持面)123c、ステア240のリア側端面245及びフロント側端面246の波形係合面、リアグリップ510及びフロントグリップ540の傾斜面513,543の対向波形係合面、リアグリップ510及びフロントグリップ540の基部511,541と上部512,542との間の段差面(引き込み基準面)515,545との位置関係及び状態を模式的に示す図である。
【0046】
図13Aは、マスタージョー120の爪設置溝123にリアグリップ510及びフロントグリップ540が十分な間隙を開けて挿入されており、その間にステア付爪200のステア240が挿入されてきた状態を示す図である。この状態において、リアグリップ510及びフロントグリップ540は爪設置溝123に略ぴったりに収容されており、ステア240は、単にステア付爪200をマスタージョー120の上部に載置しただけなので若干浮いた状態に配置されている。
【0047】
この状態で、クランプボルト273をフロントグリップ540、ステア240及びリアグリップ510に挿入し、ステア240を両方から締め付けることにより、
図13Bに示すように、リアグリップ510とフロントグリップ540の間隔が狭くなり、ステア240のリア側端面245の波形係合面とリアグリップ510の傾斜面513の対向波形係合面が係合し、ステア240のフロント側端面246の波形係合面とフロントグリップ540の傾斜面543の対向波形係合面とが係合する。具体的には、ステア240の波形係合面の方が若干上側に配置されることとなるため、まず、ステア240の端面245,246の波形係合面の係合面251に、グリップ510,540の稜線部523,553及び525,555が当接する状態となる。
【0048】
この状態で、さらにクランプボルト273を締め付けて行くと、リアグリップ510とフロントグリップ540との間隔は狭くなって行き、グリップ510,540の稜線部523,553及び525,555はステア240の端面245,246の波形係合面の係合面251上を摺動する。すなわち、グリップ510,540の稜線部523,553及び525,555はステア240の端面245,246の波形係合面の係合面251に沿って相対的に上方向に移動することとなる。このとき、グリップ510,540は、段差面(引き込み基準面)515,545がマスタージョー120の肩部(引き込み支持面)123cに密接しており上方向には移動不能なので、
図13Cに示すように、相対的にステア240が下方向に距離dだけ移動することとなり、ステア240が長さd下方向に引き込まれることとなる。そして、
図13Cに示すように、ステア240の端面245,246の波形係合面とグリップ510,540の傾斜面513,514の対向波形係合面とが係合状態となることにより、クランプボルト273による締め付けは終了する。
【0049】
前述したように、マスタージョー120の爪設置溝123の両側のセレーション面124にはセレーションが形成されており、ステア付爪200の下面のセレーション面234にもセレーションが形成されており、ステア付爪200を爪設置溝123に沿ってマスタージョー120上に載置した状態でこれらのセレーションは係合している。この状態でクランプボルト273によりグリップ510,540の間のステア240を締め付けると、前述したように生爪210は下方向に引き込まれることとなり、マスタージョー120のセレーション面124とステア付爪200のセレーション面234の各セレーションは、鋸歯124a、234a同士が最も奥深く安定した位置に係合されることとなる。その結果、ステア付爪200の径方向の位置、換言すれば生爪210の径方向の位置は、所望の位置に正確に位置決めされる。
【0050】
また、ステア付爪200のステア240は、傾斜面245,246に対応する傾斜面513,543を有するグリップ510,540により径方向の両側から締め付けられる。その結果、ステア240は、
図12Bに矢印で示すような幅方向の力が作用することにより、第1の側面243方向に移動される。前述したようにマスタージョー120のセレーション面124と生爪210のセレーション面234の各セレーションは鋸歯124a,234aが幅方向に形成された構成なので、これらのセレーション面どうしが係合していてもマスタージョー120とステア付爪200とは幅方向に移動可能である。したがって、ステア240は、第1の側面243がマスタージョー120の爪設置溝123のステア位置規定面123dに密接する状態まで移動することとなり、その幅方向の位置は、位置決め基準側面243がマスタージョー120のステア位置規定面123dに密接した位置に高精度に規定される。
【0051】
なお、このような方法によるステア付爪200のクランプにおいては、グリップ510、540の稜線部523,525及び553,555がステア240の係合面251を摺動していくので、グリップ510、540の稜線部523,525及び553,555がステア240の係合面251をセルフクリーニングしながらクランプすることになる。その結果、クランプ面への粉塵等の異物の混入を防ぎ、常に清潔な状態でクランプをすることができる。
【0052】
また、前述したようにグリップ510,540の対向係合面521,551はステア240の係合面251よりもわずかに短く形成されているので、ステア240の波形係合面とグリップ510,540の対向波形係合面とが係合しても、グリップ510,540の稜線部523、525,553,555は、ステア240の谷線部253,255に達しない。すなわち、ステア240とグリップ510,540面とが係合しても、ステア240の接続面252とグリップ510,540の対向接続面522,552との間の少なくとも下方部分は相互に接触せず、これらの間には隙間が生じた状態となる。従って、前述したセルフクリーニングによりクランプ面に異物等が存在していたとしても、異物はステア240の接続面252とグリップ510,540の対向接続面522,552との間の隙間に保持された状態となる。その結果、異物等が他の箇所に侵入することを防ぐことができるとともに、異物等がステア240やグリップ510,540のクランプ面を傷つけることを防ぐことができる。
【0053】
本実施形態のチャック機構10においては、このように1本のクランプボルト273を締め付けることにより、リアグリップ510とフロントグリップ540との間にステア付爪200のステア240が挟持され、生爪210の位置がチャック本体110の端面112の径方向及び接線方向の両方において厳密に決定される。そして、3つのマスタージョー120に順次ステア付爪200を設置していくことにより、チャック本体110の端面112上に、3つの生爪210が設置される。
【0054】
生爪210を設置したら、旋盤1を駆動してチャック本体110を回転させ、生爪210の先端を切削加工して、生爪210のワーク把握部211に所望のワークの把握面を形成する。これにより、把握面の曲率中心はチャック本体110の回転軸と完全に一致することになり、把握面はチャック本体110に対して芯出しされた状態となる。生爪210のワーク把握部211への把握面の形成が終了したら、生爪210の把握面の内側にワークを配置し、ワークを生爪210のワーク把握部211の把握面で把握し、 前述のようにワークの芯出しを行った後、旋盤1を駆動して、ワークが固定されたチャック本体110を回転させつつ、ワークを切削加工する。
【0055】
このように、本実施形態のチャック機構10においては、ステア付爪200をグリップ510,540によりマスタージョー120に設置する構成なので、1つ爪の設置には1本のクランプボルト273を締め付ければよく、3つの爪を設置するには3本のクランプボルト273を締め付ければよい。また、加工ワーク変更時(段取り換え時)等の爪をチャック機構10から取り外して交換する際等には、3つのステア付爪200に対する3本のクランプボルト273を緩め取り外し、その後3本のクランプボルト273を締め付ければよく、のべ6本のクランプボルト273の着脱をすればよい。これに対して従来の爪は、各爪2本の取り付けボルトが用いられているため、1つの爪の設置には2本のボルトの締め付けが必要で、3つの爪を設置するには6本のボルトの締め付けが必要で、爪を交換する際には、のべ12本の取り付けボルトの取り外し及び締め付けが必要であり、本発明のチャック機構10の倍の作業が必要となる。従って、本実施形態のチャック機構10によれば、効率よい迅速な爪の交換、ワークの交換が可能であり、所望の加工作業を極めて効率よく行うことができる。
【0056】
また、本発明の爪(生爪210)は、下方からステア取付ボルト271が挿入されてステア240と組み立てられて一体型とされており、上面にはボルト用の孔や座ぐりが形成されていない。すなわち、本発明の生爪210は、下面以外を平坦な面に形成することができる。その結果、切削加工等する際に切り粉が爪のボルト用の座ぐり等に溜まることを防ぐことができる。この種の切り粉は、切削加工等する際にワーク表面を傷つける等して、加工不良の原因となる可能性がある。しかし本発明の爪においては、そのような切り粉が残留する凹凸が爪になく、加工により生じた切り粉は遠心力により飛ばされて周囲から除外される。従って、不良品が少なく高精度の加工が可能となる。
【0057】
また、本実施形態のチャック機構10においては、ステア240の波形係合面とグリップ510,540の対向波形係合面によりステア付爪200が下方に引き込まれるので、マスタージョー120のセレーション面124のセレーションと生爪210のセレーション面234のセレーションとが確実に係合される。その結果、ステア付爪200の径方向の位置が高精度に規定される。また、本実施形態のチャック機構10においては、平面形状が等脚台形形状のステア240及び平面形状が台形形状のグリップ510,540によりステア240を固定しているので、ステア240の位置決め基準側面243はマスタージョー120の爪設置溝123のステア位置規定面123dに確実に密接される。その結果、ステア付爪200接線方向の位置が高精度に規定される。
【0058】
そしてこのように、生爪210の径方向及び接線方向の位置決めが容易かつ高精度に行えるため、経験の浅い作業者であっても、また、爪を旋盤1のチャック機構10から取り外して再度設置するような場合でも、効率よく正確に爪の設置、位置決めを行うことができる。その結果、ワークの把握や芯出しを効率よく正確に行うことができ、ワークを効率よく迅速に加工できる。特に、多品種少量生産のように加工径あるいは加工形状が異なるような種類の異なるワークを順次効率よく加工したい場合には、爪を効率よく正確に交換することが望ましく、本発明は極めて効果的である。
【0059】
第2実施形態
本発明の第2実施形態について、
図14〜17Bを主に参照して説明する。第2実施形態の旋盤2(
図1参照)は、チャック機構20のマスタージョー、ステア付爪及びグリップの構造が第1実施形態の旋盤1のチャック機構10とは異なる。
【0060】
マスタージョー130は、
図14に示すように、爪設置溝123の両側のセレーション面134の構成が第1実施形態のマスタージョー120とは異なる。
図14に示すように、マスタージョー130のセレーション面134に形成されたセレーションは、四角錘状のスパイク134aが多数配列された構造である。各スパイク134aの断面形状は略三角形であって、各スパイク134aは、面取り加工が施された先端部と、先端部から傾斜する4つの斜面とを有する。
【0061】
スパイク134aは、マスタージョー130の爪設置溝123の延伸方向及びこれに垂直な方向に各々所定のピッチで配列されている。本実施形態においてスパイク134aのピッチは、爪設置溝123の延伸方向及びこれに垂直な方向のいずれにおいても3mmであるが、これに限られるものではなく、例えば1.5mm等任意の長さに設定してよい。このような格子状のスパイク134aは、例えばセレーションカッターを用いて、爪設置溝123の延伸方向に延在し所定のピッチで並ぶ複数の鋸歯と、これに垂直な方向に延在し所定のピッチで並ぶ複数の鋸歯を、同じ領域(セレーション面134a)に形成することによって形成されている。
【0062】
なお、第2実施形態のマスタージョー130においては、後述するように、マスタージョー130のセレーション面134のセレーションとステア付爪300の生爪310に形成されたセレーションとの係合によりステア付爪300の幅方向の位置決めがなされる。そのため、第1実施形態のマスタージョー120のように、爪設置溝123の一方の側面123dにステア位置規定面としての機能は不要である。
【0063】
ステア付爪300は、ステア付爪300を形成する部品の構成、及び、セレーション面373,374のセレーションの形状が第1実施形態のステア付爪200とは異なる。
図15に示す第2実施形態のステア付爪300は、
図16Aに示すステア付爪本体301と、
図16B,16Dに示す横セレーションピース371及び縦セレーションピース372が、セレーションピース取付ボルト380により組み立てられて形成される構成である。すなわち、ステア付爪300においては、2つのセレーションピース371,372が生爪310から分離されて別部材とされ、残りの爪本体302とステア340とが
図16Aに示すようなステア付爪本体301として一体成形されている。なお、爪本体302とステア340がステア付爪本体301として一体成形されていることに起因して、第1実施形態のステア付爪200を組立型爪と称するのに対して、第2実施形態のステア付爪300を一体成形爪あるいはステア一体型爪と称する場合もある。
【0064】
ステア付爪本体301の爪本体302は、生爪310の幅方向両側面の下部に、セレーションピース371,372の形状に対応する切欠き303,304を形成した構成である。換言すれば、爪本体302は、生爪310からセレーションピース371,372に対応する部分を除外した構成の部分である。
【0065】
ステア付爪本体301のステア340は、第1実施形態のステア付爪200のステア240の平面形状が等脚台形だったのに対して(
図6参照)、平面形状が長方形である。従って、第1実施形態のステア240のリア側端面245及びフロント側端面246は傾斜面であったが、第2実施形態のステア340のリア側端面345及びフロント側端面346は、生爪310の幅方向と平行な面である。ステア340のリア側端面345及びフロント側端面346は、各々、第1実施形態のステア240のリア側端面245及びフロント側端面246と同様の波形係合面に形成されている。また、ステア340には、リア側端面345とフロント側端面346との間を貫通するように、クランプボルトを通過させるためのクランプボルト通過孔363が形成されている。
【0066】
ステア付爪300の横セレーションピース371は、
図16Bに示すように、直方体形状の金属製部材である。横セレーションピース371には、幅方向に両側面間を貫通するボルト通過孔375が形成されている。横セレーションピース371の一方の側面のボルト通過孔375の周囲には、セレーションピース取付ボルト380の頭部が収容される座ぐり377が形成されている。横セレーションピース371の下面は、
図16Cに示すように、横セレーションピース371の短手方向(幅方向)に延伸する鋸歯373aが形成されたセレーション面373に形成されている。セレーション面373のセレーションは、第1実施形態の生爪210のセレーション面234のセレーションと同じであり、断面が略正三角形で生爪310の幅方向に延伸する鋸歯373aが、生爪310の長手方向(鋸歯373aの延伸方向とは垂直な方向)に所定のピッチで多数配列されたものである。なお、本実施形態において、鋸歯373aのピッチは3mmである。
【0067】
縦セレーションピース372は、
図16Dに示すように、横セレーションピース371と略同じサイズの直方体形状の金属製部材であり、やはり幅方向に両側面間を貫通するにボルト通過孔376が形成されている。また、一方の側面のボルト通過孔376の周囲には、セレーションピース取付ボルト380がネジ込まれるナットが収容される座ぐり378が形成されている。縦セレーションピース372の下面は、
図16Eに示すように、縦セレーションピース372の長手方向に延伸する鋸歯374aが形成されたセレーション面374に形成されている。セレーション面374のセレーションは、断面が略正三角形で生爪310の長手方向に延伸する鋸歯374aが、生爪310の幅方向(鋸歯374aの延伸方向とは垂直な方向)に所定のピッチで複数配列されたものである。すなわち、セレーション面374のセレーションは、第1実施形態の生爪210のセレーション面234のセレーションあるいはセレーション面373のセレーションとは、鋸歯374aの延伸する方向が90°異なるセレーションである。なお、本実施形態において、鋸歯374aのピッチは3mmである。
【0068】
このような構成の横セレーションピース371及び縦セレーションピース372を、
図16Aに示すステア付爪本体301のセレーションピース用切欠き303及び304に各々配置し、セレーションピース371,372のボルト通過孔375,376及びステア付爪本体301のボルト通過孔306を各々貫通する3本のセレーションピース取付ボルト380(
図15参照)を設置し、図示せぬナットによりこれらを締め付ける。その結果、
図15A〜15Cに示すようなステア付爪300が形成される。
【0069】
グリップ610,640は、第1実施形態のリアグリップ510と同様に、ステア付爪300をマスタージョー130に固定するための部材である。第1実施形態のグリップ510,540は、挟持するステア240の平面形状が等脚台形であり端面245,246が傾斜面だったため(
図6参照)、グリップ510,540の端面513,543も傾斜面に形成されていた(
図8A,8B参照)。しかし、第2実施形態のステア340は、前述したように平面形状が長方形なので、グリップ610,640も平面形状は長方形である。すなわち、リアグリップ610において、リアグリップ610がマスタージョー130の爪設置溝123に挿入された際に外径側となる挟持側端面613は、爪設置溝123の幅方向に平行な面であり、フロントグリップ640においても、フロントグリップ640がマスタージョー130の爪設置溝123に挿入された際に内径側となる挟持側端面643は、爪設置溝123の幅方向に平行な面である。
【0070】
グリップ610,640が、断面T字形状の金属製部材であること、マスタージョー130の爪設置溝123に内接し収容されること、基部611,641と上部612,642との境界の段差面がステア付爪300を引き込む際の基準面となること、クランプボルト用孔630,660や座ぐり661の構成等は第1実施形態のグリップ510,540と同じである。また、各グリップ610,640の挟持側端面613,643は、第1実施形態のグリップ510,540の傾斜面513,543と同様の対向波形係合面に形成されている。グリップ610,640の挟持側端面613,643の対向波形係合面は、前述したステア付爪300のステア340の端面345,346に形成された波形係合面に嵌合する形状の面である。ステア付爪300は、このような構成のグリップ610,640によりステア340が挟持され締め付けられ、マスタージョー130の所定の位置に設置される。
【0071】
このような構成の第2実施形態のチャック機構20を有する旋盤2を用いてワークを加工する方法も、基本的には第1実施形態の旋盤1と同じである。すなわち、マスタージョー130の爪設置溝123にリアグリップ610及びフロントグリップ640を順に挿入し、ステア340がリアグリップ610とフロントグリップ640との間になるように、ステア付爪300をマスタージョー130上の所定の位置に配置する。そして、フロントグリップ640、ステア340及びリアグリップ610のクランプボルト通過孔660,363,630にクランプボルトを挿入し締め付ける。これにより、ステア340はグリップ610,640により挟持されることとなり、ステア付爪300はマスタージョー130の所定の位置に正確に設置される。
【0072】
ステア付爪300は、生爪310の下面に、生爪310の短手方向のセレーションが形成されたセレーション面373と、生爪310の長手方向のセレーションが形成されたセレーション面374とを有する。ステア付爪300をマスタージョー130に設置すると、これらのセレーション面373,374がともにマスタージョー130のスパイク134aと係合する。従って、ステア付爪300においては、マスタージョー130上に生爪310を配置するのみで、生爪310の幅方向及び長手方向の両方において位置決めがなされる。そしてその後、グリップ610,640でステア340を挟み込むことにより、
図13を参照して前述したようにステア340は下方向に引き込まれ、生爪310のセレーション面373,374とマスタージョー130のスパイク134aとが奥深く安定した位置に係合される。その結果、ステア付爪300の幅方向及び長手方向(径方向)の位置が、所望の位置に正確に規定される。
【0073】
このようにして3つのマスタージョー130に順次ステア付爪300を設置したら、第1実施形態と同様に、生爪310の先端を切削加工して生爪310のワーク把握部311にワークの把握面を形成し、ワークを生爪310のワーク把握部311の把握面で把握し、旋盤2を駆動してワークに所望の切削加工を行う。
【0074】
第1実施形態のステア付爪200においては、ステア240の平面形状が等脚台形形状のため、グリップ510,540によりステア240を締め付けることによりステア240は位置決め基準側面243側に移動され、ステア付爪200の幅方向の位置決めが行われていた。これに対して第2実施形態のステア付爪300においては、ステア340の平面形状は長方形であり、グリップ610,640によりステア340を締め付けてもステア340に幅方向の力は作用しない。しかし、生爪310の下面に幅方向のセレーション面373と長手方向のセレーション面374とが形成されており、これらがマスタージョー130の上面のスパイク134aと係合することにより、ステア付爪300は幅方向及び長手方向の両方向に高精度な位置決めが成される。本発明は、このような形態により実施することもできる。
【0075】
そして、このような構成の第2実施形態のチャック機構20においても、生爪310の設置は、1つ爪の設置には1本のクランプボルトを締め付ければよく、3つの爪を設置するには3本のクランプボルトを締め付ければよい。従って、爪をチャック機構20から取り外して交換する際には、3つのステア付爪300に対する3本のクランプボルトの取り外し及び3本のクランプボルトの締め付けの計6本のクランプボルトの着脱をすればよい。すなわち、第1実施形態の場合と同様に、従来の半分の作業で爪の交換、ワークの交換等が可能でなり、所望の加工作業を極めて効率よく行うことができる。
【0076】
また、第2実施形態のチャック機構20においても、ステア340の端面345,346の波形係合面及びグリップ610,640の挟持側端面613,643の対向波形係合面の構成により、ステア付爪300を下方に引き込んでおり、マスタージョー130のセレーション面134のセレーションと生爪310のセレーション面373,374のセレーションとを確実に係合させることができる。その結果、ステア付爪300の長手方向(チャック本体110の端面112の径方向)及び幅方向の位置をともに高精度に規定することができる。
【0077】
そしてこのように、生爪310の径方向及び接線方向の位置決めが容易かつ高精度に行えるため、経験の浅い作業者でも、また、爪を旋盤1のチャック機構20から取り外して再度設置するような場合でも、効率よく正確に爪の設置、位置決めを行うことができる。そしてその結果、ワークの把握や芯出しも効率よく正確に行うことができ、ワークの効率よく迅速かつ高精度な加工が可能となる。
【0078】
なお、第2実施形態のチャック機構20は、ステア340の平面形状が長方形で生爪310に縦横2方向のセレーションが形成されているとの特徴と、ステア340と爪本体302とが一体成形されたステア付爪本体を有するとのステア付爪300の構造に係る特徴とが、第1実施形態とは大きく異なる。しかし、これらの2つの特徴は、説明の都合上同一の実施形態として説明をしたもので、同時に適用しなければならないものではなく、各々独立に適用することができる。すなわち、平面形状が等脚台形のステアを用いる第1実施形態のマスタージョー、ステア、グリップ等の構成と、爪本体とステアとが一体成形されたステア付爪本体にセレーションピースを組み立て設置するという第2実施形態の一体成形爪の構造を適用してもよい。また、平面形状が長方形のステアを用いる第2実施形態のマスタージョー、ステア、グリップ等の構成と、生爪の下面にステアをボルトにより設置するという第1実施形態の組立型のステア付爪の構造を適用してもよい。
【0079】
第3実施形態
本発明の第3実施形態について、
図18A〜19Cを参照して説明する。第3実施形態のステア付爪200b,300bは、
図18A,18Bに示すように、ステア240b,340bに、クランプボルト通過孔の代わりに下方に開口したU字溝265,365を形成したものである。なお、
図18Aは第1実施形態のステア付爪200に対してステア240にクランプボルト通過用U字溝265を形成した第3実施形態のステア付爪200bを示し、
図18Bは第2実施形態のステア付爪300に対してステア340にクランプボルト通過用U字溝365を形成した第3実施形態のステア付爪300bを示す。
【0080】
前述した第1及び第2実施形態のステア付爪200,300は、ステア240,340に形成されたクランプボルト通過孔263,363にクランプボルト273を通過させ、ステア240,340をリアグリップ510,610とフロントグリップ540,640の間に挟持する構成だった。そのため、
図11A,11Bに示すように、ステア240,340(ステア付爪200,300)を、マスタージョー120,130の爪設置溝123内のリアグリップ510,610とフロントグリップ540,640の間に挿入した後、チャック本体110の外周側からクランプボルト273を設置しなければならなかった。
【0081】
これに対して、
図18A,18Bに示すように、ステア240b,340bにU字溝265,365を形成した構成では、
図19Aに示すように、マスタージョー130の爪設置溝123にリアグリップ610とフロントグリップ640を挿入しこれらをクランプボルト273により連結(仮留め)した後で、ステア340bを爪設置溝123に挿入することができる。ステア340bを爪設置溝123の上部開口より爪設置溝123に挿入すると、クランプボルト通過用U字溝365がクランプボルト273を跨ぐ状態で、ステア340bは爪設置溝123の奥まで落とし込まれ、ステア340bは、最終的に、
図19Bに示すように、爪設置溝123のリアグリップ610とフロントグリップ640との間に配置される。この状態でクランプボルト273を締め付けることにより、
図19Cに示すように、ステア付爪300のステア340bはリアグリップ610とフロントグリップ640により挟持された状態となる。
【0082】
このような構成の第3実施形態のステア付爪200b、300bを用いれば、爪の交換時にクランプボルト273を完全に引き抜く必要がないので、爪の交換等の作業効率が向上する。また、鉛直方向下向きになったチャック本体110の周面からグリップ510,540,610,640が脱落等する危険性を低減できるので、安全に作業を行うことができるとともに作業効率の低下を防ぐことができる。
【0083】
第4実施形態
本発明の第4実施形態について、
図20A〜20Cを参照して説明する。前述した各実施形態のステア付爪(
図20A〜20Cにおいては第2実施形態のステア付爪300を例示する)のステア340をグリップ610b,640bにより挟持する際には、
図20Aに示すように、リアグリップ610bとステア340との間、及び、ステア340とフロントグリップ640bとの間に、スプリング277を配置するようにしてもよい。スプリング277は、例えばコイルスプリングでよく、その中心をクランプボルト273が通過するようにして、ステア340とグリップ610b,640bとの間に設置するのが好適である。
【0084】
このような構成によれば、ステア付爪300をマスタージョー130から取り外す際に、クランプボルト273を緩めることにより、
図20Bに示すように、スプリング277の弾発力によりリアグリップ610bとステア340、及び、ステア340とフロントグリップ640bとが分離されることとなり、ステア付爪200,300の交換等の作業を一層効率よく行うことができる。
【0085】
なお、ステア340とグリップ610b,640bとの間にスプリング277を介在させるためには、例えば
図20Cに示すように、リアグリップ610bの挟持側端面613、ステア340のリア側端面345及びフロント側端面346、及び、フロントグリップ640bの挟持側端面643に、各々、スプリング用座ぐり637、367及び667を形成しておくのが好ましい。
本発明は、このような形態で実施することも可能である。
【0086】
第5実施形態
本発明の第5実施形態について、
図21A〜23Cを参照して説明する。本実施形態においては、クランプボルトの回転により、グリップによるステアの挟持(ステア付爪の設置)及びその解除(ステア付爪の取り外し)を強制的に行えるようにしたチャック機構について説明する。
図21Aは、リアグリップ810の構成を示す図であり、平面図、側面図及び背面図を記載したものである。
図21Bは、フロントグリップ840の構成を示す図であり、平面図及び側面図を記載したものである。
図21Cは、クランプボルト873の構成を示す図である。グリップ810,840の傾斜面513,543や段差面(引き込み基準面)515,545等の基本的な構成、クランプボルト873の基本的な機能等は、第1実施形態と同じである。
【0087】
クランプボルトの回転によりグリップによるステアの挟持及び解除を行うために、 第5実施形態のリアグリップ810に形成されているクランプボルト用孔830は、右ネジに形成されている。また、リアグリップ810と組み合わせて使用するフロントグリップ840のクランプボルト用孔860は、左ネジに形成されている。リアグリップ810及びフロントグリップ840に係合するクランプボルト873は、
図21Cに示すように、両方の端部874,875に六角穴が形成されたスタッドボルトである。クランプボルト873は、リアグリップ810に係合する第1端部874側の部分876には右ネジが形成されており、フロントグリップ840に係合する第2端部875側の部分877には左ネジに形成されている。
【0088】
このようなグリップ810,840にクランプボルト873を係合してマスタージョー120の爪設置溝123に挿入し、チャック本体の外周側から六角レンチによりクランプボルト873を
図22Aに示すように右回転させると、右ネジが形成されているリアグリップ810は第2端部875に近づく方向に移動し、左ネジが形成されているフロントグリップ840は第2端部875から離れる方向に移動する。その結果、グリップ810,840は近づく方向に移動し、図示のごとくステア付爪200のステア240は締め付けられる。また、クランプボルト873を
図22Bに示すように左回転させると、右ネジが形成されているリアグリップ810は第2端部875から離れる方向に移動し、左ネジが形成されているフロントグリップ840は第2端部875に近づく方向に移動する。その結果、グリップ810,840は離れる方向に移動し、図示のごとくステア付爪200のステア240の締め付けは解除される。
【0089】
このようなグリップ810,840及びクランプボルト873を用いてステア付爪200を設置するときは、まず、
図23Aに示すように、クランプボルト873により連結され仮留めされたリアグリップ810とフロントグリップ840を、マスタージョー120の爪設置溝123に挿入する。次に、
図23Bに示すように、ステア240のクランプボルト通過用U字溝265にクランプボルト273の中央部が入るように、爪設置溝123の上部開口よりステア付爪200をマスタージョー120に挿入する。そして、上述したようにクランプボルト873を右回転させることにより、ステア240はリアグリップ810とフロントグリップ840により締め付けられ、
図23Cに示すように、ステア付爪200がリアグリップ810とフロントグリップ840によりマスタージョー120に設置された状態となる。
【0090】
また、ステア付爪200をマスタージョー120から取り外すときには、クランプボルト873を左回転させることにより、リアグリップ810とフロントグリップ840は相互に分離し、その結果ステア240の挟持が解除される。
図23Bに示すように、ステア付爪200のステア240がリアグリップ810及びフロントグリップ840と干渉しなくなる状態まで、リアグリップ810及びフロントグリップ840が開いたら、ステア付爪200をマスタージョー120の爪設置溝123の上部開口から抜き取ることができる。
【0091】
このように、第5実施形態のチャック機構においては、クランプボルト873の所定方向の回転(本実施形態では右回転)により、リアグリップ810とフロントグリップ840は間隔が狭まる方向に移動し、反対方向の回転(本実施形態では左回転)によりリアグリップ810とフロントグリップ840は開く方向に移動する。従って、クランプボルト873を回転させることによりステア付爪200の設置(クランプ)及び取り外し(アンクランプ)が可能となり、ステア付爪200の交換作業を効率よく行うことができる。
【0092】
特に、本実施形態の構成では、クランプボルト873の回転とグリップ810,840の移動が連動しているため、クランプボルト873の回転によりグリップ810,840の移動は強制的に行われる。その結果、ステア付爪200の設置(クランプ)及び取り外し(アンクランプ)を確実に行うことができる。また、クランプボルト873の回転量とリアグリップ810及びフロントグリップ840の移動量とが対応しているため、リアグリップ810とフロントグリップ840の間隔、位置あるいは移動量を厳密に制御することができる。このような構成は、爪の自動交換等のシステムに適用する場合に、適用の容易さ、精度、信頼性等の点において極めて有効である。
【0093】
なお、各グリップ810,840及びクランプボルト873のリア側部分876及びフロント側部分877の右ネジ及び左ネジの関係は、前述した例に限られるものではなく、リアグリップ810及びリア側部分876が左ネジで、フロントグリップ840及びフロント側部分877が右ネジという構成であってもよい。
【0094】
また、本実施形態のリアグリップ810においては、
図21Aに示すように、内径側端面514の下部に面取り面816が形成されている。このような面取り面816を構成しておくことにより、チャックの外径側からマスタージョー120の爪設置溝123にリアグリップ810を挿入し易くなる。同様の面取り面をフロントグリップ840に設けてもよい。このような構成も、爪の自動交換等のシステムに適用する場合に極めて有効である。
【0095】
また、生爪を有効に利用するためには、内径側及び外径側の両端部がワークを把握可能なワーク把握部として形成された生爪を用いることが考えられ、そのためには、ステア付爪を、内外径の向きを入れ替えてチャック本体に装着することが必要である。このことに関して、本実施形態のクランプボルト873は、
図21Cに示すように、両方の端部874,875が頭なしの六角穴付きの構成となっているため、どちらの端部をチャックの外径側としても使用することができ、リアグリップ810とフロントグリップ840を入れ替えて爪設置溝123に装着することができる。その結果、第1実施形態等に示したような平面形状が等脚台形のステアを有するステア付爪であっても、内外径の向きを入れ替えてチャック本体に装着することができる。すなわち、
図21Cに示すようなクランプボルト873を使用することにより、内径側及び外径側の両端部がワークを把握可能なワーク把握部として形成された生爪に平面形状が等脚台形のステアを一体化したステア付爪を、その両端のワーク把握部を有効に使用できる形態で使用することができる。なお、ステアの平面形状が長方形である第2実施形態等に示したステア付爪においては、リアグリップとフロントグリップを入れ替えなくとも内外径の向きを入れ替えてチャック本体に装着することができ、やはり両端のワーク把握部を有効に使用できる形態で使用することができる。
【0096】
ステアの平面形状が等脚台形あるいは長方形のいずれの形態においても、内径側及び外径側の両端部がワークを把握可能なワーク把握部として形成された生爪を有するステア付爪を、上述のような各形態で使用することにより、高精度かつ容易に生爪の位置決めができることに加えて、経済性の高いステア付爪を提供することができる。その結果、生爪を有効に経済的に利用することができ、製造する製品のコストを低減することのできるチャック機構あるいは工作機械を実現することができる。このような形態のチャック機構、ステア付爪及び工作機械も、本発明の範囲内である。
【0097】
第6実施形態
本発明の第6実施形態について、
図24A、24Bを参照して説明する。前述した各実施形態のステア付爪のセレーション面は、例えば
図4Bに示すセレーション面234,234のように、生爪の幅方向の両側に、生爪の長手方向の略全域にわたり(ワーク把握部211近傍以外の全域に)形成されている。しかし、セレーション面は、ステア付爪200の生爪210の下面に選択的に形成された構成でもよい。そのような構成のステア付爪を、本発明の第6実施形態として示す。
【0098】
図24Aに示すステア付爪460は、生爪461及びステア462を有する。ステア462は、第1実施形態のステア付爪200のステア240と同じく、水平方向の断面形状が等脚台形で、クランプボルト通過孔363が形成されたステアである。生爪461の下面には、図示のごとく、従来の2列のセレーション面の4隅位置に略対応する4箇所に、セレーション面471〜474が形成されている。各セレーション面471〜474は、いずれも生爪461の幅方向に鋸歯が形成された横セレーションである。
【0099】
また、
図24Bに示すステア付爪480は、生爪481及びステア482を有する。ステア482は、第2実施形態のステア付爪300のステア340と同じく水平方向の断面形状が長方形で、クランプボルト通過用U字溝365が形成されたステアである。生爪481の下面にも、図示のごとく、従来の2列のセレーション面の4隅位置に略対応する4箇所に、セレーション面491〜494が形成されている。このうちセレーション面491,492は、生爪481の長さ方向に鋸歯が形成された縦セレーションであり、セレーション面493,494は、生爪481の幅方向に鋸歯が形成された横セレーションである。
【0100】
図24A,24Bに示すいずれのステア付爪460,480においても、生爪461,481の長手方向における各セレーション面471〜474,491〜494の長さは短い。また、各セレーション面471〜474,491〜494は、生爪461,481の下面から突出した「島」状態に形成されている。また、ステア462,482の周囲にセレーション面は形成されておらず、開放された空間476,496に形成されている。
【0101】
このような構成のステア付爪460,480は、前述した各実施形態のステア付爪の特徴に加え、ステア付爪460,480の全体を一体として容易に製造することができるという特徴を有する。すなわち、ステア462,482の近傍は、セレーション面471〜474,491〜494が形成されておらず開放された隙間の空間476,496となっているため、ステア462,482及びセレーション面471〜474,491〜494を形成するとき、この隙間の空間476,496を加工上の逃げとして利用することができる。換言すれば、このような空間476,496を確保しておくことにより、ステア462,482を容易に一体形成することができる。その結果、精度の高いステア付爪を提供できるとともに、ステア付爪を安価に製造することができ、ひいてはステア付爪を用いて加工する製品の製造コストを低減することができる。本発明はこのような形態で実施してよい。
【0102】
なお、
図24Aに示すステア付爪460の生爪461は、高さ方向の断面がT字形状となっている。従って、グリップと同様に、マスタージョー120の爪設置溝123に外周方向から挿入する必要があるが、チャック本体の端面(表面)からステア付爪が抜け落ちることがなく、安全性を確保する点では有効である。本願発明はこのような形態で実施してもよい。なお、セレーションの形状(縦/横)、ステアの形状(台形/長方形、T字形状/ストレート形状)、クランプボルト通過構造(孔/溝)等の組み合わせは、
図24A,24Bに例示した組み合わせに限られるものではなく、任意に組み合わせてステア付爪を構成してよい。
【0103】
第7実施形態
本発明の第7実施形態について
図25A〜25Cを参照して説明する。本発明の第7実施形態として、加工作業中の粉塵や切粉がステア付爪やチャック本体の周囲や内部に入ったり付着したりするこをと防ぎ、より高精度なワークの加工が可能なステア付爪700及びチャック本体170について説明する。第7実施形態のステア付爪700は、
図25Bに示すように、前述した各実施形態ステア付爪(
図25Bでは、ステア付爪300を例示する)の下部の周囲に、ワイパーブレード710が装着されたものである。
【0104】
ワイパーブレード710は、
図25Aに示すように、ステア付爪300のワーク把握部311とは反対側の端面(チャック本体170の外周側となる端面)を除いた全ての面のステア付爪300の下部に装着される。ワイパーブレード710は、
図25Cに示すような断面がL字形状の樹脂部材及び金属部材であり、スライドシール又はリップシールと言われる部材である。ワイパーブレード710は、L字状断面の一方の面がステア付爪300の下部に装着される装着面となり、
図25Bに示すように、所定の間隔で設置されるネジ715により、ステア付爪300の周囲下面に設置される。また、ワイパーブレード710は、L字状断面の他方の面が、チャック本体170に設けられた防塵プレート175の表面にシール状態に接触し、その境界から粉塵や切粉がステア付爪300あるいはマスタージョー120に形成されたセレーション部分及びマスタージョー130爪設置溝123の内部に入り込むのを防いでいる。
【0105】
また、第7実施形態のチャック本体170には、端面112に防塵プレート175が設置されている。防塵プレート175は、
図25A〜25Cに示すように、チャック本体170の上面に設置される所定の厚さの平坦なプレートである。
図25Aに示すように、防塵プレート175には長方形の切り欠き178が形成されており、マスタージョー120へステア付爪300が設置可能となっている。切り欠き178は、チャック本体170の端面に露出しているマスタージョー120の上面と干渉しない領域に形成される。
【0106】
このような防塵プレート175を有するチャック本体170にステア付爪700が設置された場合には、ワークをチャッキングするために爪を開閉するとき、
図25Aに矢印で示すように、プレート上をステア付爪300とワイパーブレード710が一緒に移動する。これにより、加工作業中に粉塵や切粉が生じても、切粉等が、ステア付爪やチャック本体の周囲や内部、すなわちステア付爪300やマスタージョー120,130のセレーション部分、あるいは爪設置溝123の内部等に入り込むことを防ぐことができる。その結果、ステア付爪300の位置決めをより正確に行うことができ、より高精度なワークの加工が可能となる。なお、爪を交換等する場合には、セレーション部に粉塵等が混入するのを防ぐため、防塵プレート175の切り欠き178の箇所にさらにエアーブローを行い、高圧の空気を吹き付け、粉塵を吹き飛ばすのが好ましい。すなわち、高圧空気孔を径方向及び回転方向に設けることで、さらに粉塵等を防ぐことが可能となる。本発明は、このような形態で実施してもよい。
【0107】
他の実施形態
本発明は、前述した実施形態に限られるものではなく、任意好適な種々の改変が可能である。
【0108】
例えば、ステアのリア側端面及びフロント側端面に形成された各波形係合面は、
図7Eを参照して前述した構成に限られるものではない。例えば、係合面の高さ方向の長さをより長くしてもよく、接続面の長さより長い構成としてもよい。また、係合面及び接続面の傾斜角度は適宜好適な角度にしてよい。また、係合面は2面に限られるものではなく、1面だけであってもよいし3面以上あってもよい。接続面も、2面以下であってもよいし4面以上あってもよい。また、接続面は傾斜面でなくてもよい。ステアに形成される波形係合面は、ステアがマスタージョーの爪設置溝に挿入された状態で両側からグリップにより挟持され締め付けられることにより、ステアを爪設置溝の底部方向に引き込むという作用を発揮させるための構造である。この作用を発揮させるためには、各波形係合面として、少なくとも、ステアがマスタージョーの爪設置溝に挿入された状態で爪設置溝の上部開口方向を指向する傾斜面が1面形成されていればよく、それ以外の条件は任意好適に変更してよい。
【0109】
また、このステアの波形係合面の形態に応じて、グリップの傾斜面及び対向波形係合面も、任意好適に変更してよい。前述したように、ステアの各波形係合面は、ステアがマスタージョーの爪設置溝に挿入された状態で爪設置溝の上部開口方向を指向する傾斜面が1面形成されていればよいのであるから、これに係合するグリップの対向波形係合面は、ステアの前述した少なくとも1面の傾斜面に当接し当該傾斜面を押す構成であれば、それ以外の条件は任意好適に変更してよい。すなわち、グリップ等の対向波形係合面は、
図9C,9Fを参照して前述した構成に限られるものではない。対向波形係合面を構成する対向係合面あるいは対向接続面の高さ方向の長さ、傾斜角度、設置面数等は、ステアの波形係合面の形態に応じて任意に変更してよい。ステアの係合面(少なくとも1面の傾斜面)を押す構成としても、その係合面(傾斜面)に対向する面(対向係合面)である必要はなく、グリップのステア側の端面である傾斜面及び挟持側端面から突出し高さ方向に段差が形成されている構成、例えば、角のついた稜線状部分や、マスタージョーの爪設置溝の延在方向に沿って延びた1つ又は複数の突出部分等であってもよい。
【0110】
本発明の範囲内のステア付爪であって、そのような簡単な構成のステアを有するステア付爪として、例えば
図26A,26Bに示すようなステア付爪400を例示することができる。ステア付爪400は、爪410の下面中央部にプルスタッドボルト440を設置したものである。一般的なプルスタッドボルト440は、
図26Cに示すように、軸方向の一端側がネジ部441に形成され、他端側には軸部442を介して頭部443が形成されており、頭部443と軸部442との間は図示のごとくテーパ面451に形成されている。ステア付爪400においては、このプルスタッドボルト440のテーパ面451をグリップとの係合面451として利用し、爪410をマスタージョー120の爪設置溝123に引き込むようにしたものである。グリップの対向係合面としては、
図17A,17Bに示したまっすぐな対向係合面でもよいし、プルスタッドボルト440の頭部443あるいはそのテーパ面451の形状に沿った円形形状の対向係合面であってもよい。このような構成のステア付爪400も、前述した各実施形態のステア付爪と同様の作用、効果を発揮するものである。
【0111】
また、生爪及びマスタージョーに形成されるセレーションも、前述の実施形態の例に限定されるものではなく適宜変更してよい。例えば、前述した第2実施形態においては、マスタージョー130のセレーション面134にスパイク134aが形成され、生爪310のセレーション面373,374に筋状の鋸歯が形成されていた。しかし、生爪310のセレーション面にスパイクが形成され、マスタージョー130のセレーション面に筋状の鋸歯が形成された構成であってもよい。また、生爪及びマスタージョーに形成されるセレーションは、互いに直交する2種類の鋸歯に限られない。異なる方向に延在する2種類の鋸歯を含んでいればよく、鋸歯の交差角は任意でよい。例えば、互いに60°で交差する方向に延在する2種類の鋸歯であってもよい。
【0112】
また、生爪及びマスタージョーに形成されるセレーションの鋸歯又はスパイクの断面形状は、三角形に限られない。生爪に形成される鋸歯又はスパイクと、マスタージョーに形成される鋸歯又はスパイクとが互いに面接触する限りにおいて、鋸歯又はスパイクは任意の形状でよい。さらに、生爪及びマスタージョーに形成される鋸歯又はスパイクのピッチは任意のピッチでよい。また、そもそも生爪及びマスタージョーに形成される位置決め手段は、前述したような「V溝」を有するセレーションに限られるものではなく、「角溝」や「丸溝」を形成した位置決め手段であってもよい。そのような位置決め手段を有するステア付爪、チャック機構及びこれらを有する工作機械も本発明の範囲内である。
【0113】
また、前述した各実施形態においては、マスタージョーの爪設置溝の段差面(肩部、引き込み支持面)と各グリップの段差面(引き込み基準面)とを係止部として係止させるものであったが、係止部の形態は任意の形態でよい。例えば、
図27Aに示すような「あり溝形状」(三角形状)や、
図27Bに示すような丸溝形状(丸形状)であってもよい。相互に引っ掛かり、移動が規制される構造であれば、任意の形態であってよい。
【0114】
また、本願発明のチャック機構で把握するワークについても、円環形状のワークに限定されるものではなく、任意の形状のワークでよい。例えば、偏芯形状や多角柱形状であるようなワークにおいても、生爪のワーク把握部の形状をワークの形状に適合させることにより本発明のチャック機構を適用し得る。さらに、前述した実施形態では、ワークを外側から把握する場合を例示したが、ワークを内側から把握する際にも本発明のチャック機構は適用可能である。
【0115】
その他、生爪、ステア、グリップ及びマスタージョー等の大きさ、材料、形状及び配置等も、本願発明の機能が発揮し得る範囲において、またワークの形状及び材質等に応じて、任意に変更あるいは設定をしてよい。また、前述した実施形態においては本発明を旋盤に適用した例を説明したが、本発明は旋盤以外の工作機械にも適用可能である。例えば、フライス盤やマシニングセンターのように、ワークをチャック機構に固定した状態で、高速に移動する刃部を用いてワークを加工する工作機械にも本発明のチャック機構は適用することができる。
【解決手段】生爪210の下面に平面台形形状で両端面245,246に波形係合面が形成されたステア240を設置しステア付爪200とする。マスタージョー120の爪設置溝123内でステア240を一対のグリップ510,540により径方向両側から挟持し、ステア240を爪設置溝123底方向に引き込む。生爪310の下面及びマスタージョー120の上面のセレーション面124、234の係合により生爪310の径方向位置が規定され、等脚台形底辺側となる爪設置溝123の側面へのステア240の密接により生爪310の接線方向の位置が規定される。ステア付爪300とグリップ510,540は1本のクランプボルト273により連結され締め付けられる。生爪310には下面からステア240が連結され上面には座ぐり等が無い。