(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高分子量タイプの樹脂の流動性は一般的に低く、成形性が悪いという欠点を有している。
特に薄手長物形状の成形品を、1点ゲートで成形する場合であって、金型キャビティの片端側から溶融樹脂を入れなければならない場合は、樹脂の流動性が悪いとショートショットとなる場合があるという問題を有している。
仮に流動末端まで樹脂が到達したとしても、かなりの成形歪が生じるおそれがあるため、成形歪による反りが発生したり、また有機溶剤と接触する可能性のある成形品においては、ソルベントクラック等のリスクが高まったりするという問題を有している。
さらに、高分子量タイプの樹脂は流動性が低いため、一般的に、十分に樹脂圧をかけた状態で成形することが困難であるが、その薄手長物形状の成形品がスナップフィット構造等の、他の部材と接合するための接合部を有している場合、当該接合部を、十分に樹脂圧をかけた状態で成形することができないと、高分子量タイプのものを使用したとしても、実用上十分な強度が得られないおそれがあるという問題を有している。
【0008】
一方、逆に高流動タイプのメタクリル系樹脂を用いると、上述したようなショートショットや成形歪のリスクは低減される。
しかしながら、一般的に高流動タイプのメタクリル系樹脂は、分子量を低くして高流動性を得ているため、分子間の絡み合いが重要な因子となる成形品の疲労特性は概して高くないという問題を有している。
すなわち、高流動タイプのメタクリル系樹脂を用いてスナップフィット構造等の接合部を有する薄手長物形状の成形品を得る場合、成形はできてもその接合部は、本来スナップフィット構造等の接合部に要求される高い疲労特性が得られないという問題を有している。
【0009】
そこで本発明においては、実用上十分な疲労特性を有する、他の部材と接合するための接合部を有する薄手長物形状のメタクリル系樹脂組成物製成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上述した従来技術の問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定範囲の擬塑性を有するメタクリル系樹脂組成物を用いることで、上述した従来技術の問題を解決し、かつ接合部に実用上十分な疲労特性を付与することができることを見出し、従来技術の課題を解決するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
〔1〕
メタクリル系樹脂を含有するメタクリル系樹脂組成物を成形した、少なくとも一部に他
の部材と接合するための接合部を有するメタクリル系樹脂組成物製成形品であって、
前記接合部を除いた前記メタクリル系樹脂組成物製成形品の厚さt(mm)と樹脂の流
動長L(mm)とが、下記式(1)及び式(2)の条件を満たし、
t<4.0・・・(1)
L/t>100・・・(2)
前記メタクリル系樹脂組成物は、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.8
0kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値a(g/10min
.)と、荷重10.19kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの
値b(g/10min.)とが、下記式(3)及び式(4)の条件を満たす、メタクリル
系樹脂組成物製成形品。
5.0<b/a・・・(3)
0.3<a
≦1.8・・・(4)
〔2〕
前記メタクリル系樹脂組成物に含有されているメタクリル系樹脂が、
メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.9質量%と、少なくとも1種のメタクリ
ル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位0.1〜20質量%と、
を、含有する、前記〔1〕に記載のメタクリル系樹脂組成物製成形品。
〔3〕
前記メタクリル酸エステルが、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルであ
る、前記〔2〕に記載のメタクリル系樹脂組成物製成形品。
〔4〕
前記メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体が、アクリル酸メチル及び
/又はアクリル酸エチルである、前記〔2〕又は〔3〕に記載のメタクリル系樹脂組成物
製成形品。
〔5〕
前記接合部が突起構造である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のメタクリル
系樹脂組成物製成形品。
〔6〕
前記突起構造が、
スナップフィットの雄型、位置決め用の柱、円筒ボス、又はリブ、嵌合用の雄型又は雌
型、セルフタップ用の円筒ボスからなる群より選ばれるいずれかである、前記〔5〕に記
載のメタクリル系樹脂組成物製成形品。
〔7〕
前記接合部が貫通孔構造又は非貫通穴構造である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一
に記載のメタクリル系樹脂組成物製成形品。
〔8〕
前記貫通孔構造又は非貫通穴構造が、
スナップフィットの雌型、セルフタップ用の貫通孔、セルフタップ用の非貫通穴、及び
圧入用の雌型からなる群より選ばれるいずれかである、前記〔7〕に記載のメタクリル系
樹脂組成物製成形品。
〔9〕
前記メタクリル系樹脂組成物製成形品が、自動車内外装用部材、レンズカバー、ハウジ
ング部材、及び照明カバーからなる群より選ばれるいずれかである、前記〔1〕乃至〔8
〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物製成形品。
〔10〕
前記メタクリル系樹脂組成物製成形品が、
バイザー、メーターパネル、ディスプレイ部品、ピラー、ヘッドランプカバー、テール
ランプカバー、サイドランプカバー、テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニ
ッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、及びナンバープレートガー
ニッシュからなる群より選ばれる、いずれかの自動車内外装用部材である、前記〔1〕乃
至〔9〕のいずれか一に記載のメタクリル系樹脂組成物製成形品。
〔11〕
前記メタクリル系樹脂組成物製成形品が、
バイザー、ピラー、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、サイドランプカバー、
テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロン
トグリル、リアグリル、及びナンバープレートガーニッシュからなる群より選ばれる、い
ずれかの自動車外装用部材である、前記〔1〕乃至〔10〕のいずれか一に記載のメタク
リル系樹脂組成物製成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実用上十分な疲労特性を有する、他の部材と接合するための接合部を有する薄手長物形状のメタクリル系樹脂組成物製成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
〔メタクリル系樹脂組成物製成形品〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、メタクリル系樹脂を含有するメタクリル系樹脂組成物を成形した、少なくとも一部に他の部材と接合するための接合部を有するメタクリル系樹脂組成物製成形品であり、前記接合部を除いた前記メタクリル系樹脂組成物製成形品の厚さt(mm)と樹脂の流動長L(mm)とが、下記式(1)及び式(2)の条件を満たす。
t<4.0・・・(1)
L/t>100・・・(2)
前記メタクリル系樹脂組成物は、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.80kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値a(g/10min.)と、荷重10.19kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値b(g/10min.)とが、下記式(3)及び式(4)の条件を満たす。
5.0<b/a・・・(3)
0.3<a<15・・・(4)
【0016】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、いわゆる薄手長物形状の成形品を対象としている。
ここで、本明細書中、「薄手長物形状」とは、成形品のチャンネル構造を有する部分以外の最も薄い薄肉部の厚さが4mmよりも薄く、成形品の流動方向の長さ、すなわち樹脂の流動長(L)が、樹脂の流動方向に垂直な方向の長さ(V)よりも長いものを言う。
樹脂の流動長L(mm)と樹脂の流動方向に垂直な方向の長さV(mm)との関係は、L/V>1.2であることがより好ましく、L/V>1.3であることがさらに好ましい。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品における前記接合部以外の部分の厚さt(mm)と樹脂の流動長L(mm)の関係は、L/t>100であるものとし、L/t>102であるとより好ましく、L/t>104であるとさらに好ましい。
【0017】
(厚さt)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品の厚さtとは、前記接合部を除いた部分のメタクリル系樹脂組成物製成形品の厚さを言い、これは、成形品のチャンネル構造を有する部分以外の薄肉部の厚さ、すなわち、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品を、その流動方向に垂直の方向で切断した際に現れる、流動断面の最薄肉厚部であるものとする。
薄手長物形状の成形品においては、流動支援のために、部分的に葉脈状のチャンネル構造を設けるようにする場合があるが、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品の厚さtとは、当該チャンネル構造を有する部分の厚さではなく、当該チャンネル構造を有する部分以外の薄肉部の厚さであるものとする。
【0018】
(樹脂の流動長L)
前記樹脂の流動長Lとは、射出成形で本実施形態のメタクリル樹脂組成物製成形品を製造する際、樹脂を供給するゲートからその最遠の樹脂の流動末端までの樹脂の流動距離を言う。
複数のゲートを用いる場合には、その内の最も長い距離を、樹脂の流動長Lとする。
なお、複数のゲートを用いる場合、そのうちの最も長い距離、すなわちLの値を決定する方法としては、射出成形機の計量値を下げてショートショットを射って確認する方法が挙げられる。
【0019】
(他の部材と接合するための接合部)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、他の部材と接合するための接合部を有している。
当該接合部とは、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品以外の他の部材と物理的に結合させる機能を有する本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品を構成する部位を言う。
当該接合部としては、例えば、他の部材との結合させるための突起構造、貫通孔構造、非貫通穴構造が挙げられる。
【0020】
前記突起構造としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スナップフィットの雄型、位置決め用の柱、位置決め用の円筒ボス、又はリブ、嵌合用の雄型又は雌型、及びセルフタップ用の円筒ボス等が挙げられる。
なおスナップフィット(snap-fit)とは、金属やプラスチック等の結合に用いられる機械的接合法の一種で、材料の弾性を利用してはめ込むことにより固定する方式のことである。
【0021】
前記貫通孔構造、非貫通穴構造としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スナップフィットの雌型、セルフタップ用の貫通孔、セルフタップ用の非貫通穴、及び圧入用の雌型等が挙げられる。
【0022】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品における接合部は、他の部材と物理的に結合させ、すなわち脱落しないようにするという目的の他、成形品の取り付け位置の位置決めの機能も有している。
【0023】
前記接合部は、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品と他の部材を用いて、繰り返し脱着を行うことにより、繰り返し応力を受けたり、又は長期間、応力のかかった状態で保持されたりする。そのため、通常、接合部を構成する成形原料としては、疲労特性やクリープ特性といった長期物性に優れていることが求められる。
【0024】
上述したことから、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品の材料として用いられるメタクリル樹脂組成物には、薄手長物形状の成形品を得るために必要な高い流動性が求められ、かつ同時に、高い疲労特性及びクリープ特性が求められる。
高い流動性と、高い疲労特性及びクリープ特性とは、相反する特性であるため、従来提案されている技術においては、両特性を満たす材料は得られていなかったが、本発明者が鋭意研究した結果、後述するようにメタクリル樹脂組成物の物性を特定することにより実現された。
【0025】
図1に本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品の一例の模式的概略斜視図を示す。
図1に示すメタクリル系樹脂組成物製成形品は、少なくとも一部に他の部材と接合するための接合部を有しており、前記接合部を除いたメタクリル系樹脂組成物製成形品の厚さt(mm)がt<4.0であり、厚さt(mm)と樹脂の流動長L(mm)との間に、L/t>100の関係を満たし、樹脂の流動長L(mm)と樹脂の流動方向に垂直な方向の長さV(mm)との間に、L/V>1の関係を満たす、薄手長物形状の成形品であり、板状体上に、所定の接合部、例えば
図1に示す各接合部1〜3を具備している。
接合部1は、前記突起構造の一例であるスナップフィットの雄型であり、他の部材のスナップフィットの雌型と接合するようになされる。
接合部2は、前記突起構造の一例である円筒ボスであり、他の部材の貫通孔又は非貫通穴と接合するようになされる。
接合部3は、前記貫通孔構造の一例であるセルフタップ用の貫通孔であり、他の部材の突起構造と接合するようになされる。
【0026】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品と他の部材とは、前記接合部において位置決めを行った後、所定の手段により結合させることができる。
結合させる手段としては、前記接合部にて位置決めや接合を行った後、必要に応じてレーザー溶着や熱板溶着等を行う溶着法や、接着剤や両面テープ等を用いた接着・粘着成分による接着を行う方法が挙げられる。
前記溶着法は、特別な装置や技術的な熟練が必要であり、かつ成形品のデザイン上の制約が多く、接着法は、接合強度や接合強度の長期信頼性の観点から十分でない場合があるため、目的に応じて結合方法を選択する。
なお、接着法は、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品の接合部やその他の部位において、補強目的として用いることができる。
【0027】
(メタクリル系樹脂組成物の擬塑性)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、メタクリル系樹脂を含有するメタクリル系樹脂組成物を成形することにより得られる。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品に用いるメタクリル系樹脂組成物は、上述したように、高い流動性と、高い疲労特性及びクリープ特性といった長期特性を具備していることが要求されるが、これらは互いに相反する関係にある特性である。しかしながら、以下の特定範囲の擬塑性を持つメタクリル系樹脂組成物により両立できる。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品に用いる前記メタクリル系樹脂組成物は、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.80kgf、試験温度230℃の条件下で測定したメルトマスフローレイトの値a(g/10min.)が、0.3<a<15の範囲である。
a>0.3であれば、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品が対象とする薄手長物形状の成形品において、流動末端までに樹脂が到達でき、ショートショットを効果的に防止できる。
また、流動末端まで樹脂が到達でき、かつ成形歪を持った状態での成形品となることを効果的に防止でき、成形後に反りやソルベントクラックのリスクを低減化できる。
特にその流動末端付近に接合部分が存在する場合は、その接合部分において良好な金型転写性が得られ、実用上十分な接合力が得られる。
【0028】
a<15とすることにより、メタクリル系樹脂組成物中のメタクリル系樹脂の分子量を過度に小さくする必要がなくなり、メタクリル系樹脂組成物において十分な流動性を得ることができ、かつ接合部において所望の長期特性を発現することができる。
【0029】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品に用いるメタクリル系樹脂組成物は、0.4<a<13であることが好ましく、0.5<a<12であることがより好ましい。
【0030】
さらに、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品に用いるメタクリル系樹脂組成物においては、JIS K7210:1999に基づいて、荷重条件を10.19kgfとし、試験温度を230℃として測定したメルトマスフローレイトの値b(g/10min.)と前記aとの間に、5.0<b/aが成り立つものとする。
このb/aは、いわゆる、溶融樹脂の擬塑性を示す一つの指標であり、この値が大きければ大きいほど、せん断力による粘度低下の度合いが大きくなることを示している。
従来公知の市販のアクリル系樹脂においては、b/aの値は、5.0以下のせん断力による粘度低下の度合いが小さい領域にある。これは、分子量分布が狭いためである。
5.0<b/aの関係を満たすことにより、流動性と長期特性の両立が図られる。
【0031】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品に用いるメタクリル系樹脂組成物は、5.1<b/aであることが好ましく、5.2<b/aであることがより好ましい。
【0032】
0.3<a<15の範囲を満たし、さらに、流動性と長期特性とを両立させるために必要な、5.0<b/aの関係を成立させるには、溶融樹脂の擬塑性を大きくする、すなわち、分子量分布を広げたメタクリル系樹脂組成物を得ることが必要である。
分子量分布を広げる方法としては、例えば、国際公開第2007/60891号で開示されているように、極端に分子量の異なるメタクリル系樹脂を一つの重合反応槽内で連続してそれぞれ懸濁重合する方法が挙げられ、当該方法によりメタクリル系樹脂を製造することにより、上記a及びb/aの値を制御することができる。
【0033】
また、上記のように分子量分布を広げたメタクリル系樹脂組成物を得る他の方法としては、連続塊状重合または連続溶液重合法にて、並列に並べた2つ以上の重合反応槽でそれぞれ分子量の異なるメタクリル系樹脂を重合した後、それぞれの重合物が溶解している重合液を合流させて混ぜ合わせた後、溶剤や未反応モノマーを除いて重合物を得る方法も挙げられる。
なお、並列に2つ以上の重合反応槽を並べる重合装置の例としては、例えば、特開2012−153805号公報、及び特開2012−153807号公報に記載されている装置が挙げられる。
さらに、上記のように分子量分布を広げたメタクリル系樹脂組成物を得る他の方法としては、連続塊状重合または連続溶液重合法にて、直列に並べた2つ以上の重合反応槽でそれぞれ分子量の異なるメタクリル系樹脂を連続して重合させる方法も挙げられる。
なお直列に2つ以上の重合反応槽を並べる重合装置の例としては、例えば、特開2012−102190号公報に記載されている装置が挙げられる。
さらにまた、上記のように分子量分布を広げたメタクリル系樹脂組成物を得る他の方法としては、異なる分子量を有する2種類以上のメタクリル系樹脂組成物を押出機等でコンパウンドする方法、反応装置内に温度勾配、モノマー濃度勾配、触媒系の濃度勾配及びそれらの組み合わせを持たせて重合を実施する方法等が挙げられる。
上述した各種方法を利用してメタクリル系樹脂を製造することにより、上記a及びb/aの値を制御することができる。
【0034】
また、a及びb/aの値を制御するためには、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品を製造する際の、メタクリル系樹脂組成物押出時の温度条件、吐出量を調整し、また、成形時における成形温度、成形滞留時間を調整することが有効である。
具体的には、押出時の温度条件を300℃以下、及び/又は吐出量を3kg/hr.以上とすることが好ましい。また、成形時においては、成形温度を290℃以下、及び/又は成形滞留時間を15分以下とすることが好ましい。
押出時における温度条件、メタクリル系樹脂組成物の吐出量、成形時における成形温度、成形滞留時間について、上記範囲内とすることにより、a及びb/aの値を本発明において規定する適切な範囲に制御することができるとともに、メタクリル系樹脂の変色を防止し、メタクリル系樹脂組成物特有の優れた外観特性が得られる。
【0035】
(メタクリル系樹脂組成物)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、メタクリル系樹脂組成物を成形したものであり、当該メタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂を含有する。
メタクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.9質量%と、少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位0.1〜20質量%とを含むものであることが好ましい。
【0036】
メタクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)等が挙げられる。入手のしやすさ、価格の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましい。
前記メタクリル酸エステル単量体は、一種のみを単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
なお、メタクリル系樹脂組成物に含有されているメタクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体単位の含有量が99.9質量%以下であることが好ましい。メタクリル酸エステル単量体単位の含有量が99.9質量%以下であることにより、成形時における樹脂の分解を防止でき、揮発成分であるメタクリル酸エステル単量体の発生やシルバーと呼ばれる成形不良を効果的に防止できる。
また、メタクリル酸エステル単量体単位が80質量%以上であることにより、成形品に一般的に必要とされている耐熱性を担保できる。
十分な耐熱性を有することにより、剛性も確保でき、特に高温時において接合部での結合力の低下を効果的に防止できる。
メタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、82〜99.9質量%であることがより好ましく、84〜99.8質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
また、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリレート基を1つ有するアクリル酸エステル単量体が挙げられる。
その他にも(メタ)アクリレート基を2つ以上有する、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;といったアクリル酸エステル単量体が挙げられる。
特に、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましく、さらには、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが入手のしやすいため、好ましい。
これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
なお、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体単位の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることにより、成形時における樹脂の分解を防止でき、揮発成分であるメタクリル酸エステル単量体の発生やシルバーと呼ばれる成形不良を効果的に防止できる。また、ビニル単量体単位が20質量%以下であることにより、成形品に一般的に必要とされている耐熱性を担保できる。
十分な耐熱性を有することにより、剛性も確保でき、特に高温時において接合部での結合力の低下を効果的に防止できる。
メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体単位の含有量は、0.1〜18質量%であることがより好ましく、0.2〜16質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
また、前記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、アクリル酸エステル単量体以外の他のビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α−メチルスチレン)等のスチレン系単量体;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1,1−ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;マレイミドや、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド等;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等が挙げられる。
【0039】
なお、メタクリル系樹脂においては、耐熱性、加工性等の特性を向上させる目的で、上記例示したビニル単量体以外のビニル系単量体を適宜添加して共重合させてもよい。
上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なアクリル酸エステル単量体や、前記例示したアクリル酸エステル単量体以外のビニル系単量体は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
メタクリル樹脂組成物に含有されているメタクリル系樹脂は、塊状重合法やキャスト重合法、懸濁重合法により製造できるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0041】
(メタクリル系樹脂に混合可能な成分)
<その他の樹脂>
前記メタクリル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知のその他の樹脂を混合することができる。
当該その他の樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が好適に使用される。
熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シンジオタクテックポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、メタクリル系樹脂、AS系樹脂、BAAS系樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂、生分解性樹脂、ポリカーボネート−ABS樹脂のアロイ、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
特に、AS樹脂、BAAS樹脂は、流動性を向上させるために好ましく、ABS樹脂、MBS樹脂は耐衝撃性を向上させるために好ましく、また、ポリエステル樹脂は耐薬品性を向上させるために好ましい。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等は難燃性を向上させる効果が得られる。
また、硬化性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、オキセタン樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコン樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
これらの樹脂は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
<添加剤>
メタクリル系樹脂組成物には、剛性や寸法安定性等の所定の各種特性を付与するため、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤を混合してもよい。
添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系等の可塑剤;高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸のモノ、ジ、又はトリグリセリド系等の離型剤;ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等の帯電防止剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等の安定剤;難燃剤、難燃助剤、硬化剤、硬化促進剤、導電性付与剤、応力緩和剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、衝撃付与剤、摺動性改良剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、染料、増感材、着色用顔料、ゴム質重合体、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、充填剤、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防黴剤、防汚剤、導電性高分子、カーボンブラック等が挙げられる。
【0043】
前記染料としては、特に限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。
赤系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent red 52、Solvent red 111、Solvent red 135、Solvent red 145、Solvent red 146、Solvent red 149、Solvent red 150、Solvent red 151、Solvent red 155、Solvent red 179、Solvent red 180、Solvent red 181、Solvent red 196、Solvent red 197、Solvent red 207、Disperse Red 22、Disperse Red 60、及びDisperse Red 191等が挙げられる。
青系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Blue 35、Solvent Blue 45、Solvent Blue 78、Solvent Blue 83、Solvent Blue 94、Solvent Blue 97、Solvent Blue 104、及びSolvent Blue 105等が挙げられる。
黄系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Disperse Yellow 160、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 160、及びSolvent yellow 33が挙げられる。
緑系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Green 3、Solvent Green 20、及びSolvent Green 28等が挙げられる。
紫系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Violet 28、Solvent Violet 13、Solvent Violet 31、Solvent Violet 35、及びSolvent Violet 36等が挙げられる。
これらの染料は各色毎に、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
なお、染料の種類は特に限定されないが、耐候性の観点から、アントラキノン系染料、複素環式化合物系染料及びペリノン系染料からなる群より選ばれるものが好ましい。
アントラキノン系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Violet 36、Solvent Green 3、Solvent Green28、Solvent Blue 94、Solvent Blue97、及びDisperse Red 22等が挙げられる。
複素環式化合物系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Disperse Yellow 160等が挙げられる。
ペリノン系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent red 179等が挙げられる。
これらはそれぞれ、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、前記カーボンブラックとは、メタクリル系樹脂組成物に、深みのある黒すなわち漆黒性を付与するため等に用いられる。
カーボンブラックは、以下に限定されるものではないが、以下の表面コーティング剤によってコートされたものを用いると、より深みのある漆黒性を発現できる。
カーボンブラックの含有量は、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の全量に対して、カーボンブラックを0.01質量%以上であることが好ましい。カーボンブラックの含有割合を0.01質量%以上とすることにより、特に肉厚の薄い成形品であっても遮蔽性を高くすることができ、良好な漆黒性を維持することができる。
【0046】
カーボンブラックの種類としては、特に限定されるものではなく、通常、樹脂の着色用として市販されているものを使用することができる。具体的には、顕微鏡観察による算術平均粒径が10〜40nm、JIS K6217:2001で規定される窒素吸着比表面積が50〜300m
2/g、及び950℃で7分間加熱した際の揮発分が0.5〜3質量%であることのうち、1種以上の条件を満たすカーボンブラックを好適に使用できる。
【0047】
カーボンブラックの表面コーティング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド及びエチレンビスステアリルアミド(EBS)が挙げられる。
これらの中でも、より深みのある漆黒性を実現できる観点から、ステアリン酸亜鉛及びEBSがより好ましい。
表面コーティング剤は一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
表面をコーティングしたカーボンブラックと染料をメタクリル系樹脂組成物中にともに併用して添加することで、より深みのある漆黒性を達成することができる。
【0049】
前記難燃剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコン、籠状シルセスキオキサン又はその部分開裂構造体、シリカが挙げられる。
前記熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工安定剤等の酸化防止剤等が挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド、3,3',3'',5,5',5''−ヘキサ−tert−ブチル−a,a',a''−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリン)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミン)フェノール等が挙げられ、ペンタエリスリトールテラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0050】
また、前記紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられ、好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。
これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
なお、紫外線吸収剤の融点(Tm)は、成形品の熱変形防止の観点から80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは130℃以上、さらにより好ましくは160℃以上である。
紫外線吸収剤は、成形品のシルバー等の成形不良発生防止の観点から23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の質量減少率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、さらにより好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは5%以下である。
【0051】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品を得るためのメタクリル系樹脂組成物中における、上述したその他の樹脂、添加剤の含有量は、メタクリル系樹脂組成物の透明性を保ち、ブリードアウト等の成形不良を防止するためにメタクリル系樹脂組成物100質量部に対して0〜60質量部が好ましく、0.01〜34質量部がより好ましく、0.02〜25質量部がさらに好ましい。
上記数値範囲で含有することにより、それぞれの材料の機能を発揮することができる。
【0052】
〔メタクリル系樹脂組成物製成形品の製造方法〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、上述したメタクリル系樹脂組成物を成形することにより得られる。
メタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂、上述した種々の添加剤、所定のその他の樹脂と混合し、混練することにより得られる。
例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより製造できる。
特に押出機による混練が、生産性の観点から好ましい。
混練温度は、メタクリル系樹脂組成物の好ましい加工温度に従えばよく、140〜300℃の範囲が好ましく、より好ましくは180〜280℃の範囲である。
【0053】
メタクリル系樹脂組成物を成形し、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品を得る方法については、射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、発泡射出成形法、超薄肉射出成形法(超高速射出成形法)等を適用できる。
本実施形態においては、例えば
図1に示すような各種の接合部を具備するメタクリル系樹脂組成物製成形品を成形する場合であっても、メタクリル系樹脂組成物の擬塑性を上記のように特定したことにより、良好な流動性、成形性が得られ、接合部においても実用上十分な繰り返し疲労特性、長期物性が得られる。
【0054】
〔メタクリル系樹脂組成物製成形品の用途〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、家電分野、OA分野、自動車分野における、薄手長物形状で、かつ他の部材と接合するための接合部を有する成形品としての用途を有している。
例えば、自動車内外装用部材、レンズカバー、ハウジング部材、及び照明カバーからなる群より選ばれるいずれかに用いることができる。
具体的には、バイザー、メーターパネル、ディスプレイ部品、ピラー、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、サイドランプカバー、テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、及びナンバープレートガーニッシュからなる群より選ばれる、いずれかの自動車内外装用部材に用いることができ、特に、バイザー、ピラー、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、サイドランプカバー、テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、及びナンバープレートガーニッシュからなる群より選ばれる、いずれかの自動車外装用部材として、好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本実施形態について説明するが、本実施形態は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔メルトマスフローレイト測定〕
メルトマスフローレイト測定においては、後述する実施例及び比較例で製造した試験片をニッパー等で細かく破砕し、80℃減圧条件下で24時間乾燥させたものを測定試料とした。
測定試料を用いて、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.80kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値a(g/10min.)と、前記測定条件の内、荷重条件のみを10.19kgfとして測定したメルトマスフローレイトの値b(g/10min.)をそれぞれ計測し、b/aを算出した。
測定結果を下記表4に示す。
【0057】
〔スパイラル長さの測定〕
後述する実施例及び比較例で製造した樹脂ペレットを、80℃で24時間乾燥させた後、以下に記す射出成形機、測定用金型、成形条件を用い、流動性評価を行った。
具体的には、金型表面の中心部に樹脂を下記条件にて射出し、射出終了40秒後にスパイラル状の成形品を取り出し、スパイラル部分の長さを測定し、これを流動性評価の指標とした。
測定結果を下記表4に示す。
射出成形機: 東芝機械製 EC−100SX
測定用金型: 金型の表面に、深さ2mm、幅12.7mmの溝を、表面の中心部からアルキメデススパイラル状に掘り込んだ金型
成形条件
樹脂温度:250℃
金型温度:55℃
最大射出圧力:75MPa
射出時間:20sec
なお流動性は、前記評価でのスパイラル部分の長さの測定値が26cm以上であれば良好であると判断した。
26cm以上であれば、成形加工時の流動性が良好となり、射出成形品の一部に接合部のような細かい構造を有していても、接合部の緩み等の成形不良がない、良好な射出成形品を得ることができた。
【0058】
〔接合部振動疲労特性の測定〕
後述する実施例及び比較例で製造した
図2に示す試験片を用い、接合部の繰り返し疲労特性を評価した。
まず、試験中に試験片が動かないよう、
図2中のBの部分を金属製の治具によって固定し、接合部である
図2中のAの部分に治具をかけた。
次に、応力値を20MPaに固定した状態で、Aの部分にかけた治具を引っ張った後、応力を解放した。
この引っ張りと解放を1800回/分の速度で繰り返し、試験片の接合部が破断に至る回数、もしくは、たわみ量が±8mmを超えた段階に達する回数を計測した。
その計測結果を下記表4に示す。
表4中、接合部繰り返し疲労特性試験片成形の項には、成形品の接合部における繰り返し疲労特性試験に用いる試験片をショートショットや、シルバーなどの成形不良なく、製造できたかどうかを示した。試験片を成形不良なく成形できれば「○」、成形不良が生じた場合は「×」とした。
成形品の接合部の疲労特性として前記回数が2.0×10
5以上であれば、接合部分において十分な疲労特性を有していると判断した。
なお、
図2中、数値の単位はmmであり、表4中、10^5は、10
5を意味する。
【0059】
下記において、メタクリル系樹脂組成物からなる射出成形体の製造方法を説明する。
なお、略号は以下の化合物を示す。
MMA;メタクリル酸メチル、MA;アクリル酸メチル、EA;アクリル酸エチル
【0060】
〔実施例1〕
<メタクリル系樹脂の重合>
メタクリル系樹脂の重合は、懸濁重合法にて実施した。
まず懸濁剤の調製として、攪拌機を有する5L容器に、水2kg、第3リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、それらを撹拌・混合することで懸濁剤を調製した。
次に、60Lの反応器に水25kgを投入して80℃に昇温し、懸濁重合の準備を行った。80℃に達して恒温状態になったことを確認した後、重合原料として、下記表1の樹脂1の重合体(I)の欄に記載の原料と、前記懸濁剤を全量、60L反応器の中へ投入し撹拌した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行ったところ、原料と懸濁剤を投入してから80分後に発熱ピークが観測された。発熱ピークの確認後、92℃に1℃/min速度で昇温し、続いて30分間92℃〜94℃の温度を保持し、更に1℃/minの速度で80℃まで降温した。
80℃に達したことを確認した後、下記表1の樹脂1の重合体(II)の欄に記載の原料に紫外線吸収剤として株式会社ADEKA製アデカスタブLA−32を2.5g、滑剤である花王株式会社製カルコール8098を10g添加したものを同反応器に追加投入し、引き続き約80℃を保って懸濁重合を行った。
重合体(II)の原料を投入してから105分後に、発熱ピークが観測された。
発熱ピークの確認後、92℃まで1℃/minの速度で昇温させ、92℃で60分間温度を保持した。
続いて50℃まで冷却した後、20質量%硫酸を投入して懸濁剤を溶解させた。
次いでその重合反応溶液を60L反応器から取り出し、篩目開き1.68mmの篩にかけて巨大凝集物を除去した後、ブフナー漏斗にて水層と固形物とを分離し、ビーズ状ポリマーを得た。
そのビーズ状ポリマーをブフナー漏斗上で、5回、約20Lの蒸留水で洗浄した後、スチームオーブンで乾燥処理を行い、樹脂1に相当するポリマー微粒子を得た。
<造粒>
前記得られたポリマー微粒子を、吐出量9.8kg/hr.、減圧度0.05MPa、バレル温度240℃に設定したφ30mmのベント付二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却バス温度45℃にて冷却裁断して、樹脂1に相当する樹脂ペレットを得た。
<試験片>
前記樹脂1に相当する樹脂ペレットを80℃で24時間乾燥させた後、射出成形機である東芝機械(株)製EC100SXを用いて、
図2に示すような形状のL/t>100、t<4.0(mm)を満たし、かつ、他材料との接合部を有する試験片を以下記載の条件に従って製造した。
射出条件
成形温度:250℃
金型温度:60℃
最大射出圧力:120MPa
射出速度:35mm/sec
射出時間:20sec
保圧力 :60MPa
保圧時間:10sec
冷却時間:30sec
<試験>
メルトマスフローレイト測定、接合部繰り返し疲労特性の測定、スパイラル長さの測定は前記の方法に従って実施した。これらの結果を下記表4に示す。
【0061】
〔実施例2〜6、比較例1〕
実施例2〜4は下記表1の樹脂2〜4、実施例5は下記表1の樹脂6、実施例6は下記表2の樹脂7、比較例1は下記表1の樹脂5の内容にて、それぞれ実施例1と同様の方法で重合を行い、樹脂2〜7に相当するポリマー微粒子を得た。
また、実施例1と同様の方法で、造粒、試験片製造、メルトマスフローレイト測定、接合部繰り返し疲労特性の測定、スパイラル長さの測定を実施した。
これらの結果を下記表4に示す。
【0062】
〔比較例2〕
攪拌機を有する5L容器に水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、それらを混合・撹拌することで懸濁剤を調製した。
次に60Lの反応器に水26kgを投入して80℃に昇温し、懸濁重合の準備を行った。
80℃に達して恒温状態になったことを確認した後、重合原料として下記表3に記載の各原料と、前記懸濁剤を全量、60L反応器の中へ投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温し、92℃で60分間温度を保持した。
続いて50℃まで冷却した後、20質量%硫酸を投入して懸濁剤を溶解させた。
次いでその重合反応溶液を60L反応器から取り出し、篩目開き1.68mmの篩にかけて巨大凝集物を除去した後、ブフナー漏斗にて水層と固形物とを分離し、ビーズ状ポリマーを得た。
そのビーズ状ポリマーをブフナー漏斗上で、5回、約20Lの蒸留水で洗浄した後、スチームオーブンで乾燥処理を行い、樹脂8に相当するポリマー微粒子を得た。
以下、造粒、試験片製造、メルトマスフローレイト測定、接合部繰り返し疲労特性の測定、スパイラル長さの測定は、実施例1と同様に実施した。
これらの結果を下記表4に示す。
【0063】
〔比較例3、4〕
下記表3に示す原料を用いて、前記比較例2と同様の方法で重合を行い、樹脂9、10に相当するポリマー微粒子を得た。
また、造粒、試験片製造、メルトマスフローレイト測定、接合部繰り返し疲労特性の測定、スパイラル長さの測定は、実施例1と同様に実施した。
これらの結果を下記表4に示す。
表4中、*は、評価を実施しなかったことを示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
実施例1〜6においては、メルトマスフローレイトの測定値の関係式、5.0<b/a、0.3<a<15をいずれも満たしているため、成形時の流動性の指標となるスパイラル長さが26cm以上で、かつ、繰り返し疲労特性も2.0×10
5回以上を達成し、良好な流動性を有し、かつ接合部において実用上十分な疲労特性を有している薄手長物形状の成形品が得られた。
【0069】
比較例1においては、成形時に樹脂が分解して、揮発成分であるメタクリル酸エステル単量体を生じたため、射出成形品においてシルバーが発生してしまい、実用上十分な耐熱分解性を有していないことが分かった。そのため、メルトマスフローレイト、スパイラル長さ、繰り返し疲労特性の評価は行わなかった。
【0070】
実施例1〜6と比較例2とを比較すると、比較例2は、射出成形時の流動性の指標となるスパイラル長さが短く、良好な流動性を有していないことが分かった。良好な流動性を有していなかったため、繰り返し疲労特性試験に用いる試験片を製造できなかった。
【0071】
また、実施例1〜6と比較例3、4とを比較すると、比較例3、4は、流動性は良好であり繰り返し疲労特性に用いる試験片を製造できたものの、繰り返し疲労特性の値が小さく、接合部に十分な耐久性を有していないことが分かった。