特許第6233863号(P6233863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233863磁気センサおよび磁気センサの製造方法ならびに電流センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233863
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】磁気センサおよび磁気センサの製造方法ならびに電流センサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/08 20060101AFI20171113BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01L43/08 B
   H01L43/12
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-510218(P2016-510218)
(86)(22)【出願日】2015年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2015057200
(87)【国際公開番号】WO2015146593
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-69478(P2014-69478)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120204
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 巌
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】井出 洋介
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正路
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/081377(WO,A1)
【文献】 特開2004−206839(JP,A)
【文献】 特開2001−357505(JP,A)
【文献】 特表2003−536267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/08,43/12
G01R 15/20,33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の方向に感度軸を持つ磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は、固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性材料層を介して積層された積層構造を備え、
前記フリー磁性層における前記非磁性材料層に対向する側と反対側には、前記フリー磁性層との間で交換結合バイアスを生じさせ前記フリー磁性層の磁化方向を磁化変動可能な状態で所定方向に揃えることができる反強磁性層が設けられ、
前記反強磁性層における前記フリー磁性層に対向する側と反対側には、強磁性層が設けられており、前記強磁性層は、前記反強磁性層との間で交換結合バイアスを生じて、前記強磁性層の磁化方向が磁化変動可能な状態で所定方向に揃えられたものであり、
前記フリー磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向は、前記強磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向と等しい向きであって、
前記強磁性層は、前記フリー磁性層に対して、前記感度軸に沿った方向の成分を有する還流磁場を付与可能であること
を特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記強磁性層に生じた交換結合バイアスの大きさおよび前記強磁性層の厚さは、前記フリー磁性層の残留磁化の前記感度軸に沿った方向の成分を低減させるように設定される、請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記反強磁性層は、IrMnにより形成される、請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記固定磁性層は、第1磁性層と前記非磁性材料層に接する第2磁性層とが非磁性中間層を介して積層され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とが反平行に磁化固定されたセルフピン止め型である、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記強磁性層に生じた交換結合バイアスの大きさおよび前記強磁性層の厚さは、前記フリー磁性層の感度の高温保存時間依存性を低減させるように設定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【請求項6】
基板上に、シード層、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層、反強磁性層および強磁性層をこの順に積層する工程を備える磁気センサの製造方法であって、
積層方向に直交する第1の方向に磁場を印加しながら第1磁性層を前記シード層上に積層し、続いて非磁性中間層および第2磁性層を順次積層することにより、セルフピン止め構造を備える積層体からなる前記固定磁性層を得るピン層積層工程;
前記第2磁性層上に非磁性材料層を積層する非磁性層積層工程;および
前記第1の方向とは異なる方向である第2の磁場を印加しながら、前記非磁性材料層上に、前記フリー磁性層、前記反強磁性層および前記強磁性層を順次積層するフリー層積層工程を備えること
を特徴とする磁気センサの製造方法。
【請求項7】
前記強磁性層から前記フリー磁性層に対して、前記第1の方向に平行な方向への還流磁場が印加可能に、前記強磁性層の構造は設定される、請求項6に記載の磁気センサの製造方法。
【請求項8】
前記シード層を積層する工程から、前記強磁性層を積層する工程まで、磁場中アニール処理が行われない、請求項6または7に記載の磁気センサの製造方法。
【請求項9】
前記反強磁性層を、IrMnにより形成する請求項8に記載の磁気センサの製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載される磁気センサを備える電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサおよび磁気センサの製造方法ならびに磁気センサを備えた電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーにおけるモータ駆動技術などの分野では、比較的大きな電流が取り扱われるため、大電流を非接触で測定することが可能な電流センサが求められている。このような電流センサとしては、被測定電流からの誘導磁界を検出する磁気センサを用いたものが知られている。磁気センサ用の磁気検出素子として、例えば、GMR素子などの磁気抵抗効果素子が挙げられる。
【0003】
GMR素子は、固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性材料層を介して積層された積層構造を基本構造とする。固定磁性層は、反強磁性層と強磁性層との積層構造による交換結合バイアスや、2つの強磁性層が非磁性中間層を介して積層されるセルフピン止め構造によるRKKY相互作用(間接交換相互作用)により、磁化方向が一方向に固定されている。フリー磁性層は外部磁界に応じて磁化方向が変化可能とされている。
【0004】
GMR素子を備えた磁気センサを用いてなる電流センサでは、被測定電流からの誘導磁界がGMR素子に印加されることにより、フリー磁性層の磁化方向が変化する。このフリー磁性層の磁化方向と、固定磁性層の磁化方向との関係でGMR素子の電気抵抗値が変動するため、この電気抵抗値を測定することにより、フリー磁性層の磁化方向を検出することができる。そして、磁気センサにより検出された磁化方向に基づいて、誘導磁界を与えた被測定電流の大きさおよびその向きを求めることが可能である。
【0005】
ところで、電気自動車やハイブリッドカーにおいては、モータの駆動を電流値に基づいて制御する場合があり、また、バッテリーに流れ込む電流値に応じてバッテリーの制御方法を調整する場合がある。したがって、磁気センサを用いてなる電流センサには、電流値をより正確に検出できるように、磁気センサの測定精度を高めることが求められている。
磁気センサの測定精度を向上させるためには、オフセットの低減、出力信号のばらつきの低減、およびリニアリティ(出力線形性)の向上などを実現することが求められる。これらの要求に応えるための好ましい一手段として、磁気センサが有するGMR素子のヒステリシスを低減させることが挙げられる。GMR素子のヒステリシスを低減させる手段の具体例として、フリー磁性層にバイアス磁界を印加して、被測定電流からの誘導磁界が印加されていない状態においてもフリー磁性層の磁化方向を揃えることが挙げられる。
【0006】
フリー磁性層にバイアス磁界を印加する方法として、特許文献1には、永久磁石からなるハードバイアス層を設ける方法が開示されている。また、特許文献2には、フリー磁性層との間で交換結合バイアスを生じさせフリー磁性層の磁化方向を磁化変動可能な状態で所定方向に揃えることができる反強磁性層をフリー磁性層に積層させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/081377号
【特許文献2】特開2012−185044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特許文献2に開示される交換結合バイアスに基づくフリー磁性層の単磁区化を基礎技術としつつ、さらに磁気抵抗効果素子のヒステリシスを低減させることが可能な磁気センサおよび磁気センサの製造方法ならびに磁気センサを用いてなる電流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが検討した結果、次の新たな知見が得られた。すなわち、被測定電流からの誘導磁界などの外部磁界(本明細書において、測定対象となる外部磁界を「被測定磁界」ともいう。)が印加されていない状態において交換結合バイアスによりフリー磁性層の磁化方向を揃える方法(本明細書において、フリー磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向を、「初期磁化方向」ともいう。)において、被測定磁界の印加が終了しても初期磁化方向とは異なる方向への磁化が残留している場合(本明細書において、このフリー磁性層における残留磁化のうち初期磁化方向に直交する成分を、「残留直交成分」ともいう。)には、残留直交成分と反平行な成分を有する磁場を外部から印加することにより、残留直交成分を低減させることができる。
【0010】
上記知見を具体的に説明すれば、被測定電流からの誘導磁界などの外部磁界がフリー磁性層に印加されることにより、フリー磁性層の磁化方向は、初期磁化方向から被測定磁界の影響を受けて回転する。この磁化回転に基づく素子抵抗値の変動を測定することにより、被測定磁界の大きさおよび向きを検出することができる。ところが、被測定磁界の印加が終了しても、フリー磁性層の磁化方向は、初期磁化方向に完全には戻らず、フリー磁性層の磁化方向には、初期磁化方向に直交する成分が残留し、これが磁気抵抗効果素子のヒステリシスの一因となる。そこで、フリー磁性層の残留直交成分と反平行の磁場を外部から付与することにより、残留直交成分の大きさを低減させることができ、フリー磁性層の磁化方向を初期磁化方向に戻すことが容易になる。本明細書において、この目的でフリー磁性層に付与される磁場を「ヒステリシスキャンセル磁場」または「HC磁場」ともいう。
【0011】
HC磁場を、ハードバイアス層を用いて付与することも可能であるが、ハードバイアス層は、多くの場合には、磁気抵抗効果素子の基本的な積層構造(シード層/固定磁性層/非磁性材料層/フリー磁性層)とは異なる構造として配置されるため、ハードバイアス層とフリー磁性層との位置関係にばらつきが生じやすく、HC磁場の大きさや向きにばらつきが生じるおそれがある。
【0012】
そこでさらに検討した結果、フリー磁性層の磁化方向を揃える目的で積層された反強磁性層のフリー磁性層に対向する側と反対側に強磁性層(本明細書において、「ヒステリシスキャンセル層」または「HC層」ともいう。)を積層することにより、フリー磁性層にHC磁場を効率的に印加できるとの知見を得た。
【0013】
すなわち、被測定磁界が印加されていない状態では、HC層には、フリー磁性層と同様に反強磁性層との交換結合バイアスが生じている。そして、HC層を備える磁気抵抗効果素子に対して被測定磁界が印加されるとHC層の磁化方向も被測定磁界の影響で回転し、被測定磁界の印加が終了すると、フリー磁性層と同様に、交換結合バイアスに基づく磁化方向に対して直交する成分を有する磁化が残留する。そこで、HC層における反強磁性層との交換結合バイアスに基づく磁化方向を、フリー磁性層における初期磁化方向と等しい向きにしておくことにより、HC層の残留磁化に基づく還流磁場を、フリー磁性層の残留直交成分とは反平行の成分を有する外部磁場として、フリー磁性層に対して作用させることができる。その結果、フリー磁性層の残留直交成分は小さくなり、GMR素子のヒステリシスを低減させることが可能となる。
【0014】
また、HC層からフリー磁性層に印加される還流磁場の温度依存性は、フリー磁性層と反強磁性層との交換結合バイアスの大きさの温度依存性と基本的な傾向が等しいことから、HC層は、磁気抵抗効果素子の温度補償機構としても働き、磁気センサの測定値の温度変化に起因する変動を低減させることができる。
【0015】
かかる知見に基づき完成された本発明は次のとおりである。
(1)特定の方向に感度軸を持つ磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサであって、前記磁気抵抗効果素子は、固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性材料層を介して積層された積層構造を備え、前記フリー磁性層における前記非磁性材料層に対向する側と反対側には、前記フリー磁性層との間で交換結合バイアスを生じさせ前記フリー磁性層の磁化方向を磁化変動可能な状態で所定方向に揃えることができる反強磁性層が設けられ、前記反強磁性層における前記フリー磁性層に対向する側と反対側には、強磁性層が設けられており、前記強磁性層は、前記反強磁性層との間で交換結合バイアスを生じて、前記強磁性層の磁化方向が磁化変動可能な状態で所定方向に揃えられたものであり、前記フリー磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向は、前記強磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向と等しい向きであって、前記強磁性層は、前記フリー磁性層に対して、前記感度軸に沿った方向の成分を有する還流磁場を付与可能であることを特徴とする磁気センサ。
【0016】
(2)前記強磁性層に生じた交換結合バイアスの大きさおよび前記強磁性層の厚さは、前記フリー磁性層の残留磁化の前記感度軸に沿った方向の成分を低減させるように設定される、上記(1)記載の磁気センサ。
【0017】
(3)前記反強磁性層は、IrMnにより形成される、上記(1)または(2)に記載の磁気センサ。
【0018】
(4)前記固定磁性層は、第1磁性層と前記非磁性材料層に接する第2磁性層とが非磁性中間層を介して積層され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とが反平行に磁化固定されたセルフピン止め型である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の磁気センサ。
【0019】
(5)前記強磁性層に生じた交換結合バイアスの大きさおよび前記強磁性層の厚さは、前記フリー磁性層の感度の高温保存時間依存性を低減させるように設定される、上記(1)から(4)のいずれかに記載の磁気センサ。
【0020】
(6)基板上に、シード層、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層、反強磁性層および強磁性層をこの順に積層する工程を備える磁気センサの製造方法であって、積層方向に直交する第1の方向に磁場を印加しながら第1磁性層を前記シード層上に積層し、続いて非磁性中間層および第2磁性層を順次積層することにより、セルフピン止め構造を備える積層体からなる前記固定磁性層を得るピン層積層工程;前記第2磁性層上に非磁性材料層を積層する非磁性層積層工程;および前記第1の方向とは異なる方向である第2の磁場を印加しながら、前記非磁性材料層上に、前記フリー磁性層、前記反強磁性層および前記強磁性層を順次積層するフリー層積層工程を備えることを特徴とする磁気センサの製造方法。
【0021】
(7)前記強磁性層から前記フリー磁性層に対して、前記第1の方向に平行な方向への還流磁場が印加可能に、前記強磁性層の構造は設定される、上記(6)に記載の磁気センサの製造方法。
【0022】
(8)前記シード層を積層する工程から、前記強磁性層を積層する工程まで、磁場中アニール処理が行われない、上記(6)または(7)に記載の磁気センサの製造方法。
【0023】
(9)前記反強磁性層を、IrMnにより形成する上記(8)に記載の磁気センサの製造方法。
【0024】
(10)上記(1)から(5)のいずれかに記載される磁気センサを備える電流センサ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、磁気抵抗効果素子のヒステリシスを低減させることが可能な磁気センサが提供される。また、かかる磁気センサの製造方法およびかかる磁気センサを用いてなる電流センサも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気センサを構成する磁気抵抗効果素子の拡大平面図である。
図2図1に示すII−II線における矢視断面図である。
図3】ゼロ磁場ヒステリシスの設計ストライプ幅依存性を示すグラフである。
図4】ゼロ磁場ヒステリシスの感度依存性を示すグラフである。
図5】平均感度変化率の交換結合バイアスの大きさの変化率に対する依存性を示すグラフである。
図6】平均感度変化率の150℃加熱時間に対する依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.磁気センサ
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気センサの概念図(平面図)、図2は、図1に示すII−II線における矢視断面図である。
【0028】
本発明の一実施形態に係る磁気センサ1は、図1に示すように、ストライプ形状の磁気抵抗効果素子11を有する。磁気抵抗効果素子11は、そのストライプ長手方向D1(以下、単に「長手方向D1」もともいう。)が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターン12(ストライプ)が折り返してなる形状(ミアンダ形状)を有する。このミアンダ形状の磁気抵抗効果素子11において、感度軸方向は、長尺パターン12の長手方向D1に対して直交する方向D2(以下、単に「幅方向D2」もともいう。)である。したがって、このミアンダ形状の磁気抵抗効果素子11を備える磁気センサ1は、使用の際に、被測定磁界およびキャンセル磁界が、幅方向D2に沿うように印加される。
【0029】
互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターン12のうち、配列方向端部に位置するもの以外の長尺パターン12のそれぞれは、端部において最近位の他の帯状の長尺パターン12と導電部13により接続されている。配列方向端部に位置する長尺パターン12は、導電部13を介して接続端子14に接続されている。こうして、2つの接続端子14,14間に、複数の長尺パターン12が直列に導電部13により接続された構成を、磁気抵抗効果素子11は備える。導電部13および接続端子14は非磁性、磁性の別を問わないが、電気抵抗の低い材料から構成することが好ましい。磁気センサ1は、2つの接続端子14,14から磁気抵抗効果素子11からの信号を出力可能である。接続端子14,14から出力される磁気抵抗効果素子11からの信号は、図示しない演算部に入力され、演算部において当該信号に基づいて被測定電力が算出される。
【0030】
図2に示すように、磁気抵抗効果素子11の長尺パターン12のそれぞれは、チップ29上に、図示しない絶縁層等を介して、下から、シード層20、固定磁性層21、非磁性材料層22、フリー磁性層23、反強磁性層24、HC層25、および保護層26の順に積層されて成膜される。これらの層の成膜方法は限定されない。例えばスパッタにて成膜してもよい。
【0031】
シード層20は、NiFeCrあるいはCr等で形成される。
固定磁性層21は、第1磁性層21aと第2磁性層21cと、第1磁性層21aと第2磁性層21cと間に位置する非磁性中間層21bとのセルフピン止め構造である。
【0032】
図2に示すように、第1磁性層21aの固定磁化方向と、第2磁性層21cの固定磁化方向とは反平行となっている。そして、第2磁性層21cの固定磁化方向が、固定磁性層21における固定磁化方向、すなわち感度軸方向である。
【0033】
図2に示すように、第1磁性層21aはシード層20上に形成されており、第2磁性層21cは、後述する非磁性材料層22に接して形成されている。
【0034】
本実施形態における第1磁性層21aは、第2磁性層21cよりも高保磁力材料のFeCo合金で形成されることが好適である。
【0035】
非磁性材料層22に接する第2磁性層21cは磁気抵抗効果(具体的にはGMR効果)に寄与する層であり、第2磁性層21cには、アップスピンを持つ伝導電子とダウンスピンを持つ伝導電子の平均自由行程差を大きくできる磁性材料が選択される。
【0036】
図2に示す構成では、第1磁性層21aと第2磁性層21cとの磁化量(飽和磁化Ms・膜厚t)の差が実質的にゼロとなるように調整されている。
【0037】
本実施形態における固定磁性層21は、セルフピン止め構造であるから、反強磁性層を備えない。これにより磁気抵抗効果素子11の温度特性が反強磁性層のブロッキング温度に制約を受けない。
【0038】
固定磁性層21の磁化固定力を高めるには、第1磁性層21aの保磁力Hcを高めること、第1磁性層21aと第2磁性層21cの磁化量の差を実質的にゼロに調整すること、更に非磁性中間層21bの膜厚を調整して第1磁性層21aと第2磁性層21c間に生じるRKKY相互作用による反平行結合磁界を強めることが重要とされている。このように適宜調整することで、固定磁性層21が外部からの磁界に対して影響を受けることなく、磁化がより強固に固定される。
【0039】
非磁性材料層22は、Cu(銅)などである。また図2に示すフリー磁性層23はNiFeやCoFe等の単層構造、あるいは積層構造で構成されるが、これに限定されるものでない。保護層26を構成する材料は限定されない。Ta(タンタル)などが例示される。
【0040】
図2に示すようにフリー磁性層23の上面には反強磁性層24が形成されている。反強磁性層24はフリー磁性層23との間で磁場中でのアニール処理を行うことなく交換結合バイアス(交換結合磁界;Hex)を生じさせることができるIrMnで形成されることが好ましい。このように磁場中でのアニール処理を施すことなくフリー磁性層23との間で交換結合バイアスを生じさせることができる反強磁性層24を用いる場合には、磁場中でのアニール処理を必要とするPtMnやNiMnは使用しないことが好ましい。
【0041】
反強磁性層24の膜厚およびフリー磁性層23に生じる交換結合バイアスの大きさは、フリー磁性層23の磁化方向を被測定磁界に対して磁化変動可能な状態で揃えることができる限り、限定されない。一例を挙げれば、反強磁性層24の膜厚は、40〜80Å程度である。またフリー磁性層23に生じる交換結合バイアスの大きさは50〜300Oe(約4kA/m〜約24kA/m)程度である。図2のフリー磁性層の磁化方向Fは初期磁化方向を示しており、フリー磁性層23の磁化方向Fは固定磁性層21の固定磁化方向(第2磁性層21cの固定磁化方向)に対して直交する方向に揃えられている。
【0042】
図2では、反強磁性層24がフリー磁性層23の上面全体に成膜されているが、これに限定されず、反強磁性層24の一部に欠陥部を形成してもよい。ただし、反強磁性層24がフリー磁性層23の全面に形成されているほうが、フリー磁性層23全体を適切に一方向に単磁区化でき、ヒステリシスをより低減できるため、測定精度を向上させることができ好適である。
【0043】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子11は、反強磁性層24におけるフリー磁性層23に対向する側と反対側、すなわち、図2では反強磁性層24の上面側に、反強磁性層24との間で交換結合バイアスが生じてその磁化方向を磁化変動可能な状態で所定方向に揃えることができるHC層25が設けられている。HC層25は、反強磁性層24との間で交換結合バイアスが適切に生じうるように、強磁性材料からなる強磁性層である。
【0044】
反強磁性層24に起因してフリー磁性層23に生じた交換結合バイアスと、反強磁性層24に起因してHC層25に生じた交換結合バイアスとは磁化方向が等しくなるように、反強磁性層24およびHC層25は設定される。また、HC層25は、フリー磁性層23に対して、感度軸に沿った方向、すなわち幅方向D2の成分を有する還流磁場を付与可能である。磁気抵抗効果素子11が、図1に示されるように、互いに離間した複数の長尺パターン12を備える構成であれば、HC層25が極端に薄いなどの特段の構造を有していない限り、通常、HC層25からの還流磁場における感度軸に沿った方向の成分を、フリー磁性層23に対して付与することは容易である。以下の説明において、HC層25からの還流磁場における感度軸に沿った方向の成分を「還流直交成分」ともいう。
【0045】
HC層25の磁化方向は、フリー磁性層23と同様に、被測定電流からの誘導磁界などの被測定磁界の向きに沿うように回転するため、フリー磁性層23に付与されるHC層25からの還流直交成分は、被測定磁界の向きと反対向きとなる。したがって、被測定磁界の印加が終了して、フリー磁性層23に残留直交成分が存在している場合には、このHC層25の残留磁化に基づく還流直交成分は、フリー磁性層23の残留直交成分と反対向きになり、フリー磁性層23の残留直交成分を消去するように作用する。したがって、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子11は、ヒステリシスが低減しやすい。
【0046】
HC層25を構成する材料は強磁性材料である限り限定されない。そのような材料としてNiFeNb系の材料、NiFe系の材料、CoFe系の材料などが例示される。これらの中でも、シャントロスを少なくする観点から、HC層25はNiFeNb系の材料のような体積抵抗率が比較的高い材料を用いることが好ましい。
【0047】
HC層25は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。反強磁性層24との間で交換結合バイアスを適切に生じること、被測定磁界が印加されたときにHC層25の磁化回転が適切に生じること、フリー磁性層23の残留直交成分を低減させうる程度にHC層25からの還流直交成分が生じること、およびシャントロスを低減させることのバランスを良好にする観点から、HC層25を積層構造とし、反強磁性層24上にNiFe系の材料のような交換結合バイアスが適度に発生しやすい材料からなる比較的薄い層が反強磁性層24に接するように位置し、反強磁性層24に対して相対的に遠位な位置に、NiFeNb系の材料のような体積抵抗率が比較的高い材料からなる比較的厚い層が位置するようにすることが好ましい。
【0048】
HC層25が上記のように積層構造を有する場合には、各層の組成や厚さを調整することにより、磁気抵抗効果素子11を備えた磁気センサのリニアリティを向上させることも可能である。また、HC層25を備える磁気抵抗効果素子11をアニール処理(このアニール処理において磁場の印加は不要である。)することにより、磁気抵抗効果素子11を備えた磁気センサのリニアリティを向上させることができる場合もある。
【0049】
HC層25は、次に説明するように、磁気抵抗効果素子11の温度補償機構としても機能しうる。反強磁性層24がフリー磁性層23やHC層25との間で生じさせる交換結合バイアスは、様々な要因(組成のばらつき、接合界面の不整合、相互拡散など)により、その大きさに高温保存時間依存性を有し、基本的な傾向として、高温環境での保存時間が長くなると、交換結合バイアスは大きくなる。
【0050】
このため、HC層25を有しない磁気抵抗効果素子では、測定環境温度の高い状態が長く続いた後にフリー磁性層に生じた交換結合バイアスが大きくなると、磁気抵抗効果素子に外部磁場が印加された際に、フリー磁性層の磁化回転角度は小さくなって、見かけ上、印加された磁場が低下したように測定される。したがって、この磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサが電流センサとして用いられる場合には、高温環境下での保存時間が長くなることにより検出電流が低下してしまうことになる。これに対し、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子11のようにHC層25を有する場合には、HC層25において生じる交換結合バイアスも、フリー磁性層23に生じる交換結合バイアスと基本的な傾向が共通する高温保存時間依存性を有するため、HC層25からの還流磁場は、高温環境下での保存時間が短いほど大きく、高温環境下での保存時間が長いほど高いほど小さくなる。
【0051】
つまり、フリー磁性層23の磁化回転角度が比較的大きくなる高温環境下での保存時間が短い場合には、磁化回転角度を低下させるように作用するHC層25からの還流直交成分が比較的大きく、フリー磁性層23の磁化回転角度が比較的小さくなる高温環境下での保存時間が長い場合には、磁化回転角度を低下させるように作用するHC層25からの還流直交成分が比較的小さくなる。このため、高温環境下での保存時間の変化に基づくフリー磁性層23の磁化回転の変化は生じにくくなり、高温環境下での保存時間に起因する測定値の変動が生じにくくなる。このようなHC層25による温度補償機構を適切に機能させるためには、HC層25の構成(組成、厚さなど)を適切に設定すればよい。
【0052】
なお、図2では、HC層25が反強磁性層24の上面全体に成膜されているが、これに限定されず、HC層25の一部に欠陥部を形成してもよい。ただし、HC層25が反強磁性層24の全面に形成されているほうが、フリー磁性層23の残留直交成分を適切に低減させることができ、測定精度を向上させることができ好適である。
【0053】
2.磁気センサの製造方法
本発明の一実施形態に係る磁気センサの製造方法は限定されない。次に説明する方法によれば、本実施形態に係る磁気センサを効率的に製造することが可能である。
【0054】
基板29上に、図2では図示しない絶縁層を介してシード層20を成膜し、その上に、セルフピン止め構造を有する固定磁性層21を積層する。具体的には、図2に示されるような、第1磁性層21a、非磁性中間層21bおよび第2磁性層21cを順次積層する。各層の成膜手段は限定されない。スパッタが例示される。第1磁性層21aを成膜する際に磁場を印加しながら行うことにより、第1磁性層21aを図1における幅方向D2に沿うように磁化させれば、RKKY相互作用により第2磁性層21cを第1磁性層21aの磁化方向と反平行な向きに強く磁化することが可能である。こうして磁化された第2磁性層21cは、その後の製造過程において自らの磁化方向と異なる向きの磁場が印加されても、その影響を受けずに幅方向D2に磁化された状態を維持することが可能である。
【0055】
次に、固定磁性層21上に非磁性材料層22を積層する。非磁性材料層22の積層方法は限定されず、スパッタが具体例として挙げられる。
【0056】
続いて、非磁性材料層22上に、長手方向D1に沿った方向の磁場を印加しながら、フリー磁性層23、反強磁性層24およびHC層25を順次積層する。これらの層の積層方法は限定されず、スパッタが具体例として挙げられる。このように磁場中成膜を行うことにより、フリー磁性層23の磁化方向に沿った方向に反強磁性層24との間で交換結合バイアスが生じ、フリー磁性層23の磁化方向と等しい向きに磁化されたHC層25において、その磁化方向に沿った方向に反強磁性層24との間で交換結合バイアスが生じる。それゆえ、成膜が終了して磁場の印加も終了しても、反強磁性層24との間で生じた交換結合バイアスにより、フリー磁性層23とHC層25とは長手方向D1の等しい向きに磁化方向が揃った状態を維持することができる。なお、これらの層の成膜中には、固定磁場層21に対しても磁場が印加されるが、固定磁場層21はRKKY相互作用に基づくピン止め構造を有するため、この印加された磁場によっては磁化方向が変動することはない。
【0057】
ここで、反強磁性層24を構成する材料としてIrMn系の材料を用いた場合には、特段の加熱処理を伴わない磁場中成膜により反強磁性層24の磁化方向を揃えることが可能である。したがって、磁気抵抗効果素子11を製造するプロセス全体を通じて磁場中アニール処理を行わないプロセスとすることが可能である。磁気抵抗効果素子11の製造プロセスを上記のように磁場中アニールフリープロセスとすることにより、同一の基板上に異なる感度軸(磁化方向が反対向きの場合を含む。)を有する磁気抵抗効果素子11を容易に製造することが可能となる。磁気抵抗効果素子11の製造プロセスが磁場中アニール処理を必要とする場合には、磁場中アニール処理を複数回行うと、先に行った磁場中アニール処理の効果が薄れ、磁化方向を適切に設定することが困難となるおそれがある。
【0058】
こうして、磁場中成膜によりフリー磁性層23、反強磁性層24およびHC層25を積層したら、最後に、保護層26を積層する。保護層26の積層方法は限定されず、スパッタが具体例として挙げられる。
【0059】
以上の成膜工程により得られた積層構造体に対して除去加工(ミリング)を行い、複数の長尺パターン12が幅方向D2に沿って配列された状態とする。これらの複数の長尺パターン12を接続する導電部13および導電部13に接続する接続端子14を形成して、図1に示されるミアンダ形状を有する磁気抵抗効果素子11を得る。
【0060】
3.電流センサ
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサは、電流センサとして好適に使用されうる。かかる電流センサは、磁気抵抗効果素子を1つ備える構成でもよいが、特許文献1や特許文献2に記載されるように、4つの素子を用い、ブリッジ回路を組んで測定精度を高めることが好ましい。本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法は、好ましい一例において磁場中アニール処理を備えないため、複数の磁気抵抗効果素子を同一基板上に製造することが容易である。
【0061】
本発明の一実施形態に係る電流センサの具体例として、磁気比例式電流センサおよび磁気平衡式電流センサが挙げられる。
磁気比例式電流センサは、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子(固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性材料層を介して積層された積層構造を備える磁気抵抗効果素子であって、フリー磁性層における非磁性材料層に対向する側と反対側には、フリー磁性層との間で交換結合バイアスを生じさせフリー磁性層の磁化方向を磁化変動可能な状態で所定方向に揃えることができる反強磁性層が設けられ、反強磁性層におけるフリー磁性層に対向する側と反対側には、反強磁性層との間で交換結合バイアスが生じてその磁化方向を磁化変動可能な状態で所定方向に揃えることができる強磁性層が設けられており、フリー磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向は、強磁性層に生じた交換結合バイアスに基づく磁化方向と等しい向きであって、強磁性層は、フリー磁性層に対して、感度軸に沿った方向の成分を有する還流磁場を付与可能である、磁気抵抗効果素子。)を少なくとも1つ含んで構成され、被測定電流からの誘導磁界に応じた電圧差を生じる2つの出力を備える磁界検出ブリッジ回路を有する。そして、磁気比例式電流センサでは、誘導磁界に応じて磁界検出ブリッジ回路から出力される電位差により、被測定電流が測定される。
【0062】
磁気平衡式電流センサは、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子を少なくとも1つ含んで構成され、被測定電流からの誘導磁界に応じた電圧差を生じる2つの出力を備える磁界検出ブリッジ回路と、磁気抵抗効果素子の近傍に配置され、誘導磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイルと、を具備する。そして、磁気平衡式電流センサでは、電圧差によりフィードバックコイルに通電して誘導磁界とキャンセル磁界とが相殺される平衡状態となったときのフィードバックコイルに流れる電流に基づいて、被測定電流が測定される。
【0063】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
例えば、フリー磁性層23の磁化制御として磁場中でのアニール処理を必要としない反強磁性層24とともに従来におけるハードバイアス層を補助的に用いてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
絶縁膜を有する基板上に、下からシード層20:NiFeCr(42)/固定磁性層21[第1磁性層21a;Fe60Co40(19)/非磁性中間層21b;Ru(3.6)/第2磁性層21c;Co90Fe10(24)]/非磁性材料層22;Cu(22)/フリー磁性層23[Co90Fe10(10)/Ni81Fe19(90)/Co90Fe10(10)]/反強磁性層24;Ir22Mn78(60)/HC層25[Ni81Fe19(10)/Ni82Fe13Nb(100)]/保護層26;Ta(100)の順に積層して積層体1を得た。括弧内の数値は膜厚を示し単位はÅである。
【0065】
固定磁性層21を成膜するときの磁場印加磁石の磁場方向と、フリー磁性層23、反強磁性層24およびHC層25を成膜するときの磁場印加磁石の磁場方向とを90°変えて、各層を磁場中成膜した。
【0066】
得られた積層体1をミリングして複数の長尺パターンがストライプ状に配置された構造体を得た。これらの複数の長尺パターンの端部に導電部を形成し、さらに導電部に接続するように接続端子を形成して、ミアンダ形状を有する磁気抵抗効果素子を形成した。
【0067】
HC層25を成膜しなかったこと以外は積層体1の製造方法と同様の製造方法により積層体2を製造した。この積層体2からHC層を有しない磁気抵抗効果素子を製造した。
【0068】
上記の積層体1および2のミリング条件を変更することにより、設計ストライプ幅が異なる複数の磁気抵抗効果素子を作製した。これらの磁気抵抗効果素子について、±500Oe(±約8kA/m)の外部磁界を印加して、ゼロ磁場ヒステリシス(単位:フルスケールに対する百分率)を測定した。
その結果、図3に示すような結果が得られた。HC層を導入することにより、設計ストライプ幅を細くすることなく、磁気抵抗効果素子のゼロ磁場ヒステリシスを低減させることができることが確認された。
【0069】
また、図3において、設計ストライプ幅を変化させることによって調整可能な感度(単位:mV/mT)を横軸にしてプロットしなおすと、図4に示されるような結果が得られた。
【0070】
HC層を有しない磁気抵抗効果素子(構造体2に基づく。)に対して150℃で加熱し、一定時間保存する処理を行った。処理後の磁気抵抗効果素子について、150℃加熱処理前の値を基準とする、平均感度変化率(縦軸)および交換結合バイアスの大きさの変化率(横軸)の関係をグラフ化した。その結果を図5に示す。なお、各プロットは、左から熱処理前、100時間、200時間、500時間、700時間、1000時間保存したものである。図5に示されるように、高温での保存時間が長くなると交換結合バイアスの大きさの変化率は次第に大きくなり、平均感度変化率は低下することが確認された。これにより、フリー磁性層23の交換結合バイアスの大きさと、HC層25の交換結合バイアスの大きさとは、高温保存により同じように変化すること、および高温保存の有無や時間によらず、HC層25からの還流磁場によって、適切にヒステリシスを低減できることが分かる。
【0071】
構造体1および2に基づく磁気抵抗効果素子に対して150℃で加熱する処理を行った。処理後の磁気抵抗効果素子について、150℃加熱処理前の値を基準とする、平均感度変化率の高温保存時間依存性を測定した。その結果を図6に示す。図6に示されるように、HC層を導入することにより、磁気抵抗効果素子が高温保存されたことに起因する感度変化を低減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサは、電気自動車はハイブリッドカーなどの電流センサの構成要素として好適に使用されうる。
【符号の説明】
【0073】
1 磁気センサ
11 磁気抵抗効果素子
12 長尺パターン
21 固定磁性層
21a 第1磁性層
21b 非磁性中間層
21c 第2磁性層
22 非磁性材料層
23 フリー磁性層
24 反強磁性層
25 HC層
29 チップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6