(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本発明に至った経緯]
本発明に至った経緯について、
図22を用い説明する。
【0020】
先ず、本発明者等は、有機発光デバイスを作製した場合に、サブピクセルの中央部とバンクの内縁に近い端部との間で発光輝度にムラが生じる場合があることを見出した。そして、その原因について、次のような現象が生じていると考えた。
【0021】
図22(a)に示すように、層間絶縁膜924の一部に孔924aを開口した場合、層間絶縁膜924のZ軸方向上面には、上凸状の隆起部が残る(矢印E
1部)。隆起部が発生する詳細なメカニズムは解明されていないが、層間絶縁膜924における孔924aの形成時の露光などに起因するものであると推定される。
【0022】
次に、
図22(b)に示すように、層間絶縁膜924の表面を覆うようにアノード925を敷設する。層間絶縁膜924の孔924aの内壁面にもアノード925が形成され、これによりコンタクトホールCHを介してアノード924とTFT902のドレインとが接続される。そして、下地膜表面であるアノード925の表面に対して、コンタクトホールCHを覆うように隔壁927を形成した後、例えば、塗布法により有機材料を含むインクを塗布し、乾燥させることによりホール注入層926を形成するが、
図22(b)の矢印E
2部に示すように、隆起部の斜面部におけるアノード925の一部が、ホール注入層926で覆われず露出してしまうということが生じ得る。このようにアノード925の一部がホール注入層926で覆われない場合には、その上に発光層が積層されても正常に発光しなくなり、発光性能の低下をもたらすこととなる。
【0023】
また、上記のように、有機膜における膜厚の設計値によっては、有機膜を形成できない箇所が生じてしまう場合には、インク塗布の際のマージン確保が困難となることも考えられる。この場合には、製造上の制約から設計値を決めざるを得ない場合も生じ得る。
【0024】
このように、本発明者等は、隔壁のサイズおよび内縁の位置が高い膜厚均一性を有する有機膜を形成する上で重要なファクターであることを見出した。なお、
図22では、塗布法を用いて有機膜を形成する方法を一例としたが、蒸着法を用いて有機膜を形成する場合においても、隆起部の存在に起因して有機膜の膜厚均一性が損なわれ、輝度集中を生じて寿命低下をもたらすことがある。
【0025】
[本発明の態様]
本発明の態様は、上記のような経緯を踏まえて創出されたものである。
【0026】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、少なくとも下地膜と隔壁と有機膜とを備える。
【0027】
下地膜は、基板上に設けられている。隔壁は、下地膜表面の一部を覆い、下地膜表面の残りの部分を囲繞するように設けられている。有機膜は、有機材料を含み構成され、隔壁の囲繞により構成される凹部内に形成され、下地膜表面および隔壁表面の各一部に接触している。
【0028】
そして、本発明の一態様に係る有機発光デバイスでは、下地膜表面の一部が、下地膜のそれ以外の表面よりも上方に隆起して形成され、隆起部が頂面部とその周囲に広がる斜面部とからなる。また、隔壁は、下地膜表面における隆起部の頂面部と斜面部の一部とを少なくとも覆い、その内縁が、下地膜表面に対し、隆起部の斜面部もしくは隆起部以外の平坦部分の箇所で接触していることを特徴とする。
【0029】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスでは、上記のような構成を有することにより、局所的に膜厚の薄い箇所や膜が形成されない箇所などを生じることなく、膜厚均一性が高い有機膜を備えることができる。
【0030】
従って、本発明の一態様に係る有機発光デバイスでは、隔壁の囲繞により構成された凹部内へ高い膜厚精度を以って有機膜を形成することができ、優れた発光性能を有する。
【0031】
なお、塗布法を用い有機膜を形成する場合には、隔壁の内縁の位置が下地膜表面に対して隆起部の斜面部の一部および平坦部分の何れとしても、下地膜が有機膜で覆われず、所謂、未濡れとなることを防止することができる。よって、塗布法を用い有機膜を形成する場合には、輝度ムラの防止を図ることができ、優れた発光性能を得ることができる。
【0032】
一方、蒸着法を用い有機膜を形成する場合には、特に、隔壁の内縁の位置を平坦部分とするとき、膜厚の均一性を高く維持することができ、輝度ムラのない優れた発光性能を得ることができる。
【0033】
また、本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、上記構成において、有機膜は、有機材料を含むインクの塗布により形成された塗布膜を乾燥することにより形成されており、下地膜表面における平坦部分の上における有機膜の平均膜厚をa2[nm]とし、下地膜表面における平坦部分を基準とする、下地膜表面と隔壁の内縁とが接触する箇所の高さをb[nm]とするとき、次の関係を満足する。
【0034】
[数1] (b/a2)≦15
上記[数1]の関係を満たすように隔壁および有機膜を構成することにより、隔壁の囲繞により構成される凹部の開口率を高く維持しながら、下地膜表面における隆起部の斜面部での有機膜の未形成領域が発生することを効果的に防止することができる。よって、本発明の一態様に係る有機発光デバイスでは、さらに優れた発光性能を有する。
【0035】
また、本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、上記構成において、有機膜が、有機材料を含むインクの塗布により形成された塗布膜を乾燥することにより形成されており、塗布膜が、下地膜表面における平坦部分の全体と、隆起部における斜面部のうち隔壁により覆われていない部分と、隔壁の一部とを覆い、且つ、その膜厚a1[nm]が、下地膜表面における平坦部分を基準とする、隔壁の内縁の高さb[nm]よりも厚く形成され、下地膜表面における平坦部分の上における有機膜の平均膜厚をa2[nm]とするとき、上記[数1]の関係を満足する。
【0036】
上記のように、塗布膜の高さと隔壁の内縁の高さbとの関係を更に規定することにより、隔壁の囲繞により構成される凹部の開口率を高く維持しながら、下地膜表面における隆起部の斜面部での有機膜の未形成領域が発生することを効果的に防止することができる。よって、本発明の一態様に係る有機発光デバイスでは、さらに優れた発光性能を有する。
【0037】
また、本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、上記構成において、下地膜表面における平坦部分を基準とする、隔壁の内縁高さが150[nm]以下であることを特徴とする。このように隔壁の内縁の高さを150[nm]以下とすることにより、下地膜表面における隆起部の斜面部での有機膜の未形成領域が発生することを確実に防止することができる。よって、本発明の一態様に係る有機発光デバイスでは、さらに優れた発光性能を有する。
【0038】
また、本発明の一態様に係る有機発光デバイスは、上記構成において、下地膜は、コンタクトホール部が開設された層間絶縁膜と、コンタクトホール部の内壁面を含む層間絶縁膜の表面に設けられた電極とを含み、有機膜は、電極表面に対し、有機材料を含むインクの塗布により形成された塗布膜をすることにより形成されており、層間絶縁膜は、コンタクトホール部が開設された部分およびその周囲表面が、当該部分以外の表面よりも上方に隆起しており、電極は、層間絶縁膜の表面に沿って形成されており、層間絶縁膜における隆起部上の部分での表面が、当該部分以外の表面よりも上方に隆起しており、電極表面が、下地膜表面であることを特徴とする。
【0039】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法は、(i)下地膜を形成する工程、(ii)隔壁を形成する工程、(iii)塗布膜を形成する工程、(iv)有機膜を形成する工程とを有する。
【0040】
(i)下地膜を形成する工程;基板上に、下地膜を形成する。
【0041】
(ii)隔壁を形成する工程;下地膜上に、当該下地膜表面の一部を覆い、下地膜表面の残りの部分を囲繞するように隔壁を形成する。
【0042】
(iii)塗布膜を形成する工程;隔壁の囲繞により構成される凹部内に対し、有機材料を含むインクを塗布して塗布膜を形成する。
【0043】
(iv)有機膜を形成する工程;塗布膜を乾燥させて、下地膜表面および隔壁表面の各一部に接触する有機膜を形成する。
【0044】
そして、本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法では、(i)下地膜を形成する工程において、表面に一部が、それ以外の表面よりも上方に隆起し、当該隆起部が、頂面部とその周囲に広がる斜面部とからなる下地膜を形成し、(ii)隔壁を形成する工程において、下地膜表面における隆起部の頂面部と斜面部の一部とを少なくとも覆い、その内縁が、下地膜表面に対し、隆起部の斜面部もしくは隆起部以外の平坦部分の箇所で接触するように、隔壁を形成することを特徴とする。
【0045】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法では、上記のような方法を有することにより、局所的に膜厚の薄い箇所や膜が形成されない箇所などを生じることなく、膜厚均一性が高い有機膜を備える有機発光デバイスを製造することができる。
【0046】
従って、本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法では、隔壁の囲繞により構成された凹部内へ高い膜厚精度を以って有機膜を形成することができ、優れた発光性能を有する有機発光デバイスを製造することができる。
【0047】
なお、塗布法を用い有機膜を形成する場合には、隔壁の内縁の位置が下地膜表面に対して隆起部の斜面部の一部および平坦部分の何れとしても、下地膜が有機膜で覆われず、所謂、未濡れとなることを防止することができる。よって、塗布法を用い有機膜を形成する場合には、輝度ムラの防止を図ることができ、優れた発光性能を有する有機発光デバイスを製造することができる。
【0048】
一方、蒸着法を用い有機膜を形成する場合には、特に、隔壁の内縁の位置を平坦部分とするとき、膜厚の均一性を高く維持することができ、輝度ムラのない優れた発光性能を有する有機発光デバイスを製造することができる。
【0049】
本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法は、(i)下地膜を形成する工程、(ii)隔壁を形成する工程、(iii)塗布膜を形成する工程、(iv)有機膜を形成する工程とを有する。
【0050】
(i)下地膜を形成する工程;基板上に、下地膜を形成する。
【0051】
(ii)隔壁を形成する工程;下地膜上に、当該下地膜表面の一部を覆い、下地膜表面の残りの部分を囲繞するように隔壁を形成する。
【0052】
(iii)塗布膜を形成する工程;隔壁の囲繞により構成される凹部内に対し、有機材料を含むインクを塗布して塗布膜を形成する。
【0053】
(iv)有機膜を形成する工程;塗布膜を乾燥させて、下地膜表面および隔壁表面の各一部に接触する有機膜を形成する。
【0054】
そして、本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法では、(i)下地膜を形成する工程において、表面の一部が、それ以外の表面よりも上方に隆起し、当該隆起部が、頂面部とその周囲に広がる斜面部とからなる下地膜を形成し、(ii)隔壁を形成する工程において、下地膜表面における隆起部の頂面部と斜面部の一部とを少なくとも覆い、その内縁が、下地膜表面に対し、隆起部の斜面部もしくは隆起部以外の平坦部分の箇所で接触するように、隔壁を形成する。また、塗布膜を形成する工程では、塗布膜を、下地膜表面における平坦部分の全体と、隆起部における斜面部のうち隔壁により覆われていない部分と、隔壁の一部とを覆い、且つ、その膜厚a1[nm]が、下地膜表面における平坦部分を基準とする、隔壁の内縁の高さb[nm]よりも厚くなるように前記塗布膜を形成する。
【0055】
さらに、(iv)有機膜を形成する工程では、下地膜表面における平坦部分の上における有機膜の平均膜厚をa2[nm]とするとき、有機膜の平均膜厚a2が次の関係を満足するように、有機膜を形成することを特徴とする。
【0056】
[数2] a1>a2≧(b/15)
上記のように、塗布膜の膜厚a1、有機膜の平均膜厚a2、および隔壁の内縁の高さbについて、[数2]に関係を満たすようにすれば、隔壁の囲繞により構成される凹部の開口率を高く維持しながら、下地膜表面における隆起部の斜面部での有機膜の未形成領域が発生することを効果的に防止することができる。よって、本発明の一態様に係る有機発光デバイスの製造方法では、さらに優れた発光性能を有する有機発光デバイスを製造することが可能となる。
【0057】
以下では、具体例を用い、本発明に係る態様の特徴、および作用・効果について説明する。なお、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以下の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。
【0058】
[実施の形態1]
1.有機EL表示装置1の構成
本発明の実施の形態1に係る有機EL表示装置1の構成について、
図1を用い説明する。
【0059】
図1に示すように、有機EL表示装置1は、有機発光デバイスの一例としての有機ELパネル10と、これに接続された駆動・制御部20とを有し構成されている。
【0060】
有機ELパネル10は、有機材料の電界発光現象を利用したパネルであり、複数の有機EL素子が、例えば、マトリクス状に配列され構成されている。駆動・制御部20は、4つの駆動回路21〜24と制御回路25とから構成されている。
【0061】
なお、本実施の形態に係る有機EL表示装置1では、有機ELパネル10に対する駆動・制御部20の配置については、これに限られない。
【0062】
2.有機ELパネル10の構成
有機ELパネル10の構成について、
図2および
図3を用い説明する。
図2は、有機ELパネル10におけるピクセル11の配列を示す模式平面図であり、
図3は、
図2のA−A’断面を示す模式断面図である。
【0063】
図2に示すように、有機ELパネル10では、発光色が赤色(R)のサブピクセル11aと、発光色が緑色(G)のサブピクセル11bと、発光色が青色(B)のサブピクセル11cとの組み合わせを以って一のピクセル11を構成している。有機ELパネル10においては、X−Y平面において、ピクセル11がマトリクス配置され、X軸方向における隣接ピクセル11間に、カソードと接続されるバスバー12が配設されている。
【0064】
また、有機ELパネル10では、隣接するサブピクセル11a,11b,11c間を区画する隔壁107に下方において、Y軸方向における隣接サブピクセル11a,11b,11c間にコンタクトホールCHが開設されている。コンタクトホールCHは、アノードとTFTのドレインとの接続経路となっている。
【0065】
次に、
図3に示すように、本実施の形態1に係る有機ELパネル10では、基板101のZ軸方向上側主面にTFT(Thin Film Transistor)102が形成され(
図3では、TFTのドレインのみ図示。)、その上がパッシベーション膜103および層間絶縁膜104により順に覆われている。なお、パッシベーション膜103および層間絶縁膜104については、上記のように、TFT102におけるドレインの上の部分が開口されている(コンタクトホールCH)。また、層間絶縁膜104におけるコンタクトホールCHが形成された箇所およびその周辺領域は、その他の領域に比べてZ軸方向上向きに隆起している。層間絶縁膜104の隆起部は、コンタクトホールCHが開設された領域が頂面部となっており、その周囲が斜面部となっている。
【0066】
有機ELパネル10においては、層間絶縁膜104の上にサブピクセル11a,11b,11c(
図2を参照)単位でアノード105が形成されており、アノード105は、コンタクトホールCHの底でTFT102のドレインと接合されている。アノード105上には、複数のサブピクセル11a,11b,11cに跨る状態で、ホール注入層106が形成されている。
【0067】
なお、ホール注入層106については、隣り合うアノード105間に跨らず、サブピクセル11a,11b,11c単位で形成された形態とすることも可能である。
【0068】
ここで、アノード105およびホール注入層106は、ともに層間絶縁膜104の表面に沿って形成されており、層間絶縁膜104の隆起部においては、当該形状に沿ってホール注入層106の表面も隆起した状態となっている。換言すると、基板101上におけるTFT102、パッシベーション膜103、層間絶縁膜104、アノード105、ホール注入層106を纏めて下地層100と呼ぶとき、下地層100における表面は、層間絶縁膜104のコンタクトホールCHに相当する部分が他の部分に比べて隆起した状態となっている。
【0069】
続いて、
図3に示すように、ホール注入層106上には、隣接するサブピクセル11a,11b,11c間を区画する隔壁107が突設されている。本実施の形態に係る有機ELパネル10では、隔壁107は、下地層100における隆起部のうち、コンタクトホールCHが開設された頂面部とその周囲の斜面部の一部とを覆うように形成されている。
【0070】
なお、隔壁107は、コンタクトホールCH内部にも侵入した状態で形成されており、少なくとも表面には撥液性が付与されている。
【0071】
隔壁107の囲繞により構成される各凹部内には、有機膜であるホール輸送層108、発光層109が順に形成されている。後述するが、ホール輸送層108および発光層109の形成には、例えば、インクジェット法等の塗布法が用いられる。発光層109上および隔壁107上には、複数のサブピクセル11a,11b,11cに連続する状態で、電子注入層110、カソード111、封止層112が順に積層形成されている。
【0072】
封止層112の上には、基板113にカラーフィルタ114およびブラックマトリクス115が形成されてなるCF(Color Filter)基板116が配され、間の接合樹脂層117により互いに接合されている。
【0073】
各構成要素の形成に用いる材料は、例えば、次のようなものとすることができる。
【0074】
(i) 基板101
基板101は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料をベースとして形成されている。
【0075】
(ii) 層間絶縁膜104
層間絶縁膜104は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、アクリル系樹脂材料などの有機化合物を用い形成されている。
【0076】
(iii) アノード105
アノード105は、アルミニウム(Al)若しくは銀(Ag)、またはそれらを含む合金から構成されている。トップエミッション型の本実施の形態に係る表示パネル10の場合には、その表面部が高い光反射性を有することが好ましい。本実施の形態では、一例として、アルミニウム(Al)の合金を用いアノード105が構成されている。
【0077】
(iv) ホール注入層106
ホール注入層106は、タングステン(W)またはモリブデン(Mo)またはニッケル(Ni)の酸化物からなる層である。上記のように、金属の酸化物からなるホール注入層106を採用する本実施の形態に係る有機ELパネル10では、ホールを安定的に生成し、またはホールの生成を補助して、発光層109に対しホールを注入する機能を有し、大きな仕事関数を有する。
【0078】
ここで、上記のように、ホール注入層106を遷移金属の酸化物から構成する本実施の形態の場合には、複数の酸化数をとるためこれにより複数の準位をとることができ、その結果、ホール注入が容易になり駆動電圧を低減することができる。特に、酸化タングステン(WOx)を用いることが、ホールを安定的に注入し、且つ、ホールの生成を補助するという機能を有するという観点から望ましい。
【0079】
(v) 隔壁107
隔壁107は、樹脂等の有機材料を用い形成されており絶縁性を有する。隔壁107の形成に用いる有機材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等があげられる。隔壁107は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。
【0080】
さらに、隔壁107は、製造工程中において、エッチング処理、ベーク処理など施されることがあるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。また、撥液性をもたせるために、形成材料に撥液性の成分を含ませたり、あるいは、表面をフッ素処理したりすることもできる。
【0081】
なお、隔壁107を親液性の材料を用い形成した場合には、隔壁107の表面と発光層109の表面との親液性/撥液性の差異が小さくなり、発光層109を形成するために有機物質を含んだインクを、隔壁107の囲繞により構成される凹部内に選択的に保持させることが困難となってしまうためである。
【0082】
さらに、隔壁107の構造については、
図3に示すような一層構造だけでなく、二層以上の多層構造を採用することもできる。この場合には、層毎に上記材料を組み合わせることもできるし、層毎に無機材料と有機材料とを用いることもできる。
【0083】
(vi) ホール輸送層108
ホール輸送層108は、親水基を備えない高分子化合物を用い形成されている。例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物であって、親水基を備えないものなどを用いることができる。
【0084】
(vii) 発光層109
発光層109は、上述のように、ホールと電子とが注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。発光層109の形成に用いる材料は、湿式印刷法を用い製膜できる発光性の有機材料を用いることが必要である。
【0085】
具体的には、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0086】
(viii) 電子注入層110
電子注入層110は、カソード111から注入された電子を発光層109へ注入・輸送する機能を有し、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などを用い形成されている。
【0087】
なお、電子注入層110として、バリウム(Ba)などのアルカリ金属を用い、蒸着法等のドライプロセスを用いて成膜した層を採用することも可能である。
【0088】
(ix) カソード111
カソード111は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)若しくはIZO(Indium Zinc Oxide)などを用い形成される。本実施の形態のように、トップエミッション型の有機ELパネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが好ましい。光透過性については、透過率が80[%]以上とすることが好ましい。
【0089】
(x) 封止層112
封止層112は、発光層109などの有機膜が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)などの材料を用い形成される。また、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0090】
封止層112は、トップエミッション型である本実施の形態に係る有機ELパネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
【0091】
3.隔壁107とホール輸送層108
隔壁107の内縁位置とホール輸送層108の形成形態との関係について、
図4を用い説明する。
【0092】
図4に示すように、下地膜100の表面であるホール注入層106の表面は、上述のように、層間絶縁膜104のコンタクトホールCH(
図3などを参照。)に対応して隆起した隆起部が構成されている。そして、本実施の形態に係る有機ELパネル10では、隔壁107の内縁P
1が、下地膜100における隆起部の斜面部100aの途中部分に配置されている。即ち、有機ELパネル10では、隔壁107の内縁P
1が、下地膜100表面における斜面部100aの両側の境界P
11,P
12の間の部分に規定されている。
【0093】
次に、ホール輸送層108は、ホール注入層106表面の隔壁107で覆われていない表面と、隔壁107の斜面部107aの一部とに接するように形成されている。換言すると、ホール輸送層108の表面108aは、隔壁107の斜面部107aの途中部分に接点P
2を有し、一部領域108bが隔壁107の斜面部107aに接している。
【0094】
4.有機ELパネル10の製造方法
有機ELパネル10の製造方法について、
図5から
図8を用い説明する。
【0095】
先ず、
図5(a)に示すように、基板101を準備する。次に、
図5(b)に示すように、基板101のZ軸方向上側主面にTFT102を形成し(
図5(b)などでは、TFT102のドレインのみを図示。)、TFT102を含む基板101の表面全体をパッシベーション膜1030で被覆する。
【0096】
次に、
図5(c)に示すように、パッシベーション膜1030を覆うように、層間絶縁膜1040を積層形成する。そして、
図5(d)に示すように、層間絶縁膜1040におけるTFT102のドレイン上の各箇所に孔をあけ、さらに、その底におけるパッシベーション膜1030も開口する。これにより、層間絶縁膜104およびパッシベーション膜103の孔104a,103aを通してTFT102のドレインが底部に露出する。
【0097】
ここで、層間絶縁膜104の孔104aを開口した後においては、
図5(d)に示すように、孔104aの周囲が、他の領域に比べてZ軸方向上側に隆起する。即ち、層間絶縁膜104の表面は、隆起部104bと平坦部104cとを有し構成される。さらに、隆起部104bは、孔104aの周囲部分に拡がる頂面部と、さらにその周囲に広がる斜面部104b
1とからなる。
【0098】
次に、
図6(a)に示すように、層間絶縁膜104の表面に沿ってアノード105およびホール注入層106を順に成膜する。アノード105およびホール注入層106については、層間絶縁膜104の孔104aの内壁面にも形成され、底においてTFT102のドレインに対し接続される。これより、コンタクトホールCHを介して、TFT102のドレインとアノード105とが接続されることになる。
【0099】
上記において、アノード105の形成は、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などを用い金属膜(Al合金膜)を成膜した後、エッチングにより各サブピクセル11a,11b,11c単位に区画することによりなされる。
【0100】
また、ホール注入層106の形成には、例えば、スパッタリング法を用いる。具体的には、不活性ガスとしてのアルゴン(Ar)と酸素(O)との混合ガスをスパッタリング装置のチャンバー内に4[Pa]〜7[Pa]のガス圧を以って導入し、0.7[kW]〜1.5[kW]のパワーで成膜する。なお、チャンバー内に導入する混合ガスについては、全圧に対する酸素の分圧比を50[%]とする。
【0101】
なお、アノード105およびホール注入層106の形成には、上記の他に次のような方法を採用することもできる。
【0102】
先ず、金属(例えば、Al合金)からなる膜を成膜し、次に酸化金属(例えば、WO
X)からなる膜を成膜する。
【0103】
次に、金属膜および酸化金属膜を熱処理(例えば、230[℃]以上の温度で焼成処理)し、その後にエッチングにより各サブピクセル11a,11b,11c単位に区画することで、アノード105およびホール注入層106を形成することができる。
【0104】
以上のようにして、下地膜100の形成が完了する。
【0105】
次に、
図6(b)に示すように、ホール注入層106の上に隔壁樹脂層1070を積層形成する。隔壁樹脂層1070の形成には、感光性樹脂成分とフッ素成分とを含む材料を、例えば、スピンコート法などにより堆積させることで行うことができる。
【0106】
次に、
図6(c)に示すように、隔壁樹脂層1070の上に、隔壁107を形成しようとする領域に開口500aが開けられたマスク500を排し、マスク露光を行う。そして、
図7(a)に示すように、隔壁樹脂層1070に対して現像処理を施すことによりパターニングを行い、その後に焼成などの熱処理を行うことで隔壁107を形成する。隔壁107については、全高さの20[%]〜40[%]の領域でのテーパー角が20[°]〜70[°]となるようにする。また、アニソールに対する接触角が30[°]〜70[°]となるように撥液性を付与する。
【0107】
なお、具体的な隔壁107の形成は、例えば、全波長で露光し、TMAH現像液を用いパドル現像若しくはスプレー現像を行う。その後に、純水を用いたリンス処理を施し、その後に焼成する、という手順を経ることで行うことができる。
【0108】
ここで、
図7(a)に示すように、隔壁107の内縁P
1は、下地膜100の隆起部における斜面部100a(層間絶縁膜104の隆起部104bの斜面部104b
1に相当)の途中箇所に設定される。これについては、上述の通りである。
【0109】
次に、
図7(b)に示すように、隔壁107の囲繞により構成された各凹部にホール輸送層108を形成するためのインク1080を塗布する。この後、インク1080を乾燥させることにより、
図7(c)に示すように、ホール輸送層108の形成が完了する。
図7(c)に示すように、本実施の形態においては、ホール輸送層108の表面が、隔壁107の斜面部107aに対して接点P
2で接する。
【0110】
なお、上記において、インク1080については、その粘度が0.1[cp]〜20[cp](0.0001[Pa・s]〜0.02[Pa・s])の範囲であり、濃度が0.1[%]〜10[%]の範囲である。
【0111】
次に、
図8(a)に示すように、隔壁107の囲繞により構成された凹部内のホール輸送層108上に対して、発光層109を形成するためのインク1090を塗布する。インク1090の粘度および濃度などに関しては、インク1080についての上記数値範囲と同様の範囲内に規定されている。そして、インク1090を乾燥させることにより、
図8(b)に示すように、発光層109が形成できる。
【0112】
ここで、
図7(c)に示すように、下地膜100に対してホール輸送層108を形成する際に、隔壁107の内縁を上記のように規定することで、未濡れとなる部分を生じさせず、ホール輸送層108の形成後においては、下地膜100が露出しないようにしているので、ホール輸送層108を介さずにホール注入層106と発光層109とが直接接するということが生じない。
【0113】
次に、
図8(c)に示すように、発光層109の上、および隔壁107の露出面の上に、電子輸送層110、カソード111、および封止層112を順に積層形成する。そして、CF基板116を貼り合わせることで、有機ELパネル10の製造が完了する。
【0114】
なお、
図1に示すように、有機ELパネル10に対して駆動・制御部20を接続し、必要に応じてエージング処理を施すことにより、有機EL表示装置1が完成する。
【0115】
5.隔壁107の内縁
隔壁107の内縁について、有機膜の膜厚均一性を向上させるという観点から、より好ましい位置について、
図9および
図10を用い説明する。
【0116】
図9に示すように、有機ELパネル10では、ホール注入層106の表面である下地膜100表面に対して、その隆起部の斜面部100aの途中の箇所に隔壁107の内縁P
1が接している。そして、有機膜であるホール輸送層108は、ホール注入層106表面の内の隔壁107で覆われていない部分全体と、隔壁107の斜面部の一部とを覆うように形成されており、表面と隔壁107の斜面部とが接点P
2で接している。
【0117】
ここで、下地膜100の隆起部の下端位置(点P
12)と隔壁107の内縁P
1とのZ軸方向高さをbとする。また、ホール輸送層108における平坦部分上の領域A
aveでの平均膜厚をa
2とする。このとき、次に関係を満足する。
【0118】
[数3] (b/a
2)≦15
本実施の形態に係る有機ELパネル10では、高さbと平均膜厚a
2との関係を上記[数3]の関係を満足するように規定することで、塗布により形成する有機膜(ホール輸送層108)の未濡れの発生を防止することができ、輝度ムラの発生を抑制することができる。よって、本実施の形態に係る有機ELパネル10では、優れた発光性能を有する。
【0119】
一方、
図10(a)に示すように、ホール輸送層958の平均膜厚a
3を薄くして行き、上記[数3]を満足しない場合、および、
図10(b)に示すように、隔壁957の内縁P
4の高さb
1を高くして行き、上記[数3]を満足しない場合には、ともにホール注入層106の表面の一部がホール輸送層958,968で覆われない、未濡れ部A
nonが発生することになる。具体的には、
図10(a)に示す例では、隔壁107の内縁P
1に対して、ホール輸送層958の表面の端位置P
3がZ軸方向下側に存在し、
図10(b)に示す例では、隔壁957の内縁P
4が
図9に示す実施の形態よりもZ軸方向上側の位置に存在することで、ホール輸送層968の表面の端位置P
5よりもZ軸方向上側の位置となっている。これより、
図10(a)、(b)の何れの例においても、未濡れ部A
nonが発生する。
【0120】
6.ホール輸送層108の表面プロファイル
ホール輸送層(IL)108の表面プロファイルについて、
図11および
図12を用い説明する。
【0121】
先ず、
図11に示すように、比較例として層間絶縁膜を形成せず、平坦な下地の上に隔壁およびホール輸送層を形成した。この場合には、比較例の欄に示す通り、下地表面のコーナー部分の形状に近い表面プロファイルでホール輸送層が形成されることになる(丸印B3,B4を参照)。
【0122】
一方、
図11の実施例については、向かって右側にコンタクトホールに伴う隆起部が存在し(丸印B1)、ホール輸送層の表面プロファイルも隆起部の斜面部のプロファイルに沿った形状となる(丸印B2)。
【0123】
図12に示すように、
図11の丸印B2で示す部分のテーパーは、Y軸方向の長さをy
1とし、Z軸方向の高さをz
1とするとき、次のような関係を満足する。
【0124】
[数4] (z
1/y
1)≦1.0E−2
7.インク塗布量と未濡れ発生の有無との関係
有機膜を形成する際のインクの塗布量と、未濡れ発生の有無との関係について、
図13から
図15を用い説明する。
【0125】
図13に示すように、隔壁107の内縁の高さ(
図13では、「下地隆起高さ」と表示)bを150[nm]で一定とした場合において、インク滴下量を2ドロップ(2d)から12ドロップ(12d)まで変化させたときの塗布状態を示す。なお、塗布状態については、PL発光状態を観察したものである。ここで、1ドロップは、概ね10[pl]のインク量である。
【0126】
図13に示すように、2dから4dの範囲では、未濡れが発生しており、発光していない箇所C
1,C
2,C
3が発生した。この場合の高さbに対する有機膜の膜厚aの比率(b/a)は、それぞれ100,37.5,25となっている。
【0127】
次に、インク滴下量が7dから10dの範囲では、未濡れの発生はなく、塗布状態は良好であった。この場合における比率(b/a)は、それぞれ15,11.5,10.7となっている。
【0128】
次に、インク滴下量が11d以上の範囲では、隔壁による囲繞で構成された凹部からインクが溢れ出した。
【0129】
以上より、本確認実験の範囲においては、インク滴下量が7dから10dの範囲で塗布状態が良好となり、換言すると、比率(b/a)が15以下のときに塗布状態が良好となった。なお、隔壁の全高との関係にもよるが、インクが溢れ出さないことが前提となる。
【0130】
図14(a)に示すように、例えば、濃度1[%]のインクを用い、膜厚h
1(例えば、100[nm]以下)で塗布膜9780を形成した場合には、塗布の際に隔壁107の撥液性によりホール輸送層106の一部に未濡れ部を生じる。この塗布膜9780を乾燥させると、
図15(a)に示すような有機膜(ホール輸送層)978が形成されることになる。
【0131】
有機膜(ホール輸送層)978は、隔壁107の内縁から離れた位置に端位置が存在することになり、未濡れ部A
nonが発生する(矢印D1部)。このときの有機膜(ホール輸送層)978の平均膜厚a
4は、1[nm]以下となる。これより、比率(b/a
4)は、150以上の値となる。
【0132】
次に、
図14(b)に示すように、上記同様に、濃度1[%]のインクを用い、膜厚h
2(例えば、500[nm]以下)で塗布膜9880を形成した場合には、隔壁107の撥液性との関係により隔壁107の斜面部107aの一部を覆う場合(実線で示すプロファイル)と覆わない場合(破線で示すプロファイル)とが生じ得る。この塗布膜9880を乾燥させると、
図15(b)に示すような有機膜(ホール輸送層)988が形成されることになる。
【0133】
有機膜988は、
図14(b)に示す塗布膜9880の状態で破線で示すプロファイルであった場合は、上記
図15(a)に示す有機膜(ホール輸送層)978と同様にホール注入層106の一部をホール輸送層988が覆わない、未濡れ部A
nonが発生する。また、有機膜(ホール輸送層)988は、
図14(b)に示す塗布膜9880の状態で実線で示すプロファイルであった場合においても、隔壁107の撥液性に起因してピンニング位置が低下し、
図15(b)に示す未濡れ部A
nonが発生する。ここで、有機膜(ホール輸送層)988の平均膜厚a
5は、5[nm]以下となる。これより、比率(b/a
5)は、30以上の値となる。
【0134】
次に、
図14(c)に示すように、上記同様に、濃度1[%]のインクを用い、膜厚h
3(例えば、1[μm])で塗布膜1081を形成した場合には、隔壁107の撥液性との関係により隔壁107の斜面部107aの略全体を覆う場合となる。この塗布膜1081を乾燥させると、
図15(c)に示すような有機膜(ホール輸送層)108が形成されることになる。
【0135】
図15(c)に示すように、有機膜(ホール輸送層)108は、ホール注入層106の表面の内の隔壁107で覆われていない部分の全体を覆い、未濡れ部が発生しない。そして、有機膜(ホール輸送層)108の表面は、隔壁107の斜面部107aに接点P
2を有する。ここで、有機膜108の平均膜厚a
6は、5[nm]以下となる。これより、比率(b/a
6)は、15以下の値となる。
【0136】
以上より、上記[数3]の関係を満足するように、下地膜100表面に対する隔壁107の内縁P
1の高さbと、有機膜(ホール輸送層)108の平坦部分における平均膜厚a
2とを規定することにより、未濡れの発生を防止することができ、優れた発光性能を有し、長寿妙な有機ELパネル10を実現することができる。
【0137】
また、塗布膜1081の膜厚(
図15(c)の厚みh
3)も加味するときには、次の関係を満たすことが好ましい。
【0138】
[数5] h
3>b
なお、上記実施の形態1では、有機膜(ホール輸送層108)の未濡れ部の発生を防止し、且つ、隔壁107の囲繞により構成された凹部から溢れ出さないインクドロップ数のマージンを確保できるので、同一インク濃度にてサブピクセル11a,11b,11cの発光色毎でドロップ数を変えて印刷膜厚を設計することができる。よって、発光色毎に最適な光学キャビティ設計が可能であり、輝度向上を実現することができる。
【0139】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る有機ELパネル30の構成について、
図16および
図17を用い説明する。
図16は、上記実施の形態1における
図3に相当する模式断面図であり、
図17は、上記実施の形態1における
図9に相当する模式断面図である。
【0140】
図16に示すように、基板101からアノード105までの構成、およびホール輸送層108からCF基板116までの構成については、上記実施の形態1と同様である。本実施の形態では、ホール注入層306および隔壁307の形成形態が相違する。
【0141】
具体的には、本実施の形態に係る有機ELパネル30では、隔壁307がアノード105上に形成されており、TFT102からアノード105までの構成が下地膜300ということになる。そして、本実施の形態に係るホール注入層306は、例えば、PEDOT/PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマーからなる有機膜であって、隔壁307の囲繞により構成される凹部内に塗布法を用い形成されている。
【0142】
図17に示すように、本実施の形態に係る有機ELパネル30では、アノード105の表面である下地膜300表面に対して、その隆起部の斜面部300aの途中の箇所に隔壁307の内縁P
6が接している。具体的には、隔壁307の内端P
6は、隆起部における斜面部300aの両端点P
13,P
14の間に位置している。そして、有機膜であるホール注入層306は、アノード105表面の内の隔壁307で覆われていない部分全体と、隔壁307の斜面部307aの一部とを覆うように形成されており、表面と隔壁307の斜面部とが接点P
7で接している。
【0143】
ここで、下地膜300の隆起部の下端位置(点P
14)と隔壁307の内縁P
6とのZ軸方向高さをb
2とする。また、ホール注入層306における平坦部分上の領域A
aveでの平均膜厚をa
7とする。このとき、次に関係を満足する。
【0144】
[数6] (b
2/a
7)≦15
本実施の形態に係る有機ELパネル30でも、高さb
2と平均膜厚a
7との関係を上記[数6]の関係を満足するように規定することで、塗布により形成する有機膜(ホール注入層307)の未濡れの発生を防止することができ、輝度ムラの発生を抑制することができる。よって、本実施の形態に係る有機ELパネル30においても、優れた発光性能を有する。
【0145】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3に係る有機ELパネル40の構成について、
図18および
図19を用い説明する。
図18は、上記実施の形態1における
図3に相当する模式断面図であり、
図19は、上記実施の形態1における
図4に相当する模式断面図である。
【0146】
本発明の実施の形態に係る有機ELパネル40では、隔壁407の形成形態を除き、基本的な構成は上記実施の形態1に係る有機ELパネル10と同様である。
【0147】
本実施の形態に係る有機ELパネル40では、隔壁407の内縁がホール注入層106の表面である下地膜400表面の平坦部分に位置しているところが特徴である。そして、この隔壁407の囲繞により構成された凹部内にホール輸送層408、発光層409が形成され、その上に電子輸送層410、カソード411、封止層412が順に積層形成されている構成は上記同様である。即ち、本実施の形態では、層間絶縁膜104のコンタクトホールCHに起因する隆起部の上方全体を隔壁407で覆っている。
【0148】
図19に示すように、ホール注入層106の表面である下地膜400の表面は、層間絶縁膜104のコンタクトホールCHに起因して隆起した部分を有し、端点P
15と端点P
16の間が斜面部400aとなっている。上記実施の形態1,2では、この斜面部400aに隔壁の内端を位置させることとしていたが、本実施の形態では、隔壁407の内縁P
8を、下地膜400の隆起部における斜面部400aの一方の端点P
16よりも凹部内側の平坦部分400bに位置させている。
【0149】
本実施の形態に係る有機ELパネル40でも、ホール注入層106上に形成する有機膜であるホール輸送層408の表面の端位置P
9が隔壁407の斜面部に位置する。
【0150】
このような構成を採用する場合にも、ホール輸送層408に形成に際して未濡れ部の発生を確実に防止することができ、優れた発光性能を有する。
【0151】
また、本実施の形態に係る有機ELパネル40の構成を採用する場合には、下地膜400上に形成する有機膜について、蒸着法を用いて形成する場合においても、有機膜の膜厚均一性を確保することができ、輝度集中を抑制することができる。よって、蒸着法を用い有機膜を形成する場合においても、長寿命な有機ELパネル40とすることができる。
【0152】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4に係る有機ELパネルの構成について、
図20を用い説明する。
図20は、上記実施の形態1における
図4に相当する模式断面図である。
【0153】
本実施の形態に係る有機ELパネルは、上記実施の形態2と上記実施の形態3とを組み合わせた関係にある。具体的には、
図20に示すように、アノード105の表面が下地膜500の表面を構成しており、層間絶縁膜104のコンタクトホールCHに起因して隆起部が一部に構成されている。そして、アノード105は層間絶縁膜104の表面に沿って形成され、その表面(下地膜500の表面)も隆起している。
【0154】
隔壁507は、下地膜500の隆起部に対して、端点P
17と端点P
18の間の斜面部500aを含む全体を覆う状態で形成されており、その内縁P
10が、下地膜500の表面における端点P
18よりも凹部内側の平坦部分500bに接している(位置している)。
【0155】
本実施の形態に係る有機ELパネルでも、アノード105上に形成する有機膜であるホール注入層506の表面の端位置P
21が隔壁507の斜面部に接している。なお、本実施の形態に係る有機ELパネルにおいては、ホール注入層506の形成材料は、上記実施の形態2に係るホール注入層306と同様に、例えば、PEDOT/PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマーなどを採用することができる。
【0156】
このような構成を採用する場合にも、ホール注入層506に形成に際して未濡れ部の発生を確実に防止することができ、優れた発光性能を有する。
【0157】
また、本実施の形態に係る有機ELパネルの構成を採用する場合には、上記実施の形態3と同様に、下地膜500上に形成する有機膜について、蒸着法を用いて形成する場合においても、有機膜の膜厚均一性を確保することができ、輝度集中を抑制することができる。よって、蒸着法を用い有機膜を形成する場合においても、長寿命な有機ELパネルとすることができる。
【0158】
[その他の事項]
上記実施の形態1〜4では、隔壁107,307,407,507について、所謂、ピクセルバンク構成を一例として採用したが、これに限らず、所謂、ラインバンク構成とすることもできる。
【0159】
また、アノード105については、上記のように、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金(Al合金)や、銀(Ag)または銀合金(Ag合金)を用い形成することもできるし、これ以外にも光反射性を有する金属電極を採用することができる。
【0160】
また、上記実施の形態1〜4では、有機発光デバイスの一例として有機ELパネル10,30,40を採用したが、これ以外に、照明用のデバイスに採用することもできる。
【0161】
また、上記実施の形態1〜4では、所謂、トップエミッション型のデバイスとしたが、ボトムエミッション型のデバイスとすることもできる。