特許第6233889号(P6233889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233889試料分注装置、およびタンパク質の結晶化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233889
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】試料分注装置、およびタンパク質の結晶化方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20171113BHJP
   C30B 29/58 20060101ALI20171113BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
   C30B29/58
   C07K1/14
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-521477(P2014-521477)
(86)(22)【出願日】2013年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2013066723
(87)【国際公開番号】WO2013191173
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2016年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-137243(P2012-137243)
(32)【優先日】2012年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19〜22年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業、ターゲットタンパク研究プログラム「タンパク質生産技術開発に基づく「タンパク質発現ライブラリー基盤」の構築」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 正勝
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/112408(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/025305(WO,A1)
【文献】 特表2005−507074(JP,A)
【文献】 特表2009−539096(JP,A)
【文献】 Acta crystallographica Section D, 2004, Vol. 60, No. 10, pp. 1795-1807
【文献】 Nature Protocols, 2009, Vol. 4, No. 5, pp. 706-731
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C07K 1/00−19/00
C30B 29/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートチャンバー、
膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料を、上記プレートチャンバー内に準備されたマイクロプレートに分注する試料分注手段、
タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注手段、および
上記プレートチャンバー内の湿度を調節する湿度調節装置を備えており、
上記プレートチャンバーには複数のガス供給口が設けられ、分岐流路を有するガス供給管が上記ガス供給口に連結されており、
上記湿度調節装置は、上記ガス供給管によって、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを上記プレートチャンバー内に供給することを特徴とする、試料分注装置。
【請求項2】
上記乾燥ガスは乾燥窒素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の試料分注装置。
【請求項3】
上記湿度調節装置は、上記水蒸気を生成する加湿器を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の試料分注装置。
【請求項4】
上記加湿器は気化型加湿器であることを特徴とする請求項3に記載の試料分注装置。
【請求項5】
上記プレートチャンバーの内部には、1以上の湿度センサが設けられており、
上記湿度調節装置は、上記1以上の湿度センサによる測定結果に基づき、上記混合ガスにおける上記水蒸気と上記乾燥ガスとの混合割合を調節することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の試料分注装置。
【請求項6】
上記湿度調節装置は、上記プレートチャンバーの内部の湿度を、設定した湿度値±1%R.H.の範囲内に制御することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の試料分注装置。
【請求項7】
上記プレートチャンバーの上部には、開口部が設けられている可動式の蓋が設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の試料分注装置。
【請求項8】
上記試料分注手段による上記試料の分注の様子、および上記試料分注手段における上記試料を吐出する吐出部の少なくとも何れか一方を撮像する撮像手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の試料分注装置。
【請求項9】
上記マイクロプレートの上面に透明なカバーを貼り付ける貼付手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の試料分注装置。
【請求項10】
上記マイクロプレートには保護カバーが貼り付けられており、
上記保護カバーを上記マイクロプレートから剥がし取る引き剥がし手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の試料分注装置。
【請求項11】
プレートチャンバーの内部に準備されたマイクロプレートに、膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料を分注する試料分注工程と、
タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注工程と、
分注された上記試料と、分注された上記結晶化溶液とを合わせる混合工程と、
上記混合工程の後に、透明なカバーを上記マイクロプレートの上面に貼り付ける貼付け工程と、
上記貼付け工程の後に、上記試料中の上記タンパク質を結晶化させる結晶成長工程とを含む、タンパク質の結晶化方法であって、
上記試料分注工程および上記溶液分注工程においては、分岐流路を有するガス供給管によって、上記プレートチャンバーの内部に水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを供給することにより上記プレートチャンバーの内部の湿度を調節することを特徴とするタンパク質の結晶化方法。
【請求項12】
上記マイクロプレートは、厚みが30μm〜150μmであるガラス基板と、該ガラス基板に貼り付けられた、1以上のウェル形成用貫通孔を有するマイクロプレート形成シートとによって形成されたマイクロプレートであり、
上記カバーは、厚みが30μm〜150μmのカバーガラスであることを特徴とする請求項11に記載のタンパク質の結晶化方法。
【請求項13】
上記マイクロプレート形成シートの上記ウェル形成用貫通孔は、レーザ加工によって形成されていることを特徴とする請求項12に記載のタンパク質の結晶化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分注装置、タンパク質の結晶化方法、およびマイクロプレート形成シートに関し、詳細には膜タンパク質の結晶化に利用され得る試料分注装置、タンパク質の結晶化方法、およびマイクロプレート形成シートに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は生体内で様々な生命活動を担っている重要な分子であり、正しい立体的な構造をとることによって正しい機能を発揮する。したがって、タンパク質の構造などの解析は生命現象の深い理解につながり、構造解析によって得られた情報は、例えば、病気の原因となるタンパク質の働きを制御する薬などの効率的な開発に威力を発揮する。しかし、タンパク質の中には、立体構造解析に必要な高品質の結晶化が困難なものがある。例えば、難解析性タンパク質と呼ばれる膜タンパク質は、細胞における各種受容体およびチャネル等、生体機能に重要な役割を果たしている。そのため、その構造情報は、学術的価値があるばかりでなく、医薬品開発等の産業的価値も高い。しかしながら膜タンパク質は、活性(機能)を維持したままでの大量調製、結晶化および構造解析が現在の技術水準では困難である。そのため、学術的および産業的観点から、膜タンパク質のエックス線構造解析に必須である3次元結晶を得るためのさらなる技術の進歩が望まれている。
【0003】
膜タンパク質の3次元結晶を得るための技術として、脂質メソフェーズ法(非特許文献1)が有力な手法の一つとされている。脂質メソフェーズ法は、β2-adrenergic G protein coupled receptor(非特許文献2)およびバクテリオロドプシン(非特許文献3)など、他の結晶化方法では長年にわたり成功しなかった膜タンパク質のエックス線結晶構造解析を可能にしている。脂質メソフェーズ法は、脂質二重膜を構成ユニットとする脂質メソフェーズ中に、膜タンパク質を再構成し、そのまま脂質二重膜マトリクス中で結晶化を行う手法である。
【0004】
蒸気拡散法などの従来の結晶化法でよく用いられている方法は、可溶化した膜タンパク質を含む溶液をスクリーニングプレートのウェル内に分注する。分注後、ここに、ウェル毎に組成の異なる、タンパク質を結晶化させるための結晶化溶液(電解質および有機化合物等を含む緩衝液)を添加して結晶化を開始し、タンパク質の結晶成長する溶液条件を探索する。これに対し脂質メソフェーズ法では、よく用いられている方法として、まず、膜タンパク質を含む水溶液を(i)マトリクス脂質と、あるいは(ii)マトリクス脂質および適切な水溶液を前もって混合して得た脂質メソフェーズと混合し、「膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料(タンパク質−脂質メソフェーズ試料あるいは単に試料と呼ぶ)」を調製する。次いで、一定量のタンパク質−脂質メソフェーズ試料をスクリーニングプレートのウェル内に分注する。タンパク質−脂質メソフェーズ試料を各ウェルに分注した後、ここに、ウェル毎に組成の異なる結晶化溶液を添加して結晶化を開始し、膜タンパク質の結晶成長する溶液条件を探索する。このような意味で、脂質メソフェーズ法は、可溶化した膜タンパク質を含む溶液の代わりにタンパク質−脂質メソフェーズ試料を用いるために、用いられる実験器具が一部異なるものの、蒸気拡散法などの他の結晶化法とほぼ同じ考え方および手順で結晶化が進められている(非特許文献4)。
【0005】
また、上記の探索を行うには、タンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液の分注作業を多数回(数百〜数千回/日)繰り返す必要があり、手作業による作業には著しい困難を伴う。そのためこれらの作業の一部を自動化した装置が開発されている(非特許文献5)。この装置を用いた脂質メソフェーズ法の作業例は、次の通りである。
1)分注マイクロシリンジ(25〜100μl程度のマイクロシリンジ)にタンパク質−脂質メソフェーズ試料を手作業で充填する。
2)分注マイクロシリンジを、装置の試料分注マイクロディスペンサ部に手作業でセットする。
3)96ウェルスクリーニングプレートおよび96ウェル結晶化溶液ボックスを、装置に手作業でセットする。
4)分注マイクロシリンジの先端が、96ウェルスクリーニングプレートの適切なウェル(例えばA1ウェル)の中央に位置するよう、目視観察により肉眼で、分注マイクロシリンジの位置決めを行う。
5)タンパク質−脂質メソフェーズ試料が分注マイクロシリンジから一定量安定して吐出されているか否かを、目視観察により肉眼で確認する。
6)装置において、超音波型加湿器からの加湿空気を、プラスチックチューブを介して96ウェルスクリーニングプレートの表面に吹き付ける。
7)装置によって、タンパク質−脂質メソフェーズ試料を自動分注し、次いで結晶化溶液を自動分注する。
8)分注終了後、装置から96ウェルスクリーニングプレートを取り出し、手作業でカバーガラスを貼り付ける。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lnadau,E.M.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1996, 93, 14532-14535
【非特許文献2】Cherezov, V. et al., Science, 2007, 318, 1258-1265.
【非特許文献3】Pebay-Peyroula, E., et al., Science, 1997, 277, 1676-1681.
【非特許文献4】Caffrey, M., et al., Nature Protocols, 2009, 4, 706-731.
【非特許文献5】Cherezov, V., et al., Acta Cryst., 2004, D60, 1795-1807.
【非特許文献6】Jeremiah S., et al., Method, 2011, 55, 342-349.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらタンパク質−脂質メソフェーズ試料は、界面活性剤で可溶化したタンパク質溶液とはその特性が大きく異なるものであり、脂質メソフェーズ法の結晶化のメカニズムも従来の界面活性剤で可溶化したタンパク質溶液から結晶化を行う方法のそれとは異なっている。したがって、界面活性剤で可溶化したタンパク質溶液を用いた従来の結晶化で蓄積された通常の生化学および分子生物科学分野での技術に基づいた従来技術では、脂質メソフェーズ法の利点を最大限活かしきれているとはいえず、良質な結晶を得るための手法としては決して十分ではない。
【0008】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、脂質メソフェーズ法による結晶化に適した装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る試料分注装置は、上記課題を解決するために、プレートチャンバー、膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料を、上記プレートチャンバー内に準備されたマイクロプレートに分注する試料分注手段、タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注手段、および上記プレートチャンバー内の湿度を調節する湿度調節装置を備えており、上記湿度調節装置は、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを上記プレートチャンバー内に供給する構成を有している。
【0010】
本明細書において「脂質メソフェーズ法」とは、膜タンパク質を含む水溶液を(i)マトリクス脂質と、あるいは(ii)マトリクス脂質および適切な水溶液を前もって混合して得た脂質メソフェーズとを混合して調製された膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料(タンパク質−脂質メソフェーズ試料)を用い、脂質二重膜マトリクス中で膜タンパク質の結晶化を行う手法をいう。また、本明細書において「脂質メソフェーズ」とは、脂質/水溶液混合系に現れる固体と液体との中間的な性質を持つ物質あるいは状態を意味する。脂質メソフェーズとして具体的には、脂質二重膜が三次元連続構造を持つ「キュービック液晶」、ならびに脂質二重膜が一方向にスタックした構造を持つ「ラメラ液晶」および「キュービック液晶」の長距離秩序が失われた「スポンジ相」等の脂質二重膜を構成単位とするメソフェーズを挙げることができる。上記非特許文献5に示されているように、従来の脂質メソフェーズ法では、タンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液の分注時に水分の蒸発による結晶化溶液中の各成分の濃度変化を抑制するために、概ね85%R.H.以上の湿度条件で分注作業が行われている。この湿度条件によれば、分注作業時間内での水分蒸発による結晶化溶液中の各成分の濃度変化は10%以内であるとの実験結果が得られている。したがって、従来の手法においては結晶化溶液における蒸発によるこの程度の濃度変化は許容範囲と考えられている(上記非特許文献5)。また、上記湿度の環境を形成するために、加湿器からの加湿空気を、結晶化溶液が分注されるプレート面に直接吹き付けるという簡便な方法が用いられている。あるいは、分注速度を速くして分注に要する時間を短縮することにより、結晶化溶液の蒸発がおこる時間を短くし、結晶化溶液組成変動を抑えるという戦略等も取られている。一方で、タンパク質−脂質メソフェーズ試料に対する湿度の影響は充分考慮されていない。
【0011】
しかしながら本発明者らが検討を重ねた結果、脂質メソフェーズ法においては、タンパク質結晶の質(エックス線回折の分解能)がタンパク質−脂質メソフェーズ試料の分注時の湿度条件に大きく依存する等の脂質メソフェーズ法に特有の現象を見いだした。これは、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の微細構造が分注時の湿度に依存して変化するためと考えられ、このような脂質メソフェーズ法に特有の湿度効果を充分活用するには、より厳密な分注時の湿度制御を行う必要があることを見出した。
【0012】
なお、本明細書においての湿度は、ガスの水蒸気圧とその温度に於ける飽和水蒸気圧の比を%で表した相対湿度を意味し、具体的な数値は%R.H.で表すこととする。また、「プレートチャンバー内の湿度を厳密に調節する」とは、所望の湿度を設定し、プレートチャンバーの内部の湿度を、設定した湿度値±1%R.H.の範囲内、好ましくは±0.5%R.H.の範囲内にすることを意図している。
【0013】
また、本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、上記課題を解決するために、プレートチャンバーの内部に準備されたマイクロプレートに、膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料を分注する試料分注工程と、タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注工程と、分注された上記試料と、分注された上記結晶化溶液とを合わせる混合工程と、上記混合工程の後に、透明なカバーを上記マイクロプレートの上面に貼り付ける貼付け工程と、上記貼付け工程の後に、上記試料中の上記タンパク質を結晶化させる結晶成長工程とを含む、タンパク質の結晶化方法であって、上記試料分注工程および上記溶液分注工程においては、上記プレートチャンバーの内部に水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを供給することにより上記プレートチャンバーの内部の湿度を調節する構成を有している。
【0014】
なお、試料分注工程または溶液分注工程が混合工程を兼ねるものであってもよい。例えば、まず試料分注工程を実施して試料をマイクロプレートに分注し、この分注された試料に直接、溶液分注工程において結晶化溶液を分注することにより、試料と結晶化溶液とを合わせ、混合工程を実現するものであってもよい。
【0015】
また、本発明に係るマイクロプレート形成シートは、基板に貼り付けられてマイクロプレートを形成する、1以上のウェル形成用貫通孔を有するマイクロプレート形成シートであって、表面に接着剤層が形成されており、上記ウェル形成用貫通孔は、レーザ加工によって形成されている構成を有している。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明に係る試料分注装置は、プレートチャンバー内の湿度を調節する湿度調節装置を備えており、この湿度調節装置は、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスをプレートチャンバー内に供給する。そのため、プレートチャンバー内の湿度をより厳密に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態における試料分注装置の概略構成を示す上面図である。
図2】本実施の形態における試料分注装置の概略構成を示す前面図である。
図3】カバーガラス貼付け部の概略構成を示す側面図である。
図4】プレートチャンバーの概略構成を示す分解斜視図である。
図5】実施例における、湿度の制御性の評価の結果を示す図である。
図6】実施例における、湿度制御の時間安定性の評価の結果を示す図である。
図7】実施例における、湿度制御時の温度変化を示す図である。
図8】実施例における、水分蒸発速度の評価の結果を示す図である。
図9】実施例における、湿度の繰り返し変化応答の評価の結果を示す図である。
図10】実施例における、bRメソフェーズ中において成長した結晶の状態を示す図である。
図11】実施例における、bRメソフェーズ中において成長した結晶の大きさと数との分布を示す図である。
図12】実施例における、bRメソフェーズ中における結晶が初めて認められる時間(T)と結晶化溶液濃度との関係を示す図である。
図13】実施例における、通常光と偏光顕微鏡観察による脂質メソフェーズの構造変化の観察結果を示す図である。
図14】実施例における、SAXS測定による脂質メソフェーズの構造変化の測定結果を示す図である。
図15】機械的打ち抜き加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートの貫通孔近傍における共焦点顕微鏡による観察結果を示す図である。
図16】機械的打ち抜き加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートにカバーガラスを貼り付けた状態の観察結果を示す図である。
図17】レーザ加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートの貫通孔近傍における共焦点顕微鏡による観察結果を示す図である。
図18】レーザ加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートにカバーガラスを貼り付けた状態の観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔試料分注装置〕
本発明に係る試料分注装置の一実施形態について、図1図4に基づいて説明すれば以下の通りである。
【0019】
本実施の形態における試料分注装置は、脂質メソフェーズ法により膜タンパク質の結晶化を行う際に、目的の膜タンパク質を含むタンパク質−脂質メソフェーズ試料をマイクロプレートのウェルに分注し、ここに、タンパク質の結晶化を行うための結晶化溶液を分注して添加し、結晶化セルを作製するために好適に用いられる装置である。本実施の形態においては、96ウェルのマイクロプレートを用いる場合について説明するが、本発明に係る試料分注装置は、24ウェルのマイクロプレート等についても利用でき、あるいは市販のプラスチックスクリーニングプレート等についても利用できる。
【0020】
図1は、本実施の形態における試料分注装置の概略構成を示す上面図である。図2は、試料分注装置の概略構成を示す前面図である。ただし、図1中の破線A−A’で示す部分に対応する部分については、図2において断面で示している。図1および図2に示すように、本実施の形態における試料分注装置1は、試料分注マイクロディスペンサ部(試料分注手段)2、結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部(溶液分注手段)3、カバー貼付け部(貼付手段)5、プレートチャンバー4、ディスポーザブルチップラック6、結晶化溶液ラック7、分注観察部8および湿度調節装置11を備えており、さらに試料分注マイクロディスペンサ部2、結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3、カバー貼付け部5および分注観察部8の動作を制御するパーソナルコンピュータ(PC)(不図示)を備えている。
【0021】
試料分注マイクロディスペンサ部2は、プレートチャンバー4内に載置された96ウェルスクリーニングプレート等のマイクロプレートの各ウェルに、タンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注するものである。試料分注マイクロディスペンサ部2は、タンパク質−脂質メソフェーズ試料を吐出する着脱可能なシリンジ17を有している。
【0022】
試料分注マイクロディスペンサ部2は、マイクロプレートの指定された箇所に指定された順番でタンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注する。シリンジ17からのタンパク質−脂質メソフェーズ試料の吐出量は、例えば10nl〜200nlの範囲で任意の量(1nl単位)に設定される。また、吐出速度は、例えば1mm/sec〜30mm/secの範囲で任意の速度(0.1mm/sec単位)に設定される。
【0023】
試料分注マイクロディスペンサ部2は、シリンジ17の先端であるシリンジチップ(吐出部)を格納できるシリンジチップカバーを有している。シリンジチップカバー内には水で湿らせたメラミンスポンジ等が設置されており、シリンジチップの乾燥防止とシリンジチップ外壁の汚染除去のため、タンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注しているとき以外は、シリンジ17の先端はシリンジチップカバー内に格納されている。なお、タンパク質−脂質メソフェーズ試料をマイクロプレートに分注している間は、シリンジ17の先端は常時プレートチャンバー4内に保持されている。
【0024】
結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、プレートチャンバー4内に載置された96ウェルスクリーニングプレート等のマイクロプレートの各ウェルに、結晶化溶液を分注するものである。本実施の形態においては、試料分注マイクロディスペンサ部2によってウェルに分注されたタンパク質−脂質メソフェーズ試料に対して、結晶化溶液を分注して添加する構成としている。結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、ディスポーザブルチップが着脱可能な8連の分注ヘッド18を備えている。結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、ディスポーザブルチップラック6にセットされたディスポーザブルチップを分注ヘッド18に取り付け、ディスポーザブルチップが取り付けられた分注ヘッド18のそれぞれにおいて、結晶化溶液ラック7に準備された結晶化溶液ボックスから結晶化溶液を吸引してディスポーザブルチップ内に保持し、マイクロプレートの指定された箇所に吐出する。結晶化溶液の吐出量は、例えば0.8〜10μlの範囲で任意の量(0.1μl単位)に設定される。結晶化溶液の吸引量、吸引速度および吐出速度は、結晶化溶液の種類に応じて適宜設定される。結晶化溶液の種類としては、水、50% PEG8,000、および30% PEG20,000など、低粘度液体から高粘度液体まで様々な粘度範囲の液体が想定される。分注後、結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、取り付けられているディスポーザブルチップを取り外し、廃棄する。なお、結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、8連の分注ヘッドに限られるものではなく、8連以上あるいは以下であってもよく、さらには、固定針型チップを用いるものであってもよい。
【0025】
結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、分注ヘッド18のそれぞれにおけるディスポーザブルチップの取り付けを検出するチップセンサおよび検出データに基づき取り付けの良否を判定する取り付け判定部を備えている。取り付け判定部が取り付けを不良と判定した場合には、再度取り付け操作が行われる。
【0026】
カバー貼付け部5は、タンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液の分注が完了したマイクロプレートに対して、そのウェル形成面に透明なカバーを貼り付けるものである。なお、本実施の形態では、透明なカバーとしてカバーガラスを用いているため、以下ではカバーガラスを例に説明するが、透明なカバーはガラスに限定されるものではない。カバー貼付け部5は、ガイドレール26および駆動機構によって、プレートチャンバー4上およびカバー格納部27上に移動することができる。すなわち、図1中の両端矢印Bの示す方向に移動することができる。図3は、カバー貼付け部5の側面を模式的に示した図である。カバー貼付け部5は、カバーガラス貼付け部本体5a、およびカバーガラス貼付け部本体5aを支持するとともに上下方向への移動を可能にする支持部5bによって構成されている。カバー貼付け部本体5aには、鉛直下側に、カバーガラスを吸引保持する吸引パッド19が設けられている。また、薄いカバーガラスであっても破損することなく運搬できるようにするため、吸引パッド19には、ソフトラバーのカバーガラス吸引口が複数個(4個)設けられている。カバー貼付け部本体5aは、カバーガラスが格納されたカバー格納部27から吸引パッド19によってカバーガラスを一枚取り出し、マイクロプレートの鉛直上方まで運搬する運搬部を有している。マイクロプレートの鉛直上方までカバーガラスが運搬されると、カバー貼付け部本体5aが下降して、カバーガラスをマイクロプレートの上面(ウェル形成面)の接着剤面に接触させ、予め設定した距離だけさらに下降させることにより圧力を加え、カバーガラスと接着剤面との接着を完成する。
【0027】
また、カバー貼付け部本体5aは、回動式の保護カバー取り外し爪20を有している。マイクロプレートが後述するような、一個以上の貫通孔を有する両面接着性のプラスチックシートをガラス基板に貼り付けて形成されているものである場合には、カバー貼付け部5は、カバーガラスを吸着するより前に、プレートチャンバー4上に移動して、両面接着性のプラスチックシートの保護カバーを、保護カバー取り外し爪(引き剥がし手段)20を用いて剥がし取り、粘着面を露出させる。その後、カバー格納部27上に移動し、カバーガラスを1枚吸着し、再度、プレートチャンバー4上に移動し、カバーガラスをマイクロプレートに貼り付ける。
【0028】
カバー格納部27は、カバー貼付け部5の待機位置とプレートチャンバー4との間に置かれている。カバー格納部27の底面には、樹脂製テープ、あるいは、柔らかくかつ多孔性である、紙、不織布、およびスポンジ等の素材で構成されるマットが敷かれている。これにより、平面性の高い金属面の底面を有するカバーガラス格納部と比較して、30μm厚等の薄いカバーガラスと底面との接着力が弱くなり、吸引がより容易になり、吸引ミスを防ぐことができる。
【0029】
プレートチャンバー4は、マイクロプレートへのタンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液の分注を行うためのチャンバーである。図4は、プレートチャンバーの分解斜視図である。図4に示すように、プレートチャンバー4の内部には、マイクロプレートを載置するための載置台21、および試料の試し打ちを行うためのガラスプレートの設置台25が設けられている。また、プレートチャンバー4には、プレートチャンバー4の上部を覆う可動式の蓋12が設けられている。プレートチャンバー4の内部は、湿度調節装置11によって所望の湿度に調節されている。また、可動式の蓋12は、蓋12の側面に連結された蓋駆動部22によって一軸方向(図1中、両端矢印Bで示す方向)に沿った移動操作がなされており、蓋駆動部22は、上記のPCによって動作が制御されている。
【0030】
プレートチャンバー4の上部を覆う可動式の蓋12にはスリット(開口部)15が形成されている。試料分注マイクロディスペンサ部2は、シリンジ17の先端を、このスリット15を介してプレートチャンバー4内に導入し、プレートチャンバー4内にあるマイクロプレートの各ウェルにタンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注する。なお、マイクロプレートへの分注前に、設置台25上に置かれた試し打ち用ガラスプレートに試料を分注して、一定量の試料が連続して分注されることを分注観察部8によって確認した後に、マイクロプレートへの分注を開始している。結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3は、分注ヘッド18に取り付けられたディスポーザブルチップ(吸引した結晶化溶液が含まれている)部分を、このスリット15を介してプレートチャンバー4内に導入し、プレートチャンバー4内にあるマイクロプレートの所定のウェルに結晶化溶液を分注する。蓋駆動部22は、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の分注位置および結晶化溶液の分注位置、すなわち試料分注マイクロディスペンサ部2のシリンジ17の位置および結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3の分注ヘッド18の位置にスリット15が重なるように、プレートチャンバー4の蓋12を移動させる。これにより、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の分注位置および結晶化溶液の分注位置によらず、スリット15を介して、タンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液の分注を行うことができる。また、プレートチャンバー4における開口部分はスリット15部分のみ、すなわち分注がなされる部分の近傍のみに制限されるため、プレートチャンバー4の内部の湿度が変化することを抑えることができる。蓋駆動部22は、マイクロプレートの導入および取り出し操作、ならびにカバーガラスの取り付け操作などを行うときには、各操作を行うことが可能な状態まで蓋12を移動させる。
【0031】
プレートチャンバー4内に置かれたマイクロプレートに分注されたタンパク質−脂質メソフェーズ試料、および結晶化溶液の液滴などが観察できるように、プレートチャンバー4の蓋12は、ガラスおよびアクリル等の透明な材質で形成されている。
【0032】
載置台21は、マイクロプレートを載置して固定できるものであれば特に制限はないが、例えば、ペルチェ素子あるいは恒温水を循環可能な構造で構成して、マイクロプレートの温度を調節し得るものであってもよい。
【0033】
湿度調節装置11は、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスをプレートチャンバー4内に供給し、混合ガスにおける水蒸気と乾燥ガスとの混合比を調節することにより、プレートチャンバー4内の湿度を調節している。本実施の形態における試料分注装置1では、混合ガスとして水蒸気と乾燥窒素ガスとの混合ガスを用いているが、混合ガスは、上記のように、水蒸気と乾燥ガスとの混合ガスであればよい。乾燥ガスとしては、タンパク質、脂質、タンパク質−脂質メソフェーズ試料、あるいは結晶化溶液に対して、酸化および還元等の化学作用が無く、乾燥ガスの溶解によるpH変化が生じない等、実験に影響しないものであれば特に制限はない。例えば、ヘリウム、アルゴンおよび窒素ガス、コンプレッサー方式やデシカント方式等の公知の除湿器で得た乾燥空気、ならびにこれらの混合ガスを用いることができる。乾燥ガスの湿度値は、プレートチャンバー4の内部を所望の湿度値に設定できる範囲にあれば特に制限はないが、低湿度(〜0%R.H.)から飽和湿度(100%R.H.)に亘る広い湿度範囲の制御を行うには、0%R.H.に近い乾燥ガスを用いることが望ましい。この要件を満たす一例として、清浄かつ、0%R.H.に近い乾燥ガスが容易に得られる窒素ガスを好適に用いることができる。また、混合ガスを形成する際の水蒸気は、水蒸気を含むガスとして供給されればよく、完全に水蒸気のみのガスである場合のほかに、微小水滴(ミスト)が含まれるガスである場合も含まれる。また、低湿度(〜0%R.H.)から飽和湿度(100%R.H.)に亘る広い湿度範囲の制御を行うには、水蒸気を含むガスは、相対湿度100%R.H.に近いガスであることが好ましい。なお、乾燥ガスとして乾燥窒素ガスを用いることにより、混合ガスの流路およびプレートチャンバー4内にカビが発生することを防止することができるという予期せぬ効果が得られたため、混合ガスとしては、水蒸気と乾燥窒素ガスとの混合ガスであることが好ましい。
【0034】
プレートチャンバー4には、対向する2つの側面それぞれに複数のガス供給口24が設けられている。混合ガスをプレートチャンバー4内に供給するガス供給管23は、プレートチャンバー4の各ガス供給口24に連結されている。ガス供給管23は、ガス供給口24の直前において、Y字型に複数回分岐して8つの先端部を形成している。8つの先端部は、それぞれ別のガス供給口24を通じてプレートチャンバー4に連結されている。このY字型の分岐流路を通過する間に水蒸気と乾燥窒素ガスとが均一混合される。
【0035】
湿度調節装置11は乾燥窒素ガス発生装置9および気化型加湿器10を備えている。混合ガスに含ませる水蒸気は気化型加湿器10によって生成している。気化型加湿器10によって水蒸気を生成することにより、ミストの発生を最小限に抑えた水蒸気を生成することができる。
【0036】
なお、湿度調節装置11では気化型加湿器10を備えているが、加湿器としては、気化型(自然気化型、ヒータレスファン型、浸透膜型、滴下浸透型、毛細管型、回転型等)、水噴霧型(超音波型、遠心型、高圧スプレー型、二流体噴霧型等)、スチーム型、およびこれらの複合型等を用いることができ、その加湿機構には特に制限はない。しかしながら実施例2において後述するように、結晶化溶液およびタンパク質−脂質メソフェーズ試料からの水分蒸発を完全に抑えるには、96〜98%R.H.程度の高湿度条件が必要とされるため、飽和(100%R.H.)に近い水蒸気を安定して供給可能であることが望ましい。また、加湿に際して、タンパク質の変成を引き起こす温度上昇が小さいこと(環境温度からの温度上昇が1℃以内であることが好ましい)、および水蒸気中に含まれる微小水滴(ミスト)の存在割合が小さいことが好ましい。
【0037】
水蒸気中のミストの存在割合が大きいと、ミストの水滴が試料または結晶化溶液に付着してこれらを希釈してしまい、成分濃度を大きく変化させてしまう。また、湿度センサの感応面にミストが付着し、感応面を濡らし、感応面に薄い水の皮膜が形成されると、センサの応答遅れが生じ、正確な湿度値が不明となる。その結果、湿度制御が不安定となり、再現性が得られないといった問題が生じる。そのため、ミスト発生率の高い水噴霧型やスチーム型の加湿器を用いる場合は、水蒸気流路中に,例えば、各種フィルター、セラミックシリンダーおよびエリミネータ等を用いたミスト除去機構を備えることが好ましい。一方、気化型加湿器によって生成した水蒸気中のミストの存在割合は小さいので、ミスト除去装置等を追加することなく、厳密に湿度を調節できるとともに、希釈により試料および結晶化溶液の成分濃度が変化してしまうことを防ぐことができるため、好適に用いることができる。
【0038】
生成される水蒸気に水以外の成分が混入することを防ぐ観点から、水蒸気の生成には逆浸透膜処理水、蒸留水、または市販の純水製造機で得られる純水を用いることが好ましい。
【0039】
乾燥窒素ガス発生装置9としては特に制限はないが、液体窒素を気化させて得られる窒素ガスを供給する構成となっている。他にも、窒素ガスボンベ等を用いることも可能である。
【0040】
混合ガスに含ませる水蒸気および乾燥窒素ガスは、例えば以下のようにして供給される。
水蒸気:気化型加湿器10出口の水蒸気流量調整バルブによって、予めキャリブレートした目的湿度に対応した流量値(具体的には流量バルブの目盛り)に設定し、それ以後は一定流量の水蒸気を連続して供給する。
窒素ガス:液体窒素を気化して得た乾燥窒素ガスを、減圧機を用いて、予めキャリブレートしておいた目的湿度に対応した圧力値(例えば、25%R.H.といった低湿度条件では0.2Mpa、80%R.H.以上の高湿度条件では0.05Mpa等)に設定する。さらに、面積式(フロート式)流量計を用い、プレートチャンバー4内の実測湿度値が所定の湿度値となるように流量を調整する。目的湿度値が得られた後は、外気条件の大きな変動がない限り、サンドイッチプレート作成作業中は連続して当該流量の乾燥窒素ガスを供給し続ける。
【0041】
湿度調節装置11は、プレートチャンバー4内に供給する混合ガスにおける水蒸気と乾燥窒素ガスとの混合比を調節することにより、プレートチャンバー4内を5%R.H.〜100%R.H.の範囲内の任意の相対湿度に調節することが可能である。
【0042】
外気の温度または湿度が変化すると気化型加湿器10の加湿能力が変化する。その場合には、プレートチャンバー内の実測湿度値が例えば0.2%R.H.以上変化した時点で乾燥窒素ガス流量を微調整すれば、容易に一定湿度値を保つことが出来る。試料分注装置1においては、プレートチャンバー内の4個の湿度センサ14以外に、試料分注装置1の外気の湿度および温度を測定するセンサも設置している。外気湿度値が分かると、水蒸気流量の設定、および窒素ガス流量の設定値を容易に調整することができる。
【0043】
試料分注装置1においては、ガス供給管23においてY字型の分岐流路を設けたり、混合ガスを対称的な二方面からチャンバー内に導入したり、プレートチャンバー4に蓋を設けて開口部分を必要最小限に留めるようにしたり、水蒸気および乾燥窒素ガスを適切量供給したりすることにより、プレートチャンバー4内の湿度の均一性を実現している。
【0044】
プレートチャンバー4の内部の湿度の均一性を確認するために、湿度を検出する湿度センサ14が、プレートチャンバー4の四隅に1つずつ取り付けられている。湿度センサ14による検出データを上記のPCに送信し、PCの画面上で、湿度の変動をリアルタイムでモニターすることができる。なお、本実施の形態において湿度センサ14は、温度を測定することもできる湿度温度センサである。
【0045】
上述のとおり、本実施の形態においては湿度センサ14を4つ設置している。しかしながら湿度センサ14が少なくとも1つ設置されていれば、プレートチャンバー4の内部の湿度を測定でき、測定データに基づき、すなわちプレートチャンバー4内部の実際の湿度に基づき、水蒸気と乾燥窒素ガスとの混合比を調節してプレートチャンバー4内の湿度を調節することができる。しかしながら湿度ムラが発生していないか確認するために、湿度センサ14は2個以上設置されていることが好ましい。
【0046】
分注観察部8は、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の分注の様子を撮像するものである。なお、本実施の形態において分注観察部8は、結晶化溶液の分注の様子の撮像も行っている。分注観察部8は、撮像手段としてカラーCMOSカメラを備えている。カラーCMOSカメラで撮像された画像は、付属の記憶装置に取り込まれるとともに、ほぼリアルタイムで、撮像されたマイクロプレートのウェルの画像が、PCの画面上に表示される。
【0047】
タンパク質−脂質メソフェーズ試料は複雑なレオロジー特性を有する高粘度物質である。そのため、分注動作停止後も、シリンジ17内で自発的吐出あるいは自発収縮が生じる。これにより、分注開始時に、分注動作を行っても吐出しない、あるいは設定した以上に多量の試料を吐出してしまうといったことがしばしば起こる。それを避けるためには、分注開始前に、試料の試し打ちを行い、一定量の試料が安定して分注できていることを確認した後、マイクロプレートへの分注を開始することが好ましい。しかし、タンパク質−脂質メソフェーズ試料は例えば20nl〜100nlの量で分注されるが、20nl〜100nlという少量のタンパク質−脂質メソフェーズ試料滴は、直径1mm程度以下の微小体である。そのため、分注開始時に、タンパク質−脂質メソフェーズ試料が分注されていることが分かったとしても、一定量が連続して分注されているか否かを分注観察部8なしで肉眼で的確に判定することは不可能である。本実施の形態では、結晶作製に用いる実際のマイクロプレートにタンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注する前に、プレートチャンバー4内で試し打ち用のガラスプレートに試し打ちを2〜5回程度行い、一定量が連続して分注できているか否かを、分注観察部8を利用して確認している。
【0048】
本実施の形態の試料分注装置は分注観察部8を備えており、シリンジ17から分注されたタンパク質−脂質メソフェーズ試料滴あるいはこれが分注されるウェルの様子をPCの画面上で観察することができる。これにより、分注動作中に、分注不良ウェルの確認を行うことができるため、必要に応じて試料分注マイクロディスペンサ部2および結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3に対して、再分注の指示を送り、各ウェルにおいて適切な分注を行うことが可能となる。
【0049】
また、シリンジ17の先端がウェルの中央に位置するような初期設定(位置決め)を、上記のカラーCMOSカメラを利用して行っている。これにより、肉眼で位置決めを行うよりも操作が煩雑でなく、短時間(例えば、10秒程度)のうちに位置決めを完了することができる。
【0050】
なお、試料分注マイクロディスペンサ部2および結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部3の移動制御および位置決め制御などは、当業者であれば従来公知の技術によって実現できる。また、蓋駆動部22ならびにカバー貼付け部5およびカバー貼付け部本体5aの移動制御および位置決め制御についても、当業者であれば従来公知の技術を参考にして実現することができる。
【0051】
〔タンパク質の結晶化方法〕
次に、本発明に係るタンパク質の結晶化方法の一実施形態について説明する。
【0052】
本実施の形態におけるタンパク質の結晶化方法は、脂質メソフェーズ法を用いたタンパク質の結晶化方法であり、プレートチャンバーの内部に準備されたマイクロプレートに、タンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注する試料分注工程と、タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注工程と、分注された上記試料と、分注された上記結晶化溶液とを合わせる混合工程と、上記混合工程の後に、透明なカバーを上記マイクロプレートの上面に貼り付ける貼付け工程と、上記貼付け工程の後に、上記試料中の上記タンパク質を結晶化させる結晶成長工程とを含むものである。また、試料分注工程および溶液分注工程においては、プレートチャンバーの内部に水蒸気と乾燥窒素ガスとの混合ガスを供給することによりプレートチャンバーの内部の湿度を調節している。プレートチャンバー内部の湿度は、結晶化させるタンパク質の種類等に応じて異なるものである。
【0053】
本実施の形態におけるタンパク質の結晶化方法は、上述の実施形態における試料分注装置を利用することにより、好適に実施することができる。
【0054】
上述のとおり、脂質メソフェーズ法においては、タンパク質−脂質メソフェーズ試料を分注する際の湿度管理が、結晶化の成否および結晶の質において非常に重要である。
【0055】
脂質メソフェーズ法に用いられる脂質としては、水中で逆型キュービック液晶を形成できる脂質が用いられる。例えば、1-oleoyl-rac-glycerol(モノオレイン)を代表とするモノアシルグリセロール類、(非特許文献:M. Caffrey, Annu, Rev. Biophys. 2009, 38, 29-51.)、1-O-(3,7,11,15-tetramethylhexadecyl)-β-D-xylosideを代表とするイソプレノイド鎖脂質(非特許文献:Hato, M. et al., Langmuir 2002, 18(9), 3425-3429.; Hato, M. et al., Langmuir 2004, 20(26), 11366-11373.; Yamashita, J. et al., J. Phys. Chem, B, 2008, 112, 12286-12296.; Hato, M. et al., J. Phys. Chem, B 2009.113,10196-10209.)等が挙げられる。
【0056】
本実施の形態におけるタンパク質の結晶化方法において、マイクロプレートは、基板と、該基板に貼り付けられた、1以上のウェル形成用貫通孔を有するマイクロプレート形成シートとによって形成されたマイクロプレートである。基板およびマイクロプレートに貼り付けられる透明なカバーは、結晶化過程の顕微鏡観察(通常光、偏光、蛍光、UV、多光子励起レーザー走査、および干渉等)、円偏光二色性スペクトル、紫外可視スペクトル、FRAP(Fluorescence Recovery After Photo-bleaching)およびFCS(FluorescenceCorrelation Spectroscopy)等の測定の他、エックス線小角散乱(SAXS)、エックス線広角散乱(WAXS)およびエックス線結晶回折等のエックス線測定が可能な素材であれば特に制限はなく、各種のガラス、天然あるいは人工石英、および窒化ケイ素等の無機素材、ならびに高分子等の有機素材を用いることができる。好ましくは、複屈折がなく、無蛍光で、かつ結晶化溶液およびタンパク質−脂質メソフェーズ試料への溶出物のない、各種のガラス、および天然あるいは人工石英が用いられる。
【0057】
脂質メソフェーズは、シリコングリース程度の粘度を有する粘稠な物質である。そのため、マイクロプレートに分注された脂質メソフェーズは、液体のような平滑表面が自然には形成されず、不規則な凸凹を有する表面を有する固まりとなる。したがってマイクロプレートに分注された脂質メソフェーズは、光を複雑に反射あるいは屈折させる。このような凸凹を有する表面を通して脂質メソフェーズ内部にある微小結晶を明確な像として観察することは、非常に困難である。さらに脂質メソフェーズの屈折率(〜1.45)は可溶化した膜タンパク質を含む溶液(〜1.33)に比べタンパク質の屈折率(〜1.5)に近いため、脂質メソフェーズ中ではタンパク質結晶のコントラストが低下する。また、脂質メソフェーズはしばしば複屈折性を示す。そのため、他の結晶化方法で常用されてきたプラスチック製マイクロプレートでは、プラスチックの複屈折により(特に偏光顕微鏡観察において)、微小タンパク質結晶の観察が困難となる。そのような理由から、脂質メソフェーズ法においては、一般的に、結晶化溶液が添加されたタンパク質−脂質メソフェーズ試料を二枚のガラス板でサンドイッチ状に挟んでガラスサンドイッチセルを形成させている(上記非特許文献4)。ガラスサンドイッチセルは、一般的には、SBS(Society for Biological Screening)標準仕様サイズの1mm厚のガラスプレート、96個の貫通孔を設けた両面接着性のプラスチックシート(厚さ約140μm)、および〜0.2mm厚のカバーグラスから構成されている。具体的には、上記のガラスプレートに、貫通孔を有する上記のプラスチックシートを貼り付け、これにより形成された96個のウェルにタンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液を分注した後、プラスチックシートの上面を上記のカバーガラスでカバーして密閉することにより、試料が挟まれたガラスサンドイッチセルを形成している。
【0058】
しかしながら、本実施の形態においては、上記の標準ガラスサンドイッチセルの他に、ガラスプレートとして、厚み30μm〜150μmの薄型ガラスプレート(ガラス基板)を用いており、カバーガラスにも、厚み30μm〜150μmの薄型ガラスプレートを用いている。すなわち、形成されるガラスサンドイッチセルは、厚み30μm〜150μmの2枚の薄型ガラスプレートに挟まれた薄型ガラスサンドイッチセルとなっている。より好適には、厚み50μm〜150μmの2枚の薄型ガラスプレートに挟まれた薄型ガラスサンドイッチセルである。以下、厚み30μm〜150μmの2枚の薄型ガラスプレートによって構成された薄型ガラスサンドイッチセルを用いることの利点について説明する。
【0059】
本発明者らが結晶化過程の詳細な検討を行った結果、タンパク質の結晶化を誘導する目的で用いられる結晶化溶液は、膜タンパク質間相互作用だけでなく、結晶化の場となる脂質メソフェーズの構造をも変化させること、そしてその構造変化もタンパク質の結晶化の成否を決める要因となることを見出した。したがって、脂質メソフェーズ法による膜タンパク質の結晶化においては、膜タンパク質間相互作用の最適化のみならず、脂質メソフェーズの構造制御も考慮した結晶化が必要である。膜タンパク質間相互作用および脂質メソフェーズ構造は互いに独立した因子であるため、これらを同時に最適化するには、従来法以上の数多くの試行錯誤を繰り返す以外の方法がなく、これが脂質メソフェーズ法のボトルネックとなっている。
【0060】
膜タンパク質間相互作用および脂質メソフェーズ構造という独立した因子の同時最適化を実施するためには、結晶化過程での結晶成長の観察と同時に、脂質メソフェーズの微細構造およびその変化を直接測定することが必須である。脂質メソフェーズの微細構造を測定する最も信頼性ある方法として、エックス線小角散乱(SAXS)法が挙げられる。しかしながら、従来の脂質メソフェーズにおいて用いられている標準ガラスサンドイッチセルはエックス線を強く吸収するため、エックス線強度の著しい低下をもたらし、実用的なSAXS測定には不適切と考えられている。
【0061】
近年、シンクロトロン放射光を用いたSAXSビームラインを用いて脂質メソフェーズ構造を測定する方法が提案されている(非特許文献6)。しかしこの方法においては、エックス線の減衰を避けるため、実際の結晶化スクリーニングで用いられる標準ガラスサンドイッチセルではなく、エックス線吸収の少ないプラスチックセルを用いて測定を行っている。したがって、実際の結晶化スクリーニングを行っている標準ガラスサンドイッチセル内の脂質メソフェーズ構造をそのまま直接測定することは、依然として困難である。また、上述したように、プラスチックセルでは結晶の観察が困難であり、小さな結晶を見逃してしまう場合がある。そのため、実際の結晶化スクリーニングをプラスチックセルで行うことは困難が伴う。また、放射光施設は利用可能時間に制限があるため、研究に必要なタイミングでの測定が保証されず必要な時点での情報が的確に得られない。さらに、実験室から放射光施設へのサンプルの運送時に生じる温度変化および機械的刺激等によるサンプル損傷等により、脂質メソフェーズ構造の変化が生じる可能性を無視できない。
【0062】
これに対し、本実施の形態の結晶化方法において形成される薄型ガラスサンドイッチセルでは、ガラスにおけるエックス線の吸収が、従来の標準ガラスサンドイッチセルと比較して極めて少なくなっている。したがって、形成された薄型ガラスサンドイッチセルを直接、通常の実験室で随時利用可能な装置にセットしてSAXS測定を行うことが可能となる。したがって、タンパク質結晶成長過程における任意の時点での脂質メソフェーズの構造およびその変化を容易に知ることができる。
【0063】
さらに、従来の脂質メソフェーズ法において形成される標準ガラスサンドイッチセルでは、以下に述べるような問題もある。
【0064】
スクリーニング過程で結晶を得た場合、それがタンパク質の結晶であるか、あるいは電解質などタンパク質以外の結晶であるかを迅速かつ的確に判別することが重要である。タンパク質結晶であることの判別は、例えばUV顕微鏡などを用いることによっても可能である。しかしながら、タンパク質結晶が得られたとしても、それが、構造解析に必要なエックス線の回折点が得られないタンパク質結晶であるケースは極めて多い。したがって、得られたタンパク質結晶が、エックス線の回折点が得られるタンパク質結晶であるか否か、さらには回折点の分解能を迅速かつ的確に判別することがさらに必要である。しかしながら、従来の脂質メソフェーズ法において形成される標準ガラスサンドイッチセルでは、上述したとおり、ガラスにおけるエックス線の吸収が大きいため、結晶のエックス線回折測定を行うことは困難である。また、このような困難を回避し、結晶のエックス線回折測定を行うために、標準ガラスサンドイッチセルから結晶を採取する場合には、カバーガラスを機械的に破壊(目的ウェルをカバーしている部分のみをカッターで切り取る等)して、ウェル内部の結晶を採取しなければならない。カバーガラスの機械的破壊は、結晶に機械的なダメージを与えることになる。また、採取過程での水分蒸発によって結晶の変質および溶解を引き起こしたり、カバーガラス破壊時に細かいガラス破片が混入したりして多くの不確定要素を伴うため、信頼ある結果が得られない。
【0065】
しかしながら、本実施の形態の結晶化方法において形成される薄型ガラスサンドイッチセルにおいては、ガラスにおけるエックス線の吸収が、従来の標準ガラスサンドイッチセルと比較して極めて少なくなっている。そのため、薄型ガラスサンドイッチセルを機械的に破壊して結晶を取り出すことなく、薄型ガラスサンドイッチセルのまま、セルに含まれるタンパク質結晶のエックス線回折実験を行うことができる。
【0066】
また、本実施の形態の結晶化方法において用いられている標準あるいは薄型ガラスサンドイッチセルを形成しているプラスチックシート(マイクロプレート形成シート)における貫通孔は、レーザ加工によって形成されている。
【0067】
レーザ加工としては、ダイオードレーザ、ヤグレーザ、およびCO2レーザ等を用いた加工機を用いることができる。一例を挙げると、CO2レーザ発振器を備えたMITSUBISHI CO2 LASER UNIT ML5036Dを用いた場合、20W〜300Wの範囲内において加工条件を調整することによって、最適な条件にて加工することができる。例えば、出力:250W、周波数:500Hz、デューティ:100%、速度:2500mm/min、補正:0.19mm、ガス圧:0.5kgf/cm、アシストガス:エア、の条件で96ウェルのマイクロプレートの加工を好適に行うことができる。
【0068】
なお、プラスチックシートを形成している素材、プラスチックシートの厚み、およびプラスチックシートの両面に形成されている接着剤層など、貫通孔以外の構成については、従来の結晶化方法において用いられているプラスチックシートにおける各構成を用いることができる。さらに、レーザ加工によって貫通孔を形成しているため、プラスチックシートの素材および厚み、接着剤の種類、ならびにウェルのサイズ、形および配置デザイン等を変更しても、容易に貫通孔を形成することができる。また、このようなレーザ加工の特性を生かせば、例えば、蒸気拡散法型の脂質メソフェーズ法結晶化といった、これまでは実施できなかった新たな結晶化手段も容易に実施可能なマイクロプレート形成シートを作成することができる。
【0069】
従来の結晶化方法において用いられているプラスチックシートは、ウェルを形成する貫通孔が機械的打ち抜き加工によって形成されている。機械的打ち抜き加工では、加工穴エッジ部にバリが形成されるとともに、加工時の機械的ストレスのため、穴と穴との間の接着剤層にも凹凸が生じてしまう。厚み30μm〜150μmの薄いカバーガラスを、凹凸のある接着剤層へ貼り付けると、カバーガラスと接着剤層との間に空隙が形成され、これにより隣接ウェル間に通路が形成されてしまう。隣接ウェル間に通路が形成されると、隣接ウェル間での水蒸気の移動が起こり、各ウェルの独立性が失われることになる。また、全体としての密封性が低下するため、数ヶ月にわたる結晶化期間中にウェル内の結晶化溶液からの水分蒸発が起こり、スクリーニングの再現性および信頼性を低下させることになる。これを防ぐためには空隙一つ一つを手作業で埋めるという補修が必要となる。しかしながら、その作業中にカバーグラスが破損する等のトラブルも発生し、実験操作を著しく煩雑にする。
【0070】
レーザ加工により貫通孔を形成したプラスチックシートでは、加工穴周辺に機械的ストレスがかかることはない。そのため、接着剤層に凹凸が生じることを防止することができる。このため、貼付けに際して上記のような問題を発生させることなくサンドイッチセルを自動作成することができる。
【0071】
以上のように、上述の実施形態における試料分注装置およびタンパク質の結晶化方法を用いることにより、湿度の精密制御が可能となるため、従来技術が扱っていた標準ガラスサンドイッチセルの作成を格段に厳密な条件下で再現性良く実施できるばかりでなく、結晶核、その前駆体の生成速度、および結晶サイズ等を湿度パラメータで制御して、より高品質な結晶を効率的に成長させるという新しい結晶化法が可能となり、蒸気拡散結晶化法等の従来の結晶化法および従来の脂質メソフェーズ法では結晶化が困難であったタンパク質についても、結晶化される可能性を高めている。
【0072】
さらには、上記の各種測定を最高性能で実施できるばかりでなく、結晶化中の脂質メソフェーズ構造の直接SAXS測定、および結晶化セル内の結晶のエックス線回折測定を、カバーガラスを破壊することなく実施できる薄型ガラスサンドイッチセルを自動作成できる。これにより、結晶化条件の合理的選択、最適化、およびホスト脂質スクリーニングを効率的に行うことができる。
【0073】
〔まとめ〕
以上のように、本発明に係る試料分注装置は、プレートチャンバー、膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料を、上記プレートチャンバー内に準備されたマイクロプレートに分注する試料分注手段、タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注手段、および上記プレートチャンバー内の湿度を調節する湿度調節装置を備えており、上記湿度調節装置は、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを上記プレートチャンバー内に供給する構成を有している。
【0074】
本発明に係る試料分注装置の上記構成によれば、内部の湿度が調節されたプレートチャンバー内において、タンパク質−脂質メソフェーズ試料のマイクロプレートへの分注、および結晶化溶液のマイクロプレートへの分注を行うことができる。また、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスをプレートチャンバー内に供給することにより、プレートチャンバー内の湿度を制御している。そのため、供給する混合ガスにおける水蒸気と乾燥ガスとの混合比を変化させることにより、プレートチャンバー内の湿度を、水蒸気の湿度値と乾燥ガスの湿度値との間の任意の湿度値に容易にかつ厳密に調節することができる。これにより、湿度が厳密に調節されたプレートチャンバー内において、試料の分注および結晶化溶液の分注を行うことができる。
【0075】
本発明に係る試料分注装置において、上記乾燥ガスは乾燥窒素ガスであることが好ましい。乾燥ガスとして乾燥窒素ガスを用いると、混合ガスの流路およびプレートチャンバー内にカビ等が発生することを防ぐことができる。
【0076】
本発明に係る試料分注装置において、上記湿度調節装置は、上記水蒸気を生成する加湿器を備えていることが好ましい。また、上記加湿器は気化型加湿器であることがより好ましい。
【0077】
本発明に係る試料分注装置において、上記プレートチャンバーの内部には、1以上の湿度センサが設けられており、上記湿度調節装置は、上記1以上の湿度センサによる測定結果に基づき、上記混合ガスにおける上記水蒸気と上記乾燥ガスとの混合割合を調節することが好ましい。
【0078】
上記構成によれば、プレートチャンバーの内部の湿度を測定し、その測定結果に基づいて水蒸気と乾燥ガスとの混合割合が調節された混合ガスが、プレートチャンバー内に供給されることになる。したがって、プレートチャンバー内部の実際の湿度に基づき、湿度を調節することができる。この機構は容易にコンピュータによる自動制御も可能である。
【0079】
本発明に係る試料分注装置において、上記湿度センサは2以上設けられていることが好ましい。
【0080】
上記構成によれば、プレートチャンバー内における湿度の均一度を確認することができる。
【0081】
本発明に係る試料分注装置において、上記プレートチャンバーの上部には、開口部が設けられている可動式の蓋が設けられていることが好ましい。
【0082】
上記構成によれば、蓋の開口部は上記混合ガスの排出口としての機能と同時に、開口部を介して、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の分注および結晶化溶液の分注を行うことができる。また、マイクロプレートにおける分注位置の変化に応じて蓋を動かすことにより、プレートチャンバーに対する開口部の相対位置を変化させることができる。そのため、マイクロプレートにおける分注位置に関わらず、常に、開口部を介して、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の分注および結晶化溶液の分注を行うことができる。したがって、試料の分注および結晶化溶液の分注を行っている間、プレートチャンバーの開口部分は、蓋の開口部のみに制限されるため、プレートチャンバー内の湿度をより厳密に調節することができる。
【0083】
本発明に係る試料分注装置においては、上記試料分注手段による上記試料の分注の様子、および上記試料分注手段における上記試料を吐出する吐出部の少なくとも何れか一方を撮像する撮像手段をさらに備えていることが好ましい。
【0084】
上記構成によれば、タンパク質−脂質メソフェーズ試料がマイクロプレートに一定量分注されたか否かを確認することができる。また、上記吐出部のウェルに対する位置合わせを行うことができる。
【0085】
本発明に係る試料分注装置においては、上記マイクロプレートの上面に透明なカバーを貼り付ける貼付手段をさらに備えていることが好ましい。
【0086】
上記構成によれば、タンパク質−脂質メソフェーズ試料および結晶化溶液を分注した後に自動で透明なカバーをマイクロプレートの上面に貼り付けることができる。これにより、透明なカバーの貼付け時における水分蒸発を最小限に抑制できるとともに、後述する薄型のサンドイッチセルの作成および作業の高効率化を実現できる。
【0087】
本発明に係る試料分注装置において、上記マイクロプレートには保護カバーが貼り付けられており、上記保護カバーを上記マイクロプレートから剥がし取る引き剥がし手段をさらに備えていることが好ましい。
【0088】
上記構成によれば、マイクロプレートが保護カバーが貼り付けられている構成である場合に、透明なカバーの貼付け直前に自動で保護カバーを剥がし取ることができる。これにより、高湿度条件下での分注作業間におけるマイクロプレート上面の接着剤層表面への水蒸気吸着による透明なカバーと接着剤層との接着力の低下に伴うウェルの気密性の低下を避けること、および作業の効率化を実現できる。
【0089】
また、本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、上記課題を解決するために、プレートチャンバーの内部に準備されたマイクロプレートに、膜タンパク質を含有する脂質メソフェーズの試料を分注する試料分注工程と、タンパク質を結晶化するための結晶化溶液を、上記マイクロプレートに分注する溶液分注工程と、分注された上記試料と、分注された上記結晶化溶液とを合わせる混合工程と、上記混合工程の後に、透明なカバーを上記マイクロプレートの上面に貼り付ける貼付け工程と、上記貼付け工程の後に、上記試料中の上記タンパク質を結晶化させる結晶成長工程とを含む、タンパク質の結晶化方法であって、上記試料分注工程および上記溶液分注工程においては、上記プレートチャンバーの内部に水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを供給することにより上記プレートチャンバーの内部の湿度を調節する構成を有している。
【0090】
なお、試料分注工程または溶液分注工程が混合工程を兼ねるものであってもよい。例えば、まず試料分注工程を実施して試料をマイクロプレートに分注し、この分注された試料に直接、溶液分注工程において結晶化溶液を分注することにより、試料と結晶化溶液とを合わせ、混合工程を実現するものであってもよい。
【0091】
上記構成によれば、水蒸気と水蒸気より低湿度の乾燥ガスとの混合ガスを供給することによりプレートチャンバーの内部の湿度を調節しているため、プレートチャンバー内の湿度を厳密に調節することができる。したがって、湿度が厳密に調節された環境において、マイクロプレートへの試料の分注および試料への結晶化溶液の添加を行うことができる。
【0092】
本発明に係るタンパク質の結晶化方法において、上記マイクロプレートは、厚みが30μm〜150μmであるガラス基板と、該ガラス基板に貼り付けられた、1以上のウェル形成用貫通孔を有するマイクロプレート形成シートとによって形成されたマイクロプレートであり、上記カバーは、厚みが30μm〜150μmのカバーガラスであることが好ましい。
【0093】
上記構成によれば、タンパク質の結晶化の場がガラス基板とカバーガラスとにサンドイッチ状に挟まれた、いわゆるサンドイッチセルが形成される。ガラス基板およびカバーガラスの厚みは何れも30μm〜150μmであるため、このサンドイッチセルでのガラスによるエックス線の吸収は小さい。したがって、サンドイッチセルの状態で、すなわちカバーガラスを剥がすことなく、各種顕微鏡観察を含めた測定の他、エックス線による脂質メソフェーズの構造解析およびタンパク質の結晶におけるエックス線の回折確認など、エックス線を用いた解析を直接適用することができる。
【0094】
本発明に係るタンパク質の結晶化方法において、上記マイクロプレート形成シートの上記ウェル形成用貫通孔は、レーザ加工によって形成されていることが好ましい。
【0095】
上記構成によれば、マイクロプレート形成シートに接着剤層が設けられている場合に、加工により形成されるウェル形成用貫通孔の周囲の接着剤層および貫通孔以外のシート部における接着剤層に凹凸が生じることを防ぐことができる。したがって、カバーガラスを貼り付ける際に、カバーガラスとウェル形成面との間に空隙が生じることを防ぐことができる。
【0096】
また、本発明に係るマイクロプレート形成シートは、基板に貼り付けられてマイクロプレートを形成する、1以上のウェル形成用貫通孔を有するマイクロプレート形成シートであって、表面に接着剤層が形成されており、上記ウェル形成用貫通孔は、レーザ加工によって形成されている構成を有している。
【0097】
上記構成によれば、マイクロプレート形成シートのウェル形成用貫通孔の周囲の接着剤層および貫通孔以外のシート部における接着剤層の凹凸は、機械的打ち抜き加工により貫通孔を形成したものと比較して少ないため、マイクロプレート形成シートにカバーガラスを貼り付ける際に、空隙の発生を抑えることができる。
【0098】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0099】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0100】
〔実施例1:湿度の制御性の評価〕
水蒸気と乾燥窒素ガスとの混合による、本実施の形態における試料分注装置のプレートチャンバー内の湿度の制御性を、湿度値 98%R.H.、70%R.H.、および25%R.H.の場合について評価した。結果を図5のA〜Cに示す。図5のA〜Cにおける横軸は、当該実験のデータ取得開始時からの時間を表している。図5のA〜Cにおける縦軸は、プレートチャンバー内の四隅に設置された各湿度温度センサによって計測された、プレートチャンバー内の湿度値を表している。湿度温度センサは、プレートチャンバー内の湿度値を5秒毎に計測している。図5のA〜Cにおいて、実線、破線、太い実線、または太い破線によって4個の各々の湿度温度センサからの測定値を示している。全てにおいて、水蒸気流量は一定とし、乾燥窒素ガスの流量調節でもって湿度値の制御を行った。図中上向きの矢印は、その時点で湿度値を上昇させるために乾燥窒素ガス流量を低下させたことを示しており、下向きの矢印は、その時点で湿度値を降下させるために乾燥窒素ガス流量を増大させたことを示している。湿度温度センサは、平衡気相の湿度値が既知の電解質水溶液(例えば、非特許文献:R.H. Stokes and R.A. Robinson, Ind. Eng.Chem., 1949, 2013)を用いて補正した。
【0101】
98%R.H.の場合(図5のA)を具体例として、結果について詳しく説明する。初め湿度値が低下傾向であったため、矢印1の時点で窒素ガス流量を減少させた。これにより湿度値の低下傾向は抑制されたが、4分後に湿度値に若干の上昇傾向がみられた。そのため、矢印2の時点で窒素流量を少し増加させた。その結果、急速な湿度値の低下が誘起されたため、矢印3の時点において再び窒素流量を微減させた。そうしたところ、それ以降は、ほぼ98%R.H.の一定値を維持した。さらに、乾燥窒素ガス流量の増減により全てのセンサ値が敏感に(5〜10秒程度で湿度値の変化が現れた)同方向の応答をしていることから、本実施の形態における試料分注装置においては、十分な応答感度をもって湿度制御が可能であることが示された。なお、このような制御性は98%R.H.の条件に限らず、70%R.H.(図5のB)、および25%R.H.(図5のC)の場合についても、同様な応答性を示している。
【0102】
以上から、本実施の形態における試料分注装置においては、広い湿度範囲で良好な制御性が得られることが示された。
【0103】
〔実施例2:湿度制御の時間安定性の評価〕
本実施の形態における試料分注装置のプレートチャンバー内に、マイクロプレートを設置して、プレートチャンバー内の相対湿度値を98%R.H.(図6のA)、90%R.H.(図6のB)、70%R.H.(図6のC)、25%R.H.(図6のD)、または5%R.H.(図6のE)に設定した場合の湿度値を、30〜40分にわたってモニターした。結果を図6のA〜Eに示す。図6のA〜Eにおける横軸は、当該実験データ取得開始時点からの時間を表している。図6のA〜Eにおける縦軸は、プレートチャンバー内の四隅に設置した4個の湿度温度センサそれぞれから得られた、チャンバー内の湿度を表している。湿度温度センサは、プレートチャンバー内の湿度値を1分毎に計測している。4つの異なる湿度温度センサからの測定値を4つの異なるシンボルで表している。
【0104】
代表例として98%R.H.の場合(図6のA)の結果について説明する。図6のAに示されるように、30分にわたり4個の各センサ値が全て、98±0.5%R.H.の範囲内に安定に制御されていた。すなわち、プレートチャンバー内の湿度が1%以内で均一に安定に制御出来ていることが示された。実際の分注作業は1マイクロプレート当たり約10分程度なので、上記の結果から、本発明の目的に十分かなう、安定な湿度制御が実施できていることが示された。また、他の湿度値設定条件でも98%R.H.の場合と本質的に同じ精度および時間安定性が確認され、1%以内での湿度制御が可能であることが示された。
【0105】
なお、図6のCに見られる湿度値の一定方向への上昇あるいは下降は、試料分注装置が設置された部屋の室内空調器の切り替え時に起こる外気温度の変動等により、加湿器の加湿性能が変動することが一因である。しかしながら、湿度値の連続モニターにより、適宜窒素流量の微調整を行えば容易に一定湿度値を維持することができる。また、分注動作に伴う蓋の移動、または試料分注用マイクロシリンジもしくは結晶化溶液分注用チップの出入りによっても、湿度制御はほとんど影響を受けなかった。本実施例では制御時間を30〜40分としたが、これをさらに時間延長することは容易である。
【0106】
以上から、プレートチャンバー内の湿度は、5%からほぼ100%にわたる広い範囲の任意の設定値において、長時間安定に湿度制御できることが示された。
【0107】
結晶化溶液の組成は非常に複雑であるため、個別の溶液について若干の変動はあるが、結晶化溶液の平均的な組成および濃度から推定した結晶化溶液と平衡にある気相の湿度は、96〜99%R.H.の範囲であると推定される。一方、タンパク質−脂質メソフェーズ試料の平衡水蒸気圧も当該タンパク質−脂質メソフェーズに含まれる水溶液の組成および濃度に依存するが、結晶化溶液と同様に96〜99%R.H.の範囲にあると推定される。したがって、湿度98%R.H.の条件は、ほとんど蒸発および結露がない条件である(下記実施例4を参照)。
【0108】
〔実施例3:湿度制御時の温度変化〕
設定湿度値を、98%R.H.と90%R.H.(図7のA)、70%R.H.と25%R.H.(図7のB)、および5%R.H.(図7のC)で湿度制御した場合のプレートチャンバー内の温度変化を測定した。結果を図7に示す。図7のA〜Cにおける横軸は、データ取得開始からの時間を示している。図7のA〜Cにおける縦軸は、5秒毎に取得される湿度温度センサからの温度値を示している。破線で示したToutは加湿器近くに設置された湿度温度センサで計測した外気温度(プレートチャンバー外の温度)である。実線で示したTchは、プレートチャンバー内の四隅に設置された4個の湿度温度センサで計測された、プレートチャンバー内の温度値である。各センサで計測された温度値は0.1℃以内で一致していたので、センサ間の区別をせず全て実線で表示した。
【0109】
プレートチャンバー内の湿度を約40分間、90%R.H.に制御し、次いで60分間、98%R.H.に制御した場合(図7のA)の結果について説明する。湿度制御を開始すると、外気温度(Tout)は上昇を始めた。これは加湿器のモータおよびファン等の部品からの発熱により外気温度が上昇したためである。プレートチャンバー内の温度(Tch)も同様に、上昇を始めた。これは上記と同じ理由で、加熱された水蒸気(加湿器出口での水蒸気温度が27〜29℃程度)がプレートチャンバー内に供給されるためである。その後90分間、プレートチャンバー内の温度は、スタート時の温度(19℃)から徐々に上昇し、19.8℃まで上昇した。しかしながらそれ以降はほぼ定常状態(19.8℃)となり、140分の実験終了までそれ以上の温度上昇は観測されなかった。
【0110】
70%R.H.と25%R.H.との湿度制御を行った場合(図7のB)の場合も、ほぼ同様の温度上昇を示した。この場合110分間の湿度制御でプレートチャンバー内の温度は約0.5℃上昇した。一方で、5%R.H.の湿度制御を行った場合(図7のC)には、温度上昇がほとんど観測されなかった。
【0111】
70%R.H.と25%R.H.との湿度制御を行った場合(図7のB)に温度上昇が小さいのは、90%R.H.と98%R.H.との湿度制御を行った場合(図7のA)に比較して、加湿器からの水蒸気導入量が少ないためである。また、5%R.H.の湿度制御を行った場合(図7のC)に、温度上昇がほとんど観測されなかったのは、加湿器を動作させていないためである。
【0112】
以上の結果から、湿度制御によるプレートチャンバー内の温度上昇は1℃以内であることが示された。
【0113】
〔実施例4:水分蒸発速度の評価〕
本実施の形態における試料分注装置のプレートチャンバー内に、マイクログプレートを設置して、プレートチャンバー内の湿度を98%R.H.に設定した。次いで、結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部によって、マイクロプレートの1列の8ウェルのそれぞれに、1μlの蒸留水を分注(時間ゼロ)した後、分注された水滴の体積の時間変化を約35分にわたって測定した。同様の測定を別の列の各ウェルに分注した水滴についても行い、計3回実験を繰り返した。各時間における水滴の体積は以下の方法を用いて求めた。所定の時間に、目盛り付マイクロガラスキャピラリ(BLAUBRAND intre MARK 1/2/3/4/5 ul)をプレートチャンバーの上部開口から差し込み、各ウェル上の水滴をキャピラリ内に吸引採取した。水滴吸引前後のキャピラリ重量の変化から、採取した水滴滴の質量を求めた。水の比重を1と仮定して体積を算出した。マイクロガラスキャピラリは、穴径0.1μmのフィルタで濾過した99%以上の無水エタノールでもってキャピラリ内壁を洗浄後、高圧窒素気流で急速乾燥した直後のものを用いた。これにより、吸い取り誤差は±3%であった。結果を図8に示す。
【0114】
図8に示されるように、分注から35分間で、約3%程度の体積の減少が測定された。マイクロプレートへの試料および結晶化溶液の分注に要する時間は、概ね10分である。したがって、結晶化プレート作製時における水分蒸発は、1%以下に抑制されている。10%までの蒸発を許容している従来の結晶作製手法における湿度管理と比較すると、10倍近い蒸発抑制を実現している。
【0115】
〔実施例5:湿度の繰り返し変化応答の評価〕
混合ガスにおける水蒸気量と乾燥窒素ガスとの混合比を調節し、プレートチャンバー内の湿度(R.H.)を繰り返し変化させた。具体的には、湿度を65%R.H.と98%R.H.との間で繰り返し変化させ、プレートチャンバー内の四隅に設置した湿度温度センサにより湿度を測定した。結果を図9に示す。図9では、4つの異なる湿度温度センサからの測定値を4つの異なるシンボルで表している。
【0116】
図9に示されるように、何れのセンサ値も、1〜3分程度で98%から65%へ、3〜5分程度で65%から98%へと再現性良く湿度変化した。
【0117】
また、プレートチャンバー内の湿度の場所依存性は、定常状態に達するまでは2%程度の不均一性を示すこともあったが、湿度値が定常状態になると1%R.H.以内で均一であった。
【0118】
〔実施例6:湿度の違いによる、結晶数、結晶サイズおよび結晶の品質の比較〕
界面活性剤であるオクチルグリコシドで可溶化したバクテリオロドプシン(bR)(10mg/ml)と、脂質である1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロシド(β−XylOC16+4)とを、45/55(w/w)の比率で混合し、bRを再構成した脂質メソフェーズ(bRメソフェーズと呼ぶ)を調製した。このbRメソフェーズについて、上述した実施形態に係る試料分注装置を用いて、以下の2つの条件で分注し、結晶化を実施した。
条件A:湿度97±1%R.H.の湿度条件で100nl/ウェルのbRメソフェーズを分注し、分注後すぐに1μlの結晶化溶液(2.3M リン酸ナトリウム・カリウム緩衝液(pH5.6))を添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。
条件B:湿度65±1%R.H.の低湿度条件で100nl/ウェルのbRメソフェーズを分注した後、65±1%R.H.で5分間インキュベートし、bRメソフェーズから水分を蒸発させた後に、1μlの結晶化溶液(2.3M リン酸ナトリウム・カリウム緩衝液(pH5.6))を添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。
【0119】
結果を図10および図11に示す。図10のAは、条件Aにおける結晶化開始1ヶ月後、bRメソフェーズ中において成長した結晶の状態を示しており、図10のBは、条件Bにおける結晶化開始1ヶ月後、bRメソフェーズ中において成長した結晶の状態を示している。また、図11は、条件AおよびBにおいて得られた結晶の大きさと数との分布を示しており、条件Aにおける分布を破線で示し、条件Bにおける分布を黒丸および黒四角で示している。何れの条件の場合も2つのウェルで結晶化を行った結果を纏めた。
【0120】
図11に示されるように、条件Aの操作では、15μm付近を中心とした、最大でも35μm程度の比較的小さな結晶が多数得られた。一方、条件Bの操作では、15μm付近の小さな結晶の数が条件Aの場合の1/2以下に減少するとともに、40〜55μmの大きな結晶が得られた。すなわち、条件Aの操作では比較的小さな結晶が多数成長したのに対し、条件Bの操作では小さな結晶数が減少し大きな結晶が成長した。
【0121】
得られた結晶について、放射光科学研究施設(PF)のビームラインBL1Aによってエックス線回折測定を行った。その結果、条件Bの操作で得られた大きな結晶は、2.3Å程度までのエックス線回折点が確認でき、P3系、61.3,61.3,100.1Åと格子定数を決定できた。一方、条件Aの操作で得られた結晶においては、エックス線の回折点があまり観測されず、また回折点が得られた場合であっても強度が弱い等、両者の結晶におけるエックス線の回折能(結晶の質)には大きな差が現れた。
【0122】
以上から、分注時の湿度条件が結晶成長過程に大きな影響があることが示され、分注時の湿度制御によって、結晶サイズの増大、および結晶のエックス線の回折能の向上が効率的に達成されることが確認された。
【0123】
〔実施例7:湿度の違いによる、結晶化速度の比較〕
実施例6と同様、オクチルグリコシドで可溶化したbR(15.5mg/ml)と、β−XylOC16+4とを、45/55(w/w)の比率で混合し、bRを再構成した脂質メソフェーズ(bRメソフェーズ)を調製した。このbRメソフェーズについて、上述した実施形態に係る試料分注装置を用いて、以下の2つの条件で分注し、結晶化を実施した。
条件C:湿度97±1%R.H.の湿度条件で50nl/ウェルのbRメソフェーズを分注し、分注後すぐに0.8μlの結晶化溶液を添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。結晶化溶液は、1.0M、1.2M、1.5M、1.7M、2.0M、2.3M、2.5Mまたは3.0Mのリン酸ナトリウム・カリウム緩衝液(pH5.6)である。
条件D:湿度55±1%R.H.の低湿度条件で50nl/ウェルのbRメソフェーズを分注した後、さらに55±1%R.H.で5分間インキュベートし、その後に、0.8μlの結晶化溶液を添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。結晶化溶液は、条件Cと同じく、1.0M、1.2M、1.5M、1.7M、2.0M、2.3M、2.5Mまたは3.0Mのリン酸ナトリウム・カリウム緩衝液(pH5.6)である。
【0124】
条件CおよびDともに、同じ条件での結晶化を3回繰り返し、結果を纏めた。結晶化過程を経時的に観察した結果を、図12に示す。図12は、結晶が初めて認められた時間(T)と結晶化溶液濃度の関係を示した図である。三角のシンボルは条件C(97%R.H.条件)での結果を示しており、四角のシンボルは条件D(50%R.H.条件)での結果を示している。
【0125】
図12に示されるように、条件Cおよび条件D何れにおいても、結晶化溶液の濃度が高くなるとともに結晶が初めて認められる時間(T)が短くなる傾向が見られた。また、条件Dは条件Cの場合と比較し、結晶が初めて認められる時間(T)が大幅に短かった。例えば、結晶化溶液の濃度が2.0M、2.3Mおよび2.5Mである場合における、結晶が初めて認められる時間(T)は、条件Dの場合、それぞれ20日、2日および1日であったのに対し、条件Cでは、それぞれ55日、25日および20日であった。すなわち、条件Cの場合、条件Dと比較して、結晶が初めて認められる時間(T)が大幅に遅かった。さらに、結晶化を3月間継続したところ、条件Dでは、結晶化溶液の全濃度条件において、結晶の成長が確認できた。一方、条件Cでは、結晶が成長したのは、結晶化溶液の濃度が2.0M以上の場合のみであった。このように、条件CおよびDとの間で、結晶成長挙動に大きな差が見られた。
【0126】
また、条件Dで得られた結晶は、偏光を示すヘキサゴナル結晶であり、2.6Åまでのエックス線回折点が確認できたが、条件Cでは、形の崩れた結晶しか得られなかった。
【0127】
以上のように、分注時の湿度条件が、結晶の質の他、結晶成長速度にも大きく影響することがわかった。
【0128】
〔実施例8:湿度の違いによる、結晶成長確率の比較〕
界面活性剤であるドデシルマルトシドで可溶化した、膜タンパク質であるプロテオロドプシン(pR)(30mg/ml)と、脂質である1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール(EROCOC17+4)とを、40/50(w/w)の比率で混合し、pRを再構成した脂質メソフェーズ(pRメソフェーズと呼ぶ)を調製した。このpRメソフェーズについて、上述した実施形態に係る試料分注装置を用いて、以下の3つの条件で分注し、結晶化を実施した。
条件E:湿度96±1%R.H.の湿度条件で50nl/ウェルのpRメソフェーズを分注した後、分注後すぐに0.8μlの結晶化溶液を添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。結晶化溶液は、0.1Mのクエン酸緩衝液(pH5.6)に、8%、7%、6%、5%または4%(w/w)のMPD、および、0.3M、0.4M、0.5M、0.6Mまたは0.7MのMgSOを含む溶液であり、MPDの濃度およびMgSOの濃度を系統的に組み合わせて、計25の異なった種類の結晶化溶液を用いている。
条件F:湿度52±1%R.H.の低湿度条件で50nl/ウェルのpRメソフェーズを分注した後、52±1%R.H.でさらに5分間インキュベートした。その後すぐに、湿度を96±1%R.H.に上昇させ、条件Eで用いたのと同じ25種の結晶化溶液を0.8μl/ウェルの条件で添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。
条件G:湿度52±1%R.H.でのインキュベート時間を10分間(条件Fの2倍の時間)とした以外は、条件Fと同じ条件で結晶化プレートを作成し、20℃、暗所で結晶化を開始した。
【0129】
20℃、暗所で一ヶ月間、結晶化を行ったが、条件E、FおよびGのいずれの場合も結晶成長が認められなかった。そこで、結晶化温度を4℃に変更し、さらに結晶化を継続したところ、結晶の成長が認められた。4℃に変更してから二ヶ月間結晶を成長させ、25種の異なった結晶化溶液において、結晶を成長させた結晶化溶液の数を表1にまとめた。
【0130】
【表1】
【0131】
表1に示されるように、低湿度条件で分注を行った条件FおよびGで結晶を成長させた結晶化溶液の割合は、それぞれ52%および64%であった。さらに、同一結晶化溶液で現れた結晶数を比較すると、条件Gにおける結晶数は、条件Fにおける結晶数の2〜5倍であり、分注時の低湿度インキュベーション時間が増加するほど、結晶化を促進する傾向が認められた。一方、条件Eでの結晶を成長させた結晶化溶液の数は条件FおよびGの半分以下に低下していた。これにより、実施例6および7とは異なった膜タンパク質・脂質系においても分注時の湿度条件がその後の結晶化挙動に大きな影響を及ぼすことが示された。
【0132】
〔実施例9:湿度の違いによる、結晶成長確率の比較〕
界面活性剤であるドデシルマルトシドで可溶化した、膜タンパク質であるARII(58mg/ml)と、脂質(11%のコレステロールを含有するモノオレイン)とを、40/60(w/w)の比率で混合し、ARIIを再構成した脂質メソフェーズ(ARIIメソフェーズと呼ぶ)を調製した。このARIIメソフェーズについて、上述した実施形態に係る試料分注装置を用いて、以下の3つの条件で分注し、結晶化を実施した。
条件H:湿度97±1%R.H.の湿度条件で50nl/ウェルのARIIメソフェーズを分注し、分注後すぐに0.8μlの結晶化溶液を添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。結晶化溶液は、0.1Mのトリス塩酸緩衝液(pH7.5またはpH8.0)に、12%、14%または16%のPEG400、および4%、5%、6%または7%のMPDを含む溶液であり、pH値、PEG400の濃度およびMPDの濃度を系統的に組み合わせて、計24種の異なった種類の結晶化溶液を用いている。
条件I:湿度65±1%R.H.の湿度条件で50nl/ウェルのARIIメソフェーズを分注し、分注後すぐに条件Hで用いたのと同じ24種の結晶化溶液を0.8μl/ウェルの条件で添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。
条件J:湿度28±2%R.H.の湿度条件で50nl/ウェルのARIIメソフェーズを分注し、分注後すぐに条件Hで用いたのと同じ24種の結晶化溶液を0.8μl/ウェルの条件で添加し、カバーガラスを貼付け、20℃、暗所で結晶化を開始した。
【0133】
条件H〜Jのそれぞれについて結晶化過程を経時的に観察した結果、条件Hの場合には、結晶が全く得られなかった。一方、条件IおよびJの場合には、それぞれ、15%および33%の結晶化溶液で、結晶の成長が確認できた。以上から、分注時の湿度が低下するとともに結晶成長確率が顕著に増加することが分かった。これにより、実施例6、7および8とは異なった膜タンパク質・脂質系においても分注時の湿度条件が結晶化挙動に大きな影響を及ぼすことが示された。
【0134】
〔実施例10:タンパク質結晶に対するエックス線回折の確認〕
厚み150μmのガラスプレートおよび厚み50μmのカバーガラスによって構成された薄型サンドイッチプレートのウェル内に保持されたリゾチーム結晶(50μm×50μm)について、SPring−8のビームラインBL−32XUにて、以下の条件でエックス線の反射測定を行った:温度 20℃、カメラ長 300mm、アッテネータ 600μm、ビームサイズ 10μm×10μm。その結果、3.1〜3.2Å程度までのエックス線回折点が確認でき、P4系、80,80,37Åと格子定数を決定できた。これにより、ガラスサンドイッチプレートのウェル内のタンパク質結晶を外部に採取することなく、そのままの状態でエックス線回折能のチェックができることを確認することができた。
【0135】
〔実施例11:タンパク質結晶化過程における脂質メソフェーズ構造の直接SAXS測定および顕微鏡観察〕
界面活性剤であるオクチルグリコシドで可溶化したバクテリオロドプシン(bR)(10mg/ml)と、脂質である1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロシド(β−XylOC16+4)とを、35/65(w/w)の比率で混合し、bRを再構成した脂質メソフェーズ(bRメソフェーズ)を調製した。このbRメソフェーズについて、上述した実施形態に係る試料分注装置を用いて、湿度97±1%R.H.の湿度条件で100nl/ウェルの条件でbRメソフェーズを50μm厚の基板ガラスを用いたマイクロプレートのウェルに分注した。次いで、1.0M、1.2M、1.5M、1.7M、2.0M、2.3M、2.5Mまたは3.0Mのリン酸ナトリウム・カリウム緩衝液1μlを、分注したbRメソフェーズに添加した後、50μm厚のカバーガラスを貼り付けてサンドイッチセルを作成し、20℃でbRの結晶化を行った。
【0136】
bRの結晶化に伴う脂質メソフェーズ構造の変化を解析するため、結晶化開始後、15分、1.5時間、2.5時間、18時間、42時間および6日後に、顕微鏡観察を行うと同時に、MicroMax−007HF(リガク社製)を用いて、40kV、30mA、エックス線照射時間2分、測定温度20℃の条件で、脂質メソフェーズ構造のSAXS測定を行った。2.3M リン酸ナトリウム・カリウム緩衝液を添加した結晶化系を例として、顕微鏡観察の結果を図13に示し、SAXS測定の結果を図14に示す。
【0137】
図13中、(A)、(C)、(E)および(F)は、それぞれ15分後、1.5時間後、18時間後および6日後における通常光顕微鏡写真を示しており、(B)および(D)は、それぞれ15分後および1.5時間後における偏光顕微鏡写真を示している。図13に示されるように、結晶化開始直後から誘起されるダイナミックなメソフェーズのモルフォロジーの変化が通常光顕微鏡写真および偏光顕微鏡写真から明瞭に観察でき、時間とともに脂質メソフェーズの複屈折が低下し最終的に等方性となることが確認でき、さらには結晶化開始6日後には10μm程度の微結晶(矢印で幾つかの結晶を示した)の生成を明瞭に確認できた。また、図14に示されるSAXS測定の結果からは、bRの結晶化過程の進行に伴い、脂質メソフェーズが複屈折性のラメラ相から等方性のPn3m型キュービック相に徐々に転移していくこと、さらにはPn3m型キュービック相の格子定数が時間とともに大きくなっていることが確認でき、顕微鏡観察だけでは得られない脂質メソフェーズの微細構造情報が得られた。
【0138】
以上のように、顕微鏡観察と共に、結晶化中の脂質メソフェーズ構造を一般的な実験室で随時利用可能なSAXS装置を用いて直接測定できることが確認された。
【0139】
〔実施例12:マイクロプレート形成シートの評価〕
機械的打ち抜き加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートについて、貫通孔のエッジ近傍の形状を共焦点顕微鏡により観察した。結果を図15に示す。図15に示されるように、機械的打ち抜き加工によって貫通孔を形成した場合には、貫通孔のエッジ部において、高さ数十μm程度の接着剤のバリが顕著に観察された。
【0140】
次に、機械的打ち抜き加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートについて、厚み50μmのカバーガラスの貼付け操作を行い、その状態を観察した。結果を図16に示す。機械的打ち抜き加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートについてカバーガラスの貼付けを行った場合には、バリの存在によってスムーズな貼付けが困難であり、完全な貼付けが実現できなかった(図16のA)。また、図16のBは、ウェル間の接着面の拡大写真を示しており、ウェル間の接着剤層とカバーガラスとの間に多数の気泡の残存が観察された。
【0141】
次に、レーザ加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートについて、貫通孔のエッジ近傍の形状を共焦点顕微鏡により観察した。結果を図17に示す。図17に示されるように、レーザ加工によって貫通孔を形成した場合には、貫通孔のエッジ部における幅100μm前後の同心円部分において接着剤層表面の高さが低くなっている(最大約20μm)ことが観察されたものの、その外側は加工の影響をほとんど受けていなかった。
【0142】
次に、レーザ加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートについて、厚み50μmのカバーガラスの貼付け操作を行い、その状態を観察した。結果を図18に示す。図18中、図18のBは、ウェル間の接着面の拡大写真を示している。図18に示されるように、レーザ加工によって貫通孔を形成したマイクロプレート形成シートについてカバーガラスの貼付けを行った場合には、機械的打ち抜き加工の場合と比較して、残存気泡もほとんど見られず、空隙がほとんどない完全な貼付けを実現できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、膜タンパク質の結晶化および結晶化条件のスクリーニングに利用することができる。
【符号の説明】
【0144】
1 試料分注装置
2 試料分注マイクロディスペンサ部(試料分注手段)
3 結晶化溶液分注マイクロディスペンサ部(溶液分注手段)
4 プレートチャンバー
5 カバー貼付け部(貼付手段)
5a カバー貼付け部本体(貼付手段)
5b 支持部(貼付手段)
6 ディスポーザブルチップラック
7 結晶化溶液ラック
8 分注観察部(撮像手段)
9 乾燥窒素ガス発生装置
10 気化型加湿器
11 湿度調節装置
12 蓋
14 湿度センサ
15 スリット(開口部)
20 保護カバー取り外し爪(引き剥がし手段)
25 設置台
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
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