(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動力源側の駆動プーリ及び車輪側の従動プーリの間にかけ渡されたベルトと、電動アクチュエータとを含む無段変速装置であって、前記駆動プーリ及び前記従動プーリのうち、少なくとも一方のプーリは、固定シーブと、前記固定シーブに対し移動可能に配置された移動シーブとを含み、前記電動アクチュエータは、前記移動シーブの移動によりシーブ間距離を変更する前記無段変速装置と、
前記電動アクチュエータの駆動を制御する制御装置と、
前記駆動プーリの入力軸回転速度を検出する入力回転検出部と、
前記従動プーリの出力軸回転速度を検出する出力回転検出部とを備え、
前記制御装置は、
複数の速度関係であって、それぞれの前記速度関係が前記入力軸回転速度と前記出力軸回転速度との関係である前記複数の速度関係から、車両の運転状態に応じて1つの前記速度関係を選択し、選択された1つの前記速度関係と、前記入力軸回転速度及び前記出力軸回転速度の検出値とに応じて前記シーブ間距離を変更し、かつ、複数の前記速度関係を複数のマップとして記憶し、
さらに、前記車両の運転状態であるアクセルペダルのペダル位置を検出し、ペダル位置信号を前記制御装置に送信するアクセルペダルセンサと、
前記車両の運転状態として、前記動力源であるエンジンのスロットル弁の開度を検出し、開度信号を前記制御装置に送信するスロットル開度検出部とを備え、
前記制御装置は、入力された前記開度信号が表わす前記開度に対する前記入力軸回転速度の検出値の比が所定値以上であれば、車軸に対する負荷である車軸負荷が小さいと判定し、前記複数のマップからノーマルモードの前記マップを選択し、前記開度に対する前記入力軸回転速度の検出値の比が所定値未満であれば、前記車軸負荷が大きいと判定し、前記複数のマップから、前記ノーマルモードより同じ前記出力軸回転速度に対して前記入力軸回転速度が高いパワーモードの前記マップを選択し、選択された前記マップを用いて前記ペダル位置及び前記入力軸回転速度の検出値に対応する前記出力軸回転速度が得られるように、前記シーブ間距離を変更して前記無段変速装置の減速比を変更することを特徴とする車両用無段変速制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下では、車両用無段変速制御システムを搭載する車両が、必要な場合に牽引作業を行うための作業用部材である牽引部材を持つ場合を説明するが、これは例示である。例えば、車両は、牽引部材を持たず、荒地、岩山等の不整地を走行するオフロード車、または除雪作業、掘削作業、土木作業、農作業のいずれか1つ以上の作業を行う作業用部材を有する作業車両、またはオフロード車及び作業車両の両方の機能を有するオフロード型多用途車両(Utility Vehicle)としてもよい。また、車両の駆動方式として、前輪のみまたは後輪のみの駆動でもよい。なお、以下ではすべての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
【0014】
(車両の全体構成)
図1から
図9は、実施形態を示す図である。
図1は、本実施形態の車両用無段変速制御システム12を搭載する作業車両である車両10の全体構成を示す概略図を示している。
図2は、
図1の車両10に搭載される無段変速制御システム12の構成をブロック図で示している。
【0015】
図1に示す車両10は、車体の前後に支持された車輪である前輪14及び後輪16と、車室内に設けられた
図2に示す操作要素群18と、エンジン20と、無段変速制御システム12と、動力伝達機構22とを備える。なお、作業時に必要な場合には、車両10に牽引部材17を設けることもできる。
【0016】
牽引部材17は、車体の後部に後方に延出して設けられたアーム23と、アーム23上側に設けられたヒッチボール25とを含む。ヒッチボール25は、トレーラ154の前側に設けられた被牽引部156を上下方向の軸を中心とする回動を可能に係合させて、車両10でトレーラ154を牽引する牽引作業を可能に構成される。牽引部材17は、作業時である牽引時に走行に対する大きな負荷であるトレーラ154の重量が加わる。
【0017】
操作要素群18は、図示しない運転席の前側に設けられた加速指示部であるアクセルペダル24及び制動操作部であるブレーキペダル26と、車両10の左右方向中央付近に設けられた第2制動操作部であり、上下に揺動変位可能なパーキングブレーキレバー28と、図示しないステアリング操作子と、
図2に示す変速指示部である変速レバー30とを有する。
【0018】
ブレーキペダル26は、前輪14及び後輪16の一方または両方に設けられた油圧式の制動装置に油圧を供給するマスタシリンダのピストンにリンクまたはロッドで連結され、ユーザの操作である踏み込みにより制動装置を作動させ、車輪を制動するように構成される。パーキングブレーキレバー28は、前輪14及び後輪16の一方または両方に設けられた制動維持装置にリンクまたはワイヤで連結され、ユーザの操作である引き上げにより制動維持装置を作動させ、車輪の制動または制動維持を行うように構成される。なお、
図1の後述するプロペラ軸32のPで示す位置に、パーキングブレーキレバー28に連動してプロペラ軸32の回転を停止させるセンターブレーキ装置を制動維持装置として設けてもよい。ステアリング操作子は、例えばステアリングホイールにより構成され、アッカーマン方式の操舵機構により前輪14を操舵可能に連結される。
【0019】
変速レバー30は、前進の高速段位置であるFH位置と、前進の低速段位置であるFL位置と、中立位置であるN位置と、後進位置であるR位置とのいずれかへの切替を可能とするように、前後への揺動変位を可能に車体に支持される。なお、変速レバー30として、前進位置であるF位置と、中立位置であるN位置と、後進位置であるR位置とのいずれかへの切替を可能とする構成を用いてもよい。
【0020】
エンジン20は、前輪14及び後輪16の動力源として用いられ、後述するエンジン始動部34によって始動される。エンジン20は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを含む複数種類の形式のいずれを用いてもよい。また、車両にエンジン20とエンジン20により駆動され発電する発電機と、発電機で発電した電力を直接またはバッテリを介して供給することで駆動するモータとを搭載したハイブリッド型としてもよい。エンジン20の吸入空気量はスロットル弁の開度で調節され、スロットル弁の開度が大きくなるほど吸入空気に混入される燃料の量が増大してエンジン20の回転速度が上昇する。スロットル弁の開度は、後述のエンジン制御部で制御されるが、通常はエンジン効率のよい予め設定された一定回転速度で回転するように制御される。アクセルペダル24のペダル位置の検出信号が後述する制御装置70に送信される。制御装置70は、ペダル位置が表すアクセルペダル24の踏み込み量の増大に応じて、後述する無段変速装置68の減速比を最大減速比から最小減速比に向けて小さくするように制御する。
【0021】
無段変速制御システム12は、エンジン20の出力軸21に連結されたCVT入力軸36の動力を変速してCVT出力軸38に出力するためのものであり、エンジン20と前輪14及び後輪16との間の動力伝達経路のエンジン20側に設けられる。無段変速制御システム12の詳細構造は後述する。
【0022】
動力伝達機構22は、動力伝達経路の前輪14及び後輪16側に設けられ、無段変速制御システム12のCVT出力軸38の動力が入力されて、前輪14に連結された左右の前車軸40,42及び後輪16に連結された左右の後車軸44,46のそれぞれに動力を出力する。動力伝達機構22は、副変速装置である変速歯車装置48、後車軸44,46、第1動力変換機構50、プロペラ軸32、第2動力変換機構52、前側差動歯車装置54、及び前車軸40,42を含む。
【0023】
変速歯車装置48は、ケース55内で第1変速軸49の周囲に配置された駆動歯車群56と、ケース55に第1変速軸49と平行でかつ回転可能に支持された第2変速軸58と、ケース55内で第2変速軸58の周囲に配置された従動歯車群60と、後側差動歯車装置62とを有する。第1変速軸49は、CVT出力軸38に同軸に固定される。駆動歯車群56は、第1変速軸49に固定された駆動側高速歯車、駆動側低速歯車及び駆動側後進歯車を有する。従動歯車群は60、第2変速軸58の周囲に相対回転可能に配置された従動側高速歯車、従動側低速歯車及び従動側後進歯車を有する。駆動側高速歯車、駆動側低速歯車、従動側高速歯車及び従動側低速歯車はいずれも変速歯車である。
【0024】
従動側低速歯車は駆動側低速歯車に噛合され、従動側高速歯車は駆動側高速歯車に噛合される。従動側後進歯車は、図示しない後進歯車軸に固定された中間歯車を介して駆動側後進歯車に噛合される。この場合、第2変速軸58の周囲で従動側前進歯車及び従動側後進歯車の間には図示しないクラッチスライダが配置される。クラッチスライダは、第2変速軸58または第2変速軸58に固定されたスプラインハブに、相対回転不能で軸方向の摺動可能にスプライン係合される。クラッチスライダは、図示しないクラッチフォーク及びリンク機構を介して変速レバー30に連結される。
【0025】
変速レバー30の操作に伴いクラッチスライダが軸方向に移動することで、従動側前進歯車または従動側後進歯車にクラッチスライダが係合して、従動側前進歯車または従動側後進歯車が第2変速軸58に固定される。
【0026】
また、第2変速軸58の周囲で従動側低速歯車と従動側高速歯車との間に、図示しないクラッチフォーク及びリンク機構を介して変速レバー30に連結された第2クラッチスライダが配置される。第2クラッチスライダは、第2変速軸58または第2変速軸58に固定されたスプラインハブに、相対回転不能で軸方向の摺動可能にスプライン係合される。
【0027】
後側差動歯車装置62は、第2変速軸58に固定された中間出力歯車と噛合する出力歯車と、差動歯車とを有し、出力歯車の回転を左右の後車軸44,46に伝達するとともに、車両10の旋回に応じて左右の後車軸44,46の回転を変化させる。
【0028】
第1動力変換機構50は、複数の歯車を含み、ケース55から突出した第2変速軸58の回転を、車両10の前後方向に沿った軸を中心とする回転方向に変換してプロペラ軸32に伝達する。プロペラ軸32はエンジン20の下側を通過して、第2動力変換機構52に連結される。第2動力変換機構52は、複数の歯車を含み、プロペラ軸32の回転を車両10の左右方向に沿った軸を中心とする回転方向に変換して、前車軸40と前側差動歯車装置54の入力軸とに伝達する。前側差動歯車装置54は、車両の旋回に応じて入力軸及び前車軸42の回転を変化させる。なお、前側差動歯車装置54は、第2動力変換機構52と前車軸42との間に設けてもよい。また、第2動力変換機構52の出力軸の回転を前側差動歯車装置54に入力し、前側差動歯車装置54に出力軸として左右の前車軸40,42を連結してもよい。
【0029】
この構成により、低速段の駆動側低速歯車及び従動側低速歯車と、高速段の駆動側低速歯車及び従動側低速歯車とは、後述する無段変速装置68の従動プーリ98と前輪14及び後輪16との間に選択的に接続される。例えば、ユーザの変速レバー30の操作により前進の低速段を表すFL位置が選択された場合にクラッチスライダが従動側低速歯車と係合して、駆動側低速歯車及び従動側低速歯車が従動プーリ98と前輪14及び後輪16との間に選択的に接続される。この場合、車両10の低速段での前進が可能となる。一方、ユーザの変速レバー30の操作により前進の高速段を表すFH位置が選択された場合にクラッチスライダが従動側高速歯車と係合して、駆動側高速歯車及び従動側高速歯車が従動プーリ98と前輪14及び後輪16との間に選択的に接続される。この場合、車両10の高速段での前進が可能となる。また、R位置が選択された場合に、クラッチスライダが従動側後進歯車と係合して車両の後進が可能となる。変速レバー30の変位によりN位置が選択された場合、クラッチスライダが従動側低速歯車と従動側後進歯車との間に配置され、従動側低速歯車及び従動側後進歯車のいずれとも係合しないニュートラル状態となる。この場合には、CVT出力軸38の回転は前車軸40,42及び後車軸44,46のいずれにも伝達されない。このため、エンジン20の駆動中でも車両10は駆動停止状態となる。
【0030】
なお、変速歯車装置48の構成は上記の構成に限定するものではなく、種々の構成を採用できる。例えば、変速レバー30で前進側として1段のみを選択可能とする場合には、駆動側高速歯車及び従動側高速歯車を省略し、駆動側低速歯車及び従動側低速歯車を前進用として用いればよい。また、変速レバー30は、
図2のように前後方向にのみ移動可能な構成ではなく、H形またはクランク形に移動可能な構成を採用してもよい。
【0031】
(無段変速制御システムの全体構成)
図2に示すように、無段変速制御システム12は、操作側センサスイッチ群64と、電源であるバッテリ66と、エンジン始動部34と、駆動側センサスイッチ群67と、無段変速装置68と、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる制御装置70と、表示機71と、アクチュエータドライバ72とを含んでいる。
【0032】
操作側センサスイッチ群64は、キースイッチ74、加速指示検出部であるアクセルペダルセンサ76、制動指示手段であるブレーキペダルスイッチ78、第2制動指示手段であるパーキングレバースイッチ80、レバー位置検出手段である変速レバースイッチHS,LS,NS,RS,及び切替指示手段であるモード切替スイッチ150を含む。
【0033】
キースイッチ74は、ユーザがキーを差し込んだ状態で、そのキーをひねる手動操作に応じてオンとオフとが切り替えられ、オンオフ状態を表す信号を制御装置70に出力する。始動停止指示部として、キースイッチ74以外に、キーを必要とせずにオンオフの切り替え可能なスイッチ、または押圧ごとにオンオフが切り替わる押しボタンを用いてもよい。
【0034】
アクセルペダルセンサ76は、車両の運転状態の1つであるアクセルペダル24の加速操作位置であるペダル位置を検出する。ブレーキペダルスイッチ78は、ブレーキペダル26がユーザによって操作される、すなわち踏み込まれる場合にオンされ、ブレーキペダル26がユーザによって操作されたことを取得する。ブレーキペダルスイッチ78は、ブレーキペダル26が非操作、すなわち踏み込まれない場合にオフされる。なお、ブレーキペダルスイッチ78の代わりに、またはこれとともに、ブレーキペダル26の踏み込み量を測定するセンサを用いて、このセンサによりブレーキペダル26が操作されたか否かを検出し、それを表す信号に応じて後述する無段変速装置68のシーブ間距離を制御することもできる。
【0035】
パーキングレバースイッチ80は、パーキングブレーキレバー28が上側に操作された場合にオンされ、下側に戻された場合にオフされる。変速レバースイッチHS,LS,NS,RSは、変速レバー30の複数の操作位置のFH,FL,N,R位置にそれぞれ対応して設けられた複数のスイッチを含む。各変速レバースイッチスイッチHS,LS,NS,RSは、変速レバー30が対応する操作位置に操作された場合にオンされ、異なる位置に操作された場合にオフされることで、変速レバー30の操作位置を検出する。
【0036】
図3に示すように、モード切替スイッチ150は、運転席の周辺部にユーザに操作可能に設けられ、操作部151をつまんで操作することでパワーモード、ノーマルモード、第1エコノミーモード、第2エコノミーモードの4つの変速モードのいずれか1つを選択して指示することを可能に構成される。4つの変速モードは、後述する
図4に示す無段変速装置68の駆動プーリ102と従動プーリ98との回転速度の関係である4種類の速度関係を表す。
図3でPower、Normal、Eco1、Eco2はそれぞれパワーモード、ノーマルモード、第1エコノミーモード、第2エコノミーモードに対応する。パワーモードは高トルクでの走行を優先するモードであり、ノーマルモードは基準となる標準設定モードであり、第1エコノミーモードは高い燃費性能での走行を優先するモードであり、第2エコノミーモードは第1エコノミーモードよりもさらに高い燃費性能での走行を優先するモードである。なお、モード切替スイッチ150は4種類のモード切り替えに限定するものではなく、2種類以上のモードの切替を可能とするものであればよい。
【0037】
図2に戻って示すように、アクセルペダルセンサ76は、検出ペダル位置を表す信号を制御装置70に送信する。キースイッチ74及び変速レバースイッチHS,LS,NS,RSのそれぞれは、それぞれのオンオフ状態を表す信号を制御装置70に送信する。ブレーキペダルスイッチ78は、ブレーキペダル26がユーザによって操作されたことを取得した場合に、車両の制動の指示を表す制動指示信号を制御装置70に送信する。パーキングレバースイッチ80は、パーキングブレーキレバー28がユーザによって操作されたことを取得した場合に、車両10の制動または制動維持の指示を表す制動指示信号を制御装置70に送信する。
【0038】
モード切替スイッチ150は、操作部151がユーザによって操作されたことを取得して、切替指示信号を制御装置70に送信する。切替指示信号は、それぞれが無段変速装置68の駆動プーリ102の入力軸回転速度N1と従動プーリ98の出力軸回転速度V2との関係である複数の速度関係の切替の指示を表す。
【0039】
なお、以下では、アクセルペダル24が操作されることをアクセルオンとし、アクセルペダル24が非操作となることをアクセルオフとする。同様に、ブレーキペダル26またはパーキングブレーキレバー28が操作されることをブレーキオンとし、ブレーキペダル26またはパーキングブレーキレバー28が非操作となることをブレーキオフとする。
【0040】
バッテリ66は、制御装置給電リレー82を介して制御装置70に接続される。電源としてバッテリ66以外に、キャパシタを使用してもよい。制御装置給電リレー82は、バッテリ66と制御装置70との間に接続され、キースイッチ74のオンによりオンされ、キースイッチ74のオフによりオフされるように、制御装置70によって制御される。
【0041】
エンジン始動部34は、セルモータを含み、バッテリ66からセルモータに電力が供給された場合に駆動され、エンジン20を始動する。エンジン始動部34は、始動部給電リレー86を介してバッテリ66に接続される。始動部給電リレー86は、バッテリ66とエンジン始動部34との間に接続され、キースイッチ74のオンによりオンされ、キースイッチ74のオフによりオフされるように、制御装置70によって制御される。
【0042】
駆動側センサスイッチ群67は、入力回転検出部でありエンジン回転センサであるCVT入力軸回転センサ90と、ニュートラルスイッチ92と、出力回転検出部でありCVT出力軸回転センサ94と、後述するシーブ位置センサ96とを含む。CVT入力軸回転センサ90は、CVT入力軸36と一体に回転するエンジン20の出力軸21の回転速度を、CVT入力軸回転速度N1として検出し、その回転速度N1を表す信号を制御装置70に送信する。ニュートラルスイッチ92は、変速歯車装置48でニュートラル状態となった場合に、そのニュートラル状態の成立を検出し、その成立を表す信号を制御装置70に送信する。CVT出力軸回転センサ94は、
図1に示す従動プーリ98の出力軸であるCVT出力軸38の回転速度を検出し、その回転速度の検出値を表す信号を制御装置70に送信する。CVT出力軸38の周囲に
図1に示す従動プーリ98が設けられる。なお、「回転速度」の意味には、単位時間当たり、例えば毎分当たりの回転速度である回転数も含まれる。
【0043】
(無段変速装置の構造)
図4は、無段変速装置68において、通常最大減速比が実現される場合の断面図を示している。無段変速装置68は、変速機ケース100に回転可能に支持されたCVT入力軸36及びCVT出力軸38と、CVT入力軸36の外径側に設けられた駆動プーリ102と、CVT出力軸38の外径側に設けられた従動プーリ98と、駆動プーリ102及び従動プーリ98にかけ渡された金属製のベルト104と、電動アクチュエータ106とを含む。無段変速装置68は、エンジン20と前輪14及び後輪16との間に動力伝達可能に接続される。
【0044】
CVT入力軸36は、エンジン20の出力軸21と同軸に固定される。CVT出力軸38は、CVT入力軸36と平行に配置される。駆動プーリ102は、変速機ケース100内に設けられた第1固定シーブ108及び第1移動シーブ110を含む。第1固定シーブ108は、CVT入力軸36の一端部外周面に径方向に突出するように一体形成される。第1移動シーブ110は、第1固定シーブ108に対して軸方向の移動可能で、かつ、相対回転不能にCVT入力軸36の軸部112の周囲に配置される。第1移動シーブ110は、変速機ケース100との間にバネ114を取り付けることにより軸方向に関して第1固定シーブ108から離れる方向に付勢される。
図1、
図2に示すシーブ位置センサ96は、第1移動シーブ110の軸方向位置を検出し、その軸方向位置を表す信号を制御装置70に送信する。なお、エンジン20の出力軸21とCVT入力軸36とをトルクコンバータを介して連結してもよい。この場合、CVT入力軸回転センサ90は、CVT入力軸36の回転速度を検出するように設ける。
【0045】
従動プーリ98は、変速機ケース100内に設けられた第2固定シーブ116及び第2移動シーブ118を含む。第2固定シーブ116は、CVT出力軸38の一端部外周面に径方向に突出するように一体形成される。第2移動シーブ118は、第2固定シーブ116に対して軸方向の移動可能で、かつ、相対回転不能にCVT出力軸38の軸部120の周囲に配置される。第2移動シーブ118は変速機ケース100との間に設けられたバネ122により軸方向に関して第2固定シーブ116に近づく方向に付勢される。この構成により、駆動プーリ102及び従動プーリ98からベルト104に張力が付与され、しかもその張力が一定に維持される。CVT出力軸38は、外周面において、第2固定シーブ116の根元部に設けられた移動制限部である段差面124を有する。段差面124は、CVT出力軸38の軸方向に対し直交する平面上に位置し、第2移動シーブ118が第2固定シーブ116に近づく場合に、第2移動シーブ118の一端部が突き当たることで軸方向移動を制限する。なお、移動制限部はこのような構成に限定するものではなく、CVT出力軸38またはCVT出力軸38に固定の部材に形成されて、第2移動シーブ118の第2固定シーブ116に対する接近を制限するものであればよい。
【0046】
電動アクチュエータ106は、両方向に回転可能な電動モータ126と、電動モータ126の回転に応じて、第1移動シーブ110を軸方向に移動させるボールねじ機構128とを有する。ボールねじ機構128は、電動モータ126の回転軸に固定された小歯車130と、外周面に小歯車130と噛合する歯車部を有する外側ねじ部材132と、外側ねじ部材132の内径側に配置された内側ねじ部材134と、内側ねじ部材134及び外側ねじ部材132の間に配置された複数のボール136とを含む。内側ねじ部材134は、変速機ケース100に固定される。複数のボール136は、外側ねじ部材132の内周面の螺旋溝と内側ねじ部材134の外周面の螺旋溝との間に配置される。外側ねじ部材132と第1移動シーブ110との間に軸受138が配置される。電動モータ126は、後述する制御装置70により制御される。
【0047】
電動モータ126の一方向の回転により小歯車130と噛合する外側ねじ部材132が一方向に回転しながら
図4の左側に移動した場合に、第1移動シーブ110もバネ114により
図4の左側に移動し、固定シーブ108及び移動シーブ110同士のシーブ間距離は大きくなる。この場合、駆動プーリ102でのベルト104の巻きかけ長さは小さくなり、第2移動シーブ118は、バネ122の付勢力により第2固定シーブ116に近づくように
図4の左側に移動する。このため、駆動プーリ102に対するベルト104の巻きかけ位置が内径側に移動し、逆に従動プーリ98に対するベルト104の巻きかけ位置は外径側に移動する。この場合、駆動プーリ102の回転が減速されて従動プーリ98に伝達される。
【0048】
図5(a)(b)は、通常最大減速比が実現される場合の駆動プーリ102及び従動プーリ98のベルト104の巻きかけ位置を示している。「通常最大減速比」は、プーリ102,98間でベルト104の滑りがなく動力が伝達される場合の最大減速比である。一方、後述するように通常最大減速比状態から駆動プーリ102のシーブ間距離が離れることで、減速比が大きくなる場合があるが、この場合はベルトがプーリ102,98に対し滑り、プーリ102,98間でほとんど動力が伝達されなくなる。
図5では駆動プーリ102のシーブ間距離d1は大きくなり、従動プーリ98のシーブ間距離d2は小さくなる。この場合、CVT出力軸38の回転速度N2に対するCVT入力軸36の回転速度N1の比である、無段変速装置68の減速比N1/N2は最大になるので、エンジン20の回転が最大に減速されてCVT出力軸38に伝達される。
【0049】
一方、
図4において、電動モータ126の他方向の回転により外側ねじ部材132が回転しながら
図4の右側に移動した場合、外側ねじ部材132は軸受138を介して第1移動シーブ110をベルト104側に押圧しシーブ間距離は小さくなる。この場合、駆動プーリ102でのベルト104の巻きかけ長さは大きくなり、第2移動シーブ118はバネ122の付勢力に抗して第2固定シーブ116から離れるように
図4の右側に移動する。このため、駆動プーリ102に対するベルト104の巻きかけ位置が外径側に移動し、従動プーリ98に対するベルト104の巻きかけ位置は内径側に移動する。この場合、駆動プーリ102の回転は増速されて、すなわち減速比が1よりも小さくなって従動プーリ98に伝達される。
【0050】
図6(a)(b)は、最小減速比が実現される場合の駆動プーリ102及び従動プーリ98のベルト104の巻きかけ位置を示している。
図6では駆動プーリ102のシーブ間距離d1は小さくなり、従動プーリ98のシーブ間距離d2は大きくなる。この場合、無段変速装置68の減速比N1/N2は最小になるので、エンジン20の回転が最大に増速されてCVT出力軸38に伝達される。
【0051】
一方、駆動プーリ102では
図4のように通常最大減速比が実現された後、第1移動シーブ110が第1固定シーブ108からさらに離れて、シーブ間距離が予め設定された所定量以上となり、第1移動シーブ110の一端部がCVT入力軸36の一部またはCVT入力軸36に固定された部材に突き当てられた状態で、
図7に示す状態となる。この状態で、駆動プーリ102での第1移動シーブ110と第1固定シーブ108との間でのベルト104の挟み込みが解除されて、ベルト104の内周面がCVT入力軸36の軸部112の外周面に接触する。この状態でCVT入力軸36及び従動プーリ98からベルト104に付与される張力が0となるようにベルト104及びベルト104がかけ渡される部分の寸法が規制される。この状態で、CVT入力軸36の回転はベルト104に伝達されず、ベルト104に対しCVT入力軸36は空回りする。また、
図4の従動プーリ98では、第2移動シーブ118の一端部がCVT出力軸38の段差面124に突き当たるまで、第2移動シーブ118がバネ122の付勢力により移動制限部である第2固定シーブ116に接近する。「通常最大減速比」は、駆動プーリ102でのシーブ間距離が所定量未満となり、駆動プーリ102と従動プーリ98との間でベルト104によってすべりがなく動力が伝達される場合の最大減速比である。
【0052】
図2に戻って、制御装置70は、CPU、メモリ等の記憶部を有するマイクロコンピュータを含み、車速算出部141と、図示しないベルト挟み込み解除部及びエンジン制御部と、記憶部144と、速度関係選択部146と、変速制御部147とを有する。
【0053】
車速算出部141は、CVT出力軸回転センサ94で検出されたCVT出力軸38の出力軸回転速度N2と、変速レバースイッチHS,LS,NS,RSで検出された変速レバー30の操作位置とから車速を算出する。ベルト挟み込み解除部は、ブレーキペダルスイッチ78またはパーキングレバースイッチ80から制動指示信号が入力された場合、すなわちブレーキオンがされた場合に、
図7に示したように、駆動プーリ102のシーブ間距離を予め設定された所定量以上に大きくし、固定シーブ108と移動シーブ110とによるベルト104の挟み込みを解除する。制御装置70は、ブレーキオフでは第1移動シーブ110を第1固定シーブ108に近づけて、ベルト104を挟み込み状態とする。このため、ブレーキオン状態では無段変速装置68での動力伝達が遮断される。
【0054】
記憶部144は、モード切替スイッチ150で選択可能な複数の変速モードに対応する複数の速度関係を、複数のマップとして記憶している。
図8は、記憶部144で記憶された複数の速度関係であって、それぞれの速度関係が、CVT入力軸回転速度N1とCVT出力軸回転速度N2との関係である複数の速度関係を、1つのマップで一緒に示している。
図8では、太線実線aでパワーモードを示しており、破線bでノーマルモードを示しており、一点鎖線cで第1エコノミーモードを示しており、二点鎖線dで第2エコノミーモードを示している。
図8のマップは、それぞれの変速モードでアクセルペダル24が完全に踏み込まれた場合に対応するスロットル弁開度の全開であるアクセル開度100%の場合を示しており、アクセル開度が100%でない中間開度の場合は、そのアクセル開度のパーセンテージに対応して速度関係が設定される。例えば、
図8の太線実線aのパワーモードでCVT出力軸回転速度N2がNdである場合に、アクセル開度100%、75%、50%、25%、0%に対応して点A1,A2,A3,A4、A5のCVT入力軸回転速度N1が設定される。
図8のいずれのモードを表す線でも、入力軸回転速度N1が高くなるのに従って出力軸回転速度N2も高くなる。一方、少なくとも出力軸回転速度N2の予め設定されたある領域e1内で、同じ出力軸回転速度N2に対してパワーモード、ノーマルモード、第1エコノミーモード、第2エコノミーモードの順に入力軸回転速度N1は高くなっている。
【0055】
図8では、Niにより、変速歯車装置48がニュートラル状態で、しかも駆動プーリ102でベルト104の挟み込みが解除された場合のエンジン20のアイドル回転速度を示している。CVT出力軸回転速度N2の領域e2では、駆動プーリ102でベルト104が滑っている状態の速度関係を示しており、領域e3で減速比N1/N2が最大となる通常最大減速比状態の場合を示している。
【0056】
図8の各モードで領域e3では減速比は通常最大減速比で一定になるが、各モードで減速比が変更される変速開始点は各モードで異なっている。例えばアクセル開度100%の場合でパワーモードでは点P1が、点P1よりも高速側で減速比が小さくなるように変速が開始される変速開始点となり、ノーマルモード、第1エコノミーモード、第2エコノミーモードではそれぞれ点P2、点P3、点P4が変速開始点となる。
【0057】
なお、複数の変速モードを表す関係は、
図8のマップに限定されるものではなく種々のマップを採用できる。例えば、
図9のように、CVT出力軸回転速度N2のNgで最大減速比となり、Ng以上の回転速度で各変速モードが設定されるすべての領域で、N2の上昇に対するN1の上昇の比である傾きがパワーモードa、ノーマルモードb、第1エコノミーモードc、第2エコノミーモードdで異なるように、複数のマップが設定されてもよい。この場合、Ng以上の出力軸回転速度N2で、同じ出力軸回転速度N2に対してパワーモードa、ノーマルモードb、第1エコノミーモードc、第2エコノミーモードdの順に入力軸回転速度N1は高くなっている。
【0058】
また、モード切替スイッチ150の選択可能なモード数の変更に応じて、マップを任意の数に設定することができる。例えば、変速モードとして2つまたは3つまたは5つ以上の任意のモードを選択可能に設定することができる。
【0059】
速度関係選択部146は、記憶部144に記憶された複数の変速モードのマップから、モード切替スイッチ150による切替指示信号の入力に応じて1つのマップを選択する。例えば
図3のモード切替スイッチ150でパワーモードが指示された場合、アクセル開度100%で速度関係選択部146は
図8の太線実線aのパワーモードの速度関係を選択する。
【0060】
変速制御部147は、選択された1つのマップと、検出されたCVT入力軸回転速度N1及びCVT出力軸回転速度N2と、アクセルペダルセンサ76の検出ペダル位置が表すアクセル開度とから、選択されたマップでアクセル開度及びCVT入力軸回転速度N1に対応するCVT出力軸回転速度N2が得られるように、無段変速装置68の減速比を制御する。この場合、変速制御部147は、アクチュエータドライバ72を介して、電動アクチュエータ106の電動モータ126を駆動を制御し、第1移動シーブ110を移動させる。アクチュエータドライバ72は、インバータを有し、制御装置70からの制御信号に応じて電動モータ126の駆動電流を発生して、電動モータ126を駆動する。例えば、
図8の太線実線aのパワーモードのマップが選択された場合で、検出されたCVT入力軸回転速度N1がNeで、アクセル開度が25%である場合には、変速制御部147は、減速比がNe/Ndとなるように無段変速装置68を制御する。この場合、CVT入力軸回転速度N1及びCVT出力軸回転速度N2の検出値に応じて、電動アクチュエータ106の駆動によりシーブ間距離が変更される。この場合、変速制御部147は、選択された1つのマップにCVT入力軸回転速度N1及びCVT出力軸回転速度の検出値N2の関係が近づく、または一致するように、シーブ間距離を変更する。なお、エンジン20では、運転時に効率のよい一定回転速度での回転が維持するように制御される。
【0061】
なお、制御装置70は、キースイッチ74がオンからオフに切り替えられた場合でも、変速レバースイッチHS,LS,NS,RSからの検出信号によるN位置への切り替えと、ニュートラルスイッチ92からの検出信号によるニュートラル状態の成立との両方が検出されない場合には、制御装置給電リレー82をオフしない構成としてもよい。また、制御装置70は、キースイッチ74がオフからオンに切り替えられた場合でも、変速レバースイッチHS,LS,NS,RSからの検出信号によるN位置への切り替えと、ニュートラルスイッチ92からの検出信号によるニュートラル状態の成立との両方が検出されない場合には、始動部給電リレー86をオンしない構成としてもよい。
【0062】
表示機71は、運転席周辺部に設けられ、液晶表示部または変速レバー30の操作位置を表す複数の点灯部を有する。制御装置70は、変速レバースイッチHS,LS,NS,RSの検出信号の入力に応じて、変速レバー30の操作位置をユーザに知らせるように、または異常時の異常個所を表示機71で表示または点灯させる。。
【0063】
(無段変速制御システムの作用及び効果)
上記の無段変速制御システム12によれば、制御装置70において、速度関係の切替の指示を表す切替指示信号の入力に応じて1つの速度関係を表すマップが選択され、選択された1つのマップと、駆動プーリ102の入力軸回転速度N1及び従動プーリ98の出力軸回転速度N2の検出値とに応じて電動アクチュエータ106の駆動によりシーブ間距離が変更される。このため、複数のトルクカム機構の切替構造を必要とすることなく、駆動プーリ102及び従動プーリ98の回転速度の複数種類の関係が切替可能になる。例えば、モード切替スイッチ150でパワーモードが指示された場合に、
図8において、他のモードに比べて、同じ車速に対応する同じCVT出力軸回転速度N2でエンジン回転速度が高くなり、高トルクで走行することが可能になる。この場合、本実施形態のように作業用部材である牽引部材17の使用時に走行に対する負荷が大きくなる場合でも、高トルク走行により牽引作業を効率よく行える。一方、モード切替スイッチ150で第1エコノミーモードまたは第2エコノミーモードが指示された場合、パワーモードまたはノーマルモードが指示される場合に比べて、同じ車速に対応する同じCVT出力軸回転速度N2でエンジン回転速度が低くなり、省エネルギー走行を行うことが可能になる。しかもいずれのモードでも車速の上昇にしたがって無段変速装置68の減速比N1/N2が低くなるので、ユーザの頻繁な変速操作を必要とせずスムーズな加速走行を行える。
【0064】
なお、上記では、切替指示手段がモード切替スイッチ150である場合を説明したが、切替指示手段は、入力軸回転速度N1と出力軸回転速度N2との速度関係を無段階に調節可能なボリューム型としてもよい。また、切替指示手段は、変速レバー30の位置に応じた切替指示信号を制御装置70に送信する変速レバースイッチHS,LS,NS,RSとしてもよい。この場合、速度関係選択部146は、変速レバースイッチHS,LSの切替指示信号の入力に応じて、変速歯車装置48の低速段の変速歯車が選択された場合に、無段変速装置68の減速比N1/N2が高速段の変速歯車が選択される場合よりも高くなるように、速度関係のマップを選択する。例えば
図8のマップが記憶されている場合に、速度関係選択部146は、低速段であるFL位置に対応する変速歯車の選択で太線実線aのパワーモードを選択し、高速段であるFH位置に対応する変速歯車の選択で破線bのノーマルモードを選択する。
【0065】
また、速度関係選択部146は、車両の運転状態としてアクセルペダル24のペダル位置に応じて1つの速度関係であるマップを選択してもよい。例えばペダル位置について、アクセル開度100%に対応する完全に踏み込んだ全開位置と、アクセル開度0%に対応する非操作位置との間で複数の領域を設定し、複数の領域のそれぞれに速度関係のマップを対応づけることもできる。例えば非操作位置から中間の踏み込み位置までの開度小領域にノーマルモードのマップを対応づけ、中間の踏み込み位置から全開位置までの開度大領域にパワーモードのマップを対応づける。この構成によれば、車両の運転状態に応じて速度関係が自動で選択される。
【0066】
また、
図2に示すように、車両の運転状態として、スロットル開度センサ152を設けることもできる。スロットル開度センサ152は、エンジン20のスロットル弁の開度を検出し、検出開度を表す開度信号を制御装置70に送信する。この場合、速度関係選択部146は、入力された開度信号と、CVT入力軸回転センサ90のエンジン回転速度信号であるCVT入力軸回転速度N1の検出信号とに応じて、1つの速度関係のマップを選択する。例えば、変速制御部147は、スロットル弁の開度とCVT入力軸回転速度N1との検出値から車軸に対する負荷である車軸負荷を推定し、車軸負荷の大きさに応じて無段変速装置68の減速比を制御する。例えば、スロットル弁の開度D1に対する入力軸回転速度N1の比N1/D1が予め設定された所定値以上であれば車軸負荷が小さいと判定され、速度関係選択部146によりノーマルモードのマップが選択される。一方、比N1/D1が所定値未満であれば車軸負荷が大きいと判定され、速度関係選択部146によりパワーモードのマップが選択される。この構成の場合も、車両の運転状態に応じて速度関係が自動で選択される。
【0067】
(別例の制御内容)
図10は、本発明に係る実施形態の別例の車両用無段変速制御システム12の目的を説明するための、坂路148上での車両10の停止状態を示す概略図である。車両には上記の実施形態の無段変速制御システム12が搭載されており、ユーザが坂路148上でブレーキペダル26またはパーキングブレーキレバー28を操作して車両10を停止させた後、再発進しようとしてブレーキペダル26またはパーキングブレーキレバー28を解除した場合に、アクセルペダル24が非操作でエンジン20の回転速度がアイドル速度、すなわち低速度である場合でも重力の作用で車両が
図10のβ方向にずり下がって車速が上昇する。この場合、車速の上昇にしたがって無段変速装置68の減速比が低下する。このため、エンジンブレーキを効果的に利かせて車速を低く維持することが困難になる場合がある。
【0068】
本例の構成では、上記の
図2に示した実施形態と同様に、CVT出力軸回転センサ94と制御装置70とを有する。また、制御装置70は、ブレーキオンで車両が停止する、すなわち車速算出部141で算出される算出車速が0になったことが確認された後のブレーキオフ後で、かつ、アクセルオフで、算出車速が予め設定された所定車速Va以上か否かを判定する。この場合、所定車速Vaは、無段変速装置68で通常最大減速比が実現される車速Vfよりも高い。変速制御部147は、車両停止後のブレーキオフ後で、かつ、アクセルオフで、算出車速が所定車速Va以上である場合に、無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように第1移動シーブ110を移動させる。
【0069】
図11は、本例の構成で、車両停止後でブレーキ解除後の減速比制御方法をフローチャートで示している。フローチャートで示すように、ステップS10(以下、ステップSは単にSという。)で制御装置70は、ブレーキオンで車両を停止させた後にブレーキオフとなっているか否かを判定する。S10の判定結果が肯定であれば、S12でアクセルオフか否かを判定する。S12の判定結果が肯定であれば、S14で算出車速を確認し、算出車速が無段変速装置68の通常最大減速比Naに対応する車速Vfよりも高い予め設定された所定車速Va以上に上昇したか否かを判定する。S14で算出車速が所定車速Va以上に上昇したと判定された場合に、S18に移行する。S18では、制御装置70の変速制御部147は、ブレーキオンオフ状態とは無関係に無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように、電動アクチュエータ106を含む無段変速装置68を制御して第1移動シーブ110を移動させ(S18)、S12へ戻る。一方、S12の判定結果が否定の場合には、S16で、車速の上昇にしたがって無段変速装置68の減速比が小さくなる通常制御に戻る。また、S14の判定結果が否定の場合には、S18を経ずにS12に戻る。
【0070】
この構成によれば、上記のように車両10が坂路148上でブレーキオンで停止した後にブレーキオフした場合に、坂路148の傾斜に応じて車両10がずり下がり車速が上昇する場合でも、その車速を低く維持することが容易になる。
図12は、
図11の減速制御方法を実施した場合の車速と減速比との関係の1例を示している。坂路上で車両を停止させた車速0の状態からブレーキオフによって車速が上昇し、車速の上昇にしたがって、無段変速装置68の減速比が通常最大減速比Naよりも低下する。一方、車速が所定車速Va以上となると、
図12のP1からP2に移行して、無段変速装置68の減速比が通常最大減速比Naまで戻る。このため、車輪の回転速度に対するエンジン20の回転速度変動の影響が大きくなり、エンジンブレーキを効果的に利かせて車速を低く維持することが容易になる。一方、アクセルオンでは無段変速装置68の制御が通常制御に戻る。その他の構成及び作用は、上記の
図1から
図9の構成と同様である。
【0071】
(別例の第2例の制御内容)
図13は、本発明に係る実施形態の別例の第2例の車両用無段変速制御システム12で、車両走行中のアクセルオフ後の減速比制御方法をフローチャートで示している。本例の構成では、車両10が坂路を走行中にアクセルオフとなった場合で、算出車速が予め設定された所定車速以上である場合にエンジンブレーキを効果的に利かせることを目的とする。
【0072】
本例の構成では、
図2を参照して、制御装置70は、アクセルオフであり、かつ、算出車速が予め設定された所定車速Vb以上か否かを判定する。変速制御部147は、その判定結果が肯定である場合に、無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように第1移動シーブ110を移動させる。
【0073】
図13のフローチャートで示すように、S20で制御装置70は、アクセルオフか否かを判定し、アクセルオフの場合にS22で算出車速を確認し、算出車速が予め設定された所定車速Vb以上に上昇したか否かを判定する。S22で算出車速が所定車速Va以上に上昇したと判定された場合に、S26に移行する。S26で変速制御部147は、ブレーキオンオフ状態とは無関係に無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように無段変速装置68を制御して第1移動シーブ110を移動させる(S26)。一方、S20の判定結果が否定の場合には、S24で、車速の上昇にしたがって無段変速装置68の減速比が小さくなる通常制御に戻る。また、S22の判定結果が否定の場合には、S26を経ずにS20に戻る。
【0074】
この構成によれば、車両10の坂路上での走行中にアクセルオフでも重力の作用で車速が上昇するが、その車速の上昇を抑制することが容易になる。その他の構成及び作用は、上記の
図1から
図9の構成または
図11から
図12の構成と同様である。
【0075】
(別例の第3例の制御内容)
図14は、本発明に係る実施形態の別例の第3例の車両用無段変速制御システム12で、変速レバー30が後進位置であるR位置に切り替えられた場合の減速比制御方法を示すフローチャートである。
図15は、別例の第3例で後進時の最小減速比を実現する場合のプーリ102,98間のベルト104の巻きかけ状態を示している。本例の構成では、
図1、
図2を参照して示すように、無段変速装置68の出力を変速する変速歯車装置48に使用する前進用及び後進用の各歯車に同じ減速比の歯車を使用して、変速歯車装置48の製造コストの低減を図れる構成で、後進時の最高速を前進時の最高速よりも低くすることを目的とする。
【0076】
本例の構成では、制御装置70は、変速レバースイッチHS,LS,NS,RSの検出信号から変速レバー30の操作位置がR位置であるか否かを判定する。変速制御部147は、変速レバー30の操作位置がR位置であることが検出された場合に、最初に無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように第1移動シーブ110を移動させるとともに、記憶部に設定される無段変速装置68の減速比の最小値を、予め設定された所定後進減速比に設定する。所定後進減速比は、前進時の最小減速比である所定前進減速比と通常最大減速比Naとの間で設定される。例えば、所定後進減速比は、所定前進減速比の約2倍である。通常最大減速比Naは前進時と後進時とで同じである。
【0077】
図14のフローチャートで示すように、S30で制御装置70は、変速レバー30の操作位置がR位置であるか否かを判定し、R位置である場合に変速制御部147は、無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように無段変速装置68を制御して、第1移動シーブ110を移動させる(S32)。この場合、プーリ102,98間のベルト104の巻きかけは、
図15の破線U1位置となる。S32の制御後では、変速制御部142は、無段変速装置68の減速比の最小値を所定後進減速比に設定する。一方、S30の判定結果が否定の場合には、変速制御部142は、無段変速装置68の減速比の最小値を所定前進減速比に設定する。そして、S36で通常制御が実行される。
【0078】
この構成によれば、ユーザが変速レバー30を操作してR位置に切り替えた場合に、最初に無段変速装置68で上記の
図4の通常最大減速比Naが実現されるように第1移動シーブ110が移動する。その後、車速の上昇にしたがって減速比は小さくなるが、その場合の減速比の最小値は、所定前進減速比よりも大きい所定後進減速比となる。この場合、ベルト104の巻きかけ位置は、
図15に実線U2で示す位置となる。一方、前進時で最小減速比となる場合、ベルト104の巻きかけ位置は、
図15の一点鎖線U3で示す位置となる。このため、
図16のように減速比と前進及び後進の車速との関係において、後進時の最高車速VRmaxは、前進時の最高車速VFmaxよりも小さくなる。また、変速歯車装置48で、前進時と後進時との歯車の減速比を異ならせずにこのような効果を得られる。このため、変速歯車装置48に使用する前進用及び後進用の各歯車に同じ減速比の歯車を使用して、変速歯車装置48の製造コストの低減を図れる。なお、
図16で通常最大減速比よりも高い減速比は、ベルトがプーリ102,98に対し滑っており、プーリ102,98間で動力がほとんど伝達されない状態で実現される。その他の構成及び作用は、上記の実施形態のいずれか1つの構成と同様である。なお、上記の別例の第3例で、ユーザが変速レバー30を操作してR位置に切り替えた場合に、最初に無段変速装置68で通常最大減速比Naが実現されるように第1移動シーブ110を移動させるのではなく、現在の減速比が後進減速比よりも小さい場合に減速比を後進減速比に戻すようにしてもよい。この場合、現在の減速比が後進減速比よりも大きい場合には最小減速比を後進減速比として通常制御を行う。
【0079】
なお、上記の各実施形態において、無段変速装置68の構成は、
図4の構成に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成を採用できる。また、上記ではブレーキオン時に駆動プーリ102でベルト104の挟み込みを解除する構成を有する場合を説明したが、本発明はこのような構成に限定するものではなく、ブレーキオンオフ状態に関わらず、常に駆動プーリ102でベルト104の挟み込み状態を維持して、無段変速装置68での動力伝達を維持する構成を採用することもできる。この場合、例えばCVT入力軸36と駆動プーリとの間に遠心クラッチ機構を設けることもできる。