(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233916
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ろう材およびアルミニウム合金複合材
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20171113BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20171113BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20171113BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20171113BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20171113BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20171113BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20171113BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20171113BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20171113BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20171113BHJP
B23K 101/14 20060101ALN20171113BHJP
B23K 103/10 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
C22F1/043
C22F1/053
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
B23K1/00 S
B23K1/00 330L
B23K1/19 E
B23K31/02 310H
F28F21/08 B
!C22F1/00 623
!C22F1/00 627
!C22F1/00 630M
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 640C
!C22F1/00 651A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
B23K101:14
B23K103:10
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-86989(P2013-86989)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210949(P2014-210949A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】大谷 良行
(72)【発明者】
【氏名】菅野 能昌
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲
(72)【発明者】
【氏名】新倉 昭男
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−190089(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/034102(WO,A1)
【文献】
特開2013−023748(JP,A)
【文献】
特開2000−297339(JP,A)
【文献】
特開平11−293371(JP,A)
【文献】
特開2011−042823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
B23K 35/00−35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si 3.0〜7.0mass%(以下、単に%と記す。)、Fe 0.8〜1.5%、Zn 1.0〜8.0%を含み、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるろう材であって、ろう材中に円相当径0.5〜5μmのFe系化合物が1mm2当たり1×103〜2×104個存在することを特徴とするアルミニウム合金ろう材。
【請求項2】
Si 3.0〜7.0mass%(以下、単に%と記す。)、Fe 0.8〜1.5%、Zn 1.0〜8.0%を含み、Cu 0.1〜0.6%、Mn 0.2〜0.8%、Mg 0.05〜0.3%、Ti 0.05〜0.3%、Zr 0.05〜0.3%、Cr 0.05〜0.3%、V 0.05〜0.3%の内1種または2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるろう材であって、ろう材中に円相当径0.5〜5μmのFe系化合物が1mm2当たり1×103〜2×104個存在することを特徴とするアルミニウム合金ろう材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ろう材を、Cu 0.1〜0.8%、Mn 0.2〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金心材の片面もしくは両面にクラッドしてなるアルミニウム合金複合材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ろう材を、Cu 0.1〜0.8%、Mn 0.2〜2.0%を含有し、さらにSi 0.1〜0.8%、Mg 0.05〜0.5%、Ti 0.05〜0.3%を1種または2種以上含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金心材の片面もしくは両面にクラッドしてなるアルミニウム合金複合材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金組成を与える合金成分を配合後、鋳造する際に、500〜2000℃/秒の冷却速度で鋳造することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ろう材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ろう材あるいはアルミニウム合金複合材を用いてろう付してなることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ろう材あるいはアルミニウム合金複合材を用いてろう付により熱交換器を組み立てた後、該熱交換器を150℃以上250℃未満の温度範囲に30秒間以上保持し、さらに250℃以上450℃以下の温度範囲に30秒間以上保持してなる工程を含んでなることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金ろう材およびアルミニウム合金複合材に関し、特に、カーエアコン用コンデンサ、エバポレータ、オイルクーラー、ラジエータ、インタークーラなどの自動車用途において有用な熱交換器用アルミニウム合金ろう材およびアルミニウム合金複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量で熱伝導性に優れていること、適切な処理により高耐食性が実現できること、ならびに、ブレージングシートを利用したろう付けによって効率的な接合が可能であることから、自動車などの熱交換器用材料として用いられてきた。しかし、近年、自動車の高性能化或いは環境対応として、より軽量で高耐久性を有するように熱交換器の性能向上が求められており、これに対応できるアルミニウム合金材料技術が要求されている。
このような自動車用熱交換器の一形態として、ろう材、心材及び犠牲防食層をクラッドした3層ブレージングシートを成形加工したチューブと、単層の外部フィン材をコルゲート成形した外部フィンとを組み合わせ、ろう付け接合したものが用いられている。このチューブは冷媒などの流体を流通させる目的のものであるから、孔食による冷媒のリークが生じると熱交換器として致命傷となる。チューブの孔食を抑制する有力な防食手法としては、クラッド圧延等の方法でチューブ表面にAl−Si−Zn系合金ろう材層を形成し、該Al−Si−Zn層による犠牲防食効果による心材の防食方法が採用されている。
【0003】
近年、更なる軽量化を目的として、Al−Si−Zn系合金ろう材の耐食性をさらに向上させる手法が提案されている。その手法の1つとしてAl−Si−Zn系合金にFeを添加し、耐食性を向上させる種々の手法が提案されている。
特許文献1では、心材の片面にろう材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、前記心材は、Mn:0.3mass%(以下、単に%と記す。)を超え2.0%以下、Cu:0.1%〜1.0%、Si:0.1%〜1.1%、Fe:0.3%以下を含有し、Mgの含有量を0.5%以下に規制し、残部Alおよび不純物からなるアルミニウム合金で構成され、前記ろう材は、Si:6.0%〜13.0%、Fe:0.3%以下を含有したAl−Si系合金から構成される熱交換器用アルミニウム合金クラッド材が提案されている。また、真空ろう付けによる場合は、このAl−Si系合金ろう材に2.0%以下のMgを含有するAl−Si−Mg系合金ろう材としてもよいことが提案されている。この特許文献1の提案では、ろう材のFe添加量が少ないために、耐食性向上効果が十分ではない。
特許文献2では、Siを5wt%超え15wt%以下、Feを0.4〜2wt%、Niを0.2〜2wt%含有し、残部がAlと不可避不純物からなる熱交換器用防食アルミニウム合金ろう材が記載されており、アルミニウム合金心材の片面に前記ろう材がクラッドされ、他の片面にAl−Zn系合金犠牲材がクラッドされた熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材が提案されている。この提案では、ろう材中での化合物のサイズやその分布が規定されていないために、耐食性向上効果が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−190089号公報
【特許文献2】特開2002−86295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、耐久寿命、特に耐食性に優れた熱交換器用として有用なアルミニウム合金ろう材およびアルミニウム合金複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、Al−Si−Zn系合金ろう材に所定量のFeを添加するとともに所定のアルミニウム合金組成とし、鋳造時の冷却速度を制御あるいはろう付加熱後に熱処理を施すことで、所定の大きさのFe系化合物を適正に析出、分散させることによって、アルミニウム合金複合材の耐食性を大幅に向上できることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
(1)Si 3.0〜7.0mass%(以下、単に%と記す。)、Fe 0.8〜1.5%、Zn 1.0〜8.0%を含み、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるろう材であって、ろう材中に円相当径0.5〜5μmのFe系化合物が1mm
2当たり1×10
3〜2×10
4個存在することを特徴とするアルミニウム合金ろう材。
(2)Si 3.0〜7.0%、Fe 0.8〜1.5%、Zn 1.0〜8.0%を含み、Cu 0.1〜0.6%、Mn 0.2〜0.8%、Mg 0.05〜0.3%、Ti 0.05〜0.3%、Zr 0.05〜0.3%、Cr 0.05〜0.3%、V 0.05〜0.3%の内1種または2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるろう材であって、ろう材中に円相当径0.5〜5μmのFe系化合物が1mm
2当たり1×10
3〜2×10
4個存在することを特徴とするアルミニウム合金ろう材。
(3)(1)又は(2)項に記載のアルミニウム合金ろう材を、Cu 0.1〜0.8%、Mn 0.2〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金心材の片面もしくは両面にクラッド
してなるアルミニウム合金複合材。
(4)(1)又は(2)項に記載のアルミニウム合金ろう材を、Cu 0.1〜0.8%、Mn 0.2〜2.0%を含有し、さらにSi 0.1〜0.8%、Mg 0.05〜0.5%、Ti 0.05〜0.3%を1種または2種以上含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金心材の片面もしくは両面にクラッドしてなるアルミニウム合金複合材。
(5)(1)又は(2)項に記載のアルミニウム合金組成を与える合金成分を配合後、鋳造する際に、500〜2000℃/秒の冷却速度で鋳造することを特徴とする
(1)又は(2)項に記載のアルミニウム合金ろう材の製造方法。
(6)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ろう材あるいはアルミニウム合金複合材を用いてろう付してなることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。
(7)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ろう材あるいはアルミニウム合金複合材を用いてろう付により熱交換器を組み立てた後、該熱交換器を150℃以上250℃未満の温度範囲に30秒間以上保持し、さらに250℃以上450℃以下の温度範囲に30秒間以上保持してなる工程を含んでなることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るアルミニウム合金ろう材およびアルミニウム合金複合材を用いた熱交換器は、腐食が均一に進行し、耐久寿命、特に耐食性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.ろう材
本発明のアルミニウム合金ろう材においてSiは、3.0〜7.0%含有される。Siはろう付加熱によって一部が溶融し、各部材をろう付接合する。Siが3.0%未満では、溶融量が不十分でろう付性に劣り、一方、Siが7.0%を超えると、ろう材全体が溶融・再凝固するため、鋳造時に形成したFe系化合物の分布が不均一になる。このため、Si含有量は、3.0〜7.0%とした。好ましいSi含有量は、3.5〜5.5%である。
本発明のアルミニウム合金ろう材においてFeは、0.8〜1.5%含有される。一般に、Feはアルミニウムの腐食速度を増大させる作用がある。本発明のアルミニウム合金ろう材によれば、前記所定のFe系化合物を均一に分布させることによって、腐食が分散し、結果として貫通寿命が向上する。Feが0.8mass%未満では、この効果が不十分であり、一方、Feが1.5%を超えると、腐食速度が増大しすぎる。このため、Fe含有量は、0.8〜1.5%とした。好ましいFe含有量は、0.9〜1.2%である。
本発明のアルミニウム合金ろう材においてZnは、1.0〜8.0%含有される。Znは、アルミニウムの孔食電位を低くし、犠牲防食効果を奏する。Znが1.0%未満では、この効果が不十分であり、一方、Znが8.0%を超えると、腐食速度が増大しすぎる。このため、Zn含有量は、1.0〜8.0%とした。好ましいZn含有量は、2.0〜5.0%である。
【0010】
本発明のアルミニウム合金ろう材においては、前記必須添加元素(Si、Fe、Zn)に加えて、副添加元素として、Cu 0.1〜0.6%、Mn 0.2〜0.8%、Mg 0.05〜0.3%、Ti 0.05〜0.3%、Zr 0.05〜0.3%、Cr 0.05〜0.3%、V 0.05〜0.3%の内1種または2種以上を含んでもよい。
Cuは、共晶部に濃縮し電位を貴化させ、共晶部の優先腐食を防止でき、結果的に腐食深さを浅くするという効果がある。Cuが0.1%未満ではこの効果が少なく、一方、0.6%を超えると腐食速度が増大しすぎる。好ましいCu含有量は、0.2〜0.4%である。
Mnは、Al−Mn系化合物、Al−Fe−Mn系化合物、Al−Fe−Si−Mn系化合物を形成し腐食の分散に寄与するという効果がある。Mnが0.2%未満ではこの効果が少なく、一方、0.8%を超えると腐食速度が増大しすぎる。好ましいMn含有量は、0.4〜0.6%である。
Mgは、Mg
2Siとして微細析出することで強度の向上に寄与する。このMg添加の効果を得るためには、0.05%以上のMgの含有が好ましい。一方、過剰にMgが含有されれば、ろう付性を阻害したり、粒界腐食が発生し耐食性を低下させたりする恐れがある。これら過剰なMgの含有による悪影響を回避するためには、Mg含有量の上限は0.3%とするのが好ましい。さらに好ましいMg含有量は、0.08〜0.2%である。
Ti、Zr、Cr、Vは、いずれも結晶粒を微細化させろう付性を向上させ、さらに、濃淡層(濃淡層については、後述の心材の説明中で説明する。)を形成することによって、深さ方向への腐食の進行を抑制する働きがある。Ti、Zr、Cr、Vそれぞれの含有量が0.05%未満ではこの効果が少なく、一方、0.3%を越えると巨大晶出物が生成し鋳造割れを引き起こす恐れがある。Ti、Zr、Cr、Vの好ましい含有量は、それぞれ0.08〜0.2%である。
【0011】
本発明のアルミニウム合金ろう材には、円相当径0.5〜5μmのFe系化合物が1mm
2当たり1×10
3〜2×10
4個存在する。Fe系化合物を均一に分布させる場合、その大きさと密度を適正に制御することが本発明の特徴の1つである。Fe系化合物が微細すぎると、腐食分散効果が不十分であり、逆に、Fe系化合物が粗大すぎると、腐食速度が増大する。Fe系化合物の分布が粗すぎると、腐食分散効果が不十分であり、逆に、Fe系化合物の分布が密すぎると、腐食速度が増大する。
また、本発明のアルミニウム合金ろう材においては、円相当径5μmを超えるFe系化合物は1mm
2当たり1×10
2個以下とするのが好ましい。
ここで、Fe系化合物の粒子径を円相当径で表わす。円相当径とは、各粒子の投影面積に等しい面積を有する円の直径を意味する。
Fe系化合物としては、例えば、Al−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物、Al−Fe−Mn系化合物、Al−Fe−Si−Mn系化合物等が挙げられる。
【0012】
本発明のアルミニウム合金ろう材は、500〜2000℃/秒の冷却速度で鋳造し、製造することが好ましい。一般的にAl−Si系合金ろう材は、冷却中にα相と共晶相とに分かれて凝固する。半連続鋳造における冷却速度は通常1〜20℃/秒であり、この冷却速度ではFe系化合物の大部分が共晶相に集まる。本発明者らは、α相と共晶相にFe系化合物を均一に分布させるためには、500℃/秒以上の冷却速度が必要であることを見い出した。また、工業生産的に2000℃/秒を超える冷却速度を得るのは難しいため、これを上限とした。
本発明においては、このように鋳造時の冷却速度を適正に制御することによって、アルミニウム合金ろう材中に、所望の円相当径0.5〜5μmのFe系化合物を1mm
2当たり1×10
3〜2×10
4個の密度で形成させることができる。
なお、本発明のアルミニウム合金ろう材は、Znを含有するので、ろう材としての作用と併せて、犠牲(陽極)材としての作用も同時に有している。
【0013】
2.心材
本発明のアルミニウム合金複合材に用いる心材には、Cuが0.1〜0.8%含有されることが好ましい。Cuは、アルミニウムの電位を貴にし、犠牲防食効果を高める働きがある。この効果を十分に得るためには、Cuの添加量の下限は0.1%であることが好ましい。一方、材料製造時の熱履歴およびろう付加熱によって、アルミニウム合金中にCu系金属間化合物として析出する。このCu系金属間化合物はカソード反応を促進させるため、ろう材の腐食速度が増大する。したがって、Cu添加量の上限は0.8%とするのが好ましい。さらに好ましいCu含有量は、0.3〜0.6%である。
本発明に用いるアルミニウム合金複合材の心材には、Mnが0.2〜2.0%含有されることが好ましい。MnはAl−Mn系金属間化合物として晶出又は析出して、ろう付加熱後の強度の向上に寄与する元素である。また、Al−Mn系金属間化合物は、Feを取り込むために、過剰なFeによる耐食性阻害効果を抑制する働きがある。これらの効果を得るためには、0.2%以上のMnを添加することが好ましい。但し、Mn量が2.0%を超えれば、巨大な金属間化合物が晶出し、加工性や製造性を阻害する恐れがある。したがって、Mn量の上限は2.0%とするのが好ましい。さらに好ましいMn含有量は、0.6〜1.6%である。
【0014】
本発明に用いるアルミニウム合金複合材の心材には、Siが0.1〜0.8%含有されることが好ましい。Siは、マトリックスに固溶したり、Al−Mn−Si系金属間化合物を生成したりすることによって、ろう付後の強度を向上させる元素である。さらに、Siの添加は、心材の電位を貴にして、心材とろう材の電位差を大きくする働きがあり、これにより外部耐食性が向上する。これらのSi添加の効果を得るためには、0.1%以上のSiの含有が好ましい。一方、過剰にSiが含有されれば、耐食性を低下させる恐れがあると共に、合金の融点を低下させてろう付時に材料の溶融を招いてしまう。これら過剰なSiの含有による悪影響を回避するためには、Si量の上限は0.8%とするのが好ましい。さらに好ましいSi含有量は、0.2〜0.6%である。
本発明に用いるアルミニウム合金複合材の心材には、Mgが0.05〜0.5%含有されることが好ましい。Mgは、Mg
2Siとして微細析出することで強度の向上に寄与する。このMg添加の効果を得るためには、0.05%以上のMgの含有が好ましい。一方、過剰にMgが含有されれば、ろう付性を阻害したり、粒界腐食が発生し耐食性を低下させたりする恐れがある。これら過剰なMgの含有による悪影響を回避するためには、Mg量の上限は0.5%とするのが好ましい。さらに好ましいMg含有量は、0.1〜0.3%である。
本発明に用いるアルミニウム合金複合材の心材には、Tiが0.05〜0.3%含有されることが好ましい。Tiは、耐食性、特に耐孔食性の向上に寄与する。すなわち、アルミニウム合金中に添加されたTiは、その濃度の高い領域と濃度の低い領域とに分かれ、それらが板厚方向に交互に積層状に分布する(これを濃淡層ともいう)。そして、Ti濃度の低い領域がTi濃度の高い領域よりも優先的に腐食することにより、腐食形態が層状となり、その結果板厚方向への腐食の進行が妨げられ、耐孔食性が向上する。このような耐孔食性向上の効果を十分に得るためには、Ti量が0.05%以上であることが好ましい。一方、Ti添加量が0.3%を超えれば、鋳造時に粗大な化合物が生成されて加工性や製造性を阻害する恐れがある。したがって、Ti量の上限は0.3%とするのが好ましい。さらに好ましいTi含有量は、0.08〜0.2%である。
本発明に用いるアルミニウム合金複合材の心材には、不可避量のFeを含有してもよい。この心材中のFeの含有量は、好ましくは0.4%以下である。
【0015】
本発明のアルミニウム合金ろう材およびアルミニウム合金複合材の製造方法については、アルミニウム合金ろう材の鋳造時の冷却速度が前記所定の範囲内とされていればよく、他には特に制限はない。従って、ろう材の鋳造工程以降は通常の工程を採用することができ、特に制限されるものではない。例えば、一般的には次のような工程で本発明のアルミニウム合金複合材を製造することができる。
前記所定の合金組成を有するアルミニウム合金心材の鋳塊の両面を面削して、所定の鋳造時の冷却速度で別途調製したアルミニウム合金ろう材からなるろう材層(クラッド層)を前記面削した心材の片面もしくは両面に重ね合わせる。これに400〜550℃で1〜10時間の予備加熱(焼鈍)を行い、熱間圧延により板厚を5mm程度まで減少させる。さらに、冷間圧延および300〜450℃で1〜10時間の最終焼鈍を行って、厚さ0.3〜0.5mm程度のアルミニウム合金複合材(クラッド材)とする。
本発明の複合材は、その厚さとして0.1〜1.0mmが好ましい。また、ろう材層のクラッド率は5〜30%であることが好ましい。
【0016】
本発明のアルミニウム合金製熱交換器は、前記本発明のアルミニウム合金ろう材又はアルミニウム合金複合材を用いてろう付により製造される。
本発明のアルミニウム合金製熱交換器を、本発明のアルミニウム合金複合材を用いてろう付け組み立てする場合には、例えば、該複合材のろう材側を外側として該複合材を曲成した後、ろう付けにより接合しチューブ形状とし、このチューブ状の複合材を、別体のアルミニウム合金フィン材とろう付けして熱交換器を組み立てる。
また、本発明のアルミニウム合金製熱交換器を、本発明のアルミニウム合金ろう材を用いてろう付け組み立てする場合には、例えば、好ましくは前記所定の合金組成を有するアルミニウム合金心材を曲成した後、本発明のアルミニウム合金ろう材を用いてろう付けにより接合しチューブ形状とし、このチューブ状の心材(複合材)を、別体のアルミニウム合金フィン材と、該チューブ状の心材にクラッドされたろう材又はさらに別途準備した本発明のアルミニウム合金ろう材を用いてろう付けして熱交換器を組み立てる。
【0017】
本発明の熱交換器は、本発明のアルミニウム合金ろう材又はアルミニウム合金複合材を用いてろう付により組み立てた後に、150℃以上、250℃未満の温度範囲に30秒間以上保持(以下、第1の熱処理という。)し、さらに250℃以上、450℃以下の温度範囲に30秒間以上保持(以下、第2の熱処理という。)して製造することが好ましい。
ろう付け接合後の150℃以上、250℃未満の温度範囲での保持は、過飽和固溶度の高い状態で金属間化合物を微細析出させるために有効である。第1の熱処理の温度が、この温度範囲より低温では析出速度が遅く、一方、より高温では過飽和固溶度が低いために十分な析出が起こらない。このため、第1の熱処理の温度範囲は、150℃以上、250℃未満が好ましい。また、保持時間が30秒間未満では、金属間化合物の析出が十分ではないため、第1の熱処理の保持時間は30秒間以下が好ましい。この保持時間は、一定温度における保持でもよいし、冷却中、昇温中の通過時間の合計でもよい。
その後の第2の熱処理の温度範囲は、250℃以上、450℃以下が好ましい。この第2の熱処理では、第1の熱処理において微細析出した金属間化合物を核として析出が起こるため、析出に要する過飽和固溶度は、第1の熱処理よりも低く、金属間化合物を十分に成長させるために有効である。この第2の熱処理の温度が、この温度範囲より低温では金属間化合物の成長速度が遅く、一方、より高温では金属間化合物が再固溶してしまう。このため、温度範囲は、250℃以上、450℃以下が好ましい。また、保持時間が30秒間未満では、金属間化合物の成長が十分ではないため、保持時間は30秒間以上が好ましい。この保持時間は、一定温度における保持でもよいし、冷却中、昇温中の通過時間の合計でもよい。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明例と比較例に基づいて本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
表1に示す組成のアルミニウム合金ろう材溶湯を、表2に示す冷却速度で、双ベルト式鋳造機により厚さ5mmの薄スラブを連続的に鋳造してロールに巻き取った後、板厚1.0mmまで冷間圧延し、保持温度450℃で中間焼鈍を施し、冷間圧延を行って最終板厚0.5mmとし、アルミニウム合金ろう材を得た。
【0020】
このアルミニウム合金ろう材におけるFe系化合物の分布を調査するため、TEMにより10000倍で5視野観察し、画像解析により、円相等径0.5〜5μmおよび5μmを超えるFe系化合物の数を測定して、それぞれ密度(個/mm
2)を求めた。
さらに、このアルミニウム合金ろう材単体にろう付加熱時の入熱を想定した、600℃、3分間のろう付相当加熱処理を施した後、JIS H8601に準じるCASS試験を200時間実施した。試験後、30%HNO
3に10分間浸漬し腐食生成物を除去した後、焦点深度法による腐食深さ測定を行った。
表2に結果を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例1〜15では、アルミニウム合金ろう材の合金成分およびろう材中の0.5〜5μmのFe系化合物密度が本発明で規定する範囲内であるために、腐食深さが浅く、耐食性に優れている。
これに対して、比較例1、2は、0.5〜5μmのFe系化合物密度が低すぎるため、腐食深さが深い。比較例3は、Si量が少なすぎるため、溶融が不十分で腐食深さが深い。比較例4は、Si量が多すぎるために、溶融しすぎてしまうために腐食深さが深い。比較例5は、Fe量が少なすぎるために、0.5〜5μmのFe系化合物密度が少なく、腐食が集中し腐食深さが深い。比較例6は、Fe量が多すぎるために、腐食速度が速くなってしまい腐食深さが深い。比較例7は、Zn濃度が低すぎるために、腐食が集中し、腐食深さが深い。比較例8は、Zn量が多すぎるために、腐食速度が速くなってしまい腐食深さが深い。
【0024】
(実施例2)
表3に示す組成のアルミニウム合金ろう材溶湯を、表4に示す冷却速度で、双ベルト式鋳造機により厚さ5mmの薄スラブを連続的に鋳造してロールに巻き取った後、板厚1.0mmまで冷間圧延し、保持温度450℃で中間焼鈍を施し、冷間圧延を行って最終板厚0.5mmとし、アルミニウム合金ろう材を得た。
このアルミニウム合金ろう材におけるFe系化合物の分布を、実施例1と同様にして調査した。
さらに、このアルミニウム合金ろう材を、実施例1と同様にして、ろう材単体にろう付相当加熱処理を施した後、JIS H8601に準じるCASS試験を200時間実施し、腐食深さ測定を行った。
表4に結果を示す。
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
実施例16〜43では、アルミニウム合金ろう材の合金成分およびろう材中の0.5〜5μmのFe系化合物密度が本発明で規定する範囲内であるために、腐食深さが浅く、耐食性に優れている。
これに対して、比較例9〜15は、0.5〜5μmのFe系化合物密度が低すぎるため、腐食深さが深い。
【0028】
(実施例3)
表1に示す組成のアルミニウム合金ろう材溶湯を、表6に示す冷却速度で、双ベルト式鋳造機により厚さ5mmの薄スラブを連続的に鋳造してロールに巻き取った。別に、表5に示す組成のアルミニウム合金心材を、それぞれ、通常の半連続鋳造を行い、得られた鋳塊の両面を10mmずつ面削し、600℃、3時間の均質化処理を行った後、熱間圧延で、40〜45mmまで圧延した。次いで、該面削後の心材の片面もしくは両面に厚さ5mmの前記板状のろう材を、表6に示すように重ね合わせ、500℃で6時間の予備加熱を行い、熱間圧延により板厚5mmまで圧延し、更に板厚0.5mmまで冷間圧延を行い、350℃で3時間の最終焼鈍を行なって、厚さ0.5mmの板状アルミニウム合金複合材(クラッド材)を作製した。ろう材の厚さは0.05mm、クラッド率10%であった。
【0029】
ろう材中のFe系化合物の分布を調査するため、TEMにより10000倍で5視野観察し、画像解析により、円相等径0.5〜5μmおよび5μmを超えるFe系化合物の数を測定して、それぞれ密度(個/mm
2)を求めた。
【0030】
さらに、このアルミニウム合金複合材を、厚さ0.1mmのAl−0.4%Si−0.4%Fe−1.0%Mn−1.5%Zn合金をコルゲート加工したフィンと600℃、3分間のろう付加熱処理により接合して、熱交換器を模した接合体を得た。
この接合体について、JIS H8601に準じるCASS試験を200時間実施した。試験後、30%HNO
3に10分間浸漬し腐食生成物を除去した後、焦点深度法による腐食深さ測定を行った。
表6に結果を示す。
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
実施例44〜82では、アルミニウム合金ろう材の合金成分およびろう材中の0.5〜5μmのFe系化合物密度が本発明で規定する範囲内であるために、腐食深さが浅く、耐食性に優れている。これらの実施例の中でも、心材のアルミニウム合金組成が本発明の好ましい範囲内にある場合に、特に良好な耐食性を示した。
これに対して、比較例16、17は、ろう材中の0.5〜5μmのFe系化合物密度が低すぎるため、腐食深さが深い。比較例18は、ろう材中のSi量が少なすぎるため、溶融が不十分で腐食深さが深い。比較例19は、ろう材中のSi量が多すぎるために、溶融しすぎてしまうために腐食深さが深い。比較例20は、ろう材中のFe量が少なすぎるために、0.5〜5μmのFe系化合物密度が少なく、腐食が集中し腐食深さが深い。比較例21は、ろう材中のFe量が多すぎるために、腐食速度が速くなってしまい腐食深さが深い。比較例22は、ろう材中のZn濃度が低すぎるために、腐食が集中し、腐食深さが深い。比較例23は、ろう材中のZn量が多すぎるために、腐食速度が速くなってしまい腐食深さが深い。
【0034】
(実施例4)
表1に示す組成のアルミニウム合金ろう材溶湯を、表7に示す冷却速度で、双ベルト式鋳造機により厚さ5mmの薄スラブを連続的に鋳造してロールに巻き取った。別に、表5に示す組成のアルミニウム合金心材を、通常の半連続鋳造を行い、得られた鋳塊の両面を10mmずつ面削し、600℃、3時間の均質化処理を行った後、熱間圧延で、45mmまで圧延した。次いで、該面削後の心材の片面に厚さ5mmの前記板状のろう材を、表7に示すように重ね合わせ、500℃で6時間の予備加熱を行い、熱間圧延により板厚5mmまで圧延し、更に板厚0.5mmまで冷間圧延を行い、350℃で3時間の最終焼鈍を行なって、厚さ0.5mmの板状アルミニウム合金複合材(クラッド材)を作製した。ろう材の厚さは0.05mm、クラッド率10%であった。
【0035】
ろう材中のFe系化合物の分布を調査するため、TEMにより10000倍で5視野観察し、画像解析により、円相等径0.5〜5μmおよび5μmを超えるFe系化合物の数を測定して、それぞれ密度(個/mm
2)を求めた。
【0036】
さらに、このアルミニウム合金複合材を、厚さ0.1mmのAl−0.4%Si−0.4%Fe−1.0%Mn−1.5%Zn合金をコルゲート加工したフィンと600℃、3分間のろう付加熱処理により接合した後、表7に示す条件で第1の熱処理(1)及び第2の熱処理(2)を行って、熱交換器を模した接合体を得た。
この接合体について、JIS H8601に準じるCASS試験を200時間実施した。試験後、30%HNO
3に10分間浸漬し腐食生成物を除去した後、焦点深度法による腐食深さ測定を行った。
表7に結果を示す。
【0037】
【表7】
【0038】
実施例83〜88では、アルミニウム合金ろう材の合金成分およびろう材中の0.5〜5μmのFe系化合物密度が本発明で規定する範囲内であり、腐食深さが浅く、耐食性に優れている。この中でも、ろう付加熱による組み立て後に適切な熱処理を行った実施例
83、84は特に耐食性に優れている。
これに対して、比較例24〜29は、0.5〜5μmのFe系化合物密度が低すぎるため、腐食深さが深い。