特許第6233921号(P6233921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233921積層フィルムの剥離装置、積層フィルムの剥離方法およびそれを用いた光学フィルム積層体の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233921
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】積層フィルムの剥離装置、積層フィルムの剥離方法およびそれを用いた光学フィルム積層体の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20171113BHJP
   B65H 47/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   G02B5/30
   B65H47/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-183601(P2013-183601)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-49497(P2015-49497A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年6月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦 和也
(72)【発明者】
【氏名】柳 成鎮
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠司
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−264863(JP,A)
【文献】 特開2006−264865(JP,A)
【文献】 特開2005−306604(JP,A)
【文献】 特開2007−062279(JP,A)
【文献】 特開2006−089192(JP,A)
【文献】 特開2013−072951(JP,A)
【文献】 国際公開第12/118185(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B65H 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上のフィルムが積層された積層フィルムから一部のフィルムを剥離する積層フィルムの剥離装置であって、
面を形成してある吸着部を有し、当該吸着部の面に前記積層フィルムを吸着させて搬送する第1搬送部と、
面を形成してある対向部であって、前記積層フィルムを間に挟んで前記吸着部の面と対向する位置に、当該吸着部から所定間隔設けて当該対向部の面が対向するように配置される対向部と、
前記積層フィルムの内、前記吸着部の面に接しているフィルムを少なくとも残して他のフィルムを反転させることで、前記吸着部の面に接しているフィルムが他のフィルムから剥離される剥離点が可動可能に配置される剥離領域であって、かつ前記吸着部と前記対向部とのそれぞれの面の間に挟んで、剥離された前記他のフィルムを反転させることで形成した曲面が形成される剥離領域と、
前記第1搬送部による前記積層フィルムの進行方向に対し逆方向に、前記他のフィルムを搬送する第2搬送部と、を有する剥離装置。
【請求項2】
前記吸着部の吸着面に対して平行に前記対向部が配置される、請求項1に記載の剥離装置。
【請求項3】
前記吸着部の吸着面に対して非平行に配置され、かつ前記第2搬送部による前記他のフィルムの搬送方向に沿うように前記対向部が配置される、請求項1に記載の剥離装置。
【請求項4】
前記対向部が、少なくとも一対のロールと、当該一対のロールに張架された回転可能なベルトを有して構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剥離装置。
【請求項5】
前記ベルトが、吸着孔を有し、かつ当該吸着孔からの吸引によって前記他のフィルムを吸着させて搬送する吸着ベルトである、請求項4に記載の剥離装置。
【請求項6】
前記剥離点を検出する検出部と、
前記検出部で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断部と、
前記判断部の判断結果に基づいて、前記第1搬送部のフィルム搬送速度および/または前記第2搬送部のフィルム搬送速度を制御する第1速度制御部と、をさらに有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の剥離装置。
【請求項7】
前記剥離点を検出する検出部と、
前記検出部で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断部と、
前記判断部の判断結果に基づいて、前記第1搬送部のフィルム搬送速度、前記第2搬送部のフィルム搬送速度および前記対向部のベルトの回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する第2速度制御部と、をさらに有する請求項4または5に記載の剥離装置。
【請求項8】
前記第2搬送部で搬送される前記他のフィルムの厚みが、50μm以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の剥離装置。
【請求項9】
前記積層フィルムが、光学フィルムを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の剥離装置。
【請求項10】
前記積層フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂層を一方面に形成した樹脂基材を少なくとも延伸することで得られた偏光膜と、前記樹脂基材とを有する積層フィルムである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の剥離装置。
【請求項11】
2層以上のフィルムが積層された積層フィルムから一部のフィルムを剥離する積層フィルムの剥離方法であって、
面を形成してある吸着部であって、前記積層フィルムを吸着する吸着部と、
面を形成してある対向部であって、前記積層フィルムを間に挟んで前記吸着部と対向する位置に、当該吸着部から所定間隔設けて当該対向部の面が対向するように配置される対向部と、
前記積層フィルムの内、前記吸着部の面に接しているフィルムを少なくとも残して他のフィルムを反転させることで、前記吸着部の面に接しているフィルムが他のフィルムから剥離される剥離点が可動可能に配置される剥離領域であって、かつ前記吸着部と前記対向部とのそれぞれの面の間に挟んで、剥離された前記他のフィルムを反転させることで形成した曲面が形成される剥離領域と、を有し、
前記吸着部に前記積層フィルムを吸着させて搬送する第1搬送工程と、
前記剥離領域で、前記吸着部に接しているフィルムを他のフィルムから剥離する剥離工程と、
前記第1搬送部による前記積層フィルムの進行方向に対し逆方向に、前記他のフィルムを搬送する第2搬送工程と、を含む剥離方法。
【請求項12】
前記剥離点を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程の判断結果に基づいて、前記第1搬送工程のフィルム搬送速度および/または前記第2搬送工程のフィルム搬送速度を制御する第1速度制御工程と、をさらに含む請求項11に記載の剥離方法。
【請求項13】
前記剥離点を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程の判断結果に基づいて、前記第1搬送工程のフィルム搬送速度、前記第2搬送工程のフィルム搬送速度および前記対向部を構成するベルトの回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する第2速度制御工程と、をさらに含む請求項11に記載の剥離方法。
【請求項14】
ポリビニルアルコール系樹脂層を一方面に形成した樹脂基材を少なくとも延伸して偏光膜を樹脂基材上に形成する偏光膜形成工程と、
前記樹脂基材から前記偏光膜を剥離する剥離工程と、
前記樹脂基材から剥離された偏光膜に、光学フィルムおよび/または保護フィルムを直接または接着剤層を介して積層し光学フィルム積層体を得る積層体作製工程と、を含み、
前記剥離工程は、前記請求項1〜10のいずれか1項の剥離装置を用いてまたは前記請求項11〜13のいずれか1項に記載の剥離方法を用いて、前記樹脂基材から前記偏光膜を剥離することを特徴とする、光学フィルム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層の以上のフィルムが積層された積層フィルムから一部のフィルムを剥離する積層フィルムの剥離装置、積層フィルムの剥離方法およびそれを用いた光学フィルム積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層フィルムの剥離装置として、鋭角な剥離エッジに巻き掛けることで剥離する装置がある(特許文献1参照)。しかし、この場合、フィルムと剥離エッジ先端は強い力が掛かることとなり、エッジの先端に接触するフィルム面にキズが発生する虞がある。そのため、基材側(セパレータ、廃材部)を内側に折り返すことで、本来必要とするフィルム側へのキズを防止する方法が考えられる。
【0003】
しかし、積層フィルムの材料によっては、剥離力の異方性があるため、必要なフィルム側を内側にしてエッジ先端で折り返して、必要なフィルムから基材を剥離させることが必要なフィルム材料も存在する。このようなフィルム材料ほど、上記キズの問題や、フィルム破断などの問題が顕在化する。例えば、PET基材に形成された薄型偏光膜の場合、偏光膜側にTACフィルムを貼り合せた後に、上記PET基材を剥離し、剥離された側の偏光膜側にTACフィルムを貼り合せる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−298208号公報
【特許文献2】特許第4691205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような剥離エッジに基材側を巻き掛け反転させる方法において、積層フィルムから一部のフィルムを綺麗に剥離させるためには、剥離時にフィルムを反転した際の曲率半径Rを必要量以下の小さなサイズにし、それを幅方向で安定に保つことが重要である。この曲率半径Rが小さなサイズでかつ安定に保てない場合、基材側の残渣(エッジ先端で削られた基材の削りカス)が他のフィルム側に移動したり、剥離力が強く成り過ぎて基材フィルムが破断するおそれがある。
【0006】
また、反転させたフィルムと剥離エッジが強い力で接触し滑りが発生すると、反転させたフィルムにキズを生じさせてしまう。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、従来の剥離エッジを用いずに、綺麗な剥離が可能は新規の剥離装置、剥離方法を提供することを目的とする。また、上記剥離装置または剥離方法を用いて偏光膜を含む光学フィルム積層体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2層以上のフィルムが積層された積層フィルムから一部のフィルムを剥離する積層フィルムの剥離装置であって、
吸着部を有し、当該吸着部に前記積層フィルムを吸着させて搬送する第1搬送部と、
前記積層フィルムを間に挟んで前記吸着部と対向する位置に、当該吸着部から所定間隔設けて配置される対向部と、
前記積層フィルムの内、前記吸着部に接しているフィルムを少なくとも残して他のフィルムを反転させる(折り返えさせる)ことで、前記吸着部に接しているフィルムが他のフィルムから剥離される剥離点が可動可能に配置される、かつ前記吸着部と前記対向部との間で形成される剥離領域と、
前記第1搬送部による前記積層フィルムの進行方向に対し逆方向に、前記他のフィルムを搬送する第2搬送部と、を有する。
【0009】
この構成によれば、剥離領域内で、吸着部に接しているフィルム(例えば、セパレータ、樹脂基材)を少なくとも残して他のフィルム(例えば、光学フィルム、薄型偏光膜、偏光フィルムなど)を反転させる(折り返えさせる)ことで、吸着部に接しているフィルムが他のフィルムから剥離される(このような剥離されるポイントを剥離点という)。これにより、吸着部および対向部のそれぞれの面の間に挟んで、剥離されたフィルムを反転させることで形成した曲面(曲率半径R)を強制的に作り込むことができ、残渣のない綺麗な剥離が可能となる。
【0010】
本発明において「吸着部」は、積層フィルムを吸引して吸着搬送する手段であり、例えば、バキューマに接続された吸着ベルト、吸引板などが挙げられる。
【0011】
吸着部から対向部までの所定間隔は、2mm以上20mm以下、好ましくは3mm以上6mm以下である。所定間隔が20mmを越えるように間隔が広すぎると、剥離角度が得られず残渣が発生する虞がある。所定間隔が2mm未満のように間隔が狭すぎると、フィルムの接触などハンドリングの問題が発生する虞がある。また、曲率半径Rは、1mm以上10mm以下、好ましくは1.5mm以上3mm以下である。曲率半径Rが10mmを越えると上記所定間隔E2が広すぎるのと同様に、剥離角度が得られず残渣が発生する虞がある。曲率半径Rが1mm未満だと上記所定間隔E2が狭すぎるのと同様に、フィルムの接触などハンドリングの問題が発生する虞がある。
【0012】
上記発明の一実施形態として、前記吸着部の吸着面に対して平行に前記対向部が配置される。
【0013】
上記発明の一実施形態として、前記吸着部の吸着面に対して非平行に配置され、かつ前記第2搬送部による前記他のフィルムの搬送方向に沿うように前記対向部が配置される。
【0014】
上記発明の一実施形態として、前記対向部が、少なくとも一対のロールと、当該一対のロールに張架された回転可能なベルトを有して構成されている。また、前記ベルトが、吸着孔を有し、かつ当該吸着孔からの吸引によって前記他のフィルムを吸着させて搬送する吸着ベルトであることが好ましい。吸着ベルトは、バキューマに接続される。吸着部と対向部との両方を吸着機能を備えることで、フィルムの搬送ズレも生じず、対向部との摩擦でフィルム面がキズを生じることもないため好ましい。
【0015】
また上記発明の一実施形態として、前記対向部が、板状である。対向部の材料は、特に制限されず、例えば、表面の摩擦抵抗が小さい、滑らかな金属材料、樹脂材料などが挙げられる。
【0016】
また上記発明の一実施形態として、
前記剥離点を検出する検出部と、
前記検出部で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断部と、
前記判断部の判断結果に基づいて、前記第1搬送部のフィルム搬送速度および/または前記第2搬送部のフィルム搬送速度を制御する第1速度制御部と、をさらに有する。
【0017】
この構成によって、剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、第1搬送部のフィルム搬送速度および第2搬送部のフィルム搬送速度の内、両方またはいずれか一方を制御する。第1搬送部による積層フィルム(および一部のフィルムが剥離された後の積層フィルム)の搬送速度と、第2搬送部による剥離された他のフィルムの搬送速度とを同じ速度に制御することが好ましい。また、上記制御方法として、剥離点の位置を検出し、剥離点が剥離領域内または所定範囲内に存在するように、一方の速度を一定にし、他方を速くまたは遅くすることが好ましい。
【0018】
「剥離領域よりも小さい所定範囲内」は、例えば、剥離領域の境界からの余裕値に基づいて設定される。余裕値は、実験値や実稼働から設定することができ、また、搬送ロールを回転させる回転モータ、検出部、速度制御部などの各種処理速度も考慮される。
【0019】
検出部は、例えば、所定エリアを撮像する1つの撮像部と、当該撮像部で得られた画像を解析して剥離点を認識する画像解析部とを有する。そして判断部が、前記認識された剥離点の位置が剥離領域内または所定範囲内にあるか否かを判断する。また、検出部として、例えば、フィルム搬送方向に沿って、剥離領域の境界位置に2つまたは剥離領域の境界位置よりも内側の狭い範囲に2つのセンサ(例えば、エリア、ライン、ポイントなど)を配置させてもよい。例えば、判断部は、2つの内いずれか一方のセンサの検知結果(ON、OFF)に基づいて、剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するか否かを判断する。
【0020】
また上記発明の一実施形態として、
前記剥離点を検出する検出部と、
前記検出部で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断部と、
前記判断部の判断結果に基づいて、前記第1搬送部のフィルム搬送速度、前記第2搬送部のフィルム搬送速度および前記対向部のベルトの回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する第2速度制御部と、をさらに有する。
【0021】
この構成によって、剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、第1搬送部のフィルム搬送速度、第2搬送部のフィルム搬送速度および対向部のベルトの回転速度の内、一つまたは2つ以上を制御する。第1搬送部による積層フィルム(および一部のフィルムが剥離された後の積層フィルム)の搬送速度と、第2搬送部による剥離された他のフィルムの搬送速度と、対向部のベルトの回転速度とを同じ速度に制御することが好ましい。
【0022】
また上記発明の一実施形態として、前記第2搬送部で搬送される前記他のフィルムの厚みが、10μm以下である。
【0023】
また上記発明の一実施形態として、前記積層フィルムが、光学フィルムを含む。
【0024】
また上記発明の一実施形態として、前記積層フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂層を一方面に形成した樹脂基材を少なくとも延伸することで得られた偏光膜と、前記樹脂基材とを有する積層フィルムである。
【0025】
また、他の本発明は、2層以上のフィルムが積層された積層フィルムから一部のフィルムを剥離する積層フィルムの剥離方法であって、
前記積層フィルムを吸着する吸着部と、
前記積層フィルムを間に挟んで前記吸着部と対向する位置に、当該吸着部から所定間隔設けて配置される対向部と、
前記積層フィルムの内、前記吸着部に接しているフィルムを少なくとも残して他のフィルムを反転させる(折り返えさせる)ことで、前記吸着部に接しているフィルムが他のフィルムから剥離される剥離点が可動可能に配置される、かつ前記吸着部と前記対向部との間で形成される剥離領域と、を有し、
前記吸着部に前記積層フィルムを吸着させて搬送する第1搬送工程と、
前記剥離領域で、前記吸着部に接しているフィルムを他のフィルムから剥離する剥離工程と、
前記第1搬送部による前記積層フィルムの進行方向に対し逆方向に、前記他のフィルムを搬送する第2搬送工程と、を含む。
【0026】
この構成によれば、剥離領域内で、吸着部に接しているフィルム(例えば、セパレータ、樹脂基材)を少なくとも残して他のフィルム(例えば、光学フィルム、薄型偏光膜、偏光フィルムなど)を反転させる(折り返えさせる)ことで、吸着部に接しているフィルムが他のフィルムから剥離される(このような剥離されるポイントを剥離点という)。これにより、吸着部および対向部のそれぞれの面の間に挟んで、剥離されたフィルムを反転させることで形成した曲率半径Rを強制的に作り込むことができ、残渣のない綺麗な剥離が可能となる。
【0027】
上記発明の一実施形態として
前記剥離点を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程の判断結果に基づいて、前記第1搬送工程のフィルム搬送速度および/または前記第2搬送工程のフィルム搬送速度を制御する第1速度制御工程と、をさらに含む。
【0028】
この構成によって、剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、第1搬送工程のフィルム搬送速度および第2搬送工程のフィルム搬送速度の内、両方またはいずれか一方を制御する。第1搬送工程による積層フィルム(および一部のフィルムが剥離された後の積層フィルム)の搬送速度と、第2搬送工程による剥離された他のフィルムの搬送速度とを同じ速度に制御することが好ましい。また、上記制御方法として、剥離点の位置を検出し、剥離点が剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、一方の速度を一定にし、他方を速くまたは遅くすることが好ましい。
【0029】
上記発明の一実施形態として
前記剥離点を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された剥離点の位置が、前記剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程の判断結果に基づいて、前記第1搬送工程のフィルム搬送速度、前記第2搬送工程のフィルム搬送速度および前記対向部を構成するベルトの回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する第2速度制御工程と、をさらに含む。
【0030】
この構成によって、剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、第1搬送工程のフィルム搬送速度、第2搬送工程のフィルム搬送速度および対向部のベルトの回転速度の内、一つまたは2つ以上を制御する。第1搬送工程による積層フィルム(および一部のフィルムが剥離された後の積層フィルム)の搬送速度と、第2搬送工程による剥離された他のフィルムの搬送速度と、対向部のベルトの回転速度とを同じ速度に制御することが好ましい。
【0031】
また、他の本発明は、
ポリビニルアルコール系樹脂層を一方面に形成した樹脂基材を少なくとも延伸して偏光膜を樹脂基材上に形成する偏光膜形成工程と、
前記樹脂基材から前記偏光膜を剥離する剥離工程と、
前記樹脂基材から剥離された偏光膜に、光学フィルムおよび/または保護フィルムを直接または接着剤層を介して積層し光学フィルム積層体を得る積層体作製工程と、を含み、
前記剥離工程は、上記剥離装置を用いてまたは上記剥離方法を用いて、前記樹脂基材から前記偏光膜を剥離することを特徴とする光学フィルム積層体の製造方法である。
【0032】
この構成によれば、基材から薄型偏光膜を綺麗に剥離できるため、薄型の偏光膜を含む光学フィルム積層体を好適に製造できる。
【0033】
上記発明の一実施形態として、前記偏光膜の厚みが、10μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態1の剥離装置の概略図である。
図2】対向部の別例を示す図である。
図3】検出部の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(実施形態1)
以下、実施形態1の剥離装置について図1を参照しながら説明する。剥離装置1は、2層のフィルム(11,12)が積層された積層フィルム10から一部のフィルム(11)を剥離する。
【0036】
積層フィルム10を構成する2層のフィルムは、特に制限されないが、例えば、光学フィルムを含むことが例示される。また、例えば、積層フィルム10は、ポリビニルアルコール系樹脂層を一方面に形成した樹脂基材を少なくとも延伸して、樹脂基材上に偏光膜を形成してなる積層フィルムである。
【0037】
積層フィルム10を構成する光学フィルムして、例えば、偏光フィルムが挙げられる。偏光フィルムのフィルム本体は、例えば、偏光子(厚さは一般的に1〜80μm程度)と、偏光子の片面または両面に偏光子保護フィルム(厚さは一般的に1〜500μm程度)が接着剤または接着剤なしで形成される。偏光子は、通常、延伸方向が吸収軸となっている。また、光学フィルムとして、例えば、λ/4板、λ/2板等の位相差フィルム、視角補償フィルム、輝度向上フィルム、表面保護フィルム等が挙げられる。
【0038】
上記積層フィルム10のうち、キャリアフィルム(樹脂基材)から剥離される光学フィルムの厚みとしては、90μm以下が好ましい、より好ましくは50μm以下である。
【0039】
粘着剤は、特に制限されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が挙げられる。粘着剤の層厚みは、例えば、10μm〜50μmの範囲が好ましい。
【0040】
(キャリアフィルム)
積層フィルム10の一部を構成するキャリアフィルムとしては、例えばプラスチックフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ポリオレフィン系フィルム等)等の従来公知のフィルムを用いることができる。また、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。なお、キャリアフィルムは、一般的に離型フィルム(セパレータフィルム)ともいわれる。
【0041】
剥離装置1は、吸着部(吸着ベルト25)を有し、吸着部(吸着ベルト25)に積層フィルム10を吸着させて搬送する第1搬送部(駆動ロール21、従動ロール22)と、積層フィルム10を間に挟んで吸着部(吸着ベルト25)と対向する位置に、吸着部(吸着ベルト25)から所定間隔E2設けて配置される対向部(駆動ロール41、従動ロール42、吸着ベルト45)と、積層フィルム10の内、吸着部(吸着ベルト25)に接しているフィルム(キャリアフィルム12)を残して他のフィルム(光学フィルム11)を反転させる(折り返えさせる)ことで、吸着部(吸着ベルト25)に接しているフィルム(キャリアフィルム12)が他のフィルム(光学フィルム11)から剥離される剥離点Pが可動可能に配置される、かつ吸着部(吸着ベルト25)と対向部(駆動ロール41、従動ロール42、吸着ベルト45)との間で形成される剥離領域(E1、E2、E3)と、第1搬送部(駆動ロール21、従動ロール22)による積層フィルム10の進行方向に対し逆方向に、他のフィルム(光学フィルム11)を搬送する第2搬送部(ニップロール31、ニップロール32)と、を有する。
【0042】
本実施形態1において、吸着部は吸着ベルト25を有し、吸着ベルト25は、積層フィルム10のキャリアフィルム12側を吸引して吸着搬送する。吸着ベルト25は、吸着孔(不図示)を有し、かつ吸着孔からの吸引によってフィルム(キャリアフィルム12)を吸着させて搬送する。吸着ベルト25は、不図示のバキューマに接続される。
【0043】
第1搬送部は、駆動ロール21、従動ロール22とを有し、それらに吸着ベルト25が掛け渡された構造(ロール同士にベルトを張架した構造)である。第1搬送部は、他にニップロール、搬送ロールなどを設けていてもよい。駆動ロール21は、不図示のモータが連動され、後述する制御部60によって駆動制御されている。
【0044】
対向部は、積層フィルム10を間に挟んで吸着ベルト25と対向する位置に、吸着ベルト25から所定間隔E2設けて配置される。対向部は、駆動ロール41、従動ロール42と有し、それらに吸着ベルト45が掛け渡された構造(ロール同士にベルトを張架した構造)である。駆動ロール41は、不図示のモータが連動され、後述する制御部60によって駆動制御されている。吸着ベルト45は、吸着孔(不図示)を有し、かつ吸着孔からの吸引によって他のフィルム(光学フィルム11)を吸着させて搬送する。吸着ベルト45は、不図示のバキューマに接続される。
【0045】
吸着ベルト25の吸着面から対向部の吸着ベルトの吸着面までの所定間隔E2は、2mm以上20mm以下、好ましくは3mm以上6mm以下である。
【0046】
図1では、対向部の吸着ベルト45の吸着面は、吸着ベルト25の吸着面に対して平行に配置される。しかし、別実施形態として、対向部の吸着ベルト45の吸着面が、吸着ベルト25の吸着面に対して非平行に配置され(傾き角α)、かつ第2搬送部による他のフィルム(光学フィルム11)の搬送方向に沿うように配置されてもよい。例えば、図2に傾き角αを示す。傾き角αは、0°を越え89°以下の範囲が例示され、好ましくは0°を越え60°以下、より好ましくは0°を越え30°以下、さらに好ましくは0°を越え20°以下である。図2において、所定間隔E2は、ロール配置に依存し、E2a〜E2bまでの範囲となり、この場合もE2aおよびE2bは、2mm以上20mm以下、好ましくは3mm以上6mm以下であって、E2a<E2bの関係である。
【0047】
剥離領域(E1またはE3、E2とで構成される領域)の高さ方向(図1紙面において上下向き)は、吸着ベルト25から吸着ベルト45までの所定間隔E2である。また、剥離されて反転形成された光学フィルム11の反転部X(あるいは、光学フィルム11が反転することで他部材から剥離される位置である剥離点P)が左右方向に動く範囲(図1紙面において左右方向の範囲)は、第1搬送部の駆動ロール21の外周と吸着ベルト25との接点から従動ロール22の外周と吸着ベルト25との接点までの距離E1、または、対向部の駆動ロール41の外周と吸着ベルト45の接点から対向部の従動ロール42の外周と吸着ベルト45との接点までの距離E3(図1の場合)の内、いずれか短い方の距離である。また、光学フィルム11が対向部の吸着ベルト45に初めて接触する位置を接触点Qと呼ぶ。図1の場合、吸着ベルト25、45同士が平行に配置されているので、接触点Qと剥離点Pは、垂直方向において一致する(重なる)。一方、図2の場合、吸着ベルト45が吸着ベルト25に対して傾斜しているので、接触点Qと剥離点Pは垂直方向において少しずれる。
【0048】
上記剥離領域内で、積層フィルム10の内、吸着ベルト25に接しているフィルム(キャリアフィルム12)を残して他のフィルム(光学フィルム11)を反転させる(折り返えさせる)ことで、吸着ベルト25に接しているフィルム(キャリアフィルム12)が他のフィルム(光学フィルム11)から剥離される。この剥離される位置が上記した剥離点Pである。後述するように、各駆動ロールの回転速度を制御することで、剥離点Pを上記剥離領域に存在させ、剥離領域外に移動しないようにする。
【0049】
キャリアフィルム12から剥離して反転形成した光学フィルム11における曲率半径Rは、1mm以上10mm以下、好ましくは1.5mm以上3mm以下である。曲率半径Rが10mmを越えると上記所定間隔E2が広すぎるため、剥離角度が得られず残渣が発生する虞がある。曲率半径Rが1mm未満だと上記所定間隔E2が狭すぎるため、フィルムの接触などハンドリングの問題が発生する虞がある。
【0050】
第2搬送部は、ニップロール31、ニップロール32とを有し、第1搬送部(駆動ロール21、従動ロール22)による積層フィルム10の進行方向に対し逆方向に、剥離領域で剥離された他のフィルム(光学フィルム11)を搬送する。
【0051】
制御部60は、各駆動ロールの回転速度を制御することで、剥離点Pを上記剥離領域(E1またはE3、E2)に存在させ、剥離領域外に移動しないように制御する。具体的には、検出部51が、剥離点Pを検出する。検出部51は、図1の紙面に対して垂直に配置されて、剥離点Pの位置を検出する。検出部51は、上記剥離領域を少なくとも含む所定エリアを撮像する1つの撮像部を有し、当該撮像部で得られた画像が制御部60に送られ、画像解析部61が当該画像を解析して剥離点Pの位置を認識する。
【0052】
判断部62は、剥離点Pの位置が、剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内(E1より短い距離またはE3より短い距離)にあるか否かを判断する。
【0053】
第2速度制御部64は、判断部62の判断結果に基づいて、第1搬送部のフィルム搬送速度、第2搬送部のフィルム搬送速度および対向部の吸着ベルト45の回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する。「第1搬送部のフィルム搬送速度」は、駆動ロール21の回転速度(角速度)に対応する。また、「第2搬送部のフィルム搬送速度」は、ニップロール31および/またはニップロール32の回転速度(角速度)に対応する。「対向部の吸着ベルト45の回転速度」は、吸着ベルト45を回転駆動させる駆動ロール41の回転速度(角速度)に対応する。第2速度制御部64は、駆動ロール21の回転速度(角速度)と、ニップロール31、32の回転速度(角速度)と、吸着ベルト45を駆動する駆動ロール41の回転速度(角速度)を同じ速度に制御することが好ましい。また、別制御方法として、剥離点Pの位置を検出し、剥離点Pが剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、駆動ロール21の回転速度(角速度)および吸着ベルト45を駆動する駆動ロール41の回転速度(角速度)の速度を少なくとも一定にすることが好ましい。
【0054】
上記制御部60は、ソフトウエアプログラムとCPU、メモリ等のハードウエア資源との協同作用によって実現されてもよく、この場合プログラムソフトウエア、処理手順、各種設定等はメモリが予め記憶されている。また、制御部60は、専用回路やファームウエア、情報処理装置等で構成できる。
【0055】
(別実施形態)
上記対向部が吸着かつ回転するベルトで構成されていたが、これに制限されず、例えば回転ベルトとして構成されていてもよい。
【0056】
また、別実施形態として、図3に示すように、検出部51は、フィルム搬送方向に沿って、剥離領域の境界(E1またはE3の内外の境界位置)にそれぞれ少なくとも1個づつ(少なくとも2個以上)のラインセンサ54、55または剥離領域の境界よりも幅の狭い範囲にそれぞれ少なくとも1個づつ(少なくとも2個以上)のセンサを配置させることで構成される。判断部62は、2つの内いずれか一方のラインセンサ54、55の検知結果(ON、OFF)に基づいて、剥離領域内または所定範囲内に剥離点Pが存在するか否かを判断する。
【0057】
また、別実施形態として、対向部が板状である。板状の対抗部が、図2に示すように傾き角αで傾斜して配置されていてもよく、図1に示すように吸着ベルト25の吸着面に対して平行に配置されていてもよい。対向部の材料は、特に制限されず、例えば、表面の摩擦抵抗が小さい、滑らかな金属材料、樹脂材料などが挙げられる。
【0058】
また、別実施形態として、対向部が回転ベルトでない場合に、第1速度制御部63は、判断部62の判断結果に基づいて、例えば、剥離領域内または所定範囲内に剥離点Pが存在するように、第1搬送部のフィルム搬送速度および第2搬送部のフィルム搬送速度の内、両方またはいずれか一方を制御する。第1速度制御部63は、駆動ロール21の回転速度(角速度)と、ニップロール31および/またはニップロール32の回転速度(角速度)とを同じ速度に制御することが好ましい。また、別制御方法として、剥離点Pの位置を検出し、剥離点Pが剥離領域内または所定範囲内に剥離点が存在するように、一方の速度を一定にし、他方を速くまたは遅くする。
【0059】
(剥離方法)
上記剥離装置1の剥離方法は、積層フィルム10を吸着する吸着ベルト25と、積層フィルム10を間に挟んで吸着部と対向する位置に、吸着部から所定間隔E2設けて配置される対向部の吸着ベルト45と、積層フィルム10の内、吸着ベルト25に接しているフィルム(キャリアフィルム12)を少なくとも残して他のフィルム(光学フィルム11)を反転させる(折り返えさせる)ことで、吸着ベルト25に接しているフィルム(キャリアフィルム12)が他のフィルム(光学フィルム12)から剥離される剥離点Pが可動可能に配置される、かつ吸着ベルト25と対向部の吸着ベルト45との間で形成される剥離領域(E1またはE3、E2)と、を有し、吸着ベルト25に積層フィルム10を吸着させて搬送する第1搬送工程と、剥離領域(E1またはE3、E2)で、吸着ベルト25に接しているフィルム(キャリアフィルム12)を他のフィルム(光学フィルム11)から剥離する剥離工程と、第1搬送部による積層フィルム10の進行方向に対し逆方向に、他のフィルム(光学フィルム11)を搬送する第2搬送工程とを含む。
【0060】
上記剥離方法は、剥離点Pを検出する検出工程と、検出工程で検出された剥離点Pの位置が、剥離領域内あるいは剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、判断工程の判断結果に基づいて、第1搬送工程のフィルム搬送速度、第2搬送工程のフィルム搬送速度および対向部を構成する吸着ベルト45の回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する第2速度制御工程とをさらに含む。
【0061】
上記剥離方法の別例として、剥離点Pを検出する検出工程と、検出工程で検出された剥離点Pの位置が、剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、判断工程の判断結果に基づいて、第1搬送工程のフィルム搬送速度および/または第2搬送工程のフィルム搬送速度を制御する第1速度制御工程とをさらに含む。
【0062】
(実施形態2)
実施形態2の光学フィルム積層体の製造方法は、以下の工程を含む。本製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂層を一方面に形成した樹脂基材を少なくとも延伸して偏光膜を樹脂基材上に形成する偏光膜形成工程と、樹脂基材から偏光膜を剥離する剥離工程と、樹脂基材から剥離された偏光膜に、光学フィルムおよび/または保護フィルムを直接または接着剤層を介して積層し光学フィルム積層体を得る積層体作製工程とを含む。上記偏光膜形成工程は、図1の前段工程に相当する。
【0063】
(偏光膜形成工程)
ポリビニルアルコール系樹脂層を樹脂基材上に形成する方法は、例えば、長尺の樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)を含む塗布液を塗布し(塗布膜形成し)、乾燥させることで形成できる。
【0064】
上記樹脂基材としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などのエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂などのシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂として、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。
【0065】
上記延伸として水中延伸方法を用いる場合、樹脂基材は、水を吸収し、この水が可塑剤的な作用を発揮することで可塑化する。この場合の樹脂基材の吸水率は、0.2%以上、好ましくは0.3%以上であり、かつ3.0%以下、好ましくは1.0%以下である。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる。
【0066】
上記樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、170℃以下が好ましい。これにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら樹脂基材の延伸性を十分に確保することができる。水中延伸の場合、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる。
【0067】
上記樹脂基材の延伸前の厚みは、20μm〜300μmであり、好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満では、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを越えると、例えば、水中延伸において樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0068】
上記PVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。
【0069】
上記塗布液の溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン類が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して3〜20重量部である。この樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成できる。
【0070】
上記塗布液に添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤、易接着成分などが挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。
【0071】
上記塗布液の塗布方法として、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコード法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0072】
上記塗布液の塗布工程は50℃以上が好ましい。塗布工程後の乾燥工程は50℃以上が好ましい。塗布液の塗布と乾燥を同じ工程で行なってもよい。
【0073】
上記PVA系樹脂層の乾燥後延伸前の厚みは、3μm〜40μmであり、好ましくは5μm〜20μmである。
【0074】
上記PVA系樹脂層を形成する前に、樹脂基材に表面処理(例えばコロナ処理など)を施してもよく、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。易接着層を構成する材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが用いられ、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。易接着層の厚みは0.05μm〜1μmが好ましい。上記処理を行なうことで、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0075】
上記延伸処理の方法として、例えば、固定端延伸、自由端延伸がある。自由端延伸は、例えば、周速の異なるロール間に、長尺状のPVA樹脂層が形成された樹脂基材を通して一軸延伸する方法(長手方向に延伸する方法)である。また、長尺状のPVA樹脂層が形成された樹脂基材に対して幅方向に延伸する方法である。
【0076】
上記延伸方式として、例えば、空中延伸方式、水中延伸方式があり、水中延伸方式が好ましい。また、1回の延伸でもよく、多段階の延伸を行なってもよい。多段階の延伸の場合、自由端延伸と固定端延伸とを組み合わせてもよく、空中延伸方式と水中延伸方式とを組み合わせてもよい。多段階の場合、延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0077】
空中延伸方式の場合、延伸温度は、好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、より好ましくはTg+10℃以上であり、さらに好ましくはTg+15℃以上である。
【0078】
水中延伸方式の場合、延伸浴の温度は好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは50℃〜85℃である。延伸浴の浸漬期間は15秒〜5分である。
【0079】
延伸浴にホウ酸またはホウ酸塩を配合することが好ましい。延伸浴中のホウ酸濃度は、水100重量部に対して1重量部〜10重量部である。ホウ酸の代替として、例えば、ホウ砂などのホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。
【0080】
後述する染色処理において、PVA系樹脂層に二色性物質(例えば、ヨウ素)が吸着されている場合に、延伸浴にヨウ化物を配合することが好ましい。これにより、PVA系樹脂層に吸着されたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物として、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化チタンなどが挙げられる。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して0.05重量部〜15重量部、好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0081】
上記樹脂基材の延伸倍率(最大延伸倍率)は、延伸前に対して、5.0倍以上である。本実施形態において「最大延伸倍率」は、樹脂基材が破断する直前の延伸倍率から0.2低い値である。
【0082】
上記延伸を多段階で行なう実施形態として、高温(例えば、95℃以上)で空中延伸した後、上記ホウ酸水中延伸を行い、さらに後述する染色を行なう。この場合の空中延伸の延伸倍率は、3.5倍以下である。空中延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度(Tg)以上が好ましく、例えば、95℃〜150℃である。空中延伸およびホウ酸水中延伸における最大延伸倍率は、延伸前に対して5.0倍以上、好ましくは5.5倍以上、より好ましく6.0倍以上である。
【0083】
上記染色は、PVA系樹脂層に二色性物質(好ましくはヨウ素)を吸着させる処理である。吸着方法として、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(樹脂基材)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に染色液を塗工する方法、染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法などが挙げられる。
【0084】
染色液は、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合液は、水100重量部に対して0.1重量部〜0.5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するために、例えば、20℃〜50℃が挙げられる。浸漬時間は、PVA系樹脂の透過率を確保するために、例えば、5秒〜5分である。染色処理は、上記水中延伸を行なう場合、水中延伸の前に行なうことが好ましい。
【0085】
(その他の処理)
PVA系樹脂層を偏光膜にするための処理として、延伸および染色以外に、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理などを施してもよい。
【0086】
不溶化処理は、ホウ酸水溶液にPVA樹脂層(樹脂基材)を浸漬する処理である。この処理によりPVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して1重量部〜4重量部である。不溶化浴の液温は、例えば、20℃〜50℃である。不溶化処理は、上記水中延伸と上記染色処理の前に行なうことが好ましい。
【0087】
架橋処理は、ホウ酸水溶液にPVA樹脂層(樹脂基材)を浸漬する処理である。この処理によりPVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して1重量部〜5重量部である。染色処理後に架橋処理を行なう場合、さらにヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制できる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して1重量部〜5重量部である。架橋浴の液温は、例えば、20℃〜60℃である。架橋処理は、上記水中延伸の前に行なうことが好ましい。染色処理、架橋処理、水中延伸の順に行なうことが好ましい。
【0088】
洗浄処理は、ヨウ化カリウ水溶液にPVA樹脂層(樹脂基材)を浸漬する処理である。乾燥処理における乾燥温度は、例えば、30℃〜100℃である。
【0089】
(偏光膜)
偏光膜は、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、上限として25μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下、特に好ましくは5μm以下であり、下限として0.5μm以上、好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、40.0%以上、好ましくは41.0%以上、より好ましくは42.0%以上、さらに好ましくは43.0%以上である。偏光膜の偏光度は、99.8%以上、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.95%以上である。
【0090】
(剥離工程)
上記剥離工程は、積層フィルム10を吸着する吸着ベルト25と、積層フィルム10を間に挟んで吸着部と対向する位置に、吸着部から所定間隔E2設けて配置される対向部の吸着ベルト45と、積層フィルム10の内、吸着ベルト25に接している樹脂基材のフィルム(キャリアフィルム12)を少なくとも残して他のフィルム(偏光膜11)を反転させる(折り返えさせる)ことで、吸着ベルト25に接している樹脂基材のフィルム(キャリアフィルム12)が他のフィルム(偏光膜11)から剥離される剥離点Pが可動可能に配置される、かつ吸着ベルト25と対向部の吸着ベルト45との間で形成される剥離領域(E1またはE3、E2)と、を有し、吸着ベルト25に積層フィルム10を吸着させて搬送する第1搬送工程と、剥離領域(E1またはE3、E2)で、吸着ベルト25に接している樹脂基材のフィルム(キャリアフィルム12)を他のフィルム(偏光膜11)から剥離する剥離工程と、第1搬送部による積層フィルム10の進行方向に対し逆方向に、他のフィルム(偏光膜11)を搬送する第2搬送工程とを含む。
【0091】
上記剥離工程は、剥離点Pを検出する検出工程と、検出工程で検出された剥離点Pの位置が、剥離領域内あるいは剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、判断工程の判断結果に基づいて、第1搬送工程のフィルム搬送速度、第2搬送工程のフィルム搬送速度および対向部を構成する吸着ベルト45の回転速度の内いずれか1つまたは2つ以上を制御する第2速度制御工程とをさらに含む。
【0092】
上記剥離方法の別例として、剥離点Pを検出する検出工程と、検出工程で検出された剥離点Pの位置が、剥離領域内あるいは当該剥離領域よりも小さい所定範囲内にあるか否かを判断する判断工程と、判断工程の判断結果に基づいて、第1搬送工程のフィルム搬送速度および/または第2搬送工程のフィルム搬送速度を制御する第1速度制御工程とをさらに含む。
【0093】
(積層体作製工程)
上記積層体作製工程は、上記剥離工程で樹脂基材から剥離された偏光膜に、光学フィルムおよび/または保護フィルムを直接または接着剤層を介して積層し光学フィルム積層体を得る工程である。
【0094】
上記光学フィルムとして、例えば、λ/4板、λ/2板等の位相差フィルム、視角補償フィルム、輝度向上フィルム、表面保護フィルム等が挙げられる。上記保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂などのシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂フィルム、(メタ)アクリル系樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0095】
上記接着剤層を構成する接着剤としては、水系接着剤、溶剤系接着剤が挙げられる。水系接着剤として、PVA系樹脂を含む水系接着剤が好ましい。接着剤の塗布時の厚みは、例えば、10nm〜300nm、好ましくは10nm〜200nm、より好ましくは20nmから150nmである。
【0096】
上記偏光膜に光学フィルムおよび/または保護フィルムを積層した後で、加熱することが好ましい。加熱温度は、50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。
【0097】
偏光膜に各種フィルムを接着剤を介して積層する方法として、例えば、予め接着剤層が形成された各種フィルムを接着剤面に偏光膜を対向させて、両者を搬送しながら、回転している一対ロール(貼付部)に挟み込んで、貼り付ける(貼付工程)。
【符号の説明】
【0098】
1 剥離装置
10 積層フィルム
11 光学フィルム、偏光膜
12 キャリアフィルム
21 駆動フィルム
22 従動フィルム
25 吸着ベルト
31 ニップロール
32 ニップロール
41 駆動ロール
42 従動ロール
45 吸着ベルト
51 検出部
60 制御部
61 画像解析部
62 判断部
63 第1速度制御部
64 第2速度制御部
P 剥離点
Q 接触点
図1
図2
図3