(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般にドアクローザは、作動油が充填された密閉空間を有するハウジングを備え、該ハウジングの密閉空間にはコイルスプリングにより付勢されたピストンが往復移動可能に配置されている。また、上記ピストンにはラック・ピニオン機構が組み付けられ、該ラック・ピニオン機構のピニオンには、回転軸がハウジングを貫挿するように連結されている。
【0003】
こうしたドアクローザは開戸に対して使用されるだけではなく、引戸に対しても使用されている。その場合、下記特許文献1に示されるように、回転軸の一端にアームの一端が連結され、該アームの他端にはローラが備えられ、該ローラは引戸に固定したレールに沿って摺動可能に軸支される。
【0004】
そして、引戸を開操作すると、その動作がアームを介して回転軸に伝達され、さらにラック・ピニオン機構を介してピストンの直線動作に変換される。これにより、ピストンがハウジングの密閉空間を移動することでコイルスプリングを圧縮し、引戸から手を離すと、この圧縮されたコイルスプリングの反発力により引戸がゆっくりと自動的に閉まるようになっている。この引戸の閉速度は、ピストンの移動に連動して流動する作動油の流量を油量調整弁で制御することで調整される。
【0005】
ところで、この種のドアクローザにおいて油量調整弁は一般に工具を用いて調整されるが、下記特許文献2には油量調整弁を手で操作可能なハンドルを備える構成が開示されている。
【0006】
この構成によれば、工具による操作が困難な位置に油量調整弁が配置されている場合であっても、工具を用いることなく容易に油量調整弁を操作することができる。しかし、ハンドルを緩める方向に回転させ続けると油量調整弁がハウジングから脱落し、作動油が漏れるという問題がある。また、ハンドルに何かが当たる等して予期しない外力が加わると、油量調整弁の調整値が簡単に変わってしまうという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、まず本発明の第1実施形態にかかるドアクローザ1を
図1〜
図6に基づき説明する。
【0014】
図1、
図2に示すように、101は引戸を示す。引戸101は上枠(図示しない)と、閉じ側縦枠102、開き側縦枠103、下枠104に矩形に囲まれた空間を、上枠と下枠104に備えられたレール(図示しない)に沿って左右に開閉するように構成されている。また、105は引戸101を収納する収納部壁面を示し、収納部壁面105と上枠、閉じ側縦枠102、下枠104に矩形に囲まれた空間が開口部106を構成している。この引戸101は、ドアクローザ1により開状態からゆっくり自動的に閉じられるようになっている。
【0015】
図1〜
図3に示すように、ドアクローザ1は、ハウジング2に軸支されて軸線まわりに回転する回転軸12を備えている。該回転軸12はハウジング2を貫挿しており、回転軸12の一端にはアーム108の一端が相対回転不能に取り付けられる。そしてアーム108の他端にはローラ110が備えられており、ローラ110は引戸101の縦縁に沿って固定したレール107に沿って摺動可能に軸支されている。またドアクローザ1は、ブラケット109を介して収納部壁面105に固定されている。
【0016】
収納部壁面105に対向するように正面壁(図示しない)が設けられている。収納部壁面105と該正面壁との間にドアクローザ1が配設されるとともに、引戸101が収納されるように構成されている。また、該正面壁にはドアクローザ1にアクセスするための点検孔(図示しない)が設けられており、該点検孔には蓋(図示しない)が設置されている。
【0017】
図4に示すように、ドアクローザ1は、作動油が充填される密閉空間である油室3を備えるハウジング2と、油室3を第1の油室3aおよび第2の油室3bに2分割するとともに、油室3内で往復移動自在に設置されるピストン4とを備えている。ピストン4に対しては、第1の油室3a側に設置されるピストン付勢手段としてのスプリング5からの付勢力が常時及ぼされており、外部の力が加わらない場合、ピストン4は第1の油室3aを拡げる方向に移動するよう構成されている。
【0018】
ピストン4の内部には第2の油室3bの一部を構成する空洞部4aが形成され、空洞部4aは第1通路6を介して第1の油室3aに連通しているとともに、第2通路7を介して第2の油室3bの一部を構成する油室3cに連通している。第1通路6内にはボール収容部6aが形成され、ボール8がボール収容部6aに移動可能に収容されている。引戸101の開放中はボール8が第1の油室3aの内圧でボール収容部6aの内壁に押し付けられて第1通路6を閉じ、第1の油室3a側の作動油が第1通路6を介して第2の油室3b側に流出しないようにしている。第2通路7は、空洞部側通路7aと、該空洞部側通路7aよりも大きい大通路7bとからなり、この大通路7bにチェック弁9が介設され、チェック弁9により空洞部4aと油室3cとを連通・遮断するようにしている。チェック弁9は、大通路7bに嵌着された弁本体10を備え、弁本体10内には、ボール収容部10aが空洞部側通路7aと油室3cとに連通するように形成され、ボール11がボール収容部10aに移動可能に収容されている。そして、チェック弁9は、引戸101の閉鎖中は油室3cの内圧でボール11を空洞部側通路7aに通じるボール収容部10a内壁に押し付けて第2通路7を閉じ、油室3c側の作動油が第2通路7を介して空洞部4a側に流出しないようにしている。
【0019】
ハウジング2には、図示せぬ1個の油量調整弁が挿着されており、第1の油室3aと空洞部4aとの間を繋ぐ図示しない流路に臨んでいて、ピストン4の移動に連動して作動油の流量を制御することで引戸101の開速度を調整するようにしている。
【0020】
ドアクローザ1には、ラック・ピニオン機構部が設置されており、引戸101の開閉運動とピストン4の往復動運動とを相互に変換できるようになっている。具体的には、ラック・ピニオン機構部は、ピストン4に固定設置されているラック14と、ハウジング2に回転運動自在に設置されるピニオン13とによって構成されており、ピニオン13がハウジング2と回転運動自在に接続する回転軸12には、アーム108が接続されている。従って、引戸101の開閉運動は、アーム108を介して回転軸12に伝達され、ピニオン13を回転させることになる。
【0021】
図1、
図4には引戸101が完全に閉鎖された状態でのドアクローザ1が示されている。そして、この状態から引戸101を開放する力が加わると、アーム108を介して回転軸12を
図4において反時計回りに回転させる力が伝達されてピニオン13も反時計回りに回転し、このピニオン13と歯合するラック14は
図4の紙面左方向に移動する。このラック14の動きにともなって、ラック14と接続するピストン4はスプリング5の付勢力に抗して紙面左方向に移動する。このスプリング5の付勢力に抗したピストン4の移動運動によって、引戸101は常に閉方向に移動する力を蓄積しながら開放されることになる。
【0022】
逆に
図2に示すように、引戸101が完全に開放された状態から引戸101の移動を規制する力が解除されると、スプリング5から及ぼされる付勢力によって、ピストン4は
図4の紙面右方向に移動することになる。このピストン4の移動によって、ピストン4と接続するラック14も紙面右方向に移動し、ピニオン13を
図4において時計回りに回転させる。このピニオン13の回転運動によって、回転軸12が時計回りに回転運動することになるので、回転軸12に接続するアーム108によってこの回転運動が引戸101を閉方向に移動させる力として伝達され、引戸101の閉鎖が実施され、完全に引戸101が閉状態となったとき、ドアクローザ1は
図1、
図4に示される状態となる。以上の説明から、ラック14の移動運動とピニオン13の回転運動、すなわちピストン4の往復動と引戸101の開閉運動とが、ラック・ピニオン機構部によって相互に変換可能になっていることが解る。
【0023】
図5、
図6に示すように、ドアクローザ1には、ピストン4の往復移動にともなう第2の油室3bおよび油室3c間での作動油の移動油量を調整することによってピストン4の移動速度を制御し、もって引戸101の閉速度を制御する2つの制御機構部20、30が設置されている。
【0024】
図5に示すように、制御機構部20は、油室3に沿ってハウジング2に形成された油路21を備えている。油路21は、油室3と連通する2つの通油孔22、23を備えている。そして、油路21にはハウジング2の側面2Aから油量調整弁24が螺合配置されている。この油量調整弁24は、その弁先が油室3cと通じることになる通油孔22に位置するように配置されており、油量調整弁24を回転操作することによって通油孔22の導通、閉鎖、油量調整ができるようになっている。この通油孔22は、引戸101の状態にかかわらず油室3cと常に導通する通油孔であり、引戸101が閉鎖されてピストン4が最も紙面右側に位置するときにも、油室3cとの導通状態が維持されている。
【0025】
油路21に形成されている通油孔のうち、第2の油室3b側に配置されているのが通油孔23である。この通油孔23は、引戸101の状態にかかわらず第2の油室3bと常に導通する通油孔であり、引戸101が閉鎖されてピストン4が最も紙面右側に位置するときにも、第2の油室3bとの導通状態が維持されている。
【0026】
図6に示すように、制御機構部30は、油室3に沿ってハウジング2に形成された油路31を備えている。油路31は、油室3と連通する2つの通油孔32、33を備えている。そして、油路31にはハウジング2の側面2Aから油量調整弁34が螺合配置されている。この油量調整弁34は、その弁先が油室3cと通じることになる通油孔32に位置するように配置されており、油量調整弁34を回転操作することによって通油孔32の導通、閉鎖、油量調整ができるようになっている。この通油孔32は、引戸101が開状態のときには油室3cと導通し、引戸101の閉方向の移動にともなってピストン4が移動したときにはピストン4によって閉鎖される通油孔である。
【0027】
油路31に形成されている通油孔のうち、第2の油室3b側に配置されているのが通油孔33である。この通油孔33は、引戸101の状態にかかわらず第2の油室3bと常に導通する通油孔であり、引戸101が閉鎖されてピストン4が最も紙面右側に位置するときにも、第2の油室3bとの導通状態が維持されている。
【0028】
次に油量調整弁24、34について
図5、
図6に基づき詳しく説明する。金属又は樹脂製の油量調整弁24、34は、その一端に略円板状のハンドル25、35を一体に設けており、断面略T字状の形状をした円柱部材となっている。また、ハンドル25、35は端面25A、35Aを備えている。ハンドル25、35は、ハウジング2の側面2Aから突出して配置されており、手で摘んで回転操作することでそれぞれ通油孔22、32の導通、閉鎖、油量調整ができるようになっている。一般に油量調整弁24、34を操作するには工具を使用するが、本発明の第1実施形態においては、ハンドル25、35を一体に設けることにより、工具を用いることなく油量調整弁24、34を操作することができるようになっている。ハンドル25、35の円周面にはハンドル軸線に平行なローレット溝が設けられており、ハンドル25、35を手で操作する際の滑り止めの役割を果たすようになっている。
【0029】
図3、
図5、
図6に示すように、ハウジング2の側面2Aには、ブロック40がネジ42によって固定されている。ブロック40は略長方体形状をしており、
図5、
図6の紙面上方向に向かって突出する脱落防止手段としての突出部41を備えている。突出部41はハウジング2の側面2Aと対向する端面41Aを備えている。また、ハウジング2の側面2Aと突出部41の端面41Aとの間には、油量調整弁24、34のハンドル25、35が配設されている。さらに、突出部41は
図3の紙面正面方向から見たときに、油量調整弁24、34のハンドル25、35にその一部が被るように設けられている。
【0030】
油量調整弁24、34は、それぞれ油路21、31に螺合配置されていることから、ハンドル25、35で回転操作した際、
図5、
図6の紙面左右方向に移動することになる。その際、油量調整弁24、34のハンドル25、35は、ハウジング2の側面2Aと突出部41の端面41Aとの間に配設されているため、油量調整弁24、34の移動可能量は側面2Aと端面41Aとの間の距離によって決まり、その距離は、油量調整弁24、34の調整範囲を狭めないもので、かつ油路21、31との螺合が外れない程度の距離となっている。
【0031】
突出部41には、保持手段としてのボルト26、36が螺合配置されている。金属又は樹脂製のボルト26、36はその一端に略円板状のハンドル27、37を一体に設けており、断面略T字状の形状をした円柱部材となっている。また、ボルト26、36は先端面26A、36Aを備えている。ボルト26、36は、ハンドル27、37を手で摘んで回転操作することで、それぞれ
図5、
図6の紙面左右方向に移動することができる。ハンドル27、37の円周面にはハンドル軸線に略平行なローレット溝が設けられており、ハンドル27、37を手で操作する際の滑り止めの役割を果たすようになっている。
【0032】
ボルト26、36の先端面26A、36Aは、油量調整弁24、34のハンドル25、35の端面25A、35Aと当接可能に配設されている。
【0033】
以上、第1実施形態のドアクローザ1の基本構成を説明した。次に
図5、
図6を用いて、第1実施形態のドアクローザ1における油量調整弁24、34に対する突出部41とボルト26、36の作用について説明する。
【0034】
正面壁の点検孔からドアクローザ1にアクセスして引戸101の閉速度を調整する場合には、油量調整弁24、34を操作する。
図5、
図6に示すように、油量調整弁24、34は油路21、31に螺合配置されていることから、
図5、
図6の紙面右方向に移動するようにハンドル25、35を回転操作させ続けた場合、いずれ螺合が外れてハウジング2から脱落する。しかし、第1実施形態のドアクローザ1においては、ブロック40の突出部41により、油量調整弁24、34の螺合が外れる前に、ハンドル25、35の端面25A、35Aと突出部41の端面41Aが当接することで脱落が防止される。
【0035】
ボルト26、36の先端面26A、36Aは、油量調整弁24、34のハンドル25、35の端面25A、35Aと当接可能に配設されている。よってボルト26、36が
図5、
図6の紙面左方向に動くようにハンドル27、37を回転操作していくと、やがて
図5、
図6に示すように、先端面26A、36Aと端面25A、35Aが当接する。その状態から更にハンドル27、37をある程度締め込むと、当接面の摩擦抵抗が大きくなり、油量調整弁24、34の調整状態を維持したまま回転不能に保持される。保持状態を解除するにはボルト26、36が
図5、
図6の紙面右方向に動くようにハンドル27、37を回転操作し、先端面26A、36Aと、端面25A、35Aの当接を解除すればよい。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態にかかるドアクローザ1を
図7に基づき説明する。尚、本発明の第2実施形態は保持手段の構成のみが第1実施形態と相違する。従って、第1実施形態と同一又は類似する部材については同一符号を付してその説明は省略する。
【0037】
図7に示すように、ハウジング2の側面2Aには、保持手段としてのストッパー50がネジ53によって取り付けられている。ストッパー50は一枚の板バネを折り曲げて形成されており、板状の係止片51、52を一体に備えている。係止片51、52はハンドル25、35の円周面と平行な先端面を有し、該先端面は油量調整弁24、34のハンドル25、35の円周面に設けられたローレット溝に当接して係合するように配設されている。
【0038】
以上、第2実施形態のドアクローザ1の基本構成を説明した。次に
図7を用いて、第2実施形態のドアクローザ1のストッパー50の作用について説明する。
【0039】
図7に示すように、ストッパー50の係止片51、52の先端面は、それぞれ油量調整弁24、34のハンドル25、35の円周面に設けられたローレット溝に係合しており、板バネの弾性力を超えない範囲で油量調整弁24、34は調整状態を維持したまま保持される。また、ハンドル25、35を回転操作する際には係止片51、52の先端面が、それぞれハンドル25、35のローレット溝を乗り越えるように板バネの弾性力を超える力で操作すればよい。
【0040】
次に、本発明の第3実施形態にかかるドアクローザ1を
図8に基づき説明する。尚、本発明の第3実施形態は保持手段の構成のみが第1実施形態と相違する。従って、第1実施形態と同一又は類似する部材については同一符号を付してその説明は省略する。
【0041】
図8に示すように、ハウジング2の側面2Aとブロック40の突出部41の端面41Aとの間には、保持手段としてのストッパー60が配設されている。ストッパー60は金属製の円板状部材であり、その円周面の一箇所に凹状のバネ座61を備えている。バネ座61とブロック40の端面43との間には圧縮コイルバネ62が配設されており、圧縮コイルバネ62はバネ座61に係合して保持されている。ここで、バネ座61と端面43は常に圧縮コイルバネ62を圧縮するように配設されており、ストッパー60は、圧縮コイルバネ62の付勢力によって油量調整弁24、34のハンドル25、35に当接している。
【0042】
ストッパー60の円周面には、その軸線に平行なローレット溝が設けられている。ストッパー60のローレット溝と、ハンドル25、35のローレット溝は同じピッチで形成されており、圧縮コイルバネ62の付勢力によって互いのローレット溝が噛み合って係合している。
【0043】
以上、第3実施形態のドアクローザ1の基本構成を説明した。次に
図8を用いて、第3実施形態のドアクローザ1のストッパー60の作用について説明する。
【0044】
図8に示すように、ストッパー60とハンドル25、35は、圧縮コイルバネ62の付勢力によって互いのローレット溝が係合している。この時、ストッパー60は、バネ座61に圧縮コイルバネ62の一端が係合し、圧縮コイルバネ62の他端は端面43と当接して支えられていることから、回転不能に配設されている。よって、ストッパー60に当接して係合するハンドル25、35も回転不能であり、油量調整弁24、34は調整状態を維持したまま保持される。また、ハンドル25、35を回転操作するには、ストッパー60を圧縮コイルバネ62に抗して
図8の紙面下方向に手で押し下げ、ストッパー60とハンドル25、35の当接を解除した状態で操作すればよい。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0046】
例えば、本発明の第2実施形態においてストッパー50は板バネであるが、樹脂などの弾性部材でもよい。
【0047】
また、本発明の第3実施形態においてストッパー60の材質は金属であるが、樹脂などの弾性部材でもよい。その場合、ハンドル25、35はストッパー60との摩擦力だけでも保持可能なため、ストッパー60の円周面のローレット溝はなくてもよい。