特許第6233965号(P6233965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233965磁気共鳴イメージング装置及びRFシミング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233965
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及びRFシミング方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20171113BHJP
   A61B 5/05 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   A61B5/05 351
   A61B5/05 370
   A61B5/05 380
   A61B5/05ZDM
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-263246(P2013-263246)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-116433(P2015-116433A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145735
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/060192(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/155461(WO,A1)
【文献】 特開2009−28091(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0032676(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のRFコイルを有して成り、被検体に核磁気共鳴を起こさせるための高周波磁場を照射するRF照射コイルと、
前記RF照射コイルを介して前記被検体から複数のエコー信号を計測する計測部と、
前記複数のエコー信号を画像再構成して、前記RFコイル毎の画像を生成する演算部と、
を備え、
前記演算部は、
前記RFコイル毎の画像を合成してマスク作成用画像を生成し、
前記マスク作成用画像内の寝台より下の領域の画素値に基づいて、ノイズ統計量を計算し、
前記ノイズ統計量に基づいて、閾値を決定し、
前記マスク作成用画像と、前記閾値を用いてマスク画像を生成し、
前記RFコイル毎の画像と前記マスク画像を用いて、前記RF照射コイルのB1マップを算出し、
前記B1マップに基いて、前記RFコイル毎に印加されるRFパルスの振幅と位相を算出し、
前記計測部は、
前記RFコイル毎に算出された前記RFパルスの振幅と位相を用いて前記複数のエコー信号の計測を行う
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記演算部は、複数の前記マスク作成用画像を複素加算し、該複素加算後のマスク作成用画像を用いて、前記ノイズ統計量を計算することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
複数のRFコイルを有して成り、被検体に核磁気共鳴を起こさせるための高周波磁場を照射するRF照射コイルを備えた磁気共鳴イメージング装置におけるRFシミング方法であって、
前記RF照射コイルを介して前記被検体から複数のエコー信号を計測するステップと、
前記複数のエコー信号を画像再構成して、前記RFコイル毎の画像を生成するステップと、
前記RFコイル毎の画像を合成してマスク作成用画像を生成ステップと、
前記マスク作成用画像内の寝台より下の領域の画素値に基づいて、ノイズ統計量を計算するステップと、
前記ノイズ統計量に基づいて、閾値を決定するステップと、
前記マスク作成用画像と、前記閾値を用いてマスク画像を生成するステップと、
前記RFコイル毎の画像と前記マスク画像を用いて、前記RF照射コイルのB1マップを算出するステップと、
前記B1マップに基いて、前記RFコイル毎に印加されるRFパルスの振幅と位相を算出するステップと、
前記RFコイル毎に算出された前記RFパルスの振幅と位相を用いて前記複数のエコー信号の計測を行うステップと
を有することを特徴とするRFシミング方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、MRIという。)装置に係り、特に、被検体を撮像して得られた画像を好適にマスクして、安定的にRFシミングに必要なB1マップを取得することが可能なMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換することにより、画像に再構成される。
【0003】
近年、3T以上の高磁場MRI装置が普及している。高磁場MRI装置では、MRI装置に比べて、高い磁場中に被検体を配置するため、S/Nの高い画像が得られるが、腹部撮像等で画像にムラが発生する問題がある。このムラの原因の一つとしては、MRI装置に用いられるRF照射磁場の磁場分布(B1マップ)が空間的に一様でないこと、即ち、送信RF照射磁場の磁場分布が空間的に不均一な成分を持っていることが考えられる。高磁場MRI装置では、使用されるRFパルスの周波数が高いため、その分被検体に照射されるRF照射磁場が吸収されやすく、RF照射磁場の局所的な分布の差が、生成されたMRI画像にムラとなって現れる。
【0004】
このようなRFパルスの磁場分布の不均一に起因するMRI画像のムラを解決する技術として、RFシミングがある。RFシミングとは、複数チャンネル備えられた送信用RFコイルを用い、各チャンネルに与えるRFパルスの強度と位相を独立に制御することで、被検体に均一にRFパルスが照射されるようにする技術である。ただし、RFシミングを行うためには実際に被検体を均一磁場空間に配置した状態で各送信用RFコイルにより照射される照射磁場分布をB1マップとして測定する必要がある。
【0005】
B1マップの測定に関する従来技術として、特許文献1記載の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/060192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、B1マップの取得に必要なマスクの作成について、検討されていない。特に、B1マップの測定のために、被検体が配置された領域(信号領域)と背景の被検体が配置されていない領域(マスク領域)が適切にマスクの作成によって区別されない場合には、B1マップが正確に求められず、得られるMRI画像にもアーチファクトが生じるおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、被検体を撮像して得られた画像を好適にマスクして、安定的にRFシミングに必要なB1マップを取得することが可能なMRI装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、複数のRFコイルを有して成り被検体に核磁気共鳴を起こさせるための高周波磁場を照射するRF照射コイルを備えた磁気共鳴イメージング装置は、RF照射コイルを介して被検体から複数のエコー信号を計測し、複数のエコー信号を画像再構成してRFコイル毎の画像を生成し、RFコイル毎の画像を合成してマスク作成用画像を生成し、マスク作成用画像内の寝台より下の領域の画素値に基づいてノイズ統計量を計算し、ノイズ統計量に基づいて閾値を決定し、マスク作成用画像と閾値を用いてマスク画像を生成し、RFコイル毎の画像とマスク画像を用いてRF照射コイルのB1マップを算出し、B1マップに基いてRFコイル毎に印加されるRFパルスの振幅と位相を算出し、RFコイル毎に算出されたRFパルスの振幅と位相を用いて複数のエコー信号の計測を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被検体を撮像して得られた画像を好適にマスクして、安定的にRFシミングに必要なB1マップを取得することが可能なMRI装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】MRI装置の一実施形態を示すブロック図
図2図1におけるCPUが実行する各機能を示した図
図3】実施例1におけるマスク作成部29の内部構成を示す図
図4】寝台より下の部分の領域の画素値の平均値、標準偏差を計算することを説明する図
図5】実施例1におけるB1分布計測を行う手順を示すフローチャートを示す図
図6】実施例1におけるマスクの生成ステップ204のフローチャートを示す図
図7】プリパルス301と信号取得シーケンス303、305、307との関係を示す図
図8】グラディエントエコー(GrE)系のパルスシーケンスを示す図
図9】k空間の中央のエコーから計測を開始する所謂セントリックオーダーのパルスシーケンスを示す図
図10】実施例2におけるマスク作成部29の内部構造を示した図
図11】実施例2におけるマスクの作成ステップ204のフローチャートを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。まず本発明が適用されるMRI装置の全体構成について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明が適用されるMRI装置の一実施形態を示すブロック図である。このMRI装置は、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(演算処理部、CPU)8とを備えて構成される。
【0014】
静磁場発生系2は、被検体1が置かれる空間に均一な静磁場を発生するものであり、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源(不図示)からなる。静磁場発生源は、垂直磁場方式であれば、被検体1の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に、均一な静磁場を発生させるように、配置されている。
【0015】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの直交3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイル9を駆動する傾斜磁場電源10とから成る。後述のシ-ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X、Y、Zの3軸方向に所望の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加することができる。傾斜磁場の印加の仕方によって、被検体の撮像スライスを選択的に励起し、また励起領域から発生するエコー信号(NMR信号)に位置情報を加えることができる。
【0016】
シーケンサ4は、RFパルスと傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0017】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。送信コイル14aは、本実施形態では、複数の給電点を有し、供給される高周波の強度と位相を調整できるように構成されている。高周波発振器11、変調器12及び高周波増幅器13は、各チャンネルに対応して複数備えられている。図では、2つの給電点がある場合を示しているが、給電点の数は2に限定されない。
【0018】
高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。シーケンサ4からのタイミングと変調器12による変調は、後述するB1分布の計測結果を反映して制御される。
【0019】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された受信コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
【0020】
なお図1では、送信用の高周波コイルと受信用の高周波コイルが、別個に設けられている構成を示しているが、一つの高周波コイル(マルチプルコイルを含む)が送信用及び受信用を兼ねる構成とすることも可能である。
【0021】
信号処理系7は、CPU8と、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0022】
CPU8は、信号処理系7の演算部としての機能のほかに、装置の各要素を制御する制御部としての機能を有し、シーケンサ4を介して、種々のパルスシーケンスを実行させる。パルスシーケンスは、予めプログラムとして組み込まれている。本実施形態では、送信コイルによる照射磁場分布(B1分布)を計測するためのB1分布計測シーケンスを備えている。また信号処理系7は、このB1分布計測シーケンスの計測結果を用いて、B1分布の計算や送信コイル14aに与えられる高周波パルスの位相や振幅の計算を行い、この計算結果に基づき、送信コイル14aに与えられる高周波パルスの位相や振幅を制御する。
【0023】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0024】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【実施例1】
【0025】
次に、本発明の実施例1に係るMRI装置のブロック図を説明する。図2は、図1におけるCPUが実行する各機能を示した図であり、位置決め部26と、B1マップ計測シーケンス実行部27と、画像再構成部28と、マスク作成部29と、B1マップ算出部30と、RFパルスの振幅と位相計算・設定部31と、撮像制御部32とより成る。
【0026】
位置決め部26は、スカウト画像等を撮像することによって、被検体1を撮像空間の中心に配置するための制御をするものである。
【0027】
B1マップ計測シーケンス実行部27は、位置決め部26に接続され、後述するようにB1マップを計測するためのシーケンスを実行し、チャンネル毎のエコー信号を得るためのものである。
【0028】
画像再構成部28は、B1マップ計測シーケンス実行部27に接続され、B1マップ計測シーケンス実行部27により得られたチャンネル毎のエコー信号を画像再構成して、チャンネル毎の画像を生成するためのものである。
【0029】
マスク作成部29は、画像再構成部28に接続され、B1マップ作成を、被検体1が配置された信号領域からのみとするためのマスク画像を作成するものである。
【0030】
B1マップ算出部30は、画像再構成部28及びマスク作成部29に接続され、画像再構成部28により得られた画像とマスク作成部29により作成されたマスク画像を用い、B1マップを作成するためのものである。
【0031】
RFパルスの振幅と位相計算・設定部31は、B1マップ算出部30に接続され、B1マップ算出部30で作成したB1マップを用いて各RFコイルのチャンネルに印加するRFパルスの振幅と位相を計算及び設定するためのものである。
【0032】
撮像制御部32は、RFパルスの振幅と位相計算・設定部31に接続され、RFパルスの振幅と位相計算・設定部31で設定したRFパルスの振幅と位相で被検体1を撮像するためのものである。
【0033】
更に、図3は、実施例1におけるマスク作成部29の内部構成を示す図である。マスク作成部29は、マスク作成用画像生成部29-1と、平均値・標準偏差計算部29-2と、閾値決定部29-3と、閾値処理部29-4とより成る。
【0034】
マスク作成用画像生成部29-1は、画像再構成部28に接続され、画像再構成部28で得られたチャンネル毎の画像を加算して、1枚のマスク作成用画像を生成するためのものである。
【0035】
平均値・標準偏差計算部29-2は、マスク作成用画像生成部29-1に接続され、マスク作成用画像生成部29-1が作成したマスク作成用画像から、寝台より下の部分の領域(図4の35の部分)の画素値の平均値、標準偏差を計算するためのものである。ただし、図4において、1は被検体、33は天板、34は画像の枠である。
【0036】
閾値決定部29-3は、平均値・標準偏差計算部29-2に接続され、平均値・標準偏差計算部29-2により計算された平均値(Av)・標準偏差(Sd)より閾値(Th)を、例えばTh=Av+20×Sdとして、決定するためのものである。
【0037】
閾値処理部29-4は、マスク作成用画像生成部29-1と閾値決定部29-3に接続され、閾値決定部29-3により決定された閾値を用い、マスク作成用画像生成部29-1により作成されたマスク作成用画像に閾値処理を施し、マスク画像を作成するためのものである。より具体的には、例えば64×64からなるマスク画像を作成する。
【0038】
次に図5は、実施例1におけるB1マップ計測を行う手順を示すフローチャートを示す図である。図5に手順を示す。
【0039】
(ステップ201)
操作者は、被検体1を静磁場空間に配置して位置決め部26に備えられたプログラム等を用いスカウト画像を取得し、目的とする被検体1の撮像部位が静磁場空間のほぼ中央に位置するように被検体1を移動させて位置決めを行う。
【0040】
(ステップ202)
B1マップ計測シーケンス実行部27は、送信コイルのチャンネル毎に、B1マップ計測シーケンスを実行し送信コイルのチャンネル毎に、エコー信号を取得する。B1マップ計測シーケンスについては、後述する。
【0041】
(ステップ203)
画像再構成部28は、ステップ202で取得された送信コイルのチャンネル毎のエコー信号を用いて画像再構成演算を行い、送信コイルのチャンネル毎の画像を生成する。
【0042】
(ステップ204)
マスク作成部29は、ステップ203 で得られた送信コイルのチャンネル毎の画像に基づいて、信号領域とノイズ領域を区別するためのマスクを生成する。具体的なマスクの生成方法は後述する。
【0043】
(ステップ205)
B1マップ算出部30は、ステップ203で取得した画像と、ステップ204で生成したマスクを用いて、チャンネル毎のB1マップを算出する。
【0044】
(ステップ206)
RFパルスの振幅と位相計算・設定部31は、ステップ205で算出したB1マップを用いて、各チャンネルに印加する高周波パルスの振幅と位相を計算、設定する。
【0045】
(ステップ207)
撮像制御部32は、ステップ206で設定した条件で、所望の計測(撮像)を行う。
以下、ステップ202、ステップ204、ステップ205について、詳細を説明する。
【0046】
<<B1マップ計測(ステップ202)>>
B1マップ計測シーケンスは、比較的大きなフリップ角のRFパルスからなるプリパルスと、小さなフリップ角のRFパルスを用いた信号取得シーケンスとの組合せからなり、信号取得シーケンスでは、プリパルス印加後の経過時間(TI)が異なる複数の画像を得る。プリパルスと信号取得シーケンスの組み合わせの仕方によって、異なる態様が可能であり、その態様によってB1マップ算出(ステップ205)が異なる。
【0047】
本実施例は、プリパルスの印加に引き続き、少なくとも3回の信号取得シーケンスを実行し、各信号取得シーケンスで得た画像から、B1マップを算出することが特徴である。
【0048】
7は、プリパルス301と信号取得シーケンス303、305、307との関係を示す図で、プリパルス301印加からの経過時間(TI)に依存した信号強度の変化を図中上側にグラフで示している。図示するグラフにおいて、横軸はプリパルス印加後の経過時間、縦軸は信号強度である。プリパルス301は、例えば非選択性のRFパルスで、フリップ角の大きい、例えば90度パルスである。このプリパルス301によって励起された原子核スピンが縦緩和している間に、少なくとも3回の信号取得シーケンス303、305、307を実行し、TIの異なる3つのk空間データ(又は画像データ)を取得する。なお、本発明では、プリパルスからの縦緩和が異なるデータを得ることが重要であり、プリパルスの影響が十分に残っている間にすべての信号取得シーケンスが完了するようにTIを設定する。これにより高精度にB1マップの計算を行うことができる。
【0049】
各信号取得シーケンスは、短時間でk空間データを収集できるパルスシーケンスであれば特に限定されず、例えば、図8に示すようなグラディエントエコー(GrE)系のパルスシーケンスを採用できる。このGrE系シーケンスでは、スライス傾斜磁場パルス402とともに低フリップ角のRFパルス401を印加した後、位相エンコード傾斜磁場403を印加する。同時に読出し傾斜磁場404を印加し、極性の反転した読出し傾斜磁場の印加中にエコー信号405を計測する。最後に位相エンコード方向にリフェイズ傾斜磁場406を印加する。RFパルス401として、縦磁化に対する影響を少なくするため、好ましくは10度以下、より好ましくは5度以下の低フリップ角パルスを用いる。
【0050】
このパルスシーケンスは、RFパルス401として低フリップ角パルスを用いると共に、位相エンコード方向のリフェイズ傾斜磁場406を用いているので、繰り返し時間TRを数ms(ミリ秒)程度にすることができる。RFパルス401からリフェイズ傾斜磁場406までを、位相エンコード傾斜磁場パルス403の強度を変えながら繰り返し、スライス傾斜磁場402によって選択されたスライスのデータ(k空間データ)を得る。
【0051】
このk空間データは、後述するB1マップの計算に用いるものであり、マトリクスサイズは64×64程度でよい。これにより、極めて短時間、具体的には200ms程度の計測時間で全k空間データを取得することができる。
【0052】
k空間データから形成される画像データのコントラストは、主としてk空間データの中央のデータにより支配されるので、各信号取得シーケンスにおいてk空間データの中心のエコーを計測するタイミングをプリパルス印加からの経過時間(TI)とする。図8では、各信号取得シーケンスはk空間の中央のエコーから計測を開始する所謂セントリックオーダーのパルスシーケンスであり、信号取得シーケンスの開始時点が、それぞれTI1、TI2、TI3である。またこれら経過時間の関係は、本実施形態では、TI2=2×TI1、TI3=3×TI1の関係に設定されている。
【0053】
<<マスク生成ステップ204>>
次に、本発明の実施例1におけるマスク生成ステップ204について、図6のフローチャートを用い説明する。以下図のフローチャートの各ステップについて順に説明する。
【0054】
(ステップ204-1)
マスク作成用画像生成部29-1は、マスク作成用画像を生成する。具体的には、ステップ202でB1分布計測シーケンスを実行して得たチャンネル毎の画像を合成し、マスク作成用画像とする。
【0055】
(ステップ204-2)
平均値・標準偏差計算部29-2は、ステップ204-1で作成したマスク作成用画像より寝台より下の部分の画素値の平均値、標準偏差を計算する。
【0056】
(ステップ204-3)
閾値決定部29-3は、ステップ204-2で計算した平均値(Av)、標準偏差(Sd)に基づいて、B1マップの作成に必要なマスクを作成する際に必要な閾値(Th)を決定する。例えば、Th=Av+20×Sdとする。
【0057】
(ステップ204-4)
閾値処理部29-4は、ステップ204-3で設定した閾値に基づいて、ステップ204-1で得たマスク作成用画像を用い、マスクを作成する。具体的には、ステップ204-3で閾値以上の画素値を持つ画素を1で置き換え、閾値以下の画素値を持つ画素を0で置き換え、マスク画像とする。
【0058】
<<B1分布算出(ステップ205)>>
次に、本実施例において、図7に示すB1マップ計測シーケンスによって得られたk空間データから、B1マップを算出する手法を説明する。
【0059】
最初の信号取得シーケンスで得られたk空間データを逆フーリエ変換することにより得た画像データに上述したステップ204-4で作成したマスク画像を掛け合わせると、ある注目画素の信号強度S(B1,TI)は式(1)で与えられる。
【0060】
式(1)中、Sseqは、プリパルスの後の信号取得シーケンスによって決まる信号強度を表し、αは設定したプリパルスのフリップ角を表し、TIはプリパルス印加からk空間中心の信号を収集するまでの時間を表し、T1は組織に依存する縦緩和時間を表す。
【0061】
同様に、2番目、3番目の信号取得シーケンスから得られた画像データの注目画素の信号強度は、式(2)、式(3)で表わすことができる。
【0062】
ここで
【0063】
と定義すると、式(1)〜式(3)は、式(4)〜式(6)のように書くことができる。
【0064】
式(4)〜式(6)の連立方程式を解くことにより、式(7)、(8)よりX及びYが求められる。
【0065】
ここで、定義より、X=1-cos(B1・α)であるので、B1は式(9)で計算できる。
【0066】
本実施形態では、TIの異なる少なくとも3回の信号取得シーケンスで得た画像から連立方程式を解くことによってB1マップを求めることができるので、数秒という極めて短い時間でB1分布計測を行うことができる。
【0067】
上述したように、B1マップはTIの異なる複数回の計測結果(信号強度)から連立方程式を解くことによって正確に求めることができ、演算の容易性の点でも好適であるが、複数回の計測結果をフィッティングすることにより、B1マップを算出することも可能である。
【0068】
また本実施形態では、上述した連立方程式を解くために、少なくとも3つの画像(3回の信号取得シーケンスの実行)が必要であるが、プリパルス印加後のスピン縦緩和時間の範囲であれば、3回以上であってもよい。また複数の信号取得シーケンスのTIは上述した例では整数比としたが、それぞれ異なっていれば良く、整数比以外でもよい。
【0069】
信号取得シーケンスについても、短時間で画像データを取得するものであれば、図7に示すシーケンスに限らず、種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、図7に示すTIの異なる3つの信号取得シーケンスを、一定の間隔をあけて実行するのではなく、間隔を設けずに連続して複数の信号取得シーケンスを実行することも可能である。或いは信号取得シーケンスの前後で、エコーを計測することなく、信号取得シーケンスと同じTRでRFパルス(図7の301)を連続して印加することも可能である。これらの変更例では、RFパルスを連続して印加することにより、スピンを定常状態に維持し、信号取得シーケンス内でのコントラスト差が生じるのを抑制することができる。
【0071】
本実施例によれば、マスク作成用画像よりマスクを作成し、これを用い、被検体が存在する信号領域のデータのみに基づいて、B1マップを作成しているため、B1マップが正確に求められ、得られるMRI画像にもアーチファクトが生じるおそれがなくなる。
【実施例2】
【0072】
次、本発明の実施例2を説明する。まず、図10は、実施例2におけるマスク作成部29の内部構造を示したものであるが、マスク作成用画像生成部29-1と平均値・標準偏差計算部29-2の間に複素加算部29-1aが備えられている。複素加算部29-1aは、マスク作成用画像を複素加算して画像を生成するものである。
【0073】
また、図11は、実施例2のマスク作成ステップ204のフローチャートを示す図であるが、図11は、実施例1におけるマスク生成ステップ204-1aのみ異なる。具体的には、ステップ204-1とステップ204-2の間にステップ204-1aが加わる。以下、ステップ204-1aのみを説明する。
【0074】
(204-1a)
ステップ204-1で作成したマスク作成用画像を複素加算する。具体的には複素数から成る画像を複素加算して画像を作成する。
【0075】
本実施例によれば、複素加算して得られた画像に基づいて、ステップ204-2では閾値を決定する。このように、複素加算して得られた画像を用いることにより、複素加算して得られた画像では信号領域では位相がそろうため信号が大きくなるが、ノイズ領域では位相がそろわないため信号が小さくなる傾向があるため、信号領域とノイズ領域の判別が容易になり、より適格なマスク画像を作成できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、MRI装置に適用される。
【符号の説明】
【0077】
204 マスク作成ステップ
図1
図2
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図5
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図7
図8
図9
図10
図11