【実施例1】
【0025】
次に、本発明の実施例1に係るMRI装置のブロック図を説明する。
図2は、
図1におけるCPUが実行する各機能を示した図であり、位置決め部26と、B1マップ計測シーケンス実行部27と、画像再構成部28と、マスク作成部29と、B1マップ算出部30と、RFパルスの振幅と位相計算・設定部31と、撮像制御部32とより成る。
【0026】
位置決め部26は、スカウト画像等を撮像することによって、被検体
1を撮像空間の中心に配置するための制御をするものである。
【0027】
B1マップ計測シーケンス実行部27は、位置決め部26に接続され、後述するようにB1マップを計測するためのシーケンスを実行し、チャンネル毎のエコー信号を得るためのものである。
【0028】
画像再構成部28は、B1マップ計測シーケンス実行部27に接続され、B1マップ計測シーケンス実行部27により得られたチャンネル毎のエコー信号を画像再構成して、チャンネル毎の画像を生成するためのものである。
【0029】
マスク作成部29は、画像再構成部28に接続され、B1マップ作成を、被検体
1が配置された信号領域からのみとするためのマスク画像を作成するものである。
【0030】
B1マップ算出部30は、画像再構成部28及びマスク作成部29に接続され、画像再構成部28により得られた画像とマスク作成部29により作成されたマスク画像を用い、B1マップを作成するためのものである。
【0031】
RFパルスの振幅と位相計算・設定部31は、B1マップ算出部30に接続され、B1マップ算出部30で作成したB1マップを用いて各RFコイルのチャンネルに印加するRFパルスの振幅と位相を計算及び設定するためのものである。
【0032】
撮像制御部32は、RFパルスの振幅と位相計算・設定部31に接続され、RFパルスの振幅と位相計算・設定部31で設定したRFパルスの振幅と位相で被検体
1を撮像するためのものである。
【0033】
更に、
図3は、実施例1におけるマスク作成部29の内部構成を示す図である。マスク作成部29は、マスク作成用画像生成部29-1と、平均値・標準偏差計算部29-2と、閾値決定部29-3と、閾値処理部29-4とより成る。
【0034】
マスク作成用画像生成部29-1は、画像再構成部28に接続され、画像再構成部28で得られたチャンネル毎の画像を加算して、1枚のマスク作成用画像を生成するためのものである。
【0035】
平均値・標準偏差計算部29-2は、マスク作成用画像生成部29-1に接続され、マスク作成用画像生成部29-1が作成したマスク作成用画像から、寝台より下の部分の領域(
図4の35の部分)の画素値の平均値、標準偏差を計算するためのものである。ただし、
図4において、1は被検体、33は天板、34は画像の枠である。
【0036】
閾値決定部29-3は、平均値・標準偏差計算部29-2に接続され、平均値・標準偏差計算部29-2により計算された平均値(Av)・標準偏差(Sd)より閾値(Th)を、例えばTh=Av+20×Sdとして、決定するためのものである。
【0037】
閾値処理部29-4は、マスク作成用画像生成部29-1と閾値決定部29-3に接続され、閾値決定部29-3により決定された閾値を用い、マスク作成用画像生成部29-1により作成されたマスク作成用画像に閾値処理を施し、マスク画像を作成するためのものである。より具体的には、例えば64×64からなるマスク画像を作成する。
【0038】
次に
図5は、実施例1におけるB1マップ計測を行う手順を示すフローチャートを示す図である。
図5に手順を示す。
【0039】
(ステップ201)
操作者は、被検体
1を静磁場空間に配置して位置決め部26に備えられたプログラム等を用いスカウト画像を取得し、目的とする被検体
1の撮像部位が静磁場空間のほぼ中央に位置するように被検体
1を移動させて位置決めを行う。
【0040】
(ステップ202)
B1マップ計測シーケンス実行部27は、送信コイルのチャンネル毎に、B1マップ計測シーケンスを実行し送信コイルのチャンネル毎に、エコー信号を取得する。B1マップ計測シーケンスについては、後述する。
【0041】
(ステップ203)
画像再構成部28は、ステップ202で取得された送信コイルのチャンネル毎のエコー信号を用いて画像再構成演算を行い、送信コイルのチャンネル毎の画像を生成する。
【0042】
(ステップ204)
マスク作成部29は、ステップ203 で得られた送信コイルのチャンネル毎の画像に基づいて、信号領域とノイズ領域を区別するためのマスクを生成する。具体的なマスクの生成方法は後述する。
【0043】
(ステップ205)
B1マップ算出部30は、ステップ203で取得した画像と、ステップ204で生成したマスクを用いて、チャンネル毎のB1マップを算出する。
【0044】
(ステップ206)
RFパルスの振幅と位相計算・設定部31は、ステップ205で算出したB1マップを用いて、各チャンネルに印加する高周波パルスの振幅と位相を計算、設定する。
【0045】
(ステップ207)
撮像制御部32は、ステップ206で設定した条件で、所望の計測(撮像)を行う。
以下、ステップ202、ステップ204、ステップ205について、詳細を説明する。
【0046】
<<B1マップ計測(ステップ202)>>
B1マップ計測シーケンスは、比較的大きなフリップ角のRFパルスからなるプリパルスと、小さなフリップ角のRFパルスを用いた信号取得シーケンスとの組合せからなり、信号取得シーケンスでは、プリパルス印加後の経過時間(TI)が異なる複数の画像を得る。プリパルスと信号取得シーケンスの組み合わせの仕方によって、異なる態様が可能であり、その態様によってB1マップ算出(ステップ205)が異なる。
【0047】
本実施例は、プリパルスの印加に引き続き、少なくとも3回の信号取得シーケンスを実行し、各信号取得シーケンスで得た画像から、B1マップを算出することが特徴である。
【0048】
図
7は、プリパルス301と信号取得シーケンス303、305、307との関係を示す図で、プリパルス301印加からの経過時間(TI)に依存した信号強度の変化を図中上側にグラフで示している。図示するグラフにおいて、横軸はプリパルス印加後の経過時間、縦軸は信号強度である。プリパルス301は、例えば非選択性のRFパルスで、フリップ角の大きい、例えば90度パルスである。このプリパルス301によって励起された原子核スピンが縦緩和している間に、少なくとも3回の信号取得シーケンス303、305、307を実行し、TIの異なる3つのk空間データ(又は画像データ)を取得する。なお、本発明では、プリパルスからの縦緩和が異なるデータを得ることが重要であり、プリパルスの影響が十分に残っている間にすべての信号取得シーケンスが完了するようにTIを設定する。これにより高精度にB1マップの計算を行うことができる。
【0049】
各信号取得シーケンスは、短時間でk空間データを収集できるパルスシーケンスであれば特に限定されず、例えば、図
8に示すようなグラディエントエコー(GrE)系のパルスシーケンスを採用できる。このGrE系シーケンスでは、スライス傾斜磁場パルス402とともに低フリップ角のRFパルス401を印加した後、位相エンコード傾斜磁場403を印加する。同時に読出し傾斜磁場404を印加し、極性の反転した読出し傾斜磁場の印加中にエコー信号405を計測する。最後に位相エンコード方向に
リフェイズ傾斜磁場406を印加する。RFパルス401として、縦磁化に対する影響を少なくするため、好ましくは10度以下、より好ましくは5度以下の低フリップ角パルスを用いる。
【0050】
このパルスシーケンスは、RFパルス401として低フリップ角パルスを用いると共に、位相エンコード方向の
リフェイズ傾斜磁場406を用いているので、繰り返し時間TRを数ms(ミリ秒)程度にすることができる。RFパルス401からリフェイズ傾斜磁場406までを、位相エンコード傾斜磁場パルス403の強度を変えながら繰り返し、スライス傾斜磁場402によって選択されたスライスのデータ(k空間データ)を得る。
【0051】
このk空間データは、後述するB1マップの計算に用いるものであり、マトリクスサイズは64×64程度でよい。これにより、極めて短時間、具体的には200ms程度の計測時間で全k空間データを取得することができる。
【0052】
k空間データから形成される画像データのコントラストは、主としてk空間データの中央のデータにより支配されるので、各信号取得シーケンスにおいてk空間データの中心のエコーを計測するタイミングをプリパルス印加からの経過時間(TI)とする。
図8では、各信号取得シーケンスはk空間の中央のエコーから計測を開始する所謂セントリックオーダーのパルスシーケンスであり、信号取得シーケンスの開始時点が、それぞれTI1、TI2、TI3である。またこれら経過時間の関係は、本実施形態では、TI2=2×TI1、TI3=3×TI1の関係に設定されている。
【0053】
<<マスク生成ステップ204>>
次に、本発明の実施例1におけるマスク生成ステップ204について、
図6のフローチャートを用い説明する。以下図のフローチャートの各ステップについて順に説明する。
【0054】
(ステップ204-1)
マスク作成用画像生成部29-1は、マスク作成用画像を生成する。具体的には、ステップ202でB1分布計測シーケンスを実行して得たチャンネル毎の画像を合成し、マスク作成用画像とする。
【0055】
(ステップ204-2)
平均値・標準偏差計算部29-2は、ステップ204-1で作成したマスク作成用画像より寝台より下の部分の画素値の平均値、標準偏差を計算する。
【0056】
(ステップ204-3)
閾値決定部29-3は、ステップ204-2で計算した平均値(Av)、標準偏差(Sd)に基づいて、B1マップの作成に必要なマスクを作成する際に必要な閾値(Th)を決定する。例えば、Th=Av+20×Sdとする。
【0057】
(ステップ204-4)
閾値処理部29-4は、ステップ204-3で設定した閾値に基づいて、ステップ204-1で得たマスク作成用画像を用い、マスクを作成する。具体的には、ステップ204-3で閾値以上の画素値を持つ画素を1で置き換え、閾値以下の画素値を持つ画素を0で置き換え、マスク画像とする。
【0058】
<<B1分布算出(ステップ205)>>
次に、本実施例において、
図7に示すB1マップ計測シーケンスによって得られたk空間データから、B1マップを算出する手法を説明する。
【0059】
最初の信号取得シーケンスで得られたk空間データを逆フーリエ変換することにより得た画像データに上述したステップ204-4で作成したマスク画像を掛け合わせると、ある注目画素の信号強度S(B1,TI)は式(1)で与えられる。
【0060】
式(1)中、Sseqは、プリパルスの後の信号取得シーケンスによって決まる信号強度を表し、αは設定したプリパルスのフリップ角を表し、TIはプリパルス印加からk空間中心の信号を収集するまでの時間を表し、T1は組織に依存する縦緩和時間を表す。
【0061】
同様に、2番目、3番目の信号取得シーケンスから得られた画像データの注目画素の信号強度は、式(2)、式(3)で表わすことができる。
【0062】
ここで
【0063】
と定義すると、式(1)〜式(3)は、式(4)〜式(6)のように書くことができる。
【0064】
式(4)〜式(6)の連立方程式を解くことにより、式(7)、(8)よりX及びYが求められる。
【0065】
ここで、定義より、X=1-cos(B1・α)であるので、B1は式(9)で計算できる。
【0066】
本実施形態では、TIの異なる少なくとも3回の信号取得シーケンスで得た画像から連立方程式を解くことによってB1マップを求めることができるので、数秒という極めて短い時間でB1分布計測を行うことができる。
【0067】
上述したように、B1マップはTIの異なる複数回の計測結果(信号強度)から連立方程式を解くことによって正確に求めることができ、演算の容易性の点でも好適であるが、複数回の計測結果をフィッティングすることにより、B1マップを算出することも可能である。
【0068】
また本実施形態では、上述した連立方程式を解くために、少なくとも3つの画像(3回の信号取得シーケンスの実行)が必要であるが、プリパルス印加後のスピン縦緩和時間の範囲であれば、3回以上であってもよい。また複数の信号取得シーケンスのTIは上述した例では整数比としたが、それぞれ異なっていれば良く、整数比以外でもよい。
【0069】
信号取得シーケンスについても、短時間で画像データを取得するものであれば、
図7に示すシーケンスに限らず、種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、
図7に示すTIの異なる3つの信号取得シーケンスを、一定の間隔をあけて実行するのではなく、間隔を設けずに連続して複数の信号取得シーケンスを実行することも可能である。或いは信号取得シーケンスの前後で、エコーを計測することなく、信号取得シーケンスと同じTRでRFパルス(
図7の301)を連続して印加することも可能である。これらの変更例では、RFパルスを連続して印加することにより、スピンを定常状態に維持し、信号取得シーケンス内でのコントラスト差が生じるのを抑制することができる。
【0071】
本実施例によれば、マスク作成用画像よりマスクを作成し、これを用い、被検体が存在する信号領域のデータのみに基づいて、B1マップを作成しているため、B1マップが正確に求められ、得られるMRI画像にもアーチファクトが生じるおそれがなくなる。