(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
翼角が可変とされた可変ピッチプロペラと、主機関の出力の一部を利用して電力供給を行う主軸発電装置と、を備える船舶の前記可変ピッチプロペラの制御に用いられる翼角演算装置であって、
前記主軸発電装置の電力供給量と、前記主機関の回転数と、に基づいて、翼角低減量を算出する翼角低減量演算部と、
前記主機関において所定以上の出力効率が得られる翼角として予め規定された基準翼角から、前記翼角低減量演算部が算出した前記翼角低減量を減算する翼角演算部と、
を備える翼角演算装置。
前記翼角低減量演算部は、前記主機関の出力のうち前記可変ピッチプロペラの翼角が前記基準翼角であった場合に前記船舶の推進に消費される出力から、前記主軸発電装置が利用する前記主機関の出力の一部に相当する出力が低減される前記翼角低減量を算出する
請求項1又は請求項2に記載の翼角演算装置。
前記基準翼角から前記翼角低減量が減算された翼角を適用して得られた前記主機関の出力の観測値と、前記主機関に対する負荷が過負荷となる出力と主機回転数との相関関係を規定する規定曲線と、の偏差に基づく翼角補正量を算出する補正量演算部をさらに備え、
前記翼角演算部は、前記基準翼角から前記翼角低減量を減算した値に、更に、前記翼角補正量を適用した値を算出する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の翼角演算装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る翼角制御システムについて、
図1〜
図4を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、第1の実施形態に係る船舶の機能構成を示す図である。
図1に示すように、船舶1は、翼角制御システム10と、可変ピッチプロペラ20と、主機関30と、主軸発電装置40と、ハンドル50と、主配電盤60と、を備えている。
【0019】
翼角制御システム10は、可変ピッチプロペラ20のピッチ角(翼角)を船舶1の運転状態に合わせて適切に変化させる。具体的には、翼角制御システム10は、可変ピッチプロペラ20に適用すべき翼角(翼角θ)を示す翼角指令を出力する。
【0020】
可変ピッチプロペラ20は、翼角θが可変とされたプロペラである。可変ピッチプロペラ20の翼角θは、翼角制御システム10から受け付ける翼角指令によって決定される。可変ピッチプロペラ20が回転することによって推進力が生じ、これにより船舶1が推進する。
【0021】
主機関30は、いわゆるエンジン等の燃焼機関、又は、電動機、蒸気タービン、原子炉タービンを動力とする機関であって、船舶1の動力源である。主機関30は、ハンドル50を通じて受け付けた主機回転数指令に従って、所定の回転数(主機回転数N)で回転することで出力(主機関馬力BHP)を生成する。主機関30が生成する出力は、主に可変ピッチプロペラ20の回転に利用される。
【0022】
主軸発電装置40は、主機関30の出力の一部(軸発給電用出力Psha)を利用して発電を行い、更に、周波数の最適化処理等を経て船内設備に向けた電力供給を行う。主軸発電装置40は、船内において必要とされる電力(要求給電電力P)の入力を別途受け付けて、当該要求給電電力Pに応じた電力を発電する。これにより、主機関30の総出力のうち、実際に船舶1の推進力に寄与する出力、即ち、可変ピッチプロペラ20の回転に利用される出力は、当該総出力から軸発給電用出力Pshaを差し引いた出力(推進用出力Ppro)となる。
【0023】
ハンドル50は、船舶1の操縦者の操作を受け付けるとともに、主機関30に対し、当該操縦者の操作に応じた主機回転数指令と可変ピッチプロペラの翼角指令とを出力する。これにより、操縦者が所望する回転数で主機関30が回転する。
主配電盤60は、主軸発電装置40が発電した供給電力を受け付けて、各種船内設備へ当該供給電力の分配を行う。
【0024】
次に、翼角制御システム10の機能構成について詳細に説明する。
図1に示すように、翼角制御システム10は、翼角演算装置11と、翼角制御部12と、を備えている。
【0025】
翼角演算装置11は、主軸発電装置40に入力される要求給電電力Pと、ハンドル50を通じて主機関30に入力される主機回転数指令に基づいて稼働している主機関30の実際の回転数である主機実回転数(主機回転数N)と、を入力して、当該要求給電電力P及び主機回転数Nに基づいた適切な翼角θを算出する。
翼角制御部12は、可変ピッチプロペラ20に翼角指令を出力して、当該可変ピッチプロペラ20の翼角θが、翼角演算装置11の翼角演算部111が算出した翼角の設定値(設定翼角)となるように駆動制御する。
【0026】
以上のように、第1の実施形態においては、翼角演算装置11が算出した設定翼角に基づいて、翼角制御部12が自動で可変ピッチプロペラ20の翼角を駆動制御する。
しかし、他の実施形態に係る船舶1は、このような態様に限られない。例えば、他の実施形態に係る翼角演算装置11は、算出した設定翼角を、予め設置されたモニタ等を通じて操縦者に提示する態様であってもよい。この場合、操縦者は、当該モニタを通じて提示された設定翼角を参照しながら、手動で可変ピッチプロペラ20の翼角θを調整する。
【0027】
また、
図1に示すように、第1の実施形態に係る翼角演算装置11は、翼角低減量演算部110と、翼角演算部111と、を備えている。
翼角低減量演算部110は、主軸発電装置40の電力供給量(要求給電電力P)と、主機関30の回転数(主機回転数N)と、に基づいて、翼角低減量δθを算出する。
翼角演算部111は、基準翼角θ*から、翼角低減量演算部110が算出した翼角低減量δθを減算し、可変ピッチプロペラ20の翼角θとして設定すべき設定翼角(θ*−δθ)を算出する。
【0028】
図2〜
図4は、それぞれ、第1の実施形態に係る翼角低減量演算部の機能を説明する第1の図〜第3の図である。
以下、翼角演算装置11の翼角低減量演算部110の機能について、
図2〜
図4を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図2は、主機回転数N(min
−1)に対する、翼角θ(deg)の関係を示すグラフである。また、
図3は、主機回転数Nに対する、主機関30の出力(主機関馬力BHP)の相関関係を示すグラフである。
【0030】
ここで、主軸発電装置40を備えない船舶の、始動時における可変ピッチプロペラ20の翼角θと主機回転数Nとの種々の組み合わせが考えられる制御パターン中の一例について説明する。
主軸発電装置40を備えない船舶に係る翼角制御システムは、
図2に示すように、まず、一定の回転数Niを維持したまま可変ピッチプロペラ20の翼角θを所定の翼角θ1まで上昇させる。翼角θが翼角θ1に到達すると(動作点P1)、上記翼角制御システムは、続いて、主機回転数Nの上昇に合わせて翼角θを上昇させる。その後、翼角θが所定の主機回転数Njにおいて基準翼角θ*に達すると(動作点P2)、翼角制御システムは、以降の主機回転数N(>Nj)に対し一定の基準翼角θ*を維持する。基準翼角θ*は、プロペラ効率が最も高くなるように設計されるのが一般的である。
【0031】
翼角θをこのように制御した場合における主機回転数Nと主機関馬力BHPとの関係は、動作点P1及び動作点P2を順に通るような軌跡をたどる(
図3参照)。特に、主機関30は、動作点P2以降において、舶用特性曲線Wに近い位置で動作する。この舶用特性曲線Wは、主機関30にかかる負荷が一定である主機回転数Nと出力(主機関馬力BHP)との相関関係のうち、出力効率(プロペラ効率)が最も高いとされる関係を示している。つまり、上記翼角制御システムは、動作点P2以降(主機回転数N≧Njの領域)において可変ピッチプロペラ20の翼角θを所定の基準翼角θ*に維持することで、主機関30は、舶用特性曲線W付近で作動し、プロペラ効率(推進効率)の良い運転をすることになる。
【0032】
なお、
図3において、主機関馬力BHPが舶用特性曲線Wよりも高い領域は、いわゆる過負荷領域として設定され、主機関30に過大な負荷がかかるため、通常は、過負荷領域での動作は避けられる。しかしながら、本実施形態に係る船舶1の主機関30は、推進に要する出力(推進用出力Ppro)に加え、更に主軸発電装置40に供給すべき出力(軸発給電用出力Psha)を生成する必要がある。このような場合において、翼角制御システム10が翼角θを上述の基準翼角θ*に設定すると、主機関30の動作点は、推進用出力Pproの生成のみで舶用特性曲線W近傍に達するため、更に軸発給電用出力Pshaを生成しようとすると、その分だけ舶用特性曲線Wを超え、過負荷状態に陥る。
【0033】
そこで、本実施形態に係る翼角制御システム10は、主軸発電装置40に要求される供給電力(要求給電電力P)を参照し、可変ピッチプロペラ20の翼角θを、当該要求給電電力Pに対応する適切な量(翼角低減量δθ)だけ低減させる処理を行う。
【0034】
このような制御によれば、翼角制御システム10は、動作点P1から動作点P2’(主機回転数Nj=Nj’(<Nj))に到達した段階で、翼角θを、基準翼角θ*から翼角低減量δθ(δθ>0)だけ減算した翼角θ2(=θ*−δθ)に維持する(
図2参照)。そうすると、
図3に示すように、主機関30の動作点は、主機回転数N>Nj’の領域において、舶用特性曲線Wよりも要求給電電力Pに対応する所定量(軸発給電用出力Psha)だけ推進用出力Pproが低減された位置になる。これにより、主機関30の総出力(推進用出力Ppro+軸発給電用出力Psha)が舶用特性曲線W近傍となり、過負荷領域内での作動を防ぐことが出来るとともに、電力供給量に応じて適切な量だけ減角するため、電力供給量に関係なく一律翼角を減角する場合よりもプロペラ効率の良い基準翼角に近い翼角で作動し、燃費の良い運転ができる。
【0035】
次に、
図4を参照しながら、翼角低減量演算部110が上述の翼角低減量δθを算出する具体的な手段について説明する。
上述したように、翼角低減量δθは、推進用出力Pproを、軸発給電用出力Pshaに相当する分だけ低減させるために必要な翼角θの低減量を表している。即ち、翼角低減量演算部110は、主機関30の出力のうち可変ピッチプロペラ20の翼角θが基準翼角θ*であった場合に船舶1の推進に消費される出力(推進用出力Ppro)から、主軸発電装置40が利用する主機関30の出力の一部(軸発給電用出力Psha)に相当する出力が低減される翼角低減量δθを算出する。より具体的には、翼角低減量演算部110は、主機回転数N及び軸発給電用出力Psha(=出力低減量δBHP)の関数として、δBHP=Ppro(θ*,N)−Ppro(θ*−δθ,N)を満たすようなδθ(N,δBHP)を算出する。
【0036】
翼角低減量演算部110は、予め規定された関数δθ(N,δBHP)に、主機回転数N及び軸発供給量出力Pshaを代入することで翼角低減量δθを算出する。
関数δθ(N,δBHP)は、事前実験等により、主機回転数Nと主機関馬力BHPとの相関関係を、複数の翼角θごとに予め評価しておくことで規定することができる。例えば、
図4によれば、主機回転数N1においては、翼角θを基準翼角θ*=30°からδθ=3°だけ低減させることで軸発給電用出力Pshaに相当する出力低減量δBHPが得られ、また、主機回転数N2においては、翼角θをδθ=2°だけ低減させることで軸発給電用出力Pshaに相当する出力低減量δBHPが得られることが分かる。
図4に示すような実験結果等に基づき、本実施形態に係る翼角低減量演算部110は、翼角低減量δθと、主機回転数N及び出力低減量δBHPとの関係を式(1)に示すような一次式で対応付ける。
【0038】
ここで、係数a1、a2、b1、b2は、
図4に示す翼角低減量δθと主機回転数N及び出力低減量δBHPとの対応関係を、式(1)のような一次式に近似した場合に特定される係数である。翼角低減量演算部110は、ハンドル50を通じた主機回転数指令(主機回転数N)及び船内に要求される要求給電電力Pを受け付け、式(1)の演算を行うことで、翼角低減量δθを算出する。
【0039】
なお、主軸発電装置40が要求給電電力Pを発電するためには、主軸発電装置40における動力から電力への変換効率などを考慮して、要求給電電力P以上の主機関馬力を必要とする。そこで、翼角低減量演算部110は、更に、主軸発電装置40の変換効率等を考慮した関数(式(2))に基づいて、必要な出力低減量δBHPを算出する。
【0041】
ここで、係数c1、c2は、船内に要求される電力(要求給電電力P)と、要求給電電力Pを発電するために必要な主機関30の出力(出力低減量δBHP)と、の関係を一次式で近似した際に特定される係数である。
【0042】
翼角演算部111は、翼角低減量演算部110が式(1)に基づいて算出した翼角低減量δθと、予め規定された基準翼角θ*と、を用いて翼角θ=θ*−δθの演算を行う。そして、翼角演算部111は、算出された翼角θ=θ*−δθを翼角制御部12に出力する。これにより、翼角制御部12から可変ピッチプロペラ20に向けて、翼角θを設定翼角(θ*−δθ)とする翼角指令がなされる。
【0043】
以上のように、第1の実施形態に係る翼角制御システム10は、主軸発電装置40の電力供給量と、主機関30の回転数と、に基づいて特定される適切な翼角低減量δθを算出し、基準翼角θ*から翼角低減量δθだけ低減された翼角で運転を行う。
このようにすることで、推進用出力Pproが翼角低減量δθに応じた所定量(δBHP)だけ低減され、当該所定量に相当する軸発給電用出力Pshaが加味される結果、最終的に、主機関30の総出力が舶用特定曲線W近傍となる。したがって、主機関30は、主軸発電装置40に必要な出力(軸発給電用出力Psha)を供給しながらも、出力効率(プロペラ効率)の高い動作点で動作することができる。
【0044】
このように、第1の実施形態に係る翼角演算装置によれば、主軸発電装置が要求される電力供給量を発電した場合であっても、主機関を適切な負荷領域で作動させることができる。また、電力供給量に応じて適切な量だけ減角するため、電力供給量に関係なく一律翼角を減角する場合よりもプロペラ効率の良い基準翼角に近い翼角で作動するため燃費の良い運転ができる。
【0045】
以上、第1の実施形態に係る翼角制御システム10について詳細に説明したが、翼角制御システム10の具体的な態様は、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
【0046】
例えば、第1の実施形態に係る翼角演算装置11では、プロペラ効率の良い基準翼角θ*からの翼角減角量δθを演算(式(1)参照)して可変ピッチプロペラ20に翼角指令を出すものとして説明した。
一方、第1の実施形態の変形例として、基準翼角θ*よりも低い翼角を仮の基準翼角θ*’(<θ*)に設定し、軸発給電用出力Pshaに応じた「翼角増加量δθ’」を演算して可変ピッチプロペラ20に翼角指令として加えるという方法を用いてもよい。
【0047】
その具体的な方法としては、まず、軸発給電用出力Pshaが最大電力になったとしても主機関30の動作点が舶用特性曲線Wを超えることがない翼角を仮の基準翼角θ*’として設定する。ここで、例えば、
図4において、仮の基準翼角θ*’を25°と設定した場合、25°から翼角θをδθ’=1°上げることで軸発給電用出力Pshaに相当する出力増加量δBHP’を得ることができる。このような翼角増加量δθ’は、第1の実施形態において翼角減角量δθの演算式(式(1))を規定したのと同様に、主機回転数Nと出力増加量δBHP’の関数δθ’(N、δBHP’)として求めることができる。
【0048】
図5は、第1の実施形態の変形例に係る翼角低減量演算部の機能を説明する図である。
当該変形例においては、
図5に示すように、主機関30が、ある主機回転数Nと仮の基準翼角θ*’とで動作した場合(動作点P2以降)において、更に、主軸発電装置40が軸発給電用出力の最大値Psha_maxを供給したとしても、主機関30は、舶用特性曲線Wよりも低い動作点で作動することになる。この動作点は観測することが可能であり、それにより舶用特性曲線Wとの差を算定することができる。
この差を埋めるために、本変形例に係る翼角低減量演算部110は、上述した関数(本変形例において式(1)に相当する関数)で求めた翼角増加量δθ’だけ可変ピッチプロペラ20の翼角を上げる。このようにすることで、電力供給量に応じてプロペラ効率の良い実際の基準翼角θ*に近い翼角で作動するため、燃費の良い運転ができる。
【0049】
また、例えば、第1の実施形態に係る翼角低減量演算部110においては、事前に取得された情報であって、主機回転数Nと主機関馬力BHPとの相関関係を複数の翼角θごとに評価した結果(
図4参照)に基づいて、関数δθ(N,δBHP)(式(1))が規定されるものとして説明した。しかし、主機回転数N、主機関馬力BHP及び翼角θの各々の関係は、対象とする船舶の仕様、喫水や積荷積載量等によって変動し得る。そこで、第1の実施形態では、対象とする船舶の仕様や想定される喫水、積荷の種々の条件に概ね当てはまるような代表的な関数(式(1))を一つ規定するものとしている。
【0050】
一方、他の実施形態に係る翼角低減量演算部110は、適用される船舶の仕様、又は、喫水や積荷積載量等の条件に対応して最適化された複数の関数δθ(N,δBHP)が予め規定されたものであってもよい。この場合、翼角低減量演算部110は、予め用意された複数の関数δθ(N,δBHP)のうち、現時点の運行条件(喫水、積荷の積載量等)に対応する関数δθ(N,δBHP)を選択して、翼角低減量δθを算出する。このようにすることで、船舶の運転状態に応じて最適化された翼角低減量δθが算出されるため、より精度良く舶用特性曲線W近傍で動作させることができる。
【0051】
また、第1の実施形態に係る翼角低減量演算部110は、翼角低減量δθを、主機回転数N、主機関馬力BHP及び翼角低減量δθの関係を規定した一次関数(式(1))を用いるものとして説明したが、他の実施形態においてはこのような態様に限定されない。
例えば、他の実施形態に係る翼角低減量演算部110は、主機回転数N、主機関馬力BHP及び翼角低減量δθの関係をより正確に近似可能なn次関数(n=2,3,・・・)、又は、指数関数及びそれらに類する関数が規定されたものであっても構わない。
即ち、翼角低減量演算部110は、主軸発電装置の電力供給量(要求給電電力P)と、翼角低減量δθと、が正の相関関係を有する(要求給電電力Pが増加するほど翼角低減量δθも増加する)ように規定された関数、又は、事前に検討された定数を収めたテーブルやそれに類する値を用いて、翼角低減量δθを算出するものであればよい。
【0052】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る翼角制御システムについて、
図6〜
図7を参照しながら詳細に説明する。
【0053】
図6は、第2の実施形態に係る船舶の機能構成を示す図である。
図6に示すように、第2の実施形態に係る翼角演算装置11は、更に、補正量演算部112を備えている。
補正量演算部112は、基準翼角θ*から翼角低減量δθが減算された翼角θを適用して得られた主機関30の出力の観測値と、主機関30に対する負荷が過負荷となる出力(主機関馬力BHP)と主機回転数Nとの相関関係を規定する規定曲線との偏差に基づく翼角補正量δθ’を算出する。
なお、本実施形態においては、主機関30に対する負荷が過負荷となる出力と主機回転数Nとの相関関係を規定する規定曲線として、予め規定されたALC設定ラインA(
図7参照)を用いる例を説明する。
【0054】
図7は、第2の実施形態に係る補正量演算部の機能を説明する図である。
図7に示すALC(Automatic Load Control)設定ラインAは、翼角制御システム10において可変ピッチプロペラ20の翼角θの制御に用いられる規定曲線である。具体的には、翼角制御システム10は、主機関30の実際の動作点(主機動作点観測値Q)を常時観測し、これが予め規定されたALC設定ラインAを超えた場合に、強制的に翼角θを低減する制御を行う。このようにすることで、主機関30に過大な負荷が印加されることを抑制し、主機関30の故障や劣化を防止することができる。
【0055】
本実施形態に係る翼角演算装置11は、翼角低減量δθが適用された翼角θ(=θ*−δθ)で運行を行っている場合において実際に生じている主機関馬力BHP及び主機回転数Nの観測値(主機動作点観測値Q)を取得する。
ここで、翼角低減量演算部110及び翼角演算部111が算出した翼角θ(=θ*−δθ)は、主軸発電装置40の電力供給量を考慮した上で、理論上、主機関30の動作点が舶用特性曲線W近傍となる翼角である。しかしながら、実際の主機関30の動作点は、式(1)の近似の誤差に加え、海流、波や潮汐等の外乱に起因して、理想とする動作点からずれたものとなる。
【0056】
そこで、本実施形態に係る補正量演算部112は、観測された実際の動作点(主機動作点観測値Q)に基づいて、主機関30の動作点がより理想的な動作点に近づくような翼角補正量δθ’を算出する。
具体的には、補正量演算部112は、現時点における主機関30の実際の動作点(主機動作点観測値Q)と、ALC設定ラインAとの偏差αを取得し、当該偏差αが予め規定された目標偏差α0よりも大きい場合には、当該偏差αが減少するように翼角θを増加させる翼角補正量δθ’(>0)を算出する。また、偏差αが予め規定された目標偏差α0よりも小さい場合には、当該偏差αが増加するように翼角θを低減させる翼角補正量−δθ’(<0)を算出する。ここで、目標偏差α0は、予め規定されるALC設定ラインAと、高い出力効率が得られる舶用特性曲線Wとの偏差を示す規定値である。
【0057】
翼角演算部111は、翼角低減量演算部110によって算出された翼角低減量δθに加え、更に、補正量演算部112によって算出された翼角補正量δθ’を適用した翼角θ(=θ*−δθ±δθ’)を算出する。
翼角θに上記のような翼角補正量δθ’が適用されることで、主機関30の動作点が、外乱によらず舶用特性曲線Wの近傍に近い位置に補正されるため、より高い出力効率で動作することができる。
【0058】
なお、第2の実施形態に係る翼角制御システム10の具体的な態様も、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
例えば、第2の実施形態に係る補正量演算部112は、主機関30の保護の目的で規定されたALC設定ラインAを参照しながら翼角補正量δθ’を算出するものとして説明した。一方、他の実施形態に係る補正量演算部112は、主機関30の負荷が過負荷となる出力(主機関馬力BHP)と主機回転数Nとの相関関係を規定する規定曲線として、舶用特性曲線Wを予め記憶しておき、主機動作点観測値Qと舶用特性曲線Wとの偏差に基づいて、翼角補正量δθ’を算出するものとしてもよい。
【0059】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係る翼角制御システムについて、
図8〜
図9を参照しながら詳細に説明する。
【0060】
図8は、第3の実施形態に係る船舶の機能構成を示す図である。
図8に示すように、第3の実施形態に係る翼角演算装置11は、更に、目標条件提示部113を備えている。
目標条件提示部113は、船舶1の目標とする船速(目標船速Knt)の入力を受け付けて、翼角低減量演算部110及び翼角演算部111に基づいて算出された翼角θ(=θ*−δθ)が適用された場合においても、入力された目標船速Kntに到達可能な運転の目標条件を、別途設けられた目標条件モニタ51を通じて提示する。
【0061】
図9は、第3の実施形態に係る目標条件提示部の機能構成を示す図である。
図9に示すように、目標条件提示部113は、目標船速入力部1130と、仮目標船速特定部1131と、想定船速演算部1132と、目標条件特定部1133と、を備えている。
【0062】
目標船速入力部1130は、目標船速Kntの入力を受け付ける。
仮目標船速特定部1131は、入力された目標船速Knt近傍の値であって、当該目標船速Kntから所定範囲内の船速である複数の仮目標船速Knx1、Knx2、Knx3、・・・を特定する。例えば、目標船速入力部1130が、船舶1の目標船速Kntとして“20ノット”を受け付けた場合、仮目標船速特定部1131は、複数の仮目標船速Knx1、Knx2、Knx3、・・・として、“18ノット”、“19ノット”、“20ノット”、“21ノット”、“22ノット”を特定する。
【0063】
また、想定船速演算部1132は、仮目標船速特定部1131が特定した仮目標船速Knx1、Knx2、・・・の各々で走行しようとした場合に、実際に到達可能と想定される想定船速Kns1、Kns2、・・・を算出する。
【0064】
具体的には、想定船速演算部1132は、まず、翼角θを基準翼角θ*と設定した場合に仮目標船速Knx1、Knx2、Knx3、・・・の各々に到達するために必要な主機関30の回転数である仮回転数Nx1、Nx2、Nx3、・・・を特定する。そして、想定船速演算部1132は、仮回転数Nx1、Nx2、Nx3、・・・と、主軸発電装置40の要求給電電力Pとに基づいて算出される仮翼角低減量δθx1、δθx2、δθx3、・・・を、翼角低減量演算部110が保持する関数(式(1)、式(2))と同じ関数を用いて算出する。
更に、想定船速演算部1132は、仮回転数Nx1、Nx2、Nx3、・・・と、仮翼角低減量δθx1、δθx2、δθx3、・・・だけ低減された翼角θ(θ*−δθx1、θ*−δθx2、・・・)と、がそれぞれ適用された主機関30の動作により実際に到達可能と想定される想定船速Kns1、Kns2、・・・を特定する。
【0065】
ここで、想定船速演算部1132は、事前実験等によって得られた結果に基づいて、船速Knと、主機回転数Nと、翼角θと、の相関関係が規定された情報テーブルを予め保持している。
想定船速演算部1132は、この情報テーブルを参照することで、仮目標船速Knx1、Knx2、・・・の各々に到達するために必要な仮回転数Nx1、Nx2、・・・を特定する。また、想定船速演算部1132は、同情報テーブルを参照することで、仮回転数Nx1、Nx2、・・・の各々と、翼角低減後の各翼角θ(θ*−δθx1、θ*−δθx2、・・・)の各々と、が適用された主機関30の動作により到達可能と想定される想定船速Kns1、Kns2、・・・を特定することができる。
【0066】
目標条件特定部1133は、複数の想定船速Kns1、Kns2、・・・のうち、目標船速Kntに最も近い想定船速が得られる仮回転数(仮回転数Nxt)を特定する。そして、目標条件特定部1133は、特定した仮回転数Nxtを目標条件モニタ51(
図8)に出力する。
【0067】
以上のような翼角演算装置110によれば、船舶1の操縦者は、目標とする船速に到達可能な主機回転数、即ち、目標条件提示部113によって特定された仮回転数Nxtを、目標条件モニタ51を通じて常時把握することができる。したがって、操縦者は、ハンドル50を通じて、主機関30の主機回転数Nが、ガイダンスとして提示された主機回転数に一致するように操作するだけで、目標とする船速に到達させることができる。
ここで、第1の実施形態(又は第2の実施形態)の場合、翼角制御システム10による翼角低減処理のため、実際に到達可能な船速を正確に把握することができない。したがって、操縦者は、実際に観測される船速を確認しながら、これを目標船速に一致させるような調整操作を要する。これに対し、第3の実施形態では、操縦者は、目標船速に到達するための指針となる主機回転数Nを把握しながら操縦を行うことが可能となり、精度良く目標船速に到達させることができるとともに、操縦者の負担を軽減させることができる。
【0068】
なお、第3の実施形態に係る翼角制御システム10は、目標船速に到達可能な主機回転数(仮回転数Nxt)を操縦者に提示する態様で説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。例えば、他の実施形態に係る翼角制御システム10は、特定した仮回転数Nxtに基づいて、主機回転数Nを直接制御する機構を更に有していてもよい。
【0069】
また、上述の各実施形態においては、翼角演算装置11の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各手順を行うものとしている。ここで、上述した翼角演算装置11の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
また、翼角演算装置11の各機能が、ネットワークで接続される複数の装置に渡って具備される態様であってもよい。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。