【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アロエから抽出されたエキスが、VEGF産生促進効果をもたらすことを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
項1.アロエエキスを有効成分とするVEGF産生促進剤。
項2.前記アロエエキスが、アロエ植物体の水、エタノール及び1,3−ブチレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の抽出溶媒で抽出されたものである、前記項1に記載のVEGF産生促進剤。
項3.前記アロエエキスが、キダチアロエ及び/又はアロエベラから抽出されたものである、前記項1又は2のいずれかに記載のVEGF産生促進剤。
項4.アロエエキスを有効成分とするVEGF遺伝子発現量増加剤。
【0013】
以下、本発明について説明する。
【0014】
本発明のVEGF産生促進剤は、有効成分としてアロエエキスを含有する。
【0015】
(1)アロエエキス
アロエエキスを調製するためのアロエは、特に限定されないが、医薬部外品に使用が認められているという理由から、キダチアロエ(学名:Aloe arborescens)、アロエベラ(学名:Aloe vera)が好ましい。
【0016】
本発明の有効成分であるアロエエキスの原料には、アロエ植物の全体をそのまま使用しても良い。またアロエの葉の外皮を使用しても良く、葉内部のゼリー質を使用しても良い。調製が容易という理由から、アロエ植物の全体を使用して、アロエエキスを調製することが好ましい。
【0017】
抽出するアロエは、植物体(例えば、葉、茎、根等)の生の状態のもの(未乾燥物)、乾燥させたもの(乾燥物)、又は凍結したもの(凍結物)を用いることができる。また、アロエ植物体の未乾燥物、乾燥物又は凍結物を適切な大きさに細砕し粉末化したものを用いることもできる。
【0018】
本発明に関するアロエの抽出物(エキス)を作製する方法としては、抽出工程及び分離工程を組み合わせる方法、上記方法に更に分画工程を組み合わせる方法等があげられるが、これらに限定されない。
【0019】
抽出工程は、アロエ植物体から抽出溶媒を用いて、抽出物として必要な成分を取り出す工程であり、抽出方法や抽出条件は特に限定されない。
【0020】
抽出溶媒の種類は特に限定されないが、水、有機溶媒及びこれらを混合した混合溶媒があげられる。上記の水としては、冷水、常温水、温水、熱水及び水蒸気等の全ての温度における水の状態があげられ、また、殺菌処理、イオン交換処理、浸透圧調整又は緩衝化されていてもよい。有機溶媒としては、親水性有機溶媒が好ましく、例えば、炭素数1〜5の1価アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等)、炭素数2〜5の多価アルコール(グリセリン、イソプロピレングリコール、プロピレングリコール及び1,3−ブチレングリコール等)、エステル(酢酸メチル等)、ケトン(アセトン等)等を用いることができる。これらの親水性有機溶媒は、1種のみを用いても、或いは2種以上を併用してもよい。本発明では、安全性及び有効成分の抽出効率の点から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の抽出溶媒を用いることが好ましい。
【0021】
抽出溶媒として水及び1,3−ブチレングリコールの混合液を用いる場合は、混合液中の1,3−ブチレングリコールの含有率は、0.1〜70重量%程度が好ましく、5〜60重量%程度がより好ましく、10〜50重量%程度が更に好ましい。抽出溶媒として、水及びエタノールの混合液を用いる場合は、混合液中のエタノールの含有率は、0.1〜70重量%程度が好ましく、5〜60重量%程度がより好ましく、10〜50重量%程度が更に好ましい。
【0022】
抽出手法としては、浸漬抽出、攪拌抽出、還流抽出、振とう抽出及び超音波抽出があげられ、抽出条件としては、室温抽出、加熱抽出(加温抽出ともいう)、加圧抽出、超臨界抽出等があげられるが、好ましくは、室温抽出である。抽出時間は特に限定されない。また、pH調整してもよい。上記抽出操作は1回でもよく、抽出操作を行った後に得られる抽出残渣を再度抽出することを複数回数繰り返すことにより複数回行ってもよい。更に、抽出工程の前後に、必要に応じて濾過等の処理を行ってもよい。
【0023】
分離工程は、上記で得られた抽出物から、抽出残渣である不溶物と抽出物を分離する方法であり、例えば、遠心分離、フィルタプレス、濾過(加圧、常圧)、クロマトグラフィー等の吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離等による方法があげられる。抽出液から分取された抽出物はそのまま用いてもよく、更に分画等により精製してもよい。
【0024】
分画工程は、上記で得られた分離物から必要な成分を分画して精製及び濃縮する方法である。分画工程に用いられる方法としては、担体として陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、シリカゲル、芳香族化合物を吸着するポリスチレン系の樹脂等を用いるクロマトグラフィー、透析、分子ふるい、減圧濃縮、凍結乾燥等の方法があげられるがこれらに限定されない。更に、本工程後に、必要に応じて遠心分離等により上清を回収する工程を行ってもよい。
【0025】
なお、上記各工程の前後に、必要に応じて濾過等の処理を行ってもよい。濾過には、ガーゼや濾過フィルター、市販の濾過器等を用いることができる。また、必要に応じて、滅菌処理等を施すことができる。
【0026】
上記方法により、本発明の抽出物を得ることができる。得られた抽出物は、そのままの液状形態を有していてもよいが、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の乾燥工程により粉末化することもできる。
【0027】
(2)VEGF産生促進剤
本発明のVEGF(血管内皮増殖因子、vascular endothelial growth factor)産生促進剤は、前記アロエエキスを有効成分として含有するものである。
【0028】
本発明のVEGF産生促進剤におけるアロエエキスの配合割合は、本発明の効果が発揮されることを限度として制限されないが、例えば、VEGF産生促進剤中に、アロエエキスが100重量%含まれていてもよく、好ましくは10〜90重量%程度、より好ましくは20〜80重量%程度が挙げられる。
【0029】
本発明のVEGF産生促進剤(医薬品の形態を含む)は、その形態は特に制限されず、非経口投与形態及び経口投与形態のいずれもが含まれる。
【0030】
非経口投与形態としては、注射剤、点滴剤、経皮吸収剤等が挙げられる。経皮吸収剤とする場合、軟膏剤、ゲル剤、ペースト剤、クリーム剤、噴霧剤、溶液剤、懸濁液剤等の外用製剤とすることができる。また、注射剤とする場合、局所注入、腹腔内投与、選択的静脈注入、静脈注射、皮下注射、臓器灌流液注入等の方法が選択することができる。
【0031】
本発明のVEGF産生促進剤を外用製剤として使用する場合、基剤として、低級アルコール及び水を使用することができる。低級アルコールとしては、メチルアルコール;エチルアルコール;n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール;1,3−ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール;ベンジルアルコールなどの炭素数1〜7のアルコールを例示することができる。
【0032】
外用製剤として使用する場合、肌への刺激性軽減という理由から、そのpHが4〜8の範囲にあることが好ましい。pH調整には、塩基性物質または酸性物質を用いて行うことが行うことができる。塩基性物質としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエタノールアミンやジイソプロパノールアミンなどの有機アミン類;アルギニン、リジン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸などを挙げることができる。また、酸性物質としては、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸などの無機酸及び有機酸を挙げることができる。
【0033】
外用製剤として使用する場合、他成分として薬効補助剤を配合することも可能である。薬効補助剤としては、カンフル、テレピン油、ハッカ油、メントール及びその誘導体、ユーカリ油、乳酸メンチルなどの清涼化剤;ノナン酸バニリルアミド、カプサイシンなどの局所刺激剤;グリチルリチン酸などの抗炎症剤;ジフェニルイミダゾール、ジフェンヒドラミン及びその塩、マレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤;酢酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルなどの血行促進剤;アルニカチンキ、オウバクエキス、サンシシエキス、セイヨウトチノキエキス、ロートエキス、ベラドンナエキス、トウキエキス、シコンエキス、サンショウエキス、トウガラシエキスなどの生薬などが挙げられる。上記の成分の他、適当な併用可能な活性成分、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤等の通常の皮膚外用剤に使用される添加剤を適宜用いることができる。
【0034】
本発明のVEGF産生促進剤は、外用製剤として調製され、局所的に外用投与することができる。本発明のVEGF産生促進剤の投与量は、対象者の年齢や性別、脱毛症状の程度等によって異なり、一律に規定することはできないが、VEGF産生を促進できれば良い。VEGF産生促進剤の投与量は、アロエエキスに換算して、成人1日用量として、好ましくは0.00001〜1g、より好ましくは0.0001〜0.1g程度となる量であることが望ましい。
【0035】
経口投与形態としては、慣用の形態がいずれも含まれ、特に制限されない。通常、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤含む);及び錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤が含まれる。
【0036】
本発明のVEGF産生促進剤は、経口投与可能な形態とする場合、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、抗酸化剤等を含むことができる。
【0037】
本発明のVEGF産生促進剤を、経口投与形態とする場合、摂取量は、VEGF産生を促進できる量であれば良い。VEGF産生促進剤の投与量は、アロエエキスに換算して、成人1日用量として、好ましくは0.0006〜6g(0.01〜100mg/kg体重)、より好ましくは0.006〜6g(0.1〜100mg/kg体重)を使用する。もちろん個別的に、投与されるヒトの年齢、体重、症状、投与経路、投与期間及び治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。
【0038】
また、本発明のVEGF産生促進剤は、一成分として食品に配合させることもできる。その場合は、本発明のVEGF産生促進剤を、例えば、食品添加物の形態とすることもできる。また医薬部外品の形態に調製して皮膚の脱毛改善用医薬部外品として提供することもできる。
【0039】
VEGF産生促進剤を配合する食品として、好ましくは、保健機能食品(栄養機能食品及び特定保健用食品)、所謂健康食品、栄養補助食品、特別用途食品(病者用食品等)等を挙げることができる。形態としては、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、ゼリー等の形態のものが挙げられる。水を抽出溶媒として用いて得られるアロエエキスはそのまま飲用することができるので、該抽出液自体、又はその濃縮液や希釈液を飲料形態の食品としてもよい。
【0040】
本発明のVEGF産生促進剤は、非経口投与形態又は経口投与形態である他の育毛剤と組み合わせて使用してもよく、これによって育毛効果をより顕著に発現することもある。
【0041】
本発明は、アロエエキスを有効成分とするので、後述する実験データで示される通り、VEGF遺伝子発現量を増加することができる。また、本発明は、アロエエキスを有効成分とするので、VEGF産生を促進することができる。
【0042】
(3)アロエエキスのVEGF産生促進及びVEGF遺伝子発現増加の評価方法
アロエエキスのVEGF産生促進及びVEGF遺伝子発現量増加は、ヒト頭髪毛乳頭細胞(HFDPC)を使用して、評価することができる。
【0043】
1.毛乳頭細胞が産生するVEGF量の測定
以下の手順で、毛乳頭細胞によって培養液中に分泌されたVEGFをELISAにより測定する。
【0044】
1-1.毛乳頭細胞を専用の毛乳頭細胞増殖培地(PCGM、東洋紡績(株)より購入)で調製し、植え継ぎを行い、37℃の条件で一晩培養する。次に細胞の生育状況を確認し、培養液全量を交換する。
【0045】
1-2.培養液中に被検サンプルを添加してインキュベートを開始する。この際、VEGFを産生促進するモデル薬剤として、ミノキシジル(Minoxidil)を使用してもよい。
【0046】
1-3.培養液をサンプリングし、市販のHuman VEGF ELISAキット(R&D SYSTEMS;DY293B)を用いて、サンプル中のVEGF濃度を測定する。
【0047】
2.VEGFの遺伝子発現解析
以下の手順で、毛乳頭細胞からtotal RNAを抽出し、VEGFの遺伝子発現解析を行う。
【0048】
2-1.毛乳頭細胞を専用の毛乳頭細胞増殖培地(東洋紡績(株)より購入)で調製し、植え継ぎを行い、37℃の条件で一晩培養する。次に細胞の生育状況を確認し、培養液全量を交換する。
【0049】
2-2.培養液中に被検サンプルを添加してインキュベートを開始する。この際、VEGFの発現誘導剤として、ミノキシジル(Minoxidil)を使用してもよい。
【0050】
2-3.培養液を除き、細胞溶解液を調製する。次に、細胞溶解液にクロロホルムを加えて激しく転倒混和し、遠心分離し、水層を採取する。次に、水層に等量の70%エタノールを加える。次に、調製した溶液全量からtotal RNAを精製する。次に、精製したtotal RNAを鋳型とし、市販のReverse Transcriptase(Invitrogen社製)を用いてcDNAを合成する。
【0051】
2-4.合成したcDNAを用いてreal-time PCRを行い、各サンプル中のVEGF遺伝子発現量を解析する。