(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について、図を参照して説明する。
【0011】
図1は、一実施の形態に係る測定装置の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る測定装置10は、振動体を有する測定対象の電子機器100を評価するためのもので、電子機器装着部20と、該電子機器装着部20及び電子機器100に接続される測定部200とを備える。電子機器装着部20は、基台30に支持された振動測定ヘッド40と、測定対象の電子機器100を保持する保持部70とを備える。なお、以下の説明において、電子機器100は、
図2に平面図を示すように、矩形状の筐体101の表面に、人の耳よりも大きい矩形状のパネル102を有するスマートフォン等の携帯電話で、パネル102の裏面に圧電素子が貼付されて、圧電素子の駆動によりパネル102が振動体として振動するものとする。先ず、振動測定ヘッド40について説明する。
【0012】
振動測定ヘッド40は、耳型部50と、振動ピックアップ装置55とを備える。耳型部50は、人体の耳を模したもので、耳模型51と、該耳模型51に結合された人工外耳道部52とを備える。
図1の耳型部50は、人の右耳に対応しているが、左耳でもよい。人工外耳道部52には、中央部に人工外耳道53が形成されている。人工外耳道53は、人の外耳孔の平均的な直径である5mm〜10mmの孔径で形成される。耳型部50は、人工外耳道部52の周縁部において、支持部材54を介して基台30に着脱自在に支持される。或いは、耳型部50に人口外耳道部52が接着されていてもよい。或いは、耳型部50と人口外耳道部52とが一の金型により一体的に製造されてもよい。
【0013】
耳型部50は、例えば人体模型のHATS(Head And Torso Simulator)やKEMAR(ノウルズ社の音響研究用の電子マネキン名)等に使用される平均的な耳模型の素材と同様の素材、例えば、IEC60318−7に準拠した素材からなる。この素材は、例えば硬度35から55のゴム等の素材で形成することができる。なお、ゴムの硬さは、例えばJIS K 6253やISO 48 などに準拠した国際ゴム硬さ(IRHD・M 法)に準拠して測定されるとよい。また、硬さ測定装置としては、株式会社テクロック社製 全自動タイプIRHD・M法マイクロサイズ 国際ゴム硬さ計GS680が好適に使用される。なお、耳型部50は、年齢による耳の硬さのばらつきを考慮して、大まかに、2から3種類程度、硬さの異なるものを準備し、これらを付け替えて使用するとよい。
【0014】
人工外耳道部52の厚さ、つまり人工外耳道53の長さは、人の鼓膜(蝸牛)までの長さに相当するもので、例えば5mmから50mm、好ましくは8mmから30mmの範囲で適宜設定される。本実施の形態では、人工外耳道53の長さを、ほぼ30mmとしている。
【0015】
振動ピックアップ装置55は、
図3(a)に平面図を、
図3(b)に正面図をそれぞれ示すように、人工外耳道53の孔径とほぼ同径、例えば直径7.5mmの孔56aを有する板状の振動伝達部材56と、該振動伝達部材56の一方の面の一部に結合された振動検出部を構成する一つの振動ピックアップ57と、を備える。本実施の形態において、振動伝達部材56は、孔56aが人工外耳道53に連通するように、他方の面が人工外耳道部52の耳模型51側とは反対側の端面に接着される。また、振動ピックアップ57は、例えば、接着剤やグリス等を介して振動伝達部材56の一方の面に結合される。振動ピックアップ57は、測定部200に接続される。
【0016】
ここで、振動伝達部材56は、振動伝達効率の良好な素材、例えば、鉄、SUS、真鍮、アルミニウム、チタン等の金属や合金、あるいはプラスチック等が使用可能であるが、検出感度の点では軽量な素材で構成するのが好ましい。また、振動伝達部材56は、角形平ワッシャーのような外形が矩形状であってもよいが、耳型部50の変位量は人工外耳道53の周辺部で大きいことから、本実施の形態では丸形平ワッシャーのようなリング形状としている。なお、リング形状の外形は、例えば、孔56aの直径10mmから30mm程度に、リングの幅である6mmから20mmを2倍にして加えた外径として形成することができる。また、振動伝達部材56の厚さは、素材の強度等に応じて適宜設定される。上述の振動伝達部材56としては、例えば、0.1mmの厚みのSUS板を用いて、内径25mm、幅5mm、即ち外径35mmとしてもよい。
【0017】
振動ピックアップ57は、公知の小型の振動ピックアップが使用可能である。本実施の形態では、振動ピックアップ57として圧電式加速度ピックアップを用い、該圧電式加速度ピックアップをグリス等、あるいはアロンアルファ(登録商標)のような瞬間接着剤等の接合部材を介して振動伝達部材56に結合している。
【0018】
さらに、振動測定ヘッド40は、人工外耳道53を経て伝播される音の音圧を測定するためのマイクロフォン装置60を備える。マイクロフォン装置60は、
図4(a)に基台30側から見た平面図を、
図4(b)に
図4(a)のb−b線断面図をそれぞれ示すように、人工外耳道53の外壁(穴の周壁)から振動ピックアップ装置55の振動伝達部材56の孔56aを通して延在するチューブ部材61と、該チューブ部材61に保持された音圧測定部を構成するマイクロフォン62とを備える。
【0019】
マイクロフォン62は、例えば、電子機器100の測定周波数範囲においてフラットな出力特性を有し、自己雑音レベルの低い計測用コンデンサマイクからなる。マイクロフォン62は、音圧検出面が人工外耳道部52の端面にほぼ一致するように配置される。なお、マイクロフォン62は、例えば、人工外耳道53の外壁に固定された状態で配置してもよい。或いは人工外耳道部52や基台30に支持して、人工外耳道53の外壁からフローティング状態で配置してもよい。マイクロフォン62は、測定部200に接続される。なお、
図4(a)において、人工外耳道部52は矩形状を成しているが、人工外耳道部52は任意の形状とすることができる。
【0020】
次に、保持部70について説明する。電子機器100が、スマートフォン等の平面視で矩形状を成す携帯電話の場合、人が当該携帯電話を片手で保持して自身の耳に押し当てようとすると、通常、携帯電話の両側面部を手で支持することになる。また、耳に対する携帯電話の押圧力や接触姿勢は、人(利用者)によって異なったり、使用中に変動したりする。本実施の形態では、このような携帯電話の使用態様を模して、電子機器100を保持する。
【0021】
そのため、保持部70は、電子機器100の両側面部を支持する支持部71を備える。支持部71は、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向に、y軸と平行な軸y1を中心に回動調整可能にアーム部72の一端部に取り付けられている。アーム部72の他端部は、基台30に設けられた移動調整部73に結合されている。移動調整部73は、アーム部72を、y軸と直交するx軸と平行な方向で、支持部71に支持される電子機器100の上下方向x1と、y軸及びx軸と直交するz軸と平行な方向で、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向z1とに移動調整可能に構成されている。
【0022】
これにより、支持部71に支持された電子機器100は、軸y1を中心に支持部71を回動調整することで、又は、アーム部72をz1方向に移動調整することで、振動体(パネル102)の耳型部50に対する押圧力が調整される。本実施の形態では、0Nから10Nの範囲、好ましくは3Nから8Nの範囲で押圧力が調整される。
【0023】
ここで、0Nから10Nの範囲は、人間が電子機器を耳に押し当てて通話等の使用をするに想定される押し当て力よりも十分な広い範囲での測定を可能とすることを目的としている。なお、0Nの場合として、例えば耳型部50に接触しているが押し当てていない場合のみならず、耳型部50から1mmから1cmきざみで離間させて保持でき、それぞれの離間距離において測定ができるようにしてもよい。これにより、気道音の距離による減衰の度合いもマイクロフォン62による測定により可能となり、測定装置としての利便性が向上する。また、3Nから8Nの範囲は、通常、健聴者が従来型のスピーカを用いて通話をする際に耳に押し当てる平均的な力の範囲を想定している。人種、性別により差があるかもしれないが、要は従来型のスピーカを搭載したスマートフォンや従来型携帯電話等の電子機器において、通常、ユーザが押し付ける程度の押圧力において振動音や気道音を測定できることが好ましい。
【0024】
また、アーム部72をx1方向に移動調整することで、耳型部50に対する電子機器100の接触姿勢が、例えば、振動体の一例であるパネル102が耳型部50のほぼ全体を覆う姿勢や、
図1に示されるように、パネル102が耳型部50の一部を覆う姿勢に調整される。なお、アーム部72を、y軸と平行な方向に移動調整可能に構成したり、x軸やz軸と平行な軸回りに回動調整可能に構成したりして、耳型部50に対して電子機器100を種々の接触姿勢に調整可能に構成してもよい。なお、振動体は、もちろんパネルのような耳を幅広く覆うものに限られず、耳型部50の一部、例えば耳珠の部位だけに対して振動を伝達させるような突起や角部を有する電子機器であっても本発明の測定対象となり得る。
【0025】
次に、
図5を参照して、
図1の測定部200の構成について説明する。
図5は、
図1の測定装置の要部の機能ブロック図である。測定部200は、感度調整部300、信号処理部400、PC(パーソナルコンピュータ)500及びプリンタ600を備える。
【0026】
振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の出力は、感度調整部300に供給される。感度調整部300は、振動ピックアップ57の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路301と、マイクロフォン62の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路302とを備える。可変利得増幅回路301,302は、それぞれの回路に対応するアナログの入力信号の振幅を、手動又は自動により所要の振幅に独立して調整する。これにより、振動ピックアップ57の感度及びマイクロフォン62の感度の誤差を補正する。なお、可変利得増幅回路301,302は、入力信号の振幅を例えば±50dBの範囲で調整可能に構成される。
【0027】
感度調整部300の出力は、信号処理部400に供給される。信号処理部400は、A/D変換部410、周波数特性調整部420、位相調整部430、出力合成部440、周波数解析部450、記憶部460、音響信号出力部480及び信号処理制御部470を備える。A/D変換部410は、可変利得増幅回路301の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)411と、可変利得増幅回路302の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)412とを備える。なお、A/D変換回路411,412は、例えば16ビット以上、ダイナミックレンジ換算で96dB以上に対応できる。またA/D変換回路411,412は、ダイナミックレンジが変更可能に構成することができる。
【0028】
A/D変換部410の出力は、周波数特性調整部420に供給される。周波数特性調整部420は、A/D変換回路411の出力である振動ピックアップ57による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)421と、A/D変換回路412の出力であるマイクロフォン62による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)422とを備える。イコライザ421,422は、それぞれの入力信号の周波数特性を、手動又は自動により人体の聴感に近い周波数特性に独立して調整する。なお、イコライザ421,422は、例えば複数バンドのグラフィカルイコライザ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等から構成される。
【0029】
周波数特性調整部420の出力は、位相調整部430に供給される。位相調整部430は、イコライザ421の出力である振動ピックアップ57による検出信号の位相を調整する可変遅延回路431を備える。すなわち、耳型部50の材質を伝わる音速と人体の肉や骨を伝わる音速とは全く同じではないので、振動ピックアップ57の出力とマイクロフォン62の出力との位相関係が、特に高い周波数で人体の耳とのずれが大きくなることが想定される。
【0030】
このように、振動ピックアップ57の出力とマイクロフォン62の出力との位相関係が大きくずれると、後述する出力合成部440での両出力の合成時に、実際とは異なるタイミングにおいて振幅のピークやディップが現れたり、合成出力が増減したりする場合がある。そのため、本実施の形態では、測定対象の電子機器100の測定周波数範囲に応じて、イコライザ421の出力である振動ピックアップ57による検出信号の位相を、可変遅延回路431により所定の範囲で調整可能する。
【0031】
例えば、電子機器100の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合、可変遅延回路431により±10ms(±100Hz相当)程度の範囲で、少なくとも0.1ms(10kHz相当)より小さい単位、例えば0.04μs単位で振動ピックアップ57による検出信号の位相を調整する。なお、人体の耳の場合でも、骨導音(振動伝達成分)と気導音(気導成分)との位相ずれは生じるので、可変遅延回路431による位相調整は、振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の両者の検出信号の位相を合わせるという意味ではなく、両者の位相を耳による実際の聴感に合わせるという意味である。
【0032】
位相調整部430の出力は、出力合成部440に供給される。出力合成部440は、可変遅延回路431により位相調整された振動ピックアップ57による検出信号と、位相調整部430を通過したマイクロフォン62による検出信号とを合成する。これにより、測定対象の電子機器100の振動によって伝わる振動量と音圧、つまり振動伝達成分と気導成分とが合成された体感音圧を人体に近似させて得ることが可能となる。
【0033】
出力合成部440の合成出力は、周波数解析部450に供給される。周波数解析部450は、出力合成部440からの合成出力を周波数解析するFFT(高速フーリエ変換)451を備える。これにより、FFT451から、振動伝達成分と気導成分とが合成された体感音圧に相当するパワースペクトルデータが得られる。
【0034】
さらに、周波数解析部450は、出力合成部440で合成される前の信号、すなわち、位相調整部430を経た振動ピックアップ57による検出信号とマイクロフォン62による検出信号とをそれぞれ周波数解析するFFT452,453を備える。これにより、FFT452から振動伝達成分に相当するパワースペクトルデータが得られ、FFT453から気導成分に相当するパワースペクトルデータが得られる。
【0035】
なお、FFT451〜453は、電子機器100の測定周波数範囲に応じて周波数成分(パワースペクトル)の解析ポイントが設定される。例えば、電子機器100の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合は、測定周波数範囲の対数グラフにおける間隔を100〜2000等分した各ポイントの周波数成分を解析するように設定される。
【0036】
FFT451〜453の出力は、記憶部460に記憶される。記憶部460は、FFT451〜453による解析データ(パワースペクトルデータ)をそれぞれ複数保持できるダブルバッファ以上の容量を有する。記憶部460は、後述するPC500からのデータ送信要求タイミングで、常に最新データを送信できるように構成することができる。尚、リアルタイムで解析を要するのでなければ、必ずしもダブルバッファ構成でなくともよい。
【0037】
音響信号出力部480は、ヘッドホン等の外部接続機器が着脱自在に接続可能に構成される。音響信号出力部480には、信号処理制御部470により、出力合成部440に入力される振動ピックアップ57による検出信号、マイクロフォン62による検出信号、又はそれらの出力合成部440での合成信号のいずれかが選択されて供給される。音響信号出力部480は、入力されるデータの周波数特性をイコライザ等により適宜調整した後、アナログの音響信号にD/A変換して出力する。
【0038】
更に、信号処理部400は、試験信号出力部495を備える。試験信号出力部495は、信号処理制御部470の制御のもとに、電子機器100のパネル102を振動させて電子機器100を評価するための試験信号を出力する。試験信号出力部495は、試験信号生成部496、試験信号記憶部497及び出力調整部498を備える。試験信号生成部495は、好ましくは、所望の単一周波数のサイン波信号(純音)、所定の周波数範囲に亘って周波数が低周波数から高周波数へ又は高周波数から低周波数へ順次変化する純音スイープ信号(純音スイープ)、周波数の異なる複数のサイン波信号からなるマルチサイン波信号(マルチサイン)を選択的に生成して出力可能に構成される。なお、純音スイープにおける所定の周波数範囲は、可聴周波数範囲で適宜設定可能とする。また、純音スイープにおける順次の周波数における振幅は、好ましくは同一とする。マルチサインについても、それぞれのサイン波の振幅は、好ましくは同一とする。
【0039】
試験信号記憶部497は、少なくとも所要のWAVファイル(音声データ)を記憶し、選択的に読み出し可能に構成される。試験信号記憶部497に記憶されるWAVファイルは、例えば、記録媒体又はネットワークを介してダウンロードされて記憶される。出力調整部498は、試験信号生成部496又は試験信号記憶部497から出力される試験信号を、測定対象の電子機器100の外部入力の信号形式に応じて、例えばアナログ信号に変換する等の所定の信号形式に変換して、USB等のインターフェース用の接続ケーブル511を介して電子機器100の外部入力端子105に供給する。なお、試験信号出力部495から出力される試験信号は、電子機器100が携帯電話の場合、3GPP2(3GPP TS26.131/132)やVoLTE等の規格に則った信号からなっていてもよい。
【0040】
信号処理制御部470は、例えば、USB,RS−232C,SCSI、PCカード等のインターフェース用の接続ケーブル510を介してPC500に接続される。信号処理制御部470は、PC500からのコマンドに基づいて、信号処理部400の各部の動作を制御する。なお、感度調整部300及び信号処理部400は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)によって構成したりすることができる。
【0041】
PC500は、測定装置10による電子機器100の評価アプリケーションや各種のデータ等を格納するメモリ501等を有する。メモリ501は、内蔵メモリであってもよいし、外部メモリであってもよい。評価アプリケーションは、例えば、CD−ROMやネットワーク等を介してメモリ501にダウンロードされる。PC500は、例えば、評価アプリケーションに基づくアプリケーション画面を表示部520に表示する。また、該アプリケーション画面を介して入力される情報に基づいて信号処理部400にコマンドを送信する。また、PC500は、信号処理部400からのコマンド応答やデータを受信し、受信したデータに基づいて所定の処理を施して、アプリケーション画面に測定結果を表示する。また、必要に応じて測定結果をプリンタ600に出力して印刷する。
【0042】
測定装置10は、電子機器100の評価アプリケーションとして、エージングテスト機能及び問題再現機能を有する。エージングテスト機能は、純音スイープの試験信号を提示して、その応答を測定するプロセスを指定回数連続して繰り返し(リピートし)、その間に測定された周波数特性の変動を分析する。
【0043】
問題再現機能は、特定の試験信号を提示して、その応答を測定し、試験信号(提示音)と測定音との相互相関係数と設定した相互相関係数閾値との比較に基づいて問題の現象を再現した測定データをPC500のメモリ501に保存する。つまり、相互相関関数により提示音と測定音との2つの信号の類似性を確認し、設定した相関係数閾値を下回った測定データを問題の現象を再現したデータとしてPC500のメモリ501に保存する。
【0044】
以下、エージングテスト機能及び問題再現機能について、更に詳細に説明する。
【0045】
<エージングテスト機能>
エージングテストでは、周波数特性全体の変動と指定した特定周波数での変動とが測定される。
図6は、エージングテストにおいて、表示部520に表示されるエージングテスト設定画面の一例を示す図である。エージングテスト設定画面700は、測定装置10の評価アプリケーションのメニューから起動される。エージングテスト設定画面700は、試験音振幅設定部701、リピート回数設定部702、監視周波数設定部703、テスト開始アイコン704、テスト中止アイコン705を有する。試験音(試験信号)は、純音スイープが設定される。
【0046】
試験音振幅設定部701には、試験音の所望の振幅(dB)が入力される。リピート回数設定部702には、純音スイープの最大リピート回数(例えば、10000回)以下で、所望のリピート回数が入力される。監視周波数設定部703は、周波数単位で音圧変動を測定するために用意されている。この監視周波数入力部703には、例えば100Hz〜10KHzの間で任意の周波数が入力される。
図6では、3つの監視周波数が入力可能となっている。
【0047】
測定装置10は、試験音振幅設定部701、リピート回数設定部702、監視周波数設定部703への入力が完了し、テスト開始アイコン704が操作されると、エージングテストが開始される。以下、測定装置10によるエージングテストの動作例について説明する。
【0048】
先ず、PC500は、
図6のエージングテスト設定画面700のテスト開始アイコン704が操作されると、信号処理部400に対してエージングテストの測定開始コマンドを送信する。信号処理部400は、エージングテストの測定開始コマンドを受信すると、信号処理制御部470の制御のもとに、試験信号出力部495の試験信号生成部496により純音スイープを繰り返し生成する。この生成された純音スイープは、出力調整部498及び接続ケーブル511を介して、保持部70に保持された測定対象の電子機器100の外部入力端子105に供給される。これにより、電子機器100のパネル102の裏面に貼付された圧電素子が駆動されてパネル102が振動し、電子機器100のエージングテストが開始される。
【0049】
エージングテストが開始すると、信号処理部400は、振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の出力を、感度調整部300で感度調整した後、A/D変換部410でデジタル信号に変換し、さらに、周波数特性調整部420で周波数特性を調整した後、位相調整部430で位相を調整して出力合成部440で合成する。その後、信号処理部400は、出力合成部440での合成信号、つまり振動伝達成分と気導成分との合成信号を周波数解析部450のFFT451で周波数解析して、その結果をPC500のメモリ501に保存する。
【0050】
測定部200は、上記の処理を1回の純音スイープについて実行し、当該処理を設定された純音スイープのリピート回数が満了、もしくはテスト中止アイコン705が操作されるまで繰り返す。設定されたリピート回数が満了、もしくはテスト中止が操作されると、PC500は、初回の測定における周波数特性と、各周波数での音圧レベルの合計値を示すオーバーオール音圧の変動が最も大きかった回の周波数特性との比較グラフを表示部520に表示する。尚、各周波数における初回の音圧レベルとN(Nは1から測定された回数のうちのいずれか)回目の測定時の音圧レベルとの差の絶対値を合算し、N回のうちで、当該合算した値が最も大きかった場合を、上記したオーバーオール音圧の変動が最も大きかった回として、当該大きかった回と初回との比較を示すグラフを表示部520に表示してもよい。
【0051】
図7は、表示部520に表示される周波数特性の比較グラフの一例を示すものである。
図7において、横軸は周波数(Hz)、縦軸は音圧(dBSPL)をそれぞれ示し、グラフの破線は初回の周波数特性を、実線はオーバーオール音圧値の変動が最も大きかった回の周波数特性をそれぞれ示す。
【0052】
また、測定部200は、設定された監視周波数における出力変動グラフを、試験者による入力操作に応じて表示部520に選択的に表示する。
図8は、表示部520に表示される監視周波数における出力変動グラフの一例を示すものである。
図8において、横軸はリピート回数を、縦軸は音圧(dBSPL)をそれぞれ示す。なお、各監視周波数における測定結果は、純音スイープにおける順次の周波数のうち最も設定周波数に近い周波数での測定結果が適用される。上記の電子機器100のエージングテストの結果は、必要に応じてプリンタ600から出力される。
【0053】
以上のエージングテストにより、電子機器100のパネル102に貼付された圧電素子を連続駆動して接着状態に負荷を与えたときの音の微妙な変化を評価することが可能となる。
【0054】
<問題再現機能>
問題再現テストでは、相互相関関数により提示音(試験音)と測定音との2つの信号の類似性を確認して、クリップ音や一時的な音切れ、無線通信による断音、意図しない音のエンコード・デコード変換などの問題の発生の有無が検出される。
図9は、問題再現テストにおいて、表示部520に表示される問題再現設定画面の一例を示す図である。問題再現設定画面800は、上述したエージングテスト設定画面700と同様に、測定装置10の評価アプリケーションのメニューから起動される。
【0055】
問題再現設定画面800は、試験音種類設定部801、周波数設定部802、試験音振幅設定部803、試験音時間長設定部804、リピート回数設定部805、相関係数閾値設定部806、テスト開始アイコン807、テスト中止アイコン808を有する。試験音種類設定部801は、提示する試験音を、純音/純音スイープ/マルチサイン/任意のWAVファイルから選択して設定する。なお、WAVファイルは、試験信号出力部495の試験信号記憶部497から読み込んで出力するため、試験音種類設定部801には、試験信号記憶部497へのWAVファイルの保存先を示すパス名も表示される。
【0056】
周波数設定部802には、試験音種類設定部801において純音が設定された場合に、その周波数が入力される。試験音振幅設定部803には、試験音の所望の振幅(dB)が入力される。試験音時間長設定部804には、提示する試験音の再生時間が入力される。問題再現テストは、試験音と測定音との相互相関を演算するので長い測定時間は相応しくない。したがって、WAVファイルの場合でも、好ましくは10秒までとする。リピート回数設定部805には、最大リピート回数(例えば、10000回)以下で、問題再現まで繰り返す所望のリピート回数が入力される。
【0057】
相関係数閾値設定部806には、試験音と測定音との相関係数の閾値が入力される。相関係数は、電子機器100の無線通信の有無や、音響処理の仕様等によって正常範囲が変化するので、例えば0.0〜1.0の範囲内で任意に設定可能とする。相関係数は、例えば、強い相関がある場合は0.7〜1.0、中程度の相関がある場合は0.4〜0.7、相関がほとんど無い場合は0.0〜0.4の範囲で任意に設定される。
【0058】
測定装置10は、試験音種類設定部801、周波数設定部802、試験音振幅設定部803、試験音時間長設定部804、リピート回数設定部805、相関係数閾値設定部806への入力が完了し、テスト開始アイコン807が操作されると、問題再現の測定が開始される。以下、測定装置10による問題再現機能の動作例について説明する。
【0059】
先ず、PC500は、
図9の問題再現設定画面800のテスト開始アイコン807が操作されると、信号処理部400に対して問題再現テストの開始コマンドを送信する。信号処理部400は、問題再現テストの開始コマンドを受信すると、信号処理制御部470の制御のもとに、試験信号出力部495から設定された試験音(試験信号)を出力する。例えば、試験音種類設定部801においてWAVファイルが設定された場合、信号処理部400は、試験信号記憶部497から設定されたWAVファイルを読み込んで出力調整部498を経て出力する。また、純音、純音スイープ又はマルチサインが設定された場合、信号処理部400は、試験信号生成部496から設定された試験音を生成して出力調整部498を経て出力する。試験信号出力部495から出力される試験音は、信号処理制御部470を経てPC500にも供給される。
【0060】
測定部200から出力される試験音は、ループバックを使う場合は
図5に示したように、接続ケーブル511を介して測定対象の電子機器100の外部入力端子105に入力される。これに対し、無線通信による場合は、測定対象の電子機器100と通信する対向機の外部入力端子に接続ケーブル511を介して入力される。したがって、無線通信の有無によって、提示された試験音が測定対象の電子機器100で再生されるまでの時間に差が生じる。
【0061】
信号処理部400は、エージングテストの場合と同様にして、振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の出力を出力合成部440で合成する。その後、信号処理部400は、出力合成部440での合成信号、つまり振動伝達成分と気導成分との合成信号を周波数解析部450のFFT451で周波数解析して、その結果をPC500に供給する。PC500は、信号処理部400からの測定音の周波数解析結果と、PC500において処理される提示音(試験音)の周波数解析結果とに基づいて、振動伝達成分及び気導成分の合成波形と提示された試験音の波形との相互相関関数を演算して相関係数を求め、その算出された相関係数と設定された相関係数閾値とを比較する。
【0062】
ここで、
図10(a)及び(b)に示すように、測定部200からの試験音の出力タイミング(
図10(a))と、測定対象の電子機器100による試験音の再生開始タイミング(
図10(b))とには時間差τがある。しかも、その時間差τは、ループバックや無線通信等の条件によって変動する。そのため、PC500は、ノイズレベルを超えるレベルの測定音が入力された時点から試験音と測定音との相関係数を演算する。なお、測定音の先頭に所定のパイロット信号を挿入し、PC500においては、パイロット信号の検出に同期して相関係数の演算を開始してもよい。また、PC500において、相関係数を求める際の分析長は、例えばWAVファイルの場合、その長さが10秒であっても、10秒全てではなく、短い時間(例えば0.5秒)に区切って相関係数を演算して閾値と比較するのが望ましい。試験音が純音スイープの場合は、スイープ波形全体で相関を演算するのが好ましい。
【0063】
PC500は、算出された相関係数が設定された相関係数閾値以上の場合、問題無しとして、設定されたリピート回数が終了するまで、試験音の提示から相関係数を算出して閾値と比較するまでの一連の処理を繰り返す。また、PC500は、リピート回数が終了するまでに、算出された相関関数が閾値を下回った場合は、表示部520に「問題再現」のメッセージを表示して、そのときの波形データ(周波数解析結果)をPC500のメモリ501に保存する。メモリ501に保存された波形データは、必要に応じてプリンタ600から出力される。問題が発生しない場合、すなわち算出された相関係数が閾値以上の場合は、波形データは保存されない。
【0064】
以上の問題再現機能を用い、各種の試験音を提示して提示音と測定音との相関を演算することにより、電子機器100のクリップ音はもとより、一時的な音切れを検出することが可能になる。更に、試験音を対向機から無線通信により電子機器100に提示することにより、無線通信による断音、意図しない音のエンコード・デコード変換などの問題の発生の有無をも検出することが可能となり、音に関する様々な不具合を検出することが可能となる。
【0065】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、測定対象の電子機器100として、スマートフォン等の携帯電話で、パネル102が振動体として振動するものを想定したが、折り畳み式の携帯電話で、通話等の使用態様において耳に接触するパネルが振動する電子機器も同様に評価することが可能である。また、携帯電話に限らず、振動伝達によって音を伝えるBlueTooth(登録商標)によるヘッドセット、スピーカ等の他の圧電レシーバや補聴器等も同様に評価することが可能である。更に、試験信号出力部495は、PC500に内蔵させて、PC500から測定対象の電子機器100や、電子機器100の対向機に試験信号を供給するようにしてもよい。
【0066】
また、電子機器装着部20の振動測定ヘッド40や電子機器100を保持する保持部70は、上述した構成に限らず、電子機器100を着脱自在に保持して、少なくとも振動体の振動成分が測定できる構成であればよい。また、振動体の直接的な振動を測定する等、振動体の測定する特性によっては、耳型部50及びマイクロフォン装置60を省略することも可能である。更に、振動測定ヘッド40の構成に応じて、FFT452、453を省略し、あるいは、FFT451、453を省略して、FFT452による振動伝達成分の周波数特性に基づいて、エージングテストや問題再現テストを行うようにしてもよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、測定部200に、信号処理部400と分離してPC500を設けるようにしたが、PC500によって実行する評価アプリケーションの機能を信号処理部400に搭載して、PC500を省略してもよい。更に、測定部200は、独立型ですべての機能を集約した構成に限らず、一または複数のPCや外部サーバーに分かれて配置されている場合のように、ネットワークシステムやクラウドを活用した構成であってもよいことはいうまでもない。